衝撃吸収機構を備えた電動アクチュエータ
【課題】油圧シリンダ装置と比較して軽量化、小型化を容易に図ることができ、油圧シリンダ装置に置き換えて使用することが可能であると共に、突然に作用する衝撃荷重に対して自由に伸長することが可能な電動アクチュエータを提供する。
【解決手段】ねじ軸16及びこれに組み付けられたナット部材20を用いて電動モータの回転を出力ロッド9の進退運動に変換する電動アクチュエータ10であり、出力ロッド9は、ねじ軸16の周囲に配置されると共にナット部材20が設けられた駆動筒21と、駆動筒21と重ねてねじ軸16の周囲に配置されると共に当該駆動筒21に対して進退自在な可動筒12とを備え、更に、駆動筒21と可動筒12の間には、当該駆動筒21に対して可動筒12を係止する一方、可動筒12に対して所定以上の軸力が作用した場合に駆動筒21に対する可動筒12の移動を許容する解放機構30が設けられている。
【解決手段】ねじ軸16及びこれに組み付けられたナット部材20を用いて電動モータの回転を出力ロッド9の進退運動に変換する電動アクチュエータ10であり、出力ロッド9は、ねじ軸16の周囲に配置されると共にナット部材20が設けられた駆動筒21と、駆動筒21と重ねてねじ軸16の周囲に配置されると共に当該駆動筒21に対して進退自在な可動筒12とを備え、更に、駆動筒21と可動筒12の間には、当該駆動筒21に対して可動筒12を係止する一方、可動筒12に対して所定以上の軸力が作用した場合に駆動筒21に対する可動筒12の移動を許容する解放機構30が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの回転運動を送りねじ機構によって並進運動に変換する電動アクチュエータに係り、特に外部からの衝撃荷重を吸収する機構を備え、例えば油圧シリンダ装置に置き換えて使用することが可能な電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には油圧シリンダ装置の伸縮作動によって動力を発生する船外機のチルト・トリム装置が開示されている。このチルト・トリム装置は、船体の船尾板に固定されるクランプブラケットと、このクランプブラケットに対して鉛直方向に揺動可能に軸支されたスイベルブラケットと、これらクランプブラケットとスイベルブラケットとの間に配設された油圧シリンダ装置とから構成されており、プロペラ及びエンジンを備えた船外機が前記スイベルブラケットに対して水平方向に揺動可能に軸支されている。そして、前記油圧シリンダ装置に伸縮動作を行わせることで、前記スイベルブラケットがクランプブラケットに対して鉛直方向に傾動し、前記船外機を水面上に上げ下げすることができるようになっている。
【0003】
また、このようなチルト・トリム装置は船外機を単に水面上に上げ下げするだけでなく、急激な外力から船外機を保護する役目も担っている。すなわち、船体が水上を航走している最中に、船外機が流木等の障害物に衝突し、あるいは暗礁等の水中障害物に乗り上げてしまうケースが想定されることから、船外機に対して衝突エネルギが作用した場合には、前記油圧シリンダ装置によるスイベルブラケットの拘束状態を直ちに解除することが必要とされる。このため、前記油圧シリンダ装置にはシリンダ内の油圧変化に追従して開閉する複数のボールバルブが設けられ、オイルポンプの動作とは無関係に、急激な外力に応じて当該油圧シリンダ装置が自由に伸縮できるように構成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−10083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、油圧シリンダ装置にはオイルポンプを駆動する電動モータやオイルタンクが必要となる他、油圧変化に追従するための各種バルブや配管が必要となり、構造が複雑となることから軽量化、小型化が難しいといった課題がある。また、配管やバルブからオイルが漏れだす懸念もあり、環境負荷が高いといった課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、油圧シリンダ装置と比較して軽量化、小型化を容易に図ることができ、かかる油圧シリンダ装置に置き換えて使用することが可能であると共に、突然に作用する衝撃荷重に対して自由に伸長又は収縮することが可能な電動アクチュエータを提供することにある。
【0007】
すなわち、本発明は、第一の構造体に固定されるハウジングと、中空部を有すると共に前記ハウジングに対して進退自在に保持され、第二の構造体に固定される出力ロッドと、前記ハウジングに対して回転自在に保持されると共に前記出力ロッドの中空部内に挿通され、電動モータによって適宜回転が与えられるねじ軸と、前記出力ロッドに備えられると共に前記ねじ軸に組み付けられて当該ねじ軸の回転に応じて軸方向へ移動するナット部材と、を備えた電動アクチュエータである。そして、前記出力ロッドは、前記ねじ軸の周囲に配置されると共に前記ナット部材が設けられた駆動筒と、前記駆動筒と重ねてねじ軸の周囲に配置されると共に当該駆動筒に対して進退自在であり、前記第二の構造体が固定される可動筒とを備え、更に、前記駆動筒と可動筒の間には、当該駆動筒に対して可動筒を係止する一方、前記第二の構造体に固定された可動筒に対して所定以上の軸力が作用した場合に前記駆動筒に対する可動筒の移動を許容する解放機構が設けられている。
【発明の効果】
【0008】
以上のように構成された電動アクチュエータでは、電動モータを回転させると前記ねじ軸がハウジング内で回転し、ナット部材を介してこのねじ軸に組み付けられた出力ロッドがねじ軸の回転方向に応じてその周囲を軸方向へ進退する。前記出力ロッドは駆動筒及び当該駆動筒に対して移動自在な可動筒を備えており、これら駆動筒及び可動筒の間には解放機構が設けられている。前記解放機構によって前記可動筒が駆動筒に対して係止されている状態では、前記駆動筒がねじ軸の回転に応じて進退すると、当該駆動筒と一緒に可動筒も軸方向へ移動し、かかる可動筒が前記ハウジングに対して進退することになる。これにより、ハウジングが固定される第一の構造体と可動筒が固定される第二の構造体との間に押圧力を及ぼすことが可能となる。
【0009】
一方、第一の構造体と第二の構造体との間に衝撃荷重が作用し、前記可動筒に対して所定以上の軸力が作用すると、前記解放機構は駆動筒に対する可動筒の移動を許容するので、可動筒は駆動筒の進退とは無関係にハウジングに対して進退することが可能となる。これにより、第一の構造体と第二の構造体との間に衝撃荷重が作用した場合であっても、可動筒をハウジングに対して自由に進退させることができ、前記衝撃荷重の作用による電動アクチュエータの破損を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の電動アクチュエータを用いて構成した船外機のチルト・トリム装置の一例を示す図である。
【図2】本発明を適用した電動アクチュエータの第一実施形態を示す斜視図である。
【図3】第一実施形態に係る電動アクチュエータにおいて外筒が係止位置に設定されている状態を示す正面断面図である。
【図4】第一実施形態に係る電動アクチュエータにおいて外筒が係止位置から離脱した状態を示す正面断面図である。
【図5】ボールプランジャの実施形態の一例を示す斜視図である。
【図6】図5に示したボールプランジャの正面図である。
【図7】図5に示したボールプランジャに使用される板ばねを示す斜視図である。
【図8】図3中の部位VIIIの詳細を示す拡大図である。
【図9】図4中の部位IXの詳細を示す拡大図である。
【図10】本発明を適用した電動アクチュエータの第二実施形態を示す正面断面図である。
【図11】図10中の部位XIの詳細を示す拡大図である。
【図12】第二実施形態における係止要素を示す斜視図である。
【図13】第二実施形態に係る電動アクチュエータにおいて外筒が係止位置から離脱した状態を示す正面断面図である。
【図14】第二実施形態に係るピストン軸受を示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を用いながら本発明の電動アクチュエータを詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明の電動アクチュエータを用いて構成した船外機のチルト・トリム装置の一例を示す図である。このチルト・トリム装置は、船外機1を船体2の船尾板3に取り付ける装置であり、前記船尾板3に固定される第一の構造体としてのクランプブラケット4と、前記船外機1を支えると共に前記クランプブラケット4に対して支軸5を中心として揺動自在に連結された第二の構造体としてのスイベルブラケット6と、一端がピン7を介して前記クランプブラケット4に、他端がピン8を介して前記スイベルブラケット6に結合された電動アクチュエータ10とから構成されている。前記電動アクチュエータ10を駆動して、当該電動アクチュエータ10を伸長させると、前記支軸5を中心としてスイベルブラケット6が鉛直方向(紙面上下方向)に揺動し、船外機1を船体2に対して矢線A方向へ持ち上げることができるようになっている。
【0013】
図2は、本発明を適用した電動アクチュエータ10の第一実施形態を示す斜視図であり、内部構造が把握できるよう、一部を断面図として描いてある。この電動アクチュエータ10はねじ運動機構を用いて電動モータ11から出力される回転運動を出力ロッド9の並進運動に変換するものであり、前記電動モータ11の回転に応じて円筒状に形成されたハウジング13の先端から矢線B方向へ出力ロッド9を突出させ、又はハウジング13の内部に出力ロッド9を引き込むことができるように構成されている。
【0014】
前記ハウジング13はギヤケース14から突出しており、かかるギヤケース14には前記ハウジング13に並ぶようにして電動モータ11が固定されている。また、前記ギヤケース14は、前記ハウジング13と一体に形成されたベース筐体14aと、このベース筐体14aに対してボルト15で固定されるカバー筐体14bとから構成されており、ベース筐体14aとカバー筐体14bとの間にはガスケットが介装されて前記ギヤケース14の密閉性が確保されている。このギヤケース14の内部には電動モータ11の回転を後述するねじ軸に伝達するための減速ギヤ列が収容されている。
【0015】
図示はされていないが、前記ギヤケーシング14には前記クランプブラケット4に結合するピン7を貫通させるためのクレビスが設けられる。
【0016】
また、円筒状に形成された前記ハウジング13の中空部の中心には、ねじ運動機構を構成するねじ軸16が配設されている。このねじ軸16はベアリング17及びベアリングケース18を介して前記ベース筐体14a及びハウジング13に対して回転自在に保持されており、前記ギヤケース14内に挿入されたねじ軸16の軸端にはカップリング19を介して減速ギヤが連結されている。
【0017】
前記ねじ軸の外周面にはボールの転動溝が螺旋状に形成されており、当該ねじ軸には多数のボールを介してナット部材20が組み付けられている。前記ナット部材20はねじ軸の転動溝を転動する多数のボールを有すると共に、これらボールの無限循環路を備えている。前記ナット部材20には中空部を有する円筒状の駆動筒21が固定されており、ナット部材20を貫通した前記ねじ軸16の軸端は前記駆動筒21の中空部に収容されている。すなわち、前記ナット部材20とねじ軸16はボールねじ装置を構成しており、ねじ軸16の回転に応じてナット部材20が前記駆動筒21と共に前記ハウジング13の中空部内を軸方向へ進退する。尚、ねじ軸16及びナット部材20から構成されるねじ運動機構としてはボールねじ装置に限られるものではなく、滑りねじ装置であっても差し支えない。但し、ねじ軸16に必要な回転トルクの低減化、前記電動モータの小型化といった観点からすると、ボールねじ装置が好適である。また、前記ナット部材20は前記駆動筒21の一部として、当該駆動筒21に備えられていれば良く、図示のようにナット部材20を駆動筒21に固定しても、あるいは駆動筒21の一部にナット部材20の構造を直接設けても差し支えない。
