血行動態機能の測定
人間または動物の被験体の血行動態機能を決定する方法は、被験体から経時的に計測される血行動態変数を表すデータをプロセッサで受け取ることを含む。血行動態変数は、全身灌流圧(SPP)、全身血管抵抗(SVR)、および心拍出量(CO)、心拍数(HR)、ならびに一回拍出量(SV)のうちの少なくとも2つを含む。データは、関係SPP=CO×SVRに従って血行動態変数を関係付ける視覚的マッピングを表示装置に提示させる表示信号を生成するように処理され、視覚的マッピングは、表示装置に表示される。視覚的マッピングは、補正した心拍数(HR)であってもよく、またはHRを利用するための調整を助ける第2のマッピングを含んでもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間または動物の被験体の血行動態機能(haemodynamic performance)を測定する方法、システムおよびソフトウェア・プロダクト(software product)に関する。本発明は、限定するものではないが、特に、治療法をモニタリングおよび改善するのに用いるために、被験体から好ましくはリアルタイムで得られる血行動態変数の視覚的マッピングを生成するコンピュータにより実施される方法、システム、およびソフトウェア・プロダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
正常な健康状態のとき、人間または動物の体組織は、生理的バランスを絶えず維持する。病気、薬剤、外科的介入、外傷、心肺バイパス法などによる外的影響があるときでも、体組織は、生理的バランスを維持するために自己調節する。このバランスを実現するために、全身の受容器が、圧力および流れなどの血行動態変数をモニタおよび調整するために働く。
【0003】
血行動態機能が最適でない状態のとき、自己調節が損なわれてしまった場合、被験体は、低血圧を発症するショック状態にしばしば入る。臨床の場では、被験体は、モニタされ、脳、心臓および腎臓などの全ての生命維持に必要な臓器に到達するのに十分な体内の流れがあり、これらの臓器の代謝要求を満たすために十分な酸素の送達を維持するようになっていることを確実にするように治療が施される。適切な治療を施すことができないと、患者の状態を悪化させることになり、ついには心不全をもたらす。
【0004】
伝統的に、モニタリングは、血圧測定値と共に、酸素飽和度、心拍数、ECG、および重症の場合には心拍出量の測定の測定値を得ることを含む。これらの各パラメータは、臨床家による身体的兆候の評価と共に、例えば救命救急診療、麻酔および手術中に被験体の循環機能の示度を与える。循環機能の変化は、より最適な値まで機能を回復するために治療を調整しなければならないことを暗示する。循環系の臓器の複雑さおよび相互作用を考えれば、被験体の血行動態機能が、主観的および個体的に見た様々な別々の変数を用いてモニタされているとき、医師が、適切な処置を決定することは困難である。成果の改善に対する大きな障害は、患者の管理における適切な血行動態の目標についての合意を欠いていることに起因する。全ての患者が同じ血行動態の目標を必要とするとの大筋の一致はあるが、(血圧、心拍出量、酸素化の)目標が、非常に重要であることについては意見が分かれている。
【0005】
図1に示すように、生理学の教科書は、ショックの生理学を説明するために2本の曲線を再現する。正常な循環中、一定の流れが、広範な血圧にわたって維持される。これは、『自動調節範囲(autoregulatory range)』として知られている。自己調節についての生理学的機構は、十分には理解されていないが、筋肉の本質的な特性(『筋原』説)、および/または圧力が増加するにつれて蓄積する生理学的な分子の結果(『代謝』説)、および/または流れを低いレベルで維持するために血管の障壁を横切り、外側から増加した圧力を及ぼす流体の効果(『組織圧』説(“tissue pressure”hypothesis)であると考えられている。
【0006】
曲線Iは、平均動脈圧60〜130mmHgを有する『正常な患者』(正常血圧の患者)の自己調節曲線を表す。曲線IIは、高血圧の患者の自己調節曲線を表す。ここでは、一定の流れが、より高い圧力で維持され、したがって、『自己調節』が生じる血圧範囲が、右へシフトされる。高血圧の患者の場合、圧力の範囲60〜130mmHgの自己調整の流れに代わりに、高血圧の患者ではこの範囲が、80〜150mmHgであり得る。
【0007】
自動調節範囲の下端より下で(領域A)、血圧および心拍出量は落ち込む。これは、低拍出量性低血圧(low output hypotension)を特徴付けると認められている。しかし、これらの曲線は、(敗血症に生じるような)高拍出量性低血圧(high output hypotension)である被験体を説明しない。代わりに、医師は、Guytonモデルに由来するグラフ表現に頼ってきた。1970年代に考案されたGuytonモデルは、処置を工夫するために、少数の実験動物の研究、および血圧および心拍出量のコントロールの仕方を説明するための現在では劣る測定技法に頼った。
【0008】
Guytonによれば、循環では、静脈還流(前負荷)および心室機能(心拍出量)の一定の整合がある。これは、図2中に表される。Guytonの閉じた系では、心臓への静脈還流(中心静脈圧(CVP)/右房圧(RAP))は、心臓から駆出される容量に整合しなければならない。任意の中心静脈圧値が、静脈還流と心室機能の間の複数の『均衡点』を表すことができる。静脈還流が増加する場合、静脈還流曲線は右にシフトし、中心静脈圧は増加し、患者は心室機能曲線(VFC)を「上に」移動する。患者が出血している場合、静脈還流は減少し、曲線は左へシフトし、新しい均衡点が心室機能曲線上のより低い点に生じる。
【0009】
臨床の場では、医師は、最適でない血行動態機能の特徴を示す被験体の適切な治療を決定するために、Guytonパラダイムに適用できる個々の生命徴候モニタリング・システムに頼る。Guytonモデルは、定常状態の状況において直観的に臨床観察に整合するが、Guytonモデルは、ショック状態を十分に説明せず、例えば、健康的な人と肥満の人、および若年成人と高齢者の生理学的な差異を明らかにすることができない。さらに、Guytonモデルの使用は、臨床の場では適用されてきた立証されていない理論を、おそらく、処置される患者の不利益に促してきた。これらの欠陥は、以前から知られていた。研究者のグループの1つは、Rivers(NEJM、2001年)によって考案された代替の蘇生アルゴリズム(resuscitation algorithm)の使用を検査中であり、この蘇生アルゴリズムは、「目標に向かった治療」の最新の現れであり、その目標は、このことは生理学的な目的であり、血管拡張および心拍出量増加はそれに向けられたものであるとする今までのところ立証されていない仮定の下に酸素の送達を増加させることである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Rivers(NEJM、2001年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
最適でない血行動態機能を受けているまたは受ける可能性がある被験体をモニタする改善された手法を提供することが望まれている。最適な血行動態機能を回復するための治療を決定するやり方を改善することも望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様を見ると、本発明は、人間または動物の被験体の血行動態機能を決定するコンピュータで実施される方法であって、全身灌流圧(SPP)、全身血管抵抗(SVR)、および心拍出量(CO)を含む群から選択される少なくとも2つの血行動態変数を直接的または間接的に得ることができる前記被験体から経時的に計測される第1の受信データをプロセッサで受け取ることと、関係SPP=CO×SVRに従って前記少なくとも2つの血行動態変数を関係付ける視覚的マッピングを表示装置に提示させるようになされる表示信号を生成するように前記第1の受信データを処理することと、前記視覚的マッピングを表示装置に表示させることとを含む方法を提供する。記憶装置デバイスに具体化されるコンピュータ・プログラム・プロダクトは、コンピュータ・プロセッサにこの方法を実行させる命令を含んでもよい。
【0013】
視覚的マッピングは、第1の次元(例えば、垂直軸上)のCO、および第2の次元(例えば、水平軸上)のSVR、または第1の次元(例えば、垂直軸上)のSVR、および第2の次元(例えば、水平軸上)のSPP、または第1の次元(例えば、垂直軸上)のCO、および(例えば水平軸上の)第2の次元のSPPをプロットするグラフを生成することを含んでもよいが、他の方式も考えられる。好ましくは、視覚的マッピングは、第3の血行動態変数の値を決定するためのスケールを表す1つまたは複数の目印を含む。
【0014】
好ましい実施形態では、プロセッサは、対応する期間にわたって直接的または間接的に被験体から計測される心拍数(HR)および一回拍出量(SV)を含むさらなる血行動態変数を表すデータも受け取り、第1の受信データは、HRを調整するように処理される。これは、SVRはそれ自体、現実の生理学的な実体ではないので、実際の全身血管抵抗(aSVR)を決定することによって実現される。そうではなく、aSVR=SVR×HRであり、CO=HR×SVであるので、aSVRは、関係SPP=SV×aSVRに従ってSPPに関連付けられる。したがって、好ましい実施形態では、視覚的マッピングは、第1の次元(例えば垂直軸上)のSVおよび第2の次元(例えば水平軸上)のaSVRをプロットする。COは、第3の次元で示すことができる。
【0015】
一実施形態では、プロセッサは、データを処理して、表示装置に、第2の視覚的マッピングを同時に提示させる第2の表示信号を生成する。第2の表示信号によって生成される視覚的マッピングは、関係CO=HR×SVに従ってデータをプロットする。このマッピングは、高齢者の循環を知る上で手掛かりとなり得る。
【0016】
一実施形態では、プロセッサは、好ましくは(例えば、所与の年齢および性別の)同様の生理学的プロフィールを有する人々の集団の特定のデータに基づいてマッピング上の自己調節ゾーンを見積もると共に表示器に提示するようにプログラムされている。自己調節ゾーンは、例えば手術中に被験体をリアルタイムにモニタする臨床家による使用のために参照点として表示装置上に表示することができ、そこでは治療が、リアルタイムのマッピングを年齢および性別別の自己調節ゾーンに向けて回復するように指示される。したがって、自己調節ゾーンは、被験体に特有の自動調整『ゾーン』を決定するようにプロセッサによって使用することができ、それに向けて治療を指示することができる。好ましくは、データは、リアルタイムに被験体から得られ、処理されるが、データ収集およびそれに続くマッピングは、多くの場合および特に研究で役立つことが分かり得る。
【0017】
しかし、蘇生時に被験体の治療が向けられ得る自己調節ゾーンは、その被験体に特有のものであることを必要としないことを理解されたい。例えば、外来または緊急の状況では、安静時に健康な状態であるときの被験体の血行動態機能を表す利用可能なデータがなく、その結果、被験体の特有の自己調節ゾーンを知ることができない場合もある。したがって、蘇生時に参照される自己調節ゾーンは、同様の人口統計の特徴付けを有する様々な代表的な被験体から収集されたマップされたデータから得ることができる。実際は、この手法は、臨床転帰のかなりの改善を実現することができる。人口統計上の特徴付けは、例えば年齢、性別、肥満度指数、体表面積などのうちの1つまたは複数のマッチング(matching)が含まれ得る。
【0018】
一実施形態では、プロセッサは、ショックなどの生理学的症候群に関連し得る1つまたは複数のパターンを、データにおいて識別するようにプログラムされている。プロセッサは、被験体の血行動態データ中の1つまたは複数の識別されたパターンに基づいて症候群をタイプ1、タイプ2、タイプ3、またはそれらの組み合わせのうちの1つに分類するようにプログラムされている。
【0019】
プロセッサは、被験体から計測される1つまたは複数の血行動態変数の不足を定量化するようにプログラムすることもできる。プロセッサは、例えば、被験体のマップされたデータと、被験体に特有の事前に決定された自己調節ゾーンとの間の差を決定すること、または被験体のデータと、固体集団から平均された事前に決定された自己調節ゾーンとの間の差を決定すること、またはデータ値から被験体に特有の自己調節ゾーンを表す交点を推定することによって、上記のことを行うようにプログラムされてもよい。
【0020】
好ましくは、プロセッサは、被験体の最適でない血行動態機能を自動的に識別するようにプログラムされている。プロセッサは、被験体の最適な血行動態機能を回復するための治療行為を推奨するようにプログラムすることもできる。
【0021】
別の態様を見ると、本発明は、人間または動物の被験体の血行動態機能を評価するシステムを提供し、このシステムは、全身灌流圧(SPP)、全身血管抵抗(SVR)、および心拍出量(CO)を含む群から選択される被験体の血行動態変数を直接的または間接的に経時的に連続してモニタし、1つまたは複数の対応する第1のデータ信号を生成する1つまたは複数の変換器と、1つまたは複数の第1のデータ信号を受け取り、関係SPP=CO×SVRに従って少なくとも2つの血行動態変数が、好ましくはx−yマッピングにマップされる第1のデータの視覚的表現のための表示信号を生成するプロセッサと、表示信号を受け取り、視覚的表現を生成する表示装置とを備え、血行動態機能は、視覚的表現の検査で決定可能である。好ましくは、視覚的表現は、第3の血行動態変数の値を決定するためのスケールを表す1つまたは複数の目印を含む。
【0022】
一実施形態では、プロセッサは、対応する期間にわたって直接的または間接的に被験体から計測される心拍数(HR)および一回拍出量(SV)を表すデータ信号をさらに受け取り、実際の全身血管抵抗(aSVR)を決定することによってHRについて第1のデータを調整するものであり、ただしaSVR=SVR×HRである。CO=HR×SVなので、SPP関係は、SPP=SV×aSVRと再表現することができる。プロセッサは、表示器に関係CO=HR×SVに従って変数の第2の視覚的マッピングを提示させる第2の表示信号を生成することができる。視覚的マッピングは、同時に表示されてもよい。
【0023】
一実施形態では、このシステムは、データの視覚的表現のモードを選択するモード選択器を備え、このモードは、第1の次元(例えば垂直軸上)のCO、および第2の次元(例えば水平軸上)のSVR(等圧線ノモグラム);第1の次元(例えば垂直軸上)のSVR、および第2の次元(例えば水平軸上)のSPP(等流ノモグラム);ならびに第1の次元(例えば垂直軸上)のCO、および第2の次元(例えば水平軸上)のSPP(等抵抗ノモグラム)から選択される。モード選択器によって選択可能なモードは、第2の視覚的マッピングの同時表示を含むこともできる。
【0024】
このシステムは、受信データまたは受信データの一部に基づいて被験体に特有の自己調節ゾーンを見積もる分析モジュールを備えてもよい。生理学的症候群に関連したデータの1つまたは複数のパターンを識別する診断モジュールが設けられてもよい。一実施形態では、生理学的症候群はショックであり、診断モジュールは、識別された1つまたは複数のパターンを使用してショック症候群をタイプ1、タイプ2、タイプ3、またはそれらの組み合わせのうちの1つに分類する。
【0025】
被験体からモニタされた血行動態変数のうちの1つまたは複数の不足を定量化する分析モジュールが設けられてもよい。システムよって使用されるこの技法は、前述のコンピュータで実施される方法の概要におけるものに対応する。このシステムは、最適でない血行動態機能が検出されると、警報を自動的に作動させるように構成される警報モジュールをさらに備えることができる。
【0026】
別の態様を見ると、本発明は、人間または動物の被験体あるいは一群の人間または動物の被験体の血行動態機能を決定する方法であって、被験体または一群の被験体の群から経時的に得られる血行動態変数を表すデータの視覚的表現を生成することであって、前記データが、(i)全身灌流圧(SPP)、(ii)全身血管抵抗(SVR)、および(iii)心拍出量(CO)を含む群から選択される2つの変数を表す、生成することと、視覚的表現から被験体の血行動態機能を見積もることとを含む方法を提供する。被験体の血行動態機能を見積もることは、被験体のデータのパターンまたは傾向(パターンの変化)を識別することと、および/または例えば、視覚的表現から第3の変数の対応する値を評価することとを伴ってもよい。
【0027】
好ましくは、視覚的表現は、血行動態機能の連続したマッピングをリアルタイムに与える。助けるために、視覚的表現は、第3の変数を定量化するための1つまたは複数の目印を含んでもよく、1つまたは複数の目印は、関係SPP=CO×SVRに従って決定される。
【0028】
一実施形態では、視覚的表現中に表されるn個の血行動態データは、実際の全身血管抵抗(aSVR)を決定することによって心拍数(HR)を補正するものであり、ただしaSVR=SVR×HRであり、CO=HR×SVであり、SPPの関係は、SPP=SV×aSVRと再表現される。このようにして、視覚的表現は、第1の次元の一回拍出量(SV)および第2の次元のaSVRを表すデータを含むことができる。
【0029】
好ましくは、リアルタイムに、血行動態データを得て使用して視覚的表現を生成する。この方法は、被験体に特有の自己調節ゾーンを見積もることを伴うこともできる。
【0030】
データ中で識別されたパターンは、ショックなどの生理学的症候群に関連し得る。一実施形態では、1つまたは複数の識別されたパターンは、ショックをタイプ1、タイプ2、タイプ3、またはそれらの組み合わせのうちの1つに分類するために使用される。
【0031】
この方法は、前述のコンピュータで実施される方法に関連して提案された技法を用いて、被験体の血行動態変数のうちの1つまたは複数の不足を定量化するステップを伴うこともできる。
【0032】
一実施形態では、この方法は、被験体の最適でない血行動態機能を自動的に識別すること、および/または被験体の自己調節ゾーンに向けて血行動態機能を回復するように被験体のために治療法を滴定するもしくは合わせることをさらに含む。好ましくは、被験体の血行動態機能が最適でないときに、警報を自動的に作動させる。
【0033】
この方法は、血行動態機能に対する薬理学的治療の効果、および行為の速度を評価するために使用されてもよい。この方法は、最適な状態に向けて最適でない血行動態機能を回復するための処置計画または示唆される治療を自動的に案出するために使用することもできる。
【0034】
文献、行為、材料、装置、記事などの参照を含む本明細書に含まれる本発明の背景の議論は、本発明の内容を説明するためのものである。これは、特許請求の範囲のいずれかの優先日にある限りにおいて、言及される材料のいずれかが、発行された、知られた、またはありふれた一般的な知識の一部であることの承認または示唆としてとられるべきではない。
【0035】
次に本発明の実施形態を、添付図面を参照して説明する。図面は、本発明の特色を説明するために与えられるものに過ぎないことを理解されたい。図面は、説明の先の部分の一般論に取って代わるものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲または今後本明細書に基づいて優先権を主張する出願において定めることができるので、本発明の範囲を制限しない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(I)正常血圧の被験体および(II)高血圧の被験体の自己調節機能をそれぞれ示す一般的な自己調節曲線を表すグラフである。
【図2】Guytonによる自己調節曲線を表すグラフである。
【図3a】本発明の実施形態による3つの異なる方式で血行動態マッピングを用いる血行動態機能の視覚的表現の例を示す図である。
【図3b】本発明の実施形態による3つの異なる方式で血行動態マッピングを用いる血行動態機能の視覚的表現の例を示す図である。
【図3c】本発明の実施形態による3つの異なる方式で血行動態マッピングを用いる血行動態機能の視覚的表現の例を示す図である。
【図4】(i)濃く塗られた範囲内の「ドロップ・オフ・ゾーン(drop off zone)」、および(ii)命に支障のない全ての実際の生理学的なデータが生じる領域を示す等圧線ノモグラムである。
【図5】本発明の一実施形態によるシステムの構成要素を示す機能構成図である。
【図6a】圧力−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の一方式に対応する図であって、図6aはタイプ1のショックのパターンを示す図である。
【図6b】圧力−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の一方式に対応する図であって、図6bはタイプ2のショックのパターンを示す図である。
【図6c】圧力−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の一方式に対応する図であって、図6cはタイプ3のショックのパターンを示す図である。
【図6d】圧力−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の一方式に対応する図であって、図6dは図6a〜図6cの集合を示す図である。
【図7a】圧力−抵抗グラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の代替の方式に対応する図であって、図7aはタイプ1のショックのパターンを示す図である。
【図7b】圧力−抵抗グラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の代替の方式に対応する図であって、図7bはタイプ2のショックのパターンを示す図である。
【図7c】圧力−抵抗グラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の代替の方式に対応する図であって、図7cはタイプ3のショックのパターンを示す図である。
【図7d】圧力−抵抗グラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の代替の方式に対応する図であって、図7dは図7a〜図7cの集合である図である。
【図8a】抵抗−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現のさらに別の方式に対応する図であって、図8aはタイプ1のショックのパターンを示す図である。
【図8b】抵抗−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現のさらに別の方式に対応する図であって、図8bはタイプ2のショックのパターンを示す図である。
【図8c】抵抗−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現のさらに別の方式に対応する図であって、図8cはタイプ3のショックのパターンを示す図である。
【図8d】抵抗−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現のさらに別の方式に対応する図であって、図8dは図8a〜図8cの集合を示す図である。
【図9a】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例1に述べた患者データを示す図である。
【図9b】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例1に述べた患者データを示す図である。
【図10a】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例2に述べた患者データを示す図である。
【図10b】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例2に述べた患者データを示す図である。
【図11a】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例3に述べた患者データを示す図である。
【図11b】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例3に述べた患者データを示す図である。
【図12a】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例4に述べた患者データを示す図である。
【図12b】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例4に述べた患者データを示す図である。
【図12c】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例4に述べた患者データを示す図である。
【図12d】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例4に述べた患者データを示す図である。
【図13a】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例5に述べた患者データを示す図である。
【図13b】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例5に述べた患者データを示す図である。
【図13c】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例5に述べた患者データを示す図である。
【図13d】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例5に述べた患者データを示す図である。
【図14a】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例6に述べた患者データを示す図である。
【図14b】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例6に述べた患者データを示す図である。
【図14c】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例6に述べた患者データを示す図である。
【図15a】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例7に述べた患者データを示す図である。
【図15b】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例7に述べた患者データを示す図である。
【図15c】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例7に述べた患者データを示す図である。
【図16】主要な待機手術のために麻酔を導入する前の高齢の男性患者および女性患者のSVRデータを表す図である。
【図17】年齢に対してグラフ化した、図16中に表される同じ被験体のSPPデータを表す図である。
【図18】図16および図17からの男性および女性のデータを表す等圧線ノモグラムである。
【図19】麻酔を導入する前の47歳の正常な高齢女性患者の等圧線ノモグラムである。
【図20】図19にもプロットした47歳の正常な高齢女性患者の導入前COと年齢の間の関係を示すグラフである。
【図21】図19にもプロットした47歳の正常な高齢女性患者の導入前COと年齢の間の関係を示すグラフである。
【図22】高齢女性のSVRの年齢分布を示す図である。
【図23】高齢女性のSVRの年齢分布を示す図である。
【図24】高齢の男性のSVRの年齢分布を示す図である。
【図25】症例研究1の被験体についての、HRに関するSVRおよびaSVRの時間変動性を示す図である。
【図26a】症例研究2の被験体についてのSVRに対するCOのマップ図である。
【図26b】症例研究2の被験体についてのHRに対するSVのマップ図である。
【図26c】症例研究2の被験体についてのaSVRに対するSVのマップ図である。
【図27a】等圧線ノモグラムである。
【図27b】症例研究3の被験体についてのHRを補正すると共にSVおよびaSVRをマップしている等圧線ノモグラムである。
【図28a】等圧線ノモグラムである。
【図28b】SVおよびHRのマップ図である。
【図28c】症例研究4の被験体についてのHRを補正すると共にSVおよびaSVRをマップしている等圧線ノモグラムである。
【図29】症例研究5の被験体の等圧線ノモグラムである。
【図30】症例研究6の被験体の等圧線ノモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
Guytonによる自己調節曲線は、単一の臓器を横切る流れのダイナミクスに関する一般的な表現として今まで認められてきた。しかし、このモデルおよびモデルの使用者は、多数の臓器および臓器の微小血管床を含む体循環とのその関連性およびその体循環への適用性に対して曖昧であった。循環系全体は、単一の臓器よりずっと複雑な系であり、等価回路モデルとの関連において『並列』の複数の抵抗器とみなすことができる。この複雑さを考慮して、単一の臓器に当てはまるような一般的な自己調節曲線は、全体として体循環との関連性を有すると仮定することは実際にはためらいがあった。
【0038】
循環に関する現時点での理解に基づいて、中心静脈圧(CVP)は、脈管内の中身(intravascular filling)の代わりとして取り扱われ、すなわちCVPが高くなると、循環が「より充満」することになる。Guytonのモデルは、心臓および循環を説明する動的関係が、静脈還流と心機能曲線の間の変化する関係に反映されていると仮定する。単独で「高拍出量性低血圧」を表すGuytonのグラフ(図2)は、容量が増すにつれて、患者の血行動態機能が右へ移動し、対応する心室機能曲線(VFC)を「上に」移動させることを示唆する。しかし、VFC曲線から動脈圧へ推測することは可能でない。CVPが上昇する場合、灌流圧勾配は落ち込み、それによって組織の血流は落ち込む。患者が「ボリューム減少(volume depleted)」し、およびボリュームが増加している場合、動脈圧の増加が、静脈圧の増加より大きい場合に限り状況は改善され、すなわちMAP−CVP勾配が増加する場合、それによって灌流圧が改善される。
【0039】
全身灌流圧(SPP)は、体循環内の駆動圧勾配である。SPPは、大気圧を基準にしたときの中心静脈圧(CVP)と平均動脈圧(MAP)の間の(典型的にはmmHgの単位で測定される)差であり、SPP=MAP−CVPと計算される。現在、MAPおよびCVPの正常成人値は、それぞれ65mmHgおよび10〜12mmHgであると考えられるが、これらの値が生じさせる圧力勾配(すなわち53〜55mmHg)は、まず考えられていなかった。
【0040】
全身血管抵抗(SVR)は、血管系によって示される血流に対する抵抗である。SVRは、血管系(SPP)を横切る圧力勾配の測定値を血管を通る流速(Q、または拍出量CO)で割ることによって間接的に計算される。したがって、SVRは、mmHg/L/分またはダイン秒/cm5(SI単位)で表され得る。正常成人値は、900〜1600ダイン秒/cm5である。
