説明

表面コート液、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置

【課題】記録媒体のもつ風合いや顔料インクで記録した画像の画質を損なうことがなく、記録物の耐擦過性を優れたものにできる表面コート液の提供、また、上記の優れた画像形成が可能なインクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置の提供。
【解決手段】顔料を含有する顔料インクを用いて記録媒体に形成した画像を少なくとも含む領域に付与する表面コート液であって、少なくとも、顔料層の表面で樹脂層を形成する樹脂A、及び、顔料層の細孔内部へ浸透し定着する樹脂Bとを含有することを特徴とする表面コート液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式により顔料インクを用いて記録された画像の表面を被覆する表面コート液、前記表面コート液を用いたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット方式により形成した画像の高精彩化に伴い、写真、ポスター及びグラフィックプリントなどの大衆展示用途や商業印刷用途などで、インクジェット記録装置が幅広く用いられるようになっている。このため、得られる画像における長期保存性などの堅牢性を高めることに対する要求が高まっている。
【0003】
インクジェット記録方法に用いられるインクは、色材として染料を含有する染料インク、及び色材として顔料を含有する顔料インクに大別される。染料インクは、水性媒体に染料が分子状態で溶解している。このため、染料インクを用いて形成した記録物は、透明性が高く発色性に優れるという特性を有する。その反面、染料インクを用いて形成した記録物は、紫外線や空気中の活性ガスにより退色し易いという問題がある。一方、顔料インクは、水性媒体に顔料が分散状態で存在している。このため、顔料インクを用いて形成した記録物は長期保存による耐退色性に優れている。
【0004】
近年、顔料に関する技術が進歩してきたことにより、インクジェット記録画像において、顔料インクで形成した画像で得られていた長期保存性と、染料インクで形成した画像に匹敵する高い発色性とを両立し得る顔料インクの提供が可能となっている。このため、記録物を長期間保存することに対する要求が高い写真やポスターなどの商業印刷用途を中心に、顔料インクを用いたインクジェット記録装置の普及が進んでいる。
【0005】
しかし、顔料インクを用いる場合の問題点として、特に、光沢紙などの表面平滑性が高い記録媒体に記録された画像が傷つきやすいことが指摘されている。例えば、記録物を丸めたり、壁に貼ったりするなどの、記録物のハンドリングの過程において生じる接触により、画像が大きく傷つくことや剥れることなどの問題が発生する場合がある。
【0006】
インクジェット用の記録媒体は、紙やフィルムなどの基材に、インクを吸収するインク受容層が形成されてなるものである。インク受容層は、インクの滲みなどを抑えるために、インクを構成する水性媒体の吸収性が高いシリカやアルミナなどの無機微粒子を多量に含有する。中でも、光沢紙は高い表面平滑性が必要とされるため、インク受容層を構成する材料としてサブミクロンオーダーの無機微粒子を用いることが多い。かかる光沢紙のインク受容層における無機微粒子間の隙間、すなわち、細孔径は、無機微粒子の粒子径と比例するためサブミクロンオーダーとなる。
【0007】
一方で、顔料インク中の顔料は、約100nm(ナノメートル)程度の径を有する粒子として分散している。このため、顔料の粒子径がインク受容層の細孔径より大きい場合、顔料がインク受容層の内部に入り込むことができず、篩に掛けられたようにインク受容層の表面に留まることになる。
【0008】
一般に光沢紙では、前記顔料の粒子径と比較して、インク受容層の隙間の方が小さい場合が多い。このため、顔料インクを用いて形成した画像においては、顔料層がインク受容層の表面に形成されることになる。このため、画像に接触するときなどの外力は、画像を構成する顔料層へ直接加わることになる。この結果、顔料インクで形成した画像は傷つき易く、場合によっては顔料層が剥れる、というような耐擦過性の問題が顕著に発生する。
【0009】
上記で述べたような問題を解決するために、以下のような提案がなされている。例えば、画像をフィルムで覆うラミネートフィルム方式に関する提案がある(特許文献1及び2参照)。また、画像の表面を、樹脂などを含有する液体で覆う液ラミネート方式に関する提案がある(特許文献2乃至6参照)。記録媒体のインク受容層が熱可塑性樹脂粒子を含有してなるものを用い、記録を行った後に記録媒体を加熱することにより、顔料インク層とインク受容層とを接着するという後処理方式などに関する提案がある(特許文献7及び8参照)。
【0010】
【特許文献1】特開2000−153677号公報
【特許文献2】特開2004−1446号公報
【特許文献3】特開2004−99766号公報
【特許文献4】特開2004−243625号公報
【特許文献5】特開2005−47053号公報
【特許文献6】特開2005−81754号公報
【特許文献7】特開2003−170650号公報
【特許文献8】特開2005−169943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記で述べた従来の技術では、それぞれ以下のような課題が発生することがわかっている。先ず、ラミネートフィルム方式では、画像の表面を膜強度の高い樹脂フィルムでカバーすることにより、耐擦過性は得られる。しかし、画像の表面を前記したフィルムで覆うため、紙(記録媒体)そのものが有する本来の風合いが損なわれるという問題がある。また、画像を形成した後に、記録装置とは別の装置を用いてラミネート処理をオフラインで行うため、コストが高くなるという問題がある。
【0012】
また、液ラミネート方式では、画像を形成した直後に、同じ記録装置を用いてインラインでラミネート処理を行うことはできる。しかし、従来のラミネート用液体を構成する材料では、十分な耐擦過性を得るためには、数μm(マイクロメートル)の膜厚とする必要が生じる。このように膜厚が大きいと、記録媒体の風合いや画像の画質が損なわれるという問題がある。例えば、特許文献6には、1μm以下の膜厚を形成することが記載されているが、現在ではさらに高い耐擦過性が要求される。
【0013】
さらに、特許文献7及び特許文献8に記載されているような後処理方式では、特別な記録媒体を用いる必要があるという点に加えて、加熱処理を行うために、装置が大型化するという問題がある。
【0014】
したがって、本発明の目的は、記録媒体のもつ風合いや顔料インクで記録した画像の画質を損なうことがなく、記録物の耐擦過性を優れたものにできる表面コート液を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記の優れた画像形成が可能なインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、顔料を含有する顔料インクを用いて記録媒体に形成した画像を少なくとも含む領域に付与する表面コート液であって、少なくとも、顔料層の表面で樹脂層を形成する樹脂A、及び、顔料層の細孔内部へ浸透し定着する樹脂Bとを含有することを特徴とする表面コート液である。特に好ましい形態としては、上記樹脂Aがエマルジョン樹脂であり、上記樹脂Bが水溶性樹脂である表面コート液が挙げられる。
【0016】
また、本発明の別の実施形態は、顔料を含有する顔料インクを用いてインクジェット記録方法により記録媒体に画像を形成する工程、及び、少なくとも前記画像を含む領域に、樹脂を含有する表面コート液を付与して樹脂層を形成する工程、を有するインクジェット記録方法であって、前記表面コート液が、上記した本発明の表面コート液であり、前記樹脂層の少なくとも一部における膜厚が、0.10μm以上1.00μm以下であることを特徴とするインクジェット記録方法である。
【0017】
また、本発明の別の実施形態は、顔料を含有する顔料インクを用いてインクジェット記録方法により記録媒体に画像を形成する手段、及び、少なくとも前記画像を含む領域に樹脂を含有する表面コート液を付与して樹脂層を形成する手段を有するインクジェット記録装置であって、前記表面コート液が上記した本発明の表面コート液であることを特徴とするインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、紙などの記録媒体のもつ風合いや顔料インクで記録した画像の画質を損なうことがなく、記録物の耐擦過性を優れたものとできる表面コート液が提供される。また、本発明によれば、前記表面コート液を付与する工程を設けることで、上記の優れた記録物の形成を可能としたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明者らは、顔料インクを用いて光沢紙に形成した画像において、形成した画像の画質や記録媒体が本来有する風合いを損なうことなく、引掻き傷などによる傷の発生を効果的に防止することを目的として検討を行い、本発明を為すに至った。すなわち、本発明では、顔料層の表面で樹脂層を形成する樹脂Aと、顔料層の細孔内部へ浸透し定着する樹脂Bとを含有する本発明の表面コート液を用いることで、上述した課題を解決した。以下に、顔料インクを用いて形成した画像の耐擦過性について説明、画像の耐擦過性の向上に寄与できる本発明の表面コート液の構成などについて説明する。
【0020】
<顔料インクを用いて形成した画像の耐擦過性>
以下に、本発明が最大の課題としている光沢紙に顔料インクを用いて形成した画像における傷の発生メカニズムについて説明する。図1は、光沢紙に顔料インクを用いて形成した画像の断面を示す模式図である。1−1は光沢紙のインク受容層、1−2は顔料層、すなわち、顔料インクで形成した画像である。
【0021】
光沢紙に顔料インクを用いて画像を形成した場合、先に述べたようにインク受容層の隙間が顔料の粒子径よりも小さいため、顔料がインク受容層の内部に入り込むことができない。このため、図1に示すように、インク受容層1−1の表面にポーラス(porous)な構造を有する顔料層1−2、すなわち、画像が形成される。このような状態の画像を擦ると、外力は画像を構成する顔料層に直接に加わることになるため傷が発生し易く、耐擦過性に問題を生じる。
【0022】
