説明

表面処理鋼板の穴あき腐食性評価方法

【課題】実際の自動車における穴あき腐食の現象を的確にシミュレートできる表面処理鋼板の穴あき腐食性評価方法を提供する。
【解決手段】2枚の表面処理鋼板を、幅Wが20〜60mm、長さLが60mm以上の重なり部を形成するように重ね合わせ、前記重なり部の外周部より10mm以上入った領域において、長さL方向に沿って30〜60mmの間隔Dで少なくとも2箇所スポット溶接を行った後、化成処理および電着塗装を施して作製した試験片に対し、予め2枚の鋼板および2枚の亜鉛めっき鋼板を用いて上記と同様に作製した試験片に腐食試験を行って求めた鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比が55〜98となる条件で腐食試験を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理鋼板同士をスポット溶接やかしめ等により接合したときに形成される鋼板の重なり部に発生する穴あき腐食の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冬季に融雪塩が道路に散布される地域においては、自動車の穴あき腐食に対する対策が重要な課題になっている。穴あき腐食は、表面処理鋼板などの鋼板同士をスポット溶接やかしめ等により接合したときに形成される鋼板の重なり部に発生する腐食であり、重なり部では、その内側面に化成処理や電着塗装が行き届かないことや、水分や塩分が滞留しやすいことがその原因と考えられている。
【0003】
こうした穴あき腐食をシミュレートするために、例えば、非特許文献1には、中心部に無塗装の領域を設けた表面処理鋼板を、スペーサーを介して一定のクリアランスを設けて重ね合わせた試験片が提案されている。また、非特許文献2には、種々の腐食試験条件が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H. E. Townsend, D. D. Davidson, M. R. Ostermiller:Proceedings of the 4th International Conference on Zinc and Zinc Alloy Coated Steel Sheet (Galvatech’98), 659(1998).
【非特許文献2】藤田 栄:第186・187回西山記念講座(日本鉄鋼協会編)、123(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載の試験片を用い、非特許文献2に記載の腐食試験条件で穴あき腐食をシミュレートしても、実際の自動車における穴あき腐食の現象を再現できない。すなわち、自動車の穴あき腐食の腐食深さはめっきの組成に依らず、めっき付着量に依存しているという実際の現象を的確にシミュレートできず、実用上有意義な試験片の条件が確立されていないのが現状である。
【0006】
本発明は、実際の自動車における穴あき腐食の現象を的確にシミュレートできる表面処理鋼板の穴あき腐食性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。
【0008】
表面処理鋼板の重なり部を適当な大きさにし、それに合わせて適切な間隔でスポット溶接を行った後に、化成処理および電着塗装を施して作製した試験片に対し、鋼板および亜鉛めっき鋼板を用いて同様に作製した試験片に腐食試験を行って求めた鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比が55〜98となる条件で腐食試験を実施すれば、実際の自動車における穴あき腐食の現象を的確にシミュレートできる。
【0009】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、2枚の表面処理鋼板を、幅Wが20〜60mm、長さLが60mm以上の重なり部を形成するように重ね合わせ、前記重なり部の外周部より10mm以上入った領域において、長さL方向に沿って30〜60mmの間隔Dで少なくとも2箇所スポット溶接を行った後、化成処理および電着塗装を施して作製した試験片に対し、予め2枚の鋼板および2枚の亜鉛めっき鋼板を用いて上記と同様に作製した試験片に腐食試験を行って求めた鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比(鋼の腐食速度/めっきの腐食速度)が55〜98となる条件で腐食試験を実施することを特徴とする表面処理鋼板の穴あき腐食性評価方法を提供する。
また、本発明は2枚の表面処理鋼板を、幅Wが20〜60mm、長さLが60mm以上の重なり部を形成するように重ね合わせ、前記重なり部の外周部より10mm以上入った領域において、長さL方向に沿って30〜60mmの間隔Dで少なくとも2箇所スポット溶接を行った後、化成処理および電着塗装を施して作製した、前記重なり部内の表面処理鋼板の表面処理面に電着塗膜が形成されない部分が存在する試験片に対し、予め2枚の鋼板および2枚の亜鉛めっき鋼板を用いて上記と同様に作製した試験片に腐食試験を行って求めた鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比(鋼の腐食速度/めっきの腐食速度)が55〜98となる条件で腐食試験を実施することを特徴とする表面処理鋼板の穴あき腐食性評価方法を提供する。
