説明

表面処理シリカ添着カーボンブラックの製造方法、表面処理シリカ添着カーボンブラック及びそれを用いたゴム組成物

【課題】シリカ同士の相互作用によるシリカ添着カーボンブラック同士の凝集を防止し、ゴム組成物配合時にはヒステリシスロス性が低い表面処理シリカ添着カーボンブラックの製造方法、表面処理シリカ添着カーボンブラック及びそれを用いたゴム組成物を提供する。
【解決手段】シリカが付着または沈積したシリカ添着カーボンブラック表面に、シランカップリング剤を反応させて表面処理した表面処理シリカ添着カーボンの製造方法、表面処理シリカ添着カーボン及びそれを用いたゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理シリカ添着カーボンブラックの製造方法、表面処理シリカ添着カーボンブラック及びそれを用いたゴム組成物に関し、詳しくは、シリカ同士の相互作用によるシリカ添着カーボンブラック同士の凝集を防止し、ゴム組成物配合時にはヒステリシスロス性が低い表面処理シリカ添着カーボンブラックの製造方法、表面処理シリカ添着カーボンブラック及びそれを用いたゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にゴム組成物は、高温域の損失正接(ヒステリシスロス性、tanδ)を低くして、耐久性を向上することが求められ、そのため、ゴム組成物にシリカ充填剤を配合することが知られている。しかしながら、シリカ充填剤はゴム組成物中への分散性が悪いという問題点があった。
【0003】
そこで、かかる問題を回避するために、カーボンブラックの表面にシリカが付着または沈積した、即ちシリカ添着カーボンブラックをゴムに配合することが提案されている。例えば、特許文献1には、架橋可能な少なくとも1種のゴム成分に、シリカを表面に付着させたシリカ表面処理カーボンブラックを配合して成るゴム組成物が開示されている。
【特許文献1】特開平8−277347号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載のシリカ添着カーボンブラックは、カーボンブラックの表面上にシリカを添着させてはいるものの、ゴム中に分散させる際、カーボンブラックの表面に付着しているシリカ同士の相互作用によりシリカ添着カーボンブラック同士が凝集しやすく、やはりゴム組成物配合時にはヒステリシスロス性が高くなるという問題点は避けられなかった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、シリカ同士の相互作用によるシリカ添着カーボンブラック同士の凝集を防止し、ゴム組成物配合時にはヒステリシスロス性が低い表面処理シリカ添着カーボンブラックの製造方法、表面処理シリカ添着カーボンブラック及びそれを用いたゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、シリカを表面に付着させたカーボンブラックは、依然として表面のシリカ同士の相互作用により凝集力が強いため、シリカ添着カーボンブラックの表面を更にシランカップリング剤で処理することで前記課題を解決し得ることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の表面処理シリカ添着カーボンブラックの製造方法は、シリカが付着または沈積したシリカ添着カーボンブラック表面に、シランカップリング剤を反応させて表面処理したことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の表面処理シリカ添着カーボンブラックの製造方法は、前記表面処理が、SiO単位からなるシリカ添着カーボンブラック表面に、一般式RSiO3/2単位(式中、Rは、チオール基を含む炭素数1〜20のアルキル基を表す)のシランカップリング剤を導入する処理であることが好ましく、あるいは、前記表面処理が、一般式RSi(OR(式中、Rは、チオール基を含む炭素数1〜20のアルキル基を表し、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す)で表される3官能性シラン化合物による処理であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の表面処理シリカ添着カーボンブラックは、前記表面処理シリカ添着カーボンブラックの製造方法により製造されたことを特徴とするものである。
【0010】
さらに、本発明の表面処理シリカ添着カーボンブラックは、表面処理前の表面のシラノール基に対して、表面処理後の表面のシラノール基の割合が、50質量%以下であることが好ましい。
【0011】
さらにまた、本発明のゴム組成物は、ゴム成分に前記表面処理シリカ添着カーボンブラックを添加してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、シリカ同士の相互作用によるシリカ添着カーボンブラック同士の凝集を防止し、ゴム組成物配合時にはヒステリシスロス性が低い表面処理シリカ添着カーボンブラックの製造方法、表面処理シリカ添着カーボンブラック及びそれを用いたゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態について具体的に説明する。
本発明の表面処理シリカ添着カーボンブラックの製造方法は、シリカが付着または沈積したシリカ添着カーボンブラック表面に、シランカップリング剤を反応させて表面処理する。これにより、シリカ添着カーボンブラックの表面をシランカップリング剤が覆い、シリカ同士の相互作用が弱くなり、表面処理シリカ添着カーボンブラック同士を凝集しにくくすることができる。
【0014】
