説明

血管用分光分析装置

【課題】プローブを回転させることなく一度に血管内壁を全周にわたって分光分析する。
【解決手段】近赤外光を発生する光源2と、血管A内に挿入される挿入部3と、該挿入部3に長手方向に沿って配置され光を導光する導光部材7と、挿入部3の先端に配置され、導光部材7により導光されその先端から出射された近赤外光を全周にわたり半径方向外方の血管A内壁に向けて偏向する一方、血管A内壁から戻る戻り光を偏向して導光部材7の先端7aに入射させる偏向部材8と、該偏向部材8により偏向され導光部材7を導光されてきた戻り光を分光分析する分光分析部とを備え、挿入部3の半径方向の中央部に、長手方向に貫通しガイドワイヤ6を挿通可能な貫通孔5が設けられている血管用分光分析装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管用分光分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内視鏡の側面にラマン分光用の平面鏡を配置したプローブの平面鏡側の側面を血管の内壁に押し当てて、近赤外光を内壁に照射し、分光分析を行う血管診断用分光プローブが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−317319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている血管診断用分光プローブは、平面鏡により周方向の一方向に偏向した近赤外光を分光分析するため、周方向の一部の血管内壁のみしか観察することができないという不都合がある。血管内のプラークや病変等を調べるためには、血管内壁を全周にわたって観察する必要があり、この場合には、プローブを物理的に周方向に回転させて分光分析を行わなければならず、観察に時間と労力を要するという不都合がある。このため、治療に時間がかかり、患者にかかる負担が大きいという問題がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、プローブを回転させることなく一度に血管内壁を全周にわたって分光分析することができる血管用分光分析装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、近赤外光を発生する光源と、血管内に挿入される挿入部と、該挿入部に長手方向に沿って配置され光を導光する導光部材と、前記挿入部の先端に配置され、前記導光部材により導光されその先端から出射された近赤外光を全周にわたり半径方向外方の血管内壁に向けて偏向する一方、血管内壁から戻る戻り光を偏向して導光部材の先端に入射させる偏向部材と、該偏向部材により偏向され導光部材を導光されてきた戻り光を分光分析する分光分析部とを備え、前記挿入部の半径方向の中央部に、長手方向に貫通しガイドワイヤを挿通可能な貫通孔が設けられている血管用分光分析装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、挿入部を挿入しようとする血管に沿って、予めガイドワイヤを挿入しておき、該ガイドワイヤを挿入部の半径方向の中央部に設けられた貫通孔に挿通させて挿入部を血管内に挿入することにより、挿入部がガイドワイヤによってその挿入を案内され、その先端が所望の部位まで容易に導入される。この後にガイドワイヤを貫通孔から抜き去ることにより、所望の部位に先端を配置した状態に挿入部を配置することができる。
【0008】
この状態で、光源から発せられた近赤外光が、挿入部内の導光部材を介して挿入部の先端まで導光され、導光部材の先端から出射された後、偏向部材によって半径方向外方に偏向される。偏向部材が半径方向外方の血管内壁に向かって全周にわたり近赤外光を偏向し、かつ、血管内壁から戻る戻り光を導光部材の先端に入射させるように偏向するので、プローブを回転させることなく一度に全周にわたる血管内壁からの戻り光を分光分析部に導光して分光分析を行うことができる。
【0009】
上記発明においては、前記偏向部材が、周方向に沿って全周に配置された略円錐面状の偏向面を有し、中央に前記ガイドワイヤを層通可能な貫通孔を有するリング状に形成されていてもよい。
このようにすることで、簡易な構成で周方向の全周の広い範囲の血管内壁に近赤外光を照射し、その戻り光を検出して分光分析を一度に行うことができる。
また、上記発明においては、前記偏向部材が、周方向に間隔をあけて複数備えられていてもよい。
【0010】
また、上記発明においては、前記導光部材の先端と前記偏向部材との間に、前記近赤外光および戻り光を集光する集光部材が設けられていてもよい。
また、上記発明においては、前記偏向面が、前記近赤外光および戻り光を偏向する際に集光させる凹面状に形成されていてもよい。
このようにすることで、近赤外光の照射範囲を限定し、より精密に血管内壁の状態を観察することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プローブを回転させることなく一度に血管内壁を全周にわたって分光分析することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る血管用分光分析装置1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る血管用分光分析装置1は、図1に示されるように、近赤外光を発生する光源2と、該光源2に接続された挿入部3と、該挿入部3に接続された分光分析部4とを備えている。
