説明

血管疾患治療用の製品と方法

本発明は、埋め込み部位で流体流が再開されたときにその埋め込み部位から実質的に除去することのできる生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料を用いて血管疾患を治療する製品と方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管をベースとした治療によってさまざまな血管疾患を治療するための製品と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管疾患はさまざまな原因によって生じ、いくつかの場合には、外科的介入または血管内介入が必要となる。血管系に対する外傷には、その外傷を受けた組織を治療するために外科的介入が必要となる可能性もある。血管疾患(例えば脈管疾患や血管の外傷)の治療には、血管プロテーゼ(例えば移植血管、ステント-移植片、ステント)の長期にわたる埋め込みや、さまざまな治療法の適用(例えばバルーン動脈形成)が採用されることがしばしばある。
【0003】
特に吻合を形成するとき、血管プロテーゼ(例えば移植血管、ステント-移植片、ステントや、他のプロテーゼ)を埋め込んだ後の外科的介入の帰結が観察されてきた。外科的介入の帰結として、形成された吻合に近い治療した血管の炎症、内膜肥厚、狭窄、再狭窄などがあるが、これだけに限られない。炎症は、手術、怪我、刺激、感染に対する哺乳動物の身体の生理的反応である。炎症応答には、化学、細胞、組織、臓器のレベルでの複雑な生体活動が関与する。一般に、炎症応答は保護の試みであり、損傷を引き起こす刺激を取り除くとともに、病気の組織または外傷を受けた組織が治癒プロセスを開始させる。内膜肥厚は過剰な炎症応答が始まる病的状態であり、多くのタイプの細胞の刺激、移動、増殖が関与する。狭窄と再狭窄は血管腔の狭窄であり、元の血管と埋め込まれた血管プロテーゼの間のコンプライアンスの不一致、埋め込まれた材料に対する宿主組織の応答、以前の疾患状態、感染などのメカニズムによって起こる可能性があるが、メカニズムがこれらに限定されることはない。狭窄と再狭窄は、血管または埋め込まれた血管プロテーゼの血管腔の直径を広げて血流制限がより少ない導管を確立するために追加の外科的介入が必要とされる程度まで進行する可能性がある。
【0004】
外科的介入または血管内介入が必要となる可能性のある別の血管疾患として、血管の損傷、血管への予防的介入、脈管疾患、静脈炎、内膜肥厚、不安定プラーク、頸動脈プラーク、冠状動脈プラーク、血管プラーク、動脈瘤疾患、血管剥離、アテローム硬化性プラーク、アテローム硬化性病変、血管感染症、血管性敗血症などがあるが、これらに限定されることはない。
【0005】
これらの血管疾患を治療する1つの方法は、適切な医薬活性剤または生物活性剤を含む液体賦形剤を、血管疾患の部位またはその近くにある血管の管腔空間の中に局所的に送達する操作を含んでいる。医薬活性剤または生物活性剤を含む液体賦形剤は、決められた長さの時間(滞在時間)にわたって血管治療部位の管腔空間の組織と接触させる。しかしこの方法では、血管疾患を治療するために生物活性剤を血管治療部位に十分に送達して保持するのに、血管治療部位における長い滞在時間が必要とされることがしばしばある。滞在時間が長い場合でさえ、この方法を利用して血管治療部位に生物活性剤を血管治療部位に送達して保持するのでは、血管疾患を治療するのに不十分である可能性がある。
【0006】
別の治療法は、医薬含有コーティングを有する血管プロテーゼを埋め込んで血管腔または他の血管導管に医薬を送達するというものである。医薬含有コーティングを有する血管プロテーゼの例として、ステント、ステント-移植片、移植片、動脈形成バルーンなどがあるが、これらに限定されることはない。医薬含有コーティングを有する血管プロテーゼの他の例は、薬剤溶出性ステント(DES)と薬剤溶出性ステント-移植片である。DESは、冠状動脈疾患と末梢動脈疾患の治療に用いられている。周囲の血管組織に損傷や外傷を与えることなくDESを埋め込むには高度の外科技術が必要とされる。DESの埋め込みによって血管疾患を治療するには、血管プロテーゼを長期にわたって埋め込まねばならない可能性がある。血管プロテーゼを長期にわたって埋め込むと、医薬含有コーティングが潤滑性でないことが原因で血管治療部位に物理的な外傷が生じる可能性もある。血管プロテーゼを長期にわたって埋め込むと、その血管プロテーゼの部品および/または医薬含有コーティングが原因で血管治療部位に望まない組織反応が起こる可能性もある。したがって、血管疾患を治療する改良された方法として、必要とされる外科技術が最少の方法があると望ましい。血管疾患を治療する改良された方法として、長期にわたる埋め込みが回避される方法があると望ましい。
【0007】
薬剤溶出性バルーン(DEB)が、医薬含有コーティングを有する血管プロテーゼの別の例である。文献には、冠状動脈疾患と末梢動脈疾患の治療にDEBを用いることが開示されている(例えばDrorらに発行されたアメリカ合衆国特許第5,102,402号を参照)。Drorらは、血管壁を治療するため、血管腔の中にDEBを配置し、そのバルーンを膨らませ、そのバルーンの表面を管腔の血管壁に接触させて医薬を血管壁の中に送達することを開示している。DEBの使用を含む治療法の別の一例には、小さな針を有する動脈形成バルーンが関係する(例えばアメリカ合衆国特許第5,171,217号、第5,538,504号、第6,860,867号を参照)。DEBは、埋め込むのに高度の外科技術が必要とされることがしばしばある。DEBの埋め込みにより、DEBの諸要素および/または医薬含有コーティングが原因で血管治療部位に物理的な外傷が生じる可能性もある。血管疾患の治療と予防のための改良された方法として、埋め込みが単純かつ容易な方法があると望ましい。また、血管疾患の治療と予防のための方法として、血管治療部位の物理的な外傷が回避されるとともに多彩な医薬の送達に適合した方法があると望ましい。
【0008】
管腔内に薬を送達する方法として、ステント、ステント-移植片、移植片や、それ以外のプロテーゼから血管に薬を送達する方法に加え、血管の管腔面を化学的に“被覆する”方法がある(例えばアメリカ合衆国特許第5,213,580号、第5,674,287号、第5,749,922号、第5,800,538号を参照)。これらの“被覆”法は、血管腔に薬送達システムを固定する操作、重合させる操作、結合させる操作を含んでいる。このような送達システムは、数日〜数週間のうちに分解する。これらの方法は血管腔との化学反応を含んでいるため、難しい可能性がある。その化学反応によって血管治療部位に外傷が誘導される可能性がある。血管疾患の治療と予防のための改良された方法として、血管の管腔面の“被覆”を回避する方法があると望ましい。
【0009】
脈管の周辺位置に薬を送達する方法が、Iyerに発行されたアメリカ合衆国特許第6,726,923号に記載されており、Edelmanに発行されたアメリカ合衆国特許第5,527,532号には、血管の炎症を治療するため、血管の周囲で薬が溶離する包装とマトリックスを血管の外膜面に付着させることが開示されている。
【0010】
Johnsonに発行されたアメリカ合衆国特許第5,893,839号には、再狭窄を治療する方法として、生物活性物質を経皮的に送達する操作を含む方法が開示されている。
【0011】
Helmusらに発行されたアメリカ合衆国特許第6,730,313号には、内膜肥厚を治療する方法として、血管の外面に“流動可能な”薬送達用賦形剤を接触させる操作を含む方法が開示されている。
【0012】
これらの方法は、通常、手続き上の複雑な技術を必要とし、それが侵襲性の外科技術を通じて実現されることがしばしばある。それに加え、これらの方法では、血管プロテーゼ、薬剤溶出性包装、マトリックス、流動可能な薬送達用賦形剤を長期にわたって埋め込まねばならない可能性がある。血管プロテーゼ、薬剤溶出性包装、マトリックス、流動可能な薬送達用賦形剤を長期にわたって埋め込むと、その諸成分が原因で血管治療部位に望まない組織反応が起こる可能性もある。血管疾患の治療と予防のための改良された方法として、インプラントを長期にわたって利用する必要なしに多彩な医薬と生物製剤を疾患状態の血管組織または外傷を受けた血管組織に送達できる方法、そして容易に実現されて外科技術と血管内技術を通じて適用される方法があると望ましい。
【0013】
Liら(アメリカ合衆国特許出願公開2002/0019369)は、シクロデキストリン・ポリマーをベースとした注入可能な組成物として、シクロデキストリンと、ポリエチレングリコールと、医薬として有効な量の少なくとも1種類の薬とでできた組成物を開示している。Liらはさらに、彼らの組成物を皮下、筋肉内、皮内、頭蓋内で使用できることを開示している。しかしLiらは、彼らの組成物を脈管構造の中や流れている血液の中に注入できることは教示していない。
【0014】
この文献に開示されているように、シクロデキストリンとポリエチレングリコールでできた組成物は包接錯体を形成する。この包接錯体は、ヒドロゲル、混濁溶液、沈殿物の形態を有する(Li、J. Biomed. Mater. Res.、第65A巻、196ページ、2003年;Harada、Macromolecules、第26巻、5698ページ、1993年;Harada、Macromolecules、第23巻、2821ページ、1990年)。
【0015】
実際、文献に示されているように、ヒドロゲル材料、混濁溶液、沈殿物の形態になった粒子を脈管構造の中や流れている血液の中に注入すると、薬の有効性低下、静脈炎、塞栓症、毛細血管の遮断といった不利な帰結がもたらされる可能性がある(Nemec、Am. J. Heath. Syst. Pharm.、第65巻、1648ページ、2008年;Wong、Adv. Drug Del. Rev.、第60巻、939ページ、2008年;Minton、Nutrition、第14巻、251ページ、1998年;Tian、Polym. Int.、第55巻、405ページ、2006年)。注射可能な医薬溶液を使用するための指示は、その注射可能な医薬溶液が混濁溶液であるか沈殿物を含んでいる場合には、脈管構造や流れている血液の中への注入を禁忌としている。
【0016】
さまざまな血管疾患を治療するため、血管をベースとした改良された治療法が必要とされる状態が続いている。この改良された治療法は、容易に実現され、血管治療部位に物理的または化学的な外傷を誘導することがないであろう。この改良された治療法により、生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料を血管治療部位の血管組織に投与することが可能になろう。このゲル材料は、その中に含まれている1種類以上の生物活性剤を、治療または修復を必要とする血管組織に容易に放出するであろう。このゲル材料は、流れている血液の中に溶けたとき、投与部位の遠位(すなわち下流)に位置する脈管構造を閉塞させることがないであろう。この治療法は、予防的治療、介入的治療、外科的治療、血管内治療に適用することが可能であろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料を用いて血管疾患を治療または予防する方法に関する。この方法は、外傷を受けた脈管構造の治療または修復にも利用できる。ゲル材料は、その中に含まれている1種類以上の生物活性剤を、治療または修復を必要とする疾患状態の血管治療部位または疾患になりやすい血管治療部位に容易に送達する。この方法では、ゲル材料を、血管治療部位の血管組織に物理的または化学的な外傷をほとんど、またはまったく生じさせることなく、血管の管腔空間とそれ以外の流体通過解剖構造に直接注入することができる。ゲル材料は、血管組織と接触した後に流れている血液の中に実質的に溶け、投与部位の遠位(すなわち下流)に位置する脈管構造を閉塞させることがない。この方法は、予防的に、または介入的に、または外科的に、または血管内に適用することができよう。この方法は、高度の技術を必要としない。逆に、この方法は、治療を必要とする血管組織に医薬やそれ以外の生物活性剤を送達するのに、脈管構造内にゲル材料を単純に注入するというやり方に頼っている。
