血液成分を分離するための浮動ディスク
生理的流体の成分の遠心分離操作において使用する浮動分離部材であって、位置付け部と分離部とよりなり、該位置付け部は上澄み液内での位置を自動的に占めるとともに分離部は該上澄み液と、それより重い成分との間の境界領域に対して予定した位置を占めるように構成される。好ましい実施形態において、生理的流体は血液又は骨髄吸出物質であり、より重い成分は赤血球である。位置付け部は該分離部材の質量の大半を占めるとともに肉薄に形成され、従って、該境界領域に対する分離部材の位置の相違は、特に赤血球を含む分離された成分の質量の相違に比較して小さい。本発明の方法においては、デカント操作の間に分離部材が赤血球によって動かされ、これによって上澄み液のデカント操作をより確実に遂行し得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理的流体を分別するための技術に係り、特に、遠心操作によって血液や骨髄吸出物質の成分を分別する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
血液は遠心操作により一般的に各成分に分離される。これがなされるのは多くの理由があるが、その一つは、患者の治療に使用する選択された成分を得るためである。例えば、米国特許第6,398,972号(発明者:ブラセッティ)に開示のごとく、遠心操作によって血液が成分に分離されて富血小板血漿を得、これが患者の自己的治療に用いられる。このシステムにおいては、処理ユニットの1つのチャンバに全血がおかれ、血小板と血漿は第1の遠心操作による回転、すなわち遠心スピンの後、第2のチャンバにデカント操作により注ぎ移される。次いで、該処理ユニットが第2の遠心スピンに付され、これにより血漿から血小板が分離する。ここで重要なことは、血小板及びその他の必要な成分、例えば白血球が第1の遠心スピンにおいて赤血球から分離され、該赤血球が第1のチャンバ内に留まっている間にこれらが血漿とともにデカント操作されることである。
【0003】
生理的流体としての血液は該流体内に浮遊粒子を含むとともに基本的には、血漿、赤血球、血小板及び白血球ならびに他の多くのものを含んでいる。血漿の濃度ないし密度(以下、密度という)は、おおむね約1.020、血小板の密度は約1.040である。赤血球の密度は血球の年齢及び他の要因に依って1.07から1.09の間で変化する。白血球の密度は血小板と赤血球の密度ないし濃度の間にある。実際上、「層」とは純粋に1つの型の血球よりなるのでなく、その他の多くの型の血球をも含むものである。従って、1つの層の平均密度は原理的には1つの型の血球のものを指すが、ここには他の型の血球をも含んでいることは通常である。例えば、遠心操作による分離後の「血漿層」は原理的には血漿のみであるが、実際上は、血小板や赤血球などの他の血球をも含有し、これが該層内の割合に依存した量により層の平均密度を上昇させる。
【0004】
米国特許第7,077,273号に見られる他の公知のシステムにおいては、血液等の生理的流体を入れた容器内に配置した分離部材を使用することにより赤血球と上澄み液との間の分離が維持される。この生理的流体は、遠心分離の操作に付されて赤血球が第1のチャンバ内に保持される一方、血漿、血小板及び他の成分がデカント操作によって第2のチャンバに移される。この開発初期の具体例では分離部材は、赤血球と他の成分との間の予定された境界領域において第1のチャンバ内で位置が固定されていた。しかし、この構成は、血漿と赤血球との境界の実際位置が全血のヘマトクリット(すなわち、血液中の赤血球が占める割合)や遠心分離操作の時間及びG力(重力加速度)などの種々の変位置の関数であるために最適でないことが判明した。更に、該境界の実際値及び複数層の平均密度に影響を及ぼす要因が、血液成分の沈降速度にあり、これは多くの条件によって左右される。すなわち、その条件とは、例えば、血球を増大させる溶液や抗凝固剤の強さ、赤血球の年齢(古い血球は、より濃い)、血球の大きさ(大きい白血球は同じ濃度の小さい血球よりも沈降が速い)、赤血球の連銭状態及び血漿の粘度などである。
【0005】
生理的流体内で浮動するように構成された分離部材は公知であるが、該部材は、赤血球と希望する上澄み要素の間の境界位置又は、その近傍に浮かぶように構成されている。この1つの構成例が、米国特許第7,077,273号に示されたディスク形状のものである。その形状と密度により、これは赤血球とバッフィコート(白血球と血小板)の間の境界ないし境界領域(インターフェース)の丁度下方の面に位置する。しかし、この構成では、バッフィコートを含む境界領域内における赤血球層の密度に焦点がおかれている。この点ではこの構成は成功しているが、血球成分の沈降速度に影響する病気を有する広範囲の患者から得られる、例えば血小板及び/又は幹細胞などの流体から回収すべき目標の成分割合を増やすことについては未だ十分でなく、更なる改良が望まれるところであった。
【0006】
血液等の生理的流体の成分を遠心分離操作による流体力学の分析によれば、該遠心分離の間に進展する赤血球層の密度は、該赤血球の沈降速度に影響する上述した種々の要因のために正確に決定することが困難であることが判明した。赤血球層の実際の密度は、赤血球と該層内の主として血漿である他の成分との割合に依存する。従って、もし、ある特定の患者が血球成分の沈降速度を減少させる多くの状態を有する場合、赤血球層の実際の密度は、血漿が大きな部分を占めているので予想よりも小さくなるであろう。この場合、赤血球層の予想される密度をベースに設計された浮動ディスクの実際位置は予想される位置にはないであろう。
【0007】
血小板や骨髄幹細胞などの血球ないし細胞の層は、遠心分離の後、一般に極めて薄いので、分離部材の位置エラーがリカバリーレート(recovery rate)に与える影響は大である。すなわち、希望する血球ないし細胞の層厚に関係する分離部分の位置エラーは、リカバリーレートの相違を、50パーセントほど大きく結果として招く恐れがある。
【発明の概要】
【0008】
本願出願人は、赤血球層の実際の密度は、沈降速度の変化や該層内の低密度の血漿の比率のために、その予測が困難である一方において、血漿の上澄み液の密度は十分な理由をもって予測し得ることを見出した。更に、血漿層と赤血球層との間の境界における密度勾配は、赤血球層自体の密度が相当に変化するとしても、比較的急であることも見出した。赤血球層の密度は、1.05から1.8まで変化し得、血漿層の密度は1.023から1.028まで変化し得る。このことは、赤血球と血漿の両層の密度は変化するが、血漿層の密度変化は赤血球層のそれよりも小さいことを示す。
【0009】
更に、本願出願人が見出したことは、血小板、白血球、幹細胞などの成分の大半は、境界領域(インターフェース)にある薄い層内におおむね存在するとともに、赤血球層の密度がより大きな比率を占める血漿の存在のため、より低い場合でも、該境界領域の丁度下方に分散していることである。
【0010】
従って、本発明の1つの観点は、浮動する分離部材を、血小板や白血球などの血球層の密度よりも、血漿と白血球の層の間の密度の相違に依存した位置を占めるように構成することである。本発明の好ましい具体的構成において、該分離部材の平均密度は血漿のそれよりも若干大きくされ、血漿と赤血球の境界近傍において血漿内に沈むように構成される。この分離部材は、その主要構成要素として、位置付け部と、その下方に向けられた分離部とを有する。両部の間隔は、血漿−赤血球の境界部分(インターフェース)に関して、位置付け部の予定位置に対する目標とする血球ないし細胞の予定位置によって決定される。以下に述べるように、位置付け部は、肉薄が望ましいとともに該分離部材全体の質量の大半を占める。位置付け部は、その一部が血漿層内で浮かび、又、その一部が赤血球(RBC)層内で浮かぶように構成されるので、該分離部は該位置付け部の底面を基本的に構成するとともに該境界のすぐ下方に分離面を提供する。
【0011】
血小板、幹細胞及び白血球などの希望する生理的成分は血漿よりも密度が高いが、赤血球よりは低いという理由から、これら生理的成分は遠心分離の後に血漿と赤血球との間の境界領域において基本的に1つの層を形成する。しかし、実際上、これらの層間の境界は拡散した状態にあり、いくらかの赤血球が白血球層及び血小板と骨髄細胞などの他の層内に見出されるとともに、その逆の状態も呈する。このような拡散状態は、血漿と赤血球の間の層厚が該層内に存在する他の血球ないし細胞の部分に依存して変化することを意味する。従って、希望の血球ないし細胞を確実に回収するために、分離部材の分離部は血漿より下方に十分に延出するとともに希望する血球ないし細胞を含む層の主要部よりも下にある赤血球層にまで入り込むように延出しなければならない。そうすることにより、これら希望する血球や細胞の殆どを移すことができる。
