説明

血清アルブミンを含まない、安定なヒトエリスロポエチン水溶液

本発明は、血清アルブミンを含まない、長期間に及ぶ保存安定性を有するヒトエリスロポエチン水性処方物を提供する。前記処方物は、薬学的に有効な量のヒトエリスロポエチン;安定剤としての、非イオン性界面活性剤、多価アルコール、中性アミノ酸および糖アルコール;等張化剤;並びに緩衝剤を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清アルブミンを含まない、長期間に及ぶ保存安定性を有するヒトエリスロポエチンの水性処方物(aqueous formulation)に関する。より具体的には、本発明は、薬学的に有効な量のヒトエリスロポエチン;安定剤としての、非イオン性界面活性剤、多価アルコール、中性アミノ酸および糖アルコール;等張化剤;並びに緩衝剤を含んでなる処方物に関する。
【背景技術】
【0002】
エリスロポエチン(EPO)は、赤芽球前駆細胞の分化を刺激することにより、骨髄における赤血球の産生を誘起する糖タンパク質である。EPOは、165個のアミノ酸からなる。1977年にMijakeが人尿からエリスロポエチンを精製した後、これを遺伝子工学技術により大量に製造することが可能になっている。エリスロポエチンは、慢性腎不全に伴う貧血や、いくつかの原因による種々の貧血の治療において、またある種の外科処置の際に用いるとき、造血を種々効果的に誘起することができることが見出されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3および特許文献1)。このためエリスロポエチンは長い間、種々の適応疾患(indications of diseases)において、医薬品として用いられてきた。しかし、他のタンパク質医薬品と同様、エリスロポエチンもまた、その使用において有効であるよう、安定性の喪失により生じる変成を避けるため、注意深く調製すべきものである。
【0003】
タンパク質は一般に半減期が短く、極端な温度、水と空気の界面、高い圧力、物理的および機械的応力、有機溶媒、微生物混入等に接すると、単量体の凝集、凝集による沈殿、アンプル壁への吸着等の変成が容易に起こる。変成タンパク質は本来の生理的特性や生理活性を失っており、またタンパク質の変成は一般に不可逆的である。従ってタンパク質は、一度変成してしまうと本来の特性を回復することができない。特に、エリスロポエチンのような、1回に数μgという少量を投与するタンパク質の場合、安定性の喪失によりアンプル壁に吸着してしまうと、それに伴う損失は比較的顕著である。その上、そのようにして吸着したタンパク質は、変成工程を経由して容易に凝集し、また変成タンパク質を投与すると、自然に産生されるタンパク質として、その変成タンパク質に対して体内に形成される抗体を生じさせる。よってタンパク質は、実質的に安定な形態で投与すべきものである。このため、水溶液中におけるタンパク質変成を妨げる種々の方法が検討されてきた(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7および非特許文献8)。
【0004】
ある種のタンパク質処方物では、凍結乾燥法により変成を解決した。しかし、注射前に再構築を要し、また処理に大容量の凍結乾燥機を要するため多額の投資が必要となるので、凍結乾燥タンパク質は不便である。噴霧乾燥技術を用いて粉末状のタンパク質を形成する方法も用いられるが、収率が低いことにより経済的有効性が低下し、また高温への暴露により、工程中にタンパク質変成を生じる恐れがあるという点で不利がある。
【0005】
上記の方法の制限を解決するための別の方法として、水性タンパク質溶液に安定剤を添加してタンパク質の安定性を向上する方法がある。タンパク質安定剤としては、界面活性剤、血清アルブミン、多糖、アミノ酸、高分子および塩が知られている(非特許文献4、非特許文献5および非特許文献6)。しかし、適切な安定剤は、各々のタンパク質の生理化学的特徴に従って選択すべきものである。さもないと、例えば、安定剤をある組み合わせで用いた際に、競合的な反応や副反応が起こって、意図する効果とは異なる負の効果がもたらされる可能性がある。その上、各安定剤には適切な濃度範囲が存在するので、水性タンパク質の安定化には非常に努力と注意を要する(非特許文献6)。
【0006】