【0018】
一方、前記ハウジング13の中空部内には前記ねじ軸16及び駆動筒21を覆う円筒状の可動筒12が収容されている。前記可動筒12は前記ねじ軸16の周囲において前記駆動筒21と重ねて配置されており、前記駆動筒21及び可動筒12が組み合わさって前記出力ロッド9を構成している。この可動筒12の軸方向長さは前記ハウジング13の軸方向長さよりも長尺に設定されており、かかる可動筒12の一部は前記ハウジング13のギヤケース14と反対側の開口から当該ハウジング13外に突出している。前記ハウジング13から突出した外筒13の軸端に設けられた開口はキャップ部材13aによって塞がれており、かかるキャップ部材13aには前記スイベルブラケット6に結合するピン8を貫通させるためのクレビス13bが設けられている。
【0019】
前記可動筒12は一対の軸受ブッシュ23,24を介して前記ハウジング13に組み付けられており、かかるハウジング13に対して軸方向へ移動自在に保持されている。一方の軸受ブッシュ23は前記ハウジング13のギヤケース14とは反対側の端部に固定されて、前記可動筒12の外周面に当接し、他方の軸受ブッシュ24はギヤケース14寄りの可動筒12の端部に固定されて前記ハウジング13の内周面に当接している。図2はハウジング13に対して可動筒12を引き込んだ状態を示しているが、かかる可動筒12を矢線B方向へ移動させてハウジング13から突出させると、前記軸受ブッシュ24がハウジング13の内周面を摺接しながら移動し、ハウジング13に固定されたもう一方の軸受ブッシュ23に接近していくことになる。これにより、可動筒12をハウジング13に対して堅固に保持しながら、当該可動筒12をハウジング13に対して進退させることが可能となっている。尚、符号25は前記ハウジング13の開口縁において当該ハウジング13と可動筒12との間を密封するシール部材である。
【0020】
また、前記駆動筒21と可動筒12との間には前記駆動筒21に対して前記可動筒12を係止する解放機構30が設けられている。この解放機構30は、可動筒12の内周面に対して周方向に沿って環状に形成された断面V字状の係止溝31と、前記駆動筒21の外周面に保持されると共に前記係止溝31に向けて付勢された一乃至複数の係止要素36とから構成されている。各係止要素36は凸球面を備えており、当該係止要素36を前記係止溝31に向けて付勢することにより、前記凸球面が係止溝31に没入して、前記駆動筒21に対して前記可動筒12が係止されるようになっている。
【0021】
図3は前記解放機構30が可動筒12を駆動筒21に対して係止している状態を示す正面断面図であり、前記ギヤケース14を省略して描いてある。この状態では前記駆動筒21に保持された係止要素36の一部が前記可動筒12に形成された係止溝31に入り込んでおり、前記駆動筒21が軸方向へ移動すると前記可動筒12も軸方向へ一緒に移動することになる。すなわち、電動モータ11を駆動してねじ軸16を回転させると、このねじ軸16に螺合するナット部材20及びそれに固定された駆動筒21が軸方向へ移動し、前記解放機構30によって駆動筒21に係止された可動筒12も軸方向へ移動することになる。これにより、電動モータ11の回転方向に応じて前記可動筒12をハウジング13から任意量だけ突出させ、また、かかる可動筒12をハウジング13内に引き戻すことが可能となっている。
【0022】
前記駆動筒21及び可動筒12は前記ハウジンング13に対して進退自在に保持された前記出力ロッド9を構成しており、前記解放機構30が駆動筒21に対して可動筒12を係止している状態では、前記出力ロッド9の全体が前記ねじ軸16の回転に応じて進退する。
【0023】
一方、図4は前記駆動筒21に対する可動筒12の係止状態が解除され、かかる可動筒12が駆動筒21の停止位置とは無関係に前記ハウジング13から突出した状態を示す正面断面図である。前記解放機構30の係止要素36は可動筒12の係止溝31に向けて付勢されているので、電動モータ11を停止した状態、すなわち駆動筒21がハウジング13に対して一定位置に保持された状態において、前記可動筒12に対して軸方向へ大きな荷重が作用すると、前記係止要素36が可動筒12の係止溝31から離脱し、駆動筒21に対する可動筒12の係止状態が解除される。これにより、前記可動筒12は前記駆動筒21と分離され、ハウジング13に対して自由に軸方向へ移動することが可能となり、例えば図3に示す状態から駆動筒21を移動させることなく、図4に示すように可動筒12のみをハウジング13から引き出すことができる。
【0024】
尚、この実施形態では前記可動筒12の内周面に係止溝31を形成し、前記駆動筒21の外周面に係止要素36を保持したが、これとは逆に、前記可動筒12の内周面に係止要素36を保持し、前記駆動筒21の外周面に係止溝31を形成しても差し支えない。
【0025】
図5及び図6は前記係止要素36とこれを前記可動筒12の内周面に向けて付勢するための具体的構成を示すものであり、前記係止要素36としての鋼球が複数配置されたボールプランジャを示している。このボールプランジャ32は前記駆動筒21の外周面に固定して使用されるものであり、図5は前記ボールプランジャ32を駆動筒21から拭き取った斜視図、図6は前記ボールプランジャ32の正面図である。このボールプランジャ32は、前記駆動筒21の外周面に嵌合するリング部材33と、このリング部材33の外周面に形成された凹溝34内に配置される一対の板ばね35と、これら板ばね35によって前記係止溝31に向けて付勢される複数の係止要素36と、この係止要素36の脱落を防止するリング状の保持器37とから構成されている。
【0026】
図7に示すように、各板ばね35は金属板を半円状に湾曲させて形成されており、一対の板ばね35が前記リング部材33を囲むようにして配置されている。このボールプランジャ32ではリング部材33の周囲に前記係止要素36としての鋼球が等間隔で6個配置されており、各板ばね35には各鋼球36に対応した押圧部38が3カ所設けられている。互いに隣接する押圧部38の間には板ばね35の縁辺からスリット39が向かい合って形成されており、各押圧部38では前記スリット39によって切り離された部位が脚部40として前記リング部材33に向けて屈曲している。また、各押圧部38の中心には前記係止要素36としての鋼球を位置決めする貫通孔41が形成されており、この貫通孔41の直径は鋼球36の直径よりも小さく形成されている。
【0027】
更に、前記保持器37は金属板を略C字状に湾曲させて形成されている。この保持器37の一方の縁辺からは前記板ばね35に配置された6個の鋼球36に対応して切欠き溝37aが設けられており、この切欠き溝37aの溝幅は前記鋼球36の直径よりも狭く設定されている。この保持器37は前記板ばね35及び鋼球36をリング部材33の周囲に配置した後、リング部材33の軸方向から当該リング部材33の外側に被せられる。このとき、保持器37に形成した各切欠き溝37aに前記板ばね35上に配置された鋼球36が入り込み、各鋼球36は板ばね35の押圧部38に形成された貫通孔41と前記保持器37の切欠き溝37aとの間で拘束される。これにより、ボールプランジャ32の組立が完了し、前記保持器37をリング部材33から取り外さない限り、前記鋼球36及び板ばね35がリング部材33から脱落することがない。
【0028】
図8及び図9は前記解放機構30の動作状態を示す拡大図であり、図8は前記可動筒12が駆動筒21に対して係止された状態を、図9は前記可動筒12が駆動筒21から分離され当該駆動筒21に対する可動筒12の移動が許容された状態を示している。図3に示すように前記可動筒12が駆動筒21に対して最も引き込まれた状態において、前記ボールプランジャ32の鋼球36は可動筒12の係止溝31に対向している。図8に示すように、ボールプランジャ32の板ばね35はその脚部40をリング部材33に当接させており、前記鋼球36は板ばね35の押圧部38に形成された貫通孔41の上に載っかっている。板ばね35の押圧部38は鋼球36をリング部材33から引き離す方向(紙面上方向)、すなわちボールプランジャ32の半径方向外側に位置する可動筒12に向けて付勢しており、鋼球36の球面の一部は対向する係止溝31に没入している。このため、前記鋼球36は板ばね35に対して可動筒12を拘束した状態にあり、また板ばね35は駆動筒21に固定されたリング部材33の凹溝34内に配置されていることから、結果として駆動筒21に対して可動筒12が拘束された状態にある。このため、前記可動筒12は駆動筒21に対して係止された状態にあり、駆動筒21が軸方向(紙面左右方向)へ移動すると、可動筒12もこれと一緒に軸方向へ移動することになる。
【0029】
一方、図8に示す状態から前記可動筒12に対して軸方向に沿った大きな外力が作用すると、断面V字状に形成された係止溝31が鋼球36を駆動筒21に向けて半径方向へ押圧し、かかる押圧力が板ばね35の付勢力に打ち勝つと、図9に示すように板ばね35の脚部40が弾性変形し、鋼球36が可動筒12の係止溝31から離脱する。これにより、駆動筒21に対する可動筒12の係止状態が解除され、前記可動筒12は電動モータ11の回転と関係なく自由に軸方向へ移動してハウジング13から突出することが可能となる。前記駆動筒21に対する可動筒12の係止状態を解除するために必要となる軸方向外力の大きさは、前記ボールプランジャ32における板ばね35の付勢力や、可動筒12に形成された係止溝31の断面形状、かかる係止溝31の溝幅に対する鋼球36の直径を調整することで、任意に設定することが可能である。
【0030】
尚、前記係止溝31及びボールブランジャ32は前記解放機構30の一例であり、例えば前記係止溝31は係止要素36との対向位置に形成されていれば、周方向に連続する環状溝である必要はない。また、係止要素36はその先端が係止溝31に入り込む一方、外力に応じて係止溝31から離脱できるものであれば、鋼球である必要はなく、例えば先端に凸球面を有するピン部材であっても差し支えない。
【0031】
ところで、例えば可動筒12に対してこれをハウジング13から引き抜く方向へ大きな外力が作用し、前述の如く解放機構30による駆動筒21と可動筒12との係止状態が解除されて当該駆動筒21に対する可動筒12の移動が許容されると、作用した外力によって前記可動筒12が勢い良くハウジング13から突出する懸念がある。このような挙動が可動筒12に生じると、例えば図1に示すチルト・トリム装置では船外機1が急激に跳ね上がることになって危険である他、電動アクチュエータ10そのものが破損する可能性もある。
【0032】
このため、この第一実施形態に示す電動アクチュエータ10では、前記駆動筒21に対する可動筒12の急激なスライドを抑えるための減衰機構が前記出力ロッド9に設けられている。前記駆動筒21は可動筒12の軸方向長さの1/2よりも僅かに長尺に形成されており、図3に示すように、駆動筒21の外周面と可動筒12の内周面との間にはオイル等の粘性流体が密封された作用室50が形成されている。また、この作用室50を密封するため、前記駆動筒21の軸方向の両端には鍔部材56,57を介して一対のオイルシール51,52が保持されており、これらオイルシール51,52は前記可動筒12の内周面に接している。前記ボールプランジャ32は前記オイルシール52と隣接する位置で駆動筒21の外周面に固定されており、前記作用室50内に位置している。このため、前記作用室50に密閉された粘性流体はボールプランジャの鋼球36の磨耗を防ぐ役割も果たしている。
【0033】
