説明

血糖値低下作用を有する組成物

【課題】自然界に存在する天然由来物質で広く食経験を有する素材から、簡便なプロセスで得られ、医師による管理を必要とせずに効果的で安全に摂取可能な成分からなる血糖値低下作用を有する組成物を提供する。
【解決手段】ケツメイシの種子から水、水と相溶性の有機溶媒、またはこれらの任意の比率の混合物で抽出した成分を有効成分として含む血糖値低下作用を有する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケツメイシ抽出物を有効成分とする血糖値低下作用を有する組成物である。
【背景技術】
【0002】
ヒトが炭水化物を摂取すると、消化酵素によって単糖類にまで加水分解されて小腸から吸収される。この時、吸収されたグルコースにより一時的に血糖値が上昇する過血糖症状が起こる。しかし、通常、この症状は生体における恒常性維持システムによって、血糖値が一定の範囲に調整されて回復する。
【0003】
ところが、過食やストレスなどの様々な要因によって食後の過血糖症状が長時間持続したり、慢性的に血糖値が高値を示すなどの糖代謝異常を起こすと、糖尿病が引き起こされる。この糖尿病は、過血糖症状がインスリンの多量分泌を促進し、これが原因となってインスリンレセプターの感度低下や膵臓ランゲルハンス島β細胞障害を起こし、結果的にインスリン分泌能力が低下し、細胞内へのグルコースの取り込みが抑制され、血液中グルコースレベルが調節不全となり発症する。
【0004】
糖尿病の治療薬としては、血糖値を低下させるための種々の薬剤が開発されている。例えば、膵臓β細胞に作用してインスリン分泌を刺激するスルフォニル尿素剤が広く使用されているが、副作用として低血糖症状や胃腸障害等が報告されている。また、消化管での糖質の消化・吸収を遅延させるα−グリコシダーゼ阻害剤においては、副作用として低血糖症状や腹部膨張感、放屁増加などの腹部症状、肝機能障害等が報告されている。肝臓からのグルコース放出を抑制するビグアナイド薬においては、消化管障害や乳酸アシドーシス等、人体に対する毒性、安全性の面で必ずしも満足するものではない。
【0005】
このような背景のもと、安全で日常的に摂取できる飲食品(健康食品、保健用飲食品)により糖尿病患者の血糖値の上昇を抑制することが提案されている。例えば、オリーブの果実からオリーブ油を生産する過程で得られるベジテーション水を有効成分とする血糖値上昇抑制剤(特許文献1)や、マツタケを有効成分とする糖尿病治療用組成物(特許文献2)がある。
【0006】
さらに、近年は、糖尿病予備軍(空腹時の血糖値が糖尿病の域には達していないが、正常値より高めのグレーゾーンにいる人で、「境界型」、「前糖尿病状態」とも呼ばれる)の増加も問題となっている。糖尿病予備軍は、その後の生活によって、血糖値が正常に戻るか、そのまま予備軍でいるか、糖尿病へ移行してしまうかの分かれ道となっており、糖尿病予備軍、すなわち血糖値が高めと気付いた時点で対策を行うか、もしくは血糖値が高くならない予防を行う必要がある。軽度糖尿病患者の血糖値を低下させる飲食品としては、バナバ茶が知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2005−89374
【特許文献2】特開2005−89417
【特許文献3】2000−169384
【0007】
〔発明が解決しようとする課題〕
従来、糖尿病の予防または治療において、血糖値低下剤を使用するに際しては、急激な血糖値の低下に伴う副作用を避け、薬効と安全性を両立させるために、医師による十分な管理が必要であった。
【0008】
これとは対照的に、本発明においては、自然界に存在する天然由来物質で広く食経験を有する素材から、簡便なプロセスで得られ、医師による管理を必要とせずに効果的で安全に摂取可能な成分からなる血糖値低下作用を有する組成物を提供する。
〔課題を解決するための手段〕
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行い、ケツメイシ抽出物を有効成分とする組成物に、血糖値調節作用があることを発見した。すなわち、本発明は、ケツメイシの種子から水、水と相溶性の有機溶媒、またはこれらの任意の比率の混合物で抽出した成分を有効成分として含む血糖値低下作用を有する組成物である。
【0010】
