説明

血管透過性およびアポトーシスの阻害方法

血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体のアゴニストを記載する。FTY720などの化合物を、スフィンゴシンキナーゼ−2によってスフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストとして作用するリン酸化形態にリン酸化することができる。血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストを、血管透過障害および望ましくない血管内皮細胞アポトーシスならびに新生血管の成長における哺乳動物の治療方法で使用する。スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストを、血管透過障害および望ましくない血管内皮細胞アポトーシスならびに新生血管の成長の治療薬の製造のために使用することができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管透過障害の治療薬の製造のための血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニスト、その薬学的に許容可能な形態物、またはそのリン酸化形態物の使用、望ましくない血管内皮細胞アポトーシスの治療薬の製造のための血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニスト、その薬学的に許容可能な形態物、またはそのリン酸化形態物の使用、及び哺乳動物における新生血管形成の刺激薬の製造のための血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニスト、その薬学的に許容可能な形態物、またはそのリン酸化形態物の使用に関する。
【0002】
(連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載)合衆国政府は、国立衛生研究所によって支払われた助成金番号HL67330およびHL70694によって本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
新生血管の形成プロセスを血管形成という。血管形成時に、血管内皮細胞は、順番に、増殖、移動、および形態形成を受けて新規の毛細血管網を形成する。正常または非病的状態下で、虚血に応答した創傷治癒などの十分に定義された病態下ならびに胚および胎児の発達時に血管形成が生じる。しかし、持続的または制御できない血管形成によって種々の病状または病態を引き起こし、固形腫瘍の場合には、病状が持続する病態であり得る。
【0004】
多数の細胞外および細胞内シグナル伝達分子は、細胞受容体と相互作用して血管系(血管形成に関連する過程が含まれる)における影響を調節する。スフィンゴシン−1−リン酸(S1P)は、原形質膜局在Gタンパク質共役受容体の内皮細胞分化遺伝子ファミリー(S1P受容体としても公知のEDG)のメンバーとの相互作用を介した広範な種々の細胞応答を媒介する生物活性スフィンゴ脂質である。
【0005】
今日まで、このファミリーの5つのメンバー(S1P/EDG−1、S1P/EDG−5、S1P/EDG−3、S1P/EDG−6、およびS1P/EDG−8)が異なる細胞型のS1P受容体として同定されている。特に、S1P受容体およびS1P受容体とのS1P相互作用は、in vitroでの内皮細胞の生存および形態形成で重要な役割を果たすことが証明されており、S1Pはin vivoでの血管成熟に必要である。しかし、S1Pは、免疫系および生殖系などの他の臓器系に対しても高い効果を発揮し、多機能脂質メディエーターであることが示されている。
【0006】
S1Pおよびその受容体は、脈管構造の調節に関与する。したがって、特に血管系の疾患の治療でS1P受容体を維持することが望ましい。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
有効量の血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストを哺乳動物に投与する工程と、前記血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストがスフィンゴシン−1−リン酸ではない、血管透過障害の治療を可能とする哺乳動物の治療方法。
【0008】
また、別の態様として、有効量の血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストを哺乳動物に投与する工程と、前記血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストがスフィンゴシン−1−リン酸ではない、望ましくない血管内皮細胞アポトーシスが移植片拒絶に関連しないこととを含む、望ましくない血管内皮細胞アポトーシスの治療を必要とする哺乳動物の治療方法。
【0009】
さらに、別の態様として、有効量の血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストを哺乳動物中の部位に投与する工程と、前記血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストがスフィンゴシン−1−リン酸ではない、哺乳動物の新生血管を刺激する方法。
【0010】
本発明の1つの実施形態として、血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストがスフィンゴシン−1−リン酸ではない、血管透過障害の治療薬の製造のための血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニスト、その薬学的に許容可能な形態物、またはそのリン酸化形態物の使用を開示する。
【0011】
別の実施形態として、血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストがスフィンゴシン−1−リン酸ではない、望ましくない血管内皮細胞アポトーシスが移植片拒絶に関連しない、望ましくない血管内皮細胞アポトーシスの治療薬の製造のための血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニスト、その薬学的に許容可能な形態物、またはそのリン酸化形態物の使用を開示する。
【0012】
さらに別の実施形態として、血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストがスフィンゴシン−1−リン酸ではない、哺乳動物における新生血管形成の刺激薬の製造のための血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニスト、その薬学的に許容可能な形態物、またはそのリン酸化形態物の使用を開示する。
図面の簡単な説明
【0013】
図面の簡単な説明については後述する。
【0014】
発明の詳細な説明
本明細書中で参考として援用される米国特許第6,486,209号;同第6,476,004号;同第6,471,980号;同第6,372,800号;同第6,274,629号;同第6,187,821号;同第6,004,565号;および同第5,948,820号に示されるように、FTY720は、臓器移植の動物モデルでの効果が示された強力な免疫調製薬である。この化合物の作用機構は、Tリンパ球中で5つのS1P受容体のうちの4つのアゴニストであるFTY720−Pへのリン酸化を含むことが最近示された。FTY720はリンパ球輸送の強力なモジュレーターであることが以前に示されているが、血管要素に対するFTY720の効果は以前には知られていなかった。
【0015】
血管内皮細胞がFTY720およびその類似化合物を「活性化する」ための酵素系を含むことを本明細書中で証明する。ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)などの培養内皮細胞は、血管形成の研究のための許容されたin vitroモデル系である。HUVEC馴化培地または細胞抽出物とのインキュベーションの際、FTY720はリン酸化され、百日咳毒素感受性様式で移動するために内皮細胞を活性化することができ、これによりG共役S1P受容体を活性化することが示唆される。内皮細胞由来のスフィンゴシンキナーゼ−2(SK2)がFTY720のFTY720−Pへの代謝に関与することを本明細書中に示す。
【0016】
