説明

衝撃吸収式ステアリング装置

【課題】ばらつきの少ない衝撃吸収荷重を得ることのできる衝撃吸収式ステアリング装置を提供すること。
【解決手段】ステアリングコラム20のコラムチューブ23が圧入により嵌合された内筒21および外筒22を有する。外筒22の内周面22bに形成された突起33がかしめにより内筒21の外周面21aに加圧されている。内筒21に対する突起33の接触部33aに潤滑グリースを収容保持するための溝35を設ける。溝突35から供給されるグリースにより内筒21との接触部33a,21b間を潤滑する。電動モータの反力トルクにより内筒21と外筒22が回転方向にねじられる微振動を生じても、接触部33a,21bに異常摩耗や溶着が生じることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収式ステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステアリングシャフトを回転自在に支持するステアリングコラムを備え、そのステアリングコラムが互いにプレスフィット状態で嵌合された内筒および外筒を含み、衝突時に内筒および外筒の相対摺動により衝撃を吸収する衝撃吸収式ステアリング装置がある。
通例、外筒の内周面に形成された突起により内筒の外周面に加圧することにより、通常時の両筒の軸方向の相対移動を阻止している(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−2211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ステアリングコラムに取り付けられた電動モータにより操舵補助力を得るコラムアシストタイプの電動パワーステアリング装置がある。
この種の電動パワーステアリング装置では、電動モータの駆動反力の影響で、内筒と外筒とが回転方向に微小振動する。その結果、外筒の突起および内筒の接触部において、異常摩耗が発生したり、溶着が発生したりするという問題がある。異常摩耗や溶着が発生した場合、所望の大きさの衝撃吸収荷重が達成できないおそれがある。
【0004】
微振動による上記接触部の異常摩耗等の問題は、コラムアシストタイプ以外の電動パワーステアリング装置やマニュアルステアリング装置においても存在する。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、ばらつきの少ない衝撃吸収荷重を得ることができる衝撃吸収式ステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、ステアリングシャフトを回転自在に支持するステアリングコラムを備え、そのステアリングコラムが互いに嵌合された内筒および外筒を含み、衝突時に内筒および外筒の相対摺動により衝撃を吸収する衝撃吸収式ステアリング装置において、上記内筒の外周面および外筒の内周面の少なくとも一方に形成され他方に加圧された突起を備え、突起の表面に潤滑剤を保持する潤滑剤保持凹部が形成されていることを特徴とするものである。
【0006】
本発明では、通常の使用時にステアリングコラムが微振動を受けても、突起および他方の筒の互いの接触部において、異常摩耗や溶着が発生することがない。その結果、衝撃吸収時に安定した衝撃吸収荷重を得ることができる。
また、本発明において、上記潤滑剤保持凹部が同方向に延びる複数の溝を含む場合がある。この場合、プレス加工や切削加工により容易に溝を形成することができる。
【0007】
また、本発明において、上記内筒の外周面および外筒の内周面の他方に、固体潤滑剤の被膜が形成されている場合がある。この場合、突起および他方の筒の互いの接触部において、異常摩耗や溶着の発生を確実に防止することができる。
また、本発明において、ステアリングコラムに取り付けられた電動モータによる操舵補助力を得る場合がある。いわゆるコラム式の電動パワーステアリング装置では、電動モータの駆動反力により内筒と外筒との間に回転作動が生じ、これが突起および他方の筒の互いの接触部の異常摩耗や溶着を発生し易い傾向にある。そのような傾向にあるコラム式の電動パワーステアリング装置において、上記異常摩耗や溶着の発生を確実に防止することができるという特に顕著な効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の好ましい実施の形態の添付図面を参照しつつ説明する。
本発明の一実施形態の衝撃吸収式ステアリング装置1は、図1に示すように、コラムアシストタイプの電動パワーステアリング装置として構成されている。具体的には、衝撃吸収式ステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結しているステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結される中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されるピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン歯7aに噛み合うラック歯8aを有して自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラックバー8とを有している。ピニオン軸7およびラックバー8によりラックアンドピニオン機構からなる操舵機構Aが構成されている。