【0018】
この方法で用いられるゲル材料は、小さな剪断力で大きな粘性率を持つ揺変性混濁ゲル材料であるため、血流が少なかったりなかったりする条件下では血管の管腔空間に密着して滞在する。治療する血管内の血流を再開させると、その結果として生じる流体の剪断力が、ゲル材料を粘性率が小さくて血液に溶ける組成物に変換するため、この組成物は、流れる血液に実質的に溶ける。したがってこのゲル材料は、血流を再開したときに血管治療部位から容易かつ実質的に除去され、治療部位の下流に位置する脈管構造を閉塞させることがない。
【0019】
この方法により、予防的血管療法と介入的血管療法のため、多彩な医薬と生物製剤を、外科的に血管内に最少の侵襲で送達することができる。好ましい生物活性剤は、血管のさまざまな病気(例えば内膜肥厚があるが、それに限定されることはない)を抑制する薬理学的かつ生物学的に活性な物質である。ゲル材料は、針とカテーテルをベースとした装置(例えばバルーン・カテーテル、輸液カテーテル、微量注入システムがあるが、これらに限定されることはない)を通じて送達することができる。組成物は、血管内にゲル材料を配置するだけでなく、医療装置(例えば移植血管、ステント、ステント-移植片、バルーンがあるが、これらに限定されることはない)の血液接触面に付着させることもできる。
【0020】
本発明の一実施態様は、血管組織を治療できる少なくとも1種類の生物活性剤を含む揺変性混濁ゲル材料を、そのゲル材料からその生物活性剤が放出されたときにその血管組織内の血管疾患を治療するのに十分な量だけ用意し、血管の内部空間にある血管治療部位にそのゲル材料を投与し、そのゲル材料から生物活性剤を放出させるのに十分な滞在時間にわたってその血管治療部位にそのゲル材料を留まらせることによって血管疾患を治療する方法に関する。それに加え、このゲル材料は、流れている血液の中に導入されたときに脈管構造を閉塞させない。
【0021】
本発明の別の一実施態様は、血管組織を治療できる少なくとも1種類の生物活性剤を含む揺変性混濁ゲル材料を、そのゲル材料からその生物活性剤が放出されたときに内膜肥厚を抑制するのに十分な量だけ用意し、血管の内部空間にある血管治療部位にそのゲル材料を投与し、そのゲル材料から生物活性剤を放出させるのに十分な滞在時間にわたってその血管治療部位にそのゲル材料を留まらせることによって血管疾患を治療する方法に関する。それに加え、このゲル材料は、血流の中に導入されたときに脈管構造を閉塞させない。
【0022】
本発明の別の一実施態様は、シクロデキストリン・ポリマーをベースとした組成物として、シクロデキストリンと、シクロデキストリンとでヒドロゲルを形成できるエチレングリコール単位を含むポリマーと、医薬として有効な量の少なくとも1種類の薬とを含有する組成物を用意すると、シクロデキストリンとポリマーが自発的会合によって自己集合してヒドロゲルを形成するが、シクロデキストリンとポリマーは、それぞれ、そのヒドロゲルを混濁状態かつ針を通じて人の体内に注入可能にするのに有効な量で組成物中に存在していて、そのヒドロゲルが薬にとってのマトリックスを形成する結果として、組成物を人の身体に注入すると薬がヒドロゲルから持続放出されるため、そのヒドロゲル材料を血管の内部空間にある血管治療部位に投与し、そのヒドロゲルから生物活性剤を放出させるのに十分な滞在時間にわたってその血管治療部位にヒドロゲルを留まらせることによって血管疾患を治療する方法に関する。
【0023】
本発明の他の実施態様は、この明細書に記載した揺変性混濁ゲル材料が少なくとも一部に付着した医療装置に関するものである。この医療装置は、埋め込み可能な装置、または1種類以上の生物活性剤を身体の特定の部位に送達するのに用いられる装置である。本発明の好ましい医療装置は、シクロデキストリン・ポリマーをベースとした組成物として、シクロデキストリンと、シクロデキストリンとでヒドロゲルを形成するエチレングリコール単位を含むポリマーと、医薬として有効な量の少なくとも1種類の薬とを含有する組成物を含んでおり、シクロデキストリンとポリマーが自発的会合によって自己集合してヒドロゲルを形成する。シクロデキストリンとポリマーは、それぞれ、そのヒドロゲルを混濁状態にするのに有効な量で組成物中に存在している。ヒドロゲルは、医療装置の少なくとも一部に取り付けるか、それ以外の方法で付着させる。別の実施態様は、ヒドロゲルと組み合わされた少なくとも1種類の生物活性剤を含んでいる。生物活性剤は、血管組織を治療できること、そして組み合わされたヒドロゲルから生物活性剤が放出されるときに血管疾患を治療するのに十分な量がヒドロゲルの中に存在していることが好ましい。
【0024】
本発明の他の特徴と利点は、以下の説明と請求項から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】データ表を示している。
【図2】組織学的データをそれぞれ含む2枚の写真(a)と(b)を示している。
【図3】組織学的データをそれぞれ含む2枚の写真(a)と(b)を示している。
【図4】データ表を示している。
【図5】4枚の写真(a)、(b)、(c)、(d)を示している。
【図6A】少なくとも1種類の揺変性混濁ゲル材料が少なくとも一部に付着した医療装置を示している。
【図6B】少なくとも1種類の揺変性混濁ゲル材料が少なくとも一部に付着した医療装置を示している。
【図6C】少なくとも1種類の揺変性混濁ゲル材料が少なくとも一部に付着した医療装置を示している。
【図7A】少なくとも1種類の揺変性混濁ゲル材料が少なくとも一部に付着した、カテーテルをベースとした装置を示している。
【図7B】少なくとも1種類の揺変性混濁ゲル材料が少なくとも一部に付着した、カテーテルをベースとした装置を示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料を用いて血管疾患を治療または予防する方法に関する。
【0027】
本発明では、揺変性を有する混濁ゲル材料を利用する。このゲル材料の揺変性により、組成物に対する剪断力の存在または不在に応答して組成物の粘性率を変化させることができる。ゲル材料を針付き注射器から注入することによって剪断力をこのゲル材料に加えると、組成物が針付き注射器を容易に通過できる程度まで組成物の粘性率が変化する。ゲル材料から剪断力を取り除くと、組成物が自身の重量の影響下では流動しない程度まで組成物の粘性率が変化する。本発明で用いるのに適したゲル材料は、剪断力のもとで流動するようにできるが、剪断力なしの条件だと自身の重量の影響下では流動性を示さない材料である。
【0028】
生物活性剤を含むゲル材料を血管の内側に配置して留置組成物を形成すると、そのゲル材料の粘性率とは独立に、生物活性剤がその留置組成物から血管の組織に移動する。治療または修復を必要とする血管治療部位に望む量の生物活性剤を留置組成物から送達するのに十分な時間が経過したとき、その留置組成物に剪断力を加えてゲル材料の粘性率を低下させると、そのゲル材料の溶解プロセスが始まって流れている血液の中に入る。本発明では、留置組成物を含む血管治療部位に血液を流せるようにすることで、剪断力を留置組成物に加える。ゲル材料の粘性率が低下すると、留置組成物は、流れている血液の中で実質的に溶け始める。流れている血液の中でのゲル材料の実質的な溶解は、実質的にすべてのゲル材料が治療部位から除去され、流れている血液の中に実質的に完全に溶けるまで続く。ゲル材料は、流れている血液の中に存在するようになると、血管治療部位の遠位(すなわち下流)に位置する脈管構造内で血流を減少させたり、血流を制限したり、血流を閉塞させたり、血流に干渉したりしない。
【0029】
好ましい一実施態様では、生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料は、血液がない状態にされた流体導管の隔離された内部空間の中にある血管治療部位に投与される。ゲル材料は、その隔離された内部空間の中に所定の期間(滞在時間)にわたって留まらせる。ゲル材料の滞在時間は、主に、生物活性剤がゲル材料から治療部位の血管組織に送達される速度によって決まる。ゲル材料の滞在時間は、別の血管治療部位における似た手続き、または同時に実行している他の医療手続きのタイミングと順番によって決まる可能性もある。本発明で用いるゲル材料から血管その他の組織への生物活性剤の移動は、約5秒〜約1時間超の範囲で起こる。本発明による治療を必要とする血管治療部位への生物活性剤の送達速度に関係なく、別の血管治療部位に対する同様の外科手続き、または異なる外科手続きにより、血管組織治療部位におけるゲル材料の滞在時間が長くなる可能性がある。
【0030】
本発明の方法に従って治療する必要のある血管治療部位に十分な生物活性剤が送達されると、流体導管の隔離された内部空間に血液を再び入れることができる。流れている血液によって揺変性ゲル材料に剪断力が加わることで、留置組成物の粘性率の低下が引き起こされる。ゲル材料の粘性率が低下すると、留置組成物は、治療される流体導管を通って流れる血液の中に実質的に溶けるようになる。流れている血液の中にゲル材料が実質的に溶けると、血管治療部位の遠位(すなわち下流)に位置する脈管構造の遮断または閉塞が十分に阻止される。
【0031】
“ゲル材料”は、少なくとも2種類の成分、すなわち溶媒成分とポリマー鎖成分を含む材料である。この明細書では、“ヒドロゲル”という用語は、少なくとも2種類の成分、すなわち水性溶媒成分とポリマー鎖成分を含む材料を意味する。本発明のゲル材料は、自身の重量の影響下では流動しない。この特性は、約5mlのゲル材料を13mm×100mmの標準的なガラス製試験管の中に入れ、数秒間にわたって180°逆転させるときに裸眼で観察できる。
【0032】
本発明で用いるゲル材料は、揺変性であることに加え、混濁性である。“混濁”という用語は、ゲル材料が、裸眼で、ぼんやりして見えること、または半透明に見えること、または曇っているように見えること、または乳白色に見えること、または不透明に見えることを意味する。本発明で用いるゲル材料の混濁性は、約5mlのゲル材料を13mm×100mmの標準的なガラス製試験管の中に入れ、暗い背景に対して裸眼で照射光源に対して直角に見るときに判断できる。
【0033】
“揺変性である”および“揺変性”という用語は、個々の化学物質の物理的特性を意味する。ある化学物質が揺変性であるのは、その化学物質の粘性率が剪断力を加えられて減少した後、加えられた剪断力が除去されると粘性率が増加する挙動を示すときである。剪断力は、振盪、撹拌、流体流への曝露、表面積の物理的拡張といった方法によって揺変性ゲル材料に加えることができるが、方法がこれらに限定されることはない。揺変性は、流量測定や粘性率測定などの方法を利用して評価することができる。
【0034】
“血管疾患”という用語には、血管損傷、血管への予防的介入、脈管疾患、内膜肥厚、静脈炎、不安定プラーク、頸動脈プラーク、冠状動脈プラーク、血管プラーク、動脈瘤疾患、血管剥離、アテローム硬化性プラーク、アテローム硬化性病変、血管感染症、血管性敗血症などが含まれるが、これらに限定されることはない。
【0035】
