説明

表示装置

【課題】輝度の経時劣化を伴う自発光素子に起因する焼付きを軽減させる。
【解決手段】画像信号Sinの電圧レベルに応じて表示モジュール4内の発光素子(有機EL素子)が発光することで表示画像が生成されるが、表示モジュール4内の隣接する発光素子間において、各発光素子に対応した受光素子が、光漏れ量に基づいて発光素子の劣化(発光量の低下)を常時モニタし、利得制御部2において、隣接する発光素子の劣化レベルに応じて入力画像信号Sinに対する利得が発光素子単位でフィードバック制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electroluminescence)などの自発光素子を備えた表示装置に係り、特に、その焼付き防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自発光素子を用いた表示装置として、CRT(Cathode Ray Tube)、PDP(Plasma Display Panel)などの蛍光体を用いた表示装置がある。このような蛍光体を用いた表示装置では、静止画像の長時間表示によって表示面の焼付き現象が発生する。
【0003】
このような焼付き現象の対策として、(1)時計表示部などの文字情報表示部とその背景部との輝度の反転(白黒反転)や色の補色反転など、極性反転をある一定期間内に数回行う期間を設ける技術、(2)文字情報などの表示画像を視覚的に認識できないレベルの速度で上下左右にシフトさせる技術、などが従来から知られている。
【0004】
但し、上記(1),(2)の技術は、表示装置の用途によっては適切でない場合がある。たとえば、駅、病院、市役所などの公共機関で利用される時刻表示案内、順番待ち時間案内などの表示は、常に静止画像を用いる必要があるが、(1)の技術では表示に違和感が生じ、(2)の技術では、表示画像をシフトできる量が限られるため、大幅な焼付き低減は望めず、逆に、シフト領域全体に焼付きが発生することで、画像の鮮明さが次第に失われていくことになる。
一方、蛍光体の輝度が高いほど焼付きが発生しやすいことに着目し、明るい静止画像のみを輝度を下げることで焼付きを軽減する手法が、下記特許文献1〜3に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平4−286275号公報
【特許文献2】特開平8−30219号公報
【特許文献3】特開2002−16857号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自発光素子として有機ELを用いた場合には、焼付きのメカニズムがCRT、PDPなどの蛍光体を用いた場合と異なる。すなわち、有機ELなどの自発光素子を用いた表示装置では、表示面の焼付きによるものではなく、自発光素子そのものの経時劣化に伴って、視聴者から画面の焼付きであると認識される場合がある。有機ELなどの自発光素子は、時間が経るにつれてその発光量が劣化(低下)していくため、画面上の隣接する画素間でその劣化量が異なる(ばらつく)と、その隣接画素間の輝度の差から、人間の目にはあたかも表示面が焼き付いているかのように認識されるのである。
【0007】
この自発光素子の劣化のばらつきに起因する焼付きの発生は、明るい静止画像のみを輝度を下げるという、上述した従来の焼付き軽減手法では解決することができない。これは、全体画像または部分領域の画像の輝度を制御したとしても、隣接画素間の輝度の差を依然として解消することができないためである。
【0008】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、輝度の経時劣化を伴う自発光素子に起因する焼付きを軽減させた表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を克服するために、本発明は、
互いに隣接する領域に位置し、それぞれ第1画像信号、第2画像信号に応じて発光する、第1発光素子、第2発光素子と、
前記第1発光素子、第2発光素子が発する光を検出し、それぞれ第1電圧、第2電圧を生成する、第1光検出手段、第2光検出手段と、
前記第1画像信号、第2画像信号に対して係数を乗算し、非表示期間内の基準時刻における前記乗算結果が前記第1電圧、第2電圧とそれぞれ一致させる較正手段と、
前記基準時刻における前記乗算結果と、前記基準時刻から所定期間経過した、非表示期間内の時刻における前記第1電圧、第2電圧との差分を、それぞれ第1変動値、第2変動値として算出する差分演算手段と、