FTY720−Pおよびその類似化合物である(R)−AFDが血管S1P受容体を活性化してS1Pと類似の様式でシグナル伝達経路を刺激することも本明細書中に示す。これらの事象によって内皮細胞アポトーシスが阻害され、血管系がストレスを受ける種々の生理的状態が生じる。S1P受容体アゴニストの別の生理学的に関連する効果は、内皮細胞における接着結合アセンブリの誘導である。SIP、FTY720−P、および(R)−AFD刺激後にVE−カドヘリン転位置が誘導されることも示す。細胞−細胞接合部分子は、血管透過性を調節するメディエーターの重要な標的である。
【0017】
SIP、FTY720−P、および(R)−AFDは、in vitroでのVEGF誘導性傍細胞透過性およびin vivoでのVEGF誘導性血管透過性を阻害することができる。FTY720−Pおよび(R)−AFDによる内皮細胞における接着結合アセンブリの誘導は、in vivoでの2つの重要な応用を有し得る。
【0018】
一方では、FTY720の作用機構の一部であり得る。FTY720は、血脈洞を裏打ちする内皮での細胞−細胞接合部の調節によってリンパ球のリンパ洞への放出(egression)を防止することができる。実際、FTY720−Pは、in vitroで内皮細胞単層を介してTリンパ球のケモカイン誘導性移動を阻害する。他方では、FTY720は、敗血症の合併症として発症する呼吸窮迫症候群などの急性血管疾患的状況における血管透過性を阻害することができる。さらに、血管透過性の長期的変化は、内皮細胞損傷の顕著な特徴であり、糖尿病に関連する虚血性心血管疾患および末梢血管障害に共通の慢性疾患を発症し得る。FTY720−Pは、血管系の強力な調節薬であり、影響を及ぼされる状況での内皮細胞の健全性のための保護物質として使用することができる。
【0019】
したがって、本発明は、血管透過性障害の治療が必要な哺乳動物の治療方法、血管内皮細胞アポトーシスの阻害方法、および新生血管形成の刺激方法に関する。本方法は、有効量のS1P以外の血管内皮S1P受容体のアゴニストを哺乳動物に投与する工程を含む。血管内皮S1P受容体のアゴニストまたはその薬学的に許容可能な形態物を、血管内皮S1P受容体のアゴニストに応答する疾患、障害、または病態の治療薬の製造のために使用することができる。
【0020】
適切な血管内皮S1P受容体には、例えば、S1P、S1P、S1P、S1P、S1P、および1つまたは複数の前記受容体を含む組み合わせが含まれる。1つの実施形態では、S1P受容体には、S1P、S1P、およびその組み合わせが含まれる。血管内皮S1P受容体のアゴニストは、薬学的に許容可能な塩であってよく、そして/またはスフィンゴシン−キナーゼ2酵素によってリン酸化されたものでもよい。
【0021】
血管内皮S1P受容体の適切なアゴニストには、例えば、1,2アミノアルコール、その薬学的に許容可能な塩、そのリン酸化形態物、および1つまたは複数の前記アゴニストを含む組み合わせが含まれる。
【0022】
本明細書中に記載の血管内皮S1P受容体のアゴニストの「薬学的に許容可能な形態物」には、このような化合物の薬学的に許容可能な塩、水和物、溶媒化合物、結晶形態、多形体、キレート、非共有結合性複合体、エステル、包接体、プロドラッグ、および混合物が含まれる。薬学的に許容可能な塩は、薬学的に適切である許容可能な形態物である。
【0023】
「薬学的に許容可能な塩」には、元の化合物を非毒性の酸性塩または塩基性塩に修飾した血管内皮S1P受容体のアゴニストの誘導体が含まれ、さらに、このような化合物およびこのような塩の薬学的に許容可能な溶媒化合物をも含まれる。薬学的に許容可能な塩の例には、アミンなどの塩基性残基の無機酸塩または有機酸塩およびカルボン酸などの酸性残基のアルカリ塩または有機塩などが含まれるが、これらに限定されない。
【0024】
薬学的に許容可能な塩には、例えば、非毒性有機酸または無機酸から形成された元の化合物の通常の非毒性塩および四級アンモニウム塩が含まれる。例えば、通常の非毒性酸の塩には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などの無機酸由来の塩;ならびに酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、メシル酸、エシル酸、ベシル酸、スルファニル酸、2−アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イセチオン酸、HOOC−n−COOH(式中、nは0〜4である)などの有機酸から調製した塩が含まれる。薬学的に許容可能な塩を、従来の化学的方法によって元の化合物(塩基性または酸性部分)から合成することができる。
【0025】
一般に、このような塩を、これらの化合物の遊離酸形態物と適切な塩基(Na、Ca、Mg,またはKの水酸化物、炭酸塩、または重炭酸塩など)の化学量論量との反応、またはこれらの化合物の遊離塩基形態物と適切な酸の化学量論量との反応によって調製することができる。典型的には、このような反応を水中、有機溶媒中、または前記2つの混合物中で行う。一般に、差し支えなければ、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルのような非水性溶媒が好ましい。さらなる適切な塩のリストを、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,17th ed.,Mack Publishing Company,Easton,Pa.,p.1418(1985)で見出すことができる。
【0026】
適切な1,2−アミノアルコールは、式:
【化1】

(Rは、任意選択的に置換されまたは置換されていないフェニレンまたはフェノキシによって分断されうる、12〜22個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖の炭素鎖で置換されまたは置換されていないものであり、R、R、R、およびRはそれぞれ独立して水素またはC1〜6アルキルであり;nは0または1である)を有する。1つの実施形態としては、式Iの化合物は、Rが任意選択的にニトロ、ハロゲン、アミノ、ヒドロキシ、またはカルボン酸で置換された13〜20個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖のアルキルである化合物、より好ましくは、Rは、フェニルが、任意選択的にハロゲンに置換された直鎖または分岐鎖のC6〜14アルキル鎖またはC6〜14アルコキシ鎖に置換され、アルキル部分が任意選択的にヒドロキシに置換されたC1〜6アルキルとなっている、(フェニル)アルキル−の化合物である。
【0027】
1つの実施形態としては、Rは、フェニルの水素を直鎖または分岐鎖のC6〜14アルキル鎖またはC6〜14アルコキシ鎖で置換した(フェニル)C1〜6アルキルである。C6〜14アルキル鎖は、オルト位、メタ位、またはパラ位であり得る。1つの実施形態としては、R〜Rはそれぞれ水素である。
【0028】
本明細書中で使用される、「任意選択的に分断される」は、アルキル鎖内の任意の位置でアルキル鎖を差し挟むことができることを意味する。例えば、式2を参照のこと。2つの文字または記号の間にないダッシュ(「−」)を使用して、置換のための結合点を示す。例えば、(フェニル)アルキル−は、アルキル基の炭素原子を介して結合している。
【0029】
本明細書中で使用される、「アルキル」は、特定の数の炭素原子を有する分岐鎖および直鎖両方の飽和脂肪族炭化水素基を含むことが意図される。したがって、本明細書中で使用される、用語「C〜Cアルキル」には、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基が含まれる。本明細書中で別の基と組み合わせてC〜Cアルキルを使用する場合(例えば、(フェニル)C〜Cアルキル)、示した基(この場合、フェニル)は、単結合によって直接結合しているか(C)、特定の炭素原子数(この場合、1〜約4個の炭素原子)を有するアルキル鎖を介して結合している。
【0030】
アルキルの例には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、およびsec−ペンチルが含まれるが、これらに限定されない。好ましいアルキル基は、低級アルキル基(1〜約8個の炭素原子を有するアルキル基)(例えば、C〜CおよびC〜Cアルキル基)である。
【0031】
1,2−アミノアルコール誘導体は、1つまたは複数のキラル中心を有し得る。結果として、例えば、とりわけ、キラル出発材料、触媒、または溶媒によって1つの光学異性体(ジアステレオマーおよびエナンチオマーを含む)を選択的に調製することができるか、またはジアステレオマーおよびエナンチオマーを含む両方の光学異性体または両方の立体異性体を同時に調製することができる(ラセミ混合物)。化合物はラセミ混合物として存在し得るので、ジアステレオマーおよびエナンチオマーを含む光学異性体または立体異性体の混合物を、公知の方法(例えば、キラル塩およびキラルクロマトグラフィなどの使用)を使用して分離することができる。
【0032】