この明細書では、“炎症”という用語は、手術、外傷、刺激、感染に対する哺乳動物の身体の生理的応答を意味する。炎症応答には、化学、細胞、組織、臓器のレベルでの複雑な生体活動が含まれる。一般に、炎症応答は保護の試みであり、損傷を引き起こす刺激を取り除くとともに、病気の組織または外傷を受けた組織が治癒プロセスを開始させる。
【0036】
本発明において揺変性混濁ゲル材料に適したポリマー鎖成分は、揺変性混濁ゲルを形成できる天然ポリマーと合成ポリマーである。ポリマー鎖成分として、ポリエーテル(例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレングリコール-コ-プロピレングリコール)、ポリエチレングリコールのコポリマー、プロピレングリコールのコポリマー)、ポリオール(例えばポリビニルアルコール、ポリアリルアルコール)、ポリアニオン(例えばポリアクリル酸、ポリ(メタクリル酸))、ポリアニオン性多糖(例えばアルギン酸塩、ヘパリン、硫酸ヘパリン、硫酸デキストラン、キサンタン、カラギーナン、アラビアゴム、トラガカント、アラビノガラクタン、ペクチン)、中性多糖(例えば寒天、アガロース、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、デキストラン)、マクロ環式多糖(例えばシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルシクロデキストリン)、ポリカチオン(例えばポリ(リシン)、ポリ(アリルアミン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(グアニジン)、ポリ(ビニルアミン)、α,ω-ポリエチレングリコール-ジアミン、ポリ(第四級アミン))、ポリアニオン性多糖(例えばキチン、キトサン)、ポリアクリロニトリル(例えば加水分解されたポリアクリロニトリル、ポリ(アクリルアミド-コ-アクリルニトリル))とそのコポリマー)、タンパク質をベースとしたポリマー(例えばゼラチン、コラーゲン、トロンビン、フィブリン)などがあるが、これらに限定されることはない。
【0037】
一実施態様では、ゲル材料は、α-シクロデキストリン(αCD)とポリエチレングリコール(PEG)で構成されている。このようなゲル材料は、揺変性かつ混濁性である。
【0038】
本発明の揺変性混濁ゲル材料に含まれる適切な生物活性剤は、元の細胞、微生物、細胞間環境、血管治療部位の組織に望む効果を及ぼす生物学的かつ薬理学的に活性な物質である。このゲル材料は、このゲル材料に含まれる生物活性剤の溶解度を向上または変化させる溶解剤を含んでいてもよい。このゲル材料は、血管組織への生物活性剤の送達を向上または変化させる浸透剤を含んでいてもよい。生物活性剤は、単純な分子、巨大分子、無機分子、複雑な生物学的実体(例えば細胞、組織、組織凝集体)で構成することができる。
【0039】
本発明で用いるのに適した生物活性剤として、タンパク質をベースとした分子(例えば酵素、成長因子、プロテアーゼ、糖タンパク質、サイトカイン)、核酸をベースとした分子(例えばDNA、RNA、遺伝子、遺伝子の断片、リボザイム、核酸)、炭水化物をベースとした分子(例えばグルコース、グリコーゲン、シクロデキストリン、ヘパリン)、脂質をベースとした分子(例えばコレステロール、プロスタグランジン)、複雑な生物学的実体(例えば細胞外マトリックス、ウイルス、ウイレノス(virenos)、プリオン、細胞、組織、組織凝集体)、有機分子(例えばホルモン、有機触媒、有機金属、疎油性物質)などがあるが、これらに限定されることはない。他の生物活性剤として、心臓血管剤、化学療法剤、抗菌剤、抗生物質、麻酔剤、抗凝固剤、止血剤、抗ヒスタミン、抗腫瘍剤、抗脂質剤、抗真菌剤、抗カビ剤、解熱剤、血管拡張剤、高血圧剤、酸素フリー・ラジカル・スカベンジャー、抗ウイルス剤、鎮痛剤、抗増殖剤、抗炎症剤、診断薬、可視化剤、血管造影剤、相コントラスト剤、放射線不透過剤などの薬があるが、これらに限定されることはない。他の生物活性剤として、ピメクロリムス、サイトカラシン、ジクマロール、シクロスポリン、ラトルンクリンA、メトトレキセート、タクロリムス、ハロフギノン、ミコフェノール酸、ゲニステイン、バチミスタット、デキサメタゾン、クドラフラボン、シンバスタチン、プレドニゾロン、ドキソルビシン、ブロモピルビン酸、カルベジロール、ミトキサントロン、トラニラスト、エトポシド、ヒルジン、トラピジル、マイトマイシンC、アブシキシマブ、シロスタゾール、イリノテカン、エストラジオール、ジアジコン、ジピリダモール、メラトニン、コルチシン、ニフェジピン、ビタミンE、パクリタキソール、ジルチアゼム、ビンブラスチン、ベラパミル、ビンクリスチン、ラパマイシン、アンギオペプチン、エベロリムス、熱ショック・タンパク質、ゾタロリムス、ニトログリセリン、プレドニゾンなどの抗再狭窄薬があるが、これらに限定されることはない。
【0040】
本発明で用いられる生物活性剤は、血管疾患を抑制または予防する。いくつかの実施態様では、生物活性剤は、抗炎症特性を持つ、および/または平滑筋細胞の増殖を抑制する、および/または血管組織における遺伝子発現に影響を与える。一実施態様では、生物活性剤はデキサメタゾンである。デキサメタゾンは、平滑筋細胞抗増殖剤と抗炎症剤の両方であると考えられる。
【0041】
本発明の一実施態様では、1つ以上の脈管構造を治療する必要性が判断される。治療の対象となる脈管構造、または身体の他の流体導管が、従来法を利用して外科的に露出される。脈管構造が外科的に露出されると、その構造内の血流を停止させる手段が適用されてその構造を隔離するため、血管治療部位が明確になる。そのような手段として、結紮、紐、クランプ、縫合、ステープルや、脈管構造内の血流を停止させるのに十分な圧縮力を脈管構造に加えることのできる他の装置があるが、これらに限定されることはない。
【0042】
血管治療部位に針付き注射器を近づけ、その血管治療部位に存在しているすべての血液その他の流体をその針付き注射器で除去する。
【0043】
この明細書に記載したようにして調製した生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料が、針付き注射器の中に入れられる。このゲル材料を脈管構造の血管治療部位に投与するため、血液を取り除いた血管治療部位の内部に針の開放端を挿入してゲル材料を注入し、所定の滞在時間にわたって滞留させる。注入中に剪断力をゲル材料に加えると、そのゲル材料の粘性率が低下し、針を通って血管治療部位の内部空間(管腔空間)に流入する。ゲル材料が血管治療部位に満たされていくにつれ、注入中にゲル材料に加えている剪断力を減少させる。ゲル材料に対する剪断力が減少するにつててそのゲル材料の粘性率は上昇し、自身の重量の影響下では流動しなくなる。
【0044】
ゲル材料が血管治療部位の中に入ると、そのゲル材料に付随しているあらゆる生物活性剤がそのゲル材料から血管治療部位の組織へと移動できるようになる。ゲル材料から血管組織への生物活性剤の送達は、約5秒〜約1時間超の範囲で起こる可能性がある(例えば後出の実施例4を参照)。ゲル材料の滞在時間は、血管疾患を治療するために血管治療部位の血管組織に十分な量の生物活性剤を送達するのに必要なよりも長くなるように選択することができる。
【0045】
血管組織を治療するため血管治療部位に生物活性剤を実質的に送達するのに十分な滞在時間の後、隔離された脈管構造内の血流停止手段を除去する。この手段を除去すると、血液が再び血管治療部位を通って流れる。血液が再び血管治療部位を通って流れると、ゲル材料に剪断力を再度加える。ゲル材料に剪断力が加わると、そのゲル材料の粘性率は低下し、流れている血液の中に実質的に溶け始める。血液を除去した隔離された血管治療部位が透明または半透明である場合には、流れている血液の中に実質的に溶けたゲル材料が血管治療部位を通過するのを裸眼で観察することができる。ゲル材料の実質的な溶解は、実質的にすべてのゲル材料が治療部位から除去されて、流れている血液の中に実質的に溶けるまで続く。実質的に溶けたゲル材料は、血管治療部位の遠位(すなわち下流)に位置する脈管構造内で血流を制限したり、閉塞させたり、減少させたりしない。
【0046】
治療する血管治療部位に血流が再び戻ると、その血管治療部位を外科的に閉じた後、必要な他のあらゆる外科的手続きを実施する。
【0047】
本発明の方法の別の一実施態様は、介入的技術を利用して実施することができる。介入的技術には、通常、侵襲が最少の手続きが含まれる。この技術は、脈管構造を破断または切断し、介入するアクセス部位を通じて脈管構造の中にカテーテルを挿入することによって始まる。介入するアクセス部位として、埋め込まれた血管プロテーゼ、上腕動脈、頸動脈、腸骨動脈、大腿動脈、大動脈や、他の動脈部位または静脈部位があるが、これらに限定されることはない。
【0048】
介入するアクセス部位を通じてカテーテルを脈管構造の中に入れた後、介入するそのアクセス部位から治療が必要な血管疾患のある部位(すなわち血管治療部位)まで導くことができる。血管治療部位として、血管、移植血管、血管ステント、血管フィルタ、血管吻合部、血管ステント-移植片などの血管導管があるが、これらに限定されることはない。
【0049】
本発明の方法の一実施態様は血管疾患の介入的治療に関するものであり、この方法は、カテーテルを通じた注入によってゲル材料を血管治療部位に投与する操作を含んでいる。ゲル材料は、血管治療部位の血流を事前に止めて、または止めずにその血管治療部位に直接注入することができる。
【0050】
本発明の別の一実施態様は、医療装置を通じた生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料のカテーテル注入に関する。カテーテルとして、市販されているカテーテル、一バルーン・カテーテル、針付きカテーテル、輸液カテーテル、バルーン・カテーテル、二重バルーン・カテーテル、動脈形成バルーン、滲出性バルーン・カテーテル、輸液バルーン・カテーテル、針付きバルーン・カテーテルなどがあるが、これらに限定されることはない。
【0051】
一実施態様では、脈管構造の中にカテーテルを挿入する前に、埋め込み可能な医療装置、または血管プロテーゼ、またはカテーテルをベースとした装置に生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料をあらかじめ付着させることができる。例えば生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料は、埋め込み可能な医療装置、または血管プロテーゼ、またはカテーテルをベースとした装置(例えばステント、ステント-移植片、移植血管、動脈形成バルーン、針付きカテーテルや、これら以外の血管プロテーゼなどがあるが、これらに限定されることはない)に手で付着させることができる。付着部は、埋め込み可能な医療装置の少なくとも一部が覆われていれば連続していても不連続でもよい。次に、血管への介入的アクセスを利用してカテーテルをベースとした装置を血管治療部位に位置させる。するとカテーテルをベースとした装置は血管治療部位に位置するため、生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料を血管治療部位に送達することができる。
【0052】
図6Aは、本発明の揺変性混濁ゲル材料12を付着させた医療装置16(ステント、ステント-移植片、移植片、バルーン、他の血管プロテーゼ)の断面図を示している。ゲル材料12を医療装置16の全表面に付着させて塗布された医療装置10を作り出す。付着部は、連続していても不連続でもよい。
【0053】