前記第1変動値と前記第2変動値との差分を、前記第1変動値、前記第2変動値でそれぞれ除した指標値がともに所定の第1閾値以下となるように、前記第1変動値、前記第2変動値のいずれか大きい方に対応する発光素子への画像信号の増幅度を制御する信号制御手段、
を備えた表示装置である。
【0010】
本発明の表示装置において、第1光検出手段、第2光検出手段は、第1画像信号、第2画像信号に応じて第1発光素子、第2発光素子が発する光を検出し、それぞれ第1電圧、第2電圧を生成する。この第1電圧、第2電圧は、それぞれ第1発光素子、第2発光素子による発光輝度に相当する。
第1発光素子、第2発光素子は、互いに隣接する領域に位置するが、2つの発光素子が単独で存在する場合のみならず、たとえばマトリクス状に配置された複数の発光素子の中の任意の2つの発光素子として存在する場合も含む。
【0011】
較正手段は、第1画像信号、第2画像信号に対して係数を乗算し、非表示期間内の基準時刻における前記乗算結果が前記第1電圧、第2電圧とそれぞれ一致させる。
差分演算手段は、前記基準時刻における前記乗算結果と、前記基準時刻から所定期間経過した、非表示期間内の時刻における前記第1電圧、第2電圧との差分を、それぞれ第1変動値、第2変動値として算出する。ここで、前記基準時刻から所定期間経過する間は非表示期間内であるので、各変動値は、対応する発光素子の発光量の劣化(低下)度合いを示すものとなる。
【0012】
信号制御手段は、前記第1変動値と前記第2変動値との差分を、前記第1変動値、前記第2変動値でそれぞれ除した指標値がともに所定の第1閾値以下となるように、前記第1変動値、前記第2変動値のいずれか大きい方に対応する発光素子への画像信号の増幅度を制御する。すなわち、隣接する発光素子間での変動値の差分が縮小するように、元の画像信号のレベルがフィードバック制御される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の表示装置によれば、輝度の経時劣化を伴う自発光素子に起因する焼付きを軽減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に関連付けて、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
本発明の表示装置の一実施形態として、有機化合物を発光材料とする有機EL素子を発光素子として用いた表示装置について説明する。
一般に、有機EL素子を用いた表示装置は、視野角が広く、コントラストが高く、視認性に優れている上に、自発光であるため、液晶表示装置のようなバックライトが不要であることから、薄型、軽量化および低消費電力化を実現できる。従って、次世代の表示装置として注目され、商品化も始まっている。
【0016】
しかしながら、有機EL素子は、その発光量が経時劣化(低下)するため、この経時劣化に起因して隣接画素間の輝度がばらつくと、これが視聴者の目には画面の焼付きとして認識される場合がある。
そこで、本実施形態に係る表示装置では、隣接する2つの有機EL素子の発光量の一定時間における変動値をモニタし、その結果に応じて、有機EL素子に与える画像信号のレベルを調整することによって、焼付きとして認識されないように隣接する2つの有機EL素子間の発光量を制御するようにする。そのための実施形態に係る表示装置の構成について、図1を参照して以下説明する。
【0017】
図1は、実施形態に係る表示装置1の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、表示装置1は、利得制御部2、メモリ3、表示モジュール4、アナログ・デジタル変換器(ADC)5、メモリ6、本発明の較正手段としてのデータ較正部7、判定部8を有する。
なお、判定部8は、本発明の差分演算手段の一実施形態である。
利得制御部2および判定部8は、本発明の信号制御手段を構成する。
【0018】
図1において、利得制御部2は、画像信号Sinに対して、判定部8からの信号S8が示す利得を乗ずる演算を行い、画像信号S2を出力する。この画像信号S2は、メモリ3に一時的に格納された後、表示モジュール4に送出される。
【0019】
表示モジュール4は、画素を形成する有機EL素子が支持基板と対向支持基板内との間にマトリクス状に配置されて構成される。
