説明

表面処理鋼板

【課題】表面処理組成物や皮膜中に6価クロムを含まず、優れた耐食性及び塗料密着性を有する表面処理鋼板を提供する。
【解決手段】亜鉛系又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、加水分解性チタン化合物などのチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(A)、弗素含有化合物(B)、アニオン系ウレタン樹脂又は/及びアニオン系エポキシ樹脂(C)、有機リン酸化合物(D)、バナジン酸化合物(E)、炭酸ジルコニウム化合物(F)及びグリシジル基を有するシランカップリング剤(G)を特定の割合で含有する表面処理組成物(H)を塗布し、乾燥させることにより形成された皮膜付着量が0.2〜3.0g/mの表面処理皮膜を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電、建材用途に最適な表面処理鋼板に関するもので、特に、表面処理組成物やこれにより形成される表面処理皮膜中に6価クロムを含まない環境適応型の表面処理鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、建築、土木、家電等の分野では、めっき鋼板に白錆を抑制するための化成皮膜を被覆形成した表面処理鋼板が広く利用されている。この表面処理鋼板は塗装を施して使用されることも多いため、化成皮膜には耐食性とともに塗料密着性が要求される。
めっき鋼板に耐食性を付与する化成処理技術は数多く提案されている。従来は、クロム酸、重クロム酸またはその塩類を主要成分とした処理液によるクロメート処理が施されていた。しかし、クロメート処理は公害規制物質である6価クロムを使用しており、環境に対する配慮から、またクロメート処理液の廃液処理に多大な労力と費用とを要することから、クロムを含まないクロメートフリー技術が検討されている。例えば、特許文献1〜3には、チタン、ジルコニウム系のクロメートフリー処理金属板が提案されている。
【特許文献1】特開2004−2950号公報
【特許文献2】国際公開第2003/93533号パンフレット
【特許文献3】特開2003−306777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、これら従来のクロメートフリー処理では、優れた耐食性と塗料密着性を兼ね備えた表面処理鋼板を得ることはできない。
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、表面処理組成物や皮膜中に6価クロムを含まず、優れた耐食性及び塗料密着性を有する表面処理鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決することができる表面処理組成について検討を行い、その結果、以下のような知見を得た。
亜鉛系めっき鋼板やアルミニウム系めっき鋼板をベースとする表面処理鋼板に耐食性と塗料密着性を付与するためには、めっき皮膜表面に緻密な反応層を形成させる必要があると考えられるが、処理液の反応性が低いとめっき表面と表面処理皮膜との間に緻密な反応層が形成されず、十分な耐食性と塗料密着性を発現させることができない。そこで検討した結果、処理液(表面処理組成物)に弗素含有化合物を添加し、反応性を高めることが重要であるとの知見を得た。さらに検討を進めた結果、特定のチタン含有水性液に対して、弗素含有化合物とともに、有機リン酸化合物、バナジン酸化合物、炭酸ジルコニウム化合物を複合添加し、さらに特定の有機樹脂と特定のシランカップリング剤を複合添加することにより、クロメートフリーでありながらクロメート皮膜に匹敵する優れた耐食性が得られとともに、優れた塗料密着性、特に湿潤環境下での優れた上塗り塗料密着性が得られることを知見した。これは、上記のような成分組成の表面処理組成物を塗布して皮膜を形成することにより、めっき表面に緻密な反応層が形成され、且つ表面処理皮膜自体により高いバリア性が付与されるとともに、上塗り塗料/表面処理皮膜界面および表面処理皮膜/めっき界面での密着力が顕著に向上するためであると推定される。
【0005】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(A)を固形分の割合で1〜60質量%、弗素含有化合物(B)を固形分の割合で1〜40質量%、アニオン系ウレタン樹脂又は/及びアニオン系エポキシ樹脂(C)を固形分の割合で30〜90質量%、有機リン酸化合物(D)を固形分の割合で1〜60質量%、バナジン酸化合物(E)を固形分の割合で0.1〜30質量%、炭酸ジルコニウム化合物(F)を固形分の割合で0.1〜20質量%、グリシジル基を有するシランカップリング剤(G)を固形分の割合で1〜50質量%含有する表面処理組成物(H)を塗布し、乾燥させることにより形成された皮膜付着量が0.2〜3.0g/mの表面処理皮膜を有することを特徴とする表面処理鋼板。
【0006】
[2]上記[1]の表面処理鋼板において、弗素含有化合物(B)が、ジルコン弗化アンモニウム、ジルコン弗化水素酸の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする表面処理鋼板。
[3]上記[1]又は[2]の表面処理鋼板において、表面処理組成物(H)が、さらにニッケル化合物(I)を固形分の割合で0.05〜1質量%含有することを特徴とする表面処理鋼板。
【発明の効果】
【0007】
本発明の表面処理鋼板は、特定のチタン含有水性液と、弗素含有化合物と、特定の有機樹脂と、有機リン酸化合物と、バナジン酸化合物と、炭酸ジルコニウム化合物と、特定のシランカップリング剤とを所定の割合で配合した表面処理組成物による処理皮膜を有することにより、めっき表面に緻密な反応層が形成されるとともに、表面処理皮膜自体により高いバリア性が付与されるため、クロメートフリーでありながらクロメート皮膜に匹敵する優れた耐食性が得られ、しかも高い塗料密着性が得られる。また、表面処理組成物がニッケル化合物を含有する場合には、優れた耐黒変性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の詳細とその限定理由を説明する。
