説明

血管の健康状態を評価する装置及び方法

【課題】血管の健康状態を評価するための改良された方法及び装置を提供する。
【解決手段】導電率測定を利用して個人の血管の健康状態を評価するかまたは血管の状態を診断する方法及び装置を提供する。例示的な方法は、第1の高さにおいて体肢の1回目の導電率測定を行うステップと、体肢を第2の高さまで上げるステップと、第2の高さにおいて2回目の導電率測定を行うステップと、1回目と2回目の導電率測定の測定値を比較し、導電率変化量Δσを求めるステップとを含む。別の例示的な方法は、一定期間にわたって導電率センサを個人に隣接した状態に維持するステップと、一連の導電率測定を行うステップと、前記期間にわたって一連の導電率測定の測定値を用いて導電率の過渡的挙動を判定するステップと、導電率の過渡的挙動を用いて個人の血管の健康状態を評価するステップとを含む。導電率測定用の導電率センサ及び足載せ台も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2009年5月27日出願の米国仮特許出願第61/156,269号(特許文献1)、2009年5月12日出願の米国特許出願第12/464,431号(特許文献2)及び2009年5月12日出願の米国特許出願第12/464,640号(特許文献3)に基づく優先権を主張する。これらの文献は、引用を以て本明細書の一部となす。
【0002】
本発明は、導電率測定を利用して個人の血管の健康状態を評価するかまたは血管の状態を診断する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
導電率測定を用いてヒト組織試料の種々の特性を分析することにより多くの実際的な利益がもたらされることは、既に明らかにされている。例えば、導電率測定を用いて、患部組織と健康な組織とを区別することができる。ヒト組織試料の導電率測定を行うために、従来の電極法及び誘導コイル法の両者が用いられてきた。
【0004】
ヒト組織の導電率を測定するための従来の電極は、通常、対象となる試料に交流電圧を印加する。試料中を流れる電流が測定され、導電率が計算される。場合によっては、試料の至るところで導電率が空間的に変化する状況における試料の画像処理が可能となるように、多くの電極が取り付けられる。
【0005】
従来の電極法の欠点は、組織試料との直接的な電気的接続を必要とすることである。このことは、ヒト組織試料に特によく当てはまる。というのも、試料を流れる電流の流れを表皮の角質層が妨げるので、導電率測定値が変化しやすくなるからである。従来の電極法はまた、電極の分極により導電率測定の精度にマイナスの影響を及ぼすことがある。
【0006】
誘導コイル法及び導電率測定用機器には、ソレノイド、または巻線で構成される単純なループ型コイルを含む、多種多様な誘導コイル構造が用いられてきた。これらのコイルは、骨及び/または内臓器官の干渉を受け得る深さでヒト組織試料をプロービングし、導電率測定を歪めることがある。これらのデバイスの多くはまた、複素インピーダンスなどのコイル関連パラメータを測定するための高価な器具の使用を必要とし、かつ、誘導コイルが試料と隣接して置かれたときにコイルが共振状態から外れるようにする回路を用いており、導電率の測定をより困難にしている。
【0007】
非特許文献1には、従来の電極法を用いた肝臓腫瘍の導電率測定により異常組織すなわち患部組織が健常組織とは異なる電気特性を示すことを実証することが記載されている。
【0008】
非特許文献2には、導電率測定により脳組織内の浮腫の存在を同定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国仮特許出願第61/156,269号明細書
【特許文献2】米国特許出願第12/464,431号明細書
【特許文献3】米国特許出願第12/464,640号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】D. Haemmerich, ST. Staelin, J. Z. Tsai, "In vivo Electrical Conductivity of Hepatic Tumors," Physiological Measurement Vol. 24, pp. 251-260 (2003)
【非特許文献2】L.W. Hart, H.W. Ko, J. H. Meyer, DP. Vasholz, and R.I. Joseph, "A noninvasive electromagnetic Conductivity Sensor for biomedical applications," IEEE Transactions on Biomedical Engineering, Vol. 35, No. 12, pp. 1011-1022 (1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
導電率測定を用いてヒト組織の健康状態を評価するための様々な方法及び装置が既に開発されているが、本発明に従って以下に示されるような所望の特性を全て網羅するように全般的に考案されたものは未だ現れていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様では、個人の血管の状態を判定する方法が開示される。本方法は、第1の高さにおいて個人の体肢の1回目の導電率測定を行うステップを含む。個人の体肢は、腕であってもよいし、脚であってもよい。1回目の導電率測定を行った後、本方法は、個人の体肢を第2の高さまで上げるステップと、第2の高さにおいて2回目の導電率測定を行うステップとを含む。例えば、第1の高さを個人の心臓の高さと実質的に同じかまたはそれより低い位置に設定し、第2の高さを個人の心臓より高い位置に設定することができる。本方法は、1回目の導電率測定の測定値と2回目の導電率測定の測定値とを比較し、体肢の高さ変更に応じた体肢の導電率変化量を求めるステップを含む。導電率変化量Δσを用いて、個人の血管の状態を判定することができる。
【0013】
本発明のこの特定の態様の或る変形形態では、導電率変化量Δσを用いて、特定の個人が末梢動脈疾患を有するか否かを判定することができる。本発明のこの特定の態様の別の変形形態では、導電率変化量Δσを用いて、患者の体温上昇をモニタし、循環性ショックをモニタし、かつ/または個人が静脈閉塞または動脈閉塞を有するか否かを判定することができる。
【0014】
本発明のこの特定の態様のさらに別の変形形態では、本方法は、個人の血圧測定、例えば、拡張期血圧(最低血圧)測定及び/または収縮期血圧(最大血圧)測定を行うステップをさらに含み得る。血圧測定値を導電率変化量Δσと併用して個人の血管の状態を判定することができる。
【0015】
本発明のこの特定の態様のさらにまた別の変形形態では、1回目及び2回目の導電率測定は、誘導コイルを含む導電率センサを用いて行われることができる。誘導コイルは、個人の皮下約15mmまでの深さで試料をプロービングするように構成されることができる。本発明の特定の態様では、誘導コイルは、外周の方向に向かって外向きに渦巻形状を形成している第1の導電性素子と、第1の導電性素子に機能的に接続されている第2の導電性素子とを含む。第2の導電性素子は、外周から内向きに渦巻形状を形成し、第1の導電性素子に対して交互に配置されることができる。本発明の他の特定の態様では、誘導コイルはリアクタンス回路の一部であって、リアクタンス回路は、抵抗素子と、容量性素子と、並列に接続された誘導コイルとを含む。導電率センサは、誘導コイルが体肢の導電率を測定しているときにリアクタンス回路を共振に導くように構成された制御回路を含み得る。
【0016】
本発明の別の態様は、個人の血管の健康状態を評価する方法に関する。本方法は、個人の1回目の導電率測定を行うステップと、その後に個人の血管系に刺激を与えるステップとを含む。例えば、本発明の特定の態様では、個人に激しい運動をさせることによって血管系に刺激が与えられる。本明細書において、「激しい運動」なる語は、個人に約6代謝当量(Metabolic Equivalent Task:MET)以上のエネルギーを消費させるのに十分な運動を含むものとする。この特定の態様の種々の変形形態では、第1の高さにおいて体肢の1回目の導電率測定を行うことができ、第2の高さにおいて体肢の2回目の導電率測定を行うことができる。第1の高さを個人の心臓の高さと実質的に同じかまたはそれより低い位置に設定し、第2の高さを個人の心臓より高い位置に設定することができる。
【0017】
本発明の別の態様は、個人の血管の健康状態を評価する方法に関する。本方法は、導電率センサを個人に隣接した状態に維持するステップと、個人の一連の導電率測定を行うステップとを含む。一連の導電率測定は、或る期間にわたって複数回の導電率測定を行うステップを含む。本方法は、一連の導電率測定を用いて、前記期間にわたる個人の導電率の過渡的挙動を判定するステップと、過渡的挙動を用いて個人の血管の健康状態を評価するステップとをさらに含む。本明細書において、個人の導電率の「過渡的挙動」なる語は、或る期間にわたる個人の導電率の挙動または変化を指す。
【0018】
本発明のこの特定の態様の種々の変形形態では、一連の導電率測定は、体肢を個人の心臓より上に上昇させたときに行われる。本発明の特定の態様では、前記期間にわたって、規則的な所定の間隔で、複数回の導電率測定が行われる。