図2は、表示モジュール4の断面図であり、(a)はトップエミッション型、(b)はボトムエミッション型を示す。トップエミッション型とボトムエミッション型とでは、表示光の取り出し方向(図の上側または下側)が異なる。いずれの型も、駆動方式として、アクティブマトリックス方式、パッシブマトリクス方式の両方に対応することができる。
【0020】
図2(a)に示すトップエミッション型では、支持基板上の陽極と陰極との間に、発光素子としての有機EL素子が狭持される。陰極上には光透明基板が積層され、その光透明基板上には対向支持基板が設けられる。陰極として、光透過性材料が使用される。発光素子は、メモリ3からの画像信号S3が陽極〜陰極間に与えられて発光する。
対向支持基板には、発光素子に対応して受光素子が設けられる。この受光素子は、図2(a)に示すように、対向支持基板面の垂直方向から見た場合、表示光を遮らないように発光素子と重ならない位置に設けられる。
したがって、発光素子が発する光の多くは、画像表示のために支持基板面の垂直上方向に進行し、受光素子は、発光素子が発する光の一部を光漏れ量として受光することになる。たとえば、図2(a)では、受光素子PD1が受光する光量は、発光素子OEL1からの光漏れ量であり、受光素子PD2が受光する光量は、発光素子OEL2からの光漏れ量である。
【0021】
図2(b)に示すボトムエミッション型では、画像表示のために発光素子の発する光が支持基板面を通過し、その垂直下方向に進行するため、支持基板の材料として光透明材料が用いられる。なお、ボトムエミッション型では、表示光を上面から取り出す必要がないので、陰極は光透過性材料でなくてもよい。
陽極側には、発光素子に対応して受光素子が設けられる。この受光素子は、図2(b)に示すように、支持基板面の垂直方向から見た場合、表示光を遮らないように発光素子と重ならない位置に設けられる。
したがって、発光素子が発する光の多くは、画像表示のために支持基板面の垂直下方向に進行し、受光素子は、発光素子が発する光の一部を光漏れ量として受光することになる。たとえば、図2(b)では、受光素子PD1が受光する光量は、発光素子OEL1からの光漏れ量であり、受光素子PD2が受光する光量は、発光素子OEL2からの光漏れ量である。
【0022】
本発明の光検出手段としての受光素子は、たとえばアモルファスシリコン半導体による高感度受光センサなどの、受光量に応じた電気信号を発生させることができるものであればよい。
【0023】
図2では、隣接する2対の発光素子および受光素子のみを含む表示モジュール4の断面構造を示しているが、表示モジュール4全体としては、かかる構造がマトリクス状に形成される。
【0024】
図1の説明に戻る。
【0025】
表示モジュール4内の受光素子は、光漏れ量に応じた電圧の信号を生成して、信号S4として順に出力する。この信号S4は、アナログ・デジタル変換器5によってデジタル値に変換された後に、メモリ6に一時的に格納される。
ここで、受光素子が生成する電圧は、対応する発光素子による輝度に比例したものとなっている。したがって、以下の処理において、受光素子が生成する電圧をモニタすることは、対応する発光素子による輝度をモニタすることに等しい。
【0026】
データ較正部7は、ある基準時刻において、画像信号S3の電圧レベルを、対応する光漏れ量相当である信号S6の電圧レベルと一致するように調整するためのキャリブレーション処理を行う。すなわち、画像信号S3に対して、電圧レベルが信号S6と一致するような係数を乗算することで信号S7を生成・出力する処理を行う。これにより、後段の判定部8において、メモリ6からの信号S6とデータ較正部7からの信号S7とを比較することで、基準時刻以降の受光素子の劣化(発光量の低下)をモニタすることができるようになる。
【0027】
たとえば、メモリ3からの画像信号S3に応じて、発光素子OEL1が発光し、対応する受光素子PD1がその光漏れ量に相当する電圧の信号S6を生成した場合、データ較正部7は、基準時刻において、画像信号S3に対して(S6電圧/S3電圧)を乗算することによって出力信号S7を生成する。すなわち、データ較正部7は、基準時刻において、画像信号S3を較正して、電圧レベルが信号S6と一致した出力信号S7を生成する。
【0028】
そして、基準時刻から時間が経過するにつれて、表示モジュール4における発光素子の経時劣化(発光量の低下)に伴い、信号S6と信号S7の電圧レベルは乖離していくことになる((信号S6の電圧)<(信号S7の電圧))。
【0029】
