説明

表面処理方法

【課題】金属表面へのめっき等の前処理として、金属表面の酸洗浄が一般に行われる。酸洗浄を行う場合、酸洗浄後の廃酸処理や、酸洗浄後の水洗に使用される多量の洗浄水の処理等が必要となり、これらの処理はコストを増大させるだけでなく、環境問題を引き起こす要因となる。
【解決手段】酸を用いずに、超臨界状態、亜臨界状態又は液体状態の高圧二酸化炭素流体と、水との混合相を調製し、金属成分が付着した基材を混合相に接触させることにより、基材から金属成分を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属等の表面処理方法に関し、より詳細には、金属めっきの前処理工程、あるいはMEMS(Micro Electro Mechanical System)の洗浄工程において用いることができる表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面へのめっき等の前処理として、金属表面の酸洗浄が一般に行われている。酸洗浄は、金属表面に存在するスケール層の除去、表面粗化、活性化などの目的で行われ、金属とめっき膜との密着性に大きく影響する。酸洗浄においては、一般に下地金属を損傷しない範囲で、できるだけ低いpH(水素イオン濃度)の強酸が用いられている。このため、酸洗浄後の廃酸処理や、水洗に使用される多量の洗浄水の処理等が必要となるとともに環境問題を生じる。
【0003】
電子回路や機構的要素を作り込むMEMSについても酸洗浄が用いられている。MEMSは、エレクトロニクスへの応用のみならず、バイオや医療、光等の様々な分野で使われ始めつつある。MEMSの製造には、基本的には半導体製造のプロセス技術が用いられるが、MEMSにおける機構的要素は非常に深いエッチングにより形成されることから、パーティクルやレジスト残渣、金属、酸化膜等の洗浄・除去工程が半導体以上に重要となる。
【0004】
半導体の製造プロセスでは、金属や有機物、パーティクル、酸化膜等の洗浄対象ごとに異なる洗浄液が用いられる。例えば、金属に対しては塩酸+過酸化水素+水、有機物に対してはアンモニア+過酸化水素+水、パーティクルに対しては硫酸+過酸化水素+水、酸化膜に対してはフッ酸+過酸化水素+水のような洗浄液が用いられる。この分野で使われる洗浄液は純度が高く高価であるが、結局は上述しためっきプロセス同様に、環境とコストの課題がある。
【0005】
被めっき材の酸洗浄工程において、少量の酸洗浄液で効率的に洗浄を行うための技術としては、例えば特許文献1に記載のように、超臨界二酸化炭素(以下、SCCOという)流体、あるいは亜臨界二酸化炭素流体に酸水溶液を添加・混合する技術が挙げられる。SCCO流体は、二酸化炭素が31℃以上かつ73気圧以上の高圧域で実現する流体で、いくつかの特異的な性質を示す。その特異性の1つに、優れた浸透性がある。特許文献1は、優れた浸透性を有するSCCO流体又は亜臨界二酸化炭素流体を循環させることにより、少量の酸洗浄液で効率的に洗浄を行う方法を開示している。また、この文献はSCCO流体又は亜臨界二酸化炭素流体と酸洗浄液との混合物に界面活性剤を添加して乳化させ、被めっき材に作用させることにより、酸洗浄を効率的に行う方法をも開示している。
【0006】
【特許文献1】特開2003−147591
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の洗浄方法では少量とはいえ、酸洗浄液を使用しているため、廃酸や洗浄水の処理工程の必要性、及び環境問題は依然として存在する。
【0008】
本発明はこのような状況を鑑み、発明者らが鋭意研究を進めた結果成し遂げられたものである。本発明者は、従来の強酸水溶液を用いることなく、強酸等、環境負荷の大きい薬剤を全く含まない水に高圧二酸化炭素を溶解・混合させた流体を用いるだけで、金属表面のめっき前処理や、MEMSの製造プロセスにおける金属系汚染の除去に極めて有効であることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様に従えば、基材の表面処理方法であって、酸を用いずに、高圧二酸化炭素と水との混合相を調製することと、金属成分が付着した基材を混合相に接触させて、金属成分を除去することとを含む基材の表面処理方法が提供される。
【0010】
本発明において、高圧二酸化炭素とは、二酸化炭素が31℃以上、73気圧以上の高圧域で実現する流体である超臨界状態の二酸化炭素、温度・圧力の明確な定義はないが、超臨界領域の液体領域側に示される亜臨界状態の二酸化炭素、及び液体状態の二酸化炭素を含む。高圧二酸化炭素は、表面エネルギーが極めて低いため、高い浸透性を示すが、極性の強い水とは混じり合わないと考えられている。しかし、気体状態の二酸化炭素は、水に溶解して炭酸となるように、水に対する溶解度は高い。Henryの法則に従えば、気体の溶解度は圧力とともに増加するから、高圧二酸化炭素と接する水には、実際にはかなりの二酸化炭素が溶解することになる。このため高圧二酸化炭素と接する水は、高圧二酸化炭素と同様の、高い浸透性を示す。
