血管粘弾性測定装置、血管粘弾性測定方法、プログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、大規模集積回路及びFPGA
【課題】応力信号と歪信号との間の位相ずれを、予め位相特性がわかっているカテーテルと比較して決定することなく、簡単な構成によって容易に補正する。
【解決手段】血管粘弾性測定装置1は、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、応力信号と歪信号との間の位相ずれを補正する演算部9、装置制御部10及びタイミング制御部11とを備える。
【解決手段】血管粘弾性測定装置1は、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、応力信号と歪信号との間の位相ずれを補正する演算部9、装置制御部10及びタイミング制御部11とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管壁の剛性を測定する血管粘弾性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
厚生労働省が発表した平成15年度の主な死因別死亡数の割合において、日本人の死因の2、3位は心疾患、及び脳血管疾患が占めており、血管に関わる疾患が増加傾向にあることがわかる。血管は、年齢に伴い動脈壁中のコラーゲンが変質して硬化し、弾性線維の減少が起こることで動脈壁の質が悪くなるといわれている。
【0003】
一方、近年は正常な老化過程以外に血管の質を低下させる要因が増加している。具体的には、糖尿病、高血圧、食の欧米化、運動不足、喫煙、さらにストレスなども影響し、危険因子であるアンギオテンシンや低比重リポ蛋白(LDL)コレステロールの増加により、組織や臓器全体に血行障害が生じることが報告されている。
【0004】
これら血管に関わる疾患は、益々増加するといわれている。動脈硬化の進行度など血管に関わる疾患の早期発見のためには、血管状態、例えば血管のかたさ、やわらかさといった力学特性を定量的に評価する必要がある。
【0005】
図24は、血管壁インピーダンスを説明するための図である。人体の動脈90は、内膜91、中膜92、外膜93の3層から構成され、各々の層には固有の構成因子が含まれる。
【0006】
外膜93には、結合組織、エラスチン、コラーゲンといった動脈スティフネスやコンプライアンスに影響を及ぼす因子が含まれていると共に、大動脈の血管壁に栄養素を供給する脈管血管が含まれる。
【0007】
内膜91には、一酸化窒素(NO)やEDHF(endothelium−derived hyperpolarizing factor)などの内皮由来血管作動性物質を産出する脈管内皮が存在する。
【0008】
中膜92には、エラスチン、コラーゲン等の平滑筋が含まれる。ここで、平滑筋は、交感神経やホルモンによって刺激されると収縮し、血流量を下げる機能を担う。
【0009】
したがって、動脈90は、中膜92に含まれている平滑筋の作用によって収縮または弛緩する。そこで、動脈90の収縮または弛緩の程度を数値化する手段として、動脈90を機械的なインピーダンス(粘弾性)モデルにモデル化する。
【0010】
図25は、血管壁インピーダンスモデルを説明するための図である。血管壁の任意の半径方向における特性のみを考え,この方向に加わる応力と血管壁のひずみから、インピーダンス特性を以下のように表現している。
【0011】
【数1】
式(1)のインピーダンスパラメータを推定するためには、応力σ(t)とひずみε(t)とを計測する必要がある。ここで,動脈の内膜に作用する法線応力は動脈血圧と等しいことから、法線応力は以下のように表現される。
【0012】
【数2】
一方,血管壁のひずみを直接測定することは困難であることから,プレチスモグラムを用いて以下のように表現することとした。
【0013】
【数3】
ここで、Pl(t)はプレチスモグラム、A0は吸光度A(t)の一周期の平均値であり、以下のように表現される。
【0014】
【数4】
ここで,TはRR間隔である。また,血管壁の半径方向の特性において、慣性Mは非常に小さく、無視できることが従来研究により報告されている。以上の関係から、(1)式は以下のように書き表される。
【0015】
【数5】
図26は、従来の血管粘弾性測定装置を説明するための図であり、図27は、従来の血管粘弾性測定方法を説明するための図である。従来の血管粘弾性測定装置は、人体のプレチスモグラムを測定するプレチスモグラム測定器と、人体の動脈血圧を測定するカテーテルと、プレチスモグラム測定器によって測定されたプレチスモグラムを表す波形と、カテーテルによって測定された動脈血圧を表す波形とに基づいて、血管壁の剛性を推定する血管壁インピーダンス推定器とを備えている。血管壁インピーダンス推定器は、例えば、ベッドサイドモニタによって構成される。このような、プレチスモグラムと動脈血圧とに基づく血管壁インピーダンス推定においては、血管インピーダンスモデルは、図28に示される式によって表される。また、血管インピーダンスのモニタリングは、図29に示す胸部交感神経遮断術において使用される。図30に術中の血管インピーダンスの変化を示す。上側のグラフは、血管の粘性の変化を表しており、下側のグラフは、血管の剛性の変化を表している。
【0016】
図31は、非観血モニタリングを説明するための図である。前述したカテーテルは、観血法に属するが、非観血法に属するフィナプレスによっても動脈血圧を測定して血管の粘弾性を推定することができる。
【0017】
図32は、従来の応力信号と歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正方法を説明するための図である。精度の高い血管壁インピーダンス推定を行なうためには血管に作用する力と歪との正確な同期が行なわれる必要がある。従って,動脈血圧やプレチスモグラムが検出されてから記録されるまでの時間、つまり装置の時間特性を正確に把握し、位相の補正を行なわなければならない。しかしながら,測定装置にはさまざまな種類があり、すべての装置において時間特性を知ることは困難である。
【0018】
そこで我々は従来までに、装置の時間特性が分からない計測装置に対しても、波形のずらし時間を上手く設定することで、インピーダンス推定を精度良く行なう方法を提案してきた。この方法では,装置の時間特性が分からないフィナプレスという装置から計測した非観血的動脈血圧でのインピーダンス推定を、装置の時間特性が分かっているカテーテルにより計測した観血的動脈血圧と比較することによって行なう。
【0019】
遅れ時間の調節法を図33を参照して説明する。まず、計測した非観血的動脈血圧とプレチスモグラムとの変曲点の差を求める。ここでは、各波形の立ち上がりから最高値に到達するまでの変曲点を利用した。検出された時間差をTSとする(図33(a))と、プレチスモグラムをTS進めることにより、非観血的動脈血圧との時間差を調節する(図33(b))。これにより、1拍毎の遅れ時間の変動を補償することができる。次に、計測装置等に含まれる一定の遅れ時間を補償するため、非観血的動脈血圧にシフト時間Tdを導入し、シフト後の血圧を用いてインピーダンスを以下の式を用いて推定する。
【0020】
【数6】
【0021】
【数7】
図34は、従来の応力信号と歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正方法を説明するための図である。推定誤差を表す評価関数Eaの値が最小になるTdの値を最適なシフト時間に設定する。
【特許文献1】特開2006−129958号公報(平成18年5月25日(2006.5.25)公開)
【特許文献2】特開2007−7078号公報(平成19年1月18日(2007.1.18)公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
図35は、従来の応力信号と歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正方法の問題点を説明するための図である。上記従来技術の構成では、装置の時間特性が分かっているカテーテルにより計測した観血的動脈血圧と比較することによって、時間特性が分からない装置から計測した非観血的動脈血圧でのインピーダンス推定を行っているため、時間特性が予めわかっている血圧計測装置がカテーテルに限定され、計測装置を柔軟に変更し難いという問題があり、さらには、当該カテーテルの適用は被計測者にとって身体的な負担となるという問題がある。
【0023】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、応力信号と歪信号との間の位相ずれを簡単な構成によって容易に補正することができる血管粘弾性測定装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明に係る血管粘弾性測定装置は、上記課題を解決するために、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正手段を備えたことを特徴とする。
【0025】
この特長により、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれが補正される。このため、応力信号と歪信号との間の位相ずれを、従来技術のように、予め位相特性がわかっているカテーテルと比較して決定する必要がない。従って、応力信号と歪信号との間の位相ずれを簡単な構成によって容易に補正することができる。
【0026】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記シフト時間は、同一拍内において前記歪信号の波形の立ち上がりから最高値に到達するまでの変曲点と、前記応力信号の波形の立ち上がりから最高値に到達するまでの変曲点との間の時間区間を複数に分割した区間時間のうち、前記決定係数が最大となる区間時間にシフトした時間であることが好ましい。
【0027】
上記構成によれば、決定係数が最大になるシフト時間を簡単な構成で容易に求めることができる。
【0028】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記シフト時間は、前記シフトした時間を基準として、さらに勾配法により前記決定係数が最大となるようにシフトした時間であることが好ましい。
【0029】
上記構成によれば、決定係数が最大になるシフト時間を確実に求めることができる。
【0030】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記位相ずれ補正手段によって位相ずれを補正された前記応力信号と前記歪信号とに基づいて、前記血管壁の剛性を推定する血管壁インピーダンス推定手段をさらに備えることが好ましい。
【0031】
上記構成によれば、応力信号と歪信号との間の位相ずれを簡単な構成によって容易に補正できるので、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号を測定する機器、及び血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号を測定する機器の組み合わせに関わらず、血管壁の剛性を容易に推定することができる。
【0032】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記歪信号を検出する歪信号検出手段をさらに備えることが好ましい。
【0033】
上記構成によれば、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号を直接測定することができる。
【0034】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記応力信号を検出する応力信号検出手段をさらに備えることが好ましい。
【0035】
上記構成によれば、血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号を直接測定することができる。
【0036】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記歪信号は、生体のフォトプレチスモグラムを測定するプレチスモグラム測定手段によって検出されることが好ましい。
【0037】
上記構成によれば、簡単な構成により容易に、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号を検出することができる。
【0038】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記歪信号は、ストレインゲージプレチスモグラム測定手段によって検出されることが好ましい。
【0039】
