表示板
【課題】ゴミの付着を抑制できると共に、打ち抜き加工時のひび割れの発生を防止することができる表示板を提供すること。
【解決手段】透明の樹脂基板10と、その上に積層形成された意匠性を有するインク膜11と、その上に形成された複数のインク層12とからなる表示板である。インク層12は、鉛筆硬度がF以上であり、インク層12にステンレス鋼からなる円柱状治具を圧力3MPaで60秒間押し付けた後に0.5mm/minの速度で引きはがしたときにかかる応力が40kPa以下である。インク層12は、インク膜11上において互いに間隔を開けて島状に形成されている。
【解決手段】透明の樹脂基板10と、その上に積層形成された意匠性を有するインク膜11と、その上に形成された複数のインク層12とからなる表示板である。インク層12は、鉛筆硬度がF以上であり、インク層12にステンレス鋼からなる円柱状治具を圧力3MPaで60秒間押し付けた後に0.5mm/minの速度で引きはがしたときにかかる応力が40kPa以下である。インク層12は、インク膜11上において互いに間隔を開けて島状に形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両に装備される計器等の表示装置に用いられる表示板に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両において、運転席の正面部分には計器等の表示装置が配設されている。一般に、車両用表示装置(自動車メータ計器盤)は、目盛りや文字などからなる意匠部(インク膜)を有する表示板、および該表示板の裏面側に配設された光源(バックライト)等から構成されている(特許文献1参照)。表示板においては、例えば意匠部の目盛りや文字を除く部分は光が透過しない不透過部として構成され、目盛りや文字の部分は光が透過する透過部として構成される。このような構成により、夜間等に光源にて表示板を照明することで、表示板の文字、目盛り等の透過部を明るく表示させることができる。
【0003】
表示板は、ポリカーボネート樹脂等の樹脂製の透明基板と、該透明基板の表面に印刷形成されたインク膜とからなる。
近年、表示板は、意匠性を向上させるために、圧空成形等により立体的な形状に加熱成形して用いられる。また、表示板は、所望の形状に打ち抜く切断加工が施されたり、表示板上に穴を形成するためにパンチで打ち抜き加工等が施されたりして用いられる。そして、表示装置において、表示板は、振動による異音の発生等を防止するために、インク膜側を支持板などの他部材に押圧して保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−96043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の表示板においては、成形性を向上させるために、比較的柔らかいインク膜を形成すると、はりつき性(タック性)が強くなり、ゴミ等が付着し易くなるという問題があった。このゴミの付着をさけるために、表示板の製造は、クリーンルーム内で行われていたが、製造コストの増大につながる。また、柔らかいインク膜を形成すると、支持板などの他部材に押圧して配置した際に、インク膜がつぶれてバックライトの光が漏れだしてしまうおそれがある。
一方、硬度の高いインク膜を形成すると、表示板に打ち抜き加工を施す際に、インク膜にひび割れが発生してしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、ゴミの付着を抑制できると共に、打ち抜き加工時のひび割れの発生を防止することができる表示板を提供しようとするものである。
【0007】
本発明は、透明の樹脂基板と、該樹脂基板上に積層形成された意匠性を有するインク膜と、該インク膜上に形成された複数のインク層とからなる表示板において、
上記インク層は、鉛筆硬度がF以上であり、上記インク層にステンレス鋼からなる円柱状治具を圧力3MPaで60秒間押し付けた後に0.5mm/minの速度で引きはがしたときにかかる応力が40kPa以下であり、
上記インク層は、上記インク膜上において互いに間隔を開けて島状に形成されていることを特徴とする表示板にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0008】
本発明の表示板は、透明の樹脂基板と、該樹脂基板上に積層形成された意匠性を有するインク膜と、該インク膜上に形成された複数のインク層とからなる。そして、上記インク層は、該インク層に上記円柱状治具を上記所定の圧力及び時間で押し付けた後に上記所定の速度で引きはがしたときにかかる応力(上記インク層に対する密着強度)が40kPa以下である。即ち、上記インク膜上に、密着力の小さい上記インク層が形成されている。
そのため、上記表示板の表面におけるべたつきを低下させることができる。それ故、上記表示板の表面におけるゴミの付着を抑制することができる。
【0009】
また、上記インク層は、鉛筆硬度がF以上である。
そのため、上記表示板においては、表面の強度が優れており、上記表示板を他部材に押圧して用いても、インク膜がつぶれたり、剥がれたりしてしまうことを防止することができる。そのため、上記表示板の上記インク層側にバックライトを配置して用いても光漏れを防止することができる。
また、上記インク層として、鉛筆硬度がF以上のものを採用しているため、上記インク膜としては比較的柔らかいものを用いることが可能になり、上記表示板の延伸性を高めることが可能になる。そのため、上記表示板の成形性を向上させることもできる。
【0010】
また、上記インク層は、上記インク膜上において互いに間隔を開けて島状に形成されている。そのため、上記表示板を所望の形状に打ち抜く切断加工を行ったり、上記表示板に穴を形成するためにパンチで打ち抜き加工を施したりしても、硬度の高い上記インク層にひびや割れ等が発生することを防止することができる。
【0011】
このように、本発明によれば、ゴミの付着を抑制できると共に、打ち抜き加工時のひび割れの発生を防止することができる表示板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例にかかる、表示板の正面図。
【図2】実施例にかかる、表示板の断面図。
【図3】実施例にかかる、表示板を他部材に対して押圧して配置した状態の断面構造を示す説明図。
【図4】実施例にかかる、表示板(試料X1)の製造工程を示す説明図であって、樹脂基板の断面を示す説明図(a)、樹脂基板上にインク膜を形成した構造体の断面構造を示す説明図(b)、板状の表示板(試料X1)の断面構造を示す説明図(c)、板状の表示板(試料X1)をインク膜及びインク層側から見た正面図(d)。
【図5】実施例にかかる、延伸率の評価に用いるダンベル形状の試験片を示す説明図。
【図6】実施例にかかる、表示板(試料X1)の貫通孔の周囲における走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(a)、表示板(試料X2)の貫通孔の周囲における走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(b)、表示板(試料X3)の貫通孔の周囲における走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(c)。
【図7】実施例にかかる、表示板(試料X1)についての耐荷重性の評価試験後における荷重を印加した部分の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(a)、表示板(試料X2)についての耐荷重性の評価試験後における荷重を印加した部分の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(b)、表示板(試料X3)についての耐荷重性の評価試験後における荷重を印加した部分の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(c)。
【図8】実施例にかかる、タック性の評価試験後の表示板(試料X1)の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(a)、タック性の評価試験後の表示板(試料X3)の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(b)。
【図9】実施例にかかる、表示板(試料X2)の製造工程を示す説明図であって、樹脂基板の断面を示す説明図(a)、樹脂基板上にインク膜を形成した構造体の断面構造を示す説明図(b)、板状の表示板(試料X2)の断面構造を示す説明図(c)、板状の表示板(試料X2)をインク膜及びインク層側から見た正面図(d)。
【図10】実施例にかかる、表示板(試料X3)の製造工程を示す説明図であって、樹脂基板の断面を示す説明図(a)、板状の表示板(試料X3)の断面構造を示す説明図(b)板状の表示板(試料X3)をインク膜側から見た正面図(c)。
【図11】実施例にかかる、インクジェット印刷によって噴射されるインクの液滴により形成したインク層を備える表示板の部分断面拡大図(a)、断面略三角形状のインク層を形成した表示板の部分断面拡大図(b)、断面略四角形状のインク層を形成した表示板の部分断面拡大図(c)。