ケツメイシ
ケツメイシはマメ科に属する和名エビスグサ(Cassia obtusifoliaまたはCassia tora)の種子であり、焙煎したものが昔から煎じて飲用されている。『中薬大辞典』(上海科学技術出版社 小学館編)によれば、ケツメイシには「肝を清める、目を明らかにする、水を利す、便を通す、の効能がある」として紹介されている。日本薬局方では、整腸を目的として、成人1日量10gを煎じ、3分服することが推奨されている。
【0011】
しかしながら、ケツメイシを焙煎し、煎じて飲用しようとしても、特異なにおいやエグ味、苦みなどがあるため敬遠する向きも多く、現在のライフ・スタイルなどを考えてみると継続的に飲用することは容易ではない。また、近年市販されている配合茶にも香り付け、味付け等の目的でハブ茶として焙煎したケツメイシが配合されているものもあるが、ケツメイシの含有量は著しく低い。
【0012】
ケツメイシの抽出物
本発明の有効成分であるケツメイシ抽出物を得る方法については、例えば特開2004−2231号に記載された方法によって得ることができる。
【0013】
抽出はケツメイシの生種子、焙煎した種子のいずれから行ってもよいが、強度の焙煎を行うと血糖値低下作用の有効成分であるルブロフサリン配糖体は加熱により破壊される性質を持つため、生種子を用いるか、焙煎した種子であっても強度な焙煎を行っていない種子を用いるのが好ましい。また、ケツメイシを破砕せずに抽出することも可能であるが、抽出の効率を高めるためには、ケツメイシは破砕してから用いることが好ましい。破砕の方法に特別な制限はない。
【0014】
抽出の溶媒は、水、水と相溶性の有機溶媒、またはこれらの任意の比率の混合物である。有機溶媒の例としては、エタノール、メタノールなどのアルコール類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトンなどのケトン類、メチルエチルエーテルなどのエーテル類などを用いることができる。これらの水または有機溶媒は2種類以上組み合わせて使用してもよいが、飲食物をめざす場合には水あるいはエタノール水溶液を用いるのが妥当である。10〜100%エタノールの使用が好ましい。
【0015】
例えば約30分〜4時間の加温下あるいは1〜3日の室温下抽出を行い、抽出液をろ過し、粗抽出ろ液を得る。その際の加温の温度は、50℃〜95℃であることが好ましい。抽出のため添加する溶媒量は原材料に対して、例えば3〜10倍量が用いられる。
【0016】
吸着樹脂による濃縮
ケツメイシ抽出物の純度をさらに高めることが望ましい場合は、例えば工業的に汎用されているダイヤイオンHP20(三菱化学社製)などの吸着用樹脂や活性炭を利用することができる。水で抽出を行った場合は、抽出ろ液を直接樹脂に、また、エタノール水溶液を溶媒として用いて抽出を行った場合は減圧濃縮操作などによりエタノール濃度を下げた後の抽出液を、樹脂と接触させる。エタノール濃度は好ましくは20%以下にまで低下させる。樹脂からの有効成分の溶出は、10〜100%有機溶媒で行うことができる。例えば、エタノール溶液を用いてエタノール濃度を徐々に高めるステップワイズや濃度勾配などの方法で溶出する。ステップワイズ溶出においては、非限定的例示として、20%エタノール洗浄/80%エタノール溶出、30%エタノール洗浄/60%エタノール溶出などの組み合せが可能である。
【0017】
このようにして得られた抽出液は通常の減圧濃縮、凍結乾燥などの方法により濃縮あるいは乾燥粉体化することができる。また、乾燥粉体化が容易でない濃縮物の場合には、常用のデキストリン、高分子澱粉加水分解物、あるいは高分子ペプチドなどを賦形剤として用いて乾燥粉体化物を製造することができる。ケツメイシ抽出物は、ケツメイシからフラボノイド配糖体を分取したもので、極性の高い増粘性の多糖類や極性の低いわずかに細胞毒の認められるフラボノイド・アグリコンを除去した分画物である。この抽出物には細胞内グルタチオン濃度を増加する活性成分であるルブロフサリン配糖体が約10重量%含有されている(特開2004−2231号)。
【0018】
血糖値低下作用および組成物