上記構成によれば、簡単な構成により容易に、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号を検出することができる。
【0040】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記歪信号は、超音波装置によって検出されることが好ましい。
【0041】
上記構成によれば、簡単な構成により容易に、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号を検出することができる。
【0042】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記応力信号は、非観血で動脈血圧を検出する血圧測定手段によって検出されることが好ましい。
【0043】
上記構成によれば、フィナプレスにより容易に、血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号を検出することができる。
【0044】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記応力信号は、カテーテルによって検出されることが好ましい。
【0045】
上記構成によれば、血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号を確実に検出することができる。
【0046】
本発明に係る血管粘弾性測定方法は、上記課題を解決するために、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って推定応力信号を得、前記推定応力信号と前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数を算出し、前記決定係数が最大になるシフト時間を選択し、前記シフト時間に基づいて前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正することを特徴とする。
【0047】
本発明に係るプログラムは、上記課題を解決するために、コンピュータに、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って推定応力信号を得る手順と、前記推定応力信号と前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数を算出する手順と、前記決定係数が最大になるシフト時間を選択する手順と、前記シフト時間に基づいて前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する手順とを実行させることを特徴とする。
【0048】
本発明に係るコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、上記課題を解決するために、コンピュータに、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って推定応力信号を得る手順と、前記推定応力信号と前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数を算出する手順と、前記決定係数が最大になるシフト時間を選択する手順と、前記シフト時間に基づいて前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する手順とを実行させるプログラムを記録したことを特徴とする。
【0049】
本発明に係る大規模集積回路は、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正手段を備えたことを特徴とする。
【0050】
本発明に係るFPGAは、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0051】
本発明に係る血管粘弾性測定装置は、以上のように、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正するので、応力信号と歪信号との間の位相ずれを、従来技術のように、予め位相特性がわかっているカテーテルと比較して決定する必要がなく、従って、応力信号と歪信号との間の位相ずれを簡単な構成によって容易に補正することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
本発明の一実施形態について図1ないし図23に基づいて説明すると以下の通りである。
【0053】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る血管粘弾性測定装置1の構成を示すブロック図である。血管粘弾性測定装置1には、心電計(ECG)2と連続血圧計(PB)3とプレチスモグラム(PG)4とが接続されている。連続血圧計3は、例えば、非観血で動脈血圧を検出する血圧測定器(フィナプレス)によって構成されている。
【0054】
血管粘弾性測定装置1は、増幅器5aを備えている。増幅器5aは、心電計2から供給された心電信号を増幅してフィルター6aに供給する。フィルター6aは、増幅器5aによって増幅された心電信号をフィルタリングしてA/D変換器7aに供給する。A/D変換器7aは、フィルター6aによってフィルタリングされた心電信号をA/D変換してメモリ8aに格納する。
【0055】
血管粘弾性測定装置1は、増幅器5bを備えている。増幅器5bは、連続血圧計3から供給される動脈血圧信号を増幅してフィルター6bに供給する。フィルター6bは、増幅器5bによって増幅された動脈血圧信号をフィルタリングしてA/D変換器7bに供給する。A/D変換器7bは、フィルター6bによってフィルタリングされた動脈血圧信号をA/D変換してメモリ8bに格納する。
【0056】
血管粘弾性測定装置1は、増幅器5cを備えている。増幅器5cは、プレチスモグラム4から供給される脈波信号を増幅してフィルター6cに供給する。フィルター6cは、増幅器5cによって増幅された脈波信号をフィルタリングしてA/D変換器7cに供給する。A/D変換器7cは、フィルター6cによってフィルタリングされた脈波信号をA/D変換してメモリ8cに格納する。
【0057】
血管粘弾性測定装置1には、演算部9が設けられている。演算部9は、メモリ8cから読み出した脈波信号に基づいて回帰演算を行って得られた動脈血圧推定信号と、メモリ8bから読み出した動脈血圧信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間を演算してシフト時間を表す信号を装置制御部10に供給する。
【0058】
装置制御部10は、演算部9から供給されたシフト時間を表す信号をタイミング制御部11に供給する。タイミング制御部11は、装置制御部10から供給されたシフト時間を表す信号に基づいて、動脈血圧信号と脈波信号との間の位相ずれを補正する。
【0059】
このようにして、位相ずれが補正された動脈血圧信号と脈波信号とを、演算部9は、メモリ8b及びメモリ8cからそれぞれ読み出し、位相ずれが補正された動脈血圧信号と脈波信号とに基づいて、血管壁の剛性を推定し、推定した血管壁の剛性を表す血管壁剛性信号を通信制御部12及び表示制御部13に供給する。
【0060】
通信制御部12は、演算部9から供給された血管壁剛性信号を外部機器に送信する。表示制御部13は、演算部9から供給された血管壁剛性信号を表示部14に表示する。
【0061】
血管粘弾性測定装置1には、スイッチ、タッチパネル等によって構成されたインターフェース部15が設けられている。インターフェース部15は、スイッチの開閉、タッチパネルの押下等を表す信号をインターフェース制御部16に供給する。
【0062】
図2及び図3は血管粘弾性測定装置1による位相ずれの補正方法を説明するための図である。
【0063】
本実施の形態に係る手法では、前述した(7)式のシフト時間Tdの決定において(8)式の評価関数を用いない方法によって、動脈血圧信号と脈波信号との間の時間差を調整する。この本実施の形態に係る手法では、モデルの適合度を表す決定係数R2を使用する。決定係数R2の詳細な説明については、後述する。
【0064】
この決定係数R2は、目的変数である動脈血圧信号に対して、従属変数のプレチスモグラム(脈波信号)に(7)式のモデルを用いて回帰演算を行なって得られた推定動脈血圧信号との重相関係数の2乗を計算したものである。この決定係数の数値は0〜1までをとり、1に近いほど血管のダイナミクスを説明できる割合が高いことを示している。そこでシフト時間Tdをさまざま変化させて、最も高い決定係数R2が得られたときのシフト時間Tdを最適なシフト時間と定義する。
【0065】
次に、決定係数R2が最大になるシフト時間Tdを導出するアルゴリズムについて説明する。インピーダンス推定に使用する信号の区間がt0とする。動脈血圧信号とプレチスモグラム信号との変曲点を合わせた後にシフト時間Tdを区間t0程度の幅で数点ずつ、ずらして、それぞれの場所においてインピーダンス推定を行い、
【0066】
【数8】
を計算する(例では,シフト時間Tdを−t0/4からt0/4までの区間を5等分割した4点においてインピーダンス推定をおこなっている)。このとき,決定係数R2が最大かつ
【0067】
【数9】
になるシフト時間Tdを保持しておく。その後、このシフト時間Tdの前後のシフト時間においてインピーダンス推定を行い、
【0068】
【数10】
の計算を行い、決定係数が大きくなる方向にシフト時間Tdをシフトさせてインピーダンス推定を行い、
【0069】
【数11】
の計算を行なう。この計算を逐次的に繰り返して,決定係数R2が極大になるシフト時間Tdを求める。この操作を数回程度(例では10回)繰り返して、試行回数分における粘性値、粘性値、及び決定係数R2、シフト時間Tdの平均値算出を行い、もし粘性値、剛性値、及び決定係数の平均値が閾値以上(例ではR2の平均値が0.8以上、粘性値の平均値が0より大、剛性値の平均値が0より大)ならば、このときのシフト時間Tdの平均値を最適値とする。
【0070】
図4は、血管粘弾性測定装置1による位相ずれの補正方法による検証実験結果を説明するための図である。図4に示すように、本実施の形態の決定係数に基づく方法による位相ずれ補正のためのシフト時間は、従来技術の評価関数に基づく方法と一致しており、本実施の形態の決定係数に基づく方法によって、脈波信号と動脈血圧信号との間の位相ずれを補正することができることがわかる。
【0071】
図5〜図8は、実施の形態1に係る位相ずれの補正方法のアルゴリズムを説明するための図である。まず、図5に示すように、PLS(脈波信号、プレチスモグラム)と、IBP(動脈血圧信号)と、ECG(心電信号)とを区間t0毎に検知して切り出す。そして、図6に示すように、区間を4分割し、PLSをシフトさせる。次に、図7に示すように、粘性、剛性及び決定係数R2を算出する。その後、図8に示すように、勾配法により、決定係数R2が極大になるシフト時間を探索する。
【0072】
図9〜図12は、位相ずれの補正方法の手順を示すフローチャートである。まず、PLSと、IBPと、ECGとを区間t0毎に検知して切り出す(ステップS1)。そして、PLSとIBPとの間の位相ずれが調整済みであるか否かを判定する(ステップS2)。位相ずれが調整済みであると判断したときは(ステップS2でYes)、ステップS26に進む。位相ずれが調整済みでないときは(ステップS2でNo)、前RR区間の波形を切り出す(ステップS3)。次に、PLSとIBPとの変曲点の時間差(=ti)を計算する(ステップS4)。その後、PLSをIBPからtd=ti―Tだけずらす(ステップS5)。そして、ずらし幅を調整する(td=td+Δt)(ステップS6)。次に、インピーダンス推定のためのB(td)、K(td)及び決定係数R2(td)を計算する(ステップS7)。
【0073】
その後、決定係数R2(td)が最大値であるか否かを判断する(ステップS8)。決定係数R2(td)が最大値であると判断したときは(ステップS8でYes)、変数tdの値を変数td_maxに代入する(ステップS9)。そして、決定係数R2(td)が最大値でないと判断したとき(ステップS8でNo)、または変数tdの値を変数td_maxに代入したときは(ステップS9)、N回繰り返したか否かを判断する(ステップS10)。N回繰り返していないと判断したときは(ステップS10でNo)、ステップS5に戻る。N回繰り返したと判断したときは(ステップS10でYes)、変数td_maxの値を変数tdに代入する(ステップS11)。
【0074】