【図12】実施例にかかる、樹脂基板上に形成したインク膜上に、インクを霧吹きにより吹き付けて形成した複数のインク層を備える表示板のレーザ鏡焦点顕微鏡写真を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
上記表示板は、透明の樹脂基板と、該樹脂基板上に形成された意匠性を有するインク膜と、該インク膜上に形成された複数のインク層とを有する。
上記樹脂基板は透光性を有し、上記インク膜には、可視光を透過する透過部と、可視光を透過しない不透過部とを有することが好ましい。そして、使用者が視認する面(意匠面)とは反対側の裏面から上記表示板に光を照射することにより、上記インク膜における上記透過部を明るく表示させるバックライト式の表示板に用いられることが好ましい。
この場合には、上記表示板における上記インク膜の優れた意匠性を最大限に発揮することができる。そしてこの場合には、上記表示板を、例えば自動車室内の運転席前部のインストルメントパネル等の自動車メータ計器盤用の表示板、又はエアコンの表示板等に好適に用いることができる。
【0014】
バックライト式の表示板に用いた例として、自動車メータ計器盤用の表示板を図1に示す。この表示板(自動車メータ計器盤用表示板)においては、樹脂基板上に形成された目盛りや文字等を表す透明又は半透明のインク膜(印刷部)又は非印刷部が透過部を形成し、樹脂基板の裏面側に配置される光源からの光によって透過部の意匠を明るく表示させることができる。また、樹脂基板上の透過部以外の部分には、例えば黒色のインクからなるインク膜(印刷部)が形成されており、この黒色のインク膜が不透過部を形成する。
上記透過部及び上記不透過部は、上記インク膜の色、厚み、及び印刷密度等を調整することにより形成できる。具体的には、上記透過部は、例えば上記インク膜の厚みを小さくしたり、印刷密度を小さくしたり、また、色の濃度を薄くしたりして形成できる。一方、上記不透過部は、例えば上記インク膜の厚みを大きくしたり、黒色のインクからなるインク膜を積層させたりして形成できる。
【0015】
上記樹脂基板としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂等からなる基板を用いることができる。
この場合には、上記樹脂基板に透光性を付与することができるため、上記表示板を上述のバックライト式の表示板に好適に用いることができる。
より好ましくは、上記樹脂基板はポリカーボネート樹脂からなることがよい。
この場合には、上記樹脂基板が優れた延伸性を示すことができるため、上記表示板の成形性を向上させることができる。
【0016】
上記インク膜及び上記インク層は、スクリーン印刷又はインクジェット印刷等により形成することができる。
上記インク層は、好ましくはインクジェット印刷により形成されていることがよい。
この場合には、上記インク膜上において互いに間隔を開けて島状に形成された上記インク層を形成しやすくなる。インクジェット印刷においては、インクを吹き付ける部位と吹き付けない部位をドット単位で制御することが可能であるからである。
また、上記インク膜についても、上記インク層と同様にインクジェット印刷により形成することが好ましい。
この場合には、上記インク膜及び上記インク層を同一の印刷装置で形成することができるため、上記表示板の製造工程が少なくなりその製造が容易になる。
したがって、上記インク膜及び上記インク層は、インクジェット印刷により形成されていることが好ましい(請求項5)。
【0017】
上記表示板は、延伸率が70%以上であることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記表示板の成形性を向上させることができる。上記表示板の延伸率が70%未満の場合には、上記表示板に対して圧空成形等の成形加工を行う際に、ひび割れなどが発生するおそれがある。
一般に、ポリカーボネート樹脂からなる樹脂基板とその表面に形成したインク膜とからなる表示板において、その延伸率を70%以上にするためには、インク膜を柔らかくする必要があるため、表面の硬度が不十分になる傾向がある。
本発明の表示板においては、上記インク膜の表面に鉛筆硬度F以上という硬度の高い上記インク層が互いに間隔を開けて島状に形成されている。そのため、該インク層が高い硬度を発揮することができるため、上記インク膜には、比較的柔らかい材質を用いることが可能になる。そのため、上述のように、延伸率70%以上の表示板を形成し易くなる。
また、成形を行う場合には、印刷形成したインク膜及びインク層の膜厚が延伸される部位において当初の膜厚よりも減少し、光が漏光するおそれがあるという観点から、上記表示板の延伸率は300%以下がよい。
【0018】
次に、上記インク層は、鉛筆硬度がF以上である。
鉛筆硬度がF未満である場合には、上記表示板がそのインク膜形成側の表面において十分な硬度を示すことができなくなるおそれがある。そのため、上記表示板を上記インク膜及び上記インク層が形成された側において支持板などの他部材に押圧した際に、インク膜がつぶれてしまうおそれがある。上述のバックライト式の表示板として用いた場合には、光が漏れだしてしまうおそれがある。
【0019】
また、上記インク層においては、該インク層にステンレス鋼からなる円柱状治具を圧力3MPaで60秒間押し付けた後に0.5mm/minの速度で引きはがしたときにかかる応力(上記インク層に対する密着強度)が40kPa以下である。
密着強度が40kPaを超える場合には、上記表示板の表面のべたつきが高くなり、ゴミが付着し、付着したゴミが取れ難くなるおそれがある。
【0020】
上記インク層は、上記インク膜上において互いに間隔を開けて島状に形成されている。即ち、上記インク膜を海、上記インク層を島とする海島構造が形成される。海島構造において、上記インク膜は、連続的に形成されており、上記インク層は上記インク膜上に不連続に形成されている。
上記インク層は、例えば30〜300μmの円相当径で上記インク膜上に形成することができる。
【0021】
上記インク層をインクジェット印刷により形成する場合には、インクジェット印刷により噴射される液滴1つからなるインク層を形成することができる。また、複数の液滴の集合体によりインク層を形成することもできる。
【0022】
次に、上記表示板は、上記インク膜及び上記インク層が形成された側面の少なくとも一部を他部材に押圧して用いられることが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記インク膜上に上記インク層を形成した上記表示板が奏する上述の作用効果を顕著に示すことができる。即ち、上記表示板においては、上記インク膜の表面に硬度の高い上記インク層が形成されているため、上記表示板を支持板などの他部材に押圧して用いても、インク膜がつぶれてしまうことを防止することができる。
【0023】
また、上記表示板において、上記インク膜及び上記インク層は、UV硬化性インクからなることが好ましい(請求項4)。
この場合には、UV硬化手法を採用することにより、熱を利用して印刷膜を形成する従来のスクリーン印刷よりも省エネルギー化を図ることができる。
【0024】
また、上記インク膜及び上記インク層は、ビーズを含んだインクを用いて形成することができる。
この場合には、上記インク膜及び上記インク層の強度をより向上させることができる。
【0025】
また、上記インク膜は、厚み10〜50μmで形成することができる。
上記インク膜の厚みが10μm未満の場合には、成形時に、延伸される部位において膜厚が減少した際に、上記インク膜が所望の色を維持することができなくなるおそれがある。一方、50μmを超える場合には、例えばアクリル樹脂等の硬化収縮率が高い樹脂基板を採用した際に、インク膜の膜厚を大きくすると内部応力が大きくなり、硬化時に皺又は割れが発生するおそれがある。
【0026】
また、上記インク層は、上記インク膜の厚みの1/10以上、かつ50μm以下の厚みで形成することができる。
上記インク層の厚みが上記インク膜の厚みの1/10未満の場合には、下地となる上記インク膜の物性が強く発現してしまい、上記インク膜と上記インク層との複合膜としての物性が低下するおそれがある。一方、上記インク層の厚みが50μmを超える場合には、例えばアクリル樹脂等の硬化収縮率が高い樹脂基板を採用した際に、インク膜の膜厚を大きくすると内部応力が大きくなり、硬化時に皺又は割れが発生するおそれがある。
【0027】
また、上記インク層は、例えば透明のインクで形成することができる。
この場合には、上記インク層により、上記インク膜の意匠性を損ねることを防止することができる。
また、上記インク層は、有色や半透明のインクで形成することもできる。
この場合には、上記表示板は、上記インク層と上記インク膜とを組み合わせた立体的な意匠性を示すことができる。
【実施例】
【0028】
(実施例)
次に、上記表示板の実施例について、図1〜図12を用いて説明する。
本例においては、表示板1として、車両用計器のメータ文字盤を作製する(図1参照)。
図1及び図2に示すごとく、本例の表示板1は、樹脂基板10と、この樹脂基板10上に形成されたインク膜11と、このインク膜11の上に形成された複数のインク層12とからなる。
【0029】