【0011】
本発明の基材の表面処理方法では、高圧二酸化炭素と水とから高い浸透性を示す混合相を、酸を全く用いずに調製し、金属の付着した基材をその混合相に接触させることにより、金属成分を除去する。したがって、基材のめっき前処理における洗浄や、MEMS製造プロセスにおける洗浄、とりわけ金属汚染の除去に適用することができる。また、酸を全く用いないため、酸洗浄した場合に必要となる廃酸処理や、多量の洗浄排水処理が不要となる。よって、省資源化や省力化による低コスト化、並びに酸成分の不使用による安全性の向上を図ることができ、しかも環境問題に対処することができる。
【0012】
本発明の基材の表面処理方法において、アルコールをさらに添加して前記混合相を調製してもよい。アルコールは、表面張力が小さいため、高圧二酸化炭素に良く溶ける一方、極性溶媒であるため水とも良く混じり合う。このため、アルコールを添加することにより高圧二酸化炭素と水との混合相を効率よく調製することができ、混合流体の有する酸化力あるいは溶解力を著しく増加することができる。
【0013】
本発明の基材の表面処理方法では、攪拌して前記混合相を調製してもよい。攪拌することにより、高圧二酸化炭素と水との混合相化を促進し混合流体の酸化力あるいは溶解力を一層増加することができる。
【0014】
本発明の基材の表面処理方法では、界面活性剤をさらに添加して攪拌することにより前記混合相を調製してもよい。界面活性剤を添加して攪拌することにより、非極性流体である高圧二酸化炭素と、極性流体である水との混合相化が促進され、より均一な混合相を調製することができる。
【0015】
本発明の基材の表面処理方法では、前記高圧二酸化炭素は、超臨界状態の二酸化炭素、亜臨界状態の二酸化炭素、及び液体状態の二酸化炭素を含んでもよい。
【0016】
本発明の基材の表面処理方法では、前記混合相は、約3MPa〜20MPaの圧力で保持されてもよく、約20℃〜35℃の温度で保持されてもよい。混合相を上記圧力、および温度で保持することにより、金属を効率的に溶解することができる。
【0017】
本発明の基材の表面処理方法では、前記混合相は高圧二酸化炭素と水との容積比が約40/60〜80/20で調製されてもよい。上記の容積比で混合相を調製することにより、金属を効率的に溶解することができる。
【0018】
本発明の第2の態様に従えば、金属成分が付着した基材に接触させて金属成分を基材から除去するために用いる洗浄用流体であって、高圧二酸化炭素と水とからなり、約3MPa〜20MPaで保持される洗浄用流体が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、酸を全く用いずに、金属を有効に除去することができるので、基材のめっき前処理における洗浄や、MEMS製造プロセスにおける洗浄、とりわけ金属汚染の除去に極めて有用である。特に、酸を全く用いないため、酸洗浄した場合に必要となる廃酸処理や、多量の洗浄排水処理が不要となり、省資源化や省力化による低コスト化、並びに酸の不使用による安全性の向上を図ることができ、環境負荷低減に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明について実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0021】
本発明に基づきSCCO流体と水の混合流体に対する金属の溶解度が、攪拌、アルコールの添加、界面活性剤の添加、及びこれらの組み合わせによってどのように変化するかを実験した。以下の実験では、SCCO流体と水の混合流体の攪拌回数、添加する界面活性剤の量及び種類、添加するアルコールの量及び種類、並びにこれらの混合流体に浸漬する金属の種類を変えながら、種々の条件で混合流体を調製し、1時間浸漬前後における浸漬した金属の重量変化を測定した。
【0022】
[実施例1−1]
SCCO流体と水の混合流体を以下のように調製した。SUS316L製高圧容器内にテフロン(登録商標)製円筒容器(テフロン(登録商標)製ネジ蓋および高圧CO流体導入用細孔付き:容器内容量25ml)を設置し、その中に18mlのイオン交換水を注入し、イオン交換水に10mm×15mm×0.8mmの寸法の下記表1に示す金属片を浸漬させた。次にテフロン(登録商標)製円筒容器のネジ蓋を閉じ、SUS製高圧容器内に15MPaのSCCO流体を導入し、導入孔を介してテフロン(登録商標)製円筒容器内にも15MPaのSCCO流体を導入した。温度は高圧容器に巻いたマントルヒーターで加熱し、熱電対でその温度を測定している。SUS製高圧容器全体を35℃(二酸化炭素の超臨界状態)に維持し、SCCO流体とイオン交換水の混合流体の大気下浴pHを5.5に維持した。この状態でテフロン(登録商標)容器下部に設置したマグネティックスターラーにより攪拌を行った。攪拌は各金属片試料につき下記表1に示す速度で行った。この条件下で金属片を浸漬し、1時間保持前後における金属片の重量変化をザルトリウス社製デジタル式秤量計により測定した。この結果を下記表1に示す。
【0023】