さらに、ジアステレオマーおよびエナンチオマーを含む1つの光学異性体または立体異性体は、他の異性体よりも好ましい性質を有し得る。本明細書中でラセミ混合物という場合、ジアステレオマーおよびエナンチオマーを含む光学異性体または実質的に他の異性体を含まない1つの立体異性体が含まれる。
【0033】
式1の適切な化合物には、FTY720(式II)としても公知の2−アミノ−2−[2−(4−オクタフェニル)エチル]プロパン−1,3ジオールおよびAALまたは2−アミノ−2−メチル−4−[4−ヘプトキシ−フェニル]ブタン−l−オールとしても公知のヒドロキシメチレン基がメチル基に置換されたFTY720の誘導体、(式III)が含まれる。
【化2】

【化3】



【0034】
in vivoでは、FTY−720およびAALが、例えば、SK2キナーゼなどの内因性キナーゼによってリン酸化され、式(IV)の化合物(FTY720−P、すなわち2−アミノ−3−ホスフェート−2−[2−(4−オクタフェニル)エチル]プロパン−1−オール)および(V)((R)−AFD、すなわち2−アミノ−2−メチル−4−[4−ヘプトキシ−フェニル]1−二リン酸)を生成することができる。
【化4】

【化5】

【0035】
血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストは、2−アミノ−2−[2−(4−オクタフェニル)エチル]プロパン−1,3ジオール、2−アミノ−2−メチル−4−[4−ヘプトキシ−フェニル]ブタン−l−オール、2−アミノ−3−ホスフェート−2−[2−(4−オクタフェニル)エチル]プロパン−1−オール、2−アミノ−2−メチル−4−[4−ヘプトキシ−フェニル]1−二リン酸、または1つ若しくは複数の前記アゴニストを含む組み合わせであり得る。
【0036】
血管内皮S1P受容体のアゴニストを、血管透過障害の治療有効量で哺乳動物に投与することができる。このような障害には、例えば、内皮損傷、血小板減少症、アテローム性動脈硬化症、虚血性心血管疾患、虚血性末梢血管疾患、糖尿病に関連する末梢血管障害、デング出血熱、成人(急性)呼吸窮迫症候群、血管漏出症候群、敗血症、自己免疫性脈管炎、および1つまたは複数の前記障害を含む組み合わせが含まれる。
【0037】
内皮損傷は、高血圧、ストレス誘導性ホルモン、化学的毒素、汚染物質、コレステロール、感染因子(例えば、クラミジア・ニューモニエ、ヘリコバクター・ピロリ、ヘルペスウイルス、カンジダ・アルビカンス)、ホモシステイン、および種々の疾患に起因する。内皮損傷に関する病態には、アテローム性動脈硬化症および血管腫が含まれ得る。アテローム性動脈硬化症は、内皮下腔中の脂質沈着と関連する。局所的に高まった血管内皮透過性によって脂質が蓄積され得る。アテロームは、アテローム性動脈硬化病変の中心の壊死塊である。血管腫は、拡張した血管からなる良性腫瘍である。
【0038】
血小板減少症は、血小板(血球の1つ)数が異常に低下する障害であり、しばしば異常出血に関連する。成人性特発性血小板減少性紫斑症(ITP)は、通常、構造血小板抗原に対する抗体の発生に起因する(自己抗体)。ITPに類似の血小板減少症を発症する障害には、膠原血管病(例えば、SLE)またはリンパ増殖性疾患の他に免疫血小板減少症がある。ヘパリン誘導性血小板減少症は、血小板表面膜上でのFc受容体へのヘパリン−抗体複合体の結合に起因する。血小板減少症では、内皮損傷、血管透過性の増大、および組織浮腫が一般的な症状である。
【0039】
虚血性心疾患は、血液供給が無いか欠乏しているために心筋が損傷するか、または不十分にしか作用しないことで生じる病態である。これはアテローム性動脈硬化症によって最も頻繁に起こり、狭心症、急性心筋梗塞、慢性虚血精神疾患、および突然死をきたす。冠状動脈性心疾患(CHD)とも呼ばれる。
【0040】
いくつかの血管透過性障害は、真性糖尿病に関連し、糖尿病網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性毛細血管症、糖尿病性大血管症、および閉塞性血管障害をきたす。
【0041】
デング出血熱は、抗原性は異なるが4つの密接に関連するフラビウイルス族のウイルス血清型(DEN−1、DEN−2、DEN−3、およびDEN−4)のうちの1つに起因する。これらの血清型のうちの1つでの感染によっては交差防御免疫が得られないので、個体は生涯4つのデング感染症を有し得る。デング熱は熱帯地方の疾患であり、原因となるウイルスの生活環は、ヒト、ネッタイシマカ、家畜、ヒトを餌にする日中に刺す蚊を含む。
【0042】
デング出血熱/デングショック症候群(DHF/DSS)で認められる主な病態生理学的異常は、血管透過性の急性の増加である。デング熱は、突発的な高熱、悪寒、頭痛、発疹、出血の徴候、味覚の変化、喉の痛み、吐気、嘔吐、下痢、および激しい筋肉痛および関節痛によって特徴づけられる。極端な場合、デングショックにより、血漿が漏出し、その後血漿の喪失が危機的である場合には、血液量減少性ショックを引き起こす。
【0043】
全身性血管漏出症候群は、10%〜70%の血漿の突発的な一過性血管外遊出に起因する低血圧および血液濃縮の同時発作によって特徴づけられる障害である。臨床的には、この症候群は、低血圧、血液濃縮、低アルブミン血症を示す。休止期間中、毛細血管透過性は正常である。発作の間のみ血管外遊出が起こる。この漏出の病態生理学的性質は不可解なままである。古典的経路における補体の活性化、5−リポキシゲナーゼの持続的な外来的刺激、インターロイキン−2の役割が、考えられる原因として示唆されている。
【0044】
成人(急性)呼吸窮迫症候群(ARDS)は、しばしば他の臓器の機能不全に関連する肺の進行性機能不全(特に、酸素を取り込む能力の不全)の急速な発症である。病態は、広範な肺炎および罹患臓器中の微小血管の損傷に関連する。微小血管内皮または肺胞上皮が最初に損傷する。毛細血管の透過性が増加した後に組織化および瘢痕化が起こる。炎症細胞と内皮を損傷する白血球およびサイトカインなどのメディエーターとの相互作用によって毛細血管が欠損し、流動物およびタンパク質が漏出する。
【0045】
敗血症は、全身性炎症反応症候群(SIRS)を発症し得る1つの病態である。感染は典型的には局所的であるが、感染は、局所的な感染部位から血流への活性メディエーターの過剰供給を引き起こすほどひどくなり、感染性生物がこの部位から全身感染または敗血症を発症するように拡大し得る。約50%の敗血症は、主なエフェクター分子がリポ多糖であるグラム陰性菌に起因する。敗血症によって血管透過性が増加し、極端な場合、多臓器不全を引き起こし得る。
【0046】
自己免疫性脈管炎は、自己免疫応答によって引き起こされる血管の炎症および損傷によって特徴づけられる疾患群である。血管の脈管炎誘導性損傷は、血管透過性の増加、動脈瘤形成または出血を引き起こす血管の脆弱化、ならびに閉塞および局所性虚血を引き起こす血栓症および内膜増殖を引き起こし得る。
【0047】
本発明はまた、有効量の血管内皮S1P受容体のアゴニストの投与によるアポトーシス関連障害などの望ましくない血管内皮細胞アポトーシスの治療方法を含む。望ましくないアポトーシスは、移植片拒絶に関連しない。アポトーシスは、最終的に細胞が死滅する一連の慎重に制御された細胞事象である。アポトーシスの形態学的特徴には、細胞萎縮および細胞−細胞接触の喪失、核クロマチンの濃縮およびその後の断片化、細胞膜の波打ち現象、細胞膜の気泡化、ならびにアポトーシス小体が含まれる。
【0048】
この過程の終了後、隣接細胞およびマクロファージは、アポトーシス細胞由来のフラグメントを貪食する。最適に定義されたアポトーシスの生化学的事象は、核DNAの規則正しい破壊を含む。アポトーシスのシグナルにより、ヌクレオソーム間のリンカー領域で二本鎖DNAを切断する特異的カルシウムおよびマグネシウム依存性エンドヌクレアーゼの活性化が促進される。この過程により、約180〜約200塩基対のフラグメントであるDNAフラグメントが産生される。
【0049】
アポトーシスの調節異常は病状で重要な役割を果たし得るが、疾患は過剰または過少なアポトーシスによって発症し得る。過少なアポトーシスに関連する疾患の例は、一定の癌である。過剰または不適切なアポトーシスに関連するアポトーシス関連疾患の例には、虚血性疾患(再灌流損傷を除く)、末梢血栓症、神経変性疾患、末梢神経損傷、再生不良性貧血、肝臓損傷、およびHIV感染が含まれる。さらに、内皮アポトーシスは、腫瘍の治療で使用される放射線療法の顕著な特徴である。S1P受容体アゴニストは、血管機能を保護するための放射線療法を受ける患者の治療に有用であり得る。
【0050】
アポトーシスは、心不全における細胞死の主な根本にある原因である。虚血性疾患の例には、特発性心筋症、薬物(例えば、アドリアマイシン)によって誘導される心筋症、慢性アルコール中毒によって誘導される心筋症、家族性心筋症、ウイルス性心筋炎もしくはウイルス性心筋症、心筋梗塞、狭心症、鬱血性心不全、および不整脈などの心疾患ならびに脳卒中、くも膜下出血、脳梗塞、および脳血栓症などの脳血管疾患が含まれる。