【0009】
ラックバー8は車体に固定されるハウジング9内に図示しない複数の軸受を介して直線往復動自在に支持されている。ラックバー8の両端部はハウジング9の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド10が結合されている。各タイロッド10は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する車輪11に連結されている。
操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転がピニオン歯7aおよびラック歯8aによって、自動車の左右方向に沿ってのラックバー8の直線運動に変換される。これにより、車輪11の転舵が達成される。
【0010】
ステアリングシャフト3は、操舵部材2に連なる入力軸31と、ピニオン軸7に連なる出力軸32とに分割されており、これら入、出力軸31,32はトーションバー12を介して同一の軸線上で相対回転可能に互いに連結されている。入力軸31は、例えば互いにセレーション結合された軸31aおよび筒31bを含み、2次衝突等により操舵部材2に衝撃荷重が作用した場合、収縮できるようになっている。
【0011】
トーションバー12を介する入、出力軸31,32間の相対回転変位量により操舵トルクを検出するトルクセンサ13が設けられており、このトルクセンサ13のトルク検出結果は、ECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)14に与えられる。ECU14では、トルク検出結果や図示しない車速センサから与えられる車速検出結果等に基づいて、駆動回路15を介して操舵補助用の電動モータ16を駆動制御する。電動モータ16の出力回転が減速機17を介して減速されてステアリングシャフト3の出力軸32に伝達され、さらにピニオン軸7を介してラックバー8の直線運動に変換されて、操舵が補助される。
【0012】
減速機17は、電動モータ16により回転駆動される駆動ギヤとしてのウォーム軸18と、このウォーム軸18に噛み合うと共にステアリングシャフト3の出力軸32に一体回転可能に連結される従動ギヤとしてのウォームホイール19を備える。
衝撃吸収式ステアリング装置1は、ステアリングシャフト3を内部に通して回転自在に支持するステアリングコラム20を備える。ステアリングコラム20は、互いに嵌合されたロアージャケットとしての内筒21およびアッパージャケットとしての外筒22を含むコラムチューブ23と、コラムチューブ23の一端に結合されたコラムハウジング24とを備える。
【0013】
コラムハウジング24には、上記の減速機17およびトルクセンサ13が収容されており、また、電動モータ16のハウジングが固定されている。
内筒21および外筒22は衝突時に相対摺動して衝撃エネルギを吸収するようにされている。アッパーチューブとしての外筒22には、アッパーブラケット25が固定されている。このアッパーブラケット25は、連結部材26を介して車体27に保持された車体側ブラケット28に固定されている。連結部材26は、二次衝突時に車体27から車体側ブラケット28が離脱することを許容するための合成樹脂製の破断可能なピンを含む。また、ロアーチューブとしての内筒21は、車体27に固定された車体側ブラケット29にロアーブラケット30を用いて固定されている。
【0014】
アッパージャケットとしての外筒22の内周面には複数の突起33が形成され、これらの突起33はロアージャケットとしての内筒21の外周面21aにかしめ付けられて加圧されている。これにより、内筒21と外筒22との相対移動が抑制されている。
図2を参照して、突起33は、外筒22の外周面22aに凹部34を形成することにより、外筒22の内周面22bに周方向に離隔して複数が設けられている。図示のように、外筒22の軸方向に距離を隔てた複数の列の突起33が設けられていてもよい。
【0015】
突起33は、プレスにより外筒22の外周面22aを加圧することより外筒22の内周面22bに膨出させて形成することができる。図3および図4を参照して、内筒21の外周面21aの接触部21bに対する突起33の接触部33aには、1ないし複数の潤滑剤保持凹部としての溝35が形成され、溝35に潤滑グリースが収容され保持されている。溝35であれば、プレス成形や切削加工により容易に形成することができる。
【0016】
溝35が複数形成される場合、これらの溝35は同方向に延びていることが好ましいが、その方向は特に限定されるものではない。