本発明の表面処理鋼板のベースとなる亜鉛系めっき鋼板としては、例えば、亜鉛めっき鋼板、Zn−Ni合金めっき鋼板、Zn−Fe合金めっき鋼板(電気めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板)、Zn−Cr合金めっき鋼板、Zn−Mn合金めっき鋼板、Zn−Co合金めっき鋼板、Zn−Co−Cr合金めっき鋼板、Zn−Cr−Ni合金めっき鋼板、Zn−Cr−Fe合金めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板(例えば、Zn−5%Al合金めっき鋼板、Zn−55%Al合金めっき鋼板)、Zn−Mg合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板(例えば、Zn−6%Al−3%Mg合金めっき鋼板、Zn−11%Al−3%Mg合金めっき鋼板)、さらには、これらのめっき鋼板のめっき皮膜中に金属酸化物、ポリマーなどを分散した亜鉛系複合めっき鋼板(例えば、Zn−SiO2分散めっき鋼板)などを用いることができる。
【0009】
また、上記のようなめっきのうち、同種又は異種のものを2層以上めっきした複層めっき鋼板を用いることもできる。
また、本発明の表面処理鋼板のベースとなるアルミニウム系めっき鋼板としては、アルミニウムめっき鋼板、Al−Si合金めっき鋼板などを用いることができる。
また、めっき鋼板としては、鋼板面に予めNiなどの薄目付のめっきを施し、その上に上記のような各種めっきを施したものであってもよい。
めっき方法としては、電解法(水溶液中での電解または非水溶媒中での電解)、溶融法、気相法等、実施可能ないずれの方法を採用してもよい。
さらに、めっきの黒変を防止する目的で、めっき皮膜中にNi、Co、Feの1種以上の微量元素を1〜2000ppm程度析出させたり、或いはめっき皮膜表面にNi、Co、Feの1種以上を含むアルカリ性水溶液又は酸性水溶液による表面調整処理を施し、これら元素を析出させるようにしてもよい。
【0010】
次に、前記亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に形成される表面処理皮膜及びこの皮膜形成用の表面処理組成物について説明する。
本発明の表面処理鋼板において、亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に形成される表面処理皮膜は、特定のチタン含有水性液(A)と、弗素含有化合物(B)と、アニオン系ウレタン樹脂又は/及びアニオン系エポキシ樹脂(C)と、有機リン酸化合物(D)と、バナジン酸化合物(E)と、炭酸ジルコニウム化合物(F)と、グリシジル基を有するシランカップリング剤(G)を所定の割合で含有し、必要に応じてさらにニッケル化合物(I)などを含有する表面処理組成物(H)を塗布し、乾燥させることにより形成されるものである。この表面処理皮膜は6価クロム(但し、不可避不純物としてのクロムを除く)を含有しない。
【0011】
このような表面処理皮膜を形成することによって優れた耐食性と塗料密着性が得られる理由は、さきに述べたように、めっき表面に緻密な反応層が形成され、且つ表面処理皮膜自体により高いバリア性が付与されるとともに、上塗り塗料/表面処理皮膜界面及び表面処理皮膜/めっき界面での密着力が顕著に向上するためであると推定される。特に、塗料密着性については、特定の金属塩を複合添加したチタン含有水性液に、さらに特定の有機樹脂とシランカップリング剤を特定の割合で複合添加することで、上塗り塗料/表面処理皮膜界面での有機樹脂の官能基による密着力の強化作用と、表面処理皮膜/めっき界面でのシランカップリング剤のシラノール基による密着力の強化作用が複合的に得られる結果、その性能が顕著に高まるものと考えられる。
【0012】
前記チタン含有水性液(A)は、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物と過酸化水素水とを混合して得られるチタンを含む水性液である。
前記加水分解性チタン化合物は、チタンに直接結合する加水分解性基を有するチタン化合物であって、水、水蒸気などの水分と反応することにより水酸化チタンを生成するものである。また、加水分解性チタン化合物は、チタンに結合する基の全てが加水分解性基であるものでもよいし、チタンに結合する基の一部が加水分解性基であるものでもよい。
前記加水分解性基としては、上記したように水分と反応することにより水酸化チタンを生成させるものであれば特に制限はないが、例えば、低級アルコキシル基やチタンと塩を形成する基(例えば、塩素などのハロゲン原子、水素原子、硫酸イオンなど)などが挙げられる。
【0013】
加水分解性基として低級アルコキシル基を含有する加水分解性チタン化合物としては、特に、一般式Ti(OR)(式中、Rは同一若しくは異なる炭素数1〜5のアルキル基を示す)で示されるテトラアルコキシチタンが好ましい。炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。
加水分解性基として、チタンと塩を形成する基を有する加水分解性チタン化合物としては、塩化チタン、硫酸チタンなどが代表的なものとして挙げられる。
【0014】
また、加水分解性チタン化合物の低縮合物は、上記した加水分解性チタン化合物どうしの低縮合物である。この低縮合物は、チタンに結合する基の全てが加水分解性基であるものでもよいし、チタンに結合する基の一部が加水分解性であるものでもよい。
加水分解性基がチタンと塩を形成する基である加水分解性チタン化合物(例えば、塩化チタン、硫酸チタンなど)については、その加水分解性チタン化合物の水溶液とアンモニアや苛性ソーダなどのアルカリ溶液との反応により得られるオルトチタン酸(水酸化チタンゲル)も低縮合物として使用できる。
【0015】
加水分解性チタン化合物の低縮合物及び水酸化チタンの低縮合物としては、縮合度が2〜30の化合物が使用可能であり、特に縮合度が2〜10の化合物を使用することが好ましい。縮合度が30を超えると、過酸化水素と混合した際に白色沈殿を生じ、安定なチタン含有水性液が得られない。すなわち、縮合度が30以下であれば、過酸化水素と混合して安定なチタン含有水性液が得られる。
以上挙げた加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物は、1種又は2種以上を使用できるが、そのなかでも、上述した一般式で示される加水分解性チタン化合物であるテトラアルコキシチタンが特に好ましい。この理由は、テトラアルコキシチタンは、加水分解した時に生成されるアルコールが表面処理組成物を乾燥させる過程で揮発するため、耐食性などの皮膜性能に影響を与えることがなく、特に優れた皮膜性能が得られるからである。
【0016】
チタン含有水性液(A)としては、上記したチタン化合物と過酸化水素水を混合することにより得られるチタンを含む水性液であれば、従来公知のものを特に制限なしに使用することができる。具体的には、下記のものを挙げることができる。
(i)含水酸化チタンのゲル又はゾルに過酸化水素水を添加して得られるチタニルイオン過酸化水素錯体又はチタン酸(ペルオキソチタン水和物)水溶液(特開昭63−35419号公報、特開平1−224220号公報参照)。
