血液学的試料の測定方法および測定装置
【課題】造血前駆細胞を正確に分類・計数できる測定方法および測定装置を提供すること
【解決手段】血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;処理された試料に、光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得工程;前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定工程;前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する第2特定工程;および前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する計数工程を含む血液学的試料の測定方法を提供する。
【解決手段】血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;処理された試料に、光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得工程;前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定工程;前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する第2特定工程;および前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する計数工程を含む血液学的試料の測定方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液学的試料の測定方法および測定装置に関し、特に造血前駆細胞を他の血球細胞と高精度に区別して計数することができる血液学的試料の測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床の現場では、血液学的試料中の造血前駆細胞を測定することが行われている。たとえば、白血病や再生不良性貧血等の治療法として知られる末梢血幹細胞移植(Peripheral Blood Stem Cell Transplantation: PBSCT)の際に末梢血中の造血前駆細胞が測定される。PBSCTでは、健常人ドナーに造血因子製剤(G−CSF)を投与して、末梢血中にはほとんど存在しない造血幹細胞などの造血前駆細胞を末梢血中に出現させる。G−CSF投与後、定期的に末梢血中の造血前駆細胞を測定し、造血前駆細胞の出現数が極大となったときにアフェレーシス等により末梢血を採取する。この末梢血を採取して凍結保存し、必要なときに解凍して患者に投与する。また、患者に対してG−CSFを投与して造血前駆細胞を出現させ、末梢血を採取してこの患者自身に造血前駆細胞の出現した末梢血を投与する自己末梢血幹細胞移植も行われている。
【0003】
PBSCTにおいては、G−CSFを投与した後、末梢血採取が早すぎたり、あるいは遅すぎたりすると十分な量の造血前駆細胞を得られないことがある。このため、末梢血採取の時機を逸しないために正確に造血前駆細胞を測定する技術が非常に重要となる。造血前駆細胞を測定する方法としては、たとえば特許文献1記載の技術が知られている。特許文献1によると、先ずフローサイトメータのフローセルに血液を処理した測定用試料を導入し、フローセルを通過する細胞に光を照射する。光を照射された細胞から生じる散乱光を取得し、この散乱光情報に基づいて造血前駆細胞が特定される。
【0004】
【特許文献1】米国特許5830701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、フローサイトメトリーによる血液試料の測定において、造血前駆細胞を正確に分類・計数できる測定方法および測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の血液学的試料の測定方法のうち、第1の測定方法は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;処理された試料に光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得工程;前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定工程;前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する第2特定工程;および前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する計数工程を含む。
【0007】
前記計数工程において、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を、前記蛍光情報および前記第2散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム中に展開し、前記スキャッタグラムに出現する細胞を造血前駆細胞として計数してもよい。
【0008】
また、上記第1の測定方法における前記第2特定工程が、前記第1細胞群の第1散乱光情報および蛍光情報に基づいて、前記第1細胞群の中から第2細胞群を特定する工程であってもよいし、あるいは上記第1の測定方法における前記第1特定工程が、前記第2細胞群の第1散乱光情報および第2散乱光情報に基づいて、前記第2細胞群の中から第1細胞群を特定する工程であってもよい(第2の測定方法)。
【0009】
上記第1の測定方法において、前記第1特定工程は、前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報を二軸とする第1のスキャッタグラム中に造血前駆細胞の出現候補領域を設定し、前記候補領域内に出現する細胞群を前記第1細胞群として特定する工程であり、前記第2特定工程は、前記第1散乱光情報および前記蛍光情報を二軸とする第2のスキャッタグラム中に造血前駆細胞の出現候補領域を設定し、前記候補領域内に出現する細胞群を前記第2細胞群として特定する工程であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の血液学的試料の測定方法は、第1特定工程および第2特定工程を同時に行なってもよい。すなわち、第3の測定方法は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;前記処理された試料に、光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得工程;前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定するとともに、前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する特定工程;および前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する計数工程を含む。
【0011】
さらに、第4の測定方法は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;前記処理された試料に光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得工程;前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定工程;前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて、ゴースト集団以外の細胞集団を第3細胞群として特定する第3特定工程;前記第3細胞群の第2散乱光情報および蛍光情報に基づいて、前記第3細胞群の中から、少なくとも成熟白血球を含まない第4細胞群を特定する第4特定工程;および前記第1細胞群に含まれ且つ前記第4細胞群に含まれる細胞を計数する計数工程を含む。
【0012】
上記本発明の血液学的試料の測定方法において、前記第1散乱光情報が前方散乱光強度であり、前記第2散乱光情報が側方散乱光強度であり、前記蛍光情報が蛍光強度であることが好ましい。また、前記蛍光情報は側方蛍光強度であることが好ましい。
【0013】
また、前記試料処理工程は、赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、核酸を染色する蛍光色素と、血液学的試料とを混合することにより行なわれることが好ましい。
【0014】
本発明の血液学的試料の測定装置は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理手段;前記処理された試料に光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得手段;前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定手段;前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する第2特定手段;および前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する計数手段を含む。
【0015】
前記第1細胞群が、前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報を二軸とする第1のスキャッタグラム中に設定された造血前駆細胞の出現候補領域に出現する細胞群であり、前記第2細胞群が、前記第1散乱光情報および前記蛍光情報を二軸とする第2のスキャッタグラム中に設定された造血前駆細胞の出現候補領域に出現する細胞群であることが好ましい。
【0016】
前記計数手段は、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を、前記蛍光情報および前記第2散乱光情報を二軸とする第3のスキャッタグラム中に展開し、前記第3のスキャッタグラムに出現する細胞を造血前駆細胞として計数する手段であることが好ましい。
【0017】
本発明の第4の測定方法を適用する場合には、本発明の測定装置は、さらに、前記蛍光情報および前記第2散乱光情報に基づいて、少なくとも成熟白血球を実質的に含まない第4細胞群を特定する第3特定手段を含み、前記計数手段は、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれ且つ第3特定手段で特定した細胞群に含まれる細胞を、造血前駆細胞として計数する手段であることが好ましい。
【0018】
本発明の測定装置において、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞が出現しているスキャッタグラムおよび前記造血前駆細胞の計数結果のうち少なくとも1つを表示する表示部をさらに備えていてもよく、また、前記蛍光色素を励起する光を照射する光源をさらに備えていてもよい。
【0019】
本発明の第5の測定方法は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;処理された試料に、光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する工程;前記蛍光情報及び前記第2散乱光情報に基づいてゴースト集団以外の細胞集団を特定する工程;前記ゴースト以外の細胞集団に含まれる細胞の前記第1散乱光情報及び蛍光情報に基づいて造血前駆細胞を特定し、計数する工程を含む。
【0020】
第5の測定方法において、前記特定工程では、前記細胞集団を、前記蛍光情報及び前記第1散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム中に展開し、前記スキャッタグラムに前記細胞集団の出現候補領域を設定し、この出現候補領域中に出現する細胞群を前記細胞集団として特定し、前記計数工程では、前記細胞集団を前記第2散乱光情報及び前記蛍光情報を二軸とするスキャッタグラム中に展開し、前記スキャッタグラムに前記造血前駆細胞の出現候補領域を設定し、この出現候補領域中に出現する細胞群を造血前駆細胞として特定し、計数することが好ましい。
【0021】
また、第5の測定方法において、前記試料処理工程では、前記赤血球及び前記成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、糖とを含有する試薬と前記血液学的試料とを混合することにより、前記血液学的試料に含まれる前記赤血球および前記成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、且つ損傷した血球を収縮させることが好ましい。
【0022】
本明細書における「造血前駆細胞(Hematopoietic Progenitor Cell: 以下、HPCともいう」とは、多能性幹細胞から各系統の血液細胞へと分化していく血液細胞分化の過程で、芽球以前の分化段階の細胞の総称である。具体的には、造血前駆細胞は、多能性幹細胞、リンパ系幹細胞、骨髄性幹細胞、赤芽球コロニー形成細胞、巨核球コロニー形成細胞、好中球・マクロファージコロニー形成細胞、好酸球形成細胞、B細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞等を含む。
本明細書における「成熟白血球」とは、成熟リンパ球、単球、および顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)のことをいう。
本明細書における「血小板凝集」とは、血小板が2個以上凝集した粒子をいう。
本明細書における「細胞膜の損傷」とは、細胞膜に特定の物質が通過できるような細孔があくことをいう。
本明細書における「血液学的試料」とは、主に末梢血液をさすが、この他にも、骨髄液、アフェレーシス等によって回収された血液成分を含む試料、腹腔液、尿試料等の白血球成分を含む生体試料も好適な試料である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、血液学的試料に含まれる造血前駆細胞を正確に分類・計数することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の血液学的試料の測定方法は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;前記処理された試料に光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得工程;取得した蛍光情報および2種類の散乱光情報を用い、他の血球細胞と区別して造血前駆細胞を含む細胞集団を特定する工程;特定された細胞集団を造血前駆細胞として計数する計数工程を含む。
【0025】
以下、具体的に説明する。
〔血液学的試料の処理〕
本発明の測定方法における試料処理工程は、血液学的試料と以下に述べる処理試薬とを混合することにより行なわれることが好ましい。
前記処理試薬は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、少なくとも核酸を染色できる試薬である。具体的には、試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤および少なくとも核酸を蛍光染色する蛍光色素を含む。
【0026】
本発明で用いられる界面活性剤は、赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与える。作用機序は明確ではないが、特定の細胞膜脂質構成成分の一部を抽出する(引き抜く)ことにより、細胞膜に特定の物質が通過できるだけの細孔をあける(これを損傷とよぶ)と考えられる。そして、蛍光色素は、界面活性剤により損傷を受けた細胞の内部にまで入り込んで少なくとも核酸を染色することができる。
【0027】
界面活性剤は、幼若白血球にも損傷を与える作用を有するが、赤血球や成熟白血球に比べて細胞の損傷に時間を要する。このため、血液学的試料と処理試薬との混合後の所定時間内では、未損傷の造血前駆細胞や幼若顆粒球などよりも、損傷を与えられた成熟白血球の方が染色されやすい状態となっている。このような結果、造血前駆細胞や幼若顆粒球は、損傷を受けて核が染色された成熟白血球と比べて、核を染める蛍光色素ではほとんど染色されないので、成熟白血球よりも蛍光強度が低くなる。
【0028】
本発明で用いられる界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニオン系界面活性剤が挙げられる。具体的には、R1−R2−(CH2CH2O)n−Hで表されるノニオン界面活性剤である。式中、R1は炭素数9〜25のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基、R2は−O−、−COO−又は
【0029】
【化1】
であり、nは10〜40の整数である。
【0030】
炭素数9〜25のアルキル基としては、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシルテトラデシル等が挙げられる。炭素数9〜25のアルケニル基としてはドデセニル、テトラデセニル等が挙げられる。炭素数9〜25のアルキニル基としては、ドデシニル、ウンデシニル、ドデシニル等が挙げられる。
【0031】
具体的には、ポリオキシエチレン(20)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテルなどが挙げられる。
【0032】
界面活性剤は、水溶液の形態で用いることができる。例えば、ポリオキシエチレンノニオン系界面活性剤の水中濃度については、使用する界面活性剤の種類によって異なるが、前述のポリオキシエチレン(16)オレイルエーテルでは、5〜50g/l(好ましくは15〜35g/l)の範囲で使用できる。ポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤は、疎水性基の炭素数が同じであれば、nの値が小さくなるほど細胞を損傷する力が強く、nの値が大きくなるほど弱くなる。また、nの値が同じであれば、疎水性基の炭素数が小さくなるにつれて細胞を損傷する力が強くなる。その点を考慮し、上記の値を目安にして、必要な界面活性剤の濃度は実験により適宜求めればよい。
【0033】
本発明で用いられる蛍光色素は、少なくとも核酸を蛍光染色する色素である。細胞膜に損傷を与えられた成熟白血球に対しては、蛍光色素が細胞膜を通過して細胞内に存在する核酸などに結合し、特に核を染めることができる。この蛍光色素による染色により、造血前駆細胞と他の白血球との間に蛍光強度の差異を生じさせることが好ましい。
【0034】
具体的には、エチジウムブロマイド、プロピジウムアイオダイド、さらにモレキュラープローブ社から販売されているエチジウム−アクリジンヘテロダイマー、エチジウムアジド、エチジウムホモダイマー−1、エチジウムホモダイマー−2、エチジウムモノアジド、TOTO−1、TO−PRO−1、TOTO−3、TO−PRO−3等が挙げられる。さらに光源として、He−Ne、赤色半導体レーザなどを使用する場合に好適な色素として、下記(1)式で示される色素を使用できる。
【0035】
【化2】
式中、R3は水素原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基、R4は水素原子、アシル基、又は低級アルキル基、R5は水素原子又は置換されていてもよい低級アルキル基、R6は水素原子又は低級アルキル基、R7は水素原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基、およびZは硫黄原子、酸素原子又は低級アルキル基で置換された炭素原子、mは1又は2、Xはアニオンである。
【0036】
R3、R4、R5、R6、およびR7における低級アルキルとは、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル。sec−ブチル、ter−ブチル、ペンチル、ヘキシル基が挙げられ、中でも、メチル基、エチル基が好ましい。
R3およびR7における低級アルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基を意味し、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ等が挙げられ、中でもメトキシ基、エトキシ基が好ましい。なお、R3およびR7は、水素原子であることが好ましい。
R4におけるアシル基とは、脂肪族カルボン酸から誘導されたアシル基が好ましく、例えば、アセチル、プロピオニル等が挙げられ、中でもアセチル基が好ましい。
R5における置換されていてもよい低級アルキル基とは、1〜3個の水酸基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)等で置換されていてもよい低級アルキル基を意味し、中でも1個の水酸基で置換されたメチル基、エチル基が好ましい。
