説明

血液回路

【課題】外部から内部の血液通過を透視可能であって、しかも血液が特定の光による光化学反応によりフリーラジカルの発生を抑制し得る血液回路を提供する。
【解決手段】動脈側の穿刺針と静脈側の穿刺針とを結んで血液を導く第1経路と、該第1経路の途中に配設され、第1経路内の血液を動脈側から静脈側へ流動させるための血液ポンプが当接される可撓性チューブと、前記動脈側の穿刺針と可撓性チューブとの間で前記第1経路に接続された第2経路と、を備え、前記第1経路のチューブが、外部から内部の血液通過を透視可能な内部透視部として機能する血液回路において、前記第1経路のチューブ4を、内側に形成した血液接触層15の外側に遮光層16を重合形成したで二重チューブで構成し、前記遮光層16を、波長が400nm以下の紫外光線を遮ると共に波長550〜800nmの可視光線を遮る材料により作製した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工透析治療などに用いられ、血液を患者の体外で循環させる血液回路に関する。
【背景技術】
【0002】
血液回路は、人工透析などの治療において、内部を流れているものが血液であるか、それとも生理的食塩液であるかを外部から容易に透視して、治療をスムーズになしえるように構成されている。具体的には、血液浄化器のケース、あるいはそれらに接続されるチューブを無色透明にしてある。
【0003】
ところが、血液浄化器のケースが無色透明のままであると、血液中には特定波長の光によって励起され、フリーラジカル(活性酸素)を生じる物質(ポルフィリン)が存在するために、無色透明なケースの中を血液が通る間に紫外線を受けて活性酸素が発生する不都合がある。
【0004】
そこで、この問題を解決するためにUVカットフィルムにより被覆した血液浄化器が開発されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−346873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、UVカットフィルムを被覆して紫外線をカットしても、フリーラジカルが生じる原因が紫外線照射のみにあるわけではないので、血液の保護としては十分ではなかった。
血液の保護を十分ならしめるためには、血液浄化器のケースやチューブなどをすべて遮光性のある材質で成形すればよいが、これでは内部を流れているものが血液であるか、それとも生理的食塩液であるかを外部から判別することができず、このために治療をスムーズになしえない。したがって、ケースやチューブをすべて遮光性のある材質で成形することは現実的にはできない。
【0006】
本発明は上記した事情に鑑みなされたもので、その目的は、外部から内部の血液通過を透視可能であって、しかも血液が特定の光による光化学反応によりフリーラジカルの発生を抑制し得る血液回路を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1に記載のものは
、動脈側の穿刺針と静脈側の穿刺針とを結んで血液を導く第1経路と、該第1経路の途中に配設され、第1経路内の血液を動脈側から静脈側へ流動させるための血液ポンプが当接される可撓性チューブと、第1経路の途中に配設されたドリップチャンバーと、前記動脈側の穿刺針と可撓性チューブとの間で前記第1経路に接続された第2経路と、を備え、前記穿刺針、第1経路、可撓性チューブ、ドリップチャンバーの少なくとも一部に、外部から内部の血液通過を透視可能な内部透視部を有する血液回路において、
前記内部透視部を、波長が400nm以下の紫外光線を遮ると共に波長550〜800nmの可視光線を遮る材料からなる遮光層で覆ったことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載のものは、前記内部透視部を、波長が400nm以下の紫外光線を遮ると共に波長550〜800nmの可視光線を遮る材料により作製したことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載のものは、動脈側の穿刺針と静脈側の穿刺針とを結んで血液を導く第1経路と、該第1経路の途中に配設され、第1経路内の血液を動脈側から静脈側へ流動させるための血液ポンプが当接される可撓性チューブと、第1経路の途中に配設されたドリップチャンバーと、前記動脈側の穿刺針と可撓性チューブとの間で前記第1経路に接続された第2経路と、を備え、前記第1経路のチューブと可撓性チューブとドリップチャンバーの少なくとも1つが、外部から内部の血液通過を透視可能な内部透視部として機能する血液回路において、
前記内部透視部は、内側に形成した血液接触層の外側に遮光層を重合形成した二重チューブで構成され、
前記遮光層は、波長が400nm以下の紫外光線を遮ると共に波長550〜800nmの可視光線を遮る材料により作製されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載のものは、前記可視光線を遮る材料が、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、酸化チタン等の紫外線吸収剤と、フタルシアニンブルー、フタルシアニンググリーン等の顔料とを塩化ビニル樹脂に混合した材料であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の血液回路である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下のような優れた効果を奏する。