本例の表示板1は、車両用計器のメータ文字盤である。図1は、表示板1の正面図である。図2は、図1に示される表示板1の断面図である。図2に示すごとく、表示板1には、圧空成形による成形加工が施されており、中央部分が周囲よりも突出した構造を有している。
【0030】
以下、本例の表示板について詳細に説明する。
本例の表示板1は、図1及び図2に示すごとく、透明の樹脂基板10と、その上に積層形成されたシート状のインク膜11とを有している。樹脂基板10は、ポリカーボネート樹脂からなり、インク膜11は、使用者が視認する面である意匠面101とは反対側の裏面102に形成されている。
【0031】
インク膜11は、樹脂基板10の裏面102のほぼ全面を覆うように形成されている。
インク膜11には、可視光を透過することが可能な透過部111が形成されており、この透過部111が表示板1における文字、記号、絵柄等を形成している。インク膜11には、可視光を透過しない黒色の不透過部112も形成されている。
【0032】
また、インク膜11上には、多数のインク層12が形成されている。インク層12は、インク膜11上において互いに間隔を開けて島状に形成されている。本例において、インク層12は、透明のインクから構成されている。
インク層12は、鉛筆硬度がFであり、インク層にステンレス鋼からなる円柱状治具を圧力3MPaで60秒間押し付けた後に0.5mm/minの速度で引きはがしたときにかかる応力(インク層に対する密着強度)が40kPa以下(具体的には31.8kPa)である。インク層に対する密着強度の測定は、シート状に印刷形成したインク層に対して行うことができる。
【0033】
本例において、インク膜11及びインク層12は、いずれもUV硬化性インクからなり、インクジェット印刷により形成されている。インク膜11及びインク層12は、スクリーン印刷により形成することも可能である。また、インク層12は、インクを霧吹きにより吹きかけて形成することも可能である。
【0034】
図2に示すごとく、本例の表示板1においては、使用者が視認する面である意匠面101側に中央部が部分的に突出する成形加工が施されている。インク膜11及びインク層12は、意匠面101とは反対側の裏面102に形成されている。
【0035】
また、図3に示すごとく、本例の表示板1は、裏面102側において他部材に押圧して使用される。ここで、本例において、他部材は、自動車の運転席の正面部分に配設される車両用表示装置内の支持板2である。この支持板2に、表示板1がその平坦な部分において押圧されて固定される。このとき、表示板1は、意匠面とは反対側の裏面102、即ちインク膜11及びインク層12が形成された面において、支持板2に押圧される。
【0036】
本例の表示板1は、支持板側に配置された光源(図示略)により、意匠面101とは反対の裏面102から光が照射される、所謂バックライト式の表示板として用いられる。表示板1には、可視光を透過する透過部111と可視光を透過しない不透過部112とが形成されている。光源を照射することにより、暗所においても、透過部111を明るく表示させることができる(図1参照)。
【0037】
次に、本例の表示板の製造方法について、説明する。
本例においては、図4(a)〜(d)に示すごとく、樹脂基板10上のほぼ全面に、インクジェット印刷によりUV硬化性インクを噴射し、UVを照射して該UV硬化性インクを硬化させてインク膜11を形成し、さらにインク膜11上に、インクジェット印刷によりUV硬化性インクを噴射し、UVを照射して該UV硬化性インクを硬化させてインク層12を形成する。
インク膜11の形成にあたっては、図1に示すような意匠画像をコンピュータにより作成し、この意匠画像に基づいて、透明及びフルカラーのUV硬化性インクを用いたインクジェット法により樹脂基板10に画像を印刷し、インクを硬化させてインク膜11を形成する。
【0038】
意匠画像の作成においては、例えばAdobe社製画像処理用ソフトウェアを用いることができる。また、印刷装置としては、UV硬化型インクジェット装置(インクジェットヘッド、UV照射光源同時駆動型ミマキエンジニアリング製UJF605C、最高解像度1200DPI)を用いることができる。UV硬化型インクジェット装置には、インクタンクと、その真横に紫外線(UV)を照射する光源が搭載されており、ヘッドのノズルから樹脂基板又はインク膜上にインク滴を射出した後、射出したインク滴に対して紫外線を照射できる構成になっている。
【0039】
具体的には、以下のようにして表示板1を製造した。
まず、車両用計器のメータ文字盤としての画像(図1参照)をコンピュータで作成した後、この画像データをインクジェット印刷装置に入力した。このとき、解像度、インクの液滴量、色および網点率等を指定することができる。
【0040】
そして、図4(a)に示すごとく、ポリカーボネート等からなる厚み約0.6mmの樹脂基板10を用意し、上記画像データが入力されたインクジェット印刷装置で、UV硬化性インクを用いたインクジェット法により、樹脂基板10における透過部111及び不透過部112の形成予定領域(図1参照)に対して、UV硬化性インク(東洋インキ(株)製)を印刷し、紫外線を照射して硬化させ、図4(b)に示すごとく、樹脂基板10上に、樹脂基板のほぼ全面を覆う厚み20μmのインク膜11を形成した。
インク膜11の形成にあたっては、UV硬化性のアクリルモノマー(単官能モノマー及び多官能モノマー)、顔料、及び光開始剤を含有するUV硬化性インクを用いた。
【0041】
次いで、同様のインクジェット印刷装置により、インク膜11上に透明のUV硬化性インク(東洋インキ(株)製)を印刷し、紫外線を照射して硬化させ、図4(c)に示すごとく、インク膜11上に、厚み10μmの多数のインク層12を形成した。インク層12の形成にあたっては、インクジェット印刷装置により、ドット単位のインク層12を互いに1ピッチずつ間隔を開けて印刷形成した。これにより、図4(d)に示すごとく、インク膜11上に、インク層12を互いに間隔を開けて島状に形成した。本例においては、硬化後の鉛筆硬度がFであり、硬化後の硬化物にステンレス鋼からなる円柱状治具を圧力3MPaで60秒間押し付けた後に0.5mm/minの速度で引きはがしたときにかかる応力(密着強度)が31.8kPaとなるUV硬化性インクを用いてインク層12を形成した。
【0042】
鉛筆硬度は、JIS5600K(1999年)に規定の方法に準じて測定することができる。本例においては、上述のごとく、硬化後の鉛筆硬度がFのUV硬化性インクを用いてインク層を形成した。インク膜とインク層とからなる表示板全体の表面硬度(鉛筆硬度)はBとなる。
また、上述の密着強度は、英弘精機(株)製の「テクスチャアナライザー」を用いて測定した。測定に用いる円柱状治具としては、直径φ4mmのものを使用して測定した。密着強度の測定は、インク層の形成に用いたUV硬化性のインクをシート上に印刷形成したインク層について行った。
また、インク層12の形成にあたっては、UV硬化性のアクリルモノマー(単官能モノマー及び多官能モノマー)、及び光開始剤を含有するUV硬化性インクを用いた。
【0043】
本例において、インク膜11及びインク層12の形成にあたっては、UV硬化性インクの液滴量を30pl以下で印刷を行い、液滴の噴射から1秒以内に紫外線を照射して硬化させた。この液滴の噴射と紫外線の照射を繰り返して、樹脂基板10の意匠面101とは反対側の裏面102のほぼ全面にUV硬化性インクの硬化物からなるインク膜11を形成し、さらに、インク膜11上に多数のインク層12を形成した(図4(a)〜(d)参照)。
【0044】
以上のようにして、図4(c)及び(d)に示すごとく、透明の樹脂基板10と、その上に形成された意匠性を有するインク膜11と、さらにその上に形成された島状の多数のインク層12とを有する表示板1を製造した。
このようにして得られた板状の表示板1を用いて延伸率の評価を行った。
即ち、まず、図5に示すごとく、板状の表示板からJIS5号ダンベル形状の試験片100を打ち抜いた。同図において、試験片100の寸法は、a=33(mm)、b=25(mm)、c=41(mm)、d=115(mm)、e=6(mm)、f=25(mm)である。そして、試験片100を温度180℃の環境下で、引張速度50mm/minで矢印3の方向に切断するまで引っ張った。切断時における試験片の平坦部分(図5において長さaで示されてる部分)の長さを測定し、これをl(mm)とした。そして、引張試験前の試験片の平坦部分の長さaと、測定した長さlの値から、延伸率E(%)を次式により算出した。その結果を後述の表1に示す。
E=(l−a)/a×100(本例においてはa=33)
【0045】
また、板状の表示板1に対して、温度150℃〜180℃で、圧空成形等による熱絞り加工を行った。この熱絞り加工によって、表示板1の略中央部分に形成された速度計目盛りの部分を意匠面101側に突出させた(図2参照)。また、表示板1には、計器用指針等を配置するための貫通孔15を形成した(図1参照)。貫通孔15は、パッキン打ち抜きポンチセットの内径4mmのものを使用して打ち抜きを行うことにより形成した。さらに、表示板1を所定形状の外形に打ち抜いた。
このようにして、図1及び図2に示す表示板1を作製した。これを試料X1とする。
【0046】
上記のようにして得られた試料X1の表示板について、プレス性の評価を行った。