【表1】

【0024】
Ni片では、500rpmで攪拌した場合、重量変化が−0.05%であったのに対し、1000rpmで攪拌した場合、重量変化は−0.08%であった。Fe片では、1000rpmで攪拌した場合、重量変化が−0.19%であった。Al片では、500rpmで攪拌した場合、重量変化が−0.13%であった。また、Cu片では、500rpmで攪拌した場合、重量変化が−0.05%であったのに対し、1000rpmで攪拌した場合、重量変化は−0.06%であった。このように、金属片の種類によって変化の大きさは異なるものの、いずれの金属片においても浸漬前後で重量変化が生じた。これらの結果から、攪拌のみによっても金属(Ni、Fe、Al、Cu)片の溶解が生じていることがわかった。
【0025】
[実施例1−2]
この実施例では、SCCO流体と水の混合流体にさらに下記表2に示すアルコールを添加して調製した混合流体による金属の溶解性を調べた。但し、攪拌は行わなかった。その他の実施条件は実施例1−1と同様である。この結果を下記表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
アルコールの種類がエタノール(EtOH)の場合、Ni片、Fe片、Al片、Cu片の重量変化はそれぞれ、−0.17%、−0.23%、−0.23%、−0.08%であった。アルコールの種類がメタノール(MeOH)の場合、Ni片、Fe片、Al片、Cu片の重量変化はそれぞれ、−0.17%、−0.24%、−0.25%、−0.06%であった。また、アルコールの種類がイソプロパノール(IPA)の場合、Ni片、Fe片、Al片、Cu片の重量変化はそれぞれ、−0.15%、−0.20%、−0.21%、−0.06%であった。以上のように、金属片の種類、及びアルコールの種類によって変化の大きさは異なるものの、いずれの金属片においても浸漬前後で重量変化が生じた。これらの結果から、攪拌のみによっても金属片の溶解が生じていることがわかった。これらの結果から、アルコールのみの添加によっても金属(Ni、Fe、Al、Cu)片の溶解が生じていることがわかった。
【0028】
[実施例1−3]
この実施例では、SCCO流体と水の混合流体に下記表3に示すアルコールを添加し、さらに攪拌して調製した混合流体による金属の溶解性を調べた。SCCO流体と水の混合流体にアルコールを添加した後に、下記表3に示す速度で攪拌を行ったこと以外の実施条件は、実施例1−2と同様である。この結果を下記表3に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
アルコールの濃度を15wt.%とし、500rpmで攪拌する場合、アルコールとしてエタノール(EtOH)、メタノール(MeOH)、イソプロパノール(IPA)を添加した場合、Ni片の重量変化はそれぞれ、−0.11%、−0.09%、−0.13%であった。一方、アルコールの濃度を35wt.%とし、200rpmで攪拌する場合、アルコールとしてエタノール、メタノール、イソプロパノールを添加すると、Ni片の重量変化はそれぞれ、−0.13%、−0.11%、−0.11%であった。また、エタノールの濃度を15wt.%とし、200rpmで攪拌すると、Ni片の重量変化は−0.07%であり、500rpmで攪拌した場合よりも少ない値を示した。また、エタノールの濃度を35wt.%とし、500rpmで攪拌すると、Fe片の重量変化は−0.18%であった。これらの結果から、アルコールを添加し、さらに攪拌した場合にも金属(Ni、Fe)片の溶解が生じていることがわかった。
【0031】
[実施例1−4]
この実施例では、SCCO流体と水の混合流体に界面活性剤を添加し、さらに攪拌して調製した混合流体による金属の溶解性を調べた。アルコールではなく界面活性剤を添加したこと以外の条件は、実施例1−3と同様である。なお、下記表4における界面活性剤aは炭化水素系界面活性剤トーレックス1000(東信油化社製、以下「トーレックス1000」と呼ぶ)を表し、界面活性剤bはフッ素系脂肪族系ポリマーエステル(3M社製、以下「ポリマーエステル」と呼ぶ)を表す。この結果を下記表4に示す。
【0032】
【表4】

【0033】
トーレックス1000を添加して500rpmで攪拌した場合、トーレックス1000の濃度を0.05wt.%、0.1wt.%、0.5wt.%とすると、Ni片の重量変化はそれぞれ、−0.07%、−0.13%、−0.18%となり、濃度が上がるにつれて重量変化の値も大きくなった。一方、ポリマーエステルを添加して500rpmで攪拌した場合も、ポリマーエステルの濃度を0.05wt.%、0.1wt.%、0.5wt.%とすると、Ni片の重量変化はそれぞれ、−0.04%、−0.10%、−0.15%となり、濃度が上がるにつれて重量変化の値も大きくなった。また、0.1wt.%のトーレックス1000を添加して200rpmで攪拌した場合と、1000rpmで攪拌した場合とでは、Ni片の重量変化はそれぞれ−0.04%、−0.17%となり、攪拌量が多いほど、重量変化は大きかった。Fe片の場合、0.1wt.%のトーレックス1000を添加して500rpmで攪拌すると、重量変化が−0.23%であったのに対し、0.1wt.%のポリマーエステルを添加して500rpmで攪拌すると、重量変化が−0.21%であった。Al片の場合、0.1wt.%のトーレックス1000を添加して500rpmで攪拌すると、重量変化が−0.26%であったのに対し、0.1wt.%のポリマーエステルを添加して500rpmで攪拌すると、重量変化が−0.22%であった。これらの結果から、界面活性剤を添加し、さらに攪拌した場合、金属の種類や界面活性剤の種類によって程度は異なるものの、金属(Ni、Fe、Al)片の溶解が生じていることがわかった。
【0034】
[実施例1−5]
この実施例では、SCCO流体と水の混合流体にさらに界面活性剤を添加して調製した混合流体による金属の溶解性を調べた。アルコールのかわりに界面活性剤を添加したこと以外の実施条件は、実施例1−2と同様である。界面活性剤としては、トーレックス1000、及びポリマーエステルを用い、金属片としてはCu片を用いた。この結果を下記表5に示す。なお、aはトーレックス1000、bはポリマーエステルを表す。
【0035】
【表5】