【0012】
希望する血球ないし細胞の層は薄いので、分離部材の分離部の位置エラーが重大になる。この1つの解決策として、該分離部を必要以上に境界領域よりも下方に配置する方法があるが、この場合には多くの余分な赤血球もデカント操作で注ぎ移されるため、次いでなされる処理の障害となり劣悪な製品を結果として生じさせる問題がある。従って、本発明における重要な課題は回収される赤血球の数ないし量を制限しつつ所望の血球ないし細胞を確実に回収するように該分離部を境界領域より下方の位置を占めるよう制御することである。
【0013】
本発明においては、分離部材の分離部が位置付け部と連結されるとともに該位置付け部から所定の距離、離間しており、これによって該位置付け部が分離部を赤血球層内に、血漿層と赤血球層の間の境界において希望する血球ないし細胞部分を確実に回収するのに十分な距離、押し込む(プッシュ)する。これら分離部と位置付け部の両構成部は境界近傍の薄い層内にあるので、本発明においては、分離部を位置付け部の下方の固定した間隔位置に設けることができる。本発明の具体的構成において、位置付け部の質量は該分離部材全体の質量の約65%より大で、約80%程度であり、これにより位置付け部が境界領域に近接するとともに分離部を該境界領域の下方に所望の距離ないし間隔だけ押し込む(プッシュ)ことを確実になし得る。
【0014】
本発明の好ましい特徴として、該位置付け部は中央孔を有する肉薄のディスクで構成され、生理的流体を有する処理チューブ内で動く際に該中央孔を介して流体の流通を許容する。この位置付け部の周囲部分は該処理チューブの内壁に係合する構成が望ましく、これによって該分離部が傾斜することなく該チューブ内の流体中で自由に浮動することができる。好ましい具体例において、該位置付け部の周囲部分には複数の安定化用脚が設けられ、これら脚は該位置付け部の本体部分から上方に延出するとともに該チューブの内壁に対してゆるく係合し、これが該分離部を真直ぐの状態で、かつ自由な安定した浮動状態を維持するのに寄与している。これらの脚は、薄肉で細いものであるから、該分離部材の質量の多くは位置付け部の本体部分にある。
【0015】
本発明の他の特徴として、分離部材の位置付け部の厚さは小さく形成され、血漿と赤血球の両層の最大及び最小の予想される密度に関して、その縦方向位置の相違が最小化される。この特徴は、2つの流体の層の間で浮動する部材において、該浮動部材が1つの層内にある部分と他の層内にある部分との相対割合がこれらの層の相対的密度によって決定される現象を利用するものである。位置付け部と分離部とよりなり、その質量の大部分が肉薄の位置付け部にある分離部材を構成することが、境界領域(インターフェース)からの分離部の位置の縦方向の相違を最小化する。これによって、デカント操作により希望する血球ないし細胞の層の注ぎ移しが可能になるとともに、その際、一緒に移される赤血球などの他の血球ないし細胞の量を最小化できる。
【0016】
本発明の目的は、分離部材が2つの成分の間の境界領域近傍で浮かぶように構成するとともに該部材の質量(mass)の大部分が上澄み液の層内にあるように構成することである。
【0017】
本発明の他の目的は、分離部材が上澄み液と赤血球の間の境界領域の近傍で浮かぶように構成するとともに該部材の質量の大部分が上澄み液の層内に留まり、該質量の僅かな部分が赤血球の層へ延出するように構成するにある。
【0018】
本発明の更に他の目的は、生理的流体の成分の層間の境界領域に対する1つの位置を正確に占める分離部材を構成するにある。
【0019】
本発明の更に他の目的は、分離部材において上澄み液内に位置する肉薄の部分が該分離部材の質量の大部分を占めるように構成することにある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は本発明に係る処理チューブの概要側面図を示すとともに、(b)は該処理チューブに遠心分離操作を施した後における該チューブ内の生理的流体の密度状態を示す。
【図2】本発明における分離部材の好ましい第1の実施形態を示す斜視図である。
【図3】図2に示す分離部材の側面図である。
【図4】本発明における分離部材の好ましい第2の実施形態を示す斜視図である。
【図5】本発明における分離部材の好ましい第3の実施形態を示す斜視図である。
【図6】図5に示す分離部材の平面図である。
【図7】図5に示す分離部材の縦断面図である。
【図8】本発明における分離部材の好ましい第4の実施形態を示す斜視図である。
【図9】図8に示す分離部材の平面図である。
【図10】図8に示す分離部材の縦断面図である。
【図11】遠心分離操作過程において本発明における分離部材の動作を説明するための処理ユニットの縦断面図である。
【図12】図11に示す処理ユニットの、デカント操作の最初の状態にあることを表わす縦断面図である。
【図13】図11に示す処理ユニットの、デカント操作が進行した状態にあることを表わす縦断面図である。
【図14】図11に示す処理ユニットの、デカント操作の最終状態にあることを表わす縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1の(a)に示す処理チューブ2は内部に生理的流体を収容している。図において該処理チューブ2は単純な円筒状のものを示してあるが、実際には種々の形状のものがある。この実施形態においては、該処理チューブ2は、米国特許第6,398,972号に開示の使い捨て可能な2チャンバ型の処理ユニットの一方のチャンバに相当する。あるいは、該処理チューブ2は、注射器の一端から分離した成分を送出、ないしは上澄み液を他方向へ分離させるように構成された注射器の一部をなす。該処理チューブは代表的には円筒状で、その内部で一定の直径を有する円形の浮動ディスクが自由に移動し得、分離されるべき成分間の境界領域に置かれる。ただし、本発明の原理を利用した他の構成も可能である。
【0022】
図1の(a)に示す処理チューブ2内の生理的流体は、これが遠心分離操作を受けた後の状態で示されており、複数の成分がそれらの密度に応じて分離されている。例えば、該生理的流体は全血であり、これが「ソフトスピン」と称される遠心分離の回転操作に付された後、密度が小さく、より軽い富血小板血漿4が、より密度の大きく、より重い赤血球6から分離される。これらの成分の間の境界領域(インターフェース)8は、一般には明確には区画されず、ここには白血球や他の有核の血球や細胞など、他の特定の成分も含まれる。又、該生理的流体が骨髄吸出物質の場合、境界領域には幹細胞が存在するであろう。
【0023】
図1の(b)に示すグラフは、処理チューブ2の長手方向ないし高さ方向に沿って種々の成分の密度を表わす。ここには、異なる3人の患者の密度状態(プロフィール)がA、B、Cで表されている。
【0024】
図1の(b)のグラフから認められることは、富血小板血漿の密度は全ての患者について、1.023から約1.028まで変化し、他方、赤血球の密度は、約1.07から約1.09まで変化している。赤血球自体の密度変化の理由は、上述において多く議論したところであるが、沈降速度が患者によって相違し、又、所定の遠心分離条件における赤血球層の密度が該層内に残る血漿の割合に応じて変化することが理由として挙げられる。このような変化があるために境界領域(インターフェース)8における密度を予想すること、あるいは該密度や赤血球の密度に基づいて分離部材を位置付けることが極めて困難になるのであった。
【0025】
しかし、本願出願人は、該境界領域の物理的厚さは、その密度よりも変化が比較的小さいことを見出した。すなわち、希望する血球又は細胞の層が該境界領域において主としてその上端(トップ)にあり、その厚さは該処理チューブ2内の境界領域の位置よりも変化が小さいことであった。これに着目し、本願出願人は、分離部材を血漿内に沈むようにするとともに該血漿と赤血球内で浮動して該境界領域に常に十分に近接した位置を占めるように構成し、これによって、該分離部材の分離部が境界領域の所望の距離内に常にあって、デカント操作において過度に赤血球をデカント(注ぎ移し)することなく所望の成分をデカントすることを許容するように構成したものである。この分離部材の1つの具体的形態が図1の(a)に示されており、他の形態のものが図2〜5にそれぞれ示されている。
