説明

表面改質された有機分子を含有するエマルジョン

本発明は、表面改質された有機分子、有機高分子ミクロスフェア、またはこれらの組み合わせを含有するエマルジョンに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液中液型(liquid−in−liquid)エマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエマルジョンは、分散相および連続相の2相から構成される。最も一般的なエマルジョンは、水および油の2つの液体だけからなる。o/w(水中油)エマルジョンは連続水相中に分散された油滴からなり、w/o(油中水)エマルジョンは、油中に分散された水滴からなる。例えば、連続油相中の水滴自体が、分散した油滴を含有する場合には、多相エマルジョンが形成され得る。乳化は、せん断力によって大きい液滴がより小さい液滴に分解することからなる。通常、乳化剤を用いて、界面張力を低下させることによりエマルジョンを安定化する。連続相の粘度を増大させることによっても、エマルジョンの相分離を防止することができる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
1つの態様では、本発明は、表面改質された有機分子を含む液体連続相と、分散液体相とを含むエマルジョンを提供する。有機分子は、表面改質フラーレン、表面改質デンドリマー、およびこれらの組み合わせから選択される。
【0004】
もう1つの態様では、本発明は、有機高分子ミクロスフェアを含む液体連続相と、分散液体相とを含むエマルジョンを提供する。
【0005】
もう1つの態様では、本発明は、分散液体相を含有する各液体相が、表面改質された有機分子または有機高分子ミクロスフェア、もしくは両方の組み合わせを含有する多相エマルジョンを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のエマルジョンは、液中液型の分散体またはエマルジョンである。連続相および分散相を含む安定化エマルジョンは、有効量の表面改質された有機分子を組成物の連続相中に取り込むことによって与えられる。表面改質された分子は、連続相−分散相の界面で表面張力を低下させることなくエマルジョンを保持する。
【0007】
もう1つの実施形態では、本発明のエマルジョンは、本質的に、連続液体相および分散液体相と、連続相中に取り込まれた表面改質された有機分子または有機高分子ミクロスフェアとからなる。
【0008】
本発明のエマルジョンは、従来の界面活性剤、洗剤、タンパク質、および乳化剤、ならびに表面張力の低下によりエマルジョンを安定化する他の化合物を含有しなくてもよい。本発明のエマルジョンは、通常、一定温度において、数日から数年間安定である。
【0009】
本発明のエマルジョンは、水中油型または油中水型エマルジョン(これらの用語は、当該技術分野で一般的に定義されるとおりである)、もしくは多相エマルジョンでよい。多相エマルジョンの一例は、連続油相中の水中油エマルジョン(分散相)、あるいは反対の多相エマルジョンである。本発明の多相エマルジョンでは、種々のタイプの表面改質された有機分子または有機高分子ミクロスフェアは、もう1つの分散相を含む各相のために必要とされる、あるいは必要とされ得る。
【0010】
表面改質された有機分子および有機高分子ミクロスフェアは、分散相と連続相との間の界面で表面張力を低下させることなくエマルジョンを安定化する。表面改質された有機分子または有機高分子ミクロスフェアは、液体連続相が分散相の液滴の間から流出されるにつれて増大する濃度で、分散相液滴の間に位置するようになると理論付けられる。分散相の液滴間の表面改質された有機分子の濃度の増大により、分散された液滴は、互いに接触して合体することが防止される。
【0011】
表面改質された有機分子は、連続相中に実質的に可溶性である。分子は連続相中に直接可溶性であってもよいし、あるいは、例えばアルキル化によって前駆体分子の可溶性誘導体が調製されてもよい。表面改質された有機分子および有機高分子ミクロスフェアは、連続相と適合性であるように選択される。
【0012】
表面改質された有機分子および有機高分子ミクロスフェアと連続相との適合性を評価する1つの有用な方法は、表面改質された有機分子および/または有機高分子ミクロスフェアならびに連続相を結合し、表面改質された有機分子および/または有機高分子ミクロスフェアが連続相中に溶解するように見えるかどうかを観察するステップを含む。
【0013】