【0036】
トーレックス1000を添加した場合とポリマーエステルを添加した場合とでは、Cu片の重量変化はそれぞれ−0.07%、−0.06%であった。この結果から、界面活性剤のみの添加によってもCu片の溶解が生じていることがわかった。
【0037】
[実施例1−6]
実施例1−1〜1−5では、高圧容器(テフロン(登録商標)製)中のイオン交換水量/SCCO流体(35℃、15MPaの超臨界状態)の容積比率を、70/30とした。この値が大きいと混合流体中のCO量が不足して所望の溶解性が得られず、逆に水量が少なすぎると、金属表面の処理が不均一となり、不都合である。容積比率の好適な範囲を分析するために、以下の実験を行った。
【0038】
水とSCCO流体との容積比を変えながら、SCCO流体と水の混合流体に、エタノール、及び界面活性剤を添加し、さらに攪拌して調製した種々の混合流体の金属の溶解性を調べた。SCCO流体と水の混合流体を以下のように調製した。SUS316L製高圧容器内にテフロン(登録商標)製円筒容器(テフロン(登録商標)製ネジ蓋および高圧CO流体導入用細孔付き:容器内容量25ml)を設置し、その中にイオン交換水を注入し、アルコールとして50vol%(25℃)のエタノール、及び界面活性剤として0.5wt.%のトーレックス1000を添加した。テフロン(登録商標)製円筒容器のネジ蓋を閉じ、SUS製高圧容器内に15MPaのSCCO流体を導入するとともに、導入孔を介してテフロン(登録商標)製円筒容器内にも15MPaのSCCO流体を導入した。温度は高圧容器に巻いたマントルヒーターを熱電対で制御して、SUS製高圧容器全体を35℃に維持し、SCCO流体とイオン交換水の混合流体の大気下浴pHを5.5に維持した。さらに、テフロン(登録商標)容器下部に設置したマグネティックスターラーにより500rpmで攪拌を行った。この条件下で、混合流体中にNi片を浸漬させ、1時間保持前後におけるNi片の重量変化をザルトリウス社製デジタル式秤量計により測定し、目視により表面処理の均一性について観察した。この結果を下記表6に示す。
【0039】
【表6】

【0040】
以上の結果より、水とSCCO流体の容積比は、被処理物の大きさにも依存するが、概ね40/60〜80/20の範囲が好適であるといえる。
【0041】
実施例1が示すように、SCCO流体と水を混合流体化することで、実用金属表面を溶解せしめる特性が新たに得られる。SCCO流体のような高圧二酸化炭素流体と水との混合流体では、下記式のように水に溶解した二酸化炭素がイオン解離することにより水素イオンが生じ、pHが低下してわずかに酸性を帯びる。
CO + HO → HCO + H
しかし、本発明において金属成分が除去されるのは、二酸化炭素が水に溶解してpHが低下するためではないと考えられる。高圧二酸化炭素と接する水のpHは低下し、そこに浸漬した金属表面は不安定になるものの、短時間で溶解が進行するほどの強酸には至らないと推測されるからである。そして非極性のSCCO流体と極性流体である水との混合流体化は、双方に親和性を持つアルコールの添加または、界面活性剤と攪拌操作によって達成できる。実施例1に示す界面活性剤やその濃度、アルコールの種類や添加量は、その一態様を示すもので、この数値等に限定されるものでは無い。その溶解力は、イオン化傾向の大きい金属ほど大きく、イオン化傾向の小さい金属ほど小さくなるようである。
【実施例2】
【0042】
実施例1はSCCO流体を用いた実施例であったが、この溶解性は、SCCO流体に限定した特性ではないことが、我々の研究から判明している。すなわち超臨界状態ではない高圧二酸化炭素流体と水の混合流体でも、金属表面を溶解する優れた特性が得られることがわかった。以下に、実施例1の温度条件、及び保持圧力の条件を変えた場合の実施例を示す。測定に用いた装置は実施例1と同様である。
【0043】
[実施例2−1]
この実施例では、テフロン(登録商標)製容器内の温度を25℃、圧力を3MPa、又は5MPaに保持した状態で、超臨界状態ではない高圧二酸化炭素と水との混合流体を攪拌することにより混合流体を調製し、金属の溶解性を調べた。保持温度、保持圧力以外の実施条件については、実施例1−1と同様である。この結果を下記表7に示す。
【0044】
【表7】

【0045】
Ni片では、保持圧力を3MPaとした場合、重量変化が−0.04%であったのに対し、保持圧力を5MPaとした場合、重量変化は−0.06%であった。Fe片では、保持圧力を3MPaとした場合、重量変化が−0.08%であったのに対し、保持圧力を5MPaとした場合、重量変化は−0.11%であった。Al片では、保持圧力を3MPaとした場合、重量変化が−0.08%であったのに対し、保持圧力を5MPaとした場合、重量変化は−0.12%であった。またCu片では、保持圧力を3MPaとした場合も、5MPaとした場合も、重量変化は−0.03%であった。このように、金属片の種類によって変化の大きさは異なるものの、いずれの金属片においても浸漬前後で重量変化が生じた。これらの結果から、テフロン(登録商標)製容器内の温度を25℃に維持し、保持圧力を3MPa、又は5MPaとした場合においても、攪拌のみによって金属(Ni、Fe、Al、Cu)片の溶解が生じていることがわかった。
【0046】
[実施例2−2]
この実施例では、高圧二酸化炭素流体と水の混合流体にアルコールをさらに添加して調整した混合流体による金属の溶解性を調べた。本実施例においても、テフロン(登録商標)製容器内の温度を25℃に維持し、保持圧力を3MPa、又は5MPaとすることにより、超臨界状態ではない高圧二酸化炭素と水との混合流体を調製した。なお、本実施例では、アルコールとして55wt.%のエタノールを用いた。上記以外の実施条件については、実施例1−2と同様である。この結果を下記表8に示す。
【0047】
【表8】

