説明

表面処理蛍光体の製造方法及び表面処理蛍光体

【課題】効率的、経済的な方法で耐湿性が著しく改善された表面処理蛍光体を製造することが可能な表面処理蛍光体の製造方法及び該表面処理蛍光体の製造方法を用いて得られる表面処理蛍光体、蛍光体含有樹脂組成物及びLED発光装置を提供する。
【解決手段】アルカリ土類金属の珪酸塩を含有する蛍光体と表面処理層とを有する表面処理蛍光体を製造する方法であって、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩及びフッ化物からなる群より選択される少なくとも1種の水溶性化合物を含有する表面処理液と、前記蛍光体とを接触させることにより、表面処理層を形成する工程を有する表面処理蛍光体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率的、経済的な方法で耐湿性が著しく改善された表面処理蛍光体を製造することが可能な表面処理蛍光体の製造方法、及び、該表面処理蛍光体の製造方法を用いて得られる表面処理蛍光体、蛍光体含有樹脂組成物及びLED発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白色光を発する半導体発光素子(白色LED)は、低消費電力、高効率、環境にやさしい,長寿命等の長所を兼ね備えているため、次世代光源として注目を浴びている。
白色LEDにおいて、白色光を作り出す方法としては、青色や紫外光のLEDとそれらの光によって励起されうる蛍光体(赤、黄、緑色蛍光体等)との組み合わせる方法が一般的用いられている。
【0003】
また、アルカリ土類金属元素を有するシリケート(珪酸塩とも呼ばれる)蛍光体は、組成調節により広範囲な発光波長を容易に得られることと、発光効率が高いこと等の特徴を有するため注目されている。なかでも、特許文献1に記載の(Sr,Ba,Ca)SiO:Eu2+や、特許文献2に記載の(Sr,Ba,Ca)SiO:Eu2+等の構造を有するシリケート蛍光体が代表例として挙げられる。このシリケート蛍光体では、Srと、Ba又はCaとの相対量を調節することにより発光波長を調整することが可能である。
【0004】
しかしながら、このようなアルカリ土類金属元素を有するシリケート蛍光体は、空気中の水蒸気や水分によって表面が分解劣化しやすいという問題があった。そのため、大気中での長時間使用の場合に、発光強度の低下や色調の変化が起こりやすく、蛍光体としての特性が低下し、耐久性に大きな問題があった。
蛍光体の耐湿性を改善するために、蛍光体の表面に耐湿性の強い酸化物や窒化物で被覆する方法が検討されている。例えば、特許文献3には、0〜20℃の反応温度でSi、Ti等のアルコキシド及び/又はその誘導体を多量のアンモニア水の存在下で加水分解、脱水重合により蛍光体粒子の表面に酸化物を被覆する方法を開示されている。また、特許文献4には、同じくゾルーゲル法を用いたジルコニア膜の被覆方法が開示されている。
【0005】
しかし、ゾルーゲル法は、被覆物種類の選択自由度が大きいが、出発原料である金属アルコキシドは通常反応性が高く、蛍光体粒子の表面のみで加水分解反応を起させるための反応条件の制御が非常に難しかった。また、ゾルーゲル法で得られた膜には、不完全な加水分解のため残されたアルコキシル基や加水分解反応で脱離したアルコール等の有機成分が含まれるため、通常緻密な膜が得られにくかった。
更に、特許文献3に開示された被覆方法は、加水分解反応が多量のアンモニア水の存在下で行うため、殆どの原料が蛍光体粒子表面以外の溶液中に反応、消費され、反応効率とコストにも問題点があった。加えて、多量のアンモニア水が含まれるので、処理過程中に蛍光体が加水分解によって劣化する恐れもあった。
特許文献4に開示された方法は、長時間の反応と精密な温度及びプロセスの制御が必要であり、効率とコストの点に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−515030号公報
【特許文献2】特開1997−104863号公報
【特許文献3】特開2008−111080号公報
【特許文献4】特開2009−132902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、効率的、経済的な方法で耐湿性が著しく改善された表面処理蛍光体を製造することが可能な表面処理蛍光体の製造方法、及び、該表面処理蛍光体の製造方法を用いて得られる表面処理蛍光体、蛍光体含有樹脂組成物及びLED発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルカリ土類金属の珪酸塩を含有する蛍光体と表面処理層とを有する表面処理蛍光体を製造する方法であって、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩及びフッ化物からなる群より選択される少なくとも1種の水溶性化合物を含有する表面処理液と、前記蛍光体とを接触させることにより、表面処理層を形成する工程を有する表面処理蛍光体の製造方法である。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、アルカリ土類金属の珪酸塩を含有する蛍光体の耐水性が悪化する理由は、このような蛍光体では水による加水分解反応が起こりやすく、蛍光体の組成や結晶構造が変化したり、アルカリ土類金属イオンの溶出反応が生じたりすることにあることを見出した。