【0017】
(ii)塩化チタンや硫酸チタンの水溶液と塩基性溶液から製造した水酸化チタンゲルに過酸化水素水を作用させ、合成することで得られるチタニア膜形成用液体(特開平9−71418号公報、特開平10−67516号公報参照)。
このチタニア膜形成用液体を得る場合、チタンと塩を形成する基を有する塩化チタンや硫酸チタンの水溶液とアンモニアや苛性ソーダなどのアルカリ溶液とを反応させることによりオルトチタン酸と呼ばれる水酸化チタンゲルを沈殿させる。次いで、水を用いたデカンテーションによって水酸化チタンゲルを分離し、良く水洗し、さらに過酸化水素水を加え、余分な過酸化水素を分解除去することにより、黄色透明粘性液体を得ることができる。
【0018】
沈殿した上記オルトチタン酸は、OHどうしの重合や水素結合によって高分子化したゲル状態にあり、そのままではチタンを含む水性液としては使用できない。このゲルに過酸化水素水を添加するとOHの一部が過酸化状態になり、ペルオキソチタン酸イオンとして溶解或いは高分子鎖が低分子に分断された一種のゾル状態になり、余分な過酸化水素は水と酸素になって分解し、無機膜形成用のチタンを含む水性液として使用できるようになる。
このゾルはチタン原子以外に酸素原子と水素原子しか含まないので、乾燥や焼成によって酸化チタンに変化する場合、水と酸素しか発生しないため、ゾルゲル法や硫酸塩などの熱分解に必要な炭素成分やハロゲン成分の除去が必要でなく、低温でも比較的密度の高い酸化チタン膜を形成することができる。
【0019】
(iii)塩化チタンや硫酸チタンの無機チタン化合物水溶液に過酸化水素を加えてぺルオキソチタン水和物を生成させた後に、塩基性物質を添加して得られた溶液を放置又は加熱することによってペルオキソチタン水和物重合体の沈殿物を生成させ、次いで、少なくともチタン含有原料溶液に由来する水以外の溶解成分を除去した後に過酸化水素を作用させて得られるチタン酸化物形成用溶液(特開2000−247638号公報、特開2000−247639号公報参照)。
【0020】
チタン化合物として加水分解性チタン化合物及び/又はその低縮合物(以下、説明の便宜上「加水分解性チタン化合物a」という)を用いるチタン含有水性液(A)は、加水分解性チタン化合物aを過酸化水素水と反応温度1〜70℃で10分間〜20時間程度反応させることにより得ることができる。
この加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)は、加水分解性チタン化合物aと過酸化水素水とを反応させることにより、加水分解性チタン化合物aが水で加水分解されて水酸基含有チタン化合物を生成し、次いで、この水酸基含有チタン化合物に過酸化水素が配位するものと考えられ、この加水分解反応及び過酸化水素による配位が同時近くに起こることにより得られたものであり、室温域での安定性が極めて高く、長期の保存に耐えるキレート液を生成する。従来の製法で用いられる水酸化チタンゲルは、Ti−O−Ti結合により部分的に三次元化しており、このゲルと過酸化水素水を反応させたチタン含有水性液(A)とは組成及び安定性が本質的に異なる。
【0021】
また、加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)を80℃以上で加熱処理又はオートクレーブ処理すると、結晶化した酸化チタンの超微粒子を含む酸化チタン分散液が得られる。前記加熱処理又はオートクレーブ処理が80℃未満では、酸化チタンの結晶化が十分に進まない。すなわち、前記加熱処理又はオートクレーブ処理を80℃以上で行えば、酸化チタンの結晶化が十分に進行させることができる。このようにして製造された酸化チタン分散液は、酸化チタン超微粒子の平均粒子径が10nm以下、好ましくは1〜6nm程度であることが望ましい。酸化チタン超微粒子の平均粒子径が10nmより大きくなると造膜性が低下する(塗布後乾燥して皮膜とした場合、膜厚1μm以上でワレを生じる)ので好ましくない。すなわち、酸化チタン超微粒子の平均粒子径を10nm以下とすると造膜性が優れる(塗布後乾燥して皮膜とした場合、膜厚1μm以上でワレを生じることがない)ので好ましい。また、酸化チタン超微粒子の平均粒子径が1nm以上であれば、表面処理組成物を粘度が高くならない状態に維持できるので好ましい。この酸化チタン分散液の外観は半透明状のものである。このような酸化チタン分散液も、チタン含有水性液(A)として使用することができる。
【0022】
加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)を含む表面処理組成物(H)を、めっき鋼板表面に塗布・乾燥(例えば、低温で加熱乾燥)することにより、それ自体で付着性に優れた緻密な酸化チタン含有皮膜(表面処理皮膜)を形成することができる。
表面処理組成物(H)を塗布した後の鋼板の加熱温度としては、例えば200℃以下、特に150℃以下が好ましく、このような温度で加熱乾燥することにより、水酸基を若干含む非晶質(アモルファス)の酸化チタン含有皮膜が形成できる。
また、上記したような80℃以上の加熱処理又はオートクレーブ処理を経て得られた酸化チタン分散液をチタン含有水性液(A)として用いた場合、表面処理組成物(H)を塗布するだけで結晶性の酸化チタン含有皮膜が形成できるため、加熱処理できない材料のコーティング材として有用である。
【0023】
また、チタン含有水性液(A)としては、酸化チタンゾルの存在下で、加水分解性チタン化合物aと過酸化水素水とを反応させて得られるチタン含有水性液(A1)を使用することもできる。
前記酸化チタンゾルは、無定型チタニア微粒子又は/及びアナターゼ型チタニア微粒子が水(必要に応じて、例えばアルコール系、アルコールエーテル系などの水性有機溶剤を添加してもよい)に分散したゾルである。この酸化チタンゾルとしては、従来公知のものを使用することができ、例えば、(i)硫酸チタンや硫酸チタニルなどの含チタン溶液を加水分解して得られる酸化チタン凝集物、(ii)チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物を加水分解して得られる酸化チタン凝集物、(iii)四塩化チタンなどのハロゲン化チタン溶液を加水分解又は中和して得られる酸化チタン凝集物、などの酸化チタン凝集物を水に分散した無定型チタニアゾル、或いは前記酸化チタン凝集物を焼成してアナターゼ型チタン微粒子とし、このものを水に分散したゾルを使用することができる。
【0024】
