説明

表示素子

【課題】有機層からなる複数の発光ユニットを、接続層を介して積層させた表示素子において、高輝度で長期信頼性に優れた構造を提供することを目的とする。
【解決手段】陰極16と陽極13との間に、少なくとも有機発光層14cを含む発光ユニット14-1,14-2が複数個積層され、当該各発光ユニット14-1,14-2間に接続層15が挟持された表示素子10において、接続層15は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属(ベリリウムおよびマグネシウムを含む)の少なくとも一方を含む酸化物を用いた酸化物含有層15aと、電荷輸送性有機材料を用いた電荷輸送性有機材料層15bと、トリフェニレン誘導体およびアザトリフェニレン誘導体のうちの少なくとも一方を用いたトリフェニレン層15cとを、この順に陽極13側から積層させた積層部を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーディスプレイなどに用いられる表示素子に関し、特には有機層を備えた自発光型の表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
図11に、有機層を備えた自発光型の表示素子(有機電界発光素子)の一構成例を示す。この図に示す表示素子1は、例えばガラス等からなる透明な基板2上に設けられている。この表示素子1は、基板2上に設けられたITO(Indium Tin Oxide:透明電極)からなる陽極3、この陽極3上に設けられた有機層4、さらにこの上部に設けられた陰極5とで構成されている。有機層4は、陽極側から、例えばホール注入層4a、ホール輸送層4bおよび電子輸送性の発光層4cを順次積層させた構成となっている。このように構成された表示素子1では、陰極から注入された電子と陽極から注入されたホールとが発光層4cにて再結合する際に生じる光が基板2側から取り出される。
【0003】
有機電界発光素子の寿命は、一般的には注入された電荷によって決まっており、この事は駆動における初期輝度を落すことで解決することはできる。しかしながら、初期輝度を落すことは、実用化におけるアプリケーションが制限され、有機電界発光素子の潜在的な可能性を自ら否定することになり、次世代テレビの実現は不可能になる。
【0004】
この問題を解決するためには、駆動電流を変えずに輝度を上げる、即ち効率を改善するか、或いは駆動電流を下げても同様の輝度を得ることができる素子構成を実現する必要がある。
【0005】
そこで、複数の有機発光素子を重ねて配置したスタック型のマルチフォトンエミッション素子(MPE素子)が提案されている。図12には、このようなMPE素子の一例を示す。この図に示すMPE素子は、陽極3と陰極5との間に、少なくとも発光層4cを有する有機層からなる複数の発光ユニット4-1,4-2,…を、絶縁性の電荷発生層6を介して重ねて配置した構成となっている。ここで、電荷発生層6とは、電圧印加時において、電荷発生層6の陰極5側に配置された発光ユニット4-2に対してホールを注入する一方、電荷発生層6の陽極3側に配置された発光ユニット4-1に対して電子を注入する役割を果たす層である。
【0006】
このような電荷発生層6は、例えば、酸化バナジウム(V25)や酸化レニウム(Re27)のような金属酸化物を用いて構成されている。そして、このような電荷発生層6から陽極3側の発光ユニット4-1への電子注入効率を上げるために、「その場反応生成層」となる電子注入層7を電荷発生層6の陽極3側に設けることがある。このような「その場反応生成層」となる電子注入層7としては、例えばバソクプロイン(BCP)と金属セシウム(Cs)との混合層や、(8−キノリノラト)アルミニウム錯体とマグネシウムとの混合膜が用いられている。
【0007】
以上のような電荷発生層6を介して発光ユニット4-1,4-2,…を積層させたスタック型の有機電界発光素子では、2つの発光ユニットを積層した場合には、理想的には発光効率[lm/W]は変ること無しに輝度[cd/A]を2倍に、3つの発光ユニットを積層した場合には、理想的には[lm/W]は変ること無しに[cd/A]を3倍にすることが可能であるとされている(下記特許文献1,2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2003−45676号公報
【特許文献2】特開2003−272860号公報
【0009】
また発光ユニット間に配置される層としては、以上のような電荷発生層6の他にも、n型ドープト有機層やp型ドープト有機層、またはこれらを組み合わせて用いる構成が提案されている(下記特許文献3参照)。
【0010】
【特許文献3】特開2004−039617号公報
【0011】
さらに、発光ユニット間に配置される他の層として、少なくともホール輸送層及び電子輸送層を含むもの、ならびに各隣接有機電場発光ユニット間に配置された連結ユニットを用いる構成が提案されている。この連結ユニットは、順に、n型ドープト有機層、界面層及びp型ドープト有機層を含み、該界面層が該n型ドープト有機層と該p型ドープト有機層との間における拡散又は反応を防止するものを含んで成る。このような連結ユニットの具体例としては、(1)Alq3:Li(30nm)/PbO(2nm)/NPB:F4-TCNQ(60nm)、(2)Alq3:Li(30nm)/Sb2O5(4nm)/NPB:F4-TCNQ(60nm)、(3)Alq3:Li(30nm)/Ag(0.5nm)/NPB:F4-TCNQ(60nm)等が示される。つまり、連結ユニットは、n型ドープト有機層として電子輸送性を示すAlq3[8−ヒドロキシキノリン)にアルカリ金属であるLiをドープした層と、p型ドープト有機層としてホール輸送性を示すNPB[N,N'-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N'-ジフェニル-ベンジジン]に電子吸引性が強いF4-TCNQ[2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン]をドープした層との間に、酸化膜または金属膜を狭持した構造である(下記特許文献4参照)。
【0012】
【特許文献4】特開2004−281371号公報
【0013】
以上の他にも、発光ユニット型に配置される層としては、LiF層と、AlqとMgとの混合層との積層構造が提案されている(下記特許文献5参照)。
【0014】
【特許文献5】特開2003−272860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、図16を用いて説明したような電荷発生層6を介して発光ユニット4-1,4-2を積層する構成の表示素子1’においては、電荷発生層6の陽極3側に配置されるその場反応生成層としての電子注入層7を構成する材料が、非常に不安定である。このため、電子注入層7を構成するそれぞれの材料の化学量論比が重要であり、このバランスが崩れると層としても不安定になると考えられる。
【0016】
例えば、BCPは錯形成能に富み、フリーな金属成分が有った場合、または、活性部位を有する有機材料が存在した場合等は、周辺材料と錯体を形成する可能性が大きく、素子の安定性といった点を考慮すれば用いるのには困難である。加えて、BCPを用いた素子では、耐環境性に信頼性が乏しい事も問題点として考えられる。
【0017】
そして、このようなスタック型の有機電界発光素子においては、V25やRe27のような金属酸化物を用いて電荷発生層6を構成した場合、一般的なAlq3の様な電子輸送層を直接、電荷発生層6にコンタクトすることにより注入される電子の効率は極めて低い。したがって、電荷発生層6の陽極3側の界面構成が極めて重要なポイントとなる。
【0018】
また、上述したような、ドープト有機層や、連結ユニットと称される層を介して発光ユニットを積層する構成の表示素子においても、初期劣化が大きく、また特性のバラツキも大きい。これは、ドープト有機層内にドープされるとして例示されているn型添加物は、化学量論的にきちんとコントロールしないと特性がばらつき易く、一方、p型添加物として例示されている材料も本質的に安定性に欠け、長寿命な素子構成を得ることが困難であるためである。