そして、本発明者らは、鋭意検討した結果、アルカリ土類金属の珪酸塩を含有する蛍光体に、所定の水溶性化合物を含有する表面処理液を用いて表面処理層を形成することで、溶出したアルカリ土類金属イオンを水溶性化合物に由来する陰イオンと反応させ、水に溶解しにくい化合物に転化させると同時に、この水に溶解しにくい化合物を蛍光体の表面に析出させることで、蛍光特性を低下させることなく、耐湿性を大幅に改善することができ、かつ、高い分散性を有する表面処理蛍光体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の表面処理蛍光体の製造方法では、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩及びフッ化物からなる群より選択される少なくとも1種の水溶性化合物を含有する表面処理液と、前記蛍光体とを接触させることにより、表面処理層を形成する工程を有する。
上記所定の水溶性化合物を含有する表面処理液で表面処理層を形成することで、アルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、フッ化物が形成される。このような物質は水に難溶であることから、加水分解反応が起こりにくい蛍光体が得られ、その結果、蛍光体の耐水性を著しく向上させることができる。
【0011】
また、本発明の表面処理蛍光体の製造方法では、表面処理層を形成する工程において水による蛍光体の劣化が生じることを防止することができる。一般的に、耐湿性に劣る蛍光体を処理する場合には、水溶液の使用を避ける傾向にあるが、本発明では、上記表面処理層を形成することで、被覆処理を水溶液中で行うことができ、有機溶媒を使用する場合における特殊な廃液処理等の問題がなくなる。
【0012】
上記表面処理層を形成する工程において、表面処理液と蛍光体とを接触させる方法としては、蛍光体を表面処理液に分散させることで接触させる方法等が挙げられる。
反応時の分散条件は特に限定されず、蛍光体を分散させることができる条件であればよい。例えば、磁気スターラー攪拌、モーター付きの機械的な攪拌、ガスバーブリング、液循環、超音波分散、ボールミルやロータリーミキサーのような回転分散、又は上記方法を併用することによって行うことができる。
【0013】
上記表面処理層を形成する工程における反応温度は、形成する表面処理層の厚みに応じて適宜調整すればよいが、0〜50℃とすることが好ましい。上記温度が0℃未満であると、反応に時間が掛かり、50℃を超えると、処理過程中に蛍光体の劣化が起こる恐れがある。
【0014】
上記表面処理層を形成する工程における反応時間は、目的とする表面処理層の厚み、表面処理液の濃度、温度等の反応条件に応じて適宜調整すればよく、通常、5分〜20時間程度が好ましく、より好ましくは10分〜10時間程度、更に好ましくは20分〜5時間程度である。
一般には、仕込みの蛍光体の量が一定であれば、反応時間が長くなるほど表面処理層の厚みが厚くなる。反応時間が短すぎると表面処理層の形成が不完全となる。一方、反応時間が長すぎると非経済的である。
【0015】
上記表面処理層を形成する工程を行った後は、ろ過、洗浄、乾燥工程を経て回収する。乾燥は常圧乾燥でもよく、減圧乾燥でもよい。乾燥時の温度は室温〜150℃が適宜である。
また、本発明の表面処理蛍光体の製造方法では、上記乾燥した蛍光体を200〜600℃の温度で更に熱処理してもよい。
【0016】
上記表面処理液は、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩及びフッ化物からなる群より選択される少なくとも1種の水溶性化合物を含有する。
なお、上記水溶性化合物とは、25℃における水への溶解度が1.0g(100g水中)以上の化合物を意味する。
【0017】
上記硫酸塩は、水溶液中に電離し、硫酸イオンが生成する。この硫酸イオンが蛍光体表面のアルカリ土類金属と反応し、水の難溶のアルカリ土類金属の硫酸塩が形成される。なお、本発明における硫酸イオンとは、硫酸(HSO)が完全に電離した形態の陰イオンであるSO2−だけでなく、硫酸が部分的に電離したイオン、又は、イオン形態であるその塩も包含する。
【0018】
上記硫酸塩としては、例えば、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアンモニウム等が挙げられる。
【0019】
上記表面処理液における硫酸塩の含有量の好ましい下限は、蛍光体の単位表面積(m)に対して1.0×10−5モル、好ましい上限は5×10−2モルである。
上記硫酸塩の含有量が1.0×10−5モル未満であると、被覆反応の速度が遅く、水による蛍光体の分解劣化を防げないことがあり、5×10−2モルを超えると、反応速度が速すぎて、蛍光体の顕著な変形が生じることと同時に、粒子の凝集も顕著となることがある。より好ましい下限は5.0×10−5モル、より好ましい上限は2.5×10−2モルである。
なお、上記蛍光体の単位表面積(m)当たりの硫酸塩の含有量(Q)は、下記式により求めることができる。
Q = W/(M × W × S
式中、Wrは硫酸塩の添加量(g)、Mrは硫酸塩の分子量であり、Wpの蛍光体の添加量(g)、Spは硫酸塩の比表面積(m/g)である。
【0020】
上記リン酸塩は、水溶液中に電離し、上記リン酸イオンが生成する。
なお、本発明におけるリン酸イオンとは、リン酸(HPO)が完全に電離した形態の陰イオンであるPO3−だけでなく、リン酸が部分的に電離したイオン、又は、イオン形態であるその塩も包含する。