水性タンパク質処方物の安定剤としては、タンパク質安定剤のうち、血清アルブミンおよびゼラチン(ヒトまたは動物由来)が一般に用いられ、また有効であることが明らかになっている。しかし、ヒト由来血清アルブミンにはウィルス混入の危険があり、ゼラチンおよびウシ血清アルブミンは、「伝染性海綿状脳症」等の疾患を伝染させたり、ある種の患者に対しアレルギーを誘起したりする恐れがある。このため欧州では、ヒトまたは動物起源の物質を、医薬添加物として用いることが制限されつつある(非特許文献9および非特許文献10)。従って、ヒトまたは動物由来の血清アルブミンを用いることなく、安定なタンパク質処方物を処方する方法を開発し、血清アルブミンを含む現存のエリスロポエチン処方物の問題を解決することが必要である。
【0007】
特許文献2には、タンパク質のアンプル壁への付着を阻害する薬物として、ヒト/ウシ血清アルブミン、レシチン、デキストランおよびセルロースを添加することが開示されている。この特許によれば、エリスロポエチンの回収率は、20℃、約2時間の保存後において、そのような添加をしない場合のわずか16%に比べ、69〜98%と良好である。しかしこれには、吸着による損失が顕著なものとなりうるという問題がある。
【0008】
特許文献3には、エリスロポエチンの安定剤としてポリエチレングリコール、タンパク質、糖質、アミノ酸、有機塩および無機塩を用いる、エリスロポエチンの凍結乾燥処方物および水性処方物が開示されている。この特許によれば、25℃、約7日間の保存後において、凍結乾燥処方物の回収率レベルは87〜98%と高いが、水性処方物の回収率レベルはわずかに60〜70%と低く、従って水性処方物は比較的安定性が低い。
【0009】
特許文献4には、吸着阻害剤としての0.5〜5g/Lの非イオン性界面活性剤、並びに安定剤としての、5〜50g/Lの尿素および5〜25g/Lのアミノ酸を用いる、エリスロポエチンの水性処方物および凍結乾燥処方物が開示されている。しかしこの特許には、水性処方物は、ヒト血清アルブミンを含む処方物に比べ安定性が限られており、また凍結乾燥処方物は、十分な活性を維持するために再構成を必要とするという問題がある。
【0010】
特許文献5には、βまたはγ−シクロデキストリンを含むが、他の付加的な医薬賦形剤を含まない、エリスロポエチンの水性処方物、凍結乾燥処方物および噴霧乾燥粉末処方物が開示されている。しかし、シクロデキストリンの腎毒性のため、これを用いる処方物は現実的でない。
【0011】
特許文献6には、ベンジルアルコール、パラベン類、フェノールおよびそれらの混合物を含むエリスロポエチンの処方物が開示されている。また、その安定性を、エリスロポエチンのヒト血清アルブミン含有処方物と比較して示す実験が開示されている。しかし、この特許の処方物は、定温においてさえも、低い安定性を示し、またエリスロポエチンの顕著な沈殿が見られる。
【0012】
特許文献7には、溶液のpHを約5.5〜約7.0に維持するための、薬学的に許容される緩衝液中、エリスロポエチンと、多価無機陰イオンからなる水性処方物が開示されている。この出願は、種々の処方物中で、EPOおよびPEG化EPOを種々の温度で6ヶ月間保存した後、シアル酸含量および各EPOの標準的な生物活性を測定する比較実験を提示している。しかし、EPO単量体の量を測定していなかったので、EPO単量体の回収率(%)を正確に決定することができない。
【0013】
従って、長期にわたる保存安定性を有する新規な水性処方物を、動物由来のタンパク質成分(例えば血清アルブミン)を用いずに提供することが望まれている。
【0014】
【特許文献1】国際出願公開公報第WO85/02610号明細書
【特許文献2】米国特許第4,879,272号明細書
【特許文献3】米国特許第4,806,524号明細書
【特許文献4】米国特許第4,992,419号明細書
【特許文献5】米国特許第5,376,632号明細書
【特許文献6】米国特許第5,376,632号明細書
【特許文献7】国際出願公開公報第WO01/87329A1号明細書
【非特許文献1】Mijake et al.,J.Biol.Chem.25,5558−5564,1977
【非特許文献2】Eschbach et al.,New Engl.J.Med.316,73−78,1987
【非特許文献3】Sandford.B.K,Blood,177,419−434,1991