【0037】
Zにおける低級アルキル基とは、Zとしては硫黄原子であることが好ましい。
X−におけるアニオンは、ハロゲンイオン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素イオン)、ハロゲン化ホウ素イオン(BF4−、BCl4−、BBr4−等)、リン化合物イオン、ハロゲン酸素酸イオン、フルオロ硫酸イオン、メチル硫酸イオン、芳香環にハロゲンあるいはハロゲンをもつアルキル基を置換基として有するテトラフェニルホウ素化合物イオン等が挙げられる。中でも臭素イオン又はBF4−が好ましい。
【0038】
上記式(1)の色素の具体的例としては、以下の色素A、色素B、色素Cが好適である。
【0039】
【化3】
【0040】
色素濃度は、使用する色素に応じて適宜決定できる。好ましくは、試薬中の濃度が0.01〜500ppmであり、より好ましくは0.1〜200ppmである。
【0041】
上述の界面活性剤により細胞膜は損傷して、細胞内の一部が細胞外に排出されることで細胞収縮が起る、あるいは細胞膜の表面状態の変化により細胞収縮が起るが、白血球以外の血球、特に赤血球を、有用な散乱光情報および蛍光情報を提供しないゴースト集団とするために、損傷した細胞を十分に収縮させるための可溶化剤を含むことが好ましい。
【0042】
可溶化剤としては、具体的には、下記(2)式で表されるサルコシン誘導体あるいはその塩;
【0043】
【化4】
(式中、R10は炭素数10〜22のアルキル基、pは1〜5の整数である。)
下記(3)式で表されるコール酸誘導体;
【0044】
【化5】
(式中、R11は水素原子又は水酸基)
および下記(4)式
【0045】
【化6】
(式中、qは5〜7)
で表されるメチルグルカンアミドから選択される1又はそれ以上を用いることができる。
【0046】
炭素数10〜22のアルキル基としては、デシル、ドデシル、テトラデシル、オレイル等が挙げられる。
【0047】
具体的には、N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、ラウロイルメチルβ−アラニンナトリウム、ラウロイルサルコシン、CHAPS(3−〔3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−1−プロパンスルホネート)、CHAPSO(3−〔3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート)、MEGA8(オクタノイル−N−メチルグルカミド)、MEGA9(ノナノイル−N−メチルグルカミド)、MEGA10(デカノイル−N−メチルグルカミド)等が挙げられる。
【0048】
可溶化剤の濃度は、サルコシン酸誘導体あるいはその塩では、0.2〜2.0g/l、コール酸誘導体では0.1〜0.5g/l、メチルグルカンアミドでは1.0〜8.0g/lが好ましい。
【0049】
可溶化剤として、上記以外に、n−オクチルβ−グルコシド、シュークロースモノカプレートやN−ホルミルメチルロイシルアラニン等を用いてもよく、0.01〜50.0g/lの濃度で用いることが好ましい。
【0050】
試薬の好ましいpHは、5.0〜9.0である。pHをこの範囲に調整するため試薬に緩衝剤を含有させることが好ましい。緩衝剤としては、HEPES等のGood緩衝液やリン酸緩衝液等が用いられ、pHを調節するために水酸化ナトリウムなどが用いられる。
【0051】
また、試薬の浸透圧は50〜600mOsm/kgに調整されることが好ましく、より好ましくは50〜300mOsm/kgである。試薬の浸透圧を所望の範囲に調整するために試薬に浸透圧調節剤を含有させることが好ましい。浸透圧調節剤としては、糖、アミノ酸、有機溶媒、塩化ナトリウムなどが用いられる。糖としては、グルコース、キシリトールマンニトール、アラビノース、リビトールなどを用いることができる。アミノ酸としては、アラニン、プロリン、グリシン、バリンなどを用いることができる。有機溶媒としては、エチレングリコール、グリセリンなどを用いることができる。試薬中の浸透圧調節剤の濃度は、分子量により適宜調節されるが、例えばキシリトールを用いる場合は10〜75g/lが好ましく、グリセリンを用いる場合は5〜45g/lが好ましく、グリシンを用いる場合は5〜45g/lが好ましい。
【0052】
尚、処理試薬は、界面活性剤、色素、その他の成分を含有する一液型の試薬であってもよいし、蛍光色素を含む染色液と、上述の界面活性剤を含む溶液(溶血剤)とを別々の容器に収容し、これらを備えた試薬キットとすることもできる。この場合、色素の保存安定性を高めるために、蛍光色素の溶媒としてエチレングリコール等の水溶性有機溶媒を用いることが好ましい。
【0053】
〔測定用試料の調製〕
上記処理試薬を含む溶液と血液学的試料を混合することにより、測定用試料を調製することができる。上述の試薬キットを使用する場合には、まず、界面活性剤を含む溶液(溶血剤)と血液学的試料とを混合し、次いで染色液を混合して、測定用試料としてもよい。
【0054】
血液学的試料と処理試薬との混合は、試料:処理試薬の比が1:10〜1:1000、反応温度が20〜40℃であることが好ましく、反応時間は、3秒〜5分間、より好ましくは4秒〜1分である。
【0055】
このようにして調製される測定用試料において、赤血球および成熟白血球は、細胞が収縮してサイズが小さくなっている。特に、赤血球は核がないため、細胞膜損傷による溶血、細胞収縮が進み、蛍光色素による染色もほとんどされないことから、前方散乱光、側方散乱光、および蛍光のいずれも小さくなり、ゴースト集団として扱うことができる。
【0056】
一方、成熟白血球は、血液学的試料と試薬とを所定の時間反応させると細胞膜が損傷することによって細胞収縮するが、核は実質的に収縮しないため、赤血球ほど小さくならない。さらに、損傷した膜を蛍光色素が透過することができるので、少なくとも核が染色される。
【0057】
造血前駆細胞は、成熟白血球や赤血球に比べて溶血剤に対して耐性を有するので、細胞膜の損傷に時間がかかる。従って、所定の反応時間内では細胞収縮が実質的におこらず、また蛍光色素が透過できないので、核もほとんど染色されない。
【0058】
試料に含まれる血小板細胞については、処理試薬によって造血前駆細胞と同様に膜損傷に時間を要する。色素は血小板内には進入しないが、凝集体の周囲に色素が物理的に吸着して、染色される。
【0059】
〔散乱光情報および蛍光情報の取得〕
調製した測定用試料はフローサイトメータに導入され、試料中に含まれる細胞、血小板などの散乱光情報および蛍光情報が取得され得る。
【0060】
情報の取得は、測定用試料をフローサイトメータのフローセルに導入し、前記フローセル内を流れる試料に前記蛍光色素を励起できる励起光を照射することにより行なうことが好ましい。これにより、フローセルを通過する細胞から発される散乱光情報および蛍光情報を取得することができる。
【0061】
照射光は、使用する蛍光色素を励起することができる波長の光を含む。使用するフローサイトメータに備え付けられている光源の光の波長に応じて、その光で励起できる蛍光色素を選択してもよい。
散乱光情報としては、角度の異なる二種類の散乱光情報を取得することが好ましい。具体的には前方散乱光と側方散乱光の組み合わせが好ましく用いられる。
【0062】
前方散乱光情報は、細胞のサイズが反映された情報であると考えられる。つまり、細胞が大きいと前方散乱光も大きい。側方散乱光とは、前方散乱光に対して、角度が80〜100度、好ましくは85〜95度異なる散乱光である。側方散乱光からは、細胞の内部情報、特に核や顆粒の情報を得ることができる。顆粒を含んでいたり、核の形がいびつな場合には側方散乱光は大きくなる傾向にある。
【0063】
所定の反応時間内では、蛍光色素は血小板の内部には殆ど進入できないため、血小板自体が殆ど染色されることはない。しかしながら、蛍光色素は血小板凝集体の周囲や血小板同士が接着している部分に結合するため、測定用試料において、凝集体が大きくなると蛍光強度が大きくなる。一方、血小板凝集が少なく凝集体が小さいときには、側方散乱光強度は小さくなり、付着する蛍光色素は少なくなるので、結果として蛍光強度も小さくなる。
【0064】
〔細胞群の特定および造血前駆細胞の計数〕
取得した散乱光情報および蛍光情報を用いて、目的の細胞群を特定し、造血前駆細胞を計数する。本発明の測定方法は、以下の第1の測定方法〜第5の測定方法に分類できる。以下、順に説明する。
【0065】
(1)第1の測定方法
第1の測定方法では、取得した第1散乱光情報および第2散乱光情報に基づいて、骨造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定し(第1特定工程)、取得した第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定し(第2特定工程)、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する。第1特定工程と第2特定工程の順序はいずれが先であってもよい。
【0066】
(1−1)第1細胞群
第1細胞群は、取得された2種類の散乱光情報、好ましくは前方散乱光強度および側方散乱光強度に基づいて特定される。第1細胞群は、この2種類の散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム(第1スキャッタグラム)中で、造血前駆細胞が出現すると考えられる領域を設定することにより特定されることが好ましい。また、検体によって造血前駆細胞の染色の程度や大きさが異なるため、第1細胞群が出現する領域の設定は検体毎に行なわれることが好ましい。
【0067】
第1細胞群が出現する領域の具体的設定方法の一例としては、2種類の散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム中に造血前駆細胞が出現すると考えられる位置に細胞集団が認められた場合、先ずこの集団の中心を特定する。造血前駆細胞の細胞集団の中心から、他の細胞集団の出現領域までの間で、造血前駆細胞集団の細胞が出現している部分までを、第1細胞群の出現領域の境界として決定することができる。同様にして、他の細胞集団(幼若顆粒球、顆粒球、リンパ球、単球)が出現すると考えられる位置に細胞集団が認められた場合、各集団の中心を特定するとともにその出現領域を特定する。
これらの領域は、使用する色素、濃度に応じて、種々のサイズの造血前駆細胞について蓄積されたデータから、予めスキャッタグラム中に領域を設定しておいてもよい。
【0068】
たとえば、縦軸に前方散乱光強度(第1散乱光情報)、横軸に側方散乱光強度(第2散乱光情報)を二軸とするスキャッタグラム中で、各細胞が出現すると考えられる領域を設定すると、一般に図1のようになる。図1中、「HPC」は造血前駆細胞出現領域であり、「IG」は幼若顆粒球出現領域、「Gran」は顆粒球出現領域、「Ly」はリンパ球出現領域、「Mo」は単球の出現領域である。
【0069】
造血前駆細胞は、側方散乱光強度が弱いため、スキャッタグラム中、比較的左側の領域に現れる。一方、顆粒球、幼若顆粒球は、その核の形態のいびつさなどから、比較的側方散乱光が大きい右側に出現するので、これらの集団は造血前駆細胞出現領域とは離れた領域に出現することになる。従って、第1細胞群の出現領域としては、HPC部分を囲むような一点鎖線で示す領域を設定すればよい。
【0070】
血小板凝集は、凝集の仕方によって側方散乱光強度も小さいものから大きいものまであり、また、凝集体の大きさも血小板数個〜数10個と様々であることから、前方散乱光強度も小さいものから大きいものまで存在する。但し、凝集体のサイズといびつさには相関性があることから、図1に示すスキャッタグラムにおいて、左下から右上に向けた領域(点線で囲まれた領域)に現れることになり、HPCの領域(第1細胞群の出現領域)と重なることはない。
【0071】
図1によれば、第1細胞群は、血小板凝集や他の血球成分と区別されているので、第1細胞群を造血前駆細胞として計数することが可能とも考えられる。しかしながら、試料によってはサイズが大きいリンパ球が含まれることがあり、稀であるが、リンパ球の出現領域の一部が第1細胞群の出現領域に重なることがある。
【0072】
(1−2)第2細胞群
第2細胞群は、取得した第1散乱光情報および蛍光情報、好ましくは、前方散乱光情報および蛍光情報に基づいて特定される。第2細胞群は、前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とするスキャッタグラム(第2スキャッタグラム)中で造血前駆細胞が出現すると考えられる領域に含まれる細胞集団である。
【0073】
造血前駆細胞や幼若顆粒球は、所定の反応時間内では処理試薬による膜損傷が実質的にないので、染色されず、蛍光強度が低い左側領域に出現する。従って、造血前駆細胞が出現すると考えられる領域には、幼若白血球も出現することがある。一方、顆粒球、リンパ球、単球は、所定の反応時間で処理試薬による膜損傷を受けて核染色されるので、蛍光強度が高い右側領域に出現することになり、所定の反応時間内では実質的に核染色されない幼若白血球の集団とは明確に区別できる。すなわち、造血前駆細胞を含む幼若白血球の出現領域には、成熟白血球は実質的には出現しない。
【0074】
第2細胞群の出現領域の具体的特定方法としては、まずスキャッタグラム中で造血前駆細胞が出現すると考えられる位置に細胞集団が認められた場合、この集団の中心を特定する。造血前駆細胞の細胞集団の中心から、成熟白血球の細胞集団の細胞集団の出現領域までの間で、造血前駆細胞集団の細胞が出現している部分までを、第2細胞群の出現領域の境界として決定することができる。また、同様にして、他の細胞集団(幼若顆粒球、顆粒球、リンパ球、単球)が出現すると考えられる位置に細胞集団が認められた場合、各集団の中心を特定するとともにその出現領域を特定する。これらの領域は、使用する色素、濃度に応じて、種々のサイズの造血前駆細胞について蓄積されたデータから、予め設定しておいてもよい。
【0075】
具体的には、図2に示すように、蛍光強度を横軸、前方散乱光強度を縦軸とするスキャッタグラムにおいて、第2細胞群は、蛍光強度が低い左側領域の一点鎖線で囲まれた領域に含まれる集団となる。図2中、「HPC」は造血前駆細胞出現領域であり、「IG」は幼若顆粒球出現領域、「Gran」は顆粒球出現領域、「Ly」はリンパ球出現領域、「Mo」は単球出現領域である。
【0076】
尚、血小板凝集の染色は、物理的に吸着する程度なので、左側領域に出現する。また、凝集の程度により、造血前駆細胞よりも小さなサイズから大きいサイズがのものが存在し得るので、図2のように、前方散乱光強度が小さいところから、大きいところまで、縦長に伸びた領域に出現する。
【0077】
(1−3)造血前駆細胞の計数
以上のようにして特定した第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する。
【0078】
第1細胞群に含まれる可能性があるリンパ球は、第2細胞群には含まれていない。一方、第2細胞群に含まれる可能性がある血小板凝集、幼若白血球は、第1細胞群には含まれていない。従って、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞は、リンパ球、血小板凝集、幼若白血球を含まず、実質的に造血前駆細胞だけであるといえる。よって、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数することで、正確に造血前駆細胞を計数することができる。
【0079】
なお、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を、蛍光情報および第2散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム(第3スキャッタグラム)中に展開してもよい。この第3スキャッタグラムに出現する細胞は、実質的に造血前駆細胞のみの集団である。
【0080】
第1散乱光情報は、好ましくは前方散乱光強度であり、第2散乱光情報は好ましくは側方散乱光強度である。第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞について、蛍光強度および側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム(第3スキャッタグラム)に展開すると、例えば図3に示すようなスキャッタグラムが得られる。このスキャッタグラムには、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞、すなわち実質的に造血前駆細胞だけが出現していることになるから、ここに出現した細胞を造血前駆細胞として計数することもできる。
【0081】
(2)第2の測定方法
第1の測定方法では、第1特定工程および第2特定工程を個別に行なって、第1細胞群および第2細胞群をそれぞれ特定したが、第1細胞群(又は第2細胞群)を先に特定し、次いで第2細胞群(又は第1細胞群)を、先に特定した第1細胞群(又は第2細胞群)の中から特定するようにしてもよい。
すなわち、第2の測定方法は、取得した第1散乱光情報および蛍光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定し(第2特定工程)、次いで、特定した第2細胞群の第1散乱光情報および第2散乱光情報に基づいて、前記第2細胞群の中から第1細胞群を特定して(第2の測定方法に特化して言及する場合には、この特定工程を「第1’特定工程」、第1’特定工程で特定される第1細胞群を「第1’細胞群」という)、この第1’細胞群を造血前駆細胞として計数する。あるいは取得した第1散乱光情報および第2散乱光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定し(第1特定工程)、次いで特定した第1細胞群の第1散乱光情報および蛍光情報に基づいて、前記第1細胞群の中から第2細胞群を特定し(第2の測定方法に特化して言及する場合には、この特定工程を「第2’特定工程」、第2’特定工程で特定される第2細胞群を「第2’細胞群」という)、この第2’細胞群を造血前駆細胞として計数する。
【0082】
第1特定工程および第1細胞群、第2特定工程および第2細胞群は、それぞれ取得工程で取得した散乱光情報および蛍光情報に基づいて特定され、その具体的手法は、上記第1の測定方法と同様であるから、説明を省略する。
【0083】
(2−1)第2’細胞群の特定と造血前駆細胞の計数
第2’特定工程においては、先に特定した第1細胞群の第1散乱光情報(好ましくは前方散乱光強度)および蛍光情報(好ましくは蛍光強度)に基づいて、前記第1細胞群の中から、造血前駆細胞を含む集団を特定する(第2’細胞集団の特定)。このようにして特定される第2’細胞群は、第1測定方法における第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞に該当する。
【0084】
第2’細胞集団の特定は、具体的には次のようにして行なわれる。
先ず第1散乱光情報および第2散乱光情報を軸とするスキャッタグラム(第1スキャッタグラム)を作成し、このスキャッタグラムに全ての有形成分(細胞、血小板等)を展開する。この第1のスキャッタグラム中で造血前駆細胞の出現候補領域を設定し、この領域内に出現する第1細胞群を特定する。次に、第1散乱光情報および蛍光情報を二軸とするスキャッタグラム(第2’スキャッタグラム)を作成し、このスキャッタグラムに第1細胞群のみ展開する。第2’スキャッタグラム中で、造血前駆細胞が出現すると考えられる領域に含まれる細胞集団が、第2’細胞群である。第1散乱光情報および蛍光情報を二軸とする第2’スキャッタグラムでは、成熟白血球と幼若白血球が明確に区別されるので、たとえ第1細胞群にリンパ球が含まれていたとしても、第2’スキャッタグラムに展開された第2’細胞群には、リンパ球が含まれない。即ち、第2’細胞群は、実質的に血小板凝集、リンパ球などの他の成分を含まない造血前駆細胞の集団である。従って、第2’細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数すればよい。
【0085】
(2−2)第1’細胞群の特定および造血前駆細胞の計数
第1’特定工程は、先に第2特定工程により第2細胞群を特定し、特定した第2細胞群の第1散乱光情報(好ましくは前方散乱光強度)および第2散乱光情報(好ましくは側方散乱光強度)に基づいて、前記第2細胞群の中から、造血前駆細胞を含む集団を特定する(第1’細胞集団の特定)。このようにして特定される第1’細胞群は、第1測定方法および第2測定方法における第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞に該当する。
【0086】
第1’細胞集団の特定は、具体的には次のようにして行なわれる。
