説明

表面プラズモン増強蛍光センサ

【課題】蛍光を高S/Nで検出可能で、しかも小型かつ安価に形成できる蛍光センサを得る。
【解決手段】所定波長の励起光8を発する光源7と、励起光8を透過させる材料からなる誘電体ブロック13と、該誘電体ブロック13の一表面13aに形成された金属膜20と、該金属膜20の近傍に試料1を保持する試料保持部5と、励起光8を、誘電体ブロック13と金属膜20との界面に向けて、全反射条件を満たすように誘電体ブロック13を通して入射させる入射光学系7と、前記界面に励起光8が入射したとき、該界面から染み出すエバネッセント波11に励起されて、試料1中に含まれる物質が発した蛍光を検出する蛍光検出手段9とからなる蛍光センサにおいて、光源7として、試料1中に含まれる物質に多光子吸収を発現させる波長の励起光8を発するものを用い、蛍光検出手段9として、前記物質が多光子吸収して発した蛍光の波長域に感度を有するものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光法により試料中の特定物質を検出する蛍光センサ、特に詳細には表面プラズモン増強を利用した蛍光センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオ測定等において、高感度かつ容易な測定法として蛍光法が広く用いられている。この蛍光法は、特定波長の光により励起されて蛍光を発する検出対象物質を含むと考えられる試料に上記特定波長の励起光を照射し、そのとき蛍光を検出することによって検出対象物質の存在を確認する方法である。また、検出対象物質が蛍光体ではない場合、蛍光体で標識されて検出対象物質と特異的に結合する物質を試料に接触させ、その後上記と同様にして蛍光を検出することにより、この結合すなわち検出対象物質の存在を確認することも広くなされている。
【0003】
図2は、上記の標識された物質を用いる蛍光法を実施するセンサの一例を概略図示するものである。本例の蛍光センサは一例として試料1に含まれる抗原2を検出するためのものであり、基板3には抗原2と特異的に結合する1次抗体4が塗布されている。そしてこの基板3上に設けられた試料保持部5の中において試料1が流され、次いで同様に蛍光体10で標識されて抗原2と特異的に結合する2次抗体6が流される。その後、基板3の表面部分に向けて光源7から励起光8が照射され、また光検出器9により蛍光検出がなされる。このとき、光検出器9によって所定の蛍光が検出されたなら、上記2次抗体6と抗原2との結合、すなわち試料中における抗原2の存在を確認できることになる。
【0004】
なお以上の例では、蛍光検出によって実際に存在が確認されるのは2次抗体6であるが、この2次抗体6は抗原2と結合しなければ流されてしまって基板3上に存在し得ないものであるから、この2次抗体6の存在を確認することにより、間接的に検出対象物質である抗原2の存在が確認されることとなる。
【0005】
とりわけここ数年は、冷却CCDの発達など光検出器の高性能化が進んでいることもあって、以上述べた蛍光法はバイオ研究には欠かせない手段となっており、さらにバイオ以外の分野においても広範に利用されている。特に可視領域では、例えばFITC(蛍光波長:525nm、量子収率:0.6)や、Cy5(蛍光波長:680nm、量子収率:0.3)のように、実用の目安となる0.2を超える高い量子収率を持つ蛍光色素が開発されており、蛍光法の応用分野がさらに拡大することが期待されている。
【0006】
しかしながら、図2に示したような従来の蛍光センサでは、基板と試料との界面における励起光の反射/散乱光や、検出対象物質以外の不純物/浮遊物M等による散乱光がノイズとなるため、せっかく光検出器を高性能化しても蛍光検出におけるS/Nは向上しないのが実情であった。
【0007】
これに対する解決法として、従来、エバネッセント波を用いる蛍光法が提案されている。この方法を実施する蛍光センサの一例を図3に概略的に示す。なおこの図3において、図2中の要素と同等の要素には同番号を付し、それらについての説明は特に必要のない限り省略する(以下、同様)。
【0008】
