説明

血液特性解析システム

【課題】生体内に近い状態での血液特性の計測を行う。
【解決手段】血液特性を計測する血液特性解析システム1であって、血液が通過する少なくとも1つの流路26を有するマイクロチップ2と、流路26の内部領域B、入口領域A、及び出口領域Cの少なくとも1つの領域における血液の流れを撮影するTVカメラ3と、TVカメラ3による血流画像を解析して血液特性を算出可能な演算処理部70と、流路26の上流側と下流側とにおける血液の圧力差ΔPを、所定の周期T又は変動的な周期T’で変化させることが可能な血流制御部9と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液特性解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康に対する関心の高まりとともに、健康のバロメータとして血液の流動性が注目されるようになっている。この血液の流動性はサラサラ度などとも称され、流動性が高くサラサラであるほど健康であることを意味している。
【0003】
この血液の流動性を調べる方法としては、圧力差を付与することでマイクロチップ内の微細な流路に血液を通過させ、通過に要する時間を計測する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、マイクロチップ上板の透明ガラスを介してカメラでマイクロチップ通過時の血球を観察することにより、血液の流動性を視覚的に捉えることが可能となっている。また、この特許文献1に記載の技術以外にも、同様の装置で撮影した血流画像を解析することにより、流動性を含む様々な血液特性を計測する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
ところで、本来、生体内の血管は常に脈動しており、血管内の血液にはこの脈動による変動的なストレスが加わっている。
【特許文献1】特許第2685544号公報
【特許文献2】特開2006−145345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載の技術では、流路を通過する血液に付与される圧力差が常に一定であったために、生体内の血管の脈動を十分に模擬できていなかった。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、従来に比べ、生体内に近い状態での血液特性の計測を行うことができる血液特性解析システムの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
血液特性を計測する血液特性解析システムであって、
血液が通過する少なくとも1つの流路を有するマイクロチップと、
前記流路の内部領域、入口領域、及び出口領域の少なくとも1つの領域における血液の流れを撮影する撮影手段と、
前記撮影手段による血流画像を解析して血液特性を算出可能な解析手段と、
前記流路の上流側と下流側とにおける血液の圧力差を、所定の周期又は変動的な周期で変化させることが可能な圧力制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の血液特性解析システムであって、
前記圧力制御手段は、前記流路の断面積を変化させることにより、当該流路の上流側と下流側とにおける血液の圧力差を変化させることが可能であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の血液特性解析システムであって、
前記圧力制御手段は、前記流路の上流側と下流側とにおける血液の圧力差を、加圧及び/又は減圧により生じさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、血液が通過する流路の上流側と下流側とにおける当該血液の圧力差を、所定の周期又は変動的な周期で変化させることが可能であるので、生体内の血管の脈動を模擬して血液特性の計測を行うことができる。したがって、流路を通過する血液に付与される圧力差が一定であった従来の計測に比べ、生体内に近い状態での血液特性の計測を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
図1は、本実施の形態における血液特性解析システム1の全体構成を示すブロック図である。
【0012】
この図に示すように、血液特性解析システム1は、血液を供給槽10からマイクロチップ(フィルタ)2に通して排出槽11へ導き、その過程で取得される情報から複数種類の血液特性を計測するものである。
【0013】
