説明

血管内皮細胞増殖因子産生促進剤および育毛養毛用皮膚外用剤

【課題】副作用がほとんど無く、また着色や不快臭などの問題が無い、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の産生促進効果に優れ、かつ、育毛養毛剤の用途に応用可能なVEGF産生促進剤を提供すること。また育毛養毛効果に優れた育毛養毛用皮膚外用剤を提供すること。
【解決手段】本発明によるVEGF産生促進剤は、加水分解シルク蛋白質を有効成分として含んでなることを特徴とする。また本発明による育毛養毛用皮膚外用剤は、該VEGF産生促進剤の有効成分と、皮膚外用用途に許容されうる添加剤とを含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、血管内皮細胞増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor)(以下において「VEGF」と略すことがある)産生促進剤に関する。詳しくは、本発明は、加水分解シルク蛋白質を有効成分とする血管内皮細胞増殖因子の産生を促進し得る血管内皮細胞増殖因子産生促進剤に関する。また本発明は、血管内皮細胞増殖因子産生促進剤を含有する、優れた育毛養毛効果を発揮し得る育毛養毛用皮膚外用剤に関する。
【0002】
背景技術
従来、薄毛や脱毛の症状を改善する育毛養毛剤として、血行を促進したり、毛母細胞を活性化したりする作用を有する成分が検討されてきた。
毛髪の成長が止まっている休止期の毛包周辺では毛細血管が激減しているのに対し、毛髪が成長している成長期の毛包周辺では多数の毛細血管が新生していることから、毛髪の成長や発毛には、血管新生が密接に関与していると考えられている。血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は血管新生を促進することが知られている。このため、血管新生に関与するVEGFの産生を促進することにより、薄毛や脱毛の症状を改善しようとする試みが報告されている。
【0003】
VEGF産生促進剤としては、例えば、オランダガラシ抽出物(特開2003−313113号公報(特許文献1))、シイタケ、エチナシ、プルーン、モヤシ、アマチャヅルの各抽出物(特開2004−35443号公報(特許文献2))、タコノキ属植物抽出物(特開2004−43393号公報(特許文献3))、ローヤルゼリー(特開2003−192541号公報(特許文献4))、L−グルタミン酸またはその塩、L−セリン、ピロリドンカルボン酸またはその塩、モノニトログアヤコールナトリウム、クロレラの抽出物、ユズの果実の抽出物、ウンショウミカンの果皮の抽出物、エイジツの果実の抽出物、イチョウの葉の抽出物(特開2006−282597号公報(特許文献5))など、多種多様な成分・物質が報告されている。
【0004】
しかしながら、これらのVEGF産生促進剤は、副作用の点から配合が制限される場合があり、また、必ずしもその効果が充分でなかったり、有効量を配合すると着色や不快臭が発生したりするなどの問題があった。
【0005】
加水分解シルク蛋白質については、これまで、抗酸化作用、皮膚炎症防止作用、細胞賦活作用(特開2006−151940号公報(特許文献6))等の種々の作用を有することが報告されている。しかしながら、加水分解シルク蛋白質が直接、VEGF産生促進効果を奏することについては、本発明者らの知る限りこれまで報告されていない。
【0006】
【特許文献1】特開2003−313113号公報
【特許文献2】特開2004−35443号公報
【特許文献3】特開2004−43393号公報
【特許文献4】特開2003−192541号公報
【特許文献5】特開2006−282597号公報
【特許文献6】特開2006−151940号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは今般、加水分解シルク蛋白質が優れた血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の産生促進効果を有していることを予想外にも見出した。この効果は、加水分解シルク蛋白質の平均分子量の値が特定の範囲にある場合に特に顕著であった。また、加水分解シルク蛋白質は実際に優れた育毛養毛効果を示し、血行促進剤や毛母細胞賦活剤と併用すると、その効果はより顕著なものとなった。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0008】