前記無定形チタニアの焼成では、少なくともアナターゼの結晶化温度以上の温度、例えば、400℃〜500℃以上の温度で焼成すれば、無定形チタニアをアナターゼ型チタニアに変換させることができる。この酸化チタンの水性ゾルとしては、例えば、TKS−201(商品名,テイカ社製,アナターゼ型結晶形,平均粒子径6nm)、TA−15(商品名,日産化学社製,アナターゼ型結晶形)、STS−11(商品名,石原産業社製,アナターゼ型結晶形)などが挙げられる。
【0025】
チタン含有水性液(A1)において、上記酸化チタンゾルxとチタン過酸化水素反応物y(加水分解性チタン化合物aと過酸化水素水との反応生成物)との質量比率x/yは、1/99〜99/1、好ましくは約10/90〜90/10の範囲が適当である。質量比率x/yが1/99未満では、安定性、光反応性などの点において酸化チタンゾルを添加した効果が十分に得られず、一方、99/1を超えると造膜性が劣るので好ましくない。すなわち、質量比率x/yが1/99以上であれば、安定性、光反応性などの点において酸化チタンゾルを添加した効果が十分に得られ、一方、99/1以下であれば、優れた造膜性が得られるので好ましい。
【0026】
チタン含有水性液(A1)は、酸化チタンゾルの存在下で加水分解性チタン化合物aを過酸化水素水と反応温度1〜70℃で10分間〜20時間程度反応させることにより得ることができる。
チタン含有水性液(A1)の生成形態やその特性は、さきに述べた加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)と同様であるが、特に、酸化チタンゾルを使用することにより、合成時に一部縮合反応が起きて増粘するのが抑えられる。その理由は、縮合反応物が酸化チタンゾルの表面に吸着され、溶液状態での高分子化が抑えられるためであると考えられる。
【0027】
また、チタン含有水性液(A1)を80℃以上で加熱処理又はオートクレーブ処理すると、結晶化した酸化チタンの超微粒子を含む酸化チタン分散液が得られる。この酸化チタン分散液を得るための温度条件、結晶化した酸化チタン超微粒子の粒子径、分散液の外観なども、さきに述べた加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)と同様である。このような酸化チタン分散液も、チタン含有水性液(A1)として使用することができる。
【0028】
さきに述べた加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)と同様、チタン含有水性液(A1)を含む表面処理組成物(H)を、めっき鋼板表面に塗布・乾燥(例えば、低温で加熱乾燥)することにより、それ自体で付着性に優れた緻密な酸化チタン含有皮膜(表面処理皮膜)を形成することができる。
表面処理組成物(H)を塗布した後の鋼板の加熱温度としては、例えば200℃以下、特に150℃以下が好ましく、このような温度で加熱乾燥することにより、水酸基を若干含むアナターゼ型の酸化チタン含有皮膜が形成できる。
以上述べたように、チタン含有水性液(A)の中でも、加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)やチタン含有水性液(A1)は、貯蔵安定性、耐食性などに優れた性能を有するので、本発明ではこれらを使用することが特に好ましい。
【0029】
加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物に対する過酸化水素水の配合割合は、チタン化合物10質量部に対して過酸化水素換算で0.1〜100質量部、望ましく1〜20質量部とすることが好ましい。過酸化水素水の配合割合が過酸化水素換算で0.1質量部未満では、キレート形成が十分でないため白濁沈殿が生じてしまう。一方、100質量部を超えると未反応の過酸化水素が残存し易く、貯蔵中に危険な活性酸素を放出するので好ましくない。すなわち、過酸化水素水の配合割合が過酸化水素換算で0.1質量部以上であれば、キレート形成が十分であるため白濁沈殿が生じることがなく、一方、100質量部以下であれば、未反応の過酸化水素が残存することがなく、貯蔵中に活性酸素を放出することがないので好ましい。
【0030】
過酸化水素水の過酸化水素濃度は特に限定されないが、3〜30質量%程度であることが、取り扱いやすさ、塗装作業性に関係する生成液の固形分の点で好ましい。
チタン含有水性液(A)には、必要に応じて、他のゾルや顔料を添加分散させることもできる。例えば、添加物としては、市販の酸化チタンゾルや酸化チタン粉末、マイカ、タルク、シリカ、バリタ、クレーなどが挙げられ、これらの1種以上を添加することができる。
【0031】
表面処理組成物(H)中でのチタン含有水性液(A)の添加量は、処理液安定性の観点から、固形分の割合で1〜60質量%、好ましくは2〜40質量%とする。チタン含有水性液(A)の添加量(固形分割合)が1質量%未満、60質量%超のいずれの場合も処理液安定性が劣る。
なお、本発明において、表面処理組成物中での各成分の固形分の割合とは、表面処理組成物の不揮発分・加熱(表面処理組成物塗布後の加熱乾燥)残分中での各成分の不揮発分・加熱(表面処理組成物塗布後の加熱乾燥)残分の割合を指す。
【0032】
前記弗素含有化合物(B)は、耐食性向上の観点から、処理液(表面処理組成物)とめっき表面との反応性を高め、緻密な反応層を形成するために配合されるものである。弗素含有化合物(B)としては、例えば、ジルコン弗化アンモニウム、ジルコン弗化カリウム、ジルコン弗化水素酸、チタン弗化アンモニウム、弗化水素酸、弗化水素酸アンモニウムなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、耐食性を付与するという観点からは、ジルコン弗化アンモニウム、ジルコン弗化水素酸の中から選ばれる少なくとも1種を用いること好ましい。
表面処理組成物(H)中での弗素含有化合物(B)の添加量は、固形分の割合で1〜40質量%、好ましくは2〜30質量%とする。弗素含有化合物(B)の添加量が1質量%未満では、処理液とめっき表面との反応性が劣る結果、十分な耐食性が得られない。一方、40質量%を超えると、処理液のエッチング性が高くなる結果、めっき表面が過剰にエッチングされ、却って耐食性が劣化してしまう。
【0033】
前記アニオン系ウレタン樹脂又は/及びアニオン系エポキシ樹脂(C)は、分子中に、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などの水性媒体中でアニオン化可能な基を有する樹脂が包含され、従来公知のものを広く使用できる。これらの中でもアニオン性基としてカルボキシル基を有するものが耐食性などの点から好ましい。上記アニオン性基は、必要に応じてそれらの官能基の一部又は全部をエタノールアミン、トリエチルアミンなどのアミン化合物;アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物で中和して使用することができる。