一方、一対のオイルシール51,52で区画された前記作用室50内には隔壁53が設けられている。この隔壁53は前記可動筒12の軸方向の略中央に形成されており、前記可動筒12の内周面から内径側に向けて張り出して前記駆動筒21の外周面に接している。このため、前記解放機構30による駆動筒21と可動筒12との係止状態が解除されて、可動筒12が駆動筒21に対して軸方向へ移動を生じると、図4に示すように、前記隔壁53が駆動筒21の軸方向両端に保持された一対のオイルシール51,52の間で作用室50内を軸方向へ移動することになり、かかる作用室50が前記隔壁53によって第一作用室50a及び第二作用室50bに二分されることになる。また、この隔壁53には軸方向に沿って複数のオリフィス54が貫通しており、作用室50内を隔壁が移動すると、前記第一作用室50aから他方の第二作用室50bへ粘性流体が流動するように構成されている。尚、可動筒12が駆動筒21に対して係止された状態、すなわち図3に示す状態では、前記隔壁53が一方のオイルシール52側に位置して前記ボールプランジャ32と接しており、第二作用室50bは前記ボールプランジャの周囲にのみ形成されている。
【0034】
従って、前記解放機構30による駆動筒21と可動筒12との係止状態が解除され、作用した外力によって前記可動筒12が駆動筒21に対して移動を開始すると、前記隔壁53が駆動筒21の外周面に摺接しながら軸方向へ移動して、かかる隔壁53とオイルシール52との間に前記第二作用室50bが形成される。これに伴い、第一作用室50aに密封された粘性流体が前記オリフィス54を通じて第二作用室50bに流動するが、前記オリフィス54の断面積は作用室50の断面積よりも極度に小さいため、粘性流体に対して流路抵抗が作用する。すなわち、前記作用室50、隔壁53、オリフィス54によってオイルダンパに模した構造が前記出力ロッド9に与えられている。そして、このような減衰機構が電動アクチュエータ内に設けられたことにより、前記解放機構30による駆動筒21と可動筒12との係止状態が解除されても、前記可動筒12がハウジング13から急激に飛び出す危険を回避することができる他、自由状態(図4の状態)にある可動筒12が急激にハウジング13内に押し込まれる危険を回避することも可能となる。
【0035】
また、前記駆動筒21と可動筒12との間には、駆動筒21との係止状態が解除された可動筒12を図3に示す係止位置に復帰させるための弾性部材55が設けられている。具体的には、前記第一作用室50aの内部に弾性部材55としてのコイルスプリングが設けられており、かかるコイルスプリング55は前記オイルシール51を保持する鍔部材56と前記隔壁53との間に配置されている。このコイルスプリング55は可動筒12が駆動筒21に対して係止されている状態、すなわち第一作用室50aが最大サイズに設定されている状態で自由長となり、その両端が前記鍔部材56及び隔壁53に接している。そして、可動筒12の係止状態が解除されて隔壁53が駆動筒21に対して移動し、第2作用室50bが形成されるにつれて、前記コイルスプリング55は図4に示すように徐々に圧縮され、前記可動筒12を係止位置に押し戻す付勢力を発揮する。
【0036】
このため、前記解放機構30による可動筒12と駆動筒21との係止状態が解除されて、可動筒12が駆動筒21に対して自由に移動を生じた場合であっても、前記コイルスプリング55が可動筒12を係止位置に押し戻す付勢力を発揮するので、前記係止状態を解除する契機となった外力が可動筒12から取り除かれれば、かかる可動筒12は自ずと係止位置に復帰し、前記解放機構30によって可動筒12が駆動筒21に対して再び係止され、両者を一体化することができる。
【0037】
尚、前記解放機構30は、必ずしも前述の如き係止溝31と係止要素36との組合せでなくとも良い。例えば、前記駆動筒21に対して前記可動筒12を所定の付勢力で軸方向へ押圧する弾性部材を設け、当該付勢力に打ち勝つ外力が前記可動筒12に作用した場合にのみ、前記駆動筒21に対する前記可動筒12の移動を許容するように構成することができる。一例としては、前記コイルスプリング55の付勢力を調整することで、前記解放機構30の機能を当該コイルスプリング55に発揮させることが可能であり、その場合には前記係止溝31及び係止要素36は省略することができる。また、前記解放機構30として使用可能な弾性部材としては、線形特性ばねに限らず、不等ピッチコイルスプリングのような非線形特性ばねを使用することも可能である。
【0038】
以上のように構成された電動アクチュエータ10では、図3に示すように、駆動筒21が可動筒12の中空部内に最も入り込んだ状態が当該電動アクチュエータ10の最も短い状態であり、このとき解放機構30は駆動筒21に対して可動筒12を係止している。この電動アクチュエータ10を船外機1のチルト・トリム装置に適用した場合を想定すると、前記状態が図1に示すように船外機1のプロペラを水中に下ろした状態に対応しており、船体2の航走が可能である。
【0039】
そして、この状態から電動モータ11を回転させると、ナット部材20を介してねじ軸16に螺合した駆動筒21がハウジング13内を軸方向へ移動し、これに伴って駆動筒21に係止された可動筒12は当該駆動筒21と一緒に移動してハウジング13から突出し、電動アクチュエータ10の全長が徐々に長くなる。これにより、チルト・トリム装置では船外機1が矢線A方向へ傾動し、プロペラを水中から水上へ持ち上げることができる。
【0040】
一方、船外機1を図1に示す状態に設定して船体2が航走している最中に、流木などの水中の障害物が船外機1に衝突した場合を想定すると、かかる障害物と船外機1との衝突によってスイベルブラケット6に連結された電動アクチュエータ10の可動筒12には軸方向への衝撃荷重が作用するので、前記解放機構30の係止要素36が可動筒12の係止溝31から離脱し、駆動筒21に対する可動筒12の係止状態が解除されて当該駆動筒21に対する可動筒12の移動が許容される。このため、電動モータ11が停止しているにもかかわらず、可動筒12がハウジング13から突出することが可能となり、船外機1を支えているスイベルブラケット6は矢線A方向へ自由に傾動することが可能となる。これにより、障害物との衝突による船外機1及びチルト・トリム装置の破損を防止することが可能となる。
【0041】
また、前記衝撃荷重によって電動アクチュエータ10の可動筒12がハウジング13から突出する際には、前記駆動筒21と可動筒12との間に設けられた減衰機構が働き、可動筒12の急激な突出に対して抵抗力を作用させるので、前記解放機構30による係止状態が解除されたとしても、かかる可動筒12が瞬時にハウジング13から引き出されることはなく、電動アクチュエータ10の破損を防止することが可能となる。また、チルト・トリム装置に関しては、前述した障害物との衝突に起因してスイベルブラケット6の傾動が自由になっても、船外機1が衝突の衝撃によって急激に跳ね上がるのを防止することができ、船外機1を安全に使用することが可能となる。
【0042】
更に、このように不意の衝撃荷重に起因して可動筒12がハウジング13から引き出されたとしても、前記コイルスプリング55の付勢力が可動筒12を駆動筒21との係止位置に向けて付勢するので、可動筒12に作用する軸方向の外力が除去されれば、かかる可動筒12は速やかに係止位置に復帰して駆動筒21に係止され、以降は電動モータ11の回転に応じた駆動筒21の動きに追従することになる。このことをチルト・トリム装置に当てはめてみると、障害物との衝突によってスイベルブラケット6が一時的に矢線A方向へ傾動しても、かかるスイベルブラケット6は直ちに元の状態、すなわち電動アクチュエータ10によって拘束された航走状態へ自動的に復帰することになる。
【0043】
このように本発明を適用した電動アクチュエータ10は、油圧シリンダ装置の置き換えに最適であり、しかも油圧シリンダ装置に比べて構造が簡易なので、小型化及び低コスト化を容易に達成することが可能となる。また、油圧シリンダ装置のようなオイル漏れの懸念がなく、環境負荷も低減することが可能となる。
【0044】
次に、本発明を適用した電動アクチュエータの第二実施形態について説明する。
【0045】
図10は第二実施形態の電動アクチュエータ100を示す正面断面図であり、出力ロッド90をハウジング130内に引き込んだ状態、すなわち電動アクチュエータ100の軸方向長さを最も短くした状態を示している。尚、この図10は第一実施形態を示した図3と同様に前記ギヤケース14を省略して描いてある。
【0046】
円筒状に形成された前記ハウジング130の中空部の中心にはねじ運動機構を構成するねじ軸160が配設され、このねじ軸160には多数のボールを介してナット部材200が組み付けられている。前記ねじ軸160は図示外のベアリングによって前記ハウジング130に対して回転自在に保持されており、電動モータの回転が減速ギヤを介して伝達される。前記ねじ軸160及びナット部材200の組合せはボールねじ装置を構成している。
【0047】
前記ナット部材200には中空部を有する駆動筒120が固定され、前記ねじ軸160は前記駆動筒120の中空部を貫通している。この駆動筒120は円筒状に形成された前記ハウジング130の中空部内に設けられており、前記ねじ軸160が回転すると、その回転に応じてナット部材200と一緒に前記ハウジング130の中空部内を軸方向へ進退する。前記ハウジング130の開口端には、前記駆動筒120の外周面に摺接する軸受ブッシュ230が設けられると共に,当該ハウジング130と駆動筒120との間を密封するシール部材250が設けられている。また、前記ねじ軸160の回転に対してナット部材200がつれ回るのを防止するため、当該ナット部材200には周り止め部材201が固定される一方、前記ハウジング130の内周面には前記駆動筒120の移動方向に沿って案内溝131が設けられ、前記周り止め部材201の先端は前記案内溝131に挿入されている。
【0048】
また、前記駆動筒120の中空部内であって前記ねじ軸160の周囲には円筒状の延設筒121が設けられており、この延設筒121は前記駆動筒120と同様に前記ナット部材200に固定されている。前記延設筒121は大径部121a及び小径部121bを有しており、前記ナット部材200は前記大径部121aの内周面に固定される一方、前記ねじ軸160は前記小径部121bを貫通している。前記延設筒121の軸方向長さは前記駆動筒120よりも短く設定されている。尚、前記延設筒121は前記ナット部材200の一部として当該ナット部材200と一体に形成しても差し支えない。
【0049】
前記延設筒121の小径部121bと前記駆動筒120との間には環状空間が設けられており、この環状空間には可動筒210が収容されている。前記可動筒210はその内径が前記延設筒121の小径部121bの外径よりも大きく設定される一方、その外径は前記駆動筒120の内径よりも小さく設定されており、当該可動筒210の中空部に前記ねじ軸160及び延設筒121の小径部121bが収容されている。すなわち、前記ねじ軸160の周囲には前記延設筒121、可動筒210及び駆動筒120が重ねて配置されている。
【0050】
前記可動筒210は前記駆動筒120に対して進退自在に配置されて、前記環状空間内を軸方向へ移動できるように構成されており、当該可動筒210は前記駆動筒120と組み合わさって前記出力ロッド90を構成している。図10は前記可動筒210を前記駆動筒120に対して最も引き込んだ状態を示しており、この状態で前記出力ロッド90の軸方向長さは最も短くなっている。前記駆動筒120の開口端、すなわち前記ナット部材200に対する固定端と反対側の端部には前記可動筒210の外周面に摺接する軸受ブッシュ240が設けられる一方、前記可動筒210のナット部材200側の端部には前記駆動筒120の内周面に摺接するピストン軸受241が設けられている。
【0051】