有用な表面改質された有機分子の具体例としては、アルキル化バックミンスターフラーレン(フラーレン)およびアルキル化ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーがある。フラーレンの具体例には、C60、C70、C82、およびC84が含まれる。PAMAMデンドリマーの具体例としては、ウィスコンシン州ミルウォーキーのアルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Company,Milwaukee,WI)から入手可能なジェネレーション(Generation)2〜10(G2〜G10)がある。PAMAMデンドリマーは、現在、第1級アミン、ヒドロキシル、カルボキシレートナトリウム塩、混合アミン/ヒドロキシル、およびC12表面官能基を有して市販されている。有機分子のアルキル基は直鎖でも分枝状でもよく、少なくともC3からC30以下までの範囲であり、C3とC30の間のどのサイズでも範囲でもよい。例えば、範囲は、C3〜C22、C3〜C18、C3〜C12、またはC3〜C8、およびその間の任意の組み合わせまたは整数でよい。表面改質された有機分子は、少なくとも0.1重量パーセントのレベルで連続相中に存在することができる。
【0014】
有用な有機高分子ミクロスフェアの具体例としては、インディアナ州フィッシャーズのバングズ・ラボラトリーズ社(Bangs Laboratories,Inc.,Fishers,IN)から粉末または分散体として入手可能なポリスチレンを含むミクロスフェアがある。ポリスチレンミクロスフェアの平均粒度は、少なくとも20nmから60nm以下までの範囲である。現在の市販されている平均粒度は、20、30、50、および60nmである。有機高分子ミクロスフェアは、少なくとも0.1重量パーセントのレベルで連続相中に存在することができる。
【0015】
本発明のエマルジョンは、液体連続相を有する。分散相が連続相の全ての構成物質中に分散され得る限りは、連続相は1つまたは複数の混和性または可溶性の構成物質からなることができる。
【0016】
連続相の例としては、水と、例えば、酸、アルコール、ケトン、アルデヒド、アミン、アミド、エステル、グリコール、エーテル、炭化水素、ハロカーボン、モノマー、オリゴマー、潤滑油、植物油(モノ−、ジ−、およびトリ−グリセリドを含む)、シリコーン油、保湿油(例えば、鉱油およびホホバ油)、燃料油、燃料(灯油、ガソリン、ディーゼル燃料を含む)、エチレングリコールのオリゴマー、アルキルおよびアリールニトロ化合物、部分的または完全にフッ素化された化合物、およびポリマーを含む有機液体とが挙げられる。
【0017】
本発明のエマルジョンは、連続液体相内に分散された液体分散相を有する。液体分散相は1つまたは複数の液体を含むことができ、これらは混和性または可溶性であり、液体連続相内に分散される。適切な液体分散相の例としては、水と、連続相としての使用について上記に記載された全ての有機材料とが挙げられる。
【0018】
また本発明のエマルジョンは、表面改質された有機分子および有機高分子ミクロスフェアと組み合わせて、表面改質されたナノ粒子も含有することができる。表面改質されたナノ粒子は、米国特許第6,586,483号明細書に記載されている。
【0019】
またそれぞれの相は、所望の効果を達成するために添加されるその他の溶解されたまたは可溶性の化合物または成分、例えば、塩、薬剤、染料、難燃剤などを含有してもよい。
【0020】
本発明のエマルジョンは、一般に、相をブレンドし、混合することによって製造される。本発明のエマルジョンのもう1つの製造方法は、表面改質された有機分子または有機高分子ミクロスフェア、もしくはこれらの組み合わせを連続相(あるいは、多相エマルジョンの場合には他の相)とブレンドし、次に、攪拌しながら分散相を添加することである。
【0021】
本発明のエマルジョンは食品、化粧品、医薬品などにおいて有用であり得る。
【0022】
本発明は、以下の実施例によって、ここでさらに説明されるであろう。
【実施例】
【0023】
全ての溶媒および試薬は、別に示されない限りは、アルドリッチ・ケミカル・カンパニーから入手した。全てのパーセントおよび量は、別に指定されない限りは重量による。
【0024】
オクチル置換されたスターバースト(STARBURST)(登録商標)デンドリマー、ジェネレーション2(オクチル−SG−2)の調製
50mLの丸底フラスコに、0.74g(0.23モル)のスターバースト(登録商標)(PAMAM−OH)デンドリマー、ジェネレーション2(アルドリッチ・ケミカル社から入手)を入れた。N,N−ジメチルホルムアミド(10g)およびトリエチルアミン(0.37g、0.0036モル)をフラスコに添加し、デンドリマーが溶解するまで、混合物を磁気で攪拌した。塩化オクタノイル(0.59g、0.0036モル)を、約5分間にわたって、シリンジによりフラスコに滴下した。混合物を室温で約2時間攪拌し、その後、フラスコに水(20g)を添加した。混合物を室温で一晩攪拌した。反応混合物を分液漏斗内に注ぎ、トルエン(20g)で抽出した。相を分離させ、水相をトルエン(毎回10g)でさらに2回抽出した。ロータリーエバポレータを用いて、合わせたトルエン抽出物を乾固するまで濃縮した。得られたオレンジ〜茶色の固体を60℃および250mmHgの圧力で3時間、真空乾燥器内で乾燥させた。次に、乾燥固体を約30gのトルエンに溶解させた。0.2マイクロメートルのシリンジフィルタ(ゲルマン・アクロディスク(Gelman ACRODISC)シリンジフィルタ、マサチューセッツ州ミルフォードのウォーターズ社(Waters Corp.,Milford,MA))によって、この溶液をろ過し、透明な黄色の溶液が与えられた。ロータリーエバポレータでトルエン溶液を乾固するまで濃縮して、1.13gのオレンジ〜茶色の固体が得られた。核磁気共鳴分光法による固体の分析で、ヒドロキシル基の完全なエステル化が示された。