【0010】
本発明の表面処理鋼板の穴あき腐食性評価方法では、スポット溶接後の2枚の表面処理鋼板のクリアランスが300μm未満であることが好ましい。また、電着塗装後、さらに少なくとも1層の塗装を施し、前記電着塗装を含めた塗膜の膜厚を120μm未満とした試験片に対し、腐食試験を実施することが好ましい。また、鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比を求める際に、めっき付着量が片面当たり80〜120g/m2の亜鉛めっき鋼板を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明である表面処理鋼板の穴あき腐食性評価方法により、実際の自動車における穴あき腐食の現象を的確にシミュレートできるようになった。そのため、任意の表面処理鋼板の穴あき腐食性を事前に知ることができ、その自動車への適用を検討する上で有意義な情報が得られることになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】試験片の重なり部の一例を示す図である。
【図2】SAE J2334複合サイクル腐食試験の条件を示す図である。
【図3】重なり部の幅Wと最大腐食深さとの関係を示す図である。
【図4】スポット溶接の間隔Dと最大腐食深さとの関係を示す図である。
【図5】2枚の試験片のクリアランスと重なり部の電着塗膜厚との関係を示す図である。
【図6】腐食試験条件3における冷延鋼板と溶融亜鉛めっき鋼板の最大腐食深さを示す図である。
【図7】鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比を変えたときのめっき付着量と穴あき腐食の最大腐食深さとの関係を示す図である。
【図8】鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比が異なる腐食試験と実車腐食の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述したように、実際の自動車における穴あき腐食の現象を的確にシミュレートするには、表面処理鋼板の重なり部を適当な大きさにし、好ましくは適当なクリアランスを設けた上で、それに合わせて適切な間隔でスポット溶接を行った後に、化成処理および電着塗装を施して作製した試験片を用い、鋼板および亜鉛めっき鋼板を用いて同様に作製した試験片に腐食試験を行って求めた鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比がある範囲内となる条件で腐食試験を実施する必要がある。また、前記重なり部内の表面処理鋼板の表面処理面に電着塗膜が形成されない部分が存在する試験片を用いて腐食試験を実施することが好ましい。ここで表面処理鋼板の表面処理面とはめっき処理、化成処理、塗装処理などが施されている面であり、めっき面、化成処理皮膜面、塗装面である。
以下に、その詳細を説明する。
【0014】
(1) 重なり部の大きさについて
溶融亜鉛めっき鋼板GIと合金化溶融亜鉛めっき鋼板GA(いずれも、片面当たりのめっき付着量50g/m2、板厚0.8mm)を用い、それぞれの鋼板について、図1に示すような、長さLを60mm、クリアランスを50μmに固定し、幅Wを変えて重なり部を形成させ、重なり部の外周部より10mm以上入った領域において、長さL方向に沿って40mmの間隔Dで2箇所スポット溶接を行った試験片を各10枚作製した。溶接した試験片には、自動車のボディーパネルの塗装前処理として用いられるリン酸亜鉛系の化成処理を施し、続いて試験片外面において塗装厚が約20μmになるように電着塗装を施して重なり部内の表面処理鋼板の表面処理面に電着塗膜が形成されない部分が50%以上存在する腐食試験片とした。そして、作製した各10枚の試験片に対して、米国自動車技術者協会規格SAE J2334に準拠して複合サイクル腐食試験を行い、120サイクル後の穴あき腐食の最大腐食深さを求めた。図2にSAE J2334の試験条件を示す。このとき、腐食前のめっき鋼板の板厚と腐食後の腐食孔部のめっき鋼板の板厚をマイクロメータで測定し、両者の差の最大値を穴あき腐食の最大腐食深さとした。
【0015】
結果を図3に示す。図3には、各10枚の試験片の平均値とそのばらつきを示してある。重なり部の幅Wが20〜60mmでは、GIとGAの最大腐食深さはほぼ等しく、そのばらつきが小さいことがわかる。一方、幅Wが20mm未満あるいは60mm超えでは、GIとGAの最大腐食深さに大きな差が認められるとともに、そのばらつきも大きい。これは、重なり部の幅Wが20mm未満では端部のバリやめっきの垂れの影響を受けやすく、幅Wが60mm超えでは腐食試験で重なり部への塩水の浸入が不均一になるためと考えられる。
【0016】