【0051】
アポトーシスはまた、いくつかの神経変性疾患に関連する。このような神経変性疾患の例には、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、および色素性網膜炎が含まれる。血管内皮S1P受容体アゴニストの使用により、神経損傷を誘導する血管損傷を修復することができる。
【0052】
本発明は、さらに、血管内皮S1P受容体のアゴニストの投与による新生血管成長の刺激方法を含む。新生血管形成を、例えば、ウイルス形質導入による所与の組織中のスフィンゴシンキナーゼ−2の発現およびFTY720の経口投与による局所FTY720−P産生の誘導によって臓器特異的様式で刺激することができる。このような治療を使用して、血管成長が欠損し得る糖尿病個体の脚を治療することができる。血管内皮S1P受容体のアゴニストを使用して、この状況において血管成長を刺激することができる。さらに、心臓における新生血管成長の刺激は、心疾患個体の心機能に有利であり得る。例えば、スフィンゴシンキナーゼ−2をウイルス遺伝子療法によって心臓で発現するように誘導し、その後FTY720を投与して局所的にFTY720−Pを産生して心臓における血管形成を誘導することができる。
【0053】
血管内皮S1P受容体アゴニストの投与のための1日投薬量は、例えば、使用したアゴニスト、宿主、投与様式、および治療をうける病態の重症度に依存して変化する。適切な1日投薬量は、一回用量または分割用量として約0.01〜約10ミリグラム/キログラム(mg/kg)/日または約0.1〜約2.5mg/kg/日である。経口投与に適切な単位投薬形態は、1つまたは複数の薬学的に許容可能な賦形薬またはキャリアと共に約1〜約100mgまたは約5〜約50mgの有効成分(例えば、FTY720)を含む。別の方法として、アゴニストを遊離形態または薬学的に許容可能な塩形態で投与することができ、例えば、上記の投薬量で1週間に2回または3回投与することもできる。
【0054】
血管内皮S1P受容体アゴニストを含む薬学的組成物は、血管透過性および血管内皮細胞アポトーシスに関連する障害の治療で使用されるさらなる薬物を含み得る。適切なさらなる薬物には、例えば、細胞傷害薬、化学療法薬、ホルモン、ステロイド系抗炎症薬(例えば、プレドニゾンおよびコルチコステロイドなど)、非ステロイド系抗炎症薬(例えば、NSAID、アスピリン、およびアセトアミノフェンなど)、および1つまたは複数の上記のさらなる薬物を含む組み合わせが含まれる。
【0055】
1つまたは複数の生理学的に許容可能なキャリアまたは賦形剤を使用して、薬学的組成物を処方することができる。したがって、化合物ならびにその生理学的に許容可能な塩および溶媒化合物を、吸入または通気法(口腔または鼻腔のいずれかによる)、または経口、頬側、非経口、もしくは直腸投与による投与のために処方することができる。
【0056】
経口投与のための薬学的組成は、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトース、微結晶性セルロース、またはリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、またはシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム);および1つまたは複数の前記賦形剤を含む組み合わせなどの薬学的に許容可能な賦形剤と共に、例えば、当該分野で公知の手段によって調製された錠剤またはカプセルの形態を取ることができる。
【0057】
当該分野で周知の方法によって、錠剤をコーティングすることができる。経口投与のための液体調製物は、例えば、溶液、シロップ、または懸濁液の形態を取ることができ、さらに、使用前に水または他の適切な賦形剤で構成するための乾燥生成物の形態をとることもできる。このような液体調製物を、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、または硬化食用脂肪);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非水性賦形剤(例えば、扁桃油、油性エステル、エチルアルコール、または分留食用油);防腐剤(例えば、メチルもしくはプロピル−p−ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸);および1つまたは複数の前記添加剤を含む組み合わせなどの薬学的に許容可能な添加剤を使用した従来の手段によって調製することができる。この調整物はまた、必要に応じて、緩衝塩、香味物質、着色料、および甘味料を含み得る。
【0058】
経口投与のための調製物を、活性化合物を制御して放出するために適切に処方することができる。頬側投与のために、組成物は、当該分野で公知の技術によって処方された錠剤またはロゼンジの形態を取ることができる。吸入による投与のために、化合物を、適切な高圧ガス(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適切なガス)を使用した圧縮パックまたは噴霧器からのエアロゾルスプレーの形態で使用する。圧縮エアロゾルの場合、定量を送るためのバルブを設けることによって投薬単位を決定することができる。
【0059】
例えば、吸入器または注入器で使用するために化合物とラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基剤との粉末混合物を含むゼラチンのカプセルおよびカートリッジを処方することができる。注射(例えば、ボーラス注射または持続注入)による非経口投与のための化合物を処方することができる。注射用処方物は、防腐剤を添加した単位投薬形態(例えば、アンプル)または複数回投与コンテナで用いることができる。組成物は、懸濁液、溶液、または油性もしくは水性賦形剤における乳濁液などの形態を取ることができ、懸濁剤、安定剤、および/または分散剤などの処方剤(Formulatory Agent)を含み得る。
【0060】
あるいは、有効成分は、使用前に適切な賦形剤(例えば、滅菌無発熱因子水)で構成するための粉末形態であり得る。例えば、ココアバターまたは他のグリセリドなどの従来の坐剤の基剤を含む坐剤または保持浣腸剤などの直腸組成物中に化合物を処方することもできる。前記処方物に加えて、化合物を持続性調製物として処方することができる。このような長期作用処方物を、注入(例えば、皮下または筋肉内)または筋肉内注射によって投与することができる。したがって、例えば、化合物を、適切な高分子材料もしくは疎水性材料(例えば、許容可能なオイル中での乳濁液として)またはイオン交換樹脂を使用して処方することができるか、またはやや溶けにくい誘導体(例えば、やや溶けにくい塩)として処方することができる。
【0061】
in vitroおよびin vivoでFTY720がSK2キナーゼによってリン酸化されるので、個体のSK2キナーゼのレベルを測定して、疾患治療における血管内皮S1P受容体アゴニストの有効性を予想することができる。例えば、この試験を使用して、所与の個体がFTY720療法の候補であるかどうかを予想することができる。あるいは、個体のSK2キナーゼレベルが低い場合、投与に好ましい化合物は、血管内皮S1P受容体アゴニストまたは異なる化学構造を有する別のS1P受容体アゴニストのリン酸化形態物であり得る。
【0062】
本発明を、以下の非限定的な実施例によってさらに例示する。
[実施例]
【0063】
一般的方法
試薬。無脂肪酸血清アルブミン(ffa−BSA)、4−デオキシピリドキシン、およびβ−グリセリンリン酸、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)−デキストラン(平均分子量2,000キロダルトン(kDa)および165kDa)を、シグマケミカル(Sigma Chemical)社から購入した。スフィンゴシン、N,N−ジメチルスフィンゴシン(DMS)およびS1Pを、バイオモルリサーチラボラトリズ(Biomol Research Laboratories)社(Plymouth Meeting,PA)から購入した。{γ−32P}ATP(比活性6,000Ci/mmol)および{メチル−H}−チミジン(比活性86 Ci/mmol)をアマシャム(Amersham)社から入手した。FTY720、ホスホFTY720、(S)−AAL、(R)−AAL、およびホスホ−(R)−AALは、V.Brinkmann,Novartis博士から提供を受けた。ホスホ−Akt、Akt、ホスホ−ERKl/2、およびERK−1/2抗体を、セルシグナリングテック(Cell Signaling Tech.)社から入手し、VE−カドヘリン抗体を、サンタクルズバイオテック(Santa Cruz Biotech)社から入手した。