具体的には、表示板においてポンチ打ち抜き加工により形成した貫通孔の周囲を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。試料X1の表示板における貫通孔の周囲のSEM画像を図6(a)に示す。そして、貫通孔の周囲に発生しうるひび割れの有無を確認した。ひび割れが観察されなかった場合を「○」として評価し、ひび割れが観察された場合を「×」として評価した。その結果を後述の表1に示す。
【0047】
また、耐荷重性の評価を行った。
具体的には、表示板の平坦部分に3MPaの圧力を60秒間印加した。次いで、圧力を印加した部分を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。そのSEM画像を図7(a)に示す。同図においては、圧力を印加した領域を点線で囲って示してある。そして、インク膜及びインク層が剥がれ樹脂基板が露出する露出部分の有無を確認した。露出部分が観察されなかった場合を「○」として評価し、露出部分が観察された場合を「×」として評価した。その結果を後述の表1に示す。
【0048】
また、タック性の評価を行った。
具体的には、まず、表示板を、インク膜及びインク層を形成した側を上に向けて1週間放置した。次いで、表示板を上下方向に数回動かすことにより、表面に付着したゴミを軽く振り払った後、走査型電子顕微鏡(SEM)でインク膜及びインク層におけるゴミの付着の有無を確認した。そのSEM画像を図8(a)に示す。そして、ゴミの付着が観察されなかった場合を「○」として評価し、ゴミの付着が観察された場合を「×」として評価した。その結果を後述の表1に示す。
【0049】
次に、本例においては、試料X1の比較用として、インク膜上の全面に透明のインク層を連続的に形成した表示板(試料X2)を作製した。
具体的には、まず、試料X1の場合と同様に、ポリカーボネート樹脂からなる厚み約0.6mmの樹脂基板40を準備した(図9(a)参照)。次いで、画像データが入力されたインクジェット印刷装置で、UV硬化性インクを用いたインクジェット法により、樹脂基板40に対して、UV硬化性インクを印刷し、紫外線を照射して硬化させ、図9(b)に示すごとく、樹脂基板40上に、ほぼ全面を覆う厚み20μmのインク膜41を形成した。UV硬化性インクとしては、試料X1と同様のものを用いた。
【0050】
次いで、同様のインクジェット印刷装置により、インク膜41上に透明のUV硬化性インクを印刷し、紫外線を照射して硬化させ、図9(c)及び(d)に示すごとく、インク膜41上に、インク膜のほぼ全面を覆う厚み10μmのインク層42をシート状に積層形成した。UV硬化性インクとしては、試料X1と同様のものを用いた。試料X2においては、表面硬度FのUV硬化性インクを用いて、インク層42をインク膜41上の全面を覆うように形成してあるため、表面硬度もFとなる。
インク膜及びインク層の具体的な形成方法は、上記試料X1と同様である。
このようにして板状の表示板4を得た。この板状の表示板4について、上記試料X1の場合と同様にして、延伸率を測定した。その結果を後述の表1に示す。
【0051】
また、板状の表示板4に対して、上記試料X1と同様にして、圧空成形を行い、貫通孔を形成し、さらに所定形状の外形に打ち抜いた。このようにして、試料X1の比較用の表示板4を作製した。これを試料X2とする。
試料X2は、インク層として、シート状のインク層をインク膜上に積層形成した点を除いては上記試料X1と同様にして作製したものである。
試料X2についても、試料X1と同様にして、プレス性、耐荷重性、及びタック性の評価を行った。その結果を後述の表1に示す。また、試料X2について、プレス性の評価におけるSEM画像を図6(b)に示し、耐荷重性の評価におけるSEM画像を図7(b)に示した。タック性の評価におけるSEM画像は、試料X1とほぼ同様であったため、SEM画像を図面として示すことは省略した。
【0052】
また、本例においては、試料X1の比較用として、樹脂基板とインク膜とからなり、インク層を形成していない表示板(試料X3)を作製した。
具体的には、まず、試料X1の場合と同様に、ポリカーボネート樹脂からなる厚み約0.6mmの樹脂基板50を準備した(図10(a)参照)。次いで、画像データが入力されたインクジェット印刷装置で、UV硬化性インクを用いたインクジェット法により、樹脂基板50に対して、UV硬化性インクを印刷し、紫外線を照射して硬化させ、図10(b)及び(c)に示すごとく、樹脂基板50上に、ほぼ全面を覆う厚み20μmのインク膜51を形成した。UV硬化性インクとしては、試料X1と同様のものを用いた。
インク膜の具体的な形成方法は、上記試料X1と同様である。
このようにして板状の表示板5を得た。板状の表示板について、JIS5600K(1999年)の規定に準拠して表面硬度(鉛筆硬度)を調べたところ、4Bであった。また、この板状の表示板5について、上記試料X1の場合と同様にして、延伸率を測定した。その結果を後述の表1に示す。
【0053】
また、板状の表示板5に対して、試料X1と同様にして、圧空成形を行い、貫通孔を形成し、さらに所定形状の外形に打ち抜いた。このようにして、試料X1の比較用の表示板4を作製した。これを試料X3とする。
試料X3は、インク層を形成していない点を除いては上記試料X1と同様にして作製したものである。
試料X3についても、試料X1と同様にして、プレス性、耐荷重性、及びタック性の評価を行った。その結果を後述の表1に示す。また、試料X3について、プレス性の評価におけるSEM画像を図6(c)に示し、耐荷重性の評価におけるSEM画像を図7(c)に示した。タック性の評価におけるSEM画像を図8(b)に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1及び図6(b)より知られるごとく、試料X2においては、プレスによりひび割れ(図6(b)の囲みA参照)が発生しており、プレス性が不十分であった。これに対し、試料X1及び試料X3においては、打ち抜き加工時のひび割れの発生を防止できた(図6(a)及び(c)参照)。
【0056】
また、表1及び図7(c)より知られるごとく、試料X3においては、表面硬度が不十分であり、荷重を印加したときに、インク膜が剥がれて樹脂基板が露出する露出部分(図7(c)の囲みB参照)が観察された。これに対し、試料X1及び試料X2においては、荷重を印加して押圧してもインク膜がつぶれて剥がれてしまうことを防止することができた(図7(a)及び(b)参照)。
【0057】
また、表1及び図8(b)より知られるごとく、試料X3においては、付着したゴミが観察され、タック性が不十分であり、ゴミが強固に付着し易いことがわかる。一方、試料X1及び試料X2においては、表面におけるべたつきを低下させることができ、表示板の表面におけるゴミの付着を抑制できた(図8(a)参照)。
【0058】
このように、本例によれば、ゴミの付着を抑制できると共に、打ち抜き加工時のひび割れの発生を防止することができる表示板(試料X1)を提供することができる。
【0059】
また、本例においては、インクジェットの液滴を硬化させてなるインク層を形成したため、樹脂基板10上に積層形成したインク膜11上に、略球形状の多数のインク層12を形成した(図11(a)参照)が、図11(b)に示すごとく、例えば、円錐状又は角錐状(断面略三角形状)のインク層121を形成することもできる。また、例えば、角柱状(断面略四角形状)のインク層122を形成することもできる。
【0060】
また、本例においては、インクジェット印刷により、形状が比較的均一な複数のインク層11を形成したが、互いに大きさの異なる複数のインク層11を形成することもできる。
図12に、インク膜上に、霧吹きによりUV硬化性インクを吹き付けて、UVを照射して硬化させてインク層を形成した表示板の例を示す。同図は、このようにして作製した表示板のレーザ鏡焦点顕微鏡写真を示し、各インク層は、円相当径で30μm〜300μmの大きさで形成されている。
【符号の説明】
【0061】
1 表示板
10 樹脂基板
11 インク膜
12 インク層
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両に装備される計器等の表示装置に用いられる表示板に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両において、運転席の正面部分には計器等の表示装置が配設されている。一般に、車両用表示装置(自動車メータ計器盤)は、目盛りや文字などからなる意匠部(インク膜)を有する表示板、および該表示板の裏面側に配設された光源(バックライト)等から構成されている(特許文献1参照)。表示板においては、例えば意匠部の目盛りや文字を除く部分は光が透過しない不透過部として構成され、目盛りや文字の部分は光が透過する透過部として構成される。このような構成により、夜間等に光源にて表示板を照明することで、表示板の文字、目盛り等の透過部を明るく表示させることができる。
【0003】
表示板は、ポリカーボネート樹脂等の樹脂製の透明基板と、該透明基板の表面に印刷形成されたインク膜とからなる。