【0041】
全身血管抵抗指数(SVR指数)は、身体サイズに対して補償されたSVRである。正常成人値は、1760〜2600ダイン秒/cm5/m2である。
【0042】
一回拍出量(SV)は、心収縮ごとに左心室から駆出される血液量である。
【0043】
心拍数(HR)は、1分当たりに生じる左心室収縮の回数である。
【0044】
心拍出量(CO)は、L/分単位で計測され、循環の中に左心室がポンプする1分当たりの血液量である。COは、HRとSVの積として計算される。正常成人値は、4.0〜8.0L/分である。
【0045】
体循環内で流れを駆動する圧力勾配、SPPは、血行動態機能を維持するのに不可欠である。患者が心肺バイパス法を受けるとき、圧力勾配は、30mmHgまで落ち込むが、それ未満ではないことが観察されている。同様に、循環停止直前に、SPPは30mmHgまで落ち込むことが観察された。したがって、SPP値(すなわち循環を駆動する正味の圧力勾配)が30mmHgを超える限り、心拍出量は、比較的正常であり得る。
【0046】
しかし、SPP勾配が、30mmHgまで降下すると、死が結果として起こる。この命に支障のない最小圧力勾配は、循環の『閉鎖圧(closing pressure)』と呼ばれる。これは、ミクロ血管系、特に毛細血管床に起因し得る流れに対する固有抵抗を表す。この意味は重要である。
【0047】
Guytonのモデルでは「閉鎖圧」の重要性が見過ごされ、SPPの重要性は認識されていなかったので、過去の焦点は、もっぱら血液酸素の含有量にあり、治療は、酸素供給と組織の酸素需要の間の不整合を正すことに向けられていた。したがって、既存の理論を用いると、高拍出量性低血圧および組織酸血症の患者は、血液酸素の運搬が不十分であることを示すと考えられている。対照的に、本発明による血行動態機能を観察することによって、根本的な問題は、十分な組織灌流圧勾配(すなわち不十分なSPP)であることが仮定され得る。圧力勾配が降下するときに組織の機能障害および不全が生じるとさらに仮定される。
【0048】
循環に関する伝統的な理解およびモデルの不十分さをさらに複雑化および強調するために、循環は、2つのポンプ、すなわち左心室および右心室の観点でこれまで理解されてきた。これらのポンプは、血管系のチューブを通じて血液を駆動して酸素を臓器に送達する。この既存のモデルに基づいて、CVPは、健康または病気の同じ情報を表さなければばらない。本発明は、作動中2つのポンプは心拍出および血管ポンプであると仮定される異なるパラダイムを生じさせる。
【0049】
心拍出と血管ポンプは共に、実質的に神経制御下である。心臓が、収縮中に大動脈の中に血液を駆出するとき、心臓は、拡張中に冠状動脈の血流を可能にするが、心臓は、血管ポンプ中の血圧の形態で「ポテンシャル・エネルギー」も蓄え、これを使用して心臓周期全体にわたって連続した血液の流れを送達する。
【0050】
血管ポンプは、神経系の神経支配によって調節される動的な臓器であり、循環毒素および薬理作用のある物質に対して感受性がある。本発明の実施形態は、心拍出の障害から主に生じるショック状態と、主に血管ポンプの障害の結果であるショック状態とを区別するために使用することができる。基本的なパターンを識別できる場合、補正のより明確な診断および戦略を案出することができる。
【0051】
オームの法則は、電気回路の電圧、電流および抵抗の関係を示し、以下の通り表すことができ、すなわち、
V=IR (式1)
であり、ただし、Vは電圧、Iは電流、およびRは抵抗である。電圧は全身灌流圧(SPP)に対応し、電流は心拍出量(CO)(すなわち流れ)に対応し、抵抗は全身血管抵抗(SVR)に対応する等価な変数を体循環から代用することによって以下の式が得られる。
SPP=CO×SVR (式2)
【0052】
オームの法則に基づいて、本発明は、被験体の血行動態機能の即時の示度を与える被験体から計測される血行動態変数の視覚的マッピングを生成する方法を提供する。したがって、人間または動物の被験体の血行動態機能を測定する方法は、全身灌流圧(SPP)、全身血管抵抗(SVR)、心拍出量(CO)、心拍数(HR)および一回拍出量(SV)のうちの少なくとも2つを含む、被験体から経時的に計測される血行動態変数を表すデータを受け取ることと、関係SPP=CO×SVRに従って血行動態変数を関係付ける視覚的マッピングの表示を生成するためのデータを処理することとを含む。好ましくは、この方法は、コンピュータで実施される。
【0053】
本発明者は、オームの法則は、循環の挙動を説明する単なる一般方程式ではなく、圧力、流れおよび抵抗のデータの連続収集によって、個々の患者に固有である特有のプロフィールを構築することができるという発見をし、このプロフィールを生成する方法およびシステムを考案した。実際のところは、個体ごとに循環は、異なる振る舞いをすることは、本発明の適用によって生じる重要な発見である。医学文献は、血管作用薬の作用のほぼ正しいプロフィールがあることを仮定するが、本発明の適用は、様々な薬理作用のある物質の活性プロフィールは個体差があり、異なる患者集団については変動が大きいことを明らかにする。本発明者は、血管作用薬の特徴の定義の多くは真実でなく、SVRの計算に基づくHRの影響を補正することができなかったことの結果であることも見出した。
【0054】
図1中の自己調節曲線Iを再び参照すると、安静時の健康な患者については、下側の変曲点Sは、心拍出量(CO)(すなわち流れ)が正常な圧力範囲にわたって一定のままである血行動態機能についての自動調整の「設定ポイント」に対応する。これは、曲線の水平部分に対応する。下側の変曲点Sより下で、COは、圧力と共に落ち込む。この範囲は、文字Aによって示され、ドロップ・オフ・ゾーンを表し、このドロップ・オフ・ゾーンより下で臓器機能不全が生じる。曲線の水平部分より上で、COは、圧力と共に増大する。この領域は、文字Bによって示される。
【0055】
式1を体循環に適用することによって、SVRが直線的に増加しているので、CO(すなわち流れ)は、曲線の水平領域において一定のままであると推定することができる。したがって、COの代わりにk(定数)を用いると、循環に適用されるときオームの法則は、
SPP=k(SVR) 式3)
になる。
【0056】
視覚的マッピング(例えば図3a)のy軸上のCOに対しx軸上のSVRをプロットすることによって、自己調節範囲は、ほぼ水平の線によって表される曲線の領域に現れるはずである。式SPP=CO×SVRは一般的な形態a=xy(ただしx=COおよびy=SVRである)を有するので、aが所与の特定の値(例えば30mmHg、45mmHg、60mmHg、80mmHg)である場合、変数は、図3aに示すように関係付けることができる。この等圧線ノモグラムは、圧力、流れ、および血管抵抗の間の相互作用の時間依存のマッピングを与え、個体の血行動態パターンに関する大量の情報を開示する。
【0057】
図示するように好ましい実施形態では、一連の目印または『等圧線』は、SPPの対応する値(すなわち30mmHg、45mmHg、60mmHg、80mmHg、120mmHg)についてのスケールを表し、この値は、原点から離れるにつれて増加する。例えば、介入および/または時間ウィンドウを反映するために、この『方式』のマッピングで血行動態データのストリームを重ね合わせ、データ点を色で塗り分けることによって、かなりの量の情報をマッピングの目視検査によって集めることができる。
【0058】
垂直軸上にCOの値および水平軸上にSPPの値をプロットすることによって生理学的範囲全体にわたって血流と圧力の間の関係を表す別の方式のマッピングが、図3bに示されている。これは、等抵抗ノモグラムと呼ばれ得る。一連の等抵抗の目印が、マッピングに設けられている(すなわち、SVRは、グラフ内の「z変数」になる)。垂直な破線は、「閉鎖圧」を示し、この閉鎖圧より下では全身の流れがない。
【0059】
SVRが、水平軸上のSPPに対し垂直軸上にプロットされている別の方式のマッピングが、図3cに示されている。Guytonモデルに基づく『古典的な』自己調節曲線が、このマッピングに重ね合わされている。「下側の変曲点」より下で、圧力は、流れ依存である。プラトー領域(plateau region)は、ある別個のパターンを表すが、集団全体において脳および腎臓の血流の保存に関する洞察を何らもたらさない。垂直な破線は、ミクロ循環系の「閉鎖圧」をやはり表し、この閉鎖圧より下では流れがない。いずれの場合にも、破線の矢印は、第3の変数(すなわち図3b中のSVR、図3c中のCO)の増加の方向を表す。
【0060】
上記の通り、毛細血管床の典型的な固有抵抗は、流れを持続させるための最小圧力勾配30mmHgを必要とし、この値より下で循環停止が生じることが受け入れられている。したがって、図3a〜図3cの表現については、SPPが30mmHgより下のゾーンは、生存が可能ではない視覚的表現の範囲を示すと認識することができる。これは、図4の等圧線ノモグラムの濃く塗られた領域として示される。被験体から得られる血行動態変数を表すデータが、濃く塗られたゾーンに向かう傾向にある場合、被験体が、最適でない血行動態機能を受けていることが直ちに明らかである。被験体のデータが、視覚的表現の濃く塗られた領域に入ると、血行動態機能は、もはや命に支障がないことはない。
【0061】
加えて、x軸上の30mmHgの等圧線の漸近線は、SVR約5mmHg/l/分(または400SI単位)で生じる。麻酔または集中治療を受ける患者からのデータをマップすることによって、任意の特定のSPPについて、全て生理学的なデータは、曲線Pの連続と濃く塗られた範囲との間の範囲内で生じることが明らかになる。さらに、血行動態データが30mmHgと45mmHgの等圧線の間に位置する患者は、臓器不全を経験する可能性があり、血行動態データが45mmHgおよび60mmHgの等圧線の範囲内に位置する患者は、臓器機能不全を経験する可能性があることが明らかになっている。
【0062】
上記の原理を適用することによって、オームの法則が体循環に関連があるときにオームの法則によって関連付けられる変数のうちいずれか2つが、グラフ上にマップされる場合、第3の変数の値は、マッピングから直ちに読むことができる。好ましくは、第3の変数の決定は、関係SPP=CO×SVRに従って第3の変数のスケールを表す目印(等流線、等抵抗線、等圧線)を含むものによって助けられる。3つの血行動態変数の間のこの関係を視覚的に表すマッピングを生成することによって、医師は、循環機能の視覚的概要が与えられ、これによって医師は、一目で血行動態機能を決定および定量化し、最適な機能の回復に向けて治療を指示することが可能になる。この表現は、本明細書では『血行動態マッピング』と呼ばれ得る。
【0063】
様々な方式の利用可能な血行動態マッピングうち、マッピング(グラフ)は、第3の変数の観点で説明することができる。例えば、圧力−抵抗グラフは、等流ノモグラムとして説明することができ、圧力−流れグラフは、等抵抗ノモグラムとして説明することができ、および流れ−抵抗グラフは、等圧線ノモグラムとして説明することができる。各場合は、第3の変数のスケールの値を示すグラフ内の目印を参照する。
【0064】
いくつかの理論は、敗血症が、仮想の『酸素負債』の存在を生じさせることを示唆しており、そのようなものが存在する場合、それを定量化する方法が分かっていない。より重要なことには、心拍出量不足を計算する既存の方法がなく、この心拍出量不足は、負債を返済し最適な血行動態機能を回復するように修正を受けなければならない。これは、この仮想の不足が、時代遅れの根拠のない循環モデルおよび当て推量に基づいて原理を適用することによって臨床環境内で扱われてきたので関心事である。
【0065】
本発明は、人間もしくは動物の被験体、または被験体の群の血行動態機能を評価するシステムを提供する。このシステムは、全身灌流圧(SPP)、全身血管抵抗(SVR)、および心拍出量(CO)を含む群から選択される被験体の血行動態変数を直接的または間接的に経時的に連続してモニタし、1つまたは複数の対応するデータ信号を発生させる1つまたは複数の変換器を含む。心拍数(HR)および一回拍出量(SV)をモニタすることもできる。プロセッサは、この1つまたは複数のデータ信号を受け取り、関係SPP=CO×SVRに従って変数のうち2つがx−yマッピングにマップされるデータの視覚的表現のための表示信号を生成する。表示装置は、表示信号を受け取り、視覚的表現を、好ましくは変数のグラフィカル・マッピングの形態で生成するものであり、血行動態機能が、視覚的表現の検査で決定可能である。
【0066】
図5は、本発明の一実施形態による人間または動物の被験体の血行動態機能を決定するシステム1の構成要素を示す機能構成図を与える。参照符号1によって全体的に示されるシステムは、全身灌流圧(SPP)、全身血管抵抗(SVR)、および心拍出量(CO)から選択される被験体の2つの血行動態変数の決定を助ける生理学的パラメータをモニタする1つまたは複数の変換器2を備える。
【0067】
2つの変数を表すデータは、任意の適当な変換器またはセンサを用いて得ることができる。典型的には、2つの変数は、(MAPおよびCVPをモニタし、差を計算することによって間接的に得られる)SPP、およびCOである。好ましくは、視覚的表現を生成するために使用されるデータ・セットは、実質的に連続したデータ・セットであり、視覚的表現は、リアルタイムに生成されるが、代替として、データを収集し、次いでもっと後の段階で処理して視覚的表現を生成することもできる。データを連続して収集し、リアルタイムに使用して血行動態機能の視覚的表現を生成する場合、そのままで用いられるとき被験体の血行動態機能に関してなんら概要を与えないいくつかの別個の生理学的パラメータをモニタすることを含む現在頼られている方法よりも効果的で正確なやり方で、被験体の循環機能の傾向および変化をモニタすることが可能である。
【0068】
肺動脈カテーテルは、循環系内の流れおよび圧力の決定において確立した役割を果たし、臨床環境に普及してきた。しかし、当然ながら、その使用に伴う十分に裏付けられた罹患率および死亡率は、薬物の役割を縮小させ続けている。肺動脈カテーテルよりも少ない侵襲で血行動態パラメータを測定することが可能である。拍出量モニタとして働く種々の装置を比較するいくつかの研究は、ほとんどが、信頼性が高く、互いに約10%内の値をもたらすことを示唆する。逆に、一部の装置、特に、超音波技法に基づた装置は、理想的なデータを得るためにかなり熟知していることが必要であり、患者が動くと信頼性を損なう。
【0069】
好ましい実施形態では、被験体の血行動態機能を確実に示すことができる3つの変数のうちの2つを表す連続したデータ・ストリームを与えることができる装置が好ましい。そのような装置の1つは、『Vigileo』モニタと共に使用するために、2005年、Edwards Lifesciences社によって公表された。Vigileo装置は、動脈パルス輪郭解析に頼り、中心静脈圧の測定値を組み合されたとき、肺動脈カテーテルによって与えられるものと同様の変数、すなわちCOおよびSVRの連続したデータ・ストリームを与えることができる。Vigileo装置は、他のパラメータ、例えば一回拍出量、一回拍出量の変動、および混合静脈血酸素分圧なども測定する。これらの変数は、本発明の技法を補足できる役立つ補足情報を医師に与える。代替として、当業者に知られているような肺動脈カテーテルまたは様々な他の変換器装置が使用されてもよい。
【0070】
変換器2は、典型的には、十分に正確で頑強な信号を得るように被験体20の適切な身体部分に付着される。各変換器から信号を受け取り、プロセッサへ入力するために信号を調整する変換器ドライバ3が用いられてもよい。プロセッサ4は、ドライバ3から信号を受け取り、信号を処理して表示信号を生成する。この表示信号は、表示装置6によって使用されてデータの視覚的表現を与える。典型的には、データは、表現のx軸およびy軸上にそれぞれ表される2つの変数を用いてマップまたはプロットされる。プロセッサ4は、分析モジュール12、警報モジュール14、および診断モジュール16などの様々なモジュールと、記憶装置18とを備えることもできる(以下参照)。モジュール12〜16は、プロセッサ4と一体に設けられてもよく、またはシステムの性能を改善するための外部プロセッサとして設けられてもよい。
【0071】
被験体に特有の自己調節ゾーンを見積もる分析モジュール12が、設けられてもよい。この曲線は、安静時の間に、通常の健康時の被験体から受け取ったデータに基づいてよい。次いで、このデータを使用して自己調節のための被験体の設定ポイントまたはゾーンを確立し、例えば麻酔中に、その設定ポイントまたはゾーンの方に治療を向けることができる。代替として、自己調節ゾーン/設定ポイントは、代表的な被験体の群からプールされたデータを参照することによって決定することができる。この場合、自己調節ゾーン/設定ポイントは、モニタされる被験体に固有のものではなくなるが、それでも、被験体の血行動態機能の傾向および最適でない血行動態機能を識別して、血行動態変数の不足を見積もり、リアルタイムの治療を最適化するために使用することができる。
【0072】
好ましくは、分析モジュールは、血行動態機能が最適でないまたは最適になっていないときを示す被験体データの傾向を識別する。分析モジュールは、CO、SVRまたはSPPの不足のうちの1つまたは複数の不足を識別し、好ましくは、被験体が治療を必要としていることを、警報モジュール14を介して知らせるように構成することもできる。
【0073】
分析モジュールは、個体の(薬剤または流体の投与などの)治療の有効性を評価する、または固体集団(例えば高齢者、またはより詳細には高齢者の女性)の治療の有効性を評価する評価モジュールを備えてもよい。HRの変動の補償効果によってマスクされることなく循環の治療の実際の効果を決定することができるので、この評価は、血行動態マッピングがHR向けに調整されるときに特に強力になる。評価モジュールは、持続時間中に数秒または数分にわたって生じるデータのパターンを識別することによって、より短い時間スケールで傾向(すなわちミクロ傾向)を評価することができる。代替として/加えて、評価モジュールは、より長い時間スケールで数時間または数日にわたって生じ得る傾向(すなわちマクロ傾向)を評価してもよい。
【0074】
警報モジュールは、表示装置6および/またはラウドスピーカー9でメッセージによって警報を知らせることができる。不足は、例えば、被験体に特有の自己調節ゾーンまたは設定ポイントを参照することにより、または健康な個体の集団を代表する自己調節ゾーン/設定ポイントを参照することにより、またはデータ値から被験体に特有の概念的な自己調節ゾーンを表す交点を推定することによって決定することができる。
【0075】
診断モジュール16は、プロセッサ4内で動作することができ、または生理学的症候群に関連した1つまたは複数のパターンを、被験体のデータ中で識別する別個のプロセッサ実行命令であってもよい。生理学的症候群の1つは、心不全である。血行動態マッピングは、皮膚色、発汗、および心拍数などの伝統的な指標によってそのような診断をもたらす前に、早期の心不全を示すパターンを十分に識別するために使用することができる。症候群をより早期に識別することよって、治療は、すぐに開始することができ、これにより最適なまたは少なくとも改善された血行動態機能の回復がもたらされ、臓器損傷を回避する。
【0076】
別の識別可能な生理学的症候群は、ショックである。図6a〜図6d、図7a〜図7d、および図8a〜図8dは、患者データを3つのショック『タイプ』のうちの1つに分類するために、診断モジュールによって使用され得るパターンのタイプのグラフィカル表現を与える。これらの図は、ショック・パターンを破線として示すが、線は案内に過ぎず、診断モジュールが、破線に沿って現れるデータ点の存在にただ頼るのではなく(経時的な変数の変化によって明らかな)データ中の傾向を特定のショック・パターンに向けて識別して、被験体が、特定のショックのタイプを受けているという決定を行うように構成されることが好ましいことを理解されたい。
【0077】
好ましくは、診断モジュールは、単一のショック・プロファイルまたは2つ以上のショックのタイプの組み合わせに向かう傾向にある被験体の血行動態機能について決定を行うように構成される。診断モジュールによって識別できる他の生理学的症候群または危険因子には、視覚的表現またはマッピングを構築するためのデータ中で識別可能な低い血流から生じる深部静脈血栓症および肺塞栓症が含まれる。
【0078】
好ましい実施形態では、診断モジュール16は、被験体の最適な血行動態機能を回復するために分析モジュール12の推奨活動によって決定される自己調節ゾーンおよび/または設定ポイントを使用するように構成される。この推奨活動は、被験体がCO不足を受けているというメッセージの表示または警報を伴い、これを修正すべきということを示すことができる。代替として/加えて、診断モジュールは、データベース18またはモジュール内のルックアップ・テーブルを参照することによって治療を推奨することができる。これには、薬理学的介入、輸液などの推奨が含まれ得る。
【0079】
被験体20への治療(例えば薬剤、酸素、流体など)の提供または滴定を、ポンプ、およびカテーテル、フェイス・マスク、鼻カニューレ等などの治療セットを介して直接制御するフィードバック制御治療モジュール10が設けられてもよい。フィードバック制御治療モジュールは、分析モジュールによって決定され得るような特定の薬剤について個体の用量反応関係に従って確立され得る所望のSPPを実現するように患者への薬剤または他の治療の滴定を自動化することが考えられる。しかし、最終的な制御は、診断モジュールによって決定され、フィードバック制御治療モジュール、治療滴定モジュールなどによって被験体に施される治療を無視できる医師次第であると考えられる。
【0080】
加えて/代替として、外部インタフェース5が、プリンタおよびネットワーク構成要素などの外部装置とつなぐために使用可能である。好ましくは、キーパッド/マウスなどの入力装置7が、制御盤8、ラウドスピーカー9、およびフィードバック制御治療モジュール10と共に設けられる。このシステムは、電源制御装置11を通じて商用電源によって電力供給され得る。商用電源が故障の場合に備えて、バッテリ・バックアップ12が、システムへの途切れのない電力供給を確実にするために設けられてもよい。
【0081】
プロセッサ4は、本発明による方法を実行するためのコンピュータ・プロセッサ実行可能命令を記憶する記憶装置18を備えることが好ましい。この命令は、ソフトウェア・プロダクトなどを使用することによって記憶装置にインストールすることができる。ソフトウェア・プロダクトは、ソフトウェア・アプリケーションを事前にインストールして販売された所有者のシステムの場合であり得るように、プロセッサの固定記憶装置にインストールされてもよい。代替として、ソフトウェア・アプリケーションは、ディスク装置または他のストレージ・デバイス(storage device)上の購入したソフトウェア・プロダクトまたはネットワーク接続などを介してダウンロードしたソフトウェア・プロダクトを用いて、既存の計算装置(臨床環境で使用することができるVigileoまたは他のモニタなど)にインストールされてもよい。
【0082】
血行動態機能を決定中の被験体について、経時的に被験体から得られる一連の値は、視覚的表現を生成するために使用される。安静時かつ一般的に健康な状態で被験体から得られる値は、値が被験体の特有の自己調節ゾーンを代表することになるのに十分安定であり得る。これは、様々な方式で表され得る。これらの方式から、最適な血行動態機能が生じる被験体の自己調節ゾーンまたは『設定ポイント』を確かめることが可能である。実施例7は、本発明の実施形態による実際の被験体から得られる血行動態マッピングを与えるものであり、94歳女性についての血行動態機能の視覚的表現を与えるように自己調節データがマップされている。
【0083】
血行動態マッピングの精度は、血管の収縮性/弾性(コンプライアンスの逆数)がSPPおよびSVRに与える影響を明らかにするための補正を与えることによって改善することができる。式1は、SPP=CO×SVRを与え、ただし、SVRは、mmHg/L/分の単位で与えられる。以下の点に留意されたい。
CO=HR×SV (式4)
しかし、式4を式1に代入すると、
SPP=HR×SV×SVR (式5)
が与えられ、これは、脈拍mmHgの単位である。これは、SPPの実際(より詳細には、SPPを決定するものであるSVR)の測定値は、より完全な画像を与えるために、HRについての補正を必要とすることを示す。したがって、左心室の収縮ごとに変動についてSVRを補正することによって補正を行うことができる。補正したSVRは、拍動ごとの実際の全身血管抵抗(aSVR)と呼ばれ得るものであり、ただし、
aSVR=SVR×HR (式6)
である。
【0084】
これを整理し直して以下のものを得ることができる。
【0085】
【数1】
【0086】
これは、以下の関係を与える。
SPP=SV×aSVR (式7)
ただし、aSVRは、血流に対する抵抗の指標であり、左心室の収縮ごとの血管系(単位mmHg/L)によって示される。aSVRは、各心室収縮後に反動する血管系の能力によって影響され、したがって、循環の弾性の指標である。SVRの代わりにaSVRを利用することによって循環に関する既存の理解における流れを補正し、SVの値をaSVRに対してプロットする血行動態マッピングによって、医師が、血管系に対する薬剤の影響をより効果的に検査することが可能になるが、これは、例えばSPPまたは伝統的なSVRに対する、HRの血行動態調整の外部からの影響がないためである。症例研究1〜4は、本発明の実施形態による血行動態マッピングを実行するときに、HRを補正することに関連した利益を実証する。
【0087】
これらの観察は、変力薬に関連した現在理解されているアドレナリン受容体選択性が、全ての被験体に等しく適用することができないという可能性を強調する。HRの影響が明らかにされると、アドレナリン、ノルアドレナリンおよびメタラミノールの影響が、実質的に同一であるように思われる。これは、例えば、これらの薬剤が末梢血管緊張を変化させるかの主要な決定要因が、年齢および性別であり得る可能性をもたらす。例えば、閉経前の循環では、これらの物質は全て変力物質として働くが、異なる変時作用を有する(アドレナリンはHRを増加させ、ノルアドレナリンおよびメタラミノールはHRを減少させる)のに対し、閉経後の循環では、年齢およびSVが一定の場合に心臓が堅くなるので、末梢血管の筋肉に対する優性効果があるという可能性がある。
【0088】
さらに、本発明の発明者は、循環には3つの別々のパターンがあると仮定する。あるパターンは解消し、異なるパターンが生じるとき、パターンが変化する圧力は、自己調節ゾーンの下側の変曲点である。すなわち、下側の変曲点は点または領域であり、この点または領域を中心にしてこれらのパターンは「回転」する。
【0089】
好ましい実施形態では、この方法は、視覚的表現でマップされるような被験体のデータの中で、ショックなどの生理学的症候群に関連した1つまたは複数のパターンを識別することを含む。本発明の方法を用いて様々な被験体について血行動態機能の視覚的表現を生成することによって、本発明者は、3つの別々のショックのパターン(低血圧)を、以下の通りに観察した。
【0090】
本明細書ではタイプ1のショックと名付けられる第1のパターンでは、被験体は、SVRの減少およびCOの代償的増加を経験して、重症の病状の場合があるが、ほぼ安定したSPPを維持する。タイプ1のショックは、全身性炎症反応症候群(SIRS)における初期敗血症、外傷、および膵炎などの臨床的症状の中で観察可能であるが、これらに限定されない。循環障害(すなわち血管ポンプの障害)、続いて心拍出による補償が、タイプ1のショックの根底をなす病因論であると仮定される。タイプ1のショックは、正常な反応であるが、補償が不完全である場合、圧力勾配が、下側の変曲点に向かって等圧線を横切る傾向がある。流れは比較的増加するが、タイプ1のショックでは、この流れは、正常な臓器の灌流圧を維持するのに十分でなく、臓器機能不全が結果として起こる。症例研究5は、タイプ1と呼ばれる種類の補償ショックに関する。
【0091】
本明細書ではタイプ2のショックと名付けられる第2のパターンでは、被験体は、ほぼ安定したCOを維持しつつ、SVRおよびSPPの減少を経験する。タイプ2のショックは、拡張機能障害、多臓器不全症候群、後期敗血症および急性心筋梗塞などの臨床的症状の中で観察可能であるが、これらに限定されない。タイプ2のショックは、閉経後に拡張機能障害の現象が広範に見られることにより高齢者(特に高齢女性)においてよく観察され、SVの変動性はほとんどなく、したがってCOだけが増加し、HRを増加させる(COを増加させる非効率な手段)。循環障害(すなわち、血管ポンプの障害)および心拍出の障害が、タイプ2のショックの根底をなす病因論であることが仮定される。症例研究6は、タイプ2のショックに関する。
【0092】
本明細書ではタイプ3のショックと名付けられる第3のパターンは、被験体が、COおよびSPPの減少を経験するが、SVRの変化は実質的にないことを見出す。タイプ3のショックが観察可能である臨床的症状には、麻酔、出血、心原性ショック(心筋量の重大な損失)および心原性肺水腫、LV梗塞、血液量減少性ショック、およびことによるとアジソンショックが含まれるが、これは、副腎不全によって生じる低血圧があり、副腎は、圧力、流れおよび抵抗の神経内分泌調節(neuro−endocrine regulation)における重要な構成要素であるからである。このショック・パターンは、麻酔および集中治療では珍しく、タイプ1は、「流れ依存圧力調節因子(flow−dependent pressure regulators)」において優勢であり、タイプ2は、高齢の「抵抗依存圧力調節因子(resistance dependent pressure regulators)」において優勢である。純粋な心不全は、タイプ3のショックを生じさせることが仮定される。
【0093】
Riverのプロトコルとは異なり、本発明は、生理学的に別々の敗血症を有するサブグループを区別する手段を提供する。つまり、CO、SVRおよびSPP(すなわちMAP−CVP)をモニタし、血行動態マッピングを用いて、これらのパラメータの(すなわち、例えばSVおよびaSVRの)変化のパターンを観察することによって、患者の年齢および性別についての正常な値を基準にして患者をタイプ1、2または3のパターンとして分類することができ、それに応じて治療を案内することができる。
【0094】
ショックの3つのパターンの特徴が、表1にまとめられている。各ショック症候群は、視覚的に、様々な異なるグラフィカル方式、例えば、
圧力−流れマッピング、
圧力−抵抗マッピング、および
抵抗−流れマッピング
などで表すことができる。
【0095】
いずれの場合にも、本発明の実施形態によれば、目視検査上、ショック症候群を示すパターンに向かう傾向がある被験体から得られるデータを使用して治療を指示することができる。
【0096】
図6a〜図6cは、3つのショック症候群ごとのパターンに対応する圧力−流れ曲線を表す。破線は、被験体の血行動態機能が準最適になると共にショック状態のうちの1つに向かう傾向があるとき、設定ポイントSから離れるように移動する観察可能な傾向を表す。各表現において、実線は最適な血行動態機能の範囲を表す。図6aはタイプ1のショックを示し、図6bはタイプ2のショックを示し、図6bはタイプ3のショック・パターンを示す。原点から放射状に広がる目印は、左から右へ値が増加するSVRのスケールを表す。各スケールの目印は、『等抵抗』線と呼ばれる。図6dは、3つのショック状態全てが破線によって表される図6a〜図6cのパターンの集合を表す。