先ず、取得した第1散乱光情報(好ましくは前方散乱光強度)および蛍光情報(好ましくは蛍光強度)を、第1散乱光情報および蛍光情報を二軸とするスキャッタグラム(第2スキャッタグラム)を作成し、このスキャッタグラムに全ての有形成分(細胞、血小板等)を展開する。この第2スキャッタグラム中で造血前駆細胞を含む第2細胞群の出現候補領域を特定する。次に、第1散乱光情報および第2散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム(第1’スキャッタグラム)を作成し、このスキャッタグラムに上記で特定した第2細胞群のみを展開する。第1’スキャッタグラム中で、造血前駆細胞が出現すると考えられる領域に含まれる細胞集団が、第1’細胞群である。第1散乱光情報および第2散乱光情報を二軸とする第1’スキャッタグラムでは、幼若白血球および血小板凝集が、造血前駆細胞が出現する領域とは明確に区別できる領域に出現するので、第1’細胞群には、実質的に血小板凝集、リンパ球、幼若白血球などの他の成分は含まれない。従って、第1’細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数すればよい。
【0087】
(3)第3の測定方法
第1および第2の測定方法では、第1細胞集団(又は第1’細胞集団)および第2細胞集団(又は第2’細胞集団)の特定にあたり、いずれの特定工程においても、2種類の情報に基づいて、それぞれの細胞集団を個別に特定し、第1細胞集団に含まれ且つ第2細胞集団に含まれる細胞集団を特定し、これを造血前駆細胞として計数したが、第3の測定方法は、取得した第1散乱光情報、第2散乱光情報、および蛍光情報を用いて、第1細胞集団と第2細胞集団を単一の工程で特定し、第1細胞集団および第2細胞集団の双方に含まれる細胞を決定し、それを造血前駆細胞として計数してもよい。
【0088】
すなわち、第3の測定方法では、取得した第1散乱光情報および第2散乱光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定するとともに、取得した第1散乱光情報および蛍光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定し、第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する。
【0089】
具体的には、第1の散乱光情報、第2の散乱光情報、および蛍光情報を三軸とする三次元のスキャッタグラムに展開し、第1散乱光情報(好ましくは前方散乱光強度)および第2散乱光情報(好ましくは側方散乱光強度)に基づいて造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定するとともに、第1散乱光情報(好ましくは前方散乱光強度)および蛍光情報(好ましくは蛍光強度)に基づいて造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する。このときの第1細胞群の特定方法、第2細胞群の特定方法は、第1の測定方法の場合と同様にして行なうことができる。要するに、三次元のスキャッタグラムにおいて、第1細胞群の特定と第2細胞群の特定を同時に行なうことができ、さらに第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞を特定することができる。第1の測定方法で述べたように、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞は、実質的に血小板凝集、リンパ球等の他の細胞成分を含んでいない。従って、三次元スキャッタグラムで、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞を、造血前駆細胞として計数すれば、高精度に造血前駆細胞を計数できる。
【0090】
(4)第4の測定方法
第4の測定方法は、取得した第1散乱光情報および蛍光情報に基づいて特定する細胞群として、造血前駆細胞を含む第2細胞群に代えて、ゴースト集団以外の細胞(本発明で用いられる測定用試料においては、赤血球は細胞収縮によりゴースト集団となっているので、実質的に全白血球)を含む第3細胞群を特定した場合に適用される方法である。
【0091】
すなわち、第4の測定方法では、取得した第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定し(第1特定工程)、取得した第1散乱光情報および蛍光情報に基づいて、全白血球を含む第3細胞群を特定し(第3特定工程)、前記第3細胞群の第2散乱光情報および蛍光情報に基づいて、前記第3細胞群の中から、成熟白血球を実質的に含まない第4細胞群を特定し(第4特定工程)、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第4細胞群に含まれる細胞を計数する。
【0092】
第1特定工程および第1細胞群は、第1の測定方法と同様であるから、説明を省略する。
(4−1)第3特定工程および第3細胞群
第3細胞群は、前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とするスキャッタグラムにおいて、赤血球ゴースト集団が出現する領域を除いた領域に出現する細胞集団、すなわち実質的に全白血球の集団である。具体的には、蛍光強度を横軸、前方散乱光強度を縦軸とするスキャッタグラムを描いた場合に、図4に示すように、一点鎖線で囲まれる領域に出現する細胞集団が、第3細胞群となる。尚、第3細胞群の出現領域には、図2で示したように、血小板凝集も含まれていることになる。
【0093】
(4−2)第4特定工程および第4細胞群
第4細胞群は、第3細胞群の第2散乱光情報および蛍光情報、好ましくは側方散乱光情報および蛍光情報に基づいて特定される。蛍光強度および側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム中に第3細胞群を展開した場合、成熟白血球が出現する領域と幼若白血球が出現する領域とが明確に区別されるので、蛍光強度および側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム中で造血前駆細胞が含まれると考えられる領域を特定すれば、幼若白血球を含む細胞集団、さらには造血前駆細胞を含む集団の出現領域を特定することができる。ここでの造血前駆細胞の出現候補領域の特定は、第1細胞群や第2細胞群の特定と同様に、検体毎に行なわれることが好ましい。また、使用する色素、濃度に応じて、種々のサイズの造血前駆細胞、成熟白血球について蓄積されたデータから、予め設定しておいてもよい。
【0094】
側方散乱光強度を横軸、蛍光強度を縦軸とするスキャッタグラムにおいて、第3細胞群を展開すると、図5に示すように、成熟白血球(リンパ球、単球、および顆粒球)は、核が染色されているので上方に出現し、実質的に核染色されない幼若白血球と明確に区別できる。成熟白血球は、核の形態等に応じて、左側から順にリンパ球集団(Ly)、単球集団(Mo)、顆粒球集団(Gran)となって出現する。血小板凝集は、下方に、左側から右側にかけて出現する。従って、側方散乱光強度が低い左側領域で、蛍光強度の比較的低い位置から中程度に位置する、造血前駆細胞を含む一点鎖線で囲まれた領域内の細胞集団を第4細胞群として特定すればよい。造血前駆細胞と幼若顆粒球とは、核の形態、複雑性が異なるので、側方散乱光強度の大きさで両者を区別することが可能であるが、両者を明確に区別するためのゲーティングが困難なときは、造血前駆細胞と幼若顆粒球の双方が含まれる幼若顆粒球の出現領域に含まれる細胞集団を第4細胞群としてもよい。
【0095】
(4−3)造血前駆細胞の特定および計数
以上のようにして特定された第1細胞群に含まれ且つ第4細胞群に含まれる細胞を計数する。第1細胞群は血小板凝集が含まれておらず、第4細胞群には成熟白血球が含まれていないので、第1細胞群に含まれ且つ第4細胞群に含まれる細胞は、実質的に血小板凝集、成熟白血球が含まれない造血前駆細胞あるいは幼若白血球の集団である。すなわち、たとえ第1細胞群にリンパ球が含まれていたとしても、第1細胞群に含まれ且つ第4細胞群に含まれる細胞には、リンパ球が除かれているので、実質的に造血前駆細胞あるいは幼若白血球を、高精度に計数することができる。
【0096】
(5)第5の測定方法
第5の測定方法では、第4の測定方法の第3特定工程を実行して第3細胞群を特定し、第4特定工程を実行して第3細胞群のうち第4細胞群を特定し、これを造血前駆細胞として計数する。第3特定工程および第3細胞群については上記(4−1)で記した通りであり、第4特定工程および第4細胞群については上記(4−2)で記した通りである。
【0097】
第5の測定方法では、第4細胞群を造血前駆細胞としているため、血小板凝集の影響を完全に排除できない可能性がある。しかしながら、G−CSF投与後の造血前駆細胞量のモニタリングの際は造血前駆細胞が末梢血中に多量に動員されるため、造血前駆細胞の概数がわかればよく、血小板凝集の値は無視できるほどの量である。よって、このような場合は第1〜第4の測定方法のように高精度な測定値を必要としない第5の測定方法をも好適に用いられる。
【0098】
〔弁別方法〕
本発明の血液学的試料に含まれる造血前駆細胞と血小板凝集とを弁別する方法は、本発明の測定方法における試料処理工程;前記処理された試料に光を照射することによって生じる前方散乱光情報と、側方散乱光情報とを取得する工程;および前記前方散乱光情報と前記側方散乱光情報とに基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定することで、造血前駆細胞を含む細胞集団と血小板凝集とを弁別する方法である。
【0099】
上述のように、前方散乱光情報と側方散乱光情報とを二軸とするスキャッタグラムにおいて、造血前駆細胞が出現すると考えられる領域を特定した場合、血小板凝集が出現すると考えられる領域とは明確に区別されているので、血液学的試料に含まれる造血前駆細胞と血小板凝集とを弁別することができる。
【0100】
〔血液学的試料の測定装置〕
本発明の測定装置は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理手段;前記処理された試料に光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得手段;前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定手段;前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する第2特定手段;および前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する計数手段を含む。
【0101】
本発明の測定装置は、例えば図6に示すような外観を有している。
図6に示す装置は、測定部1と、解析部2と、解析部2と測定部1とを接続する信号ケーブル3とを有する。測定部1に本発明の装置の試料処理手段および取得手段が含まれ、解析部2に本発明の第1特定手段、第2特定手段および計数手段が含まれる。
測定部1は、操作者が各種設定入力を行うための液晶タッチパネル10、測定動作を開始するためのスタートスイッチ11、および検体を吸引するためのプローブ12を備えている。また、測定部1の内部には、図7に示されるようなフローサイトメータが搭載されている。解析部2は、測定部1から送信された情報の処理や、測定部1の動作を制御する制御部6と、各種測定結果などを表示する表示部たる出力部7と、操作者が検体情報等を入力するためのキーボード8とを備えている。
【0102】
次に、図7に示されるフローサイトメータについて説明する。
光源(例えば赤半導体レーザ:波長633nm)21から出射されたビームは、コリメートレンズ22を介してシースフローセル23のオリフィス部を照射する。ノズル20から吐出されたオリフィス部を通過する血球から発せられる前方散乱光は集光レンズ24とピンホール板25を介して前方散乱光検出器(フォトダイオード)26に入射する。一方、オリフィス部を通過する血球から発せられる側方散乱光は、集光レンズ27とダイクロイックミラー28を介して側方散乱光検出器(フォトマルチプライアチューブ)29に入射する。また、オリフィス部を通過する血球から発せられる側方蛍光は、集光レンズ27とダイクロイックミラー28とフィルタ28’とピンホール板30を介して側方蛍光検出器(フォトマルチプライアチューブ)31に入射する。前方散乱光検出器26から出力される前方散乱光信号と、側方散乱光検出器29から出力される側方散乱光信号と、側方蛍光検出器31から出力される側方蛍光信号とは、それぞれアンプ32,33,34により増幅され、制御部6に入力される。
【0103】
なお、前記光源21は、試料の処理に用いた色素を励起できる光を、調製した測定用試料を導入したフローセルのオリフィス部に光を照射するもので、試料中の血球を染色する蛍光色素に応じたものが選ばれる。従って、使用する蛍光色素の種類により、赤色半導体レーザの他、例えば、アルゴンレーザ、He−Neレーザ、青色半導体レーザなどが用いられてもよい。
【0104】
図8は、制御部6の構成を示すブロック図である。この制御部6は、CPU6aと、ROM6bと、RAM6cと、ハードディスク6dと、入出力インタフェース6eと、画像出力インタフェース6fと、通信インタフェース6gとから主として構成されており、CPU6a、ROM6b、RAM6c、ハードディスク6d、入出力インタフェース6e、出力インタフェース6f、および通信インタフェース6gは、バス6hによってデータ通信可能に接続されている。
【0105】
CPU6aは、ROM6bおよびハードディスク6dに記憶されているコンピュータプログラムおよびRAM6cに読み出されたコンピュータプログラムを実行することが可能である。従って、測定部1、具体的にはフローサイトメータから入力された前方散乱光信号、側方散乱光信号、および蛍光信号に基づいて、設定されたプログラムの演算処理を行ない、第1細胞群、第2細胞群といった細胞群を特定し、さらに造血前駆細胞を計数する。
【0106】
ROM6bは、CPU6aに実行させるためのコンピュータプログラムおよび当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータ等を記憶している。RAM6cは、ROM6bおよびハードディスク6dに記憶されているコンピュータプログラムの読み出し、およびコンピュータプログラムを実行するときのCPU6aの作業領域に用いられる。ハードディスク6dは、CPU6aに実行させるためのコンピュータプログラムおよび当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータを記憶している。このコンピュータプログラムは、光学的情報を分析し、分析結果を出力するための機能を果たす。
【0107】
入出力インタフェース6eには、キーボード8が接続されている。入力部たるキーボード8は、出力画面上における操作等のために設けられている。出力インタフェース6fは、液晶ディスプレイからなる出力部7に接続されている。出力部7は、制御部6で得られた分析結果を出力表示する等のために設けられている。通信インタフェース6gは、測定部1に接続されており、光学的情報を受信するための機能を果たす。
【0108】
次に、制御部6における情報処理の実施態様について説明する。
図9は、本発明の第1の測定方法に対応する情報処理を示すフローチャートの一例である。制御部6は、測定部1で検出された前方散乱光信号、側方散乱光信号および蛍光信号を、信号ケーブル3を介して受信する(ステップS1)。制御部6はこれらの信号を解析し、それぞれの信号強度を算出する(ステップS2)。次に、試料中の有形成分(細胞や血小板など)の前方散乱光強度および側方散乱光強度を用い、前方散乱光強度および側方散乱光強度を二軸とする第1スキャッタグラムを作製する(ステップS3)。第1スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この領域内に含まれる第1細胞群を特定する(ステップS4)。また、試料中の有形成分の前方散乱光強度および蛍光強度を用い、前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とする第2スキャッタグラムを作成する(ステップS5)。第2スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この領域内に含まれる第2細胞群を特定する(ステップS6)。次いで、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞の蛍光強度および側方散乱光強度を用いて、蛍光強度および側方散乱光強度を二軸とする第3スキャッタグラムを作成する(ステップS7)。この第3スキャッタグラムに出現する細胞(第1細胞群に含まれ、且つ第2細胞群にも含まれる細胞)を造血前駆細胞として計数し(ステップS8)、この計数結果と第3スキャッタグラムとを出力部7に出力する(ステップS9)。
なお、図9のフローチャートにおいて、ステップS3およびステップS4の後にステップS5およびステップS6を実行するのではなく、ステップS3およびステップS4の前にステップS5およびステップS6を実行してもよい。
【0109】
図10は、本発明の第2の測定方法のうち、第1細胞群を先に特定する方法に対応する情報処理を示すフローチャートである。制御部6は、測定部1で検出された前方散乱光信号、側方散乱光信号および蛍光信号を、信号ケーブル3を介して受信する(ステップS1)。制御部6はこれらの信号を解析し、それぞれの信号強度を算出する(ステップS2)。次に、試料中の有形成分(細胞や血小板など)の前方散乱光強度および側方散乱光強度を用い、前方散乱光強度および側方散乱光強度を二軸とする第1スキャッタグラムを作成する(ステップS3)。第1スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この領域内に含まれる第1細胞群を特定する(ステップS4)。第1細胞群の前方散乱光強度および蛍光強度を用い、前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とするスキャッタグラム(第2’スキャッタグラム)を作成する(ステップS5)。第2’スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この候補領域に含まれる第2’細胞群を特定する(ステップS6)。この第2’細胞群を造血前駆細胞として計数し(ステップS7)、この計数結果と第2’スキャッタグラムを出力部7に出力する(ステップS8)。
【0110】
図11は、本発明の第2の測定方法のうち、第2細胞群を先に特定する方法に対応する情報処理を示すフローチャートである。制御部6は、測定部1で検出された前方散乱光信号、側方散乱光信号および蛍光信号を、信号ケーブル3を介して受信する(ステップS1)。制御部6はこれらの信号を解析し、それぞれの信号強度を算出する(ステップS2)。次に、試料中の有形成分(細胞や血小板など)の前方散乱光強度および蛍光強度を用い、前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とする第2スキャッタグラムを作成する(ステップS3)。第2スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この領域内に含まれる第2細胞群を特定する(ステップS4)。次に、第2細胞群の前方散乱光強度および側方散乱光強度を用い、前方散乱光強度および側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム(第1’スキャッタグラム)を作成する(ステップS5)。第1’スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この候補領域内に含まれる第1’細胞群を特定する(ステップS6)。この第1’細胞群を造血前駆細胞として計数し(ステップS7)、この計数結果と第1’スキャッタグラムを出力部7に出力する(ステップS8)。
【0111】
図12は、本発明の第3の測定方法に対応する情報処理を示すフローチャートである。制御部6は、測定部1で検出された前方散乱光信号、側方散乱光信号および蛍光信号を、信号ケーブル3を介して受信する(ステップS1)。制御部6はこれらの信号を解析し、それぞれの信号強度を算出する(ステップS2)。次に、試料中の有形成分(細胞や血小板など)の前方散乱光強度、側方散乱光強度および蛍光強度を三軸とする三次元スキャッタグラムを作成する(ステップS3)。この三次元スキャッタグラムにおいて、前方散乱光強度および側方散乱光強度に基づく第1細胞群と、前方散乱光強度および蛍光強度に基づく第2細胞群とを特定する(ステップS4)。この三次元スキャッタグラム中で第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群にも含まれる細胞が出現する造血前駆細胞領域を設定し、この領域に出現する細胞を造血前駆細胞として計数する(ステップS5)。造血前駆細胞の計数結果と三次元スキャッタグラムとを出力部7に出力する(ステップS8)。