【非特許文献4】John Geigert,J.Parenteral Sci.Tech.,43,No.5,220−224,1989
【非特許文献5】David Wong,Pharm.Tech.October,34−48,1997
【非特許文献6】Wei Wang,Int.J.Pharm.,185,129−188,1999
【非特許文献7】Willem Norde,Adv.Colloid Interface Sci.,25,267−340,1986
【非特許文献8】Michelle et al.,Int.J.Pharm.120,179−188,1995
【非特許文献9】EMEA/CPMP/BWP/450/01 Report from the Expert Workshop on Human TSEs and Medicinal products derived from Human Blood and Plasma (1 December 2000)
【非特許文献10】CPMP/PS/201/98 Position Statement on New Variant CJD and Plasma−Derived Medicinal Products (Superseded by CPMP/BWP/2879/02)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的は、ヒトまたは動物由来の血清アルブミンを用いずに、エリスロポエチンの生物活性を、in vivoで長期にわたって維持することができるその水性処方物を提供することにある。
【0016】
本発明者らは、多くの実験と徹底的な研究を通じて、薬学的に有効な量のエリスロポエチンを、安定剤、等張化剤および緩衝剤としての特定の成分と組み合わせると、ヒトエリスロポエチンの水性処方物が、長期保存時に生じるアンプル壁への付着やタンパク質変成を防ぐことを見出し、本発明を完成した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
従って本発明は、薬学的に有効な量のヒトエリスロポエチン;安定剤としての、非イオン性界面活性剤、多価アルコール、中性アミノ酸および糖アルコール;等張化剤;並びに緩衝剤を含んでなるヒトエリスロポエチン水性処方物を提供する。
【0018】
本発明の水性処方物において使用することのできるヒトエリスロポエチンは、天然に、および/または遺伝子組替え法により、動物細胞から分離・精製して得ることができる、あらゆる形式のエリスロポエチンを含む。水性処方物におけるエリスロポエチンの量は、好ましくは100〜120,000IU/mlである。
【0019】
本発明の水性処方物は、同処方物を安定化させるための非イオン性界面活性剤を含有しており、これによってアンプル壁への付着を防ぐ。前記非イオン性界面活性剤は、タンパク質の表面張力を低下させ、疎水性表面におけるタンパク質の付着や凝集を防ぐ。本発明に用いる非イオン性界面活性剤の好ましい例には、ポリソルベート系およびポロキサマー系の非イオン性界面活性剤が含まれ、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、ポリソルベート系非イオン性界面活性剤がより好ましい。これらのポリソルベート系非イオン性界面活性剤の例には、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60およびポリソルベート80が含まれ、これらのうちポリソルベート20が特に好ましい。ポリソルベート20は、その臨界ミセル濃度が比較的低いため、低濃度において、タンパク質の化学的な分解を阻害すると共に、タンパク質の付着を減少または防止する。水性処方物において、非イオン性界面活性剤を高濃度で使用することは好ましくない。これは、そのような濃度では、タンパク質の安定性および濃度測定における、UV分光分析や等電点電気泳動法(Isoelectric Focusing)への干渉が起こり、タンパク質の安定性評価が困難になるためである。このため、本発明の水性処方物においては、非イオン性界面活性剤を好ましくは0.01%(w/v)未満、より好ましくは0.0001〜0.01%(w/v)配合する。
【0020】