この蛍光センサにおいては、前述の基板3に代わるものとしてプリズム(誘電体ブロック)13が用いられ、その上には金属膜20が形成されている。そして光源7からの励起光8が、このプリズム13と金属膜20との界面で全反射する条件で、プリズム13を通して照射される。この構成においては、励起光8が上記界面で全反射するとき該界面近傍に染み出すエバネッセント波11により2次抗体6が励起される。そして蛍光検出は、試料1に対してプリズム13と反対側(図中では上方)に配された光検出器9によってなされる。
【0009】
この蛍光センサにおいて、励起光8は図中の下方に全反射するので、上方からの蛍光を検出するに当たり、励起光検出成分が蛍光検出信号に対するバック・グラウンドとなってしまうことがない。またエバネッセント波11は上記界面から数百nmの領域にしか到達しないので、試料中の不純物/浮遊物Mからの散乱を殆ど無くすことができる。そのため、このエバネッセント蛍光法は、従来の蛍光法と比べて(光)ノイズを大幅に低減でき、検出対象物質を1分子単位で蛍光測定できる方法として注目されている。
【0010】
なお図3に示したものは、エバネッセント蛍光法による蛍光センサの中でも、特に高感度化を図った表面プラズモン増強蛍光センサである。この表面プラズモン増強蛍光センサにおいては金属膜20が形成されていることにより、励起光8が照射されたとき該金属膜20中に表面プラズモンが生じ、その電界増幅作用によって蛍光が増幅されるようになる。あるシミュレーションによると、その場合の蛍光強度は1000倍程度まで増幅されることが判っている。
【0011】
この種の表面プラズモン増強蛍光センサについては、例えば特許文献1に詳しい記載がなされている。また、例えば非特許文献1に記載があるように、特に表面プラズモン増強は利用しないで、エバネッセント蛍光法による蛍光検出を行う蛍光センサも知られている。その場合は図3に示した金属膜20が省かれて、プリズム13に直接試料が接する状態とされ、それら両者の界面から染み出すエバネッセント波11により2次抗体6等の蛍光体が励起される。
【0012】
なお、上記の表面プラズモン増強蛍光センサにおいては、非特許文献2に示されているように、試料中の蛍光体と金属膜とが接近し過ぎていると、蛍光体内で励起されたエネルギーが蛍光を発生させる前に金属膜へ遷移してしまい、蛍光が生じないという現象(いわゆる金属消光)が起こり得る。この金属消光に対処するために非特許文献2には、金属膜の上にSAM(自己組織化膜)を形成し、それにより試料中の蛍光体と金属膜とを該SAMの厚さ以上離間させることが提案されている。なお図3でも、このSAMに番号21を付けて示してある。
【0013】
ところで、以上説明したような蛍光センサにおいては、蛍光体の励起波長と蛍光波長との差(いわゆる「ストークスシフト」)が比較的小さいため、励起光に起因する光散乱ノイズが蛍光検出信号に混入してしまい、それにより測定信号のS/Nが低下するという問題が認められる。例えば前述のCy5にあっては、励起波長635〜645nmに対して蛍光波長は680nmであり、ストークスシフトは高々40nm程度である。そこで蛍光検出の際には、光検出器の直前にバンドパスフィルターのような、シャープカット・フィルターと呼ばれる波長分離フィルターを設けることが普通に行われている。
【0014】
しかしながら、この種のフィルターの波長分離能力は、上述のようなストークスシフトに対応するには不十分であるため、測定信号に光ノイズの混入が残ることが多い。また、この種のフィルターは概して透過率がかなり低いので、検出できる蛍光量が減少してしまい、この点から測定信号のS/N低下を招くこともある。さらにこの種のフィルターは高価であるので、それを用いた場合には蛍光センサのコストアップを招くという不都合も認められる。
【0015】
他方、例えば非特許文献3に記載が有るように、ある種の有機蛍光色素の中で、2光子吸収により、励起波長よりも短い波長の蛍光(いわゆるアップコンバージョン蛍光)を発するものが知られている。一例としてローダミンBは、波長800nm前後の赤外域の励起光で励起されたとき、波長580nm近辺のオレンジ色の蛍光を発することが知られている。この例では、励起光波長と蛍光波長との差が200nm以上有って両者の分離が容易となるので、それを蛍光センサに適用した場合は、前述したような波長分離フィルターを用いなくても、蛍光を高S/Nで検出できることになる。
【特許文献1】特許第3562912号公報
【非特許文献1】「バイオイメージングでここまで理解る」p.104-113 楠見明弘他著 羊土社