上記のような特徴を有する顔料インクで形成した画像に、本発明の表面コート液を付与することで耐擦過性の課題を有効に解決できるが、その理由としては以下のことが考えられる。図2は、図1のようなポーラスな構造を有する顔料層に、顔料層の表面で樹脂層を形成する樹脂Aと、顔料層の細孔内部へ浸透し定着する樹脂Bとを含有してなる表面コート液を付与した際の定着過程の模式図である。先ず、顔料を含有するインクを用いてインク受容層2−5を有する記録媒体に形成した画像(顔料層2−4)を少なくとも含む領域に、樹脂A(2−2)及び樹脂B(2−3)を含有する表面コート液2−1を付与する[図2(a)参照]。このような表面コート液が顔料層2−4に接触すると、樹脂B(2−3)は、表面コート液中の水性媒体と共に顔料層2−4の内部へと浸透する[図2(b)参照]。その際、水性媒体が記録媒体に吸収されるのに伴って樹脂B(2−3)の流動性は低くなるため、樹脂B(2−3)は、顔料層の細孔の内部に定着する。このような挙動を示す樹脂Bによって、緻密化された顔料層2−7が形成されると考えられる。一方、樹脂A(2−2)は、樹脂Bのように顔料層2−4の内部へ浸透せずに、顔料層2−4の表面に樹脂層2−6を形成する。その結果、樹脂A(2−2)で形成された樹脂層2−6と、樹脂B(2−3)によって緻密化された顔料層2−7とは強固に結着された状態となる[図2(c)参照]。顔料層の表面で樹脂層を形成する樹脂Aと、顔料層の細孔内部へ浸透し定着する樹脂Bとを含有してなる本発明の表面コート液を付与すると、樹脂A及びBが上記のように挙動し、顔料層(すなわち画像)の耐擦過性を向上させることができたものと考えられる。
【0023】
<表面コート液>
本発明者らは、ポーラスな構造を有する顔料層の上に表面コート液を付与した場合に、上述のような挙動を効果的にし得る樹脂組成について詳細な検討を行った。その結果、特に、下記に詳述するような樹脂A及び樹脂Bを含有してなる表面コート液を用いることで、画像の耐擦過性をより顕著に向上させることができることがわかった。なお、本発明の表面コート液や樹脂層は、実質的に透明であること、すなわち、画像品位が低下しない範囲の透明性を有する樹脂を用いることが好ましい。具体的には、表面コート液を付与した記録物の画像濃度と付与していない記録物の画像濃度の差が、0.3以下、さらには0.1以下となるようにすることが好ましい。なお、画像濃度は反射濃度計などを用いて測定できる。
以下、本発明の表面コート液を構成する各成分について説明する。
【0024】
(顔料層の表面で樹脂層を形成する樹脂A)
本発明者らは、記録媒体上の画像を含む領域にコート液が付与された場合に、ポーラスな構造を有する顔料層の表面により良好な樹脂層を形成し得る樹脂Aについて検討を行った。その結果、樹脂Aとして、下記に説明するようなエマルジョン樹脂を用いることが好ましいことがわかった。本発明の表面コート液の構成材料である樹脂Aとして好適なエマルジョン樹脂の具体例としては、以下に挙げるものがある。例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂及びエチレン−酢酸ビニル共重合系樹脂、又はこれらの複合系の樹脂などである。本発明の表面コート液によって形成される樹脂層に高い透明性や膜強度を付与する観点からは、上記した中でも、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂又はポリエステル系樹脂などを用いることが好ましい。これらのエマルジョン樹脂は、乳化重合法や転相乳化法などの公知の方法により合成することができる。また、市販のエマルジョン樹脂を用いてもよい。また、画像への傷の発生をより低減させるためには、エマルジョン樹脂によって形成される樹脂層が、滑り性を有するものとなる樹脂を選定することも好ましい。この目的からは、例えば、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ワックス系樹脂などのエマルジョン樹脂を用いるとよい。この点については、後述する。なお、先に述べた通り、樹脂Aは顔料層の表面に樹脂層を形成することが必要であるが、本発明の効果が損なわれない限り、樹脂Aの一部が顔料層や記録媒体に浸透した状態となっていてもよい。
【0025】
〔樹脂Aの粒子径〕
本発明の表面コート液を構成する樹脂Aには、画像を含む領域にコート液が付与された場合に、ポーラスな構造を有する顔料層の細孔内部への浸透性が低く、顔料層の表面に付着して樹脂層を形成できる特性のエマルジョン樹脂を用いることが好ましい。このためには、エマルジョン樹脂の構成を下記のようにすることが好ましい。先ず、その際のエマルジョン樹脂の粒径について説明する。先に述べたように、顔料層はポーラスな構造を有する。したがって、樹脂Aの粒子径が顔料層の細孔径よりも大きい場合には、顔料層の細孔内部へ浸透しづらくなるため、顔料層の表面に樹脂層を形成することが可能となる。ここで、顔料層における細孔径の大きさは、顔料の粒子径が一般に数10nm乃至数100nmであることから、これと同程度の径を有する細孔が形成されているものと考えることができる。したがって、本発明の表面コート液を構成するエマルジョン樹脂Aとしては、樹脂Aの50%体積平均粒子径(D50)が、20nm以上300nm以下であるものであることが好ましい。樹脂AのD50が20nmよりも小さいと、顔料層の細孔径よりも粒子径が小さい樹脂粒子が多くなり、樹脂Aの多くが顔料層の細孔内部に浸透し、樹脂層の形成が効率良く行われなくなる恐れがある。一方、樹脂AのD50が300nmよりも大きいと、顔料層の細孔内部に浸透することはなく、顔料層の表面に樹脂層を形成することはできるが、樹脂層の平滑性が下がり、画像の光沢性が低下する場合がある。なお、本発明において、平均粒子径は、動的光散乱法により測定した。
【0026】
〔樹脂Aのガラス転移温度〕
本発明の表面コート液を構成する樹脂Aは、上記したようなエマルジョン樹脂に限定されるものではないが、下記に挙げる特性を有する樹脂であることが好ましい。先ず、樹脂Aのガラス転移温度は、20℃以上であることが好ましい。一般に、樹脂はガラス転移温度以上になると分子構造が流動可能となるため、粘着性が発生し、ベタツキ感を生じ易くなる。つまり、本発明で使用する樹脂Aのガラス転移温度が20℃未満であると、常温でも樹脂層にベタツキ感が生じる恐れがあるので好ましくない。また、樹脂Aのガラス転移温度は、100℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が100℃を超えると、樹脂の造膜性が低くなり、樹脂の膜構造が堅くなり脆さが増すために、画像を形成した記録媒体を丸めたりするなどの変形により、微細なクラックなどが簡単に発生する場合がある。上記したことから、本発明においては、樹脂Aのガラス転移温度は、20℃以上100℃以下であることが好ましい。なお、樹脂のガラス転移温度は、樹脂を構成するモノマーを適宜に選定することで調整可能である。
【0027】
〔樹脂Aの分子量〕
また、本発明のコート液を構成する樹脂Aとしては、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で5,000以上20万以下の分子量のものであることが好ましい。これは、樹脂層の強度は、樹脂分子鎖の絡み合いの程度に大きく影響されるためである。樹脂Aの重量平均分子量が5,000未満であると、樹脂層の強度が十分に得られない場合がある。この場合には、複数の記録物を作製するときなどにおいて、先に作製した記録物の記録面が後に作製した記録物の裏面などに接触するような極軽い接触であっても、傷が発生することがある。すなわち、画像の耐擦過性が十分に得られない場合がある。一方、樹脂Aの重量平均分子量が20万よりも大きいと、エマルジョン樹脂を用いる場合に、その粒度分布のバラツキが大きくなるため、所望する粒子径を有する樹脂Aを得ることが難しくなる場合がある。
【0028】
〔樹脂Aの滑り性〕
本発明では、コート液中の樹脂Aによって顔料層の表面に形成される樹脂層が、滑り性を有するものとなるように、本発明のコート液を構成することが好ましい。樹脂Aによって顔料層の表面に形成される樹脂層の摩擦係数が小さい(すなわち、滑り性を有する)と、記録物の耐擦過性はより優れたものとなる。例えば、爪などの鋭利な摩擦物が画像に接触する場合などの、樹脂層の局部的な凹凸への摩擦物の引っ掛かかりを抑制して画像の傷の発生を低減させるには、顔料層表面に形成した樹脂層の動摩擦係数μkが0.40以下となるようにすることが好ましい。さらには、上記樹脂層の動摩擦係数μkが0.30以下となるように、本発明のコート液を構成することが特に好ましい。このように、本発明のコート液の構成を、顔料層表面に形成される樹脂層の摩擦係数が小さくなるようなものにすれば、爪などの鋭利な摩擦物で引掻いた際にも傷がつきにくい画像の提供が可能となる。なお、樹脂層の動摩擦係数μkの下限は、0.00以上である。
【0029】
上記で規定する顔料層表面に形成される樹脂層の動摩擦係数は、例えば、下記のような手順で行う摩耗試験によって測定することができる。摩擦物としてポリメタクリル酸メチル(PMMA)を用いて、樹脂層が形成された画像(顔料層)上の領域を、所定の荷重及び速度でPMMAのボールを移動させたときの垂直荷重力に対する水平方向力の比として求めることができる。上記のような測定は、表面性試験機(商品名:ヘイドン トライボギア TYPE14DR;新東科学製)を用いることで測定できる。しかし、本発明において問題とする樹脂層の動摩擦係数μkの測定は、上記した装置に限られるものではなく、同様の駆動が可能であれば、他の装置を用いることができる。
【0030】
本発明の表面コート液で顔料層表面に形成させた樹脂層の動摩擦係数μkが0.40以下になるようにするためには、樹脂層を形成する樹脂Aの選定が重要である。顔料層表面に形成される樹脂層の動摩擦係数を低くする観点からは、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ワックス系樹脂などのエマルジョン樹脂を用いることが好ましい。
【0031】
この際に用いることができるシリコーン系樹脂としては、アクリルシリコーン共重合樹脂、ウレタンシリコーン共重合樹脂などがある。本発明においては、特に、ジメチルシロキサン基を有するジメチルシリコーンとアクリルモノマーとが共重合したアクリルシリコーン共重合樹脂を用いることが好ましい。このようなアクリルシリコーン共重合樹脂を表面コート液の構成材料に用いると、形成される樹脂層の表面にシリコーンが効果的に配向するため、表面コート液中に少量含有させるだけでも、高い滑り性を有する樹脂層を形成することが可能となる。
【0032】
フッ素系樹脂の具体例としては、以下に挙げるものがある。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルなどが挙げられる。また、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などが挙げられる。また、エチレン−トリフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−アクリル共重合体などが挙げられる。これらの樹脂を水性媒体に分散したフッ素系樹脂水系分散体を好ましく用いることができる。