近年、表示板は、意匠性を向上させるために、圧空成形等により立体的な形状に加熱成形して用いられる。また、表示板は、所望の形状に打ち抜く切断加工が施されたり、表示板上に穴を形成するためにパンチで打ち抜き加工等が施されたりして用いられる。そして、表示装置において、表示板は、振動による異音の発生等を防止するために、インク膜側を支持板などの他部材に押圧して保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−96043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の表示板においては、成形性を向上させるために、比較的柔らかいインク膜を形成すると、はりつき性(タック性)が強くなり、ゴミ等が付着し易くなるという問題があった。このゴミの付着をさけるために、表示板の製造は、クリーンルーム内で行われていたが、製造コストの増大につながる。また、柔らかいインク膜を形成すると、支持板などの他部材に押圧して配置した際に、インク膜がつぶれてバックライトの光が漏れだしてしまうおそれがある。
一方、硬度の高いインク膜を形成すると、表示板に打ち抜き加工を施す際に、インク膜にひび割れが発生してしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、ゴミの付着を抑制できると共に、打ち抜き加工時のひび割れの発生を防止することができる表示板を提供しようとするものである。
【0007】
本発明は、透明の樹脂基板と、該樹脂基板上に積層形成された意匠性を有するインク膜と、該インク膜上に形成された複数のインク層とからなる表示板において、
上記インク層は、鉛筆硬度がF以上であり、上記インク層にステンレス鋼からなる円柱状治具を圧力3MPaで60秒間押し付けた後に0.5mm/minの速度で引きはがしたときにかかる応力が40kPa以下であり、
上記インク層は、上記インク膜上において互いに間隔を開けて島状に形成されていることを特徴とする表示板にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0008】
本発明の表示板は、透明の樹脂基板と、該樹脂基板上に積層形成された意匠性を有するインク膜と、該インク膜上に形成された複数のインク層とからなる。そして、上記インク層は、該インク層に上記円柱状治具を上記所定の圧力及び時間で押し付けた後に上記所定の速度で引きはがしたときにかかる応力(上記インク層に対する密着強度)が40kPa以下である。即ち、上記インク膜上に、密着力の小さい上記インク層が形成されている。
そのため、上記表示板の表面におけるべたつきを低下させることができる。それ故、上記表示板の表面におけるゴミの付着を抑制することができる。
【0009】
また、上記インク層は、鉛筆硬度がF以上である。
そのため、上記表示板においては、表面の強度が優れており、上記表示板を他部材に押圧して用いても、インク膜がつぶれたり、剥がれたりしてしまうことを防止することができる。そのため、上記表示板の上記インク層側にバックライトを配置して用いても光漏れを防止することができる。
また、上記インク層として、鉛筆硬度がF以上のものを採用しているため、上記インク膜としては比較的柔らかいものを用いることが可能になり、上記表示板の延伸性を高めることが可能になる。そのため、上記表示板の成形性を向上させることもできる。
【0010】
また、上記インク層は、上記インク膜上において互いに間隔を開けて島状に形成されている。そのため、上記表示板を所望の形状に打ち抜く切断加工を行ったり、上記表示板に穴を形成するためにパンチで打ち抜き加工を施したりしても、硬度の高い上記インク層にひびや割れ等が発生することを防止することができる。
【0011】
このように、本発明によれば、ゴミの付着を抑制できると共に、打ち抜き加工時のひび割れの発生を防止することができる表示板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例にかかる、表示板の正面図。
【図2】実施例にかかる、表示板の断面図。
【図3】実施例にかかる、表示板を他部材に対して押圧して配置した状態の断面構造を示す説明図。
【図4】実施例にかかる、表示板(試料X1)の製造工程を示す説明図であって、樹脂基板の断面を示す説明図(a)、樹脂基板上にインク膜を形成した構造体の断面構造を示す説明図(b)、板状の表示板(試料X1)の断面構造を示す説明図(c)、板状の表示板(試料X1)をインク膜及びインク層側から見た正面図(d)。
【図5】実施例にかかる、延伸率の評価に用いるダンベル形状の試験片を示す説明図。
【図6】実施例にかかる、表示板(試料X1)の貫通孔の周囲における走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(a)、表示板(試料X2)の貫通孔の周囲における走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(b)、表示板(試料X3)の貫通孔の周囲における走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(c)。
【図7】実施例にかかる、表示板(試料X1)についての耐荷重性の評価試験後における荷重を印加した部分の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(a)、表示板(試料X2)についての耐荷重性の評価試験後における荷重を印加した部分の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(b)、表示板(試料X3)についての耐荷重性の評価試験後における荷重を印加した部分の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(c)。
【図8】実施例にかかる、タック性の評価試験後の表示板(試料X1)の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(a)、タック性の評価試験後の表示板(試料X3)の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す説明図(b)。
【図9】実施例にかかる、表示板(試料X2)の製造工程を示す説明図であって、樹脂基板の断面を示す説明図(a)、樹脂基板上にインク膜を形成した構造体の断面構造を示す説明図(b)、板状の表示板(試料X2)の断面構造を示す説明図(c)、板状の表示板(試料X2)をインク膜及びインク層側から見た正面図(d)。
【図10】実施例にかかる、表示板(試料X3)の製造工程を示す説明図であって、樹脂基板の断面を示す説明図(a)、板状の表示板(試料X3)の断面構造を示す説明図(b)板状の表示板(試料X3)をインク膜側から見た正面図(c)。
【図11】実施例にかかる、インクジェット印刷によって噴射されるインクの液滴により形成したインク層を備える表示板の部分断面拡大図(a)、断面略三角形状のインク層を形成した表示板の部分断面拡大図(b)、断面略四角形状のインク層を形成した表示板の部分断面拡大図(c)。
【図12】実施例にかかる、樹脂基板上に形成したインク膜上に、インクを霧吹きにより吹き付けて形成した複数のインク層を備える表示板のレーザ鏡焦点顕微鏡写真を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
上記表示板は、透明の樹脂基板と、該樹脂基板上に形成された意匠性を有するインク膜と、該インク膜上に形成された複数のインク層とを有する。
上記樹脂基板は透光性を有し、上記インク膜には、可視光を透過する透過部と、可視光を透過しない不透過部とを有することが好ましい。そして、使用者が視認する面(意匠面)とは反対側の裏面から上記表示板に光を照射することにより、上記インク膜における上記透過部を明るく表示させるバックライト式の表示板に用いられることが好ましい。
この場合には、上記表示板における上記インク膜の優れた意匠性を最大限に発揮することができる。そしてこの場合には、上記表示板を、例えば自動車室内の運転席前部のインストルメントパネル等の自動車メータ計器盤用の表示板、又はエアコンの表示板等に好適に用いることができる。
【0014】
バックライト式の表示板に用いた例として、自動車メータ計器盤用の表示板を図1に示す。この表示板(自動車メータ計器盤用表示板)においては、樹脂基板上に形成された目盛りや文字等を表す透明又は半透明のインク膜(印刷部)又は非印刷部が透過部を形成し、樹脂基板の裏面側に配置される光源からの光によって透過部の意匠を明るく表示させることができる。また、樹脂基板上の透過部以外の部分には、例えば黒色のインクからなるインク膜(印刷部)が形成されており、この黒色のインク膜が不透過部を形成する。
上記透過部及び上記不透過部は、上記インク膜の色、厚み、及び印刷密度等を調整することにより形成できる。具体的には、上記透過部は、例えば上記インク膜の厚みを小さくしたり、印刷密度を小さくしたり、また、色の濃度を薄くしたりして形成できる。一方、上記不透過部は、例えば上記インク膜の厚みを大きくしたり、黒色のインクからなるインク膜を積層させたりして形成できる。
【0015】
上記樹脂基板としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂等からなる基板を用いることができる。