本発明によれば、内部透視部を、波長が400nm以下の紫外光線を遮ると共に波長550〜800nmの可視光線を遮る材料からなる遮光層で覆ったので、ポルフィリン類を励起させる光のうちソーレー帯(400nm付近)のみならずQ帯(赤色領域:550〜800nm)の光をも遮ることができる。したがって、この遮光により血液中に含まれるポルフィリン体の光化学反応によって生じるフリーラジカルの発生を抑制することができる。このため、過酸化物質の発生を経て組織障害等の様々な生理学的問題の発生を抑制することが期待できる。
また、可視光線のすべてを遮光するのではなくて、特定の波長の可視光線だけを遮光するので、フリーラジカルの発生を抑制しつつも内部を流れる血液の状態を外部から観察することができ、看護士等による作業の妨げにはならない。
【0012】
そして、請求項1のように可視光線を遮る材料からなる遮光層で覆う構成を採ったり、請求項3のように二重チューブにして外側に遮光層を形成する構成を採ると、前記した特定波長の光を遮るための材料が直接血液に接触することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は血液回路の正面図、図2はチューブの断面構造を示す説明図である。
人工透析治療等のように体外循環による血液浄化療法に使用する血液回路1は、穿刺針2と穿刺針3とを結ぶチューブ4からなる第1経路Aの途中に、血液ポンプ5が当接される可撓性チューブ6と、ドリップチャンバー7,8、及び血液浄化器9が配設され、T管10により枝分かれした第2経路Bの途中に輸液チャンバー11が配設されている。また、第2経路Bの先端は、輸液容器12に接続されており、プライミング時に第2経路Bを介して第1経路Aに生理食塩水を供給するとともに、場合によっては血液が第1経路Aを循環中、輸液剤の注入又は輸血を行い得る構成とされている。そして、この血液回路1では、第1経路Aの大部分を構成しているチューブ4とドリップチャンバー7,8を、外部から内部の血液通過を透視可能な内部透視部として機能させている。
【0014】
チューブ4は、図2に示すように、内側に形成した接触層15の外側に遮光層16を重合形成した二重チューブで構成され、前記接触層15は、無色透明な塩化ビニル樹脂により構成されており、この接触層15の中空部分が血液流路17となり、接触層15の外周を覆う遮光層16は、波長が400nm以下の紫外光線を遮ると共に波長550〜800nmの可視光線を遮る特定光線遮光材料により作製されている。この特定光線遮光材料としては、先ず、波長が400nm以下の紫外光線を遮るための材料、すなわち紫外線吸収剤として、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、酸化チタン等があり、波長550〜800nmの可視光線を遮るための材料として、フタルシアニンブルー、フタルシアニングリーン等の顔料があり、これらを塩化ビニールに混合して成形する。なお、二重チューブに成形するには、前記紫外線吸収剤と顔料を含んだ塩化ビニル樹脂を一方の供給口から供給して、ナチュラルの塩化ビニル樹脂を他方の供給口から供給して、二重ノズルから射出する公知の二層チューブ成形機(図示せず)を用いて成形することができる。
また、ドリップチャンバー7,8は、第1経路Aを流れる血液の気泡を除去するもので、前記したチューブ4よりも太い直径の二重チューブを用いてチャンバーが構成されており、外部から血液の流れが見えるように構成されている。
【0015】
そして、前記した構成からなる血液回路1を使用して人工透析治療を行うには、穿刺針2を患者の動脈に穿刺するとともに穿刺針3を静脈に穿刺した後、血液ポンプ5を駆動することにより、血液回路1で動脈から静脈に血液を循環させ、その途中に配設された血液浄化器9において血液浄化を行う。この様にして、血液を循環している数時間の間において、第1経路Aのチューブ4内を流れる血液を外部から視覚を通して透視できる。したがって、これにより血液の流れを確認することができる。しかもこの数時間の間、チューブ4内を流れる血液に対しては、波長が400nm以下の紫外光線が遮られ、また、波長550〜800nmの可視光線も遮られている。したがって、血液が患者の体内に戻された後においても、血液中に含まれるポルフィリン体の光化学反応によって生じるフリーラジカルの発生を抑制することができ、フリーラジカルにより起こる様々な生理活性を抑制することができる。また、ドリップチャンバー7,8についても、外部から血液の流れを透視できるが、波長が400nm以下の紫外光線が遮られ、また、波長550〜800nmの可視光線も遮られているので、チューブ4と同様に、血液中に含まれるポルフィリン体の光化学反応によって生じるフリーラジカルの発生を抑制することができる。
【0016】
人工透析後には、血液回路1内に血液が残っているため、これを患者の体内に戻すための返血作業が行われる。この返血を行うには、血液ポンプ5を停止させると共に輸液容器12内の生理食塩水によりT管10から穿刺針2までの残血を患者の動脈側体内に返血し、第2経路Bを鉗子等で挟持して流路を遮断した状態で穿刺針2を患者の動脈側から抜く。
【0017】
そして、血液ポンプ5を作動させ、空気をT管10まで送った後、血液ポンプ5を停止し、T管10から穿刺針2までの間を鉗子等で止めて流路を遮断した状態で、第2経路Bの鉗子等を外す。この状態で血液ポンプ5をゆっくりと駆動させ、第1経路Aにおける血液浄化器9側に生理食塩水を送る。第1経路A中の殆どの血液が体内に戻され生理食塩水で置換された後、血液ポンプ5の駆動を停止させ、穿刺針3を患者の静脈から抜く。