具体的には、血液特性解析システム1は、主に、マイクロチップ2と、マイクロチップ2内の血液の流れを撮影するTVカメラ3と、TVカメラ3で撮影された血流画像に基づいて血液特性を計測するパソコン7と、血流画像を表示するディスプレイ8と、マイクロチップ2内の血流を制御する血流制御部9とを備えている。なお、本実施の形態における血液特性解析システム1には、生理食塩水や生理活性物質などの液体を血液と混合してマイクロチップ2に導けるよう、ミクサー12を介して流路に連結された複数の溶液びん13等が更に具備されている。そして、生理食塩水や生理活性物質などの液体と混合した血液(以下、血液という)は、血流制御部9内の差圧制御部91が加圧ポンプ15及び減圧ポンプ16を制御してマイクロチップ2前後の差圧を調整することにより、マイクロチップ2内を所望量だけ流れるようになっている。また、上述の血流制御部9やミクサー12の他,供給槽10のバルブ10a等は、シーケンス制御部17によって統合制御されている。
【0014】
図2(a)(b)(c)は、図1に示されたマイクロチップ2を図示したものである。図2(a)はマイクロチップを上面から見た図(平面図)であり、図2(b)は側面図、図2(c)はマイクロチップの一部を拡大した部分拡大図である。
マイクロチップ2は、図2に示すように、矩形状のガラス平板20及びベース板21を重ね合わせて形成されている。
ガラス平板20は、平板状に形成されており、ベース板21の内側面(図2(b)では上側の面)を覆っている。
【0015】
ベース板21は、両端部に窪み部210,211を、これら窪み部210,211の間に複数の溝部212,…を有している。
【0016】
このうち、窪み部210は、供給槽10と連通する貫通口210aを底面に有しており、血液を貯留する上流側貯留部22をガラス平板20との間に形成している。
同様に、窪み部211は、排出槽11と連通する貫通口211aを底面に有しており、血液を貯留する下流側貯留部23をガラス平板20との間に形成している。
【0017】
また、複数の溝部212,…は、窪み部210と窪み部211とを結ぶ方向(図中のX方向)に対して平行に延在するよう配設され、上述のX方向に延在するテラス部213によって仕切られた状態となっている。これら複数の溝部212,…は、互い違いに窪み部210、または窪み部211に連通しており、これにより、上流側貯留部22から血液を流入させる上流側血液回路24と、下流側貯留部23に血液を流入させる下流側血液回路25とを、ガラス平板20との間に形成している。
【0018】
図3(a)(b)は、マイクロチップ2の流路を説明するための図であり、図3(a)(b)ともに、上側の図は、テラス部213を上から見た平面図であり、下側の図は、図3(a)(b)を側面から見た断面図である。
テラス部213の上端部には、図2(c)や図3(a)(b)に示すように、六角形状の土手部214がX方向に複数配列されており、頂面でガラス平板20に当接している。
【0019】
これら複数の土手部214,…は互いとの間にゲート215を形成しており、このゲート215は、X方向の直交方向(以下、Y方向とする)に血液を流す微細な流路26を、ガラス平板20との間に形成している。つまり、この流路26は、表面に微細な溝としてのゲート215を有するベース板21と、このベース板21の表面に当接する平面部を有するガラス平板20とを接合することによって、これらゲート215及び平面部で形成される空間となっている。なお、特に限定はされないが、図2の仮想線A−A,B−Bに示す位置で流路26や上流側血液回路24,下流側血液回路25を切断した場合に、流路26は上流側血液回路24や下流側血液回路25の内部よりも断面積が狭くなっている。より詳細には、流路26の断面形状は赤血球の形状(真ん中が窪んだ円盤形状であり、断面が扁平な楕円形状)に合わせて扁平な長方形をなしており、この流路26の断面のサイズは赤血球のサイズより小さくなっている。これにより、毛細血管などの細い血管を赤血球が自身の形状を変形させながら通過していく状態が観察でき、また、血管中での血液のさらさら度を模擬的に再現することができる。
【0020】
図4はマイクロチップ2の可動部を説明するための図である。
土手部214は、図4に示すように、X方向に移動可能な可動部214a、及びベース板21と一体に形成された静止部214bから形成されている。可動部214aは、流路26を形成するY方向に平行な流路壁のうち、Y方向中央の流路壁部分26aを含んで方形状に形成され、アクチュエータ27によりX方向へ所定範囲だけ移動可能になっている。この可動部214aの移動により、流路26の一部分の断面積を任意に変化させることができる。
なお、可動部214aは、上記構成に限定されず、流路26の少なくとも一部分における流路壁を含んでX方向へ移動可能に構成されていればよく、更には、流路26の断面形状を変化させる構成であってもよい。この断面形状を変化させる構成としては、例えば、流路壁部分26aの上端をX方向へ傾かせるものや、形状記憶材等の使用により流路壁部分26aを湾曲させるもの等が可能である。また、可動部214a、静止部214b、及びアクチュエータ27は、図示の簡略化のため、図2及び図3では図示を省略している。
【0021】