なお、表示モジュール4において、発光素子から受光素子が受ける光漏れ量は、積層構造にもよるが、発光素子が発する全光量の一定割合であるため、データ較正部7は、基準時刻においてメモリ6から信号S6を取り込まずに、簡易的に、メモリ3からの信号S3に対して一定の係数を乗ずる処理をして信号S7を生成するようにしてもよい。たとえば、一定の係数を20%とする。
【0030】
判定部8は、メモリ6から信号S6、データ較正部7から信号S7をそれぞれ取り込み、データ較正を行った基準時刻から所定期間経過した時刻において、利得制御部2に与える利得を算出し、その利得を示す信号S8を生成して利得制御部2へ出力する。
すなわち、判定部8では、データ較正部7においてデータ較正を行った基準時刻から所定時間経過する間を、画像信号のレベルが変化しない非表示期間(たとえば垂直ブランキング期間)内にとり、その所定時間における信号S6と信号S7の電圧レベルの乖離度合い(以下、変動値)をモニタする。そして、判定部8は、変動値に基づいて、表示モジュール4において隣接する2つの発光素子間の輝度差を小さくするための判定式(後述する)を満足するような利得を決定する。
【0031】
図3は、判定部8の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、判定部8は、変動値検出部81、演算部82、比較部83、利得計算部84を有する。
【0032】
変動値検出部81は、メモリ6から信号S6、データ較正部7から信号S7を逐次取り込む。そして、データ較正を行った基準時刻から所定期間経過した時刻において、メモリ6からの信号S6の変動値を検出する。なお、基準時刻から所定期間は、変動値を正確に検出するために、ベースとなる画像信号Sinが変化しない期間、たとえば垂直ブランキング期間とする。
前述したように、メモリ6からの信号S6は、対応する発光素子による輝度と比例関係にあるので、信号S6の変動値を検出することは、対応する発光素子による輝度の劣化(低下)度合いを検出することに等しい。
【0033】
図4に、表示モジュール4において隣接する発光素子の発光に伴う信号電圧レベルの変動値を示す。図4において、(a)は発光素子OEL1(図2参照)の変動値ΔL1、(b)は発光素子OEL2(図2参照)の変動値ΔL2、をそれぞれ示している。図に示すように、表示モジュール4では、ある隣接する発光素子OEL1,OEL2間で劣化度合いが異なり、変動値ΔL1が変動値ΔL2よりも大きくなっている。
【0034】
図4(a)では、基準時刻t0においてデータ較正部7により画像信号S3が較正され、その出力信号S7は信号S6と電圧レベルが一致する。そして、検出のための所定期間が経過する時刻t1までは、ベースとなる画像信号Sinが変化しないため、変動値検出部81が取り込む信号S7は、定電圧となっている。
一方、メモリ6から供給される信号S6は、発光素子OEL1の経時劣化(発光量の低下)によって徐々に低下する。したがって、時刻t1の時点では、図4(a)に示すように、変動値ΔL1が検出される。
同様にして、発光素子OEL2の経時劣化(発光量の低下)によって、時刻t1の時点では、図4(b)に示すように、変動値ΔL2(<ΔL1)が検出される。
変動値ΔL1,ΔL2は、信号S81として、演算部82に供給される。
【0035】
なお、受光素子PD1,PD2が生成する電圧は、本発明の第1電圧、第2電圧に対応し、変動値ΔL1,ΔL2は、本発明の第1変動値、第2変動値に対応する。
【0036】
演算部82は、差分回路、除算回路を含み、変動値検出部81より供給された変動値ΔL1,ΔL2に基づいて、下記(1),(2)式の演算を行う。そして、得られた指標値IDX1,IDX2を示す信号S82を比較部83へ送出する。

指標値IDX1=|ΔL1−ΔL2|/ΔL1 …(1)

指標値IDX2=|ΔL1−ΔL2|/ΔL2 …(2)
【0037】
比較部83は、演算部82から取得した指標値IDX1,IDX2を所定の判定閾値と比較する判定式に従って指標値の判定を行い、その判定結果を信号S83として利得計算部84へ送出する。
この判定式において、上記指標値IDX1,IDX2がともに所定の判定閾値よりも大きいということは、隣接する発光素子間の輝度差が大きいことを意味し、かかる場合に人間の目には表示画面の焼付きとして認識される。
【0038】
なお、実際の装置による感応評価の結果、比較部83における判定閾値として1/2が好ましいことが明らかになった。
図5に、その感応評価結果を示す。図5に示すように、指標値IDX1,IDX2を徐々に増加させていき、1/2よりも大きくなると、視聴者が画面の焼付きを認識し始めるようになった。
