説明

表面温度プロファイル

【課題】体表温度プロファイルに基づき、コア体温を推定する。
【解決手段】システム20は、体表面下にある熱源の近傍の表面上の2つ以上の位置におけるそれぞれの温度依存測定値を提供するように構成され、1つ以上の温度センサ24を含む。測定された温度は、地域受信器32によって伝送される。演算処理器は、表面下の熱源の温度を決定するため2つ以上の位置からの測定値を演算処理するように構成されている。表面は哺乳類被験者の身体の皮膚表面であり、表面下の熱源は血管であり、演算処理器は血管内の血液の温度を決定するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に表面下の熱源温度の非侵襲的測定に関し、特に非侵襲的コア体温測定のための方法およびシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
体内温度の測定は被験者の健康を評価するのに有益である。体温は典型的に口、脇の下、または直腸などの人体の窪み、または被験者の額、こめかみなどの外部部分に配置された温度計により測定される。コア体温は、体の窪みや外部部分で測定された周辺温度と比較して、一般的に被験者の健康のより良い指標であると考えられている。
ここに参照される特許文献1には、侵襲的温度プローブを使用してコア体温を積算する装置が開示されている。このプローブは温度絶縁体により分離された第1および第2の温度センサからなり、これにより熱流を測定する手段を提供している。
【0003】
特許文献2には額を赤外温度検知器で横方向に走査し、こめかみ動脈に対応する場所からピーク温度を検出することにより、体温を検知する方法について開示されている。
特許文献3には、受信器と無線通信する電子パッチ温度計が開示されている。その受信器は磁場送信を創生し電子パッチ温度計に電力を供給する。
【0004】
特許文献4には、温度信号を受信器に送信し、受信器が次にモニタと同じ形式に信号を変換する電子温度計について開示している。
特許文献5には、硬貨大の箱に密封され、温度と被験者情報を基地局に送信する無線温度センサ・モジュールについて開示している。
【0005】
特許文献5には、体表から輻射された熱流の定常状態を確立することによりコア体温を測定する方法について開示している。外部体温は隔離された場所の2点で監視され、1つは体表に近く、2つ目はそれより体表から遠くに配置される。その2点は体表に対し垂直になるように配置される。その2点の場所を電力により暖め、体からの熱流の定常状態に達する速度を速める。定常状態に達すると、両点の温度は等しく、この温度がコア体温と等しいと見做される。
【0006】
特許文献7には、2つの外部熱流センサの温度測定からコア体温を計測する方法が開示されている。2つの外部熱流センサは異なる熱流抵抗係数を有するように構成されている。抵抗係数の変化は、各熱流センサ内部の1組の温度センサ間の絶縁体の厚みを変化させることを含む、幾つかの方法で実現できる。
外部および周辺温度とコア体温との関係は非特許文献1に記載され、ここに参照される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許 6,280,397(‘397)Yarden他
【特許文献2】米国特許 6,292,685 Pompei
【特許文献3】米国特許 6,794,990 Tseng
【特許文献4】米国特許公報 2006/0122473 Kill他
【特許文献5】米国特許公報 2007/0194913 Yokoshima他
【特許文献6】米国特許 6,220,750 Palti
【特許文献7】米国特許 7,249,883 Kuroda他
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Fullbrook著 「コア体温測定:脇の下、鼓膜および肺動脈血液温度の比較」集中救急治療、1997年10月、13(5):266−72
【発明の概要】
【0009】
本発明の実施形態によれば、体表温度プロファイルおよび/または動脈近傍の熱流プロファイルに基づきコア体温を推定する方法および装置が提供される。
ある実施形態では、温度計は、2つ以上のそれぞれ頚動脈のような血管の近傍で体表に最も近い部分で計測された、少なくとも1つの温度測定、からなる温度プロファイルを計測するように構成された1つ以上の温度センサからなる。コア体温の推定値はそのプロファイルに基づき決定される。
温度および/または熱流のプロファイルの計測は接触または非接触で行われ、固定位置で多重温度センサにより行われ、または1つ以上のセンサを手動でまたは自動で体表面を交差して動かして行われる。