【0019】
本発明のさらに別の態様は、或る期間にわたって個人の導電率を連続的にモニタするための導電率センサに関する。導電率センサは、導電率測定を行うための誘導コイルと、一連の導電率測定を行うよう導電率センサに指示するように構成されたコントローラとを含む。一連の導電率測定は、或る期間にわたって行われる複数回の導電率測定を含む。導電率センサはまた、ハウジングを含む。ハウジングは、一連の導電率測定が行われている間に導電率センサを個人に隣接した状態に維持するように適合され得る。
【0020】
本発明のこの特定の態様の種々の変形形態では、導電率センサは、一連の導電率測定の測定値を保存するように構成されたデータベースを含むことができる。特定の態様では、導電率センサは、一連の導電率測定値を遠隔装置に伝達するための通信機器を含むことができる。さらに別の特定の態様では、導電率センサは、複数回の導電率測定のうちの或る導電率測定値が所定の閾値に達したときにアラートを始動させるためのアラートシステムを含むことができる。
【0021】
本発明のこの特定の態様の他の種々の変形形態では、導電率センサのハウジングは、個人の体肢に固定されるように適合される。例えば、導電率センサを個人の体肢に固定するために、導電率センサはストラップを含むことができる。別の特定の態様では、接着剤によって導電率センサを個人に固定することができる。さらに別の態様では、導電率センサは、個人の体肢を支持するために用いられる医療用スリングの一部であってよい。さらに別の態様では、導電率センサは、法執行官(警察官)または軍人が着用する衣服または制服の一部であってよい。
【0022】
本発明のさらに別の態様は、個人の導電率を測定するための足載せ台(プラットホーム)ユニットに関する。足載せ台ユニットは、足載せ台ユニット上に立つ個人を支持するように構成された基部と、足載せ台ユニット上に立つ個人の足の導電率測定を行うための誘導コイルとを含む。足載せ台ユニットは、個人に対して導電率測定値を表示するように構成された表示装置を含むことができる。この特定の態様の種々の変形形態では、足載せ台ユニットは、足載せ台ユニット上に立つ個人の足の導電率測定を行うための誘導コイルを複数含むこともできる。
【0023】
本発明のこれら及び他の特徴、態様及び利点は、以下の説明及び添付の請求項を参照することでよりよく理解されるであろう。本発明の保護対象の種々の実施形態及び種々の好適実施形態は、本明細書に開示されている特徴、ステップまたは構成要素またはそれらと等価なものの様々な組合せまたは構成(図面に明示されていないかまたは図面の詳細な説明に記載されていない特徴、部品またはステップの組合せまたはその構成を含む)を含み得ることが分かるであろう。本発明の保護対象の追加的な実施形態は、必ずしも「課題を解決するための手段」に明記したものではないが、上記「課題を解決するための手段」において言及した特徴、部品またはステップ及び/または、本願の別段に記載されている他の特徴、部品またはステップの態様の様々な組合せを含有及び包含し得る。当業者は、本明細書の残りの部分に目を通すことによって、そのような実施形態の特徴及び態様などをさらに十分に理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の例示的な実施形態に関連する例示的なステップのフロー図。
【図2】本発明の別の例示的な実施形態に関連する例示的なステップのフロー図。
【図3】本発明のさらに別の例示的な実施形態に関連する例示的なステップのフロー図。
【図4】本発明の例示的な実施形態に従う例示的な導電率センサのブロック図。
【図5a】本発明の例示的な実施形態に従う例示的な誘導コイルの平面図。
【図5b】図5aに示した例示的な誘導コイルの平面図であって、第2の導電性素子が、内向きに渦巻形状を形成し、第1の導電性素子に対して交互に配置されている。
【図6a】本発明の一実施形態に従って、個人の体肢に隣接した状態が維持されるように適合された例示的な導電率センサ。
【図6b】図6aに示した例示的な導電率センサの平面図。
【図7】本発明の例示的な一実施形態に従う例示的な足載せ台ユニット。
【図8】後述する臨床研究#1及び臨床研究#2中に得られたデータ。
【図9】後述する臨床研究#1及び臨床研究#2中に得られたデータ。
【図10】後述する臨床研究#1及び臨床研究#2中に得られたデータ。
【図11】後述する臨床研究#1及び臨床研究#2中に得られたデータ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
全体として、本発明は、導電率測定を利用して個人の血管の健康状態を評価するかまたは血管の状態を診断する方法及び装置に関する。例えば、本発明の特定の実施形態は、導電率測定を利用することにより、末梢動脈疾患を診断し、患者の体温上昇をモニタし、循環性ショックをモニタし、個人の血流をモニタし、個人が静脈閉塞または動脈閉塞を有するか否かを判定し、あるいは他の血管の状態を判定するかまたは別のやり方で個人の血管の健康状態を判定する方法及び装置に関する。
【0026】
ここで、本発明の実施形態について詳細に言及し、本発明の1若しくは複数の例を図面に示す。各例は、本発明の例として提供されているものであって、本発明を限定するものではない。実際には、本発明の範囲または趣旨から逸脱することなく本発明の様々な変更形態及び変形形態を作り出すことができることは、当業者には明白であろう。例えば、一実施形態の一部として図示または記載されている特徴を別の実施形態とともに用いて、さらなる実施形態を生み出すことができる。それゆえ、そのような変更形態及び変形形態も、添付の特許請求の範囲及びその等価範囲内に入るものとして本発明に含めるものとする。
【0027】
皮膚の真下の軟部組織は、主として、血管組織及び間質液からなる二相媒質で構成されている。皮膚に隣接する血管組織は通常、非常に小さい血管、例えば、毛細血管、細動脈、細静脈などを含む。ヒト組織のこの血管組織部分は、比較的導電率が低いと見なされている。血管組織の導電率が低い原因は、毛細血管壁の絶縁性と、非導電性血液細胞が電荷担体のための通路を増加させる傾向とに帰すると考えられよう。しかし一方で、間質液の導電率は、毛細血管の導電率よりもかなり高いと推量されてきた。例えば、間質液の導電率を約2.0S/mと推量している研究もある。
【0028】
毛細血管床系の収縮または拡張能力が、血管壁及び血管を取り囲む隣接組織の硬さによって決まることを考えると、血管の機械的ストレスの変化に応じた組織導電率を測定する技術は、血管床の硬さの評価のための効果的な手法を提供するはずである。血管組織の体積分率を減少させることになる刺激(機械的刺激でも生理的刺激でも)が与えられれば、ヒト組織の導電率は増加することになる。同様に、血管組織の体積分率を増加させることになる刺激(機械的刺激でも生理的刺激でも)が与えられれば、ヒト組織の導電率は減少することになる。
【0029】
血管組織体積がヒト組織導電率に及ぼす影響については、アーチーの法則を参照して説明することができる。間質液の導電率をσ、体積分率をθとすると、表皮の下の軟部組織の導電率は、アーチーの法則によって以下のようにモデル化できる。
【数1】

ここで、aは、ほとんどの場合に無次元の定数であり、その値は様々な因子によって決まる。
【0030】
非ゼロ導電率のための十分なパーコレーションを有するように、間質液体積分率は臨界値θを上回っていなければならない。血管体積分率は1−θに等しい。間質液体積分率が臨界体積分率を優に上回っていれば、導電率は、血管組織体積分率の僅かな変化に極めて敏感であることが期待される。
【0031】
血管を収縮または拡張させやすい自然の状態がある。例えば、体肢の毛細血管は、冷やされると収縮する傾向があり、体肢の血液量を低下させる正味の影響がある。それゆえ、冷やされたであろう体肢の導電率の測定は、毛細血管床が占める体積の減少に起因する導電率の増加に寄与するはずである。
【0032】
血管床を収縮または拡張させる別の方法は、心臓に対する相対的な体肢の高さを変えることである。高さ変更は、血管内の流体の呼び圧力を変え、容易に血圧を40mmHg変化させる(上げるかまたは下げる)。これは、正常血圧約120/80mmHgのかなりの割合である。健常成人では、体肢の高さ変更により血圧が変動し、血圧の変動が血管組織体積を増加または減少させる(それぞれ対応する導電率の減少または増加を伴う)はずである。
【0033】
血管組織体積の体積変化によってヒト組織の導電率の変化を検出する能力は、固有の血管系弾性に依存することになる。健常成人であれば、血圧を適切に調整するために必要な機能すなわち血管が刺激に応じて拡張または収縮する能力により、体肢の血液量が変化する。アテローム性動脈硬化症の場合のように血管床系の病気を罹っていると、血管壁は血小板の堆積が原因で厚くかつ硬くなる。体肢におけるアテローム性動脈硬化症の発症は、通常、末梢動脈疾患と関連している。末梢動脈疾患は、糖尿病患者の約3人に1人が発症する血管の病気である。
【0034】