【0112】
図13は、本発明の第4の測定方法に対応する情報処理を示すフローチャートである。制御部6は、測定部1で検出された前方散乱光信号、側方散乱光信号および蛍光信号を、信号ケーブル3を介して受信する(ステップS1)。制御部6はこれらの信号を解析し、それぞれの信号強度を算出する(ステップS2)。次に、試料中の有形成分(細胞や血小板など)の前方散乱光強度および側方散乱光強度を用い、前方散乱光強度および側方散乱光強度を二軸とする第1スキャッタグラムを作成する(ステップS3)。第1スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この領域内に含まれる第1細胞群を特定する(ステップS4)。また、試料中の有形成分の前方散乱光強度および蛍光強度を用い、前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とする第3’スキャッタグラムを作製する(ステップS5)。第3’スキャッタグラム中、実質的に全白血球が出現すると考えられる白血球出現領域を設定し、この領域内に含まれる第三細胞群を特定する(ステップS6)。さらに、この第3細胞群の側方散乱光強度および蛍光強度を用い、側方散乱光強度および蛍光強度を二軸とする第2’’スキャッタグラムを作成する(ステップS7)。第2’’スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この領域内に含まれる第4細胞群を特定する(ステップS8)。次いで、第1細胞群に含まれ、且つ第4細胞群に含まれる細胞の蛍光強度および側方散乱光強度を用いて、蛍光強度および側方散乱光強度を二軸とする第3スキャッタグラムを作成する(ステップS9)。この第3スキャッタグラムに出現する細胞(第1細胞群に含まれ、且つ第4細胞群に含まれる細胞)を造血前駆細胞として計数し(ステップS10)、この計数結果と第3スキャッタグラムとを出力部7に出力する(ステップS11)。
なお、ステップS3およびS4の後にステップS5〜S9を実行するのではなく、ステップS3およびS4の前にステップS5〜S9を実行してもよい。
【0113】
上記実施態様の装置では、制御部6は、造血前駆細胞の計数結果と計数に用いたスキャッタグラムを出力部7の表示ディスプレイに出力表示するが、これらのうち何れかのみを出力するものであってもよい。また、スキャッタグラムを出力する場合、一部のスキャッタグラムだけ出力してもよいし、作成したスキャッタグラムの全てを出力するようにしてもよい。
【0114】
尚、以上の実施形態においていう「造血前駆細胞の計数結果」には、試料中の造血前駆細胞数、単位体積あたりの造血前駆細胞数(濃度)、全白血球に対する造血前駆細胞の割合などが含まれ、制御部6はこれらのうち少なくともひとつを出力することができる。
【0115】
(実施例1)
〔血液学的試料〕
180人のヒトから採取した末梢血液180検体を血液学的試料(以下、試料ともいう)として用いた。
【0116】
〔処理試薬〕
以下の成分を含む溶血剤Aおよび染色液Aを用いた。
【0117】
溶血剤A
グリシン 15.7g/lL
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル 25000ppm
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 750ppm
HEPES 50mM
精製水 1l
水酸化ナトリウム pHが7.0となる量
【0118】
染色液A
プロピジウムアイオダイド 20ppm
エチレングリコール 1L
【0119】
溶血剤A 980μLと、染色液A 20μLと、試料20μLとを混合し、33℃で7秒間反応させて測定用試料を調整した。この測定用試料を、図7に示す構造を有するフローサイトメータ(光源:633nmの光を照射する赤半導体レーザ)に導入し、測定用試料中の各有形成分に光を照射して前方散乱光強度、側方散乱光強度、および蛍光強度を測定した。
【0120】
取得した前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とするスキャッタグラムAを作成した。スキャッタグラムA中にゴーストを実質的に含まない全白血球領域を設定した。この全白血球領域内の細胞を、側方散乱光強度および蛍光強度を二軸とするグラフに展開し、スキャッタグラムBを作成した。ある測定用試料の測定時に作成されたスキャッタグラムAを図14に、スキャッタグラムBを図15に示す。スキャッタグラムB中、側方散乱光強度が小さく、蛍光強度が小さい領域を造血前駆細胞候補領域として設定した(図15参照)。この領域内に出現する細胞を造血前駆細胞として計数し、全白血球領域内に出現する細胞(実質的に試料中の全白血球数)に対する造血前駆細胞の比率を算出した。
【0121】
(比較例1)
対照として、実施例1で用いたものと同じ血液学的試料を検体とし、抗CD34モノクローナル抗体を用いてCD34陽性細胞を測定した。なお、ここで測定される抗CD34モノクローナル抗体で検出されるCD34陽性細胞は造血前駆細胞に相当する。
【0122】
試料20μLと、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)で蛍光標識した抗CD34モノクローナル抗体を0.0025mg/mLの濃度で含有する標識抗体溶液5μLとを混合し、室温で20分間インキュベートした。ここに、溶血剤(塩化アンモニウム 0.899mg/mLを含む)2mLを添加し、5分間反応させて試料中の赤血球を溶血させた。次に、試料を1000rpmで10分間遠心分離して測定対象である白血球を沈殿させ、上清を廃棄した。沈殿した白血球に1mLのPBS(pH7.2)を添加し、白血球を再懸濁させてこれを測定用試料とし、ベクトンディッキンソン社製の汎用フローサイトメータであるFACSCaliburで全白血球およびCD34陽性細胞を計数し、全白血球に対する造血前駆細胞の比率を算出した。
【0123】
(結果)
実施例1で算出された造血前駆細胞の比率と、比較例1で算出された造血前駆細胞の比率との相関を示すグラフを、図16に示す。
図16より、従来用いられている汎用フローサイトメータを用いた際の測定結果(比較例1の測定結)と、本実施例での測定結果とがよく相関していることがわかる。このことより、本実施例の方法によると正確に造血前駆細胞を測定できることが示された。
【0124】
(実施例2)
〔血液学的試料〕
180人のヒトから採取した末梢血液180検体を血液学的試料(以下、試料ともいう)として用いた。
【0125】
〔処理試薬〕
以下の成分を含む溶血剤Bおよび染色液Bを用いた。
【0126】
溶血剤B
アラニン 19.8g/lL
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル 25000ppm
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 750ppm
HEPES 50mM
精製水 1l
水酸化ナトリウム pHが7.0となる量
【0127】
染色液B
色素A 50ppm
エチレングリコール 1L
【0128】
溶血剤B 980μLと、染色液B 20μLと、試料20μLとを混合し、33℃で7秒間反応させて測定用試料を調整した。この測定用試料を、実施例1で用いたフローサイトメータに導入し、測定用試料中の各有形成分に光を照射して前方散乱光強度、側方散乱光強度、および蛍光強度を測定した。
【0129】
取得した前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とするスキャッタグラムCを作成した。スキャッタグラムC中にゴーストを実質的に含まない全白血球領域を設定した。この全白血球領域内の細胞を、側方散乱光強度および蛍光強度を二軸とするグラフに展開し、スキャッタグラムDを作成した。ある測定用試料の測定時に作成されたスキャッタグラムCを図17に、スキャッタグラムDを図18に示す。スキャッタグラムD中、側方散乱光強度が小さく、蛍光強度が小さい領域を造血前駆細胞候補領域として設定した(図18参照)。
【0130】
また、取得した前方散乱光強度および側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラムEを作成した。前記測定用試料の測定時に作成されたスキャッタグラムEを図19に示す。スキャッタグラムE中、側方散乱光強度が中程度で前方散乱光強度が強い領域を造血前駆細胞候補領域として設定した(図19参照)。
【0131】
スキャッタグラムDの造血前駆細胞候補領域内に出現し、且つスキャッタグラムEの造血前駆細胞候補領域内に出現する細胞を、蛍光強度および側方散乱光強度に基づいてグラフ中に展開し、スキャッタグラムFを作成した。前記測定用試料の測定時に作成されたスキャッタグラムFを図20に示す。このスキャッタグラムFに出現する細胞を造血前駆細胞として計数し、全白血球領域内に出現する細胞(実質的に試料中の全白血球数)に対する造血前駆細胞の比率を算出した。
【0132】
(比較例2)
実施例2で用いた試料を検体として用いること以外は比較例1と同様の方法で造血前駆細胞を測定し、全白血球に対する造血前駆細胞の比率を算出した。
【0133】
(結果)
実施例2で算出された造血前駆細胞の比率と、比較例2で算出された造血前駆細胞の比率との相関を示すグラフを、図21に示す。
図21より、従来用いられている汎用フローサイトメータを用いた際の測定結果(比較例2の測定結果)と、本実施例での測定結果とがよく相関していることがわかる。このことより、本実施例の方法によると正確に造血前駆細胞を測定できることが示された。
【0134】
(実施例3)
被験者Aから所定の間隔をあけて11回血液試料を採取し、この11検体を被験者Aからの試料とした。また、被験者Bから所定の間隔をあけて11回血液試料を採取し、この11検体を被験者Bからの試料とした。
造血前駆細胞は、以下の組成を含む溶血剤Cおよび染色液Cを用いること以外は実施例1と同様の方法で測定された。また、全白血球に対する造血前駆細胞の割合を算出した。
【0135】
溶血剤C
キシリトール 35.5g/lL
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル 20000ppm
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 750ppm
HEPES 30mM
精製水 1l
水酸化ナトリウム pHが7.0となる量
【0136】
染色液C
色素A 20ppm
エチレングリコール 1L
【0137】
(比較例3)
実施例3で用いた試料を検体として用いること以外は比較例1と同様にして造血前駆細胞を測定し、全白血球に対する造血前駆細胞の比率を算出した。
【0138】
(結果)
実施例3および比較例3による被験者Aについての測定結果を図21に、被験者Bについての測定結果を図22に示す。図22および23は、採血開始を0日とし、所定の期間中にそれぞれ11回採血を行い、造血前駆細胞の増減をモニターした結果を示すグラフである。図22および23からわかるように、実施例3の測定結果と、従来用いられている方法による測定結果(比較例3の測定結果)はほぼ連動していることがわかる。このことより、本実施例の方法によると正確に造血前駆細胞を測定できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】第1細胞群を説明するためのスキャッタグラムの模式図である。
【図2】第2細胞群を説明するためのスキャッタグラムの模式図である。
【図3】第1細胞群に含まれ、且つ第2細胞群に含まれる細胞を説明するためのスキャッタグラムの例である。
【図4】第3細胞群を説明するためのスキャッタグラムの模式図である。
【図5】第4細胞群を説明するためのスキャッタグラムの模式図である。
【図6】本実施形態の測定装置の外観の一例を示す図である。
【図7】本実施形態の測定装置に搭載されるフローサイトメータの一例を示す図である。
【図8】本実施形態の測定装置の制御部の構成の一例を示すブロック図である。
【図9】制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【図10】制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【図11】制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【図12】制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【図13】制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【図14】スキャッタグラムAである。
【図15】スキャッタグラムBである。
【図16】実施例1と比較例1との相関を示すグラフである。
【図17】スキャッタグラムCである。
【図18】スキャッタグラムDである。
【図19】スキャッタグラムEである。
【図20】スキャッタグラムFである。
【図21】実施例2と比較例2との相関を示すグラフである。
【図22】被験者Aから採取した試料を用いて測定した場合の実施例3と比較例3の結果を示すグラフである。
【図23】被験者Bから採取した試料を用いて測定した場合の実施例3と比較例3の結果を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液学的試料の測定方法および測定装置に関し、特に造血前駆細胞を他の血球細胞と高精度に区別して計数することができる血液学的試料の測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床の現場では、血液学的試料中の造血前駆細胞を測定することが行われている。たとえば、白血病や再生不良性貧血等の治療法として知られる末梢血幹細胞移植(Peripheral Blood Stem Cell Transplantation: PBSCT)の際に末梢血中の造血前駆細胞が測定される。PBSCTでは、健常人ドナーに造血因子製剤(G−CSF)を投与して、末梢血中にはほとんど存在しない造血幹細胞などの造血前駆細胞を末梢血中に出現させる。G−CSF投与後、定期的に末梢血中の造血前駆細胞を測定し、造血前駆細胞の出現数が極大となったときにアフェレーシス等により末梢血を採取する。この末梢血を採取して凍結保存し、必要なときに解凍して患者に投与する。また、患者に対してG−CSFを投与して造血前駆細胞を出現させ、末梢血を採取してこの患者自身に造血前駆細胞の出現した末梢血を投与する自己末梢血幹細胞移植も行われている。
【0003】
PBSCTにおいては、G−CSFを投与した後、末梢血採取が早すぎたり、あるいは遅すぎたりすると十分な量の造血前駆細胞を得られないことがある。このため、末梢血採取の時機を逸しないために正確に造血前駆細胞を測定する技術が非常に重要となる。造血前駆細胞を測定する方法としては、たとえば特許文献1記載の技術が知られている。特許文献1によると、先ずフローサイトメータのフローセルに血液を処理した測定用試料を導入し、フローセルを通過する細胞に光を照射する。光を照射された細胞から生じる散乱光を取得し、この散乱光情報に基づいて造血前駆細胞が特定される。
【0004】
【特許文献1】米国特許5830701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、フローサイトメトリーによる血液試料の測定において、造血前駆細胞を正確に分類・計数できる測定方法および測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の血液学的試料の測定方法のうち、第1の測定方法は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;処理された試料に光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得工程;前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定工程;前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する第2特定工程;および前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する計数工程を含む。
【0007】
前記計数工程において、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を、前記蛍光情報および前記第2散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム中に展開し、前記スキャッタグラムに出現する細胞を造血前駆細胞として計数してもよい。
【0008】
また、上記第1の測定方法における前記第2特定工程が、前記第1細胞群の第1散乱光情報および蛍光情報に基づいて、前記第1細胞群の中から第2細胞群を特定する工程であってもよいし、あるいは上記第1の測定方法における前記第1特定工程が、前記第2細胞群の第1散乱光情報および第2散乱光情報に基づいて、前記第2細胞群の中から第1細胞群を特定する工程であってもよい(第2の測定方法)。
【0009】
上記第1の測定方法において、前記第1特定工程は、前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報を二軸とする第1のスキャッタグラム中に造血前駆細胞の出現候補領域を設定し、前記候補領域内に出現する細胞群を前記第1細胞群として特定する工程であり、前記第2特定工程は、前記第1散乱光情報および前記蛍光情報を二軸とする第2のスキャッタグラム中に造血前駆細胞の出現候補領域を設定し、前記候補領域内に出現する細胞群を前記第2細胞群として特定する工程であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の血液学的試料の測定方法は、第1特定工程および第2特定工程を同時に行なってもよい。すなわち、第3の測定方法は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;前記処理された試料に、光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得工程;前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定するとともに、前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する特定工程;および前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する計数工程を含む。
【0011】
さらに、第4の測定方法は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;前記処理された試料に光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得工程;前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定工程;前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて、ゴースト集団以外の細胞集団を第3細胞群として特定する第3特定工程;前記第3細胞群の第2散乱光情報および蛍光情報に基づいて、前記第3細胞群の中から、少なくとも成熟白血球を含まない第4細胞群を特定する第4特定工程;および前記第1細胞群に含まれ且つ前記第4細胞群に含まれる細胞を計数する計数工程を含む。
【0012】
上記本発明の血液学的試料の測定方法において、前記第1散乱光情報が前方散乱光強度であり、前記第2散乱光情報が側方散乱光強度であり、前記蛍光情報が蛍光強度であることが好ましい。また、前記蛍光情報は側方蛍光強度であることが好ましい。
【0013】
また、前記試料処理工程は、赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、核酸を染色する蛍光色素と、血液学的試料とを混合することにより行なわれることが好ましい。
【0014】
本発明の血液学的試料の測定装置は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理手段;前記処理された試料に光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得手段;前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定手段;前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する第2特定手段;および前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する計数手段を含む。