よって本発明は、副作用がほとんど無く、また着色や不快臭などの問題が無い、VEGFの産生促進効果に優れ、かつ、育毛養毛剤の用途に応用可能なVEGF産生促進剤を提供することをその目的とする。また本発明は、育毛養毛効果に優れた育毛養毛用皮膚外用剤を提供することもその目的とする。
【0009】
本発明による血管内皮細胞増殖因子(VEGF)産生促進剤は、加水分解シルク蛋白質を有効成分として含んでなることを特徴とする。
本発明の好ましい態様によれば、加水分解シルク蛋白質の平均分子量は、5,000〜100,000である。また別の好ましい態様によれば、加水分解シルク蛋白質は加水分解セリシンである。さらに本発明のより好ましい態様によれば、加水分解セリシンはアミノ酸組成としてセリンを20〜40モル%含有してなるものである。
【0010】
本発明による育毛養毛用皮膚外用剤は、本発明によるVEGF産生促進剤の有効成分と、皮膚外用用途に許容されうる添加剤とを含んでなる。
本発明の好ましい態様によれば、育毛養毛用皮膚外用剤は、血行促進剤および毛母細胞賦活剤からなる群から選択される少なくとも一種の成分をさらに含んでなる。
【0011】
本発明のより好ましい態様によれば、平均分子量5,000〜100,000の加水分解セリシンと、血行促進剤と、毛母細胞賦活剤とを含んでなる、育毛養毛用皮膚外用剤が提供される。
本発明の一つのより好ましい態様によれば、育毛養毛用皮膚外用剤において、加水分解シルク蛋白質または加水分解セリシンの含有量は、育毛養毛用皮膚外用剤全量に対して、0.0001〜20重量%である。
なお本発明において、育毛養毛用皮膚外用剤は、育毛養毛用皮膚外用剤組成物と言い換えることもできる。
【0012】
本発明によるVEGF産生促進剤は、VEGFの産生促進効果に優れている一方で、既に安全性が確認されている自然物由来の物質を使用するため、副作用がほとんど無く、また既存のVEGF産生促進活性物質に見られたような着色や不快臭などの問題も無い。このため、人体等に安全かつ簡便に適用することが可能である。またVEGFには、血管新生の促進効果があるため、毛髪の成長や発毛の促進に有効である。したがって、本発明によるVEGF産生促進剤は育毛養毛の促進用途にも有効である。また、本発明によれば、VEGF産生促進剤の有効成分を含んでなる育毛養毛用皮膚外用剤も提供され、これは、安全性に優れたものである一方で、優れた育毛養毛効果を発揮する。
【発明の具体的説明】
【0013】
加水分解シルク蛋白質
本発明において用いられる加水分解シルク蛋白質は、シルク蛋白質を、酸、アルカリ、または酵素分解処理のような常法によって、加水分解して得られるものである。ここでシルク蛋白質は、繭糸を構成する2種類の蛋白質であるフィブロインとセリシンの総称として用いるものとする。したがって、加水分解シルク蛋白質は、加水分解フィブロインまたは加水分解セリシンのいずれであってもよく、それらの混合物であってもよい。本発明においては、VEGF産生促進効果の点から、加水分解シルク蛋白質は、好ましくは加水分解セリシンである。
【0014】
ここで、加水分解セリシンは、蚕繭、生糸などの原料を、水との反応で抽出し、例えば、塩酸、硫酸、リン酸等を使用した酸加水分解法、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等を使用したアルカリ加水分解法、または、微生物由来のプロテアーゼを使用した酵素分解法に付すことにより、原料中のセリシンを部分加水分解して溶出し、得ることができる。さらに、これを分離精製することによって、高純度の加水分解セリシン水溶液を得ることができる。さらに、熱風乾燥、減圧乾燥、または凍結乾燥などの処理に付して乾燥させ、固体としてもよい。具体的には、例えば、後述する実施例の方法に従い、加水分解セリシンを得ることができる。
【0015】
なお、上記加水分解セリシンの取得において、より過酷な条件で、酸、アルカリ、または酵素を作用させることによって、セリシンのみならずフィブロインも加水分解することが可能である。これによって、加水分解セリシンおよび加水分解フィブロインの混合物を得ることができる。