そして、B(td+1)、K(td+1)及び決定係数R2(td+1)を推定する(ステップS12)。次に、B(td−1)、K(td−1)及び決定係数R2(td−1)を推定する(ステップS13)。その後、決定係数R2(td+1)が最大値であるか否かを判定する(ステップS14)。決定係数R2(td+1)が最大値であると判定したときは(ステップS14でYes)、変数tdに1を加算する(ステップS19)。そして、B(td+1)、K(td+1)及び決定係数R2(td+1)を推定する(ステップS20)。次に、決定係数R2(td)が決定係数R2(td+1)よりも大きいか否かを判断する(ステップS21)。決定係数R2(td)が決定係数R2(td+1)よりも大きくないと判断したときは(ステップS21でNo)、ステップS19に戻る。
【0075】
決定係数R2(td+1)が最大値でないと判定したときは(ステップS14でNo)、決定係数R2(td)が最大値であるか否かを判定する(ステップS15)。決定係数R2(td)が最大値でないと判定したときは(ステップS15でNo)、変数tdから1を減算する(ステップS16)。そして、B(td−1)、K(td−1)及び決定係数R2(td−1)を推定する(ステップS17)。次に、決定係数R2(td)が決定係数R2(td−1)よりも大きいか否かを判断する(ステップS18)。決定係数R2(td)が決定係数R2(td−1)よりも大きくないと判定したときは(ステップS18でNo)、ステップS16に戻る。
【0076】
決定係数R2(td)が決定係数R2(td−1)よりも大きいと判断したとき(ステップS18でYes)、決定係数R2(td)が最大値であると判断したとき(ステップS15でYes)、または決定係数R2(td)が決定係数R2(td+1)よりも大きいと判断したとき(ステップS21でYes)は、B(td)、K(td)及び決定係数R2(td)に対して今までの平均を算出する(ステップS22)。
【0077】
そして、M回繰り返したかを判断する(ステップS23)。M回繰り返していないと判断したときは、計測へ戻る。M回繰り返したと判断したときは、決定係数R2(td)の平均が正であるかを確認する(ステップS24)。決定係数R2(td)の平均が正でないと判断したときは、計測へ戻る。決定係数R2(td)の平均が正であると判断したときは、位相調整を完了し(ステップS25)、計測へ戻る。
【0078】
位相ずれが調整済みであると判断したときは(ステップS2でYes)、B(td)、K(td)及び決定係数R2(td)を推定する(ステップS26)。その後、計測を終了するか否かを判断する(ステップS27)。計測を終了しないと判断したときは、最初の計測ステップに戻る。計測を終了すると判断したときは、処理を終了する。
【0079】
(実施の形態2)
図13は、動脈硬化の初期症状を説明するための図である。日本人の死因別死亡数の2、3位は心疾患,脳血管疾患であり、この主な原因は動脈硬化であるといわれている。動脈硬化は血管内皮機能障害を第一段階として発症し、その後維持・進展し、破綻へと進行することが知られており、特に血管拡張因子の一酸化窒素(NO)は動脈硬化において特に重要な役割を果たしている。
【0080】
図14及び図15は、反応性充血検査(FMD検査)における本実施の形態の計測評価方法を説明するための図である。従来から内皮機能の評価方法として、Forearm blood flow (FBF)法や反応性充血検査がある。FBF法は、血管拡張因子NOの作用薬、あるいは拮抗薬を四肢の動脈に選択的に投与し、それに伴う血流量(FBF)の変化で内皮機能を評価する方法であるが、血管弛緩薬を観血的に投与しなければならないため負担が伴う。一方、反応性充血検査の1つとして、非観血で内皮機能評価が行える血流依存性拡張反応検査(Flow−mediated dilation、以下FMD検査と呼ぶ)がある。これは、四肢の虚血後の血管拡張反応を血管径の変化で評価する検査である。一般的には、超音波装置を用いて血管径を計測することで一拍ごとに変化を捉えている。しかしながら、この検査に必要とされる超音波装置は極めて高価であり、かつ計測にはかなりの熟練を要する。また、FBF法と同様に動脈血圧の連続的な変化を考慮していないため、血管の真の力学特性を知ることはできない。
【0081】
そこで、本実施の形態ではFMD検査に、実施の形態1で前述した手法を応用することを試みる。具体的には,FMD検査と内皮非依存である血管弛緩薬ニトログリセリン(NTG)を舌下投与した際の血管拡張反応を、ストレインゲージプレチスモグラムと動脈血圧を利用することで血管壁の機械インピーダンスの変化として捉え、血管力学特性の機能的変化を定量化することを目的とする。はじめに、FMD検査とNTG摂取時において、ストレインゲージプレチスモグラムと超音波で捉えた血管径の基線成分、及び拍動成分を同時計測し、各信号の比較を試みる。さらに、各種信号処理を施し、インピーダンスモデルによる血管状態の推定を行う。
【0082】
図16に血管壁のインピーダンスモデルを示す。本実施の形態では血管壁の任意の半径方向の特性のみを考え、血液が血管壁に作用する力と血管壁の変位からインピーダンス特性を以下のように表現する。
【0083】
【数12】
ただし、
【0084】
【数13】
は血管壁に作用する力で、t0からの変化分を示す。また、M、B、Kは血管壁の慣性、粘性、剛性を示す。さらに、
【0085】
【数14】
はそれぞれ血管半径の変位、速度、加速度を表す。式(12)に基づいてインピーダンスパラメータを推定するためには、F(t)、r(t)を計測する必要がある。ここで、F(t)を動脈血圧を用いて以下のように表現する。簡単のため,動脈血圧と力は比例関係にあると仮定すると、
【0086】
【数15】
となる。ただし、kbは比例定数、Pb(t)は動脈血圧値である。一方、血管半径r(t)を直接測定することは困難であるため、ストレインゲージプレチスモグラムで計測した血管径を用いて血管半径を推定する。ストレインゲージプレチスモグラムを利用した場合、腕の半径の変化分が血管半径の変化分と比例関係にあると仮定し、血管半径は次式により表現する。
【0087】
【数16】
ただし、ksは比例定数、Psac(t)はストレインゲージプレチスモグラムである。
【0088】
次に血管壁インピーダンスモデルにおけるACインピーダンスを説明する。血管壁に作用する力を動脈血圧Pb(t)((13)式)、血管半径にストレインゲージプレチスモグラムPsac(t)((6)式)を(12)式に代入し、本発明者らの提案より、慣性を考慮しない粘弾性モデル(M=0)で評価すると血管壁インピーダンスは次式により推定することができる。
【0089】
【数17】
である。
【0090】
次にDCインピーダンスを説明する。心電図のR波のタイミングで1拍毎に切り出された動脈血血圧の平均値Pbave(t)を以下の式で表現する。
【0091】
【数18】
ここで、ti(i=0,1,2、…、n)は心電図のR波の時刻である。さらに、ストレインゲージプレチスモグラムのDC成分の平均値Psdcave(t)を以下の式で表現する。
【0092】
【数19】
ここで(16)式と(17)式よりDCインピーダンスの剛性は以下の式を用いて算出することが可能となる。
【0093】
【数20】
次にNTG摂取検査の実験方法を説明する。図17に生体信号計測に用いた実験装置を示す。実験では、心電図(ECG(t))、非観血動脈血圧(Pb(t))、ストレインゲージプレチスモグラムの基線成分(Psdc(t)、以下0−25Hz帯をDC成分と呼ぶ)、拍動成分(Psac(t)、以下1−25Hz帯をAC成分と呼ぶ)、超音波で捉えた血管径(Vd(t))を同時に計測した。心電図、非観血動脈血圧の計測には、生体情報モニタ(BP−608、オムロンヘルスケア(株))を用いた。ストレインゲージプレチスモグラム(DC成分、AC成分)の計測には、右上腕部にストレインゲージプレチスモグラフィ(EC6、Hokanson)をそれぞれ用いた。各データのサンプリング周波数は1kHzである。さらに、右上腕動脈の血管径を超音波装置(SSD−6500SV、アロカ(株))を用いて計測した。また,駆血用のカフを右前腕に装着した。被験者は健常な男子大学生(非喫煙者)5名(A:23歳,B:23歳,C:25歳,D:24歳,E:23歳)とした。プロトコルとして、安静時を5分間計測した後、NTGを摂取(75g)し、さらに5分間安静状態の計測を行った。
【0094】
次にデータ処理について示す。まず、各データには被験者の体動やカフによる加圧時の影響など、外乱による影響が含まれているため、ディジタルフィルタにより外乱の除去を行った。ディジタルフィルタの特性は、動脈血圧がIIR型2次LPF:10.0Hz、IIR型1次HPF:1Hz、ストレインゲージプレチスモグラムPsac(t)はFIR型8次LPF:10.0Hz、IIR型1次HPF:0.3Hzとした。次に、心電図のR波のピークを利用して1拍分のデータを切り出す処理を行った。そして、各周期ごとの心電図のR波が現れる時刻と定義し、dPb(t)、dPsac(t)、dVd(t)を計算し、最小二乗法を用いてインピーダンスパラメータを推定した。
【0095】
また、検証方法として、NTG摂取前後の超音波で捉えた血管径とストレインゲージプレチスモグラムのDC成分の比較、DCインピーダンスの剛性、ACインピーダンスの剛性の比較を試みた。超音波で捉えた血管径の摂取前は医師が指定した20秒間(10〜30秒)とし、ストレインゲージプレチスモグラムのDC成分の摂取前は安定に計測できた摂取直前の20秒間(260〜280秒)とした。摂取後はともに超音波で計測した血管径が最大となる20秒間(560〜580秒)とした。また,DC、ACインピーダンスの剛性も同様の時刻の平均値とした。
【0096】
次に、FMD検査時の実験方法を説明する。FMD検査時の実験方法として、前記と同様の実験環境で計測を行った。さらに、被験者は前記のうちの3名(A:23歳,B:23歳,C:25歳)とした。プロトコルとして、各信号を安静時に4分間計測した後、カフを5分間駆血(最高血圧+50mmHg)した。さらに、駆血解除後5分間計測を行った。また、駆血前後の比較方法としては、駆血前は超音波で計測した血管径とストレインゲージプレチスモグラムのDC成分ともに医師が指定した20秒間(計測開始10〜30秒)とし、摂取後はともに超音波で計測した血管径が最大となる20秒間(600〜620秒)とした。また、DC、ACインピーダンスの剛性も同様の時刻の平均値とした。
【0097】
次に、NTG摂取検査の実験結果を説明する。図18は被験者Aから計測したNTG摂取検査時の計測信号である。図は上から非観血動脈血圧の振幅Pb(t)、超音波で捉えた血管径Vd(t)、ストレインゲージプレチスモグラムのDC成分Psdc(t)、AC成分の振幅Psac(t)、DCインピーダンスの剛性KDC、ACインピーダンスの剛性KACの時間波形を示す。また、点線はNTGを摂取したタイミングに対応している。この結果より、超音波で捉えた血管径からNTG摂取後に血管が拡張していることを確認した。超音波で捉えた血管径のDC成分の変動に対して、ストレインゲージプレチスモグラムのDC成分の変動が同様な傾向が得られていることを確認した。
【0098】
図19に各被験者から計測した超音波で計測した血管径とストレインゲージプレチスモグラムの比較結果を示す。図19(a)が超音波で計測した血管径、図19(b)がストレインゲージプレチスモグラムの平均値を示す。各図の左側が摂取前、右側が摂取後の平均値である。
【0099】
この結果より、被験者Bのストレインゲージプレチスモグラムに関して摂取後低下しているが、他の被験者では超音波で捉えた血管径、及びストレインゲージプレチスモグラムともに、NTG摂取後に上昇していることがわかった。
【0100】
図20にNTG摂取検査におけるDC、ACインピーダンス推定の比較結果を示す。図20(a)がDCインピーダンスの剛性、図20(b)がACインピーダンスの剛性を示す。また、各図の左側が摂取前、右側が摂取後の平均値である。この結果より、被験者BのDCインピーダンスを除いてDC、ACインピーダンスともに、NTG摂取後に低下していることが分かった。
【0101】
次に、FMD検査の実験結果を説明する。図21は被験者Bから計測したFMD検査時の生体信号である。図は上から非観血動脈血圧の振幅Pb(t)、超音波で捉えた血管径Vd(t)、ストレインゲージプレチスモグラムのDC成分Psdc(t)、AC成分の振幅Psac(t)、DCインピーダンスの剛性KDC、ACインピーダンスの剛性KACの時間波形を示す。また、陰影をつけた領域は駆血した区間に対応している。さらに、点線が血管拡張時に対応している。この結果より、駆血解除後、超音波で捉えた血管径が拡張していることから、正しく反応性充血検査が行われていることが確認できる。また、超音波で捉えた血管径のDC成分の変動と、ストレインゲージプレチスモグラムのDC成分の変動が同様な傾向を示していることを確認した。
【0102】