【0034】
アニオン系ウレタン樹脂としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールなどのポリオールとジイソシアネートからなるポリウレタンを必要に応じてジオール、ジアミンなどのような2個以上の活性水素を持つ低分子量化合物である鎖伸長剤の存在下で鎖伸長し、水中に安定に分散又は溶解させたものを好適に使用できる。
ポリウレタン樹脂を水中に安定に分散又は溶解させる方法としては、例えば下記の方法が利用できる。
【0035】
(1)ポリウレタンポリマーの側鎖又は末端にカルボキシル基などのアニオン性基を導入することにより親水性を付与し、自己乳化により水中に分散又は溶解する方法。具体的には、例えば、ポリイソシアネート、ポリオール及びアニオン性基を有する活性水素基含有化合物を反応させることにより合成することができる。
(2)反応の完結したポリウレタンポリマー又は末端イソシアネート基をオキシム、アルコール、フェノール、メルカプタン、アミン、重亜硫酸ソーダなどのブロック剤でブロックしたポリウレタンポリマーをアニオン系乳化剤と機械的剪断力を用いて強制的に水中に分散する方法。さらに、末端イソシアネート基を持つウレタンポリマーを水、乳化剤及び鎖伸長剤と混合し、機械的剪断力を用いて分散化と高分子量化を同時に行う方法。
【0036】
前記ポリウレタン系樹脂の合成に使用できるポリイソシアネートとしては、芳香族、脂環族又は脂肪族のジイソシアネートなどが挙げられ、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、3,3′−ジメトキシ−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、1,3−(ジイソシアナトメチル)シクロヘキサノン、1,4−(ジイソシアナトメチル)シクロヘキサノン、4,4′−ジイソシアナトシクロヘキサノン、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、2,4−ナフタレンジイソシアネート、3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、4,4′−ビフェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。これらなかでも、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが特に好ましい。
【0037】
アニオン性基を有する活性水素基含有化合物は、前記した例えば、カルボキシル基、スルホニル基などのアニオン性基を有し、かつ、イソシアネート基と反応し得る、例えば、水酸基、アミノ基などの活性水素基を含有する化合物であり、例えば、2,2−ジメチロール酢酸、2,2−ジメチロール乳酸、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸などの1分子中に2つの活性水素基を有する化合物を好適に使用することができる。
ポリオールとしては、前記ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールなどを使用することができるが、ポリオールの一部を例えば、アミノ基含有エポキシ樹脂などに置き換えることにより、エポキシ変成アニオン系ポリウレタン樹脂とすることもできる。
アニオン系ポリウレタン樹脂の市販品としては、例えば、ハイドラン(登録商標)AP−10、同AP−20、同AP−30、同HW−330、同HW−340、同HW−350、同WLS−201、同WLS−210、同WLS−221(いずれも商品名,大日本インキ化学工業(株)製)、スーパーフレックス(登録商標)110、同130、同150、同150HS、同170(いずれも商品名,第一工業製薬(株)製)などを挙げることができる。
【0038】
前記アニオン系エポキシ樹脂は、分子中に、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などのアニオン性基を導入したものであるが、なかでもカルボキシル基が耐食性の点から好ましい。
カルボキシル基含有エポキシ樹脂は、例えば、エポキシ樹脂が有している水酸基の一部に多塩基酸の無水物を約100〜約180℃の温度においてハーフエステル化反応させることにより付加することによって容易に得ることができる。
エポキシ樹脂としては、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られる1分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を用いることができる。
【0039】
エポキシ樹脂の製造に用い得るポリフェノール化合物としては、それ自体既知のものを使用することができ、そのようなポリフェノール化合物の例としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン(ビスフェノールA)、4,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどを挙げることができる。
【0040】
また、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂のなかでも、長期耐食性の観点からは、ビスフェノール型エポキシ樹脂、特にビスフェノールA型エポキシ樹脂が好適である。
そのようなエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン株式会社からjER828EL、jER1002、jER1004、jER1007などの商品名で販売されているものが挙げられる。
エポキシ樹脂としては、塗膜性能や他の樹脂との相溶性改良などの目的のため、脂肪酸などで変成した変成エポキシ樹脂を用いてもよい。
前記酸無水物としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸など2塩基酸の無水物が挙げられ、また、無水トリメリット酸などの3塩基酸1無水物なども使用することができる。
【0041】
エポキシ樹脂にアニオン性基を導入する他の方法としては、エポキシ樹脂をアニオン性基を有するアクリルやウレタンなどで変成するものである。この場合、アニオン性基は変成後に導入してもよい。
例えば、アクリル変成エポキシ樹脂であれば、エポキシ樹脂のエポキシ基にアクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基と不飽和基を有する化合物を反応させるなどしてエポキシ樹脂に不飽和基を導入し、この不飽和基含有エポキシ樹脂の存在下で不飽和モノマーを重合することにより得ることができる。その不飽和モノマーの一部にアニオン性基含有モノマーを用いることにより、アクリル変成エポキシ樹脂に容易にアニオン性基を導入することができる。