【0064】
マウスSK1およびSK2のcDNAクローニング。マウス肝臓RNA(Ambion)を使用して、正方向プライマーである配列番号1(AGC CCC ATG TGG TGG TGT TGT)および配列番号2(ATT ATG GCC CCA CCA CCA CTA CT)ならびに逆方向プライマーである配列番号3(GGC ACA GAG TTA TGG TTC TTC)および配列番号4(AGG TCA GGC TTG TGG CTT TTG AC)をそれぞれ使用した逆転写PCRによってマウススフィンゴシンキナーゼ(SK1およびおSK2)のcDNAを増幅した。得られたPCR産物を、pcDNA3.1でクローン化する。Topoベクター(Invitrogen社製)およびDNA配列を確認した。次いで、SK1およびSK2のcDNAを、pcDNA3.1真核生物発現ベクター(Invitrogen社製)でクローン化した。
【0065】
細胞培養およびトランスフェクション。HUVEC(Clonetics,p4−11)を、10%ウシ胎児血清(FBS)およびヘパリン安定化内皮細胞成長因子を添加したM199培地で培養した。60mm皿中の293T細胞を、ベクターのみまたはSK構築物を含んだベクター4マイクログラム(μg)にて、リン酸カルシウム法によってトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後、4℃で、25ミリモル(mM)ヘぺス(HEPES)(pH7.5)、5mM MgCl、1×プロテアーゼインヒビター混合物400マイクロリットル(μl)(Calbiochem社製)を使用した掻き取りによって細胞を回収し、短時間の超音波処理によって破壊した。細胞ホモジネートを、4℃、20,000×gで10分間遠心分離した。
【0066】
統計分析。全実験を2〜5回行い、各実験を示す。移動およびアポトーシス実験では、結果を3回の平均値で示す。マイクロソフト社のエクセルソフトウェアを使用したスチューデントt検定によってP値を計算した。
【実施例1】
【0067】
実施例1:血管内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼによるFTY720のリン酸化。S1Pは、内皮細胞走化性の強力な誘導物質であるので、内皮細胞移動に対するFTY720およびその類似化合物の効果を試験した。96ウェル走化性マイクロチャンバー(Neuro Probe社製)を使用して、HUVEC移動を試験した(Paik,J.H.et al.JBiol Chenu 276:11830−11837(2001))。簡単に述べれば、孔径が8マイクロメーター(μm)のポリカーボネートフィルターを、5マイクログラム/ミリリットル(μg/ml)のフィブロネクチンでコーティングした。S1P、FTY720、AAL、FTY720−P、または(R)−AFDを、0.1%ffa−BSAで適切な濃度に希釈した。
【0068】
85μlの上記溶液またはHUVEC由来の馴化培地を、下のチャンバーに添加した。0.1%ウシ血清アルブミンを含むM199中に懸濁した約5×10個の細胞を、上の区画に入れた。細胞を5%COを含む湿室中にて37℃で4時間移動させた。インキュベーション後、フィルターを除去し、細胞を0.1%クリスタルバイオレットで染色し、96ウェルプレート中にて10%酢酸で溶離した。スペクトラマックス340(Spectramax340)(Molecular Devices社製)プレートリーダーによって575ナノメートル(nm)での吸光度に基づいて定量した。
【0069】
無添加のM199培地での細胞の3回の洗浄および異なる濃度のFTY720または(R)−AALを含む0.1%無脂肪酸BSAとの3時間のインキュベーションによって、内皮細胞によるFTY720および(R)−AALの活性化を行った。
【0070】
インキュベーション後、馴化培地を除去し、1,000×gで10分間遠心分離し、移動アッセイを行った。
【0071】
図1は、化学誘引物質であるS1P(100ナノモル(nM))、種々の濃度のFTY720(FTY)およびAALを使用したHUVEC(白のバー:コントロール、黒のバー:百日咳毒素治療)の移動実験の結果を示す。実験では表示濃度のFTY720(FTY)、(R)−AAL、または(S)−AALとの3時間のインキュベーション後の内皮細胞由来の馴化培地を用いた。データ=3回繰り返した各実験由来の3連の値の平均±SE(N=3)。賦形剤コントロールに対してp<0.01、百日咳毒素を含まない細胞に対してp<0.01。
【0072】
広範な濃度範囲においてFTY720およびその構造上の類似化合物である(R)−AALによっては、内皮細胞移動は誘導されなかった(図1)。しかし、FTY720または(R)−AALをHUVECと3時間インキュベートした場合、これらは内皮細胞の強力な化学誘引物質へと活性化された。この馴化培地誘導性移動は、用量依存性且つ百日咳毒素感受性であり、G共役受容体の関与を示す。対照的に、スフィンゴシンキナーゼ(SK)によってリン酸化することができないエナンチオマー(S)−AALは、内皮細胞とのインキュベーション後に移動を誘導しなかった。これらのデータは、内皮細胞によってFTY720および(R)−AALが内皮細胞の化学誘引物質であるリン酸化誘導体へとリン酸化されて活性化するという仮説と一致する。
【0073】
HUVEC細胞中のSK1およびSK2転写物の存在を、配列番号l〜4のプライマー(SK1についてはTGGAGTATGAATGCCCCTAC、CGCTAACCATCAATTCCCC、SK2についてはGATCACCCCTGACCTGCTAC、GGCATCTTCACAGCTTCCTC)を使用したRT−PCRによって検出した(データ示さず)。
【0074】
SK1およびSK2がFTY720リン酸化に関与する可能性をさらに探索するために、FTY720および(R)−AALの活性形態物への変換の阻害についてSKインヒビターであるDMSを用いて試験した。図2は、S1P(100nM)または10μM DMSの非存在下(白色のバー)もしくは存在下(黒色のバー)での100nM FTY720(FTY)もしくは100nM(R)−AALとの3時間のインキュベーション後の内皮細胞由来の馴化培地を使用した、HUVECの移動実験の結果を示す。賦形剤コントロールに対してp<0.01。DMS処理(10μM)は、FTY720および(R)−AALを活性化する内皮細胞の能力を強力に阻害した(図2)。これらの結果により、HUVEC中に存在するSK活性がFTY720および(R)−AALの両方をリン酸化して活性化させることができることが示唆される。
【実施例2】
【0075】
実施例2:FTY720およびR−AALのリン酸化の確認。FTY720および(R)−AALが内皮細胞によってリン酸化されることを確認するために、全細胞抽出物およびHUVEC由来の馴化培地を使用してin vitroキナーゼアッセイを行った。細胞を無添加のM199培地で3回洗浄し、0.1%ffa−BSAで表示の時間インキュベートした。インキュベーション後、馴化培地を除去し、1,000×gで10分間遠心分離し、キナーゼ活性アッセイのために使用した。4℃において、25mM ヘペス(HEPES)(pH7.5)、5mM MgCl、1×プロテアーゼインヒビター混合物400μlを使用して細胞を掻き取り、短時間の超音波処理によって破壊した。細胞ホモジネートを、4℃、20,000×gで10分間遠心分離した。
【0076】
キナーゼアッセイでは、300μlの馴化培地(3時間のインキュベーション後の5×10個の細胞由来)または10μgのHUVEC由来の全細胞抽出物を、キナーゼ活性の供給源として使用した。反応物は、20μMスフィンゴシンまたは100μM FTY720もしくはAAL、[γ−32P]ATP(10μCi)、5mM MgCl、15mM NaF、0.5mM 4−デオキシピリドキシン、40mMグリセリンリン酸、および300μlのM199を含んでおり、37℃で30分間インキュベートした。脂質を抽出し、サンプルを50μlのクロロホルムに再懸濁した。脂質を、1−ブタノール/酢酸/水(60/20/20体積/体積)緩衝液を使用したシリカゲルG60でのTLCによって分離し、ホスホイメージャー(PhosphorImager)(Molecular Dynamics)で定量した。
【0077】