【非特許文献2】W.Knoll他、Analytical Chemistry(Anal.Chem.)75(2003) p.2610
【非特許文献3】Guang S.He 他「Optical limiting effect in a two-photon absorption dye doped solid matrix」,Applied Physics Letters67(17),23 October 1995 pp.2433-2435
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、2光子吸収等の多光子吸収を発現する蛍光物質は一般に量子収率が著しく低いので、その励起には極めて高い電界を必要とする。そこで従来は多光子吸収を発現させるために、Q−スイッチレーザ等の短パルスレーザを用い、瞬間的にレーザ出力が高くなる尖頭値を利用して励起を行うようにしている。
【0017】
そのため、この多光子吸収を発現する蛍光物質を検出対象として、アップコンバージョンの蛍光を検出する蛍光センサを構成しようとすると、上記Q−スイッチレーザ等の高価で大型の励起光源が必要となり、その結果、蛍光センサは極めて大型かつ高価で、しかも一般のユーザーには操作が非常に困難なものとなってしまう。
【0018】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、蛍光を高S/Nで検出可能で、しかも小型かつ安価に形成できる蛍光センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の蛍光センサは、表面プラズモン増強の仕組みを利用することにより、比較的低出力の光源を用いても多光子吸収を発現できるようにした表面プラズモン増強蛍光センサであり、より具体的には、
所定波長の励起光を発する光源と、
前記励起光を透過させる材料から形成された誘電体ブロックと、
この誘電体ブロックの一表面に形成された金属膜と、
この金属膜の近傍位置に試料を保持する試料保持部と、
前記励起光を、前記誘電体ブロックと金属膜との界面に向けて、全反射条件を満たすように誘電体ブロックを通して入射させる入射光学系と、
前記界面に前記励起光が入射したとき、該界面から染み出すエバネッセント波に励起されて、前記試料中に含まれる物質が発した蛍光を検出する蛍光検出手段とを備えてなる表面プラズモン増強蛍光センサにおいて、
前記光源として、前記試料中に含まれる物質に2光子吸収等の多光子吸収を発現させる波長の励起光を発するものが用いられ、
前記蛍光検出手段として、前記物質が多光子吸収して発した蛍光の波長域に感度を有するものが用いられていることを特徴とするものである。
【0020】
なおこの本発明による表面プラズモン増強蛍光センサは、前記物質として、ローダミンB、ベンゾチアジアゾール蛍光色素、クマリン色素、スチルベン系化合物、ジヒドロフェナントレン系化合物 または フルオレン系化合物 を含む試料を検出対象とするものとして構成されるのが望ましい。つまりその場合光源には、それらの物質に多光子吸収を発現させる波長の励起光を発するものが適用される。
【0021】
またこの表面プラズモン増強蛍光センサにおいては、前記金属膜の上に、疎水性材料からなる不撓性膜が形成されていることが望ましい。そしてそのような不撓性膜としては、ポリマーからなる膜を好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の表面プラズモン増強蛍光センサは、励起光を発する光源として、試料中に含まれる物質に多光子吸収を発現させる波長の励起光を発するものが用いられた上で、蛍光検出手段として、上記物質が多光子吸収して発した蛍光の波長域に感度を有するものが用いられているので、多光子吸収により生じたアップコンバージョン蛍光を検出できるものとなる。そこでこの表面プラズモン増強蛍光センサによれば、励起光との波長差(ストークスシフト)が大きい蛍光を高S/Nで検出可能となる。
【0023】
また本発明の表面プラズモン増強蛍光センサは、表面プラズモン増強により得られる高電界を利用して多光子吸収を発現させるようにしているので、励起光源としてQ−スイッチレーザ等の高価で大型の光源を用いる必要が無く、その結果、比較的安価で小型に形成可能となる。
【0024】