【0019】
そこで本発明は、有機層からなる複数の発光ユニットを、接続層を介して積層させた表示素子において、高輝度で長期信頼性に優れた構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
このような目的を達成するための本発明の表示素子は、陰極と陽極との間に、少なくとも有機発光層を含む発光ユニットが複数個積層されたもので、当該各発光ユニット間に接続層が挟持された表示素子おいて、接続層の構成に特徴がある。すなわち、発光ユニット間に配置された接続層は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属(ベリリウムおよびマグネシウムを含む)の少なくとも一方を含む酸化物を用いた層と、電荷輸送性有機材料を用いた層と、トリフェニレン誘導体およびアザトリフェニレン誘導体の少なくとも一方を用いた層とを、陽極側から積層させた積層部を備えている。
【0021】
ここで、電荷輸送性有機材料を用いた層としては、例えば電子輸送性有機材料を用いた層やホール輸送性有機材料を用いた層が例示される。
【0022】
一方、酸化物を用いた層としては、例えば当該酸化物と電荷輸送材料との混合層を備えていても良い。また酸化物を用いた層の他の例としては、当該酸化物からなる層と当該酸化物と電荷輸送材料との混合層とを、陽極側から積層した積層構造であっても良い。
【0023】
このような構成の表示素子においては、発光ユニット間に狭持させた接続層を上述した積層構造を備えた構成としたことにより、以降の実施例で説明するように発光輝度の初期劣化が小さく抑えられることが分かった。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように本発明の表示素子によれば、発光ユニット間に配置された接続層の構成を、アルカリ金属およびアルカリ土類金属(ベリリウムおよびマグネシウムを含む)の少なくとも一方を含む酸化物を用いた層と、電荷輸送性有機材料を用いた層と、トリフェニレン誘導体およびアザトリフェニレン誘導体の少なくとも一方を用いた層とを、陽極側から積層させた積層部を備えた接続層を設けた構成としたことにより、発光輝度の初期劣化を小さく抑えることが可能になる。この結果、発光ユニットを積層したことによって発光輝度に優れる表示素子において、発光寿命の向上を図り長期信頼性を実現することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、本発明における表示素子を、従来の表示素子と区別するために、スタック型をタンデム型と、電荷発生層を接続層と呼び区別する。
【0026】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の表示素子の一構成例を示す断面図である。この図に示す表示素子10は、発光ユニットを積層してなるタンデム型の表示素子10であり、基板12上に設けられた陽極13、この陽極13上に重ねて設けられた複数の発光ユニット14-1、14-2、…(ここでは2個)、これらの発光ユニット14-1,14-2間に設けられた接続層15、そして最上層の発光ユニット14-2上に設けられた陰極16を備えている。
【0027】
以下の説明においては、基板12、陽極13、発光ユニット14-1,14-2、および陰極16の構成を説明した後、本発明の特徴である接続層15の構成を説明する。またここでは、陽極13から注入されたホールと接続層15において発生した電子が発光ユニット14-1内で結合する際に生じた発光光と、同時に陰極16から注入された電子と接続層15において発生したホールが発光ユニット14-2内で結合する際に生じた発光とを、基板12と反対側の陰極16側から取り出す上面発光方式の表示素子の構成を説明する。
【0028】
先ず、表示素子10が設けられる基板12は、ガラスのような透明基板や、シリコン基板、さらにはフィルム状のフレキシブル基板等の中から適宜選択して用いられることとする。また、この表示素子10を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、基板12として、画素毎にTFTを設けてなるTFT基板が用いられる。この場合、この表示装置は、上面発光方式の表示素子10をTFTを用いて駆動する構造となる。
【0029】
そして、この基板12上に下部電極として設けられる陽極13は、効率良くホールを注入するために電極材料の真空準位からの仕事関数が大きいもの、例えばクロム(Cr)、金(Au)、酸化スズ(SnO2)とアンチモン(Sb)との合金、酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金、さらにはこれらの金属や合金の酸化物等を、単独または混在させた状態で用いることができる。
【0030】
表示素子10が上面発光方式の場合は、陽極13を高反射率材料で構成することで、干渉効果及び高反射率効果で外部への光取り出し効率を改善することが可能であり、この様な電極材料には、例えばAl、Ag等を成分とする電極を用いることが好ましい。これらの高反射率材料層上に、例えばITOのような仕事関数が大きい透明電極材料層を設けることで電荷注入効率を高めることも可能である。
【0031】
尚、この表示素子10を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陽極13は、TFTが設けられている画素毎にパターニングされていることとする。そして、陽極13の上層には、ここでの図示を省略した絶縁膜が設けられ、この絶縁膜の開口部から、各画素の陽極13表面を露出させていることとする。
【0032】
また、発光ユニット14-1,14-2は、陽極13側から順に、例えばホール注入層14a、ホール輸送層14b、発光層14c及び電子輸送層14dを積層してなる。これらの各層は、例えば真空蒸着法や、例えばスピンコート法などの他の方法によって形成された有機層からなる。各有機層を構成する材料に限定条件はなく、例えばホール輸送層14bであるならば、ベンジジン誘導体、スチリルアミン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、ヒドラゾン誘導体などのホール輸送材料を用いることができる。
【0033】
もちろん、各層14a〜14dが他の要件を備えることは、これを妨げず、例えば発光層14cが電子輸送層14dを兼ねた電子輸送性発光層であることも可能であり、発光層14cは、ホール輸送性の発光層14cであっても良く、また、各層が積層構造になることも可能である。例えば発光層14cが、さらに青色発光部と緑色発光部と赤色発光部から形成される白色発光素子であっても良い。
【0034】
また、発光層14cは、ベリレン誘導体、クマリン誘導体、ピラン系色素、トリフェニルアミン誘導体等の有機物質を微量含む有機薄膜であっても良く、この場合には発光層14cを構成する材料に対して微量分子の共蒸着を行うことで形成される。
【0035】
また、以上の各有機層、例えばホール注入層14a、ホール輸送層14bは、それぞれが複数層からなる積層構造であっても良い。ホール注入層14aは、例えばアザトリフェニレン系材料のようなアリールアミン系でない有機材料によって構成されることが好ましく、これによって発光ユニット14-2へのホールの注入効率が高められる。
【0036】
さらに、以上の各発光ユニット14-1、14-2は、全く同一の構造でも良いが、他の構造にすることも可能である。例えば、発光ユニット14-1を橙色発光素子用の有機層構造、発光ユニット14-2を青緑色発光素子用の有機層構造として形成することにより、発光色は白色となる。
【0037】
次に、最上部の発光ユニット14-2上に設けられた陰極16は、陽極13側から順に第1層16a、第2層16b、場合によっては第3層16cを積層させた3層構造で構成されている。
【0038】