図6Bは、本発明の揺変性混濁ゲル材料12を付着させた医療装置16(ステント、ステント-移植片、移植片、バルーン、他の血管プロテーゼ)の断面図を示している。ゲル材料12を医療装置16の1つの面に付着させて塗布された医療装置10を作り出す。付着部は、連続していても不連続でもよい。
【0054】
図6Cは、本発明のゲル材料の第1の付着部12cと第2の付着部12dを有する医療装置16の断面図を示している。ゲル材料12cと12dを医療装置16の互いに反対側に付着させて塗布された医療装置10を作り出す。付着部は、連続していても不連続でもよい。
【0055】
別の一実施態様では、カテーテルを脈管構造の中に挿入する前に、カテーテルをベースとした装置に生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料をあらかじめ付着させることができる。例えば生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料は、カテーテルをベースとした装置(例えばステント、ステント-移植片、移植血管、動脈形成バルーン、針付きカテーテルや、それ以外の血管プロテーゼなどがあるが、これらに限定されることはない)に手で付着させることができる。付着部は、埋め込み可能な医療装置の少なくとも一部が覆われていれば連続していても不連続でもよい。カテーテルをベースとした装置は、脈管構造の中に挿入する前と挿入しているときには第1の直径と第1の表面積を持つ。カテーテルをベースとしたこの装置は、脈管構造の中に挿入された後、脈管構造の中で物理的に拡張されて第2の直径と第2の表面積を持つ。ゲル材料の揺変性により、組成物に加わる剪断力の存在または不在に応答してその組成物の粘性率を変えることが可能になる。カテーテルをベースとしたこの装置を物理的に拡張させている間に剪断力をゲル材料に加えると、カテーテルをベースとしたこの装置が物理的に拡張するにつれて組成物が第1の表面積から第2の表面積へと容易に変化できる程度まで組成物の粘性率が低下する。カテーテルをベースとしたこの装置が物理的に拡張した後にゲル材料から剪断力を取り除くと、組成物が自身の重量の影響下では流動しない程度まで組成物の粘性率が変化し、組成物は第2の表面積に留まる。カテーテルをベースとしたこの装置を血管治療部位に配置すると、カテーテルをベースとしたこの装置の拡張中および/または拡張後に生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料をその血管治療部位に送達することができる。本発明で用いるのに適したゲル材料は、剪断力のもとで流動状態にできるが、非剪断条件では自身の重量の影響下で流動しない材料である。
【0056】
図7Aは、カテーテル14を取り囲む医療装置16(ステント、ステント-移植片、バルーン、他の血管プロテーゼ)に本発明の揺変性混濁ゲル材料12を付着させた状態の断面図を示している。カテーテルをベースとした装置16の表面にゲル材料12を付着させ、第1の直径と第1の表面積を持つ塗布された医療装置10を作り出す。付着部は、連続していても不連続でもよい。
【0057】
図7Bは、図7Aに示したのと同じカテーテルをベースとした装置の断面図だが、カテーテルをベースとした装置16が拡張されて第2の直径と第2の表面積になっている点が異なる。
【0058】
別の一実施態様では、血管造影剤の形態の生物活性剤を生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料の中に組み込むことで、血管治療部位においてゲル材料の血管造影画像を得ることができる。混合、再処理、組み合わせ、ゲル材料の中でのその活性剤の直接的な可溶化や、その血管造影剤をゲル材料の中に組み込む別の方法を通じ、血管造影剤を生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料の中に組み込むことができる。生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料は、血管造影法を利用して血管治療部位において可視化される。
【0059】
血管組織を治療できる生物活性剤を血管疾患の治療に十分な量で含む揺変性混濁ゲル材料の他の実施態様として、ポリエチレングリコールと、α-シクロデキストリンと、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)と、生物活性剤から製造されたゲル材料;ポリビニルアルコールと、ホウ酸ナトリウムと、ポリオキシエチレンソルビトールエステルと、生物活性剤から製造されたゲル材料;アルギン酸ナトリウムと、塩化カルシウムと、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンと、生物活性剤から製造されたゲル材料;デキストランと、塩化カリウムと、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)と、生物活性剤から製造されたゲル材料などがあるが、これらに限定されることはない。
【0060】
本発明で用いるのが好ましい生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料は、Liら(アメリカ合衆国特許出願公開2002/0019369)によって開示されている。なおその内容は、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
この実施例には、血管組織を治療できる生物活性剤を血管疾患の治療に十分な量で含む揺変性混濁ゲル材料の調製法を記載する。
【0062】
撹拌と加熱(60℃)をしながらリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(0.15M NaCl、pH7.4、インヴィトロジェン社、カールスバッド、カリフォルニア州)を0.40g/mlのヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)(シグマ-オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)および0.20g/mlのα-シクロデキストリン(αCD)(シグマ-オールドリッチ社)と混合した後、撹拌と加熱(60℃)をしながら20mg/mlのデキサメタゾン(ファルマシア&アップジョン社、カラマズー、ミシガン州)を添加することによって第1の溶液(この明細書では溶液1Aと呼ぶ)を調製した。溶液1Aはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0063】
平均Mn=8kDa(0.26g/ml)のポリエチレングリコール(PEG、ダウ・ケミカル社、ミッドランド、ミシガン州)をPBSに溶かすことによって第2の溶液(この明細書では溶液1Bと呼ぶ)を調製した。溶液1Bはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0064】
同じ体積の溶液1Aと溶液1Bを混合しながら1つにまとめてゲル材料Aを形成した。ゲル材料Aは混濁状態だったため不透明であり、外見が白色であった。
【0065】
(実施例2)
この実施例には、血管組織を治療できる生物活性剤を血管疾患の治療に十分な量で含む揺変性混濁ゲル材料の調製法を記載する。
【0066】
撹拌と加熱(60℃)をしながらリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(0.15M NaCl、pH7.4、インヴィトロジェン社)を0.40g/mlのヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)(シグマ-オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)および0.20g/mlのα-シクロデキストリン(αCD)(シグマ-オールドリッチ社)と混合した後、撹拌と加熱(60℃)をしながら17β-エストラジオール(20mg/ml)(シグマ-オールドリッチ社)を添加することによって第1の溶液(溶液2A)を調製した。溶液2Aはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0067】
平均Mn=8kDa(0.26g/ml)のポリエチレングリコール(PEG、ダウ・ケミカル社、ミッドランド、ミシガン州)をPBSに溶かすことによって第2の溶液(溶液2B)を調製した。溶液2Bはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0068】
同じ体積の溶液2Aと溶液2Bを混合しながら1つにまとめてゲル材料Bを形成した。ゲル材料Bは混濁状態だったため不透明であり、外見が白色であった。
【0069】
(実施例3)
この実施例には、血管組織を治療できる生物活性剤を血管疾患の治療に十分な量で含む揺変性混濁ゲル材料の調製法を記載する。
【0070】
撹拌と加熱(60℃)をしながらリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(0.15M NaCl、pH7.4)を0.40g/mlのヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)(シグマ-オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)および0.20g/mlのα-シクロデキストリン(αCD)(シグマ-オールドリッチ社)と混合した後、撹拌と加熱(60℃)をしながらジクマロール(0.67mg/ml)(シグマ-オールドリッチ社)を添加することによって第1の溶液(溶液3A)を調製した。溶液3Aはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0071】
平均Mn=8kDa(0.26g/ml)のポリエチレングリコール(PEG、ダウ・ケミカル社、ミッドランド、ミシガン州)をPBSに溶かすことによって第2の溶液(溶液3B)を調製した。溶液3Bはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0072】
同じ体積の溶液3Aと溶液3Bを混合しながら1つにまとめてゲル材料Cを形成した。ゲル材料Cは混濁状態だったため不透明であり、外見が白色であった。
【0073】
(実施例4)
この実施例には、本発明の方法に従ってデキサメタゾンを静脈組織(“治療する血管組織”)に生体内送達について記載する。
【0074】
揺変性混濁ゲル材料(この明細書ではゲル材料4Aと呼ぶ)を以下のステップによって製造した。
【0075】
撹拌と加熱(60℃)をしながらリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(0.15M NaCl、pH7.4、インヴィトロジェン社、カールスバッド、カリフォルニア州)を0.40g/mlのヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)(シグマ-オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)および0.20g/mlのα-シクロデキストリン(αCD)(シグマ-オールドリッチ社)と混合することによって第1の溶液(この明細書では溶液4Aと呼ぶ)を調製した。溶液4Aはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0076】