以上のことから、試験片の重なり部の幅Wは20〜60mmとする必要がある。
【0017】
なお、重なり部の長さLは、端部から10mm以上内側に入った領域で30〜60mmの間隔Dで少なくとも2箇所スポット溶接を行える60mm以上であればよい。また、長さLが大きい場合には、30〜60mmの間隔Dでスポット溶接を可能な限り行えばよい。
【0018】
(2) スポット溶接の間隔Dについて
溶融亜鉛めっき鋼板GIと合金化溶融亜鉛めっき鋼板GA(いずれも、片面当たりのめっき付着量50g/m2、板厚1.0mm)を用い、それぞれの鋼板について、図1に示すような、幅Wを40mm、クリアランスを100μmに固定し、長さLをスポット溶接の間隔Dの1.5倍となるように変えて重なり部を形成させ、重なり部の外周部より10mm以上入った領域において、長さL方向に沿って間隔Dを変えて2箇所スポット溶接を行った試験片を各10枚作製した。溶接した試験片には、自動車のボディーパネルの塗装前処理として用いられるリン酸亜鉛系の化成処理を施し、続いて試験片外面において塗装厚が約20μmになるように電着塗装を施して重なり部内の表面処理鋼板の表面処理面に電着塗膜が形成されない部分が50%以上存在する腐食試験片とした。そして、作製した各10枚の試験片に対して、SAE J2334に準拠して複合サイクル腐食試験を行い、上記のように120サイクル後の穴あき腐食の最大腐食深さを測定した。
【0019】
結果を図4に示す。図4には、各10枚の試験片の平均値とそのばらつきを示してある。スポット溶接の間隔Dが30〜60mmでは、GIとGAの最大腐食深さはほぼ等しく、そのばらつきが小さいことがわかる。一方、間隔Dが30mm未満では腐食試験で重なり部への塩水の浸入が起こらないため腐食が進行せず、穴あき腐食性を評価できない。また、間隔Dが60mmを超えると重なり部への塩水の浸入が不均一になるため、GIとGAの最大腐食深さに大きな差が認められるとともに、そのばらつきも大きくなる。
【0020】
以上のことから、スポット溶接の間隔Dは30〜60mmとする必要がある。
【0021】
(3) クリアランスについて(好適条件)
溶融亜鉛めっき鋼板GIと合金化溶融亜鉛めっき鋼板GA(いずれも、片面当たりのめっき付着量50g/m2、板厚1.0mm)を用い、それぞれの鋼板について、図1に示すような、幅Wを40mm、長さLを60mmに固定し、クリアランス(0、50、100、200、250、300μm)を変えて重なり部を形成させ、重なり部の外周部より10mm以上入った領域において、長さL方向に沿って40mmの間隔Dで2箇所スポット溶接を行った試験片を各2枚作製した。なお、クリアランス0μm以外は、試験片の間に厚みが50、100、200、250、300μmのテフロン(登録商標)シートを端部に挟むことにより、クリアランスが所定の値となるように調整した。
溶接した試験片より、テフロン(登録商標)シートを抜き取った後、自動車のボディーパネルの塗装前処理として用いられるリン酸亜鉛系の化成処理を施し、続いて試験片外面において塗装厚が約20μmになるように電着塗装を施して腐食試験片とした。次いで、スポット溶接部を解体し、各試験片を構成する鋼板2枚それぞれの重なり部中央の電着塗装厚を測定した。得られた結果を図5に示す。
図5より、クリアランスが250μmまでは電着塗装が重なり部内の表面処理鋼板の表面処理面に形成されていない。一方、クリアランスが300μmになると、電着塗装が重なり部内以外の一般部と同レベルに塗装されていることがわかる。本発明は、化成処理および電着塗装がされにくい重なり部の穴あき腐食性を評価することを目的とするため、スポット溶接後の2枚の表面処理鋼板のクリアランスは、電着塗装が重なり部内の表面処理鋼板の表面処理面に形成されていない300μm未満とすることが好ましい。
なお、重なり部内の表面処理鋼板の表面処理面の電着塗装が形成されない部分の面積は、重なり部内の表面処理鋼板の表面全体の面積に対して、50%以上存在することが好ましい。50%以上存在することで、実際の自動車における穴あき腐食の現象を的確に再現し、穴あき腐食性を充分に評価することができる。
また、電着塗装が形成されない部分を前記重なり部内の表面処理鋼板の表面処理面に存在させた試験片を作成するにあたっては、あらかじめ重なり部内の表面処理鋼板の表面をシールして化成処理および電着塗装を施し無塗装部を形成しておいた後に、スポット溶接を行い重なり部試験片を作製する方法も考えられる。しかし、本発明では、実際の自動車における穴あき腐食の現象を的確にシミュレートするため、スポット溶接を行い重なり部を形成した後に、化成処理および電着塗装を施し試験片を作製するものである。あらかじめシールして無塗装部を形成しておいた後に重なり部試験片を作製する上記方法では、腐食生成物が重なり部内の表面処理鋼板の表面に保持されないためと推察されるが、実際の自動車における穴あき腐食の現象を的確に再現することができない。よって、あらかじめシールして無塗装部を形成しておいた後に重なり部試験片を作製する上記方法は、本発明では適さない。
【0022】
(4) スポット溶接後の化成処理および電着塗装について