【0015】
前記第1細胞群が、前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報を二軸とする第1のスキャッタグラム中に設定された造血前駆細胞の出現候補領域に出現する細胞群であり、前記第2細胞群が、前記第1散乱光情報および前記蛍光情報を二軸とする第2のスキャッタグラム中に設定された造血前駆細胞の出現候補領域に出現する細胞群であることが好ましい。
【0016】
前記計数手段は、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を、前記蛍光情報および前記第2散乱光情報を二軸とする第3のスキャッタグラム中に展開し、前記第3のスキャッタグラムに出現する細胞を造血前駆細胞として計数する手段であることが好ましい。
【0017】
本発明の第4の測定方法を適用する場合には、本発明の測定装置は、さらに、前記蛍光情報および前記第2散乱光情報に基づいて、少なくとも成熟白血球を実質的に含まない第4細胞群を特定する第3特定手段を含み、前記計数手段は、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれ且つ第3特定手段で特定した細胞群に含まれる細胞を、造血前駆細胞として計数する手段であることが好ましい。
【0018】
本発明の測定装置において、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞が出現しているスキャッタグラムおよび前記造血前駆細胞の計数結果のうち少なくとも1つを表示する表示部をさらに備えていてもよく、また、前記蛍光色素を励起する光を照射する光源をさらに備えていてもよい。
【0019】
本発明の第5の測定方法は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;処理された試料に、光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する工程;前記蛍光情報及び前記第2散乱光情報に基づいてゴースト集団以外の細胞集団を特定する工程;前記ゴースト以外の細胞集団に含まれる細胞の前記第1散乱光情報及び蛍光情報に基づいて造血前駆細胞を特定し、計数する工程を含む。
【0020】
第5の測定方法において、前記特定工程では、前記細胞集団を、前記蛍光情報及び前記第1散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム中に展開し、前記スキャッタグラムに前記細胞集団の出現候補領域を設定し、この出現候補領域中に出現する細胞群を前記細胞集団として特定し、前記計数工程では、前記細胞集団を前記第2散乱光情報及び前記蛍光情報を二軸とするスキャッタグラム中に展開し、前記スキャッタグラムに前記造血前駆細胞の出現候補領域を設定し、この出現候補領域中に出現する細胞群を造血前駆細胞として特定し、計数することが好ましい。
【0021】
また、第5の測定方法において、前記試料処理工程では、前記赤血球及び前記成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、糖とを含有する試薬と前記血液学的試料とを混合することにより、前記血液学的試料に含まれる前記赤血球および前記成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、且つ損傷した血球を収縮させることが好ましい。
【0022】
本明細書における「造血前駆細胞(Hematopoietic Progenitor Cell: 以下、HPCともいう」とは、多能性幹細胞から各系統の血液細胞へと分化していく血液細胞分化の過程で、芽球以前の分化段階の細胞の総称である。具体的には、造血前駆細胞は、多能性幹細胞、リンパ系幹細胞、骨髄性幹細胞、赤芽球コロニー形成細胞、巨核球コロニー形成細胞、好中球・マクロファージコロニー形成細胞、好酸球形成細胞、B細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞等を含む。
本明細書における「成熟白血球」とは、成熟リンパ球、単球、および顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)のことをいう。
本明細書における「血小板凝集」とは、血小板が2個以上凝集した粒子をいう。
本明細書における「細胞膜の損傷」とは、細胞膜に特定の物質が通過できるような細孔があくことをいう。
本明細書における「血液学的試料」とは、主に末梢血液をさすが、この他にも、骨髄液、アフェレーシス等によって回収された血液成分を含む試料、腹腔液、尿試料等の白血球成分を含む生体試料も好適な試料である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、血液学的試料に含まれる造血前駆細胞を正確に分類・計数することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の血液学的試料の測定方法は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;前記処理された試料に光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得工程;取得した蛍光情報および2種類の散乱光情報を用い、他の血球細胞と区別して造血前駆細胞を含む細胞集団を特定する工程;特定された細胞集団を造血前駆細胞として計数する計数工程を含む。
【0025】
以下、具体的に説明する。
〔血液学的試料の処理〕
本発明の測定方法における試料処理工程は、血液学的試料と以下に述べる処理試薬とを混合することにより行なわれることが好ましい。
前記処理試薬は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、少なくとも核酸を染色できる試薬である。具体的には、試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤および少なくとも核酸を蛍光染色する蛍光色素を含む。
【0026】
本発明で用いられる界面活性剤は、赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与える。作用機序は明確ではないが、特定の細胞膜脂質構成成分の一部を抽出する(引き抜く)ことにより、細胞膜に特定の物質が通過できるだけの細孔をあける(これを損傷とよぶ)と考えられる。そして、蛍光色素は、界面活性剤により損傷を受けた細胞の内部にまで入り込んで少なくとも核酸を染色することができる。
【0027】
界面活性剤は、幼若白血球にも損傷を与える作用を有するが、赤血球や成熟白血球に比べて細胞の損傷に時間を要する。このため、血液学的試料と処理試薬との混合後の所定時間内では、未損傷の造血前駆細胞や幼若顆粒球などよりも、損傷を与えられた成熟白血球の方が染色されやすい状態となっている。このような結果、造血前駆細胞や幼若顆粒球は、損傷を受けて核が染色された成熟白血球と比べて、核を染める蛍光色素ではほとんど染色されないので、成熟白血球よりも蛍光強度が低くなる。
【0028】
本発明で用いられる界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニオン系界面活性剤が挙げられる。具体的には、R1−R2−(CH2CH2O)n−Hで表されるノニオン界面活性剤である。式中、R1は炭素数9〜25のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基、R2は−O−、−COO−又は
【0029】
【化1】
であり、nは10〜40の整数である。
【0030】
炭素数9〜25のアルキル基としては、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシルテトラデシル等が挙げられる。炭素数9〜25のアルケニル基としてはドデセニル、テトラデセニル等が挙げられる。炭素数9〜25のアルキニル基としては、ドデシニル、ウンデシニル、ドデシニル等が挙げられる。
【0031】
具体的には、ポリオキシエチレン(20)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテルなどが挙げられる。
【0032】
界面活性剤は、水溶液の形態で用いることができる。例えば、ポリオキシエチレンノニオン系界面活性剤の水中濃度については、使用する界面活性剤の種類によって異なるが、前述のポリオキシエチレン(16)オレイルエーテルでは、5〜50g/l(好ましくは15〜35g/l)の範囲で使用できる。ポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤は、疎水性基の炭素数が同じであれば、nの値が小さくなるほど細胞を損傷する力が強く、nの値が大きくなるほど弱くなる。また、nの値が同じであれば、疎水性基の炭素数が小さくなるにつれて細胞を損傷する力が強くなる。その点を考慮し、上記の値を目安にして、必要な界面活性剤の濃度は実験により適宜求めればよい。
【0033】
本発明で用いられる蛍光色素は、少なくとも核酸を蛍光染色する色素である。細胞膜に損傷を与えられた成熟白血球に対しては、蛍光色素が細胞膜を通過して細胞内に存在する核酸などに結合し、特に核を染めることができる。この蛍光色素による染色により、造血前駆細胞と他の白血球との間に蛍光強度の差異を生じさせることが好ましい。
【0034】
具体的には、エチジウムブロマイド、プロピジウムアイオダイド、さらにモレキュラープローブ社から販売されているエチジウム−アクリジンヘテロダイマー、エチジウムアジド、エチジウムホモダイマー−1、エチジウムホモダイマー−2、エチジウムモノアジド、TOTO−1、TO−PRO−1、TOTO−3、TO−PRO−3等が挙げられる。さらに光源として、He−Ne、赤色半導体レーザなどを使用する場合に好適な色素として、下記(1)式で示される色素を使用できる。
【0035】
【化2】
式中、R3は水素原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基、R4は水素原子、アシル基、又は低級アルキル基、R5は水素原子又は置換されていてもよい低級アルキル基、R6は水素原子又は低級アルキル基、R7は水素原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基、およびZは硫黄原子、酸素原子又は低級アルキル基で置換された炭素原子、mは1又は2、Xはアニオンである。
【0036】
R3、R4、R5、R6、およびR7における低級アルキルとは、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル。sec−ブチル、ter−ブチル、ペンチル、ヘキシル基が挙げられ、中でも、メチル基、エチル基が好ましい。
R3およびR7における低級アルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基を意味し、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ等が挙げられ、中でもメトキシ基、エトキシ基が好ましい。なお、R3およびR7は、水素原子であることが好ましい。
R4におけるアシル基とは、脂肪族カルボン酸から誘導されたアシル基が好ましく、例えば、アセチル、プロピオニル等が挙げられ、中でもアセチル基が好ましい。
R5における置換されていてもよい低級アルキル基とは、1〜3個の水酸基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)等で置換されていてもよい低級アルキル基を意味し、中でも1個の水酸基で置換されたメチル基、エチル基が好ましい。
【0037】
Zにおける低級アルキル基とは、Zとしては硫黄原子であることが好ましい。
X−におけるアニオンは、ハロゲンイオン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素イオン)、ハロゲン化ホウ素イオン(BF4−、BCl4−、BBr4−等)、リン化合物イオン、ハロゲン酸素酸イオン、フルオロ硫酸イオン、メチル硫酸イオン、芳香環にハロゲンあるいはハロゲンをもつアルキル基を置換基として有するテトラフェニルホウ素化合物イオン等が挙げられる。中でも臭素イオン又はBF4−が好ましい。
【0038】
上記式(1)の色素の具体的例としては、以下の色素A、色素B、色素Cが好適である。
【0039】
【化3】
【0040】
色素濃度は、使用する色素に応じて適宜決定できる。好ましくは、試薬中の濃度が0.01〜500ppmであり、より好ましくは0.1〜200ppmである。
【0041】
上述の界面活性剤により細胞膜は損傷して、細胞内の一部が細胞外に排出されることで細胞収縮が起る、あるいは細胞膜の表面状態の変化により細胞収縮が起るが、白血球以外の血球、特に赤血球を、有用な散乱光情報および蛍光情報を提供しないゴースト集団とするために、損傷した細胞を十分に収縮させるための可溶化剤を含むことが好ましい。
【0042】
可溶化剤としては、具体的には、下記(2)式で表されるサルコシン誘導体あるいはその塩;
【0043】
【化4】
(式中、R10は炭素数10〜22のアルキル基、pは1〜5の整数である。)
下記(3)式で表されるコール酸誘導体;
【0044】
【化5】
(式中、R11は水素原子又は水酸基)
および下記(4)式
【0045】
【化6】
(式中、qは5〜7)
で表されるメチルグルカンアミドから選択される1又はそれ以上を用いることができる。
【0046】
炭素数10〜22のアルキル基としては、デシル、ドデシル、テトラデシル、オレイル等が挙げられる。
【0047】
具体的には、N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、ラウロイルメチルβ−アラニンナトリウム、ラウロイルサルコシン、CHAPS(3−〔3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−1−プロパンスルホネート)、CHAPSO(3−〔3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート)、MEGA8(オクタノイル−N−メチルグルカミド)、MEGA9(ノナノイル−N−メチルグルカミド)、MEGA10(デカノイル−N−メチルグルカミド)等が挙げられる。
【0048】
可溶化剤の濃度は、サルコシン酸誘導体あるいはその塩では、0.2〜2.0g/l、コール酸誘導体では0.1〜0.5g/l、メチルグルカンアミドでは1.0〜8.0g/lが好ましい。
【0049】
可溶化剤として、上記以外に、n−オクチルβ−グルコシド、シュークロースモノカプレートやN−ホルミルメチルロイシルアラニン等を用いてもよく、0.01〜50.0g/lの濃度で用いることが好ましい。
【0050】
試薬の好ましいpHは、5.0〜9.0である。pHをこの範囲に調整するため試薬に緩衝剤を含有させることが好ましい。緩衝剤としては、HEPES等のGood緩衝液やリン酸緩衝液等が用いられ、pHを調節するために水酸化ナトリウムなどが用いられる。
【0051】
また、試薬の浸透圧は50〜600mOsm/kgに調整されることが好ましく、より好ましくは50〜300mOsm/kgである。試薬の浸透圧を所望の範囲に調整するために試薬に浸透圧調節剤を含有させることが好ましい。浸透圧調節剤としては、糖、アミノ酸、有機溶媒、塩化ナトリウムなどが用いられる。糖としては、グルコース、キシリトールマンニトール、アラビノース、リビトールなどを用いることができる。アミノ酸としては、アラニン、プロリン、グリシン、バリンなどを用いることができる。有機溶媒としては、エチレングリコール、グリセリンなどを用いることができる。試薬中の浸透圧調節剤の濃度は、分子量により適宜調節されるが、例えばキシリトールを用いる場合は10〜75g/lが好ましく、グリセリンを用いる場合は5〜45g/lが好ましく、グリシンを用いる場合は5〜45g/lが好ましい。
【0052】
尚、処理試薬は、界面活性剤、色素、その他の成分を含有する一液型の試薬であってもよいし、蛍光色素を含む染色液と、上述の界面活性剤を含む溶液(溶血剤)とを別々の容器に収容し、これらを備えた試薬キットとすることもできる。この場合、色素の保存安定性を高めるために、蛍光色素の溶媒としてエチレングリコール等の水溶性有機溶媒を用いることが好ましい。
【0053】
〔測定用試料の調製〕
上記処理試薬を含む溶液と血液学的試料を混合することにより、測定用試料を調製することができる。上述の試薬キットを使用する場合には、まず、界面活性剤を含む溶液(溶血剤)と血液学的試料とを混合し、次いで染色液を混合して、測定用試料としてもよい。
【0054】
血液学的試料と処理試薬との混合は、試料:処理試薬の比が1:10〜1:1000、反応温度が20〜40℃であることが好ましく、反応時間は、3秒〜5分間、より好ましくは4秒〜1分である。
【0055】
このようにして調製される測定用試料において、赤血球および成熟白血球は、細胞が収縮してサイズが小さくなっている。特に、赤血球は核がないため、細胞膜損傷による溶血、細胞収縮が進み、蛍光色素による染色もほとんどされないことから、前方散乱光、側方散乱光、および蛍光のいずれも小さくなり、ゴースト集団として扱うことができる。
【0056】
一方、成熟白血球は、血液学的試料と試薬とを所定の時間反応させると細胞膜が損傷することによって細胞収縮するが、核は実質的に収縮しないため、赤血球ほど小さくならない。さらに、損傷した膜を蛍光色素が透過することができるので、少なくとも核が染色される。
【0057】
造血前駆細胞は、成熟白血球や赤血球に比べて溶血剤に対して耐性を有するので、細胞膜の損傷に時間がかかる。従って、所定の反応時間内では細胞収縮が実質的におこらず、また蛍光色素が透過できないので、核もほとんど染色されない。
【0058】
試料に含まれる血小板細胞については、処理試薬によって造血前駆細胞と同様に膜損傷に時間を要する。色素は血小板内には進入しないが、凝集体の周囲に色素が物理的に吸着して、染色される。
【0059】
〔散乱光情報および蛍光情報の取得〕
調製した測定用試料はフローサイトメータに導入され、試料中に含まれる細胞、血小板などの散乱光情報および蛍光情報が取得され得る。
【0060】
情報の取得は、測定用試料をフローサイトメータのフローセルに導入し、前記フローセル内を流れる試料に前記蛍光色素を励起できる励起光を照射することにより行なうことが好ましい。これにより、フローセルを通過する細胞から発される散乱光情報および蛍光情報を取得することができる。
【0061】
照射光は、使用する蛍光色素を励起することができる波長の光を含む。使用するフローサイトメータに備え付けられている光源の光の波長に応じて、その光で励起できる蛍光色素を選択してもよい。
散乱光情報としては、角度の異なる二種類の散乱光情報を取得することが好ましい。具体的には前方散乱光と側方散乱光の組み合わせが好ましく用いられる。
【0062】
前方散乱光情報は、細胞のサイズが反映された情報であると考えられる。つまり、細胞が大きいと前方散乱光も大きい。側方散乱光とは、前方散乱光に対して、角度が80〜100度、好ましくは85〜95度異なる散乱光である。側方散乱光からは、細胞の内部情報、特に核や顆粒の情報を得ることができる。顆粒を含んでいたり、核の形がいびつな場合には側方散乱光は大きくなる傾向にある。
【0063】
所定の反応時間内では、蛍光色素は血小板の内部には殆ど進入できないため、血小板自体が殆ど染色されることはない。しかしながら、蛍光色素は血小板凝集体の周囲や血小板同士が接着している部分に結合するため、測定用試料において、凝集体が大きくなると蛍光強度が大きくなる。一方、血小板凝集が少なく凝集体が小さいときには、側方散乱光強度は小さくなり、付着する蛍光色素は少なくなるので、結果として蛍光強度も小さくなる。
【0064】
〔細胞群の特定および造血前駆細胞の計数〕
取得した散乱光情報および蛍光情報を用いて、目的の細胞群を特定し、造血前駆細胞を計数する。本発明の測定方法は、以下の第1の測定方法〜第5の測定方法に分類できる。以下、順に説明する。
【0065】
(1)第1の測定方法
第1の測定方法では、取得した第1散乱光情報および第2散乱光情報に基づいて、骨造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定し(第1特定工程)、取得した第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定し(第2特定工程)、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する。第1特定工程と第2特定工程の順序はいずれが先であってもよい。