図3に示すように、FTY720および(R)−AALは、HUVEC中に存在するキナーゼ活性によってリン酸化された(図3の上のパネル、比活性はそれぞれ3.85±0.75および15±0.93pmol/mg/分)。予想どおり、スフィンゴシンはこのキナーゼ活性の有効な基質であった(比活性75.7±6(ピコモル/ミリグラム/分(pmol/mg/分))。対照的に、(S)−AALのリン酸化物は検出不可能であり、移動アッセイで得られた結果と一致した。FTY720および(R)−AALのリン酸化は、DMS(50μM)によって阻害された。同様に、キナーゼ活性は、HUVEC由来の馴化培地で検出され(図3の下のパネル)、TritonX−10によって阻害され、SKの酵素活性を高める条件であるKCl(200mM)によって増加した(データ示さず)。
【実施例3】
【0078】
実施例3:FTY720および(R)−AALのリン酸化におけるSK2の役割の確認。FTY720および(R)−AALのリン酸化におけるSK2の役割を確認するために、HEK293T細胞を、SK1またはSK2のcDNAのいずれかを含むpcDNA3.1/Neo発現ベクターで一過性にトランスフェクトし、FTY720、(R)−AAL、および(S)−AALのリン酸化についてチェックした。図4に、ベクターコントロール293T細胞(293T)、SK1過剰発現293T細胞(SK1−293T)、およびSK2過剰発現293T細胞(SK2−293T)由来の抽出物を使用して行ったin vitroでのキナーゼアッセイのTLC−オートラジオグラフィの結果を示す。
【0079】
賦形剤コントロール=(C)、100μM FTY720=(F)、100μM(R)−AAL=(R)、100μM(S)−AAL=(S)、または20μMスフィンゴシン=(SG)を基質として使用する。(+)を示す場合、50μMのDMSを含んでいる。N=3〜5の代表的実験を示す。ベクターでトランスフェクトした293Tに対するSK1−293T(白色のバー)およびSK2−293T(黒色のバー)の比活性の誘導倍率を、下のパネルに示す。矢印はリン酸化化合物を示す。
【0080】
ベクターでトランスフェクトした細胞で低レベルの内因性スフィンゴシンキナーゼ活性が検出された(図4)。SK1細胞抽出物は、コントロール293T細胞と同等のFTY720または(R)−AALキナーゼ活性を示した一方で、SK1−293T細胞においてはリン酸化したスフィンゴシンが有意に増加した(比活性は、293T細胞の10.5pmol/mg/分に対して48.1pmol/mg/分、図4)。SK2−293T細胞は、コントロール293T細胞に対してFTY720および(R)−AALキナーゼ活性が増加した(それぞれ3.7倍および7倍の誘導)。
【0081】
FTY720、(R)−AAL、およびスフィンゴシンにおけるSK2−293Tの比活性は、それぞれ41.6、199.5、および319.9pmol/分/mgであった。293T、SK1−293T、およびSK2−293T細胞における(S)−AALのリン酸化は辛うじて検出可能であった。FTY720、(R)−AAL、およびスフィンゴシンキナーゼ活性は、DMS(50μM)とのインキュベーションによって阻害された。これらの結果により、FTY720および(R)−AALのリン酸化、ならびにそれによりこれらの化合物がS1P受容体アゴニストへと活性化する際のSK2の役割が示唆される。さらに、結果は、HUVECが細胞外培地中に存在するFTY720および(R)−AALの両方をリン酸化して活性化させることができることを示す。
【実施例4】
【0082】
実施例4:内皮細胞応答に対するFTY720−Pの効果。FTY720−Pおよびその類似化合物である(R)−AFDの効果を、HUVECで研究した。図5では、データ=3回の平均±SE。N=3。p<0.01(賦形剤コントロールに対する治療について)、p<0.01(百日咳毒素を含まない細胞に対して)。FTY720−Pおよび(R)−AFDは共にHUVECの強力な化学誘引物質であった(図5)。これらは共に10nMで最大の効果を示すが(それぞれ、13倍および9倍の誘導)、S1Pがわずかだがより強力であった(14倍の誘導)。FTY720−Pおよび(R)−AFD誘導性移動は、百日咳毒素(200ng/mL)によって阻害され、ヘテロ三量体Gタンパク質経路によって媒介される効果であることを示す。
【0083】
内皮細胞形態形成(内皮細胞の移動、生存、および接着結合アセンブリを必要とする現象)は、S1PおよびS1P受容体のリガンド依存性の活性化によって媒介される。S1Pは、内皮細胞におけるAktプロテインキナーゼおよびERKプロテインキナーゼのリン酸化を誘導することが示され、Aktが介在するS1P/EDG−1受容体のリン酸化は、S1P誘導性移動に必要である。HUVECにおけるAktおよびERKのリン酸化に対するFTY720−Pおよびその類似化合物の効果を、ウェスタンブロット分析で研究した。HUVEC細胞のコンフルエントな培養物を、処理前に0.1%ffa−BSA M199中で2時間血清を枯渇させた。
【0084】
次いで、これらを1mMフッ化ナトリウムおよび1mMオルトバナジン酸ナトリウムを含む氷冷リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、放射性免疫沈降アッセイ緩衝液(0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、1%NP−40、1mMオルトバナジン酸ナトリウム、50mMβ−グリセリンリン酸、および1×プロテアーゼインヒビターカクテル)中でホモジネートした。サンプルを、10,000×gで10分間遠心分離し、ブラッドフォード(Bradford)アッセイ(BioRad Protein Dye試薬)によって上清のタンパク質濃度を決定した。等量のタンパク質を、10%ポリアクリルアミドゲルにて分離し、ニトロセルロースメンブレンにブロッティングした。ホスホ−Akt、Akt、ホスホ−ERK1/2、またはERK−1/2抗体を使用して、免疫ブロット法による分析を行った。
【0085】
FTY720−Pおよび(R)−AFDは、5分後にAkt(100nMでそれぞれ3.7倍および4.5倍、図6)およびERK−1/2(100nMでそれぞれ9.3倍および8.2倍、図6)のリン酸化物のレベルを増加へと誘導した。このリン酸化の経時変化は、FTY720−P、(R)−AFD、およびS1P間で類似し、5分の刺激後に最大レベルのリン酸化が達成された(データ示さず)。
【0086】
AktおよびERKのリン酸化に対するFTY720−Pおよび(R)−AFDの効果は用量依存性であり(データ示さず)、FTY720−Pおよび(R)−AFDによって誘導されたリン酸化の程度はS1Pによって誘導された程度より高かった。しかし、非リン酸化誘導体(FTY720またはAAL)は、内皮細胞においてホスホ−Aktまたはホスホ−ERK1/2を誘導しなかった。S1P、FTY720−P、および(R)−AFDによるAkt、ERK−1およびERK−2のリン酸化は、百日咳毒素とのインキュベーションによって阻害され(図7)、G共役受容体の関与を示す。
【実施例5】
【0087】
実施例5:アポトーシスに対するFTY720−Pおよび(R)−AFDの効果。ERK−1およびERK−2活性化は、内皮細胞におけるS1Pの残存効果に必要であり、FTY720−Pおよびその類似化合物である(R)−AFDがHUVECにおける血清欠乏によって誘導されたアポトーシスを防止することができるかどうかを試験した。この試験では、HUVEC細胞を、{メチル−H}−チミジン(1μCi/ml)で16時間標識した。次いで、これらを洗浄し、異なる処理を含む0.1%ffa−BSA M199を添加した。8時間後、記載のように断片化DNAを可溶化し、定量した。
【0088】
結果を、図8および9に示す。FTY720−Pおよび(R)−AFDは、用量依存的にアポトーシスから細胞を有意に保護し(図8)、非常に低濃度(10nM)で最大の効果が得られた(DNA断片化の約70%を阻害)。S1Pを用いた場合、より高い濃度(1μM)において同様にDNAのフラグメント化の阻害が認められた。百日咳毒素処理によってS1P、FTY720−P、および(R)−AFDの抗アポトーシス効果も阻害され(図9)、Giを介したシグナル伝達が重要であることが示された。
【実施例6】
【0089】
実施例6:FTY720−Pはin vitroで接着結合アセンブリおよび血管透過性を調整する。内皮細胞の形態形成および透過性における重要な細胞内構造である接着結合の形成に必要なVE−カドヘリンアセンブリに対するFTY720−Pおよび(R)−AFDの効果を評価した。カドヘリンは、特定の細胞−細胞接触の形成に関与する細胞接着分子のファミリーである。VE−カドヘリン(またはカドヘリン−5)は、細胞−細胞接触において細胞内結合(接着結合)に局在していることが示されている。多数の実験観察により、このカドヘリンは、内皮細胞の管状構造へのアセンブリを含んだ新脈管形成に関する血管生物学の種々の態様に関与することが示唆される。
【0090】