図22に各被験者から計測した超音波で捉えた血管径とストレインゲージプレチスモグラムの駆血前後の比較結果を示す。図22(a)が超音波で計測した血管径、図22(b)がストレインゲージプレチスモグラムの平均値を示す。各図の左側が駆血前、右側が駆血後の平均値である。また、左のグラフが超音波で計測した血管径、右のグラフがストレインゲージプレチスモグラムの平均値である。この結果より、各被験者とも超音波で捉えた血管径、及びストレインゲージプレチスモグラムともに、駆血後に上昇していることがわかった。
【0103】
図23にFMD検査におけるDC、ACインピーダンス推定結果を示す。図23(a)がDCインピーダンスの剛性、図23(b)がACインピーダンスの剛性を示す。また、各図の左側が摂取前、右側が摂取後の平均値である。この結果より、DC、ACインピーダンスともに、駆血後に低下もしくは変化がないことがわかった。
【0104】
本実施の形態では、NTG摂取検査及びFMD検査において、ストレインゲージプレチスモグラムと超音波で捉えた血管径を同時計測し、各信号を用いて血管の力学特性を定量的に評価する手法を提案した。表1に示すように、超音波で捉えた血管径とストレインゲージプレチスモグラムの基線成分(DC)はそれぞれ高い相関があることを確認した。
【0105】
【表1】
この結果より、より安価なストレインゲージプレチスモグラムでFMD検査を行える可能性があることを確認した。次に、各検査時にインピーダンスパラメータの推定を試みた。その結果、ニトログリセリン摂取時は、基線成分(DC)とDC、ACインピーダンスは相関があるが、FMD検査においては、ストレインゲージプレチスモグラム、超音波ともに駆血前後であまり変化がないことを確認した。今後は、被験者数を増加させて結果の信頼性の充実を図るとともに、動脈硬化症の患者等との比較を試みる予定である。
【0106】
次に、決定係数R2について詳細に説明する。決定係数R2は、例えば以下のような方法で導出される。
【0107】
まず、動脈血圧信号dPb(t)、プレチスモグラム信号dPl(t)から、前述した(5)式を用いて、
【0108】
【数21】
を推定する。次に、次式より、
【0109】
【数22】
そして、以下の式を用いて、
【0110】
【数23】
の相関係数である重相関係数Rを計算する。
【0111】
【数24】
この重相関係数を2乗したものが決定係数R2となる。
【0112】
なお、上記実施形態の血管粘弾性測定装置、大規模集積回路及びFPGAの各部や各処理ステップは、CPUなどの演算手段が、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶手段に記憶されたプログラムを実行し、インターフェース回路などの通信手段を制御することにより実現することができる。したがって、これらの手段を有するコンピュータが、上記プログラムを記録した記録媒体を読み取り、当該プログラムを実行するだけで、本実施形態の血管粘弾性測定装置、大規模集積回路及びFPGAの各種機能および各種処理を実現することができる。また、上記プログラムをリムーバブルな記録媒体に記録することにより、任意のコンピュータ上で上記の各種機能および各種処理を実現することができる。
【0113】
この記録媒体としては、マイクロコンピュータで処理を行うために図示しないメモリ、例えばROMのようなものがプログラムメディアであっても良いし、また、図示していないが外部記憶装置としてプログラム読取り装置が設けられ、そこに記録媒体を挿入することにより読取り可能なプログラムメディアであっても良い。
【0114】
また、何れの場合でも、格納されているプログラムは、マイクロプロセッサがアクセスして実行される構成であることが好ましい。さらに、プログラムを読み出し、読み出されたプログラムは、マイクロコンピュータのプログラム記憶エリアにダウンロードされて、そのプログラムが実行される方式であることが好ましい。なお、このダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納されているものとする。
【0115】
また、上記プログラムメディアとしては、本体と分離可能に構成される記録媒体であり、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスクやCD/MO/MD/DVD等のディスクのディスク系、ICカード(メモリカードを含む)等のカード系、あるいはマスクROM、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、フラッシュROM等による半導体メモリを含めた固定的にプログラムを担持する記録媒体等がある。
【0116】
また、インターネットを含む通信ネットワークを接続可能なシステム構成であれば、通信ネットワークからプログラムをダウンロードするように流動的にプログラムを担持する記録媒体であることが好ましい。
【0117】
さらに、このように通信ネットワークからプログラムをダウンロードする場合には、そのダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納しておくか、あるいは別な記録媒体からインストールされるものであることが好ましい。
【0118】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、血管壁の剛性を測定する血管粘弾性測定装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】実施の形態1に係る血管粘弾性測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】上記血管粘弾性測定装置による位相ずれの補正方法を説明するための図である。
【図3】上記血管粘弾性測定装置による位相ずれの補正方法を説明するための図である。
【図4】上記血管粘弾性測定装置による位相ずれの補正方法による検証実験結果を説明するための図である。
【図5】上記位相ずれの補正方法のアルゴリズムを説明するための図である。
【図6】上記位相ずれの補正方法のアルゴリズムを説明するための図である。
【図7】上記位相ずれの補正方法のアルゴリズムを説明するための図である。
【図8】上記位相ずれの補正方法のアルゴリズムを説明するための図である。
【図9】上記位相ずれの補正方法の手順を示すフローチャートである。
【図10】上記位相ずれの補正方法の手順を示すフローチャートである。
【図11】上記位相ずれの補正方法の手順を示すフローチャートである。
【図12】上記位相ずれの補正方法の手順を示すフローチャートである。
【図13】動脈硬化の初期症状を説明するための図である。
【図14】反応性充血検査(FMD検査)における本実施の形態の計測評価方法を説明するための図である。
【図15】上記反応性充血検査(FMD検査)における本実施の形態の計測評価方法を説明するための図である。
【図16】血管壁のインピーダンスモデルを示す図である。
【図17】生体信号計測に用いた実験装置を説明するための図である。
【図18】被験者Aから計測したNTG摂取検査時の計測信号を示すグラフである。
【図19】(a)(b)は、各被験者から計測した超音波で計測した血管径とストレインゲージプレチスモグラムの比較結果を示すグラフである。
【図20】NTG摂取検査におけるDC、ACインピーダンス推定の比較結果を示すグラフである。
【図21】被験者Bから計測したFMD検査時の生体信号を示すグラフである。
【図22】各被験者から計測した超音波で捉えた血管径とストレインゲージプレチスモグラムの駆血前後の比較結果を示すグラフである。
【図23】FMD検査におけるDC、ACインピーダンス推定結果を示すグラフである。
【図24】血管壁インピーダンスを説明するための図である。
【図25】血管壁インピーダンスモデルを説明するための図である。
【図26】従来の血管粘弾性測定装置を説明するための図である。
【図27】従来の血管粘弾性測定方法を説明するための図である。
【図28】従来の血管粘弾性測定方法を説明するための図である。
【図29】胸部交感神経遮断術を説明するための図である。
【図30】上記胸部交感神経遮断術中のインピーダンスの変化を示すグラフである。
【図31】非観血モニタリングを説明するための図である。
【図32】従来の応力信号と歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正方法を説明するための図である。
【図33】(a)(b)は、遅れ時間の調節法を説明するためのグラフである。
【図34】従来の応力信号と歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正方法を説明するための図である。
【図35】従来の応力信号と歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正方法の問題点を説明するための図である。
【符号の説明】
【0121】
1 血管粘弾性測定装置
3 連続血圧計(応力信号検出手段、血圧測定手段)
4 プレチスモグラム(歪信号検出手段、プレチスモグラム測定手段)
9 演算部(位相ずれ補正手段、血管壁インピーダンス推定手段)
10 装置制御部(位相ずれ補正手段)
11 タイミング制御部(位相ずれ補正手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管壁の剛性を測定する血管粘弾性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
厚生労働省が発表した平成15年度の主な死因別死亡数の割合において、日本人の死因の2、3位は心疾患、及び脳血管疾患が占めており、血管に関わる疾患が増加傾向にあることがわかる。血管は、年齢に伴い動脈壁中のコラーゲンが変質して硬化し、弾性線維の減少が起こることで動脈壁の質が悪くなるといわれている。
【0003】
一方、近年は正常な老化過程以外に血管の質を低下させる要因が増加している。具体的には、糖尿病、高血圧、食の欧米化、運動不足、喫煙、さらにストレスなども影響し、危険因子であるアンギオテンシンや低比重リポ蛋白(LDL)コレステロールの増加により、組織や臓器全体に血行障害が生じることが報告されている。
【0004】
これら血管に関わる疾患は、益々増加するといわれている。動脈硬化の進行度など血管に関わる疾患の早期発見のためには、血管状態、例えば血管のかたさ、やわらかさといった力学特性を定量的に評価する必要がある。
【0005】
図24は、血管壁インピーダンスを説明するための図である。人体の動脈90は、内膜91、中膜92、外膜93の3層から構成され、各々の層には固有の構成因子が含まれる。
【0006】
外膜93には、結合組織、エラスチン、コラーゲンといった動脈スティフネスやコンプライアンスに影響を及ぼす因子が含まれていると共に、大動脈の血管壁に栄養素を供給する脈管血管が含まれる。
【0007】
内膜91には、一酸化窒素(NO)やEDHF(endothelium−derived hyperpolarizing factor)などの内皮由来血管作動性物質を産出する脈管内皮が存在する。
【0008】
中膜92には、エラスチン、コラーゲン等の平滑筋が含まれる。ここで、平滑筋は、交感神経やホルモンによって刺激されると収縮し、血流量を下げる機能を担う。
【0009】
したがって、動脈90は、中膜92に含まれている平滑筋の作用によって収縮または弛緩する。そこで、動脈90の収縮または弛緩の程度を数値化する手段として、動脈90を機械的なインピーダンス(粘弾性)モデルにモデル化する。
【0010】
図25は、血管壁インピーダンスモデルを説明するための図である。血管壁の任意の半径方向における特性のみを考え,この方向に加わる応力と血管壁のひずみから、インピーダンス特性を以下のように表現している。
【0011】
【数1】
式(1)のインピーダンスパラメータを推定するためには、応力σ(t)とひずみε(t)とを計測する必要がある。ここで,動脈の内膜に作用する法線応力は動脈血圧と等しいことから、法線応力は以下のように表現される。
【0012】
【数2】
一方,血管壁のひずみを直接測定することは困難であることから,プレチスモグラムを用いて以下のように表現することとした。
【0013】
【数3】
ここで、Pl(t)はプレチスモグラム、A0は吸光度A(t)の一周期の平均値であり、以下のように表現される。
【0014】
【数4】
ここで,TはRR間隔である。また,血管壁の半径方向の特性において、慣性Mは非常に小さく、無視できることが従来研究により報告されている。以上の関係から、(1)式は以下のように書き表される。
【0015】
【数5】