【0026】
図1の(a)には、本発明における分離部材10が示されている。この分離部材10は2つの部分よりなり、その第1の部分は位置付け部12であり、他の第2の部分は分離部14である。これら2つの部分は連結部16によって互いに連結されている。この連結部16は、これら2つの部分の間の固定した間隔ないし距離を付与する。ただし、この連結部16により両部分の間隔ないし距離を可変とする構成も可能である。位置付け部12の密度は、該位置付け部12が血漿4内に沈み、これによって分離部14が赤血球層へ押し込め(プッシュ)られるように設定される。好ましい実施形態において、位置付け部12は密度約1.047から約1.075の範囲を有するプラスチックより成り、特にその密度は約1.055のものが望ましい。そして、好ましい具体例として、該位置付け部12は、密度約1.047を有するDow666又は密度約1.055を有するRTP400により形成される。
【0027】
更に、該位置付け部12は分離部14よりもサイズが大であり、従って、該分離部14の位置は主として位置付け部12の位置により決定される。好ましくは、該位置付け部12の質量(mass)が分離部の質量の少なくとも2倍である。特に、具体例として、該位置付け部12の質量は分離部材10の全質量(total mass)の約0.8である。位置付け部12の相対質量が大きいので、分離部14は、分離部14自体の密度が赤血球のそれよりも小さいけれども該位置付け部12によって境界領域の所望部位に保持されるように観察し得る。
【0028】
位置付け部12と分離部12の間隔は、生理的流体の特性、すなわち該流体が全血か骨髄吸出物質かによって、又、両部の特定形状により、決定される。
【0029】
図2は、分離部材の好ましい実施形態を示し、この位置付け部12は、中心部に中央部20を備えておおむね環状ないし円環状の本体18を有する。この本体18の周辺より上方に向けて複数の安定化用脚22が延出する。本体18は肉薄に形成され、遠心分離操作の間に、境界領域に近接した位置をとるように構成されるのが望ましい。又、該本体18は浮動する分離部材10の質量の大部分を占めるので、その特性は生理的流体内において分離部材を位置付ける最も主要な要素である。本体18を肉薄に形成することにより、境界領域に対するその位置の相違が、上述した種々の患者より入手した生理的流体の相違と比較して小さい。これが本発明の特徴であり、以下に詳述される。
【0030】
公知の浮力分析において、浮動物体は、それが浮かぶ流体の容積であって該物体の重量と等しい流体の容積を変位させる。従って、以下の関係式が得られる。
v(sub)ρ(fluid)=v(obj)ρ(obj)
ここにおいて、
v(sub):浮動物体の流体中に沈んだ容積
ρ(fluid):物体が浮かぶ流体の密度
v(obj):浮動物体の全容積
ρ(obj):浮動物体の密度
従って、全容積に対する沈んだ容積の割合は、流体の以下の関係式のように流体の密度に対する物体の密度に比例する。
v(sub)/v(obj)=ρ(obj)/ρ(fluid)
上記の関係から、いずれの物体についても、浮動物体の沈んだ容積は、該物体が浮かぶ流体の密度の関数である。上記の理由により、流体の密度を制御し得ない本発明の場合、赤血球内に沈んだ分離部材10の容積部分は制御し得ない。
【0031】
分離部材10が血漿と赤血球内に浮かぶ状態における遠心分離の、より複雑な環境においては、以下の関係式がより正確である。
ρ(rbc)−ρ(sc)/ρ(sc)−ρ(plasma)=m(plasma)/m(rbc)
ここにおいて、
ρ(rbc):赤血球層の密度
ρ(sc):分離部材の密度
ρ(plasma):血漿層の密度
m(plasma):血漿層内における分離部材の質量
m(rbc):赤血球層内における分離部材の質量
上記関係式から前述したと同様の結論が導き出されるが、更には以下の基本的結論が導き出される。すなわち、分離部材の血漿層内の割合及び赤血球層内の割合が、分離部材及びこれら層の密度の関数である。
【0032】
境界領域における分離部材の位置は、これらの層の実際の密度を制御し得ないために、この分離部材の位置も制御し得ないが、本発明により構成された分離部材では、可能な最大位置と最小位置との間の間隔が許容可能な結果を確実に付与する。これは該分離部材の質量の大半を位置付け部におくことにより、又、該位置付け部を肉薄に形成することにより達成される。この効果は図3に示す構成により達成される。
【0033】
図3は、図2に示す分離部材の側面図であり、ここでは血漿層と赤血球層の異なる平均密度について、その位置の相違を表している。
【0034】
上記の相違は、上述した関係式に従って算出されるとともにテスト結果、殆ど正確であることが見出された。図3において、線24は、軽い第1の成分である血漿層の平均密度が1.025、第2の成分である赤血球層の平均密度が1.05及び分離部材の密度が1.047の場合の血漿と赤血球の間の境界位置を表わす。線26は、同じ分離部材及び血漿の密度の場合について、赤血球層の平均密度が1.07のときの境界位置を表わす。このように、分離部材は、赤血球層の平均密度が、約2%だけ変化して、より大きい場合に、より高く、上方で浮く。しかし、該分離部材のこれら2つの位置の縦方向の相違は、単に約0.10インチ(2.54mm)である。この構成例で示すように、分離部は位置付け部と一緒に動くように連結されており、同じ縦方向の位置の相違が分離部14に適用される。
【0035】
従って、本発明の原理により、分離部14の境界領域ないし境界位置からの縦方向に沿う相違は、約0.10インチ(2.54mm)程度である。これは、実際上経験する赤血球層の平均密度における比較的大きな変化の場合についてである。このことは、高さのエラーが例えば0.10インチ(2.54mm)よりも確実に小さくなる状態で回収すべき血球ないし細胞の層に従って、位置付け部に関して分離部を位置付けることができることを示す。この例として、分離部14上の血球流体の容量は、赤血球(RBC)の密度が1.055の場合に約4.8ccと算出され、該赤血球の密度が1.070の場合、約4.3ccと算出される。従って、その相違は約0.5ccであって、これは赤血球の密度の相違が同じ条件において分離部上の血球流体の容量の相違が約4.1ccである公知の浮動ディスクと比較して見れば極めて小さいものといえる。
【0036】
上述した本発明の実施形態において、該分離部材10は60mlの生理的流体を収容した径約1.36インチ(3.45cm)の円筒形チューブ内で浮動するように設計されている。従って、分離部14は、その直径約1.34インチ(3.40cm)が該チューブ内径よりも若干小さいので、チューブ内で自由に移動可能である。又、安定化用脚22の外端面を囲む円の径も約1.34インチ(3.4cm)であるから、これらの脚22が分離部ないし分離部材全体に必要な安定性を付与する。位置付け部12の容量は約2.56ccであり、分離部14の容量は約1.17ccである。本体18の直径は約1.12インチ(2.84cm)、中央孔20の内径は約0.24インチ(6.09mm)であり、該本体18の厚さは約0.22インチ(5.59mm)である。分離部14の厚さは約0.05インチ(1.27mm)である。
【0037】
図4は本発明に係る分離部材10の第2の実施形態を示す。ここにおいて、位置付け部12は図2で示したものと同様であるが、分離部28は波状に屈曲した周縁部30と中央部とを備えた肉薄平坦ディスクよりなり、該中央部は、上面側から見て凹状で底面側から見て凸状の半径方向に延出した谷部32と、下側から見て凹状の半径方向に延出した山部34とを一連に有する。この実施形態において該分離部28の容量は約0.96ccである。
【0038】
図4に示す分離部材10の主な利点は、該分離部28の波状に屈曲した形状により、遠心分離操作の際に、その屈曲部分を通して、血球及び空気の通過が容易になされることである。該チューブ2内には、通常、血液が加えられる前に空気が入っているので、遠心分離操作の前に分離部材の下方に捕捉されていた空気が遠心分離操作の間に上方に流出する恐れがある。この場合、分離部28の谷部32は、上方に流れる空気を集める傾向を示し、又、漏斗の効果(funneling effect)により該分離部14を通して、より重い血球を下方に流出させる。更に、該分離部14の波状の周縁部30は、デカント操作の間、チューブの側面に付着するだけの厚みを有する。そして、後述のごとく、デカント操作の間、赤血球により該チューブに沿って分離部材10が押されるにつれて該周縁部30が該チューブの内壁面ないし側面に対してふき取り効果を発揮する。