【0033】
ワックス系樹脂には、合成ポリエチレン系エマルジョン、カルナバワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、キャンデリラワックス、フィッシャートロプッシュワックスなどを用いることができる。さらには、上記のワックス系樹脂の中でも、融点が60℃以上のものを用いることが好ましい。なお、ワックス系樹脂を用いる場合、形成される樹脂層の膜強度が十分に得られない場合がある。このような場合には、先に挙げたような、膜強度の強い樹脂層を形成することが可能なアクリル系樹脂などと併用することもできる。
【0034】
(顔料層の細孔内部へ浸透し定着する樹脂B)
本発明のコート液は、記録媒体上の画像を含む領域にコート液が付与された場合に、ポーラスな構造を有する顔料層の表面に樹脂層を形成し得る樹脂Aと、顔料層の細孔内部へ浸透し定着する樹脂Bとを少なくとも含有してなる。本発明者らの検討によれば、樹脂Aにエマルジョン樹脂を用い、樹脂Bに水溶性樹脂を用いてなる表面コート液とした場合に、樹脂A及びBは、上記で規定する機能を良好に発揮し、安定してより顕著な効果を示した状態で、本発明の目的を達成できる。なお、先に述べた通り、樹脂Bは顔料層の細孔内部へ浸透し定着することが必要であるが、本発明の効果が損なわれない限り、樹脂Bの一部が樹脂Aで構成される樹脂層や記録媒体に浸透した状態となっていてもよい。
【0035】
このような構成の表面コート液における、樹脂A(エマルジョン樹脂)と樹脂B(水溶性樹脂)とは、これらの樹脂の水中(表面コート液を構成する水性媒体中)において存在する状態の違いで区別することができる。すなわち、この場合の樹脂Bは、水性媒体を構成する水に対する親和性が高いため、水分子と樹脂分子が均一に混合されたような状態で存在する。つまり、水中において、樹脂Bは、多数の樹脂分子が互いに会合した状態で存在しづらい傾向にあると考えられる。そこで、本発明では、動的光散乱法による粒子径分布測定を行う際に、水中において樹脂の粒子径を確認することが困難なもの、具体的には、50%体積平均粒子径(D50)が10nm未満である樹脂を、水溶性樹脂とした。本発明者らは、このようにして定義される水溶性樹脂を樹脂Bとして用い、エマルジョン樹脂である樹脂Aと併用することで、先に説明した顕著な効果が得られる水溶性の表面コート液となることを確認した。
【0036】
このことは、動的光散乱法による粒子径分布測定を行うことで、上記構成を有する本発明の表面コート液であるか否かの検証が可能になることを意味する。すなわち、顔料インクで形成した画像の表面コート液として使用されている水溶液が、動的光散乱法による粒子径分布測定した場合に、下記のような測定結果が得られれば、本発明の表面コート液であると言える。例えば、動的光散乱法による粒子径分布測定の結果、その水溶液が、平均粒径が20〜300nm程度の樹脂粒子と、水中において樹脂の粒子径を確認することが困難な樹脂とを併存したものであることが確認された場合である。
【0037】
本発明の表面コート液に用いることができる水溶性樹脂の具体例としては、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系或いはポリビニルアルコール系の樹脂、又はこれらの複合系の樹脂などが挙げられる。
【0038】
上記したような樹脂を用いることが好適な樹脂Bのイオン性は、アニオン性、ノニオン性、及びカチオン性に大別される。本発明では、樹脂Bとして、アニオン性又はノニオン性の樹脂を用いることが特に好ましい。これは、カチオン性の樹脂Bを用いた場合に、顔料層の細孔内部へ樹脂Bを十分に浸透させることができない場合があるためである。このようなことが生じる理由は、下記のように考えられる。先ず、インクジェット記録用として広く用いられているアニオン性の顔料を含有するインクによって形成される顔料層は、アニオン性になる。このような場合に、構成材料にカチオン性の樹脂Bを用いた表面コート液を付与すると、アニオン性を有する顔料層がカチオン性の樹脂Bを捕捉するため、顔料層の細孔内部への樹脂Bの浸透は起こりにくくなる。この結果、前記した樹脂Bの機能が十分に発揮されず、樹脂A及びBによってもたらされる本発明の効果が十分に得られない場合が生じると考えられる。なお、樹脂Bのイオン性は、顔料層のイオン性に加えて、樹脂Aとの相性を考慮して選択することが好ましい。一般に、水性媒体中に、イオン性が反対の樹脂が混合していると凝集しやすくなるため、樹脂Aと樹脂Bとのイオン性を揃えるか、どちらか一方の樹脂をノニオン性とすることが好ましい。
【0039】
樹脂Bとしてアニオン性のものを用いる場合は、下記のような樹脂を用いることができる。すなわち、先に挙げたような樹脂に、カルボキシル基(−COOH)、スルホン酸基(−SO3H)、リン酸基(−PO4H)などの酸性基を導入し、これらの酸性基を塩基などで中和させた樹脂などである。また、樹脂Bとしてノニオン性のものを用いる場合は、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン、或いは、水酸基やエチレンオキサイド基などの親水基を多く導入したアクリル系樹脂などを用いることができる。
【0040】
〔樹脂Bのガラス転移温度〕
本発明で用いる樹脂Bは、顔料層の細孔内部へ浸透し、顔料層の細孔内部で定着するものである。顔料層の細孔内部に浸透する機能を確実に有する樹脂Bを選択するには、樹脂Bのガラス転移温度を特定することも重要な要素となる。本発明者らの検討の結果、ガラス転移温度が0℃以下である熱可塑性樹脂を樹脂Bとして用いた場合は、樹脂Bの顔料層の細孔内部への浸透が、より効果的に起こることがわかった。本発明者らはこの理由を、以下のように推測している。熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度以上になると分子構造が流動可能となる。このため、ガラス転移温度が0℃以下である熱可塑性樹脂は、常温において流動性が高くなり、顔料層の表面に留まりにくくなる結果、ポーラスな構造を有する顔料層の細孔内部に樹脂が浸透したものと考えられる。また、水溶性樹脂などが用いられる樹脂Bは、表面コート液中において、表面コート液中の水性媒体と分子レベルで混合した状態で存在するため、水性媒体と共に顔料層の細孔内部へと浸透すると考えられる。また、ガラス転移温度が0℃以下と低い樹脂Bを用いると、画像の強度をより高めることができるため、特に好ましい。これは、ガラス転移温度が低い樹脂Bが顔料層の細孔内部へ浸透すると、樹脂Bは常温では粘着性を有するため、樹脂層と顔料層との、さらには顔料層と記録媒体のインク受容層との接着性が高くなり、結果として画像の強度が向上したものと考えられる。
【0041】
(樹脂A及び樹脂Bの含有量及びこれらの質量比率並びに樹脂層の膜厚)
本発明の表面コート液中の、樹脂Aの含有量WA(質量%)は、表面コート液全質量を基準として、0.50質量%以上15.0質量%以下、さらには1.0質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。また、本発明の表面コート液中の、樹脂Bの含有量WB(質量%)は、表面コート液全質量を基準として、0.10質量%以上5.0質量%以下、さらには0.20質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。なお、WA及びWBはそれぞれ固形分の質量のことである。
【0042】
本発明の表面コート液中の、樹脂Aの含有量WA(質量%)及び樹脂Bの含有量WB(質量%)の質量比率(WA/WB)は、1.0以上5.0以下であることが好ましい。なお、WA及びWBはそれぞれ、表面コート液全質量を基準とした、固形分の質量のことである。WA/WBが1.0未満であると、樹脂層に存在する樹脂Bの割合が多くなるため、樹脂層の膜強度が充分に得られない場合がある。また、WA/WBが5.0を超えると、樹脂Bによる結着の効果が充分に得られず、耐擦過性も充分に得られない場合がある。
【0043】
本発明の表面コート液中の、樹脂Aの含有量WA(質量%)及び樹脂Bの含有量WB(質量%)の合計(WA+WB)は、表面コート液全質量を基準として、1.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。WA+WBが1.0質量%未満であると、顔料層の表面に充分な膜厚を有する樹脂層を形成するのが難しい場合がある。また、WA+WBが20.0質量%を超えると、樹脂層の膜厚が大きくなりすぎるため、記録物の風合いが損なわれる場合がある。
【0044】
本発明においては、樹脂層の膜厚は、樹脂層の少なくとも一部における膜厚が0.10μm以上1.00μm以下となるように樹脂層を形成することが好ましい。ここで、樹脂層の膜厚は顔料層上の膜厚であり、画像を切断してその断面を電子顕微鏡で観察することなどにより計測することが可能である。また、原子間力顕微鏡などの表面粗さ測定装置を用いて、樹脂層を形成した領域と形成していない領域の段差を計測することも可能である。
【0045】
樹脂層の膜厚が1.0μmを超えると、記録物の品位の変化が大きくなる場合がある。また、樹脂層の膜厚が0.10μm未満であると、耐擦過性向上の効果が得られない場合がある。ここで、膜厚が1.0μmを超えると記録物の品位が低下するのは、膜厚が大きくなることで記録面の表面が平滑化し、形状が大きく異なるために、ギラツキ感が生じることが主な原因であると考えられる。
【0046】
上記膜厚が0.10μm未満であると耐擦過性向上の効果が得られない理由は、顔料層の表面における凹凸が影響していると考えられる。顔料粒子を主体として形成される顔料層は、顔料粒子の粒子径と同程度の表面の凹凸が形成されると考えられる。膜厚が0.10μmより小さいと、顔料層の表面の凹凸よりも樹脂層が小さくなり、顔料層を被覆できない領域が極端に増えるため、耐擦過性の向上効果が得られなくなる場合がある。
【0047】
(水性媒体)
本発明の表面コート液には、水又は水及び水溶性有機溶剤を含有する水性媒体を用いることが好ましい。水は種々のイオンを含有する一般の水を用いるのではなく、イオン交換水(脱イオン水)を用いることが好ましい。表面コート液中の水の含有量(質量%)は、表面コート液全質量を基準として、40.0質量%以上90.0質量%以下、さらには50.0質量%以上90.0質量%以下とすることが好ましい。また、表面コート液中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、表面コート液全質量を基準として、10.0質量%以上50.0質量%以下とすることが好ましい。
【0048】
本発明の表面コート液に用いることのできる水溶性有機溶剤は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。
メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパンジオール、ブタノール、イソブタノール、ブタンジオール、ペンタノール、ペンタンジオール、1,2−又は1,6−ヘキサンジオールなどの炭素数1乃至6のアルキルアルコール類。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ヘキサントリオールなどの多価アルコール類。エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどの多価アルコールエーテル類。エタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類など。
【0049】
(その他の成分)
本発明の表面コート液は、前記した成分の他に、保湿性維持のために、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの保湿性固形分を含有していてもよい。さらに、必要に応じて所望の物性値を有する表面コート液とするために、界面活性剤、防錆剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、粘度調整剤、皮膜形成助剤、分散剤、紫外線吸収剤などの種々の添加剤を含有してもよい。
【0050】
本発明の表面コート液に用いることができる界面活性剤は、表面コート液の保存安定性などに影響を及ぼさないものであれば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤又は両性界面活性剤などのいずれのものも用いることができる。アニオン性界面活性剤としては、具体的には、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類などを用いることができる。また、ノニオン性界面活性剤としては、具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アセチレンアルコール、アセチレングリコールなどを用いることができる。界面活性剤の含有量(質量%)は、表面コート液全量を基準として0.10質量%以上5.0質量%以下とすることが好ましい。
【0051】
(表面コート液の付与方法)
本発明の表面コート液は、顔料インクを用いて記録媒体に形成した画像を少なくとも含む領域に付与するためのものであるが、特に、顔料インクを使用してのインクジェット記録画像の形成の際に好適に用いられる。本発明のインクジェット記録方法では、インクジェット記録方式で顔料インクで記録媒体に画像を形成する工程と、該画像を含む領域に、樹脂を含有する表面コート液を付与して樹脂層を形成する工程を有し、該表面コート液に本発明の表面コート液を用いる。本発明の表面コート液を用いることの効果を十分に得るためには、顔料インクを用いて形成した画像を含む領域に付与する場合に、画像を構成する顔料層の最表面に表面コート液が確実に付与されるようにすることが特に好ましい。
【0052】
本発明の表面コート液を付与する方法は、顔料層の表面、特に顔料層の最表面に付与できる方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、ロールコーター方式、バーコーター方式、ブレードコーター方式、グラビアコーター方式などの公知の方法を用いることができる。また、スプレー方式やインクジェット方式などの非接触の方式を用いることもできる。
【0053】
顔料層の最表面に表面コート液を付与することを達成するためには、具体的には以下のようにすることが好ましい。ロールコーター方式、バーコーター方式、ブレードコーター方式、グラビアコーター方式や、スプレー方式で表面コート液を付与する場合には、顔料インクで画像を形成した後にこれらの方法により表面コート液を付与することが好ましい。
【0054】
インクジェット方式で表面コート液を付与する場合にも、上記と同様に顔料インクで画像を形成した後に表面コート液を付与することが好ましい。より具体的には、顔料インク及び表面コート液を吐出する記録ヘッドの並び順を、顔料インクが先に吐出され、表面コート液が後に吐出されるように構成することができる。また、顔料インクによる画像の形成が終了している単位領域に対して表面コート液の吐出が行われるように制御することもできる。
【0055】
本発明のインクジェット記録方法においては、上記に挙げた表面コート液の付与方法の中でも、インクジェット方式で表面コート液を記録媒体に付与することが特に好ましい。インクジェット方式で表面コート液を付与すれば、画像の形成から表面コート液の付与までの時間が少なく、また、表面コート液を付与する領域を適切にコントロールできるので、最適な表面コート層が形成されるからである。
【0056】
上記したような方法で、本発明の表面コート液を顔料層の最表面に付与することで、記録物の耐擦過性を大きく向上させることができる。しかし、画像を形成した領域のみに表面コート液を付与した場合、画像を形成した領域と画像を形成していない領域との間で滑り性の差が大きくなるおそれがある。このため、記録媒体(記録物)の全領域にわたって均一な滑り性を得るには、画像を形成していない領域にも本発明の表面コート液を付与することが好ましい。また、表面コート液を記録媒体に付与した後に、形成した樹脂層の被膜化を早めるために、熱風や赤外線などによる乾燥工程を行ってもよい。
【0057】
<顔料インク>
本発明に用いるインクとしては、従来より用いられている色材に顔料を用いたインク、特にインクジェット記録用顔料インクが挙げられる。以下、顔料インクの構成成分について説明する。
(色材)
色材は、従来のインクに用いられている顔料であれば、いずれのものも用いることができる。具体的には、カーボンブラックやチタンホワイトなどの無機顔料、又は、フタロシアニン系、モノアゾ系、ジスアゾ系料若しくはキナクリドン系などの有機顔料を用いることが好ましい。顔料の平均粒子径は、インク中における体積平均粒子径で、0.05μm以上0.30μm以下(50nm以上300nm以下)、さらには0.07μm以上0.20μm以下(70nm以上200nm以下)であることが好ましい。顔料インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全量を基準として1.0質量%以上20.0質量%以下、さらには2.0質量%以上12.0質量%以下とすることが好ましい。さらには、色材として顔料に加えて、一般の染料などを用いることもできる。
【0058】
ブラックインクに用いる顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラックを用いることが好ましい。具体的には、例えば、以下の市販品などを用いることができる。レイヴァン:7000、5750、5250、5000ULTRA、3500、2000、1500、1250、1200、1190ULTRA−II、1170、1255(以上、コロンビアンケミカル製)。ブラックパールズL、リーガル:330R、400R、660R、モウグルL、モナク:700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、2000、ヴァルカンXC−72R、スターリング:MS、NSX76(以上、キャボット製)。カラーブラック:FW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリンテックス:35、U、V、140U、140V、スペシャルブラック:4、4A、5、6(以上、デグッサ製)。No.25、No.33、No.40、No.45、No.47、No.52、No.900、No.2200B、No.2300、MCF−88、MA7、MA8、MA100、MA600(以上、三菱化学製)。
【0059】
また、本発明のために新たに調製したカーボンブラックを用いることもできる。勿論、本発明はこれらに限定されるものではなく、いずれのカーボンブラックも用いることができる。また、カーボンブラックに限定されず、マグネタイト、フェライトなどの磁性体微粒子や、チタンブラックなどを、ブラックインクの顔料として用いてもよい。
【0060】
有機顔料は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッドなどの水不溶性アゾ顔料。リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどの水溶性アゾ顔料。アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーンなどの建染染料からの誘導体。フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料。キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系顔料。ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系顔料。イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系顔料。ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッドなどのイミダゾロン系顔料。ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系顔料。インジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料。フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレットなど。勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
また、有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで示すと、例えば、以下のものを用いることができる。C.I.ピグメントイエロー:1、2、3、12、13、14、16、17、20、24、74、75、83、86、93、95、97、98、109、110、114、117、120、125。また、C.I.ピグメントイエロー:128、129、137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、180、185など。C.I.ピグメントレッド:5、7、9、12、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、57(Ca)、97、112、122、123、149、168、175、176、177、180、184、192、202、207など。また、C.I.ピグメントレッド:215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272など。C.I.ピグメントブルー:1、2、3、4、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64など。C.I.バットブルー:4、6、19、23、42など。勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