【0010】
従って本発明実施形態によれば、
表面の下にある熱源の近傍で表面上にある、2つ以上の位置におけるそれぞれの温度依存測定値を提供するように構成された1つ以上の温度センサと、
前記表面下の熱源の温度を決定するため前記2つ以上の位置からの前記測定値を演算処理するように構成された1つの演算処理器と、
からなることを特徴とする温度計測装置が提供される。
【0011】
ある実施形態によれば、表面は哺乳類被験者の身体の皮膚表面であり、表面下の熱源は血管であり、演算処理器は血管内の血液の温度を決定するように構成されている。2つ以上の位置は血管を横切る1つの列の上に配置される。ある実施形態によれば、血管は頚動脈であり、1つ以上の温度センサは被験者の首における温度依存測定値を計測するように構成されている。
【0012】
開示された実施形態によれば、演算処理器は、測定値から表面上の温度勾配を決定し、温度勾配を表面下の熱源の温度を決定するのに使用するように構成されている。さらにあるいは、演算処理器は、1組の熱流関係式を表面下の熱源の温度を決定するのに使用するように構成されている。さらにあるいは、演算処理器は、1組の熱流関係式を表面下の熱源の温度を決定するのに使用するように構成されている。演算処理器は、測定値から表面上の最高温度の座標を決定し、座標を表面下の熱源の温度を決定するのに使用するように構成されていてもよい。
【0013】
ある実施形態では、装置は1つ以上の温度センサを保持し、身体表面に張り付くように構成された1つのパッチを含む。他の実施形態では、装置は1つ以上の温度センサの検知領域を2つ以上の位置の間で移動させるための1つの駆動機構を含む。装置は1つ以上の温度センサを内包し、表面近において2つ以上の位置の間を移動されられるように構成された1つの容器と、容器の動きを追跡するための1つの位置センサとを含んでもよい。
【0014】
開示された実施形態によれば、1つ以上の温度センサは赤外線センサを含む。装置は表面からの赤外線輻射を1つ以上の温度センサ上に焦点を結ばせるための少なくとも1つのレンズを含む。
ある実施形態によれば、1つ以上の温度センサは、それぞれの温度センサがそれぞれの位置の近くに配置されるように設定された多重温度センサの1つの列を含む。装置は、周辺温度を計測するように構成された1つの周辺温度センサを含み、演算処理装置が表面下の熱源の温度を決定するため周辺温度センサを使用するように構成されていてもよい。
【0015】
ある実施形態では、装置は表面下の熱源の温度を示す信号を1つの外部モニタに送信するように構成された1つの送信器を含む。さらにあるいは、装置は表面下の熱源の温度を示す入力信号を受信し、入力信号を産業用モニタ標準に従った形式を有する1つの出力信号に変換するように構成された1つの信号変換器を含んでもよい。
さらに本発明の実施形態によれば、
表面の下にある熱源の近傍で表面上にある2つ以上の位置において、それぞれの温度依存測定値を計測するステップと、
表面下の熱源の温度を2つ以上の位置における温度依存測定値から算出するステップと、
を含むことを特徴とする温度計測の方法が提供される。
本発明は実施形態に関する図を参照しての以下の説明により、さらに十分に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態による、検温装置により体温を測定するシステムを絵画的に示した図である。
【図2】本発明の実施形態による、コア体温を決定するように構成された温度センサ・モジュールのそれぞれ頂部、底部の図である。
【図3】本発明の実施形態による、他の構成による、温度センサ・モジュールの下方部分の側面図である。
【図4】本発明の実施形態による、温度センサ・モジュール内の他の温度センサを絵画的に示した図である。
【図5】本発明の実施形態による、他の温度センサ列を絵画的に示した図である。
【図6】本発明の実施形態による、手持ち温度計を絵画的に示す図である。
【図7】本発明の実施形態による、温度センサ・モジュールのブロック図である。
【図8】本発明の実施形態による、温度センサ列により取得された温度プロファイルのグラフを有する、体表上または近くで血管の上方にある温度センサ列の側面図である。
【図9】本発明の実施形態による、管レンズを有する温度センサ装置を絵画的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態の詳細説明
図1は、本発明の実施形態による、温度センサ・モジュール24のような検温装置により、哺乳類被験者のコア体温を決定するシステム20を絵画的に示した図である。