具体的には例えば、HPO、HPO2−、NaPO2−、KPO2−、NaPO、KPO、NaHPO、KHPOなどのイオン形態も本発明におけるリン酸イオンに該当する。
【0021】
上記リン酸塩としては、例えば、リン酸一水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸ナトリウムアンモニウム、リン酸カリウムアンモニウム等が挙げられる。
【0022】
上記表面処理液におけるリン酸塩の含有量の好ましい下限は、蛍光体の単位表面積(m)に対して1.0×10−5モル、好ましい上限は5×10−2モルである。
上記リン酸塩の含有量が1.0×10−5モル未満であると、被覆反応の速度が遅く、水による蛍光体の分解劣化を防げないことがあり、5×10−2モルを超えると、反応速度が速すぎて、蛍光体の顕著な変形が生じることと同時に、粒子の凝集も顕著となる。より好ましい下限は5.0×10−5モル、より好ましい上限は2.5×10−2モルである。
【0023】
上記炭酸塩は、水溶液中に電離し、上記炭酸イオンが生成する。なお、本発明における炭酸イオンとは、炭酸(HCO)が完全に電離した形態の陰イオンであるCO2−だけでなく、炭酸が部分的に電離したイオン、又は、イオン形態であるその塩も包含する。
具体的には例えば、HCOなどのイオン形態も本発明における炭酸イオンに該当する。
【0024】
上記炭酸塩としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。
【0025】
上記表面処理液における炭酸塩の含有量の好ましい下限は、蛍光体の単位表面積(m)に対して1.0×10−4モル、好ましい上限は2×10−1モルである。
上記炭酸塩の含有量が1.0×10−4モル未満であると、被覆反応の速度が遅く、水による蛍光体の分解劣化を防げないこととなり、2×10−1モルを超えると、反応速度が速すぎて、蛍光体の顕著な変形が生じることと同時に、粒子の凝集も顕著となる。より好ましい下限は2.0×10−4mol/L、より好ましい上限は1×10−1モルである。
【0026】
上記フッ化物としては、例えば、フッ化アンモニウム(NHF)、二フッ化アンモニウム(NHHF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)等が挙げられる。
【0027】
上記表面処理層を形成する工程では、表面処理液のpHは、3.0〜12.0とすることが好ましい。上記pHが3.0未満であると、溶液の酸性が強すぎて、処理過程中での蛍光体の分解劣化を完全に抑えることが困難となり、12.0を超えると、表面被覆層の形成が困難となる。
また、表面処理液の特殊形態として、一定濃度の硫酸水溶液、リン酸水溶液、炭酸水溶液、フッ酸水溶液等をアルカリ溶液(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等)で所定のpHまで調整した溶液を使用してもよい。
【0028】
上記表面処理液に使用する溶媒としては、上記化合物が溶解できる溶媒であれば特に限定されないが、水、アルコール(エタノール、メタノール、イソプロパノール等)、水とアルコールの混合液等が挙げられる。なかでも、溶解性、廃液処理等の問題から水が好ましい。
【0029】
本発明の表面処理蛍光体の製造方法に用いられる蛍光体は、アルカリ土類金属の珪酸塩を含有する。
上記アルカリ土類金属の珪酸塩を含有する蛍光体としては、例えば、母体結晶構造として、MSiO又はMSiOの結晶構造と実質的に同じ構造(ただし、MはMg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を表す)を有し、かつ、付活剤としてFe、Mn、Cr、Bi、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群から選択される少なくとも1種を含有する蛍光体が挙げられる。上記「MSiO又はMSiOの結晶構造と実質的に同じ構造」とは、X線回折法で測定する場合に、MSiO又はMSiOと同様なX線回折パターンを有することを意味する。
上記アルカリ土類金属の珪酸塩を含有する蛍光体は、アルカリ土類金属以外の金属元素(例えば、Zn、Ga、Al、Y、Gd、Tb)を適量含有してもよい。
また、上記アルカリ土類金属の珪酸塩を含有する蛍光体は、少量のハロゲン元素(例えば、F、Cl、Br)、硫黄(S)又はリン(P)を適量含有してもよい。
【0030】
上記蛍光体の例としては、例えば、下記一般式(1)のような組成を有する橙色蛍光体、下記一般式(2)のような組成を有する橙色蛍光体等が挙げられる。
【0031】
(Sr1−xSiO:Eu2+ (1)
式中、MはBa、Ca、Mg及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、0≦x<1.0であり、2.6≦y≦3.3である。
【0032】
(Sr1−xSiO:Eu2+D (2)
式中、MはBa、Ca、Mg及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、DはF、Cl及びBrからなる群より選択されるハロゲンアニオンであり、0≦x<1.0であり、2.6≦y≦3.3である。
また、上記アルカリ土類金属を含有する珪酸塩蛍光体の別の例として、下記一般式(3)のような組成を有する緑色又は黄色蛍光体、下記一般式(4)のような組成を有する緑色又は黄色蛍光体等が挙げられる。