中性アミノ酸は、エリスロポエチンの最も外側にある親水性アミノ酸が安定化されうるよう、エリスロポエチンの周囲により多くの水分子を存在させることにより、エリスロポエチン自体を安定化させる(非特許文献6)。荷電したアミノ酸は、静電的な相互作用によりエリスロポエチンの凝集を助長することがあるので、本発明の水性処方物においては、中性アミノ酸を用いる。中性アミノ酸の好ましい例には、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン等が含まれるが、これらのうち、グリシンが最も好ましい。これらの中性アミノ酸は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ただし、本発明者らが行った実験によれば、グリシンは、他のアミノ酸と組み合わせるよりも、単独で用いる方が有効である。しかし、本発明の水性処方物は、中性アミノ酸を1種だけ用いるものに限定されることを意図するものではない。本発明で用いる中性アミノ酸の量は、好ましくは0.001〜2%(w/v)である。この範囲に満たない量では、安定性向上効果が見られないことがある。一方、この範囲を超える量では、浸透圧が増加し、これがエリスロポエチンの溶解性に影響するため、エリスロポエチンの濃度を高めることができない。
【0021】
本発明の水性処方物においては、溶液中のエリスロポエチン用の安定剤の1つとして、多価アルコールを用いる。多価アルコールの好ましい例には、プロピレングリコール、低分子量ポリエチレングリコール、グリセロールおよび低分子量ポリプロピレングリコールが含まれ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち特に、プロピレングリコールがより好ましい。プロピレングリコールは、疎水性物質の溶媒、抽出剤および保存剤として、非経口的または経口的経路で投与される医薬品において広範囲に用いられてきたもので、無毒とされている。これは更に、食品および化粧品において、乳化剤または媒体として用いられている。上記に加え、これはまた、リン脂質を水性処方物の安定剤として用いる場合、リン脂質の溶解性を向上するための、医薬品の安定剤としても用いることができる。プロピレングリコールはまた、タンパク質の水性処方物の安定性を向上するために用いることもできる。これはまた一般に、適切な濃度の他の安定剤と組み合わせて用いると、単独で用いた場合に比べ、水性処方物の安定性をより向上する。ただし、プロピレングリコールと組み合わせて用いる他の安定剤の種類および濃度範囲の選択が適切でない場合、意外にも、プロピレングリコールを用いたにも関わらず、水性処方物の安定性が低下することを、本発明者らが確認したことに留意すべきである。多価アルコールの量は、好ましくは0.0001〜0.1%(w/v)である。この範囲に満たない量では、安定性向上効果が見られないことがある。一方、この範囲を超える量では、浸透圧の増加に伴い問題が生じることがある。
【0022】
本発明の水性処方物における安定剤の1つとしての糖アルコールは、上記の非イオン性界面活性剤、中性アミノ酸および多価アルコールと共に溶液に供給すると、エリスロポエチンを安定化させる役割を果たす。糖アルコールの好ましい例には、マンニトール、ソルビトール、シクリトール、イノシトール等が含まれ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、マンニトールがより好ましい。糖アルコールの量は、好ましくは0.1〜1.0%(w/v)である。この範囲に満たない量では、安定性向上効果が見られないことがある。一方、この範囲を超える量では、浸透圧の増加に伴い問題が生じることがある。
【0023】
ある種の安定剤(例えば糖アルコール等)は、その用語自体が有する文字通りの意味に限定されるものではなく、ある場合には、本発明の水性処方物の調整に際して、他の役割(例えば等張化剤としての役割)をも果たすことを意図するものである。
【0024】
本発明の水性処方物において、他の成分として用いる等張化剤は、エリスロポエチンを溶液として体内に投与する場合、浸透圧の維持に役立つ。また、溶液状態のエリスロポエチンを更に安定化させるという付加的な効果をも有する。等張化剤の代表的な例には、水溶性の無機塩が含まれ、これらの塩には、例えば塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム等が含まれる。これらの塩は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、塩化ナトリウムがより好ましい。水溶性無機塩の量は、0.001〜0.7%(w/v)であり、上記の種々の成分を含む水性処方物が等張となるよう、適宜調節してよい。