次に、三重水素で標識したデキサメタゾン(パーキン・エルマー社、ウォルサム、マサチューセッツ州)と約18μg/gの割合の標識していないデキサメタゾン(ファルマシア&アップジョン社)を組み合わせることによってデキサメタゾン混合物を製造した。約20mg/mlのデキサメタゾン混合物を溶液4Aに溶かすことによって溶液4Bを形成した。溶液4Bはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0077】
平均Mn=8kDa(0.26g/ml)のポリエチレングリコール(PEG、ダウ・ケミカル社、ミッドランド、ミシガン州)をPBSに溶かすことによって溶液4Cを調製した。溶液4Cはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0078】
同じ体積の溶液4Bと溶液4Cを混合しながら1つにまとめてゲル材料4Aを形成した。ゲル材料4Aは混濁状態だったため不透明であり、外見が白色であった。
【0079】
健康なイヌに麻酔をした。イヌの大腿静脈から5cmの区画を外科的に露出させた。その区画の近位端と遠位端に位置するゴム紐で静脈を圧迫することによってその区画の血流を停止させた。血管組織治療部位は、両方のゴム紐の間の血管の長さであった。その血管治療部位にカニューレを挿入した。注射器を用いてカニューレの位置で血管腔内の血液を引き出した。カニューレの位置で注射器を用いて血管治療部位の血管腔を生理食塩水で3回洗浄した。カニューレの位置に1〜3mlのゲル材料4Aを注入し、血管腔に、治療期間である2分間、または10分間、または40分間にわたって接触させた。治療期間中、治療するどの血管区画からもゲル材料4Aの漏れは観察されなかった。
【0080】
所定の治療期間の後、それぞれの血管区画から紐を除去し、血管治療部位の血流を1時間にわたって再開させた。イヌの静脈は比較的透明であるため、ゲル材料4Aの血管治療部位への投与と血管治療部位からの除去を裸眼で観察することができる。血管治療部位の血流を再開すると、ゲル材料4Aが約1分以内に実質的に溶けるのが観察された。血液を1時間流した後、血管治療部位を回収し、生理食塩水で完全に洗浄した。
【0081】
組織切片(長さ約1cm)を各血管治療部位から採取し、5mlの溶解性消化流体(パーキン・エルマー社)の中で一晩にわたって消化させた。シンチレーション・カクテルである15mlのHiSafe 2(パーキン・エルマー社)を組織切片に添加し、各切片内の三重水素で標識したデキサメタゾンから放出されるシンチレーションのカウントとβ線の定量ができるようにした。
【0082】
第2のグループの健康なイヌに麻酔をした。対照となる静脈切片(長さ約1cm)をこれらのイヌから取得した。対照となる静脈切片を5mlの溶解性消化流体(パーキン・エルマー社)の中で一晩にわたって消化させた。三重水素で標識した既知量のデキサメタゾンを消化流体に添加した。15mlのHiSafe 2(パーキン・エルマー社)を対照となる静脈切片に添加し、対照となる各静脈切片内の三重水素で標識したデキサメタゾンから放出されるシンチレーションのカウントとβ線の定量ができるようにした。
【0083】
シンチレーション・カウンタ(パーキン・エルマー社)を用い、対照となる各静脈切片から放出されるβ線を測定し(1分当たりの崩壊)、1分当たりの崩壊に関する線形基準曲線を、各切片内の三重水素で標識したデキサメタゾンの関数として作り出した。次に、組織切片からの放射線のレベル(1分当たりの崩壊)を基準曲線と比較し、三重水素で標識したデキサメタゾンの保持量を計算した。各組織切片に保持されているデキサメタゾンの合計量は、ゲル材料4Aに含まれるデキサメタゾンの合計量を、実験用の各組織切片に含まれる三重水素で標識したデキサメタゾンの合計量と相関させることによって決定した。
【0084】
図1は、実験用の組織切片に含まれるデキサメタゾンの合計量の結果を示している。この図からわかるように、血液なしの血管腔にデキサメタゾンを含むゲル材料4Aを2分間にわたって接触させると、1時間血液を流した後の組織切片には、組織1gにつき平均で9.3μgのデキサメタゾンが残っていた。血管治療部位に組織切片が含まれていた。したがって1時間の時点で、血管治療部位には、組織1gにつき平均で9.3μgのデキサメタゾンが保持されていた。
【0085】
(実施例5)
この実施例では、イヌの頸静脈(“治療する血管組織”)における揺変性混濁ゲル材料の使用を示す。この実施例は、流れている血液の中にゲル材料を導入したとき、溶けているゲル材料が脈管構造を閉塞させないことも示している。
【0086】
健康なイヌに麻酔をした。イヌの頸静脈から5cmの区画を外科的に露出させた。その区画の近位端と遠位端に位置するゴム紐で静脈を圧迫することによってその区画の血流を停止させた。血管組織治療部位は、両方のゴム紐の間の血管の長さであった。その血管治療部位にカニューレを挿入した。注射器を用いてカニューレの位置で血管腔内の血液を引き出した。カニューレの位置で注射器を用いて血管治療部位の血管腔を生理食塩水で3回洗浄した。カニューレの位置に3〜4mlのゲル材料A(上の実施例1に記載)を注入し、血管腔に、治療期間である40分間にわたって接触させた。治療期間中、治療するどの血管区画からもゲル材料Aの漏れは観察されなかった。
【0087】
所定の治療期間の後、それぞれの血管区画から紐を除去し、血管治療部位の血流を1時間にわたって再開させた。イヌの静脈は比較的透明であるため、ゲル材料Aの血管治療部位への投与と血管治療部位からの除去を裸眼で観察することができる。血管治療部位の血流を再開すると、ゲル材料Aが約1分以内に実質的に溶けるのが観察された。血管治療部位の血流を再開した後、どのイヌも1時間にわたって生きていた。
【0088】
血液を1時間流した後、血管治療部位を回収し、生理食塩水で完全に洗浄した。目視検査すると、どの治療部位の管腔表面にもゲル材料Aは観察できなかった。組織切片(長さ約1cm)を各血管治療部位から採取した。これら切片の組織学的検査(図2参照)により、これらの切片は正常な外見であることが明らかになった。
【0089】
この実施例においてゲル材料Aで治療したイヌの心臓と肺を外科的に切り出した。その心臓と肺の病理学的検査により、これらの臓器に塞栓または閉塞の証拠がないことが明らかになった。これは、血流にゲル材料Aが溶けても、血管組織治療部位の遠位(すなわち下流)に位置する脈管構造の血流は制限されなかったことを示している。これらの結果から、この投与法でゲル材料を流れている血液の中に導入したときに脈管構造が閉塞しなかったことが証明される。
【0090】
(実施例6)
この実施例では、イヌの大腿静脈(“治療する血管組織”)における揺変性混濁ゲル材料の使用を示す。この実施例は、流れている血液の中にゲル材料を導入したとき、溶けているゲル材料が脈管構造を閉塞させないことも示している。
【0091】
健康なイヌに麻酔をした。イヌの大腿静脈から5cmの区画を外科的に露出させた。その区画の近位端と遠位端に位置するゴム紐で静脈を圧迫することによってその区画の血流を停止させた。血管組織治療部位は、両方のゴム紐の間の血管の長さであった。その血管治療部位にカニューレを挿入した。注射器を用いてカニューレの位置で血管腔内の血液を引き出した。カニューレの位置で注射器を用いて血管治療部位の血管腔を生理食塩水で3回洗浄した。カニューレの位置に1〜3mlのゲル材料A(上の実施例1に記載)を注入し、血管腔に、治療期間である40分間にわたって接触させた。治療期間中、治療するどの血管区画からもゲル材料Aの漏れは観察されなかった。
【0092】
所定の治療期間の後、それぞれの血管区画から紐を除去し、血管治療部位の血流を再開させた。イヌの静脈は比較的透明であるため、ゲル材料Aの血管治療部位への投与と血管治療部位からの除去を裸眼で観察することができる。血管治療部位の血流を再開すると、ゲル材料Aが約1分以内に実質的に溶けるのが観察された。
【0093】
治療部位の血流を再開させた後、治療部位の周囲の皮下組織と皮膚を縫合して閉じた。どのイヌも14日間にわたって生きていた。
【0094】
14日後、すべてのイヌを安楽死させた。次に、血管治療部位を回収し、生理食塩水で完全に洗浄した。目視検査すると、どの治療部位の管腔表面にもゲル材料Aは観察できなかった。組織切片(長さ約1cm)を各血管治療部位から採取した。これら切片の組織学的検査により、送達されたデキサメタゾンの薬理効果の証拠が示された。特に、静脈にカニューレを入れたときの外科的外傷に対する遅延治癒応答が観察された。血管治療部位のカニューレを入れなかった部分からの組織切片は、図3に示したように正常な形態であった。これらの知見により、生物活性剤含有揺変性混濁ゲル材料が有効量の生物活性剤を血管治療部位に送達する能力を持つことが証明された。
【0095】
この実施例においてゲル材料Aで治療したイヌの心臓と肺を安楽死させたときに外科的に切り出した。その心臓と肺の病理学的検査により、これらの臓器に塞栓または閉塞の証拠がないことが明らかになった。これは、血流にゲル材料Aが溶けても、血管組織治療部位の遠位(すなわち下流)に位置する脈管構造の血流は制限されなかったことを示している。これらの結果から、この投与法でゲル材料を流れている血液の中に導入したときに脈管構造が閉塞しなかったことが証明される。
【0096】
(実施例7)
この実施例には、本発明の方法に従ってエストラジオールを静脈組織(“治療する血管組織”)に生体内送達について記載する。
【0097】
揺変性混濁ゲル材料(この明細書ではゲル材料7Aと呼ぶ)を以下のステップによって製造した。
【0098】
撹拌と加熱(60℃)をしながらリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(0.15M NaCl、pH7.4、インヴィトロジェン社、カールスバッド、カリフォルニア州)を0.40g/mlのヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)(シグマ-オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)および0.20g/mlのα-シクロデキストリン(αCD)(シグマ-オールドリッチ社)と混合することによって第1の溶液(この明細書では溶液7Aと呼ぶ)を調製した。溶液7Aはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0099】
次に、三重水素で標識したエストラジオール(パーキン・エルマー社)と約27μg/gの割合の標識していないエストラジオール(シグマ社)を組み合わせることによってエストラジオール混合物を製造した。約20mg/mlのエストラジオール混合物を溶液7Aに溶かすことによって第2の溶液(この明細書では溶液7Bと呼ぶ)を形成した。溶液7Bはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0100】
平均Mn=8kDa(0.26g/ml)のポリエチレングリコール(PEG、ダウ・ケミカル社)をPBSに溶かすことによって第3の溶液(この明細書では溶液7Cと呼ぶ)を調製した。溶液7Cはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0101】
同じ体積の溶液7Bと溶液7Cを混合しながら1つにまとめてゲル材料7Aを形成した。ゲル材料7Aは混濁状態だったため不透明であり、外見が白色であった。
【0102】