【0016】
一方、加水分解フィブロインの単体は、セリシンを溶出させて残る繊維状のフィブロインを中性塩水溶液で処理して溶解させた後、酸、アルカリ、または酵素を使用した加水分解法に付すことにより得ることができる。さらに、これを分離精製することによって、高純度の加水分解フィブロイン水溶液を得ることができる。さらにこれを熱風乾燥、減圧乾燥、または凍結乾燥などの処理に付して乾燥させ、固体としてもよい。
【0017】
このようにして得られる加水分解シルク蛋白質の分子量は、通常、1,000〜200,000の範囲に分布しており、本発明においては、そのいずれのものも使用可能である。本発明の好ましい態様によれば、加水分解シルク蛋白質の平均分子量は、5,000〜100,000であり、より好ましくは、10,000〜50,000であり、さらに好ましくは、20,000〜40,000である。加水分解シルク蛋白質の平均分子量が5,000未満であると、VEGF産生促進効果が低下する傾向にあり、平均分子量が100,000を超えると、それ自身の水溶性が低下して取扱い性が低下することがあるとともに、水溶性低下に起因して、得られる効果が低下することがある。
【0018】
本発明において、好ましく用いられる加水分解セリシンは、アミノ酸組成としてセリンを20〜40モル%含有してなるものであることがより好ましい。セリン含有量が20モル%未満であると、VEGF産生促進効果が低下する傾向にある。
【0019】
本発明において用いられる加水分解シルク蛋白質(好ましくは加水分解セリシン)は、易水溶性であり、水溶液として安定な性状を維持することができる。このため、該加水分解シルク蛋白質は、食品、医薬品、医薬部外品、および化粧料に通常添加されうる成分との混和性に優れている。また、該加水分解シルク蛋白質は、無毒、無味、無臭であって、皮膚に対する刺激性や感作性もなく、安全性に優れている。
【0020】
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)産生促進剤
前記したように、本発明によるVEGF産生促進剤は、加水分解シルク蛋白質を有効成分として含んでなる。ここで「有効成分として含んでなる」とは、本発明による促進剤が、所望のVEGF産生促進効果を発揮するのに充分な量(すなわち、有効量)の加水分解シルク蛋白質を含有することをいう。
【0021】
したがって、加水分解シルク蛋白質自体を、そのままVEGF産生促進剤として用いてもよいが、このような有効量で有効成分を含み、かつVEGF産生促進効果を損なわない限りにおいて、本発明による促進剤は、他の添加剤を含んでなることもできる。このような添加剤としては、例えば、油性成分、界面活性剤、保湿剤、賦形剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、香料、防菌防黴剤等の一般的な食品、医薬品、医薬部外品および化粧料用添加剤を挙げることができる。
また、本発明によるVEGF産生促進剤は、必要に応じて、液剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、粉剤、顆粒剤、丸剤等、種々の剤型で提供することができる。
【0022】
前記したようにVEGFには、血管新生の促進効果があるため、毛髪の成長や発毛の促進に有効であるため、本発明によるVEGF産生促進剤を、育毛または養毛の促進剤として使用することもできる。
【0023】
育毛養毛用皮膚外用剤
本発明によるVEGF産生促進剤は、食品、医薬品、医薬部外品、化粧料に含有させることができる。中でも、頭皮に外用で適用される組成物に含有させて使用すると、適用個所においてVEGFの産生を促進し、毛包周辺の血管新生を誘導して、毛包の休止期から成長期への移行を促進させたり、あるいは毛包の成長期を延長させたりすることができる。これにより、毛髪の成長や発毛を促進することができる。このため、本発明において、VEGF産生促進剤、すなわちその有効成分は、育毛養毛の目的で使用することができ、育毛養毛用の皮膚外用剤の形態で提供することができる。この育毛養毛用皮膚外用剤の毛髪状態の改善効果については、後述する実施例において示されるように、実際に確認されている。
【0024】