可動部214aを駆動するアクチュエータ27は、可動部214aに対応してベース板21内にそれぞれ埋設されており、後述の駆動制御部92と接続されて駆動制御されるようになっている(図1参照)。このアクチュエータ27は、特に限定はされないが、圧電アクチュエータ又は圧電超音波リニアアクチュエータである。このようなアクチュエータ27としては、例えば特開平7−298656号公報、特開2006−66976号公報、又は特開2007−57581号公報に開示のもの等を用いることができる。
【0022】
以上のマイクロチップ2の構造をふまえ、図1にもどり、本願実施例の説明を行う。供給槽10から導入された血液は上流側貯留部22で貯留され、上流側血液回路24から流路26、下流側血液回路25を通過した後、下流側貯留部23に貯留されて排出槽11から排出されることとなる。(より詳細には、図3に示すように、流路26を流れる血液中の血球、例えば赤血球は、まずゲート215上流の入口領域Aを通った後、ゲート215の内部領域Bを変形しながら通過し、最後にゲート215下流の出口領域Cを通過することとなる。)
【0023】
なお、このマイクロチップ2の前後には、圧力センサE1,E2が設けられており、この圧力センサE1,E2は、計測したチップ上流圧力P1,チップ下流圧力P2を血流制御部9へ出力するようになっている(図1参照)。但し、これら圧力センサE1,E2は、マイクロチップ2の入口,出口近傍での血液の圧力を計測できればよく、例えばマイクロチップ2の前後にそれぞれ圧力調整容器を設けて、この各容器内の圧力を計測するようにしてもよい。
【0024】
TVカメラ3は、例えばデジタルCCDカメラであり、血液の流れを撮影するための高速カメラあるいは、動画が撮影可能なカメラなどが用いられる。このTVカメラ3は、マイクロチップ2におけるガラス平板20に対向して設置され、流路26を通過する血液の流れをガラス平板20越しに撮影する。その撮影範囲は、複数のゲート215における入口領域A〜出口領域Cを含む範囲となっている。但し、この撮影範囲は、図2、図3で示されている各ゲート215における入口領域A、内部領域B、出口領域Cのうちの少なくとも1つの領域を含む範囲であればよい。TVカメラ3によって得られた血流画像は、パソコン7に出力されるとともに、ディスプレイ8に表示されるようになっている。
【0025】
パソコン7は、TVカメラ3と接続されており、当該TVカメラ3が出力した画像情報から複数種類の血液特性をそれぞれ算出可能な演算処理部70を備えている。なお、血液特性とは、血液の性状等を示す種々の特性値であり、血液の圧力や速度等の他、血液の凝集能といった流動性に関するものを含む。凝集能とは、血球が滞留して集塊状に結合する凝集現象の発生しやすさを表す定量値であり、滞留した血球からなる血球滞留部に含まれる各血球種の面積、個数、面積割合、又は個数割合などで表される。このような演算処理部70としては、従来より公知のものを用いることができる。
【0026】
ディスプレイ8は、パソコン7と接続されており、TVカメラ3が出力した撮影画像や、パソコン7によって算出された血液特性を表示するようになっている。
【0027】
血流制御部9は、マイクロチップ2前後の差圧を制御する差圧制御部91と、アクチュエータ27の駆動を制御する駆動制御部92とを備え、シーケンス制御部17からの制御指令に応じてこれら差圧制御部91及び駆動制御部92が所定の制御を行うようになっている。なお、血流制御部9及びシーケンス制御部17をパソコン7と一体に構成し、このパソコン7が前記所定の制御を行うようにしてもよい。
【0028】
差圧制御部91は、チップ上流圧力P1及びチップ下流圧力P2が所定の圧力となるように、マイクロチップ2上流の加圧ポンプ15とマイクロチップ2下流の減圧ポンプ16とをそれぞれ制御する。
駆動制御部92は、マイクロチップ2の流路26において、対向する流路壁部分26a間の距離w(図4参照)が所定値となるように、アクチュエータ27の駆動を制御する。
【0029】
図1を主に用いて、以下に、血液特性を計測する際の血液特性解析システム1の動作について説明する。
【0030】
まずマイクロチップ2へ血液を流しつつ、図4に示されるマイクロチップ2内の流路26内の血流をTVカメラ3で撮影する。より詳細には、シーケンス制御部17が供給槽10へ計測対象の血液を注入させつつ、必要に応じて溶液びん13へ生理食塩水等を加えさせる。そして、シーケンス制御部17が差圧制御部91を介して加圧ポンプ15及び減圧ポンプ16を制御することによりマイクロチップ2に所定の差圧を作用させて当該マイクロチップ2に血液を流す一方、TVカメラ3が流路26内の血流を撮影する。
【0031】
