説明

被分離物質の分離方法及び精製方法

【課題】ペプチド、核酸およびそれらの複合体からなる被分離物質の分離方法において、難水溶性無機化合物を用いた分離・精製方法の効率をより向上させることができる新規な手段を提供する。
【解決手段】上記被分離物質を含む水系の被処理液中で、バリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンから成る群より選ばれる少なくとも1種の陽イオンと、該陽イオンとの反応により難水溶性塩を形成できる少なくとも1種の陰イオンとを反応させて、被処理液中に難水溶性塩を析出させ、該析出した難水溶性塩に前記被分離物質を吸着させることを含む、ペプチド、核酸およびそれらの複合体からなる被分離物質の分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
元素周期表2族に属するバリウム、カルシウム、マグネシウム等の硫酸塩、リン酸塩、水酸化物、炭酸塩およびアルミニウムのリン酸塩もしくは水酸化物等の難水溶性無機化合物は、生物学的に不活性で生理活性物質の不活化が起きにくい事が知られている。難水溶性無機化合物は生物活性タンパク質や核酸などの有機物との親和性が高いため、ワクチン、血液タンパク、成長ホルモン、食品添加物、インターフェロン等の精製に応用されている(特許文献1、非特許文献1〜6)。
【0002】
吸着担体として難水溶性無機化合物を利用する被分離物質の精製方法は、粉末状の吸着担体を被検液に添加して使用することが多く、精製工程中の固液分離には一般的に遠心分離機が用いられる。増産時は使用する担体量が多くなることから、被検液を複数ロットに分割し複数バッチの精製工程を行わなければならない。また、増産によって吸着担体などの産業廃棄物量も増加することから、後処理に多くの時間を費やさなければならない。
【0003】
吸着担体として用いられる難水溶性無機化合物の吸着性能や溶出性能をさらに向上させることができれば、被分離物質の分離・精製の効率をより向上させることができ、また、使用済み担体の廃棄量も減じることができる。しかしながら、現在までのところ、満足できる有用な手段は提供されていない。
【0004】
【特許文献1】特開2000-262280号公報
【非特許文献1】Voss, D.:Barium sulphate adsorption and elution of the 'prothrombin complex' factors., Scand J Clin Lab Invest. 1965 ; 17 : Suppl 84 : 119-128.
【非特許文献2】C.B.Reimer et.al.:Purification of Large Quantities of Influenza Virus by Density Gradient Centrifugation. , Journal of Virology., Dec.1967. 1207-1216
【非特許文献3】H.Prydz : Studies on Proconvertin (Factor VII) IV. The Adsorption on Barium Sulphate , Scandinav. J. Clin. & Lab. Investigation, 16, 1964, 409-414
【非特許文献4】Andrzej G. : Inhibition of influenza A virus hemagglutin and induction of interferon by synthetic sialylated glycoconjugates, Can.J.Microbiol., Vol37, 1991,233-237
【非特許文献5】糖鎖工学 初版第1刷 549頁〜 552頁(産業調査会 バイオテクノロジー情報センター)
【非特許文献6】Tsutomu Kawasaki : Hydroxyapatite as a liquid chromatographic packing., Journal of Chromatography, 544. 1991.147-184
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、難水溶性無機化合物を用いた分離・精製方法の効率をより向上させることができる新規な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、被分離物質の分離工程において、被分離物質を含有する溶液中に適当なイオンを加え、該溶液中で難水溶性塩を形成させると、この難水溶性塩に被分離物質が効率良く吸着されることを見出し、本願発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、被分離物質を含む水系の被処理液中で、バリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンから成る群より選ばれる少なくとも1種の陽イオンと、該陽イオンとの反応により難水溶性塩を形成できる少なくとも1種の陰イオンとを反応させて、被処理液中に難水溶性塩を析出させ、該析出した難水溶性塩に前記被分離物質を吸着させることを含む、被分離物質の分離方法を提供する。また、本発明は、上記本発明の方法により得られた、被分離物質が吸着された難水溶性塩に溶出液を作用させることを含む、前記被分離物質の精製方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、難水溶性塩を用いた新規な被分離物質の分離方法及び精製方法が提供された。本発明の方法によれば、従来法よりも少量の難水溶性塩で効率良く被分離物質を分離することができる。従って、分離・精製工程を効率化することができ、また、使用済み難水溶性塩の廃棄量を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の分離方法では、被分離物質を含む水系の溶液(水系の被処理液)中で難水溶性塩を析出させ、この難水溶性塩に被分離物質を吸着させる。