よって前記したように、本発明によれば、本発明によるVEGF産生促進剤の有効成分と、皮膚外用用途に許容されうる添加剤とを含んでなる、育毛養毛用皮膚外用剤が提供される。ここで、育毛養毛用皮膚外用剤の剤型は特に限定されるものでなく、例えば、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、フォーム状形態、ミスト状形態等を適宜選択することができる。したがって、例えば、種々の化粧料形態、具体的には、ヘアトニック、ヘアジェル、ヘアクリーム、ヘアトリートメントローション、ヘアフォーム、ヘアミスト、ヘアシャンプー、ヘアリンス等の形態で、育毛養毛用皮膚外用剤を提供することができる。
【0025】
よって本発明の好ましい態様によれば、育毛養毛用皮膚外用剤は、医薬部外品、または化粧料として提供され、より好ましくは、化粧料として提供される。
【0026】
本発明においては、VEGF産生促進剤の有効成分を、それ自体公知の皮膚外用用途に許容されうる添加剤と混合して、公知の方法にしたがって育毛養毛用皮膚外用剤として製剤化もしくは製品化することができる。ここでいう皮膚外用用途に許容されうる添加剤とは、それ自体は育毛養毛効果は期待されないが、形成される製剤もしくは製品の形態・状態を調整しうる添加剤剤成分をいい、例えば、賦形剤、油性成分、増量剤等が挙げられる。
【0027】
さらに本発明による育毛養毛用皮膚外用剤は、所望の育毛養毛効果を損なわない範囲で、分散剤、界面活性剤、安定化剤、緩衝剤、防腐剤、保湿剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、香料、色素、防菌防黴剤等の一般的な育毛養毛用皮膚外用剤用添加剤をさらに含んでなることができる。よって、皮膚外用用途に許容されうる添加剤は、このような一般的な添加剤を含む意味で使用することができる。
【0028】
本発明の育毛養毛用皮膚外用剤において、育毛養毛用皮膚外用剤の全量に対するVEGF産生促進剤の有効成分の含有量は、剤型や目的などによって適宜調整することができるが、有効成分である加水分解シルク蛋白質の含有量として、0.0001〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは0.0001〜10重量%である。含有量が0.0001重量%未満であると、十分なVEGF産生促進効果が得られず、育毛養毛効果が不十分となる虞がある。20重量%を超えて含有させても、それ以上の効果の増加はあまり望めない。
【0029】
本発明の育毛養毛用皮膚外用剤においては、前記した有効成分に加えて、VEGF産生促進効果の知られている他のVEGF産生促進活性成分を併用してもよく、さらに、血行促進剤、局所刺激剤、毛母細胞賦活剤、抗脂漏剤、抗炎症剤、抗生物質などのような他の活性成分を加えても良い。本発明の好ましい態様によれば、育毛養毛用皮膚外用剤は、血行促進剤、および毛母細胞賦活剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分をさらに含有することができる。これにより、育毛養毛用皮膚外用剤において、相乗的に育毛養毛効果を向上せることができる。
【0030】
従来の天然物由来のVEGF産生促進剤は、植物の葉、根、もしくは果実からの抽出物が多く、製剤に配合する際に長期安定性が劣り、pH調整や溶剤による調整が必要であった。またこれらを、血行促進剤や毛母細胞賦活剤と組合せて使用しようとすると、組み合わせた際に沈殿が生じてしまうなどの問題があった。一方、加水分解シルク蛋白質、特に、加水分解セリシンは、水に対する溶解性が非常に高いため、他の製剤との組合せで沈殿を生ずることもほとんど無く、安定して簡便に処方することが可能である。
【0031】
ここで、血行促進剤は、頭皮の血行を促進することにより、毛包周辺への栄養分や酸素の供給、および老廃物の排出を促進して、毛髪の成長や発毛に寄与するものをいう。本発明に用いることができる血行促進剤としては、例えば、センブリエキス、ニンニクエキス、ニンジンエキス、塩化カプロニウム、セファランチン、酢酸d,l−α−トコフェロール等のビタミンEおよびその誘導体、γ−オリザノール、ミノキシジル、当帰エキス、ゲンチアナエキス、イチョウエキス、トウガラシチンキ、ショウキョウチンキ、カンタリスチンキ、l−メントール、カンファー、ハッカ油、ニコチン酸ベンジル、ノニル酸ワニリルアミド等を挙げることができる。これらは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0032】