前記可動筒210を駆動筒120に対して軸方向へ移動させ、当該駆動筒120の中空部内から進出させると、前記ピストン軸受241が駆動筒120の内周面に沿って移動し、前記軸受ブッシュ240に接近する。これにより、前記可動筒210は駆動筒120に対して円滑に移動する。また、前記駆動筒120の開口端には前記軸受ブッシュ240に隣接して、前記駆動筒120と前記可動筒210との間を密封するシール部材251が設けられている。また、前記可動筒210の先端に設けられた開口はキャップ部材130aによって閉塞されており、当該キャップ部材130aは前記シール部材251が設けられた前記駆動筒120の開口端から突出している。尚、前記キャップ部材130aにはクレビスが設けられており、前述したチルト・トリム装置のスイベルブラケット6に結合できるようになっている。
【0052】
また、前記可動筒210と駆動筒120との間には前記駆動筒120に対して前記可動筒210を係止する解放機構300が設けられている。図11に詳細を示すように、この解放機構300は、駆動筒120の内周面に対して周方向に沿って環状に形成された断面V字状の係止溝310と、前記可動筒210の外周面に保持されると共に前記係止溝310に向けて付勢された係止要素360とから構成されている。前記係止要素360は前記可動筒210が前記駆動筒120に引き込まれた状態、すなわち図10に示す状態において前記係止溝310と対向しており、この状態で前記係止要素360の一部が前記係止溝310に入り込み、前記可動筒210と駆動筒120を結合している。
【0053】
前記可動筒210の外周面には前記係止要素360を収容するための円形状の凹所211が周方向に沿って複数形成されており、各凹所211内には複数の皿ばね361が重ねて配置される共に、これら皿ばね361を覆うようにして前記係止要素360が配置されている。図12は前記係止要素360を示す斜視図である。この係止要素360は円盤部362の周囲を側壁363で囲んで前記皿ばね361の収容部を形成したものであり、前記円盤部362の中心には前記係止溝310に没入する凸球面364が形成されている。従って、前記係止要素360は前記可動筒210から駆動筒120に向けて前記皿ばね361で付勢され、前記凸球面364に対する駆動筒120からの押圧力に応じて前記凹所211内を上下に移動する。また、前記係止要素360は前記凸球面364が係止溝310に没入している状態で前記可動筒210の凹所211から離脱しないようになっている。
【0054】
この解放機構300の作用は前述の第一実施形態の解放機構30と同じである。図10に示すように前記係止要素の一部が前記係止溝310に入り込んでいる状態では、前記ねじ軸160を回転させると、前記出力ロッド90を構成する駆動筒120と可動筒210が一体となって移動し、当該出力ロッド90をハウジング130から進出させ、あるいはハウジング130に引き込むことができる。また、前記スイベルブラケット6に固定された可動筒210に対して大きな軸方向荷重が作用すると、図13に示すように、前記係止要素360が駆動筒120の係止溝310から離脱し、駆動筒120と可動筒210との結合状態が解除される。これにより、前記可動筒210は前記ねじ軸160の回転とは無関係にハウジング130に対して自由に軸方向へ移動することが可能となり、駆動筒120をハウジング130内に収容したままの状態で可動筒210を前記駆動筒120の開口端から引き出すことができる。
【0055】
一方、この第二実施形態に示す電動アクチュエータ10でも、前記駆動筒120に対する可動筒210の急激なスライドを抑えるための減衰機構が設けられている。図10に示すように、可動筒210の外周面と駆動筒120の内周面との間にはオイル等の粘性流体が密封された作用室500が形成されている。前記駆動筒120の開口端の近傍には前記可動筒210の外周面と接するUパッキン242が設けられる一方、前記作用室500のナット部材200側の端部には前記ピストン軸受241が設けられており、これらUパッキン242とピストン軸受241によって前記作用室500は密閉されている。
【0056】
但し、図14に示すように、前記ピストン軸受241は円周の一部にスリット540が形成されており、このスリット540はオリフィスとして機能する。このため、前記可動筒210が駆動筒120の中空部内に収容された状態(図10参照)から駆動筒120の外へ徐々に引き出されると、作用室500の容積が次第に小さくなることから、当該作用室500内の粘性流体は前記ピストン軸受241に形成されたスリット(オリフィス)540に流入し、作用室500から排出される。
【0057】
前記作用室500からオリフィス540に流入した粘性流体は、図13に示すように、前記延設筒121の小径部121aと駆動筒120との間に生じる受容室501に排出される。この受容室501は前記延設筒121の小径部121aと駆動筒120との間に設けられた環状空間であり、前記可動筒210が駆動筒120から引き出される前に収容されていた空間である。前記受容室501に流入した粘性流体が前記延設筒121と可動筒210との間から漏れ出すのを防止するため、当該可動筒210のナット部材200側の端部には前記延設筒121の小径部121aに接するOリング243が設けられている。このOリング243は前記駆動筒120に対する可動筒210の移動に応じて前記小径部121aの外周面上を軸方向へ移動する。すなわち、前記延設筒121の小径部121aの軸方向長さは、前記可動筒210が前記駆動筒120から最も突出した場合であっても、前記Oリング243が当該小径部121aから離脱しない長さに設定されている。
【0058】
前記粘性流体が作用室500から受容室501に流動する際、前記オリフィス540の断面積は作用室500の断面積よりも極度に小さいため、粘性流体に対して流路抵抗が作用し、前記駆動筒120に対する可動筒210の急激な移動に対して減衰力を作用させることができる。すなわち、この第二実施形態の電動アクチュエータ100においても、前述した第一実施形態と同様に、オイルダンパに模した構造が出力ロッド90に与えられており、前記解放機構300による可動筒210と駆動筒120との係止状態が解除されても、前記可動筒210が駆動筒120から急激に飛び出す危険を回避することができる。
【0059】
そして、このように構成された第二実施形態の電動アクチュエータ100も、前述した第一実施形態の電動アクチュエータ10と同様に使用することが可能であり、油圧シリンダ装置の置き換えに最適である。
【0060】
また、この第二実施形態の電動アクチュエータ100では、前記出力ロッド90をハウジング130内に収容した際の軸方向全長が前述の第一実施形態の電動アクチュエータ10に比べて短くなっており、一層の小型化が図られている。第一実施形態の電動アクチュエータ10では前記可動筒12に設けた隔壁53が作用室50を第一作用室と第二作用室に二分しており、駆動筒21に対する可動筒12の移動に応じて前記隔壁53が第一作用室と第二作用室の容積を変更していた。このため、可動筒12は駆動筒21の約2倍程度の長さが必要である。
【0061】
その一方、第二実施形態の電動アクチュエータ100では、前記駆動筒120と延設筒121との間の環状空間に対して可動筒210を収容し、前記駆動筒120と可動筒との間に粘性流体の作用室500を設ける一方、当該可動筒210が駆動筒120に対して移動した際には前記環状空間を粘性流体の受容室501として利用するので、前記可動筒210の軸方向長さは前記駆動筒120のそれと同じ、あるいは僅かに短く設定することができる。これにより、第二実施形態の電動アクチュエータ100は小型化に適したものとなっている。
【0062】
尚、前述した第一実施形態及び第二実施形態の電動アクチュエータでは、前記駆動筒及び可動筒を円筒状に形成したが、中空部を有する形状であれば、適宜設計変更して差し支えない。
【0063】
また、前述した電動アクチュエータの実施形態では、前記可動筒に対して衝撃荷重が作用した場合に、かかる可動筒がハウジングから自由に突出するように構成したが、これとは逆に、かかる可動筒が衝撃荷重に対してハウジング内に収容されるように構成しても良い。
【0064】
更に、前述した電動アクチュエータの各実施形態では前記可動筒と駆動筒との間に減衰機構を内蔵させたが、これは本発明の電動アクチュエータに必須の構成ではなく、電動アクチュエータの外部にオイルダンパ等の減衰装置を並列的に設けても差し支えない。
【0065】
また更に、前記第二実施形態では第一実施形態と異なり、前記可動筒を係止位置に復帰させるためのコイルスプリングを設けていないが、例えば前記チルト・トリム装置に対してそのスイベルブラケット6をクランプブラケット4へ近接する方向へ付勢する弾性部材を設けるように構成しても良い。
【0066】
また、前述した実施形態では本発明の電動アクチュエータを船外機のチルト・トリム装置に使用した例を説明したが、本発明の電動アクチュエータはこれ以外の用途に対しても使用することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
9,90…出力ロッド、10,100…電動アクチュエータ、11…電動モータ、12,210…可動筒、13…ハウジング、21,120…駆動筒、30,300…解放機構、31,310…係止溝、36,360…係止要素、50,500…作用室
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの回転運動を送りねじ機構によって並進運動に変換する電動アクチュエータに係り、特に外部からの衝撃荷重を吸収する機構を備え、例えば油圧シリンダ装置に置き換えて使用することが可能な電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には油圧シリンダ装置の伸縮作動によって動力を発生する船外機のチルト・トリム装置が開示されている。このチルト・トリム装置は、船体の船尾板に固定されるクランプブラケットと、このクランプブラケットに対して鉛直方向に揺動可能に軸支されたスイベルブラケットと、これらクランプブラケットとスイベルブラケットとの間に配設された油圧シリンダ装置とから構成されており、プロペラ及びエンジンを備えた船外機が前記スイベルブラケットに対して水平方向に揺動可能に軸支されている。そして、前記油圧シリンダ装置に伸縮動作を行わせることで、前記スイベルブラケットがクランプブラケットに対して鉛直方向に傾動し、前記船外機を水面上に上げ下げすることができるようになっている。
【0003】
また、このようなチルト・トリム装置は船外機を単に水面上に上げ下げするだけでなく、急激な外力から船外機を保護する役目も担っている。すなわち、船体が水上を航走している最中に、船外機が流木等の障害物に衝突し、あるいは暗礁等の水中障害物に乗り上げてしまうケースが想定されることから、船外機に対して衝突エネルギが作用した場合には、前記油圧シリンダ装置によるスイベルブラケットの拘束状態を直ちに解除することが必要とされる。このため、前記油圧シリンダ装置にはシリンダ内の油圧変化に追従して開閉する複数のボールバルブが設けられ、オイルポンプの動作とは無関係に、急激な外力に応じて当該油圧シリンダ装置が自由に伸縮できるように構成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−10083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、油圧シリンダ装置にはオイルポンプを駆動する電動モータやオイルタンクが必要となる他、油圧変化に追従するための各種バルブや配管が必要となり、構造が複雑となることから軽量化、小型化が難しいといった課題がある。また、配管やバルブからオイルが漏れだす懸念もあり、環境負荷が高いといった課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、油圧シリンダ装置と比較して軽量化、小型化を容易に図ることができ、かかる油圧シリンダ装置に置き換えて使用することが可能であると共に、突然に作用する衝撃荷重に対して自由に伸長又は収縮することが可能な電動アクチュエータを提供することにある。