(分散剤)
上記で述べたような顔料を水性媒体に分散するための分散剤は、水溶性の樹脂であればいずれのものも用いることができる。具体的には、インクの分散安定性や保存安定性、さらには吐出性や吐出安定性などのインクジェット特性を考慮して、インクに用いる分散剤を適宜選択することができる。分散剤としては、重量平均分子量が1,000以上30,000以下、さらには3,000以上15,000以下のものを用いることが好ましい。インク中の分散剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として0.1質量%以上5.0質量%以下とすることが好ましい。
【0063】
分散剤には、以下の群からなる2種以上の単量体(このうち少なくとも1種は親水性の単量体)を共重合した親水性の樹脂又はその塩などを用いることができる。単量体は、具体的には、例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステルなどが挙げられる。また、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体などが挙げられる。
【0064】
また、下記の化合物を、塩化メチル、ジメチル硫酸、ベンジルクロライド、エピクロルヒドリンなどで4級化した単量体を用いて得られたアクリル共重合体などのカチオン性を示す分散剤を用いることもできる。このような単量体の具体例は、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)メタクリレート、N,N−ジメチルアミノ(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0065】
本発明においては、分散剤として、ブロック共重合体やグラフト共重合体などの構造を有する水溶性の樹脂を用いることが特に好ましい。これらの樹脂は、その分子構造中の疎水部及び親水部が明確に別れており、かかる樹脂は疎水性の顔料に強い吸着力を示すため、水性媒体中での顔料の分散性を非常に良好なものとすることができる。本発明においては特に、特許第2635235号公報や特許第2675965号公報に記載されているブロック型の水溶性樹脂を用いることが好ましい。
【0066】
(水性媒体)
顔料インクには、水又は水及び水溶性有機溶剤を含有する水性媒体を用いることが好ましい。水には、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を用いることが好ましい。顔料インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、10.0質量%以上90.0質量%以下、さらには30.0質量%以上80.0質量%以下とすることが好ましい。また、顔料インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下、さらには3.0質量%以上40.0質量%以下とすることが好ましい。
【0067】
顔料インクに用いる水溶性有機溶剤は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどの炭素数1乃至6のアルキルアルコール類。プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールなどの炭素数3乃至6のジオール類。ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類。アセトン、ジアセトンアルコールなどのケトン又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類。プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコールなどの炭素数2乃至6のアルキレン基を持つアルキレングリコール類。ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのアルキルエーテルアセテート。グリセリン。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテル類。N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなど。中でも特に、ジエチレングリコールやトリエチレングリコールなどの多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテルなどを用いることが好ましい。
【0068】
本発明で用いる顔料インクは、熱エネルギーの作用によりインクを吐出するインクジェット方式に適用する場合の吐出安定性を向上するために、エタノールやイソプロピルアルコール(2−プロパノール)の含有量を1.0質量%以上とすることが好ましい。これは、エタノールやイソプロピルアルコール(2−プロパノール)を含有するインクとすることにより、記録ヘッドの薄膜抵抗体上におけるインクの発泡をより安定に起こすことができるためである。
【0069】
(その他の成分)
顔料インクは、上記で挙げた成分の他に、保湿性維持のために、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの保湿性固形分を含有してもよい。さらに、必要に応じて所望の物性値を有する顔料インクとするために、界面活性剤、防錆剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤又は蒸発促進剤などの種々の添加剤を含有してもよい。
【0070】
また、顔料インクのpHは中性又はアルカリ性に調整されていることが好ましい。これは、前記樹脂の溶解性を向上することができるため、長期保存性により優れた顔料インクとすることができるためである。ただし、インクジェット記録装置を構成する部材における腐食の原因となる場合があるので、顔料インクのpHは7.0以上10.0以下とすることが好ましい。顔料インクのpHを上記で述べた範囲にするためには、以下のようなpH調整剤を用いることが好ましい。具体的には、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などに代表される無機アルカリ剤、有機酸及び鉱酸などが挙げられる。
【0071】
顔料インクに用いることができる界面活性剤は、インクの保存安定性などに影響を及ぼさないものであれば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤などのいずれのものも用いることができる。アニオン性界面活性剤は、具体的には、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類などが挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤は、具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アセチレンアルコール、アセチレングリコールなどが挙げられる。インク中の分散剤の種類により異なるが、界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全量を基準として0.01質量%以上5.0質量%以下とすることが好ましい。
【0072】
(インクの調製方法)
本発明で用いる顔料インクは以下のようにして調製することができる。先ず、少なくとも分散樹脂及び水を含有する水溶液に顔料を加えて十分に撹拌した後、後述の分散手段を用いて分散を行い、必要に応じて遠心分離を行い、所望の分散液を得る。次に、得られた分散液に、上記に列挙したようなインクの構成成分を加えた後、十分に撹拌してインクとする。
【0073】
このとき、顔料を加えた液体を分散処理する前に、プレミキシングを30分間以上行うことが好ましい。これは、プレミキシング操作により、顔料表面の濡れ性を向上して、分散剤の顔料表面への吸着を促進することができるためである。ここで、分散処理を行う装置は、一般に用いられる分散機であればいずれのものも用いることができる。具体的には、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミルなどが挙げられる。中でも、以下に列挙するような高速型のサンドミルを用いることが好ましい。例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、ビーズミル、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル、コボルミル(いずれも商品名)などが挙げられる。
【0074】
本発明で用いる顔料インクに好適な粒度分布を有する顔料を得る方法としては、以下の(1)〜(5)などが挙げられる。勿論、これらの方法を適宜組み合わせることもできる。例えば、(1)分散機の粉砕メディアのサイズを小さくする、(2)粉砕メディアの充填率を大きくする、(3)処理時間を長くする、(4)吐出速度を遅くする、(5)粉砕後、フィルターや遠心分離などで分級する、などの方法が挙げられる。
【0075】
<記録媒体>
本発明には、従来より用いられている記録媒体、より好ましくは、顔料インクによる画像形成に好適なインクジェット用記録媒体を用いることができる。以下、本発明に好適な記録媒体について説明する。本発明の表面コート液は、光沢を有するインクジェット用の記録媒体(光沢紙)に顔料インクを用いてインクジェット記録方式で画像を形成した記録物に適用することで、該記録物の耐擦過性の向上に特に顕著な効果が得られる。勿論、本発明のコート液は、光沢紙以外の各種の記録媒体に画像を形成した記録物にも適用することができる。ここで、本発明における光沢紙の定義について説明する。勿論、これは絶対的な基準ではないが、75度反射の表面光沢度が20付近を境にして光沢感が生じることが分かっている。このため、本発明では、一般に光沢系又は半光沢系と分類されている記録媒体、より具体的には、75度反射の表面光沢度が20以上であるものを光沢紙としている。
【0076】
ここで、光沢系又は半光沢系の記録媒体では、インク受容層を構成する材料として非晶質シリカやアルミナなどのサブミクロンオーダーの無機微粒子を用いることが多い。一方で、ミクロンオーダーの無機微粒子を用いて、インク受容層を形成した場合、光の波長領域以上の表面粗さが発生するため、光沢感が得られない。上述したように、インク受容層を構成する材料としてサブミクロンオーダーの無機微粒子を用いた場合、顔料はインク受容層に浸透できないため、インク受容層の最表面に顔料層が形成される。このため、表面コート液を画像に付与することにより達成される耐擦過性の向上の効果が特に大きいものとなる。