【0033】
(Sr1−xSiO:Eu2+ (3)
式中、MはBa、Ca、Mg及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、0≦x<1.0であり、1.8≦y≦2.2である。
【0034】
(Sr1−xSiO:Eu2+D (4)
式中、MはBa、Ca、Mg及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、DはF、Cl及びBrからなる群より選択されるハロゲンアニオンであり、0≦x<1.0であり、1.8≦y≦2.2である。
【0035】
上記蛍光体の具体例としては、例えば、SrSiO:Eu2+、(Sr0.9Mg0.025Ba0.075SiO:Eu2+、(Sr0.9Mg0.05Ba0.052.7SiO:Eu2+、(Sr0.9Mg0.025Ba0.075SiO:Eu2+、(Sr0.9Ba0.1SiO:Eu2+、Sr0.97SiO:Eu2+F、(Sr0.9Mg0.12.9SiO:Eu2+F、(Sr0.9Ca0.13.0SiO:Eu2+Fの等組成を有する橙色蛍光体、(Sr0.4Ba0.6SiO:Eu2+、(Sr0.3Ba0.7SiO:Eu2+、(Sr0.2Ba0.8SiO:Eu2+、(Sr0.57Ba0.4Mg0.03SiO:Eu2+F、(Sr0.6Ba0.4SiO:Eu2+Cl、(Ba,Sr,Ca)(Mg,Zn)Si:Eu2+等の組成を有する緑色蛍光体、(Sr0.7Ba0.3SiO:Eu2+F、(Sr0.9Ba0.1SiO:Eu2+、0.72[(Sr1.025Ba0.925Mg0.05)Si1.03Eu0.050.12]・0.28[SrSi1.02Eu0.60.13]等の組成を有する黄色蛍光体、及び、BaMgSi:Eu2+、BaZnSi:Eu2+等の組成を有する青色蛍光体が挙げられる。
【0036】
上記蛍光体の粒子径としては特に限定されないが、中央粒径(D50)で通常0.1〜100μm範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.0〜50μm、さらに好ましくは5.0〜30μmである。上記D50が小さすぎると、輝度が低下するだけではなく、基体蛍光体自体が凝集しやくなり、均一な被覆処理が困難になる。また、D50が大きすぎると、樹脂における分散性が悪くなり、発光素子の特性に悪影響を与える恐れがある。
【0037】
本発明の表面処理蛍光体の製造方法を用いることで、耐湿性が著しく改善された表面処理蛍光体が得られる。このような表面処理蛍光体もまた本発明の1つである。
【0038】
このような表面処理蛍光体では、上記表面処理層にアルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、フッ化物が形成される。このような物質は水に難溶であることから、加水分解反応が起こりにくい蛍光体が得られ、その結果、蛍光体の耐水性を著しく向上させることができる。
また、表面処理蛍光体の使用時の耐湿性についても向上されることができる。上記表面処理層はシリケート蛍光体に比べ、水に対する安定性が高いので、使用時の耐湿性改善にも寄与する。
【0039】
上記表面処理層の厚みは0.5〜5000nmであることが好ましい。より好ましくは1.0〜3000nm、更に好ましくは5.0〜1000nm、特に好ましくは10〜500nmである。表面処理層の厚みが薄すぎると、耐湿性が不足となることがあり、厚すぎると、表面処理蛍光体の蛍光特性が低下することがある。
【0040】
また、上記表面処理層は、単層であることが好ましいが、2層以上であってもよい。
更に、上記表面処理層の上に、水に対してより安定な酸化物層を被覆することにより、長期間使用時における耐湿性を更に向上することもできる。
【0041】
本発明の表面処理蛍光体は、純水100重量部中に、蛍光体1重量部を10分間浸漬した場合における、水の導電率が200mS/m以下であることが好ましい。
上記水の導電率が200mS/m以下であることで、蛍光体が水による分解劣化が少なく、優れた耐湿性を示すこととなる。
なお、上記水の導電率は、例えば、導電率計等によって測定することができる。
【0042】
本発明の表面処理蛍光体は、エポキシ樹脂及び/又はシリコーン樹脂に添加することで、蛍光体含有樹脂組成物として使用することができる。
なお、上記蛍光体含有樹脂組成物は公知の形態で使用され、例えば、ペーストとしてディスペンサーで充填されたり、テープ、シート状に加工され積層されたりしても良い。
【0043】
上記エポキシ樹脂としては、公知の物が使用しても良いが、例えば、ヒドロキシル、カルボキシル又はアミン含有化合物を、金属水酸化物のような塩基性触媒(水酸化ナトリウム等)の存在下で、エピクロロヒドリンと反応させて製造できるもの等が挙げられる。
また、1以上、好ましくは2以上の炭素−炭素二重結合を有する化合物と過酸化物(過酸等)との反応で製造されるエポキシ樹脂等も挙げられる。
【0044】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノール−Aエポキシ樹脂、ビスフェノール−Fエポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾール−ノボラックエポキシ樹脂、ビフェニルエポキシ樹脂、4,4’−ビフェニルエポキシ樹脂、多官能性エポキシ樹脂、ジビニルベンゼンジオキシド及び2−グリシジルフェニルグリシジルエーテルが挙げられる。なかでも、脂環式エポキシ樹脂及び脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。これらのエポキシ樹脂は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