【0039】
図5〜7は、本発明の他の実施形態を示し、ここにおいては位置付け部12と分離部14の間隔が実質的にゼロに縮小されている。分離部は位置付け部の底部と同一の空間に延出しているが、その他の構成は前に述べた実施形態のものと同様である。
【0040】
図8〜10は、図5のものに類似した態様の本発明の更なる他の実施形態を示し、ここにおいては、分離部の質量分布について、その大半の質量が位置付け部にある対物レンズ状の形状である。この形状において、内壁36は外壁38に向かってテーパ状を呈し、従って側壁の厚さは、上端に向かって薄くなって、これが他の実施形態で示した安定化用脚22のもつ安定化機能を果たす。このように、外壁38は円筒状をなし、他方、内壁36は円錐形状をなす。この実施形態において、底部に向かって質量は線型(リニア)状に増大する。しかし、この増大を非線型(ノンリニア)として薄い領域において均一な割合で増大する質量を配置するようにもできる。
【0041】
図11〜14は、血漿及び希望する血球成分をデカント操作する効率を上げるために分離部材10がスクイージ(squeegee)として作用する構成の本発明の特徴を示す。図11は使用中の処理ユニット40を示し、該処理ユニット40は図5に示すような分離部材10を有する。該処理ユニット40は、血液を受入れるための第1の滅菌チャンバ42と、該第1のチャンバ42からデカントされた血漿及び血球成分を受入れる第2の滅菌チャンバ44とを有する。分離部材10は、当該処理ユニット40を製作する工程において第1のチャンバ42内に設置される。血液は、注射針(図示せず)を入口ポート46を介して挿入することによって、該第1のチャンバ42内に注入される。このように血液を収容した処理ユニット40は、次いで遠心分離装置(図示せず)にかけられ、これによって遠心分離操作が施され、収容血液が全血の場合は、血漿から赤血球及び血小板や白血球など他の希望する特定の血球成分が分離される。上述のように、浮動する分離部材10は、これが浮かぶ流体の密度に依存した位置を占める。図11は、遠心力の作用により赤血球の大半が分離部材10の分離部14よりも下方の(図において右側)の層48に移動した状態、すなわち遠心分離操作の丁度終期における処理ユニット40の状態を示す。この状態において、血漿は分離部材10の分離部14よりも上方の(図の左側)層50におかれ、他の希望する血球成分は該分離部材10、分離部14の丁度上方部位におかれる。
【0042】
図11に示された実施形態において、分離部材10は、次のように構成されている。すなわち、赤血球によって該分離部材の下方の周縁部分が受ける圧力に応答して傾斜し、その上方部分が該分離部材を通して空気の流通を許容し、空気を赤血球を有するチャンバ、すなわち図において右手側のチャンバに流通させる。この図11に示す動作時点において、遠心分離動作が停止するが、処理ユニット40の向きは、例えば、米国特許第6,398,972号に開示された機構によって維持される。この時点において、血漿層50にはデカント操作が開始されて第2のチャンバ44へと注ぎ移される。血漿層の上端部が分離部材10の分離部14の上端縁より下降するにつれ、いくらかの空気が、図12で示すごとく該分離部14の左側へと流れる。同時に、赤血球(RBC)の層48は、その重量によって該分離部材10を左方向へ押すようになる。これによって、該分離部材10が左方向へ移動すると、赤血球の層48の液位は低下する。これは、該層48の赤血球の容量が一定であることと、チャンバ42の底部と分離部材10の間の幅が拡大することによる。これによって、赤血球の層48は分離部材10に対して、その部材10の上端部よりも底部に、より強い力を付与するので、該分離部材10は若干、後方に、すなわち図12において時計方向に傾斜する。この傾斜により、より多くの空気が上端側で右方に流入し、その結果、該赤血球の層48が更に分離部材10を左方向へ押圧することとなる。
【0043】
図13及び14は、上述したように赤血球の層48によって分離部材10が左方向へ押されて移動する状態を示す。この移動状態で注目すべきことは、分離部材10の分離部14の底縁部54はチャンバ42の内壁に沿って移動するのであり、この内壁に沿うスクイージ作用、すなわち内壁に対して該底縁部54が摺接して押しぬぐう作用ないしふき取り効果を果すので、層50の液の第2のチャンバ44へのより良好な回収ならびにデカント操作を可能とする。
【0044】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は記載された請求の範囲内において当業者において想到し得る種々の変形例を包含するものである。
【図1(a)】
【図1(b)】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理的流体を分別するための技術に係り、特に、遠心操作によって血液や骨髄吸出物質の成分を分別する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
血液は遠心操作により一般的に各成分に分離される。これがなされるのは多くの理由があるが、その一つは、患者の治療に使用する選択された成分を得るためである。例えば、米国特許第6,398,972号(発明者:ブラセッティ)に開示のごとく、遠心操作によって血液が成分に分離されて富血小板血漿を得、これが患者の自己的治療に用いられる。このシステムにおいては、処理ユニットの1つのチャンバに全血がおかれ、血小板と血漿は第1の遠心操作による回転、すなわち遠心スピンの後、第2のチャンバにデカント操作により注ぎ移される。次いで、該処理ユニットが第2の遠心スピンに付され、これにより血漿から血小板が分離する。ここで重要なことは、血小板及びその他の必要な成分、例えば白血球が第1の遠心スピンにおいて赤血球から分離され、該赤血球が第1のチャンバ内に留まっている間にこれらが血漿とともにデカント操作されることである。
【0003】
生理的流体としての血液は該流体内に浮遊粒子を含むとともに基本的には、血漿、赤血球、血小板及び白血球ならびに他の多くのものを含んでいる。血漿の濃度ないし密度(以下、密度という)は、おおむね約1.020、血小板の密度は約1.040である。赤血球の密度は血球の年齢及び他の要因に依って1.07から1.09の間で変化する。白血球の密度は血小板と赤血球の密度ないし濃度の間にある。実際上、「層」とは純粋に1つの型の血球よりなるのでなく、その他の多くの型の血球をも含むものである。従って、1つの層の平均密度は原理的には1つの型の血球のものを指すが、ここには他の型の血球をも含んでいることは通常である。例えば、遠心操作による分離後の「血漿層」は原理的には血漿のみであるが、実際上は、血小板や赤血球などの他の血球をも含有し、これが該層内の割合に依存した量により層の平均密度を上昇させる。
【0004】
米国特許第7,077,273号に見られる他の公知のシステムにおいては、血液等の生理的流体を入れた容器内に配置した分離部材を使用することにより赤血球と上澄み液との間の分離が維持される。この生理的流体は、遠心分離の操作に付されて赤血球が第1のチャンバ内に保持される一方、血漿、血小板及び他の成分がデカント操作によって第2のチャンバに移される。この開発初期の具体例では分離部材は、赤血球と他の成分との間の予定された境界領域において第1のチャンバ内で位置が固定されていた。しかし、この構成は、血漿と赤血球との境界の実際位置が全血のヘマトクリット(すなわち、血液中の赤血球が占める割合)や遠心分離操作の時間及びG力(重力加速度)などの種々の変位置の関数であるために最適でないことが判明した。更に、該境界の実際値及び複数層の平均密度に影響を及ぼす要因が、血液成分の沈降速度にあり、これは多くの条件によって左右される。すなわち、その条件とは、例えば、血球を増大させる溶液や抗凝固剤の強さ、赤血球の年齢(古い血球は、より濃い)、血球の大きさ(大きい白血球は同じ濃度の小さい血球よりも沈降が速い)、赤血球の連銭状態及び血漿の粘度などである。
【0005】