【0097】
被験体の各群についての大容量のデータの血行動態マッピングは、年齢および性別については普通であるCO、SVR、aSVRおよびSPPについての値または値の範囲を確立するために使用することができる。これによりショック状態の治療の役立つ出発点を与える。理想的な状況は、ショック状態を発症する前の個体の発病前(導入前)データを有することであるが(症例研究6)、この情報がない場合(症例研究5)、似たような患者たちの群全体にわたって十分な一致があり、プールされたデータは、処置を役立つように案内することができる。
【0098】
興味深いことに、一般的な自己調節曲線はしばしば、圧力および流れがゼロに減少する状態で示されるが、述べてきたように、「普通の」被験体においては、毛細血管床の固有抵抗が、灌流圧勾配30mmHgで流れの突然の中断をもたらす。純粋な心不全では、圧力および流れは、設定ポイントSより下で『等抵抗』線に沿って減少し、『等抵抗』線は、離散点で終点となり、典型的には、SPP(すなわち勾配)30mmHgに対応する。このことは、以前は認識されていなかった。
【0099】
被験体の心拍出量は、異なる等抵抗線に沿って減少するので、より高い灌流圧に自己調節ゾーンを有する高血圧の被験体では、下側の変曲点より下の曲線の勾配はより小さい。Guytonモデルは、等抵抗線(実際には自己調節曲線)が個体の血行動態機能に固有であるということを認識していなかったため、Guytonモデルでは、このことは観察されない。収縮機能障害(例えば拡張型心筋症)を伴う循環障害では、被験体の血行動態マッピングは、心臓の代償が不完全であるので、タイプ1およびタイプ2のショックを表すパターンの間のどこかである傾向を示す。後期敗血症では、心臓は、プロセス(process)に関与することになるので、血管ポンプの障害を補償することはもはやできない。したがって、タイプ2のパターンが、心臓障害に関する炎症反応に対応するデータにおいて優勢である。
【0100】
図7a〜図7cは、ショックのパターンを識別することができる被験体の血行動態機能の視覚的表現の代替の手法として圧力−抵抗曲線を表す。ここで、被験体の抵抗値(SVR)は、x軸上の圧力(SPP)に対してy軸上にプロットされる。破線は、いずれの場合にも被験体の血行動態機能が準最適になると共にショック状態のうちの1つに向かう傾向があるとき、設定ポイントSから離れるように移動する観察可能な傾向を表す。各表現において、実線は、最適な血行動態機能の領域、すなわち自己調節ゾーンを表す。原点から放射状に広がる線は、左から右へ流量が増加するCOのスケールを表す。各スケールの目印は、『等流』線と呼ばれる。図7aはタイプ1のショックを示し、図7bはタイプ2のショックを示し、図7cはタイプ3のショック・パターンを示す。図7dは、3つのショック状態全てが破線によって表される図7a〜図7cのパターンの集合を表す。
【0101】
図8a〜図8cは、ショックのパターンを識別することができる被験体の血行動態機能の視覚的表現の別の代替の手法として抵抗−流れ曲線を表す。ここで、流れ(CO)は、x軸上の抵抗(SVR)に対してy軸上にプロットされる。破線は、いずれの場合にも被験体の血行動態機能が準最適になると共にショック状態のうちの1つに向かう傾向があるとき、設定ポイントSから離れるように移動する観察可能な傾向を表す。やはり、実線は、最適な血行動態機能の領域、すなわち自己調節ゾーンを表す。等圧線の形態の目印は、SPPのスケールを表す。この表現は、被験体の血行動態変数が、『ドロップ・オフ・ゾーン』に近づいており、すなわち30mmHg未満であり、全臓器への流れを持続させるのに十分ではない灌流圧勾配であるときの直接の関連がある視覚的表現を与えるので、おそらく臨床の場では最も役立つ。
【0102】
抵抗−流れの表現は、被験体の処置に対する反応を追跡するのに役立つ情報をもたらすと共に、ショック・パターンの診断を可能にする。図8aに示すショック・パターンは、タイプ1のショックを代表するものであり、初期敗血症およびSIRSに見られる。おそらく頸動脈洞における圧受容器の機能のため、身体は、自己調節範囲内で、すなわち自己調節ゾーンの等圧線に沿って全身灌流圧を維持しようとする。収縮機能が損なわれたとき、タイプ1のパターンは、いまだ認識可能であり、容易に定量化することができる「心拍出量不足」を識別することができる。不足は理論値であり、十分な酸素の送達を実現するために心拍出量はこの理論値へ増加するようになされるとする伝統的なモデルよりも、このことは改善である。また、「抵抗不足」も決定することができる。治療の目標および回復の結果は、正常な自己調節の安定状態(plateau)に患者を戻すことになる。
【0103】
CO不足は、いくつかのやり方で決定することができる(いくつかの実施形態で定量化される)。1つの方法は、正常に機能しながら(すなわち、安静時に正常な健康状態で)、被験体から得られる血行動態変数を参照すること、あるいは被験体の特有の自己調節ゾーン、または最適な血行動態機能のための所定の『設定ポイント』を参照することを含む。プレ・インサルト(pre−insult)「全身灌流圧」は、被験体の正常な血行動態機能に必要な最小限のものであるので、SPPが、このレベルより下に落ち込むとき、被験体は病気状態にあると考えられ、回復は正常なSPP勾配の回復によって実現される。したがって、「設定ポイント」を識別することによって(例えば、例えば麻酔の開始前に、COおよびSVRを計測することによって)、反応のパターンが変化するとき、変数のうちの1つまたは複数の変化の程度(すなわち不足)を定量化することが、例えば集中治療環境内で可能になる。
【0104】
被験体の自己調節ゾーンに対応するデータ(すなわちプレ・インサルト血行動態データ)が利用できない場合、安静時の間に、通常の健康時の典型的な被験体およびその血行動態プロフィールについて仮定を行うことによって血行動態変数のうちの1つまたは複数の不足を評価することが可能である。人は、体循環を維持するために30mmHgを超える最小「全身灌流圧」勾配を必要とするという仮定を適用することが可能である。このルールは、被験体の正常な血行動態機能に影響を及ぼす可能性がある健康要因に応じて変えることができる。例えば、高血圧の被験体では、必要なSPPは、80mmHgと仮定され得る。
【0105】
例えば、COおよびSVRをグラフ化することによって、結果として得られる「等圧線ノモグラム」から、(y軸からプロットされる)COを増加させることによって、または(x軸からプロットされる)SVRを増加させることによって、必要な最小圧力に到達し得るということを決定することが可能になる。必要な増加量は、各変数の不足を示す。
【0106】
不足を定量化する第3の方法では、血行動態マッピング・パターンが変化する場合、被験体の「設定ポイント」であるように出現する変曲点で「クロスオーバー」の位置を特定するために利用可能なデータを補間することによって識別することが可能である。これは、「下方側」の薬剤によって修正することができ、それによって被験体は、流れおよび抵抗を変えることによって特定の圧力を維持するように思われるが、薬剤は、「設定ポイント」を再設定するように思われ、そこだけ圧力が生理学的レベルより下である。
【0107】
図8bに示すショック・パターンは、様々な心疾患によって後期敗血症、MODS、および拡張機能障害に見られる。ここで、これは収縮機能障害のパターンでないが、血管ポンプ(すなわち循環)と心拍出が共に、機能しなくなっていることは明らかである。
【0108】
図8cに示すショック・パターンは、一見、大手術を受ける患者に広まっている。興味深いことに、このパターンの変数は、伝統的な考え方に基づいて許容範囲内であるが、心不全の『臨床的』証拠がなく、本発明者は、本発明による実際の患者データのマッピングを通じて、ショック症候群の臨床兆候がある十分前に心不全をもたらす傾向を検出することが可能であるという発見をした。これは、続く例においてより明らかになる。
【0109】
図8dは、破線によって表される3つのショック状態全てを表す図8a〜図8cのパターンの集合を表す。
【0110】
本発明により得られる血行動態データのグラフィカル・マッピングから確かめることができる傾向の情報を用いて、被験体が、タイプ1、2もしくは3のショックのパターンであるのかまたはそれに近づいているのか、あるいはそれらの組み合わせであるのかまたはそれらに近づいているのか、あるいは何か他の症候群であるのかまたはそれに近づいているのか、すぐに明らかである。変数がリアルタイムにマップされるとき、マッピングは、薬剤の投与などの治療に応じて血行動態機能の変化も反映する。ミクロ傾向は、心臓または循環に投与されておりこの心臓または循環に作用する任意の薬剤の作用をすぐに反映するので、マッピングは、処置に対する応答者である被験体と非応答者である被験体を識別し、それによって処置は、可能な最良の反応を実現するために素早く修正および滴定することができる。したがって、ノルアドレナリンなどの変力物質の場合、反応の存在、反応の性質、および反応の速度および程度が、すぐに明らかになる。また、マッピング技法は、個体の場合における異なる用量の薬剤に対する用量反応関係、または固体集団における異なる薬剤および異なる薬剤の用量に対する用量反応関係をマップすることを可能にする。本発明は、以前の技法を用いて可能ではなかった感度の良いやり方で、任意の薬剤に対する反応の圧力、流れおよび抵抗の変動の瞬時のパターンを『マップ』することを可能にする。これは、麻酔および蘇生における個別化された治療の扉を開く。
【0111】
本発明による、血行動態機能をモニタし循環を理解するこの新しいパラダイムは、多くの患者を理解および治療する際に利益をもたらす。特に興味深いのは、組織への酸素の送達を増加させることによって満たされなければならない代謝要求の増大を経験する敗血症の患者である。
【0112】
伝統的な原理によれば、敗血症の患者には、運動生理学に似ている状況が存在するということが長く受け入れられてきた。最大限に運動する被験体においては、心拍出量が、生理学的限界まで増加し、運動のレートがこの限界を超えて続く場合、『酸素負債』が生じる。継続した運動は、嫌気的代謝によりまだ可能であり、運動が終わると、心拍出量は徐々に運動前の水準に戻り、その時間の間に『酸素負債』が返済される。
【0113】
運動と、例えば菌血症によってもたらされる代謝要求の増大を満たすようにCOが上方調整された敗血症の患者との間で導かれる類推は、敗血症を『高心拍出量状態(hyperdynamic state)』として説明することをもたらした。この状態では、心臓は、COを増大させる、したがって酸素送達を増大させるように働く。したがって、COを増大させる薬理学的方法、およびアシドーシス性組織へ血液に酸素を供給する方法は、臓器の機能と死亡率に有利な利益があるはずである。このことは、酸素の送達をプロトコル化(protocolize)して心拍出量を「目標」の単位体表面積(BSA)当たり4.5l/分/m2まで増大させることによって、またはRivers(NEJM、2001年)の複雑なアルゴリズムによって患者に流体を積極的に供給し、変力物質を与えることによって伝統的慣行に影響をもたらした。しかし、これらの手法は、様々な成功を収めたが、それによって現在の処置プロトコル(treatment protocol)の有効性に疑いをもたらした。
【0114】
『高心拍出量状態』として敗血症を参照することは、感染と戦うように(すなわち、冒された組織への酸素の送達の増大を実現するように)心臓の努力(cardiac effort)の増大が求められることを暗示する。しかし、本発明の実施形態による視覚的マッピング技法を用いて、ここで敗血症は、バクテリアによって引き起こされる循環障害を参照することにより心拍出および血管ポンプを含む2ポンプ・モデル(two pump model)に基づいて説明することができる。
【0115】
敗血症を理解し、処置することの意味は大きい。すなわち、循環における血管運動神経性緊張の失調に応じて、COは、循環における圧受容器を含むフィードバック機構によって増大させられる。敗血症前のMAPが5L/分であり、SVRが15mmHg/L/分(すなわちSI単位で1200ダイン秒/cm5)であり、敗血症の発病であれば、SVRは7.5mmHg/L/分(600ダイン秒/cm5)まで減少するが、COは10L/分まで増加し、次いで発電が375から750へ増加する。したがって、なぜかを実際には理解せずに、敗血症は、『高心拍出量状態』と名付けられてきたが、これは、ここで、循環障害である患者の安静時の必要な発電の増加、およびCOの増加によって説明することができる。
【0116】
前述の通り、Riverのプロトコルは、MAP(65mmHg)およびCVP(10〜12mmHg)の目標を正式なものとし、この目標は、臨床医学内で幅広い支持がある。しかし、これらの目標は、発病前の健康な患者との相関がなく、管理のための適切な血行動態の目標としてこれらの値を支持する生理学的モデルがない。さらに、この目標は、患者の下位集団を区別しない。むしろ、この目標は、年齢、性別、生活様式などに関係なく被験体の間で血行動態機能が均一であることを仮定する。
【0117】
様々な権威の間でわずかなばらつきはあるが、正常な血行動態の値は、SVR900〜1400ダイン秒/cm5(11.25〜17.5mmHg/L/分)、心拍出量指数2.5〜3.5によって表されると言われている。これは、COの範囲4L/分および8L/分、ならびにSVR限界900〜1400ダイン秒/cm5である長方形によって説明される面積とおおよそ同じである。この長方形は、図16に示されており、これは、大きな待機手術のために麻酔を導入する前の高齢の男性患者および女性患者の実際の血行動態データを示す。これらのデータに関するとき、この一団には『正常』パラメータ内の女性患者がほとんどいないことが明らかになる。むしろ、観察された20人の高齢女性患者のうち約1人および高齢の男性被験体の約半数が、『正常』範囲内の血行動態機能を示す。
【0118】
本発明の血行動態マッピング技法を用いて実行される分析は、高齢の男性および女性の循環が異なるという奥深い面を明らかにした。本発明の実施形態による高齢の患者から得られるマッピング・データによって、高齢での心臓および循環の働きの面にかなりの変化があり、性別に応じて典型的な血行動態の値にかなりの逸脱が生じることが明らかになる。この種の下位集団の分析がなければ、伝統的な処置計画の影響が、改善された成果と悪化した成果の混ざったものをもたらし、それによって投与された治療の実際の効果を曖昧にした可能性もある。
【0119】
図16に示した同じ患者からのSPPデータが、年齢に対してグラフ化されるとき(図17)、SPPに性別による差があり、男性患者は、典型的には70〜115mmHgに分布するのに対して、女性患者は、典型的には90〜130mmHgに分布することが明らかになる。このことは、女性の冠動脈疾患(CAD)の発生率が50歳代の男性と同等に達するので、単独で興味深い。MAP65mmHgおよびCVP10〜12mmHgは、SPP53〜55mmHgと同じであるので、高齢者では「正常」値からの大きな逸脱があるだけでなく、高齢女性患者には、高齢の男性患者よりもかなり大きな程度高血圧があることが明らかになる。
【0120】
高齢の男性患者と女性患者の間の生理学的な差は、このことが示唆するものよりずっと大きい。図17からのデータは、図18の等圧線ノモグラムに再び示されており、図18は、同様の灌流圧(80〜130mmHg等圧線)を有する男性および女性の患者であるが、2つの性別群にCOおよびSVRに関してかなり相違があることを示す。女性患者を別に分析し、年齢に従って細分する場合、高齢になるにつれて、安静時のCOは次第に落ち込み、安静時のSVRは次第に上昇することが見ることができる。例えば、麻酔を導入する前の47人の正常な高齢女性患者についてデータをプロットする図19を参照されたい。
【0121】
血行動態マッピングの発明技法を用いると、60歳代の年齢から先へ、『健康』または正常な血行動態機能を示すと伝統的に認められていた血行動態パラメータから次第に逸脱があることを見ることができる。これは、年齢発症拡張機能障害を指し示すと考えることができる。
【0122】
同じ47人の女性被験体について、導入前COが、年齢に対してグラフ化される場合(図20)、高齢女性のCOは、年齢約60歳から落ち込み始めることが分かる。SPPは、維持されなければならないので、高齢になるにつれてSVRが増加するということになる。この一団の47人の女性患者に基づいて、本発明者は、高齢女性患者の期待COはどうすべきか評価する「大体の目安」の方法を考案した。これは、図21および表2に示すデータで実証され、図21は、年齢と共にCOが次第に落ち込むことを示し、表2は、高齢女性の期待COについての本発明者の“60−70−80−90/100−80−60−40ルールを提示する。
【0123】
それは、COについての対応する分析ほど「適切なものではない」が、粗い「大体の目安」の方法が、高齢女性の年齢と共に上昇するSVRを評価するためにやはり考案された。これは、図22および図23に示すものなどのマッピングに基づいている。表3は、高齢女性の平均SVRを評価するための本発明者の60−70−80−90/20−25−30−35の大体の目安を提示する。
【0124】
高齢の男性患者から得られるデータで同じ分析が実行される場合、COおよびSVRの同様の変化はより小さいことが明らかになるが、変化の始まりは、高齢女性の始まりよりも10年後に生じ、それほど急速に進行性ではない。図24は、70歳男性の安静時のSVRの進行性の増加を示す。しかし、このプロセスは同じであり、麻酔の蘇生、緊急治療室、およびICUについて同じ意味を有する。
【0125】
本発明者は、高齢になるにつれて生じるこれらの変化は、ポンプとしての心臓の性能の変化のためであると考える。安静時のCOが、高齢になるにつれて落ち込むので、SV(およびSV指数)は落ち込み、変動性の減少を示す。若い成人では、SVは、出力需要を満たすように継続的に変化するのに対して、高齢では、SVは不変になる。
【0126】
女性の約60年後および男性の約70年後の心臓の機能の変化は、年配の患者において変わらず、他では「拡張機能障害」と呼ばれるこのプロセスを表す。典型的には、拡張機能障害は、ポンプとしての心臓の障害を示すドップラー・エコー・パラメータの変化を参照することにより特徴付けられる。これは、高齢になるにつれて落ち込むSVおよびCOによって特徴付けられ、COを調節する手段としてHRへの依存の増加をもたらす。したがって、年齢と共に、心臓は、「ポンプ」として機能しなくなり始め、代わりに循環を巡る血液を通過させるための受動的な導管になる。
【0127】
このことは、本発明者を、心血管系機能の2つの極端である仮定に導いた。第1のものは、若い運動選手によって表され、この若い運動選手は、低い一定の血管抵抗、および低いHR、およびSVを変える能力を有する「流れ依存圧力調節(flow−dependent pressure regulation)」を有する。第2のものは、高齢女性によって表され、一定のSV(心臓コンプライアンス(cardiac compliance)の喪失による)、およびHRを変化させることによってのみ変えられるCOによって特徴付けられる「抵抗依存圧力調節(resistance−dependent pressure regulation)」を有し、この高齢者は、COを増大させるためにHRに頼り、および圧力を調節するためにSVRに頼る。
【0128】
これは、高齢者の高血圧を理解するために重要な意味を有する。90歳の女性患者が、3000ダイン秒/cm5の一定のSVRを有する場合、COの1L/分の増加は、血管抵抗1000ダイン秒/cm5を有する健康的な若い人よりも3倍、血圧を増大させることになる。COを調節するためにSVを変えることができないので、代謝要求の小さな増加は、高齢者では、際立った頻脈を引き起こす傾向がある。
【0129】
同様の状況が、COの調節においても生じる。典型的な成人では、比較的一定の全身の流れを維持するために、HRおよびSVは共に継続的に変化する。やはり、2つの極端がある。第1には、運動選手および病的に肥満の人に生じるように、HRは比較的低く、SVは幅広く変化する。したがって運動選手(および肥満の人)は、SV依存流れ調節器である。スペクトルの他方の端では、一定のSVを有する高齢の患者は、SVが低く一定であるので、不釣り合いにHRに頼る。したがって、これらの個体は、HR依存流れ調節器である。
【0130】
高齢者の進行性の心臓の硬直(progressive cardiac stiffness)に直面して、SVRへの依存の増大の結果は、病的血管拡張を引き起こす状態に対する感受性およびその罹患率の増大である。血管抵抗が非常に一定である高齢女性患者は、COを増加させるためにSVを増加させ、血管拡張を補償することができる若い患者よりも、血管拡張薬または敗血症による(細胞の酸素の送達に対応した意味のある)より大きな圧力降下を受ける。したがって、高齢の患者は、「閉経前の生体」に存在した代償性心臓機構がないことにより、同様の「敗血症の負荷」を単に有する若い人よりも臓器機能不全および臓器組織不全を受けることになる。
【0131】
高齢になるにつれて心筋の硬直によりSVの容量を変えることが次第にできなくなることは、心筋細胞の機能に対するアンドロゲン/エストロゲンの影響に潜在的に起因する。男性のエストロゲンの心保護作用は、より高い水準のデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、およびその硫酸抱合体(DHEAS)と、より低い心臓血管疾患の発生率の間の可能性のある関連を説明することができる。
【0132】
高齢になるにつれて生じるポンプとしての心臓としての機能を変化させることを考慮すると、高齢者のための治療として用いられる血管作用薬は、再評価を必要とすることが明らかになる。若い被験体に基づく薬力学的および薬物動態学的データをとても高齢な者に適用する慣行がもはや適切とは思われない。代わりに、再評価は、年齢および性別に固有である薬力学反応を区別するために幅広い集団からのデータの膨大なデータベースの調査を必要とし得る。本発明の実施形態による血行動態マッピングは、この再評価を助ける。
【0133】
本発明の本技法を適用することによって、本発明者は、麻酔が、(いつもではないが)しばしば、制御されたショックの状態であることを発見した。血行動態マッピングの技法を用いて、監視された変数が、正常なパラメータ内で注意深く制御されたにも関わらず、大手術を受ける患者が、しばしば「心不全」の状態になることを実証することができる。これは、臨床麻酔について深い意味を有し、(脳内の虚血性変化によって識別することができるような)認知機能障害が、いつもではないが、手術後によく生じるのかを説明することができる。このことは、後述の実施例において実証される。
【0134】
したがって、手術中の本発明の使用は、患者が『無症状性ショック』および最適でない血行動態機能を経験していることを手術中に実証するために使用することができる。これに続き、大手術のための麻酔中の本発明の使用は、最適な血行動態機能を回復するように治療を指示し、施される治療に対する被験体の反応をモニタおよび定量化するために使用することができる。これは、隠れた心不全をなくす可能性があり、それによって手術に参加し、永続する錯乱状態または臨床的認知症、過去の特徴と共に手術から目覚める高齢の患者を、認識力を保ったままにさせる。
【0135】
本発明は、医師が麻酔下の被験体が循環障害にないことを決定することを可能にし、循環反応の定量化を助ける血行動態マッピング手法として、調査中の麻酔薬(および他の物質)の脳への(および時間経過の)影響を決定するのに役立つことを証明することもできる。
【0136】
さらに、本発明は、認識される3種類のショックに基づいて、ショックの機能による分類の実施を可能にする枠組みを提供する。このやり方のショック症候群の分類は、生理学的に基づいており、今まで可能でなかった適合したおよび特定の個別治療の基礎を提供する。これは、手術、蘇生、および臓器機能不全を経験する患者にとって有益な意味を有する。
【0137】
本発明は、輸液蘇生技法を評価するロバストな方法も提供する。現在の蘇生の手法は、0.5ml/kg/時間を超過する尿流、または65を超えるMAPおよび10を超えるCVP(Rivers)などの信頼できない評価項目を伴う。これは、現在の処置プロトコルからのパラダイム・シフトを示すが、本発明による新規な手法は、生理学的に基づいており、ショック症候群をより良く理解し、客観的で証拠となるデータに基づいて蘇生技術を開発する能力がある。これは、本発明によりリアルタイムにマップすることができる患者データが利用できる環境のモニタリングに影響を与えるだけでなく、新たに開発された技術が適用され得る外来蘇生にも影響を与える。
【0138】
本発明の方法は、腎不全が敗血症またはSIRSまたはMODSと共に患者に生じる理由を実証するために使用することができる。「炎症カスケード」が、敗血症/SIRSにおける急性腎不全(ARF)の生理学にとって重要であることは長く認識されてきた。本発明の方法によるマッピング・データによって、腎代替療法(RRT)の開始により、血管運動神経性緊張を(通常は)回復することを実証することができる。本発明の方法は、通常、死が差し迫る点から最終的な回復に適合する位置まで血行動態的に患者を改善する。したがって、本発明の方法は、腎不全の主要な原因が、内因性腎疾患ではなく、血管筋障害(vasomyopathy)であることを実証する。
【0139】
これは、ARFから回復中の多尿症が、i)蓄積された尿素からの浸透圧利尿、ii)ARF中に蓄積された過剰な液体のクリアランス(clearance)、およびiii)尿細管尿濃縮能の減少の要因によって説明されるという確立された見解と矛盾する。本発明の方法を適用することによって、SVRおよびSPPの回復によって計測されるように多尿症が、「血管筋障害」の消散によることが示され得る。したがって、SIRSにおける臓器組織不全は、臓器に基づく疾患ではなく血管疾患である。
【0140】
さらに、本発明の技法は、確立された敗血症/SIRS/MODSにおいて、多臓器機能不全の中に心臓障害があるとき、心臓病変は拡張機能障害であることを実証するために使用することができる。
【0141】
本発明は、菌血症からの急性循環障害の現象を実証するために使用することもできる。この現象は、明らかに安定した血圧および脈拍数で生じ得る。しかし、本発明による視覚的表現における患者データのマッピングは、菌血症によって引き起こされる急性血管筋障害は、相対的な血液量減少よりも循環に対する強力な影響であり得ることを示唆する。一過性菌血症が、麻酔下で心拍出量を増加させる場合、細菌細胞壁の非感染成分を麻酔に用いる治療薬として識別する可能性があり得る。
【0142】
さらに、本発明の技法は、血管作用薬に対して十分に感受性があり、本発明の技法は、血管作用薬および心臓作用薬の血行動態プロフィールの解読を助けることができる。本発明の技法は、薬剤反応性の個人間変動を区別するのに十分感受性があると共に、薬剤への応答者および非応答者を検出するだけでなく、血管反応性を変える遺伝子「多型」で患者を選択的に識別することができる。
【0143】
HRの補償変化を調整する実施形態では、本発明は、特定の薬剤に対する反応性が他の集団とは異なる個体集団を区別し、その差の性質および大きさを評価するために使用することもできる。
【0144】
このモデルは、診断および処置の大変異なる手法をもたらしもする。任意の処置に関して、循環への影響は、容易に識別することができる。敗血症の患者に適用されると、本発明は、正確なリスク分類、ならびにより良い標的選択、および処置適用を可能にする。本発明は、危篤状態の患者の多臓器機能不全の生理学的発生を説明するために使用することもでき、薬剤の作用に関しての随分前に確立された信念および腎不全を解決する際の多尿症の原因に異議を唱えることができる。
【0145】
これまで、個体の患者において、一定の心拍出量が維持される血圧の『自動調節範囲』を確立する方法およびシステムがないと考えられてきた。しかし、本発明による被験体からの変数の連続したデータ・ストリームのマッピングは、「ドロップ・オフ・ゾーン」から正常な自己調節を分ける自己調節ゾーンの「下側の変曲点」または『設定ポイント』の識別を可能にする。このポイントは識別可能であるので、全ての被験体に特有のポイントがあり、治療は、このポイントに向けて指示されるべきである。
【0146】
本発明の血行動態マッピング技法を用いて得ることができる視覚的表現の潜在的な用途と共に、罹患率および死亡率の減少、ならびに財政的費用および社会的費用の減少といった、患者のケアにおける可能性のある利益は多い。知覚中の心不全に関連したリスクをなくすことに加えて、本発明は、深部静脈血栓症および肺塞栓症などの症候群についての危険因子の検出および識別に役立つことを、これらが、適切な標的治療で完全に回避可能である無症状低流量状態(sub−clinical low−flow state)の併発症として識別できるときに、証明することもできる。
【0147】
おそらく最も重要なことだが、本発明の技法は、ショック症候群の臨床兆候がある前に、心不全の傾向をよく検出することを可能にする。これは、麻酔の実施、ならびに長時間の手術後の認知機能障害および他の臓器機能不全の発見についてとても多くの意味を有する。
【0148】
さらに、前に述べた通り、本発明の技法は、加齢がどのように血行動態機能および薬力学に影響を及ぼすのか実質で理解するために、医師が、様々な患者群(例えば女性60歳以上、男性70歳以上)を代表するバルク・データ(bulk data)を客観的および定量的に評価することを可能にする。これにより、医師が、高齢患者および高齢女性患者をモニタすることを可能にし、特に、これらの下位集団の実際のまたは予期された血行動態機能に応じて、血管抵抗に対する血圧の極端な依存性、およびターゲットの薬物療法を詳細にモニタすることを可能にする。血行動態マッピング技法を利用するターゲットの治療は、高齢女性において現在受け入れられない高さである麻酔の罹患率を著しく減少させることが期待される。
【0149】
さらに、一部の患者は加圧治療に反応し、他の患者は種々の血管拡張剤、血管収縮薬などにより良く反応することが麻酔において広く理解されている。これらの予想のつかない変化は、説明なしで過去に受け入れられてきたが、本発明の実施形態による血行動態マッピングは、これらの差の背後にある生理学的反応を理解するために、定量手段(quantitative vehicle)を提供する。
【0150】
研究期間中に患者が「生理学的ショック」の状態にいなかったことがまずは知られていない限り、麻酔下の薬物効果は薬剤に起因し得ないので、本発明の技法は、薬物効果の調査(薬力学)についてとても多くの意味をやはり有する。
【0151】
添付の特許請求の範囲に定められるような本発明の範囲から逸脱することなく、様々な修正、追加および/または変更が、前述の部分になされてもよいことを理解されたい。
【0152】
以下の例は、本発明の方法を臨床の場に適用することを実証する。
【実施例1】
【0153】