【0025】
オクチル置換されたスターバースト(登録商標)デンドリマー、ジェネレーション4(オクチル−SG−4)の調製
50mLの丸底フラスコに、0.33g(0.023モル)のスターバースト(登録商標)(PAMAM−OH)デンドリマー、ジェネレーション4(アルドリッチ・ケミカル社から入手)を入れた。N,N−ジメチルホルムアミド(10g)およびトリエチルアミン(0.15g、0.0015モル)をフラスコに添加し、デンドリマーが溶解するまで、混合物を磁気で攪拌した。塩化オクタノイル(0.24g、0.0015モル)を、約5分間にわたって、シリンジによりフラスコに滴下した。混合物を室温で約2時間攪拌し、その後、フラスコに水(20g)を添加した。混合物を室温で一晩攪拌した。反応混合物を分液漏斗内に注ぎ、トルエン(20g)で抽出した。相を分離させ、水相をトルエン(毎回10g)でさらに2回抽出した。ロータリーエバポレータを用いて、合わせたトルエン抽出物を乾固するまで濃縮した。得られたオレンジ〜茶色の固体を60℃および250mmHgの圧力で3時間、真空乾燥器内で乾燥させた。次に、乾燥固体を約30gのテトラヒドロフランに溶解させた。0.2μmのシリンジフィルタ(ゲルマン・アクロディスク・シリンジフィルタ)によって、この溶液をろ過し、透明な黄色の溶液が与えられた。ロータリーエバポレータでテトラヒドロフラン溶液を乾固するまで濃縮して、0.48gのオレンジ〜茶色の固体が得られた。核磁気共鳴分光法による固体の分析で、ヒドロキシル基の完全なエステル化が示された。
【0026】
オクチル置換されたC60(オクチル−C60)の調製
ガス炎でフラスコを加熱しながら窒素ガス流を流すことによって、50mLの丸底フラスコを乾燥させた。フラスコが冷えたら、10mLの乾燥テトラヒドロフランおよび0.1gのC60を入れ、次に、乾燥窒素ガスを中でしばらくバブリングすることによって溶液を脱酸素化した。溶液を磁気で攪拌しながらオクチルマグネシウムヨージドのジエチルエーテル溶液(20mL)をシリンジによりフラスコに添加した。暗色の反応混合物を窒素雰囲気下で7時間攪拌させ、その後、さらに5mLのオクチルマグネシウムヨージド溶液をシリンジによりフラスコに添加した。更に16時間後、10mLの5%Na223水溶液をフラスコに添加し、混合物を1時間攪拌させた。不均一の混合物を分離漏斗に移し、有機相を水相から分離させた。この有機相を70℃においてガラス皿で乾燥させ、0.28gの暗色固体が与えられた。質量分析によって、固体は、式C60(C817n(式中、n=1〜17であり、nの平均値は11である)に相当する化合物の混合物であることが示された。
【0027】
油中水エマルジョンの安定化
計算量の化合物および2mLのトルエンをスクリューキャップ式ガラスビン中で結合することによって、表面改質されたスターバースト(登録商標)デンドリマーのトルエン中の溶液または分散体を表1に示される濃度で作った。化合物が溶解したら、あるいは溶解したように見えたら、1gのトルエン溶液および1gの水をスクリューキャップ式ガラスビン中で結合させ、ビンの蓋を締めてから、15秒間手で激しく振とうさせた。不均一な水相をエマルジョン相から分離することによって明らかであるように、形成されたエマルジョンは、50体積パーセント未満の水を含んでいた。オクチル−C60をトルエンに溶解させ、3gの2%溶液が与えられた。スクリューキャップ式ガラスビン中でこれを3gの水と結合させ、上記のとおりに乳化を行なった。データは表1に与えられる。
【0028】
【表1】

【0029】
水中油エマルジョンの安定化
20nm、30nm、50nmおよび60nmの表面改質されたポリスチレンミクロスフェアの水中の溶液または分散体(インディアナ州フィッシャーズのバングズ・ラボラトリーズ社から入手可能)を2%の濃度で作った。化合物が溶解したら、あるいは溶解したように見えたら、1gの水溶液および1gのトルエンをスクリューキャップ式ガラスビン中で結合させ、ビンの蓋を締めてから、15秒間手で激しく振とうさせた。不均一なトルエン相をエマルジョン相から分離することによって明らかであるように、形成されたエマルジョンは、50体積パーセント未満のトルエンを含んでいた。データは表2に与えられる。
【0030】
【表2】

【0031】