第1層16aは、仕事関数が小さく、かつ光透過性の良好な材料を用いて構成される。このような材料として、例えばリチウム(Li)の酸化物であるLi2Oや炭酸化物であるLi2CO3、セシウム(Cs)の炭酸化物であるCs2CO3、珪酸化物であるLi2SiO3さらにはこれらの酸化物の混合物を用いることができる。また、第1層16aはこのような材料に限定されることはなく、例えば、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)等のアルカリ土類金属、リチウム(Li),セシウム(Cs)等のアルカリ金属、さらにはインジウム(In)、銀(Ag)等の金属を加えて膜質として安定化させても良く、さらにはこれらの金属の酸化物等を、単体でまたはこれらの金属および酸化物の混合物や合金として安定性を高めて使用しても良い。
【0039】
また、第2層16bは、MgAgに代表されるようなアルカリ土類金属を含む電極、或いはAl等の電極で構成される。電極或いはAl等の電極で構成される。上面発光素子の様に半透過性電極で陰極16を構成する場合には、薄膜のMgAg電極やCa電極を用いることで光を取り出すことが可能である。光透過性を有しかつ導電性が良好な材料で構成することで、この表示素子10が、特に陽極13と陰極16との間で発光光を共振させて取り出すキャビティ構造で構成される上面発光素子の場合には、例えばMg−Agのような半透過性反射材料を用いて第2層16bを構成する。これにより、この第2層16bの界面と、光反射性を有する陽極13の界面で発光を反射させてキャビティ効果を得る。
【0040】
さらに第3層16cは、電極の劣化抑制のために透明なランタノイド系酸化物を設けることで、発光を取り出すこともできる長寿命な電極として形成することも可能である。
【0041】
尚、以上の第1層16a、第2層16b、および第3層16cは、真空蒸着法、スパッタリング法、さらにはプラズマCVD法などの手法によって形成される。また、この表示素子を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陰極16は、ここでの図示を省略した陽極13の周縁を覆う絶縁膜および発光ユニット14-1〜発光ユニット14-2の積層膜によって、陽極13に対して絶縁された状態で基板12上にベタ膜状で形成され、各画素に共通電極として用いても良い。
【0042】
また、ここに示した陰極16の電極構造は3層構造である。しかしながら、陰極16は、陰極16を構成する各層の機能分離を行った際に必要な積層構造であれば、第2層16bのみで構成したり、第1層16aと第2層16bとの間にさらにITOなどの透明電極を形成したりすることも可能であり、作製されるデバイスの構造に最適な組み合わせ、積層構造を取れば良いことは言うまでもない。
【0043】
次に、本発明の特徴である、接続層15の構成を説明する。
【0044】
この接続層15は、各発光ユニット14-1,14-2間に狭持されており、本第1実施形態においては、例えば3層構造で構成されており、陽極13側から順に、酸化物含有層15a,電荷輸送性有機材料層15b、およびトリフェニレン層15cが積層されていることとする。
【0045】
このうち、酸化物含有層15aは、アルカリ金属およびアルカリ土類金属(ベリリウムおよびマグネシウムを含む)の少なくとも一方を含む酸化物を用いて構成されている。ここで、アルカリ金属は、Li、Na、K、Rb、Cs、Frであり、またアルカリ土類金属は、ベリリウム(Be)、およびマグネシウム(Mg)を含む、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Raを指す。
【0046】
そして、この酸化物含有層15aを構成する酸化物としては、一般的なアルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物の他、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方と共に他の元素を含む複合酸化物が用いられる。そして、アルカリ金属やアルカリ土類金属と共に複合酸化物を構成する酸化物の具体例としては、メタ硼酸化物、テトラ硼酸化物、ゲルマン酸化物、モリブデン酸化物、ニオブ酸化物、珪酸化物、タンタル酸化物、チタン酸化物、バナジン酸化物、タングステン酸化物、ジルコン酸化物、炭酸化物、蓚酸化物、亜クロム酸化物、クロム酸化物、重クロム酸化物、フェライト、亜セレン酸化物、セレン酸化物、スズ酸化物、亜テルル酸化物、テルル酸化物、ビスマス酸化物、テトラホウ酸化物、メタホウ酸化物の内から少なくとも1種類以上選ばれる。このうち、特に、主成分としてLi2CO3、Cs2CO3またはLi2SiO3を用いることが好ましい。
【0047】
このような酸化物を用いた酸化物含有層15aとして、次の図2(1)〜図2(4)に示される層構造が例示される。
【0048】
すなわち、図2(1)に示すように、酸化物含有層15aは、上述した酸化物と電荷輸送材料とを混合した「混合層15-1」の単層構造であっても良い。この場合に、上述した酸化物と共に混合層を構成する電荷輸送材料としては、ホール輸送材料や電子輸送材料が用いられる。このような酸化物含有層15aとしては、例えば、上述した酸化物のうちLi2CO3を主成分とし、ホールや電子(電荷)のホッピングサイトとして、例えばホール輸送材料や電子輸送材料等の電荷輸送性有機材料を、上述した酸化物(例えばLi2CO3)と共に共蒸着してなる混合層であっても良い。
【0049】
また、図2(2)に示すように、酸化物含有層15aは、陽極13側から順に、上述した酸化物と電子輸送材料との混合層15-2と、上述した酸化物からなる層15-3とを積層した「混合層15-2/酸化物層15-3」の積層構造であっても良い。
【0050】
さらに、図2(3)に示すように、酸化物含有層15aは、陽極13側から順に、上述した酸化物からなる層15-3と、上述した酸化物とホール輸送層との混合層15-4とを積層した「酸化物層15-3/混合層15-4」構造であっても良い。この場合、ホール輸送性材料としては、アザトリフェニレン系材料のようなアリールアミン系でない有機材料によって構成されることが好ましい。この理由は、電荷輸送性がアリールアミン系材料よりも大きくなることが期待できるからである。尚、この構成は、図2(2)の構成とを組み合わせ、陽極13側から順に「電子輸送性有機材料層を含む混合層/酸化物層/ホール輸送性有機材料層を含む混合層」として有機物含有層15aを構成しても良い。
【0051】
またさらに、図2(4)に示すように、酸化物含有層15aは、陽極13側から順に、上述した酸化物からなる層15-3と、他の酸化物または複合酸化物からなる層15-5とを積層した「酸化物層15-3/他の酸化物層15-5」の積層構造であっても良い。この場合、他の酸化物層15-5としては、酸化物または複合酸化物が用いられ、メタ硼酸化物、テトラ硼酸化物、ゲルマン酸化物、モリブデン酸化物、ニオブ酸化物、珪酸化物、タンタル酸化物、チタン酸化物、バナジン酸化物、タングステン酸化物、ジルコン酸化物、炭酸化物、蓚酸化物、亜クロム酸化物、クロム酸化物、重クロム酸化物、フェライト、亜セレン酸化物、セレン酸化物、スズ酸化物、亜テルル酸化物、テルル酸化物、ビスマス酸化物、テトラホウ酸化物、メタホウ酸化物等の他の一般的な酸化物または複合酸化物が例示される。
【0052】
そして上述した酸化物含有層15aの上部に設けられた電荷輸送性有機材料層15bは、電子輸送性有機材料、ホール輸送性有機材料、または両電荷輸送性有機材料からなる。そして特に、この電荷輸送性有機材料層15bは、金属材料や電子吸引性が強い材料などの添加成分を含まず、電子輸送性有機材料のみからなるか、またはホール輸送性有機材料のみからなる層であることが好ましいが、場合によっては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方との混合層として用いた場合が好ましいこともある。
【0053】
このような電荷輸送性有機材料層15bを構成する電子輸送性有機材料の一例を、下記表1-1〜表1-5に示す。
【0054】
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