【0025】
本発明の水性処方物に含まれる、上記の安定剤と等張化剤の組み合わせは、溶液中において、エリスロポエチンを互いに相乗的な(競合的ではなく)形で安定化させる。本発明者らの研究によれば、例えば、プロピレングリコールは、単独で用いても、溶液中においてエリスロポエチンを安定化させる効果をある程度有するが、これを中性アミノ酸と組み合わせて用いると、安定性効果を更に向上することができることが見出された。中性アミノ酸をプロピレングリコール以外の安定剤と組み合わせて用いると、安定性効果は、中性アミノ酸をプロピレングリコールを含む安定剤と組み合わせて用いる場合に比べて低いことも見出された。従って、上記安定剤および等張化剤のうちいずれか1種を省略した場合、エリスロポエチンの安定性が大幅に低下することになる。このことは、後述の実施例および比較例から明らかになる。
【0026】
本発明の水性処方物において、緩衝剤は、エリスロポエチン安定化用の溶液のpHを維持するのに役立つ。緩衝剤の好ましい例には、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液等が含まれる。これらのうち、リン酸緩衝液がより好ましい。例えば、リン酸緩衝剤を構成するリン酸塩の濃度範囲は、好ましくは5〜50mMであり、溶液のpH範囲は、好ましくは約6.0〜8.0、より好ましくは約6.5〜7.5である。
【0027】
本発明の水性処方物には、安定剤、等張化剤および緩衝剤に加え、当該分野において公知の何らかの他の物質(substances or materials)が、本発明の効果が損なわれない範囲で選択的に(selectively)含まれていてもよい。
【0028】
本発明の例示的な処方物を以下に詳細に示すが、以下の例示的な処方物は本発明の例に過ぎず、従って本発明は、以下の例に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
実施例1:ヒトエリスロポエチン水性処方物の調製(1)
10mMリン酸緩衝液に、0.003%のポリソルベート20、0.1%のプロピレングリコール、1.5%のグリシン、0.1%の塩化ナトリウムおよび1.0%のマンニトールを添加して等張溶液を調製し、これにエリスロポエチン(LG Life Science Co.,Ltd.)を、約4000IU/mlとなるよう添加した。調製した溶液の一部2mlを、注意深く3mlガラスバイアルに移して密封し、25℃および37℃で各々保存した。
【0030】
比較例1:添加剤を含まないヒトエリスロポエチン水性処方物の調製
10mMリン酸緩衝液に、4000IU/mlのエリスロポエチンを添加した。調製した溶液の一部2mlを、注意深く3mlガラスバイアルに移して密封し、25℃および37℃で各々保存した。
【0031】
比較例2:ポリソルベート20のみを含むヒトエリスロポエチン水性処方物の調製
0.003%のポリソルベート20を含む10mMリン酸緩衝液に、4000IU/mlのエリスロポエチンを添加した。調製した溶液の一部2mlを、注意深く3mlガラスバイアルに移して密封し、25℃および37℃で各々保存した。
【0032】
比較例3:プロピレングリコールを含まないヒトエリスロポエチン水性処方物の調製
10mMリン酸緩衝液に、0.003%のポリソルベート20、1.5%のグリシン、0.1%の塩化ナトリウムおよび1.0%のマンニトールを添加して等張溶液を調製し、これにエリスロポエチンを、約4000IU/mlとなるよう添加した。調製した溶液の一部2mlを、注意深く3mlガラスバイアルに移して密封し、25℃および37℃で各々保存した。
【0033】
比較例4:グリシンを含まないヒトエリスロポエチン水性処方物の調製
10mMリン酸緩衝液に、0.003%のポリソルベート20、0.5%のプロピレングリコール、0.1%の塩化ナトリウムおよび1.0%のマンニトールを添加して等張溶液を調製し、これにエリスロポエチンを、約4000IU/mlとなるよう添加した。調製した溶液の一部2mlを、注意深く3mlガラスバイアルに移して密封し、25℃および37℃で各々保存した。
【0034】