この際、図4に示されるマイクロチップ2内の流路壁部分26a間の距離wは、駆動制御部92により所定の周期で反復変動するように設定されている。こうして流路26の断面積を変化させることにより、図5(a)に示すように、チップ上流圧力P1とチップ下流圧力P2との差、つまり流路26の上流側と下流側とにおける血液の圧力差ΔPを所定の周期Tで変化させることができる。このときの所定の周期Tとしては、例えば現代人の安静時における平均脈拍数65回/分を模擬した値(60/65≒0.92sec)とすればよいが、この値に限定されず、年齢・性別・健康状態等に応じた値に適宜設定することができる。また、血液の圧力差ΔPは、流路26を流れる血液の速度が0.1〜30mm/secの範囲内となるよう制御される。これは主にTVカメラ3の撮影能力に依存する条件であり、例えばTVカメラ3がフレームレート1000fps以上の高速カメラであれば、血液の速度が10〜30mm/secであってもよい。
【0032】
また、このように周期的に変化する圧力差ΔPは、加圧ポンプ15及び/又は減圧ポンプ16によってチップ上流圧力P1及び/又はチップ下流圧力P2を加圧及び/又は減圧することで生じさせてもよい。更には、これら加圧ポンプ15及び/又は減圧ポンプ16の駆動と、上記した流路壁部分26a間の距離wの変動とを組み合わせてもよい。wの値としては、赤血球の血球径(約8μm)より小さい値であればよく、最も小さい値は、血管が詰まった状態を示す、w=0である。
【0033】
なお、圧力差ΔPの周期は、所定の値に限定されず、図5(b)に示すように、変動的な周期T´としてもよい。この図は時間の経過とともに短くなる周期を示しているが、例えば時間の経過とともに長くなる周期でもよいし、ランダムに変化する周期でもよい。
【0034】
次に、パソコン7が撮影画像を画像処理することによって血液特性を算出した後、算出結果や撮影画像そのものをディスプレイ8に表示させる。
【0035】
以上のように、本実施の形態における血液特性解析システム1によれば、流路26の上流側と下流側とにおける血液の圧力差ΔPを所定の周期T又は変動的な周期T’で変化させることができるので、生体内の血管の脈動を模擬して血液特性の計測を行うことができる。したがって、流路を通過する血液に付与される圧力差が一定であった従来の計測に比べ、生体内に近い状態での血液特性の計測を行うことができる。
【0036】
なお、上記実施の形態においては、圧力差ΔPを付与することで流路26に血液を通過させているが、当該流路26を通過させる血液の量が制御可能であれば、血液に圧力差ΔPを付与しなくとも、例えば電気泳動を利用した方法を用いてもよい。
【0037】
また、その他の点についても、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、適宜変更可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る血液特性解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】マイクロチップを示す図であり、(a)は平面図、(b)は分解側面図、(c)は(a)の部分拡大図である。
【図3】マイクロチップの流路を説明するための図であり、上側の図は平面図、下側の図は側面図である。
【図4】マイクロチップの流路の可動部を説明するための図である。
【図5】流路の上流側と下流側とにおける血液の圧力差を示す図であり、(a)は所定の周期で変化している図であり、(b)変動的な周期で変化している図である。
【符号の説明】
【0039】
1 血液特性解析システム
2 マイクロチップ
3 TVカメラ(撮影手段)
9 血流制御部(圧力制御手段)
26 流路
70 演算処理部(解析手段)
A 入口領域
B 内部領域
C 出口領域
T、T’ 周期
ΔP 圧力差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液特性を計測する血液特性解析システムであって、
血液が通過する少なくとも1つの流路を有するマイクロチップと、
前記流路の内部領域、入口領域、及び出口領域の少なくとも1つの領域における血液の流れを撮影する撮影手段と、
前記撮影手段による血流画像を解析して血液特性を算出可能な解析手段と、
前記流路の上流側と下流側とにおける血液の圧力差を、所定の周期又は変動的な周期で変化させることが可能な圧力制御手段と、
を備えることを特徴とする血液特性解析システム。
【請求項2】
前記圧力制御手段は、前記流路の断面積を変化させることにより、当該流路の上流側と下流側とにおける血液の圧力差を変化させることが可能であることを特徴とする請求項1に記載の血液特性解析システム。
【請求項3】
前記圧力制御手段は、前記流路の上流側と下流側とにおける血液の圧力差を、加圧及び/又は減圧により生じさせることを特徴とする請求項1又は2に記載の血液特性解析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−66041(P2010−66041A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230651(P2008−230651)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】