説明

血清トリグリセリド値を低下させるためのPPARαアゴニスト及びメトホルミンの使用

本発明は、血清トリグリセリド値を低下させるための、PPARαアゴニスト及びメトホルミンの併用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清トリグリセリド値を低下させるためのPPARαアゴニスト及びメトホルミンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
X症候群とも呼ばれる代謝症候群は初期にインシュリン抵抗性の状態を呈することが特徴的な症候群であり、この状態は、高インシュリン血症、脂質代謝異常及び耐糖能異常を引き起こし、進行すると高血糖が特徴的なインシュリン非依存性糖尿病(2型糖尿病)となる可能性があり、その後更に糖尿病性合併症に進行する。
【0003】
全米コレステロール教育プログラム(NCEP)による2002年5月発行の指針の第三版は、同指針の1993年発行の第二版といくつかの点で異なっている。治療の焦点はどちらも主として高い低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール値の低減であるが、この新しい方のNCEP指針には、更に、高密度リポタンパク質(HDL)コレステロール値が低い患者及び/又はトリグリセリド値が高い患者を確認して治療するという戦略も含まれている。ちょうど「善玉」コレステロール(HDL)と「悪玉」コレステロール(LDL)とがあるように、高濃度のトリグリセリド残基を含み危険性の低い「善玉」トリグリセリド含有リポタンパク質と、高濃度のコレステロール残基を含み危険性の高い「悪玉」トリグリセリド含有リポタンパク質とがある。高いトリグリセリド値、低いHDL値及び代謝症候群患者に対して特別な注意を払うことには正当な理由があることが、「悪玉」トリグリセリドの発生機構から明らかである。また、これらの機構等は、治療的介入のための、並びに、多くの異なる代謝経路によって脂質及びリポタンパク質の異常を正常化するであろう新薬の開発のための新しい目標を示唆してもいる。
【0004】
上述の指針によれば、臨床では下記のうち任意の三種により代謝症候群を確認するようである。
<危険因子>:<決定水準>
腹部の肥満:腰囲
男性:>102cm
女性:>88cm
トリグリセリド値:>150mg/dL
HDLコレステロール
男性:<40mg/dl
女性:<50mg/dl
血圧:>130/85mmHg
絶食時のグルコース値:>110mg/dL
【0005】
上記指針中で提案される代謝症候群の治療は、体重管理を強化すること及び運動量を増やすことによる根本的な原因(太りすぎ/肥満及び運動不足)の治療に焦点を当てたものである。
【0006】
脂質性及び非脂質性の危険因子は、上記の生活習慣療法を実施しても治療できない場合には、CHD患者へのアスピリン投与による血栓形成前期状態の軽減によって、並びに、高いトリグリセリド値及び/又は低いHDL値の治療によって、高血圧を治療することによっても治療できる。
【0007】
PPARαアゴニストの使用は、高いトリグリセリド値の治療において知られている。
【0008】
PPARαは、PPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)ファミリーのサブタイプである。PPARαは、肝臓、心臓及び褐色脂肪組織等の脂肪酸を多量に異化する組織中で主に発現している。活性化されたPPARはRXR(レチノイドX受容体)とヘテロ二量体を形成し、このヘテロ二量体は、ターゲット遺伝子の調節領域においてPPRE(PPAR応答配列)と呼ばれる特定の応答配列に結合し、これによってその転写を変化させる。PPARαによって発現が調節される遺伝子の大部分は、細胞内及び細胞外の脂質代謝に関与するタンパク質(例えば、アシルCoAオキシダーゼ、アシルCoA合成酵素、並びに、アポリポタンパク質A−I、AII及びC−III等)をコードしている。
【0009】
フィブラート系薬剤は、PPARαの活性化剤又はアゴニストの例として挙げることができる。本発明において、アゴニスト又は活性化剤という用語は、PPAR受容体を活性化できる化合物という意味で使用される。
【0010】
フィブラート系薬剤について、血漿トリグリセリド値及びコレステロール値を低下させること、並びに、脂質代謝異常患者の虚血性心疾患の予防に効果があることが証明されている。また、フィブラート系薬剤は、高濃度のフィブリノゲン及びPAI−1を適度に減少させることができる。例えばゲムフィブロジル、フェノフィブラート、ベザフィブラート及びシプロフィブラート等のフィブラート化合物は、血漿中のHDLコレステロール値を上昇させる。
【0011】
メトホルミンは、主としてその抗高血糖活性が知られていて、インシュリン非依存性糖尿病の治療において広く使用される。また、インシュリン依存性糖尿病の場合、メトホルミンはインシュリンと併用することによっても患者に投与される。