【0048】
Ni片の場合、保持圧力を3MPa、5MPaとしたときの重量変化はそれぞれ、−0.11%、−0.13%であり、保持圧力が高いほど、重量変化が大きかった。Al片の場合、保持圧力を3MPa、5MPaとしたときの重量変化はそれぞれ、−0.19%、−0.24%であり、Al片においても保持圧力が高いほど、重量変化が大きかった。Fe片の場合、保持圧力を5MPaとしたときの重量変化は−0.15%であり、Cu片の場合、保持圧力を3MPaとしたときの重量変化は−0.05%であった。以上のように、金属片の種類によって変化の大きさは異なるものの、いずれの金属片においても浸漬前後で重量変化が生じた。これらの結果から、アルコール(エタノール)のみ添加することによっても金属(Ni、Fe、Al、Cu)片の溶解が生じていることがわかった。
【0049】
[実施例2−3]
この実施例では、高圧二酸化炭素流体と水の混合流体にアルコールを添加し、さらに攪拌して調製した混合流体による金属の溶解性を調べた。本実施例においても、テフロン(登録商標)製容器内の温度を25℃に維持し、保持圧力を3MPa、又は5MPaとすることにより、超臨界状態ではない高圧二酸化炭素と水との混合流体を調製した。なお、本実施例では、金属片としては、Ni、Fe、Al、Cuの小片を用い、アルコールとしてエタノールのみを用い、200rpmで攪拌を行った。上記以外の実施条件については、実施例1−3と同様である。この結果を下記表9に示す。
【0050】
【表9】

【0051】
Ni片の場合、15wt.%のエタノールを添加して、200rpmで攪拌すると、保持圧力が3MPaと5MPaの場合では、重量変化はそれぞれ−0.05%、−0.07%であった。一方、35wt.%のエタノールを添加して、200rpmで攪拌すると、保持圧力が3MPaと5MPaの場合では、重量変化はそれぞれ−0.09%、−0.11%となり、15wt.%のエタノールを添加した場合よりも大きな重量変化を示した。Fe片の場合、35wt.%のエタノールを添加して、200rpmで攪拌すると、保持圧力が5MPaの場合、重量変化は−0.13%であった。Al片の場合、35wt.%のエタノールを添加して、200rpmで攪拌すると、保持圧力が5MPaの場合、重量変化は−0.19%であった。また、Cu片の場合、35wt.%のエタノールを添加して、200rpmで攪拌すると、保持圧力が3MPaと5MPaの場合では、重量変化はそれぞれ−0.03%、−0.04%であった。これらの結果から、アルコールを添加し、さらに攪拌した場合にも金属(Ni、Fe、Al、Cu)片の溶解が生じていることがわかった。
【0052】
[実施例2−4]
この実施例では、高圧二酸化炭素と水の混合流体に界面活性剤を添加し、さらに攪拌して調製した混合流体による金属の溶解性を調べた。本実施例においても、テフロン(登録商標)製容器内の温度を25℃に維持し、保持圧力を3MPa、又は5MPaとすることにより、超臨界状態ではない高圧二酸化炭素と水との混合流体を調製した。攪拌は500rpmで行った。金属片としては、Ni、Fe、Alの小片を用い、界面活性剤としては、トーレックス1000、及びポリマーエステルを用いた。上記以外の実施条件は、実施例1−4と同様である。この結果を下記表10に示す。なお、aはトーレックス1000、bはポリマーエステルを表す。
【0053】
【表10】

【0054】
Ni片の場合、0.1wt.%のトーレックス1000を添加して500rpmで攪拌すると、保持圧力を3MPa、5MPaとした場合では、重量変化はそれぞれ−0.11%、−0.13%であった。一方0.1wt.%のポリマーエステルを添加して500rpmで攪拌すると、保持圧力を5MPaとした場合、重量変化は−0.10%であった。Fe片の場合、保持圧力を3MPaとして0.1wt.%のトーレックス1000を添加し、500rpmで攪拌すると、重量変化は−0.11%であったが、保持圧力を5MPaとして0.1wt.%のポリマーエステルを添加し、500rpmで攪拌しても、重量変化は−0.11%であった。Al片の場合、保持圧力を5MPaとして0.1wt.%のトーレックス1000を添加し、500rpmで攪拌すると、重量変化は−0.19%であった。Cu片の場合、0.1wt.%のトーレックス1000を添加して500rpmで攪拌すると、保持圧力を3MPa、5MPaとした場合では、重量変化はそれぞれ−0.04%、−0.03%であった。一方、0.1wt.%のポリマーエステルを添加して500rpmで攪拌すると、保持圧力を3MPa、5MPaとした場合では、重量変化はそれぞれ−0.03%、−0.05%であった。以上のように、金属片の種類や界面活性剤の種類によって重量変化の度合は異なるが、いずれの金属においても重量変化が生じた。これらの結果から、界面活性剤を添加し、さらに攪拌した場合、金属の種類や界面活性剤の種類によって程度は異なるものの、金属(Ni、Fe、Al、Cu)片の溶解が生じていることがわかった。
【0055】
[実施例2−5]
この実施例では、高圧二酸化炭素流体と水の混合流体を攪拌して調製した混合流体による金属の溶解性について調べた。本実施例では、テフロン(登録商標)製容器内の温度を20℃に維持し、保持圧力を10MPa、又は20MPaとすることにより、超臨界状態ではない高圧二酸化炭素と水との混合流体を調製した。保持温度、保持圧力以外の実施条件は、実施例2−1と同様である。この結果を下記表11に示す。
【0056】
【表11】

【0057】
Ni片では、保持圧力を10MPaとした場合、重量変化が−0.07%であったのに対し、保持圧力を20MPaとした場合、重量変化は−0.08%であった。Fe片では、保持圧力を10MPaとした場合、重量変化が−0.07%であったのに対し、保持圧力を20MPaとした場合、重量変化は−0.14%であった。このように、金属片の種類によって変化の大きさは異なるものの、いずれの金属片においても浸漬前後で重量変化が生じた。これらの結果から、テフロン(登録商標)製容器内の温度を20℃に維持し、保持圧力を10MPa、又は20MPaとした場合においても、攪拌のみによって金属(Ni、Fe)片の溶解が生じていることがわかった。
【0058】
[実施例2−6]
この実施例では、高圧二酸化炭素流体と水の混合流体にアルコールをさらに添加して調製した混合流体による金属の溶解性について調べた。本実施例においても、テフロン(登録商標)製容器内の温度を20℃に維持し、保持圧力を10MPa、又は20MPaとすることにより、超臨界状態ではない高圧二酸化炭素と水との混合流体を調製した。なお、本実施例では、アルコールとして55wt.%のエタノールを用いた。上記以外の実施条件は、実施例2−2と同様である。この結果を下記表12に示す。
【0059】
【表12】