比較例5:塩化ナトリウムを含まないヒトエリスロポエチン水性処方物の調製
10mMリン酸緩衝液に、0.003%のポリソルベート20、1.7%のグリシン、0.5%のプロピレングリコールおよび1.0%のマンニトールを添加して等張溶液を調製し、これにエリスロポエチンを、約4000IU/mlとなるよう添加した。調製した溶液の一部2mlを、注意深く3mlガラスバイアルに移して密封し、25℃および37℃で各々保存した。
【0035】
比較例6:マンニトールを含まないヒトエリスロポエチン水性処方物の調製
10mMリン酸緩衝液に、0.003%のポリソルベート20、0.5%のプロピレングリコール、1.5%のグリシンおよび0.1%の塩化ナトリウムを添加して等張溶液を調製し、これにエリスロポエチンを、約4000IU/mlとなるよう添加した。調製した溶液の一部2mlを、注意深く3mlガラスバイアルに移して密封し、37℃で保存した。
【0036】
実験例1:ヒトエリスロポエチン水性処方物の安定性(1)
実施例1および比較例1〜6の水性処方物におけるエリスロポエチン単量体と二量体の比を、3週間および5週間保存後に、各々SEC−HPLCを用いて測定した。結果を下記表1に記載する。
【0037】
【表1】

【0038】
表1からわかるように、実施例1(本発明のヒトエリスロポエチン水性処方物)は、37℃で5週間保存した後で、回収率92%を示し、二量体は検出されなかった。これに対し、比較例2(ポリソルベート20のみを含む)は、比較例1(添加剤なし)に比べ高い回収率を示したが、二量体が検出された。比較例3〜6(本発明の成分のいずれかを含まない)では、37℃、3週間の保存において二量体が検出され、回収率が約80%まで低下した。更に、比較例3および4(処方物がそれぞれプロピレングリコールおよびグリシンを含まない)では、実施例1の処方物に比べ回収率が低く、また多くの二量体が検出された。以上の結果から、本発明において提供される、プロピレングリコールその他の安定剤と等張化剤は、組み合わせて用いると相乗効果を有することが確認された。本発明の処方物に添加されるこれらの成分は、各々安定化効果を有しているが、溶液中でのエリスロポエチン付着阻害と、水性エリスロポエチンの安定性は、各成分の効果の組み合わせにより相乗的に向上することがわかる。
【0039】
実施例2:ヒトエリスロポエチン水性処方物の調製(2)
10mMリン酸緩衝液に、0.001%のポリソルベート20、0.1%のプロピレングリコール、0.1%のグリシン、0.55%の塩化ナトリウムおよび1.0%のマンニトールを添加して等張溶液を調製し、これにエリスロポエチンを、約4000IU/mlとなるよう添加した。調製した溶液の一部0.5mlを、1mlプレフィルドシリンジ(pre−filled syringe)(Becton−Dickinson)に取り、40℃で4週間保存した。
【0040】
比較例7:プロピレングリコールおよびマンニトールを含まないヒトエリスロポエチン水性処方物の調製
4.38mg/mlの塩化ナトリウム、1.16mg/mlのリン酸一ナトリウム(二水和物)、2.23mg/mlのリン酸二ナトリウム(二水和物)、5mg/mlのグリシンおよび0.3mg/mlのポリソルベート80を含む溶液に、エリスロポエチンを、約4000IU/mlとなるよう添加した。調製した溶液の一部0.5mlを、1mlプレフィルドシリンジ(Becton−Dickinson)に取り、40℃で4週間保存した。
【0041】
実験例2:ヒトエリスロポエチン水性処方物の安定性(2)
実施例2および比較例7の水性処方物におけるエリスロポエチンの純度および回収率を、0、1、3および4週間目に、各々SEC−HPLCを用いて測定した。結果を下記表2に記載する。
【0042】
【表2】

【0043】
上記表2からわかるように、本発明の処方物は、4週間のインキュベーション後で、92.9%という、参照処方物における86.4%に比べ高い回収率を示した。よって、本発明の処方物は、溶液中のエリスロポエチンの安定性を向上させることがわかった。
【0044】
比較例9〜13:種々のヒトエリスロポエチン水性処方物の調製
下記表3に示す水性処方物(実施例1の水性処方物とは、何らかの成分が異なる)を調製し、実施例1と同じ条件下、25℃および37℃で各々保存した。
【0045】
【表3】

【0046】
実験例3:ヒトエリスロポエチン水性処方物の安定性(3)