図26は、従来の血管粘弾性測定装置を説明するための図であり、図27は、従来の血管粘弾性測定方法を説明するための図である。従来の血管粘弾性測定装置は、人体のプレチスモグラムを測定するプレチスモグラム測定器と、人体の動脈血圧を測定するカテーテルと、プレチスモグラム測定器によって測定されたプレチスモグラムを表す波形と、カテーテルによって測定された動脈血圧を表す波形とに基づいて、血管壁の剛性を推定する血管壁インピーダンス推定器とを備えている。血管壁インピーダンス推定器は、例えば、ベッドサイドモニタによって構成される。このような、プレチスモグラムと動脈血圧とに基づく血管壁インピーダンス推定においては、血管インピーダンスモデルは、図28に示される式によって表される。また、血管インピーダンスのモニタリングは、図29に示す胸部交感神経遮断術において使用される。図30に術中の血管インピーダンスの変化を示す。上側のグラフは、血管の粘性の変化を表しており、下側のグラフは、血管の剛性の変化を表している。
【0016】
図31は、非観血モニタリングを説明するための図である。前述したカテーテルは、観血法に属するが、非観血法に属するフィナプレスによっても動脈血圧を測定して血管の粘弾性を推定することができる。
【0017】
図32は、従来の応力信号と歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正方法を説明するための図である。精度の高い血管壁インピーダンス推定を行なうためには血管に作用する力と歪との正確な同期が行なわれる必要がある。従って,動脈血圧やプレチスモグラムが検出されてから記録されるまでの時間、つまり装置の時間特性を正確に把握し、位相の補正を行なわなければならない。しかしながら,測定装置にはさまざまな種類があり、すべての装置において時間特性を知ることは困難である。
【0018】
そこで我々は従来までに、装置の時間特性が分からない計測装置に対しても、波形のずらし時間を上手く設定することで、インピーダンス推定を精度良く行なう方法を提案してきた。この方法では,装置の時間特性が分からないフィナプレスという装置から計測した非観血的動脈血圧でのインピーダンス推定を、装置の時間特性が分かっているカテーテルにより計測した観血的動脈血圧と比較することによって行なう。
【0019】
遅れ時間の調節法を図33を参照して説明する。まず、計測した非観血的動脈血圧とプレチスモグラムとの変曲点の差を求める。ここでは、各波形の立ち上がりから最高値に到達するまでの変曲点を利用した。検出された時間差をTSとする(図33(a))と、プレチスモグラムをTS進めることにより、非観血的動脈血圧との時間差を調節する(図33(b))。これにより、1拍毎の遅れ時間の変動を補償することができる。次に、計測装置等に含まれる一定の遅れ時間を補償するため、非観血的動脈血圧にシフト時間Tdを導入し、シフト後の血圧を用いてインピーダンスを以下の式を用いて推定する。
【0020】
【数6】
【0021】
【数7】
図34は、従来の応力信号と歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正方法を説明するための図である。推定誤差を表す評価関数Eaの値が最小になるTdの値を最適なシフト時間に設定する。
【特許文献1】特開2006−129958号公報(平成18年5月25日(2006.5.25)公開)
【特許文献2】特開2007−7078号公報(平成19年1月18日(2007.1.18)公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
図35は、従来の応力信号と歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正方法の問題点を説明するための図である。上記従来技術の構成では、装置の時間特性が分かっているカテーテルにより計測した観血的動脈血圧と比較することによって、時間特性が分からない装置から計測した非観血的動脈血圧でのインピーダンス推定を行っているため、時間特性が予めわかっている血圧計測装置がカテーテルに限定され、計測装置を柔軟に変更し難いという問題があり、さらには、当該カテーテルの適用は被計測者にとって身体的な負担となるという問題がある。
【0023】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、応力信号と歪信号との間の位相ずれを簡単な構成によって容易に補正することができる血管粘弾性測定装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明に係る血管粘弾性測定装置は、上記課題を解決するために、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正手段を備えたことを特徴とする。
【0025】
この特長により、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれが補正される。このため、応力信号と歪信号との間の位相ずれを、従来技術のように、予め位相特性がわかっているカテーテルと比較して決定する必要がない。従って、応力信号と歪信号との間の位相ずれを簡単な構成によって容易に補正することができる。
【0026】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記シフト時間は、同一拍内において前記歪信号の波形の立ち上がりから最高値に到達するまでの変曲点と、前記応力信号の波形の立ち上がりから最高値に到達するまでの変曲点との間の時間区間を複数に分割した区間時間のうち、前記決定係数が最大となる区間時間にシフトした時間であることが好ましい。
【0027】
上記構成によれば、決定係数が最大になるシフト時間を簡単な構成で容易に求めることができる。
【0028】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記シフト時間は、前記シフトした時間を基準として、さらに勾配法により前記決定係数が最大となるようにシフトした時間であることが好ましい。
【0029】
上記構成によれば、決定係数が最大になるシフト時間を確実に求めることができる。
【0030】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記位相ずれ補正手段によって位相ずれを補正された前記応力信号と前記歪信号とに基づいて、前記血管壁の剛性を推定する血管壁インピーダンス推定手段をさらに備えることが好ましい。
【0031】
上記構成によれば、応力信号と歪信号との間の位相ずれを簡単な構成によって容易に補正できるので、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号を測定する機器、及び血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号を測定する機器の組み合わせに関わらず、血管壁の剛性を容易に推定することができる。
【0032】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記歪信号を検出する歪信号検出手段をさらに備えることが好ましい。
【0033】
上記構成によれば、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号を直接測定することができる。
【0034】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記応力信号を検出する応力信号検出手段をさらに備えることが好ましい。
【0035】
上記構成によれば、血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号を直接測定することができる。
【0036】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記歪信号は、生体のフォトプレチスモグラムを測定するプレチスモグラム測定手段によって検出されることが好ましい。
【0037】
上記構成によれば、簡単な構成により容易に、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号を検出することができる。
【0038】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記歪信号は、ストレインゲージプレチスモグラム測定手段によって検出されることが好ましい。
【0039】
上記構成によれば、簡単な構成により容易に、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号を検出することができる。
【0040】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記歪信号は、超音波装置によって検出されることが好ましい。
【0041】
上記構成によれば、簡単な構成により容易に、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号を検出することができる。
【0042】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記応力信号は、非観血で動脈血圧を検出する血圧測定手段によって検出されることが好ましい。
【0043】
上記構成によれば、フィナプレスにより容易に、血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号を検出することができる。
【0044】
本発明に係る血管粘弾性測定装置では、前記応力信号は、カテーテルによって検出されることが好ましい。
【0045】
上記構成によれば、血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号を確実に検出することができる。
【0046】
本発明に係る血管粘弾性測定方法は、上記課題を解決するために、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って推定応力信号を得、前記推定応力信号と前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数を算出し、前記決定係数が最大になるシフト時間を選択し、前記シフト時間に基づいて前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正することを特徴とする。
【0047】
本発明に係るプログラムは、上記課題を解決するために、コンピュータに、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って推定応力信号を得る手順と、前記推定応力信号と前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数を算出する手順と、前記決定係数が最大になるシフト時間を選択する手順と、前記シフト時間に基づいて前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する手順とを実行させることを特徴とする。
【0048】
本発明に係るコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、上記課題を解決するために、コンピュータに、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って推定応力信号を得る手順と、前記推定応力信号と前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数を算出する手順と、前記決定係数が最大になるシフト時間を選択する手順と、前記シフト時間に基づいて前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する手順とを実行させるプログラムを記録したことを特徴とする。
【0049】
本発明に係る大規模集積回路は、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正手段を備えたことを特徴とする。
【0050】
本発明に係るFPGAは、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0051】
本発明に係る血管粘弾性測定装置は、以上のように、血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正するので、応力信号と歪信号との間の位相ずれを、従来技術のように、予め位相特性がわかっているカテーテルと比較して決定する必要がなく、従って、応力信号と歪信号との間の位相ずれを簡単な構成によって容易に補正することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
本発明の一実施形態について図1ないし図23に基づいて説明すると以下の通りである。
【0053】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る血管粘弾性測定装置1の構成を示すブロック図である。血管粘弾性測定装置1には、心電計(ECG)2と連続血圧計(PB)3とプレチスモグラム(PG)4とが接続されている。連続血圧計3は、例えば、非観血で動脈血圧を検出する血圧測定器(フィナプレス)によって構成されている。