【表1−5】

【0055】
また、電荷輸送性有機材料層15bを構成するホール輸送性有機材料としては、下記一般式(2)や下記一般式(3)に示される有機材料が用いられる。
【0056】
【化2】

【0057】
この一般式(2)中におけるA3〜A6は、それぞれ独立に炭素数6〜20の芳香族炭化水素を示す。これらの芳香族炭化水素は、無置換、もしくは置換基を有しても良い。この置換基としては、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、又はシリル基から選ばれる。また、一般式(2)中のYは、芳香族炭化水素を示し、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、フルオランテン、ペリレンから選ばれるものである。また、一般式(2)中におけるmは、1以上の整数を示す。
【0058】
【化3】

【0059】
この一般式(3)中におけるA7〜A12は、それぞれ独立に炭素数6〜20の芳香族炭化水素を示す。これらの芳香族炭化水素は、無置換、もしくは置換基を有しても良い。この置換基としては、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、又はシリル基から選ばれる。また、一般式(3)中における、Z1〜Z3は、芳香族炭化水素を示し、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、フルオランテン、ペリレンから選ばれるものである。また一般式(3)中におけるp、qおよびrは、1以上の整数を示す。
【0060】
以上のような一般式(2)で表されるホール輸送性有機材料の代表的な一例を、下記表2-1〜表2-2の化合物(2)-1〜(2)-80に示す。ただし、一般式(2)におけるYの骨格、A3からA6の分子骨格、対称性、置換基の種類は以下の示されるものには限定されない。
【0061】
【表2−1】

【表2−2】

【0062】
上記一般式(3)で表されるホール輸送性有機材料の代表的な一例を、下記表2-3の化合物(2)-81〜(2)-95に示す。ただし、一般式(3)におけるZの骨格、A7〜A12の分子骨格、対称性、置換基の種類は以下の示されるものには限定されない。
【0063】
【表2−3】

【0064】
尚、電荷輸送性有機材料層15bを構成する電子輸送性有機材料およびホール輸送性有機材料としては、以上の表1および表2に示される骨格に限定されることは無く、電子輸送性を有する材料または正孔輸送性を有する材料であれば、その効果が広く認められる。
【0065】
次に、上述した電荷輸送性有機材料層15bの上部に設けられたトリフェニレン層15cは、下記一般式(1)に示すトリフェニレン誘導体およびアザトリフェニレン誘導体の少なくとも一方を用いて構成されていることとする。尚、トリフェニレン誘導体とは母骨格が炭素のみからなるトリフェニレン骨格からなり、アザトリフェニレン誘導体とは母骨格がトリフェニレン骨格に窒素を含むアザトリフェニレン骨格からなる化合物である。
【0066】
【化4】