健康なイヌに麻酔をした。イヌの左大腿静脈から5cmの区画を外科的に露出させた。その区画の近位端と遠位端に位置するゴム紐で静脈を圧迫することによってその区画の血流を停止させた。血管組織治療部位は、両方のゴム紐の間の血管の長さであった。その血管治療部位にカニューレを挿入した。注射器を用いてカニューレの位置で血管腔内の血液を引き出した。カニューレの位置で注射器を用いて血管治療部位の血管腔を生理食塩水で3回洗浄した。カニューレの位置に1〜3mlのゲル材料7Aを注入し、血管腔に、治療期間である40分間にわたって接触させた。治療期間中、治療するどの血管区画からもゲル材料7Aの漏れは観察されなかった。
【0103】
所定の治療期間の後、それぞれの血管区画から紐を除去し、血管治療部位の血流を再開させた。イヌの静脈は比較的透明であるため、ゲル材料7Aの血管治療部位への投与と血管治療部位からの除去を裸眼で観察することができる。血管治療部位の血流を再開すると、ゲル材料7Aが約1分以内に実質的に溶けるのが観察された。
【0104】
治療部位の血流を再開させた後、治療部位の周囲の皮下組織と皮膚を縫合して閉じた。どのイヌも14日間にわたって生きていた。
【0105】
14日後、ゲル材料7Aで以前に治療したすべてのイヌに麻酔をした。そして血管治療部位を回収し、生理食塩水で完全に洗浄した。
【0106】
まだ生きているイヌを用い、イヌの反対側の右大腿静脈から5cmの区画を外科的に露出させた。その区画の近位端と遠位端に位置するゴム紐で静脈を圧迫することによってその区画の血流を停止させた。血管組織治療部位は、両方のゴム紐の間の血管の長さであった。その血管治療部位にカニューレを挿入した。注射器を用いてカニューレの位置で血管腔内の血液を引き出した。カニューレの位置で注射器を用いて血管治療部位の血管腔を生理食塩水で3回洗浄した。カニューレの位置に1〜3mlのゲル材料7Aを注入し、血管腔に、治療期間である40分間にわたって接触させた。治療期間中、治療するどの血管区画からもゲル材料7Aの漏れは観察されなかった。
【0107】
所定の治療期間の後、それぞれの血管区画から紐を除去し、血管治療部位の血流を1時間にわたって再開させた。イヌの静脈は比較的透明であるため、ゲル材料7Aの血管治療部位への投与と血管治療部位からの除去を裸眼で観察することができる。血管治療部位の血流を再開すると、ゲル材料7Aが約1分以内に実質的に溶けるのが観察された。
【0108】
血液を1時間流した後、右大腿静脈から血管治療部位を回収し、生理食塩水で完全に洗浄した。
【0109】
すべての血管治療部位から組織切片(長さ約1cm)を採取し、5mlの溶解性消化流体(パーキン・エルマー社)の中で一晩にわたって消化させた。シンチレーション・カクテルである15mlのHiSafe 2(パーキン・エルマー社)を組織切片に添加し、各切片内の三重水素で標識したエストラジオールから放出されるシンチレーションのカウントとβ線の定量ができるようにした。
【0110】
第2のグループの健康なイヌに麻酔をした。対照となる静脈切片(長さ約1cm)をこれらのイヌから取得した。対照となる静脈切片を5mlの溶解性消化流体(パーキン・エルマー社)の中で一晩にわたって消化させた。三重水素で標識した既知量のエストラジオールを消化流体に添加した。15mlのHiSafe 2(パーキン・エルマー社)を対照となる静脈切片に添加し、対照となる各静脈切片内の三重水素で標識したエストラジオールから放出されるシンチレーションのカウントとβ線の定量ができるようにした。
【0111】
シンチレーション・カウンタ(パーキン・エルマー社)を用い、対照となる各静脈切片から放出されるβ線を測定し(1分当たりの崩壊)、1分当たりの崩壊に関する線形基準曲線を、各切片内の三重水素で標識したエストラジオールの関数として作り出した。次に、組織切片からの放射線のレベル(1分当たりの崩壊)を基準曲線と比較し、三重水素で標識したエストラジオールの保持量を計算した。各組織切片に保持されているエストラジオールの合計量は、ゲル材料7Aに含まれるエストラジオールの合計量を、実験用の各組織切片に含まれる三重水素で標識したエストラジオールの合計量と相関させることによって決定した。
【0112】
図4は、実験用の組織切片に含まれるエストラジオールの合計量の結果を示している。この図からわかるように、血液なしの血管腔にエストラジオールを含むゲル材料7Aを40分間にわたって接触させると、1時間(1時間の血流)後の組織切片には、組織1gにつき平均で9.8μgのエストラジオールが残っていた。血管治療部位に組織切片が含まれていた。したがって1時間の時点で、血管治療部位には、組織1gにつき平均で9.8μgのエストラジオールが保持されていた。
【0113】
図4からわかるように、血液なしの血管腔にエストラジオールを含むゲル材料7Aを40分間にわたって接触させると、14日後の組織切片には、組織1gにつき平均で0.3μgのエストラジオールが残っていた。血管治療部位に組織切片が含まれていた。したがって14日後の時点で、血管治療部位には、組織1gにつき平均で0.3μgのエストラジオールが保持されていた。
【0114】
(実施例8)
この実施例には、血管組織を治療できる第1の生物活性剤を血管疾患の治療に十分な量で含むとともに、ゲル材料の血管造影像の可視化を助ける相コントラスト剤の形態の第2の生物活性剤を含む揺変性混濁ゲル材料の調製法を記載する。この実施例には、血管造影法を利用したゲル材料の可視化を示す。
【0115】
撹拌と加熱(60℃)をしながらPBSを0.40g/mlのヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)(シグマ-オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)および0.20g/mlのα-シクロデキストリン(αCD)(シグマ-オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)と混合した後、撹拌と加熱(60℃)をしながら20mg/mlのデキサメタゾンと600mg/mlのイオヘキソール(オヴィオネ社、ロウレス、ポルトガル国)を添加することによって第1の溶液(この明細書では溶液8Aと呼ぶ)を調製した。溶液8Aはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0116】
平均Mn=8kDa(0.26g/ml)のPEGをPBSに溶かすことによって第2の溶液(この明細書では溶液8Bと呼ぶ)を調製した。溶液8Bはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0117】
同じ体積の溶液8Aと溶液8Bを混合しながら1つにまとめてゲル材料Dを形成した。ゲル材料Dは混濁状態だったため不透明であり、外見が白色であった。
【0118】
健康なイヌに麻酔をした。イヌの頸静脈から5cmの区画を外科的に露出させた。その区画の近位端と遠位端に位置するクランプを用いてその区画の血流を停止させた。血管組織治療部位は、両方のクランプの間の血管の長さであった。その血管治療部位にカニューレを挿入した。注射器を用いてカニューレの位置で血管腔内の血液を引き出した。カニューレの位置に1〜3mlのゲル材料Dを注入し、血管造影法によって可視化した(図5c)。
【0119】
血管造影の後、血管区画からクランプを除去し、血管治療部位の血流を約5分間にわたって再開させた。次に、その区画の近位端と遠位端に位置するクランプを用いて静脈を圧迫することによりその区画の血流を再び停止させた。血管組織治療部位は、両方のクランプの間の血管の長さであった。その血管治療部位にカニューレを挿入した。注射器を用いてカニューレの位置で血管腔内の血液を引き出した。カニューレの位置に1〜3mlのゲル材料A(上の実施例1に記載したものであり、相コントラスト剤を含んでいなかった)を注入し、対照として血管造影法によって可視化した(図5b)。
【0120】
血管造影の後、血管区画からクランプを除去し、血管治療部位の血流を約5分間にわたって再開させた。次に、その区画の近位端と遠位端に位置するクランプを用いて静脈を圧迫することによりその区画の血流を再び停止させた。血管組織治療部位は、両方のクランプの間の血管の長さであった。その血管治療部位にカニューレを挿入した。注射器を用いてカニューレの位置で血管腔内の血液を引き出した。カニューレの位置に1〜3mlの生理食塩水(シグマ社)を注入し、対照として血管造影法によって可視化した(図5a)。
【0121】
この実施例は、血管造影法を利用した揺変性混濁ゲル材料の可視化を示している。
【0122】
(実施例9)
この実施例には、血管組織を治療できる第1の生物活性剤を血管疾患の治療に十分な量で含むとともに、ゲル材料の血管造影像の可視化を助ける相コントラスト剤の形態の第2の生物活性剤を含む揺変性混濁ゲル材料の調製法を記載する。この実施例には、血管造影法を利用したゲル材料の可視化を示す。
【0123】
撹拌と加熱(60℃)をしながらPBSを0.40g/mlのヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)(シグマ-オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)および0.20g/mlのα-シクロデキストリン(αCD)(シグマ-オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)と混合した後、撹拌と加熱(60℃)をしながら20mg/mlのデキサメタゾンと600mg/mlのイオヘキソール(オヴィオネ社、ロウレス、ポルトガル国)を添加することによって第1の溶液(この明細書では溶液9Aと呼ぶ)を調製した。溶液9Aはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0124】
平均Mn=8kDa(0.26g/ml)のPEGをPBSに溶かすことによって第2の溶液(この明細書では溶液9Bと呼ぶ)を調製した。溶液9Bはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0125】
同じ体積の溶液9Aと溶液9Bを混合しながら1つにまとめてゲル材料Eを形成した。ゲル材料Eは混濁状態だったため不透明であり、外見が白色であった。
【0126】
健康なイヌに麻酔をした。イヌの頸静脈から5cmの区画を外科的に露出させた。その区画の近位端と遠位端に位置するクランプを用いてその区画の血流を停止させた。血管組織治療部位は、両方のクランプの間の血管の長さであった。その血管治療部位にカニューレを挿入した。注射器を用いてカニューレの位置で血管腔内の血液を引き出した。カニューレの位置に1〜3mlのゲル材料Eを注入し、血管造影法によって可視化した(図5d)。
【0127】
血管造影の後、血管区画からクランプを除去し、血管治療部位の血流を約5分間にわたって再開させた。次に、その区画の近位端と遠位端に位置するクランプを用いて静脈を圧迫することによりその区画の血流を再び停止させた。血管組織治療部位は、両方のクランプの間の血管の長さであった。その血管治療部位にカニューレを挿入した。注射器を用いてカニューレの位置で血管腔内の血液を引き出した。カニューレの位置に1〜3mlのゲル材料A(上の実施例1に記載したものであり、相コントラスト剤を含んでいなかった)を注入し、対照として血管造影法によって可視化した(図5b)。
【0128】
血管造影の後、血管区画からクランプを除去し、血管治療部位の血流を約5分間にわたって再開させた。次に、その区画の近位端と遠位端に位置するクランプを用いて静脈を圧迫することによりその区画の血流を再び停止させた。血管組織治療部位は、両方のクランプの間の血管の長さであった。その血管治療部位にカニューレを挿入した。注射器を用いてカニューレの位置で血管腔内の血液を引き出した。カニューレの位置に1〜3mlの生理食塩水(シグマ社)を注入し、対照として血管造影法によって可視化した(図5a)。