【0060】
Ni片の場合、保持圧力を10MPa、20MPaとしたときの重量変化はそれぞれ、−0.17%、−0.18%であり、Fe片の場合、保持圧力を20MPaとしたときの重量変化は−0.21%であった。以上のように、金属片の種類によって変化の大きさは異なるものの、いずれの金属片においても浸漬前後で重量変化が生じた。これらの結果から、アルコール(エタノール)のみを添加することによっても金属(Ni、Fe)片の溶解が生じていることがわかった。
【0061】
[実施例2−7]
高圧二酸化炭素流体と水の混合流体にアルコールを添加し、さらに攪拌して調製した混合流体による金属の溶解性について調べた。本実施例においても、テフロン(登録商標)製容器内の温度を20℃に維持し、保持圧力を10MPa、又は20MPaとすることにより、超臨界状態ではない高圧二酸化炭素と水との混合流体を調製した。なお、本実施例では、金属片としては、Ni、Feの小片を用い、アルコールとしてエタノールのみを用い、200rpmで攪拌を行った。上記以外の実施条件は、実施例2−3と同様である。この結果を下記表13に示す。
【0062】
【表13】

【0063】
Ni片の場合、15wt.%のエタノールを添加して、200rpmで攪拌すると、保持圧力が10MPaと20MPaの場合では、重量変化はそれぞれ−0.05%、−0.09%であった。一方、35wt.%のエタノールを添加して、200rpmで攪拌すると、保持圧力が10MPaと20MPaの場合では、重量変化はそれぞれ−0.11%、−0.16%となり、15wt.%のエタノールを添加した場合よりも大きな重量変化を示した。Fe片の場合、35wt.%のエタノールを添加して、200rpmで攪拌すると、保持圧力が20MPaの場合、重量変化は−0.16%であった。これらの結果から、アルコール(エタノール)を添加し、さらに攪拌した場合にも金属(Ni、Fe)片の溶解が生じていることがわかった。
【0064】
[実施例2−8]
高圧二酸化炭素と水の混合流体に界面活性剤を添加し、さらに攪拌して調製した混合流体による金属の溶解性について調べた。本実施例においても、テフロン(登録商標)製容器内の温度を20℃に維持し、保持圧力を10MPa、又は20MPaとすることにより、超臨界状態ではない高圧二酸化炭素と水との混合流体を調製した。なお、金属片としては、Ni、Feの小片を用い、界面活性剤としては、トーレックス1000、及びポリマーエステルを用いた。上記以外の実施条件は、実施例2−4と同様である。この結果を下記表14に示す。なお、aはトーレックス1000、bはポリマーエステルを表す。
【0065】
【表14】

【0066】
Ni片の場合、0.1wt.%のトーレックス1000を添加して500rpmで攪拌すると、保持圧力を10MPa、20MPaとした場合では、重量変化はそれぞれ−0.11%、−0.15%であった。一方0.1wt.%のポリマーエステルを添加して500rpmで攪拌すると、保持圧力を10MPaとした場合、重量変化は−0.12%であった。Fe片の場合、保持圧力を10MPaとして0.1wt.%のトーレックス1000を添加し、500rpmで攪拌すると、重量変化は−0.14%であったのに対し、保持圧力を20MPaとして0.1wt.%のポリマーエステルを添加し、500rpmで攪拌すると、重量変化は−0.18%であった。以上のように、金属片の種類や界面活性剤の種類によって重量変化の度合は異なるが、いずれの金属においても重量変化が生じた。これらの結果から、界面活性剤を添加し、さらに攪拌した場合、金属の種類や界面活性剤の種類によって程度は異なるものの、金属(Ni、Fe)片の溶解が生じていることがわかった。
【0067】
以上、実施例2では例えばアルコールとしてエタノールのみを例示したが、実施例1で示した他のアルコールでも同等の効果があり、本態様に限定されないのは言うまでも無い。すなわち非極性流体である高圧二酸化炭素流体と極性流体である水の混合流体(エマルション、あるいは乳化と呼ばれる状態)が達成できれば、本実施例の効果が達成できる。この状態の判別は、系内を観察できる透明窓を備えることにより、透明な水が賢濁して不透明化することで、容易に識別できる。
【実施例3】
【0068】
この実施例では、高圧二酸化炭素流体と水の混合流体の、金属汚染に対する洗浄効果を検証するために、高圧二酸化炭素流体の保持圧力、保持温度、攪拌の有無、アルコールの添加の有無、界面活性剤の添加の有無に関する条件を変えて実験を行った。具体的には、MEMSを模したSiウエハ片に金属を付着させた試料を調製し、高圧二酸化炭素と水の混合流体に1時間浸漬した後、イオン交換水洗浄を行った上で、Siウエハ片表面に残留した金属量を測定した。
【0069】
試料は、MEMSを模したSiウエハ片(0.1cm×1cm×2cm)を、予めAl、Fe、Cu、Ni金属片を溶解したpH=1の硫酸水溶液100mlに10秒間浸漬し、引き上げた後、150mlのイオン交換水でリンス洗浄し、乾燥させることによって調製した。
【0070】
[実施例3−1]
この実施例では、高圧二酸化炭素流体と水の混合流体を攪拌して調製した混合流体による、金属の溶解性について調べた。混合流体は以下のように調製した。SUS316L製高圧容器内にテフロン(登録商標)製円筒容器(テフロン(登録商標)製ネジ蓋および高圧二酸化炭素流体導入用細孔付き:容器内容量220ml)を設置し、その中に150mlのイオン交換水を注入した。次にテフロン(登録商標)製円筒容器のネジ蓋を閉じ、SUS製高圧容器内に高圧二酸化炭素流体を導入し、導入孔を介してテフロン(登録商標)製円筒容器内にも高圧二酸化炭素流体を導入した。SUS製高圧容器全体を熱電対を仕込んだマントルヒーターで包むことにより所定の温度(25℃または35℃)に維持し、高圧二酸化炭素流体とイオン交換水の混合流体の大気下浴pHを5.5に維持した。この状態でテフロン(登録商標)容器下部に設置したマグネティックスターラーにより、攪拌を行った。この中に試料を1時間保持した後、イオン交換水洗浄を行った。この試料表面の残留金属量をICP質量分析装置により測定した。この結果を下記表15に示す。
【0071】
【表15】