【0066】
(1−1)第1細胞群
第1細胞群は、取得された2種類の散乱光情報、好ましくは前方散乱光強度および側方散乱光強度に基づいて特定される。第1細胞群は、この2種類の散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム(第1スキャッタグラム)中で、造血前駆細胞が出現すると考えられる領域を設定することにより特定されることが好ましい。また、検体によって造血前駆細胞の染色の程度や大きさが異なるため、第1細胞群が出現する領域の設定は検体毎に行なわれることが好ましい。
【0067】
第1細胞群が出現する領域の具体的設定方法の一例としては、2種類の散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム中に造血前駆細胞が出現すると考えられる位置に細胞集団が認められた場合、先ずこの集団の中心を特定する。造血前駆細胞の細胞集団の中心から、他の細胞集団の出現領域までの間で、造血前駆細胞集団の細胞が出現している部分までを、第1細胞群の出現領域の境界として決定することができる。同様にして、他の細胞集団(幼若顆粒球、顆粒球、リンパ球、単球)が出現すると考えられる位置に細胞集団が認められた場合、各集団の中心を特定するとともにその出現領域を特定する。
これらの領域は、使用する色素、濃度に応じて、種々のサイズの造血前駆細胞について蓄積されたデータから、予めスキャッタグラム中に領域を設定しておいてもよい。
【0068】
たとえば、縦軸に前方散乱光強度(第1散乱光情報)、横軸に側方散乱光強度(第2散乱光情報)を二軸とするスキャッタグラム中で、各細胞が出現すると考えられる領域を設定すると、一般に図1のようになる。図1中、「HPC」は造血前駆細胞出現領域であり、「IG」は幼若顆粒球出現領域、「Gran」は顆粒球出現領域、「Ly」はリンパ球出現領域、「Mo」は単球の出現領域である。
【0069】
造血前駆細胞は、側方散乱光強度が弱いため、スキャッタグラム中、比較的左側の領域に現れる。一方、顆粒球、幼若顆粒球は、その核の形態のいびつさなどから、比較的側方散乱光が大きい右側に出現するので、これらの集団は造血前駆細胞出現領域とは離れた領域に出現することになる。従って、第1細胞群の出現領域としては、HPC部分を囲むような一点鎖線で示す領域を設定すればよい。
【0070】
血小板凝集は、凝集の仕方によって側方散乱光強度も小さいものから大きいものまであり、また、凝集体の大きさも血小板数個〜数10個と様々であることから、前方散乱光強度も小さいものから大きいものまで存在する。但し、凝集体のサイズといびつさには相関性があることから、図1に示すスキャッタグラムにおいて、左下から右上に向けた領域(点線で囲まれた領域)に現れることになり、HPCの領域(第1細胞群の出現領域)と重なることはない。
【0071】
図1によれば、第1細胞群は、血小板凝集や他の血球成分と区別されているので、第1細胞群を造血前駆細胞として計数することが可能とも考えられる。しかしながら、試料によってはサイズが大きいリンパ球が含まれることがあり、稀であるが、リンパ球の出現領域の一部が第1細胞群の出現領域に重なることがある。
【0072】
(1−2)第2細胞群
第2細胞群は、取得した第1散乱光情報および蛍光情報、好ましくは、前方散乱光情報および蛍光情報に基づいて特定される。第2細胞群は、前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とするスキャッタグラム(第2スキャッタグラム)中で造血前駆細胞が出現すると考えられる領域に含まれる細胞集団である。
【0073】
造血前駆細胞や幼若顆粒球は、所定の反応時間内では処理試薬による膜損傷が実質的にないので、染色されず、蛍光強度が低い左側領域に出現する。従って、造血前駆細胞が出現すると考えられる領域には、幼若白血球も出現することがある。一方、顆粒球、リンパ球、単球は、所定の反応時間で処理試薬による膜損傷を受けて核染色されるので、蛍光強度が高い右側領域に出現することになり、所定の反応時間内では実質的に核染色されない幼若白血球の集団とは明確に区別できる。すなわち、造血前駆細胞を含む幼若白血球の出現領域には、成熟白血球は実質的には出現しない。
【0074】
第2細胞群の出現領域の具体的特定方法としては、まずスキャッタグラム中で造血前駆細胞が出現すると考えられる位置に細胞集団が認められた場合、この集団の中心を特定する。造血前駆細胞の細胞集団の中心から、成熟白血球の細胞集団の細胞集団の出現領域までの間で、造血前駆細胞集団の細胞が出現している部分までを、第2細胞群の出現領域の境界として決定することができる。また、同様にして、他の細胞集団(幼若顆粒球、顆粒球、リンパ球、単球)が出現すると考えられる位置に細胞集団が認められた場合、各集団の中心を特定するとともにその出現領域を特定する。これらの領域は、使用する色素、濃度に応じて、種々のサイズの造血前駆細胞について蓄積されたデータから、予め設定しておいてもよい。
【0075】
具体的には、図2に示すように、蛍光強度を横軸、前方散乱光強度を縦軸とするスキャッタグラムにおいて、第2細胞群は、蛍光強度が低い左側領域の一点鎖線で囲まれた領域に含まれる集団となる。図2中、「HPC」は造血前駆細胞出現領域であり、「IG」は幼若顆粒球出現領域、「Gran」は顆粒球出現領域、「Ly」はリンパ球出現領域、「Mo」は単球出現領域である。
【0076】
尚、血小板凝集の染色は、物理的に吸着する程度なので、左側領域に出現する。また、凝集の程度により、造血前駆細胞よりも小さなサイズから大きいサイズがのものが存在し得るので、図2のように、前方散乱光強度が小さいところから、大きいところまで、縦長に伸びた領域に出現する。
【0077】
(1−3)造血前駆細胞の計数
以上のようにして特定した第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する。
【0078】
第1細胞群に含まれる可能性があるリンパ球は、第2細胞群には含まれていない。一方、第2細胞群に含まれる可能性がある血小板凝集、幼若白血球は、第1細胞群には含まれていない。従って、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞は、リンパ球、血小板凝集、幼若白血球を含まず、実質的に造血前駆細胞だけであるといえる。よって、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数することで、正確に造血前駆細胞を計数することができる。
【0079】
なお、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を、蛍光情報および第2散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム(第3スキャッタグラム)中に展開してもよい。この第3スキャッタグラムに出現する細胞は、実質的に造血前駆細胞のみの集団である。
【0080】
第1散乱光情報は、好ましくは前方散乱光強度であり、第2散乱光情報は好ましくは側方散乱光強度である。第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞について、蛍光強度および側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム(第3スキャッタグラム)に展開すると、例えば図3に示すようなスキャッタグラムが得られる。このスキャッタグラムには、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞、すなわち実質的に造血前駆細胞だけが出現していることになるから、ここに出現した細胞を造血前駆細胞として計数することもできる。
【0081】
(2)第2の測定方法
第1の測定方法では、第1特定工程および第2特定工程を個別に行なって、第1細胞群および第2細胞群をそれぞれ特定したが、第1細胞群(又は第2細胞群)を先に特定し、次いで第2細胞群(又は第1細胞群)を、先に特定した第1細胞群(又は第2細胞群)の中から特定するようにしてもよい。
すなわち、第2の測定方法は、取得した第1散乱光情報および蛍光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定し(第2特定工程)、次いで、特定した第2細胞群の第1散乱光情報および第2散乱光情報に基づいて、前記第2細胞群の中から第1細胞群を特定して(第2の測定方法に特化して言及する場合には、この特定工程を「第1’特定工程」、第1’特定工程で特定される第1細胞群を「第1’細胞群」という)、この第1’細胞群を造血前駆細胞として計数する。あるいは取得した第1散乱光情報および第2散乱光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定し(第1特定工程)、次いで特定した第1細胞群の第1散乱光情報および蛍光情報に基づいて、前記第1細胞群の中から第2細胞群を特定し(第2の測定方法に特化して言及する場合には、この特定工程を「第2’特定工程」、第2’特定工程で特定される第2細胞群を「第2’細胞群」という)、この第2’細胞群を造血前駆細胞として計数する。
【0082】
第1特定工程および第1細胞群、第2特定工程および第2細胞群は、それぞれ取得工程で取得した散乱光情報および蛍光情報に基づいて特定され、その具体的手法は、上記第1の測定方法と同様であるから、説明を省略する。
【0083】
(2−1)第2’細胞群の特定と造血前駆細胞の計数
第2’特定工程においては、先に特定した第1細胞群の第1散乱光情報(好ましくは前方散乱光強度)および蛍光情報(好ましくは蛍光強度)に基づいて、前記第1細胞群の中から、造血前駆細胞を含む集団を特定する(第2’細胞集団の特定)。このようにして特定される第2’細胞群は、第1測定方法における第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞に該当する。
【0084】
第2’細胞集団の特定は、具体的には次のようにして行なわれる。
先ず第1散乱光情報および第2散乱光情報を軸とするスキャッタグラム(第1スキャッタグラム)を作成し、このスキャッタグラムに全ての有形成分(細胞、血小板等)を展開する。この第1のスキャッタグラム中で造血前駆細胞の出現候補領域を設定し、この領域内に出現する第1細胞群を特定する。次に、第1散乱光情報および蛍光情報を二軸とするスキャッタグラム(第2’スキャッタグラム)を作成し、このスキャッタグラムに第1細胞群のみ展開する。第2’スキャッタグラム中で、造血前駆細胞が出現すると考えられる領域に含まれる細胞集団が、第2’細胞群である。第1散乱光情報および蛍光情報を二軸とする第2’スキャッタグラムでは、成熟白血球と幼若白血球が明確に区別されるので、たとえ第1細胞群にリンパ球が含まれていたとしても、第2’スキャッタグラムに展開された第2’細胞群には、リンパ球が含まれない。即ち、第2’細胞群は、実質的に血小板凝集、リンパ球などの他の成分を含まない造血前駆細胞の集団である。従って、第2’細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数すればよい。
【0085】
(2−2)第1’細胞群の特定および造血前駆細胞の計数
第1’特定工程は、先に第2特定工程により第2細胞群を特定し、特定した第2細胞群の第1散乱光情報(好ましくは前方散乱光強度)および第2散乱光情報(好ましくは側方散乱光強度)に基づいて、前記第2細胞群の中から、造血前駆細胞を含む集団を特定する(第1’細胞集団の特定)。このようにして特定される第1’細胞群は、第1測定方法および第2測定方法における第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞に該当する。
【0086】
第1’細胞集団の特定は、具体的には次のようにして行なわれる。
先ず、取得した第1散乱光情報(好ましくは前方散乱光強度)および蛍光情報(好ましくは蛍光強度)を、第1散乱光情報および蛍光情報を二軸とするスキャッタグラム(第2スキャッタグラム)を作成し、このスキャッタグラムに全ての有形成分(細胞、血小板等)を展開する。この第2スキャッタグラム中で造血前駆細胞を含む第2細胞群の出現候補領域を特定する。次に、第1散乱光情報および第2散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム(第1’スキャッタグラム)を作成し、このスキャッタグラムに上記で特定した第2細胞群のみを展開する。第1’スキャッタグラム中で、造血前駆細胞が出現すると考えられる領域に含まれる細胞集団が、第1’細胞群である。第1散乱光情報および第2散乱光情報を二軸とする第1’スキャッタグラムでは、幼若白血球および血小板凝集が、造血前駆細胞が出現する領域とは明確に区別できる領域に出現するので、第1’細胞群には、実質的に血小板凝集、リンパ球、幼若白血球などの他の成分は含まれない。従って、第1’細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数すればよい。
【0087】
(3)第3の測定方法
第1および第2の測定方法では、第1細胞集団(又は第1’細胞集団)および第2細胞集団(又は第2’細胞集団)の特定にあたり、いずれの特定工程においても、2種類の情報に基づいて、それぞれの細胞集団を個別に特定し、第1細胞集団に含まれ且つ第2細胞集団に含まれる細胞集団を特定し、これを造血前駆細胞として計数したが、第3の測定方法は、取得した第1散乱光情報、第2散乱光情報、および蛍光情報を用いて、第1細胞集団と第2細胞集団を単一の工程で特定し、第1細胞集団および第2細胞集団の双方に含まれる細胞を決定し、それを造血前駆細胞として計数してもよい。
【0088】
すなわち、第3の測定方法では、取得した第1散乱光情報および第2散乱光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定するとともに、取得した第1散乱光情報および蛍光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定し、第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する。
【0089】
具体的には、第1の散乱光情報、第2の散乱光情報、および蛍光情報を三軸とする三次元のスキャッタグラムに展開し、第1散乱光情報(好ましくは前方散乱光強度)および第2散乱光情報(好ましくは側方散乱光強度)に基づいて造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定するとともに、第1散乱光情報(好ましくは前方散乱光強度)および蛍光情報(好ましくは蛍光強度)に基づいて造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する。このときの第1細胞群の特定方法、第2細胞群の特定方法は、第1の測定方法の場合と同様にして行なうことができる。要するに、三次元のスキャッタグラムにおいて、第1細胞群の特定と第2細胞群の特定を同時に行なうことができ、さらに第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞を特定することができる。第1の測定方法で述べたように、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞は、実質的に血小板凝集、リンパ球等の他の細胞成分を含んでいない。従って、三次元スキャッタグラムで、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞を、造血前駆細胞として計数すれば、高精度に造血前駆細胞を計数できる。
【0090】
(4)第4の測定方法
第4の測定方法は、取得した第1散乱光情報および蛍光情報に基づいて特定する細胞群として、造血前駆細胞を含む第2細胞群に代えて、ゴースト集団以外の細胞(本発明で用いられる測定用試料においては、赤血球は細胞収縮によりゴースト集団となっているので、実質的に全白血球)を含む第3細胞群を特定した場合に適用される方法である。
【0091】
すなわち、第4の測定方法では、取得した第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定し(第1特定工程)、取得した第1散乱光情報および蛍光情報に基づいて、全白血球を含む第3細胞群を特定し(第3特定工程)、前記第3細胞群の第2散乱光情報および蛍光情報に基づいて、前記第3細胞群の中から、成熟白血球を実質的に含まない第4細胞群を特定し(第4特定工程)、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第4細胞群に含まれる細胞を計数する。
【0092】
第1特定工程および第1細胞群は、第1の測定方法と同様であるから、説明を省略する。
(4−1)第3特定工程および第3細胞群
第3細胞群は、前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とするスキャッタグラムにおいて、赤血球ゴースト集団が出現する領域を除いた領域に出現する細胞集団、すなわち実質的に全白血球の集団である。具体的には、蛍光強度を横軸、前方散乱光強度を縦軸とするスキャッタグラムを描いた場合に、図4に示すように、一点鎖線で囲まれる領域に出現する細胞集団が、第3細胞群となる。尚、第3細胞群の出現領域には、図2で示したように、血小板凝集も含まれていることになる。
【0093】
(4−2)第4特定工程および第4細胞群
第4細胞群は、第3細胞群の第2散乱光情報および蛍光情報、好ましくは側方散乱光情報および蛍光情報に基づいて特定される。蛍光強度および側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム中に第3細胞群を展開した場合、成熟白血球が出現する領域と幼若白血球が出現する領域とが明確に区別されるので、蛍光強度および側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム中で造血前駆細胞が含まれると考えられる領域を特定すれば、幼若白血球を含む細胞集団、さらには造血前駆細胞を含む集団の出現領域を特定することができる。ここでの造血前駆細胞の出現候補領域の特定は、第1細胞群や第2細胞群の特定と同様に、検体毎に行なわれることが好ましい。また、使用する色素、濃度に応じて、種々のサイズの造血前駆細胞、成熟白血球について蓄積されたデータから、予め設定しておいてもよい。
【0094】
側方散乱光強度を横軸、蛍光強度を縦軸とするスキャッタグラムにおいて、第3細胞群を展開すると、図5に示すように、成熟白血球(リンパ球、単球、および顆粒球)は、核が染色されているので上方に出現し、実質的に核染色されない幼若白血球と明確に区別できる。成熟白血球は、核の形態等に応じて、左側から順にリンパ球集団(Ly)、単球集団(Mo)、顆粒球集団(Gran)となって出現する。血小板凝集は、下方に、左側から右側にかけて出現する。従って、側方散乱光強度が低い左側領域で、蛍光強度の比較的低い位置から中程度に位置する、造血前駆細胞を含む一点鎖線で囲まれた領域内の細胞集団を第4細胞群として特定すればよい。造血前駆細胞と幼若顆粒球とは、核の形態、複雑性が異なるので、側方散乱光強度の大きさで両者を区別することが可能であるが、両者を明確に区別するためのゲーティングが困難なときは、造血前駆細胞と幼若顆粒球の双方が含まれる幼若顆粒球の出現領域に含まれる細胞集団を第4細胞群としてもよい。
【0095】
(4−3)造血前駆細胞の特定および計数
以上のようにして特定された第1細胞群に含まれ且つ第4細胞群に含まれる細胞を計数する。第1細胞群は血小板凝集が含まれておらず、第4細胞群には成熟白血球が含まれていないので、第1細胞群に含まれ且つ第4細胞群に含まれる細胞は、実質的に血小板凝集、成熟白血球が含まれない造血前駆細胞あるいは幼若白血球の集団である。すなわち、たとえ第1細胞群にリンパ球が含まれていたとしても、第1細胞群に含まれ且つ第4細胞群に含まれる細胞には、リンパ球が除かれているので、実質的に造血前駆細胞あるいは幼若白血球を、高精度に計数することができる。
【0096】
(5)第5の測定方法
第5の測定方法では、第4の測定方法の第3特定工程を実行して第3細胞群を特定し、第4特定工程を実行して第3細胞群のうち第4細胞群を特定し、これを造血前駆細胞として計数する。第3特定工程および第3細胞群については上記(4−1)で記した通りであり、第4特定工程および第4細胞群については上記(4−2)で記した通りである。
【0097】
第5の測定方法では、第4細胞群を造血前駆細胞としているため、血小板凝集の影響を完全に排除できない可能性がある。しかしながら、G−CSF投与後の造血前駆細胞量のモニタリングの際は造血前駆細胞が末梢血中に多量に動員されるため、造血前駆細胞の概数がわかればよく、血小板凝集の値は無視できるほどの量である。よって、このような場合は第1〜第4の測定方法のように高精度な測定値を必要としない第5の測定方法をも好適に用いられる。