上記脂肪族エポキシ樹脂としては、1以上の脂肪族基と1以上のエポキシ基を有する化合物が挙げられ、具体例としては、ブタジエンジオキシド、ジメチルペンタンジオキシド、ジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル及びジペンテンジオキシド等が挙げられる。
【0045】
上記脂環式エポキシ樹脂としては、1以上の脂環式基と1以上のオキシラン基を有する化合物が挙げられ、具体例としては、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシル−5,5−スピロ−(3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサン、3,4−エポキシシクロヘキシルアルキル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキサンジオキシド、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、exo−exoビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、endo−exoビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、2,2−ビス(4−(2,3−エポキシプロポキシ)シクロヘキシル)プロパン、2,6−ビス(2,3−エポキシプロポキシシクロヘキシル−p−ジオキサン)、2,6−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ノルボルネン、リノール酸ダイマーのジグリシジルエーテル、リモネンジオキシド、2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロパン、ジシクロペンタジエンジオキシド、1,2−エポキシ−6−(2,3−エポキシプロポキシ)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、p−(2,3−エポキシ)シクロペンチルフェニル−2,3−エポキシプロピルエーテル、1−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル−5,6−エポキシヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、o−(2,3−エポキシ)シクロペンチルフェニル−2,3−エポキシプロピルエーテル)、1,2−ビス[5−(1,2−エポキシ)−4,7−ヘキサヒドロメタノインダノキシル]エタン、シクロペンチルフェニルグリシジルエーテル、シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル及びジグリシジルヘキサヒドロフタレート等が挙げられる。
【0046】
上記シリコーン樹脂としては、公知の物を使用しても良いが、例えば、(−SiR−O−)nポリシロキサン骨格を持つ物が挙げられる。上記Rとしては、炭素数2〜10、特に2〜6のものが好ましく、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基等が挙げられる。上記Rとしては、炭素数1〜10、特に1〜6のものが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基などが代表的なものとして挙げられる。
【0047】
本発明の表面処理蛍光体を用いて蛍光体層を形成することで半導体発光素子を製造することができる。
また、LEDチップと、前記LEDチップを囲繞する樹脂フレームと、樹脂フレームが形成する凹部に充填される蛍光体層を備えるLED発光装置において、前記蛍光体層を本発明の表面処理蛍光体と封止樹脂とを含有する構成とすることで、耐湿性に優れたLED発光装置とすることができる。このようなLED発光装置もまた本発明の1つである。
【0048】
本発明のLED発光装置の用途は特に制限されず、通常のLED発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能である。また、単独で、又は複数個を組み合わせて用いても良い。具体的には、例えば、液晶表示素子バックライト、画像表示装置、照明装置等に使用することができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明の表面処理蛍光体の製造方法によれば、空気中の水蒸気や水による表面の分解劣化を防止でき、長時間又は高温高湿環境での使用においても光度の低下や色調の変化が起こることのない、耐湿性に優れた表面処理蛍光体を得ることができる。