【0012】
特許文献1は、インシュリン非依存性糖尿病を治療するための、メトホルミンと、フェノフィブラート及びベザフィブラートから選択されるフィブラート系薬剤との併用について開示している。これにより高血糖が著しく改善されるが、その効果は相乗的である。
【0013】
予想外にも、本発明者らは、メトホルミンとPPARαの活性化剤との併用によって、トリグリセリド値の高い患者の治療を著しく改善できることを発見した。より具体的には、メトホルミンとPPARαアゴニストとの併用投与は相乗的な効果を有しており、トリグリセリド値が著しく改善されるが、その効果は相乗的である。
【0014】
こうして、PPARαアゴニストとメトホルミンとを併用すると、血中脂質低下作用が増強されるため、代謝症候群の病因の治療を改善できる可能性があることが予想外にも発見された。
【特許文献1】ヨーロッパ特許No.1,054,665
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の目的は、血清トリグリセリド値を低下させるための、PPARαアゴニスト及びメトホルミンの使用を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、血清トリグリセリド値低下用医薬組成物を製造するための、PPARαアゴニスト、メトホルミン及び医薬品に許容される担体の使用を提供することである。
【0017】
上記に説明するように、高いトリグリセリド値と代謝症候群とは関連がある。また、高グリセリド血症は、血清中のトリアシルグリセロール値が高いために組織におけるグルコース利用が損傷を受けることから、代謝症候群の進行に関与している。
【0018】
従って、本発明はまた、代謝症候群を治療するための、PPARαアゴニスト及びメトホルミンの使用にも関する。
【0019】
また、本発明は、代謝症候群治療用医薬組成物を製造するための、PPARαアゴニスト、メトホルミン及び医薬品に許容される担体の使用にも関する。
【0020】
高グリセリド血症は、脂肪組織におけるトリアシルグリセロールの蓄積をも導くため、肥満を進行させる。
【0021】
従って、本発明はまた、肥満を治療するための、PPARαアゴニスト及びメトホルミンの使用にも関する。
【0022】
また、本発明は、肥満治療用医薬組成物を製造するための、PPARαアゴニスト、メトホルミン及び医薬品に許容される担体の使用にも関する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
「PPARαアゴニスト」とは、直接又は間接的にPPARαと結合して(好ましくはPPARαに直接結合して)、この受容体特有のin vivo又はin vitro反応(例えば転写調節活性)を刺激又は増大させることが当業者に公知のアッセイで測定されるような化合物又は組成物を意味する。上記当業者に公知のアッセイには、米国特許No.4981784、5071773、5298429及び5506102、PCT特許WO89/05355、WO91/06677、WO92/05447、WO93/11235、WO93/23431、WO94/23068及びWO95/18380、カナダ特許No.CA2034220、並びに、Lehmannらの報告(J.Biol.Chem.270:12953−12956(1995))(これらは参照によって本明細書中に組み込む)中に記載又は開示する「コトランスフェクション」又は「cistrans」アッセイが含まれるが、これらに限定されない。また、PPARαアゴニストは、米国特許No.6008239中に記載されるアッセイによって確認してもよい。
【0024】
好ましいPPARαアゴニストは、ゲムフィブロジル、フェノフィブラート、ベザフィブラート、クロフィブラート及びシプロフィブラート、並びに、これらの類似体、誘導体及び医薬品に許容される塩を含むがこれらに限定されないフィブラート化合物である。Tontonezら(Cell 79:1147−1156(1994))、Lehmannら(J.Biol.Chem.270(22):1−4,1995)、Amriら(J.Lipid Res.32:1449−1456(1991))、Kliewerら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:4318−4323(1997))、Amriら(J.Lipid Res.32:1457−1463,(1991))及びGrimaldiら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10930−10934(1992))中に開示されているPPARα化合物を、参照によって本明細書中に組み込む。また、米国特許No.6008239、並びに、PCT特許WO97/27847、WO97/27857、WO97/28115、WO97/28137及びWO97/28149中に開示されているPPARαアゴニスト化合物についても、参照によって本明細書中に組み込む。更に、PCT特許WO92/10468及びWO01/80852中に記載される特定のフィブラート化合物についても、参照によって本明細書中に組み込む。