本発明によれば、ケツメイシ抽出物を糖尿病の動物モデルに経口投与すると、上昇させた血糖値および血液中のグリコシル化ヘモグロビン(HbAlc)が有意に低下することが判明した(実施例2)。また、ケツメイシ抽出物の有する血糖値低下作用は、実施例3に示されているとおり、正常より高い血糖値を正常に近い値に低下させる一方、血糖値が低めの場合にはこれをむしろ正常値に近づけるものである。このように、ケツメイシ抽出物の血糖値低下作用には、血糖値が低めの場合にむしろ正常値に改善する場合も包含し、本明細書では血糖値調節作用と同義で用いられている。したがって、ケツメイシ抽出物の血糖値低下作用は、効き目が穏やかであるため、合成医薬やホルモン剤のように、使用に際して医師の管理が不要である。そのため、正常人さらには糖尿病の体質を有する人が日常的に摂取して血糖値を調節し、糖尿病の予防または軽減に使用するための、健康飲食品あるいは保健医薬の有効成分として有用である。
【0019】
ケツメイシ抽出物は、pH、水分、酸化、光等に対する安定性が十分高く、幾分の苦みを呈する。そのため、本発明の血糖値低下組成物は、そのままで上記用途に使用できるが、目的に応じて飲食品、調味料、アルコール飲料、機能食品、医薬品等の種々の形態にできる。それらの具体的形態としては、固形状、半流動状、流動状などを挙げることが出来る。固形状食品としては、キャンデー、ドロップ、トローチ、ガム、ビスケット状、シート状、タブレットやカプセルなどの錠剤、顆粒粉末などの形態の一般食品および健康食品があげられる。半流動状食品としては、ペースト状、ゼリー状、ゲル状などの、また、流動状食品としては、ジュース、清涼飲料、茶、ドリンク剤などの形態の一般食品および健康食品があげられる。
【0020】
本発明の組成物のケツメイシ抽出物の含有量は、上記濃縮粉末またはルブロフサリン配糖体として、1回摂取量当たり、1〜300mg、好ましくは10〜100mgである。しかし、ケツメイシは昔から常時、決明子煎液やハブ茶として一日に5〜30g生種子相当を飲用されており、経口摂取での実績もあり安全性が高いと考えられる。本発明のケツメイシ抽出物の含有量設定においてもこれらの知見が反映されるべきである。したがって、本発明の有効成分量としては、血糖値低下作用を奏する量のケツメイシ抽出物を含有していて、経口摂取して味等に違和感のない量であること以外は、ケツメイシ抽出物の配合量に特別の制限はない。
【0021】
興味深いことに、本発明の有効成分の効果は、摂取直後ではなく、継続的に摂取することによって得られる。使用法としては、食事前後、食中、食間いずれでもよいが、とりわけ食間が望ましく、使用頻度としては毎日3回摂取するのが望ましいが、これに限定されるものではなく、随時摂取でも構わない。
【0022】
本発明の血糖値低下作用を有する組成物は、包装、容器または説明書に、有効成分の種類、血糖値調節の効能、および摂取方法を表示してもよい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
<ケツメイシ抽出物の調整例>
ケツメイシ生種子(中国産)を40メッシュに粉砕処理し、10倍容の70%(v/v)エタノールを加え、50℃、2時間、攪拌抽出した。抽出液はフィルター濾過し、得られた濾液を減圧濃縮して5%(v/v)エタノール溶液に調整した後、ダイヤイオンHP20吸着カラム(三菱化学社製)にのせた。30%(v/v)エタノール溶液で非吸着物を充分に洗浄した後、50%(v/v)エタノール溶液で溶出させ、得られた溶離液を減圧濃縮した。この方法により、ケツメイシ100gより乾燥重量3.6gの抽出濃縮物が得られた。
【0024】
実施例2
<糖尿病ラットに対する血糖値、HbA1cの改善>
SD(IGS)系雄性ラット(オリエンタルバイオサービス(株))4週齢を試験環境に馴化後、体重150−185g(6週齢)でストレプトゾトシン55mg/kg(50mMクエン酸buffer、 pH4.5溶液)を尾静脈注射し、糖尿病を発症させた。これらのラットを10匹づつ4群に分け、第1群には純水を投与して対照群とし、第2群、第3群、第4群にはケツメイシ抽出物をそれぞれ0.5、1.0、2.0g/kgを毎日強制経口投与した。正常群には、50mMクエン酸buffer(pH4.5)を尾静脈注射し、純水を強制経口投与した。ケツメイシの投与はストレプトゾトシン投与3日目より開始し、14日間摂取させた。実験期間中、定期的に、朝から4時間絶食後に尾静脈より採取した血液を用いて、血糖値およびヘモグロビンA1c(HbA1c)を測定した。血糖値は酵素法によって、HbA1cは免疫ラテックス凝集免疫比濁法によって、汎用自動分析装置で測定を行った。14日目に得られた血糖値およびHbA1cの測定値を、それぞれ図1Aおよび図1Bに示す。14日間の糖尿病発症対照群と第4群との血糖値およびHbA1cの変動を図2Aおよび図2Bに示す。図2にはストレプトゾシン処理をしない正常群の血糖値も示されている。