末梢動脈疾患によるものであれ別の疾患によるものであれ、血管弾性が著しく低下している個人の場合、体肢の高さを心臓より上に上げ/下に下ろす動作を交互に行っている間に行われる体肢の導電率測定により、疾患の重傷度の指標が与えられる。例えば、健常成人は、前腕を頭より上に上げたときに、たとえそれが短時間であったとしても、前腕の導電率の増加が見込まれるはずである。その一方で、血管系を硬くする血管疾患を患っている個人は、体肢を心臓より上に上げたときの体肢の導電率の変化がずっと小さいかまたはもしかすると変化がないことが見込まれる。
【0035】
個人の導電率に影響を及ぼす傾向がある別の変数は、個人の血圧である。機械的または生理的ストレスは体肢の血液量を低下させる傾向にあるが、たとえ被験者がそのようなストレスにさらされようとも、その人の血圧が高ければ、血管床系を流れる血液量が多くなりやすいであろう。それゆえ、生理的及び機械的刺激に応じた、導電率測定と併用される血圧測定は、血管の健康状態を分析するための効果的なツールを提供し得る。
【0036】
高さ変更がヒト組織の導電率測定に及ぼす影響及び、ヒト組織導電率と様々な他の変数(拡張期血圧及び収縮期血圧を含む)との関係については、詳細に調査されており、臨床研究#1及び臨床研究#2を参照しながら後述する。
【0037】
ここで図1を参照して、個人の血管の状態を判定する方法100に関連する例示的なステップを説明する。本方法のステップ110は、第1の高さにおいて個人の体肢の1回目の導電率測定を行うステップを含む。本明細書において、体肢なる語は、個人の腕または脚を指し得る。「上半身の体肢」は個人の腕を指すが、「下半身の体肢」は個人の脚を指す。
【0038】
ステップ110の導電率測定は、試料の導電率を測定するように構成された任意の機器または装置を用いて行うことができる。例えば、導電率測定は、従来の電極または様々な誘導コイル機器を用いて行うことができる。本発明に従って用いられ得る1つのそのような導電率センサは特許文献2に開示されており、特許文献2は引用を以て本明細書の一部となす。
【0039】
1回目の導電率測定を行った後、ステップ120に示すように、方法100は、個人の体肢を第2の高さまで上げるステップを含む。ステップ130において、方法100は、第2の高さにおいて体肢の2回目の導電率測定を行うステップを含む。第2の導電率測定は、一定期間にわたって体肢を第2の高さまで上げた後に行うことができる。例えば、第2の導電率測定は、約60秒間、または約45秒間、または約30秒間、または約120秒間、または任意の他の期間にわたって体肢を第2の高さまで上げておいた後に行うことができる。2回目の導電率測定を行う前に一定期間にわたって体肢を第2の高さまで上げることによって、個人の血管系には体肢の高さ変更によって与えられる刺激に反応する十分な時間がある。
【0040】
1回目の導電率測定と同様に、試料の導電率を測定するように構成された任意の機器または装置を用いて2回目の導電率測定を行うことができる。1回目及び2回目の導電率測定の測定値の正確な比較を確保するために、1回目の導電率測定を行うための機器または装置と2回目の導電率測定を行うための機器または装置とが同じであることが好ましい。
【0041】
体肢の第1及び第2の高さは、血管床量変化をうまく利用するために互いに異なっている限り、体肢が到達可能な任意の高さであってよい。特定の実施形態では、第1の高さは個人の心臓の高さと実質的に同じかまたはそれより低い位置に設定され、第2の高さは個人の心臓より高い位置に設定される。このようにして、本発明は、上昇させた体肢の血圧の減少によって引き起こされる血管床量の減少をうまく利用することができる。
【0042】
特定の実施形態では、1回目の導電率測定は、個人の腕を個人の心臓の高さと実質的に同じかまたはそれより下の位置で伸ばした状態かまたは置いた状態のときに行うことができ、一方で、2回目の導電率測定は、腕を個人の頭の位置より高く上げて行われる。別の例示的な実施形態では、1回目の導電率測定は、個人の脚が個人の心臓の高さと実質的に同じかまたはそれより低い位置に置かれるように個人が横になっている間に行うことができる。2回目の導電率測定は、脚が個人の心臓より高い位置にくるように脚を高く上げた状態で行うことができる。例えば、2回目の導電率測定は、個人の脚を医療用スリングに入れて高く上げているときに行うことができる。
【0043】
2回目の導電率測定を行った後、ステップ140において、本発明の手法は、1回目の導電率測定の測定値と2回目の導電率測定の測定値とを比較して、体肢の高さ変更に応じた体肢の導電率変化量Δσを求める。導電率変化量Δσは、2回目の導電率測定値と1回目の導電率測定値との差を指す。後述するように、導電率変化量Δσを用いて個人の血管の状態を診断することができる。
【0044】
例えば、一実施形態では、導電率変化量Δσを用いて末梢動脈疾患の進行をモニタすることができる。以下の臨床研究#1及び臨床研究#2において説明するように、導電率変化量Δσは、血管組織の柔軟性に比例する。健常な、すなわち例えば末梢動脈疾患の発症によって硬くなっていない血管組織を持つ個人の場合、導電率変化量Δσは、硬くなった血管組織を持つ個人より大きいはずである。このように、導電率変化量Δσは血管床の柔軟性の指標を与えるので、本発明に従う導電率変化量Δσの分析は、個人の末梢動脈疾患の進行をモニタするための有用なツールを提供する。本方法は他に、患者の冷えをモニタするため、循環性ショックの進行をモニタするため、個人の血流または血液量をモニタするため、及び/または個人が血管系の動脈閉塞または静脈閉塞を有するか否かを判定するために適用することができる。
【0045】
この実施形態の或る変形形態では、方法100は、ステップ150に示されているように、個人の血圧測定を行うステップをさらに含み得る。血圧測定は、当分野で既知の従来の方法によって行われる収縮期血圧測定及び拡張期血圧測定の両者を含み得る。方法100は、ステップ160に示されているように、血圧測定値を導電率変化量Δσと併用して個人の血管の状態を評価することができる。例えば、臨床研究#1及び臨床研究#2において詳細に説明するように、拡張期血圧が低い者ほど体肢の高さに応じた導電率変化量Δσがより顕著になり、収縮期血圧が高い者ほど導電率変化量Δσをほとんどまたは全く示さないであろう。
【0046】
別の例として、導電率変化量Δσを血圧測定値と併用して、或る個人が静脈閉塞または動脈閉塞を有するか否かを判定することもできる。例えば、臨床研究#2で後述するように、高血圧を示しかつ著しい導電率変化量Δσを示す個人は誰でも、ある程度動脈閉塞の疑いがある。
【0047】
ここで、図2を参照して本発明の別の例示的な実施形態について説明する。ステップ210に示すように、方法200は、個人の1回目の導電率測定を行うステップを含む。ステップ210の導電率測定は、試料の導電率を測定するように構成された任意の機器または装置を用いて行うことができる。
【0048】
導電率測定を行った後、方法200は、個人の血管系に刺激を与えるステップを含む。刺激は、個人の血管系を流れる血流の変化をもたらす如何なる生理的刺激または機械的刺激であってもよい。例えば、一実施形態では、刺激は、個人の体肢を個人の心臓の位置より高く上げることであってよい。
【0049】
特定の実施形態では、個人の血管系に刺激を与えるステップは、個人に激しい運動をさせることによって実行される(図2のステップ220)。本明細書において、「激しい運動」なる語は、個人に約6代謝当量(Metabolic Equivalent Task:MET)以上のエネルギーを消費させるのに十分な運動を含むものと定義される。個人は、例えば、ランニング、ジョギング、ウォーキング、クロストレーニング、クロスカントリースキー、ボート漕ぎ、または個人の心拍数を増加させる任意の他の活動などの有酸素運動が義務付けられることによって、激しい運動をさせられることがある。特定の実施形態では、激しい運動は、例えば、トレッドミル(ランニングマシン)、エリプティカルマシン、ボート漕ぎマシン、フィットネスバイク(エアロバイク)、ステアクライマー、ノーチラス社(nautilus)製フィットネス機器、または任意の他の機器を含む様々な機器上で行うことができる。
【0050】
例えば個人に激しい運動をさせるなどして個人の血管系に刺激を与えた後、方法200は、個人の2回目の導電率測定を行うステップ230を含む。1回目の導電率測定と同様に、試料の導電率を測定するように構成された任意の機器または装置を用いて2回目の導電率測定を行うことができる。1回目及び2回目の導電率測定の測定値の正確な比較を確保するために、1回目の導電率測定を行うための機器または装置と2回目の導電率測定を行うための機器または装置とが同じであることが好ましい。
【0051】
2回目の導電率測定を行った後、ステップ240において、方法200は、1回目の導電率測定値と2回目の導電率測定値とを比較して、刺激に反応して個人の導電率変化量Δσを求めるステップを含む。導電率変化量Δσは、第2の導電率測定値と第1の導電率測定値との差を指す。ステップ250においては、導電率変化量Δσを用いて、本明細書の教示に従って個人の血管系の健康状態を評価する。
【0052】
多くの場合、体肢の導電率の過渡的挙動を判定するために、或る期間にわたってヒト組織の導電率を連続的にモニタすることが望ましいであろう。導電率の過渡的挙動は、患者または他の個人が適切な暖かさのところにいる(体温が適切である)か否か、循環性ショックの状態になっているか否か、または血液が個人の体肢に正しく流れているか否かを判定する際に特に有用であろう。例えば、或る個人の導電率が突然特定のレベルまで増加したら、それは、体肢の血管床量が突然減少していることを示しており、その人が循環性ショック状態に入っている可能性があることを示している。