【0025】
本発明において、フィブラート系薬剤は、フィブリン酸(fibric acid)誘導体並びにこれらフィブリン酸誘導体の医薬品に許容される塩及びエステルを含む。フィブリン酸誘導体は、VLDL等のトリグリセリド高含有リポタンパク質値を低減し、HDL値を増加させ、LDL値に様々な影響を及ぼす。VLDL値に対する効果は、第一に、特に筋肉中における、リポタンパク質リパーゼ活性の増大に起因するようである。これにより、含有されるVLDLトリグリセリドの加水分解が増大し、VLDLの異化も増大する。また、フィブリン酸剤は、例えば肝臓におけるアポC−III(リポタンパク質リパーゼ活性の阻害剤)の産生を減少させるため、VLDLの組成を変える可能性がある。また、これらの化合物については、恐らく脂肪酸の合成阻害及び脂肪酸の酸化促進によって、肝臓におけるVLDLトリグリセリドの合成を減少させることについても報告されている。
【0026】
フェノフィブラートはTricor(商標)カプセルとして市販されており、入手できる。カプセル1つ当たり微粉化フェノフィブラートが67mg含まれる。
【0027】
クロフィブラートはAtromid−Sカプセルとして市販されており、入手できる。カプセル1つ当たりクロフィブラートが500mg含まれる。クロフィブラートは、トリグリセリドを多く含有する超低密度リポタンパク質分画を減らすことによって、血清中の増大した脂質を減らす。また、血清中のコレステロールを減らす可能性もある。更に、肝臓からのリポタンパク質(特にVLDL)の放出を阻害して、リポタンパク質リパーゼの作用を高める可能性もある。クロフィブラートは、一日当たり2gを複数回に分けて投与することが推奨される。
【0028】
ゲムフィブロジルはLopid錠として市販されており、入手できる。カプセル1つ当たりゲムフィブロジルが600mg含まれる。ゲムフィブロジルは、血清中のトリグリセリド及び超低密度リポタンパク質コレステロールを減らして、高密度リポタンパク質コレステロールを増やす脂質調節剤である。ゲムフィブロジルは、一日当たり1200mgを2回に分けて投与することが推奨される。
【0029】
本発明において、PPARΑアゴニストは、ゲムフィブロジル、フェノフィブラート、ベザフィブラート、クロフィブラート及びシプロフィブラートからなる群より選択されるフィブラート系薬剤、又は、フィブリン酸誘導体又はこれらフィブリン酸誘導体の医薬品に許容される塩若しくはエステルであってよい。
【0030】
本発明によれば、好ましいフィブラート系薬剤はフェノフィブラート、フェノフィブリン酸(fenofibric acid)、又は、フェノフィブリン酸の医薬品に許容される塩若しくはエステルである。
【0031】
本発明によれば、メトホルミンは、塩酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、エンボナート(embonate)、クロロフェノキシ酢酸塩、グリコール酸塩、パルモエート(palmoate)、アスパラギン酸塩、メタンスルホン酸塩、マレイン酸塩、パラクロロフェノキシイソブチレート、蟻酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、シクロヘキサンカルボン酸塩、ヘキサン酸塩、オクトノエート(octonoate)、デカン酸塩、ヘキサデカン酸塩、オクトデカノエート(octodecanoate)、ベンゼンスルホン酸塩、トリメトキシ安息香酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、アダマンタンカルボン酸塩、グリコキシレート(glycoxylate)、グルタミン酸塩、ピロリドンカルボン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、1−グルコースリン酸、硝酸塩、亜硫酸塩、ジチオン酸塩又はリン酸塩等の医薬品に許容される塩の一種として投与することができる。
【0032】
これらの塩の中で、塩酸塩、フマル酸塩、エンボナート及びクロロフェノキシ酢酸塩が特に好ましい。
【0033】
メトホルミンの医薬品に許容される塩は、本質的に公知の方法で、対応する酸に対してメトホルミンを作用させることによって得られるものである。
【0034】
本明細書中で使用する場合、「代謝症候群」とは、NCEP発行の指針の第三版において定義されるような症候群、すなわち下記のうち任意の三種を呈する代謝症候群を含む。
<危険因子>:<決定水準>
腹部の肥満:腰囲
男性:>102cm
女性:>88cm
トリグリセリド値:>150mg/dL
HDLコレステロール
男性:<40mg/dl
女性:<50mg/dl
血圧:>130/85mmHg
絶食時のグルコース値:>110mg/dL
【0035】