【0129】
この実施例は、血管造影法を利用した揺変性混濁ゲル材料の可視化を示している。
【0130】
(実施例10)
この実施例には、血管組織を治療できる生物活性剤を血管疾患の抑制に十分な量で含む揺変性混濁ゲル材料を、医療装置を通じて送達する方法を記載する。
【0131】
3つの異なる医療装置、すなわち4フレンチ・カテーテル(長さ100cm)(コーディス社、ウォーレン、ニュージャージー州)と、6フレンチ・カテーテル(長さ90cm)(コーディス社)と、20ゲージの針(長さ2.54cm)(モノジェクト社、マンスフィールド、マサチューセッツ州)を通じ、各医療装置に取り付けた注射器に手で圧力を加えながらゲル材料A(上の実施例1に記載)を注入した。医療装置は5mlのルーアー-ロック注射器(ベクトン・ディッキンソン社、フランクリン・レイクス、ニュージャージー州)に取り付けた。取り付けた注射器に手で圧力を加えて3つの医療装置すべての中をゲル材料Aを通過させた。この実施例は、針を通じた注入によってゲル材料を投与する方法を示している。この実施例は、カテーテルを通じた血管内送達によってゲル材料を投与する方法も示している。
【0132】
(実施例11)
この実施例には、本発明の方法に従ってデキサメタゾンを動脈組織(“治療する血管組織”)に生体内送達について記載する。
【0133】
揺変性混濁ゲル材料(この明細書ではゲル材料11Aと呼ぶ)を以下のステップによって製造した。
【0134】
撹拌と加熱(60℃)をしながらリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(0.15M NaCl、pH7.4、インヴィトロジェン社、カールスバッド、カリフォルニア州)を0.57g/mlのヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)(シグマ-オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)および0.20g/mlのα-シクロデキストリン(αCD)(シグマ-オールドリッチ社)と混合することによって第1の溶液(この明細書では溶液11Aと呼ぶ)を調製した。溶液11Aはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0135】
次に、三重水素で標識したデキサメタゾン(パーキン・エルマー社、ウォルサム、マサチューセッツ州)と約9μg/gの割合の標識していないデキサメタゾン(ファルマシア&アップジョン社)を組み合わせることによってデキサメタゾン混合物を製造した。約20mg/mlのデキサメタゾン混合物を溶液11Aに溶かすことによって溶液11Bを形成した。溶液11Bはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0136】
平均Mn=8kDa(0.26g/ml)のポリエチレングリコール(PEG、ダウ・ケミカル社、ミッドランド、ミシガン州)をPBSに溶かすことによって溶液11Cを調製した。溶液11Cはゲル材料を形成しなかったため、混濁状態ではなかった。
【0137】
同じ体積の溶液11Bと溶液11Cを混合しながら1つにまとめてゲル材料11Aを形成した。ゲル材料11Aは混濁状態だったため不透明であり、外見が白色であった。
【0138】
健康なイヌに麻酔をした。イヌの大腿動脈から5cmの区画を外科的に露出させた。その区画の近位端と遠位端に位置するゴム紐で静脈を圧迫することによってその区画の血流を停止させた。血管組織治療部位は、両方のゴム紐の間の血管の長さであった。その血管治療部位にカニューレを挿入した。注射器を用いてカニューレの位置で血管腔内の血液を引き出した。カニューレの位置で注射器を用いて血管治療部位の血管腔を生理食塩水で3回洗浄した。カニューレの位置に1〜3mlのゲル材料11Aを注入し、血管腔に、治療期間である2分間にわたって接触させた。治療期間中、治療するどの血管区画からもゲル材料11Aの漏れは観察されなかった。
【0139】
所定の治療期間の後、それぞれの血管区画から紐を除去し、血管治療部位の血流を1時間にわたって再開させた。イヌの動脈は比較的透明であるため、ゲル材料11Aの血管治療部位への投与と血管治療部位からの除去を裸眼で観察することができる。血管治療部位の血流を再開すると、ゲル材料11Aが約1分以内に実質的に溶けるのが観察された。
【0140】
血液を流してから約1時間後、注入後血管造影法を実施し、血流の中にゲル材料11Aが溶けた後に治療部位の遠位に位置する毛細血管とそれ以外の脈管構造の開通状態がどうなっているかを調べた。治療部位の遠位にある動脈の血管造影から、ゲル材料が血流に溶けた後に血液は正常に灌流することが明らかになった。これらの結果は、ゲル材料を投与するこの方法が、流れている血液の中にゲル材料を導入したときに脈管構造を閉塞させないことを証明している。
【0141】
血管造影の後、血管治療部位を回収し、生理食塩水で完全に洗浄した。組織切片(長さ約1cm)を採取し、5mlの溶解性消化流体(パーキン・エルマー社)の中で一晩にわたって消化させた。シンチレーション・カクテルである15mlのHiSafe 2(パーキン・エルマー社)を組織切片に添加し、各切片内の三重水素で標識したデキサメタゾンから放出されるシンチレーションのカウントとβ線の定量ができるようにした。
【0142】
第2のグループの健康なイヌに麻酔をした。対照となる動脈切片(長さ約1cm)をこれらのイヌから取得した。対照となる動脈切片を5mlの溶解性消化流体(パーキン・エルマー社)の中で一晩にわたって消化させた。三重水素で標識した既知量のデキサメタゾンを消化流体に添加した。15mlのHiSafe 2(パーキン・エルマー社)を対照となる動脈切片に添加し、対照となる各動脈切片内の三重水素で標識したデキサメタゾンから放出されるシンチレーションのカウントとβ線の定量ができるようにした。
【0143】
シンチレーション・カウンタ(パーキン・エルマー社)を用い、対照となる各動脈切片から放出されるβ線を測定し(1分当たりの崩壊)、1分当たりの崩壊に関する線形基準曲線を、各切片内の三重水素で標識したデキサメタゾンの関数として作り出した。次に、組織切片からの放射線のレベル(1分当たりの崩壊)を基準曲線と比較し、三重水素で標識したエストラジオールの保持量を計算した。各組織切片に保持されているデキサメタゾンの合計量は、ゲル材料11Aに含まれるデキサメタゾンの合計量を、実験用の各組織切片に含まれる三重水素で標識したデキサメタゾンの合計量と相関させることによって決定した。
【0144】
血液なしの血管腔にデキサメタゾンを含むゲル材料11Aを2分間にわたって接触させると、1時間血液を流した後の組織切片には、組織1gにつき平均で9.1μgのデキサメタゾンが残っていた。血管治療部位に組織切片が含まれていた。したがって1時間の時点で、血管治療部位には、組織1gにつき平均で9.1μgのデキサメタゾンが保持されていた。
【0145】
(実施例12)
この実施例には、血管組織を治療できる生物活性剤を血管疾患の治療に十分な量で含む揺変性混濁ゲル材料の調製法を記載する。
【0146】
ポリビニルアルコール(PVA、スペクトラム社、ガーデナ、カリフォルニア州)と、ホウ酸ナトリウム(Borax、シグマ社)と、ポリオキシエチレンソルビトールエステル(Tween(登録商標)20、シグマ社)と、デキサメタゾン(ファルマシア&アップジョン社)とから、揺変性混濁ゲル材料(この明細書ではゲル材料Fと呼ぶ)を以下のステップによって製造した。
【0147】
3つの溶液を別々に形成した:
溶液12A:水1mlにつき0.03gのPVA
溶液12B:ポリオキシエチレンソルビトールエステル1mlにつき10mgのデキサメタゾン
溶液12C:水1mlにつき10mgのBorax
【0148】
その後、0.5mlの溶液12Bを9.5mlの溶液12Aと完全に混合することによって溶液12Dを形成した。次に、0.5mlの溶液12Cを5mlの溶液Dに添加した。混合するとゲル材料Fが形成され、それは混濁状態であった。
【0149】
(実施例13)
この実施例には、血管組織を治療できる生物活性剤を血管疾患の治療に十分な量で含む揺変性混濁ゲル材料の調製法を記載する。
【0150】
ポリビニルアルコール(PVA、スペクトラム社、ガーデナ、カリフォルニア州)と、ホウ酸ナトリウム(Borax、シグマ社)と、HPβCD(シグマ社)と、デキサメタゾン(ファルマシア&アップジョン社)とから、揺変性混濁ゲル材料(この明細書ではゲル材料Gと呼ぶ)を以下のステップによって製造した。
【0151】
3つの溶液を別々に形成した:
溶液13A:水1mlにつき0.05gのPVA
溶液13B:水1mlにつき0.20gのHPβCD
溶液13C:水1mlにつき10mgのBorax
【0152】
その後、1mlの溶液13Bにつき約12mgのデキサメタゾンを溶かすことによって溶液13Dを形成した。次に、2.5mlの溶液13Aと、2.5mlの溶液13Dと、0.25mlの溶液13Cを完全に1つにまとめた。混合するとゲル材料Gが形成され、それは混濁状態であった。
【0153】
(実施例14)
この実施例には、実施例13に記載したゲル材料Gを用いて本発明の方法に従ってデキサメタゾンを静脈組織(“治療する血管組織”)に生体内送達について記載する。
【0154】
健康なイヌに麻酔をした。イヌの頸静脈から5cmの区画を外科的に露出させた。その区画の近位端と遠位端に位置するゴム紐で静脈を圧迫することによってその区画の血流を停止させた。血管組織治療部位は、両方のゴム紐の間の血管の長さであった。その血管治療部位にカニューレを挿入した。注射器を用いてカニューレの位置で血管腔内の血液を引き出した。カニューレの位置で注射器を用いて血管治療部位の血管腔を生理食塩水で3回洗浄した。カニューレの位置に1〜3mlのゲル材料Gを注入し、血管腔に、治療期間である40分間にわたって接触させた。治療期間中、治療するどの血管区画からもゲル材料Gの漏れは観察されなかった。
【0155】
所定の治療期間の後、それぞれの血管区画から紐を除去し、血管治療部位の血流を1時間にわたって再開させた。イヌの静脈は比較的透明であるため、ゲル材料Gの血管治療部位への投与と血管治療部位からの除去を裸眼で観察することができる。血管治療部位の血流を再開すると、ゲル材料Gが約1分以内に実質的に溶けるのが観察された。血液を流してから約1時間後、血管治療部位を回収し、生理食塩水で完全に洗浄した。
【0156】
各血管治療部位から組織切片(長さ約1cm)を採取した。これら切片の組織学的検査により、これらの切片は正常な外見であることが明らかになった。血管治療部位の追加の3つの切片について、組織抽出によりデキサメタゾンの含有量を分析し、二重質量分析を組み合わせた高性能液体クロマトグラフィで定量した。これら組織切片に含まれるデキサメタゾンのレベルは、組織1gにつき約15.9±9.8μgであった。これは、本発明の方法によって血管組織治療部位に生物活性剤が送達されることを証明している。
【0157】
(実施例15)
この実施例には、血管組織を治療できる生物活性剤を血管疾患の治療に十分な量で含む揺変性混濁ゲル材料の調製法を記載する。
【0158】
アルギン酸ナトリウム(シグマ社)と、塩化カルシウム(シグマ社)と、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)(シグマ社)と、デキサメタゾン(ファルマシア&アップジョン社)とから、揺変性混濁ゲル材料(この明細書ではゲル材料Hと呼ぶ)を以下のステップによって製造した。