また、本発明の製造方法においては、表面処理としては、シランカップリング剤によりシリカ添着カーボンブラックの表面を覆うことができればよく、その処理は特に限定されないが、表面処理が、SiO単位からなるシリカ添着カーボンブラック表面に、一般式RSiO3/2単位(式中、Rは、チオール基を含む炭素数1〜20のアルキル基を表す)のシランカップリング剤を導入する処理であることが好ましく、あるいは、表面処理が、一般式RSi(OR(式中、Rは、チオール基を含む炭素数1〜20のアルキル基を表し、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す)で表される3官能性シラン化合物による処理であることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明において、上記表面処理としては、例えば、シランカップリング剤としてヘキサメチルジシランを用いたトリメチルシリル化による表面処理が挙げられる。
【0016】
さらにまた、本発明において、表面処理の反応温度は、所望の効果が得られれば限定されないが、シランカップリング剤を室温にて反応させて処理することが好ましい。
【0017】
本発明において使用されるシリカ添着カーボンブラックとしては、所望の効果が得られれば特に制限されず、例えば、特開昭63−63755号公報に記載の方法等により製造することができる。具体的には、カーボンブラックを水中に分散させ、pHを6以上に調整し、温度を70℃以上に保ちながらケイ酸ナトリウムを加水分解させ、カーボンブラック粒子表面上に無定形シリカを付着または沈積させて、製造することができる。
【0018】
また、本発明において使用されるカーボンブラックとしては、特に限定されず、HAF級のものなど公知のものを使用することができる。
【0019】
さらに、上記シリカ添着カーボンブラック中のシリカの添着量は0.1〜50質量%であることが好ましく、0.3〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0020】
また、本発明の表面処理シリカ添着カーボンブラックは、上記表面処理シリカ添着カーボンブラックの製造方法により製造されたものであり、かかる表面処理シリカ添着カーボンブラックは、シリカの表面をシランカップリング剤が覆っているため、シリカ同士の相互作用が弱く、表面処理シリカ添着カーボンブラック同士が凝集しにくい。
【0021】
さらに、本発明の表面処理シリカ添着カーボンブラックは、表面処理前の表面のシラノール基に対して、表面処理後の表面のシラノール基の割合が、50質量%以下であることが好ましい。これにより、表面処理シリカ添着カーボンブラック同士がより凝集しにくくなる。
【0022】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分に、上記表面処理シリカ添着カーボンブラックを添加してなるものであり、かかる表面処理シリカ添着カーボンブラックをゴム組成物に使用することにより、シリカおよびカーボンブラックともに分散がよく、低ヒステリシスロス性のゴム組成物を得ることができる。
【0023】
本発明において使用されるゴム成分としては、天然ゴム、汎用合成ゴム、例えば、乳化重合スチレン−ブタジエンゴム、溶液重合スチレン−ブタジエンゴム、高シス−1,4ポリブタジエンゴム、低シス−1,4ポリブタジエンゴム、高シス−1,4ポリイソプレンゴム等、ジエン系特殊ゴム、例えば、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム等、オレフィン系特殊ゴム、例えば、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン等、その他特殊ゴム、例えば、ヒドリンゴム、フッ素ゴム、多硫化ゴム、ウレタンゴム等を挙げることができる。コストと性能とのバランスから、好ましくは、天然ゴムまたは汎用合成ゴムである。また、本発明で用いられるゴム成分は、2種以上のゴム成分を併用することもできる。
【0024】
本発明に係るゴム組成物において、表面処理シリカ添着カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して10〜200質量部とすることが好ましい。10質量部未満では所期の性能を十分に得ることができず、また、200質量部を超えて含有させても、所期の性能のさらなる向上効果は発現しにくく、混合や成型等における作業性が低下するため、いずれも好ましくない。
【0025】
また、本発明のゴム組成物には、上記ゴム成分および表面処理シリカ添着カーボンブラックの他、ゴム業界で通常用いられている各種添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜配合することができる。例えば、シランカップリング剤等のカップリング剤、軟化剤、硫黄等の加硫剤、ジベンゾチアジルジスルフィド等の加硫促進剤、N−シクロへキシル−2−ベンゾチアジル−スルフェンアミド、N−オキシジエチレン−ベンゾチアジル−スルフェンアミド等の老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、オゾン劣化防止剤、発泡剤、発泡助剤等が挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、これら各種添加剤としては、市販品を使用することができる。
【0026】
本発明のゴム組成物は、常法に従い適宜装置、条件、手法等にて混練り、熱入れ、押出等することにより調製し、タイヤ等の各種ゴム製品に好適に適用することができ、特にタイヤに好適に使用できる。
【0027】