本発明においては、育毛養毛効果への相乗効果の観点から、血行促進剤はセンブリエキスが好ましい。ここで、センブリエキスは、リンドウ科に属する越年草植物であるセンブリ(学名:Swertia japonica Makino)から得られる抽出物であり、スエルチアマリン、スエルチオサイド、ゲンチオビクロサイドおよびアマロゲンチン等の苦味配糖体を主成分とするものである。センブリエキスは、皮膚の毛細血管を拡張して血行を促進しうるものである。
【0033】
また、毛母細胞賦活剤は、毛包細胞への栄養補給、あるいは毛母細胞の酵素活性の賦活による毛髪の成長を促進させるものをいう。本発明に用いることができる毛母細胞賦活剤としては、パンテトン酸およびその誘導体、ビオチン、モノニトログアヤコール、ペンタデカン酸グリセリド、ジアルキルモノアミン誘導体、ヒノキチオール、コレウスエキス、クロロフィル、感光素、アラントイン等を挙げることができる。これらは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0034】
本発明においては、育毛養毛効果への相乗効果の観点から、毛母細胞賦活剤はパンテトン酸およびその誘導体が好ましい。ここで、パンテトン酸およびその誘導体は、ビタミンB群に属する水溶性ビタミンの1種で、毛包内の毛母細胞の機能を改善しうるものである。パンテトン酸およびその誘導体は好ましくはパンテノールである。
【0035】
血行促進剤や毛母細胞賦活剤の含有量は、育毛養毛用皮膚外用剤の全量に対し、それぞれ0.0001〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.0005〜1重量%である。含有量が0.0001重量%未満であると、不十分となる虞がある。5重量%を超えて含有させても、それ以上の効果の増加はあまり望めない。
【0036】
よって、本発明の特に好ましい態様によれば、平均分子量5,000〜100,000の加水分解セリシンと、血行促進剤と、毛母細胞賦活剤とを含んでなる、育毛養毛用皮膚外用剤が提供される。
【実施例】
【0037】
本発明を以下の例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
加水分解シルク蛋白質の調製
まず、本発明のVEGF産生促進剤の有効成分である加水分解シルク蛋白質を調製した。なお、以下ではシルク蛋白質としてセリシンを用いた。
【0039】
1) 加水分解セリシン(I)の粉末(平均分子量3,000)の調製
生糸からなる絹織物を、1.0重量%炭酸ナトリウム(pH11〜12)で95℃にて2時間処理し、加水分解セリシンを抽出した。得られた抽出液を平均孔径0.2μmのフィルターで濾過し、凝集物を除去した後、濾液を逆浸透膜により脱塩し、濃度0.2重量%の無色透明の精製液を得た。この精製液をエバポレーターを用いて濃度約2重量%まで濃縮した後、凍結乾燥し、加水分解セリシン(I)の粉末を得た。この加水分解セリシンの分子量分布は1,000〜30,000、平均分子量は3,000で、アミノ酸組成としてセリンを25モル%含有していた。
【0040】
2) 加水分解セリシン(II)の粉末(平均分子量12,000)
1.0重量%炭酸ナトリウム(pH11〜12)にかえて0.3重量%炭酸ナトリウム(pH11〜12)を用いた以外は、加水分解セリシン(I)の粉末の調製と同様にして、分子量分布3,000〜50,000、平均分子量12,000、およびセリン含有量30モル%の加水分解セリシン(II)の粉末を得た。
【0041】
3) 加水分解セリシン(III)の粉末(平均分子量30,000)
1.0重量%炭酸ナトリウム(pH11〜12)にかえて0.2重量%炭酸ナトリウム(pH11〜12)を用いた以外は、加水分解セリシン(I)の粉末の調製と同様にして、分子量分布5,000〜70,000、平均分子量30,000、およびセリン含有量35モル%の加水分解セリシン(III)の粉末を得た。
【0042】
4) 加水分解セリシン(IV)の粉末(平均分子量50,000)