【0053】
これらの問題に対処するために、本発明の代替実施形態は、血管の健康状態を評価する方法に関する。ここで図3を参照して、本発明のこの例示的な手法300に関連する例示的なステップについて説明する。ステップ310において、本方法は、一定期間にわたって導電率センサを個人に隣接した状態に維持するステップを含む。図1に示しかつ上記した手法100と同様に、この例示的な実施形態のための導電率センサは、体肢の導電率を測定するための任意の機器または装置であってよい。
【0054】
ステップ320では、導電率センサが個人に隣接した状態に維持されている間に、体肢に対して一連の導電率測定が行われる。一連の導電率測定は、前記期間にわたって複数回の導電率測定を行うステップと含む。複数回の導電率測定は、プログラムされた命令に従って規則的間隔で行ってもよいし、不規則間隔で行ってもよい。一連の導電率測定は、任意の高さに位置する体肢に対して行うことができる。特定の実施形態では、体肢の血管組織体積が機械的または生理的ストレスに特に敏感であるとき、一連の導電率測定は、個人の心臓の位置より高く上げた体肢に対して行われる。
【0055】
ステップ330では、この例示的な実施形態に従う手法300は、或る期間にわたって一連の導電率測定の測定値を用いて導電率の過渡的挙動を判定する。ステップ340で、導電率の過渡的挙動を用いて、個人の血管の健康状態をモニタするかまたは評価することができる。
【0056】
例えば、一実施形態では、過渡的挙動を用いて、患者の体温上昇をモニタすることができる。体温が危険なほど低水準に落ち込んだときには、体肢への血液循環が減少する。患者の体温が上昇すると、血液量は体肢に戻り、結果として体肢の導電率が減少することになる。それゆえ、体肢の導電率の過渡的挙動の分析は、患者の体温上昇の有効性を判定するのに有用であろう。
【0057】
別の実施形態では、過渡的挙動を用いて、或る個人における循環性ショックの発生をモニタすることができる。循環性ショックは、体内組織に届く血流が十分でない状態である。循環性ショックの発生中、組織に流れる血液が減少するので、体内組織の導電率測定値が増加することが見込まれるであろう。それゆえ、循環性ショックの発生をモニタするのに体肢の導電率の過渡的挙動の分析は有用であるだろう。
【0058】
本発明の別の用途は、血液の損失をもたらす損傷を受けるおそれがある状態に個人が置かれ得るような、戦闘、法執行または他のシナリオ(考えられ得る状況)に適用できるであろう。個人は、制服の一部として個人の導電率をモニタする導電率センサを着用する必要がある場合がある。導電率が一定の閾値に達すると、導電率センサは、或る個人が循環性ショック状態に入ろうとしているかもしれないことを警告するアラートを、医療従事者に送ることができる。
【0059】
本発明の他の用途は、挿管部位のプロービング、手術部位感染のプロービング、医療処置または回復中の血行のモニタリング、または様々な他の用途を含み得る。
【0060】
本発明の手法に従う導電率測定は、導電率を測定するための任意の装置または機器を用いて行うことができる。例示的な導電率センサ400のブロック図を図4に示す。図のように、例示的な導電率センサ400は、リアクタンス回路420の一部であってもなくてもよい誘導コイル410と、コントローラ430を備えた制御回路440と、データベースシステム450と、通信機器460と、アラートシステム470とを含む。
【0061】
誘導コイル410は、導電性試料において渦電流を発生させる電場を生じさせることによって導電率測定を行うように構成されたものであってよい。センサ400は、特許文献2に詳細に記載されている技術を用いて試料の導電率を測定するように構成されたものであってよい。特許文献2は引用を以て本明細書の一部となす。
【0062】
特定の実施形態では、導電率センサは、例えば骨及び内臓器官からの干渉を回避する深さでヒト組織試料をプロービングする誘導コイルを有する導電率センサを用いて、導電率測定を行うことができる。例えば、誘導コイルは、個人の皮下約15mmまで体肢をプロービングするように構成されることができる。
【0063】
そのような例示的な誘導コイルを図5aに示す。誘導コイル10は、回路基板15上に配置された導電性素子12を含む。回路基板15は、導電性素子12を機械的に支持するように適合または構成された印刷回路基板または任意の他の基板であってよい。回路基板15は、回路基板15の互いに相反する第1及び第2の面のそれぞれにおいて、導電性素子12を支持する。回路基板15の第1の面14を図5aに示す。
【0064】
図5bに示すように、導電性素子12は、回路基板15の第1の面14上に外向きに渦巻状になっている第1の導電性素子16と、回路基板15の第2の面上に内向きに渦巻状になっている第2の導電性素子18とを含む。第2の導電性素子18は、内向きに渦巻形状を形成し、第1の導電性素子16に対して交互に配置されている。図5bに示した実施形態では、第1の導電性素子16は、外径の方向に向かって外向きに渦巻形状を形成し、回路基板15の反対面に移り、その後第2の導電性素子18として内向きに渦巻形状を形成している。第2の導電性素子18は、第1の導電性素子16と交互に配置されている。
【0065】
誘導コイルの寸法を変更することによって、または誘導コイルリアクタンス回路の共振周波数を調整することによって、誘導センサのプロービング深さを変化させることができる。例えば、誘導コイル10の外径は、約5mm〜120mmの範囲内、例えば約10mm〜80mm、例えば約30mm〜40mm、例えば約35mm、または約38mm、あるいは任意の他の径またはそれらの間の径範囲内のものであってよい。誘導コイルのインダクタンスは、約3〜4μH、例えば約3.2〜3.6μH、例えば約3.4μH、3.5μH、あるいは任意の他のインダクタンスまたはそれらの間のインダクタンス範囲内のものであってよい。誘導コイルの巻線間キャパシタンスは、約10pFであってよい。誘導コイルの自己共振周波数は、約27MHzになるであろう。この特定の実施形態では、さらに並列容量を追加して共振周波数を約15MHzに調整すると、誘導コイルにより生じる電場は約15mm以内の深さまでしか浸透せず、骨及び内臓器官からの干渉が回避されるはずである。
【0066】
引き続き図4を参照すると、誘導コイル410は、リアクタンス回路420の一部であってもよいし、あるいはリアクタンス回路420に結合されてもよい。特定の実施形態では、リアクタンス回路420は、抵抗素子と、容量性素子と、並列に接続された誘導コイルとを含むことができる。導電率センサは、誘導コイル410が個人に隣接した状態に維持されているときにリアクタンス回路320を共振に導くように構成された制御回路440を有することができる。そのような例示的な誘導コイル導電率センサは特許文献2に詳細に記載されており、特許文献2は引用を以て本明細書の一部となす。
【0067】
制御回路440及びコントローラ430は、例示的な導電率センサ400の中央処理/制御回路を形成する。制御回路440は、誘導コイルが試料に隣接して置かれているときにリアクタンス回路を共振に維持するための様々な機器を含み得る。コントローラ430は、導電率センサ400の主要な処理装置である。コントローラ430は、或る期間にわたって所定の規則的または不規則間隔で複数回の導電率測定を行うよう導電率センサに指示するように構成されたものであってよい。このようにして、導電率センサ400を用いて或る期間にわたって試料の一連の導電率測定を行い、試料の導電率の過渡効果を判定することができる。この種の導電率センサは、個人の血管の健康状態をモニタするために特に有用である。
【0068】
引き続き図4を参照すると、導電率センサ400は、コントローラ430に機能的に接続されたデータベースシステム450を含むことができる。データベースシステム450は、導電率センサによって行われた導電率測定の測定値を、将来の使用及び分析のために保存するように構成され得る。例えば、導電率センサ400は、毎秒1回の割合で3時間にわたって一連の導電率測定を行うように、コントローラ430によって指示され得る。別の例として、導電率センサ400は、10ms毎に1回の割合で60秒間にわたって一連の導電率測定を行うように、コントローラ430によって指示され得る。本発明が任意の特定の期間または導電率測定間の時間間隔に限定されるものでないことは、当業者であれば、本明細書に開示されている教示を用いて理解するであろう。導電率測定値を後で分析して過渡効果を判定することができるように、データベースシステム450は、上記期間中に行われる各導電率測定を保存することになる。
【0069】