【0067】
この一般式(1)中において、R1〜R6は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環基、ニトリル基、ニトロ基、シアノ基またはシリル基から選ばれる置換基であることとする。また、R1〜R6のうち、隣接するRm(m=1〜6)は環状構造を通じて互いに結合してもよい。そして、一般式(1)におけるX1〜X6は、それぞれ独立に、炭素もしくは窒素原子である。
【0068】
このような一般式(1)で示されるトリフェニレン誘導体またはアザトリフェニレン誘導体の具体例として、下記表3-1〜表3-7に示す化合物(3)-1〜(3)-66が示される。尚、これらの式中[Me]はメチル(CH3)を示し、[Et]はエチル(C25)を示す。また、化合物(3)-63〜(3)-66には、一般式(1)中におけるR1〜R6のうち、隣接するRm(m=1〜6)は環状構造を通じて互いに結合している有機化合物の例を示している。
【0069】
【表3−1】

【表3−2】

【表3−3】

【表3−4】

【表3−5】

【表3−6】

【表3−7】

【0070】
ここで、トリフェニレン層15cは、上記で例示したトリフェニレン誘導体およびアザトリフェニレン誘導体のうちの少なくとも1つまたは複数を組み合わせて構成されていることとする。また、このトリフェニレン層15cには、トリフェニレン誘導体やアザトリフェニレン誘導体の他に、一般式(2)もしくは一般式(3)で示される芳香族アミン類、具体的には上記表2-1、表2-2、および表2-3に例示される芳香族アミン類を含有しても良い。
【0071】
尚、以上説明した接続層15やその界面に積層される各層は、必ずしも明確に分離されている構成に限定されることはなく、各層の界面においてそれぞれの構成材料が混ざり合っていても良い。
【0072】
例えば、接続層15であれば、各層15a,15b,15cが、必ずしも明確に分離されている構成に限定されることはなく、酸化物含有層15aに、電荷輸送性材料層15bを構成する材料が含有されていても、またこの逆であっても良い。さらに、電荷輸送性有機材料層15bの界面側においては、電荷輸送性有機材料層15bの上下層を構成する材料との混合層が設けられても良い。
【0073】
また、接続層15のうちの有機化合物層15cが、上記一般式(1)で示される有機化合物を用いて構成されている場合、この有機化合物層15cがホール注入層14aを兼ねても良い。この場合、接続層15よりも陰極16側に設けられた発光ユニット14-2には、ホール注入層14aを必ずしも設ける必要はない。
【0074】
以上のような構成の接続層15を備えた表示素子10によれば、発光ユニット14-1,14-2間に、Li2CO3等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を主成分とした酸化物含有層15aと、電子輸送材料やホール輸送性材料などの電荷輸送性有機材料15bとを積層した接続層15を狭持したことにより、次の実施例に説明するように、接続層15から陽極13側の発光ユニット14-1への電子注入効率が向上し、或いは、酸化物含有層15aとトリフェニレン層15cとの相互作用による劣化を抑制することで駆動に対しての安定性が改善される。従って、接続層15を介して発光ユニット14-1,14-2を積層してなるタンデム型の表示素子10の安定化が図られる。
【0075】
特に、上述した酸化物含有層15aと、例えばトリフェニレン層15c等の系有機材料の間に、電子輸送性の電荷輸送性有機材料層15bを狭持させた構成では、接続層15の駆動安定性の改善効果が大きく、タンデム型の表示素子10の安定化を図る効果も大きいことが分かった。
【0076】
しかし、本発明による電子輸送性材料からなる電子輸送層を真性接続層の層構成として用いることで、タンデム型素子でN段N倍の効率を得ることができ、かつ寿命の面に於いても、初期劣化を抑制することができ、長寿命な素子を得ることが可能である。
【0077】
この結果、タンデム型の表示素子において、輝度の向上だけではなく、耐環境性の向上による寿命特性の向上、すなわち長期信頼性の向上を図ることが可能になる。また、安定的な材料を用いて、このような電荷の注入特性に優れた接続層15が構成されるため、その作製においても化学量論比を考慮した成膜などを行う必要はなく、容易に作製可能となる。しかも、一般的なV25からなる接続層を用いた場合と比較して、駆動電圧が抑えられる効果もあり、これによる長期信頼性の向上を得ることも可能である。
【0078】
また本第1実施形態の表示素子10においては、接続層15を構成する電荷輸送性有機材料層15bが、添加物を含まず、電子輸送性材料またはホール輸送性材料のみで構成されている。このことから、N型及びP型ドープト層を用いた場合と比較して、接続層15の安定化を図ることが可能になり、これによる表示素子の長寿命化を図ることも可能である。
【0079】