【0025】
血糖値およびHbA1cは対照群で正常群より増加したが、ケツメイシ抽出物摂取群では1.0、2.0g/kg投与群においては増加した血糖値およびHbA1cの抑制が示された。
【0026】
実施例3
<健常人に対する血糖値の調節>
健常成人5名を対象に実施した。つまり、実施例1で得たケツメイシ抽出物を1日0.3g、3日間摂取し、さらに続けて1日0.9gを3日間摂取して、その摂取開始時と終了時に血糖値の測定を行った。得られた結果を図3に示す。
【0027】
ケツメイシ摂取開始時に血糖値が高めであった人は、ケツメイシ抽出物の摂取により、血糖値の低下が認められた(129→91mg/dl)。また、ケツメイシ摂取開始時に血糖値が基準値の範囲内であった人は、ケツメイシ抽出物を摂取しても血糖値の低下は認められなかった。
〔発明の効果〕
【0028】
ケツメイシ抽出物を有効成分とする本発明の組成物は、穏やかな血糖値低下作用を有し、また、健常人においては血糖値調節作用を有するため、健康食品または保健薬品の有効成分として、日常的に経口摂取して糖尿病の発症を防止し、健康を維持管理するために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1はケツメイシ抽出物14日間摂取による糖尿病ラットの血糖値およびHbA1c上昇の抑制効果を示すグラフであり、図1Aは血糖値に対する効果を、および図1BはHbA1cに対する効果を示している。
【図2】図2はケツメイシ抽出物を2.0g/kgを毎日強制経口投与したラットと糖尿病発症対照群のラットにおける14日間の血糖値およびHbA1cの変動を示すグラフであり、図2Aは血糖値の変動を、および図2BはHbA1cの変動を示している。
【図3】図3はケツメイシ抽出物摂取による健常人の血糖値調節作用を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケツメイシの種子から水、水と相溶性の有機溶媒、またはこれらの任意の比率の混合物で抽出した成分を有効成分として含む血糖値低下作用を有する組成物。
【請求項2】
ケツメイシの種子を必要なら破砕して、水、エタノールあるいはこれらの任意の比率の混合液で抽出した粗抽出物を、吸着用樹脂に吸着させ、10〜100%有機溶媒で溶出して得たケツメイシ抽出成分を有効成分とする、請求項1記載の血糖値低下作用を有する組成物。
【請求項3】
有効成分の主体がルブロフサリン配糖体である、請求項1または2記載の血糖値低下作用を有する組成物。
【請求項4】
経口剤である、請求項3記載の血糖値低下作用を有する組成物。
【請求項5】
日常的に摂取するための、請求項4記載の血糖値低下作用を有する組成物。
【請求項6】
飲食品である請求項4または5記載の血糖値低下作用を有する組成物。
【請求項7】
保健用飲食品である請求項6記載の血糖値低下作用を有する組成物。
【請求項8】
固形状食品、キャンデー、ドロップ、トローチ、ガム、ビスケット状、シート状、タブレットやカプセルなどの錠剤、または顆粒粉末などの固形状剤;ペースト状、ゼリー状、またはゲル状などの半流動状の剤;または、ジュース、清涼飲料、茶、またはドリンク剤などの流動状の剤である請求項7記載の血糖値低下作用を有する組成物。
【請求項9】
包装、容器または説明書に、用途、効能、有効成分の種類および摂取方法を表示した請求項8記載の血糖値低下作用を有する組成物。
【請求項10】
医薬品である請求項4または5記載の血糖値低下作用を有する組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−8883(P2007−8883A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−192998(P2005−192998)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】