【0072】
温度を35℃で保持した場合、保持圧力が15MPa、10MPa、5MPaの場合の残留金属量はそれぞれ、18(×108atom/cm2)、20(×108atom/cm2)、44(×108atom/cm2)であった。また、温度を25℃で保持した場合、保持圧力が10MPa、5MPaの場合の残留金属量はそれぞれ、39(×108atom/cm2)、54(×108atom/cm2)であった。これらの結果から、保持温度を一定に保った場合、保持圧力が高くなるにつれて、残留金属量が少なくなっている、つまり、洗浄効果が高くなっていることがわかる。
【0073】
[実施例3−2]
この実施例では、高圧二酸化炭素流体と水の混合流体に下記表16に示すアルコールを添加して調製した混合流体による金属の溶解性について調べた。但し、攪拌は行わなかった。その他の実施条件は実施例3−1と同様である。この結果を下記表16に示す。
【0074】
【表16】

【0075】
保持温度35℃、保持圧力15MPaの条件では、添加したアルコールの種類がエタノール、メタノール、イソプロパノールの場合の残留金属量はそれぞれ、16(×108atom/cm2)、19(×108atom/cm2)、21(×108atom/cm2)であった。また、温度を25℃、保持圧力10MPaの条件でエタノールを添加した場合の残留金属量は24(×108atom/cm2)であった。これらの結果から、エタノールを添加した場合、同じ条件でメタノールを添加した場合とイソプロパノールを添加した場合と比較して、残留金属量が少なくなっており、洗浄効果が高くなっていることがわかる。また、同じエタノールを添加した場合、混合流体の圧力と温度をそれぞれ、15MPa、35℃に保持した場合と、10MPa、25℃に保持した場合とでは、15MPa、35℃に保持した場合のほうが、残留金属量が少なくなっており、洗浄効果が高くなっていることがわかる。
【0076】
[実施例3−3]
高圧二酸化炭素流体と水の混合流体にアルコールを添加し、さらに攪拌して調製した混合流体による金属の溶解性について調べた。混合流体を、テフロン(登録商標)容器下部に設置したマグネティックスターラーにより、攪拌を行った。アルコールとしては、エタノールを用いた。上記以外の実施条件は実施例3−2と同様である。この結果を下記表17に示す。
【0077】
【表17】

【0078】
保持温度35℃、保持圧力15MPaの条件では、添加したエタノールの濃度が15wt.%、35wt.%の場合の残留金属量はそれぞれ、48(×108atom/cm2)、24(×108atom/cm2)であった。また、保持温度を25℃、保持圧力5MPaの条件で500rpmで攪拌した場合の残留金属量は43(×108atom/cm2)であった。これらの結果から、保持圧力、保持温度、攪拌条件をそれぞれ一定にした場合、エタノールの濃度がより高いほど残留金属量は少なく、つまり洗浄効果が高いことがわかった。
【0079】
[実施例3−4]
高圧二酸化炭素流体と水の混合流体に界面活性剤を添加し、さらに攪拌して調製した混合流体による金属の溶解性について調べた。界面活性剤としては、トーレックス1000、及びポリマーエステルを用いた。アルコールではなく界面活性剤を用いたこと以外の実施条件は、実施例3−3と同様である。この結果を下記表18に示す。なお、aはトーレックス1000、bはポリマーエステルを表す。
【0080】
【表18】