【0007】
すなわち、本発明は、第一の構造体に固定されるハウジングと、中空部を有すると共に前記ハウジングに対して進退自在に保持され、第二の構造体に固定される出力ロッドと、前記ハウジングに対して回転自在に保持されると共に前記出力ロッドの中空部内に挿通され、電動モータによって適宜回転が与えられるねじ軸と、前記出力ロッドに備えられると共に前記ねじ軸に組み付けられて当該ねじ軸の回転に応じて軸方向へ移動するナット部材と、を備えた電動アクチュエータである。そして、前記出力ロッドは、前記ねじ軸の周囲に配置されると共に前記ナット部材が設けられた駆動筒と、前記駆動筒と重ねてねじ軸の周囲に配置されると共に当該駆動筒に対して進退自在であり、前記第二の構造体が固定される可動筒とを備え、更に、前記駆動筒と可動筒の間には、当該駆動筒に対して可動筒を係止する一方、前記第二の構造体に固定された可動筒に対して所定以上の軸力が作用した場合に前記駆動筒に対する可動筒の移動を許容する解放機構が設けられている。
【発明の効果】
【0008】
以上のように構成された電動アクチュエータでは、電動モータを回転させると前記ねじ軸がハウジング内で回転し、ナット部材を介してこのねじ軸に組み付けられた出力ロッドがねじ軸の回転方向に応じてその周囲を軸方向へ進退する。前記出力ロッドは駆動筒及び当該駆動筒に対して移動自在な可動筒を備えており、これら駆動筒及び可動筒の間には解放機構が設けられている。前記解放機構によって前記可動筒が駆動筒に対して係止されている状態では、前記駆動筒がねじ軸の回転に応じて進退すると、当該駆動筒と一緒に可動筒も軸方向へ移動し、かかる可動筒が前記ハウジングに対して進退することになる。これにより、ハウジングが固定される第一の構造体と可動筒が固定される第二の構造体との間に押圧力を及ぼすことが可能となる。
【0009】
一方、第一の構造体と第二の構造体との間に衝撃荷重が作用し、前記可動筒に対して所定以上の軸力が作用すると、前記解放機構は駆動筒に対する可動筒の移動を許容するので、可動筒は駆動筒の進退とは無関係にハウジングに対して進退することが可能となる。これにより、第一の構造体と第二の構造体との間に衝撃荷重が作用した場合であっても、可動筒をハウジングに対して自由に進退させることができ、前記衝撃荷重の作用による電動アクチュエータの破損を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の電動アクチュエータを用いて構成した船外機のチルト・トリム装置の一例を示す図である。
【図2】本発明を適用した電動アクチュエータの第一実施形態を示す斜視図である。
【図3】第一実施形態に係る電動アクチュエータにおいて外筒が係止位置に設定されている状態を示す正面断面図である。
【図4】第一実施形態に係る電動アクチュエータにおいて外筒が係止位置から離脱した状態を示す正面断面図である。
【図5】ボールプランジャの実施形態の一例を示す斜視図である。
【図6】図5に示したボールプランジャの正面図である。
【図7】図5に示したボールプランジャに使用される板ばねを示す斜視図である。
【図8】図3中の部位VIIIの詳細を示す拡大図である。
【図9】図4中の部位IXの詳細を示す拡大図である。
【図10】本発明を適用した電動アクチュエータの第二実施形態を示す正面断面図である。
【図11】図10中の部位XIの詳細を示す拡大図である。
【図12】第二実施形態における係止要素を示す斜視図である。
【図13】第二実施形態に係る電動アクチュエータにおいて外筒が係止位置から離脱した状態を示す正面断面図である。
【図14】第二実施形態に係るピストン軸受を示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を用いながら本発明の電動アクチュエータを詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明の電動アクチュエータを用いて構成した船外機のチルト・トリム装置の一例を示す図である。このチルト・トリム装置は、船外機1を船体2の船尾板3に取り付ける装置であり、前記船尾板3に固定される第一の構造体としてのクランプブラケット4と、前記船外機1を支えると共に前記クランプブラケット4に対して支軸5を中心として揺動自在に連結された第二の構造体としてのスイベルブラケット6と、一端がピン7を介して前記クランプブラケット4に、他端がピン8を介して前記スイベルブラケット6に結合された電動アクチュエータ10とから構成されている。前記電動アクチュエータ10を駆動して、当該電動アクチュエータ10を伸長させると、前記支軸5を中心としてスイベルブラケット6が鉛直方向(紙面上下方向)に揺動し、船外機1を船体2に対して矢線A方向へ持ち上げることができるようになっている。
【0013】
図2は、本発明を適用した電動アクチュエータ10の第一実施形態を示す斜視図であり、内部構造が把握できるよう、一部を断面図として描いてある。この電動アクチュエータ10はねじ運動機構を用いて電動モータ11から出力される回転運動を出力ロッド9の並進運動に変換するものであり、前記電動モータ11の回転に応じて円筒状に形成されたハウジング13の先端から矢線B方向へ出力ロッド9を突出させ、又はハウジング13の内部に出力ロッド9を引き込むことができるように構成されている。
【0014】
前記ハウジング13はギヤケース14から突出しており、かかるギヤケース14には前記ハウジング13に並ぶようにして電動モータ11が固定されている。また、前記ギヤケース14は、前記ハウジング13と一体に形成されたベース筐体14aと、このベース筐体14aに対してボルト15で固定されるカバー筐体14bとから構成されており、ベース筐体14aとカバー筐体14bとの間にはガスケットが介装されて前記ギヤケース14の密閉性が確保されている。このギヤケース14の内部には電動モータ11の回転を後述するねじ軸に伝達するための減速ギヤ列が収容されている。
【0015】
図示はされていないが、前記ギヤケーシング14には前記クランプブラケット4に結合するピン7を貫通させるためのクレビスが設けられる。
【0016】
また、円筒状に形成された前記ハウジング13の中空部の中心には、ねじ運動機構を構成するねじ軸16が配設されている。このねじ軸16はベアリング17及びベアリングケース18を介して前記ベース筐体14a及びハウジング13に対して回転自在に保持されており、前記ギヤケース14内に挿入されたねじ軸16の軸端にはカップリング19を介して減速ギヤが連結されている。
【0017】
前記ねじ軸の外周面にはボールの転動溝が螺旋状に形成されており、当該ねじ軸には多数のボールを介してナット部材20が組み付けられている。前記ナット部材20はねじ軸の転動溝を転動する多数のボールを有すると共に、これらボールの無限循環路を備えている。前記ナット部材20には中空部を有する円筒状の駆動筒21が固定されており、ナット部材20を貫通した前記ねじ軸16の軸端は前記駆動筒21の中空部に収容されている。すなわち、前記ナット部材20とねじ軸16はボールねじ装置を構成しており、ねじ軸16の回転に応じてナット部材20が前記駆動筒21と共に前記ハウジング13の中空部内を軸方向へ進退する。尚、ねじ軸16及びナット部材20から構成されるねじ運動機構としてはボールねじ装置に限られるものではなく、滑りねじ装置であっても差し支えない。但し、ねじ軸16に必要な回転トルクの低減化、前記電動モータの小型化といった観点からすると、ボールねじ装置が好適である。また、前記ナット部材20は前記駆動筒21の一部として、当該駆動筒21に備えられていれば良く、図示のようにナット部材20を駆動筒21に固定しても、あるいは駆動筒21の一部にナット部材20の構造を直接設けても差し支えない。
【0018】
一方、前記ハウジング13の中空部内には前記ねじ軸16及び駆動筒21を覆う円筒状の可動筒12が収容されている。前記可動筒12は前記ねじ軸16の周囲において前記駆動筒21と重ねて配置されており、前記駆動筒21及び可動筒12が組み合わさって前記出力ロッド9を構成している。この可動筒12の軸方向長さは前記ハウジング13の軸方向長さよりも長尺に設定されており、かかる可動筒12の一部は前記ハウジング13のギヤケース14と反対側の開口から当該ハウジング13外に突出している。前記ハウジング13から突出した外筒13の軸端に設けられた開口はキャップ部材13aによって塞がれており、かかるキャップ部材13aには前記スイベルブラケット6に結合するピン8を貫通させるためのクレビス13bが設けられている。
【0019】
前記可動筒12は一対の軸受ブッシュ23,24を介して前記ハウジング13に組み付けられており、かかるハウジング13に対して軸方向へ移動自在に保持されている。一方の軸受ブッシュ23は前記ハウジング13のギヤケース14とは反対側の端部に固定されて、前記可動筒12の外周面に当接し、他方の軸受ブッシュ24はギヤケース14寄りの可動筒12の端部に固定されて前記ハウジング13の内周面に当接している。図2はハウジング13に対して可動筒12を引き込んだ状態を示しているが、かかる可動筒12を矢線B方向へ移動させてハウジング13から突出させると、前記軸受ブッシュ24がハウジング13の内周面を摺接しながら移動し、ハウジング13に固定されたもう一方の軸受ブッシュ23に接近していくことになる。これにより、可動筒12をハウジング13に対して堅固に保持しながら、当該可動筒12をハウジング13に対して進退させることが可能となっている。尚、符号25は前記ハウジング13の開口縁において当該ハウジング13と可動筒12との間を密封するシール部材である。
【0020】
また、前記駆動筒21と可動筒12との間には前記駆動筒21に対して前記可動筒12を係止する解放機構30が設けられている。この解放機構30は、可動筒12の内周面に対して周方向に沿って環状に形成された断面V字状の係止溝31と、前記駆動筒21の外周面に保持されると共に前記係止溝31に向けて付勢された一乃至複数の係止要素36とから構成されている。各係止要素36は凸球面を備えており、当該係止要素36を前記係止溝31に向けて付勢することにより、前記凸球面が係止溝31に没入して、前記駆動筒21に対して前記可動筒12が係止されるようになっている。
【0021】
図3は前記解放機構30が可動筒12を駆動筒21に対して係止している状態を示す正面断面図であり、前記ギヤケース14を省略して描いてある。この状態では前記駆動筒21に保持された係止要素36の一部が前記可動筒12に形成された係止溝31に入り込んでおり、前記駆動筒21が軸方向へ移動すると前記可動筒12も軸方向へ一緒に移動することになる。すなわち、電動モータ11を駆動してねじ軸16を回転させると、このねじ軸16に螺合するナット部材20及びそれに固定された駆動筒21が軸方向へ移動し、前記解放機構30によって駆動筒21に係止された可動筒12も軸方向へ移動することになる。これにより、電動モータ11の回転方向に応じて前記可動筒12をハウジング13から任意量だけ突出させ、また、かかる可動筒12をハウジング13内に引き戻すことが可能となっている。
【0022】
前記駆動筒21及び可動筒12は前記ハウジンング13に対して進退自在に保持された前記出力ロッド9を構成しており、前記解放機構30が駆動筒21に対して可動筒12を係止している状態では、前記出力ロッド9の全体が前記ねじ軸16の回転に応じて進退する。
【0023】