VE−カドヘリンの局在化に対するFTY720−Pおよび(R)−AFDの効果を、免疫蛍光検査法を使用して検討した。この研究では、2×10個の細胞を、35mmのガラス底ペトリ皿に入れた。3日後、細胞を洗浄し、処理前に3時間血清を枯渇させた。次いで、細胞を氷冷PBSで洗浄、固定し、VE−カドヘリン抗体(1μg/ml、Santa Cruz社製)を使用した免疫蛍光検査法による分析を行った。ローダミンと組み合わせたヤギの抗マウスIgG(1:1000、Cappel社製)を使用して、一次抗体染色を視覚化した。ツァイス(Zeiss)LSM510レーザー走査共焦点顕微鏡にて共焦点顕微鏡法を行った。ローダミン蛍光を、543nmヘリウム/ネオンレーザーを使用して励起し、放出された蛍光を530nmロングパスフィルターを使用して検出した。
【0091】
FTY720−Pおよび(R)−AFDでの30分間のHUVECの処理により、細胞−細胞接触領域でVE−カドヘリン局在化の増加がみられた(表10)。この効果は、S1Pで認められた効果に匹敵した。しかし、非リン酸化前駆体であるFTYおよび(R)−AALは接着結合のためのVE−カドヘリン移行へとは誘導しなかった。これらの結果は、FTY720−Pおよび(R)−AFDが、内皮細胞中での接着結合アセンブリを誘導するように血管S1P受容体に対して作用することを示す。
【0092】
いくつかの研究は、VE−カドヘリンが血管透過性の重要な決定要因であり得ることを示した。VE−カドヘリンのVEGF誘導性チロシンリン酸化により、in vitroでの血管透過性が増加した。さらに、S1Pは、S1P/G/Rac依存性プロセスを介してトロンビン誘導性傍細胞透過性を阻害することを示した。細胞系を使用して、血管透過性に対するS1P、FTY720−P、および(R)−AFDの効果を評価した。マウス胚内皮細胞(5×10)を、トランスウェルポリカーボネートフィルター(直径6.5mm、孔径0.4μm;商標Costar)中で2日間培養した。培養培地を、血清/フェノールレッドの入っていないDMEM(ヘペス(HEPES)緩衝液、L−グルタミン、および塩酸ピリドキシン)(0.1mLは上のチャンバー、0.6mLは下のチャンバー)と置換した。
【0093】
細胞を、FTY720、その誘導体、またはS1Pで1時間、前処理した。FITC−デキストラン(平均分子量=2,000kDa)を、マウスの組換えVEGF(50ng/ml)の非存在下または存在下のいずれかで上の区画に添加した。表示の期間(5〜45分)後に下のウェル由来の培地を採取した。サンプルを、黒色の硬い底の96ウェルプレート(商標Costar)に入れ、488nm励起でサイトフルオ(CytoFluor(R))蛍光マルチウェルプレートリーダー(Applied Biosystems社製)を使用して、蛍光強度を測定した。データ=2つの値の平均±SE。N=2。*p<0.01(未処理に対するVEGF)。
p<0.01(VEGFのみに対する処理+VEGF)。
【0094】
傍細胞透過性アッセイの結果を、図11および12に示す。VEGFを使用しない場合、下の区画の蛍光は時間と共に増加した(図11)。しかし、細胞をVEGFで処理した場合、下の区画で蛍光の有意な増加が認められ、S1P、FTY720−P、および(R)−AFDによって非常に阻害された(図11、45分の測定点を示す)。これらの結果は、VEGF誘導性傍細胞透過性がS1P受容体アゴニストであるS1P、FTY720−P、および(R)−AFDによって拮抗されることを示す。
【実施例7】
【0095】
実施例7:FTY720−Pはin vivoで接着結合アセンブリおよび血管透過性を調整する。血管透過性の調節における血漿由来FTY720−Pまたは(R)−AFDの役割をin vivoで試験した。この可能性を試験するために、FTY720、(R)−AFD、または(S)−AAL前処理マウスでin vivo血管透過モデルを使用した。正常なFVB/N雌または雄マウスを、FTY720(50μg)、S−AALエナンチオマー(50μg)、R−AALエナンチオマー(50μg)、および賦形剤コントロールとしての水を用いての強制栄養法によって処置した。5時間の強制栄養法による処理後、動物を2%Avertin(商標)(0.5cc/20g)で麻酔し、尾静脈を介して100μlのFITC−デキストラン(5mg/ml、165kDa)を注入した。動物を、蛍光解剖顕微鏡(Zeiss STV11型,Zeiss社製)下の加温テーブルにのせ、耳の中心血管を画像化した。コントロール生理食塩水またはマウス血管内皮成長因子(mVEGF、10ng/ml)を、30ゲージのニードル(30μl)を使用して中耳に皮下注射した。次いで、耳の脈管構造を、注射から5分〜120分後に特定の暴露回数で定位置で画像化した。次いで、イメージプロプラス(ImageProPlus)(MediaCybernetics社製)においてピクセルベースの閾値を使用して蛍光画像を定量した。
【0096】
結果を図13および14に示す。分析5時間前にマウスに対し一回経口投与した前処置により、FTY720がVEGFによって誘導された血管透過性を非常に抑制することが示された(図13および14)。(R)−AALもin vivoでの血管透過性を強く阻害するが、(S)−AALではそうではない。これらのデータにより、in vivoでのスフィンゴシンキナーゼによるFTY720および(R)−AALのリン酸化および内皮細胞上でのS1P受容体の活性化によりVEGF誘導性血管透過性が阻害されることが示唆される。
【0097】
血管内皮S1P受容体のアゴニストは、血管透過性、アポトーシス、および血管形成に対して効果を有することが示された。特に、FTY720およびその類似化合物は、in vivoでリン酸化されて(例えば、FTY720−P)血管内皮S1P受容体に結合できることが示された。血管内皮S1P受容体アゴニストを、血管透過性障害、過剰な血管内皮アポトーシスに関連する障害の治療および新生血管を成長させるために使用することができる。
【0098】
全ての引用した特許、特許出願、および他の引用文献は、その全体が本明細書中で参考として援用される。
【0099】
本発明は好ましい実施形態を参照して記載されているが、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更を行うことができ、その要素を等価物と置換することができると当業者は理解している。さらに、その本質的な範囲を逸脱することなく本発明の教示に特定の状況または材料を適合させるために多数の修正形態を得ることができる。したがって、本発明は本発明の実施のための最良の形態として開示した特定の実施形態に制限されないが、本発明は添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれる全ての実施形態が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】細胞インキュベーションを行うか行わずにFTY720および(R)−AALに晒したHUVECについての細胞移動試験の結果を示すグラフである。
【図2】FTY720および(R)−AALを活性化する内皮細胞の能力がスフィンゴシンキナーゼ(SK)インヒビターであるジメチルスフィンゴシン(DMS)によって阻害されることを証明した細胞移動アッセイの結果を示すグラフである。
【図3】馴化培地(CM)およびHUVEC由来の全細胞抽出物(TCE)を使用したin vitroキナーゼアッセイの薄層クロマトグラフィ(TLC)−オートラジオグラフィの結果である。
【図4】ベクターコントロール293T細胞(293T)、SKI過剰発現293T細胞(SK1−293T)、およびSK2過剰発現293T細胞(SK2−293T)由来の抽出物を使用して行ったin vitroキナーゼアッセイのTLC−オートラジオグラフィの結果である。ベクターでトランスフェクトした293T細胞に対するSK1−293T(白色のバー)およびSK2−293T(黒色のバー)の比活性誘導の倍率を下のパネルに示す。
【図5】表示濃度でS1P(100nM)、FTY720−P(FTY−P)、または(R)−AFD((R)−AALのリン酸化形態)を使用した、HUVEC(白色のバー:コントロール、黒色のバー:百日咳毒素処理)の移動実験の結果を示す図である。
【図6】表示濃度におけるSIP、FTY720−P(FTY−P)、FTY720(FTY)、(R)−AFD、または(R)−AALで5分間刺激を与えた後の、HUVEC中のホスホ−Akt、総Akt、ホスホ−ERK−1/2、および総ERK−1/2のウェスタンブロットの結果を示す図である。
【図7】百日咳毒素処理がS1P、FTY720−P(FTY−P)、および(R)−AFDによるAktおよびERK−1/2のリン酸化を阻害することを示すウェスタンブロットの結果を示す図である。
【図8】HUVEC細胞における{メチル−H}−チミジン組み込み後のDNA断片化率の測定によるアポトーシスに対するFTY720−Pの効果についての結果を示す図である。