【0042】
アニオン系エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ウォーターゾール(登録商標)S−370、同CD−540P、同CD−550LAP、同EFD−5501P、同EFD−5509、同BM−1000、同S−319−HV(いずれも商品名,大日本インキ化学工業(株)製)、モデピクス(登録商標)301、同302、同303、同304(いずれも商品名,荒川化学工業(株)製)などを挙げることができる。
表面処理組成物(H)中でのアニオン系ウレタン樹脂又は/及びアニオン系エポキシ樹脂(C)の添加量は、固形分の割合で30〜90質量%、好ましくは40〜80質量%とする。アニオン系ウレタン樹脂又は/及びアニオン系エポキシ樹脂(C)の添加量が30質量%未満では、十分な塗料密着性が得られない。一方、90質量%を超えると、無機成分によるバリア性が低下するため、耐食性を確保するために皮膜付着量を増加させる必要が生じ、導電性が低下してしまう。
【0043】
前記有機リン酸化合物(D)としては、例えば、1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸などのヒドロキシル基含有有機亜リン酸;2−ヒドロキシホスホノ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸などのカルボキシル基含有有機亜リン酸、及びこれらの塩などが好適なものとして挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0044】
有機リン酸化合物(D)は、チタン含有水性液(A)の貯蔵安定性を向上させる効果を有し、なかでも、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸はその効果が特に大きいことから、これを使用するのが特に好ましい。
表面処理組成物(H)中での有機リン酸化合物(D)の添加量は、チタン含有水性液(A)の貯蔵安定性や耐水付着性などの観点から、固形分の割合で1〜60質量%、好ましくは2〜50質量%とする。有機リン酸化合物(D)の添加量が1質量%未満では、チタン含有水性液(A)の貯蔵安定性の改善効果が少ない。一方、60質量%を超えると、リン酸が過剰に存在する結果、耐水性が劣化してしまう。
【0045】
前記バナジン酸化合物(E)としては、例えば、メタバナジン酸リチウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸アンモニウム、無水バナジン酸などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、メタバナジン酸アンモニウムが耐水付着性などの点から好ましい。
表面処理組成物(H)中でのバナジン酸化合物(E)の添加量は、耐食性の観点から固形分の割合で0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜20質量%とする。バナジン酸化合物(E)の添加量が0.1質量%未満では、耐食性の改善効果が不十分である。一方、30質量%を超えると、Vが過剰に存在するため十分な耐食性を発現できない。
【0046】
前記炭酸ジルコニウム化合物(F)としては、炭酸ジルコニウムのナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウムなどの塩が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、炭酸ジルコニウムアンモニウムが耐水付着性などの点から好ましい。
表面処理組成物(H)中での炭酸ジルコニウム化合物(F)の添加量は、耐食性などの観点から固形分の割合で0.1〜20質量%、好ましくは0.2〜15質量%とする。炭酸ジルコニウム化合物(F)の添加量が0.1質量%未満では、耐食性の改善効果が不十分である。一方、20質量%を超えると、Zrが過剰に存在するため十分な耐食性を発現できない。
【0047】
前記グリシジル基を有するシランカップリング剤(G)としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
表面処理組成物(H)中でのシランカップリング剤(G)の添加量は、固形分の割合で1〜50質量%、好ましくは4〜40質量%とする。シランカップリング剤(C)の添加量が1質量%未満では、十分な塗料密着性が得られない。一方、50質量%を超えると貯蔵安定性が確保できない。
【0048】
表面処理組成物(H)は、耐黒変性を改善するために、さらにニッケル化合物(I)を固形分の割合で0.05〜1質量%含有することが好ましい。このような範囲のニッケル化合物(I)を含有することにより、優れた耐黒変性及び耐食性が得られる。ニッケル化合物(I)のより好ましい含有量は、0.1〜1質量%である。
ニッケル化合物(I)としては、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケルなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、酢酸ニッケルが耐黒変性向上の点から好適である。
【0049】
表面処理組成物(H)には、さらに必要に応じて、例えば、樹脂微粒子、無機リン酸化合物などのエッチング剤、本発明が規定する成分以外の重金属化合物、増粘剤、界面活性剤、潤滑性付与剤(ポリエチレンワックス、フッソ系ワックス、カルナバワックスなど)、防錆剤、着色顔料、体質顔料、防錆顔料、染料などを配合することができる。
また、表面処理組成物(H)は、必要に応じて、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール系溶剤、プロピレングリコール系溶剤などの親水性溶剤で希釈して使用することができる。
表面処理組成物(H)により形成される表面処理皮膜の付着量は、0.2〜3.0g/m、好ましくは0.3〜2.0g/mとする。皮膜付着量が0.2g/m未満では耐食性が劣り、一方、3.0g/mを超えるとロールフォーミングやプレス加工の際にロールや金型に皮膜が付着し、プレス後外観が劣る。
【0050】