また、本発明の表面処理蛍光体の製造方法によれば、高価な反応装置が必要せず、被覆処理が水溶液中に短時間で行うことができるので、目的の表面処理蛍光体を効率的、経済的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図2】実施例3で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図3】実施例5で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図4】実施例7で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図5】実施例9で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図6】比較例1で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0052】
[実施例1]
アンモニア水を添加することで、pH5.20に調製したリン酸二水素アンモニウムを含有する水溶液500ml(リン酸二水素アンモニウムの含有量:蛍光体の単位表面積(m)当たり1.5×10−5モル)に、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:SrSiO:Eu2+、蛍光体の比表面積0.2567m/g)25gを添加した。
得られた混合液をモーター付き攪拌羽根で攪拌(回転数300rpm)によって分散しながら、35℃で30分を反応させた。反応後に、メンブレンフィルターで吸引ろ過し、更に純水で洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図1に示す。
【0053】
[実施例2]
アンモニア水を添加することで、pH5.20に調製したリン酸二水素アンモニウムを含有する水溶液500ml(リン酸二水素アンモニウム含有量:蛍光体の単位表面積(m)当たり4.5×10−2モル)に、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:SrSiO:Eu2+)25gを添加した。
得られた混合液をモーター付き攪拌羽根で攪拌(回転数300rpm)によって分散しながら、35℃で30分を反応させた。反応後に、メンブレンフィルターで吸引ろ過し、更に純水で洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
【0054】
[実施例3]
pH6.90に調製した炭酸水素アンモニウム(NHHCO)を含有する水溶液500ml(炭酸水素アンモニウム含有量:蛍光体の単位表面積(m)当たり1.5×10−4モル)に、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:SrSiO:Eu2+)25gを添加した。
得られた混合液をモーター付き攪拌羽根で攪拌(回転数300rpm)によって分散しながら、35℃で30分を反応させた。反応後に、メンブレンフィルターで吸引ろ過し、更に純水で洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図2に示す。
【0055】
[実施例4]
pH8.38に調製した炭酸水素アンモニウム(NHHCO)を含有する水溶液500ml(炭酸水素アンモニウム含有量:蛍光体の単位表面積(m)当たり1.5×10−1モル)に、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:SrSiO:Eu2+)25gを添加した。
得られた混合液をモーター付き攪拌羽根で攪拌(回転数300rpm)によって分散しながら、35℃で10分を反応させた。反応後に、メンブレンフィルターで吸引ろ過し、更に純水で洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
【0056】
[実施例5]
pH4.89に調製した硫酸アンモニウム((NHSO)を含有する水溶液500ml(硫酸アンモニウム含有量:蛍光体の単位表面積(m)当たり1.5×10−5モル)に、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:SrSiO:Eu2+)25gを添加した。
得られた混合液をモーター付き攪拌羽根で攪拌(回転数300rpm)によって分散しながら、35℃で30分を反応させた。反応後に、メンブレンフィルターで吸引ろ過し、更に純水で洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図3に示す。
【0057】
[実施例6]
pH5.59に調製した硫酸アンモニウム((NHSO)を含有する水溶液500ml(硫酸アンモニウム含有量:蛍光体の単位表面積(m)当たり4.5×10−2モル)に、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:SrSiO:Eu2+)25gを添加した。
得られた混合液をモーター付き攪拌羽根で攪拌(回転数300rpm)によって分散しながら、35℃で10分を反応させた。反応後に、メンブレンフィルターで吸引ろ過し、更に純水で洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
【0058】
[実施例7]
pH6.35に調製したフッ化アンモニウム(NHF)を含有する水溶液500ml(フッ化アンモニウム含有量:蛍光体の単位表面積(m)当たり1.5×10−4モル)に、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:SrSiO:Eu2+)25gを添加した。