明瞭に示すと、本発明の使用、方法及び治療は、代謝症候群の予防、治療及び/又は予防処置を包含する。
【0036】
別の実施形態において、本発明は、有効な量のPPARαアゴニストとメトホルミンとを併用投与することを含む、血清トリグリセリド値を低下させる方法、代謝症候群を治療する方法、又は、肥満を治療する方法を含み、上記のPPARαアゴニストの有効な量とは一日当たり約10〜約3000mg、好ましくは一日当たり約50〜約300mgである。
【0037】
別の実施形態において、本発明は、有効な量のPPARαアゴニストとメトホルミンとを併用投与することを含む、血清トリグリセリド値を低下させる方法、代謝症候群を治療する方法、又は、肥満を治療する方法を含み、上記のメトホルミンの有効な量とは一日当たり約10〜約3000mg、好ましくは一日当たり約100〜約1000mgである。
【0038】
本発明の実施形態によれば、メトホルミン又はその塩の使用量は、PPARαアゴニストの質量の1〜20倍、好ましくは1〜5倍、より好ましくは2〜5倍である。
【0039】
別の実施形態において、PPARαアゴニスト及びメトホルミンは同時に又は併用して投与する。
【0040】
別の実施形態において、PPARαアゴニスト及びメトホルミンは順次投与する。
【0041】
本明細書中で使用する場合、「併用投与」とは、二種以上の化合物を一人の患者に、約2〜約12時間で投与することを意味する。例えば、併用投与とは、(1)第一の化合物と第二の化合物とを同時に投与すること;(2)第一の化合物を投与した後、第一の化合物を投与してから約2時間後に第二の化合物を投与すること;及び、(3)第一の化合物を投与した後、第一の化合物を投与してから約12時間後に第二の化合物を投与することを包含する。本明細書中に記載するように、本発明は、患者にPPARαアゴニストとメトホルミンとを併用投与することを包含する。
【0042】
本発明によれば、医薬組成物は、カプセル化するための担体であるカプセル化物質と活性成分とで製剤化したものであって、他の担体を含む又は含まない活性成分を担体で囲んで一体化したものとして定義する。この医薬組成物は、経口投与に適した固形の医薬組成物として使用できる、錠剤、粉末、カプセル、丸薬、カシェ剤及びトローチ剤を含む。
【0043】
有効な投与量は、本発明において、治療する病気又は疾患の有害な状態又は徴候を予防又は改善する化合物の量として定義する。PPARαアゴニスト及びメトホルミンについて、有効な投与量とは、上記に定義した範囲内の薬品の投与量を意味する。フィブラート系薬剤について、当業者であれば、フィブラート系薬剤の有効な投与量はフィブラート系薬剤の効能に応じて変化するであろうということを理解し認識できるであろう。
【0044】
PPARαアゴニスト及び/又はメトホルミンの医薬組成物は公知の方法によって調製できる。PPARαアゴニスト及びメトホルミンの好ましい投与経路は経粘膜投与であり、最も好ましくは経口投与である。
【0045】
PPARαアゴニスト及び/又はメトホルミンを含む医薬組成物を調製する際、医薬品に許容される担体は固体及び液体のいずれであってもよい。固形の医薬組成物には、粉末、錠剤、丸薬、カプセル、カシェ剤、坐薬及び分散可能な顆粒が含まれる。固形の担体は、希釈剤、着香料、バインダー、防腐剤、錠剤崩壊剤又はカプセル化剤としても使用できる一種以上の物質であってよい。
【0046】
粉末は、微細化した活性成分と微細化した固体の担体との混合物である。錠剤は、必要な結合特性を有する担体と活性成分とを適切な割合で混合し、所望の形及び大きさに成形したものである。粉末及び錠剤は活性成分を5又は10〜約70%含むことが好ましい。適切な担体は、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ペクチン、デキストリン、デンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ワックス及びカカオバター等である。
【0047】
液状の医薬組成物は、溶液、懸濁液及びエマルション、例えば水又はプロピレングリコール水溶液を含む。非経口的な注射に使用するためには、液状の医薬組成物を、例えばポリエチレングリコール水溶液等の溶液として調製できる。
【0048】
経口使用に適した水溶液は、活性成分を水に溶解し、必要であれば適切な着色剤、香料、安定化剤及び増粘剤を添加することにより調製できる。経口使用に適した水性懸濁液は、天然又は合成ゴム、樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びその他公知の懸濁剤等の粘性物質と共に、微細化した活性成分を水に分散させることにより製造できる。
【0049】
また、使用直前に形態が変わって経口投与用の液状の医薬組成物になるような固形の医薬組成物も含まれる。このような液状の医薬組成物には、溶液、懸濁液及びエマルションが含まれる。このような液状の医薬組成物には、活性成分以外に、着色剤、香料、安定化剤、バッファー、人工及び天然甘味料、分散剤、増粘剤及び可溶化剤等が含まれていてよい。