本実施の形態によれば、通常の使用時にステアリングコラム20が微振動を受けても、突起33の接触部33aと内筒21の外周面21aの接触部21bとの間に溝35から潤滑グリースが供給されるので、接触部33a,21bが異常摩耗したり、両接触部33a,21bが互いに溶着したりすることがない。その結果、衝撃吸収時に突起33の接触部33aが内筒21の外周面21aに対して摺動するときに、安定した衝撃吸収荷重を得ることができる。
【0017】
特に、本実施の形態のようにコラムアシストタイプの電動パワーステアリングとの組み合わせにおいて、上記異常摩耗や溶着の発生の防止に顕著な効果を奏することができる。というのは、コラムアシストタイプの電動パワーステアリング装置では、通常の使用時において、電動モータ16の駆動反力により内筒21と外筒22との間に回転作動が生じ、その結果、上記の異常摩耗や溶着を発生し易い傾向にあるが、そのような傾向にあるコラム式の電動パワーステアリング装置においても、異常摩耗や溶着の発生を確実に防止できるからである。
【0018】
なお、図5に示すように、内筒21の外周面21aに、例えば二硫化モリブデン、PTFE、FEP等の固体潤滑剤の被膜36が被覆されていれば、両接触部33a,21bにおいて、異常摩耗や溶着の発生をより確実に防止することができる。
また、上記の固体潤滑剤の被膜36に代えて、内周21の外周面21aにカチオン塗装による被膜を被覆するようにしても、同様の効果を奏することができる。
【0019】
本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、潤滑剤保持凹部として溝35に代えて、図6に示すように、ディンプル加工された多数の微小な窪み37を用いることもできる。
潤滑剤保持凹部を有する突起33は、内筒21の外周面21aおよび外筒22の内周面22bの少なくとも一方に形成されていればよい。また、上記の固体潤滑剤の被膜36やカチオン塗装の被膜は突起33が接触する相手方の筒に被覆されていればよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明の一実施の形態の衝撃吸収式ステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】ステアリングコラムのコラムチューブを構成する内筒と外筒の分解斜視図である。
【図3】外筒の要部の一部破断斜視図である。
【図4】外筒および内筒の拡大断面図である。
【図5】本発明の別の実施の形態の内筒の要部の断面図である。
【図6】本発明のさらに別の実施の形態の突起の平面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 衝撃吸収式ステアリング装置
2 操舵部材
3 ステアリングシャフト
5 中間軸
7 ピニオン軸
8 ラックバー
11 車輪
12 トーションバー
13 トルクセンサ
14 ECU
16 電動モータ
17 減速機
20 ステアリングコラム
21 内筒
21a 外周面 21b 接触部
22 外筒
22a 外周面
22b 内周面
23 コラムチューブ
24 コラムハウジング
31 入力軸
32 出力軸
33 突起
33a 接触部
35 溝(潤滑剤保持凹部)
36 固体潤滑剤の被膜
37 窪み(潤滑剤保持凹部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトを回転自在に支持するステアリングコラムを備え、そのステアリングコラムが互いに嵌合された内筒および外筒を含み、衝突時に内筒および外筒の相対摺動により衝撃を吸収する衝撃吸収式ステアリング装置において、
上記内筒の外周面および外筒の内周面の少なくとも一方に形成され他方に加圧された突起を備え、突起の表面に潤滑剤を保持する潤滑剤保持凹部が形成されていることを特徴とする衝撃吸収式ステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、上記潤滑剤保持凹部が同方向に延びる複数の溝を含む衝撃吸収式ステアリング装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記内筒の外周面および外筒の内周面の他方に、固体潤滑剤の被膜が形成されている衝撃吸収式ステアリング装置。
【請求項4】
請求項1,2又は3において、ステアリングコラムに取り付けられた電動モータによる操舵補助力を得る衝撃吸収式ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−111059(P2006−111059A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298067(P2004−298067)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】