拡張型心筋症の80歳男性は、シュードモナス菌、尿路感染(UTI)、および腎機能の悪化で入院した。この患者は、収縮機能障害と共に敗血症を示す。図9a中の血行動態マッピングは、第3の等圧線に沿った1日目のデータの傾向によって明らかなように、入院時この患者は、循環障害(すなわち血管ポンプの障害)であることを示す(図8a中に表されるパターンと比較されたい)。拡張型心筋症のため、収縮機能障害は、被験体が生理学的自己調節ゾーンで全身灌流圧を維持するのを妨げる。この患者が処置に反応すると、患者の循環が、正常な自己調節ゾーンに戻り(3日目および4日目のデータ参照)、同時に腎機能の正常化および強心療法の休止となることをマッピングは示す。流れ−圧力方式(図9b中の等抵抗ノモグラム)中に表されるとき、自己調節ゾーンは、3日間にわたって次第に回復することも示す。
【0154】
本明細書の本体中で述べたように、この実施例は、SVRの落ち込み、COの増加、および圧受容器の「設定ポイント」でのSPPによって表されるタイプ1のショックのパターンを示す。拡張型心筋症のため、この敗血症の患者は、血管運動神経性緊張の失調を完全に補償することができない。
【実施例2】
【0155】
79歳女性は、結腸右半切除および経腹的食道切除を受ける。安静時の導入前COは5.9である(安静時の導入前COは、生理学的な自己調節ゾーンであり、「血行動態のマップ」を読むときに役立つ。流れ−圧力方式(図10a中の等抵抗ノモグラム)の自己調節ゾーンは、手術室内(OTデータ)の麻酔中の明確な「心不全」パターンを示す。
【0156】
この患者が正常な自己調節範囲にある場合、図10a中のデータ値は、図6a〜図6d中の実線によって示されるように導入前の値の右へ水平になる傾向がある。しかし、データは、図6cのショック・パターン中に表されるようなタイプ3のショックの表現に対応する等抵抗線に沿って図10a中下方に向かう傾向がある。この値を知ることは、図10bに示す「等圧線ノモグラム」を解釈するのにも役立つ。ここでは、図8c中に表されるようなタイプ3のショックと一致するパターンをやはり示す自己調節ゾーンから下方に向かう傾向がある患者データが見える。
【実施例3】
【0157】
冠状動脈バイパス手術を受けた正常な左心室機能を有する健康な62歳男性である。図11a中の自己調節ゾーンは、バイパス前およびバイパス後の「心不全」パターン(図6c中に表されるようなタイプ3のショックと比較されたい)、およびICU内で手術後に発生する炎症パターン(図6a中に表されるようなタイプ1のショックと比較されたい)を示す。
【0158】
集中治療に到着すると、患者は、全身性炎症反応を発生しており、そこでパターンは、タイプ1の(敗血症のような)パターンへ変化する。図10b中のマッピングから、自己調節ゾーンは、心不全パターンと炎症パターンの間の変曲で、約80mmHgであるように出現する。手術後に、この患者は、通常の炎症反応パターンを生じた。
【0159】
手術して2日後、患者が低血圧および乏尿であったとき、血行動態データがやはりマップされ(図11b)、患者に心不全の臨床兆候がないにも関わらず、マップは思いがけず「心不全」パターンを示した。患者は臨床的に良いと思われたので、被験体は、外科病棟へ送られた。3日後、患者は、末梢性浮腫(bipedal edema)および低血清ナトリウムを伴って臨床的に明らかな心不全であった。血行動態マッピングは、3日前に、心不全パターンの存在を識別することができ、それは、臨床的に明らかであった。
【実施例4】
【0160】
大動脈弁置換術(AV replacement)および冠状動脈移植術を受けた大動脈弁狭窄症および冠動脈疾患の63歳男性。手術後(1日目)、患者は、広範囲前壁梗塞を有した。流れ−圧力曲線(図12a中の等抵抗ノモグラム)は、タイプ2のパターン、すなわち、拡張機能障害のある循環障害を示す(図6bのパターンと比較されたい)。患者は、血管形成術を受け、改善された。3日目に、患者は悪化し、心原性肺水腫を臨床的に有し(タイプ3、図6c中のパターンと比較されたい)、これは図12a中のマッピングからやはり明らかである。
【0161】
同様に、図12b中の等圧線ノモグラムは、1日目にタイプ2のショック(図8b中のショック・パターンと比較されたい)、および3日目にタイプ3のショック(図8c中のショック・パターンと比較されたい)に向かう傾向を示す。
【0162】
この患者は、再び人工呼吸され(reventilated)、ラシックス(lasix)およびドブタミンを用いて肺水腫の処置を受けた。大きな利尿作用で、患者は4日目から5日目に改善し、抜管されるのに十分良かった。図12cおよび図12dは、流れ−圧力方式および抵抗−流れ方式でそれぞれ示すと共に、5日目のデータについて、タイプ3のショック・パターンから等圧線ノモグラム(図12c)中の水平線に向かう傾向にある自己調節設定ポイントをより代表するパターンへの回復を示す。
【実施例5】
【0163】
順調な冠状動脈バイパス手術を受けた気管支拡張症の81歳男性。4日目に、患者は、臨床的大葉性肺炎を発病し、乏尿性になる。全身灌流圧は、30〜40mmHgまで降下し、それにより患者は、再び人工呼吸され、透析される。PreRRTおよびRRTのデータのための図13a中(等抵抗ノモグラム)および図13b中(等圧線ノモグラム)の視覚的マッピングは、RRTの開始で血管運動神経性緊張の突然回復を示す。これにより、最終的な回復に適合する灌流圧を回復する。
【0164】
利尿薬なしで入院後10日目、患者は、自発的な排尿過多を生じる。医学の従来の教示は、これは、1)尿素誘導の浸透圧利尿、2)水の蓄積、および3)尿細管尿濃縮能の減少によるものであると言う。10日目のこの患者の血行動態マッピングは、腎臓は正常であり、根本的な問題は血管運動神経性緊張であることを示唆しており、それによって突然回復する。次いで、おそらく、循環アルブミン(circulating albumin)の膠質浸透圧が、増加した間質液を「吸い出す」ことができる。図13cおよび図13d参照。
【実施例6】
【0165】
冠動脈疾患のある65歳女性患者。既往歴は左乳房切除術および放射線療法である。心臓上への照射は、心筋症を引き起こす。この患者は、正常な心臓反応と手術後の「循環障害」とをつなぐことができず、図14a(等抵抗ノモグラム)および図14b(等圧線ノモグラム)に示すように、タイプ2のパターン(すなわち拡張機能障害)を示す(図6b中に表されるパターンと比較されたい)。手術後3日目に、これは回復する。図14c参照。
【実施例7】
【0166】
この実施例は、正常な自己調節を示す。入院患者の正常な自己調節を研究することが通常できない。これは、低ナトリウム血症により人工股関節全置換術後、痛みが鈍化されて7日目の94歳の女性である。この患者は、心臓血管により良かったので、データが収集されて自己調節の正常なプロセスを調べた。これらは、図15a中の等抵抗ノモグラム、図15b中の等圧線ノモグラム、および図15c中の等流ノモグラムの中に表される。
【0167】
症例研究1 − 79歳男性、虚血性心疾患、最近脳血管障害(CVA)、「オフ・ポンプ冠状動脈バイパス移植術」を受けている
移植術中に心臓は外的に圧縮されている間、心臓は、繰り返し起こる徐脈性不整脈を生じた。HRは、約40拍/分まで変化し、次いでより速い内因性速度約80拍/分まで跳ね戻る。SVRおよびaSVRがこの期間中に同時にグラフ化されると、それぞれの値の間にかなりの違いがあった(図25)。未調整のSVRに比べて、aSVRは、HRでほんの少し変化するだけである。
【0168】
症例研究2 − 67歳男性、冠動脈疾患、(オン・ポンプ)冠状動脈バイパス移植術を受けている
患者は、バイパス以前、8ml/時間のノルアドレナリンだった。バイパスをやめると、この患者は、5ml/時間のドブタミンで補充された。SVRに対するCOのグラフ(図26a)は、バイパス前(prebypass)の期間に比べて、患者はドブタミンの追加で血管拡張され、心拍出量にかなりの改善があったことを示す。これは、ドブタミンの知られた効果と一致し、ドブタミンは、バイパスをやめるときにノルアドレナリンに加えられ、SVRの減少およびCOの増加を見せる。圧力は変化しない(傾向線D参照)。
【0169】
しかし、このデータをさらなる分析にかけると、欠点が明らかになる。前後の期間についてSVおよびHRをプロットすると(図26b)、HRはほぼ50%増加し、(CO=HR×SVなので)COの改善を説明するが、心肺バイパス法は、ドブタミンの追加が、SVに変化をもたらさないことを明らかにする。
【0170】
SPP、SV、およびaSVRの間の関係をマップすると(図26c)、aSVRまたはSVの変化がなく、ドブタミンを加えるときに、HRの増加があるに過ぎないことが明らかになる。この分析によって、ドブタミンは、変力物質でなく、血管拡張剤でもないという結論が導かれる。SVRそれ自体がHRの増加について補正されておらず、ドブタミンの追加によるものであるので、この効果は、単に人工的なものに過ぎない(aSVRは、mmHg/mLの単位でプロットされており、mmHg/Lではないことに留意されたい)。
【0171】
症例研究3 − 80歳女性、腹腔鏡下胃底皺襞形成術(laparoscopic fundoplication)、ICUでの手術後に心房細動を発病した。
これは、アミオダロンを用いてうまく処置することができたものであり、患者は洞リズムに戻った。これまで、心房細動は、血行動態の妥協および末梢血管収縮(抵抗の増大)に関連していると臨床的に考えられていた。しかし、急性AFの存在下で、SVRが連続して計算される場合、血管抵抗が減少することがしばしば現れる。これは、図27aの等圧線ノモグラムに示される。しかし、SVおよびaSVRのマッピング(図27b)は、血管収縮の存在を確認する。SVRがaSVR/HRに等しいので、実際の血管抵抗が変化しないまたは実際には増加するときでも、患者が頻脈を生じると、SVRは減少する。
【0172】
症例研究4 − 57歳、過体重の男性患者、両膝関節全置換。
この患者は、麻酔中に低血圧になり、20mcgのアドレナリンが与えられ、それによってHRが増加し、SVRの低下が計算された(図28a)。後に、患者は、ノルアドレナリンの注入を30ml/時間(20mcg/分)までで開始された。HRに対してSVをマップすると(図28b)、アドレナリンとノルアドレナリンの両方が、SVを同程度まで増加させることが見られたが、アドレナリンは、HRの上昇を引き起こさず、ノルアドレナリンは、HRの低下に関連している。しかし、aSVRおよびSVのマッピングでは(図28c)、アドレナリンもノルアドレナリンも血管抵抗に影響を及ぼさない。HRが補正されると、これらの薬剤がこの患者の血管抵抗に及ぼす影響は、人工的なものに過ぎないことが分かる。
【0173】
症例研究5. 若い男性患者の敗血症
健康な肥満の57歳の年配男性の薬剤師は、腹腔鏡下胃緊縛法を受けた。13カ月後、上Gl徴候(upper Gl symptom)後、胃内視鏡検査は、胃管腔の中へのバンドの腐食を明らかにした。2日後、バンドは腹腔鏡下で除去され、初期の術後経過は平穏であった。手術後24時間、腹膜症の特徴を伴う患者は激しい腹痛の突然の発症を経験した。腹腔鏡検査では、バンドの箇所に胃に穴があり、膿が腹膜腔の中に滲み出ていた。傷は閉じていたが、患者は、後に横隔膜下膿瘍を発病した。感染した穿孔の操作中に得られた血行動態マッピングのデータは、SPPは基本的に正常のままであったが、血管抵抗の深い降下、およびCOの補償的上昇を示した。
【0174】
図29中の等圧線ノモグラムは、15分間隔で離れたデータ点を用いて圧力、流れ、および抵抗の連続変化を示す。データのこの傾向は、タイプ1のショックの典型であり、穿孔(1)の操作中のSVRの病理学的な低下は、CO(2)の増加によって補償され、続いてSPP(3)を失わせると、COの低下となる。
【0175】
症例研究6 83歳女性患者 ASがAVRを受けた
この患者の導入前の血行動態の値は、CO3.7、SVR2480、MAP125、CVP11、(MAP−CVP114)であった。手術後4日間、COはほぼ一定のままであり、手術後72時間において0.1〜0.2L/分ほどで変動した。
【0176】
手術後30時間で、CO4.7、SVR1120、MAP77、CVP12(MAP−CVP65)であり、患者は、タイプ2のショックのパターンを示し、SVR>1600へメタラミノールの注入滴定が開始された。これは、12時間必要なだけであり、次いで速やかに引き離された。患者は、腎機能障害を生じず、平穏な術後の経過であった。図30は、手術後、COは一定のままであり、メタラミノールの注入で変化しないことを示している(3日目)。CO、SVR、およびSPPは、手術後72時間にわたって30分ごとにマップされた。COおよびSVRが、時間に対してマップされる場合、COは変わらず、したがって、SPPは、SVRの変動に完全に依存していることを見ることができる。
【0177】
表1は本発明の一実施形態により分類できるショックの3つタイプの指標を表す図である。
【表1】
【0178】
表2は高齢女性の期待COを評価するための本発明者の“60−70−80−90/100−80−60−40ルールを提示する表である。
【表2】
【0179】
表3は高齢女性の平均SVRを評価するための本発明者の60−70−80−90/20−25−30−35の大体の目安を提示する表である。
【表3】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間または動物の被験体の血行動態機能(haemodynamic performance)を測定する方法、システムおよびソフトウェア・プロダクト(software product)に関する。本発明は、限定するものではないが、特に、治療法をモニタリングおよび改善するのに用いるために、被験体から好ましくはリアルタイムで得られる血行動態変数の視覚的マッピングを生成するコンピュータにより実施される方法、システム、およびソフトウェア・プロダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
正常な健康状態のとき、人間または動物の体組織は、生理的バランスを絶えず維持する。病気、薬剤、外科的介入、外傷、心肺バイパス法などによる外的影響があるときでも、体組織は、生理的バランスを維持するために自己調節する。このバランスを実現するために、全身の受容器が、圧力および流れなどの血行動態変数をモニタおよび調整するために働く。
【0003】
血行動態機能が最適でない状態のとき、自己調節が損なわれてしまった場合、被験体は、低血圧を発症するショック状態にしばしば入る。臨床の場では、被験体は、モニタされ、脳、心臓および腎臓などの全ての生命維持に必要な臓器に到達するのに十分な体内の流れがあり、これらの臓器の代謝要求を満たすために十分な酸素の送達を維持するようになっていることを確実にするように治療が施される。適切な治療を施すことができないと、患者の状態を悪化させることになり、ついには心不全をもたらす。
【0004】
伝統的に、モニタリングは、血圧測定値と共に、酸素飽和度、心拍数、ECG、および重症の場合には心拍出量の測定の測定値を得ることを含む。これらの各パラメータは、臨床家による身体的兆候の評価と共に、例えば救命救急診療、麻酔および手術中に被験体の循環機能の示度を与える。循環機能の変化は、より最適な値まで機能を回復するために治療を調整しなければならないことを暗示する。循環系の臓器の複雑さおよび相互作用を考えれば、被験体の血行動態機能が、主観的および個体的に見た様々な別々の変数を用いてモニタされているとき、医師が、適切な処置を決定することは困難である。成果の改善に対する大きな障害は、患者の管理における適切な血行動態の目標についての合意を欠いていることに起因する。全ての患者が同じ血行動態の目標を必要とするとの大筋の一致はあるが、(血圧、心拍出量、酸素化の)目標が、非常に重要であることについては意見が分かれている。
【0005】
図1に示すように、生理学の教科書は、ショックの生理学を説明するために2本の曲線を再現する。正常な循環中、一定の流れが、広範な血圧にわたって維持される。これは、『自動調節範囲(autoregulatory range)』として知られている。自己調節についての生理学的機構は、十分には理解されていないが、筋肉の本質的な特性(『筋原』説)、および/または圧力が増加するにつれて蓄積する生理学的な分子の結果(『代謝』説)、および/または流れを低いレベルで維持するために血管の障壁を横切り、外側から増加した圧力を及ぼす流体の効果(『組織圧』説(“tissue pressure”hypothesis)であると考えられている。
【0006】
曲線Iは、平均動脈圧60〜130mmHgを有する『正常な患者』(正常血圧の患者)の自己調節曲線を表す。曲線IIは、高血圧の患者の自己調節曲線を表す。ここでは、一定の流れが、より高い圧力で維持され、したがって、『自己調節』が生じる血圧範囲が、右へシフトされる。高血圧の患者の場合、圧力の範囲60〜130mmHgの自己調整の流れに代わりに、高血圧の患者ではこの範囲が、80〜150mmHgであり得る。
【0007】
自動調節範囲の下端より下で(領域A)、血圧および心拍出量は落ち込む。これは、低拍出量性低血圧(low output hypotension)を特徴付けると認められている。しかし、これらの曲線は、(敗血症に生じるような)高拍出量性低血圧(high output hypotension)である被験体を説明しない。代わりに、医師は、Guytonモデルに由来するグラフ表現に頼ってきた。1970年代に考案されたGuytonモデルは、処置を工夫するために、少数の実験動物の研究、および血圧および心拍出量のコントロールの仕方を説明するための現在では劣る測定技法に頼った。
【0008】
Guytonによれば、循環では、静脈還流(前負荷)および心室機能(心拍出量)の一定の整合がある。これは、図2中に表される。Guytonの閉じた系では、心臓への静脈還流(中心静脈圧(CVP)/右房圧(RAP))は、心臓から駆出される容量に整合しなければならない。任意の中心静脈圧値が、静脈還流と心室機能の間の複数の『均衡点』を表すことができる。静脈還流が増加する場合、静脈還流曲線は右にシフトし、中心静脈圧は増加し、患者は心室機能曲線(VFC)を「上に」移動する。患者が出血している場合、静脈還流は減少し、曲線は左へシフトし、新しい均衡点が心室機能曲線上のより低い点に生じる。
【0009】
臨床の場では、医師は、最適でない血行動態機能の特徴を示す被験体の適切な治療を決定するために、Guytonパラダイムに適用できる個々の生命徴候モニタリング・システムに頼る。Guytonモデルは、定常状態の状況において直観的に臨床観察に整合するが、Guytonモデルは、ショック状態を十分に説明せず、例えば、健康的な人と肥満の人、および若年成人と高齢者の生理学的な差異を明らかにすることができない。さらに、Guytonモデルの使用は、臨床の場では適用されてきた立証されていない理論を、おそらく、処置される患者の不利益に促してきた。これらの欠陥は、以前から知られていた。研究者のグループの1つは、Rivers(NEJM、2001年)によって考案された代替の蘇生アルゴリズム(resuscitation algorithm)の使用を検査中であり、この蘇生アルゴリズムは、「目標に向かった治療」の最新の現れであり、その目標は、このことは生理学的な目的であり、血管拡張および心拍出量増加はそれに向けられたものであるとする今までのところ立証されていない仮定の下に酸素の送達を増加させることである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Rivers(NEJM、2001年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
最適でない血行動態機能を受けているまたは受ける可能性がある被験体をモニタする改善された手法を提供することが望まれている。最適な血行動態機能を回復するための治療を決定するやり方を改善することも望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様を見ると、本発明は、人間または動物の被験体の血行動態機能を決定するコンピュータで実施される方法であって、全身灌流圧(SPP)、全身血管抵抗(SVR)、および心拍出量(CO)を含む群から選択される少なくとも2つの血行動態変数を直接的または間接的に得ることができる前記被験体から経時的に計測される第1の受信データをプロセッサで受け取ることと、関係SPP=CO×SVRに従って前記少なくとも2つの血行動態変数を関係付ける視覚的マッピングを表示装置に提示させるようになされる表示信号を生成するように前記第1の受信データを処理することと、前記視覚的マッピングを表示装置に表示させることとを含む方法を提供する。記憶装置デバイスに具体化されるコンピュータ・プログラム・プロダクトは、コンピュータ・プロセッサにこの方法を実行させる命令を含んでもよい。
【0013】
視覚的マッピングは、第1の次元(例えば、垂直軸上)のCO、および第2の次元(例えば、水平軸上)のSVR、または第1の次元(例えば、垂直軸上)のSVR、および第2の次元(例えば、水平軸上)のSPP、または第1の次元(例えば、垂直軸上)のCO、および(例えば水平軸上の)第2の次元のSPPをプロットするグラフを生成することを含んでもよいが、他の方式も考えられる。好ましくは、視覚的マッピングは、第3の血行動態変数の値を決定するためのスケールを表す1つまたは複数の目印を含む。
【0014】
好ましい実施形態では、プロセッサは、対応する期間にわたって直接的または間接的に被験体から計測される心拍数(HR)および一回拍出量(SV)を含むさらなる血行動態変数を表すデータも受け取り、第1の受信データは、HRを調整するように処理される。これは、SVRはそれ自体、現実の生理学的な実体ではないので、実際の全身血管抵抗(aSVR)を決定することによって実現される。そうではなく、aSVR=SVR×HRであり、CO=HR×SVであるので、aSVRは、関係SPP=SV×aSVRに従ってSPPに関連付けられる。したがって、好ましい実施形態では、視覚的マッピングは、第1の次元(例えば垂直軸上)のSVおよび第2の次元(例えば水平軸上)のaSVRをプロットする。COは、第3の次元で示すことができる。
【0015】
一実施形態では、プロセッサは、データを処理して、表示装置に、第2の視覚的マッピングを同時に提示させる第2の表示信号を生成する。第2の表示信号によって生成される視覚的マッピングは、関係CO=HR×SVに従ってデータをプロットする。このマッピングは、高齢者の循環を知る上で手掛かりとなり得る。
【0016】
一実施形態では、プロセッサは、好ましくは(例えば、所与の年齢および性別の)同様の生理学的プロフィールを有する人々の集団の特定のデータに基づいてマッピング上の自己調節ゾーンを見積もると共に表示器に提示するようにプログラムされている。自己調節ゾーンは、例えば手術中に被験体をリアルタイムにモニタする臨床家による使用のために参照点として表示装置上に表示することができ、そこでは治療が、リアルタイムのマッピングを年齢および性別別の自己調節ゾーンに向けて回復するように指示される。したがって、自己調節ゾーンは、被験体に特有の自動調整『ゾーン』を決定するようにプロセッサによって使用することができ、それに向けて治療を指示することができる。好ましくは、データは、リアルタイムに被験体から得られ、処理されるが、データ収集およびそれに続くマッピングは、多くの場合および特に研究で役立つことが分かり得る。
【0017】
しかし、蘇生時に被験体の治療が向けられ得る自己調節ゾーンは、その被験体に特有のものであることを必要としないことを理解されたい。例えば、外来または緊急の状況では、安静時に健康な状態であるときの被験体の血行動態機能を表す利用可能なデータがなく、その結果、被験体の特有の自己調節ゾーンを知ることができない場合もある。したがって、蘇生時に参照される自己調節ゾーンは、同様の人口統計の特徴付けを有する様々な代表的な被験体から収集されたマップされたデータから得ることができる。実際は、この手法は、臨床転帰のかなりの改善を実現することができる。人口統計上の特徴付けは、例えば年齢、性別、肥満度指数、体表面積などのうちの1つまたは複数のマッチング(matching)が含まれ得る。
【0018】
一実施形態では、プロセッサは、ショックなどの生理学的症候群に関連し得る1つまたは複数のパターンを、データにおいて識別するようにプログラムされている。プロセッサは、被験体の血行動態データ中の1つまたは複数の識別されたパターンに基づいて症候群をタイプ1、タイプ2、タイプ3、またはそれらの組み合わせのうちの1つに分類するようにプログラムされている。
【0019】
プロセッサは、被験体から計測される1つまたは複数の血行動態変数の不足を定量化するようにプログラムすることもできる。プロセッサは、例えば、被験体のマップされたデータと、被験体に特有の事前に決定された自己調節ゾーンとの間の差を決定すること、または被験体のデータと、固体集団から平均された事前に決定された自己調節ゾーンとの間の差を決定すること、またはデータ値から被験体に特有の自己調節ゾーンを表す交点を推定することによって、上記のことを行うようにプログラムされてもよい。
【0020】
好ましくは、プロセッサは、被験体の最適でない血行動態機能を自動的に識別するようにプログラムされている。プロセッサは、被験体の最適な血行動態機能を回復するための治療行為を推奨するようにプログラムすることもできる。
【0021】
別の態様を見ると、本発明は、人間または動物の被験体の血行動態機能を評価するシステムを提供し、このシステムは、全身灌流圧(SPP)、全身血管抵抗(SVR)、および心拍出量(CO)を含む群から選択される被験体の血行動態変数を直接的または間接的に経時的に連続してモニタし、1つまたは複数の対応する第1のデータ信号を生成する1つまたは複数の変換器と、1つまたは複数の第1のデータ信号を受け取り、関係SPP=CO×SVRに従って少なくとも2つの血行動態変数が、好ましくはx−yマッピングにマップされる第1のデータの視覚的表現のための表示信号を生成するプロセッサと、表示信号を受け取り、視覚的表現を生成する表示装置とを備え、血行動態機能は、視覚的表現の検査で決定可能である。好ましくは、視覚的表現は、第3の血行動態変数の値を決定するためのスケールを表す1つまたは複数の目印を含む。
【0022】
一実施形態では、プロセッサは、対応する期間にわたって直接的または間接的に被験体から計測される心拍数(HR)および一回拍出量(SV)を表すデータ信号をさらに受け取り、実際の全身血管抵抗(aSVR)を決定することによってHRについて第1のデータを調整するものであり、ただしaSVR=SVR×HRである。CO=HR×SVなので、SPP関係は、SPP=SV×aSVRと再表現することができる。プロセッサは、表示器に関係CO=HR×SVに従って変数の第2の視覚的マッピングを提示させる第2の表示信号を生成することができる。視覚的マッピングは、同時に表示されてもよい。
【0023】
一実施形態では、このシステムは、データの視覚的表現のモードを選択するモード選択器を備え、このモードは、第1の次元(例えば垂直軸上)のCO、および第2の次元(例えば水平軸上)のSVR(等圧線ノモグラム);第1の次元(例えば垂直軸上)のSVR、および第2の次元(例えば水平軸上)のSPP(等流ノモグラム);ならびに第1の次元(例えば垂直軸上)のCO、および第2の次元(例えば水平軸上)のSPP(等抵抗ノモグラム)から選択される。モード選択器によって選択可能なモードは、第2の視覚的マッピングの同時表示を含むこともできる。
【0024】
このシステムは、受信データまたは受信データの一部に基づいて被験体に特有の自己調節ゾーンを見積もる分析モジュールを備えてもよい。生理学的症候群に関連したデータの1つまたは複数のパターンを識別する診断モジュールが設けられてもよい。一実施形態では、生理学的症候群はショックであり、診断モジュールは、識別された1つまたは複数のパターンを使用してショック症候群をタイプ1、タイプ2、タイプ3、またはそれらの組み合わせのうちの1つに分類する。
【0025】
被験体からモニタされた血行動態変数のうちの1つまたは複数の不足を定量化する分析モジュールが設けられてもよい。システムよって使用されるこの技法は、前述のコンピュータで実施される方法の概要におけるものに対応する。このシステムは、最適でない血行動態機能が検出されると、警報を自動的に作動させるように構成される警報モジュールをさらに備えることができる。
【0026】
別の態様を見ると、本発明は、人間または動物の被験体あるいは一群の人間または動物の被験体の血行動態機能を決定する方法であって、被験体または一群の被験体の群から経時的に得られる血行動態変数を表すデータの視覚的表現を生成することであって、前記データが、(i)全身灌流圧(SPP)、(ii)全身血管抵抗(SVR)、および(iii)心拍出量(CO)を含む群から選択される2つの変数を表す、生成することと、視覚的表現から被験体の血行動態機能を見積もることとを含む方法を提供する。被験体の血行動態機能を見積もることは、被験体のデータのパターンまたは傾向(パターンの変化)を識別することと、および/または例えば、視覚的表現から第3の変数の対応する値を評価することとを伴ってもよい。
【0027】
好ましくは、視覚的表現は、血行動態機能の連続したマッピングをリアルタイムに与える。助けるために、視覚的表現は、第3の変数を定量化するための1つまたは複数の目印を含んでもよく、1つまたは複数の目印は、関係SPP=CO×SVRに従って決定される。
【0028】
一実施形態では、視覚的表現中に表されるn個の血行動態データは、実際の全身血管抵抗(aSVR)を決定することによって心拍数(HR)を補正するものであり、ただしaSVR=SVR×HRであり、CO=HR×SVであり、SPPの関係は、SPP=SV×aSVRと再表現される。このようにして、視覚的表現は、第1の次元の一回拍出量(SV)および第2の次元のaSVRを表すデータを含むことができる。
【0029】
好ましくは、リアルタイムに、血行動態データを得て使用して視覚的表現を生成する。この方法は、被験体に特有の自己調節ゾーンを見積もることを伴うこともできる。
【0030】
データ中で識別されたパターンは、ショックなどの生理学的症候群に関連し得る。一実施形態では、1つまたは複数の識別されたパターンは、ショックをタイプ1、タイプ2、タイプ3、またはそれらの組み合わせのうちの1つに分類するために使用される。
【0031】
この方法は、前述のコンピュータで実施される方法に関連して提案された技法を用いて、被験体の血行動態変数のうちの1つまたは複数の不足を定量化するステップを伴うこともできる。
【0032】
一実施形態では、この方法は、被験体の最適でない血行動態機能を自動的に識別すること、および/または被験体の自己調節ゾーンに向けて血行動態機能を回復するように被験体のために治療法を滴定するもしくは合わせることをさらに含む。好ましくは、被験体の血行動態機能が最適でないときに、警報を自動的に作動させる。
【0033】
この方法は、血行動態機能に対する薬理学的治療の効果、および行為の速度を評価するために使用されてもよい。この方法は、最適な状態に向けて最適でない血行動態機能を回復するための処置計画または示唆される治療を自動的に案出するために使用することもできる。
【0034】