【0050】
上記医薬組成物は、一回投与分ずつになっていることが好ましい。このような形態の上記医薬組成物は一回投与量に分けられていて、それぞれが適切な量の活性成分を含んだものである。上記一回投与分は、異なる量の製剤を含有するパッケージングした医薬組成物であってよく、錠剤、カプセル、及び、粉末をガラス瓶又はアンプルに入れたもの等であってよい。また、上記一回投与分は、これらをカプセル、錠剤、カシェ剤若しくはトローチ剤としたもの、又は、これらのうち適切な数の任意の種をパッケージングしたものであってよい。
【0051】
また、本発明の医薬組成物は二つの別個の組成物を含むキットであってもよく、そのうち一方の組成物はPPARαアゴニストを含み、もう一方はメトホルミン又はその医薬品に許容される塩を含んでいてもよい。
【0052】
例中に示すように、本出願人は、PPARαアゴニスト及びメトホルミンはトリグリセリド値及び体重増加を著しく軽減すること、並びに、これにより、この併用を代謝症候群の治療又は肥満の治療に使用できること予想外にも発見した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
本発明を次の例によって更に説明するが、これらは本発明を制限するものではなく、本発明の好ましい特徴のいくつかを単に説明するものである。
【実施例1】
【0054】
<ob/obマウスのトリグリセリド値に及ぼすPPARαアゴニストとメトホルミンとの併用投与の影響>
フェノフィブラート、PPARαアゴニスト及びメトホルミンの併用療法がob/obマウスのトリグリセリド値に及ぼす影響を調べるために調査を設計した。
【0055】
方法:
雄のC57BL/Ks/Ola/Hsd/lep ob/obマウス(ホモ体)を動物用設備の中に二週間収容し、温度、湿度及び光を調節した部屋(21〜23℃、明暗サイクル12時間)で安定させた。マウスには研究用標準飼料を与え、水を自由に飲ませた。順応させた後、次のように体重に応じてマウスを10群に無作為に分けた。
担体=非治療マウス
Met 100=メトホルミン100mg/kgを一日一回投与したマウス
Feno 100=フェノフィブラート100mg/kgを一日一回投与したマウス
Feno100−Met100=フェノフィブラート100mg/kg及びメトホルミン100mg/kgを一日一回投与したマウス
【0056】
血清トリグリセリド値(g/lで示す)を、調査の開始時及び終了時に各群について測定した。
【0057】
結果を表1中にまとめる。
【0058】
表1:投与して10日後の結果
【0059】
【表1】

【0060】
値は平均値±標準誤差で示す。
【0061】
統計:
全てのデータを共分散分析に供した後、Tukey法に供した。
(フェノフィブラート100mg/kg)投与と(フェノフィブラート100mg/kg+メトホルミン100mg/kg)投与とを比較すると、その差は有意であると考えられた:p=0.0022。
(メトホルミン100mg/kg)投与と(フェノフィブラート100mg/kg+メトホルミン100mg/kg)投与とを比較すると、その差は有意であると考えられた:p=0.0002。
【0062】
上記のデータから、PPARαアゴニストをメトホルミンと併用投与すると、トリグリセリド値が相乗的に低下するということが分かった。予想外にも、メトホルミンをPPARαアゴニストと併用投与すると、PPARαアゴニスト投与によるトリグリセリド値の低下が更に増強されたのである。
【0063】
また、メトホルミンを投与してもトリグリセリド値に影響はないということも予想しないものであった。
【実施例2】
【0064】
<db/dbマウスのトリグリセリド値に及ぼすPPARαアゴニストとメトホルミンとの併用投与の影響>
フェノフィブラート、PPARαアゴニスト及びメトホルミンの併用療法がdb/dbマウスのトリグリセリド値に及ぼす影響を調べるために調査を設計した。
【0065】
方法:
11/12週齢の雄のC587BL/Ks J Rj−db(db/db)マウス(Janvier社、フランス)を、温度(19.5〜24.5℃)、相対湿度(40〜70%)及び明暗サイクル(12時間)(明/午前7:00〜午後7:00)を調節した部屋に収容し、調査する間中、ろ過した(0.22μm)水道水、及び、放射線を照射した実験用固形飼料(A04、U.A.R.、フランス)を自由に摂取させた。
【0066】
マウスは、14日間(T1〜T14)連続して午前と午後に胃管栄養によって以下に示すように様々な方法で投与した。
【0067】
T15において、マウスの体重を量り、抗凝血剤を使用せずに眼球後方に穿刺してCO/O麻酔下で血液試料を採取した。
【0068】
T0及びT15におけるトリグリセリド値を、多パラメーター分析器を使用して測定した。
Veh/Veh=午前に担体:午後に担体
A300/Veh=午前にメトホルミン300mg/kg:午後に担体