本発明の範囲および精神から逸脱することなく、本発明の予知できる修正および変更は、当業者には明らかであろう。本発明は、説明のために本出願に記載される実施形態に限定されてはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレン、デンドリマー、有機高分子ミクロスフェア、またはこれらの組み合わせから選択される複数の表面改質された有機分子を含む連続液体相であって、前記有機分子が前記連続相中に分散された連続液体相と、
前記連続相中に分散された分散液体相と、
を含むエマルジョン。
【請求項2】
前記表面改質された有機分子が、フラーレンを含む、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項3】
前記表面改質された有機分子が、デンドリマーを含む、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項4】
前記連続相が、有機液体を含む、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項5】
前記エマルジョンが、界面活性剤を含有しない、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項6】
前記連続相が、水、アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、エーテル、アミン、アミド、炭化水素、ハロカーボン、モノマー、オリゴマー、潤滑油、植物油、シリコーン油、保湿剤、燃料油、燃料、エチレングリコールのオリゴマー、アルキルおよびアリールニトロ化合物、部分的または完全にフッ素化された化合物、およびポリマー、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項7】
前記表面改質された有機分子が、アルキル表面基を含む、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項8】
前記アルキル基が、少なくともC3である、請求項7に記載のエマルジョン。
【請求項9】
前記アルキル基が、C30以下である、請求項7に記載のエマルジョン。
【請求項10】
前記アルキル基が、C3〜C22の範囲である、請求項7に記載のエマルジョン。
【請求項11】
前記アルキル基が、C3〜C18の範囲である、請求項7に記載のエマルジョン。
【請求項12】
前記アルキル基が、C3〜C12の範囲である、請求項7に記載のエマルジョン。
【請求項13】
前記アルキル基が、C3〜C8、およびその間の任意の組み合わせまたは整数である、請求項7に記載のエマルジョン。
【請求項14】
前記有機分子が、C60、C70、C82、またはC84フラーレン、もしくはこれらの組み合わせである、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項15】
前記有機分子は、G2、G3、G4、G5、G6、G7、G8、G9、またはG10デンドリマー、もしくはこれらの組み合わせである、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項16】
前記分散相が、水、アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、エーテル、アミン、アミド、炭化水素、ハロカーボン、モノマー、オリゴマー、潤滑油、植物油、シリコーン油、保湿剤、燃料油、燃料、エチレングリコールのオリゴマー、アルキルおよびアリールニトロ化合物、部分的または完全にフッ素化された化合物、およびポリマー、ならびにこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項17】
前記有機分子が、フラーレンおよびデンドリマーの混合物である、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項18】
前記連続相が、有機液体を含む、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項19】
前記有機高分子ミクロスフェアが、ポリスチレンを含む、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項20】
前記連続相が、表面改質された無機ナノ粒子を更に含む、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項21】
第2の連続相内に分散された、請求項1に記載のエマルジョン。

【公表番号】特表2006−512199(P2006−512199A)
【公表日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564896(P2004−564896)
【出願日】平成15年11月11日(2003.11.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/035738
【国際公開番号】WO2004/060543
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】