【0039】
利得計算部84は、比較部83による判定結果を受けて、利得制御部2に与える利得を計算する。具体的には、隣接する発光素子OEL1,OEL2のうち劣化度合いの大きいいずれか(図4では、ΔL1>ΔL2であるので発光素子OEL1の方)に対する画像信号の利得を、上記式(1),(2)をともに満足するような値(1より大きな値)に設定する。利得計算部84は、設定した利得を示す信号S8を利得制御部2へ送出する。
なお、隣接する発光素子OEL1,OEL2のうち劣化度合いの小さいいずれかに対する画像信号の利得を下げる(1より小さな値にする)ようにしても、上記(1),(2)をともに満足する場合があるが、これは行わない方が望ましい。なぜならば、表示画像が全体的に暗くなる方向であり、画像の鮮やかさが落ちるためである。
【0040】
なお、表示装置1がカラー表示を行うためには、表示モジュール4上の各発光素子が、赤色、緑色、青色のいずれかの色を発光するように構成されるが、一般に、発光素子としての有機EL素子は、発光色ごとに劣化度合いが異なるため、発光色が異なる発光素子ごとに上記利得計算および利得制御を行うことが望ましい。これにより、カラー表示に対応した焼付き防止が達成される。
表示モジュール4上のすべての発光素子が白色を発光し、図示しないカラーフィルタを積層させることでカラー表示を行うようにしてカラー表示を行うことも可能であるが、かかる場合でも同様に、すべての発光素子を対象として上記利得計算および利得制御を行うことが望ましい。
【0041】
次に、表示モジュール4において隣接する発光素子OEL1,OEL2(図2参照)を用いて、表示装置1の動作を説明する。なお、以下の説明では、発光素子OEL1,OEL2に対応する信号Sx(x:inまたは3〜8)を、それぞれ信号Sx1,Sx2と表記する。
【0042】
先ず、発光素子OEL1,OEL2に対する画像信号Sin1,Sin2が順に入力され、利得制御部2を介し、設定に応じて増幅された後、メモリ3に一時的に格納される。
そして、画像信号S3(S31,S32)がメモリ3から取り出され、表示モジュール4内の対応する発光素子OEL1,OEL2に順次印加される。
表示モジュール4では、対応する受光素子PD1,PD2が、対応する発光素子OEL1,OEL2が発光する光の一部を光漏れ量として受け、それぞれ、その光漏れ量に応じた電圧の電気信号S41,S42を生成する。
受光素子PD1,PD2がそれぞれ生成する信号S41,S42は、順にアナログ・デジタル変換器5によってデジタル信号に変換されて、メモリ6に格納された後、信号S6(S61,S62)としてデータ較正部7および判定部8に供給される。
【0043】
一方、データ較正部7は、基準時刻において、発光素子OEL1,OEL2のそれぞれに対する画像信号S31,S32を較正する。すなわち、データ較正部7は、基準時刻において、電圧レベルが信号S61,S62とそれぞれ一致した出力信号S71,S72を生成する。
判定部8は、データ較正を行った基準時刻から所定期間経過した時刻において、それぞれ発光素子OEL1,OEL2に対応した信号として、信号S6(S61,S62)および信号S7(S71,S72)を取り込む。次に、判定部8は、発光素子OEL1,OEL2の経時劣化(発光量の低下)に伴う変動量ΔL1,ΔL2(図4参照)を検出し、前述した(1),(2)式に示した指標値IDX1,IDX2を算出した後に、指標値と所定の判定閾値とを比較する。
【0044】
さらに、判定部8は、指標値が所定の判定閾値以下ではない場合に、発光素子OEL1,OEL2のうち劣化度合いの大きいいずれかに対する画像信号の利得を、上記式(1),(2)をともに満足するような値(1より大きな値)に設定し、この設定した利得を示す信号S8を利得制御部2へ送出する。その際には、設定した利得が適用される発光素子を指定する。
利得制御部2は、判定部8で設定された利得によって、利得適用対象の発光素子に対する入力画像信号Sin1またはSin2の信号レベルを増幅させる。
【0045】
このようにして、隣接する発光素子OEL1,OEL2のうち、劣化の進んだ発光素子に対する画像信号のレベルが上昇することで、発光素子OEL1,OEL2により生ずる輝度の差が低減されることになる。
【0046】