温度センサ・モジュールの中に(ここからは図2A、2Bに関する記述である)は、1つ以上の温度センサ(図4A−4C)からなる温度センサ列(図5A−5C)がある。
【0018】
温度センサ・モジュール24は、被験者の皮膚の反対側で下方に血管が位置する表面測定場所に配置される。典型的な場所は被験者の首の上で頚動脈の真上の場所である。この場所は医療従事者が正確に頚動脈の場所を通常同定できるため、適切である。温度センサ・モジュールは図1のように、パッチ温度計として計測場所に貼り付けられても良い。あるいは皮膚の反対側または近くに手持ち温度計として保持されても良い(図6)。温度センサ・モジュールは、モジュールの長さ方向が血管の方向にほぼ直角に皮膚を横切るように配置される。
【0019】
温度センサ・モジュールが測定場所に置かれた場合、温度センサ・モジュール内の少なくとも1つの温度センサは、血管に最も近い其々2つ以上の体表位置における少なくとも1つの温度依存計測値からなる、1組のデータを入手する。このデータの1組は以降温度プロファイルと呼ばれる。
温度プロファイルが取得された後、温度センサ・モジュール24は、取得された温度プロファイルに基づいてコア体温を計算してもよい。コア体温を計算する方法は図8A,8Bを参照して後に詳述される。
【0020】
多重温度依存計測が、血管に最も近い其々2つ以上の体表位置において、継続的監視のためまたは計算の精度向上のため、または定常状態温度が得られるまでの間、以下で詳述されるように行われてもよい。
温度センサ・モジュール24は、温度プロファイルまたはコア体温のどちらか、または両方からなるデータをモニタ26のような遠隔画面に送信するように構成されてもよい。モニタ26は産業標準YSI熱伝対用入力を有する標準的病院モニタ(GE社製Critikon 400シリーズ モニタ)でよい。この場合信号変換機28はモジュール送信を受信し、また受信データをモニタに適した産業標準信号様式に変換する作業を実行する。
【0021】
あるいは、モニタ26はデータを直接温度センサ・モジュールから受信するようにプログラムされた一般用途のコンピュータであってもよい。モニタ26はキーボード30のような顧客入力装置を持っても良く、それにより医療従事者は、温度センサ・モジュールとモニタの間でのデータと指示の通信のみならず、モニタ上の情報の表示を制御してもよい。
温度センサ・モジュール24は、コア体温を表示したり、データをさらにモニタ26に送信したりする地域受信器32にデータを送信してもよい。
【0022】
典型的な構成では、上記の全ての送信はbluetooth(登録商標)のような無線プロトコルを使用し、無線形式で送られる。あるいは上記機器の一部または全部の間のデータ送信は有線で行われる。温度センサへの電力は典型的に内部バッテリーにより供給されるが、有線または無線による既存の技術で供給されてもよい。
温度センサ・モジュール24が、地域受信器32やモニタ26のような1つ以上の他の機器とともに稼動するように構成されている場合、温度センサ・モジュールの処理機能の一部または全ては他の機器により実行される可能性があることを理解しなくてはならない。これらの機能には、温度プロファイルの保管、コア体温の計算、コア体温および他のデータの表示が含まれる。
【0023】
図2A、2Bは本発明の実施形態による、温度センサ・モジュール24のそれぞれ頂部、底部の図である。図2Aに示されたとおり、温度センサ・モジュール24は計算されたコア体温と他の関連データを表示する表示画面42を有してもよい。さらにあるいは、温度センサ・モジュール24はアンテナ44のような遠隔通信手段を有しても良い。アンテナ44は図2Aに示すように棒形状を有し、モジュール24に対しいかなる角度(0−90度)に配置されてもよい。
【0024】
あるいはアンテナは、温度センサ・モジュールの一部に埋め込まれたコイル状を有する、あるいはプリント基板に印刷されたような、他の構成であってもよい。モジュールは操作モードを制御するため、1つ以上のモードボタン46のような、顧客入力手段を有しても良い。電力スイッチ48は温度センサ・モジュールを起動し、温度取得と計算を開始するために使用されてもよい。周辺温度センサ50も、温度プロファイルが周辺温度に基づく係数を含む場合には、温度センサ・モジュールに含まれても良い。
【0025】
バッテリー区画52が温度センサ・モジュールに電力供給するためのバッテリーを包含するために含まれても良い。前述のように、温度センサ・モジュールは外部電力を受けるように構成されてもよい。音響圧電変換器のような音声生成器54が種々の音響警告音を発生するために含まれても良い。例えば、安定した温度値が決定された場合に注意音が発生されてもよい。例えばコア体温が急速に変化し始めた場合や、既定の範囲の限界を超えた場合など警告のための警報を発する可能性がある。あるいは、地域受信器32またはモニタ26がこれら警報を発しても良い。