【0077】
以下に、光沢系又は半光沢系の記録媒体の構成について説明する。記録媒体は一般に、耐熱性を有する基材上に、少なくとも1層のインク受容層が形成された層構成を有する。光沢系又は半光沢系の記録媒体のインク受容層は、サブミクロンオーダーに超微細分散した非晶質シリカやアルミナなどの無機微粒子及び、かかる無機微粒子を結着するバインダーなどで構成される。インク中の水性媒体に対する吸収性の観点から、気相法シリカ、コロイダルシリカ、水酸化アルミナゾルなどの比表面積が大きい無機微粒子を用いることが好ましい。
【0078】
無機微粒子の分散処理は、ホモジナイザー、圧力式ホモジナイザー、コロイドミル、ボールミル、媒体撹拌ミル、高速回転ミルなどを用いて、無機微粒子の2次凝集体がサブミクロンオーダーとなるように機械的に粉砕する。また、無機微粒子分散液の2次粒子径の調整や分散液の安定性の観点から、分散剤を用いることもできる。
【0079】
(バインダー)
上記バインダーには、以下のものを用いることができる。ポリビニルアルコール又はその変性物、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニルなど。また、酸化デンプン、エーテル化デンプン、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、カルボキシメチルセルロースなど。SBRラテックス、NBRラテックス、アクリルラテックス、エチレン酢酸ビニル系ラテックス、ポリウレタン、不飽和ポリエステルなど。
【0080】
上記したバインダーの中でも特にポリビニルアルコールを用いることが好ましいが、その理由としては下記のことが挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをアルカリで中和して、カルボキシル基を水酸基に置換するけん化反応により得られるが、重合度(分子量)及びけん化度により、膜強度、結晶性、水溶性、粘度などの特性を容易に設定することが可能である。特に、けん化度が90mol%以上のポリビニルアルコールを用いることが好ましい。これは、記録媒体上で定着していない状態のインクが凝集して発生する濃度ムラを抑制する、すなわち顔料インクの耐ビーディング性を効果的に向上することができるためである。けん化度が高いポリビニルアルコールは、結晶性の高い膜を形成しやすいことが知られている。したがって、結晶性が高い、すなわち、けん化度が高いポリビニルアルコールほど水に対する膨潤性が低いため、顔料インクを用いて画像を形成した際に、インク中の水性媒体のインク受容層への浸透性がより高まるためと考えられる。また、ポリビニルアルコールの重合度は、膜強度の観点から1,500以上であることが好ましい。
【0081】
(架橋剤、架橋性を有する結着剤)
上記で挙げたバインダーは、架橋剤や架橋性を有する結着剤と組み合わせて用いることもできる。ここで架橋剤とは、加熱などにより共有結合や配位結合を形成し得る官能基(反応性基)を有するモノマー(単量体)やオリゴマー(中分子量成分)のことである。無機系の架橋剤は、例えば、ホウ酸やホウ酸ナトリウムなどの金属酸化物やその塩が挙げられる。有機系の架橋剤は、例えば、イソシアネート系、エポキシ系、N−メチロール系、カルボジイミド系、トリアジン系、アルデヒド系、ビニルスルホン系、アクリロイル系、エチレンイミン系、シロキサン系などの化合物が挙げられる。架橋性の結着剤には、樹脂中に反応性の官能基を有するものを用いることができる。具体的には、メチロール基、エポキシ基、シラノール基などを有する水溶性のアクリル樹脂、変性ポリビニルアルコールなどを用いることができる。
【0082】
(基材)
記録媒体を構成する基材としては、天然パルプや合成パルプで構成された紙、耐熱性のフィルムなどを用いることができる。パルプの具体例は、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、針葉樹広葉樹混合パルプなどの木材パルプ、また、クラフトパルプ、サルファイトパルプ、ソーダパルプなど、再生パルプなどが挙げられる。これらのパルプは、塩素、次亜塩素酸塩、二酸化塩素などを用いた通常の漂白処理、アルカリ抽出やアルカリ処理、さらに必要に応じて、過酸化水素、酸素などを用いた酸化漂白処理など及びそれらの組み合わせ処理を施したものを用いることが好ましい。
【0083】
原紙中には、紙料スラリーの調製時などに、各種の添加剤を添加してもよい。例えば、サイズ剤には、脂肪酸又はその塩、ロジン誘導体などを用いることが好ましい。また、記録媒体の裏面に、熱可塑性ラテックス樹脂などの層を設けることで、記録媒体の耐水性、強度などをさらに向上することができる。
【0084】
耐熱性のフィルムは、下記の材料で構成されたものを用いることができる。ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレートコポリマー、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリプロピレンなどのポリオレフィン。また、ポリアミド、ポリイミド、トリアセチルセルロース、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン・塩化ビニルコポリマー、アクリル樹脂、ポリエーテルスルフォンなど。
【0085】
(インク受容層の塗工方法)
上記で述べた基材上にインク受容層を設けるためには、以下に挙げるような一般的な塗工装置を用いることができる。ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ゲートロールコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ショートドゥエルコーター、グラビアコーター、フレキソグラビアコーター、サイズプレスなど。これらの塗工装置はオンマシン又はオフマシンで用いることができる。
【0086】
<インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録方法は、顔料を含有する顔料インクを用いてインクジェット記録方法により記録媒体に形成した画像を含む領域に、本発明の表面コート液を付与して樹脂層を形成することを主たる特徴とする。このとき、形成した樹脂層の少なくとも一部における膜厚が、0.10μm以上1.00μm以下であることが特に好ましい。また、本発明のインクジェット記録装置は、顔料インクを用いてインクジェット記録方法により記録媒体に画像を形成する手段、及び、少なくとも前記画像を含む領域に本発明の表面コート液を付与して樹脂層を形成する手段を有することを主たる特徴とする。上記で説明した表面コートを記録媒体に付与する方式は、いずれの方式であってもよいが、本発明においては特に、インクジェット方式又はロールコート方式を用いることが特に好ましい。以下に、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置について説明する。
【0087】
図4はインクジェット方式の記録ヘッド(以下、記録ヘッドという)を用いて記録を行うインクジェット記録装置の外観斜視図である。インクジェット記録装置は、以下の構成を有する。キャリッジ11は、記録ヘッド及びインクを収容するインクカートリッジとが一体となったヘッドカートリッジを着脱可能に搭載する。
【0088】
キャリッジ11は、キャリッジモータ12により往復移動(この移動方向を主走査方向という)する。キャリッジモータ12の駆動力はベルト4によりキャリッジ11に伝えられる。キャリッジ11の主走査方向の移動は、ガイドシャフト6が支えとなる。フレキシブルケーブル13は、電気信号を制御部から記録ヘッドに転送する。キャップ141及びワイパブレード143は記録ヘッドの回復操作を行うために用いられる。カセット15は記録媒体を積層状態で蓄える。また、エンコーダセンサ16はキャリッジ11の位置を光学的に読み取る。
【0089】
図5は、図4のインクジェット記録装置における、キャリッジ近傍の構成をより詳細に示す斜視図である。ここでは、写真調の高画質なカラー画像の記録が可能となる、ブラック(K)、淡シアン(LC)、濃シアン(C)、淡マゼンタ(LM)、濃マゼンタ(M)及びイエロー(Y)の6種のインクを搭載したインクジェット記録装置を例に挙げて説明する。記録ヘッド22は、前記した6種のインクをそれぞれ吐出する記録ヘッド22K、22LC、22C、22LM、22M及び22Yで構成される。
【0090】
また、インクカートリッジ21は、前記した各記録ヘッドに供給するインクをそれぞれ収容するインクカートリッジ21K、21LC、21C、21LM、21M、21Yで構成される。キャップ141は記録ヘッド22の各インク吐出口をキャッピングするものであり、6つのキャップ141K、141LC、141C、141LM、141M及び141Yで構成される。なお、これらの記録ヘッドやインクカートリッジを個別に示す場合には、それぞれに付された番号を用いて示すが、これらを包括的に示す場合には、総称する番号として、記録ヘッドは“22”、インクカートリッジは“21”、キャップは“141”を用いて示す。
【0091】
ここでは、記録ヘッド22とインクカートリッジ21でヘッドカートリッジを構成する例を用いて説明した。本発明においては、ヘッドカートリッジは、記録ヘッド及びインクカートリッジが一体に構成されるものでも、また、それぞれが分離可能に構成されるものでもよい。
【0092】
図4及び図5に示すように、キャリッジ11にはベルト4、並びにプーリ5a及び5bを介してキャリッジモータ12が連結する。そして、キャリッジモータ12の駆動によりキャリッジ11がガイドシャフト6に沿って往復走査する。
【0093】
図6は、吐出口側から見た記録ヘッド22の模式図である。記録ヘッド22K、22LC、22C、22LM、22M及び22Yは、1200dpiの密度で吐出口が1280個並び、吐出口列を形成する。これらの6つの記録ヘッドは主走査方向に配置されている。1つの吐出口23から吐出されるインクは約4ngである。吐出口23は、吐出量をできるだけ小さくして高画質の記録を行うために、開口面積を調節してある。
【0094】
以下に、上記した構成のインクジェット記録装置における記録動作について、図4〜図6を参照して詳細に説明する。カセット15に複数枚積層された記録媒体1が給紙ローラー(不図示)によって一枚ずつ供給される。記録動作領域では、記録媒体1は、記録ヘッド22とプラテン(不図示)との間を、他の拍車やコロなどの補助搬送ローラー(不図示)の動作により搬送ローラー対3に搬送される。
【0095】