たとえば、基準時刻から所定期間経過した後に、隣接した発光素子の劣化度合いがばらついた場合を想定する。たとえば、発光素子OEL1の発光量が5%低下し、発光素子OEL2の発光量が3%低下したとすると、指標値IDX1,IDX2は、以下式(3),(4)の通りになる。したがって、判定部8における判定閾値を1/2(=0.5)とすると、「指標値IDX1,IDX2がともに1/2以下である」という条件を満足しない。

指標値IDX1=|5%−3%|/5%=0.40 …(3)

指標値IDX2=|5%−3%|/3%=0.67 …(4)
【0047】
そこで、判定部8では、劣化度合いの大きい発光素子OEL1に対する入力画像信号Sin1に対して、「指標値IDX1,IDX2がともに1/2以下である」という条件を満足させるような利得を設定し、画像信号Sin1のレベルを増幅させることで、発光素子OEL1による輝度の劣化を見かけ上少なくする。たとえば、発光素子OEL1の発光量の低下が、見かけ上で(受光量として)5%から4%になったとすれば、指標値IDX1,IDX2は、以下式(5),(6)の通りになる。すなわち、判定部8における判定閾値を1/2(=0.5)とすると、「指標値IDX1,IDX2がともに1/2以下である」という条件を満足するようになる。

指標値IDX1=|4%−3%|/4%=0.25 …(5)

指標値IDX2=|4%−3%|/3%=0.33 …(6)
【0048】
次に、マトリクス状に配置された発光素子に対する順次処理方法を説明する。
表示装置1では、上述した制御を、表示モジュール4の隣接する発光素子(画素)を、マトリクスの端部から順に選択・処理する。これにより、焼付きのない表示画像を順次生成することができる。
【0049】
図6は、マトリクス状に配置された発光素子に対する順次処理を示す模式図である。なお、図6は、図2に示した断面の積層構造を上から見た図である。
本実施形態に係る表示装置1では、図6に示すように、表示モジュール4上の画素の走査方向と並行して、発光素子とそれに対応する受光素子が順に配置される。前述したように、表示モジュール4の支持基板面から見ると、発光素子と受光素子とは重ならないようになっている。したがって、受光素子が表示光を遮ることはない。
【0050】
本実施形態に係る表示装置1では、表示モジュール4の各受光素子は、画素の走査周期ごとに順に受光する。たとえば、図6では、先ず、第1の走査周期において、受光素子PD1は、発光素子OEL1の発光による光漏れ量を受ける。次に、第2の走査周期において、受光素子PD2は、発光素子OEL2の発光による光漏れ量を受ける。以降、順に光漏れ量のモニタリングが行われる。したがって、たとえば受光素子PD1は、発光素子OEL2の発光による光漏れ量を受けることはなく、対応する発光素子OEL1からの光漏れ量を正確に受けることができる。
【0051】
なお、上述した制御は、ベースとなる画像信号Sinが変化しない期間として、たとえば垂直ブランキング期間に行うことが理想的であるが、表示画像が静止画であることを検出したときに開始・実行してもよい。
たとえば、連続する2つのフレームとして(N−1)番目フレーム(N:2以上の整数)およびN番目フレームにおいて、制御対象として隣接する受光素子が生成する電圧をそれぞれVN−1,Vとしたときに、下記式(7)を満足したことを条件として、静止画であることを検出できたとする。このような静止画の検出は、図示しない動画・静止画判別回路(動画・静止画判別手段)によって行われる。なお、判別閾値は、30〜70%程度に設定した場合に適切に静止画を判別できた。

(V−VN−1)/VN−1 < 判別閾値…(7)

そして、静止画であることを検出したときには、変動値の算出を容易にするために、受光素子が生成する信号を増幅(たとえば100倍程度)して出力することが望ましい。
【0052】
以上詳述したように、本実施形態に係る表示装置1では、画像信号Sinの電圧レベルに応じて表示モジュール4内の発光素子(有機EL素子)が発光することで表示画像が生成されるが、隣接する発光素子間において、各発光素子に対応した受光素子が、光漏れ量に基づいて発光素子の劣化(発光量の低下)を常時モニタし、隣接する発光素子の劣化レベルに応じて入力画像信号Sinに対する利得が発光素子単位でフィードバック制御される。
したがって、有機EL素子などの発光素子の経時劣化に伴って、隣接する画素間の輝度差によって認識される画面の焼付きを防止することができる。また、上記制御は、入力画像信号に対して連続的に行われるため迅速に処理され、違和感を生じない。
【0053】