この場合には、上記樹脂基板に透光性を付与することができるため、上記表示板を上述のバックライト式の表示板に好適に用いることができる。
より好ましくは、上記樹脂基板はポリカーボネート樹脂からなることがよい。
この場合には、上記樹脂基板が優れた延伸性を示すことができるため、上記表示板の成形性を向上させることができる。
【0016】
上記インク膜及び上記インク層は、スクリーン印刷又はインクジェット印刷等により形成することができる。
上記インク層は、好ましくはインクジェット印刷により形成されていることがよい。
この場合には、上記インク膜上において互いに間隔を開けて島状に形成された上記インク層を形成しやすくなる。インクジェット印刷においては、インクを吹き付ける部位と吹き付けない部位をドット単位で制御することが可能であるからである。
また、上記インク膜についても、上記インク層と同様にインクジェット印刷により形成することが好ましい。
この場合には、上記インク膜及び上記インク層を同一の印刷装置で形成することができるため、上記表示板の製造工程が少なくなりその製造が容易になる。
したがって、上記インク膜及び上記インク層は、インクジェット印刷により形成されていることが好ましい(請求項5)。
【0017】
上記表示板は、延伸率が70%以上であることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記表示板の成形性を向上させることができる。上記表示板の延伸率が70%未満の場合には、上記表示板に対して圧空成形等の成形加工を行う際に、ひび割れなどが発生するおそれがある。
一般に、ポリカーボネート樹脂からなる樹脂基板とその表面に形成したインク膜とからなる表示板において、その延伸率を70%以上にするためには、インク膜を柔らかくする必要があるため、表面の硬度が不十分になる傾向がある。
本発明の表示板においては、上記インク膜の表面に鉛筆硬度F以上という硬度の高い上記インク層が互いに間隔を開けて島状に形成されている。そのため、該インク層が高い硬度を発揮することができるため、上記インク膜には、比較的柔らかい材質を用いることが可能になる。そのため、上述のように、延伸率70%以上の表示板を形成し易くなる。
また、成形を行う場合には、印刷形成したインク膜及びインク層の膜厚が延伸される部位において当初の膜厚よりも減少し、光が漏光するおそれがあるという観点から、上記表示板の延伸率は300%以下がよい。
【0018】
次に、上記インク層は、鉛筆硬度がF以上である。
鉛筆硬度がF未満である場合には、上記表示板がそのインク膜形成側の表面において十分な硬度を示すことができなくなるおそれがある。そのため、上記表示板を上記インク膜及び上記インク層が形成された側において支持板などの他部材に押圧した際に、インク膜がつぶれてしまうおそれがある。上述のバックライト式の表示板として用いた場合には、光が漏れだしてしまうおそれがある。
【0019】
また、上記インク層においては、該インク層にステンレス鋼からなる円柱状治具を圧力3MPaで60秒間押し付けた後に0.5mm/minの速度で引きはがしたときにかかる応力(上記インク層に対する密着強度)が40kPa以下である。
密着強度が40kPaを超える場合には、上記表示板の表面のべたつきが高くなり、ゴミが付着し、付着したゴミが取れ難くなるおそれがある。
【0020】
上記インク層は、上記インク膜上において互いに間隔を開けて島状に形成されている。即ち、上記インク膜を海、上記インク層を島とする海島構造が形成される。海島構造において、上記インク膜は、連続的に形成されており、上記インク層は上記インク膜上に不連続に形成されている。
上記インク層は、例えば30〜300μmの円相当径で上記インク膜上に形成することができる。
【0021】
上記インク層をインクジェット印刷により形成する場合には、インクジェット印刷により噴射される液滴1つからなるインク層を形成することができる。また、複数の液滴の集合体によりインク層を形成することもできる。
【0022】
次に、上記表示板は、上記インク膜及び上記インク層が形成された側面の少なくとも一部を他部材に押圧して用いられることが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記インク膜上に上記インク層を形成した上記表示板が奏する上述の作用効果を顕著に示すことができる。即ち、上記表示板においては、上記インク膜の表面に硬度の高い上記インク層が形成されているため、上記表示板を支持板などの他部材に押圧して用いても、インク膜がつぶれてしまうことを防止することができる。
【0023】
また、上記表示板において、上記インク膜及び上記インク層は、UV硬化性インクからなることが好ましい(請求項4)。
この場合には、UV硬化手法を採用することにより、熱を利用して印刷膜を形成する従来のスクリーン印刷よりも省エネルギー化を図ることができる。
【0024】
また、上記インク膜及び上記インク層は、ビーズを含んだインクを用いて形成することができる。
この場合には、上記インク膜及び上記インク層の強度をより向上させることができる。
【0025】
また、上記インク膜は、厚み10〜50μmで形成することができる。
上記インク膜の厚みが10μm未満の場合には、成形時に、延伸される部位において膜厚が減少した際に、上記インク膜が所望の色を維持することができなくなるおそれがある。一方、50μmを超える場合には、例えばアクリル樹脂等の硬化収縮率が高い樹脂基板を採用した際に、インク膜の膜厚を大きくすると内部応力が大きくなり、硬化時に皺又は割れが発生するおそれがある。
【0026】
また、上記インク層は、上記インク膜の厚みの1/10以上、かつ50μm以下の厚みで形成することができる。
上記インク層の厚みが上記インク膜の厚みの1/10未満の場合には、下地となる上記インク膜の物性が強く発現してしまい、上記インク膜と上記インク層との複合膜としての物性が低下するおそれがある。一方、上記インク層の厚みが50μmを超える場合には、例えばアクリル樹脂等の硬化収縮率が高い樹脂基板を採用した際に、インク膜の膜厚を大きくすると内部応力が大きくなり、硬化時に皺又は割れが発生するおそれがある。
【0027】
また、上記インク層は、例えば透明のインクで形成することができる。
この場合には、上記インク層により、上記インク膜の意匠性を損ねることを防止することができる。
また、上記インク層は、有色や半透明のインクで形成することもできる。
この場合には、上記表示板は、上記インク層と上記インク膜とを組み合わせた立体的な意匠性を示すことができる。
【実施例】
【0028】
(実施例)
次に、上記表示板の実施例について、図1〜図12を用いて説明する。
本例においては、表示板1として、車両用計器のメータ文字盤を作製する(図1参照)。
図1及び図2に示すごとく、本例の表示板1は、樹脂基板10と、この樹脂基板10上に形成されたインク膜11と、このインク膜11の上に形成された複数のインク層12とからなる。
【0029】
本例の表示板1は、車両用計器のメータ文字盤である。図1は、表示板1の正面図である。図2は、図1に示される表示板1の断面図である。図2に示すごとく、表示板1には、圧空成形による成形加工が施されており、中央部分が周囲よりも突出した構造を有している。
【0030】
以下、本例の表示板について詳細に説明する。
本例の表示板1は、図1及び図2に示すごとく、透明の樹脂基板10と、その上に積層形成されたシート状のインク膜11とを有している。樹脂基板10は、ポリカーボネート樹脂からなり、インク膜11は、使用者が視認する面である意匠面101とは反対側の裏面102に形成されている。
【0031】
インク膜11は、樹脂基板10の裏面102のほぼ全面を覆うように形成されている。
インク膜11には、可視光を透過することが可能な透過部111が形成されており、この透過部111が表示板1における文字、記号、絵柄等を形成している。インク膜11には、可視光を透過しない黒色の不透過部112も形成されている。
【0032】
また、インク膜11上には、多数のインク層12が形成されている。インク層12は、インク膜11上において互いに間隔を開けて島状に形成されている。本例において、インク層12は、透明のインクから構成されている。
インク層12は、鉛筆硬度がFであり、インク層にステンレス鋼からなる円柱状治具を圧力3MPaで60秒間押し付けた後に0.5mm/minの速度で引きはがしたときにかかる応力(インク層に対する密着強度)が40kPa以下(具体的には31.8kPa)である。インク層に対する密着強度の測定は、シート状に印刷形成したインク層に対して行うことができる。
【0033】
本例において、インク膜11及びインク層12は、いずれもUV硬化性インクからなり、インクジェット印刷により形成されている。インク膜11及びインク層12は、スクリーン印刷により形成することも可能である。また、インク層12は、インクを霧吹きにより吹きかけて形成することも可能である。
【0034】
図2に示すごとく、本例の表示板1においては、使用者が視認する面である意匠面101側に中央部が部分的に突出する成形加工が施されている。インク膜11及びインク層12は、意匠面101とは反対側の裏面102に形成されている。
【0035】