本発明の表面処理鋼板を製造するには、亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に、さきに述べたようなチタン含有水性液(A)、弗素含有化合物(B)、アニオン系ウレタン樹脂又は/及びアニオン系エポキシ樹脂(C)、有機リン酸化合物(D)、バナジン酸化合物(E)、炭酸ジルコニウム化合物(F)およびグリシジル基を有するシランカップリング剤(G)を含有し、好ましくはさらにニッケル化合物(I)を含有する表面処理組成物(H)(処理液)を塗布した後、通常、水洗することなく乾燥する。
また、チタン含有水性液(A)や表面処理組成物(H)には、さらに必要に応じて、さきに挙げたような他の添加成分を含有させてもよい。
【0051】
表面処理組成物(処理液)の塗布手段は、例えば、スプレー+ロール絞り、ロールコーター、浸漬など、めっき鋼板表面に処理液を付着させることができる方法であればよい。また、塗布後の乾燥方式についても、例えば、熱風方式、誘導加熱方式、電気炉方式など任意である。
塗布した表面処理組成物(処理液)の乾燥温度(鋼板温度)は40〜200℃程度とすることが好ましい。乾燥温度が40℃未満では、皮膜形成が不十分となり耐食性などが劣った皮膜となる。一方、200℃を超える板温で乾燥させても、乾燥温度に見合う耐食性等の性能の向上効果は得られない。すなわち、乾燥温度が40℃以上であれば、皮膜形成が十分となって耐食性等が優れた皮膜となり、一方、200℃以下であれば、乾燥温度に見合う耐食性等の性能の十分な向上効果が得られる。
【実施例】
【0052】
表面処理組成物に用いたチタン含有水性液(A)と成分(B)〜(G),(I)を以下に示す。
[チタン含有水性液(A)の製造]
・製造例1(チタン含有水性液T1)
四塩化チタン60質量%溶液5ccを蒸留水で500ccとした溶液にアンモニア水(1:9=アンモニア:水の質量比)を滴下し、水酸化チタンの低縮合物を沈殿させた。蒸留水で洗浄後、過酸化水素水30質量%溶液を10cc加えてかき混ぜ、チタンを含む黄色半透明の粘性のあるチタン含有水性液T1を得た。
・製造例2(チタン含有水性液T2)
テトラiso−プロポキシチタン10質量部とiso−プロパノール10質量部の混合物を30質量%過酸化水素水10質量部と脱イオン水100質量部の混合物中に20℃で1時間かけて撹拌しながら滴下した。その後25℃で2時間熟成し、黄色透明の少し粘性のあるチタン含有水性液T2を得た。
・製造例3(チタン含有水性液T3)
製造例2で使用したテトラiso−プロポキシチタンの代わりにテトラn−ブトキシチタンを使用した以外は製造例2と同様の製造条件で、チタン含有水性液T3を得た。
【0053】
・製造例4(チタン含有水性液T4)
製造例2で使用したテトラiso−プロポキシチタンの代わりにテトラiso−プロポキシチタンの3量体(テトラiso−プロポキシチタンの低縮合物)を使用した以外は製造例2と同様の製造条件で、チタン含有水性液T4を得た。
・製造例5(チタン含有水性液T5)
製造例2に対して過酸化水素水を3倍量用い、50℃で1時間かけて滴下し、さらに60℃で3時間熟成した以外は製造例2と同様の製造条件で、チタン含有水性液T5を得た。
・製造例6(チタン含有水性液T6)
製造例3で製造したチタン含有水性液T3を、さらに95℃で6時間加熱処理することにより、白黄色の半透明なチタン含有水性液T6を得た。
・製造例7(チタン含有水性液T7)
テトラiso−プロポキシチタン10質量部とiso−プロパノール10質量部の混合物を、「TKS−203」(商品名,テイカ社製,酸化チタンゾル)5質量部(固形分)、30質量%過酸化水素水10質量部及び脱イオン水100質量部の混合物中に10℃で1時間かけて撹拌しながら滴下した。その後10℃で24時間熟成し、黄色透明の少し粘性のあるチタン含有水性液T7を得た。
【0054】
[弗素含有化合物(B)]
B1:ジルコン弗化アンモニウム
B2:ジルコン弗化水素酸
B3:ジルコン弗化ナトリウム
B4:ジルコン弗化カリウム
[アニオン系ウレタン樹脂・アニオン系エポキシ樹脂(C)]
C1:スーパーフレックス110(商品名,第一工業製薬(株)製,水性ポリウレタン樹脂)
C2:スーパーフレックス150(商品名,第一工業製薬(株)製,水性ポリウレタン樹脂)
C3:ハイドランAP−20(商品名,大日本インキ化学工業(株)製(株)製,水性ポリウレタン樹脂)
C4:ハイドランHW−340(商品名,大日本インキ化学工業(株)製,水性ポリウレタン樹脂)
C5:ウォーターゾールS−370(商品名,大日本インキ化学工業(株)製,アニオン系エポキシ樹脂)
C6:ウォーターゾールCD−550LAP(商品名,大日本インキ化学工業(株)製,アニオン系エポキシ樹脂)
C7:モデピクス302(商品名,荒川化学工業(株)製,アニオン系エポキシ樹脂)
C8:モデピクス303(商品名,荒川化学工業(株)製,アニオン系エポキシ樹脂)
【0055】
[有機リン酸化合物(D)]
D1:1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸
D2:1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸
[バナジン酸化合物(E)]
E1:メタバナジン酸アンモニウム
E2:メタバナジン酸ナトリウム
[炭酸ジルコニウム化合物(F)]
F1:炭酸ジルコニウムアンモニウム
F2:炭酸ジルコニウムナトリウム
[グリシジル基を有するシランカップリング剤(G)]
G1:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
G2:3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン
[ニッケル化合物(I)]
I1:酢酸ニッケル
I2:硝酸ニッケル
I3:硫酸ニッケル
【0056】
表面処理鋼板のベース鋼板としては、表1に示すめっき鋼板を用いた。
上記したチタン含有生成液(A)と成分(B)〜(G),(I)を適宜配合した表面処理組成物をめっき鋼板表面に塗布し、所定の乾燥温度にて3〜20秒間乾燥して供試材とした。これら供試材について、下記(1),(2)の試験方法により耐食性及び塗料密着性を評価し、また、下記(4)の試験方法により耐黒変性を評価した。さらに、下記(3)の試験方法により表面処理組成物の薬液安定性を評価した。
それらの結果を、各供試材に適用した表面処理組成物の組成及びその塗装条件とともに、表2〜表13に示す。
【0057】
(1)耐食性
端部と裏面をテープシールした供試材に対してJIS−Z−2371−2000の塩水噴霧試験を行い、白錆発生面積率が5%となる試験時間を測定した。その評価基準は以下のとおりである。
◎:240時間以上
○:144時間以上、240時間未満
△:96時間以上、144時間未満
×:96時間未満
【0058】
(2)塗料密着性
(2-1)一次塗料密着性