生理的流体内で浮動するように構成された分離部材は公知であるが、該部材は、赤血球と希望する上澄み要素の間の境界位置又は、その近傍に浮かぶように構成されている。この1つの構成例が、米国特許第7,077,273号に示されたディスク形状のものである。その形状と密度により、これは赤血球とバッフィコート(白血球と血小板)の間の境界ないし境界領域(インターフェース)の丁度下方の面に位置する。しかし、この構成では、バッフィコートを含む境界領域内における赤血球層の密度に焦点がおかれている。この点ではこの構成は成功しているが、血球成分の沈降速度に影響する病気を有する広範囲の患者から得られる、例えば血小板及び/又は幹細胞などの流体から回収すべき目標の成分割合を増やすことについては未だ十分でなく、更なる改良が望まれるところであった。
【0006】
血液等の生理的流体の成分を遠心分離操作による流体力学の分析によれば、該遠心分離の間に進展する赤血球層の密度は、該赤血球の沈降速度に影響する上述した種々の要因のために正確に決定することが困難であることが判明した。赤血球層の実際の密度は、赤血球と該層内の主として血漿である他の成分との割合に依存する。従って、もし、ある特定の患者が血球成分の沈降速度を減少させる多くの状態を有する場合、赤血球層の実際の密度は、血漿が大きな部分を占めているので予想よりも小さくなるであろう。この場合、赤血球層の予想される密度をベースに設計された浮動ディスクの実際位置は予想される位置にはないであろう。
【0007】
血小板や骨髄幹細胞などの血球ないし細胞の層は、遠心分離の後、一般に極めて薄いので、分離部材の位置エラーがリカバリーレート(recovery rate)に与える影響は大である。すなわち、希望する血球ないし細胞の層厚に関係する分離部分の位置エラーは、リカバリーレートの相違を、50パーセントほど大きく結果として招く恐れがある。
【発明の概要】
【0008】
本願出願人は、赤血球層の実際の密度は、沈降速度の変化や該層内の低密度の血漿の比率のために、その予測が困難である一方において、血漿の上澄み液の密度は十分な理由をもって予測し得ることを見出した。更に、血漿層と赤血球層との間の境界における密度勾配は、赤血球層自体の密度が相当に変化するとしても、比較的急であることも見出した。赤血球層の密度は、1.05から1.8まで変化し得、血漿層の密度は1.023から1.028まで変化し得る。このことは、赤血球と血漿の両層の密度は変化するが、血漿層の密度変化は赤血球層のそれよりも小さいことを示す。
【0009】
更に、本願出願人が見出したことは、血小板、白血球、幹細胞などの成分の大半は、境界領域(インターフェース)にある薄い層内におおむね存在するとともに、赤血球層の密度がより大きな比率を占める血漿の存在のため、より低い場合でも、該境界領域の丁度下方に分散していることである。
【0010】
従って、本発明の1つの観点は、浮動する分離部材を、血小板や白血球などの血球層の密度よりも、血漿と白血球の層の間の密度の相違に依存した位置を占めるように構成することである。本発明の好ましい具体的構成において、該分離部材の平均密度は血漿のそれよりも若干大きくされ、血漿と赤血球の境界近傍において血漿内に沈むように構成される。この分離部材は、その主要構成要素として、位置付け部と、その下方に向けられた分離部とを有する。両部の間隔は、血漿−赤血球の境界部分(インターフェース)に関して、位置付け部の予定位置に対する目標とする血球ないし細胞の予定位置によって決定される。以下に述べるように、位置付け部は、肉薄が望ましいとともに該分離部材全体の質量の大半を占める。位置付け部は、その一部が血漿層内で浮かび、又、その一部が赤血球(RBC)層内で浮かぶように構成されるので、該分離部は該位置付け部の底面を基本的に構成するとともに該境界のすぐ下方に分離面を提供する。
【0011】
血小板、幹細胞及び白血球などの希望する生理的成分は血漿よりも密度が高いが、赤血球よりは低いという理由から、これら生理的成分は遠心分離の後に血漿と赤血球との間の境界領域において基本的に1つの層を形成する。しかし、実際上、これらの層間の境界は拡散した状態にあり、いくらかの赤血球が白血球層及び血小板と骨髄細胞などの他の層内に見出されるとともに、その逆の状態も呈する。このような拡散状態は、血漿と赤血球の間の層厚が該層内に存在する他の血球ないし細胞の部分に依存して変化することを意味する。従って、希望の血球ないし細胞を確実に回収するために、分離部材の分離部は血漿より下方に十分に延出するとともに希望する血球ないし細胞を含む層の主要部よりも下にある赤血球層にまで入り込むように延出しなければならない。そうすることにより、これら希望する血球や細胞の殆どを移すことができる。
【0012】
希望する血球ないし細胞の層は薄いので、分離部材の分離部の位置エラーが重大になる。この1つの解決策として、該分離部を必要以上に境界領域よりも下方に配置する方法があるが、この場合には多くの余分な赤血球もデカント操作で注ぎ移されるため、次いでなされる処理の障害となり劣悪な製品を結果として生じさせる問題がある。従って、本発明における重要な課題は回収される赤血球の数ないし量を制限しつつ所望の血球ないし細胞を確実に回収するように該分離部を境界領域より下方の位置を占めるよう制御することである。
【0013】
本発明においては、分離部材の分離部が位置付け部と連結されるとともに該位置付け部から所定の距離、離間しており、これによって該位置付け部が分離部を赤血球層内に、血漿層と赤血球層の間の境界において希望する血球ないし細胞部分を確実に回収するのに十分な距離、押し込む(プッシュ)する。これら分離部と位置付け部の両構成部は境界近傍の薄い層内にあるので、本発明においては、分離部を位置付け部の下方の固定した間隔位置に設けることができる。本発明の具体的構成において、位置付け部の質量は該分離部材全体の質量の約65%より大で、約80%程度であり、これにより位置付け部が境界領域に近接するとともに分離部を該境界領域の下方に所望の距離ないし間隔だけ押し込む(プッシュ)ことを確実になし得る。
【0014】
本発明の好ましい特徴として、該位置付け部は中央孔を有する肉薄のディスクで構成され、生理的流体を有する処理チューブ内で動く際に該中央孔を介して流体の流通を許容する。この位置付け部の周囲部分は該処理チューブの内壁に係合する構成が望ましく、これによって該分離部が傾斜することなく該チューブ内の流体中で自由に浮動することができる。好ましい具体例において、該位置付け部の周囲部分には複数の安定化用脚が設けられ、これら脚は該位置付け部の本体部分から上方に延出するとともに該チューブの内壁に対してゆるく係合し、これが該分離部を真直ぐの状態で、かつ自由な安定した浮動状態を維持するのに寄与している。これらの脚は、薄肉で細いものであるから、該分離部材の質量の多くは位置付け部の本体部分にある。
【0015】
本発明の他の特徴として、分離部材の位置付け部の厚さは小さく形成され、血漿と赤血球の両層の最大及び最小の予想される密度に関して、その縦方向位置の相違が最小化される。この特徴は、2つの流体の層の間で浮動する部材において、該浮動部材が1つの層内にある部分と他の層内にある部分との相対割合がこれらの層の相対的密度によって決定される現象を利用するものである。位置付け部と分離部とよりなり、その質量の大部分が肉薄の位置付け部にある分離部材を構成することが、境界領域(インターフェース)からの分離部の位置の縦方向の相違を最小化する。これによって、デカント操作により希望する血球ないし細胞の層の注ぎ移しが可能になるとともに、その際、一緒に移される赤血球などの他の血球ないし細胞の量を最小化できる。
【0016】
本発明の目的は、分離部材が2つの成分の間の境界領域近傍で浮かぶように構成するとともに該部材の質量(mass)の大部分が上澄み液の層内にあるように構成することである。
【0017】
本発明の他の目的は、分離部材が上澄み液と赤血球の間の境界領域の近傍で浮かぶように構成するとともに該部材の質量の大部分が上澄み液の層内に留まり、該質量の僅かな部分が赤血球の層へ延出するように構成するにある。
【0018】
本発明の更に他の目的は、生理的流体の成分の層間の境界領域に対する1つの位置を正確に占める分離部材を構成するにある。
【0019】
本発明の更に他の目的は、分離部材において上澄み液内に位置する肉薄の部分が該分離部材の質量の大部分を占めるように構成することにある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は本発明に係る処理チューブの概要側面図を示すとともに、(b)は該処理チューブに遠心分離操作を施した後における該チューブ内の生理的流体の密度状態を示す。