比較例9〜13の水性処方物におけるエリスロポエチン単量体と二量体の比を、3週間および5週間後に、各々SEC−HPLCを用いて測定した。結果を下記表4に、実施例1の水性処方物と比較して記載する。
【0047】
【表4】

【0048】
上記表4からわかるように、実施例1の本発明の水性処方物における何らかの成分を、他の成分に置換すると、所望の結果は得られなかった。
【0049】
実施例3:ヒトエリスロポエチン水性処方物の調製(3)
プロピレングリコール以外の多価アルコールを用いる水性処方物を調製するため、プロピレングリコールの代わりに0.025%のPEG300(ポリエチレングリコール、Mn=300)を用いた以外は、実施例1と同様の方法でヒトエリスロポエチン水性処方物を調製した。調製した溶液をガラスバイアルに入れて密封し、37℃で保存した。
【0050】
実験例4:ヒトエリスロポエチン水性処方物の安定性(4)
実施例3の水性処方物におけるエリスロポエチン単量体と二量体の比を、3週間および5週間後に、各々SEC−HPLCを用いて測定した。比較のため、比較例3の水性処方物(多価アルコールを含まない)も試験した。結果を下記表5に記載する。
【0051】
【表5】

【0052】
上記表5からわかるように、実施例3(多価アルコールとしてポリエチレングリコールを用いる本発明のヒトエリスロポエチン水性処方物)では、単量体の回収率が97%であり、二量体は検出されなかった。この結果は、多価アルコールを用いない比較例3の水性処方物とは大きく異なっている。
【0053】
実施例4:高濃度ヒトエリスロポエチン水性処方物の調製
10mMリン酸緩衝液に、0.003%のポリソルベート20、0.1%のプロピレングリコール、1.5%のグリシン、1.0%のマンニトールおよび0.1%の塩化ナトリウムを添加して等張溶液を調製し、これにエリスロポエチンを、約12000IU/mlとなるよう添加した。調製した溶液の一部0.5mlを、1mlプレフィルドシリンジ(Becton−Dickinson)に取り、5℃、25℃および40℃で3ヶ月保存した。
【0054】
実験例5:高濃度ヒトエリスロポエチン水性処方物の安定性
高濃度ヒトエリスロポエチン水性処方物の安定性を確認するため、実施例4の水性処方物におけるエリスロポエチンの回収率および純度を、5℃で保存したものは0、6および12ヶ月目に、25℃で保存したものは2、4および6ヶ月目に、そして40℃で保存したものは1、2および3ヶ月目に、各々SEC−HPLCおよびRP−HPLCを用いて測定した。生理活性の程度は、B6D2F1マウスに処方物を投与し、網状赤血球の増加を測定することにより評価した。結果を下記表6に開示する。
【0055】
【表6】

【0056】
上記表6からわかるように、水性処方物中の高濃度ヒトエリスロポエチンは、5℃においては12ヶ月保存まで、25℃においては6ヶ月保存まで、十分な回収率、純度および生理活性を示した。更に、40℃においては3ヶ月保存まで94%という回収率が見られ、純度および生理活性の減少はわずかしかなかった。従って、実施例4の処方物は極めて安定であることが確認された。
【0057】
実験例6:pHの効果に対する安定性の依存性
10mMリン酸緩衝液に、0.003%のポリソルベート20、0.5%のプロピレングリコール、1.5%のグリシン、1.0%のマンニトールおよび0.1%の塩化ナトリウムを添加し、これにエリスロポエチン(LG Life Science Co.,Ltd.)を4000IU/mlとなるよう添加し、その後酢酸および水酸化ナトリウムを用いてpHを調節した。調製した溶液を、3ml試験管に2mlずつ入れて密封し、40℃で3週間保存して、エリスロポエチン単量体と二量体の比を測定した。結果を下記表7に記載する。
【0058】
【表7】

【0059】
上記表7からわかるように、pH6.0〜7.5の場合、40℃で3週間保存した後でも、回収率は90%を超えていた。この結果から、非イオン性界面活性剤、プロピレングリコール、中性アミノ酸、塩化ナトリウムおよび等張化剤を含む本発明のエリスロポエチン水性処方物は、pH6.0〜7.5において極めて安定であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