前処理を施した供試材にメラミンアルキッド樹脂(商品名「デリコン#700」、大日本塗料(株)製)を乾燥膜厚で30±2μmになるようにして塗布し、130℃で30分間焼き付けて乾燥した。この供試材について、平板部塗料密着性と加工部塗料密着性をそれぞれ評価した。なお、前処理は下記条件で行った。
処理液:パルクリーンN364S(商品名,日本パーカライジング(株)製),濃度2%,60℃
処理方法:2分間のスプレー処理(1kgf/cm
(2-1-1)平板部塗料密着性
塗装面にカッターナイフを用いて1mm間隔で縦・横に11本の線を引き、1mm四方のマス目を碁盤目状に100個作製した。その後、碁盤目部にセロハン粘着テープ(CT24,ニチバン(株)製)を貼り、このセロハン粘着テープを剥がした際に剥離したマス目数に応じて、下記「(2-3)評価基準」に従い評価した。
(2-1-2)加工部塗料密着性
塗装面にカッターナイフを用いて1mm間隔で縦・横に11本の線を引き、1mm四方のマス目を碁盤目状に100個作製した。その後、碁盤目部をエリクセン試験機で5mm押出成形し、碁盤目部にセロハン粘着テープ(CT24,ニチバン(株)製)を貼り、セロハン粘着テープを剥がした際に剥離したマス目数に応じて、下記「(2-3)評価基準」に従い評価した。
【0059】
(2-2)二次塗料密着性
前処理を施した供試材にメラミンアルキッド樹脂(商品名「デリコン#700」、大日本塗料(株)製)を乾燥膜厚で30±2μmになるようにして塗布し、130℃で30分間焼き付けて乾燥した。この供試材について、沸騰水中で2時間浸漬処理し、その後30分以内に、平板部塗料密着性と加工部塗料密着性をそれぞれ評価した。なお、前処理は下記条件で行った。
処理液:パルクリーンN364S(商品名,日本パーカライジング(株)製),濃度2%,60℃
処理方法:2分間のスプレー処理(1kgf/cm
(2-2-1)平板部塗料密着性
塗装面にカッターナイフを用いて1mm間隔で縦・横に11本の線を引き、1mm四方のマス目を碁盤目状に100個作製した。その後、碁盤目部にセロハン粘着テープ(CT24,ニチバン(株)製)を貼り、このセロハン粘着テープを剥がした際に剥離したマス目数に応じて、下記「(2-3)評価基準」に従い評価した。
(2-2-2)加工部塗料密着性
塗装面にカッターナイフを用いて1mm間隔で縦・横に11本の線を引き、1mm四方のマス目を碁盤目状に100個作製した。その後、碁盤目部をエリクセン試験機で5mm押出成形し、碁盤目部にセロハン粘着テープ(CT24,ニチバン(株)製)を貼り、セロハン粘着テープを剥がした際に剥離したマス目数に応じて、下記「(2-3)評価基準」に従い評価した。
(2-3)評価基準
◎:剥離無し
○:100マス目のうちの1〜5マス目が剥離(マス目残存数99〜95)
△:100マス目のうちの6〜50マス目が剥離(マス目残存数94〜50)
×:100マス目のうちの51〜100マス目が剥離(マス目残存数49〜0)
【0060】
(3)薬液安定性
所定の組成とした表面処理組成物(H)を固形分10質量%の水溶液として作製し、密封状態で40℃で保持した時の薬液状態を観察した。沈殿又はゲル化の発生するまでの経過時間に応じて、下記に従い評価した。
◎:2週間経過後でも沈殿発生なし及びゲル化なし。
○:1週間超、2週間以内に沈殿発生またはゲル化。
△:3日以上、1週間以内に沈殿発生またはゲル化。
×:2日以内に沈殿発生またはゲル化。
(4)耐黒変性
同一供試材(サイズ:150mm×150mm)の表面処理面を合せてスタック状態とし、50℃、相対湿度98%以上の環境下で28日間放置した後の表面処理面の外観を目視評価した。その評価基準は以下のとおりである。なお、この耐黒変性の評価は、No.169〜173についてのみ行った。
◎:黒変部なし
○:斜めから見て確認できる程度のうすい黒変部あり(表面積の10%未満)
△:斜めから見て確認できる程度のうすい黒変部あり(表面積の10%以上)、又は明らかな黒変部あり(表面積の10%未満)
×:明らかな黒変部あり(表面積の10%以上)
【0061】
【表1】

【0062】
表2,4,6,8,10,12において、*1〜*10は以下の内容を示す。
*1 表1に記載のめっき鋼板No.1〜10
*2 明細書本文に記載のチタン含有水性液T1〜T7
*3 明細書本文に記載の弗素含有化合物B1〜B4
*4 明細書本文に記載のアニオン系ウレタン樹脂・アニオン系エポキシ樹脂C1〜C8
*5 明細書本文に記載の有機リン酸化合物D1,D2
*6 明細書本文に記載のバナジン酸化合物E1,E2
*7 明細書本文に記載の炭酸ジルコニウム化合物F1,F2
*8 明細書本文に記載のシランカップリング剤G1,G2
*9 表面処理組成物中での固形分の質量%
*10 明細書本文に記載のニッケル化合物I1〜I3
【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
【表6】

【0068】
【表7】

【0069】
【表8】

【0070】
【表9】

【0071】
【表10】

【0072】
【表11】

【0073】
【表12】

【0074】
【表13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(A)を固形分の割合で1〜60質量%、弗素含有化合物(B)を固形分の割合で1〜40質量%、アニオン系ウレタン樹脂又は/及びアニオン系エポキシ樹脂(C)を固形分の割合で30〜90質量%、有機リン酸化合物(D)を固形分の割合で1〜60質量%、バナジン酸化合物(E)を固形分の割合で0.1〜30質量%、炭酸ジルコニウム化合物(F)を固形分の割合で0.1〜20質量%、グリシジル基を有するシランカップリング剤(G)を固形分の割合で1〜50質量%含有する表面処理組成物(H)を塗布し、乾燥させることにより形成された皮膜付着量が0.2〜3.0g/mの表面処理皮膜を有することを特徴とする表面処理鋼板。
【請求項2】
弗素含有化合物(B)が、ジルコン弗化アンモニウム、ジルコン弗化水素酸の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の表面処理鋼板。
【請求項3】
表面処理組成物(H)が、さらにニッケル化合物(I)を固形分の割合で0.05〜1質量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理鋼板。

【公開番号】特開2010−156020(P2010−156020A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335435(P2008−335435)
【出願日】平成20年12月27日(2008.12.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】