【図2】本発明における分離部材の好ましい第1の実施形態を示す斜視図である。
【図3】図2に示す分離部材の側面図である。
【図4】本発明における分離部材の好ましい第2の実施形態を示す斜視図である。
【図5】本発明における分離部材の好ましい第3の実施形態を示す斜視図である。
【図6】図5に示す分離部材の平面図である。
【図7】図5に示す分離部材の縦断面図である。
【図8】本発明における分離部材の好ましい第4の実施形態を示す斜視図である。
【図9】図8に示す分離部材の平面図である。
【図10】図8に示す分離部材の縦断面図である。
【図11】遠心分離操作過程において本発明における分離部材の動作を説明するための処理ユニットの縦断面図である。
【図12】図11に示す処理ユニットの、デカント操作の最初の状態にあることを表わす縦断面図である。
【図13】図11に示す処理ユニットの、デカント操作が進行した状態にあることを表わす縦断面図である。
【図14】図11に示す処理ユニットの、デカント操作の最終状態にあることを表わす縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1の(a)に示す処理チューブ2は内部に生理的流体を収容している。図において該処理チューブ2は単純な円筒状のものを示してあるが、実際には種々の形状のものがある。この実施形態においては、該処理チューブ2は、米国特許第6,398,972号に開示の使い捨て可能な2チャンバ型の処理ユニットの一方のチャンバに相当する。あるいは、該処理チューブ2は、注射器の一端から分離した成分を送出、ないしは上澄み液を他方向へ分離させるように構成された注射器の一部をなす。該処理チューブは代表的には円筒状で、その内部で一定の直径を有する円形の浮動ディスクが自由に移動し得、分離されるべき成分間の境界領域に置かれる。ただし、本発明の原理を利用した他の構成も可能である。
【0022】
図1の(a)に示す処理チューブ2内の生理的流体は、これが遠心分離操作を受けた後の状態で示されており、複数の成分がそれらの密度に応じて分離されている。例えば、該生理的流体は全血であり、これが「ソフトスピン」と称される遠心分離の回転操作に付された後、密度が小さく、より軽い富血小板血漿4が、より密度の大きく、より重い赤血球6から分離される。これらの成分の間の境界領域(インターフェース)8は、一般には明確には区画されず、ここには白血球や他の有核の血球や細胞など、他の特定の成分も含まれる。又、該生理的流体が骨髄吸出物質の場合、境界領域には幹細胞が存在するであろう。
【0023】
図1の(b)に示すグラフは、処理チューブ2の長手方向ないし高さ方向に沿って種々の成分の密度を表わす。ここには、異なる3人の患者の密度状態(プロフィール)がA、B、Cで表されている。
【0024】
図1の(b)のグラフから認められることは、富血小板血漿の密度は全ての患者について、1.023から約1.028まで変化し、他方、赤血球の密度は、約1.07から約1.09まで変化している。赤血球自体の密度変化の理由は、上述において多く議論したところであるが、沈降速度が患者によって相違し、又、所定の遠心分離条件における赤血球層の密度が該層内に残る血漿の割合に応じて変化することが理由として挙げられる。このような変化があるために境界領域(インターフェース)8における密度を予想すること、あるいは該密度や赤血球の密度に基づいて分離部材を位置付けることが極めて困難になるのであった。
【0025】
しかし、本願出願人は、該境界領域の物理的厚さは、その密度よりも変化が比較的小さいことを見出した。すなわち、希望する血球又は細胞の層が該境界領域において主としてその上端(トップ)にあり、その厚さは該処理チューブ2内の境界領域の位置よりも変化が小さいことであった。これに着目し、本願出願人は、分離部材を血漿内に沈むようにするとともに該血漿と赤血球内で浮動して該境界領域に常に十分に近接した位置を占めるように構成し、これによって、該分離部材の分離部が境界領域の所望の距離内に常にあって、デカント操作において過度に赤血球をデカント(注ぎ移し)することなく所望の成分をデカントすることを許容するように構成したものである。この分離部材の1つの具体的形態が図1の(a)に示されており、他の形態のものが図2〜5にそれぞれ示されている。
【0026】
図1の(a)には、本発明における分離部材10が示されている。この分離部材10は2つの部分よりなり、その第1の部分は位置付け部12であり、他の第2の部分は分離部14である。これら2つの部分は連結部16によって互いに連結されている。この連結部16は、これら2つの部分の間の固定した間隔ないし距離を付与する。ただし、この連結部16により両部分の間隔ないし距離を可変とする構成も可能である。位置付け部12の密度は、該位置付け部12が血漿4内に沈み、これによって分離部14が赤血球層へ押し込め(プッシュ)られるように設定される。好ましい実施形態において、位置付け部12は密度約1.047から約1.075の範囲を有するプラスチックより成り、特にその密度は約1.055のものが望ましい。そして、好ましい具体例として、該位置付け部12は、密度約1.047を有するDow666又は密度約1.055を有するRTP400により形成される。
【0027】
更に、該位置付け部12は分離部14よりもサイズが大であり、従って、該分離部14の位置は主として位置付け部12の位置により決定される。好ましくは、該位置付け部12の質量(mass)が分離部の質量の少なくとも2倍である。特に、具体例として、該位置付け部12の質量は分離部材10の全質量(total mass)の約0.8である。位置付け部12の相対質量が大きいので、分離部14は、分離部14自体の密度が赤血球のそれよりも小さいけれども該位置付け部12によって境界領域の所望部位に保持されるように観察し得る。
【0028】
位置付け部12と分離部12の間隔は、生理的流体の特性、すなわち該流体が全血か骨髄吸出物質かによって、又、両部の特定形状により、決定される。
【0029】
図2は、分離部材の好ましい実施形態を示し、この位置付け部12は、中心部に中央部20を備えておおむね環状ないし円環状の本体18を有する。この本体18の周辺より上方に向けて複数の安定化用脚22が延出する。本体18は肉薄に形成され、遠心分離操作の間に、境界領域に近接した位置をとるように構成されるのが望ましい。又、該本体18は浮動する分離部材10の質量の大部分を占めるので、その特性は生理的流体内において分離部材を位置付ける最も主要な要素である。本体18を肉薄に形成することにより、境界領域に対するその位置の相違が、上述した種々の患者より入手した生理的流体の相違と比較して小さい。これが本発明の特徴であり、以下に詳述される。
【0030】
公知の浮力分析において、浮動物体は、それが浮かぶ流体の容積であって該物体の重量と等しい流体の容積を変位させる。従って、以下の関係式が得られる。
v(sub)ρ(fluid)=v(obj)ρ(obj)
ここにおいて、
v(sub):浮動物体の流体中に沈んだ容積
ρ(fluid):物体が浮かぶ流体の密度
v(obj):浮動物体の全容積
ρ(obj):浮動物体の密度
従って、全容積に対する沈んだ容積の割合は、流体の以下の関係式のように流体の密度に対する物体の密度に比例する。
v(sub)/v(obj)=ρ(obj)/ρ(fluid)
上記の関係から、いずれの物体についても、浮動物体の沈んだ容積は、該物体が浮かぶ流体の密度の関数である。上記の理由により、流体の密度を制御し得ない本発明の場合、赤血球内に沈んだ分離部材10の容積部分は制御し得ない。
【0031】
分離部材10が血漿と赤血球内に浮かぶ状態における遠心分離の、より複雑な環境においては、以下の関係式がより正確である。
ρ(rbc)−ρ(sc)/ρ(sc)−ρ(plasma)=m(plasma)/m(rbc)
ここにおいて、
ρ(rbc):赤血球層の密度
ρ(sc):分離部材の密度
ρ(plasma):血漿層の密度
m(plasma):血漿層内における分離部材の質量
m(rbc):赤血球層内における分離部材の質量
上記関係式から前述したと同様の結論が導き出されるが、更には以下の基本的結論が導き出される。すなわち、分離部材の血漿層内の割合及び赤血球層内の割合が、分離部材及びこれら層の密度の関数である。
【0032】