B100/B100=午前にフェノフィブラート100mg/kg:午後にフェノフィブラート100mg
A300B100/B100=午前にメトホルミン300mg/kg及びフェノフィブラート100mg/kg:午後にフェノフィブラート100mg/kg
A100/Veh=午前にメトホルミン100mg/kg:午後に担体
B30/B30=午前にフェノフィブラート30mg/kg:午後にフェノフィブラート30mg/kg
A100B30/B30=午前にメトホルミン100mg/kg及び午後にフェノフィブラート30mg/kg:午後にフェノフィブラート30mg/kg
【0069】
結果を表2中にまとめる。
【0070】
【表2】

【0071】
値は平均値±標準誤差で示す。
【0072】
統計:
一元配置分散分析に供した後、Dunnett法に供した。
○:担体と比較して有意差がない
*:p<0.01
【0073】
上記のデータから以下のことが明らかである。
・メトホルミン投与について、トリグリセリド値の低下は見られなかった。
・フェノフィブラート投与について、トリグリセリド値は著しく減少した。
・フェノフィブラートとメトホルミンとの併用投与について、トリグリセリド値が更に低下することが観察された。
【実施例3】
【0074】
<Zuckerラットの体重に及ぼすPPARαアゴニストとメトホルミンとの併用投与の影響>
フェノフィブラート、PPARαアゴニスト及びメトホルミンの併用療法がZuckerラットの体重に及ぼす影響を調べるために調査を設計した。
【0075】
方法:
9〜11週齢の雄Zuckerラット(ホモ体)及び肥満していないコントロールを、体重及び絶食時の血漿インシュリン値に応じて8群に無作為に分けた。
【0076】
実験群は以下のとおりである:
・肥満していないラット、非投与
・肥満ラット、担体を経口で1日2回投与
・肥満ラット、フェノフィブラート30mg/kgを経口で1日1回投与
・肥満ラット、メトホルミン150mg/kgを経口で1日2回投与
・肥満ラット、フェノフィブラート30mg/kgを経口で1日1回投与、及び、メトホルミン150mg/kgを経口で1日2回投与
【0077】
体重を30日間毎日記録した。
【0078】
結果を表3中にまとめる。
【0079】
【表3】

【0080】
値は平均値±標準誤差で示す。
【0081】
この例で示すように、Zuckerラットは、フェノフィブラートとメトホルミンとを投与すると体重増加が著しく軽減する。このような体重増加の軽減は、Zuckerラットにフェノフィブラートとメトホルミンとを投与した場合の方が、フェノフィブラート又はメトホルミンのいずれか一方のみを投与した場合よりも優れている。体重増加において、メトホルミンとフェノフィブラートとの併用群と担体投与群との間に統計的な有意差が見られる。(統計:広域共分散分析に供した後、Dunnett法に供した。p<0.05)
【0082】
また、フェノフィブラートとメトホルミンとを併用投与した場合とフェノフィブラート又はメトホルミンのいずれか一方による単独療法の場合とを比較すると、Zuckerラットの体重増加に及ぼす効果は、フェノフィブラート又はメトホルミンのいずれか一方単独の効果を足した効果ではなく、相乗的な効果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血清トリグリセリド値低下用医薬組成物を製造するための、PPARαアゴニスト、メトホルミン及び医薬品に許容される担体の使用。
【請求項2】
代謝症候群治療用医薬組成物を製造するための、PPARαアゴニスト、メトホルミン及び医薬品に許容される担体の使用。
【請求項3】
肥満治療用医薬組成物を製造するための、PPARαアゴニスト、メトホルミン及び医薬品に許容される担体の使用。
【請求項4】
PPARαアゴニストは、ゲムフィブロジル、フェノフィブラート、ベザフィブラート、クロフィブラート及びシプロフィブラート、フィブリン酸誘導体、又は、前記フィブリン酸誘導体の医薬品に許容される塩若しくはエステルからなる群より選択されるフィブラート系薬剤である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
フィブラート系薬剤は、フェノフィブラート、フェノフィブリン酸、又は、フェノフィブリン酸の医薬品に許容される塩若しくはエステルである
ことを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項6】
PPARαアゴニストの有効な投与量は一日当たり約10〜約3000mgである
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
メトホルミンの有効な投与量は一日当たり約10〜約3000mgである
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