引き続き図4を参照すると、導電率センサ400は、コントローラ430に機能的に接続された通信機器460を含むことができる。コントローラ430は、様々な遠隔装置(例えば遠隔ラップトップコンピュータなど)とのインターフェースをとるために通信機器460と情報をやりとりすることができる。例えば、コントローラは、データ収集及び制御用途のインターフェースであるブルートゥース(登録商標)方式の無線通信モジュールを介して、遠隔コンピュータと情報をやりとりすることができる。ブルートゥース(登録商標)方式の無線通信インタフェースは、遠隔装置とコントローラ430との間で全二重シリアル通信を可能にするブルーギガ(Bluegiga)WT12ブルートゥース(登録商標)モジュールであってよい。コントローラ430は、1若しくは複数の通信ネットワークを介して通信することもできる。無線機器または媒体は、様々な形態の1若しくは複数のネットワークを含むことができることを理解されたい。例えば、ネットワークは、ダイヤルインネットワーク、ローカルエリアネットワーク(LAN)、広域ネットワーク(WAN)、公衆交換電話網(PSTN)、インターネット、イントラネット、または他のタイプのネットワークを含むことができる。ネットワークは、任意の数及び/または有線、無線、または他の通信リンクの組合せを含むことができる。
【0070】
引き続き図4を参照すると、コントローラ430は、アラートシステム470に機能的に接続されてもよい。アラートシステム470は、試料の導電率が一定の閾値に達したときに可視または可聴アラームを提供するように構成されることができる。例えば、特定の実施形態では、アラートシステム470は、試料の導電率が一定の閾値に達したときにLED機器を点灯させるように構成されたものであってよい。別の実施形態では、アラートシステム470は、試料の導電率が一定の閾値に達したときに可聴アラームを鳴らすように構成されたものであってよい。さらに別の実施形態では、アラートシステム470は、個人の導電率が一定の閾値に達したときに通信機器460を介して遠く離れた職員に通知するように構成されたものであってよい。
【0071】
本発明に従う導電率センサは、導電率センサの目的とする用途に応じて、様々な形態でパッケージングされ得る。例えば、図6a及び図6bに示すように、導電率センサ600を小型ハウジング610内にパッケージングすることができる。本明細書において、「小型ハウジング」なる語は、約25cm未満、例えば約15cm未満、約10cm未満などの長さを有する任意のハウジングを指す。小型ハウジング610は、導電率測定データを保存するための任意のデータベースと、遠隔装置とのインターフェースをとるための通信機器と、導電率測定値が一定の閾値に達した場合にアラートを提供するためのアラートシステムとを含む、導電率センサ600の操作に必要なエレクトロニクス及び電気回路を全て格納する。
【0072】
図6aに示されている小型導電率センサ600は、導電率センサ600を個人に装着または固定するための任意の構造または材料を用いて、個人に隣接した状態に維持されることができる。例えば、図6aに示されているように、導電率センサ600は、導電率センサを個人の腕に固定するために用いられるストラップ620を含むことができる。別の実施形態では、導電率センサ600は、粘着材を用いて個人に隣接した状態に維持されることができる。そのような粘着材は、スリーエム社(3M Company)製の3M両面接着スパンレース不織布テープ9917及び/またはスリーエム社製の3M転写接着剤1524などの医療用皮膚接着剤を含むことができる。導電率センサ600を個人に隣接した状態に維持することによって、導電率センサは、一定期間にわたって試料に対して一連の導電率測定を行うことができる。導電率センサ600は、個人の導電率の過渡効果を判定するべく個人の体肢の導電率を連続的にモニタするために特に有用であろう。
【0073】
図6bは、図6aに示した導電率センサ600の平面図を示している。図のように、導電率センサ600は、図5a及び図5bに示した誘導コイル10と類似している誘導コイル10を含む。試料の導電率を連続的にモニタするべく誘導コイル10を試料に隣接して連続的に維持するために、ハウジング610及びストラップ620が用いられる。
【0074】
本発明の別の例示的な実施形態では、導電率センサは、個人の体肢を上昇させるための医療用スリングの一部として用いられる。スリングは、図4に示したものと同じような、体肢の導電率を連続的にモニタするための導電率センサ400を含むことができる。導電率センサは、例えば体肢の血液循環の減少によって体肢の導電率が一定の閾値に達した場合に、体肢の導電率が一定の閾値に達したことを示す表示またはアラートを提供するように適合されたものであってよい。
【0075】
本発明の別の例示的な実施形態では、導電率センサを衣服または制服に組み込むことができる。そのような導電率センサは、血液の損失をもたらす損傷を受けるおそれがある状態に個人が置かれ得るような、戦闘、法執行または他のシナリオにおいて、特に有用であろう。制服または衣服は、図4に示したものと同じような、体肢の導電率を連続的にモニタするための導電率センサ400を含み得る。上記の衣服または制服を着用している個人の導電率が一定の閾値に達すると、導電率センサは、或る個人が循環性ショック状態に入ろうとしているかもしれないことを警告するアラートを、医療従事者に送ることができる。
【0076】
ここで、図7を参照すると、個人の導電率を測定するための足載せ台ユニット700が開示されている。足載せ台ユニットは、足載せ台ユニット700上に立つ個人を支持するように構成された基部710を含む。基部装置710には、導電率測定データを保存するための任意のデータベースと、遠隔装置とのインターフェースをとるための通信機器と、導電率測定値が一定の閾値に達した場合にアラートを提供するためのアラートシステムとを含む、足載せ台ユニット700の操作に必要なエレクトロニクス及び電気回路を全て含めることができる。
【0077】
図のように、足載せ台ユニット700には、足載せ台ユニット700上に立つ個人の足を受け止めるための2つの領域730及び740が含まれる。領域730及び740内にそれぞれ誘導コイル10が配置されている。これらの誘導コイル10は、図5a及び図5bに示した誘導コイル10と類似したものであってよい。或る個人が足載せ台ユニット700上に立つと、誘導コイル10はその個人の足の導電率測定を行う。導電率測定値は、表示装置750を通じて個人に表示される。特定の実施形態では、導電率測定値は、データベースに保存されて遠隔装置に伝達される得るか、または導電率測定値が一定の閾値またはそれを超えた値である場合にアラームを始動させるために用いられ得る。
【0078】
足載せ台ユニット700により、個人は、家にある典型的な体重計と同じような単純な機器を用いて導電率測定を定期的に行うことができる。血管の健康に問題がある個人は、足載せ台ユニット700を用いれば、自宅から自分の血管の健康状態を定期的にモニタすることができて便利である。
【0079】
臨床研究#1
【0080】
皮膚表面の下から約15mmの深さまで延在する領域内で人体の様々な部位におけるヒト組織の導電率を測定し、最終的には健常成人に対する正常導電率レベルを特定するために、第1の臨床研究を行った。この研究では、25歳から45歳までの40人の健常成人を選び出した。この成人群には、16人の成人男性及び24人の成人女性が含まれていた。体の左右両側のそれぞれ(1)前腕中央部掌側面(mid-volar forearm)(M)、(2)前腕近位部掌側面(proximal volar forearm)(P)、(3)上腕の内側(U)、(4)腰仙部(腰背部)(S)、(5)大腿の内側中央部(T)、(6)ふくらはぎの裏(C)及び(7)足の裏(母指球)(F)を含む7つの位置上でそれぞれ、導電率測定を3回行った。右腕の前腕中央部掌側面を60秒間頭より上の高さに維持した後、最後の測定を1回のみ行った。
【0081】
特許文献2に詳細に記載されているタイプの導電率センサを用いて、導電率測定を行った。特許文献2は引用を以て本明細書の一部となす。
【0082】
各被験者には、全てのセットの測定を終えるために、診療所を全部で4回来診するように依頼した。初診時にサージカルペンでマークを付け、後日の来診で、及び測定毎に、再び同じ位置で測定しやすいようにした。最初の2セットの測定を4時間の間隔を開けて行い、2週間後に、3セット目と4セット目も4時間の間隔を開けて行った。測定中、被験者は、胴を真っ直ぐにし、脚を尻と同じ高さで伸ばした状態で、診察台に楽に座ることができた。一連の測定値を集める前に、被験者は、リラックスして環境に慣れるように、15分間の時間が与えられた。試験室内の温度を約22.2℃(約72°F)に保持し、湿度を約40%に維持した。
【0083】
被験者が、非喫煙者で、過体重でなく(BMI27未満)、心臓血管疾患の治療のために定期的に投薬されていれば、その被験者を健常であると判断した。導電率測定に加えて、体重、身長、血圧(両腕)、尿比重、脈拍、BMI、体水分率、体脂肪率及び骨量の測定も行った。血管疾患による左右の腕の差があることが知られているので、両腕の血圧を測定した。さらに、年齢と、女性の場合には最終月経日を記録した。下表1に、研究中に得たデータの概要を示す。
【表1】

【0084】
表1は、男女別及び位置別に得られた様々な平均をまとめたものである。データが示すように、大腿内側を除いて左右部位間の差は小さいが、大腿内側では、男女の被験者共に左大腿部位の方が約10%高い。
【0085】