文献、行為、材料、装置、記事などの参照を含む本明細書に含まれる本発明の背景の議論は、本発明の内容を説明するためのものである。これは、特許請求の範囲のいずれかの優先日にある限りにおいて、言及される材料のいずれかが、発行された、知られた、またはありふれた一般的な知識の一部であることの承認または示唆としてとられるべきではない。
【0035】
次に本発明の実施形態を、添付図面を参照して説明する。図面は、本発明の特色を説明するために与えられるものに過ぎないことを理解されたい。図面は、説明の先の部分の一般論に取って代わるものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲または今後本明細書に基づいて優先権を主張する出願において定めることができるので、本発明の範囲を制限しない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(I)正常血圧の被験体および(II)高血圧の被験体の自己調節機能をそれぞれ示す一般的な自己調節曲線を表すグラフである。
【図2】Guytonによる自己調節曲線を表すグラフである。
【図3a】本発明の実施形態による3つの異なる方式で血行動態マッピングを用いる血行動態機能の視覚的表現の例を示す図である。
【図3b】本発明の実施形態による3つの異なる方式で血行動態マッピングを用いる血行動態機能の視覚的表現の例を示す図である。
【図3c】本発明の実施形態による3つの異なる方式で血行動態マッピングを用いる血行動態機能の視覚的表現の例を示す図である。
【図4】(i)濃く塗られた範囲内の「ドロップ・オフ・ゾーン(drop off zone)」、および(ii)命に支障のない全ての実際の生理学的なデータが生じる領域を示す等圧線ノモグラムである。
【図5】本発明の一実施形態によるシステムの構成要素を示す機能構成図である。
【図6a】圧力−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の一方式に対応する図であって、図6aはタイプ1のショックのパターンを示す図である。
【図6b】圧力−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の一方式に対応する図であって、図6bはタイプ2のショックのパターンを示す図である。
【図6c】圧力−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の一方式に対応する図であって、図6cはタイプ3のショックのパターンを示す図である。
【図6d】圧力−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の一方式に対応する図であって、図6dは図6a〜図6cの集合を示す図である。
【図7a】圧力−抵抗グラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の代替の方式に対応する図であって、図7aはタイプ1のショックのパターンを示す図である。
【図7b】圧力−抵抗グラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の代替の方式に対応する図であって、図7bはタイプ2のショックのパターンを示す図である。
【図7c】圧力−抵抗グラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の代替の方式に対応する図であって、図7cはタイプ3のショックのパターンを示す図である。
【図7d】圧力−抵抗グラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現の代替の方式に対応する図であって、図7dは図7a〜図7cの集合である図である。
【図8a】抵抗−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現のさらに別の方式に対応する図であって、図8aはタイプ1のショックのパターンを示す図である。
【図8b】抵抗−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現のさらに別の方式に対応する図であって、図8bはタイプ2のショックのパターンを示す図である。
【図8c】抵抗−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現のさらに別の方式に対応する図であって、図8cはタイプ3のショックのパターンを示す図である。
【図8d】抵抗−流れグラフ上にデータが描かれ得る視覚的表現のさらに別の方式に対応する図であって、図8dは図8a〜図8cの集合を示す図である。
【図9a】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例1に述べた患者データを示す図である。
【図9b】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例1に述べた患者データを示す図である。
【図10a】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例2に述べた患者データを示す図である。
【図10b】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例2に述べた患者データを示す図である。
【図11a】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例3に述べた患者データを示す図である。
【図11b】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例3に述べた患者データを示す図である。
【図12a】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例4に述べた患者データを示す図である。
【図12b】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例4に述べた患者データを示す図である。
【図12c】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例4に述べた患者データを示す図である。
【図12d】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例4に述べた患者データを示す図である。
【図13a】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例5に述べた患者データを示す図である。
【図13b】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例5に述べた患者データを示す図である。
【図13c】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例5に述べた患者データを示す図である。
【図13d】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例5に述べた患者データを示す図である。
【図14a】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例6に述べた患者データを示す図である。
【図14b】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例6に述べた患者データを示す図である。
【図14c】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例6に述べた患者データを示す図である。
【図15a】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例7に述べた患者データを示す図である。
【図15b】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例7に述べた患者データを示す図である。
【図15c】本発明の一実施形態を用いて得られると共に実施例7に述べた患者データを示す図である。
【図16】主要な待機手術のために麻酔を導入する前の高齢の男性患者および女性患者のSVRデータを表す図である。
【図17】年齢に対してグラフ化した、図16中に表される同じ被験体のSPPデータを表す図である。
【図18】図16および図17からの男性および女性のデータを表す等圧線ノモグラムである。
【図19】麻酔を導入する前の47歳の正常な高齢女性患者の等圧線ノモグラムである。
【図20】図19にもプロットした47歳の正常な高齢女性患者の導入前COと年齢の間の関係を示すグラフである。
【図21】図19にもプロットした47歳の正常な高齢女性患者の導入前COと年齢の間の関係を示すグラフである。
【図22】高齢女性のSVRの年齢分布を示す図である。
【図23】高齢女性のSVRの年齢分布を示す図である。
【図24】高齢の男性のSVRの年齢分布を示す図である。
【図25】症例研究1の被験体についての、HRに関するSVRおよびaSVRの時間変動性を示す図である。
【図26a】症例研究2の被験体についてのSVRに対するCOのマップ図である。
【図26b】症例研究2の被験体についてのHRに対するSVのマップ図である。
【図26c】症例研究2の被験体についてのaSVRに対するSVのマップ図である。
【図27a】等圧線ノモグラムである。
【図27b】症例研究3の被験体についてのHRを補正すると共にSVおよびaSVRをマップしている等圧線ノモグラムである。
【図28a】等圧線ノモグラムである。
【図28b】SVおよびHRのマップ図である。
【図28c】症例研究4の被験体についてのHRを補正すると共にSVおよびaSVRをマップしている等圧線ノモグラムである。
【図29】症例研究5の被験体の等圧線ノモグラムである。
【図30】症例研究6の被験体の等圧線ノモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
Guytonによる自己調節曲線は、単一の臓器を横切る流れのダイナミクスに関する一般的な表現として今まで認められてきた。しかし、このモデルおよびモデルの使用者は、多数の臓器および臓器の微小血管床を含む体循環とのその関連性およびその体循環への適用性に対して曖昧であった。循環系全体は、単一の臓器よりずっと複雑な系であり、等価回路モデルとの関連において『並列』の複数の抵抗器とみなすことができる。この複雑さを考慮して、単一の臓器に当てはまるような一般的な自己調節曲線は、全体として体循環との関連性を有すると仮定することは実際にはためらいがあった。
【0038】
循環に関する現時点での理解に基づいて、中心静脈圧(CVP)は、脈管内の中身(intravascular filling)の代わりとして取り扱われ、すなわちCVPが高くなると、循環が「より充満」することになる。Guytonのモデルは、心臓および循環を説明する動的関係が、静脈還流と心機能曲線の間の変化する関係に反映されていると仮定する。単独で「高拍出量性低血圧」を表すGuytonのグラフ(図2)は、容量が増すにつれて、患者の血行動態機能が右へ移動し、対応する心室機能曲線(VFC)を「上に」移動させることを示唆する。しかし、VFC曲線から動脈圧へ推測することは可能でない。CVPが上昇する場合、灌流圧勾配は落ち込み、それによって組織の血流は落ち込む。患者が「ボリューム減少(volume depleted)」し、およびボリュームが増加している場合、動脈圧の増加が、静脈圧の増加より大きい場合に限り状況は改善され、すなわちMAP−CVP勾配が増加する場合、それによって灌流圧が改善される。
【0039】
全身灌流圧(SPP)は、体循環内の駆動圧勾配である。SPPは、大気圧を基準にしたときの中心静脈圧(CVP)と平均動脈圧(MAP)の間の(典型的にはmmHgの単位で測定される)差であり、SPP=MAP−CVPと計算される。現在、MAPおよびCVPの正常成人値は、それぞれ65mmHgおよび10〜12mmHgであると考えられるが、これらの値が生じさせる圧力勾配(すなわち53〜55mmHg)は、まず考えられていなかった。
【0040】
全身血管抵抗(SVR)は、血管系によって示される血流に対する抵抗である。SVRは、血管系(SPP)を横切る圧力勾配の測定値を血管を通る流速(Q、または拍出量CO)で割ることによって間接的に計算される。したがって、SVRは、mmHg/L/分またはダイン秒/cm5(SI単位)で表され得る。正常成人値は、900〜1600ダイン秒/cm5である。
【0041】
全身血管抵抗指数(SVR指数)は、身体サイズに対して補償されたSVRである。正常成人値は、1760〜2600ダイン秒/cm5/m2である。
【0042】
一回拍出量(SV)は、心収縮ごとに左心室から駆出される血液量である。
【0043】
心拍数(HR)は、1分当たりに生じる左心室収縮の回数である。
【0044】
心拍出量(CO)は、L/分単位で計測され、循環の中に左心室がポンプする1分当たりの血液量である。COは、HRとSVの積として計算される。正常成人値は、4.0〜8.0L/分である。
【0045】
体循環内で流れを駆動する圧力勾配、SPPは、血行動態機能を維持するのに不可欠である。患者が心肺バイパス法を受けるとき、圧力勾配は、30mmHgまで落ち込むが、それ未満ではないことが観察されている。同様に、循環停止直前に、SPPは30mmHgまで落ち込むことが観察された。したがって、SPP値(すなわち循環を駆動する正味の圧力勾配)が30mmHgを超える限り、心拍出量は、比較的正常であり得る。
【0046】
しかし、SPP勾配が、30mmHgまで降下すると、死が結果として起こる。この命に支障のない最小圧力勾配は、循環の『閉鎖圧(closing pressure)』と呼ばれる。これは、ミクロ血管系、特に毛細血管床に起因し得る流れに対する固有抵抗を表す。この意味は重要である。
【0047】
Guytonのモデルでは「閉鎖圧」の重要性が見過ごされ、SPPの重要性は認識されていなかったので、過去の焦点は、もっぱら血液酸素の含有量にあり、治療は、酸素供給と組織の酸素需要の間の不整合を正すことに向けられていた。したがって、既存の理論を用いると、高拍出量性低血圧および組織酸血症の患者は、血液酸素の運搬が不十分であることを示すと考えられている。対照的に、本発明による血行動態機能を観察することによって、根本的な問題は、十分な組織灌流圧勾配(すなわち不十分なSPP)であることが仮定され得る。圧力勾配が降下するときに組織の機能障害および不全が生じるとさらに仮定される。
【0048】
循環に関する伝統的な理解およびモデルの不十分さをさらに複雑化および強調するために、循環は、2つのポンプ、すなわち左心室および右心室の観点でこれまで理解されてきた。これらのポンプは、血管系のチューブを通じて血液を駆動して酸素を臓器に送達する。この既存のモデルに基づいて、CVPは、健康または病気の同じ情報を表さなければばらない。本発明は、作動中2つのポンプは心拍出および血管ポンプであると仮定される異なるパラダイムを生じさせる。
【0049】
心拍出と血管ポンプは共に、実質的に神経制御下である。心臓が、収縮中に大動脈の中に血液を駆出するとき、心臓は、拡張中に冠状動脈の血流を可能にするが、心臓は、血管ポンプ中の血圧の形態で「ポテンシャル・エネルギー」も蓄え、これを使用して心臓周期全体にわたって連続した血液の流れを送達する。
【0050】
血管ポンプは、神経系の神経支配によって調節される動的な臓器であり、循環毒素および薬理作用のある物質に対して感受性がある。本発明の実施形態は、心拍出の障害から主に生じるショック状態と、主に血管ポンプの障害の結果であるショック状態とを区別するために使用することができる。基本的なパターンを識別できる場合、補正のより明確な診断および戦略を案出することができる。
【0051】
オームの法則は、電気回路の電圧、電流および抵抗の関係を示し、以下の通り表すことができ、すなわち、
V=IR (式1)
であり、ただし、Vは電圧、Iは電流、およびRは抵抗である。電圧は全身灌流圧(SPP)に対応し、電流は心拍出量(CO)(すなわち流れ)に対応し、抵抗は全身血管抵抗(SVR)に対応する等価な変数を体循環から代用することによって以下の式が得られる。
SPP=CO×SVR (式2)
【0052】
オームの法則に基づいて、本発明は、被験体の血行動態機能の即時の示度を与える被験体から計測される血行動態変数の視覚的マッピングを生成する方法を提供する。したがって、人間または動物の被験体の血行動態機能を測定する方法は、全身灌流圧(SPP)、全身血管抵抗(SVR)、心拍出量(CO)、心拍数(HR)および一回拍出量(SV)のうちの少なくとも2つを含む、被験体から経時的に計測される血行動態変数を表すデータを受け取ることと、関係SPP=CO×SVRに従って血行動態変数を関係付ける視覚的マッピングの表示を生成するためのデータを処理することとを含む。好ましくは、この方法は、コンピュータで実施される。
【0053】
本発明者は、オームの法則は、循環の挙動を説明する単なる一般方程式ではなく、圧力、流れおよび抵抗のデータの連続収集によって、個々の患者に固有である特有のプロフィールを構築することができるという発見をし、このプロフィールを生成する方法およびシステムを考案した。実際のところは、個体ごとに循環は、異なる振る舞いをすることは、本発明の適用によって生じる重要な発見である。医学文献は、血管作用薬の作用のほぼ正しいプロフィールがあることを仮定するが、本発明の適用は、様々な薬理作用のある物質の活性プロフィールは個体差があり、異なる患者集団については変動が大きいことを明らかにする。本発明者は、血管作用薬の特徴の定義の多くは真実でなく、SVRの計算に基づくHRの影響を補正することができなかったことの結果であることも見出した。
【0054】
図1中の自己調節曲線Iを再び参照すると、安静時の健康な患者については、下側の変曲点Sは、心拍出量(CO)(すなわち流れ)が正常な圧力範囲にわたって一定のままである血行動態機能についての自動調整の「設定ポイント」に対応する。これは、曲線の水平部分に対応する。下側の変曲点Sより下で、COは、圧力と共に落ち込む。この範囲は、文字Aによって示され、ドロップ・オフ・ゾーンを表し、このドロップ・オフ・ゾーンより下で臓器機能不全が生じる。曲線の水平部分より上で、COは、圧力と共に増大する。この領域は、文字Bによって示される。
【0055】
式1を体循環に適用することによって、SVRが直線的に増加しているので、CO(すなわち流れ)は、曲線の水平領域において一定のままであると推定することができる。したがって、COの代わりにk(定数)を用いると、循環に適用されるときオームの法則は、
SPP=k(SVR) 式3)
になる。
【0056】
視覚的マッピング(例えば図3a)のy軸上のCOに対しx軸上のSVRをプロットすることによって、自己調節範囲は、ほぼ水平の線によって表される曲線の領域に現れるはずである。式SPP=CO×SVRは一般的な形態a=xy(ただしx=COおよびy=SVRである)を有するので、aが所与の特定の値(例えば30mmHg、45mmHg、60mmHg、80mmHg)である場合、変数は、図3aに示すように関係付けることができる。この等圧線ノモグラムは、圧力、流れ、および血管抵抗の間の相互作用の時間依存のマッピングを与え、個体の血行動態パターンに関する大量の情報を開示する。
【0057】
図示するように好ましい実施形態では、一連の目印または『等圧線』は、SPPの対応する値(すなわち30mmHg、45mmHg、60mmHg、80mmHg、120mmHg)についてのスケールを表し、この値は、原点から離れるにつれて増加する。例えば、介入および/または時間ウィンドウを反映するために、この『方式』のマッピングで血行動態データのストリームを重ね合わせ、データ点を色で塗り分けることによって、かなりの量の情報をマッピングの目視検査によって集めることができる。
【0058】
垂直軸上にCOの値および水平軸上にSPPの値をプロットすることによって生理学的範囲全体にわたって血流と圧力の間の関係を表す別の方式のマッピングが、図3bに示されている。これは、等抵抗ノモグラムと呼ばれ得る。一連の等抵抗の目印が、マッピングに設けられている(すなわち、SVRは、グラフ内の「z変数」になる)。垂直な破線は、「閉鎖圧」を示し、この閉鎖圧より下では全身の流れがない。
【0059】
SVRが、水平軸上のSPPに対し垂直軸上にプロットされている別の方式のマッピングが、図3cに示されている。Guytonモデルに基づく『古典的な』自己調節曲線が、このマッピングに重ね合わされている。「下側の変曲点」より下で、圧力は、流れ依存である。プラトー領域(plateau region)は、ある別個のパターンを表すが、集団全体において脳および腎臓の血流の保存に関する洞察を何らもたらさない。垂直な破線は、ミクロ循環系の「閉鎖圧」をやはり表し、この閉鎖圧より下では流れがない。いずれの場合にも、破線の矢印は、第3の変数(すなわち図3b中のSVR、図3c中のCO)の増加の方向を表す。
【0060】
上記の通り、毛細血管床の典型的な固有抵抗は、流れを持続させるための最小圧力勾配30mmHgを必要とし、この値より下で循環停止が生じることが受け入れられている。したがって、図3a〜図3cの表現については、SPPが30mmHgより下のゾーンは、生存が可能ではない視覚的表現の範囲を示すと認識することができる。これは、図4の等圧線ノモグラムの濃く塗られた領域として示される。被験体から得られる血行動態変数を表すデータが、濃く塗られたゾーンに向かう傾向にある場合、被験体が、最適でない血行動態機能を受けていることが直ちに明らかである。被験体のデータが、視覚的表現の濃く塗られた領域に入ると、血行動態機能は、もはや命に支障がないことはない。
【0061】
加えて、x軸上の30mmHgの等圧線の漸近線は、SVR約5mmHg/l/分(または400SI単位)で生じる。麻酔または集中治療を受ける患者からのデータをマップすることによって、任意の特定のSPPについて、全て生理学的なデータは、曲線Pの連続と濃く塗られた範囲との間の範囲内で生じることが明らかになる。さらに、血行動態データが30mmHgと45mmHgの等圧線の間に位置する患者は、臓器不全を経験する可能性があり、血行動態データが45mmHgおよび60mmHgの等圧線の範囲内に位置する患者は、臓器機能不全を経験する可能性があることが明らかになっている。
【0062】
上記の原理を適用することによって、オームの法則が体循環に関連があるときにオームの法則によって関連付けられる変数のうちいずれか2つが、グラフ上にマップされる場合、第3の変数の値は、マッピングから直ちに読むことができる。好ましくは、第3の変数の決定は、関係SPP=CO×SVRに従って第3の変数のスケールを表す目印(等流線、等抵抗線、等圧線)を含むものによって助けられる。3つの血行動態変数の間のこの関係を視覚的に表すマッピングを生成することによって、医師は、循環機能の視覚的概要が与えられ、これによって医師は、一目で血行動態機能を決定および定量化し、最適な機能の回復に向けて治療を指示することが可能になる。この表現は、本明細書では『血行動態マッピング』と呼ばれ得る。
【0063】
様々な方式の利用可能な血行動態マッピングうち、マッピング(グラフ)は、第3の変数の観点で説明することができる。例えば、圧力−抵抗グラフは、等流ノモグラムとして説明することができ、圧力−流れグラフは、等抵抗ノモグラムとして説明することができ、および流れ−抵抗グラフは、等圧線ノモグラムとして説明することができる。各場合は、第3の変数のスケールの値を示すグラフ内の目印を参照する。
【0064】
いくつかの理論は、敗血症が、仮想の『酸素負債』の存在を生じさせることを示唆しており、そのようなものが存在する場合、それを定量化する方法が分かっていない。より重要なことには、心拍出量不足を計算する既存の方法がなく、この心拍出量不足は、負債を返済し最適な血行動態機能を回復するように修正を受けなければならない。これは、この仮想の不足が、時代遅れの根拠のない循環モデルおよび当て推量に基づいて原理を適用することによって臨床環境内で扱われてきたので関心事である。
【0065】
本発明は、人間もしくは動物の被験体、または被験体の群の血行動態機能を評価するシステムを提供する。このシステムは、全身灌流圧(SPP)、全身血管抵抗(SVR)、および心拍出量(CO)を含む群から選択される被験体の血行動態変数を直接的または間接的に経時的に連続してモニタし、1つまたは複数の対応するデータ信号を発生させる1つまたは複数の変換器を含む。心拍数(HR)および一回拍出量(SV)をモニタすることもできる。プロセッサは、この1つまたは複数のデータ信号を受け取り、関係SPP=CO×SVRに従って変数のうち2つがx−yマッピングにマップされるデータの視覚的表現のための表示信号を生成する。表示装置は、表示信号を受け取り、視覚的表現を、好ましくは変数のグラフィカル・マッピングの形態で生成するものであり、血行動態機能が、視覚的表現の検査で決定可能である。
【0066】
図5は、本発明の一実施形態による人間または動物の被験体の血行動態機能を決定するシステム1の構成要素を示す機能構成図を与える。参照符号1によって全体的に示されるシステムは、全身灌流圧(SPP)、全身血管抵抗(SVR)、および心拍出量(CO)から選択される被験体の2つの血行動態変数の決定を助ける生理学的パラメータをモニタする1つまたは複数の変換器2を備える。
【0067】
2つの変数を表すデータは、任意の適当な変換器またはセンサを用いて得ることができる。典型的には、2つの変数は、(MAPおよびCVPをモニタし、差を計算することによって間接的に得られる)SPP、およびCOである。好ましくは、視覚的表現を生成するために使用されるデータ・セットは、実質的に連続したデータ・セットであり、視覚的表現は、リアルタイムに生成されるが、代替として、データを収集し、次いでもっと後の段階で処理して視覚的表現を生成することもできる。データを連続して収集し、リアルタイムに使用して血行動態機能の視覚的表現を生成する場合、そのままで用いられるとき被験体の血行動態機能に関してなんら概要を与えないいくつかの別個の生理学的パラメータをモニタすることを含む現在頼られている方法よりも効果的で正確なやり方で、被験体の循環機能の傾向および変化をモニタすることが可能である。
【0068】
肺動脈カテーテルは、循環系内の流れおよび圧力の決定において確立した役割を果たし、臨床環境に普及してきた。しかし、当然ながら、その使用に伴う十分に裏付けられた罹患率および死亡率は、薬物の役割を縮小させ続けている。肺動脈カテーテルよりも少ない侵襲で血行動態パラメータを測定することが可能である。拍出量モニタとして働く種々の装置を比較するいくつかの研究は、ほとんどが、信頼性が高く、互いに約10%内の値をもたらすことを示唆する。逆に、一部の装置、特に、超音波技法に基づた装置は、理想的なデータを得るためにかなり熟知していることが必要であり、患者が動くと信頼性を損なう。
【0069】
好ましい実施形態では、被験体の血行動態機能を確実に示すことができる3つの変数のうちの2つを表す連続したデータ・ストリームを与えることができる装置が好ましい。そのような装置の1つは、『Vigileo』モニタと共に使用するために、2005年、Edwards Lifesciences社によって公表された。Vigileo装置は、動脈パルス輪郭解析に頼り、中心静脈圧の測定値を組み合されたとき、肺動脈カテーテルによって与えられるものと同様の変数、すなわちCOおよびSVRの連続したデータ・ストリームを与えることができる。Vigileo装置は、他のパラメータ、例えば一回拍出量、一回拍出量の変動、および混合静脈血酸素分圧なども測定する。これらの変数は、本発明の技法を補足できる役立つ補足情報を医師に与える。代替として、当業者に知られているような肺動脈カテーテルまたは様々な他の変換器装置が使用されてもよい。
【0070】
変換器2は、典型的には、十分に正確で頑強な信号を得るように被験体20の適切な身体部分に付着される。各変換器から信号を受け取り、プロセッサへ入力するために信号を調整する変換器ドライバ3が用いられてもよい。プロセッサ4は、ドライバ3から信号を受け取り、信号を処理して表示信号を生成する。この表示信号は、表示装置6によって使用されてデータの視覚的表現を与える。典型的には、データは、表現のx軸およびy軸上にそれぞれ表される2つの変数を用いてマップまたはプロットされる。プロセッサ4は、分析モジュール12、警報モジュール14、および診断モジュール16などの様々なモジュールと、記憶装置18とを備えることもできる(以下参照)。モジュール12〜16は、プロセッサ4と一体に設けられてもよく、またはシステムの性能を改善するための外部プロセッサとして設けられてもよい。
【0071】
被験体に特有の自己調節ゾーンを見積もる分析モジュール12が、設けられてもよい。この曲線は、安静時の間に、通常の健康時の被験体から受け取ったデータに基づいてよい。次いで、このデータを使用して自己調節のための被験体の設定ポイントまたはゾーンを確立し、例えば麻酔中に、その設定ポイントまたはゾーンの方に治療を向けることができる。代替として、自己調節ゾーン/設定ポイントは、代表的な被験体の群からプールされたデータを参照することによって決定することができる。この場合、自己調節ゾーン/設定ポイントは、モニタされる被験体に固有のものではなくなるが、それでも、被験体の血行動態機能の傾向および最適でない血行動態機能を識別して、血行動態変数の不足を見積もり、リアルタイムの治療を最適化するために使用することができる。
【0072】
好ましくは、分析モジュールは、血行動態機能が最適でないまたは最適になっていないときを示す被験体データの傾向を識別する。分析モジュールは、CO、SVRまたはSPPの不足のうちの1つまたは複数の不足を識別し、好ましくは、被験体が治療を必要としていることを、警報モジュール14を介して知らせるように構成することもできる。
【0073】
分析モジュールは、個体の(薬剤または流体の投与などの)治療の有効性を評価する、または固体集団(例えば高齢者、またはより詳細には高齢者の女性)の治療の有効性を評価する評価モジュールを備えてもよい。HRの変動の補償効果によってマスクされることなく循環の治療の実際の効果を決定することができるので、この評価は、血行動態マッピングがHR向けに調整されるときに特に強力になる。評価モジュールは、持続時間中に数秒または数分にわたって生じるデータのパターンを識別することによって、より短い時間スケールで傾向(すなわちミクロ傾向)を評価することができる。代替として/加えて、評価モジュールは、より長い時間スケールで数時間または数日にわたって生じ得る傾向(すなわちマクロ傾向)を評価してもよい。
【0074】
警報モジュールは、表示装置6および/またはラウドスピーカー9でメッセージによって警報を知らせることができる。不足は、例えば、被験体に特有の自己調節ゾーンまたは設定ポイントを参照することにより、または健康な個体の集団を代表する自己調節ゾーン/設定ポイントを参照することにより、またはデータ値から被験体に特有の概念的な自己調節ゾーンを表す交点を推定することによって決定することができる。
【0075】