混練りは、混練り装置への投入体積、ローターの回転速度、ラム圧等や、混練り温度、混練り時間、混練り装置等の諸条件について特に制限はなく、所望に応じ適宜選択することができる。混練り装置としては、例えば、ロールなどの開放式混練機やバンバリーミキサーなどの密閉式混練機等が挙げられ、市販品を好適に使用することができる。
【0028】
熱入れまたは押出についても、熱入れまたは押出の時間、熱入れまたは押出の装置等の諸条件について特に制限はなく、所望に応じ適宜選択することができる。また、熱入れまたは押出の装置についても、市販品を好適に使用することができる。
【0029】
また、本発明のゴム組成物のタイヤへの使用としては、トレッド、ベルトなどの部材に上記本発明のゴム組成物を用いることができ、その具体的な構造や他の材料等については特に制限されるものではない。なお、かかるタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例により更に詳しく説明する。本発明は、この例によって限定されるものではない。
【0031】
シリカ添着カーボンブラックの調製
カーボンブラック(旭カーボン社製)を水中に分散させ、pHを6以上に調整し、温度を70℃以上に保ちながら、ケイ酸ナトリウムを加水分解させて、カーボンブラック粒子表面上に無定形シリカを付着または沈積させることにより、シリカ添着カーボンブラックを調製した。
【0032】
表面処理シリカ添着カーボンブラックの調製
上記得られたシリカ添着カーボンブラックを水に分散させてから、メチルイソブチルケトンを添加した後、さらに、室温でヘキサメチルジシランを添加し反応させて、トリメチルシリル化したシリカ添着カーボンブラック(表面処理シリカ添着カーボンブラック)を得た。得られた表面処理シリカ添着カーボンブラックは、表面処理前の表面のシラノール基に対して、表面処理後の表面のシラノール基の割合が、40質量%であった。
【0033】
実施例1及び比較例1、2
混練り条件
表1に示す各種カーボンブラックを用いて、ラボプラストミル(東洋精機(株)製)にて、天然ゴム(NR)およびスチレンブタジエンゴム(SBR)を70℃、50rpmで3分間素練りした後、下記の表1に示す、加硫促進剤および硫黄を除く各添加剤を投入して、70℃にて30rpmで更に混合した(ノンプロ配合)。得られた混合物を取り出して、冷却、秤量した後、残りの加硫促進剤および硫黄を投入し、プラベンダーを用いて、50℃にて30rpmで再度混合した(プロ配合)。
【0034】
ゴムシート作製条件
混練りした混合物を高温プレスを用いて150℃×15分にて加硫して、1mm厚の加硫ゴムシートを作製した。
【0035】
得られたゴムシートについて下記評価を行い、結果を表1に併記した。
【0036】
ヒステリシスロス性(低ロス指数)
50℃、15Hz、歪10%で、ヒステリシスロス性(tanδ)を測定し、それぞれ比較例1を100とした値で示した。値が低いほど、低ロス指数が良好である。
【0037】
補強材の分散性
コンパウンドの架橋物のシートをカミソリ刃で切断後、断面を光学顕微鏡により観察し、断面に存在する凝集塊の数と大きさにより5点法で評価した。点数が大きいほど分散性は良好である。
【0038】
【表1】

*1)シリカ:(東ソーシリカ社製)
*2)シランカップリング剤:(S;69、デガッサ社製)
*3)ワックス
*4)N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン
*5)1,3−ジフェニルグアニジン
*6)ジベンゾチアジルジスルフィド
*7)N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
【0039】
表1の結果から、実施例1は、比較例1および2と比較して、ヒステリシスロス性が低く、補強剤の分散性も良好で、凝集が抑えられたことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカが付着または沈積したシリカ添着カーボンブラック表面に、シランカップリング剤を反応させて表面処理したことを特徴とする表面処理シリカ添着カーボンブラックの製造方法。
【請求項2】
前記表面処理が、SiO単位からなるシリカ添着カーボンブラック表面に、一般式RSiO3/2単位(式中、Rは、チオール基を含む炭素数1〜20のアルキル基を表す)のシランカップリング剤を導入する処理である請求項1記載の表面処理シリカ添着カーボンブラックの製造方法。
【請求項3】
前記表面処理が、一般式RSi(OR(式中、Rは、チオール基を含む炭素数1〜20のアルキル基を表し、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す)で表される3官能性シラン化合物による処理である請求項1記載の表面処理シリカ添着カーボンブラックの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか一項記載の表面処理シリカ添着カーボンブラックの製造方法により製造されたことを特徴とする表面処理シリカ添着カーボンブラック。
【請求項5】
表面処理前の表面のシラノール基に対して、表面処理後の表面のシラノール基の割合が、50質量%以下である請求項4記載の表面処理シリカ添着カーボンブラック
【請求項6】
ゴム成分に、請求項4または5記載の表面処理シリカ添着カーボンブラックを添加してなることを特徴とするゴム組成物。

【公開番号】特開2009−185115(P2009−185115A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23754(P2008−23754)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】