一方、図4は前記駆動筒21に対する可動筒12の係止状態が解除され、かかる可動筒12が駆動筒21の停止位置とは無関係に前記ハウジング13から突出した状態を示す正面断面図である。前記解放機構30の係止要素36は可動筒12の係止溝31に向けて付勢されているので、電動モータ11を停止した状態、すなわち駆動筒21がハウジング13に対して一定位置に保持された状態において、前記可動筒12に対して軸方向へ大きな荷重が作用すると、前記係止要素36が可動筒12の係止溝31から離脱し、駆動筒21に対する可動筒12の係止状態が解除される。これにより、前記可動筒12は前記駆動筒21と分離され、ハウジング13に対して自由に軸方向へ移動することが可能となり、例えば図3に示す状態から駆動筒21を移動させることなく、図4に示すように可動筒12のみをハウジング13から引き出すことができる。
【0024】
尚、この実施形態では前記可動筒12の内周面に係止溝31を形成し、前記駆動筒21の外周面に係止要素36を保持したが、これとは逆に、前記可動筒12の内周面に係止要素36を保持し、前記駆動筒21の外周面に係止溝31を形成しても差し支えない。
【0025】
図5及び図6は前記係止要素36とこれを前記可動筒12の内周面に向けて付勢するための具体的構成を示すものであり、前記係止要素36としての鋼球が複数配置されたボールプランジャを示している。このボールプランジャ32は前記駆動筒21の外周面に固定して使用されるものであり、図5は前記ボールプランジャ32を駆動筒21から拭き取った斜視図、図6は前記ボールプランジャ32の正面図である。このボールプランジャ32は、前記駆動筒21の外周面に嵌合するリング部材33と、このリング部材33の外周面に形成された凹溝34内に配置される一対の板ばね35と、これら板ばね35によって前記係止溝31に向けて付勢される複数の係止要素36と、この係止要素36の脱落を防止するリング状の保持器37とから構成されている。
【0026】
図7に示すように、各板ばね35は金属板を半円状に湾曲させて形成されており、一対の板ばね35が前記リング部材33を囲むようにして配置されている。このボールプランジャ32ではリング部材33の周囲に前記係止要素36としての鋼球が等間隔で6個配置されており、各板ばね35には各鋼球36に対応した押圧部38が3カ所設けられている。互いに隣接する押圧部38の間には板ばね35の縁辺からスリット39が向かい合って形成されており、各押圧部38では前記スリット39によって切り離された部位が脚部40として前記リング部材33に向けて屈曲している。また、各押圧部38の中心には前記係止要素36としての鋼球を位置決めする貫通孔41が形成されており、この貫通孔41の直径は鋼球36の直径よりも小さく形成されている。
【0027】
更に、前記保持器37は金属板を略C字状に湾曲させて形成されている。この保持器37の一方の縁辺からは前記板ばね35に配置された6個の鋼球36に対応して切欠き溝37aが設けられており、この切欠き溝37aの溝幅は前記鋼球36の直径よりも狭く設定されている。この保持器37は前記板ばね35及び鋼球36をリング部材33の周囲に配置した後、リング部材33の軸方向から当該リング部材33の外側に被せられる。このとき、保持器37に形成した各切欠き溝37aに前記板ばね35上に配置された鋼球36が入り込み、各鋼球36は板ばね35の押圧部38に形成された貫通孔41と前記保持器37の切欠き溝37aとの間で拘束される。これにより、ボールプランジャ32の組立が完了し、前記保持器37をリング部材33から取り外さない限り、前記鋼球36及び板ばね35がリング部材33から脱落することがない。
【0028】
図8及び図9は前記解放機構30の動作状態を示す拡大図であり、図8は前記可動筒12が駆動筒21に対して係止された状態を、図9は前記可動筒12が駆動筒21から分離され当該駆動筒21に対する可動筒12の移動が許容された状態を示している。図3に示すように前記可動筒12が駆動筒21に対して最も引き込まれた状態において、前記ボールプランジャ32の鋼球36は可動筒12の係止溝31に対向している。図8に示すように、ボールプランジャ32の板ばね35はその脚部40をリング部材33に当接させており、前記鋼球36は板ばね35の押圧部38に形成された貫通孔41の上に載っかっている。板ばね35の押圧部38は鋼球36をリング部材33から引き離す方向(紙面上方向)、すなわちボールプランジャ32の半径方向外側に位置する可動筒12に向けて付勢しており、鋼球36の球面の一部は対向する係止溝31に没入している。このため、前記鋼球36は板ばね35に対して可動筒12を拘束した状態にあり、また板ばね35は駆動筒21に固定されたリング部材33の凹溝34内に配置されていることから、結果として駆動筒21に対して可動筒12が拘束された状態にある。このため、前記可動筒12は駆動筒21に対して係止された状態にあり、駆動筒21が軸方向(紙面左右方向)へ移動すると、可動筒12もこれと一緒に軸方向へ移動することになる。
【0029】
一方、図8に示す状態から前記可動筒12に対して軸方向に沿った大きな外力が作用すると、断面V字状に形成された係止溝31が鋼球36を駆動筒21に向けて半径方向へ押圧し、かかる押圧力が板ばね35の付勢力に打ち勝つと、図9に示すように板ばね35の脚部40が弾性変形し、鋼球36が可動筒12の係止溝31から離脱する。これにより、駆動筒21に対する可動筒12の係止状態が解除され、前記可動筒12は電動モータ11の回転と関係なく自由に軸方向へ移動してハウジング13から突出することが可能となる。前記駆動筒21に対する可動筒12の係止状態を解除するために必要となる軸方向外力の大きさは、前記ボールプランジャ32における板ばね35の付勢力や、可動筒12に形成された係止溝31の断面形状、かかる係止溝31の溝幅に対する鋼球36の直径を調整することで、任意に設定することが可能である。
【0030】
尚、前記係止溝31及びボールブランジャ32は前記解放機構30の一例であり、例えば前記係止溝31は係止要素36との対向位置に形成されていれば、周方向に連続する環状溝である必要はない。また、係止要素36はその先端が係止溝31に入り込む一方、外力に応じて係止溝31から離脱できるものであれば、鋼球である必要はなく、例えば先端に凸球面を有するピン部材であっても差し支えない。
【0031】
ところで、例えば可動筒12に対してこれをハウジング13から引き抜く方向へ大きな外力が作用し、前述の如く解放機構30による駆動筒21と可動筒12との係止状態が解除されて当該駆動筒21に対する可動筒12の移動が許容されると、作用した外力によって前記可動筒12が勢い良くハウジング13から突出する懸念がある。このような挙動が可動筒12に生じると、例えば図1に示すチルト・トリム装置では船外機1が急激に跳ね上がることになって危険である他、電動アクチュエータ10そのものが破損する可能性もある。
【0032】
このため、この第一実施形態に示す電動アクチュエータ10では、前記駆動筒21に対する可動筒12の急激なスライドを抑えるための減衰機構が前記出力ロッド9に設けられている。前記駆動筒21は可動筒12の軸方向長さの1/2よりも僅かに長尺に形成されており、図3に示すように、駆動筒21の外周面と可動筒12の内周面との間にはオイル等の粘性流体が密封された作用室50が形成されている。また、この作用室50を密封するため、前記駆動筒21の軸方向の両端には鍔部材56,57を介して一対のオイルシール51,52が保持されており、これらオイルシール51,52は前記可動筒12の内周面に接している。前記ボールプランジャ32は前記オイルシール52と隣接する位置で駆動筒21の外周面に固定されており、前記作用室50内に位置している。このため、前記作用室50に密閉された粘性流体はボールプランジャの鋼球36の磨耗を防ぐ役割も果たしている。
【0033】
一方、一対のオイルシール51,52で区画された前記作用室50内には隔壁53が設けられている。この隔壁53は前記可動筒12の軸方向の略中央に形成されており、前記可動筒12の内周面から内径側に向けて張り出して前記駆動筒21の外周面に接している。このため、前記解放機構30による駆動筒21と可動筒12との係止状態が解除されて、可動筒12が駆動筒21に対して軸方向へ移動を生じると、図4に示すように、前記隔壁53が駆動筒21の軸方向両端に保持された一対のオイルシール51,52の間で作用室50内を軸方向へ移動することになり、かかる作用室50が前記隔壁53によって第一作用室50a及び第二作用室50bに二分されることになる。また、この隔壁53には軸方向に沿って複数のオリフィス54が貫通しており、作用室50内を隔壁が移動すると、前記第一作用室50aから他方の第二作用室50bへ粘性流体が流動するように構成されている。尚、可動筒12が駆動筒21に対して係止された状態、すなわち図3に示す状態では、前記隔壁53が一方のオイルシール52側に位置して前記ボールプランジャ32と接しており、第二作用室50bは前記ボールプランジャの周囲にのみ形成されている。
【0034】
従って、前記解放機構30による駆動筒21と可動筒12との係止状態が解除され、作用した外力によって前記可動筒12が駆動筒21に対して移動を開始すると、前記隔壁53が駆動筒21の外周面に摺接しながら軸方向へ移動して、かかる隔壁53とオイルシール52との間に前記第二作用室50bが形成される。これに伴い、第一作用室50aに密封された粘性流体が前記オリフィス54を通じて第二作用室50bに流動するが、前記オリフィス54の断面積は作用室50の断面積よりも極度に小さいため、粘性流体に対して流路抵抗が作用する。すなわち、前記作用室50、隔壁53、オリフィス54によってオイルダンパに模した構造が前記出力ロッド9に与えられている。そして、このような減衰機構が電動アクチュエータ内に設けられたことにより、前記解放機構30による駆動筒21と可動筒12との係止状態が解除されても、前記可動筒12がハウジング13から急激に飛び出す危険を回避することができる他、自由状態(図4の状態)にある可動筒12が急激にハウジング13内に押し込まれる危険を回避することも可能となる。
【0035】
また、前記駆動筒21と可動筒12との間には、駆動筒21との係止状態が解除された可動筒12を図3に示す係止位置に復帰させるための弾性部材55が設けられている。具体的には、前記第一作用室50aの内部に弾性部材55としてのコイルスプリングが設けられており、かかるコイルスプリング55は前記オイルシール51を保持する鍔部材56と前記隔壁53との間に配置されている。このコイルスプリング55は可動筒12が駆動筒21に対して係止されている状態、すなわち第一作用室50aが最大サイズに設定されている状態で自由長となり、その両端が前記鍔部材56及び隔壁53に接している。そして、可動筒12の係止状態が解除されて隔壁53が駆動筒21に対して移動し、第2作用室50bが形成されるにつれて、前記コイルスプリング55は図4に示すように徐々に圧縮され、前記可動筒12を係止位置に押し戻す付勢力を発揮する。
【0036】
このため、前記解放機構30による可動筒12と駆動筒21との係止状態が解除されて、可動筒12が駆動筒21に対して自由に移動を生じた場合であっても、前記コイルスプリング55が可動筒12を係止位置に押し戻す付勢力を発揮するので、前記係止状態を解除する契機となった外力が可動筒12から取り除かれれば、かかる可動筒12は自ずと係止位置に復帰し、前記解放機構30によって可動筒12が駆動筒21に対して再び係止され、両者を一体化することができる。
【0037】
尚、前記解放機構30は、必ずしも前述の如き係止溝31と係止要素36との組合せでなくとも良い。例えば、前記駆動筒21に対して前記可動筒12を所定の付勢力で軸方向へ押圧する弾性部材を設け、当該付勢力に打ち勝つ外力が前記可動筒12に作用した場合にのみ、前記駆動筒21に対する前記可動筒12の移動を許容するように構成することができる。一例としては、前記コイルスプリング55の付勢力を調整することで、前記解放機構30の機能を当該コイルスプリング55に発揮させることが可能であり、その場合には前記係止溝31及び係止要素36は省略することができる。また、前記解放機構30として使用可能な弾性部材としては、線形特性ばねに限らず、不等ピッチコイルスプリングのような非線形特性ばねを使用することも可能である。