【0013】
挿入部3は、図2に示されるように、血管A内に挿入することができる細長い形状を有している。挿入部3にはその半径方向の中央部に、全長にわたって貫通する貫通孔5が設けられている。この貫通孔5は、血管A内に予め挿入配置されるガイドワイヤ6の外形寸法より若干大きな内径寸法を有し、ガイドワイヤ6を自由に挿通させることができるようになっている。
【0014】
挿入部3内には、図2に示されるように、そのほぼ全長にわたり長手方向に沿って配置された光ファイバ(導光部材)7が備えられている。光ファイバ7は、貫通孔5の周囲に周方向の全周にわたって複数本配置されている。一部の光ファイバ7は、その基端側が前記光源2に接続されている。残りの光ファイバ7は、その基端側が前記分光分析部4に接続されている。全ての光ファイバ7は、その先端7aが前記挿入部3の先端近傍に配置されている。2種類の光ファイバ7は、均等に分布した状態で配置されている。
【0015】
挿入部3の光ファイバ7の先端7aよりも先端側には、光ファイバ7によって導光されてきて先端7aから出射された近赤外光を半径方向外方に向けて反射するミラー(偏向部材)8が備えられている。ミラー8は中央にガイドワイヤ6を貫通させる貫通孔8aを有するとともに周方向の全周にわたる円環状に形成され、挿入部3の先端方向に向かって漸次広がる略円錐面状の反射面(偏向面)8bを有している。これにより、光ファイバ7によって導光されてきた近赤外光を反射して周方向の全周にわたって放射状に出射させることができるようになっている。
【0016】
前記分光分析部4は、一部の光ファイバ7の基端側に接続されたセンサ9と該センサ9により検出された戻り光を分光して波長特性を測定する分光分析器10とを備えている。これにより、血管A内壁に含有される成分を定量的に分析することができるようになっている。
【0017】
このように構成された本実施形態に係る血管用分光分析装置1の作用について説明する。
本実施形態に係る血管用分光分析装置1を用いて血管A内の分光分析を行うには、まず、X線観察下において、観察すべき血管A内にガイドワイヤ6を挿入していき、血管A内の観察部位まで到達させておく。
【0018】
この状態で、ガイドワイヤ6の基端側から血管A内に、ガイドワイヤ6を貫通孔5に挿通させた挿入部3を挿入する。ガイドワイヤ6が、血管A内を観察部位まで挿入配置されているので、挿入部3の挿入がガイドワイヤ6によって案内され、スムーズに挿入部3の先端を観察部位の近傍に配置することができる。
【0019】
挿入部3の先端に配置されているミラー8が血管A内壁の観察部位に半径方向に対向する位置まで挿入部3が挿入された時点で、ガイドワイヤ6を基端側に抜き出すことにより挿入部3から取り外す。そして、光源2を作動させることにより、近赤外光を出射させる。光源2から発せられた近赤外光は、光ファイバ7内を導光されて先端から出射され、ミラー8によって反射される。
【0020】
ミラー8は円錐面状の反射面8bを有しているので、近赤外光は90°偏向されて半径方向外方に向けて出射される。ミラー8は全周にわたって円環状に配置されているので、光ファイバ7によって導光された近赤外光は、ミラー8によって反射されて半径方向外方に配置されている血管A内壁全周に照射される。
【0021】
そして、血管A内壁に照射された近赤外光は、その一部が血管A内壁の組織内で散乱されることにより、組織内の成分に依存する情報が重畳された戻り光として半径方向内方に戻り、ミラー8によって反射されて、光ファイバ7の先端7aに入射される。この場合においても、血管A内壁の全周に照射された近赤外光の一部が全周から半径方向内方に戻る。光ファイバ7内に入射された戻り光は、光ファイバ7内を基端側に向けて導光され、基端側に接続されているセンサ9により検出され、分光分析器10によって分光分析される。
【0022】
このように、本実施形態に係る血管用分光分析装置1によれば、ミラー8が全周に設けられているので、挿入部3自体を周方向に回転させなくても、一度に血管A内壁全周の観察を行うことができる。したがって、血管A内壁に存在するプラークや病変等を短時間で調べることができる。その結果、治療時間を短縮して患者にかかる負担を低減することができるという利点がある。
【0023】
また、本実施形態に係る血管用分光分析装置1によれば、ガイドワイヤ6を挿通させる貫通孔5を備えているので、挿入部3の先端を湾曲駆動する機構を設けなくても、挿入部3の先端を所望の観察部位に容易に導くことができる。したがって、挿入部3の外径を細くした細い血管用分光分析装置1を提供することができる。
【0024】
なお、本実施形態においては、ミラー8が円錐面状の反射面8bを有するものを例示したが、これに代えて、図3に示されるように、凹面状の反射面8bを有するものを採用してもよい。このようにすることで、光ファイバ7の先端7aから出射された拡散する近赤外光が反射面8bにおいて反射される際に集光され、より狭い範囲の血管A内壁に照射される。
【0025】
また、血管A内壁から戻る戻り光も反射面8bにおいて反射される際に集光され、効率的に光ファイバ7内に入射させられる。
これにより、比較的狭い範囲に観察部位を限定して精密な分光分析を行うことができるという利点がある。
【0026】