得られた混合液をモーター付き攪拌羽根で攪拌(回転数300rpm)によって分散しながら、35℃で30分を反応させた。反応後に、メンブレンフィルターで吸引ろ過し、更に純水で洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図4に示す。
【0059】
[実施例8]
pH7.65に調製したフッ化アンモニウム(NHF)を含有する水溶液500ml(フッ化アンモニウム含有量:蛍光体の単位表面積(m)当たり1.5×10−1モル)に、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:SrSiO:Eu2+Cl)25gを添加した。
得られた混合液をモーター付き攪拌羽根で攪拌(回転数300rpm)によって分散しながら、35℃で30分を反応させた。反応後に、メンブレンフィルターで吸引ろ過し、更に純水で洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
【0060】
[実施例9]
pH6.85に調製したフッ化アンモニウム(NHF)を含有する水溶液500ml(フッ化アンモニウム含有量:蛍光体の単位表面積(m)当たり5.0×10−2モル)に、中央粒径(D50)約15μmの緑色シリケート蛍光体(主成分:(Sr,Ba)SiO:Eu2+)25gを添加した。
得られた混合液をモーター付き攪拌羽根で攪拌(回転数300rpm)によって分散しながら、35℃で10分を反応させた。反応後に、メンブレンフィルターで吸引ろ過し、更に純水で洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図5に示す。
【0061】
[実施例10]
アンモニア水を用いてpH11.5に調製した硫酸アンモニウム((NHSO)を含有する水溶液500ml(硫酸アンモニウム含有量:蛍光体の単位表面積(m)当たり1.5×10−5モル)に、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:SrSiO:Eu2+)25gを添加した。
得られた混合液をモーター付き攪拌羽根で攪拌(回転数300rpm)によって分散しながら、35℃で30分を反応させた。反応後に、メンブレンフィルターで吸引ろ過し、更に純水で洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
【0062】
[実施例11]
pH4.89に調製した硫酸アンモニウム((NHSO)を含有する水溶液500ml(硫酸アンモニウム含有量:蛍光体の単位表面積(m)当たり1.5×10−5モル)に、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:SrSiO:Eu2+)25gを添加した。
得られた混合液をモーター付き攪拌羽根で攪拌(回転数300rpm)によって分散しながら、35℃で300分を反応させた。反応後に、メンブレンフィルターで吸引ろ過し、更に純水で洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
【0063】
[実施例12]
pH4.89に調製した硫酸アンモニウム((NHSO)を含有する水溶液500ml(硫酸アンモニウム含有量:蛍光体の単位表面積(m)当たり1.5×10−5モル)に、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:SrSiO:Eu2+)25gを添加した。
得られた混合液をモーター付き攪拌羽根で攪拌(回転数300rpm)によって分散しながら、5℃で30分を反応させた。反応後に、メンブレンフィルターで吸引ろ過し、更に純水で洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
【0064】
[比較例1]
表面未処理の中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:SrSiO:Eu2+)を用いた。この橙色シリケート蛍光体のFE−TEM断面写真を図6に示す。
【0065】
[比較例2]
表面未処理の中央粒径(D50)約15μmの緑色シリケート蛍光体(主成分:(Sr,Ba)SiO:Eu2+))を用いた。
【0066】
[比較例3]
pH4.50に調製した塩化アンモニウム(NHCl)を含有する水溶液500ml(塩化アンモニウム含有量:蛍光体の単位表面積(m)当たり1.0×10−3モル)に、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:SrSiO:Eu2+)25gを添加した。
得られた混合液をモーター付き攪拌羽根で攪拌(回転数300rpm)によって分散しながら、35℃で60分を反応させた。反応後に、メンブレンフィルターで吸引ろ過し、更に純水で洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた蛍光体は、凝集がひどく、顕著な脱色現象が観察された。
【0067】
(評価方法)
<被覆層の厚み測定>
蛍光体粒子をFocused ion Beam(FIB)で断面を切り、その切った断面を透過電子顕微鏡(FE−TEM、JEM−2010FEF)で観察することによって被覆層の厚みを決定した。なお、比較例1、2の蛍光体では、被覆層が観察されなかった。
【0068】
<蛍光体の耐湿性評価1(PCT試験)>