【0038】
以上のように構成された電動アクチュエータ10では、図3に示すように、駆動筒21が可動筒12の中空部内に最も入り込んだ状態が当該電動アクチュエータ10の最も短い状態であり、このとき解放機構30は駆動筒21に対して可動筒12を係止している。この電動アクチュエータ10を船外機1のチルト・トリム装置に適用した場合を想定すると、前記状態が図1に示すように船外機1のプロペラを水中に下ろした状態に対応しており、船体2の航走が可能である。
【0039】
そして、この状態から電動モータ11を回転させると、ナット部材20を介してねじ軸16に螺合した駆動筒21がハウジング13内を軸方向へ移動し、これに伴って駆動筒21に係止された可動筒12は当該駆動筒21と一緒に移動してハウジング13から突出し、電動アクチュエータ10の全長が徐々に長くなる。これにより、チルト・トリム装置では船外機1が矢線A方向へ傾動し、プロペラを水中から水上へ持ち上げることができる。
【0040】
一方、船外機1を図1に示す状態に設定して船体2が航走している最中に、流木などの水中の障害物が船外機1に衝突した場合を想定すると、かかる障害物と船外機1との衝突によってスイベルブラケット6に連結された電動アクチュエータ10の可動筒12には軸方向への衝撃荷重が作用するので、前記解放機構30の係止要素36が可動筒12の係止溝31から離脱し、駆動筒21に対する可動筒12の係止状態が解除されて当該駆動筒21に対する可動筒12の移動が許容される。このため、電動モータ11が停止しているにもかかわらず、可動筒12がハウジング13から突出することが可能となり、船外機1を支えているスイベルブラケット6は矢線A方向へ自由に傾動することが可能となる。これにより、障害物との衝突による船外機1及びチルト・トリム装置の破損を防止することが可能となる。
【0041】
また、前記衝撃荷重によって電動アクチュエータ10の可動筒12がハウジング13から突出する際には、前記駆動筒21と可動筒12との間に設けられた減衰機構が働き、可動筒12の急激な突出に対して抵抗力を作用させるので、前記解放機構30による係止状態が解除されたとしても、かかる可動筒12が瞬時にハウジング13から引き出されることはなく、電動アクチュエータ10の破損を防止することが可能となる。また、チルト・トリム装置に関しては、前述した障害物との衝突に起因してスイベルブラケット6の傾動が自由になっても、船外機1が衝突の衝撃によって急激に跳ね上がるのを防止することができ、船外機1を安全に使用することが可能となる。
【0042】
更に、このように不意の衝撃荷重に起因して可動筒12がハウジング13から引き出されたとしても、前記コイルスプリング55の付勢力が可動筒12を駆動筒21との係止位置に向けて付勢するので、可動筒12に作用する軸方向の外力が除去されれば、かかる可動筒12は速やかに係止位置に復帰して駆動筒21に係止され、以降は電動モータ11の回転に応じた駆動筒21の動きに追従することになる。このことをチルト・トリム装置に当てはめてみると、障害物との衝突によってスイベルブラケット6が一時的に矢線A方向へ傾動しても、かかるスイベルブラケット6は直ちに元の状態、すなわち電動アクチュエータ10によって拘束された航走状態へ自動的に復帰することになる。
【0043】
このように本発明を適用した電動アクチュエータ10は、油圧シリンダ装置の置き換えに最適であり、しかも油圧シリンダ装置に比べて構造が簡易なので、小型化及び低コスト化を容易に達成することが可能となる。また、油圧シリンダ装置のようなオイル漏れの懸念がなく、環境負荷も低減することが可能となる。
【0044】
次に、本発明を適用した電動アクチュエータの第二実施形態について説明する。
【0045】
図10は第二実施形態の電動アクチュエータ100を示す正面断面図であり、出力ロッド90をハウジング130内に引き込んだ状態、すなわち電動アクチュエータ100の軸方向長さを最も短くした状態を示している。尚、この図10は第一実施形態を示した図3と同様に前記ギヤケース14を省略して描いてある。
【0046】
円筒状に形成された前記ハウジング130の中空部の中心にはねじ運動機構を構成するねじ軸160が配設され、このねじ軸160には多数のボールを介してナット部材200が組み付けられている。前記ねじ軸160は図示外のベアリングによって前記ハウジング130に対して回転自在に保持されており、電動モータの回転が減速ギヤを介して伝達される。前記ねじ軸160及びナット部材200の組合せはボールねじ装置を構成している。
【0047】
前記ナット部材200には中空部を有する駆動筒120が固定され、前記ねじ軸160は前記駆動筒120の中空部を貫通している。この駆動筒120は円筒状に形成された前記ハウジング130の中空部内に設けられており、前記ねじ軸160が回転すると、その回転に応じてナット部材200と一緒に前記ハウジング130の中空部内を軸方向へ進退する。前記ハウジング130の開口端には、前記駆動筒120の外周面に摺接する軸受ブッシュ230が設けられると共に,当該ハウジング130と駆動筒120との間を密封するシール部材250が設けられている。また、前記ねじ軸160の回転に対してナット部材200がつれ回るのを防止するため、当該ナット部材200には周り止め部材201が固定される一方、前記ハウジング130の内周面には前記駆動筒120の移動方向に沿って案内溝131が設けられ、前記周り止め部材201の先端は前記案内溝131に挿入されている。
【0048】
また、前記駆動筒120の中空部内であって前記ねじ軸160の周囲には円筒状の延設筒121が設けられており、この延設筒121は前記駆動筒120と同様に前記ナット部材200に固定されている。前記延設筒121は大径部121a及び小径部121bを有しており、前記ナット部材200は前記大径部121aの内周面に固定される一方、前記ねじ軸160は前記小径部121bを貫通している。前記延設筒121の軸方向長さは前記駆動筒120よりも短く設定されている。尚、前記延設筒121は前記ナット部材200の一部として当該ナット部材200と一体に形成しても差し支えない。
【0049】
前記延設筒121の小径部121bと前記駆動筒120との間には環状空間が設けられており、この環状空間には可動筒210が収容されている。前記可動筒210はその内径が前記延設筒121の小径部121bの外径よりも大きく設定される一方、その外径は前記駆動筒120の内径よりも小さく設定されており、当該可動筒210の中空部に前記ねじ軸160及び延設筒121の小径部121bが収容されている。すなわち、前記ねじ軸160の周囲には前記延設筒121、可動筒210及び駆動筒120が重ねて配置されている。
【0050】
前記可動筒210は前記駆動筒120に対して進退自在に配置されて、前記環状空間内を軸方向へ移動できるように構成されており、当該可動筒210は前記駆動筒120と組み合わさって前記出力ロッド90を構成している。図10は前記可動筒210を前記駆動筒120に対して最も引き込んだ状態を示しており、この状態で前記出力ロッド90の軸方向長さは最も短くなっている。前記駆動筒120の開口端、すなわち前記ナット部材200に対する固定端と反対側の端部には前記可動筒210の外周面に摺接する軸受ブッシュ240が設けられる一方、前記可動筒210のナット部材200側の端部には前記駆動筒120の内周面に摺接するピストン軸受241が設けられている。
【0051】
前記可動筒210を駆動筒120に対して軸方向へ移動させ、当該駆動筒120の中空部内から進出させると、前記ピストン軸受241が駆動筒120の内周面に沿って移動し、前記軸受ブッシュ240に接近する。これにより、前記可動筒210は駆動筒120に対して円滑に移動する。また、前記駆動筒120の開口端には前記軸受ブッシュ240に隣接して、前記駆動筒120と前記可動筒210との間を密封するシール部材251が設けられている。また、前記可動筒210の先端に設けられた開口はキャップ部材130aによって閉塞されており、当該キャップ部材130aは前記シール部材251が設けられた前記駆動筒120の開口端から突出している。尚、前記キャップ部材130aにはクレビスが設けられており、前述したチルト・トリム装置のスイベルブラケット6に結合できるようになっている。
【0052】
また、前記可動筒210と駆動筒120との間には前記駆動筒120に対して前記可動筒210を係止する解放機構300が設けられている。図11に詳細を示すように、この解放機構300は、駆動筒120の内周面に対して周方向に沿って環状に形成された断面V字状の係止溝310と、前記可動筒210の外周面に保持されると共に前記係止溝310に向けて付勢された係止要素360とから構成されている。前記係止要素360は前記可動筒210が前記駆動筒120に引き込まれた状態、すなわち図10に示す状態において前記係止溝310と対向しており、この状態で前記係止要素360の一部が前記係止溝310に入り込み、前記可動筒210と駆動筒120を結合している。
【0053】
前記可動筒210の外周面には前記係止要素360を収容するための円形状の凹所211が周方向に沿って複数形成されており、各凹所211内には複数の皿ばね361が重ねて配置される共に、これら皿ばね361を覆うようにして前記係止要素360が配置されている。図12は前記係止要素360を示す斜視図である。この係止要素360は円盤部362の周囲を側壁363で囲んで前記皿ばね361の収容部を形成したものであり、前記円盤部362の中心には前記係止溝310に没入する凸球面364が形成されている。従って、前記係止要素360は前記可動筒210から駆動筒120に向けて前記皿ばね361で付勢され、前記凸球面364に対する駆動筒120からの押圧力に応じて前記凹所211内を上下に移動する。また、前記係止要素360は前記凸球面364が係止溝310に没入している状態で前記可動筒210の凹所211から離脱しないようになっている。
【0054】
この解放機構300の作用は前述の第一実施形態の解放機構30と同じである。図10に示すように前記係止要素の一部が前記係止溝310に入り込んでいる状態では、前記ねじ軸160を回転させると、前記出力ロッド90を構成する駆動筒120と可動筒210が一体となって移動し、当該出力ロッド90をハウジング130から進出させ、あるいはハウジング130に引き込むことができる。また、前記スイベルブラケット6に固定された可動筒210に対して大きな軸方向荷重が作用すると、図13に示すように、前記係止要素360が駆動筒120の係止溝310から離脱し、駆動筒120と可動筒210との結合状態が解除される。これにより、前記可動筒210は前記ねじ軸160の回転とは無関係にハウジング130に対して自由に軸方向へ移動することが可能となり、駆動筒120をハウジング130内に収容したままの状態で可動筒210を前記駆動筒120の開口端から引き出すことができる。
【0055】
一方、この第二実施形態に示す電動アクチュエータ10でも、前記駆動筒120に対する可動筒210の急激なスライドを抑えるための減衰機構が設けられている。図10に示すように、可動筒210の外周面と駆動筒120の内周面との間にはオイル等の粘性流体が密封された作用室500が形成されている。前記駆動筒120の開口端の近傍には前記可動筒210の外周面と接するUパッキン242が設けられる一方、前記作用室500のナット部材200側の端部には前記ピストン軸受241が設けられており、これらUパッキン242とピストン軸受241によって前記作用室500は密閉されている。
【0056】