実際の自動車の塗装では、スポット溶接工程を含む組み立てを行った後、化成処理および電着塗装が施される。したがって、実際の自動車における穴あき腐食の現象を的確にシミュレートするためには、表面処理鋼板をスポット溶接で接合した後に化成処理および電着塗装を施す必要がある。なお、この時、例えば、前述のように、スポット溶接後の2枚の表面処理鋼板のクリアランスを好ましくは300μm未満とすることで、重なり部内の表面処理鋼板の表面処理面には電着塗膜が形成されない部分が存在することになる。また、実際の自動車の塗装では、一般に電着塗装後にさらに中塗り塗装や上塗り塗装など複数の塗装が施される。そのため、本発明である試験片においても、電着塗装後にさらに上塗り塗装などを施すことができる。しかし、塗料によっては、塗膜厚が厚くなると重なり部の隙間を完全に塞ぎ、腐食性の評価を妨げる場合があるので、電着塗装を含めた塗膜の膜厚を120μm未満にすることが好ましい。
【0023】
(5) 腐食試験における腐食速度について
種々のめっき付着量を有する溶融亜鉛めっき鋼板(以下、GIと称す)(板厚0.8mm)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下、GAと称す)(板厚0.8mm)、Zn-Ni合金めっき鋼板(Ni:12質量%)(以下、ZnNiと称す)(板厚0.8mm)、およびめっき処理を施していない冷延鋼板(板厚0.8mm)を用い、それぞれの鋼板について、図1に示すような、幅Wを40mm、長さLを60mm、クリアランスを250μmに固定した重なり部を形成させ、重なり部の外周部より10mm以上入った領域において、長さL方向に沿って40mmの間隔Dで2箇所スポット溶接を行った試験片を作製した。溶接した試験片には、自動車のボディーパネルの塗装前処理として用いられるリン酸亜鉛系の化成処理を施し、続いて試験片外面において塗装厚が約20μmになるように電着塗装を施して重なり部内の表面処理鋼板の表面処理面、または冷延鋼板の表面に電着塗膜が形成されない部分が50%以上存在する腐食試験片とした。そして、作製した試験片に対して、表1に示す試験条件1〜4の腐食試験を実施した。腐食試験には、例えばJASO M 609やSAE J2334のように塩水浸漬、塩水噴霧、湿潤、乾燥などの条件を組み合わせて行う複合サイクル試験を用いた。表1の試験条件1〜4では、次に示すように、冷延鋼板と溶融亜鉛めっきの耐食性を評価し、それぞれの腐食試験条件において鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比(鋼の腐食速度/めっきの腐食速度)を求めた。その結果、表1に示すように、それぞれ、16、38、55、98という値が得られた。
【0024】
鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比の求め方の一例を以下に示す。冷延鋼板とめっき付着量が片面当たり100g/m2のGIを用い、それぞれの鋼板について、図1に示すような、幅Wを40mm、長さLを60mm、クリアランスを180μmに固定した重なり部を形成させ、重なり部の外周部より10mm以上入った領域において、長さL方向に沿って40mmの間隔Dで2箇所スポット溶接を行った試験片を作製する。溶接した試験片には、自動車のボディーパネルの塗装前処理として用いられるリン酸亜鉛系の化成処理を施し、続いて試験片外面において塗装厚が約20μmになるように電着塗装を施して重なり部内の鋼板の表面(GIは亜鉛めっき面)に電着塗膜が形成されない部分が50%以上存在する腐食試験片とする。そして作製した試験片に対して、複合サイクル腐食試験を行い、上記のように最大腐食深さを測定する。例えば、複合サイクル腐食試験を試験条件3で行うと、図6に示すような試験期間と最大腐食深さとの関係が得られた。冷延鋼板の腐食速度、すなわち鋼の腐食速度は、図6の冷延鋼板の傾きであり、7.2μm/サイクルとなる。一方、亜鉛めっきの腐食速度は、図6からめっきが完全に腐食されるサイクルが109サイクルであることがわかるので、めっき付着量100g/m2を109で割った100/109=0.92g/サイクルとなる。これは、亜鉛の密度が7.13g/cm3なので、0.13μm/サイクルに相当する。したがって、鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比は7.2 /0.13=55となる。なお、鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比を求めるには、めっきが下地鋼の腐食を抑制する期間が明瞭に現れるように、従来自動車用途に使用されている亜鉛めっき鋼板の中でも、めっき付着量が多い片面当たり80〜120g/m2の亜鉛めっき鋼板を用いることが望ましい。
【0025】
【表1】

【0026】
このようにして求めた鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比が16、38、55、98となる条件で、種々のめっき付着量を有するGI、GAおよびZnNiの試験片について複合サイクル腐食試験を行い、最大腐食深さを測定した。