また、本発明の表面プラズモン増強蛍光センサにおいて特に、金属膜の上に、疎水性材料からなる不撓性膜が形成されている場合は、試料液中の蛍光体が金属膜に対して、金属消光が起きる程度まで近接してしまうことが防止される。そこでこの場合は前述のような金属消光を招くことがなくなり、表面プラズモンによる電場増幅作用を確実に得て、極めて高い感度で蛍光を検出可能となる。
【0025】
また、特に不撓性膜が疎水性材料から形成されていれば、試料液中に存在する金属イオンや溶存酸素のような消光の原因となる分子が該不撓性膜の内部にまで入り込むことが無く、よってそれらの分子が励起光の励起エネルギーを奪ってしまうことが防止される。そこでこの場合は、極めて高い励起エネルギーが確保され、極めて高い感度で蛍光を検出可能となる。
【0026】
なお、上記の「不撓性」とは、センサを普通に使用しているうちに膜厚が変わってしまうほどに変形することが無い程度の剛性を備えていることを意味するものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態による表面プラズモン増強蛍光センサ(以下、単に蛍光センサという)を示す概略側面図である。図示の通りこの蛍光センサは、例えば波長800nm の励起光8を発する半導体レーザ等の光源7と、上記励起光8を透過させる材料からなり、この励起光8が一端面から入射する位置に配されたプリズム(誘電体ブロック)13と、このプリズム13の一表面13aに形成された金属膜20と、この金属膜20の上に形成されたポリマーからなる不撓性膜31と、プリズム13と反対側から不撓性膜31に液体状試料1が接するように該試料1を保持する試料保持部5と、この試料保持部5の上方に配された光検出器(蛍光検出手段)9とを備えてなるものである。
【0029】
なお本実施形態では光源7が、励起光8を、プリズム13と金属膜20との界面に向けて、全反射条件を満たすようにプリズム13を通して入射させるように配置されている。つまりこの光源7自体が、プリズム13に対して励起光8を上述のように入射させる入射光学系を構成している。しかしこのような構成に限らず、励起光8を上述のように入射させるレンズやミラーなどからなる入射光学系を、光源7とは別途設けるようにしても構わない。
【0030】
上記プリズム13は一例として、日本ゼオン株式会社製 ZEONEX(登録商標) 330R(屈折率1.50)からなるものである。一方金属膜20は、プリズム13の一表面13a上に金をスパッタして形成されたものであり、膜厚は50nmとされている。また不撓性膜31は、金属膜20の上に屈折率1.59のポリスチレン系ポリマーをスピンコートして形成されたものであり、膜厚は20nmとされている。
【0031】
なお、プリズム13は上記材料の他、公知の樹脂や光学ガラスを用いて適宜形成することができる。コストの点からは、光学ガラスよりも樹脂の方がより好ましいと言える。樹脂から形成する場合は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネイト(PC)、シクロオレフィンを含む非晶性ポリオレフィン(APO)等の樹脂を好適に用いることができる。
【0032】
光検出器9としては、例えば富士フイルム株式会社製 LAS-1000 plus(商品名)が用いられている。
【0033】
この蛍光センサが検出対象としているのは、一例としてCRP抗原2(分子量11万 Da)であり、それと特異的に結合する1次抗体(モノクロナール抗体)4が上記不撓性膜31の上に固定されている。この1次抗体4は、例えば末端をカルボキシル基化したPEGを介して、アミンカップリング法により、上記ポリマーからなる不撓性膜31に固定される。一方2次抗体6としては、2光子吸収を発現する色素である蛍光体(ローダミンB)10で標識化したモノクロナール抗体(1次抗体4とはエピトープ <epitope;抗原決定基>が異なる)が用いられる。
【0034】
上記アミンカップリング法は一例として下記(1)〜(3)のステップからなるものである。なおこれは、30μl(マイクロ・リットル)のキュベット/セルを用いた場合の例である。
【0035】
(1)リンカー先端(末端)の-COOH基を活性化
0.1M(モル)のNHSと0.4MのEDCとを等体積混合した溶液を30μl加え、30分間室温静置。なお、
NHS:N-hydrooxysuccinimide