但し、図14に示すように、前記ピストン軸受241は円周の一部にスリット540が形成されており、このスリット540はオリフィスとして機能する。このため、前記可動筒210が駆動筒120の中空部内に収容された状態(図10参照)から駆動筒120の外へ徐々に引き出されると、作用室500の容積が次第に小さくなることから、当該作用室500内の粘性流体は前記ピストン軸受241に形成されたスリット(オリフィス)540に流入し、作用室500から排出される。
【0057】
前記作用室500からオリフィス540に流入した粘性流体は、図13に示すように、前記延設筒121の小径部121aと駆動筒120との間に生じる受容室501に排出される。この受容室501は前記延設筒121の小径部121aと駆動筒120との間に設けられた環状空間であり、前記可動筒210が駆動筒120から引き出される前に収容されていた空間である。前記受容室501に流入した粘性流体が前記延設筒121と可動筒210との間から漏れ出すのを防止するため、当該可動筒210のナット部材200側の端部には前記延設筒121の小径部121aに接するOリング243が設けられている。このOリング243は前記駆動筒120に対する可動筒210の移動に応じて前記小径部121aの外周面上を軸方向へ移動する。すなわち、前記延設筒121の小径部121aの軸方向長さは、前記可動筒210が前記駆動筒120から最も突出した場合であっても、前記Oリング243が当該小径部121aから離脱しない長さに設定されている。
【0058】
前記粘性流体が作用室500から受容室501に流動する際、前記オリフィス540の断面積は作用室500の断面積よりも極度に小さいため、粘性流体に対して流路抵抗が作用し、前記駆動筒120に対する可動筒210の急激な移動に対して減衰力を作用させることができる。すなわち、この第二実施形態の電動アクチュエータ100においても、前述した第一実施形態と同様に、オイルダンパに模した構造が出力ロッド90に与えられており、前記解放機構300による可動筒210と駆動筒120との係止状態が解除されても、前記可動筒210が駆動筒120から急激に飛び出す危険を回避することができる。
【0059】
そして、このように構成された第二実施形態の電動アクチュエータ100も、前述した第一実施形態の電動アクチュエータ10と同様に使用することが可能であり、油圧シリンダ装置の置き換えに最適である。
【0060】
また、この第二実施形態の電動アクチュエータ100では、前記出力ロッド90をハウジング130内に収容した際の軸方向全長が前述の第一実施形態の電動アクチュエータ10に比べて短くなっており、一層の小型化が図られている。第一実施形態の電動アクチュエータ10では前記可動筒12に設けた隔壁53が作用室50を第一作用室と第二作用室に二分しており、駆動筒21に対する可動筒12の移動に応じて前記隔壁53が第一作用室と第二作用室の容積を変更していた。このため、可動筒12は駆動筒21の約2倍程度の長さが必要である。
【0061】
その一方、第二実施形態の電動アクチュエータ100では、前記駆動筒120と延設筒121との間の環状空間に対して可動筒210を収容し、前記駆動筒120と可動筒との間に粘性流体の作用室500を設ける一方、当該可動筒210が駆動筒120に対して移動した際には前記環状空間を粘性流体の受容室501として利用するので、前記可動筒210の軸方向長さは前記駆動筒120のそれと同じ、あるいは僅かに短く設定することができる。これにより、第二実施形態の電動アクチュエータ100は小型化に適したものとなっている。
【0062】
尚、前述した第一実施形態及び第二実施形態の電動アクチュエータでは、前記駆動筒及び可動筒を円筒状に形成したが、中空部を有する形状であれば、適宜設計変更して差し支えない。
【0063】
また、前述した電動アクチュエータの実施形態では、前記可動筒に対して衝撃荷重が作用した場合に、かかる可動筒がハウジングから自由に突出するように構成したが、これとは逆に、かかる可動筒が衝撃荷重に対してハウジング内に収容されるように構成しても良い。
【0064】
更に、前述した電動アクチュエータの各実施形態では前記可動筒と駆動筒との間に減衰機構を内蔵させたが、これは本発明の電動アクチュエータに必須の構成ではなく、電動アクチュエータの外部にオイルダンパ等の減衰装置を並列的に設けても差し支えない。
【0065】
また更に、前記第二実施形態では第一実施形態と異なり、前記可動筒を係止位置に復帰させるためのコイルスプリングを設けていないが、例えば前記チルト・トリム装置に対してそのスイベルブラケット6をクランプブラケット4へ近接する方向へ付勢する弾性部材を設けるように構成しても良い。
【0066】
また、前述した実施形態では本発明の電動アクチュエータを船外機のチルト・トリム装置に使用した例を説明したが、本発明の電動アクチュエータはこれ以外の用途に対しても使用することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
9,90…出力ロッド、10,100…電動アクチュエータ、11…電動モータ、12,210…可動筒、13…ハウジング、21,120…駆動筒、30,300…解放機構、31,310…係止溝、36,360…係止要素、50,500…作用室
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の構造体に固定されるハウジングと、
中空部を有すると共に前記ハウジングに対して進退自在に保持され、第二の構造体に固定される出力ロッドと、
前記ハウジングに対して回転自在に保持されると共に前記出力ロッドの中空部内に挿通され、電動モータによって適宜回転が与えられるねじ軸と、
前記出力ロッドに備えられると共に前記ねじ軸に組み付けられて当該ねじ軸の回転に応じて軸方向へ移動するナット部材と、を備え、
前記出力ロッドは、前記ナット部材が設けられた駆動筒と、前記駆動筒と重ねて配置されると共に当該駆動筒に対して進退自在であり、前記第二の構造体が固定される可動筒とを備え、更に、
前記駆動筒と可動筒の間には、当該駆動筒に対して可動筒を係止する一方、前記第二の構造体に固定された可動筒に対して所定以上の軸力が作用した場合に前記駆動筒に対する可動筒の移動を許容する解放機構が設けられていることを特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項2】
前記解放機構は、前記駆動筒又は可動筒に設けられた係止溝と、前記可動筒又は駆動筒に保持され、前記係止溝に向けて付勢されると共に当該係止溝に没入する係止要素とを備えたことを特徴とする請求項1記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記係止溝は前記駆動筒又は可動筒の周方向に沿って形成された断面V字状の環状溝であり、前記係止要素は前記環状溝に没入する凸球面を有すると共に当該環状溝の周方向に沿って複数配置され、各係止要素はばねによって前記環状溝に向けて付勢されていることを特徴とする請求項2記載の電動アクチュエータ。
【請求項4】
前記駆動筒と可動筒との間には粘性流体を密封した作用室を設けると共に、この作用室には前記駆動筒に対する可動筒の移動に伴って前記作用室内の粘性流体が流入するオリフィスが設けられていることを特徴とする請求項2記載の電動アクチュエータ。
【請求項5】
前記作用室内には当該作用室を二分すると共に前記駆動筒に対する可動筒の移動に伴って当該作用室内を軸方向へ移動する隔壁が設けられ、前記オリフィスは前記隔壁に形成されていることを特徴とする請求項4記載の電動アクチュエータ。
【請求項6】
前記駆動筒と可動筒との間には、当該可動筒を駆動筒に対する係止位置に向けて付勢する弾性部材が設けられていることを特徴とする請求項5記載の電動アクチュエータ。
【請求項7】
前記弾性部材は前記作用室内に設けられて前記隔壁を押圧するコイルスプリングであり、当該コイルスプリングは可動筒の係止位置において自由長に設定されていることを特徴とする請求項6記載の電動アクチュエータ。
【請求項8】
前記ねじ軸の周囲において前記駆動筒と重ねて配置される延設筒を前記ナット部材に固定し、これら駆動筒と延設筒の間には環状空間を形成すると共に、この環状空間には前記可動筒を収容し、
前記可動筒のナット部材側の端部には前記オリフィスを形成し、前記環状空間を前記オリフィスに流入した粘性流体の受容室としたことを特徴とする請求項4記載の電動アクチュエータ。
【請求項1】
第一の構造体に固定されるハウジングと、
中空部を有すると共に前記ハウジングに対して進退自在に保持され、第二の構造体に固定される出力ロッドと、
前記ハウジングに対して回転自在に保持されると共に前記出力ロッドの中空部内に挿通され、電動モータによって適宜回転が与えられるねじ軸と、
前記出力ロッドに備えられると共に前記ねじ軸に組み付けられて当該ねじ軸の回転に応じて軸方向へ移動するナット部材と、を備え、
前記出力ロッドは、前記ナット部材が設けられた駆動筒と、前記駆動筒と重ねて配置されると共に当該駆動筒に対して進退自在であり、前記第二の構造体が固定される可動筒とを備え、更に、
前記駆動筒と可動筒の間には、当該駆動筒に対して可動筒を係止する一方、前記第二の構造体に固定された可動筒に対して所定以上の軸力が作用した場合に前記駆動筒に対する可動筒の移動を許容する解放機構が設けられていることを特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項2】
前記解放機構は、前記駆動筒又は可動筒に設けられた係止溝と、前記可動筒又は駆動筒に保持され、前記係止溝に向けて付勢されると共に当該係止溝に没入する係止要素とを備えたことを特徴とする請求項1記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記係止溝は前記駆動筒又は可動筒の周方向に沿って形成された断面V字状の環状溝であり、前記係止要素は前記環状溝に没入する凸球面を有すると共に当該環状溝の周方向に沿って複数配置され、各係止要素はばねによって前記環状溝に向けて付勢されていることを特徴とする請求項2記載の電動アクチュエータ。
【請求項4】
前記駆動筒と可動筒との間には粘性流体を密封した作用室を設けると共に、この作用室には前記駆動筒に対する可動筒の移動に伴って前記作用室内の粘性流体が流入するオリフィスが設けられていることを特徴とする請求項2記載の電動アクチュエータ。
【請求項5】
前記作用室内には当該作用室を二分すると共に前記駆動筒に対する可動筒の移動に伴って当該作用室内を軸方向へ移動する隔壁が設けられ、前記オリフィスは前記隔壁に形成されていることを特徴とする請求項4記載の電動アクチュエータ。
【請求項6】
前記駆動筒と可動筒との間には、当該可動筒を駆動筒に対する係止位置に向けて付勢する弾性部材が設けられていることを特徴とする請求項5記載の電動アクチュエータ。
【請求項7】
前記弾性部材は前記作用室内に設けられて前記隔壁を押圧するコイルスプリングであり、当該コイルスプリングは可動筒の係止位置において自由長に設定されていることを特徴とする請求項6記載の電動アクチュエータ。
【請求項8】
前記ねじ軸の周囲において前記駆動筒と重ねて配置される延設筒を前記ナット部材に固定し、これら駆動筒と延設筒の間には環状空間を形成すると共に、この環状空間には前記可動筒を収容し、
前記可動筒のナット部材側の端部には前記オリフィスを形成し、前記環状空間を前記オリフィスに流入した粘性流体の受容室としたことを特徴とする請求項4記載の電動アクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−147656(P2012−147656A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−276266(P2011−276266)
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】
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