インクはインクカートリッジ21より供給される。記録ヘッド22は、図5の矢印B方向(往路走査方向)に移動しながら、画像信号に応じて記録媒体1に記録ヘッド22の吐出口数に対応した幅で記録を行う。具体的には、エンコーダセンサ16の読み取りタイミングに従い、画像信号に基づいて駆動し、記録媒体1にインクを吐出、付与することで画像を形成する。
【0096】
そして、矢印B方向(往路走査方向)の1走査分の記録が終了すると、ホームポジションに向かう矢印B方向(復路走査方向)に移動しながら、Y、M、LM、C、LC及びKの順序で記録を行う。このようにして往復記録が行われる。一方向に向かう1回の記録動作(1走査)が終了してから、次の記録動作が開始される前に、搬送ローラー対3が駆動して記録媒体1を矢印A方向に所定量、間欠的に搬送する。このように1走査分の記録動作及び所定量の記録媒体の搬送を繰り返すことによって、記録媒体1に記録が行われる。
【0097】
記録ヘッド22がホームポジションに戻った際に必要に応じて、回復機構により吐出口23の目詰まりなどを解消することができる。キャップ141は、吐出口23の回復時のインク吸引動作又は放置時の乾燥防止のために、記録ヘッド22の吐出口23をキャッピングする。そして、ワイパブレード143は記録ヘッド22の吐出口23を有する面を、矢印C方向に移動しながらワイピングして、インクなどを除去する。
【0098】
次に、インクジェット記録装置の記録制御を実行するための制御構成について説明する。図7は、インクジェット記録装置の制御系を説明するためのブロック図である。1700は、マイクロコンピュータ形態などのホスト装置から記録信号を入力するインタフェース、1701は、記録装置の各部の制御を司るCPUである。1702は、CPU1701が実行する制御プログラムやエラー処理プログラムなどを格納するためのROMである。
【0099】
1703は、各種データ(記録信号や記録ヘッド22に供給される記録データなど)を一時保存しておくためのRAMである。1704は、記録ヘッド22に対する記録データの供給制御を行うゲートアレイであり、インタフェース1700、CPU1701及びRAM1703の相互間のデータ転送の制御も行う。12は、記録ヘッド22を移動させるためのキャリッジモータ、1709は、記録紙1を搬送するための搬送モータである。1705は、記録ヘッド22を駆動するためのヘッドドライバ、1706及び1707は、搬送モータ1709及びキャリッジモータ12を駆動するためのモータドライバである。インタフェース1700を通して入力される記録信号は、ゲートアレイ1704及びCPU1701によって記録データに変換される。そして、モータドライバ1706及び1707が駆動されると共に、ヘッドドライバ1705に送られた記録データに基づいて記録ヘッド22が駆動されることにより、記録が行われる。
【0100】
また、記録ヘッド22の温度制御は、インクジェット記録装置が設置された環境の検出温度に基づいて行われる。記録ヘッド22は、吐出エネルギー発生手段として吐出ヒータが備えられ、また、吐出口列の近傍に、インクの温度を制御するための保温ヒータ1710が備えられている。サーミスタ1708によって検出される環境温度に応じて、CPU1701が保温ヒータ1710をON/OFF制御することにより、記録ヘッド22が最適な温度に制御される。記録ヘッド22内に設けられた温度センサ1711から出力される記録ヘッド内部の温度を監視することによって、記録ヘッド22の温度を制御することもできる。
【実施例】
【0101】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、下記の実施例によって限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。また、樹脂の物性値などは、以下の装置を用いて測定した値である。すなわち、ガラス転移温度(Tg)は、EXSTAR・DSC6200S(商品名:エスアイアイ・ナノテクノロジー製)を用いて測定した。50%累積体積平均粒子径(D50)は、粒度分布測定装置(商品名:ナノトラックUPA−150;日機装製)を用いて測定した。
【0102】
<樹脂の合成>
(樹脂1の合成)
撹拌装置、還流冷却器、温度計、窒素吹き込み管の付いた反応容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)250部を仕込んだ。この反応容器に窒素ガスを導入して反応容器内の空気を置換して、酸素不含とした後、内温を80℃に昇温した。その後、PMA20部に対して、重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル3部を溶かした溶液を添加した。さらに、モノマーである、アクリル酸ノルマルブチル(n−BA)85部及びアクリル酸(AA)15部を含む溶液を2時間かけて滴下した。その後、内温を保ちながら3時間撹拌して、反応を完結した。反応終了後、減圧加熱乾燥により溶媒であるPMAを除去して、樹脂1を得た。樹脂1のポリスチレン換算の重量平均分子量は10,000であった。示唆走査熱量計(DSC)により測定した樹脂1のガラス転移温度は−20℃であった。
【0103】
(樹脂2の合成)
滴下するモノマーを、アクリル酸イソブチル(i−BA)75部及びアクリル酸(AA)25部とすること以外は樹脂1と同様の手順で合成を行い、樹脂2を得た。樹脂2のポリスチレン換算の重量平均分子量は9,000であった。示唆走査熱量計(DSC)により測定した樹脂2のガラス転移温度は10℃であった。
【0104】
<表面コート液の調製>
上記で得られた樹脂1及び2を、それぞれ、純水及び水酸化カリウム水溶液と混合し、加温及び撹拌することで樹脂成分を溶解させ、固形分濃度が10質量%の樹脂溶液1及び2を得た。樹脂溶液1及び2について、動的光散乱法により平均粒子径を測定したところ、樹脂溶液1は、良好な状態に溶解しており、粒子径及び50%体積平均粒子径(D50)を確認することはできなかった。さらに、下記表1に示す組成となるように各成分を混合し、十分撹拌して、表面コート液1〜4を調製した。得られた表面コート液1〜4はいずれも無色透明であった。なお、表1中の樹脂A及びBの配合量は、固形分(樹脂溶液中の樹脂量)で示した。
【0105】

【0106】
<顔料インクの調製>
カーボンブラック(プリンテックス85;デグッサ製)10部、スチレン−アクリル酸共重合体ナトリウム塩(ジョンクリル555;ジョンソンポリマー製)4部、及び純水86部を混合して、30分間撹拌した。上記スチレン−アクリル酸共重合体ナトリウム塩としては、酸価200mgKOH/g、重量平均分子量5,000のものを用いた。この混合物を、0.3mm径のジルコニアビーズの充填率を85%としたビーズミル(LMZ2;アシザワファインテック製)を用いて十分に分散した。その後、遠心分離処理を行って粗大粒子を除去し、ポアサイズ2.5μmのフィルター(商品名:HDCII2.5μm;ポール製)にて加圧ろ過を行い、顔料分散液を得た。このようにして得られた顔料分散液中における顔料濃度は10.0%、分散剤(樹脂の固形分)濃度は4.0%であった。
【0107】
下記に示す各成分を十分に混合して、ポアサイズ2.5μmのフィルター(商品名:HDCII2.5μm;ポール製)にて加圧ろ過を行い、顔料インクを得た。得られたインク中における顔料の平均粒子径は120nmであった。
・顔料分散液 35.0部
・グリセリン 10.0部
・トリエチレングリコール 5.0部
・ポリエチレングリコール(平均分子量600) 5.0部
・アセチレノールEH
(界面活性剤;川研ファインケミカル製) 0.5部
・純水 44.5部
【0108】
<記録媒体の作製>
(基紙の作製)
原料パルプとして広葉樹漂白クラフトパルプを用い、抄造を行った後、線圧60kg/cmでマシンカレンダー処理して、坪量150g/m2、密度0.95g/cm3の基紙を作製した。
【0109】
(インク受容層の形成)
先ず、インク受容層の成分であるアルミナ水和物を以下のように調製した。米国特許第4,242,271号明細書に記載の方法にしたがってアルミニウムオクタキシドを合成し、これを加水分解してアルミナスラリーを調製した。得られたアルミナスラリーに、アルミナ水和物の固形分濃度が5%となるように水を加えた。この液体を80℃に昇温して10時間熟成反応を行い、コロイダルゾルを得た。得られたコロイダルゾルをスプレー乾燥してアルミナ水和物を得た。
【0110】
得られたアルミナ水和物をイオン交換水中に分散して、硝酸を用いて液体のpHを10に調整した。この液体を5時間熟成して、コロイダルゾルを得た。得られたコロイダルゾルを脱塩処理した後、酢酸を添加して解膠処理を行った。その後、アルミナ水和物のコロイダルゾルを濃縮して、アルミナ水和物の濃度が15%である分散液を得た。
【0111】
ここで、ポリビニルアルコール(商品名:PVA117;クラレ製)をイオン交換水中に溶解して、ポリビニルアルコールの濃度が10%である溶液を得た。これらの2種の分散液及び溶液を、アルミナ水和物の固形分とポリビニルアルコールの固形分が質量比で10:1となるように混合した後、撹拌して分散液を得た。得られた分散液を、上記で得られた基紙に、乾燥塗工量30g/m2となるように塗工してインク受容層を形成した。
【0112】
<記録物の作製>
(実施例1)
本実施例では、下記のようにして、顔料インクを用いて記録媒体にインクジェット記録方式で形成した画像に、後述するロールコート塗布装置を用いて表面コート液1を付与して記録物を得た。先ず、インクジェット記録装置(商品名:imagePROGRAF iPF5000;キヤノン製)のインクカートリッジに、上記で得られた顔料インクを充填し、ブラックのインクカートリッジの位置にセットした。また、先に説明したようにして得られた記録媒体をA4のサイズに切断して、前記インクジェット記録装置のメディアカセットにセットした。記録条件は、1インチ当たりのドット数、すなわち、解像度は1200dpi、8パスの往復走査で画像を形成する8パス双方向記録とした。そして、顔料インクを用いて記録デューティが100%である画像を形成し、記録直後にロールコート塗布装置により表面コート液1を付与して、記録物を作製した。
【0113】
得られた記録物の断面を電子顕微鏡で観察したところ、顔料層は樹脂層で被覆されており、該樹脂層は、顔料層の細孔の内部に樹脂が存在し定着していることが確認できた。また、記録物の断面を電子顕微鏡で観察し、樹脂層の膜厚を測定したところ、約0.50μmであった。なお、本実施例で得られた記録物は、画像形成前の記録媒体の風合いをそのまま保持していた。
【0114】
実施例1において用いたロールコート塗布装置は、図3に示す構成を有するものである。このロールコート塗布装置の駆動機構は以下の通りである。表面コート液110は、カートリッジ103に蓄えられ、供給ポンプ106、供給路102、表面コート液保持槽101を経由して多孔質体100へ供給される。塗布処理部内では、塗布ローラー71A及び加圧搬送ローラー71Bが回動可能な状態となっている。塗布ローラー71Aには規制ブレード111が当接している。