診断モジュール16は、プロセッサ4内で動作することができ、または生理学的症候群に関連した1つまたは複数のパターンを、被験体のデータ中で識別する別個のプロセッサ実行命令であってもよい。生理学的症候群の1つは、心不全である。血行動態マッピングは、皮膚色、発汗、および心拍数などの伝統的な指標によってそのような診断をもたらす前に、早期の心不全を示すパターンを十分に識別するために使用することができる。症候群をより早期に識別することよって、治療は、すぐに開始することができ、これにより最適なまたは少なくとも改善された血行動態機能の回復がもたらされ、臓器損傷を回避する。
【0076】
別の識別可能な生理学的症候群は、ショックである。図6a〜図6d、図7a〜図7d、および図8a〜図8dは、患者データを3つのショック『タイプ』のうちの1つに分類するために、診断モジュールによって使用され得るパターンのタイプのグラフィカル表現を与える。これらの図は、ショック・パターンを破線として示すが、線は案内に過ぎず、診断モジュールが、破線に沿って現れるデータ点の存在にただ頼るのではなく(経時的な変数の変化によって明らかな)データ中の傾向を特定のショック・パターンに向けて識別して、被験体が、特定のショックのタイプを受けているという決定を行うように構成されることが好ましいことを理解されたい。
【0077】
好ましくは、診断モジュールは、単一のショック・プロファイルまたは2つ以上のショックのタイプの組み合わせに向かう傾向にある被験体の血行動態機能について決定を行うように構成される。診断モジュールによって識別できる他の生理学的症候群または危険因子には、視覚的表現またはマッピングを構築するためのデータ中で識別可能な低い血流から生じる深部静脈血栓症および肺塞栓症が含まれる。
【0078】
好ましい実施形態では、診断モジュール16は、被験体の最適な血行動態機能を回復するために分析モジュール12の推奨活動によって決定される自己調節ゾーンおよび/または設定ポイントを使用するように構成される。この推奨活動は、被験体がCO不足を受けているというメッセージの表示または警報を伴い、これを修正すべきということを示すことができる。代替として/加えて、診断モジュールは、データベース18またはモジュール内のルックアップ・テーブルを参照することによって治療を推奨することができる。これには、薬理学的介入、輸液などの推奨が含まれ得る。
【0079】
被験体20への治療(例えば薬剤、酸素、流体など)の提供または滴定を、ポンプ、およびカテーテル、フェイス・マスク、鼻カニューレ等などの治療セットを介して直接制御するフィードバック制御治療モジュール10が設けられてもよい。フィードバック制御治療モジュールは、分析モジュールによって決定され得るような特定の薬剤について個体の用量反応関係に従って確立され得る所望のSPPを実現するように患者への薬剤または他の治療の滴定を自動化することが考えられる。しかし、最終的な制御は、診断モジュールによって決定され、フィードバック制御治療モジュール、治療滴定モジュールなどによって被験体に施される治療を無視できる医師次第であると考えられる。
【0080】
加えて/代替として、外部インタフェース5が、プリンタおよびネットワーク構成要素などの外部装置とつなぐために使用可能である。好ましくは、キーパッド/マウスなどの入力装置7が、制御盤8、ラウドスピーカー9、およびフィードバック制御治療モジュール10と共に設けられる。このシステムは、電源制御装置11を通じて商用電源によって電力供給され得る。商用電源が故障の場合に備えて、バッテリ・バックアップ12が、システムへの途切れのない電力供給を確実にするために設けられてもよい。
【0081】
プロセッサ4は、本発明による方法を実行するためのコンピュータ・プロセッサ実行可能命令を記憶する記憶装置18を備えることが好ましい。この命令は、ソフトウェア・プロダクトなどを使用することによって記憶装置にインストールすることができる。ソフトウェア・プロダクトは、ソフトウェア・アプリケーションを事前にインストールして販売された所有者のシステムの場合であり得るように、プロセッサの固定記憶装置にインストールされてもよい。代替として、ソフトウェア・アプリケーションは、ディスク装置または他のストレージ・デバイス(storage device)上の購入したソフトウェア・プロダクトまたはネットワーク接続などを介してダウンロードしたソフトウェア・プロダクトを用いて、既存の計算装置(臨床環境で使用することができるVigileoまたは他のモニタなど)にインストールされてもよい。
【0082】
血行動態機能を決定中の被験体について、経時的に被験体から得られる一連の値は、視覚的表現を生成するために使用される。安静時かつ一般的に健康な状態で被験体から得られる値は、値が被験体の特有の自己調節ゾーンを代表することになるのに十分安定であり得る。これは、様々な方式で表され得る。これらの方式から、最適な血行動態機能が生じる被験体の自己調節ゾーンまたは『設定ポイント』を確かめることが可能である。実施例7は、本発明の実施形態による実際の被験体から得られる血行動態マッピングを与えるものであり、94歳女性についての血行動態機能の視覚的表現を与えるように自己調節データがマップされている。
【0083】
血行動態マッピングの精度は、血管の収縮性/弾性(コンプライアンスの逆数)がSPPおよびSVRに与える影響を明らかにするための補正を与えることによって改善することができる。式1は、SPP=CO×SVRを与え、ただし、SVRは、mmHg/L/分の単位で与えられる。以下の点に留意されたい。
CO=HR×SV (式4)
しかし、式4を式1に代入すると、
SPP=HR×SV×SVR (式5)
が与えられ、これは、脈拍mmHgの単位である。これは、SPPの実際(より詳細には、SPPを決定するものであるSVR)の測定値は、より完全な画像を与えるために、HRについての補正を必要とすることを示す。したがって、左心室の収縮ごとに変動についてSVRを補正することによって補正を行うことができる。補正したSVRは、拍動ごとの実際の全身血管抵抗(aSVR)と呼ばれ得るものであり、ただし、
aSVR=SVR×HR (式6)
である。
【0084】
これを整理し直して以下のものを得ることができる。
【0085】
【数1】
【0086】
これは、以下の関係を与える。
SPP=SV×aSVR (式7)
ただし、aSVRは、血流に対する抵抗の指標であり、左心室の収縮ごとの血管系(単位mmHg/L)によって示される。aSVRは、各心室収縮後に反動する血管系の能力によって影響され、したがって、循環の弾性の指標である。SVRの代わりにaSVRを利用することによって循環に関する既存の理解における流れを補正し、SVの値をaSVRに対してプロットする血行動態マッピングによって、医師が、血管系に対する薬剤の影響をより効果的に検査することが可能になるが、これは、例えばSPPまたは伝統的なSVRに対する、HRの血行動態調整の外部からの影響がないためである。症例研究1〜4は、本発明の実施形態による血行動態マッピングを実行するときに、HRを補正することに関連した利益を実証する。
【0087】
これらの観察は、変力薬に関連した現在理解されているアドレナリン受容体選択性が、全ての被験体に等しく適用することができないという可能性を強調する。HRの影響が明らかにされると、アドレナリン、ノルアドレナリンおよびメタラミノールの影響が、実質的に同一であるように思われる。これは、例えば、これらの薬剤が末梢血管緊張を変化させるかの主要な決定要因が、年齢および性別であり得る可能性をもたらす。例えば、閉経前の循環では、これらの物質は全て変力物質として働くが、異なる変時作用を有する(アドレナリンはHRを増加させ、ノルアドレナリンおよびメタラミノールはHRを減少させる)のに対し、閉経後の循環では、年齢およびSVが一定の場合に心臓が堅くなるので、末梢血管の筋肉に対する優性効果があるという可能性がある。
【0088】
さらに、本発明の発明者は、循環には3つの別々のパターンがあると仮定する。あるパターンは解消し、異なるパターンが生じるとき、パターンが変化する圧力は、自己調節ゾーンの下側の変曲点である。すなわち、下側の変曲点は点または領域であり、この点または領域を中心にしてこれらのパターンは「回転」する。
【0089】
好ましい実施形態では、この方法は、視覚的表現でマップされるような被験体のデータの中で、ショックなどの生理学的症候群に関連した1つまたは複数のパターンを識別することを含む。本発明の方法を用いて様々な被験体について血行動態機能の視覚的表現を生成することによって、本発明者は、3つの別々のショックのパターン(低血圧)を、以下の通りに観察した。
【0090】
本明細書ではタイプ1のショックと名付けられる第1のパターンでは、被験体は、SVRの減少およびCOの代償的増加を経験して、重症の病状の場合があるが、ほぼ安定したSPPを維持する。タイプ1のショックは、全身性炎症反応症候群(SIRS)における初期敗血症、外傷、および膵炎などの臨床的症状の中で観察可能であるが、これらに限定されない。循環障害(すなわち血管ポンプの障害)、続いて心拍出による補償が、タイプ1のショックの根底をなす病因論であると仮定される。タイプ1のショックは、正常な反応であるが、補償が不完全である場合、圧力勾配が、下側の変曲点に向かって等圧線を横切る傾向がある。流れは比較的増加するが、タイプ1のショックでは、この流れは、正常な臓器の灌流圧を維持するのに十分でなく、臓器機能不全が結果として起こる。症例研究5は、タイプ1と呼ばれる種類の補償ショックに関する。
【0091】
本明細書ではタイプ2のショックと名付けられる第2のパターンでは、被験体は、ほぼ安定したCOを維持しつつ、SVRおよびSPPの減少を経験する。タイプ2のショックは、拡張機能障害、多臓器不全症候群、後期敗血症および急性心筋梗塞などの臨床的症状の中で観察可能であるが、これらに限定されない。タイプ2のショックは、閉経後に拡張機能障害の現象が広範に見られることにより高齢者(特に高齢女性)においてよく観察され、SVの変動性はほとんどなく、したがってCOだけが増加し、HRを増加させる(COを増加させる非効率な手段)。循環障害(すなわち、血管ポンプの障害)および心拍出の障害が、タイプ2のショックの根底をなす病因論であることが仮定される。症例研究6は、タイプ2のショックに関する。
【0092】
本明細書ではタイプ3のショックと名付けられる第3のパターンは、被験体が、COおよびSPPの減少を経験するが、SVRの変化は実質的にないことを見出す。タイプ3のショックが観察可能である臨床的症状には、麻酔、出血、心原性ショック(心筋量の重大な損失)および心原性肺水腫、LV梗塞、血液量減少性ショック、およびことによるとアジソンショックが含まれるが、これは、副腎不全によって生じる低血圧があり、副腎は、圧力、流れおよび抵抗の神経内分泌調節(neuro−endocrine regulation)における重要な構成要素であるからである。このショック・パターンは、麻酔および集中治療では珍しく、タイプ1は、「流れ依存圧力調節因子(flow−dependent pressure regulators)」において優勢であり、タイプ2は、高齢の「抵抗依存圧力調節因子(resistance dependent pressure regulators)」において優勢である。純粋な心不全は、タイプ3のショックを生じさせることが仮定される。
【0093】
Riverのプロトコルとは異なり、本発明は、生理学的に別々の敗血症を有するサブグループを区別する手段を提供する。つまり、CO、SVRおよびSPP(すなわちMAP−CVP)をモニタし、血行動態マッピングを用いて、これらのパラメータの(すなわち、例えばSVおよびaSVRの)変化のパターンを観察することによって、患者の年齢および性別についての正常な値を基準にして患者をタイプ1、2または3のパターンとして分類することができ、それに応じて治療を案内することができる。
【0094】
ショックの3つのパターンの特徴が、表1にまとめられている。各ショック症候群は、視覚的に、様々な異なるグラフィカル方式、例えば、
圧力−流れマッピング、
圧力−抵抗マッピング、および
抵抗−流れマッピング
などで表すことができる。
【0095】
いずれの場合にも、本発明の実施形態によれば、目視検査上、ショック症候群を示すパターンに向かう傾向がある被験体から得られるデータを使用して治療を指示することができる。
【0096】
図6a〜図6cは、3つのショック症候群ごとのパターンに対応する圧力−流れ曲線を表す。破線は、被験体の血行動態機能が準最適になると共にショック状態のうちの1つに向かう傾向があるとき、設定ポイントSから離れるように移動する観察可能な傾向を表す。各表現において、実線は最適な血行動態機能の範囲を表す。図6aはタイプ1のショックを示し、図6bはタイプ2のショックを示し、図6bはタイプ3のショック・パターンを示す。原点から放射状に広がる目印は、左から右へ値が増加するSVRのスケールを表す。各スケールの目印は、『等抵抗』線と呼ばれる。図6dは、3つのショック状態全てが破線によって表される図6a〜図6cのパターンの集合を表す。
【0097】
被験体の各群についての大容量のデータの血行動態マッピングは、年齢および性別については普通であるCO、SVR、aSVRおよびSPPについての値または値の範囲を確立するために使用することができる。これによりショック状態の治療の役立つ出発点を与える。理想的な状況は、ショック状態を発症する前の個体の発病前(導入前)データを有することであるが(症例研究6)、この情報がない場合(症例研究5)、似たような患者たちの群全体にわたって十分な一致があり、プールされたデータは、処置を役立つように案内することができる。
【0098】
興味深いことに、一般的な自己調節曲線はしばしば、圧力および流れがゼロに減少する状態で示されるが、述べてきたように、「普通の」被験体においては、毛細血管床の固有抵抗が、灌流圧勾配30mmHgで流れの突然の中断をもたらす。純粋な心不全では、圧力および流れは、設定ポイントSより下で『等抵抗』線に沿って減少し、『等抵抗』線は、離散点で終点となり、典型的には、SPP(すなわち勾配)30mmHgに対応する。このことは、以前は認識されていなかった。
【0099】
被験体の心拍出量は、異なる等抵抗線に沿って減少するので、より高い灌流圧に自己調節ゾーンを有する高血圧の被験体では、下側の変曲点より下の曲線の勾配はより小さい。Guytonモデルは、等抵抗線(実際には自己調節曲線)が個体の血行動態機能に固有であるということを認識していなかったため、Guytonモデルでは、このことは観察されない。収縮機能障害(例えば拡張型心筋症)を伴う循環障害では、被験体の血行動態マッピングは、心臓の代償が不完全であるので、タイプ1およびタイプ2のショックを表すパターンの間のどこかである傾向を示す。後期敗血症では、心臓は、プロセス(process)に関与することになるので、血管ポンプの障害を補償することはもはやできない。したがって、タイプ2のパターンが、心臓障害に関する炎症反応に対応するデータにおいて優勢である。
【0100】
図7a〜図7cは、ショックのパターンを識別することができる被験体の血行動態機能の視覚的表現の代替の手法として圧力−抵抗曲線を表す。ここで、被験体の抵抗値(SVR)は、x軸上の圧力(SPP)に対してy軸上にプロットされる。破線は、いずれの場合にも被験体の血行動態機能が準最適になると共にショック状態のうちの1つに向かう傾向があるとき、設定ポイントSから離れるように移動する観察可能な傾向を表す。各表現において、実線は、最適な血行動態機能の領域、すなわち自己調節ゾーンを表す。原点から放射状に広がる線は、左から右へ流量が増加するCOのスケールを表す。各スケールの目印は、『等流』線と呼ばれる。図7aはタイプ1のショックを示し、図7bはタイプ2のショックを示し、図7cはタイプ3のショック・パターンを示す。図7dは、3つのショック状態全てが破線によって表される図7a〜図7cのパターンの集合を表す。
【0101】
図8a〜図8cは、ショックのパターンを識別することができる被験体の血行動態機能の視覚的表現の別の代替の手法として抵抗−流れ曲線を表す。ここで、流れ(CO)は、x軸上の抵抗(SVR)に対してy軸上にプロットされる。破線は、いずれの場合にも被験体の血行動態機能が準最適になると共にショック状態のうちの1つに向かう傾向があるとき、設定ポイントSから離れるように移動する観察可能な傾向を表す。やはり、実線は、最適な血行動態機能の領域、すなわち自己調節ゾーンを表す。等圧線の形態の目印は、SPPのスケールを表す。この表現は、被験体の血行動態変数が、『ドロップ・オフ・ゾーン』に近づいており、すなわち30mmHg未満であり、全臓器への流れを持続させるのに十分ではない灌流圧勾配であるときの直接の関連がある視覚的表現を与えるので、おそらく臨床の場では最も役立つ。
【0102】
抵抗−流れの表現は、被験体の処置に対する反応を追跡するのに役立つ情報をもたらすと共に、ショック・パターンの診断を可能にする。図8aに示すショック・パターンは、タイプ1のショックを代表するものであり、初期敗血症およびSIRSに見られる。おそらく頸動脈洞における圧受容器の機能のため、身体は、自己調節範囲内で、すなわち自己調節ゾーンの等圧線に沿って全身灌流圧を維持しようとする。収縮機能が損なわれたとき、タイプ1のパターンは、いまだ認識可能であり、容易に定量化することができる「心拍出量不足」を識別することができる。不足は理論値であり、十分な酸素の送達を実現するために心拍出量はこの理論値へ増加するようになされるとする伝統的なモデルよりも、このことは改善である。また、「抵抗不足」も決定することができる。治療の目標および回復の結果は、正常な自己調節の安定状態(plateau)に患者を戻すことになる。
【0103】
CO不足は、いくつかのやり方で決定することができる(いくつかの実施形態で定量化される)。1つの方法は、正常に機能しながら(すなわち、安静時に正常な健康状態で)、被験体から得られる血行動態変数を参照すること、あるいは被験体の特有の自己調節ゾーン、または最適な血行動態機能のための所定の『設定ポイント』を参照することを含む。プレ・インサルト(pre−insult)「全身灌流圧」は、被験体の正常な血行動態機能に必要な最小限のものであるので、SPPが、このレベルより下に落ち込むとき、被験体は病気状態にあると考えられ、回復は正常なSPP勾配の回復によって実現される。したがって、「設定ポイント」を識別することによって(例えば、例えば麻酔の開始前に、COおよびSVRを計測することによって)、反応のパターンが変化するとき、変数のうちの1つまたは複数の変化の程度(すなわち不足)を定量化することが、例えば集中治療環境内で可能になる。
【0104】
被験体の自己調節ゾーンに対応するデータ(すなわちプレ・インサルト血行動態データ)が利用できない場合、安静時の間に、通常の健康時の典型的な被験体およびその血行動態プロフィールについて仮定を行うことによって血行動態変数のうちの1つまたは複数の不足を評価することが可能である。人は、体循環を維持するために30mmHgを超える最小「全身灌流圧」勾配を必要とするという仮定を適用することが可能である。このルールは、被験体の正常な血行動態機能に影響を及ぼす可能性がある健康要因に応じて変えることができる。例えば、高血圧の被験体では、必要なSPPは、80mmHgと仮定され得る。
【0105】
例えば、COおよびSVRをグラフ化することによって、結果として得られる「等圧線ノモグラム」から、(y軸からプロットされる)COを増加させることによって、または(x軸からプロットされる)SVRを増加させることによって、必要な最小圧力に到達し得るということを決定することが可能になる。必要な増加量は、各変数の不足を示す。
【0106】
不足を定量化する第3の方法では、血行動態マッピング・パターンが変化する場合、被験体の「設定ポイント」であるように出現する変曲点で「クロスオーバー」の位置を特定するために利用可能なデータを補間することによって識別することが可能である。これは、「下方側」の薬剤によって修正することができ、それによって被験体は、流れおよび抵抗を変えることによって特定の圧力を維持するように思われるが、薬剤は、「設定ポイント」を再設定するように思われ、そこだけ圧力が生理学的レベルより下である。
【0107】
図8bに示すショック・パターンは、様々な心疾患によって後期敗血症、MODS、および拡張機能障害に見られる。ここで、これは収縮機能障害のパターンでないが、血管ポンプ(すなわち循環)と心拍出が共に、機能しなくなっていることは明らかである。
【0108】
図8cに示すショック・パターンは、一見、大手術を受ける患者に広まっている。興味深いことに、このパターンの変数は、伝統的な考え方に基づいて許容範囲内であるが、心不全の『臨床的』証拠がなく、本発明者は、本発明による実際の患者データのマッピングを通じて、ショック症候群の臨床兆候がある十分前に心不全をもたらす傾向を検出することが可能であるという発見をした。これは、続く例においてより明らかになる。
【0109】
図8dは、破線によって表される3つのショック状態全てを表す図8a〜図8cのパターンの集合を表す。
【0110】
本発明により得られる血行動態データのグラフィカル・マッピングから確かめることができる傾向の情報を用いて、被験体が、タイプ1、2もしくは3のショックのパターンであるのかまたはそれに近づいているのか、あるいはそれらの組み合わせであるのかまたはそれらに近づいているのか、あるいは何か他の症候群であるのかまたはそれに近づいているのか、すぐに明らかである。変数がリアルタイムにマップされるとき、マッピングは、薬剤の投与などの治療に応じて血行動態機能の変化も反映する。ミクロ傾向は、心臓または循環に投与されておりこの心臓または循環に作用する任意の薬剤の作用をすぐに反映するので、マッピングは、処置に対する応答者である被験体と非応答者である被験体を識別し、それによって処置は、可能な最良の反応を実現するために素早く修正および滴定することができる。したがって、ノルアドレナリンなどの変力物質の場合、反応の存在、反応の性質、および反応の速度および程度が、すぐに明らかになる。また、マッピング技法は、個体の場合における異なる用量の薬剤に対する用量反応関係、または固体集団における異なる薬剤および異なる薬剤の用量に対する用量反応関係をマップすることを可能にする。本発明は、以前の技法を用いて可能ではなかった感度の良いやり方で、任意の薬剤に対する反応の圧力、流れおよび抵抗の変動の瞬時のパターンを『マップ』することを可能にする。これは、麻酔および蘇生における個別化された治療の扉を開く。
【0111】
本発明による、血行動態機能をモニタし循環を理解するこの新しいパラダイムは、多くの患者を理解および治療する際に利益をもたらす。特に興味深いのは、組織への酸素の送達を増加させることによって満たされなければならない代謝要求の増大を経験する敗血症の患者である。
【0112】
伝統的な原理によれば、敗血症の患者には、運動生理学に似ている状況が存在するということが長く受け入れられてきた。最大限に運動する被験体においては、心拍出量が、生理学的限界まで増加し、運動のレートがこの限界を超えて続く場合、『酸素負債』が生じる。継続した運動は、嫌気的代謝によりまだ可能であり、運動が終わると、心拍出量は徐々に運動前の水準に戻り、その時間の間に『酸素負債』が返済される。
【0113】
運動と、例えば菌血症によってもたらされる代謝要求の増大を満たすようにCOが上方調整された敗血症の患者との間で導かれる類推は、敗血症を『高心拍出量状態(hyperdynamic state)』として説明することをもたらした。この状態では、心臓は、COを増大させる、したがって酸素送達を増大させるように働く。したがって、COを増大させる薬理学的方法、およびアシドーシス性組織へ血液に酸素を供給する方法は、臓器の機能と死亡率に有利な利益があるはずである。このことは、酸素の送達をプロトコル化(protocolize)して心拍出量を「目標」の単位体表面積(BSA)当たり4.5l/分/m2まで増大させることによって、またはRivers(NEJM、2001年)の複雑なアルゴリズムによって患者に流体を積極的に供給し、変力物質を与えることによって伝統的慣行に影響をもたらした。しかし、これらの手法は、様々な成功を収めたが、それによって現在の処置プロトコル(treatment protocol)の有効性に疑いをもたらした。
【0114】
『高心拍出量状態』として敗血症を参照することは、感染と戦うように(すなわち、冒された組織への酸素の送達の増大を実現するように)心臓の努力(cardiac effort)の増大が求められることを暗示する。しかし、本発明の実施形態による視覚的マッピング技法を用いて、ここで敗血症は、バクテリアによって引き起こされる循環障害を参照することにより心拍出および血管ポンプを含む2ポンプ・モデル(two pump model)に基づいて説明することができる。
【0115】
敗血症を理解し、処置することの意味は大きい。すなわち、循環における血管運動神経性緊張の失調に応じて、COは、循環における圧受容器を含むフィードバック機構によって増大させられる。敗血症前のMAPが5L/分であり、SVRが15mmHg/L/分(すなわちSI単位で1200ダイン秒/cm5)であり、敗血症の発病であれば、SVRは7.5mmHg/L/分(600ダイン秒/cm5)まで減少するが、COは10L/分まで増加し、次いで発電が375から750へ増加する。したがって、なぜかを実際には理解せずに、敗血症は、『高心拍出量状態』と名付けられてきたが、これは、ここで、循環障害である患者の安静時の必要な発電の増加、およびCOの増加によって説明することができる。
【0116】
前述の通り、Riverのプロトコルは、MAP(65mmHg)およびCVP(10〜12mmHg)の目標を正式なものとし、この目標は、臨床医学内で幅広い支持がある。しかし、これらの目標は、発病前の健康な患者との相関がなく、管理のための適切な血行動態の目標としてこれらの値を支持する生理学的モデルがない。さらに、この目標は、患者の下位集団を区別しない。むしろ、この目標は、年齢、性別、生活様式などに関係なく被験体の間で血行動態機能が均一であることを仮定する。
【0117】
様々な権威の間でわずかなばらつきはあるが、正常な血行動態の値は、SVR900〜1400ダイン秒/cm5(11.25〜17.5mmHg/L/分)、心拍出量指数2.5〜3.5によって表されると言われている。これは、COの範囲4L/分および8L/分、ならびにSVR限界900〜1400ダイン秒/cm5である長方形によって説明される面積とおおよそ同じである。この長方形は、図16に示されており、これは、大きな待機手術のために麻酔を導入する前の高齢の男性患者および女性患者の実際の血行動態データを示す。これらのデータに関するとき、この一団には『正常』パラメータ内の女性患者がほとんどいないことが明らかになる。むしろ、観察された20人の高齢女性患者のうち約1人および高齢の男性被験体の約半数が、『正常』範囲内の血行動態機能を示す。
【0118】
本発明の血行動態マッピング技法を用いて実行される分析は、高齢の男性および女性の循環が異なるという奥深い面を明らかにした。本発明の実施形態による高齢の患者から得られるマッピング・データによって、高齢での心臓および循環の働きの面にかなりの変化があり、性別に応じて典型的な血行動態の値にかなりの逸脱が生じることが明らかになる。この種の下位集団の分析がなければ、伝統的な処置計画の影響が、改善された成果と悪化した成果の混ざったものをもたらし、それによって投与された治療の実際の効果を曖昧にした可能性もある。
【0119】
図16に示した同じ患者からのSPPデータが、年齢に対してグラフ化されるとき(図17)、SPPに性別による差があり、男性患者は、典型的には70〜115mmHgに分布するのに対して、女性患者は、典型的には90〜130mmHgに分布することが明らかになる。このことは、女性の冠動脈疾患(CAD)の発生率が50歳代の男性と同等に達するので、単独で興味深い。MAP65mmHgおよびCVP10〜12mmHgは、SPP53〜55mmHgと同じであるので、高齢者では「正常」値からの大きな逸脱があるだけでなく、高齢女性患者には、高齢の男性患者よりもかなり大きな程度高血圧があることが明らかになる。
【0120】
高齢の男性患者と女性患者の間の生理学的な差は、このことが示唆するものよりずっと大きい。図17からのデータは、図18の等圧線ノモグラムに再び示されており、図18は、同様の灌流圧(80〜130mmHg等圧線)を有する男性および女性の患者であるが、2つの性別群にCOおよびSVRに関してかなり相違があることを示す。女性患者を別に分析し、年齢に従って細分する場合、高齢になるにつれて、安静時のCOは次第に落ち込み、安静時のSVRは次第に上昇することが見ることができる。例えば、麻酔を導入する前の47人の正常な高齢女性患者についてデータをプロットする図19を参照されたい。
【0121】
血行動態マッピングの発明技法を用いると、60歳代の年齢から先へ、『健康』または正常な血行動態機能を示すと伝統的に認められていた血行動態パラメータから次第に逸脱があることを見ることができる。これは、年齢発症拡張機能障害を指し示すと考えることができる。
【0122】
同じ47人の女性被験体について、導入前COが、年齢に対してグラフ化される場合(図20)、高齢女性のCOは、年齢約60歳から落ち込み始めることが分かる。SPPは、維持されなければならないので、高齢になるにつれてSVRが増加するということになる。この一団の47人の女性患者に基づいて、本発明者は、高齢女性患者の期待COはどうすべきか評価する「大体の目安」の方法を考案した。これは、図21および表2に示すデータで実証され、図21は、年齢と共にCOが次第に落ち込むことを示し、表2は、高齢女性の期待COについての本発明者の“60−70−80−90/100−80−60−40ルールを提示する。
【0123】
それは、COについての対応する分析ほど「適切なものではない」が、粗い「大体の目安」の方法が、高齢女性の年齢と共に上昇するSVRを評価するためにやはり考案された。これは、図22および図23に示すものなどのマッピングに基づいている。表3は、高齢女性の平均SVRを評価するための本発明者の60−70−80−90/20−25−30−35の大体の目安を提示する。
【0124】
高齢の男性患者から得られるデータで同じ分析が実行される場合、COおよびSVRの同様の変化はより小さいことが明らかになるが、変化の始まりは、高齢女性の始まりよりも10年後に生じ、それほど急速に進行性ではない。図24は、70歳男性の安静時のSVRの進行性の増加を示す。しかし、このプロセスは同じであり、麻酔の蘇生、緊急治療室、およびICUについて同じ意味を有する。
【0125】
本発明者は、高齢になるにつれて生じるこれらの変化は、ポンプとしての心臓の性能の変化のためであると考える。安静時のCOが、高齢になるにつれて落ち込むので、SV(およびSV指数)は落ち込み、変動性の減少を示す。若い成人では、SVは、出力需要を満たすように継続的に変化するのに対して、高齢では、SVは不変になる。
【0126】
女性の約60年後および男性の約70年後の心臓の機能の変化は、年配の患者において変わらず、他では「拡張機能障害」と呼ばれるこのプロセスを表す。典型的には、拡張機能障害は、ポンプとしての心臓の障害を示すドップラー・エコー・パラメータの変化を参照することにより特徴付けられる。これは、高齢になるにつれて落ち込むSVおよびCOによって特徴付けられ、COを調節する手段としてHRへの依存の増加をもたらす。したがって、年齢と共に、心臓は、「ポンプ」として機能しなくなり始め、代わりに循環を巡る血液を通過させるための受動的な導管になる。
【0127】