実施例及び比較例で得られた表面処理蛍光体又は蛍光体をシリコーン樹脂(ダウー・コーニング社製、OE6630)100重量部に対して8重量部混合分散し、更に脱泡することにより蛍光体含有樹脂組成物を調製した。次に、調製した蛍光体含有樹脂組成物を、基板に実装したLEDパッケージ(発光ピーク波長460nm)の上に注入、充填し、更に150℃で2時間加熱することにより、樹脂組成物を硬化させた。上記工程により、LED発光装置を作製した。
得られた白色LED発光装置を温度121℃、相対湿度100%の密閉耐圧装置において耐湿性試験を行った(Pressure Cooker Test(PCT試験))。
蛍光体の耐湿性は、PCT試験前後のLEDチップの発光特性を測定し、光度の変化量から評価した。具体的には、PCT試験前の光度に対し、PCT試験72時間後の光度の保持率(PCT72h光度保持率)でサンプル間の相対耐湿性を評価した。
PCT72h光度保持率(%)=(PCT72時間処理後の光度/処理前の光度)×100
なお、測定装置には、オプトロニックラボラトリーズ社製のOL770測定システムを用いた。
【0069】
<蛍光体の耐湿性評価2(水中浸漬時の導電率変化)>
蛍光体対純水の比が1:300の条件で、攪拌しながら蛍光体の粉末を純水に添加し、添加後10分経過した時点で分散液の導電率を測定した(導電率計:ES−51、堀場製作所社製)。
【0070】
<蛍光体の分散性評価>
蛍光体の樹脂における分散性は遠心沈降・光透過方式の分散安定性分析装置(LUMiSizer612、L.U.M社製)を用いて評価した。具体的には、シリコーン樹脂に対して、実施例及び比較例で得られた表面処理蛍光体又は蛍光体を8重量%の割合で分散した蛍光体−シリコーン樹脂組成物約1mlをガラス製分析セルに入れ、その上澄み液に光を照射し、1時間あたりの透過する光量の変化量の積分値を求め、分散性を評価した。
なお、表1には、比較例1の蛍光体を用いた蛍光体−樹脂組成物の透過光量の変化量を1.00とし、比較例1の蛍光体を用いた蛍光体−樹脂組成物に対する比率を記載した。
【0071】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、効率的、経済的な方法で耐湿性が著しく改善された表面処理蛍光体を製造することが可能な表面処理蛍光体の製造方法、及び、該表面処理蛍光体の製造方法を用いて得られる表面処理蛍光体、蛍光体含有樹脂組成物及びLED発光装置を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属の珪酸塩を含有する蛍光体と表面処理層とを有する表面処理蛍光体を製造する方法であって、
硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩及びフッ化物からなる群より選択される少なくとも1種の水溶性化合物を含有する表面処理液と、前記蛍光体とを接触させることにより、表面処理層を形成する工程を有する
ことを特徴とする表面処理蛍光体の製造方法。
【請求項2】
表面処理液中の硫酸塩の含有量が、蛍光体の単位表面積(m)に対して1.0×10−5〜5.0×10−2モルであることを特徴とする請求項1記載の表面処理蛍光体の製造方法。
【請求項3】
表面処理液中のリン酸塩の含有量が、蛍光体の単位表面積(m)に対して1.0×10−5〜5.0×10−2モルであることを特徴とする請求項1記載の表面処理蛍光体の製造方法。
【請求項4】
表面処理液中の炭酸塩の含有量が、蛍光体の単位表面積(m)に対して1.0×10−4〜2.0×10−1モルであることを特徴とする請求項1記載の表面処理蛍光体の製造方法。
【請求項5】
表面処理液中のフッ化物の含有量が、蛍光体の単位表面積(m)に対して1.0×10−4〜2.0×10−1モルであることを特徴とする請求項1記載の表面処理蛍光体の製造方法。
【請求項6】
表面処理液は、pHが3.0〜12.0であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の表面処理蛍光体の製造方法。
【請求項7】
表面処理層を形成する工程は、0〜50℃で行われることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の表面処理蛍光体の製造方法。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の表面処理蛍光体の製造方法を用いて作製されることを特徴とする表面処理蛍光体。
【請求項9】
純水300重量部中に、蛍光体1重量部を10分間浸漬した場合における、水の導電率が200mS/m以下であることを特徴とする請求項8記載の表面処理蛍光体。
【請求項10】
請求項8又は9記載の表面処理蛍光体と、エポキシ樹脂及び/又はシリコーン樹脂とを含有することを特徴とする蛍光体含有樹脂組成物。
【請求項11】
LEDチップと、前記LEDチップを囲繞する樹脂フレームと、樹脂フレームが形成する凹部に充填される蛍光体層を備えるLED発光装置であって、前記蛍光体層が請求項8又は9記載の表面処理蛍光体と封止樹脂とを含有することを特徴とするLED発光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−40236(P2013−40236A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176299(P2011−176299)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】