【0054】
血管粘弾性測定装置1は、増幅器5aを備えている。増幅器5aは、心電計2から供給された心電信号を増幅してフィルター6aに供給する。フィルター6aは、増幅器5aによって増幅された心電信号をフィルタリングしてA/D変換器7aに供給する。A/D変換器7aは、フィルター6aによってフィルタリングされた心電信号をA/D変換してメモリ8aに格納する。
【0055】
血管粘弾性測定装置1は、増幅器5bを備えている。増幅器5bは、連続血圧計3から供給される動脈血圧信号を増幅してフィルター6bに供給する。フィルター6bは、増幅器5bによって増幅された動脈血圧信号をフィルタリングしてA/D変換器7bに供給する。A/D変換器7bは、フィルター6bによってフィルタリングされた動脈血圧信号をA/D変換してメモリ8bに格納する。
【0056】
血管粘弾性測定装置1は、増幅器5cを備えている。増幅器5cは、プレチスモグラム4から供給される脈波信号を増幅してフィルター6cに供給する。フィルター6cは、増幅器5cによって増幅された脈波信号をフィルタリングしてA/D変換器7cに供給する。A/D変換器7cは、フィルター6cによってフィルタリングされた脈波信号をA/D変換してメモリ8cに格納する。
【0057】
血管粘弾性測定装置1には、演算部9が設けられている。演算部9は、メモリ8cから読み出した脈波信号に基づいて回帰演算を行って得られた動脈血圧推定信号と、メモリ8bから読み出した動脈血圧信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間を演算してシフト時間を表す信号を装置制御部10に供給する。
【0058】
装置制御部10は、演算部9から供給されたシフト時間を表す信号をタイミング制御部11に供給する。タイミング制御部11は、装置制御部10から供給されたシフト時間を表す信号に基づいて、動脈血圧信号と脈波信号との間の位相ずれを補正する。
【0059】
このようにして、位相ずれが補正された動脈血圧信号と脈波信号とを、演算部9は、メモリ8b及びメモリ8cからそれぞれ読み出し、位相ずれが補正された動脈血圧信号と脈波信号とに基づいて、血管壁の剛性を推定し、推定した血管壁の剛性を表す血管壁剛性信号を通信制御部12及び表示制御部13に供給する。
【0060】
通信制御部12は、演算部9から供給された血管壁剛性信号を外部機器に送信する。表示制御部13は、演算部9から供給された血管壁剛性信号を表示部14に表示する。
【0061】
血管粘弾性測定装置1には、スイッチ、タッチパネル等によって構成されたインターフェース部15が設けられている。インターフェース部15は、スイッチの開閉、タッチパネルの押下等を表す信号をインターフェース制御部16に供給する。
【0062】
図2及び図3は血管粘弾性測定装置1による位相ずれの補正方法を説明するための図である。
【0063】
本実施の形態に係る手法では、前述した(7)式のシフト時間Tdの決定において(8)式の評価関数を用いない方法によって、動脈血圧信号と脈波信号との間の時間差を調整する。この本実施の形態に係る手法では、モデルの適合度を表す決定係数R2を使用する。決定係数R2の詳細な説明については、後述する。
【0064】
この決定係数R2は、目的変数である動脈血圧信号に対して、従属変数のプレチスモグラム(脈波信号)に(7)式のモデルを用いて回帰演算を行なって得られた推定動脈血圧信号との重相関係数の2乗を計算したものである。この決定係数の数値は0〜1までをとり、1に近いほど血管のダイナミクスを説明できる割合が高いことを示している。そこでシフト時間Tdをさまざま変化させて、最も高い決定係数R2が得られたときのシフト時間Tdを最適なシフト時間と定義する。
【0065】
次に、決定係数R2が最大になるシフト時間Tdを導出するアルゴリズムについて説明する。インピーダンス推定に使用する信号の区間がt0とする。動脈血圧信号とプレチスモグラム信号との変曲点を合わせた後にシフト時間Tdを区間t0程度の幅で数点ずつ、ずらして、それぞれの場所においてインピーダンス推定を行い、
【0066】
【数8】
を計算する(例では,シフト時間Tdを−t0/4からt0/4までの区間を5等分割した4点においてインピーダンス推定をおこなっている)。このとき,決定係数R2が最大かつ
【0067】
【数9】
になるシフト時間Tdを保持しておく。その後、このシフト時間Tdの前後のシフト時間においてインピーダンス推定を行い、
【0068】
【数10】
の計算を行い、決定係数が大きくなる方向にシフト時間Tdをシフトさせてインピーダンス推定を行い、
【0069】
【数11】
の計算を行なう。この計算を逐次的に繰り返して,決定係数R2が極大になるシフト時間Tdを求める。この操作を数回程度(例では10回)繰り返して、試行回数分における粘性値、粘性値、及び決定係数R2、シフト時間Tdの平均値算出を行い、もし粘性値、剛性値、及び決定係数の平均値が閾値以上(例ではR2の平均値が0.8以上、粘性値の平均値が0より大、剛性値の平均値が0より大)ならば、このときのシフト時間Tdの平均値を最適値とする。
【0070】
図4は、血管粘弾性測定装置1による位相ずれの補正方法による検証実験結果を説明するための図である。図4に示すように、本実施の形態の決定係数に基づく方法による位相ずれ補正のためのシフト時間は、従来技術の評価関数に基づく方法と一致しており、本実施の形態の決定係数に基づく方法によって、脈波信号と動脈血圧信号との間の位相ずれを補正することができることがわかる。
【0071】
図5〜図8は、実施の形態1に係る位相ずれの補正方法のアルゴリズムを説明するための図である。まず、図5に示すように、PLS(脈波信号、プレチスモグラム)と、IBP(動脈血圧信号)と、ECG(心電信号)とを区間t0毎に検知して切り出す。そして、図6に示すように、区間を4分割し、PLSをシフトさせる。次に、図7に示すように、粘性、剛性及び決定係数R2を算出する。その後、図8に示すように、勾配法により、決定係数R2が極大になるシフト時間を探索する。
【0072】
図9〜図12は、位相ずれの補正方法の手順を示すフローチャートである。まず、PLSと、IBPと、ECGとを区間t0毎に検知して切り出す(ステップS1)。そして、PLSとIBPとの間の位相ずれが調整済みであるか否かを判定する(ステップS2)。位相ずれが調整済みであると判断したときは(ステップS2でYes)、ステップS26に進む。位相ずれが調整済みでないときは(ステップS2でNo)、前RR区間の波形を切り出す(ステップS3)。次に、PLSとIBPとの変曲点の時間差(=ti)を計算する(ステップS4)。その後、PLSをIBPからtd=ti―Tだけずらす(ステップS5)。そして、ずらし幅を調整する(td=td+Δt)(ステップS6)。次に、インピーダンス推定のためのB(td)、K(td)及び決定係数R2(td)を計算する(ステップS7)。
【0073】
その後、決定係数R2(td)が最大値であるか否かを判断する(ステップS8)。決定係数R2(td)が最大値であると判断したときは(ステップS8でYes)、変数tdの値を変数td_maxに代入する(ステップS9)。そして、決定係数R2(td)が最大値でないと判断したとき(ステップS8でNo)、または変数tdの値を変数td_maxに代入したときは(ステップS9)、N回繰り返したか否かを判断する(ステップS10)。N回繰り返していないと判断したときは(ステップS10でNo)、ステップS5に戻る。N回繰り返したと判断したときは(ステップS10でYes)、変数td_maxの値を変数tdに代入する(ステップS11)。
【0074】
そして、B(td+1)、K(td+1)及び決定係数R2(td+1)を推定する(ステップS12)。次に、B(td−1)、K(td−1)及び決定係数R2(td−1)を推定する(ステップS13)。その後、決定係数R2(td+1)が最大値であるか否かを判定する(ステップS14)。決定係数R2(td+1)が最大値であると判定したときは(ステップS14でYes)、変数tdに1を加算する(ステップS19)。そして、B(td+1)、K(td+1)及び決定係数R2(td+1)を推定する(ステップS20)。次に、決定係数R2(td)が決定係数R2(td+1)よりも大きいか否かを判断する(ステップS21)。決定係数R2(td)が決定係数R2(td+1)よりも大きくないと判断したときは(ステップS21でNo)、ステップS19に戻る。
【0075】
決定係数R2(td+1)が最大値でないと判定したときは(ステップS14でNo)、決定係数R2(td)が最大値であるか否かを判定する(ステップS15)。決定係数R2(td)が最大値でないと判定したときは(ステップS15でNo)、変数tdから1を減算する(ステップS16)。そして、B(td−1)、K(td−1)及び決定係数R2(td−1)を推定する(ステップS17)。次に、決定係数R2(td)が決定係数R2(td−1)よりも大きいか否かを判断する(ステップS18)。決定係数R2(td)が決定係数R2(td−1)よりも大きくないと判定したときは(ステップS18でNo)、ステップS16に戻る。
【0076】
決定係数R2(td)が決定係数R2(td−1)よりも大きいと判断したとき(ステップS18でYes)、決定係数R2(td)が最大値であると判断したとき(ステップS15でYes)、または決定係数R2(td)が決定係数R2(td+1)よりも大きいと判断したとき(ステップS21でYes)は、B(td)、K(td)及び決定係数R2(td)に対して今までの平均を算出する(ステップS22)。
【0077】
そして、M回繰り返したかを判断する(ステップS23)。M回繰り返していないと判断したときは、計測へ戻る。M回繰り返したと判断したときは、決定係数R2(td)の平均が正であるかを確認する(ステップS24)。決定係数R2(td)の平均が正でないと判断したときは、計測へ戻る。決定係数R2(td)の平均が正であると判断したときは、位相調整を完了し(ステップS25)、計測へ戻る。
【0078】
位相ずれが調整済みであると判断したときは(ステップS2でYes)、B(td)、K(td)及び決定係数R2(td)を推定する(ステップS26)。その後、計測を終了するか否かを判断する(ステップS27)。計測を終了しないと判断したときは、最初の計測ステップに戻る。計測を終了すると判断したときは、処理を終了する。
【0079】
(実施の形態2)
図13は、動脈硬化の初期症状を説明するための図である。日本人の死因別死亡数の2、3位は心疾患,脳血管疾患であり、この主な原因は動脈硬化であるといわれている。動脈硬化は血管内皮機能障害を第一段階として発症し、その後維持・進展し、破綻へと進行することが知られており、特に血管拡張因子の一酸化窒素(NO)は動脈硬化において特に重要な役割を果たしている。
【0080】
図14及び図15は、反応性充血検査(FMD検査)における本実施の形態の計測評価方法を説明するための図である。従来から内皮機能の評価方法として、Forearm blood flow (FBF)法や反応性充血検査がある。FBF法は、血管拡張因子NOの作用薬、あるいは拮抗薬を四肢の動脈に選択的に投与し、それに伴う血流量(FBF)の変化で内皮機能を評価する方法であるが、血管弛緩薬を観血的に投与しなければならないため負担が伴う。一方、反応性充血検査の1つとして、非観血で内皮機能評価が行える血流依存性拡張反応検査(Flow−mediated dilation、以下FMD検査と呼ぶ)がある。これは、四肢の虚血後の血管拡張反応を血管径の変化で評価する検査である。一般的には、超音波装置を用いて血管径を計測することで一拍ごとに変化を捉えている。しかしながら、この検査に必要とされる超音波装置は極めて高価であり、かつ計測にはかなりの熟練を要する。また、FBF法と同様に動脈血圧の連続的な変化を考慮していないため、血管の真の力学特性を知ることはできない。
【0081】
そこで、本実施の形態ではFMD検査に、実施の形態1で前述した手法を応用することを試みる。具体的には,FMD検査と内皮非依存である血管弛緩薬ニトログリセリン(NTG)を舌下投与した際の血管拡張反応を、ストレインゲージプレチスモグラムと動脈血圧を利用することで血管壁の機械インピーダンスの変化として捉え、血管力学特性の機能的変化を定量化することを目的とする。はじめに、FMD検査とNTG摂取時において、ストレインゲージプレチスモグラムと超音波で捉えた血管径の基線成分、及び拍動成分を同時計測し、各信号の比較を試みる。さらに、各種信号処理を施し、インピーダンスモデルによる血管状態の推定を行う。
【0082】
図16に血管壁のインピーダンスモデルを示す。本実施の形態では血管壁の任意の半径方向の特性のみを考え、血液が血管壁に作用する力と血管壁の変位からインピーダンス特性を以下のように表現する。