このことは、本発明者を、心血管系機能の2つの極端である仮定に導いた。第1のものは、若い運動選手によって表され、この若い運動選手は、低い一定の血管抵抗、および低いHR、およびSVを変える能力を有する「流れ依存圧力調節(flow−dependent pressure regulation)」を有する。第2のものは、高齢女性によって表され、一定のSV(心臓コンプライアンス(cardiac compliance)の喪失による)、およびHRを変化させることによってのみ変えられるCOによって特徴付けられる「抵抗依存圧力調節(resistance−dependent pressure regulation)」を有し、この高齢者は、COを増大させるためにHRに頼り、および圧力を調節するためにSVRに頼る。
【0128】
これは、高齢者の高血圧を理解するために重要な意味を有する。90歳の女性患者が、3000ダイン秒/cm5の一定のSVRを有する場合、COの1L/分の増加は、血管抵抗1000ダイン秒/cm5を有する健康的な若い人よりも3倍、血圧を増大させることになる。COを調節するためにSVを変えることができないので、代謝要求の小さな増加は、高齢者では、際立った頻脈を引き起こす傾向がある。
【0129】
同様の状況が、COの調節においても生じる。典型的な成人では、比較的一定の全身の流れを維持するために、HRおよびSVは共に継続的に変化する。やはり、2つの極端がある。第1には、運動選手および病的に肥満の人に生じるように、HRは比較的低く、SVは幅広く変化する。したがって運動選手(および肥満の人)は、SV依存流れ調節器である。スペクトルの他方の端では、一定のSVを有する高齢の患者は、SVが低く一定であるので、不釣り合いにHRに頼る。したがって、これらの個体は、HR依存流れ調節器である。
【0130】
高齢者の進行性の心臓の硬直(progressive cardiac stiffness)に直面して、SVRへの依存の増大の結果は、病的血管拡張を引き起こす状態に対する感受性およびその罹患率の増大である。血管抵抗が非常に一定である高齢女性患者は、COを増加させるためにSVを増加させ、血管拡張を補償することができる若い患者よりも、血管拡張薬または敗血症による(細胞の酸素の送達に対応した意味のある)より大きな圧力降下を受ける。したがって、高齢の患者は、「閉経前の生体」に存在した代償性心臓機構がないことにより、同様の「敗血症の負荷」を単に有する若い人よりも臓器機能不全および臓器組織不全を受けることになる。
【0131】
高齢になるにつれて心筋の硬直によりSVの容量を変えることが次第にできなくなることは、心筋細胞の機能に対するアンドロゲン/エストロゲンの影響に潜在的に起因する。男性のエストロゲンの心保護作用は、より高い水準のデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、およびその硫酸抱合体(DHEAS)と、より低い心臓血管疾患の発生率の間の可能性のある関連を説明することができる。
【0132】
高齢になるにつれて生じるポンプとしての心臓としての機能を変化させることを考慮すると、高齢者のための治療として用いられる血管作用薬は、再評価を必要とすることが明らかになる。若い被験体に基づく薬力学的および薬物動態学的データをとても高齢な者に適用する慣行がもはや適切とは思われない。代わりに、再評価は、年齢および性別に固有である薬力学反応を区別するために幅広い集団からのデータの膨大なデータベースの調査を必要とし得る。本発明の実施形態による血行動態マッピングは、この再評価を助ける。
【0133】
本発明の本技法を適用することによって、本発明者は、麻酔が、(いつもではないが)しばしば、制御されたショックの状態であることを発見した。血行動態マッピングの技法を用いて、監視された変数が、正常なパラメータ内で注意深く制御されたにも関わらず、大手術を受ける患者が、しばしば「心不全」の状態になることを実証することができる。これは、臨床麻酔について深い意味を有し、(脳内の虚血性変化によって識別することができるような)認知機能障害が、いつもではないが、手術後によく生じるのかを説明することができる。このことは、後述の実施例において実証される。
【0134】
したがって、手術中の本発明の使用は、患者が『無症状性ショック』および最適でない血行動態機能を経験していることを手術中に実証するために使用することができる。これに続き、大手術のための麻酔中の本発明の使用は、最適な血行動態機能を回復するように治療を指示し、施される治療に対する被験体の反応をモニタおよび定量化するために使用することができる。これは、隠れた心不全をなくす可能性があり、それによって手術に参加し、永続する錯乱状態または臨床的認知症、過去の特徴と共に手術から目覚める高齢の患者を、認識力を保ったままにさせる。
【0135】
本発明は、医師が麻酔下の被験体が循環障害にないことを決定することを可能にし、循環反応の定量化を助ける血行動態マッピング手法として、調査中の麻酔薬(および他の物質)の脳への(および時間経過の)影響を決定するのに役立つことを証明することもできる。
【0136】
さらに、本発明は、認識される3種類のショックに基づいて、ショックの機能による分類の実施を可能にする枠組みを提供する。このやり方のショック症候群の分類は、生理学的に基づいており、今まで可能でなかった適合したおよび特定の個別治療の基礎を提供する。これは、手術、蘇生、および臓器機能不全を経験する患者にとって有益な意味を有する。
【0137】
本発明は、輸液蘇生技法を評価するロバストな方法も提供する。現在の蘇生の手法は、0.5ml/kg/時間を超過する尿流、または65を超えるMAPおよび10を超えるCVP(Rivers)などの信頼できない評価項目を伴う。これは、現在の処置プロトコルからのパラダイム・シフトを示すが、本発明による新規な手法は、生理学的に基づいており、ショック症候群をより良く理解し、客観的で証拠となるデータに基づいて蘇生技術を開発する能力がある。これは、本発明によりリアルタイムにマップすることができる患者データが利用できる環境のモニタリングに影響を与えるだけでなく、新たに開発された技術が適用され得る外来蘇生にも影響を与える。
【0138】
本発明の方法は、腎不全が敗血症またはSIRSまたはMODSと共に患者に生じる理由を実証するために使用することができる。「炎症カスケード」が、敗血症/SIRSにおける急性腎不全(ARF)の生理学にとって重要であることは長く認識されてきた。本発明の方法によるマッピング・データによって、腎代替療法(RRT)の開始により、血管運動神経性緊張を(通常は)回復することを実証することができる。本発明の方法は、通常、死が差し迫る点から最終的な回復に適合する位置まで血行動態的に患者を改善する。したがって、本発明の方法は、腎不全の主要な原因が、内因性腎疾患ではなく、血管筋障害(vasomyopathy)であることを実証する。
【0139】
これは、ARFから回復中の多尿症が、i)蓄積された尿素からの浸透圧利尿、ii)ARF中に蓄積された過剰な液体のクリアランス(clearance)、およびiii)尿細管尿濃縮能の減少の要因によって説明されるという確立された見解と矛盾する。本発明の方法を適用することによって、SVRおよびSPPの回復によって計測されるように多尿症が、「血管筋障害」の消散によることが示され得る。したがって、SIRSにおける臓器組織不全は、臓器に基づく疾患ではなく血管疾患である。
【0140】
さらに、本発明の技法は、確立された敗血症/SIRS/MODSにおいて、多臓器機能不全の中に心臓障害があるとき、心臓病変は拡張機能障害であることを実証するために使用することができる。
【0141】
本発明は、菌血症からの急性循環障害の現象を実証するために使用することもできる。この現象は、明らかに安定した血圧および脈拍数で生じ得る。しかし、本発明による視覚的表現における患者データのマッピングは、菌血症によって引き起こされる急性血管筋障害は、相対的な血液量減少よりも循環に対する強力な影響であり得ることを示唆する。一過性菌血症が、麻酔下で心拍出量を増加させる場合、細菌細胞壁の非感染成分を麻酔に用いる治療薬として識別する可能性があり得る。
【0142】
さらに、本発明の技法は、血管作用薬に対して十分に感受性があり、本発明の技法は、血管作用薬および心臓作用薬の血行動態プロフィールの解読を助けることができる。本発明の技法は、薬剤反応性の個人間変動を区別するのに十分感受性があると共に、薬剤への応答者および非応答者を検出するだけでなく、血管反応性を変える遺伝子「多型」で患者を選択的に識別することができる。
【0143】
HRの補償変化を調整する実施形態では、本発明は、特定の薬剤に対する反応性が他の集団とは異なる個体集団を区別し、その差の性質および大きさを評価するために使用することもできる。
【0144】
このモデルは、診断および処置の大変異なる手法をもたらしもする。任意の処置に関して、循環への影響は、容易に識別することができる。敗血症の患者に適用されると、本発明は、正確なリスク分類、ならびにより良い標的選択、および処置適用を可能にする。本発明は、危篤状態の患者の多臓器機能不全の生理学的発生を説明するために使用することもでき、薬剤の作用に関しての随分前に確立された信念および腎不全を解決する際の多尿症の原因に異議を唱えることができる。
【0145】
これまで、個体の患者において、一定の心拍出量が維持される血圧の『自動調節範囲』を確立する方法およびシステムがないと考えられてきた。しかし、本発明による被験体からの変数の連続したデータ・ストリームのマッピングは、「ドロップ・オフ・ゾーン」から正常な自己調節を分ける自己調節ゾーンの「下側の変曲点」または『設定ポイント』の識別を可能にする。このポイントは識別可能であるので、全ての被験体に特有のポイントがあり、治療は、このポイントに向けて指示されるべきである。
【0146】
本発明の血行動態マッピング技法を用いて得ることができる視覚的表現の潜在的な用途と共に、罹患率および死亡率の減少、ならびに財政的費用および社会的費用の減少といった、患者のケアにおける可能性のある利益は多い。知覚中の心不全に関連したリスクをなくすことに加えて、本発明は、深部静脈血栓症および肺塞栓症などの症候群についての危険因子の検出および識別に役立つことを、これらが、適切な標的治療で完全に回避可能である無症状低流量状態(sub−clinical low−flow state)の併発症として識別できるときに、証明することもできる。
【0147】
おそらく最も重要なことだが、本発明の技法は、ショック症候群の臨床兆候がある前に、心不全の傾向をよく検出することを可能にする。これは、麻酔の実施、ならびに長時間の手術後の認知機能障害および他の臓器機能不全の発見についてとても多くの意味を有する。
【0148】
さらに、前に述べた通り、本発明の技法は、加齢がどのように血行動態機能および薬力学に影響を及ぼすのか実質で理解するために、医師が、様々な患者群(例えば女性60歳以上、男性70歳以上)を代表するバルク・データ(bulk data)を客観的および定量的に評価することを可能にする。これにより、医師が、高齢患者および高齢女性患者をモニタすることを可能にし、特に、これらの下位集団の実際のまたは予期された血行動態機能に応じて、血管抵抗に対する血圧の極端な依存性、およびターゲットの薬物療法を詳細にモニタすることを可能にする。血行動態マッピング技法を利用するターゲットの治療は、高齢女性において現在受け入れられない高さである麻酔の罹患率を著しく減少させることが期待される。
【0149】
さらに、一部の患者は加圧治療に反応し、他の患者は種々の血管拡張剤、血管収縮薬などにより良く反応することが麻酔において広く理解されている。これらの予想のつかない変化は、説明なしで過去に受け入れられてきたが、本発明の実施形態による血行動態マッピングは、これらの差の背後にある生理学的反応を理解するために、定量手段(quantitative vehicle)を提供する。
【0150】
研究期間中に患者が「生理学的ショック」の状態にいなかったことがまずは知られていない限り、麻酔下の薬物効果は薬剤に起因し得ないので、本発明の技法は、薬物効果の調査(薬力学)についてとても多くの意味をやはり有する。
【0151】
添付の特許請求の範囲に定められるような本発明の範囲から逸脱することなく、様々な修正、追加および/または変更が、前述の部分になされてもよいことを理解されたい。
【0152】
以下の例は、本発明の方法を臨床の場に適用することを実証する。
【実施例1】
【0153】
拡張型心筋症の80歳男性は、シュードモナス菌、尿路感染(UTI)、および腎機能の悪化で入院した。この患者は、収縮機能障害と共に敗血症を示す。図9a中の血行動態マッピングは、第3の等圧線に沿った1日目のデータの傾向によって明らかなように、入院時この患者は、循環障害(すなわち血管ポンプの障害)であることを示す(図8a中に表されるパターンと比較されたい)。拡張型心筋症のため、収縮機能障害は、被験体が生理学的自己調節ゾーンで全身灌流圧を維持するのを妨げる。この患者が処置に反応すると、患者の循環が、正常な自己調節ゾーンに戻り(3日目および4日目のデータ参照)、同時に腎機能の正常化および強心療法の休止となることをマッピングは示す。流れ−圧力方式(図9b中の等抵抗ノモグラム)中に表されるとき、自己調節ゾーンは、3日間にわたって次第に回復することも示す。
【0154】
本明細書の本体中で述べたように、この実施例は、SVRの落ち込み、COの増加、および圧受容器の「設定ポイント」でのSPPによって表されるタイプ1のショックのパターンを示す。拡張型心筋症のため、この敗血症の患者は、血管運動神経性緊張の失調を完全に補償することができない。
【実施例2】
【0155】
79歳女性は、結腸右半切除および経腹的食道切除を受ける。安静時の導入前COは5.9である(安静時の導入前COは、生理学的な自己調節ゾーンであり、「血行動態のマップ」を読むときに役立つ。流れ−圧力方式(図10a中の等抵抗ノモグラム)の自己調節ゾーンは、手術室内(OTデータ)の麻酔中の明確な「心不全」パターンを示す。
【0156】
この患者が正常な自己調節範囲にある場合、図10a中のデータ値は、図6a〜図6d中の実線によって示されるように導入前の値の右へ水平になる傾向がある。しかし、データは、図6cのショック・パターン中に表されるようなタイプ3のショックの表現に対応する等抵抗線に沿って図10a中下方に向かう傾向がある。この値を知ることは、図10bに示す「等圧線ノモグラム」を解釈するのにも役立つ。ここでは、図8c中に表されるようなタイプ3のショックと一致するパターンをやはり示す自己調節ゾーンから下方に向かう傾向がある患者データが見える。
【実施例3】
【0157】
冠状動脈バイパス手術を受けた正常な左心室機能を有する健康な62歳男性である。図11a中の自己調節ゾーンは、バイパス前およびバイパス後の「心不全」パターン(図6c中に表されるようなタイプ3のショックと比較されたい)、およびICU内で手術後に発生する炎症パターン(図6a中に表されるようなタイプ1のショックと比較されたい)を示す。
【0158】
集中治療に到着すると、患者は、全身性炎症反応を発生しており、そこでパターンは、タイプ1の(敗血症のような)パターンへ変化する。図10b中のマッピングから、自己調節ゾーンは、心不全パターンと炎症パターンの間の変曲で、約80mmHgであるように出現する。手術後に、この患者は、通常の炎症反応パターンを生じた。
【0159】
手術して2日後、患者が低血圧および乏尿であったとき、血行動態データがやはりマップされ(図11b)、患者に心不全の臨床兆候がないにも関わらず、マップは思いがけず「心不全」パターンを示した。患者は臨床的に良いと思われたので、被験体は、外科病棟へ送られた。3日後、患者は、末梢性浮腫(bipedal edema)および低血清ナトリウムを伴って臨床的に明らかな心不全であった。血行動態マッピングは、3日前に、心不全パターンの存在を識別することができ、それは、臨床的に明らかであった。
【実施例4】
【0160】
大動脈弁置換術(AV replacement)および冠状動脈移植術を受けた大動脈弁狭窄症および冠動脈疾患の63歳男性。手術後(1日目)、患者は、広範囲前壁梗塞を有した。流れ−圧力曲線(図12a中の等抵抗ノモグラム)は、タイプ2のパターン、すなわち、拡張機能障害のある循環障害を示す(図6bのパターンと比較されたい)。患者は、血管形成術を受け、改善された。3日目に、患者は悪化し、心原性肺水腫を臨床的に有し(タイプ3、図6c中のパターンと比較されたい)、これは図12a中のマッピングからやはり明らかである。
【0161】
同様に、図12b中の等圧線ノモグラムは、1日目にタイプ2のショック(図8b中のショック・パターンと比較されたい)、および3日目にタイプ3のショック(図8c中のショック・パターンと比較されたい)に向かう傾向を示す。
【0162】
この患者は、再び人工呼吸され(reventilated)、ラシックス(lasix)およびドブタミンを用いて肺水腫の処置を受けた。大きな利尿作用で、患者は4日目から5日目に改善し、抜管されるのに十分良かった。図12cおよび図12dは、流れ−圧力方式および抵抗−流れ方式でそれぞれ示すと共に、5日目のデータについて、タイプ3のショック・パターンから等圧線ノモグラム(図12c)中の水平線に向かう傾向にある自己調節設定ポイントをより代表するパターンへの回復を示す。
【実施例5】
【0163】
順調な冠状動脈バイパス手術を受けた気管支拡張症の81歳男性。4日目に、患者は、臨床的大葉性肺炎を発病し、乏尿性になる。全身灌流圧は、30〜40mmHgまで降下し、それにより患者は、再び人工呼吸され、透析される。PreRRTおよびRRTのデータのための図13a中(等抵抗ノモグラム)および図13b中(等圧線ノモグラム)の視覚的マッピングは、RRTの開始で血管運動神経性緊張の突然回復を示す。これにより、最終的な回復に適合する灌流圧を回復する。
【0164】
利尿薬なしで入院後10日目、患者は、自発的な排尿過多を生じる。医学の従来の教示は、これは、1)尿素誘導の浸透圧利尿、2)水の蓄積、および3)尿細管尿濃縮能の減少によるものであると言う。10日目のこの患者の血行動態マッピングは、腎臓は正常であり、根本的な問題は血管運動神経性緊張であることを示唆しており、それによって突然回復する。次いで、おそらく、循環アルブミン(circulating albumin)の膠質浸透圧が、増加した間質液を「吸い出す」ことができる。図13cおよび図13d参照。
【実施例6】
【0165】
冠動脈疾患のある65歳女性患者。既往歴は左乳房切除術および放射線療法である。心臓上への照射は、心筋症を引き起こす。この患者は、正常な心臓反応と手術後の「循環障害」とをつなぐことができず、図14a(等抵抗ノモグラム)および図14b(等圧線ノモグラム)に示すように、タイプ2のパターン(すなわち拡張機能障害)を示す(図6b中に表されるパターンと比較されたい)。手術後3日目に、これは回復する。図14c参照。
【実施例7】
【0166】
この実施例は、正常な自己調節を示す。入院患者の正常な自己調節を研究することが通常できない。これは、低ナトリウム血症により人工股関節全置換術後、痛みが鈍化されて7日目の94歳の女性である。この患者は、心臓血管により良かったので、データが収集されて自己調節の正常なプロセスを調べた。これらは、図15a中の等抵抗ノモグラム、図15b中の等圧線ノモグラム、および図15c中の等流ノモグラムの中に表される。
【0167】
症例研究1 − 79歳男性、虚血性心疾患、最近脳血管障害(CVA)、「オフ・ポンプ冠状動脈バイパス移植術」を受けている
移植術中に心臓は外的に圧縮されている間、心臓は、繰り返し起こる徐脈性不整脈を生じた。HRは、約40拍/分まで変化し、次いでより速い内因性速度約80拍/分まで跳ね戻る。SVRおよびaSVRがこの期間中に同時にグラフ化されると、それぞれの値の間にかなりの違いがあった(図25)。未調整のSVRに比べて、aSVRは、HRでほんの少し変化するだけである。
【0168】
症例研究2 − 67歳男性、冠動脈疾患、(オン・ポンプ)冠状動脈バイパス移植術を受けている
患者は、バイパス以前、8ml/時間のノルアドレナリンだった。バイパスをやめると、この患者は、5ml/時間のドブタミンで補充された。SVRに対するCOのグラフ(図26a)は、バイパス前(prebypass)の期間に比べて、患者はドブタミンの追加で血管拡張され、心拍出量にかなりの改善があったことを示す。これは、ドブタミンの知られた効果と一致し、ドブタミンは、バイパスをやめるときにノルアドレナリンに加えられ、SVRの減少およびCOの増加を見せる。圧力は変化しない(傾向線D参照)。
【0169】
しかし、このデータをさらなる分析にかけると、欠点が明らかになる。前後の期間についてSVおよびHRをプロットすると(図26b)、HRはほぼ50%増加し、(CO=HR×SVなので)COの改善を説明するが、心肺バイパス法は、ドブタミンの追加が、SVに変化をもたらさないことを明らかにする。
【0170】
SPP、SV、およびaSVRの間の関係をマップすると(図26c)、aSVRまたはSVの変化がなく、ドブタミンを加えるときに、HRの増加があるに過ぎないことが明らかになる。この分析によって、ドブタミンは、変力物質でなく、血管拡張剤でもないという結論が導かれる。SVRそれ自体がHRの増加について補正されておらず、ドブタミンの追加によるものであるので、この効果は、単に人工的なものに過ぎない(aSVRは、mmHg/mLの単位でプロットされており、mmHg/Lではないことに留意されたい)。
【0171】
症例研究3 − 80歳女性、腹腔鏡下胃底皺襞形成術(laparoscopic fundoplication)、ICUでの手術後に心房細動を発病した。
これは、アミオダロンを用いてうまく処置することができたものであり、患者は洞リズムに戻った。これまで、心房細動は、血行動態の妥協および末梢血管収縮(抵抗の増大)に関連していると臨床的に考えられていた。しかし、急性AFの存在下で、SVRが連続して計算される場合、血管抵抗が減少することがしばしば現れる。これは、図27aの等圧線ノモグラムに示される。しかし、SVおよびaSVRのマッピング(図27b)は、血管収縮の存在を確認する。SVRがaSVR/HRに等しいので、実際の血管抵抗が変化しないまたは実際には増加するときでも、患者が頻脈を生じると、SVRは減少する。
【0172】
症例研究4 − 57歳、過体重の男性患者、両膝関節全置換。
この患者は、麻酔中に低血圧になり、20mcgのアドレナリンが与えられ、それによってHRが増加し、SVRの低下が計算された(図28a)。後に、患者は、ノルアドレナリンの注入を30ml/時間(20mcg/分)までで開始された。HRに対してSVをマップすると(図28b)、アドレナリンとノルアドレナリンの両方が、SVを同程度まで増加させることが見られたが、アドレナリンは、HRの上昇を引き起こさず、ノルアドレナリンは、HRの低下に関連している。しかし、aSVRおよびSVのマッピングでは(図28c)、アドレナリンもノルアドレナリンも血管抵抗に影響を及ぼさない。HRが補正されると、これらの薬剤がこの患者の血管抵抗に及ぼす影響は、人工的なものに過ぎないことが分かる。
【0173】
症例研究5. 若い男性患者の敗血症
健康な肥満の57歳の年配男性の薬剤師は、腹腔鏡下胃緊縛法を受けた。13カ月後、上Gl徴候(upper Gl symptom)後、胃内視鏡検査は、胃管腔の中へのバンドの腐食を明らかにした。2日後、バンドは腹腔鏡下で除去され、初期の術後経過は平穏であった。手術後24時間、腹膜症の特徴を伴う患者は激しい腹痛の突然の発症を経験した。腹腔鏡検査では、バンドの箇所に胃に穴があり、膿が腹膜腔の中に滲み出ていた。傷は閉じていたが、患者は、後に横隔膜下膿瘍を発病した。感染した穿孔の操作中に得られた血行動態マッピングのデータは、SPPは基本的に正常のままであったが、血管抵抗の深い降下、およびCOの補償的上昇を示した。
【0174】
図29中の等圧線ノモグラムは、15分間隔で離れたデータ点を用いて圧力、流れ、および抵抗の連続変化を示す。データのこの傾向は、タイプ1のショックの典型であり、穿孔(1)の操作中のSVRの病理学的な低下は、CO(2)の増加によって補償され、続いてSPP(3)を失わせると、COの低下となる。
【0175】
症例研究6 83歳女性患者 ASがAVRを受けた
この患者の導入前の血行動態の値は、CO3.7、SVR2480、MAP125、CVP11、(MAP−CVP114)であった。手術後4日間、COはほぼ一定のままであり、手術後72時間において0.1〜0.2L/分ほどで変動した。
【0176】
手術後30時間で、CO4.7、SVR1120、MAP77、CVP12(MAP−CVP65)であり、患者は、タイプ2のショックのパターンを示し、SVR>1600へメタラミノールの注入滴定が開始された。これは、12時間必要なだけであり、次いで速やかに引き離された。患者は、腎機能障害を生じず、平穏な術後の経過であった。図30は、手術後、COは一定のままであり、メタラミノールの注入で変化しないことを示している(3日目)。CO、SVR、およびSPPは、手術後72時間にわたって30分ごとにマップされた。COおよびSVRが、時間に対してマップされる場合、COは変わらず、したがって、SPPは、SVRの変動に完全に依存していることを見ることができる。
【0177】
表1は本発明の一実施形態により分類できるショックの3つタイプの指標を表す図である。
【表1】
【0178】
表2は高齢女性の期待COを評価するための本発明者の“60−70−80−90/100−80−60−40ルールを提示する表である。
【表2】
【0179】
表3は高齢女性の平均SVRを評価するための本発明者の60−70−80−90/20−25−30−35の大体の目安を提示する表である。
【表3】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間または動物の被験体の血行動態機能を決定するコンピュータで実施される方法であって、
全身灌流圧(SPP)、全身血管抵抗(SVR)、および心拍出量(CO)を含む群から選択される少なくとも2つの血行動態変数を直接的または間接的に得ることができる前記被験体から経時的に計測される第1の受信データをプロセッサで受け取ることと、
関係SPP=CO×SVRに従って前記少なくとも2つの血行動態変数を関係付ける視覚的マッピングを表示装置に提示させるようになされる表示信号を生成するように前記第1の受信データを処理することと、
前記視覚的マッピングを表示装置に表示させることと
を含む方法。
【請求項2】
前記視覚的マッピングが、
(i)第1の次元のCO、および第2の次元のSVR、
(ii)第1の次元のSVR、および第2の次元のSPP、ならびに
(iii)第1の次元のCO、および第2の次元のSPP
のうちの1つをプロットする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対応する期間にわたって直接的または間接的に前記被験体から計測される心拍数(HR)および一回拍出量(SV)を含むさらなる血行動態変数を表すデータを前記プロセッサで受け取るステップと、
実際の全身血管抵抗(aSVR)を決定することによってHRを調整するように前記第1の受信データを処理するステップと
を含み、aSVR=SVR×HRおよびCO=HR×SVであり、請求項1に記載の前記SPPの関係が、SPP=SV×aSVRと再表現される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記視覚的マッピングが、第1の次元のSVおよび第2の次元のaSVRをプロットする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記プロセッサが、
前記データを処理して第2の表示信号を生成し、
前記表示装置に、前記CO=HR×SVの関係に従って前記第2の表示信号に基づいて第2の視覚的マッピングを同時に提示させる
請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記視覚的マッピングが、第3の血行動態変数の値を決定するためのスケールを表す1つまたは複数の目印を含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
経過時間、介入、性別および年齢を含む群から選択される前記データの1つまたは複数の特色を示すように前記視覚的マッピングにおいて色で塗り分けるステップを含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記プロセッサが、前記受信データまたは前記受信データの一部に基づいて前記被験体に特有の自己調節ゾーンを見積もると共に前記表示器に提示するようにプログラムされている、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記プロセッサが、同様の生理学的プロフィールを有する被験体の集団に基づいて自己調節ゾーンを見積もると共に前記表示器に提示するようにプログラムされている、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記プロセッサが、生理学的症候群に関連した1つまたは複数のパターンを、前記データにおいて識別するようにさらにプログラムされている、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記生理学的症候群がショックであり、前記プロセッサが、識別された前記1つまたは複数のパターンに基づいて前記ショック症候群をタイプ1、タイプ2、タイプ3、またはそれらの組み合わせのうちの1つに分類するようにプログラムされている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記プロセッサが、前記被験体から計測される1つまたは複数の血行動態変数の不足を定量化するようにさらにプログラムされている、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記プロセッサが、
(i)前記データと、前記被験体に特有の事前に決定された自己調節ゾーンとの間の差を決定すること、または
(ii)前記データと、固体集団を代表する事前に決定された自己調節ゾーンとの間の差を決定すること、または
(iii)データ値から前記被験体に特有の概念的な自己調節ゾーンを表す交点を推定すること
によって前記不足を定量化するようにプログラムされている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記プロセッサが、前記被験体の最適でない血行動態機能を自動的に識別するようにプログラムされている、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記プロセッサが、前記被験体の最適な血行動態機能を回復するための治療行為を推奨するようにプログラムされている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記プロセッサが、被験体への治療の提供を制御するようにプログラムされており、前記プロセッサの前記制御の下で、前記治療の滴定が、前記被験体に適用可能な自動調整ゾーンに向けて血行動態機能を回復するように指示される、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記プロセッサが、個体の被験体または固体集団の治療の有効性を評価するようにプログラムされている、請求項1乃至16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記データをリアルタイムに得て処理する、請求項1乃至17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