【0098】
〔弁別方法〕
本発明の血液学的試料に含まれる造血前駆細胞と血小板凝集とを弁別する方法は、本発明の測定方法における試料処理工程;前記処理された試料に光を照射することによって生じる前方散乱光情報と、側方散乱光情報とを取得する工程;および前記前方散乱光情報と前記側方散乱光情報とに基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定することで、造血前駆細胞を含む細胞集団と血小板凝集とを弁別する方法である。
【0099】
上述のように、前方散乱光情報と側方散乱光情報とを二軸とするスキャッタグラムにおいて、造血前駆細胞が出現すると考えられる領域を特定した場合、血小板凝集が出現すると考えられる領域とは明確に区別されているので、血液学的試料に含まれる造血前駆細胞と血小板凝集とを弁別することができる。
【0100】
〔血液学的試料の測定装置〕
本発明の測定装置は、血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理手段;前記処理された試料に光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得手段;前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定手段;前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する第2特定手段;および前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する計数手段を含む。
【0101】
本発明の測定装置は、例えば図6に示すような外観を有している。
図6に示す装置は、測定部1と、解析部2と、解析部2と測定部1とを接続する信号ケーブル3とを有する。測定部1に本発明の装置の試料処理手段および取得手段が含まれ、解析部2に本発明の第1特定手段、第2特定手段および計数手段が含まれる。
測定部1は、操作者が各種設定入力を行うための液晶タッチパネル10、測定動作を開始するためのスタートスイッチ11、および検体を吸引するためのプローブ12を備えている。また、測定部1の内部には、図7に示されるようなフローサイトメータが搭載されている。解析部2は、測定部1から送信された情報の処理や、測定部1の動作を制御する制御部6と、各種測定結果などを表示する表示部たる出力部7と、操作者が検体情報等を入力するためのキーボード8とを備えている。
【0102】
次に、図7に示されるフローサイトメータについて説明する。
光源(例えば赤半導体レーザ:波長633nm)21から出射されたビームは、コリメートレンズ22を介してシースフローセル23のオリフィス部を照射する。ノズル20から吐出されたオリフィス部を通過する血球から発せられる前方散乱光は集光レンズ24とピンホール板25を介して前方散乱光検出器(フォトダイオード)26に入射する。一方、オリフィス部を通過する血球から発せられる側方散乱光は、集光レンズ27とダイクロイックミラー28を介して側方散乱光検出器(フォトマルチプライアチューブ)29に入射する。また、オリフィス部を通過する血球から発せられる側方蛍光は、集光レンズ27とダイクロイックミラー28とフィルタ28’とピンホール板30を介して側方蛍光検出器(フォトマルチプライアチューブ)31に入射する。前方散乱光検出器26から出力される前方散乱光信号と、側方散乱光検出器29から出力される側方散乱光信号と、側方蛍光検出器31から出力される側方蛍光信号とは、それぞれアンプ32,33,34により増幅され、制御部6に入力される。
【0103】
なお、前記光源21は、試料の処理に用いた色素を励起できる光を、調製した測定用試料を導入したフローセルのオリフィス部に光を照射するもので、試料中の血球を染色する蛍光色素に応じたものが選ばれる。従って、使用する蛍光色素の種類により、赤色半導体レーザの他、例えば、アルゴンレーザ、He−Neレーザ、青色半導体レーザなどが用いられてもよい。
【0104】
図8は、制御部6の構成を示すブロック図である。この制御部6は、CPU6aと、ROM6bと、RAM6cと、ハードディスク6dと、入出力インタフェース6eと、画像出力インタフェース6fと、通信インタフェース6gとから主として構成されており、CPU6a、ROM6b、RAM6c、ハードディスク6d、入出力インタフェース6e、出力インタフェース6f、および通信インタフェース6gは、バス6hによってデータ通信可能に接続されている。
【0105】
CPU6aは、ROM6bおよびハードディスク6dに記憶されているコンピュータプログラムおよびRAM6cに読み出されたコンピュータプログラムを実行することが可能である。従って、測定部1、具体的にはフローサイトメータから入力された前方散乱光信号、側方散乱光信号、および蛍光信号に基づいて、設定されたプログラムの演算処理を行ない、第1細胞群、第2細胞群といった細胞群を特定し、さらに造血前駆細胞を計数する。
【0106】
ROM6bは、CPU6aに実行させるためのコンピュータプログラムおよび当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータ等を記憶している。RAM6cは、ROM6bおよびハードディスク6dに記憶されているコンピュータプログラムの読み出し、およびコンピュータプログラムを実行するときのCPU6aの作業領域に用いられる。ハードディスク6dは、CPU6aに実行させるためのコンピュータプログラムおよび当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータを記憶している。このコンピュータプログラムは、光学的情報を分析し、分析結果を出力するための機能を果たす。
【0107】
入出力インタフェース6eには、キーボード8が接続されている。入力部たるキーボード8は、出力画面上における操作等のために設けられている。出力インタフェース6fは、液晶ディスプレイからなる出力部7に接続されている。出力部7は、制御部6で得られた分析結果を出力表示する等のために設けられている。通信インタフェース6gは、測定部1に接続されており、光学的情報を受信するための機能を果たす。
【0108】
次に、制御部6における情報処理の実施態様について説明する。
図9は、本発明の第1の測定方法に対応する情報処理を示すフローチャートの一例である。制御部6は、測定部1で検出された前方散乱光信号、側方散乱光信号および蛍光信号を、信号ケーブル3を介して受信する(ステップS1)。制御部6はこれらの信号を解析し、それぞれの信号強度を算出する(ステップS2)。次に、試料中の有形成分(細胞や血小板など)の前方散乱光強度および側方散乱光強度を用い、前方散乱光強度および側方散乱光強度を二軸とする第1スキャッタグラムを作製する(ステップS3)。第1スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この領域内に含まれる第1細胞群を特定する(ステップS4)。また、試料中の有形成分の前方散乱光強度および蛍光強度を用い、前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とする第2スキャッタグラムを作成する(ステップS5)。第2スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この領域内に含まれる第2細胞群を特定する(ステップS6)。次いで、第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群に含まれる細胞の蛍光強度および側方散乱光強度を用いて、蛍光強度および側方散乱光強度を二軸とする第3スキャッタグラムを作成する(ステップS7)。この第3スキャッタグラムに出現する細胞(第1細胞群に含まれ、且つ第2細胞群にも含まれる細胞)を造血前駆細胞として計数し(ステップS8)、この計数結果と第3スキャッタグラムとを出力部7に出力する(ステップS9)。
なお、図9のフローチャートにおいて、ステップS3およびステップS4の後にステップS5およびステップS6を実行するのではなく、ステップS3およびステップS4の前にステップS5およびステップS6を実行してもよい。
【0109】
図10は、本発明の第2の測定方法のうち、第1細胞群を先に特定する方法に対応する情報処理を示すフローチャートである。制御部6は、測定部1で検出された前方散乱光信号、側方散乱光信号および蛍光信号を、信号ケーブル3を介して受信する(ステップS1)。制御部6はこれらの信号を解析し、それぞれの信号強度を算出する(ステップS2)。次に、試料中の有形成分(細胞や血小板など)の前方散乱光強度および側方散乱光強度を用い、前方散乱光強度および側方散乱光強度を二軸とする第1スキャッタグラムを作成する(ステップS3)。第1スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この領域内に含まれる第1細胞群を特定する(ステップS4)。第1細胞群の前方散乱光強度および蛍光強度を用い、前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とするスキャッタグラム(第2’スキャッタグラム)を作成する(ステップS5)。第2’スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この候補領域に含まれる第2’細胞群を特定する(ステップS6)。この第2’細胞群を造血前駆細胞として計数し(ステップS7)、この計数結果と第2’スキャッタグラムを出力部7に出力する(ステップS8)。
【0110】
図11は、本発明の第2の測定方法のうち、第2細胞群を先に特定する方法に対応する情報処理を示すフローチャートである。制御部6は、測定部1で検出された前方散乱光信号、側方散乱光信号および蛍光信号を、信号ケーブル3を介して受信する(ステップS1)。制御部6はこれらの信号を解析し、それぞれの信号強度を算出する(ステップS2)。次に、試料中の有形成分(細胞や血小板など)の前方散乱光強度および蛍光強度を用い、前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とする第2スキャッタグラムを作成する(ステップS3)。第2スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この領域内に含まれる第2細胞群を特定する(ステップS4)。次に、第2細胞群の前方散乱光強度および側方散乱光強度を用い、前方散乱光強度および側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム(第1’スキャッタグラム)を作成する(ステップS5)。第1’スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この候補領域内に含まれる第1’細胞群を特定する(ステップS6)。この第1’細胞群を造血前駆細胞として計数し(ステップS7)、この計数結果と第1’スキャッタグラムを出力部7に出力する(ステップS8)。
【0111】
図12は、本発明の第3の測定方法に対応する情報処理を示すフローチャートである。制御部6は、測定部1で検出された前方散乱光信号、側方散乱光信号および蛍光信号を、信号ケーブル3を介して受信する(ステップS1)。制御部6はこれらの信号を解析し、それぞれの信号強度を算出する(ステップS2)。次に、試料中の有形成分(細胞や血小板など)の前方散乱光強度、側方散乱光強度および蛍光強度を三軸とする三次元スキャッタグラムを作成する(ステップS3)。この三次元スキャッタグラムにおいて、前方散乱光強度および側方散乱光強度に基づく第1細胞群と、前方散乱光強度および蛍光強度に基づく第2細胞群とを特定する(ステップS4)。この三次元スキャッタグラム中で第1細胞群に含まれ且つ第2細胞群にも含まれる細胞が出現する造血前駆細胞領域を設定し、この領域に出現する細胞を造血前駆細胞として計数する(ステップS5)。造血前駆細胞の計数結果と三次元スキャッタグラムとを出力部7に出力する(ステップS8)。
【0112】
図13は、本発明の第4の測定方法に対応する情報処理を示すフローチャートである。制御部6は、測定部1で検出された前方散乱光信号、側方散乱光信号および蛍光信号を、信号ケーブル3を介して受信する(ステップS1)。制御部6はこれらの信号を解析し、それぞれの信号強度を算出する(ステップS2)。次に、試料中の有形成分(細胞や血小板など)の前方散乱光強度および側方散乱光強度を用い、前方散乱光強度および側方散乱光強度を二軸とする第1スキャッタグラムを作成する(ステップS3)。第1スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この領域内に含まれる第1細胞群を特定する(ステップS4)。また、試料中の有形成分の前方散乱光強度および蛍光強度を用い、前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とする第3’スキャッタグラムを作製する(ステップS5)。第3’スキャッタグラム中、実質的に全白血球が出現すると考えられる白血球出現領域を設定し、この領域内に含まれる第三細胞群を特定する(ステップS6)。さらに、この第3細胞群の側方散乱光強度および蛍光強度を用い、側方散乱光強度および蛍光強度を二軸とする第2’’スキャッタグラムを作成する(ステップS7)。第2’’スキャッタグラム中、造血前駆細胞が出現すると考えられる造血前駆細胞候補領域を設定し、この領域内に含まれる第4細胞群を特定する(ステップS8)。次いで、第1細胞群に含まれ、且つ第4細胞群に含まれる細胞の蛍光強度および側方散乱光強度を用いて、蛍光強度および側方散乱光強度を二軸とする第3スキャッタグラムを作成する(ステップS9)。この第3スキャッタグラムに出現する細胞(第1細胞群に含まれ、且つ第4細胞群に含まれる細胞)を造血前駆細胞として計数し(ステップS10)、この計数結果と第3スキャッタグラムとを出力部7に出力する(ステップS11)。
なお、ステップS3およびS4の後にステップS5〜S9を実行するのではなく、ステップS3およびS4の前にステップS5〜S9を実行してもよい。
【0113】
上記実施態様の装置では、制御部6は、造血前駆細胞の計数結果と計数に用いたスキャッタグラムを出力部7の表示ディスプレイに出力表示するが、これらのうち何れかのみを出力するものであってもよい。また、スキャッタグラムを出力する場合、一部のスキャッタグラムだけ出力してもよいし、作成したスキャッタグラムの全てを出力するようにしてもよい。
【0114】
尚、以上の実施形態においていう「造血前駆細胞の計数結果」には、試料中の造血前駆細胞数、単位体積あたりの造血前駆細胞数(濃度)、全白血球に対する造血前駆細胞の割合などが含まれ、制御部6はこれらのうち少なくともひとつを出力することができる。
【0115】
(実施例1)
〔血液学的試料〕
180人のヒトから採取した末梢血液180検体を血液学的試料(以下、試料ともいう)として用いた。
【0116】
〔処理試薬〕
以下の成分を含む溶血剤Aおよび染色液Aを用いた。
【0117】
溶血剤A
グリシン 15.7g/lL
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル 25000ppm
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 750ppm
HEPES 50mM
精製水 1l
水酸化ナトリウム pHが7.0となる量
【0118】
染色液A
プロピジウムアイオダイド 20ppm
エチレングリコール 1L
【0119】
溶血剤A 980μLと、染色液A 20μLと、試料20μLとを混合し、33℃で7秒間反応させて測定用試料を調整した。この測定用試料を、図7に示す構造を有するフローサイトメータ(光源:633nmの光を照射する赤半導体レーザ)に導入し、測定用試料中の各有形成分に光を照射して前方散乱光強度、側方散乱光強度、および蛍光強度を測定した。
【0120】
取得した前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とするスキャッタグラムAを作成した。スキャッタグラムA中にゴーストを実質的に含まない全白血球領域を設定した。この全白血球領域内の細胞を、側方散乱光強度および蛍光強度を二軸とするグラフに展開し、スキャッタグラムBを作成した。ある測定用試料の測定時に作成されたスキャッタグラムAを図14に、スキャッタグラムBを図15に示す。スキャッタグラムB中、側方散乱光強度が小さく、蛍光強度が小さい領域を造血前駆細胞候補領域として設定した(図15参照)。この領域内に出現する細胞を造血前駆細胞として計数し、全白血球領域内に出現する細胞(実質的に試料中の全白血球数)に対する造血前駆細胞の比率を算出した。
【0121】
(比較例1)
対照として、実施例1で用いたものと同じ血液学的試料を検体とし、抗CD34モノクローナル抗体を用いてCD34陽性細胞を測定した。なお、ここで測定される抗CD34モノクローナル抗体で検出されるCD34陽性細胞は造血前駆細胞に相当する。
【0122】
試料20μLと、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)で蛍光標識した抗CD34モノクローナル抗体を0.0025mg/mLの濃度で含有する標識抗体溶液5μLとを混合し、室温で20分間インキュベートした。ここに、溶血剤(塩化アンモニウム 0.899mg/mLを含む)2mLを添加し、5分間反応させて試料中の赤血球を溶血させた。次に、試料を1000rpmで10分間遠心分離して測定対象である白血球を沈殿させ、上清を廃棄した。沈殿した白血球に1mLのPBS(pH7.2)を添加し、白血球を再懸濁させてこれを測定用試料とし、ベクトンディッキンソン社製の汎用フローサイトメータであるFACSCaliburで全白血球およびCD34陽性細胞を計数し、全白血球に対する造血前駆細胞の比率を算出した。
【0123】
(結果)
実施例1で算出された造血前駆細胞の比率と、比較例1で算出された造血前駆細胞の比率との相関を示すグラフを、図16に示す。
図16より、従来用いられている汎用フローサイトメータを用いた際の測定結果(比較例1の測定結)と、本実施例での測定結果とがよく相関していることがわかる。このことより、本実施例の方法によると正確に造血前駆細胞を測定できることが示された。
【0124】
(実施例2)
〔血液学的試料〕
180人のヒトから採取した末梢血液180検体を血液学的試料(以下、試料ともいう)として用いた。
【0125】
〔処理試薬〕
以下の成分を含む溶血剤Bおよび染色液Bを用いた。
【0126】
溶血剤B
アラニン 19.8g/lL
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル 25000ppm
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 750ppm
HEPES 50mM
精製水 1l
水酸化ナトリウム pHが7.0となる量
【0127】
染色液B
色素A 50ppm
エチレングリコール 1L
【0128】
溶血剤B 980μLと、染色液B 20μLと、試料20μLとを混合し、33℃で7秒間反応させて測定用試料を調整した。この測定用試料を、実施例1で用いたフローサイトメータに導入し、測定用試料中の各有形成分に光を照射して前方散乱光強度、側方散乱光強度、および蛍光強度を測定した。
【0129】
取得した前方散乱光強度および蛍光強度を二軸とするスキャッタグラムCを作成した。スキャッタグラムC中にゴーストを実質的に含まない全白血球領域を設定した。この全白血球領域内の細胞を、側方散乱光強度および蛍光強度を二軸とするグラフに展開し、スキャッタグラムDを作成した。ある測定用試料の測定時に作成されたスキャッタグラムCを図17に、スキャッタグラムDを図18に示す。スキャッタグラムD中、側方散乱光強度が小さく、蛍光強度が小さい領域を造血前駆細胞候補領域として設定した(図18参照)。
【0130】
また、取得した前方散乱光強度および側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラムEを作成した。前記測定用試料の測定時に作成されたスキャッタグラムEを図19に示す。スキャッタグラムE中、側方散乱光強度が中程度で前方散乱光強度が強い領域を造血前駆細胞候補領域として設定した(図19参照)。
【0131】
スキャッタグラムDの造血前駆細胞候補領域内に出現し、且つスキャッタグラムEの造血前駆細胞候補領域内に出現する細胞を、蛍光強度および側方散乱光強度に基づいてグラフ中に展開し、スキャッタグラムFを作成した。前記測定用試料の測定時に作成されたスキャッタグラムFを図20に示す。このスキャッタグラムFに出現する細胞を造血前駆細胞として計数し、全白血球領域内に出現する細胞(実質的に試料中の全白血球数)に対する造血前駆細胞の比率を算出した。
【0132】
(比較例2)