1.0重量%炭酸ナトリウム(pH11〜12)にかえて0.1重量%炭酸ナトリウム(pH11〜12)を用いた以外は、加水分解セリシン(I)の粉末の調製と同様にして、分子量分布5,000〜100,000、平均分子量50,000、およびセリン含有量35モル%の加水分解セリシン(IV)の粉末を得た。
【0043】
5) 加水分解セリシン(V)の粉末(平均分子量150,000)
1.0重量%炭酸ナトリウム(pH11〜12)にかえて蒸留水を用いた以外は、加水分解セリシン(I)の粉末の調製と同様にして、分子量分布5,000〜200,000、平均分子量150,000、およびセリン含有量35モル%の加水分解セリシン(V)の粉末を得た。
【0044】
これら得られた加水分解セリシン粉末についてまとめると下記の通りある。
【表1】

【0045】
評価試験1: 加水分解セリシンによるVEGF産生促進効果
加水分解セリシン(I)〜(V)について、VEGF産生促進効果を下記の通りに評価した。
ヒト正常毛乳頭細胞を、毛乳頭細胞増殖培地(ともにCELL APPLICATIONS社より入手可能)に細胞密度が2万cells/mlとなるように懸濁し、これを1mlずつ12ウェルプレートに播種した。細胞播種から5時間後、培養プレートに細胞が接着したことを確認してから、培養培地を、加水分解セリシン(I)〜(V)を含む培地にそれぞれ交換した。なお、ここで用いた培地は各加水分解セリシンの粉末をそれぞれ毛乳頭細胞増殖培地に溶解して、滅菌フィルター(0.2μm:旭テクノグラス株式会社)にて濾過滅菌処理することにより調製したものである。
培地交換後、細胞培養を、5体積%CO雰囲気下、37℃で10日間行った後、培地中のVEGFの濃度を、ヒトVEGF測定キット(BIOSOURCE社)によって定量した。
【0046】
結果は表2に示されるとおりであった。
【0047】
【表2】

【0048】
表から明らかなように、加水分解セリシンを添加した系においては、VEGFの産生が対照である培地のみの場合と比較して、有意に増加していた。特に、加水分解セリシン(II)〜(IV) (平均分子量がそれぞれ12,000、30,000、および50,000であるもの)を添加した系では、優れたVEGF産生促進効果が認められた。
【0049】
実施例1〜4および比較例1〜3: ヘアローションの調製
表3および表4に示す組成にしたがって、実施例1〜4および比較例1〜3の各ヘアローションを調製した。すなわち、まず、精製水(イオン交換水)に各例の全ての成分を順次添加して、これらを、混合、均一化することにより各ヘアローションを得た。
【0050】
なおここで、血行促進剤としてセンブリエキスを、毛母細胞賦活剤としてパンテノールをそれぞれ使用した。また、その他の成分は、医薬品、医薬部外品、または化粧料用として市販されているものを用いた。
実施例1〜4のヘアローションは、VEGF産生促進剤として加水分解セリシン(III)を含有するものである。また、加水分解セリシン(III)は、精製水に溶解して5重量%水溶液としたものを用いた。
【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
評価試験2: ヘアローションによる育毛効果
実施例1〜4および比較例1〜3のヘアローションについて、使用試験を行い、育毛効果を評価した。
使用試験は、妊娠、出産やストレス等種々の原因で薄毛や脱毛症状を呈する女性パネラー20名を1群とし、各群に実施例および比較例をそれぞれブラインドにて、1日2回、3カ月間使用させることによって行った。使用試験終了後、毛髪の状態を使用試験開始前と比較し、薄毛や脱毛症状について、「改善」、「やや改善」、「変化なし」、「悪化」の4段階にて評価した。なお毛髪の状態は、マイクロスコープにより観察した。
【0054】
各評価を得たパネラー数毎に分類し結果をまとめた。結果は表5に示されるとおりであった。
【0055】
【表5】

【0056】
表から明らかなように、本発明の実施例に相当するヘアローション使用群では、全般に改善傾向が認められ、60%以上のパネラーにおいて明確な改善が認められた。これに対し、比較例のヘアローション使用群では、大多数のパネラーにおいて、状態の変化が認められなかった。
【0057】