【0018】
この様な返血作業においても、チューブ4内を透視して生理食塩水と血液との流れや境界を外部から看護士の視覚を通して把握することができるので、作業の支障を生じることはなく、従前の無色透明のものと同様に確実且つ効率良く作業できる。
【0019】
前記した実施形態は、経路のチューブ4を二重構造にして内部透視部と、また、ドリップチャンバー7,8も二重構造にして内部透視部としたが、本発明における内部透視部はこれに限定されるものではない。例えば、塩化ビニル樹脂でできたチューブ4やドリップチャンバー7,8の外周に、コーティング等の処理によって後から遮光層16を覆ってもよい。この場合、遮光層16は、波長が400nm以下の紫外光線を遮ると共に波長550〜800nmの可視光線を遮る材料から形成した層であり、薄くフィルム状にして、ラミネートチューブ4としてもよいし、或いはある程度の肉厚でシート状に形成して巻き付けても良い。
【0020】
また、内部透視部自体を波長が400nm以下の紫外光線を遮ると共に波長550〜800nmの可視光線を遮る材料により作製してもよい。例えば、前記特定光線遮光材料だけでチューブ4やドリップチャンバー7,8を作製してもよい。
【0021】
さらに、内部透視部は、チューブ4やドリップチャンバー7,8に限定されるものではなく、血液回路1の一部を構成して内部を血液が通る部分であればよい。したがって、可撓性チューブの一部あるいは全体を内部透視部としてもよい。
なお、チューブ形状で成形できないパーツは、全ての波長の光を遮断する遮光材で構成することが好ましく、例えば、動脈側の経路のパーツは赤色、静脈側の経路のパーツは青色の合成樹脂で成形してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】血液回路1の正面図である。
【図2】経路のチューブ4の断面構造を示す説明である。
【符号の説明】
【0023】
1 血液回路
2,3 穿刺針
4 チューブ
5 血液ポンプ
6 可撓性チューブ
7,8 ドリップチャンバー
9 血液浄化器
10 T管
12 輸液容器
15 接触層
16 遮光層
17 血液流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動脈側の穿刺針と静脈側の穿刺針とを結んで血液を導く第1経路と、該第1経路の途中に配設され、第1経路内の血液を動脈側から静脈側へ流動させるための血液ポンプが当接される可撓性チューブと、第1経路の途中に配設されたドリップチャンバーと、前記動脈側の穿刺針と可撓性チューブとの間で前記第1経路に接続された第2経路と、を備え、前記穿刺針、第1経路、可撓性チューブ、ドリップチャンバーの少なくとも一部に、外部から内部の血液通過を透視可能な内部透視部を有する血液回路において、
前記内部透視部を、波長が400nm以下の紫外光線を遮ると共に波長550〜800nmの可視光線を遮る材料からなる遮光層で覆ったことを特徴とする血液回路。
【請求項2】
動脈側の穿刺針と静脈側の穿刺針とを結んで血液を導く第1経路と、該第1経路の途中に配設され、第1経路内の血液を動脈側から静脈側へ流動させるための血液ポンプが当接される可撓性チューブと、第1経路の途中に配設されたドリップチャンバーと、前記動脈側の穿刺針と可撓性チューブとの間で前記第1経路に接続された第2経路と、を備え、前記穿刺針、第1経路、可撓性チューブ、ドリップチャンバーの少なくとも一部に、外部から内部の血液通過を透視可能な内部透視部を有する血液回路において、
前記内部透視部を、波長が400nm以下の紫外光線を遮ると共に波長550〜800nmの可視光線を遮る材料により作製したことを特徴とする血液回路。
【請求項3】
動脈側の穿刺針と静脈側の穿刺針とを結んで血液を導く第1経路と、該第1経路の途中に配設され、第1経路内の血液を動脈側から静脈側へ流動させるための血液ポンプが当接される可撓性チューブと、第1経路の途中に配設されたドリップチャンバーと、前記動脈側の穿刺針と可撓性チューブとの間で前記第1経路に接続された第2経路と、を備え、前記第1経路のチューブと可撓性チューブとドリップチャンバーの少なくとも1つが、外部から内部の血液通過を透視可能な内部透視部として機能する血液回路において、
前記内部透視部は、内側に形成した血液接触層の外側に遮光層を重合形成した二重チューブで構成され、
前記遮光層は、波長が400nm以下の紫外光線を遮ると共に波長550〜800nmの可視光線を遮る材料により作製されていることを特徴とする血液回路。
【請求項4】
前記可視光線を遮る材料が、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、酸化チタン等の紫外線吸収剤と、フタルシアニンブルー、フタルシアニンググリーン等の顔料とを塩化ビニル樹脂に混合した材料であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の血液回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−11917(P2008−11917A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183487(P2006−183487)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【Fターム(参考)】