説明

衛星信号受信機

【課題】
移動体におけるトンネル等による長期信号遮蔽に伴う誤捕捉、誤追尾及びそれに伴う異常測位を防止する。
【解決手段】
サーチ回路で捕捉した捕捉情報を信号レベルと共に一時記憶する捕捉情報記憶器と、捕捉情報記憶器の情報を初期値として追尾回路に渡すかどうかを判定する追尾移行判定器と、誤追尾の場合には追尾移行判定器に、サーチ信号での追尾やり直しを指示する追尾状況判定器と、トンネル等全衛星長時間中断時において、捕捉情報記憶器からのサーチ信号レベルと予め定めた閾値との比較により、自己相関による誤捕捉の可能性があるかを判定し、誤捕捉の可能性があると判定した場合には、サーチ周波数リセット指示を出力するサーチ回路リセット時期判定器と、サーチ周波数リセット指示がなされた場合に、全サーチ回路に対し、サーチ周波数を初期値にリセットする全サーチ回路リセット回路を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、携帯電話機等の移動端末に内蔵され、又は自動車等の移動体に設置して用いられ、GPS(Global Positioning System)等の航法衛星からの衛星信号を捕捉するための衛星信号受信機に係り、移動体におけるトンネル等による長期信号遮蔽に伴う誤捕捉、誤追尾及びそれに伴う異常測位を防止できる衛星信号受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーナビゲーション等のGPSを利用した装置が広く用いられてきている。GPS衛星からの衛星信号において、所定の周波数の搬送波はBPSKに変調され、さらに、衛星毎に定められたスペクトラム拡散符号によりスペクトラム拡散された信号上に、送信時刻や、詳細軌道情報等を示すデータを含んでいる。信号追尾するには、搬送波と同じ周波数にて、スペクトラム拡散された信号と同じコード位相にする必要がある。
【0003】
図3に示すように、衛星信号受信機は、信号を捕捉するサーチ回路11と、そのサーチ回路で捕捉した信号に関し、更に周波数、コード位相引き込み等を実施し、衛星信号追尾を実施する追尾回路14を複数チャンネル分所有している。尚、信号捕捉、追尾には、衛星信号受信アンテナ、OCXO(恒温槽付水晶発振器:Oven Controlled Xtal Oscillator)を含むRFコンバータ等が個々の回路の前段に必要であるが、本特許とは直接関連がないので、ここでは省略している。
【0004】
また、個々のサーチ回路、追尾回路の詳細も本特許とは直接関連がないので、ここでは省略しているが、サーチ回路については本発明と同一の出願人による特許文献1に、追尾回路については特許文献2に具体例が示されている。
【0005】
図3では、本特許を概念的に分かりやすくするため、サーチ回路11、追尾回路14共に同じチャンネル分にしているが、小型化、低消費電力化のため、サーチ回路は実際1チャンネル分しかなく、それを時分割で使用することで等価的に複数チャンネルのサーチを行っている場合が多い。また、測位するためには、複数衛星の情報を同時に収集し、処理するCPU処理部が必要であるが、これも本特許とは直接関連がないので、ここでは省略している。
【0006】
従来の実施例では、サーチ回路内にてあらかじめ決められた閾値以上の信号が得られた場合に、周波数やコード位相等が捕捉情報として得られ、その情報を初期値として追尾回路にて周波数やコード位相等を更に引き込み、衛星信号に追尾する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2009−153851
【特許文献2】特開2008−111684号公報
【特許文献3】特開2009−281844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年では、この捕捉感度が高感度化され、今までは捕捉できなかった弱信号まで捕捉可能になったため、強信号による誤った相互相関信号も捕捉する可能性がある。そのため、前記特許文献3などの相互相関対策が実施されており、強信号が先に検出されている条件下で有効になっている。
【0009】
しかしながら、移動体においては、特にトンネル通過時等で全衛星に対して、その捕捉が長時間遮断される場合がある(以下、全衛星長時間遮断と記す)。前記したように、実際1チャンネル分しかないサーチ回路を時分割で使用しているため、弱信号衛星が先に見つかってしまい、今までの相互相関対策では対応できない場合がある。
【0010】
一般的に、信号遮断が長いと、受信機内部のOCXO周波数が大きく変動してしまう可能性があり、図4に示すように、1KHz単位でサーチ周波数を変えたサーチを実施する。他衛星との相互相関と同様に、数KHz離れた周波数でサーチした場合にも、誤った自己相関により誤捕捉してしまう場合もある。自己相関の場合には時間が経過しても相関特性は変化せず、信号レベル自体が弱い信号と全く同じに見えるので、そのまま安定追尾してしまい、最終的には異常測位してしまう問題がある。
【0011】