境界領域における分離部材の位置は、これらの層の実際の密度を制御し得ないために、この分離部材の位置も制御し得ないが、本発明により構成された分離部材では、可能な最大位置と最小位置との間の間隔が許容可能な結果を確実に付与する。これは該分離部材の質量の大半を位置付け部におくことにより、又、該位置付け部を肉薄に形成することにより達成される。この効果は図3に示す構成により達成される。
【0033】
図3は、図2に示す分離部材の側面図であり、ここでは血漿層と赤血球層の異なる平均密度について、その位置の相違を表している。
【0034】
上記の相違は、上述した関係式に従って算出されるとともにテスト結果、殆ど正確であることが見出された。図3において、線24は、軽い第1の成分である血漿層の平均密度が1.025、第2の成分である赤血球層の平均密度が1.05及び分離部材の密度が1.047の場合の血漿と赤血球の間の境界位置を表わす。線26は、同じ分離部材及び血漿の密度の場合について、赤血球層の平均密度が1.07のときの境界位置を表わす。このように、分離部材は、赤血球層の平均密度が、約2%だけ変化して、より大きい場合に、より高く、上方で浮く。しかし、該分離部材のこれら2つの位置の縦方向の相違は、単に約0.10インチ(2.54mm)である。この構成例で示すように、分離部は位置付け部と一緒に動くように連結されており、同じ縦方向の位置の相違が分離部14に適用される。
【0035】
従って、本発明の原理により、分離部14の境界領域ないし境界位置からの縦方向に沿う相違は、約0.10インチ(2.54mm)程度である。これは、実際上経験する赤血球層の平均密度における比較的大きな変化の場合についてである。このことは、高さのエラーが例えば0.10インチ(2.54mm)よりも確実に小さくなる状態で回収すべき血球ないし細胞の層に従って、位置付け部に関して分離部を位置付けることができることを示す。この例として、分離部14上の血球流体の容量は、赤血球(RBC)の密度が1.055の場合に約4.8ccと算出され、該赤血球の密度が1.070の場合、約4.3ccと算出される。従って、その相違は約0.5ccであって、これは赤血球の密度の相違が同じ条件において分離部上の血球流体の容量の相違が約4.1ccである公知の浮動ディスクと比較して見れば極めて小さいものといえる。
【0036】
上述した本発明の実施形態において、該分離部材10は60mlの生理的流体を収容した径約1.36インチ(3.45cm)の円筒形チューブ内で浮動するように設計されている。従って、分離部14は、その直径約1.34インチ(3.40cm)が該チューブ内径よりも若干小さいので、チューブ内で自由に移動可能である。又、安定化用脚22の外端面を囲む円の径も約1.34インチ(3.4cm)であるから、これらの脚22が分離部ないし分離部材全体に必要な安定性を付与する。位置付け部12の容量は約2.56ccであり、分離部14の容量は約1.17ccである。本体18の直径は約1.12インチ(2.84cm)、中央孔20の内径は約0.24インチ(6.09mm)であり、該本体18の厚さは約0.22インチ(5.59mm)である。分離部14の厚さは約0.05インチ(1.27mm)である。
【0037】
図4は本発明に係る分離部材10の第2の実施形態を示す。ここにおいて、位置付け部12は図2で示したものと同様であるが、分離部28は波状に屈曲した周縁部30と中央部とを備えた肉薄平坦ディスクよりなり、該中央部は、上面側から見て凹状で底面側から見て凸状の半径方向に延出した谷部32と、下側から見て凹状の半径方向に延出した山部34とを一連に有する。この実施形態において該分離部28の容量は約0.96ccである。
【0038】
図4に示す分離部材10の主な利点は、該分離部28の波状に屈曲した形状により、遠心分離操作の際に、その屈曲部分を通して、血球及び空気の通過が容易になされることである。該チューブ2内には、通常、血液が加えられる前に空気が入っているので、遠心分離操作の前に分離部材の下方に捕捉されていた空気が遠心分離操作の間に上方に流出する恐れがある。この場合、分離部28の谷部32は、上方に流れる空気を集める傾向を示し、又、漏斗の効果(funneling effect)により該分離部14を通して、より重い血球を下方に流出させる。更に、該分離部14の波状の周縁部30は、デカント操作の間、チューブの側面に付着するだけの厚みを有する。そして、後述のごとく、デカント操作の間、赤血球により該チューブに沿って分離部材10が押されるにつれて該周縁部30が該チューブの内壁面ないし側面に対してふき取り効果を発揮する。
【0039】
図5〜7は、本発明の他の実施形態を示し、ここにおいては位置付け部12と分離部14の間隔が実質的にゼロに縮小されている。分離部は位置付け部の底部と同一の空間に延出しているが、その他の構成は前に述べた実施形態のものと同様である。
【0040】
図8〜10は、図5のものに類似した態様の本発明の更なる他の実施形態を示し、ここにおいては、分離部の質量分布について、その大半の質量が位置付け部にある対物レンズ状の形状である。この形状において、内壁36は外壁38に向かってテーパ状を呈し、従って側壁の厚さは、上端に向かって薄くなって、これが他の実施形態で示した安定化用脚22のもつ安定化機能を果たす。このように、外壁38は円筒状をなし、他方、内壁36は円錐形状をなす。この実施形態において、底部に向かって質量は線型(リニア)状に増大する。しかし、この増大を非線型(ノンリニア)として薄い領域において均一な割合で増大する質量を配置するようにもできる。
【0041】
図11〜14は、血漿及び希望する血球成分をデカント操作する効率を上げるために分離部材10がスクイージ(squeegee)として作用する構成の本発明の特徴を示す。図11は使用中の処理ユニット40を示し、該処理ユニット40は図5に示すような分離部材10を有する。該処理ユニット40は、血液を受入れるための第1の滅菌チャンバ42と、該第1のチャンバ42からデカントされた血漿及び血球成分を受入れる第2の滅菌チャンバ44とを有する。分離部材10は、当該処理ユニット40を製作する工程において第1のチャンバ42内に設置される。血液は、注射針(図示せず)を入口ポート46を介して挿入することによって、該第1のチャンバ42内に注入される。このように血液を収容した処理ユニット40は、次いで遠心分離装置(図示せず)にかけられ、これによって遠心分離操作が施され、収容血液が全血の場合は、血漿から赤血球及び血小板や白血球など他の希望する特定の血球成分が分離される。上述のように、浮動する分離部材10は、これが浮かぶ流体の密度に依存した位置を占める。図11は、遠心力の作用により赤血球の大半が分離部材10の分離部14よりも下方の(図において右側)の層48に移動した状態、すなわち遠心分離操作の丁度終期における処理ユニット40の状態を示す。この状態において、血漿は分離部材10の分離部14よりも上方の(図の左側)層50におかれ、他の希望する血球成分は該分離部材10、分離部14の丁度上方部位におかれる。
【0042】
図11に示された実施形態において、分離部材10は、次のように構成されている。すなわち、赤血球によって該分離部材の下方の周縁部分が受ける圧力に応答して傾斜し、その上方部分が該分離部材を通して空気の流通を許容し、空気を赤血球を有するチャンバ、すなわち図において右手側のチャンバに流通させる。この図11に示す動作時点において、遠心分離動作が停止するが、処理ユニット40の向きは、例えば、米国特許第6,398,972号に開示された機構によって維持される。この時点において、血漿層50にはデカント操作が開始されて第2のチャンバ44へと注ぎ移される。血漿層の上端部が分離部材10の分離部14の上端縁より下降するにつれ、いくらかの空気が、図12で示すごとく該分離部14の左側へと流れる。同時に、赤血球(RBC)の層48は、その重量によって該分離部材10を左方向へ押すようになる。これによって、該分離部材10が左方向へ移動すると、赤血球の層48の液位は低下する。これは、該層48の赤血球の容量が一定であることと、チャンバ42の底部と分離部材10の間の幅が拡大することによる。これによって、赤血球の層48は分離部材10に対して、その部材10の上端部よりも底部に、より強い力を付与するので、該分離部材10は若干、後方に、すなわち図12において時計方向に傾斜する。この傾斜により、より多くの空気が上端側で右方に流入し、その結果、該赤血球の層48が更に分離部材10を左方向へ押圧することとなる。
【0043】