【0026】
図2Bは温度センサ・モジュールの下方の面、すなわち、体の表面に向いた側を示す。下方面には以下で図5A−5Cに関しさらに記述される温度センサ列60を有する。下方面はさらに、LEDまたは、追跡球やジャイロスコープのような既存技術で知られる位置追跡手段を使用する、位置センサ61を有しても良い。位置追跡要素は、下記で図6に関して記述される、モジュールの手持ち実施形態に包含されても良い。
【0027】
図3A、3Bは本発明の実施形態による、他の構成による、温度センサ・モジュール24の下方部分の側面図である。図3Aではスペーサ62がモジュールの下方面から突き出ている。このようなスペーサは体表面と温度センサ・モジュールの下方面との間に典型的に1−2ミリの距離を維持し、それにより体表面と、図4Bを参照して以下に記述する赤外線技術を使用する温度センサのような非接触温度センサとの間の距離を維持する。図3Bには薄い粘着被膜64を有する温度センサ・モジュール24の下方の面が示され、その被膜はモジュールが温度パッチとして体表へ接着する助けとなる。(図1の構成に見られるように。)
【0028】
図4A−4Cは本発明の実施形態による、温度センサ列からなる温度センサの他の構成を絵画的に示した図である。センサは幾つかの既存の温度感知技術に基づいて設計されてよい。図4A−4Cはそれぞれ3つの異なる技術による温度センサの構成である。
図4Aは熱伝導センサ構造70を示す。熱伝対パッドまたは印刷(写真エッチング)された温度センサまたはサーミスタのような1つのセンサ72が、表面の温度依存測定値を得るため、表面74と熱接触する。センサは初め表面温度と異なる温度であるため、センサが表面温度に達し安定するまで移行期間がある。典型的にはセンサ72は周辺温度から孤立するために絶縁材76により絶縁される。
【0029】
図4Bは輻射センサ構成80を示す。赤外線(IR)センサのような輻射センサ81は、表面の温度依存測定値を供給するため、表面74の近くに保持される。レンズ82が、体表からの赤外線輻射をセンサ上に焦点を結ばせるためIRセンサの前面に置かれてもよい。熱の伝導が無いため、測定中の移行期間はない。表面温度は従って本質的に即時に計測される。
図4Cは熱流センサ構成90を示す。基礎センサ92と第2センサ94からなる2つの重なったセンサが熱流絶縁層96により分離されている。熱流センサは、前述特許文献1に更に記載されるように、コア体温の計算を速めるために使用される。さらにあるいは、図4Cの重なったセンサ構成は定常状態の温度計測の精度向上のため、後述の付表に記載された計算式に基づき、使用されうる。
【0030】
図5A−5Cは本発明の実施形態による、他の温度センサ列60の構成を絵画的に示した図である。図5Aにおいて、温度センサ列60はプリント基板(PCB)100からなり、その上にパッド102として示される多重温度センサが実装される。パッド102は、上記図4A−4Cで記述された熱伝導性熱伝対、赤外線センサまたは熱流センサであるか、他の既知の温度感知要素であってよい。
典型的な構成では、プリント基板100は幅15−30mmで、長さ20−50mmである。典型的なパッド間の間隔は隣り合うパッドの中心距離で3−7mmである。パッド寸法は1mmX0.5mmである。パッド間の間隔は中心線104からみて非対称であってよい。例えば、中心線の1方の側の間隔が5mmで他方の側の間隔が7mmであってよい。この種の非対称性は付属書類Aに記載される計算式の入力により良い多様性を与える。
【0031】
プリント基板(PCB)100は、熱流計測を目的としてそれぞれ別の面に配置されたセンサ列の間の絶縁空間として使用されうる。この目的のためのプリント基板の典型的厚みは0.2−0.5mmである。
上記の全ての寸法および構成は、純粋に例示を目的として提示されており、本発明の原理は他の寸法や構成でも同様に実行されうる。
プリント基板100の配線は(図7に図示されているが)各パッド102からの測定温度に対応する信号を、図7を参照して後に詳述される、演算処理器に送る。他の集約化構成では、パッド102は赤外線センサの焦点アレイ(FPA)のような集積回路からなる。集約化構成では各パッドは個別の測定温度を提供可能なピクセルに対応する。
【0032】
図5Aのパッド102はプリント基板100を横断して1列に実装されている。パッド102は図5Bに示すように少なくとも各列に2つ以上で2つ以上の列に並べられてもよい。