本発明は、前記の課題を解決し、移動体におけるトンネル等による長期信号遮蔽時であっても、確実に衛星信号を捕捉できる衛星信号受信機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために本発明は、
航法衛星からの衛星信号を捕捉するための衛星信号受信機において、
サーチ回路で捕捉した捕捉情報を信号レベルと共に一時記憶する捕捉情報記憶器と、
前記捕捉情報記憶器の情報を初期値として追尾回路に渡すかどうかを判定する追尾移行判定器と、
追尾回路における信号レベルと、前記捕捉情報記憶器に記憶されているサーチ信号レベルを比較することで誤追尾状態か判断し、誤追尾の場合には、前記追尾移行判定器に、サーチ信号での追尾やり直しを指示する追尾状況判定器と、
トンネル等全衛星長時間中断時において、前記捕捉情報記憶器からのサーチ信号レベルと予め定めた閾値との比較により、自己相関による誤捕捉の可能性があるかを判定し、誤捕捉の可能性があると判定した場合には、サーチ周波数リセット指示を出力するサーチ回路リセット時期判定器と、
前記のサーチ周波数リセット指示がなされた場合に、全サーチ回路に対し、サーチ周波数を初期値にリセットする全サーチ回路リセット回路と、
を備えたことを特徴とする衛星信号受信機。
【0013】
また本発明は、前記の補足情報記憶器が記憶する補足情報が、捕捉した信号に関しての捕捉周波数とコード位相であることを特徴とする衛星信号受信器。
【0014】
また本発明は、前記の全サーチ回路リセット回路がリセットするサーチ周波数の初期値が、衛星信号の受信を中断する直前の周波数であることを特徴とする衛星信号受信器。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一旦誤捕捉した場合でも、サーチ周波数を初期値に戻すことにより正しく捕捉しなおされた捕捉情報により、正しく追尾しなおすため、確実に衛星信号を捕捉できる。本発明の効果は、例えば、測位システムとして、GPSのほか、GNSS(Global Navigation Satellite System)等を用いる場合にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施例の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の一実施例の動作、効果を説明するための説明図である。
【図3】従来技術の構成例を示すブロック図である。
【図4】従来技術を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0017】
次に、この発明の実施の形態について、図面を用いて詳しく説明する。
【0018】
図1は、この発明の一実施例の構成を示すブロック図である。
【0019】
本発明にかかる図1では、従来実施例であるところの図3に、サーチ回路で捕捉できた情報を信号レベルと共に一時記憶する捕捉情報記憶器12を追加している。さらに、前記捕捉情報記憶器12の情報を初期値として追尾回路に渡すかどうかを判定する追尾移行判定器13を追加している。
【0020】
なお、補足情報記憶器12に記憶されている情報とは、捕捉した信号レベルや捕捉した周波数、また、コード位相などである。
【0021】
さらに、追尾回路14における信号レベルと前記捕捉情報記憶器12に記憶されているサーチ信号レベルを比較することで誤追尾状態かどうかを判断し、誤追尾の場合には、前記追尾移行判定器13に、サーチ信号での追尾やり直しを指示する追尾状況判定器15を追加している。
【0022】
さらに、トンネル通過時等の全衛星長時間中断時において、前記捕捉情報記憶器12からのサーチ信号レベルにより、自己相関による誤捕捉の可能性があるかを判定し、その場合にはサーチ周波数リセット指示を出力するサーチ回路リセット時期判定器17を追加している。
【0023】
さらに、前記のサーチ周波数リセット指示がなされた場合に、全サーチ回路に対し、サーチ周波数を初期値にリセットする全サーチ回路リセット回路16を追加している。
【0024】
また、追尾移行判定器13では、まだ追尾していない場合には、そのまま捕捉情報記憶器12の捕捉情報を追尾回路に渡して、追尾を開始させる。既に追尾中の場合には、追尾状況判定器15から、サーチ信号での追尾やり直しを指示された場合に限り、捕捉情報を追尾回路14に渡して、追尾を開始させる。
【0025】
追尾状況判定器15では、追尾回路14における信号レベルと、前記捕捉情報記憶器12に記憶されているサーチ信号レベルを比較する。自己相関による誤捕捉であれば、20dB以上低いので、例えばサーチ信号レベルが追尾信号レベル+10dBよりも大きければ、誤追尾状態と判断し、誤追尾と判断した場合には、前記追尾移行判定器13に、サーチ信号での追尾やり直しを指示する。
【0026】
サーチ回路リセット時期判定器17では、トンネル等による全衛星長時間中断時かどうかをまず判断する。長時間中断時の初回捕捉衛星の信号レベルが、自己相関による誤捕捉の可能性がある信号レベル以下(例えばー140dBm以下)であれば、誤捕捉の可能性があると判定し、全サーチ回路リセット回路16にリセットを指示する。