また、図3に示すごとく、本例の表示板1は、裏面102側において他部材に押圧して使用される。ここで、本例において、他部材は、自動車の運転席の正面部分に配設される車両用表示装置内の支持板2である。この支持板2に、表示板1がその平坦な部分において押圧されて固定される。このとき、表示板1は、意匠面とは反対側の裏面102、即ちインク膜11及びインク層12が形成された面において、支持板2に押圧される。
【0036】
本例の表示板1は、支持板側に配置された光源(図示略)により、意匠面101とは反対の裏面102から光が照射される、所謂バックライト式の表示板として用いられる。表示板1には、可視光を透過する透過部111と可視光を透過しない不透過部112とが形成されている。光源を照射することにより、暗所においても、透過部111を明るく表示させることができる(図1参照)。
【0037】
次に、本例の表示板の製造方法について、説明する。
本例においては、図4(a)〜(d)に示すごとく、樹脂基板10上のほぼ全面に、インクジェット印刷によりUV硬化性インクを噴射し、UVを照射して該UV硬化性インクを硬化させてインク膜11を形成し、さらにインク膜11上に、インクジェット印刷によりUV硬化性インクを噴射し、UVを照射して該UV硬化性インクを硬化させてインク層12を形成する。
インク膜11の形成にあたっては、図1に示すような意匠画像をコンピュータにより作成し、この意匠画像に基づいて、透明及びフルカラーのUV硬化性インクを用いたインクジェット法により樹脂基板10に画像を印刷し、インクを硬化させてインク膜11を形成する。
【0038】
意匠画像の作成においては、例えばAdobe社製画像処理用ソフトウェアを用いることができる。また、印刷装置としては、UV硬化型インクジェット装置(インクジェットヘッド、UV照射光源同時駆動型ミマキエンジニアリング製UJF605C、最高解像度1200DPI)を用いることができる。UV硬化型インクジェット装置には、インクタンクと、その真横に紫外線(UV)を照射する光源が搭載されており、ヘッドのノズルから樹脂基板又はインク膜上にインク滴を射出した後、射出したインク滴に対して紫外線を照射できる構成になっている。
【0039】
具体的には、以下のようにして表示板1を製造した。
まず、車両用計器のメータ文字盤としての画像(図1参照)をコンピュータで作成した後、この画像データをインクジェット印刷装置に入力した。このとき、解像度、インクの液滴量、色および網点率等を指定することができる。
【0040】
そして、図4(a)に示すごとく、ポリカーボネート等からなる厚み約0.6mmの樹脂基板10を用意し、上記画像データが入力されたインクジェット印刷装置で、UV硬化性インクを用いたインクジェット法により、樹脂基板10における透過部111及び不透過部112の形成予定領域(図1参照)に対して、UV硬化性インク(東洋インキ(株)製)を印刷し、紫外線を照射して硬化させ、図4(b)に示すごとく、樹脂基板10上に、樹脂基板のほぼ全面を覆う厚み20μmのインク膜11を形成した。
インク膜11の形成にあたっては、UV硬化性のアクリルモノマー(単官能モノマー及び多官能モノマー)、顔料、及び光開始剤を含有するUV硬化性インクを用いた。
【0041】
次いで、同様のインクジェット印刷装置により、インク膜11上に透明のUV硬化性インク(東洋インキ(株)製)を印刷し、紫外線を照射して硬化させ、図4(c)に示すごとく、インク膜11上に、厚み10μmの多数のインク層12を形成した。インク層12の形成にあたっては、インクジェット印刷装置により、ドット単位のインク層12を互いに1ピッチずつ間隔を開けて印刷形成した。これにより、図4(d)に示すごとく、インク膜11上に、インク層12を互いに間隔を開けて島状に形成した。本例においては、硬化後の鉛筆硬度がFであり、硬化後の硬化物にステンレス鋼からなる円柱状治具を圧力3MPaで60秒間押し付けた後に0.5mm/minの速度で引きはがしたときにかかる応力(密着強度)が31.8kPaとなるUV硬化性インクを用いてインク層12を形成した。
【0042】
鉛筆硬度は、JIS5600K(1999年)に規定の方法に準じて測定することができる。本例においては、上述のごとく、硬化後の鉛筆硬度がFのUV硬化性インクを用いてインク層を形成した。インク膜とインク層とからなる表示板全体の表面硬度(鉛筆硬度)はBとなる。
また、上述の密着強度は、英弘精機(株)製の「テクスチャアナライザー」を用いて測定した。測定に用いる円柱状治具としては、直径φ4mmのものを使用して測定した。密着強度の測定は、インク層の形成に用いたUV硬化性のインクをシート上に印刷形成したインク層について行った。
また、インク層12の形成にあたっては、UV硬化性のアクリルモノマー(単官能モノマー及び多官能モノマー)、及び光開始剤を含有するUV硬化性インクを用いた。
【0043】
本例において、インク膜11及びインク層12の形成にあたっては、UV硬化性インクの液滴量を30pl以下で印刷を行い、液滴の噴射から1秒以内に紫外線を照射して硬化させた。この液滴の噴射と紫外線の照射を繰り返して、樹脂基板10の意匠面101とは反対側の裏面102のほぼ全面にUV硬化性インクの硬化物からなるインク膜11を形成し、さらに、インク膜11上に多数のインク層12を形成した(図4(a)〜(d)参照)。
【0044】
以上のようにして、図4(c)及び(d)に示すごとく、透明の樹脂基板10と、その上に形成された意匠性を有するインク膜11と、さらにその上に形成された島状の多数のインク層12とを有する表示板1を製造した。
このようにして得られた板状の表示板1を用いて延伸率の評価を行った。
即ち、まず、図5に示すごとく、板状の表示板からJIS5号ダンベル形状の試験片100を打ち抜いた。同図において、試験片100の寸法は、a=33(mm)、b=25(mm)、c=41(mm)、d=115(mm)、e=6(mm)、f=25(mm)である。そして、試験片100を温度180℃の環境下で、引張速度50mm/minで矢印3の方向に切断するまで引っ張った。切断時における試験片の平坦部分(図5において長さaで示されてる部分)の長さを測定し、これをl(mm)とした。そして、引張試験前の試験片の平坦部分の長さaと、測定した長さlの値から、延伸率E(%)を次式により算出した。その結果を後述の表1に示す。
E=(l−a)/a×100(本例においてはa=33)
【0045】
また、板状の表示板1に対して、温度150℃〜180℃で、圧空成形等による熱絞り加工を行った。この熱絞り加工によって、表示板1の略中央部分に形成された速度計目盛りの部分を意匠面101側に突出させた(図2参照)。また、表示板1には、計器用指針等を配置するための貫通孔15を形成した(図1参照)。貫通孔15は、パッキン打ち抜きポンチセットの内径4mmのものを使用して打ち抜きを行うことにより形成した。さらに、表示板1を所定形状の外形に打ち抜いた。
このようにして、図1及び図2に示す表示板1を作製した。これを試料X1とする。
【0046】
上記のようにして得られた試料X1の表示板について、プレス性の評価を行った。
具体的には、表示板においてポンチ打ち抜き加工により形成した貫通孔の周囲を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。試料X1の表示板における貫通孔の周囲のSEM画像を図6(a)に示す。そして、貫通孔の周囲に発生しうるひび割れの有無を確認した。ひび割れが観察されなかった場合を「○」として評価し、ひび割れが観察された場合を「×」として評価した。その結果を後述の表1に示す。
【0047】
また、耐荷重性の評価を行った。
具体的には、表示板の平坦部分に3MPaの圧力を60秒間印加した。次いで、圧力を印加した部分を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。そのSEM画像を図7(a)に示す。同図においては、圧力を印加した領域を点線で囲って示してある。そして、インク膜及びインク層が剥がれ樹脂基板が露出する露出部分の有無を確認した。露出部分が観察されなかった場合を「○」として評価し、露出部分が観察された場合を「×」として評価した。その結果を後述の表1に示す。
【0048】
また、タック性の評価を行った。
具体的には、まず、表示板を、インク膜及びインク層を形成した側を上に向けて1週間放置した。次いで、表示板を上下方向に数回動かすことにより、表面に付着したゴミを軽く振り払った後、走査型電子顕微鏡(SEM)でインク膜及びインク層におけるゴミの付着の有無を確認した。そのSEM画像を図8(a)に示す。そして、ゴミの付着が観察されなかった場合を「○」として評価し、ゴミの付着が観察された場合を「×」として評価した。その結果を後述の表1に示す。
【0049】
次に、本例においては、試料X1の比較用として、インク膜上の全面に透明のインク層を連続的に形成した表示板(試料X2)を作製した。
具体的には、まず、試料X1の場合と同様に、ポリカーボネート樹脂からなる厚み約0.6mmの樹脂基板40を準備した(図9(a)参照)。次いで、画像データが入力されたインクジェット印刷装置で、UV硬化性インクを用いたインクジェット法により、樹脂基板40に対して、UV硬化性インクを印刷し、紫外線を照射して硬化させ、図9(b)に示すごとく、樹脂基板40上に、ほぼ全面を覆う厚み20μmのインク膜41を形成した。UV硬化性インクとしては、試料X1と同様のものを用いた。