研究の一次仮説は、血管床量が減少するにつれて導電率は増加するはずであるというものであった。図8には、右腕を心臓より高く上げた場合と高く上げなかった場合とを比較したマッチドペア検定(matched pair test)の結果が示されている。図のように、右腕を上げている間に全体として観察される導電率の増加は、全被験者で平均して0.33S/mである。図中の最も高い位置にある2つのデータ点は、間違った技法から得られたものなので、分析から除外した。分析が示すように、導電率変化量Δσのデータが0.276S/m〜0.384S/mの範囲内に収まる確率は95%である。
【0086】
臨床研究#1の残りは、導電率と、導電率変化量Δσと、体重、身長、血圧(両腕)、尿比重、脈拍、BMI、体水分率、体脂肪率及び骨量との間に、関係があるか否かの判定に向けられた。臨床研究#1の結果は、以下の通りである。(1)導電率は男性よりも女性の方が名目上約0.36S/m高く、(2)全ての身体位置において、年齢以外の全ての他の被験者変数が一定であるならば、導電率は年齢と共に減少し、(3)全ての身体部位において、収縮期血圧以外の全ての他の変数が一定であるならば、導電率は収縮期血圧の上昇と共に減少し、(4)大部分の位置に関して、導電率は体水分率の増加と共に激減する。
【0087】
臨床研究#2
【0088】
導電率に対する体肢高さの役割についてより広範囲に調べるために、第2の研究を行った。第2の臨床研究は、喫煙者を含む幅広い年齢及びBMI(Body Mass Index:体格指数)に及ぶ多くの被験者に対して行われた。血管の健康状態の低下を示す個人に遭遇する可能性の増加させ、健常者及び健康を害した個人に対してそれぞれ異なるパターンの導電率変化量を明らかにしたいという願望に基づいて、被験者の選択を行った。男性の方が末梢動脈疾患の症状を示す傾向が強いので、被験者には男性しか含まれなかった。
【0089】
この研究には39人の被験者が含まれていた。被験者は6つの群に分けられ、群1を最も健常であると判断し、群6を最も健常でないと判断した。ランク付けは、3つの因子、すなわち、年齢、BMI及び喫煙に基づいて行った。被験者が1日3本以上のタバコを吸うかまたは少なくとも10年間全く喫煙していないかに照らして、喫煙を定量化した。下表2に、群の分布と、危険性(リスク)に照らしてどのようにランク付けしたかを示す。
【表2】

【0090】
括弧内の数字は、群の番号及び当該群に割り当てられたリスクレベル(1が最低、6が最高)の両者を指定している。
【0091】
個々人のさらなる評価を通じて、追加の危険因子を同定した。追加の危険因子としては、高血圧(HBP)、左右不同性血圧(asymmetric blood pressure:ABP)及び糖尿病が挙げられる。総じて、2回の来診ともに来診中の両腕の収縮期血圧が120mmHgを超えた場合、被験者は高血圧であると見なされた。左腕と右腕との平均収縮期血圧の差が5mmHgを超えた場合に、被験者は血圧の左右不同性を有すると考えられた。研究によれば、血圧が左右不同である者には末梢動脈疾患がかなり多く見られることが明らかになった。自発的な申し出があれば被験者を糖尿病患者と考え、糖尿病疾患の検証は行わなかった。4人の被験者が糖尿病であると主張した。6つのリスク群にわたる被験者分布を下表3に示す。
【表3】

【0092】
各群の被験者数が極力等しくなるようにしたが、欠席者がいて、空席を埋める努力を土壇場までした結果、実際には被験者数は等しくならなかった。さらに、群1(最も「健常群」)のBMIを28未満とすることについては、制限条件が十分でないと主張されても当然であろう。しかし、地域社会に過体重者が多いことを考えると、BMIが25またはそれ以下の被験者を見つけることは困難であることが分かった。群1の被験者のBMIの内訳は、21.5、21.6、25.1、25.5、26.1、27.1及び27.4であった。
【0093】
導電率測定値に加えて、各被験者に関して記録した追加データには、年齢、身長、体重、左腕及び右腕の血圧、脈拍、尿比重、BMI、骨量、体水分率、体脂肪率、喫煙、導電率測定時間が含まれる。案の定、これら15個の「被験者変数」は、互いに完全に独立しているわけではなかった。主成分分析(PCA)を行った結果、測定データセットに含まれる被験者変動性を捕らえるために必要なのはこれらの変数のうちの約6個だけであることが明らかになった。
【0094】
体の両側の7つの部位、すなわち1)前腕中央部掌側面、2)前腕近位部掌側面、3)上腕の内側、4)腰仙部、5)大腿の内側、6)ふくらはぎの裏、7)足の母指球で導電率測定を行い、全部で14個の第1の高さの測定値を得た。これらの部位の各々で測定を3回行った(同じ部位に戻る前に14部位全てを順々に測定し、これを繰り返した)。前腕を下げた姿勢で、前腕測定値を得た。被験者は、背中が支えられておらず、脚をほぼ尻の高さで伸ばした状態で、診察台に座っていた。
【0095】
特許文献2に詳細に記載されているタイプの導電率センサを用いて導電率測定を行った。特許文献2は、引用を以て本明細書の一部となす。
【0096】
全ての通常の測定値を得た時点で、体肢を第2の高さまで上げて3回測定し、全ての測定値を同じ時に得た。これらの測定には、a)座位における、上げた左右両前腕近位部掌側面と、b)仰臥位における、上げた左右両ふくらはぎと、c)立位におけるふくらはぎとが含まれていた。上記の座位、仰臥位または立位の各姿勢に関して、被験者は、導電率測定の前に30秒間当該姿勢のままでいた。立位においては、両足に等しく体重を分配するように被験者に依頼した。一方の脚で測定を行うときには、測定されるふくらはぎの筋肉を弛緩させるために、他方の脚に全体重をかけるように被験者に依頼した。2週間の臨床研究を通じて、室温を約20℃(約68°F)に維持した。どの導電率測定の前にも、順応を促進するために、被験者を試験室で約15分間待機させた。
【0097】
臨床研究#2で得られたデータにおける高さ効果を考察する前に、先ず、臨床研究#1の結果を検討する。臨床研究#1では、上記したように、男性女性を問わずほぼ全ての被験者において、右前腕中央部掌側面の導電率が60秒間の高さ維持後にかなり上昇することが観察された。図9は、男性及び女性の両者に対する効果を示すものであり、被験者番号に対する導電率の変化がプロットされている(各被験者に対する測定は、異なる4つの時間に行った)。前腕中央部掌側面の導電率測定に関連する標準偏差が約0.135S/mであれば(全ての性別、全被験者)、変異量のうちの1つのみが明らかに負であると考えられる。それ以外の数個の変異量についても、約−1標準偏差で幾分か負であり得る。
【0098】
図9中には、変化をほとんどまたは全く示さないデータ点が幾つかあるが、大部分は正の導電率変化量を示している。データの広がりの起源を調べるために、図10においてプロットを繰り返し、高血圧(左右いずれかの腕で)を示す臨床研究#1の男性被験者全てを上向きの三角形の印で示した。臨床研究#2に参加したのは男性のみであるので、男性しか含まれていない。結果を図10に示す。上向きの三角形は、収縮期血圧が高い被験者から収集したデータを表している。下向きの三角形は、拡張期血圧が約65mmHg未満の被験者から収集したデータを表している。
【0099】
図10は、収縮期血圧の上昇が、高さ変更に応じて導電率が上昇する(または上昇しない)範囲に影響を与える主要因であることをはっきりと示している。1人の高血圧の個人が平均導電率変化量より上に位置するデータのプール(集まり)に寄与する訳ではないことに留意されたい。右腕の低拡張期血圧が、高さ変更に対するより劇的な上向きの応答に寄与することも明らかである。いずれか一方の臨床研究のための低拡張期血圧は、約65mmHg未満であると定義される。右腕の拡張期血圧が低いと同定された被験者が、負の導電率変化量Δσを示していないことに留意されたい。しかし、低血圧または高血圧単独では、高さによる導電率変化量Δσに影響を与える唯一の因子たりえない。
【0100】
他のパラメータ、例えば、体肢温度(測定せず)及び身長なども、或る役割を果たす可能性がある。後者のパラメータは、被験者にとって可能な高さ変更量と、送出(drainage)のための任意の特徴的な弛緩時間とに影響を及ぼすであろう(背の高い個人ほど「送出」に必要な時間が長くなるであろう)。
【0101】
体肢内の血液の貯留に与える血圧及び温度の影響、及び高さ変更などの機械的摂動に応じた血液貯留量の調整は、複雑な問題である。それにもかかわらず、図9及び図10の挙動は、幾分か血圧が高い個人に関するものであることを考慮に入れても、健常試験群に典型的なものである。拡張期血圧が低い者ほど前腕高さに応じた導電率の増加が顕著になり、収縮期血圧が高い者ほど増加がほとんどまたは全く見られないであろう。
【0102】
臨床研究#2では、1つには被験者への不快感を回避するために、さらには、より短い時間が容認可能であることを別々の測定結果が示しているように見えるという理由から、体肢を上げる時間を30秒間に減らす決定をした。臨床研究#2の試験の2日目しか温度の低下に気付かなかったので、試験室温度に関する最初の決定はなかった。さらに、測定の便宜上、中央部掌側面位置ではなく近位部掌側面位置で前腕測定を行った。これらの実験の変更事項3つ全てが、臨床研究#2の結果に影響を与えたかもしれない。
【0103】