実施例5〜8および比較例4〜7: 他の実施形態(育毛ローション、ヘアクリーム、ヘアシャンプーおよびヘアリンス)の調製
ヘアローション以外の実施形態の例として、下記に従い、育毛ローション、ヘアクリーム、ヘアシャンプーおよびヘアリンスを調製した。
なおここで、血行促進剤としてセンブリエキスを、毛母細胞賦活剤としてパンテノールをそれぞれ使用した。また、その他の成分は、医薬品、医薬部外品、または化粧料用として市販されているものを用いた。加水分解セリシンはいずれも、精製水に溶解して5重量%水溶液としたものを用いた。
【0058】
実施例5: 育毛ローション
下記表の全ての成分を精製水に順次添加して、これを混合、均一化することによって、育毛ローションを調製した。
【0059】
【表6】

【0060】
実施例6: ヘアクリーム
下記表に示した油性成分、および水性成分をそれぞれ混合して、均一化し80℃に加熱した。次いで、水性成分に油性成分を添加して乳化し、撹拌しながら冷却し、ヘアクリームを調製した。
【0061】
【表7】

【0062】
実施例7: ヘアシャンプー
精製水を70℃に加熱し、下記表の全ての成分をそこに順次添加して、混合、均一化し、さらに冷却することによって、ヘアシャンプーを調製した。
【0063】
【表8】

【0064】
実施例8: ヘアリンス
精製水を70℃に加熱し、下記表の全ての成分をそこに順次添加して、混合、均一化し、さらに冷却することによって、ヘアシャンプーを調製した。
【0065】
【表9】

【0066】
比較例4〜7
実施例5〜8において、それぞれに含有させた加水分解セリシン水溶液を、精製水に代替したものを調製し、それぞれ比較例4〜7とした。
【0067】
評価試験3: 育毛ローション、ヘアクリーム、ヘアシャンプーおよびヘアリンスによる育毛効果
実施例5〜8および比較例4〜7について、評価試験2の場合と同様にして、使用試験を行い、育毛効果を評価した。
結果は表10に示されるとおりであった。
【0068】
【表10】

【0069】
表から明らかなように、本発明の実施例の使用群では、全般に改善傾向が認められた。これに対し、加水分解セリシンを含有しない比較例使用群においては、ほとんど変化が認められなかった。
なお、いずれの実施例および比較例使用群においても、使用試験期間中に皮膚刺激性を訴えたパネラーはいなかった。また、分離や凝集などの状態変化は見られず、安全性、安定性が良いことが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解シルク蛋白質を有効成分として含んでなることを特徴とする、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)産生促進剤。
【請求項2】
加水分解シルク蛋白質の平均分子量が5,000〜100,000である、請求項1に記載のVEGF産生促進剤。
【請求項3】
加水分解シルク蛋白質が加水分解セリシンである、請求項1または2に記載のVEGF産生促進剤。
【請求項4】
加水分解セリシンがアミノ酸組成としてセリンを20〜40モル%含有してなるものである、請求項3に記載のVEGF産生促進剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のVEGF産生促進剤の有効成分と、皮膚外用用途に許容されうる添加剤とを含んでなる、育毛養毛用皮膚外用剤。
【請求項6】
血行促進剤および毛母細胞賦活剤からなる群から選択される少なくとも一種の成分をさらに含んでなる、請求項5に記載の育毛養毛用皮膚外用剤。
【請求項7】
平均分子量5,000〜100,000の加水分解セリシンと、血行促進剤と、毛母細胞賦活剤とを含んでなる、請求項6に記載の育毛養毛用皮膚外用剤。
【請求項8】
加水分解シルク蛋白質または加水分解セリシンの含有量が、育毛養毛用皮膚外用剤全量に対して、0.0001〜20重量%である、請求項5〜7のいずれか一項に記載の育毛養毛用皮膚外用剤。

【公開番号】特開2008−222671(P2008−222671A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66479(P2007−66479)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】