【0115】
不図示の塗布ローラー駆動モータは所定値で回転駆動することで、表面コート液110が多孔質体100より塗布ローラー71Aへと汲み上げられる。塗布ローラー71A上に汲み上げられた表面コート液110の塗布量は、規制ブレード111の押し当て圧力の調節、塗布ローラー71Aの回転速度により調節することができる。記録媒体は、矢印L1の方向へ搬送され、塗布ローラー71A及び加圧搬送ローラー71Bのニップへと侵入することで、記録媒体へ表面コート液が塗布された後、ロールコート塗布装置から排紙される。
【0116】
(実施例2)
本実施例では、下記のようにして、顔料インクを用いて記録媒体にインクジェット記録方式で形成した画像に、インクジェット記録方式で表面コート液2を付与して記録物を得た。先ず、インクジェット記録装置(商品名:imagePROGRAF iPF5000;キヤノン製)のインクカートリッジに、表面コート液2及び顔料インクをそれぞれ充填した。表面コート液を充填したインクカートリッジはイエローの位置、また、顔料インクを充填したインクカートリッジはブラックの位置として前記インクジェット記録装置に各インクカートリッジをセットした。また、先に説明したようにして得られた記録媒体をA4のサイズに切断して、前記インクジェット記録装置のメディアカセットにセットした。
【0117】
記録条件は、1インチ当たりのドット数、すなわち、解像度は1200dpi、8パスの往復走査で画像を形成する8パス双方向記録とした。表面コート液を顔料インクで形成した画像の上に付与するために、8パスの往復走査のうち、顔料インクは1パス目から7パス目で記録デューティが100%である画像を形成するマスクパターンを用いた。また、表面コート液は、1パス目から7パス目では記録を行わず、最終のパス、すなわち、8パス目で記録デューティが100%である画像を形成するマスクパターンを用いた。そして、顔料インク及び表面コート液2を用いて、記録物を作製した。得られた記録物の断面を電子顕微鏡で観察したところ、顔料層は樹脂層で被覆されており、該樹脂層は、顔料層の細孔の内部に樹脂が存在し定着していることが確認できた。また、記録物の断面を電子顕微鏡で観察し、樹脂層の膜厚を測定したところ、約0.30μmであった。なお、本実施例で得られた記録物は、画像形成前の記録媒体の風合いをそのまま保持していた。
【0118】
(比較例1)
本比較例では、表面コート液として、表面コート液3を用いた以外は実施例1と同様にして、顔料インクを用いて記録媒体にインクジェット記録方式で形成した画像に、ロールコート塗布方式で表面コート液3を付与して記録物を得た。実施例1と同様にして、樹脂層の膜厚を測定したところ、約0.30μmであった。また、得られた記録物の断面を電子顕微鏡で観察したところ、顔料層の表面に樹脂層が形成されているものの、顔料層の細孔内部への樹脂の定着は認められなかった。
【0119】
(比較例2)
本比較例では、表面コート液として、表面コート液4を用いた以外は実施例1と同様にして、顔料インクを用いて記録媒体にインクジェット記録方式で形成した画像に、ロールコート塗布方式で表面コート液4を付与して記録物を得た。実施例1と同様にして、樹脂層の膜厚を測定したところ、約0.30μmであった。また、得られた記録物の断面を電子顕微鏡で観察したところ、顔料層の表面に樹脂層が形成されているものの、実施例の場合とは明らかに異なり、顔料層の細孔の内部に樹脂が存在して定着しているといえる状態とはなっていなかった。
【0120】
<評価>
(画像濃度)
上記で得られた各記録物の画像領域における画像濃度を反射濃度計(X−Rite製)で測定して評価を行った。画像濃度の評価基準は、以下の通りである。評価結果を表2に示した。
A:画像濃度が2.0以上である。
B:画像濃度が2.0未満である。
【0121】
(光沢性)
上記で得られた各記録物の画像領域における表面光沢度(20度反射)を光沢度計(製品名:マイクロヘイズプラス;BYKガードナー製)で測定して評価を行った。光沢性の評価基準は以下の通りである。評価結果を表2に示した。
A:光沢度が30以上である。
B:光沢度が30以下である。
【0122】
(耐擦過性)
上記で得られた各記録物の画像領域における耐擦過性を、表面性試験機(製品名:ヘイドン トライボギア TYPE14DR;新東科学製)で測定して評価した。摩擦部材としてポリメチルメタクリル酸(PMMA)の樹脂ボール(4mmΦ)を用いた。ボール圧子フォルダーに前記樹脂ボールを固定し、画像面に垂直に樹脂ボールを押し当て、樹脂ボールを速度40mm/secで画像領域の表面を移動させた。樹脂ボールに付加される垂直荷重を段階的に最大1,000gまで上げた時の傷の状態を主観評価した。耐擦過性の評価基準は以下の通りである。評価結果を表2に示した。
AA:画像剥れによる傷が発生せず、摩擦物との接触面の光沢も下がらない。
A:画像剥れによる傷は発生しないが、摩擦物との接触面の光沢は下がる。
B:垂直荷重200g以下で画像剥れによる傷が発生する。
【0123】
(動摩擦係数)
上記で得られた各記録物の画像領域におけるPMMA樹脂ボール球に対する動摩擦係数を表面性試験機(製品名:ヘイドン トライボギア TYPE14DR;新東科学製)を用いて測定した。PMMA樹脂ボールに付加する垂直荷重を50g、移動速度を2mm/secとして、移動時にPMMA樹脂ボールの移動方向へ作用する水平力をロードセルにより測定し、垂直荷重力に対する水平力の比率を動摩擦係数として算出した。得られた動摩擦係数の値を表2に示した。
【0124】

【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】光沢紙に顔料インクを用いて形成した画像の断面を示す模式図である。
【図2】表面コート液を付与した際の定着過程の模式図である。
【図3】ロールコート塗布装置の概略図である。
【図4】インクジェット記録装置の外観斜視図である。
【図5】図4のインクジェット記録装置における、キャリッジ近傍の構成を示す斜視図である。
【図6】吐出口側から見た記録ヘッド22の模式図である。
【図7】インクジェット記録装置の制御系のブロック構成図である。
【符号の説明】
【0126】
1−1:インク受容層
1−2:顔料層
2−1:表面コート液
2−2:樹脂A
2−3:樹脂B
2−4:顔料層
2−5:インク受容層
2−6:樹脂層
2−7:樹脂にBより緻密化された顔料層
71A:塗布ローラー
71B:加圧搬送ローラー
100:多孔質体
101:表面コート液保持槽
102:供給路
103:カートリッジ
106:供給ポンプ
110:表面コート液
111:規制ブレード
1:記録媒体
3:搬送ローラー対
4:ベルト
5a:プーリ
5b:プーリ
6:ガイドシャフト
11:キャリッジ
12:キャリッジモータ
13:フレキシブルケーブル
15:カセット
16:エンコーダセンサ(光学位置センサ)
21:インクカートリッジ
22:記録ヘッド
23:吐出口
141:キャップ
143:ワイパブレード
1700:インタフェース
1701:CPU
1702:ROM
1703:RAM
1704:ゲートアレイ
1705:ヘッドドライバ
1706:モータドライバ
1707:モータドライバ
1708:サーミスタ
1709:搬送モータ
1710:保温ヒータ
1711:温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を含有する顔料インクを用いて記録媒体に形成した画像を少なくとも含む領域に付与する表面コート液であって、
少なくとも、顔料層の表面で樹脂層を形成する樹脂A、及び、顔料層の細孔内部へ浸透し定着する樹脂Bとを含有することを特徴とする表面コート液。
【請求項2】
前記樹脂Aがエマルジョン樹脂であり、前記樹脂Bが水溶性樹脂である請求項1に記載の表面コート液。
【請求項3】
前記樹脂Aのガラス転移温度が、20℃以上100℃以下である請求項1又は2に記載の表面コート液。
【請求項4】
前記樹脂Bのガラス転移温度が、0℃以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の表面コート液。
【請求項5】
前記エマルジョン樹脂の平均粒子径が、20nm以上300nm以下である請求項2乃至4のいずれか1項に記載の表面コート液。
【請求項6】
前記樹脂Aにより形成される樹脂層が、滑り性を有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の表面コート液。
【請求項7】
前記エマルジョン樹脂が、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、又はワックス系樹脂である請求項2乃至6のいずれか1項に記載の表面コート液。
【請求項8】
前記エマルジョン樹脂が、ジメチルシリコーンとアクリルモノマーとが共重合したアクリルシリコーン共重合樹脂である請求項7に記載の表面コート液。
【請求項9】
顔料を含有する顔料インクを用いてインクジェット記録方法により記録媒体に画像を形成する工程、及び、少なくとも前記画像を含む領域に、樹脂を含有する表面コート液を付与して樹脂層を形成する工程、を有するインクジェット記録方法であって、
前記表面コート液が、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の表面コート液であり、
前記樹脂層の少なくとも一部における膜厚が、0.10μm以上1.00μm以下であることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記表面コート液を付与する方式が、インクジェット方式又はロールコート方式である請求項9に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
顔料を含有する顔料インクを用いてインクジェット記録方法により記録媒体に画像を形成する手段、及び、少なくとも前記画像を含む領域に樹脂を含有する表面コート液を付与して樹脂層を形成する手段を有するインクジェット記録装置であって、
前記表面コート液が、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の表面コート液であることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−160867(P2009−160867A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2030(P2008−2030)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】