【0083】
【数12】
ただし、
【0084】
【数13】
は血管壁に作用する力で、t0からの変化分を示す。また、M、B、Kは血管壁の慣性、粘性、剛性を示す。さらに、
【0085】
【数14】
はそれぞれ血管半径の変位、速度、加速度を表す。式(12)に基づいてインピーダンスパラメータを推定するためには、F(t)、r(t)を計測する必要がある。ここで、F(t)を動脈血圧を用いて以下のように表現する。簡単のため,動脈血圧と力は比例関係にあると仮定すると、
【0086】
【数15】
となる。ただし、kbは比例定数、Pb(t)は動脈血圧値である。一方、血管半径r(t)を直接測定することは困難であるため、ストレインゲージプレチスモグラムで計測した血管径を用いて血管半径を推定する。ストレインゲージプレチスモグラムを利用した場合、腕の半径の変化分が血管半径の変化分と比例関係にあると仮定し、血管半径は次式により表現する。
【0087】
【数16】
ただし、ksは比例定数、Psac(t)はストレインゲージプレチスモグラムである。
【0088】
次に血管壁インピーダンスモデルにおけるACインピーダンスを説明する。血管壁に作用する力を動脈血圧Pb(t)((13)式)、血管半径にストレインゲージプレチスモグラムPsac(t)((6)式)を(12)式に代入し、本発明者らの提案より、慣性を考慮しない粘弾性モデル(M=0)で評価すると血管壁インピーダンスは次式により推定することができる。
【0089】
【数17】
である。
【0090】
次にDCインピーダンスを説明する。心電図のR波のタイミングで1拍毎に切り出された動脈血血圧の平均値Pbave(t)を以下の式で表現する。
【0091】
【数18】
ここで、ti(i=0,1,2、…、n)は心電図のR波の時刻である。さらに、ストレインゲージプレチスモグラムのDC成分の平均値Psdcave(t)を以下の式で表現する。
【0092】
【数19】
ここで(16)式と(17)式よりDCインピーダンスの剛性は以下の式を用いて算出することが可能となる。
【0093】
【数20】
次にNTG摂取検査の実験方法を説明する。図17に生体信号計測に用いた実験装置を示す。実験では、心電図(ECG(t))、非観血動脈血圧(Pb(t))、ストレインゲージプレチスモグラムの基線成分(Psdc(t)、以下0−25Hz帯をDC成分と呼ぶ)、拍動成分(Psac(t)、以下1−25Hz帯をAC成分と呼ぶ)、超音波で捉えた血管径(Vd(t))を同時に計測した。心電図、非観血動脈血圧の計測には、生体情報モニタ(BP−608、オムロンヘルスケア(株))を用いた。ストレインゲージプレチスモグラム(DC成分、AC成分)の計測には、右上腕部にストレインゲージプレチスモグラフィ(EC6、Hokanson)をそれぞれ用いた。各データのサンプリング周波数は1kHzである。さらに、右上腕動脈の血管径を超音波装置(SSD−6500SV、アロカ(株))を用いて計測した。また,駆血用のカフを右前腕に装着した。被験者は健常な男子大学生(非喫煙者)5名(A:23歳,B:23歳,C:25歳,D:24歳,E:23歳)とした。プロトコルとして、安静時を5分間計測した後、NTGを摂取(75g)し、さらに5分間安静状態の計測を行った。
【0094】
次にデータ処理について示す。まず、各データには被験者の体動やカフによる加圧時の影響など、外乱による影響が含まれているため、ディジタルフィルタにより外乱の除去を行った。ディジタルフィルタの特性は、動脈血圧がIIR型2次LPF:10.0Hz、IIR型1次HPF:1Hz、ストレインゲージプレチスモグラムPsac(t)はFIR型8次LPF:10.0Hz、IIR型1次HPF:0.3Hzとした。次に、心電図のR波のピークを利用して1拍分のデータを切り出す処理を行った。そして、各周期ごとの心電図のR波が現れる時刻と定義し、dPb(t)、dPsac(t)、dVd(t)を計算し、最小二乗法を用いてインピーダンスパラメータを推定した。
【0095】
また、検証方法として、NTG摂取前後の超音波で捉えた血管径とストレインゲージプレチスモグラムのDC成分の比較、DCインピーダンスの剛性、ACインピーダンスの剛性の比較を試みた。超音波で捉えた血管径の摂取前は医師が指定した20秒間(10〜30秒)とし、ストレインゲージプレチスモグラムのDC成分の摂取前は安定に計測できた摂取直前の20秒間(260〜280秒)とした。摂取後はともに超音波で計測した血管径が最大となる20秒間(560〜580秒)とした。また,DC、ACインピーダンスの剛性も同様の時刻の平均値とした。
【0096】
次に、FMD検査時の実験方法を説明する。FMD検査時の実験方法として、前記と同様の実験環境で計測を行った。さらに、被験者は前記のうちの3名(A:23歳,B:23歳,C:25歳)とした。プロトコルとして、各信号を安静時に4分間計測した後、カフを5分間駆血(最高血圧+50mmHg)した。さらに、駆血解除後5分間計測を行った。また、駆血前後の比較方法としては、駆血前は超音波で計測した血管径とストレインゲージプレチスモグラムのDC成分ともに医師が指定した20秒間(計測開始10〜30秒)とし、摂取後はともに超音波で計測した血管径が最大となる20秒間(600〜620秒)とした。また、DC、ACインピーダンスの剛性も同様の時刻の平均値とした。
【0097】
次に、NTG摂取検査の実験結果を説明する。図18は被験者Aから計測したNTG摂取検査時の計測信号である。図は上から非観血動脈血圧の振幅Pb(t)、超音波で捉えた血管径Vd(t)、ストレインゲージプレチスモグラムのDC成分Psdc(t)、AC成分の振幅Psac(t)、DCインピーダンスの剛性KDC、ACインピーダンスの剛性KACの時間波形を示す。また、点線はNTGを摂取したタイミングに対応している。この結果より、超音波で捉えた血管径からNTG摂取後に血管が拡張していることを確認した。超音波で捉えた血管径のDC成分の変動に対して、ストレインゲージプレチスモグラムのDC成分の変動が同様な傾向が得られていることを確認した。
【0098】
図19に各被験者から計測した超音波で計測した血管径とストレインゲージプレチスモグラムの比較結果を示す。図19(a)が超音波で計測した血管径、図19(b)がストレインゲージプレチスモグラムの平均値を示す。各図の左側が摂取前、右側が摂取後の平均値である。
【0099】
この結果より、被験者Bのストレインゲージプレチスモグラムに関して摂取後低下しているが、他の被験者では超音波で捉えた血管径、及びストレインゲージプレチスモグラムともに、NTG摂取後に上昇していることがわかった。
【0100】
図20にNTG摂取検査におけるDC、ACインピーダンス推定の比較結果を示す。図20(a)がDCインピーダンスの剛性、図20(b)がACインピーダンスの剛性を示す。また、各図の左側が摂取前、右側が摂取後の平均値である。この結果より、被験者BのDCインピーダンスを除いてDC、ACインピーダンスともに、NTG摂取後に低下していることが分かった。
【0101】
次に、FMD検査の実験結果を説明する。図21は被験者Bから計測したFMD検査時の生体信号である。図は上から非観血動脈血圧の振幅Pb(t)、超音波で捉えた血管径Vd(t)、ストレインゲージプレチスモグラムのDC成分Psdc(t)、AC成分の振幅Psac(t)、DCインピーダンスの剛性KDC、ACインピーダンスの剛性KACの時間波形を示す。また、陰影をつけた領域は駆血した区間に対応している。さらに、点線が血管拡張時に対応している。この結果より、駆血解除後、超音波で捉えた血管径が拡張していることから、正しく反応性充血検査が行われていることが確認できる。また、超音波で捉えた血管径のDC成分の変動と、ストレインゲージプレチスモグラムのDC成分の変動が同様な傾向を示していることを確認した。
【0102】
図22に各被験者から計測した超音波で捉えた血管径とストレインゲージプレチスモグラムの駆血前後の比較結果を示す。図22(a)が超音波で計測した血管径、図22(b)がストレインゲージプレチスモグラムの平均値を示す。各図の左側が駆血前、右側が駆血後の平均値である。また、左のグラフが超音波で計測した血管径、右のグラフがストレインゲージプレチスモグラムの平均値である。この結果より、各被験者とも超音波で捉えた血管径、及びストレインゲージプレチスモグラムともに、駆血後に上昇していることがわかった。
【0103】
図23にFMD検査におけるDC、ACインピーダンス推定結果を示す。図23(a)がDCインピーダンスの剛性、図23(b)がACインピーダンスの剛性を示す。また、各図の左側が摂取前、右側が摂取後の平均値である。この結果より、DC、ACインピーダンスともに、駆血後に低下もしくは変化がないことがわかった。
【0104】
本実施の形態では、NTG摂取検査及びFMD検査において、ストレインゲージプレチスモグラムと超音波で捉えた血管径を同時計測し、各信号を用いて血管の力学特性を定量的に評価する手法を提案した。表1に示すように、超音波で捉えた血管径とストレインゲージプレチスモグラムの基線成分(DC)はそれぞれ高い相関があることを確認した。
【0105】
【表1】
この結果より、より安価なストレインゲージプレチスモグラムでFMD検査を行える可能性があることを確認した。次に、各検査時にインピーダンスパラメータの推定を試みた。その結果、ニトログリセリン摂取時は、基線成分(DC)とDC、ACインピーダンスは相関があるが、FMD検査においては、ストレインゲージプレチスモグラム、超音波ともに駆血前後であまり変化がないことを確認した。今後は、被験者数を増加させて結果の信頼性の充実を図るとともに、動脈硬化症の患者等との比較を試みる予定である。
【0106】
次に、決定係数R2について詳細に説明する。決定係数R2は、例えば以下のような方法で導出される。
【0107】
まず、動脈血圧信号dPb(t)、プレチスモグラム信号dPl(t)から、前述した(5)式を用いて、
【0108】
【数21】
を推定する。次に、次式より、
【0109】
【数22】
そして、以下の式を用いて、
【0110】
【数23】
の相関係数である重相関係数Rを計算する。
【0111】
【数24】
この重相関係数を2乗したものが決定係数R2となる。
【0112】
なお、上記実施形態の血管粘弾性測定装置、大規模集積回路及びFPGAの各部や各処理ステップは、CPUなどの演算手段が、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶手段に記憶されたプログラムを実行し、インターフェース回路などの通信手段を制御することにより実現することができる。したがって、これらの手段を有するコンピュータが、上記プログラムを記録した記録媒体を読み取り、当該プログラムを実行するだけで、本実施形態の血管粘弾性測定装置、大規模集積回路及びFPGAの各種機能および各種処理を実現することができる。また、上記プログラムをリムーバブルな記録媒体に記録することにより、任意のコンピュータ上で上記の各種機能および各種処理を実現することができる。
【0113】
この記録媒体としては、マイクロコンピュータで処理を行うために図示しないメモリ、例えばROMのようなものがプログラムメディアであっても良いし、また、図示していないが外部記憶装置としてプログラム読取り装置が設けられ、そこに記録媒体を挿入することにより読取り可能なプログラムメディアであっても良い。
【0114】
また、何れの場合でも、格納されているプログラムは、マイクロプロセッサがアクセスして実行される構成であることが好ましい。さらに、プログラムを読み出し、読み出されたプログラムは、マイクロコンピュータのプログラム記憶エリアにダウンロードされて、そのプログラムが実行される方式であることが好ましい。なお、このダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納されているものとする。
【0115】
また、上記プログラムメディアとしては、本体と分離可能に構成される記録媒体であり、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスクやCD/MO/MD/DVD等のディスクのディスク系、ICカード(メモリカードを含む)等のカード系、あるいはマスクROM、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、フラッシュROM等による半導体メモリを含めた固定的にプログラムを担持する記録媒体等がある。
【0116】
また、インターネットを含む通信ネットワークを接続可能なシステム構成であれば、通信ネットワークからプログラムをダウンロードするように流動的にプログラムを担持する記録媒体であることが好ましい。
【0117】