PPARαアゴニスト及びメトホルミンを同時に投与する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
PPARαアゴニスト及びメトホルミンを順次投与する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
血清トリグリセリド値を低下させるための、代謝症候群を治療するための、又は、肥満を治療するためのキットを製造するための、PPARαアゴニスト及びメトホルミンの使用であって、
前記キットは二つの別個の組成物を含み、そのうち一方の組成物はPPARαアゴニストを、もう一方はメトホルミン又はその医薬品に許容される塩を含む
ことを特徴とする使用。
【請求項11】
治療を要する患者に有効な投与量のPPARαアゴニストとメトホルミンとを併用投与することを含む
ことを特徴とする、血清トリグリセリド値を低下させるための、代謝症候群を治療するための、又は、肥満を治療するための方法。
【請求項12】
PPARαアゴニストは、ゲムフィブロジル、フェノフィブラート、ベザフィブラート、クロフィブラート及びシプロフィブラート、フィブリン酸誘導体、又は、前記フィブリン酸誘導体の医薬品に許容される塩若しくはエステルからなる群より選択されるフィブラート系薬剤である
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
フィブラート系薬剤は、フェノフィブラート、フェノフィブリン酸、及び、フェノフィブリン酸の医薬品に許容される塩又はエステルである
ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
PPARαアゴニストの有効な投与量は一日当たり約10〜約3000mgである
ことを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
メトホルミンの有効な投与量は一日当たり約10〜約3000mgである
ことを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
PPARαアゴニスト及びメトホルミンを同時に投与する
ことを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
PPARαアゴニスト及びメトホルミンを順次投与する
ことを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PPARαアゴニスト、メトホルミン及び医薬品に許容される担体を含有する肥満治療用医薬組成物。
【請求項2】
PPARαアゴニストは、ゲムフィブロジル、フェノフィブラート、ベザフィブラート、クロフィブラート及びシプロフィブラート、フィブリン酸誘導体、又は、前記フィブリン酸誘導体の医薬品に許容される塩若しくはエステルからなる群より選択されるフィブラート系薬剤である
ことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
フィブラート系薬剤は、フェノフィブラート、フェノフィブリン酸、又は、フェノフィブリン酸の医薬品に許容される塩若しくはエステルである
ことを特徴とする請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
PPARαアゴニストの有効な投与量は一日当たり約10〜約3000mgである
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
メトホルミンの有効な投与量は一日当たり約10〜約3000mgである
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
PPARαアゴニスト及びメトホルミンを同時に投与する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
PPARαアゴニスト及びメトホルミンを順次投与する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
PPARαアゴニストを含む第一の組成物と、メトホルミン又はその医薬品に許容される塩を含む第二の組成物とからなるキットである
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。

【公表番号】特表2006−508995(P2006−508995A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−554485(P2004−554485)
【出願日】平成15年11月26日(2003.11.26)
【国際出願番号】PCT/EP2003/013302
【国際公開番号】WO2004/047831
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(505199382)フルニエ ラボラトリーズ アイルランド リミテッド (8)
【Fターム(参考)】