尚、以上説明した実施形態においては、接続層15が、酸化物含有層15a,電荷輸送性有機材料層15b、およびトリフェニレン層15cを積層させた3層構造の場合を説明した。しかしながら、各発光ユニット14-1,14-2間に狭持された接続層15は、さらに陰極16側の界面に、銅フタロシアニン(CuPc)のようなフタロシアニン骨格を持つホール注入性材料からなる層を中間的な陽極層(中間陽極層)として設けても良い。これにより、接続層15の陰極16側に設けられた発光ユニット14-2への、接続層15からのホールの注入効率を高めることができる。
【0080】
また、トリフェニレン層15cに換えて、特開2003−45676号公報及び特開2003−272860号公報に記載されている接続層であるV25を用いて構成しても良い。
【0081】
<他の実施形態>
以上説明した第1実施形態の表示素子は、色変換膜と組み合わせることもできる。以下、第1実施形態で説明した図1の表示素子を例に取り、色変換膜を用いた表示素子の構成を説明する。
【0082】
先ず、図3には、第1実施形態で説明した表示素子(10)が、基板12と反対側から発光光を取り出す「上面発光型」である場合の表示素子10aを示す。この場合、発光光を取り出す側となる陰極16の上部に色変換層18を設けた表示素子10aが構成される。ここで、この表示素子10aにおける発光層14cが青色波長の励起光源である場合、色変換層18には、各画素部分に対応させて、青色波長の励起光源を赤色波長へ変換する色変換膜18aと、青色波長の励起光源を緑色へと変換する色変換膜18bとを配置する。また、色変換膜18aと色変換膜18b以外の色変換層18部分には、青色波長の励起光源を波長変換させずに通過させる材料膜を設ける。このような構成の表示素子10aでは、フルカラー表示を行うことが可能である。
【0083】
尚、またこのような構成の色変換膜18a、18bを備えた色変換層18は、公知の技術であるフォトリソグラフィ技術を用いて形成することができる。
【0084】
図4には、第1実施形態で説明した表示素子(10)が「上面発光型」である場合の他の表示素子10bを示す。この図に示すように、発光光を取り出す側となる陰極16の上部に、色変換層18,19を積層して設けても良い。この場合、各画素部分に対応させて、青色波長の励起光源を赤色波長へ変換する色変換膜18a,19aが積層配置され、青色波長の励起光源を緑色へと変換する色変換膜18b,19bが積層配置される。これらの積層配置される色変換膜18a,19a、および色変換膜18b,19bは、積層させて用いることで、両方を通過した光が所望の波長に変換される組み合わせであることとする。また、青色波長の励起光源をさらに色度の良好な青色に変換させる19cを設けても良い。そして、色変換膜19a〜19c以外の色変換層19部分には、青色波長の励起光源を波長変換させずに通過させる材料膜を設ける。このような構成の表示素子10bであっても、フルカラー表示を行うことが可能である。
【0085】
図5には、第1実施形態で説明した表示素子(10)が、基板12側から発光光を取り出す「透過光型」である場合の表示素子10cを示す。この場合、発光光を取り出す側となる陽極13と基板12との間に、色変換層18を設けた表示素子10cが構成される。色変換層18の構成は、上述と同様である。このような構成の表示素子10cであっても、フルカラー表示を行うことが可能である。
【0086】
図6には、第1実施形態で説明した表示素子(10)が「透過型」である場合の他の表示素子10dを示す。この図に示すように、発光光を取り出す側となる陽極13と基板12との間に、色変換層18,19を積層して設けても良い。色変換層18,19の構成は、上述と同様である。このような構成の表示素子10dであっても、フルカラー表示を行うことが可能である。
【実施例】
【0087】
次に、本発明の具体的な実施例、およびこれらの実施例に対する比較例の表示素子の製造手順と、これらの評価結果を説明する。これらの実施例1〜24においては、図1を用いて説明した第1実施形態の各表示素子10を作製した。この際、接続層15の構成を下記表4に示すそれぞれの構成とし、実施例1〜12では接続層15における電荷輸送性有機材料層15bとして電子輸送性材料を用い、実施例13〜24では接続層15における電荷輸送性有機材料層15bとしてホール輸送性材料を用いた。以下、先ず下記表4を参照して実施例1〜24の表示素子の作製手順を説明する。
【0088】
<実施例1〜10>
30mm×30mmのガラス板からなる基板12上に、陽極13として銀合金を形成し、保護層兼ホール注入電極としてITO(膜厚約10nm)を形成し、さらにSiO2蒸着により2mm×2mmの発光領域以外を絶縁膜(図示省略)でマスクした有機電界発光素子用のトップエミッション用評価基板を作製した。
【0089】
次に、第1層目の発光ユニット14-1を構成するホール注入層14aとして、トリフェニレン誘導体からなるホール注入材料:化合物(3)−10(表3-1参照)を、真空蒸着法により11nm(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)の膜厚で形成した。
【0090】
次いで、ホール輸送層14bとして、下記α−NPD(Bis[N-(1-naphthyl)-N-phenyl]bendizine)を、真空蒸着法により11nm(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)の膜厚で形成した。
【化5】