【0027】
全サーチ回路リセット回路16では、サーチ回路リセット時期判定器17からリセット指示がされた場合、全サーチ回路に対し、サーチ周波数をその初期周波数(通常は中断時の周波数)に戻す指示を行う。
【0028】
図2を用いて、この発明の動作、効果を説明する。
【0029】
前記のように、長時間中断した場合、OCXO周波数は大きく変動する可能性があるため、図2に示すように、中断した時に周波数に対し、0kHz、+1kHz、−1kHz、…、+NkHzといった順でサーチ周波数を変えてサーチするが、通常は0kHz付近で見つかる場合が多い。ここでは、真の周波数は0kHzとして説明する。
【0030】
図2のように、信号が+NkHzでサーチしている時に、トンネルから抜け出して正しく衛星信号が得られるようになった場合、誤った自己相関により誤捕捉する可能性がある。従来では、図4に示したように、更に周波数、コード位相引き込みがなされ、そのまま異常追尾が継続するので、結果として異常測位する場合があった。
【0031】
本発明でも、この誤捕捉情報により周波数、コード位相の引き込みがなされ、一旦は追尾状態になる。本特許の主眼は誤追尾防止であるのでここでは図示しないが、別途サーチ回路にて周波数サーチが一巡するまでの間、安定追尾状態にはしない処理がなされるので、測位には使われず、異常測位は発生しない。
【0032】
この誤捕捉が発生した場合、サーチ信号レベルは低いため、サーチ回路リセット時期判定器17により誤捕捉の可能性が高いと判断され、全サーチ回路リセット回路16によりサーチ周波数は真の0kHzに戻るため、サーチ回路で信号レベルが強い状態で正常捕捉され、その結果が捕捉情報記憶器12に記憶される。
【0033】
追尾状況判定器13では、上記サーチ信号レベルと現在追尾中の信号レベルを比較し、サーチ信号レベルが追尾信号の信号レベルより十分大きいので誤捕捉と判断し、捕捉情報記憶器12に記憶されている正しい信号で再度引き込みを実施するので、正常追尾することができる。
【0034】
本実施例では、全サーチ回路をリセットするのは、全衛星長時間中断時に、初回捕捉衛星の信号レベルが低い場合としているが、前記特許文献1の例のように、複数の感度が違うサーチモードがある場合に低感度モードで受信できた場合に、強感度モードでのサーチのみをリセットしても良い。また、全チャンネルではなく、受信できた衛星に限定しても良い。
【0035】
本実施例では、サーチ回路を全てリセットするようにしたが、サーチ回路動作はそのまま継続させ、信号捕捉した時点から全周波数候補のサーチが一巡するまでの間、追尾状況判定を行うようにしても良い。
【0036】
本実施例では、追尾状況判定を行う時期を明示していないが、再サーチ後の初回のみに限定しても良いし、追尾中は常時行うことにしても良い。
【符号の説明】
【0037】
11…Mチャンネルのサーチ回路、 12…Mチャンネルの捕捉情報記憶器、
13…Mチャンネルの追尾移行判定器、 14…Mチャンネルの追尾回路、
15…Mチャンネルの追尾状況判定器、 16…サーチ回路リセット時期判定器、
17…全サーチ回路リセット回路。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
航法衛星からの衛星信号を捕捉するための衛星信号受信機において、
サーチ回路で捕捉した捕捉情報を信号レベルと共に一時記憶する捕捉情報記憶器と、
前記捕捉情報記憶器の情報を初期値として追尾回路に渡すかどうかを判定する追尾移行判定器と、
追尾回路における信号レベルと、前記捕捉情報記憶器に記憶されているサーチ信号レベルを比較することで誤追尾状態か判断し、誤追尾の場合には、前記追尾移行判定器に、サーチ信号での追尾やり直しを指示する追尾状況判定器と、
トンネル等全衛星長時間中断時において、前記捕捉情報記憶器からのサーチ信号レベルと予め定めた閾値との比較により、自己相関による誤捕捉の可能性があるかを判定し、誤捕捉の可能性があると判定した場合には、サーチ周波数リセット指示を出力するサーチ回路リセット時期判定器と、
前記のサーチ周波数リセット指示がなされた場合に、全サーチ回路に対し、サーチ周波数を初期値にリセットする全サーチ回路リセット回路と、
を備えたことを特徴とする衛星信号受信機。
【請求項2】
請求項1に記載の補足情報記憶器が記憶する補足情報は、捕捉した信号に関しての捕捉周波数とコード位相であることを特徴とする衛星信号受信器。
【請求項3】
請求項1に記載の全サーチ回路リセット回路がリセットするサーチ周波数の初期値は、衛星信号の受信を中断する直前の周波数であることを特徴とする衛星信号受信器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−153891(P2011−153891A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15167(P2010−15167)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】