実施例2で用いた試料を検体として用いること以外は比較例1と同様の方法で造血前駆細胞を測定し、全白血球に対する造血前駆細胞の比率を算出した。
【0133】
(結果)
実施例2で算出された造血前駆細胞の比率と、比較例2で算出された造血前駆細胞の比率との相関を示すグラフを、図21に示す。
図21より、従来用いられている汎用フローサイトメータを用いた際の測定結果(比較例2の測定結果)と、本実施例での測定結果とがよく相関していることがわかる。このことより、本実施例の方法によると正確に造血前駆細胞を測定できることが示された。
【0134】
(実施例3)
被験者Aから所定の間隔をあけて11回血液試料を採取し、この11検体を被験者Aからの試料とした。また、被験者Bから所定の間隔をあけて11回血液試料を採取し、この11検体を被験者Bからの試料とした。
造血前駆細胞は、以下の組成を含む溶血剤Cおよび染色液Cを用いること以外は実施例1と同様の方法で測定された。また、全白血球に対する造血前駆細胞の割合を算出した。
【0135】
溶血剤C
キシリトール 35.5g/lL
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル 20000ppm
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 750ppm
HEPES 30mM
精製水 1l
水酸化ナトリウム pHが7.0となる量
【0136】
染色液C
色素A 20ppm
エチレングリコール 1L
【0137】
(比較例3)
実施例3で用いた試料を検体として用いること以外は比較例1と同様にして造血前駆細胞を測定し、全白血球に対する造血前駆細胞の比率を算出した。
【0138】
(結果)
実施例3および比較例3による被験者Aについての測定結果を図21に、被験者Bについての測定結果を図22に示す。図22および23は、採血開始を0日とし、所定の期間中にそれぞれ11回採血を行い、造血前駆細胞の増減をモニターした結果を示すグラフである。図22および23からわかるように、実施例3の測定結果と、従来用いられている方法による測定結果(比較例3の測定結果)はほぼ連動していることがわかる。このことより、本実施例の方法によると正確に造血前駆細胞を測定できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】第1細胞群を説明するためのスキャッタグラムの模式図である。
【図2】第2細胞群を説明するためのスキャッタグラムの模式図である。
【図3】第1細胞群に含まれ、且つ第2細胞群に含まれる細胞を説明するためのスキャッタグラムの例である。
【図4】第3細胞群を説明するためのスキャッタグラムの模式図である。
【図5】第4細胞群を説明するためのスキャッタグラムの模式図である。
【図6】本実施形態の測定装置の外観の一例を示す図である。
【図7】本実施形態の測定装置に搭載されるフローサイトメータの一例を示す図である。
【図8】本実施形態の測定装置の制御部の構成の一例を示すブロック図である。
【図9】制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【図10】制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【図11】制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【図12】制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【図13】制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【図14】スキャッタグラムAである。
【図15】スキャッタグラムBである。
【図16】実施例1と比較例1との相関を示すグラフである。
【図17】スキャッタグラムCである。
【図18】スキャッタグラムDである。
【図19】スキャッタグラムEである。
【図20】スキャッタグラムFである。
【図21】実施例2と比較例2との相関を示すグラフである。
【図22】被験者Aから採取した試料を用いて測定した場合の実施例3と比較例3の結果を示すグラフである。
【図23】被験者Bから採取した試料を用いて測定した場合の実施例3と比較例3の結果を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;
処理された試料に、光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得工程;
前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定工程;
前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する第2特定工程;および
前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する計数工程
を含む血液学的試料の測定方法。
【請求項2】
前記計数工程において、
前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を、前記蛍光情報および前記第2散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム中に展開し、前記スキャッタグラムに出現する細胞を造血前駆細胞として計数する、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記第2特定工程は、前記第1細胞群の第1散乱光情報および蛍光情報に基づいて、前記第1細胞群の中から第2細胞群を特定する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1特定工程は、前記第2細胞群の第1散乱光情報および第2散乱光情報に基づいて、前記第2細胞群の中から第1細胞群を特定する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1特定工程は、前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報を二軸とする第1のスキャッタグラム中に造血前駆細胞の出現候補領域を設定し、前記候補領域内に出現する細胞群を前記第1細胞群として特定する工程であり、
前記第2特定工程は、前記第1散乱光情報および前記蛍光情報を二軸とする第2のスキャッタグラム中に造血前駆細胞の出現候補領域を設定し、前記候補領域内に出現する細胞群を前記第2細胞群として特定する工程である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記試料処理工程において、前記染色処理により造血前駆細胞とその他の白血球との間に蛍光強度の差異を生じさせる請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;
処理された試料に、光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得工程;
前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定工程;
前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて、ゴースト集団以外の細胞集団を、第2細胞群として特定する第2特定工程;
前記第2散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて、前記第2細胞群の中から、少なくとも成熟白血球を実質的に含まない第3細胞群を特定する第3特定工程;および
前記第1細胞群に含まれ且つ前記第3細胞群に含まれる細胞を計数する計数工程
を含む血液学的試料の測定方法。
【請求項8】
前記第1散乱光情報が前方散乱光強度であり、前記第2散乱光情報が側方散乱光強度であり、前記蛍光情報が蛍光強度である、請求項1〜7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
前記処理工程は、赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、核酸を染色する蛍光色素と、血液学的試料とを混合することにより行なわれる請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理手段;
処理された試料に、光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得手段;
前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定手段;
前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する第2特定手段;および
前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する計数手段
を含む血液学的試料の測定装置。
【請求項11】
前記第1細胞群が、前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報を二軸とする第1のスキャッタグラム中に設定された造血前駆細胞の出現候補領域に出現する細胞群であり、
前記第2細胞群が、前記第1散乱光情報および前記蛍光情報を二軸とする第2のスキャッタグラム中に設定された造血前駆細胞の出現候補領域に出現する細胞群である、
請求項10に記載の測定装置。
【請求項12】
前記計数手段は、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を、前記蛍光情報および前記第2散乱光情報を二軸とする第3のスキャッタグラム中に展開し、前記第3のスキャッタグラムに出現する細胞を造血前駆細胞として計数する手段である、請求項10又は11に記載の測定装置。
【請求項13】
前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞が出現しているスキャッタグラム、および前記造血前駆細胞の計数結果のうち少なくとも1つを表示する表示部をさらに備える請求項10〜12の何れかに記載の装置。
【請求項14】
血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;
処理された試料に、光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する工程;
前記蛍光情報及び前記第1散乱光情報に基づいてゴースト集団以外の細胞集団を特定する工程;
前記第2散乱光情報及び蛍光情報に基づいて、前記ゴースト以外の細胞集団の中から造血前駆細胞を特定し、計数する工程、
を含む血液学的試料の測定方法。
【請求項15】
前記特定工程において、前記細胞集団を、前記蛍光情報及び前記第1散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム中に展開し、前記スキャッタグラムに前記細胞集団の出現候補領域を設定し、この出現候補領域中に出現する細胞群を前記細胞集団として特定し、
前記計数工程において、前記細胞集団を前記第2散乱光情報及び前記蛍光情報を二軸とするスキャッタグラム中に展開し、前記スキャッタグラムに前記造血前駆細胞の出現候補領域を設定し、この出現候補領域中に出現する細胞群を造血前駆細胞として特定し、計数する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記赤血球及び前記成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、糖とを含有する試薬と前記血液学的試料とを混合することにより、前記血液学的試料に含まれる前記赤血球および前記成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、且つ損傷した血球を収縮させる、請求項14または15記載の方法。
【請求項17】
前記糖が、キシリトール、アラビノース、グルコース、マンニトール、ソルビトール、リビトールからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項14〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項1】
血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;
処理された試料に、光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得工程;
前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定工程;
前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する第2特定工程;および
前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する計数工程
を含む血液学的試料の測定方法。
【請求項2】
前記計数工程において、
前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を、前記蛍光情報および前記第2散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム中に展開し、前記スキャッタグラムに出現する細胞を造血前駆細胞として計数する、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記第2特定工程は、前記第1細胞群の第1散乱光情報および蛍光情報に基づいて、前記第1細胞群の中から第2細胞群を特定する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1特定工程は、前記第2細胞群の第1散乱光情報および第2散乱光情報に基づいて、前記第2細胞群の中から第1細胞群を特定する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1特定工程は、前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報を二軸とする第1のスキャッタグラム中に造血前駆細胞の出現候補領域を設定し、前記候補領域内に出現する細胞群を前記第1細胞群として特定する工程であり、
前記第2特定工程は、前記第1散乱光情報および前記蛍光情報を二軸とする第2のスキャッタグラム中に造血前駆細胞の出現候補領域を設定し、前記候補領域内に出現する細胞群を前記第2細胞群として特定する工程である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記試料処理工程において、前記染色処理により造血前駆細胞とその他の白血球との間に蛍光強度の差異を生じさせる請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;
処理された試料に、光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得工程;
前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて、造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定工程;
前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて、ゴースト集団以外の細胞集団を、第2細胞群として特定する第2特定工程;
前記第2散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて、前記第2細胞群の中から、少なくとも成熟白血球を実質的に含まない第3細胞群を特定する第3特定工程;および
前記第1細胞群に含まれ且つ前記第3細胞群に含まれる細胞を計数する計数工程
を含む血液学的試料の測定方法。
【請求項8】
前記第1散乱光情報が前方散乱光強度であり、前記第2散乱光情報が側方散乱光強度であり、前記蛍光情報が蛍光強度である、請求項1〜7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
前記処理工程は、赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、核酸を染色する蛍光色素と、血液学的試料とを混合することにより行なわれる請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理手段;
処理された試料に、光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する取得手段;
前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第1細胞群を特定する第1特定手段;
前記第1散乱光情報および前記蛍光情報に基づいて造血前駆細胞を含む第2細胞群を特定する第2特定手段;および
前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を造血前駆細胞として計数する計数手段
を含む血液学的試料の測定装置。
【請求項11】
前記第1細胞群が、前記第1散乱光情報および前記第2散乱光情報を二軸とする第1のスキャッタグラム中に設定された造血前駆細胞の出現候補領域に出現する細胞群であり、
前記第2細胞群が、前記第1散乱光情報および前記蛍光情報を二軸とする第2のスキャッタグラム中に設定された造血前駆細胞の出現候補領域に出現する細胞群である、
請求項10に記載の測定装置。
【請求項12】
前記計数手段は、前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞を、前記蛍光情報および前記第2散乱光情報を二軸とする第3のスキャッタグラム中に展開し、前記第3のスキャッタグラムに出現する細胞を造血前駆細胞として計数する手段である、請求項10又は11に記載の測定装置。
【請求項13】
前記第1細胞群に含まれ且つ前記第2細胞群に含まれる細胞が出現しているスキャッタグラム、および前記造血前駆細胞の計数結果のうち少なくとも1つを表示する表示部をさらに備える請求項10〜12の何れかに記載の装置。
【請求項14】
血液学的試料に含まれる赤血球および成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、細胞膜が損傷した血球を収縮させ、核酸を染色できる蛍光色素で染色処理する試料処理工程;
処理された試料に、光を照射することによって生じる第1散乱光情報と、第1散乱光とは角度の異なる散乱光に基づく第2散乱光情報と、蛍光情報とを取得する工程;
前記蛍光情報及び前記第1散乱光情報に基づいてゴースト集団以外の細胞集団を特定する工程;
前記第2散乱光情報及び蛍光情報に基づいて、前記ゴースト以外の細胞集団の中から造血前駆細胞を特定し、計数する工程、
を含む血液学的試料の測定方法。
【請求項15】
前記特定工程において、前記細胞集団を、前記蛍光情報及び前記第1散乱光情報を二軸とするスキャッタグラム中に展開し、前記スキャッタグラムに前記細胞集団の出現候補領域を設定し、この出現候補領域中に出現する細胞群を前記細胞集団として特定し、
前記計数工程において、前記細胞集団を前記第2散乱光情報及び前記蛍光情報を二軸とするスキャッタグラム中に展開し、前記スキャッタグラムに前記造血前駆細胞の出現候補領域を設定し、この出現候補領域中に出現する細胞群を造血前駆細胞として特定し、計数する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記赤血球及び前記成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、糖とを含有する試薬と前記血液学的試料とを混合することにより、前記血液学的試料に含まれる前記赤血球および前記成熟白血球の細胞膜に損傷を与え、且つ損傷した血球を収縮させる、請求項14または15記載の方法。
【請求項17】
前記糖が、キシリトール、アラビノース、グルコース、マンニトール、ソルビトール、リビトールからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項14〜16のいずれかに記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2008−134062(P2008−134062A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318212(P2006−318212)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
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