【図9】百日咳毒素処理によってアポトーシスに対するSIP、FTY720−P、および(R)−AFDの防御効果を阻害することを示すDNA断片のアッセイの結果を示す図である。
【図10】C:賦形剤コントロール、S1P:100nM S1P、FTY:10nM FTY720、FTY720−P:10nM FTY720−P、AAL:10nM(R)−AAL、AFD:10nM(R)−AFDである免疫蛍光検査法の結果を示す図である。スケールバー=50μm。
【図11】VEGF誘導性傍細胞透過性の経時変化を示すグラフである:VEGF:20ng/mL、FTY720−P:100nM FTY720−P。
【図12】100nM S1P(S1P)、100nM FTY720−P(FTY−P)、および100nM(R)−AFD((R)−AFD)がVEGF誘導性傍細胞透過性を阻害することを示すグラフである。
【図13】マウスの耳微小血管透過性のアッセイ結果である蛍光画像を示す図である。
【図14】耳の血管外蛍光の定量結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストがスフィンゴシン−1−リン酸ではない、血管透過障害の治療薬の製造のための血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニスト、その薬学的に許容可能な形態物、またはそのリン酸化形態物の使用。
【請求項2】
前記血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストが、式:
【化1】

(式中、Rは12〜22個の炭素原子を有する置換または非置換の直鎖または分岐鎖の炭素鎖であり、R、R、R、およびRはそれぞれ独立して水素または低級アルキルである)を有する1,2−アミノアルコール、その薬学的に許容可能な塩、またはそのリン酸化形態物である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
が置換または非置換のフェニレンによって分断されている、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストが、2−アミノ−2−[2−(4−オクタフェニル)エチル]プロパン−1,3ジオール、2−アミノ−2−メチル−4−[4−ヘプトキシ−フェニル]ブタン−l−オール、2−アミノ−3−ホスフェート−2−[2−(4−オクタフェニル)エチル]プロパン−1−オール、2−アミノ−2−メチル−4−[4−ヘプトキシ−フェニル]1−二リン酸、または1つ若しくは複数の前記アゴニストを含む組み合わせである、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストがスフィンゴシンキナーゼ−2によってリン酸化される、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストがAktタンパク質キナーゼ、ERKタンパク質キナーゼ、または1つ若しくは複数の前記キナーゼを含む組み合わせのリン酸化を刺激する、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体が、S1P、S1P、S1P、S1P、S1P、または1つ若しくは複数の前記受容体を含む組み合わせである、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストが接着結合アセンブリを誘導する、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記血管透過障害が、内皮損傷、血小板減少症、アテローム性動脈硬化症、虚血性心血管疾患、虚血性末梢血管疾患、糖尿病に関連する末梢血管障害、デング出血熱、成人(急性)呼吸窮迫症候群、血管漏出症候群、敗血症、自己免疫性脈管炎、または1つ若しくは複数の前記障害を含む組み合わせである、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストがスフィンゴシン−1−リン酸ではない、望ましくない血管内皮細胞アポトーシスが移植片拒絶に関連しない、望ましくない血管内皮細胞アポトーシスの治療薬の製造のための血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニスト、その薬学的に許容可能な形態物、またはそのリン酸化形態物の使用。
【請求項11】
前記血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストが、式:
【化2】

(式中、Rは12〜22個の炭素原子を有する置換または非置換の直鎖または分岐鎖の炭素鎖であり、R、R、R、およびRはそれぞれ独立して水素または低級アルキルである)を有する1,2−アミノアルコール、その薬学的に許容可能な塩、またはそのリン酸化形態物である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
が置換または非置換のフェニレンによって分断されている、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストが、2−アミノ−2−[2−(4−オクタフェニル)エチル]プロパン−1,3ジオール、2−アミノ−2−メチル−4−[4−ヘプトキシ−フェニル]ブタン−l−オール、2−アミノ−3−ホスフェート−2−[2−(4−オクタフェニル)エチル]プロパン−1−オール、2−アミノ−2−メチル−4−[4−ヘプトキシ−フェニル]1−二リン酸、または1つ若しくは複数の前記アゴニストを含む組み合わせである、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストがスフィンゴシンキナーゼ−2によってリン酸化される、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
前記血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストがAktタンパク質キナーゼ、ERKタンパク質キナーゼ、または1つ若しくは複数の前記キナーゼを含む組み合わせのリン酸化を刺激する、請求項12に記載の使用。
【請求項16】
前記血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体が、S1P、S1P、S1P、S1P、S1P、または1つ若しくは複数の前記受容体を含む組み合わせである、請求項10に記載の使用。
【請求項17】
前記望ましくない血管内皮細胞アポトーシスがアポトーシス関連障害に関連する、請求項10に記載の使用。
【請求項18】
前記アポトーシス関連障害が、特発性心筋症、薬物によって誘導される心筋症 、慢性アルコール中毒によって誘導される心筋症、家族性心筋症、ウイルス性心筋炎、ウイルス性心筋症、心筋梗塞、狭心症、末梢性血栓症、鬱血性心不全、不整脈、脳卒中、くも膜下出血、脳硬塞、脳血栓症、または1つ若しくは複数の前記障害を含む組み合わせである、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記望ましくない血管内皮細胞アポトーシスが放射線療法に関連する、請求項10に記載の使用。
【請求項20】
血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストがスフィンゴシン−1−リン酸ではない、哺乳動物における新生血管形成の刺激薬の製造のための血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニスト、その薬学的に許容可能な形態物、またはそのリン酸化形態物の使用。
【請求項21】
前記血管内皮スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストが、式:
【化3】

(式中、Rは12〜22個の炭素原子を有する置換または非置換の直鎖または分岐鎖の炭素鎖であり、R、R、R、およびRはそれぞれ独立して水素または低級アルキルである)を有する1,2−アミノアルコール、その薬学的に許容可能な塩、またはそのリン酸化形態物である、請求項20に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2007−523858(P2007−523858A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517361(P2006−517361)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/019420
【国際公開番号】WO2005/002559
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(500489956)ユニバーシティ オブ コネチカット (3)
【Fターム(参考)】