【0081】
保持温度35℃、保持圧力15MPa、添加した界面活性剤の濃度0.01wt.%の条件下では、トーレックス1000を添加した場合とポリマーエステルを添加した場合とでは、残留金属量はそれぞれ、16(×108atom/cm2)、20(×108atom/cm2)であった。この結果から、界面活性剤の濃度、保持圧力、保持温度、攪拌条件を一定とした場合、トーレックス1000を添加した場合とポリマーエステルを添加した場合とでは、トーレックス1000を添加した場合のほうが、より高い洗浄効果が得られることがわかる。また、0.1wt.%のトーレックス1000を添加し、500rpmで攪拌した場合、保持圧力10MPa、保持温度25℃とした場合の残留金属量は31(×108atom/cm2)であったのに対し、保持圧力5MPa、保持温度35℃とした場合の残留金属量は38(×108atom/cm2)であり、保持圧力5MPa、保持温度25℃とした場合の残留金属量は49(×108atom/cm2)であった。これらの結果から、界面活性剤の濃度、攪拌条件、保持温度が一定の場合、保持圧力がより高いほど残留金属量が少なく、より高い洗浄効果が得られることがわかる。また、界面活性剤の濃度、攪拌条件、保持圧力が一定の場合、保持温度がより高いほど残留金属量が少なく、より高い洗浄効果が得られることがわかる。
【0082】
[比較例3−1]
上記実施例3との比較のために、イオン交換水のみを用意し、イオン交換水を攪拌した後、実施例3で用いた試料を浸漬し、1時間保持した後、イオン交換水洗浄を行った場合の、残留金属量を測定した。具体的には、SUS316L製高圧容器内に設置したテフロン(登録商標)製円筒容器(テフロン(登録商標)製ネジ蓋および高圧二酸化炭素流体導入用細孔付き:容器内容量220ml)内に150mlのイオン交換水を注入し、SUS製高圧容器全体を35℃に維持した。この状態でテフロン(登録商標)容器下部に設置したマグネティックスターラーにより500rpmで5分間、攪拌を行った。この中に試料を1時間保持した後、イオン交換水洗浄を行った。この試料表面の残留金属量をICP質量分析装置により測定した。なお、本比較例において高圧二酸化炭素流体の導入は行っておらず、アルコールや界面活性剤の添加も行っていない。この結果、試料表面に残留した金属量は、230(×108atom/cm2)であった。この結果から、高圧二酸化炭素流体と水の混合流体に浸漬した場合と比較して、多量の金属が残留していることがわかった。
【0083】
[比較例3−2]
また、上記比較例3−1と同様に、500rpmで5分間攪拌した150mlのイオン交換水に、試料を1時間浸漬した後、さらに、500rpmで5分間攪拌した150mlのイオン交換水に1時間浸漬するという工程を実施し、イオン交換水洗浄を行った。この試料表面の残留金属量をICP質量分析装置により測定した結果、185(×108atom/cm2)であった。この結果から、攪拌したイオン交換水に浸漬しただけでは、浸漬する回数を増やしても、高圧二酸化炭素流体と水の混合流体に浸漬した場合のような、高い洗浄効果が得られていないことがわかった。
【0084】
[比較例3−3]
上記実施例3との比較のために、MEMSの洗浄において通常よく行われるように、試料を塩酸の水溶液に浸漬するとともに、超音波洗浄を行った場合の試料表面の残留金属量を測定した。具体的には、超音波にて酸とイオン交換水で十分洗浄した石英製ビーカー(200ml容量)を用いて、半導体グレードの35%塩酸水溶液とイオン交換水を用いて、pHが1.0の塩酸水溶液を調製した。この中に試料を浸漬し、超音波洗浄を400
Hzで5分間行った。その後、試料を引き上げ、イオン交換水洗浄を行い、ICP質量分析装置により残留金属量を測定した。この結果、残留金属量は19(×108atom/cm2)であった。この結果から、酸を用いない本発明の洗浄方法によっても、通常行われる酸、及び超音波を用いた洗浄方法とほぼ同等の洗浄効果が得られることがわかる。
【0085】
以上説明してきたように、本発明では、酸成分を全く用いずに、高圧二酸化炭素流体と水との、溶解力の高い混合相が得られ、基材のめっき前処理における洗浄や、MEMS製造プロセスにおける洗浄、とりわけ金属汚染の除去に適用することができる。また、本発明の高圧二酸化炭素と水とからなる流体を、約3MPa〜20MPaで保持することにより、金属成分が付着した基材に接触させて金属成分を基材から除去するために用いる洗浄用流体として提供することもできる。本発明によれば、酸成分を全く用いないため、酸洗浄した場合に必要となる廃酸処理や、多量の洗浄排水処理が不要となる。即ち、省資源化や省力化による低コスト化、並びに酸成分の不使用による安全性の向上及び環境負荷低減を実現することができる。
【0086】
以上説明してきた実施例において、添加したアルコールや界面活性剤の種類や濃度は例示に過ぎず、これらの種類や数値等に限定されるものではない。また、本発明の適用分野は、基材のめっき前処理や、MEMS製造プロセスにおける洗浄に限られず、酸を用いることができない状況での金属汚染の洗浄や、構造が精密なため超音波洗浄が使用できない素子の洗浄等に、広く適用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面処理方法であって、
酸を用いずに、高圧二酸化炭素と水との混合相を調製することと、
金属成分が付着した基材を混合相に接触させて、金属成分を除去することとを含む基材の表面処理方法。
【請求項2】
アルコールをさらに添加して前記混合相を調製する請求項1に記載の基材の表面処理方法。
【請求項3】
攪拌して前記混合相を調製する請求項1又は2に記載の基材の表面処理方法。
【請求項4】
界面活性剤をさらに添加して攪拌することにより前記混合相を調製する請求項1に記載の基材の表面処理方法。
【請求項5】
前記高圧二酸化炭素は、超臨界状態の二酸化炭素、亜臨界状態の二酸化炭素、又は液体状態の二酸化炭素のいずれかである請求項1〜4のいずれか一項に記載の基材の表面処理方法。
【請求項6】
前記混合相は、約3MPa〜20MPaの圧力で保持される請求項1〜5のいずれか一項に記載の基材の表面処理方法。
【請求項7】
前記混合相は、約20℃〜35℃の温度で保持される請求項1〜6のいずれか一項に記載の基材の表面処理方法。
【請求項8】
前記混合相は高圧二酸化炭素と水との容積比が約40/60〜80/20で調製される請求項1〜7のいずれか一項に記載の基材の表面処理方法。
【請求項9】
金属成分が付着した基材に接触させて金属成分を基材から除去するために用いる洗浄用流体であって、
高圧二酸化炭素と水とからなり、
約3MPa〜20MPaで保持される洗浄用流体。

【公開番号】特開2008−291286(P2008−291286A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135600(P2007−135600)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】