【0050】
次いで、同様のインクジェット印刷装置により、インク膜41上に透明のUV硬化性インクを印刷し、紫外線を照射して硬化させ、図9(c)及び(d)に示すごとく、インク膜41上に、インク膜のほぼ全面を覆う厚み10μmのインク層42をシート状に積層形成した。UV硬化性インクとしては、試料X1と同様のものを用いた。試料X2においては、表面硬度FのUV硬化性インクを用いて、インク層42をインク膜41上の全面を覆うように形成してあるため、表面硬度もFとなる。
インク膜及びインク層の具体的な形成方法は、上記試料X1と同様である。
このようにして板状の表示板4を得た。この板状の表示板4について、上記試料X1の場合と同様にして、延伸率を測定した。その結果を後述の表1に示す。
【0051】
また、板状の表示板4に対して、上記試料X1と同様にして、圧空成形を行い、貫通孔を形成し、さらに所定形状の外形に打ち抜いた。このようにして、試料X1の比較用の表示板4を作製した。これを試料X2とする。
試料X2は、インク層として、シート状のインク層をインク膜上に積層形成した点を除いては上記試料X1と同様にして作製したものである。
試料X2についても、試料X1と同様にして、プレス性、耐荷重性、及びタック性の評価を行った。その結果を後述の表1に示す。また、試料X2について、プレス性の評価におけるSEM画像を図6(b)に示し、耐荷重性の評価におけるSEM画像を図7(b)に示した。タック性の評価におけるSEM画像は、試料X1とほぼ同様であったため、SEM画像を図面として示すことは省略した。
【0052】
また、本例においては、試料X1の比較用として、樹脂基板とインク膜とからなり、インク層を形成していない表示板(試料X3)を作製した。
具体的には、まず、試料X1の場合と同様に、ポリカーボネート樹脂からなる厚み約0.6mmの樹脂基板50を準備した(図10(a)参照)。次いで、画像データが入力されたインクジェット印刷装置で、UV硬化性インクを用いたインクジェット法により、樹脂基板50に対して、UV硬化性インクを印刷し、紫外線を照射して硬化させ、図10(b)及び(c)に示すごとく、樹脂基板50上に、ほぼ全面を覆う厚み20μmのインク膜51を形成した。UV硬化性インクとしては、試料X1と同様のものを用いた。
インク膜の具体的な形成方法は、上記試料X1と同様である。
このようにして板状の表示板5を得た。板状の表示板について、JIS5600K(1999年)の規定に準拠して表面硬度(鉛筆硬度)を調べたところ、4Bであった。また、この板状の表示板5について、上記試料X1の場合と同様にして、延伸率を測定した。その結果を後述の表1に示す。
【0053】
また、板状の表示板5に対して、試料X1と同様にして、圧空成形を行い、貫通孔を形成し、さらに所定形状の外形に打ち抜いた。このようにして、試料X1の比較用の表示板4を作製した。これを試料X3とする。
試料X3は、インク層を形成していない点を除いては上記試料X1と同様にして作製したものである。
試料X3についても、試料X1と同様にして、プレス性、耐荷重性、及びタック性の評価を行った。その結果を後述の表1に示す。また、試料X3について、プレス性の評価におけるSEM画像を図6(c)に示し、耐荷重性の評価におけるSEM画像を図7(c)に示した。タック性の評価におけるSEM画像を図8(b)に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1及び図6(b)より知られるごとく、試料X2においては、プレスによりひび割れ(図6(b)の囲みA参照)が発生しており、プレス性が不十分であった。これに対し、試料X1及び試料X3においては、打ち抜き加工時のひび割れの発生を防止できた(図6(a)及び(c)参照)。
【0056】
また、表1及び図7(c)より知られるごとく、試料X3においては、表面硬度が不十分であり、荷重を印加したときに、インク膜が剥がれて樹脂基板が露出する露出部分(図7(c)の囲みB参照)が観察された。これに対し、試料X1及び試料X2においては、荷重を印加して押圧してもインク膜がつぶれて剥がれてしまうことを防止することができた(図7(a)及び(b)参照)。
【0057】
また、表1及び図8(b)より知られるごとく、試料X3においては、付着したゴミが観察され、タック性が不十分であり、ゴミが強固に付着し易いことがわかる。一方、試料X1及び試料X2においては、表面におけるべたつきを低下させることができ、表示板の表面におけるゴミの付着を抑制できた(図8(a)参照)。
【0058】
このように、本例によれば、ゴミの付着を抑制できると共に、打ち抜き加工時のひび割れの発生を防止することができる表示板(試料X1)を提供することができる。
【0059】
また、本例においては、インクジェットの液滴を硬化させてなるインク層を形成したため、樹脂基板10上に積層形成したインク膜11上に、略球形状の多数のインク層12を形成した(図11(a)参照)が、図11(b)に示すごとく、例えば、円錐状又は角錐状(断面略三角形状)のインク層121を形成することもできる。また、例えば、角柱状(断面略四角形状)のインク層122を形成することもできる。
【0060】
また、本例においては、インクジェット印刷により、形状が比較的均一な複数のインク層11を形成したが、互いに大きさの異なる複数のインク層11を形成することもできる。
図12に、インク膜上に、霧吹きによりUV硬化性インクを吹き付けて、UVを照射して硬化させてインク層を形成した表示板の例を示す。同図は、このようにして作製した表示板のレーザ鏡焦点顕微鏡写真を示し、各インク層は、円相当径で30μm〜300μmの大きさで形成されている。
【符号の説明】
【0061】
1 表示板
10 樹脂基板
11 インク膜
12 インク層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明の樹脂基板と、該樹脂基板上に積層形成された意匠性を有するインク膜と、該インク膜上に形成された複数のインク層とからなる表示板において、
上記インク層は、鉛筆硬度がF以上であり、上記インク層にステンレス鋼からなる円柱状治具を圧力3MPaで60秒間押し付けた後に0.5mm/minの速度で引きはがしたときにかかる応力が40kPa以下であり、
上記インク層は、上記インク膜上において互いに間隔を開けて島状に形成されていることを特徴とする表示板。
【請求項2】
請求項1に記載の表示板において、該表示板は、延伸率が70%以上であることを特徴とする表示板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表示板において、該表示板は、上記インク膜及び上記インク層が形成された側面の少なくとも一部を他部材に押圧して用いられることを特徴とする表示板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の表示板において、上記インク膜及び上記インク層は、UV硬化性インクからなることを特徴とする表示板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の表示板において、上記インク膜及び上記インク層は、インクジェット印刷により形成されていることを特徴とする表示板。
【請求項1】
透明の樹脂基板と、該樹脂基板上に積層形成された意匠性を有するインク膜と、該インク膜上に形成された複数のインク層とからなる表示板において、
上記インク層は、鉛筆硬度がF以上であり、上記インク層にステンレス鋼からなる円柱状治具を圧力3MPaで60秒間押し付けた後に0.5mm/minの速度で引きはがしたときにかかる応力が40kPa以下であり、
上記インク層は、上記インク膜上において互いに間隔を開けて島状に形成されていることを特徴とする表示板。
【請求項2】
請求項1に記載の表示板において、該表示板は、延伸率が70%以上であることを特徴とする表示板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表示板において、該表示板は、上記インク膜及び上記インク層が形成された側面の少なくとも一部を他部材に押圧して用いられることを特徴とする表示板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の表示板において、上記インク膜及び上記インク層は、UV硬化性インクからなることを特徴とする表示板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の表示板において、上記インク膜及び上記インク層は、インクジェット印刷により形成されていることを特徴とする表示板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【公開番号】特開2012−242792(P2012−242792A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116053(P2011−116053)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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