図11は、右前腕近位部掌側面を30秒間高く上げた後の高さ変更に応じた導電率変化量(臨床研究#2)を示している。データは、先ず喫煙によって分類され(1〜48:非喫煙者;49〜78:喫煙者)、次に年齢によって分類される(最高年齢の被験者がプロット上の#48及び#78として現れる)。右腕の収縮期血圧が高い者は、上向きの三角形で示されている。1人の(リスク群1からの)被験者のみが、約65mmHg未満(朝の来診)の右腕拡張期血圧を有していた。この来診中の導電率変化量は0.22±0.06S/mであったが、2回目の来診中には、拡張期血圧が70であったときに導電率変化量は負すなわち−0.128±0.06S/mであった。糖尿病疾患を報告する4人の被験者のうち、3人が高血圧であったが、それ以外の点では図において特に独特なパターンを形成しなかった。1人は2回の来診とも強い負の変化量Δσを表示し、もう1人は、1回は明らかに負、もう1回は正に読みが分かれたが、残りの2人は、2回の来診とも適度に正の導電率変化量Δσを示した。
【0104】
図11の2つの特徴、すなわち、(1)臨床研究#1で分かったように、高血圧は必ずしも導電率変化量Δσの低下につながらないこと、及び(2)負の導電率変化量Δσは、完全に実現可能かつ統計的に有意であることは、極めて明白である。
【0105】
図10と図11との間の変動性の問題に目を向けると、右の近位前腕における導電率測定値に関連する測定値変動性が極めて小さく(〜2.8%)、このことは、データの不確実性は問題ではないことを示唆している。この他に考えられる問題として、位置及び測定期間が挙げられる。すなわち、(1)位置が臨床研究#2では前腕近位部掌側面だが臨床研究#2では前腕中央部掌側面であり、(2)待機時間が臨床研究#2では30秒間であるのに対して臨床研究31では60秒間である。測定値の半分以上が正の導電率変化量Δσを示す場合には、待機時間が短すぎることはないであろう。近位部及び中央部位置における導電率は高い相関性があるので、中央部位置ではなく近位部位置を選択しても顕著な差異が生じることもないように思われる。従って、図11の結果は、明らかに外れている点があるものの、大部分は、何らかの血管健康関連の問題を経験している被験者群から予期される通りのものである。
【0106】
主な負の導電率変化量Δσ及びより大きな変動性そのものがほとんど高齢の喫煙者(#49〜#78)に生じていることは明らかである。図10と図11を比較すると、導電率測定の測定値は血管の健康状態によって大いに影響されると結論付けることが合理的であるように思われる。しかし、導電率測定値による血管の健康状態の判定は、データの正確な収集及び解釈にかかっている。
【0107】
臨床研究#2からは、導電率変化量Δσが負になる結果も得られた。これらの結果に対処するために、高さ変更に応じた導電率変化量Δσ測定値の解釈に役立つ以下の指針及びシナリオが提案された。
【0108】
(1)肢の高さを増加させた結果、健常な血管系において、血管回路(細静脈)から血液がスムーズに送出される。同時に、細動脈を通って毛細血管に供給される血液が減少し、導電率の増加をもたらす。このとき、間質液体積の変化はないものと仮定する。
【0109】
(2)(1)の当然の帰結として、収縮期血圧が非常に高いときには導電率の増加が僅かであるかまたは増加が全くないと見込まれるであろうし、拡張期血圧が低いときには導電率変化量Δσの増加が見込まれるであろう。
【0110】
(3)動脈閉塞のみが存在する場合は、肢を上げていないときでも血管床は依然として充満しているが、困難を伴う。肢が心臓より高い位置にくるように肢を高く上げると、動脈閉塞は、高さ変更に応じた導電率の増加が尚も観察されるように(恐らくは、非常にそうであろう)、そして高い収縮期血圧を有するときでさえも、正常な充満を妨げることがある。
【0111】
(4)血管回路の静脈側からの送出が閉塞のせいで大いに損なわれる(しかし動脈側には閉塞がない)場合には、間質液体積が高さ変更に影響されないと仮定すれば、導電率変化量はそれほど目立たないかまたはほんの僅かである。
【0112】
(5)高さ変更を受けても血液量は実質的に変わらないが、間質液の正味の送出がかなりの程度生じるように間質液が血管またはリンパ管に入る場合、導電率変化量は負になる(恐らくは、もっと言えば大幅にそうなる)はずである。このことは、血管の透過性が高くなるときと、圧力差が大きいので間質液が容易に毛細血管、細静脈及びリンパ管の内外へ移動するときに、異常な問題となり得る。あるいは、送出に遅れをとらないように十分に迅速に間質液を補充することができないときに、強い負の導電率変化量が見込まれるであろう。
【0113】
(6)一般に、末梢血管系に様々な異常状態が存在する場合、上記のシナリオの任意の組合せが存在し、高さ変更などの機械的摂動に対する導電率の複雑な応答をもたらすこともあり得る。
【0114】
上記指針で述べたように、起こり得る広範囲の可能なシナリオを考えると、図11に見られるデータの広がりは、驚くには及ばず、むしろ、臨床研究#2に参加している被験者にありがちな様々な複雑な血管の健康問題を強く示している。かなり明らかなパターンの出現は、例えば臨床研究#1でそうであったように、ずっと注意深く制御された参加者の選択においてのみ予期されるはずである。それゆえ、図11のデータ点の多くは、異常であると考えることができる。具体的には、上記の指針(3)を引き合いに出すと、高血圧でありかつ高い導電率変化量Δσを示す者は皆、ある程度の動脈閉塞の疑いがあるという主張はもっともである。さらに、指針(5)で述べた送出の問題が非常に大きいので、動脈閉塞が送出のペースに合わせるのに十分な速度での間質液の補充を防止する場合には、強い負の導電率変化量Δσを示す全被験者にも疾病の疑いがある。
【0115】
ふくらはぎを上げて導電率測定を行うために、診察台に乗っている間は仰臥位をとるように各被験者に依頼した。その姿勢から、看護師が、左右いずれかの脚を水平から約60°の角度をなすようにして保持した。30秒後に導電率測定を行った。得られたデータは、ふくらはぎの導電率が高さ変更に応じた導電率変化量Δσが非常に大きいことを示している。あらゆる場合において、導電率変化量は正である。
【0116】
臨床研究#1では脚を上げて導電率測定を行うことはしなかったが、臨床研究#1から得られた上げた右前腕の導電率の傾向を説明するために提案された指針を、臨床研究#2で得られた上げたふくらはぎのデータの解釈にも適用した。臨床研究#2中に得られたデータの概説には、以下のことが含まれる。a)いずれの脚にも実質的に同じ上向きの平均導電率変化量が見られる(約1.25S/m)、b)全変異量が正である、c)パネルのうちの、15.24cm(6インチ)の差で最も長身のメンバーが、群1の全メンバーの最小変異を示した(両脚に当てはまる)、d)来診と来診の間の変化が極端である場合がある(1.7S/m;2つの点の標準偏差は約0.075S/mである)、e)左ふくらはぎに関しては、高血圧の被験者に関連する22個のデータ点が95%信頼区間より上にあり、右ふくらはぎに関しては、18個が95%信頼区間より上に、12個が95%信頼区間より下にある。
【0117】
上記した指針を適用すると、臨床研究#2のデータにより、高血圧でありかつ平均を上回る導電率変化量を示す被験者は全てある程度の動脈閉塞を有するはずであるという結論が裏付けられる。この評価は、様々なカテゴリーで正常と判断されるものと異常と判断されるものとの比の比較と完全に一致するように見える。左ふくらはぎデータに目を向けると、リスク群1の正常/異常比は6.0(6.0:1)であるが、全喫煙者の正常/異常比は1.31(1.31:1)である。全体としては、左ふくらはぎのデータは2.25(2.25:1)に等しい比を与える。興味深いことに、リスク群1の「不健康な」左ふくらはぎデータに寄与する同じ2人のリスク群1からの被験者は、リスク群1の不健康な右ふくらはぎデータにも寄与する。50歳超または喫煙する個人(被験者番号>35)に注目すると、大部分の被験者は導電率変化量Δσが平均を超えかつ高血圧疾患であることが、得られたデータを調べて明らかになった。これは、50歳未満でかつ喫煙しない被験者(被験者番号≦35)には、全く当てはまらない。
【0118】
臨床研究#1及び臨床研究#2で得られたデータの分析は、導電率測定値が間質液及び血管組織の相対体積に対して敏感であることを、説得力をもって実証している。特に説得力があるのは、高さが導電率に及ぼす影響と、高さ変更に応じた導電率変化量の程度に関して収縮期血圧及び拡張期血圧の両者が果たすことが示された役割とである。
【0119】
通常予想されることは、体肢の高さの増加に応じて導電率が減少するはずであるということである。体肢を上げるので、血液は細静脈から出やすくなるが、そればかりではなく、細動脈を通って毛細血管に入りかつ毛細血管を充填することがより困難になると予想されるであろう。それゆえ、導電率は、微小血管系の体積分率の減少に応じて増加するはずである。しかし、体肢の高さに応じて導電率が低下することもあり、それは現に測定されている。導電率の低下は様々な因子に左右されやすい傾向にあり、そのような因子には、血管回路に沿って様々な位置に存在し得る閉塞物と、間質液自体が微小血管系を通って測定部位から送出されやすい程度とが含まれ得る。間質液の送出は、皮膚にしっかりと当接して導電率センサを配置した結果、該部位に圧力が加えられるという理由だけで促進され得る。あるいは、仮に或る被験者が、著しい静脈閉塞及び血圧上昇を有するが、微小血管系経由の間質液の送出の十分な機会もあるとすると、導電率は、体肢の高さに応じて急落することもあり得る。これは、臨床研究#2に参加している、より高リスク被験者に見られた。
【0120】