【0027】
結果を図7に示す。図7の(c)、(d)に示すように、鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比が55〜98であれば、GIとGAおよびZnNiの腐食深さはほぼ同一曲線上にあり、最大腐食深さはめっき付着量に依存し、めっき組成には依存しないという実際の自動車における穴あき腐食の現象を的確にシミュレートしていることがわかる。一方、図7の(a)、(b)に示すように、鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比が16〜38であると、GIとGAの腐食深さは同一曲線上になく、同じめっき付着量ではGAの方がGIより最大腐食深さは小さくなるという結果が得られた。この結果は実際の自動車における穴あき腐食の現象と矛盾している。
【0028】
以上のことから、鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比が55〜98となる条件で腐食試験を実施する必要がある。
【実施例】
【0029】
図8に鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比の異なる腐食試験と実車(実際の自動車)の腐食の関係を示す。なお、用いた試験片(GAとGI)のスポット溶接後のクリアランスは全ての試験片において300μm未満であり、重なり部内の鋼板の表面処理面に電着塗膜が形成されない部分が50%以上存在した。実車の腐食では、めっき付着量が同じであれば(いずれも、片面当たりのめっき付着量は50g/m2)、めっきの組成・種類によらず腐食深さはほとんど変わらず、耐食性はほぼ同等である。これに対して腐食試験では、鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比が55〜98の範囲にあれば実車の腐食と同様にめっきの組成・種類によらず耐食性は同等になるが、腐食速度の比がこの範囲から外れるとめっきの組成・種類による耐食性の差が発現し、実車の腐食をシミュレートできていないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の表面処理鋼板を、幅Wが20〜60mm、長さLが60mm以上の重なり部を形成するように重ね合わせ、前記重なり部の外周部より10mm以上入った領域において、長さL方向に沿って30〜60mmの間隔Dで少なくとも2箇所スポット溶接を行った後、化成処理および電着塗装を施して作製した試験片に対し、予め2枚の鋼板および2枚の亜鉛めっき鋼板を用いて上記と同様に作製した試験片に腐食試験を行って求めた鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比(鋼の腐食速度/めっきの腐食速度)が55〜98となる条件で腐食試験を実施することを特徴とする表面処理鋼板の穴あき腐食性評価方法。
【請求項2】
2枚の表面処理鋼板を、幅Wが20〜60mm、長さLが60mm以上の重なり部を形成するように重ね合わせ、前記重なり部の外周部より10mm以上入った領域において、長さL方向に沿って30〜60mmの間隔Dで少なくとも2箇所スポット溶接を行った後、化成処理および電着塗装を施して作製した、前記重なり部内の表面処理鋼板の表面処理面に電着塗膜が形成されない部分が存在する試験片に対し、予め2枚の鋼板および2枚の亜鉛めっき鋼板を用いて上記と同様に作製した試験片に腐食試験を行って求めた鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比(鋼の腐食速度/めっきの腐食速度)が55〜98となる条件で腐食試験を実施することを特徴とする表面処理鋼板の穴あき腐食性評価方法。
【請求項3】
前記スポット溶接後の2枚の表面処理鋼板のクリアランスが300μm未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面処理鋼板の穴あき腐食性評価方法。
【請求項4】
電着塗装後、さらに少なくとも1層の塗装を施し、前記電着塗装を含めた塗装の膜厚を120μm未満とした試験片に対し、腐食試験を実施することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面処理鋼板の穴あき腐食性評価方法。
【請求項5】
鋼と亜鉛めっきの腐食速度の比を求める際に、めっき付着量が片面当たり80〜120g/m2の亜鉛めっき鋼板を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の表面処理鋼板の穴あき腐食性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−27710(P2011−27710A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13900(P2010−13900)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】