EDC:1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide
である。
【0036】
(2)1次抗体4の固定化
PBSバッファ(pH7.4)で5回洗浄後、1次抗体溶液(500μg/ml)を30μl加え、30〜60分間室温静置
(3)未反応の -COOH基をブロッキング
PBSバッフア(pH7.4)で5回洗浄後、1Mのエタノールアミン(pH8.5)を30μl加え、20分間室温静置。さらにPBSバッフア(pH7.4)で5回洗浄。
【0037】
一方、光源7としては上記半導体レーザに限らず、その他の公知の光源を適宜選択使用可能である。また光検出器9も上述のものに限らず、CCD、PD(フォトダイオード)、光電子増倍管、c-MOS等の公知のものを適宜選択使用可能である。また励起波長を変えれば、ローダミンB以外の色素を標識として用いることもできる。
【0038】
以下、この蛍光センサの作用について、一例として試料1に含まれるCRP抗原2を検出する場合について説明する。まず試料保持部5の中において液体状の試料1が流され、次いで同様に蛍光体10で標識されてCRP抗原2と特異的に結合する2次抗体6が流される。
【0039】
その後、プリズム13に向けて光源7から励起光8が照射され、そして光検出器9により蛍光検出がなされる。このとき、プリズム13と金属膜20との界面からエバネッセント波11が染み出すようになる。そこで、もし1次抗体4にCRP抗原2が結合していれば、さらに該抗原2に2次抗体6が結合し、その2次抗体6の標識である蛍光体10がエバネッセント波11によって励起されることとなる。励起された蛍光体10は所定波長の蛍光を発し、その蛍光は光検出器9によって検出される。こうして、光検出器9が所定波長の蛍光を検出した場合は、それにより、CRP抗原2に2次抗体6が結合していること、すなわち試料1にCRP抗原2が含まれていることを確認可能となる。
【0040】
なお上記エバネッセント波11は、プリズム13と金属膜20との界面から数百nm程度の領域にしか到達しない。そこで、試料1中の不純物/浮遊物からの散乱を略皆無とすることができる。それに加えてこの蛍光センサにおいて、プリズム13中の不純物N等で散乱した光(これは通常の伝搬光である)は金属膜20で遮断され、光検出器9に到達することがない。以上によりこの蛍光センサにおいては、光ノイズを殆ど皆無までに低減することができ、極めて高S/Nの蛍光検出が可能となる。
【0041】
次に、蛍光体10が発する蛍光について詳しく説明する。この蛍光体10としてのローダミンBは、波長800nmの励起光8により励起されたとき、その励起光8が十分高強度であれば2光子吸収を発現し、ピーク波長が580nm近辺に有るオレンジ色の蛍光を発する。本実施形態の蛍光センサにおいては、プリズム13の一表面13aに金属膜20が形成されているので、ここで表面プラズモンが励起される。そこでこの表面プラズモンの電界増幅作用によって励起光8の強度が高められ、上記の2光子吸収が発現する。
【0042】
こうして発せられる蛍光は、励起光8とは波長差が200nm以上も有るので、光検出器9として波長580nm近辺の光を主に検出するものを用いることにより、励起光8の影響を除いて高S/Nで蛍光を検出可能となる。具体的には、2光子吸収を利用しない場合と比べて、蛍光検出感度を3桁程度改善できることが判っている。
【0043】
また、高強度の励起光8を得るために表面プラズモンの電界増幅作用を利用しているので、光源7には連続駆動する通常の半導体レーザが使用可能となり、Q−スイッチレーザ等の高価で大型の光源は不要となる。その結果、本実施形態の蛍光センサは比較的安価で小型に形成可能なものとなり、一般家庭で用いられる簡易計測器や簡易診断装置等として構成することも可能となる。
【0044】
なお特に本実施形態の場合、励起光8の波長が赤外領域にあるため、散乱などによる励起光のノイズは人間の目には全く視認されない。そこで、波長580nm近辺の蛍光のみを容易に視認可能となるので、特に蛍光検出手段は作動させなくても高感度の蛍光検出が可能となり、この点からも本実施形態の蛍光センサは、家庭用装置として構成する上で好適なものとなる。
【0045】