高さ変更に応じた導電率変化量測定は、血管機能障害が疑われる者を特定するのに特に効果的であることが明らかになった。臨床研究#1において健常被験者に対して示されているように、高血圧の個人は、被験者群の平均を下回る導電率変化量を示すはずである。臨床研究#2において様々な危険因子を有する被験者は、低リスク群の被験者よりもこの基準に反する傾向がずっと強いことが示された。具体的には、高血圧の喫煙者は、群平均を上回る導電率変化量を示す傾向が強かった。これは、高血圧の個人から予想されるであろう通常レベルの血液量の発生を防止する血管回路の動脈側の閉塞の結果であると言えよう。
【0121】
ここで、上げていない上肢の導電率測定値に着目すると、様々な分析方法から、既知の健康リスクを有する被験者は、ずっと低リスクの被験者のために確立された基準をはるかに外れた導電率値を記録することが明らかになっている。具体的には、喫煙者は、上肢の部位において、当然有するはずの導電率よりもずっと低い導電率を有する。臨床研究#1に示されているように、例外なく全ての試験部位に対して、各身体部位における導電率は年齢の増加と共に下落する。それゆえ、導電率測定値は、喫煙が加齢と同じ効果を有していたことを示している。
【0122】
導電率データを用いるための別の成功戦略には、全ての身体位置における導電率の外れ値の特定と、設定された様々なリスク群における外れ値分布測定とが含まれていた。外れ値は、リスク群1〜4において見られる傾向が徐々に強くなっていったが、リスク群5及び6においては期待以下しか見られなかった。高血圧及び左右不同性血圧の両疾患を有する被験者から得られたデータ外れ値が同じように分布していたので、外れ値分布分析は、血圧の異常及びそれが引き起こすであろう結果の特定の組合せを特定するのに効果的であろう。例えば、血圧の差異の重要性は、末梢血管疾患に対する可能なマーカとして文献に記されている。
【0123】
臨床研究#2では、予想外に、大部分の被験者の足において予想以上に高い導電率が観察される結果となった。測定中、看護師は、導電率測定のために被験者の足を適所に保持している間、大部分の被験者の足が冷たいことに気付いた。試験室温度は、臨床研究#1を行っている間よりも2.2℃(4°F)低い20℃(68°F)であった。当初は考えられていなかったが、この誤作動は、体肢の血液量の減少が血管体積分率の低下及び結果として導電率の上昇を意味することの、さらなる証拠を提供する結果をもたらした。より涼しい環境は、体肢、特に心臓から最も遠い体肢への血流をいくらか減少させることが期待される。
【0124】
導電率は、上げた体肢において時間の関数として測定され、恐らくは最大2分またはそれ以上持続する間隔にわたり、過渡的挙動を捕捉することになることが理想的である。細静脈内の流速の文献値は約1.0cm/秒であるが、毛細血管内の流速は約0.5cm/秒であると報告されている。高さが導電率に及ぼす影響を知るために血液が移動しなければならない距離が約30cmであれば、名目上の「弛緩時間」は約30〜60秒間であろう。当然のことながら、実際の弛緩時間は、体肢の温度及び筋肉弛緩の程度を含む様々な因子によって決まることになる。より高い血圧が血液量を維持する傾向があること及び臨床研究#2の血圧がかなり上昇する(右腕の拡張期血圧が65mmHgより低かったのは1人の被験者のみであった)ことを考えると、30秒間は短すぎるであろう。立位においてふくらはぎで測定を行う場合、「落ち着く」時間が不十分であるという問題が明白である。というのも、ふくらはぎの筋肉を弛緩させる時間が約3秒間にすぎなかったからである。高さ変更及び筋肉の緊張によって生じる弛緩効果に加えて、導電率センサと皮膚との間の接触圧に関連する弛緩過程もある。
【0125】
本発明の保護対象についてその具体的で例示的な実施形態及び方法を参照しながら詳細に説明してきたが、当然のことながら、当業者は、前述の説明を理解すれば、そのような実施形態の修正形態、変形形態及び等価形態を容易に作り出すことができるだろう。従って、本発明の範囲は、制限としてというよりも例としてのものであり、本発明は、当業者ならばすぐに分かるであろう本発明の保護対象のそのような変更形態、変形形態及び/または追加形態を含めることを除外するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人の血管の状態を判定する方法であって、
前記個人の体肢の1回目の導電率測定を行うステップと、
前記血管系に刺激を与えるステップと、
前記個人の前記体肢の2回目の導電率測定を行うステップと、
前記1回目の導電率測定の測定値を前記2回目の導電率測定の測定値と比較し、前記刺激に応じた前記体肢の導電率変化量を求めるステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記血管系に刺激を与える前記ステップが、前記個人の前記体肢を上げるステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記血管系に刺激を与える前記ステップが、前記個人に運動をさせるステップを含むことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記体肢が第1の高さにあるときに前記1回目の導電率測定を行い、前記体肢が第2の高さにあるときに前記2回目の導電率測定を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の高さが、前記個人の心臓の高さと実質的に同じかまたはそれより低い位置に設定され、前記第2の高さが、前記個人の前記心臓より高い位置に設定されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記1回目及び2回目の導電率測定が、誘導コイルを含む導電率センサを用いて行われることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記導電率センサが、前記個人の皮下約15mmまでの深さにおいて前記体肢をプロービングするように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記誘導コイルが、
外周の方向に向かって外向きに渦巻形状を形成している第1の導電性素子と、
前記第1の導電性素子に機能的に接続されている第2の導電性素子とを含み、
前記第2の導電性素子が、前記外周から内向きに渦巻形状を形成し、前記第1の導電性素子に対して交互に配置されたものであることを特徴とする請求項6または請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、
前記体肢の血圧測定を行うステップと、
前記血圧測定値を前記導電率変化量と併用して、前記個人の前記血管の状態を判定するステップとを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、前記導電率変化量を用いて、前記個人が末梢動脈疾患を有するか否かを判定するステップを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法が、前記導電率変化量を用いて、患者の体温上昇をモニタするステップを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、前記導電率変化量を用いて、循環性ショックをモニタするステップを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、前記導電率変化量を用いて、前記個人が静脈閉塞または動脈閉塞を有するか否かを判定するステップを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
個人の血管の健康状態を評価する方法であって、
一定期間にわたって導電率センサを前記個人に隣接した状態に維持するステップと、
前記期間にわたって行われる複数回の導電率測定を含む前記個人の一連の導電率測定を行うステップと、
前記一連の導電率測定の測定値を用いて、前記期間にわたる前記個人の前記導電率の過渡的挙動を判定するステップと、
前記導電率の前記過渡的挙動を用いて、前記個人の前記血管の健康状態を評価するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記方法が、前記期間にわたって、規則的な所定の時間間隔で、前記一連の導電率測定における前記複数回の導電率測定の各々を行うステップを含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−519015(P2012−519015A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551545(P2011−551545)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際出願番号】PCT/IB2010/050169
【国際公開番号】WO2010/097713
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(310007106)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (19)
【Fターム(参考)】