図5Cは温度センサ列60のさらに他の構成である。駆動子116のような駆動機構が温度センサ・パッド112を、実装または組込の軌道118上を駆動する。典型的にはパッド112は上記の赤外線センサ82(図4B)のような輻射センサからなる。駆動子116はステッピング・モータまたはリニア・コイル(音声コイル)駆動子のような既知の適切な駆動子でよい。軌道118のパターンは直線または往復軌道または他の形態でよく、温度センサは、静止した温度センサ列により計測された多重の位置に類似した(図5A,5B)、血管に最も近い場所で体表の温度を計測するように設計されている。パッドが軌道上を移動すると既定の位置において、典型的には2−7mm間隔で温度測定を行う。
【0033】
図6は本発明の実施形態による、手持ち温度計132によりコア体温の非侵襲的測定を行う他のシステム130を絵画的に示す図である。手持ち温度計132は温度センサ・モジュール24および、固定されるのではなくむしろ握られて、体表に対面または近接して保持される容器134からなる。典型的には、手持ち温度計の温度センサは赤外線センサであり、そのため手持ち温度計が測定場所の近く置かれ、または接触すると温度プロファイルは瞬間的に取得されうる。
【0034】
あるいは手持ち温度計は、検知器付きLEDと開口輪からなる上述の(図2B)位置センサ61のような位置検知機構を有しても良い。医療従事者は測定場所を横切って手持ち温度計を動かすことにより、被験者の体温を計測することが出来る。温度プロファイルの獲得は、図5Cの構成を参照して上述された、駆動機構を有する温度センサ列の場合と同様に行われる。
【0035】
図7は本発明の実施形態による、温度センサ・モジュール24のブロック図である。温度センサ・モジュールは、温度センサ列60からなり、その上に温度センサが実装される(図5A−5C)。マルチプレクサ142はセンサ102および周辺温度センサ50で生成された信号を受信し、これら信号を演算処理器144に送信する。演算処理器144は典型的に、温度プロファイルのみならずソフトウェア・プログラムを保管するため、不揮発性メモリを有する。演算処理器144はモードボタン46および位置センサ61からの入力信号を受信する。
【0036】
演算処理器は、温度センサから受信したデータに基づき、また温度センサ・モジュールが移動中に温度が測定される場合は位置センサからのデータにも基づき、温度プロファイルを作成する。演算処理器144は温度プロファイルから、以下で図8を参照して記述される計算方式を適用して、コア体温を計算してもよい。あるいは演算器は、デジタルあるいはアナログの温度および較正データを、地域受信器32またはモニタ26のような他の機器による処理のため、単に受信し送信する。演算器はコア体温および/または温度プロファイルを含むデータを送信器146におくり、アンテナ148を介してデータをモニタ26のような遠隔受信器におくる。あるいは有線出力55に送信する。演算処理器はデータを表示器42にコア体温を含むデータを表示してもよい。
【0037】
温度センサ・モジュール24は、貼付パッチ温度計として構成された場合、連続モードで稼動し、その場合演算器144は温度プロファイルを取得し、コア体温の新しい値を計算し、それを表示する工程を繰り返す。あるいは、温度センサ・モジュールは非連続で稼動し、その場合は処理ユニット30が初期の計算を終了後、単一の固定温度が表示される。非連続構成は手持ち構成の場合より典型的である。このモードでは演算処理器144は、計算終了を告知するため、信号を音声発生器54に送ることにより告知音を提供する。
【0038】
図8は本発明の実施形態による、体表158上または近くで血管160の中心上方に置かれた温度センサ列156の側面図である。血管は例えば、図1に示されたように頚動脈であり、またはこめかみ動脈のような体表近くに位置する他の適切な動脈であってよい。血管はコア体温にあると見做され、以下ではTと表示される。また図8には、温度センサ列により得られた温度プロファイルのグラフが示される。
【0039】
温度センサ列156は一列の温度センサ164からなり、それは図5Aを参照して記述された直線的温度センサ列に類似した態様で配置される。センサ164は前述の既知のいかなる温度検知技術を使用しても良い。ある実施形態によれば、温度センサ164は図4Cを参照して記述された熱流センサ構成90に基づく熱流センサである。各熱流センサは基礎センサ92と第2センサ94からなり、熱流絶縁層96により分離されている。
【0040】