【0091】
さらに、発光層14cとして、下記ADNをホストにし、ドーパントとしてBD−052x(出光興産株式会社:商品名)を用い、真空蒸着法により膜厚比で5%になるように、これらの材料を28nmの合計膜厚で成膜した。
【化6】

【0092】
最後に、電子輸送層14dとして、下記Alq3[Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)]を、真空蒸着法により10nmの膜厚で蒸着成膜した。
【化7】

【0093】
以上のようにして第1層目の発光ユニット14-1を形成した後、酸化物含有層15a、電荷輸送性有機材料層15b、およびトリフェニレン層15cとして、下記表4に示す材料を順次蒸着し、これにより接続層15を形成した。
【表4】

【0094】
例えば、実施例1においては、酸化物含有層15aとして、Li2CO3を0.3nmの膜厚で成膜し、その後電子輸送性の電荷輸送性有機材料層15bとして化合物(1)-1を5nmの膜厚で成膜し、最後にトリフェニレン層15cとして化合物(3)-10を60nmの膜厚で成膜した。また、実施例2〜10においても、表4に示した材料を、実施例1と同様の膜厚で蒸着成膜した。
【0095】
以上の後、第2層目の発光ユニット14-2を、第1層目の発光ユニット14-1と同様に形成した。
【0096】
次に、陰極16の第1層16aとして、LiFを真空蒸着法により約0.3nmの膜厚で形成し(蒸着速度0.01nm/sec以下)、次いで、第2層16bとしてMgAgを真空蒸着法により10nmの膜厚で形成して2層構造の陰極16を形成した。これにより、トップエミッション型の表示素子10を作製した。
【0097】
<実施例11>
実施例1の製造手順において、酸化物含有層15aとしてLi2CO3と化合物(1)-1とを共蒸着し、混合層からなる酸化物含有層15aを形成したこと以外は、実施例1と同様に行った。混合層からなる酸化物含有層15aの組成比は、Li2CO3:化合物(1)-1=4:1(膜厚比)とし、3nmの膜厚で成膜した。また、化合物(1)-1からなる電荷輸送性有機材料層15bは、2nmの膜厚で成膜した。
【0098】
<実施例12>
実施例1の製造手順において、電荷輸送性有機材料層15bとして、化合物(1)-1を3nmの膜厚で成膜し、その後化合物(1)-1と化合物(3)-10の混合層を2nmの膜厚で成膜し、2層構造の電荷輸送性有機材料層15bを形成したこと以外は、実施例1と同様に行った。混合層における化合物(1)-1と化合物(3)-10との組成比は1:1(膜厚比)とした。
【0099】
<実施例13〜22>
実施例1の製造手順における接続層15の形成において、酸化物含有層15a、電荷輸送性有機材料層15b、およびトリフェニレン層15cとして、上記表4に示す材料を順次蒸着し、これにより接続層15を形成した。これ以外は、実施例1と同様に行った。
【0100】
例えば、実施例13においては、酸化物含有層15aとして、Li2CO3を0.3nmの膜厚で成膜し、その後ホール輸送性の電荷輸送性有機材料層15bとして化合物(2)-34を2.5nmの膜厚で成膜し、最後にトリフェニレン層15cとして化合物(3)-10を62.5nmの膜厚で成膜した。また、実施例14〜22においても、表4に示した材料を、実施例13と同様の膜厚で蒸着成膜した。
【0101】
<実施例23>
実施例13の製造手順において、酸化物含有層15aとしてLi2CO3と化合物(2)-34とを共蒸着し、混合層からなる酸化物含有層15aを形成したこと以外は、実施例13と同様に行った。混合層からなる酸化物含有層15aの組成比は、Li2CO3:化合物(2)-34=4:1(膜厚比)とし、3nmの膜厚で成膜した。また、化合物(2)-34からなる電荷輸送性有機材料層15bは、2nmの膜厚で成膜した。
【0102】
<実施例24>
実施例13の製造手順において、電荷輸送性有機材料層15bとして、化合物(2)-34を3nmの膜厚で成膜し、その後化合物(2)-34と化合物(3)-10の混合層を2nmの膜厚で成膜し、2層構造の電荷輸送性有機材料層15bを形成したこと以外は、実施例13と同様に行った。混合層における化合物(2)-34と化合物(3)-10との組成比は1:1(膜厚比)とした。
【0103】
<比較例1>
実施例1の製造手順において、接続層15の形成で電化輸送性有機材料層15bを形成せず、酸化物含有層15aとトリフェニレン層15cとの積層構造の接続層15としたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0104】
<比較例2>
実施例1の製造手順において、接続層15の形成において、LiF層、上記Alq3とMgとの混合層、および化合物(3)-10からなる層を、この順に積層させた構成の接続層を形成した。
【0105】
<比較例3>
比較例3では、実施例1の製造手順において、第1層目の発光ユニット14-1上に、直接陰極16を形成し、タンデム型ではない1ユニット構成の表示素子を作製した。
【0106】
≪評価結果≫
上記表4には、実施例1〜12,13〜24,および比較例1〜3で作製した表示素子の発光効率(Quantum Yield:Q/Y)を合わせて示した。この結果から、実施例1〜24の表示素子における発光効率は、比較例3の1ユニット構成の表示素子の効率の概ね2倍であり、発光ユニットを2層に積層させてタンデム型とした効果が得られていることが確認された。タンデム型素子では、理想的な素子に於いては、発光ユニットを2段積層することで発光効率が2倍になることが予測され、本実施例1〜24では、この理想的に近い素子を構成できることが確認された。尚、比較例1〜2においても、発光効率は約2倍になり、タンデム型とした効果が得られている。
【0107】
下記表5における(a)〜(h)には、上述のようにして作製した実施例1,13および比較例1〜3の室温(30℃)及び高温(60℃)における、初期100時間(100h)、定常的800時間(800h)駆動後の相対輝度及び駆動電圧を示した。なお、室温における駆動条件は、70mA/cm2の定電流駆動とし、高温における駆動条件は、20mA/cm2の定電流駆動とした。
【0108】
【表5】