以上、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成及びシステムは本実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更や、他のシステムへの適応なども含まれる。
たとえば、上述の実施形態では、発光素子がマトリクス状に配置された表示装置について説明したが、隣接する2つの発光素子と対応する受光素子があればよく、複数の発光素子がマトリクス状に配置されている必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施形態に係る表示装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態に係る表示装置の表示モジュールの断面図である。
【図3】実施形態に係る表示装置の判定部の構成を示すブロック図である。
【図4】表示モジュールにおいて隣接する発光素子の発光に伴う信号電圧レベルの変動値を示す図である。
【図5】指標値に応じた画面の焼付きの感応評価の結果を示す図である。
【図6】マトリクス状に配置された発光素子に対する処理を示す模式図である。
【符号の説明】
【0055】
1…表示装置、2…利得制御部、3…メモリ、4…表示モジュール、5…アナログ・デジタル変換器、6…メモリ、7…データ較正部、8…判定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに隣接する領域に位置し、それぞれ第1画像信号、第2画像信号に応じて発光する、第1発光素子、第2発光素子と、
前記第1発光素子、第2発光素子が発する光を検出し、それぞれ第1電圧、第2電圧を生成する、第1光検出手段、第2光検出手段と、
前記第1画像信号、第2画像信号に対して係数を乗算し、非表示期間内の基準時刻における前記乗算結果が前記第1電圧、第2電圧とそれぞれ一致させる較正手段と、
前記基準時刻における前記乗算結果と、前記基準時刻から所定期間経過した、非表示期間内の時刻における前記第1電圧、第2電圧との差分を、それぞれ第1変動値、第2変動値として算出する差分演算手段と、
前記第1変動値と前記第2変動値との差分を、前記第1変動値、前記第2変動値でそれぞれ除した指標値がともに所定の第1閾値以下となるように、前記第1変動値、前記第2変動値のいずれか大きい方に対応する発光素子への画像信号の増幅度を制御する信号制御手段、
を備えた表示装置。
【請求項2】
前記第1閾値は1/2である
請求項1記載の表示装置。
【請求項3】
発光素子がマトリクス状に配置されるとともに、各発光素子に対応して各発光素子が発する光を検出する複数の光検出手段を含む表示部を備え、
前記信号制御手段による制御を前記マトリクスの端部の隣接2領域から順に行う
請求項1記載の表示装置。
【請求項4】
前記発光素子は、赤色、緑色、青色、または、白色を発光するとともに、前記信号制御手段による制御を異なる発光色の発光素子ごとに行う
請求項1記載の表示装置。
【請求項5】
連続する映像フレームにおける前記第1画像信号、第2画像信号の信号レベルの変化率がともに第2閾値以上であることを条件として、映像表示が動画であると判断し、前記変化率がともに前記第2閾値未満であることを条件として、映像表示が静止画であると判断する動画・静止画判別手段と、
映像表示が静止画であると判断されたことを条件として、前記信号制御手段による制御を開始する制御開始手段、
をさらに備えた請求項1記載の表示装置。
【請求項6】
前記第1発光素子、第2発光素子は、支持基板上に設けられ、
前記第1光検出手段、第2光検出手段は、前記支持基板の対向支持基板側にあって、前記支持基板の垂直方向から見た場合に、それぞれ前記第1発光素子、第2発光素子と重ならない位置に設けられる
請求項1記載の表示装置。
【請求項7】
前記表示部の表示方向から見た場合に、前記マトリクスに対する表示出力のための走査方向と並行して、前記発光素子と前記光検出手段とが交互に配置され、
各光検出手段は、前記走査の周期ごとに、対応する発光素子が発する光を検出する
請求項3記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−72305(P2007−72305A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261063(P2005−261063)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】