さらに、このように通信ネットワークからプログラムをダウンロードする場合には、そのダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納しておくか、あるいは別な記録媒体からインストールされるものであることが好ましい。
【0118】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、血管壁の剛性を測定する血管粘弾性測定装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】実施の形態1に係る血管粘弾性測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】上記血管粘弾性測定装置による位相ずれの補正方法を説明するための図である。
【図3】上記血管粘弾性測定装置による位相ずれの補正方法を説明するための図である。
【図4】上記血管粘弾性測定装置による位相ずれの補正方法による検証実験結果を説明するための図である。
【図5】上記位相ずれの補正方法のアルゴリズムを説明するための図である。
【図6】上記位相ずれの補正方法のアルゴリズムを説明するための図である。
【図7】上記位相ずれの補正方法のアルゴリズムを説明するための図である。
【図8】上記位相ずれの補正方法のアルゴリズムを説明するための図である。
【図9】上記位相ずれの補正方法の手順を示すフローチャートである。
【図10】上記位相ずれの補正方法の手順を示すフローチャートである。
【図11】上記位相ずれの補正方法の手順を示すフローチャートである。
【図12】上記位相ずれの補正方法の手順を示すフローチャートである。
【図13】動脈硬化の初期症状を説明するための図である。
【図14】反応性充血検査(FMD検査)における本実施の形態の計測評価方法を説明するための図である。
【図15】上記反応性充血検査(FMD検査)における本実施の形態の計測評価方法を説明するための図である。
【図16】血管壁のインピーダンスモデルを示す図である。
【図17】生体信号計測に用いた実験装置を説明するための図である。
【図18】被験者Aから計測したNTG摂取検査時の計測信号を示すグラフである。
【図19】(a)(b)は、各被験者から計測した超音波で計測した血管径とストレインゲージプレチスモグラムの比較結果を示すグラフである。
【図20】NTG摂取検査におけるDC、ACインピーダンス推定の比較結果を示すグラフである。
【図21】被験者Bから計測したFMD検査時の生体信号を示すグラフである。
【図22】各被験者から計測した超音波で捉えた血管径とストレインゲージプレチスモグラムの駆血前後の比較結果を示すグラフである。
【図23】FMD検査におけるDC、ACインピーダンス推定結果を示すグラフである。
【図24】血管壁インピーダンスを説明するための図である。
【図25】血管壁インピーダンスモデルを説明するための図である。
【図26】従来の血管粘弾性測定装置を説明するための図である。
【図27】従来の血管粘弾性測定方法を説明するための図である。
【図28】従来の血管粘弾性測定方法を説明するための図である。
【図29】胸部交感神経遮断術を説明するための図である。
【図30】上記胸部交感神経遮断術中のインピーダンスの変化を示すグラフである。
【図31】非観血モニタリングを説明するための図である。
【図32】従来の応力信号と歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正方法を説明するための図である。
【図33】(a)(b)は、遅れ時間の調節法を説明するためのグラフである。
【図34】従来の応力信号と歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正方法を説明するための図である。
【図35】従来の応力信号と歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正方法の問題点を説明するための図である。
【符号の説明】
【0121】
1 血管粘弾性測定装置
3 連続血圧計(応力信号検出手段、血圧測定手段)
4 プレチスモグラム(歪信号検出手段、プレチスモグラム測定手段)
9 演算部(位相ずれ補正手段、血管壁インピーダンス推定手段)
10 装置制御部(位相ずれ補正手段)
11 タイミング制御部(位相ずれ補正手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正手段を備えたことを特徴とする血管粘弾性測定装置。
【請求項2】
前記シフト時間は、同一拍内において前記歪信号の波形の立ち上がりから最高値に到達するまでの変曲点と、前記応力信号の波形の立ち上がりから最高値に到達するまでの変曲点との間の時間区間を複数に分割した区間時間のうち、前記決定係数が最大となる区間時間にシフトした時間である請求項1記載の血管粘弾性測定装置。
【請求項3】
前記シフト時間は、前記シフトした時間を基準として、さらに勾配法により前記決定係数が最大となるようにシフトした時間である請求項2記載の血管粘弾性測定装置。
【請求項4】
前記位相ずれ補正手段によって位相ずれを補正された前記応力信号と前記歪信号とに基づいて、前記血管壁の剛性を推定する血管壁インピーダンス推定手段をさらに備える請求項1記載の血管粘弾性測定装置。
【請求項5】
前記歪信号を検出する歪信号検出手段をさらに備える請求項1記載の血管粘弾性測定装置。
【請求項6】
前記応力信号を検出する応力信号検出手段をさらに備える請求項1記載の血管粘弾性測定装置。
【請求項7】
血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って推定応力信号を得、前記推定応力信号と前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数を算出し、前記決定係数が最大になるシフト時間を選択し、前記シフト時間に基づいて前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正することを特徴とする血管粘弾性測定方法。
【請求項8】
コンピュータに、
血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って推定応力信号を得る手順と、前記推定応力信号と前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数を算出する手順と、前記決定係数が最大になるシフト時間を選択する手順と、前記シフト時間に基づいて前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する手順とを実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項9】
コンピュータに、
血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って推定応力信号を得る手順と、前記推定応力信号と前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数を算出する手順と、前記決定係数が最大になるシフト時間を選択する手順と、前記シフト時間に基づいて前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する手順とを実行させるプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項10】
血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正手段を備えたことを特徴とする大規模集積回路。
【請求項11】
血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正手段を備えたことを特徴とするFPGA。
【請求項1】
血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正手段を備えたことを特徴とする血管粘弾性測定装置。
【請求項2】
前記シフト時間は、同一拍内において前記歪信号の波形の立ち上がりから最高値に到達するまでの変曲点と、前記応力信号の波形の立ち上がりから最高値に到達するまでの変曲点との間の時間区間を複数に分割した区間時間のうち、前記決定係数が最大となる区間時間にシフトした時間である請求項1記載の血管粘弾性測定装置。
【請求項3】
前記シフト時間は、前記シフトした時間を基準として、さらに勾配法により前記決定係数が最大となるようにシフトした時間である請求項2記載の血管粘弾性測定装置。
【請求項4】
前記位相ずれ補正手段によって位相ずれを補正された前記応力信号と前記歪信号とに基づいて、前記血管壁の剛性を推定する血管壁インピーダンス推定手段をさらに備える請求項1記載の血管粘弾性測定装置。
【請求項5】
前記歪信号を検出する歪信号検出手段をさらに備える請求項1記載の血管粘弾性測定装置。
【請求項6】
前記応力信号を検出する応力信号検出手段をさらに備える請求項1記載の血管粘弾性測定装置。
【請求項7】
血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って推定応力信号を得、前記推定応力信号と前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数を算出し、前記決定係数が最大になるシフト時間を選択し、前記シフト時間に基づいて前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正することを特徴とする血管粘弾性測定方法。
【請求項8】
コンピュータに、
血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って推定応力信号を得る手順と、前記推定応力信号と前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数を算出する手順と、前記決定係数が最大になるシフト時間を選択する手順と、前記シフト時間に基づいて前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する手順とを実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項9】
コンピュータに、
血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って推定応力信号を得る手順と、前記推定応力信号と前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数を算出する手順と、前記決定係数が最大になるシフト時間を選択する手順と、前記シフト時間に基づいて前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する手順とを実行させるプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項10】
血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正手段を備えたことを特徴とする大規模集積回路。
【請求項11】
血管壁の半径方向に沿った血管の歪を表す歪信号に基づいて回帰演算を行って得られた推定応力信号と、前記血管壁の半径方向に沿った血管の応力を表す応力信号との間の重相関係数を表す決定係数が最大になるシフト時間に基づいて、前記応力信号と前記歪信号との間の位相ずれを補正する位相ずれ補正手段を備えたことを特徴とするFPGA。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図28】
【図30】
【図32】
【図33】
【図34】
【図3】
【図13】
【図14】
【図24】
【図27】
【図29】
【図31】
【図35】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図28】
【図30】
【図32】
【図33】
【図34】
【図3】
【図13】
【図14】
【図24】
【図27】
【図29】
【図31】
【図35】
【公開番号】特開2008−272387(P2008−272387A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126086(P2007−126086)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(504419243)有限会社MIZOUE PROJECT JAPAN (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(504419243)有限会社MIZOUE PROJECT JAPAN (3)
【Fターム(参考)】
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