組織162は血管からの熱を体表に伝導する。各熱流センサの基礎センサ92は表面温度を測定する。測定値の内、最も高い温度が血管の真上の温度である。温度描線170は基礎センサ92により既定の場所で時間内に計測された温度を表す。グラフ168のX軸は温度センサ列156の長さ方向に沿った直線距離を表す。Y軸は列の長さ方向に沿ったセンサにより計測された温度である。温度描線174は同様に第2センサにより測定された温度である。
【0041】
描線に示されたとおり、最高の測定温度は、温度センサ列156上の血管の真上の位置における温度である。最高測定温度地点より遠ざかるそれに続くセンサはそれぞれ血管からより離れる。距離が離れると、血管とセンサの間の熱抵抗は増加し、温度は従って連続的に低下する。
描線170および174に示される温度プロファイルは、以下に記述するようにコア体温の計算に使用されうる。あるいはさらに、両描線からのデータは一体として付属書類に記載されるコア体温を計算する計算式の入力として使用されうる。
【0042】
本発明のある実施形態によれは、1組の同時熱流等式が血管からの熱流に対応して、身体組織の熱抵抗を経由し、1組の身体表面位置に生成される。位置は最高温度位置、即ち血管の真上の位置に対する位置として計測される。最高温度位置は温度センサにより直接検知される位置か、あるいは温度データから計算される位置である。
全ての等式のなかで未知の変数は、コア体温、T、組織の熱伝導係数K、および体表の最高温度位置と血管との距離(付属書類ではLと表される)である。3つの熱流等式を同時に解くことにより、未知の変数が得られ、コア体温が得られる。実際には、更なる同時等式が生成され、未知の変数は最小2乗誤り法のような誤り最小化法により決定される。
【0043】
さらなる実施形態によれば、コア体温を求めるための更なる等式が各基礎センサ92とその第2センサ94との間の熱流に基づき生成される。それは、この熱流は其々の基礎センサに到達する熱流と等価とされうるからである。この方式を用い、上記の未知の変数は体表の少なくとも2箇所における温度測定により解かれうる。これら2次熱流等式を含む等式によりコア体温を計算する例が付属書類に掲載されている。体組織から外部に向かう熱流に基づく更なる実施形態では、同時等式の組に体表上の伝導センサ(図4A)と周辺温度(周辺温度センサ50により計測される上述の)との間の熱流の等式を含む。
【0044】
さらなる実施形態では、未知の変数を求める熱流等式は、2つの体表面位置で2つの測定温度を得、1つ以上の追加中間位置での温度値を2つの測定地点間の温度勾配に基づき内挿して求めることにより、生成される。血管と体表面位置(2つの測定位置と追加の内挿位置からなる)との熱流関係はこのように、未知の値(即ち、コア体温、T、組織の熱伝導係数K、および体表面の最高温度位置と血管の距離)を求めるのに必要な追加の同時等式を提供する。
【0045】
あるいは、体表の異なる地点(血管の上の)間の熱流が直線関係にあると仮定すれば、熱流を測定することなく温度測定値のみを使用して未知の値を計算することが可能である。直線関係は統計的にまたは温度測定値の経験的関数として決められる。
上述の実施形態では特に体表温度測定値に基づきコア体温を計算することを記載しているが、本発明の原理は、前述特許文献1に記載の方法を用いた移行期の体表熱流測定値のような、他の温度依存測定値のプロファイルからコア体温を計算することにも適用可能である。本発明の原理は連続温度監視にも適用されうる。
【0046】
さらに、上記実施形態は特に体温の測定を記述しているが、本発明の原理は、壁の中、床下、あるいは土中の管中の流体温度測定のような、非医療分野での表面下温度の測定にも適用されうる。
図9は本発明の他の実施形態による、管レンズを有する温度センサ装置170を絵画的に示す図である。装置170はプリント基板100と同様な体表温度プロファイルを示す変形可能なプリント基板180からなる。温度センサ・パッド183はプリント基板180を横断して一列に実装される。温度センサ・パッド183は赤外線センサ(図4Bにおけるセンサ81に類似)で、配線177の1組の配線により演算器に接続されている。
【0047】
其々の管レンズ178(図4Bのレンズ82の形でもよい)は体表から赤外線輻射を各パッド183上に焦点を結ばせる。図に示されるように、各管レンズ178は管形状をしており、対応するパッド183を円周で囲む。各管レンズは表面74の直線部分からの赤外線輻射を対応するパッドに焦点を結ばせる。従って各パッドで測定される輻射は皮膚の直線部分上の平均温度に対応する。図9のセンサ装置は皮膚に接触して配置され、または温度測定の間、皮膚から一定の距離離れて保持されてもよい。
【0048】
上述の実施形態は例示であり、本発明は上記に特に記載し図示されたことに限定されない。むしろ、本発明の範囲は、上述の記載を読めば当業者に想起される、従来技術には無い、上記の種々の特徴の組合せ、準組合せや、変形や修正を含む。