さらに本実施形態の蛍光センサにおいては、金属膜20の上に膜厚が20nmの不撓性膜31が設けられているので、試料1中の蛍光体10が金属膜20に対して、金属消光が起きる程度まで近接してしまうことが防止される。そこでこの蛍光センサによれば、上述のような金属消光を招くことがなくなり、表面プラズモンによる電場増幅作用を確実に得て、極めて高い感度で蛍光を検出可能となる。
【0046】
そして上記不撓性膜31は疎水性材料であるポリスチレン系ポリマーから形成されているので、液体状の試料1中に存在する金属イオンや溶存酸素のような消光の原因となる分子が該不撓性膜31の内部に入り込むことが無く、よってそれらの分子が励起光8の励起エネルギーを奪ってしまうことが防止される。そこでこの蛍光センサによれば、極めて高い励起エネルギーが確保され、極めて高い感度で蛍光を検出可能となる。
【0047】
なお、この蛍光センサにおいて、CRP抗原2と結合しないで不撓性膜31の表面から離れている2次抗体6は、そこまでエバネッセント波11が届かないので蛍光を発することがない。そこで、試料1中でそのような2次抗体6が浮遊していても測定上問題が無いので、測定毎に洗浄つまりB/F分離(バウンド/フリー分離)を行う必要もない。
【0048】
以上、蛍光体に2光子吸収を発現させるように構成された本発明の実施形態について説明したが、本発明の表面プラズモン増強蛍光センサは2光子吸収に限らず、3光子以上の多光子吸収を発現させるように構成されてもよい。
【0049】
また本発明の表面プラズモン増強蛍光センサは、上の実施形態におけるローダミンBに限らず、その他のベンゾチアジアゾール蛍光色素、クマリン色素、スチルベン系化合物、ジヒドロフェナントレン系化合物 または フルオレン系化合物等を含む試料を検出対象として、それらに多光子吸収を発現させるように構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態による表面プラズモン増強蛍光センサを示す概略側面図
【図2】従来の蛍光センサの一例を示す概略側面図
【図3】従来の蛍光センサの別の例を示す概略側面図
【符号の説明】
【0051】
1 試料
2 抗原
4 1次抗体
6 2次抗体
7 光源
8 励起光
9 光検出器
10 蛍光体
13 プリズム(誘電体ブロック)
20 金属膜
31 不撓性膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定波長の励起光を発する光源と、
前記励起光を透過させる材料から形成された誘電体ブロックと、
この誘電体ブロックの一表面に形成された金属膜と、
この金属膜の近傍位置に試料を保持する試料保持部と、
前記励起光を、前記誘電体ブロックと金属膜との界面に向けて、全反射条件を満たすように誘電体ブロックを通して入射させる入射光学系と、
前記界面に前記励起光が入射したとき、該界面から染み出すエバネッセント波に励起されて、前記試料中に含まれる物質が発した蛍光を検出する蛍光検出手段とを備えてなる表面プラズモン増強蛍光センサにおいて、
前記光源として、前記試料中に含まれる物質に多光子吸収を発現させる波長の励起光を発するものが用いられ、
前記蛍光検出手段として、前記物質が多光子吸収して発した蛍光の波長域に感度を有するものが用いられていることを特徴とする表面プラズモン増強蛍光センサ。
【請求項2】
前記光源が、前記物質としてのローダミンB、ベンゾチアジアゾール蛍光色素、クマリン色素、スチルベン系化合物、ジヒドロフェナントレン系化合物 または フルオレン系化合物 に多光子吸収を発現させる波長の励起光を発するものであることを特徴とする請求項1記載の表面プラズモン増強蛍光センサ。
【請求項3】
前記金属膜の上に、疎水性材料からなる不撓性膜が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の表面プラズモン増強蛍光センサ。
【請求項4】
前記不撓性膜がポリマーからなるものであることを特徴とする請求項3記載の表面プラズモン増強蛍光センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−145309(P2008−145309A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333926(P2006−333926)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】