人間または動物の被験体の血行動態機能を評価するシステムであって、
全身灌流圧(SPP)、全身血管抵抗(SVR)、および心拍出量(CO)を含む群から選択される前記被験体の少なくとも2つの血行動態変数を直接的または間接的に経時的に連続してモニタし、1つまたは複数の対応する第1のデータ信号を生成する1つまたは複数の変換器と、
前記1つまたは複数の第1のデータ信号を受け取り、関係SPP=CO×SVRに従って前記少なくとも2つの血行動態変数がマップされる前記第1のデータの視覚的表現のための表示信号を生成するプロセッサと、
前記表示信号を受け取り、前記視覚的表現を生成する表示装置と
を備え、
血行動態機能が、前記視覚的表現の検査で決定可能であるシステム。
【請求項20】
前記視覚的表現が、第3の血行動態変数の値を決定するためのスケールを表す1つまたは複数の目印を含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記プロセッサが、対応する期間にわたって直接的または間接的に前記被験体から計測される心拍数(HR)および一回拍出量(SV)を表すデータ信号をさらに受け取り、実際の全身血管抵抗(aSVR)を決定することによってHRについて第1のデータを調整するものであり、aSVR=SVR×HRであり、CO=HR×SVであり、請求項19に記載の前記SPPの関係が、SPP=SV×aSVRと再表現される、請求項19または20に記載のシステム。
【請求項22】
前記データの視覚的表現のモードを選択するモード選択器をさらに備え、前記モードが、
第1の次元のCO、および第2の次元のSVR、
第1の次元のSVR、および第2の次元のSPP、
第1の次元のCO、および第2の次元のSPP、
第1の次元のSV、および第2の次元のaSVR、ならびに
第1の次元のSV、および第2の次元のHR
から選択される、請求項19乃至21のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項23】
前記プロセッサが、前記表示器に前記関係CO=HR×SVに従って変数の第2の視覚的マッピングを提示させる第2の表示信号を生成し、前記モード選択器によって選択可能な前記モードが、前記第2の視覚的マッピングの同時表示を含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
受信データまたは前記受信データの一部に基づいて前記被験体に特有の自己調節ゾーンを見積もる分析モジュールを備える、請求項19乃至23のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項25】
生理学的症候群に関連した前記データの1つまたは複数のパターンを識別する診断モジュールを備える、請求項19乃至24のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項26】
前記生理学的症候群がショックであり、前記診断モジュールが、識別された前記1つまたは複数のパターンを使用して前記ショック症候群をタイプ1、タイプ2、タイプ3、またはそれらの組み合わせのうちの1つに分類する、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記被験体からモニタされた前記血行動態変数のうちの1つまたは複数の不足を定量化する分析モジュールを備える、請求項19乃至26のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項28】
(a)前記不足が、前記データと、前記被験体に特有の事前に決定された自己調節ゾーンとの間の差を決定することによって定量化され、または
(b)前記不足が、前記データと、固体集団を代表する事前に決定された自己調節ゾーンとの間の差を決定することによって定量化され、
(c)前記不足が、データ値から前記被験体に特有の概念的な自己調節ゾーンを表す交点を推定するによって定量化される
請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記被験体に取り付けた治療セットと連通する治療滴定モジュールを備え、前記治療滴定モジュールが、前記治療セットからの治療の滴定を制御する、請求項19乃至28のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項30】
治療の投与中に収集された血行動態データを評価し、前記被験体の血行動態機能を維持または回復するときに前記治療の有効性の評価を行うように構成される評価モジュールを備える、請求項19乃至29のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項31】
前記評価モジュールが、前記血行動態データのミクロ傾向を評価する、請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
前記評価モジュールが、前記血行動態データのマクロ傾向を評価する、請求項30または31に記載のシステム。
【請求項33】
最適でない血行動態機能が検出されると、警報を自動的に作動させるように構成される警報モジュールを備える、請求項19乃至32のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項34】
コンピュータ・プロセッサに請求項1に記載の前記方法を実行させる命令を含む記憶装置デバイスに具体化されるコンピュータ・プログラム・プロダクト。
【請求項35】
人間または動物の被験体あるいは一群の人間または動物の被験体の血行動態機能を決定する方法であって、
前記被験体または一群の被験体から経時的に得られる血行動態変数を表すデータの視覚的表現を生成するステップであって、前記データが、(i)全身灌流圧(SPP)、(ii)全身血管抵抗(SVR)、および(iii)心拍出量(CO)を含む群から選択される2つの変数を表す、生成するステップと、
前記視覚的表現から前記被験体の血行動態機能を見積もるステップと
を含む方法。
【請求項36】
前記視覚的表現が、第3の変数を定量化するための1つまたは複数の目印を含み、前記1つまたは複数の目印が、関係SPP=CO×SVRに従って決定される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
視覚的表現のために選択される前記2つの変数が、垂直軸上のCOおよび水平軸上のSVRであり、前記1つまたは複数の目印が、SPPのスケールを表し、
視覚的表現のために選択される前記2つの変数が、垂直軸上のSVRおよび水平軸上のSPPであり、前記1つまたは複数の目印が、COのスケールを表し、または
視覚的表現のために選択される前記2つの変数が、垂直軸上のCOおよび水平軸上のSPPであり、前記1つまたは複数の目印が、SVRのスケールを表す、
請求項35または36に記載の方法。
【請求項38】
前記視覚的表現中に表される血行動態の前記データが、実際の全身血管抵抗(aSVR)を決定することによって心拍数(HR)を補正するものであり、ただしaSVR=SVR×HRおよびCO=HR×SVであり、請求項35に記載の前記SPPの関係が、SPP=SV×aSVRと再表現される、請求項35乃至37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記視覚的表現が、第1の次元の一回拍出量(SV)および第2の次元のaSVRを表すデータを提示する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記視覚的表現が、SVおよびHRのマッピングを同時に含む、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
視覚的表示のデータが、経過時間、介入、性別および年齢を含む群から選択されるデータの1つまたは複数の特色を示すように視覚的マッピングを色で塗り分けさせる、請求項35乃至40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記被験体に特有の自己調節ゾーンを見積もるステップを含む、請求項35乃至41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
リアルタイムに、血行動態の前記データを得て使用して前記視覚的表現を生成する、請求項35乃至42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
生理学的症候群に関連した1つまたは複数のパターンを、前記データにおいて識別するステップを含む、請求項35乃至43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記生理学的症候群がショックであり、識別された前記1つまたは複数のパターンを使用して前記ショック症候群をタイプ1、タイプ2、タイプ3、またはそれらの組み合わせのうちの1つに分類する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記被験体の前記血行動態変数のうちの1つまたは複数の不足を定量化するステップを含む、請求項35乃至45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
(a)不足が、前記データと、前記被験体に特有の所定の自己調節ゾーンとの間の差を決定することによって定量化され、または
(b)前記不足が、前記データと、固体集団を代表する事前に決定された自己調節ゾーンとの間の差を決定することによって定量化され、
(c)前記不足が、データ値から前記被験体に特有の概念的な自己調節ゾーンを表す交点を推定することによって定量化される
請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記被験体の自己調節ゾーンに向けて血行動態機能を回復するように前記被験体のために治療法を合わせることを含む、請求項1乃至18および36乃至47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記被験体の最適でない血行動態機能を自動的に識別するステップを含む、請求項1乃至18および35乃至48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記被験体の血行動態機能が最適でないときに、警報を自動的に作動させるステップを含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
血行動態機能に対する薬理学的治療の効果を評価する方法に使用されるときの、請求項1乃至18および36乃至50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
処置計画を自動的に案出すること、または最適な状態に向けて最適でない血行動態機能を回復するための治療を示唆することを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
視覚的表現が、血行動態機能の連続したマッピングをリアルタイムに与える、請求項1乃至18および35乃至52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
人間または動物の被験体の血行動態機能を決定するコンピュータで実施される方法であって、
全身灌流圧(SPP)、全身血管抵抗(SVR)、および心拍出量(CO)を含む群から選択される少なくとも2つの血行動態変数を直接的または間接的に得ることができる前記被験体から経時的に計測される第1の受信データをプロセッサで受け取ることと、
関係SPP=CO×SVRに従って前記少なくとも2つの血行動態変数を関係付ける視覚的マッピングを表示装置に提示させるようになされる表示信号を生成するように前記第1の受信データを処理することと、
前記視覚的マッピングを表示装置に表示させることと
を含む方法。
【請求項2】
前記視覚的マッピングが、
(i)第1の次元のCO、および第2の次元のSVR、
(ii)第1の次元のSVR、および第2の次元のSPP、ならびに
(iii)第1の次元のCO、および第2の次元のSPP
のうちの1つをプロットする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対応する期間にわたって直接的または間接的に前記被験体から計測される心拍数(HR)および一回拍出量(SV)を含むさらなる血行動態変数を表すデータを前記プロセッサで受け取るステップと、
実際の全身血管抵抗(aSVR)を決定することによってHRを調整するように前記第1の受信データを処理するステップと
を含み、aSVR=SVR×HRおよびCO=HR×SVであり、請求項1に記載の前記SPPの関係が、SPP=SV×aSVRと再表現される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記視覚的マッピングが、第1の次元のSVおよび第2の次元のaSVRをプロットする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記プロセッサが、
前記データを処理して第2の表示信号を生成し、
前記表示装置に、前記CO=HR×SVの関係に従って前記第2の表示信号に基づいて第2の視覚的マッピングを同時に提示させる
請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記視覚的マッピングが、第3の血行動態変数の値を決定するためのスケールを表す1つまたは複数の目印を含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
経過時間、介入、性別および年齢を含む群から選択される前記データの1つまたは複数の特色を示すように前記視覚的マッピングにおいて色で塗り分けるステップを含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記プロセッサが、前記受信データまたは前記受信データの一部に基づいて前記被験体に特有の自己調節ゾーンを見積もると共に前記表示器に提示するようにプログラムされている、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記プロセッサが、同様の生理学的プロフィールを有する被験体の集団に基づいて自己調節ゾーンを見積もると共に前記表示器に提示するようにプログラムされている、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記プロセッサが、生理学的症候群に関連した1つまたは複数のパターンを、前記データにおいて識別するようにさらにプログラムされている、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記生理学的症候群がショックであり、前記プロセッサが、識別された前記1つまたは複数のパターンに基づいて前記ショック症候群をタイプ1、タイプ2、タイプ3、またはそれらの組み合わせのうちの1つに分類するようにプログラムされている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記プロセッサが、前記被験体から計測される1つまたは複数の血行動態変数の不足を定量化するようにさらにプログラムされている、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記プロセッサが、
(i)前記データと、前記被験体に特有の事前に決定された自己調節ゾーンとの間の差を決定すること、または
(ii)前記データと、固体集団を代表する事前に決定された自己調節ゾーンとの間の差を決定すること、または
(iii)データ値から前記被験体に特有の概念的な自己調節ゾーンを表す交点を推定すること
によって前記不足を定量化するようにプログラムされている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記プロセッサが、前記被験体の最適でない血行動態機能を自動的に識別するようにプログラムされている、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記プロセッサが、前記被験体の最適な血行動態機能を回復するための治療行為を推奨するようにプログラムされている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記プロセッサが、被験体への治療の提供を制御するようにプログラムされており、前記プロセッサの前記制御の下で、前記治療の滴定が、前記被験体に適用可能な自動調整ゾーンに向けて血行動態機能を回復するように指示される、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記プロセッサが、個体の被験体または固体集団の治療の有効性を評価するようにプログラムされている、請求項1乃至16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記データをリアルタイムに得て処理する、請求項1乃至17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
人間または動物の被験体の血行動態機能を評価するシステムであって、
全身灌流圧(SPP)、全身血管抵抗(SVR)、および心拍出量(CO)を含む群から選択される前記被験体の少なくとも2つの血行動態変数を直接的または間接的に経時的に連続してモニタし、1つまたは複数の対応する第1のデータ信号を生成する1つまたは複数の変換器と、
前記1つまたは複数の第1のデータ信号を受け取り、関係SPP=CO×SVRに従って前記少なくとも2つの血行動態変数がマップされる前記第1のデータの視覚的表現のための表示信号を生成するプロセッサと、
前記表示信号を受け取り、前記視覚的表現を生成する表示装置と
を備え、
血行動態機能が、前記視覚的表現の検査で決定可能であるシステム。
【請求項20】
前記視覚的表現が、第3の血行動態変数の値を決定するためのスケールを表す1つまたは複数の目印を含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記プロセッサが、対応する期間にわたって直接的または間接的に前記被験体から計測される心拍数(HR)および一回拍出量(SV)を表すデータ信号をさらに受け取り、実際の全身血管抵抗(aSVR)を決定することによってHRについて第1のデータを調整するものであり、aSVR=SVR×HRであり、CO=HR×SVであり、請求項19に記載の前記SPPの関係が、SPP=SV×aSVRと再表現される、請求項19または20に記載のシステム。
【請求項22】
前記データの視覚的表現のモードを選択するモード選択器をさらに備え、前記モードが、
第1の次元のCO、および第2の次元のSVR、
第1の次元のSVR、および第2の次元のSPP、
第1の次元のCO、および第2の次元のSPP、
第1の次元のSV、および第2の次元のaSVR、ならびに
第1の次元のSV、および第2の次元のHR
から選択される、請求項19乃至21のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項23】
前記プロセッサが、前記表示器に前記関係CO=HR×SVに従って変数の第2の視覚的マッピングを提示させる第2の表示信号を生成し、前記モード選択器によって選択可能な前記モードが、前記第2の視覚的マッピングの同時表示を含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
受信データまたは前記受信データの一部に基づいて前記被験体に特有の自己調節ゾーンを見積もる分析モジュールを備える、請求項19乃至23のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項25】
生理学的症候群に関連した前記データの1つまたは複数のパターンを識別する診断モジュールを備える、請求項19乃至24のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項26】
前記生理学的症候群がショックであり、前記診断モジュールが、識別された前記1つまたは複数のパターンを使用して前記ショック症候群をタイプ1、タイプ2、タイプ3、またはそれらの組み合わせのうちの1つに分類する、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記被験体からモニタされた前記血行動態変数のうちの1つまたは複数の不足を定量化する分析モジュールを備える、請求項19乃至26のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項28】
(a)前記不足が、前記データと、前記被験体に特有の事前に決定された自己調節ゾーンとの間の差を決定することによって定量化され、または
(b)前記不足が、前記データと、固体集団を代表する事前に決定された自己調節ゾーンとの間の差を決定することによって定量化され、
(c)前記不足が、データ値から前記被験体に特有の概念的な自己調節ゾーンを表す交点を推定するによって定量化される
請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記被験体に取り付けた治療セットと連通する治療滴定モジュールを備え、前記治療滴定モジュールが、前記治療セットからの治療の滴定を制御する、請求項19乃至28のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項30】
治療の投与中に収集された血行動態データを評価し、前記被験体の血行動態機能を維持または回復するときに前記治療の有効性の評価を行うように構成される評価モジュールを備える、請求項19乃至29のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項31】
前記評価モジュールが、前記血行動態データのミクロ傾向を評価する、請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
前記評価モジュールが、前記血行動態データのマクロ傾向を評価する、請求項30または31に記載のシステム。
【請求項33】
最適でない血行動態機能が検出されると、警報を自動的に作動させるように構成される警報モジュールを備える、請求項19乃至32のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項34】
コンピュータ・プロセッサに請求項1に記載の前記方法を実行させる命令を含む記憶装置デバイスに具体化されるコンピュータ・プログラム・プロダクト。
【請求項35】
人間または動物の被験体あるいは一群の人間または動物の被験体の血行動態機能を決定する方法であって、
前記被験体または一群の被験体から経時的に得られる血行動態変数を表すデータの視覚的表現を生成するステップであって、前記データが、(i)全身灌流圧(SPP)、(ii)全身血管抵抗(SVR)、および(iii)心拍出量(CO)を含む群から選択される2つの変数を表す、生成するステップと、
前記視覚的表現から前記被験体の血行動態機能を見積もるステップと
を含む方法。
【請求項36】
前記視覚的表現が、第3の変数を定量化するための1つまたは複数の目印を含み、前記1つまたは複数の目印が、関係SPP=CO×SVRに従って決定される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
視覚的表現のために選択される前記2つの変数が、垂直軸上のCOおよび水平軸上のSVRであり、前記1つまたは複数の目印が、SPPのスケールを表し、
視覚的表現のために選択される前記2つの変数が、垂直軸上のSVRおよび水平軸上のSPPであり、前記1つまたは複数の目印が、COのスケールを表し、または
視覚的表現のために選択される前記2つの変数が、垂直軸上のCOおよび水平軸上のSPPであり、前記1つまたは複数の目印が、SVRのスケールを表す、
請求項35または36に記載の方法。
【請求項38】
前記視覚的表現中に表される血行動態の前記データが、実際の全身血管抵抗(aSVR)を決定することによって心拍数(HR)を補正するものであり、ただしaSVR=SVR×HRおよびCO=HR×SVであり、請求項35に記載の前記SPPの関係が、SPP=SV×aSVRと再表現される、請求項35乃至37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記視覚的表現が、第1の次元の一回拍出量(SV)および第2の次元のaSVRを表すデータを提示する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記視覚的表現が、SVおよびHRのマッピングを同時に含む、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
視覚的表示のデータが、経過時間、介入、性別および年齢を含む群から選択されるデータの1つまたは複数の特色を示すように視覚的マッピングを色で塗り分けさせる、請求項35乃至40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記被験体に特有の自己調節ゾーンを見積もるステップを含む、請求項35乃至41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
リアルタイムに、血行動態の前記データを得て使用して前記視覚的表現を生成する、請求項35乃至42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
生理学的症候群に関連した1つまたは複数のパターンを、前記データにおいて識別するステップを含む、請求項35乃至43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記生理学的症候群がショックであり、識別された前記1つまたは複数のパターンを使用して前記ショック症候群をタイプ1、タイプ2、タイプ3、またはそれらの組み合わせのうちの1つに分類する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記被験体の前記血行動態変数のうちの1つまたは複数の不足を定量化するステップを含む、請求項35乃至45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
(a)不足が、前記データと、前記被験体に特有の所定の自己調節ゾーンとの間の差を決定することによって定量化され、または
(b)前記不足が、前記データと、固体集団を代表する事前に決定された自己調節ゾーンとの間の差を決定することによって定量化され、
(c)前記不足が、データ値から前記被験体に特有の概念的な自己調節ゾーンを表す交点を推定することによって定量化される
請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記被験体の自己調節ゾーンに向けて血行動態機能を回復するように前記被験体のために治療法を合わせることを含む、請求項1乃至18および36乃至47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記被験体の最適でない血行動態機能を自動的に識別するステップを含む、請求項1乃至18および35乃至48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記被験体の血行動態機能が最適でないときに、警報を自動的に作動させるステップを含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
血行動態機能に対する薬理学的治療の効果を評価する方法に使用されるときの、請求項1乃至18および36乃至50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
処置計画を自動的に案出すること、または最適な状態に向けて最適でない血行動態機能を回復するための治療を示唆することを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
視覚的表現が、血行動態機能の連続したマッピングをリアルタイムに与える、請求項1乃至18および35乃至52のいずれか1項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図12d】
【図13a】
【図13b】
【図13c】
【図13d】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図15a】
【図15b】
【図15c】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図4】
【図26a】
【図26b】
【図26c】
【図27a】
【図27b】
【図28a】
【図28b】
【図28c】
【図29】
【図30】
【図2】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図12d】
【図13a】
【図13b】
【図13c】
【図13d】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図15a】
【図15b】
【図15c】
【図16】
【図17】
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【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
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【図4】
【図26a】
【図26b】
【図26c】
【図27a】
【図27b】
【図28a】
【図28b】
【図28c】
【図29】
【図30】
【公表番号】特表2012−529934(P2012−529934A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515287(P2012−515287)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000748
【国際公開番号】WO2010/144961
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(511306882)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000748
【国際公開番号】WO2010/144961
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(511306882)
【Fターム(参考)】
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