【0049】
付属書類
図8のセンサ列構成を前提として、血管から基礎センサへの熱流を、その基礎センサから其々の第2センサへの熱流を同じであるとすると次式が得られる。
・(T−TSi)/L=K・(TSi−TRi)/X
ここにLは血管の外壁から皮膚表面の地点iまでの距離、Xは皮膚表面上での、最高温度地点Xからの距離、LはL(血管の深さ、即ち血管の壁から皮膚上の最高温度点までの距離)と、r(血管の半径)と、の関数である。他の係数は以下で表される。
:体組織熱伝導係数
:絶縁層96の熱伝導係数
:絶縁層96の厚さ
:血管内血液の温度
Si:体表面の温度
Ri:第2センサの温度

上記等式は簡素化され:
(T−TSi)/L=K(TSi−TRi)/X
さらに
K/X=α
=√(X+X)−r
=aX+b
として変換すると、
(T−TSi)/(a+b)=α(TSi−TRi
あるいは
(T−TSi)=aα(TSi−TRi)+bα(TSi−TRi
両辺よりTを差し引き次式が得られる。
【数1】

これをベクトルで表すと:
【数2】

または:
【数3】

次に上記式の誤りを最小化するベクトルβ=<β,β,β> を求めるため直線回帰分析が適用され、正確な測定値T=βが得られる。
βは次の公式を使用して求めても良い。
【数4】

【符号の説明】
【0050】
20,130:システム
24:温度センサ・モジュール
26:モニタ
28:信号変換器
30:キーボード
32:地域受信器
42:表示画面
44:アンテナ
50:周辺温度センサ
60:温度センサ列
61:位置センサ
62:スペーサ
64:粘着被膜
70:熱伝導センサ構造
74:表面
76:絶縁材
80:輻射センサ構成
81:輻射センサ
82:レンズ
90:熱流センサ構成
92:基礎センサ
94:第2センサ
96:熱流絶縁層
102,183:パッド
116:駆動子
118:軌道
132:手持ち温度計
144:演算処理器
156:温度センサ列
158:体表
160:血管
162:組織
164:温度センサ
170,174:温度描線
178:管レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の下にある熱源の近傍で表面上にある、2つ以上の位置におけるそれぞれの温度依存測定値を提供するように構成された1つ以上の温度センサと、
前記表面下の熱源の温度を決定するため前記2つ以上の位置からの前記測定値を演算処理するように構成された1つの演算処理器と、
からなることを特徴とする温度計測装置。
【請求項2】
前記表面は哺乳類被験者の身体の皮膚表面であり、前記表面下の熱源は血管であり、前記演算処理器は前記血管内の血液の温度を決定するように構成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記2つ以上の位置は前記血管を横切る1つの列の上に配置されることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記血管は頚動脈であり、前記1つ以上の温度センサは前記被験者の首における前記温度依存測定値を計測するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記演算処理器は、前記測定値から前記表面上の温度勾配を決定し、前記温度勾配を前記表面下の熱源の温度を決定するのに使用するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記演算処理器は、1組の熱流関係式を前記表面下の熱源の温度を決定するのに使用するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記演算処理器は、前記測定値から前記表面上の最高温度の座標を決定し、前記座標を前記表面下の熱源の温度を決定するのに使用するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記演算処理器は、前記位置の間の距離を前記表面下の熱源の温度を決定するのに使用するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項9】
1つ以上の温度センサを保持し、身体表面に張り付くように構成された1つのパッチを含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記1つ以上の温度センサの検知領域を前記2つ以上の位置の間で移動させるための1つの駆動機構を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記1つ以上の温度センサを内包し、前記表面近くにおいて前記2つ以上の位置の間を移動させられるように構成された1つの容器と、