また、反射面8bを凹面により構成することに代えて、図4に示されるように、光ファイバ7の先端7aと円錐面状の反射面8bとの間に、光ファイバ7の先端から出射される近赤外光を集光して略平行光にするコリメートレンズ11あるいは収束光にする集光レンズ(図示略)を配置することにしてもよい。これによっても、比較的狭い範囲に観察部位を限定して精密な分光分析を行うことができるという利点がある。
【0027】
この場合のコリメートレンズ11あるいは集光レンズとしては、図5(a)に示されるように、円環状のもの、あるいは、図5(b)に示されるように、各光ファイバ7束に対応する位置に複数配置される円形のものを採用してもよい。
【0028】
また、本実施形態においては、均等に分布させた複数の光ファイバ7の一部を使用して照射する近赤外光を導光し、他の光ファイバ7を使用して血管A内壁から戻る戻り光を導光する例を示したが、図6に示されるように、ビームスプリッタ12により光路を分岐させることにしてもよい。このようにすることで、全ての光ファイバ7を照射用の近赤外光および戻り光の導光のために共有することができるという利点がある。
【0029】
また、ミラー8として、周方向の全周にわたって連続する円環状のものを例示したが、図7に示されるように、周方向に間隔をあけて複数配置されるミラー8′を採用してもよい。
【0030】
また、図8に示されるように、光ファイバ7の先端7aとミラー8との間に、光ファイバ7の先端7aから出射される光の一部のみを通過させるスリット13aを有する円環状の遮蔽板13を配置し、該遮蔽板13を周方向に回転させることにしてもよい。
これにより、スリット13aに対向する位置の光ファイバ7から出射された近赤外光および戻り光のみの通過が許容されるので、センサ9により検出されている戻り光が発生している血管A内壁の周方向位置を特定することができる。
【0031】
また、遮蔽板13の位置は、光源2と光ファイバ7の基端との間に配置することが好ましい。このようにすることで、近赤外光の照射範囲を制限することができると同時に、戻り光を全周にわたる光ファイバ7によって導光することができ、挿入部3の先端に遮蔽板13を配置する場合と比較して検出感度を向上することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る血管用分光分析装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の血管用分光分析装置の挿入部の先端部の拡大縦断面図である。
【図3】図1の血管用分光分析装置の挿入部の先端に配置されるミラーの第1の変形例を示す拡大縦断面図である。
【図4】図1の血管用分光分析装置の挿入部の先端にコリメートレンズを配置した変形例を示す拡大縦断面図である。
【図5】図4のコリメートレンズの形態を示す正面図であり、(a)全ての光ファイバに共通の一体的なコリメートレンズ、(b)各光ファイバ束に個別のコリメートレンズを示す図である。
【図6】図1の血管用分光分析装置の変形例を示す全体構成図である。
【図7】図1の血管用分光分析装置の挿入部の先端に配置されるミラーの第2の変形例を示す正面図である。
【図8】図1の血管用分光分析装置に備えられた光ファイバの先端とミラーとの間に配置されたスリット付きの回転式遮蔽板を示す正面図である。
【符号の説明】
【0033】
A 血管
1 血管用分光分析装置
2 光源
3 挿入部
4 分光分析部
5,8a 貫通孔
6 ガイドワイヤ
7 光ファイバ(導光部材)
7a 先端
8,8′ ミラー(偏向部材)
8b 反射面(偏向面)
11 コリメートレンズ(集光部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外光を発生する光源と、
血管内に挿入される挿入部と、
該挿入部に長手方向に沿って配置され光を導光する導光部材と、
前記挿入部の先端に配置され、前記導光部材により導光されその先端から出射された近赤外光を全周にわたり半径方向外方の血管内壁に向けて偏向する一方、血管内壁から戻る戻り光を偏向して導光部材の先端に入射させる偏向部材と、
該偏向部材により偏向され導光部材を導光されてきた戻り光を分光分析する分光分析部とを備え、
前記挿入部の半径方向の中央部に、長手方向に貫通しガイドワイヤを挿通可能な貫通孔が設けられている血管用分光分析装置。
【請求項2】
前記偏向部材が、周方向に沿って全周に配置された略円錐面状の偏向面を有し、中央に前記ガイドワイヤを層通可能な貫通孔を有するリング状に形成されている請求項1に記載の血管用分光分析装置。
【請求項3】
前記偏向部材が、周方向に間隔をあけて複数備えられている請求項1または請求項2に記載の血管用分光分析装置。
【請求項4】
前記導光部材の先端と前記偏向部材との間に、前記近赤外光および戻り光を集光する集光部材が設けられている請求項1から請求項3のいずれかに記載の血管用分光分析装置。
【請求項5】
前記偏向面が、前記近赤外光および戻り光を偏向する際に集光させる凹面状に形成されている請求項2に記載の血管用分光分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−183459(P2009−183459A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26496(P2008−26496)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】