【0159】
3つの溶液を別々に形成した:
溶液15A:水1mlにつき1.7mgの塩化カルシウム
溶液15B:水1mlにつき0.40gのHPβCD
溶液15C:水1mlにつき20mgのアルギン酸ナトリウム
【0160】
その後、1mlの溶液15Bにつき約20mgのデキサメタゾンを溶かすことによって溶液15Dを形成した。次に、2.5mlの溶液15Aと、2.5mlの溶液15Dと、2.5mlの溶液15Cを1つにまとめた。混合するとゲル材料Hが形成され、それは混濁状態であった。
【0161】
(実施例16)
この実施例には、血管組織を治療できる生物活性剤を血管疾患の治療に十分な量で含む揺変性混濁ゲル材料の調製法を記載する。
【0162】
デキストラン(Mn=4kDa、シグマ社)と、塩化カリウム(シグマ社)と、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)(シグマ社)と、デキサメタゾン(ファルマシア&アップジョン社)とから、揺変性混濁ゲル材料(この明細書ではゲル材料Xと呼ぶ)を以下のステップによって製造した。
【0163】
2つの溶液を別々に形成した:
溶液16A:水1mlにつき0.40gのHPβCD
溶液16B:水1gにつき0.22gの塩化カリウム
【0164】
その後、溶液16Aに10mg/mlのデキサメタゾンを溶かすことによって溶液16Cを形成する。次に、0.5gのデキストランを0.5mlの溶液16Cに溶かす。最後に、0.5mlの溶液16Bを添加する。混合すると、ゲル材料Xが形成され、それは混濁状態であった。
【0165】
(実施例17)
この実施例では、血管組織を治療できる生物活性剤を血管疾患の治療に十分な量で含む揺変性混濁ゲル材料のキャラクテリゼーションを記載する。ゲル材料Aの揺変性を流量測定によって調べた。
【0166】
流量計(モデルAR-G2、TAインスツルメンツ社、ニュー・カッスル、デラウェア州)を使用し、ある範囲の剪断速度でゲル材料Aの粘性率の特徴を調べた。この分析技術は、剪断速度が“線形に増加し”、次いで“線形に減少する”間の剪断応力の測定を含んでいる。40mmの円錐とプレートの形状を利用してサンプル群を25℃で分析した。約1mlのゲル材料Aを針なし注射器からプレートの上に射出し、3分間平衡させた。次に、剪断速度が“線形に増加する”ステップを実施することにより、剪断速度を2分間かけて0.1から1.0/秒に増加させた。その後、“線形に減少する”ステップを実施することにより、剪断速度を2分間かけて1.0から0.1/秒に減少させた。
【0167】
各点における見かけの粘性率は、剪断速度に対する剪断応力の比として計算した。0.1/秒での初期粘性率は約90パスカル秒であった。ゲル材料Aの粘性率は、(“線形増加”の間に)剪断速度が増加すると減少することが観察された。ゲル材料Aの粘性率は、1.0/秒では約17パスカル秒であった。次に剪断速度が減少する(“線形減少”ステップ)につれてゲル材料Aの粘性率は増加することがわかった。線形減少ステップの終わりである0.1/秒におけるゲル材料Aの粘性率は55パスカル秒であった。
【0168】
(実施例18)
この実施例では、血管組織を治療できる生物活性剤を血管疾患の治療に十分な量で含む揺変性混濁ゲル材料を少なくとも一部に付着させた埋め込み可能な医療装置を記載する。
【0169】
この実施例で用いる埋め込み可能な医療装置は、W.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)から入手した商品名VIABAHN(登録商標)エンドプロテーゼという多孔性の延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料でできたニチノール製ワイヤ強化チューブの形態であった。このチューブ状装置は、長さが15cm、直径が6mmであった。
【0170】
針付き注射器を用いてゲル材料A(上の実施例1に記載)をこの埋め込み可能な医療装置の外面に付着させた。ゲル材料は、付着すると、埋め込み可能な医療装置の外面に接着していることがわかった。
【0171】
この埋め込み可能な医療装置を物理的に拡張させた。この埋め込み可能な医療装置は、物理的に拡張すると、第1の直径かつ第1の表面積から第2の直径かつ第2の表面積に広がった。埋め込み可能な医療装置の外面に付着したかなりの量のゲル材料Aが、この埋め込み可能な医療装置を物理的に拡張させている間と拡張後にこの埋め込み可能な医療装置の外面に接着していることわかった。
【0172】
(実施例19)
この実施例では、血管組織を治療できる生物活性剤を血管疾患の治療に十分な量で含む揺変性混濁ゲル材料を少なくとも一部に付着させた埋め込み可能な医療装置を記載する。
【0173】
この実施例で用いる埋め込み可能な医療装置は、カテーテルをベースとした装置の形態であった。このカテーテルをベースとした装置は、血管内血管造影バルーン(POWERFLEX(登録商標)P3、カタログ番号420-4040L、コーディス社)の形態であった。この埋め込み可能な医療装置からバルーンの拘束用鞘を除去した。次に、針付き注射器を用いてゲル材料A(上の実施例1に記載)をこの埋め込み可能な医療装置のバルーンの外面に付着させた。ゲル材料は、付着すると、バルーンの外面に接着していることわかった。
【0174】
パッケージングに付属する使用上の指示に従ってバルーンを物理的に拡張させた。バルーンは、物理的に拡張すると、第1の直径かつ第1の表面積から第2の直径かつ第2の表面積に広がった。埋め込み可能な医療装置の外面に付着したかなりの量のゲル材料Aが、この埋め込み可能な医療装置を物理的に拡張させている間と拡張後にこの埋め込み可能な医療装置の外面に接着したまま残っていることわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の揺変性混濁ゲル材料を含む埋め込み可能な医療装置であって、該少なくとも1種類の揺変性混濁ゲル材料が、該埋め込み可能な医療装置の少なくとも一部に適用される、埋め込み可能な医療装置。
【請求項2】
前記ゲル材料と組み合わされる少なくとも1種類の生物活性剤をさらに含む、請求項1に記載の埋め込み可能な医療装置。
【請求項3】
ニチノール製ワイヤで強化した延伸ポリテトラフルオロエチレンをベースとした血管プロテーゼである、請求項1に記載の埋め込み可能な医療装置。
【請求項4】
血管内血管造影バルーンである、請求項1に記載の埋め込み可能な医療装置。
【請求項5】
シクロデキストリン・ポリマーをベースとした組成物として、シクロデキストリンと、ポリマーと、医薬として有効な量の少なくとも1種類の薬とを含有する組成物を含む埋め込み可能な医療装置であって、前記ポリマーが、前記シクロデキストリンとでヒドロゲルを形成できるエチレングリコール単位を含んでいて、そのシクロデキストリンとそのポリマーが自発的会合によって自己集合してヒドロゲルを形成し、そのシクロデキストリンとそのポリマーは、それぞれ、前記組成物中に、そのヒドロゲルを揺変性にするのに有効な量で存在しており、そのヒドロゲルが前記埋め込み可能な医療装置の少なくとも一部に付着している、埋め込み可能な医療装置。
【請求項6】
前記ヒドロゲルの中に、血管組織を治療できる少なくとも1種類の生物活性剤を、そのヒドロゲルからその生物活性剤が放出されるときに血管疾患を治療するのに十分な量でさらに含む、請求項5に記載の埋め込み可能な医療装置。
【請求項7】
少なくとも1種類の揺変性混濁ゲル材料が含浸された表面を含む、埋め込み可能な医療装置。
【請求項8】
前記ゲル材料と組み合わされる少なくとも1種類の生物活性剤をさらに含む、請求項7に記載の埋め込み可能な医療装置。
【請求項9】
血管組織を治療できる少なくとも1種類の生物活性剤を、少なくとも一部の表面にあるヒドロゲルからその生物活性剤が放出されるときに前記血管組織の血管疾患を治療するのに十分な量で含有する揺変性混濁ゲル材料を含む、埋め込み可能な医療装置。
【請求項10】
シクロデキストリン・ポリマーをベースとした注入可能な組成物が少なくとも一部に付着していて、その組成物が、シクロデキストリンと、ポリマーと、医薬として有効な量の少なくとも1種類の薬とを含む埋め込み可能な医療装置であって、前記ポリマーが、前記シクロデキストリンとでヒドロゲルを形成できるエチレングリコール単位を含んでいて、そのシクロデキストリンとそのポリマーが自発的会合によって自己集合してヒドロゲルを形成し、そのシクロデキストリンとそのポリマーは、それぞれ、前記組成物中に、そのヒドロゲルを揺変性で人間の身体に針を通じて注入可能にするのに有効な量で存在しており、そのヒドロゲルが前記薬のマトリックスを形成している結果として、前記組成物が人間の身体の中に注入されるときにその薬がそのヒドロゲルから持続放出される、埋め込み可能な医療装置。
【請求項11】
基質材料と、その基質材料に付着されて薬を送達する揺変性混濁ゲル材料とを含む、薬送達用賦形剤。
【請求項12】
前記ゲル材料と組み合わされる少なくとも1種類の生物活性剤をさらに含む、請求項11に記載の薬送達用賦形剤。
【請求項13】
揺変性混濁ゲル材料を含んでいて、そのゲル材料が、血管組織を治療できる少なくとも1種類の生物活性剤を、そのゲル材料からその生物活性剤が放出されるときに前記血管組織の血管疾患を治療するのに十分な量で含んでいる、薬送達用賦形剤。
【請求項14】
シクロデキストリン・ポリマーをベースとした組成物を埋め込み可能な医療装置の少なくとも一部に付着した状態で含んでいて、その組成物が、シクロデキストリンと、ポリマーと、医薬として有効な量の少なくとも1種類の薬とを含む薬送達用賦形剤であって、前記ポリマーが、前記シクロデキストリンとでヒドロゲルを形成できるエチレングリコール単位を含んでいて、そのシクロデキストリンとそのポリマーが自発的会合によって自己集合してヒドロゲルを形成し、そのシクロデキストリンとそのポリマーは、それぞれ、前記組成物中に、そのヒドロゲルを揺変性にするのに有効な量で存在しており、そのヒドロゲルが前記薬のマトリックスを形成している結果として、前記組成物が人間の身体の中に注入されるときにその薬がそのヒドロゲルから持続放出される、薬送達用賦形剤。
【請求項15】
血管組織を治療できる少なくとも1種類の生物活性剤を、その生物活性剤が放出されるときに前記血管組織の血管疾患を治療するのに十分な量で含んでいる揺変性混濁ゲル材料と、
そのゲル材料を脈管構造の中に投与する手段と、
を含む、組み合わせ。
【請求項16】
内膜肥厚を治療できる少なくとも1種類の生物活性剤を、その生物活性剤が放出されるときに内膜肥厚を抑制するのに十分な量で含んでいる揺変性混濁ゲル材料と、
そのゲル材料を脈管構造の中に投与する手段と、
を含む、組み合わせ。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図5(c)】
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【図5(d)】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【公表番号】特表2012−520297(P2012−520297A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−554047(P2011−554047)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/000737
【国際公開番号】WO2010/104584
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】