上記したように、ヒトエリスロポエチン、安定剤としての、非イオン性界面活性剤、多価アルコール、中性アミノ酸および糖アルコール、等張化剤並びに緩衝剤を含む、本発明のエリスロポエチン水性処方物は、溶液中での長期保存時に生じる変成による、生理活性低下の問題を改善する。加えて、エリスロポエチンタンパク質がアンプル壁に付着するのを防ぐ効果を有する。
【0061】
本発明の他の例および用途は、本明細書を検討することや、本明細書に開示された発明の実施から、当業者にとっては明らかである。本明細書および実施例は、単に例示的なものと見なされることを意図しており、本発明の特定の例の範囲は、特許請求の範囲に示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトエリスロポエチン;
安定剤としての、非イオン性界面活性剤、多価アルコール、中性アミノ酸および糖アルコール;
等張化剤;並びに
緩衝剤
を含んでなるヒトエリスロポエチン水性処方物。
【請求項2】
前記ヒトエリスロポエチンは、天然または組替えエリスロポエチンであることを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載のヒトエリスロポエチン水性処方物。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート系非イオン性界面活性剤、ポロキサマー系非イオン性界面活性剤またはそれらの組み合わせであり;
前記多価アルコールは、プロピレングリコール、低分子量ポリエチレングリコール、グリセロールおよび低分子量ポリプロピレングリコールよりなる群から選ばれる1種以上であり;
前記中性アミノ酸は、グリシン、アラニン、ロイシンおよびイソロイシンよりなる群から選ばれる1種以上であり;
前記糖アルコールは、マンニトール、ソルビトール、シクリトールおよびイノシトールよりなる群から選ばれる1種以上であり;
前記等張化剤は、塩化ナトリウム、塩化カルシウムおよび硫酸ナトリウムよりなる群から選ばれる1種以上であり;
前記緩衝剤は、リン酸緩衝液およびクエン酸緩衝液よりなる群から選ばれる1種以上である
ことを特徴とする請求項1に記載のヒトエリスロポエチン水性処方物。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート20であり;
前記多価アルコールは、プロピレングリコールであり;
前記中性アミノ酸は、グリシンであり;
前記糖アルコールは、マンニトールであり;
前記等張化剤は、塩化ナトリウムであり;
前記緩衝剤は、リン酸緩衝液である
ことを特徴とする請求項3に記載のヒトエリスロポエチン水性処方物。
【請求項5】
前記非イオン性界面活性剤の含有量は、0.0001〜0.01%(w/v)であることを特徴とする請求項1に記載のヒトエリスロポエチン水性処方物。
【請求項6】
前記多価アルコールの含有量は、0.001〜0.1%(w/v)であることを特徴とする請求項1に記載のヒトエリスロポエチン水性処方物。
【請求項7】
前記中性アミノ酸の含有量は、0.001〜2%(w/v)であることを特徴とする請求項1に記載のヒトエリスロポエチン水性処方物。
【請求項8】
前記糖アルコールの含有量は、0.1〜1.0%(w/v)であることを特徴とする請求項1に記載のヒトエリスロポエチン水性処方物。
【請求項9】
前記等張化剤の含有量は、0.001〜0.7%(w/v)であることを特徴とする請求項1に記載のヒトエリスロポエチン水性処方物。
【請求項10】
前記緩衝剤の含有量は、1〜50mMであり、そのpHは、6.0〜7.5であることを特徴とする請求項1に記載のヒトエリスロポエチン水性処方物。
【請求項11】
前記エリスロポエチンの含有量は、100〜120,000IU/mlであることを特徴とする請求項1に記載のヒトエリスロポエチン水性処方物。

【公表番号】特表2007−528842(P2007−528842A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516913(P2006−516913)
【出願日】平成16年6月7日(2004.6.7)
【国際出願番号】PCT/KR2004/001358
【国際公開番号】WO2004/108152
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(503430614)エルジー ライフサイエンス リミテッド (6)
【Fターム(参考)】