図13及び14は、上述したように赤血球の層48によって分離部材10が左方向へ押されて移動する状態を示す。この移動状態で注目すべきことは、分離部材10の分離部14の底縁部54はチャンバ42の内壁に沿って移動するのであり、この内壁に沿うスクイージ作用、すなわち内壁に対して該底縁部54が摺接して押しぬぐう作用ないしふき取り効果を果すので、層50の液の第2のチャンバ44へのより良好な回収ならびにデカント操作を可能とする。
【0044】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は記載された請求の範囲内において当業者において想到し得る種々の変形例を包含するものである。
【図1(a)】
【図1(b)】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理的流体の成分を分離するための部材であって、
前記生理的流体の内のより軽い第1の成分内で浮かぶように構成された第1部分と、該第1部分から所定距離だけ離間するとともに該生理的流体の内のより密度が大きい第2の成分内で浮かぶように構成された第2部分とより成り、前記第1部分の質量は、当該部材の全質量の少なくとも約65%であることを特徴とする部材。
【請求項2】
前記第1部分の質量は、当該部材の全質量の65%から80%の範囲にある請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記第1部分の質量は、当該部材の全質量の約68%である請求項2に記載の部材。
【請求項4】
前記第1部分は、肉薄ディスクよりなるとともに当該部材が処理チューブ内で浮かぶときに安定性を付与する複数の安定化用脚を備えてなる請求項1に記載の部材。
【請求項5】
前記第2部分は、肉薄平坦ディスクよりなる請求項4に記載の部材。
【請求項6】
前記第2部分は、一連の半径方向に延出した山部と谷部とを形成した肉薄ディスクよりなる請求項4に記載の部材。
【請求項7】
前記第2部分は、一連の半径方向に延出した山部と谷部とを形成した肉薄ディスクよりなる請求項1に記載の部材。
【請求項8】
前記第1部分及び第2部分は、連結されてなる請求項1に記載の部材。
【請求項9】
前記第1部分は、当該部材が処理チューブ内で浮かぶときに安定性を付与する複数の安定化用脚を周辺に備えてなる請求項8に記載の部材。
【請求項10】
前記第1部分は、外壁と該外壁に向かってテーパ状をなす内壁を有する請求項8を記載する部材。
【請求項11】
前記外壁は円筒状を呈し、前記内壁は円錐形状を呈してなる請求項10に記載の部材。
【請求項12】
前記第1部分及び第2部分は、前記軽い第1の成分の密度が一定であり、前記第2の成分の密度が約2%だけ変化するとき、該第1及び第2の成分の間の境界領域に対する当該部材の位置の相違が約0.10インチ(2.54mm)より小さいように構成されてなる請求項1に記載の部材。
【請求項13】
前記生理的流体は血液であり、前記第2の成分は赤血球を含んでなる請求項1に記載の部材。
【請求項14】
前記第1の成分は血小板を含んでなる請求項13に記載の部材。
【請求項15】
前記生理的流体は骨髄吸出物質であり、前記第2の成分は赤血球を含んでなる請求項1に記載の部材。
【請求項16】
前記第1の成分は幹細胞を含んでなる請求項15に記載の部材。
【請求項17】
遠心分離操作によって上澄み液を分離する方法であって、
チューブ状のチャンバを用意し、
該チャンバ内に分離部材を配置し、
前記分離部材が遠心分離操作の間に生理的流体内で浮かぶことができるとともに、該流体内で、上澄み液と、それより重い成分との間の境界領域に対する所定の位置を占め、
前記生理的流体を前記チャンバに加え、
該チャンバ及び生理的流体に遠心分離操作を施し、
前記上澄み液をデカント操作で注ぎ移し、
前記分離部材が該デカント操作の間に当該より重い成分との係合によって前記上澄み液に向かって該チャンバに沿う移動が許容されてなること、よりなる方法。
【請求項18】
前記より重い成分は赤血球を含んでなる請求項17に記載の方法。
【請求項1】
生理的流体の成分を分離するための部材であって、
前記生理的流体の内のより軽い第1の成分内で浮かぶように構成された第1部分と、該第1部分から所定距離だけ離間するとともに該生理的流体の内のより密度が大きい第2の成分内で浮かぶように構成された第2部分とより成り、前記第1部分の質量は、当該部材の全質量の少なくとも約65%であることを特徴とする部材。
【請求項2】
前記第1部分の質量は、当該部材の全質量の65%から80%の範囲にある請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記第1部分の質量は、当該部材の全質量の約68%である請求項2に記載の部材。
【請求項4】
前記第1部分は、肉薄ディスクよりなるとともに当該部材が処理チューブ内で浮かぶときに安定性を付与する複数の安定化用脚を備えてなる請求項1に記載の部材。
【請求項5】
前記第2部分は、肉薄平坦ディスクよりなる請求項4に記載の部材。
【請求項6】
前記第2部分は、一連の半径方向に延出した山部と谷部とを形成した肉薄ディスクよりなる請求項4に記載の部材。
【請求項7】
前記第2部分は、一連の半径方向に延出した山部と谷部とを形成した肉薄ディスクよりなる請求項1に記載の部材。
【請求項8】
前記第1部分及び第2部分は、連結されてなる請求項1に記載の部材。
【請求項9】
前記第1部分は、当該部材が処理チューブ内で浮かぶときに安定性を付与する複数の安定化用脚を周辺に備えてなる請求項8に記載の部材。
【請求項10】
前記第1部分は、外壁と該外壁に向かってテーパ状をなす内壁を有する請求項8を記載する部材。
【請求項11】
前記外壁は円筒状を呈し、前記内壁は円錐形状を呈してなる請求項10に記載の部材。
【請求項12】
前記第1部分及び第2部分は、前記軽い第1の成分の密度が一定であり、前記第2の成分の密度が約2%だけ変化するとき、該第1及び第2の成分の間の境界領域に対する当該部材の位置の相違が約0.10インチ(2.54mm)より小さいように構成されてなる請求項1に記載の部材。
【請求項13】
前記生理的流体は血液であり、前記第2の成分は赤血球を含んでなる請求項1に記載の部材。
【請求項14】
前記第1の成分は血小板を含んでなる請求項13に記載の部材。
【請求項15】
前記生理的流体は骨髄吸出物質であり、前記第2の成分は赤血球を含んでなる請求項1に記載の部材。
【請求項16】
前記第1の成分は幹細胞を含んでなる請求項15に記載の部材。
【請求項17】
遠心分離操作によって上澄み液を分離する方法であって、
チューブ状のチャンバを用意し、
該チャンバ内に分離部材を配置し、
前記分離部材が遠心分離操作の間に生理的流体内で浮かぶことができるとともに、該流体内で、上澄み液と、それより重い成分との間の境界領域に対する所定の位置を占め、
前記生理的流体を前記チャンバに加え、
該チャンバ及び生理的流体に遠心分離操作を施し、
前記上澄み液をデカント操作で注ぎ移し、
前記分離部材が該デカント操作の間に当該より重い成分との係合によって前記上澄み液に向かって該チャンバに沿う移動が許容されてなること、よりなる方法。
【請求項18】
前記より重い成分は赤血球を含んでなる請求項17に記載の方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2011−506928(P2011−506928A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536948(P2010−536948)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/013481
【国際公開番号】WO2009/073232
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(500172782)ハーベスト・テクノロジーズ・コーポレイション (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/013481
【国際公開番号】WO2009/073232
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(500172782)ハーベスト・テクノロジーズ・コーポレイション (5)
【Fターム(参考)】
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