【0109】
(a)相対輝度(30℃、100h)
本発明の積層構成である接続層15を備えた実施例1,13では、このような積層構造の接続層を備えていない比較例1に比べ、初期(100h)の輝度低下が明らかに改善されており、1ユニット構成の比較例3により近づくことが確認された。また、特に、接続層15の電荷輸送性有機材料層15bとして電子輸送性材料を用いている実施例1では、比較例2と比べても初期の輝度低下が改善されており、電荷輸送性有機材料層15bとして電子輸送性材料を用いることの効果が確認された。
【0110】
(b)相対輝度(30℃、800h)
本発明の積層構成である接続層15を備えた実施例1および実施例13の結果は、このような積層構造の接続層を備えていない比較例1〜2と比べて明らかに劣化が抑制されており、本発明の構成による長期信頼性向上の効果が確認された。また、100hの初期劣化が比較的小さかった比較例2が、800h後には最も劣化していることから、比較例2の構成は定常的劣化速度が早いことが示唆された。これに対して、実施例1および実施例13は、定常的劣化速度が遅く、長期信頼性に優れていることが確認された。
【0111】
(c)(d)駆動電圧(30℃、100h、800h)
本発明の積層構成である接続層15を備えた実施例1および実施例13の駆動電圧の経時変化は、1ユニット構成の比較例3と比べれば大きかった。しかしながら、比較例1と比べて、明らかに駆動電圧上昇が抑制されていることが確認された。
【0112】
(e)(f)相対輝度(60℃、100h、800h)
本発明の構成を備えた実施例1および実施例13の高温における輝度劣化は、比較例1及び比較例2と比べて、明らかに抑制されることが確認された。
【0113】
(g)(h)駆動電圧(60℃、100h、800h)
本発明の積層構成である接続層15を備えた実施例1の高温における電圧上昇は、比較例1、比較例2及び比較例3と比べて、明らかに小さい値である。このことは、高温においての駆動安定性に優れた構造であることを示唆する。これに対して、実施例13の室温及び高温における電圧上昇は、比較例1、比較例2及び比較例3と比較して、大きな値になってしまったが、最も重要と考えている輝度の劣化抑制は達成できている。
【0114】
尚、実施例2〜12においても、室温及び高温における相対輝度変化、また、駆動電圧上昇は、100h、800h共に、実施例1と同様の傾向であり、本発明の構成を備えた接続層を設けた効果が明白であった。
【0115】
さらに、実施例14〜24においても、室温及び高温における相対輝度変化、また、駆動電圧上昇は、100h、800h共に実施例13と同様の傾向であった。
【0116】
図7には、実施例1の寿命曲線を、比較例1〜3の寿命曲線と共に示してある。また図8には、実施例13の寿命曲線を、比較例1〜3の寿命曲線と共に示してある。これらの結果からも、比較例1は、相対輝度の初期の劣化が大きく、実施例1および実施例13がこれを改善していることは明白である。
【0117】
図9には、実施例1の相対電圧変化を、比較例1〜3の相対電圧変化と共に示してある。また図10には、実施例13の相対電圧変化を、比較例1〜3の相対電圧変化と共に示してある。これらの結果から、特に、接続層15における電荷輸送性有機材料層として電子輸送性材料を用いた実施例1は、比較例1に比べて電圧上昇が改善されていることが明白である。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】第1実施形態の表示素子の構成を示す概略断面図である。
【図2】第1実施形態の表示素子における接続層の酸化物含有層の構成例を示す断面図である。
【図3】実施形態の表示素子と色変換膜とを組み合わせた第1例を示す断面図である。
【図4】実施形態の表示素子と色変換膜とを組み合わせた第2例を示す断面図である。
【図5】実施形態の表示素子と色変換膜とを組み合わせた第3例を示す断面図である。
【図6】実施形態の表示素子と色変換膜とを組み合わせた第4例を示す断面図である。
【図7】実施例1および比較例1〜3の表示素子における相対輝度の経時変化(寿命曲線)を示すグラフである。
【図8】実施例13および比較例1〜3の表示素子における相対輝度の経時変化(寿命曲線)を示すグラフである。
【図9】実施例1および比較例1〜3の表示素子における相対電圧の径時変化を示すグラフである。
【図10】実施例13および比較例1〜3の表示素子における相対電圧の径時変化を示すグラフである。
【図11】従来の表示素子の断面図である。
【図12】従来の表示素子の他の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0119】
10…表示素子、13…陽極、14c…有機発光層、14-1,14-2…発光ユニット、15…接続層、15a…酸化物含有層、15b…電荷輸送性有機材料層、15-1,15-2,15-4…混合層、15c…トリフェニレン層、16…陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と陽極との間に、少なくとも有機発光層を含む発光ユニットが複数個積層され、当該各発光ユニット間に接続層が挟持された表示素子において、
前記接続層は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属(ベリリウムおよびマグネシウムを含む)の少なくとも一方を含む酸化物を用いた層と、電荷輸送性有機材料を用いた層と、トリフェニレン誘導体およびアザトリフェニレン誘導体のうちの少なくとも一方を用いた層とを、この順に前記陽極側から積層させた積層部を備えた
ことを特徴とする表示素子。
【請求項2】
請求項1記載の表示素子において、
前記接続層を構成する電荷輸送性有機材料は、電子輸送性有機材料である
ことを特徴とする表示素子。
【請求項3】
請求項2記載の表示素子において、
前記電荷輸送性有機材料を用いた層は、電子輸送性有機材料のみからなる
ことを特徴とする表示素子。
【請求項4】
請求項1記載の表示素子において、
前記接続層を構成する電荷輸送性有機材料は、ホール輸送性有機材料である
ことを特徴とする表示素子。
【請求項5】
請求項4記載の表示素子において、
前記電荷輸送性有機材料を用いた層は、ホール輸送性有機材料のみからなる
ことを特徴とする表示素子。
【請求項6】
請求項1記載の表示素子において、
前記酸化物を用いた層が、当該酸化物と電荷輸送材料との混合層を備えている
ことを特徴とする表示素子。
【請求項7】
請求項6記載の表示素子において、
前記酸化物を用いた層が、当該酸化物と電子輸送材料との混合層と、当該酸化物からなる層とを、前記陽極側から積層した積層構造となっている
ことを特徴とする表示素子。
【請求項8】
請求項6記載の表示素子において、
前記酸化物を用いた層が、当該酸化物からなる層と、当該酸化物とホール輸送材料との混合層とを、前記陽極側から積層した積層構造となっている
ことを特徴とする表示素子。
【請求項9】
請求項6記載の表示素子において、
前記混合層中における前記酸化物を構成する前記アルカリ金属およびアルカリ土類金属の合計の割合は、相対膜厚比で50%以下である
ことを特徴とする表示素子。
【請求項10】
請求項1記載の表示素子において、
前記酸化物を用いた層が、前記接続層における前記陽極側の界面層を構成している
ことを特徴とする表示素子。
【請求項11】
請求項1記載の表示素子において、
前記酸化物は、Li2SiO3、Li2CO3、Cs2CO3、Li2WO4、およびSrOの中から選ばれる少なくとも1種類である
ことを特徴とする表示素子。
【請求項12】
請求項1記載の表示素子において、
前記接続層は、下記一般式(1)で示されるトリフェニレン誘導体およびアザトリフェニレン誘導体の少なくとも一方を用いた層を、前記電荷輸送性有機材料を用いた層における前記陰極側に設けた
ことを特徴とする表示素子。
【化1】

ただし、一般式(1)中において、R1〜R6は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環基、ニトリル基、ニトロ基、シアノ基またはシリル基から選ばれる置換基であり、隣接するRm(m=1〜6)は環状構造を通じて互いに結合してもよい。また、X1〜X6は、それぞれ独立に、炭素もしくは窒素原子である。
【請求項13】
請求項12記載の表示素子において、
前記トリフェニレン誘導体およびアザトリフェニレン誘導体の少なくとも一方を用いた層が、前記接続層における前記陰極側の界面層を構成している
ことを特徴とする表示素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−351398(P2006−351398A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177215(P2005−177215)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】