前記容器の動きを追跡するための1つの位置センサと
を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記1つ以上の温度センサは赤外線センサを含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記表面からの赤外線輻射を前記1つ以上の温度センサ上に焦点を結ばせるための少なくとも1つのレンズを含むことを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記1つ以上の温度センサは、それぞれの前記温度センサがそれぞれの前記位置の近くに配置されるように設定された多重温度センサの1つの列を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項15】
周辺温度を計測するように構成された1つの周辺温度センサを含み、前記演算処理装置が前記表面下の熱源の温度を決定するため前記周辺温度センサを使用するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記表面下の熱源の温度を示す信号を1つの外部モニタに送信するように構成された1つの送信器を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項17】
前記表面下の熱源の温度を示す入力信号を受信し、前記入力信号を産業用モニタ標準に従った形式を有する1つの出力信号に変換するように構成された1つの信号変換器を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項18】
表面の下にある熱源の近傍で表面上にある2つ以上の位置において、それぞれの温度依存測定値を計測するステップと、
前記表面下の熱源の温度を前記2つ以上の位置における前記温度依存測定値から算出するステップと、
を含むことを特徴とする温度計測の方法。
【請求項19】
前記2つ以上の位置は前記表面下の熱源を横切る1つの列の上に配置されることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記表面は哺乳類被験者の身体の皮膚表面であり、前記表面下の熱源は血管であり、前記温度を算出するステップは前記血管内の血液の温度を決定する工程を含む、ことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記血管は頚動脈であり、前記2つ以上の位置は前期被験者の首の上に配置されることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記温度を算出するステップは、前記温度依存測定値から1つ以上の温度勾配、1組の熱流関係式、および最高温度の座標を含む中間データを決定する工程と、前記表面下の熱源の温度を算出するため前記中間データを使用する工程を含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記それぞれの温度依存測定値を計測するステップは、1つ以上の温度センサの検知領域を前記2つ以上の位置の間で移動させる工程を含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記それぞれの温度依存測定値を計測するステップは、前記表面からの赤外線輻射を1つ以上の温度センサ上に焦点を結ばせる工程を含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記それぞれの温度依存測定値を計測するステップは、それぞれの前記温度センサがそれぞれの前記位置の近くに配置されるように、多重温度センサの1つの列を前記表面に設置する工程を含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記温度を算出するステップは、前記位置の間の距離を前記表面下の熱源の温度を決定するのに使用する工程を含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−27591(P2011−27591A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174544(P2009−174544)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(509211332)メディジン リミテッド (1)
【Fターム(参考)】