これにより、同一の難水溶性塩から成る吸着剤を調製し、これを被処理液中に添加して用いる場合よりも、少量の難水溶性塩で良好な吸着性を発揮する(下記実施例参照)。詳細な原理は不明であるが、本発明の分離方法では、難水溶性塩微粒子の形成開始時から被分離物質と難水溶性塩とが接触し続けることになるため、別途合成した難水溶性塩を添加する場合よりも被分離物質と難水溶性塩との接触面積を大きくすることができ、効率的に吸着が行なわれるものと考えられる。なお、「水系の溶液」とは、溶媒の50%以上が水である溶液を言う。水系の被処理液としては、溶媒の50%以上が水である限り、親水性有機溶媒等の水以外の溶媒を含んだものであってよいが、溶媒が水のみから成る水溶液が好ましい。
【0010】
ここで、「難水溶性塩」とは、25℃の水100gに対する溶解度が50mg以下、好ましくは25mg以下、より好ましくは10mg以下である無機化合物を言う。化合物の溶解度に関する情報は、当業者であれば容易に入手可能であり、また、実際に25℃の水100gに溶解する量を調べることにより、容易に知ることができる。したがって、被処理液中に析出させる難水溶性塩の溶解度は、容易に知ることができる。
【0011】
被処理液中で形成させるべき難水溶性塩は、後述する被分離物質を吸着できる難水溶性の無機化合物であればいかなるものであってもよく、特に限定されないが、具体例としては、硫酸バリウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0012】
難水溶性塩を形成させるために、被分離物質を含む液(被処理液)中に存在すべき陽イオンは、バリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンから成る群より選ばれる少なくとも1種の陽イオンである。
【0013】
一方、被処理液中に存在すべき陰イオンは、被処理液中の上記陽イオンのうちの少なくとも1種類との結合により難水溶性塩を形成できるものであればよい。具体的には、該陰イオンは、リン酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン及び水酸化物イオンから成る群より選ばれる少なくとも1種の陰イオンである。これらのうち、硫酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン及び水酸化物イオンから成る群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0014】
上記した陽イオン及び陰イオンの被処理液中の濃度は、被処理液中に析出させるべき難水溶性塩の量に応じて適宜選択することができ、特に限定されないが、通常、それぞれ0.001mM〜3M程度、特に0.01mM〜1M程度である。複数の陽イオンを用いる場合には、その合計量が上記範囲内であればよい。複数の陰イオンを用いる場合も同様に、その合計量が上記範囲内であればよい。
【0015】
被処理液中に上記陽イオン及び陰イオンを含ませる方法としては、例えば、溶解により水溶液中で所望のイオンを生じる水溶性化合物(以下「イオン供給源」という)をそのまま被処理液に添加する方法や、イオン供給源を水溶液の形態にして被処理液に添加する方法が挙げられるが、これらに限定されない。陽イオン供給源及び陰イオン供給源を添加する順番は特に限定されず、陽イオン供給源を先に添加し、次いで陰イオン供給源を添加してもよいし、その逆であってもよい。また、被処理液中に上記陽イオン及び陰イオンの一方が既に所望の濃度で存在する場合には、他方のみを被処理液に添加すればよい。例えば、被処理液がリン酸緩衝液の溶液である場合、被処理液中のリン酸イオンを利用することができるので、リン酸イオンとの結合により難水溶性塩を生じさせることができる少なくとも1種の陽イオン供給源を被処理液に添加することにより、被処理液中に難水溶性のリン酸塩を生じさせることができる。また、被分離物質がウイルス等であって、被処理液がウイルス等の培養液である場合、培養液のpH調整剤としてしばしば炭酸ガスが用いられるが、炭酸ガスでpHを調整した培養液中には炭酸イオンが含まれるため、この炭酸イオンを難水溶性塩形成に利用することができる。
【0016】
なお、本発明において、「イオン供給源を添加する」とは、イオン供給源である上記水溶性化合物をそのままの形態(固体、液体又は気体)で添加することのみならず、水溶液の形態で添加することも包含する。例えば、被処理液中に供給すべきイオンが炭酸イオンである場合、「炭酸イオン供給源を添加する」とは、炭酸水素ナトリウム等の固体を被処理液中に直接溶解させること、炭酸水素ナトリウム等を一旦水に溶解して水溶液を調製し、該水溶液を添加すること、被処理液に炭酸ガスを通気すること等を包含する。
【0017】
被処理液のpHは、特に限定されないが、被分離物質の性質が損なわれないように中性付近とすることが望ましく、好ましくはpH5〜9程度、より好ましくはpH6〜8程度である。
【0018】
難水溶性塩を析出させる反応は、いずれの温度で行なってもよく、特に限定されないが、被分離物質の生化学活性等の性質が損なわれないような温度条件で行なうことが望ましく、4℃〜室温程度が好ましい。被分離物質が特に不安定な物質ではなく、低温を維持する必要がない場合には、室温程度で反応させることが簡便で好ましい。
【0019】
本発明の分離方法で分離される被分離物質とは、難水溶性塩に吸着するものであれば特に限定されないが、例えば従来硫酸バリウム等の難水溶性塩から成る吸着剤を用いて分離・精製されている物質が好ましく、ペプチド性物質、核酸、及びこれらの複合体等のような生体物質であることが好ましい。
【0020】
「ペプチド性物質」とは、複数(2個以上)のアミノ酸がペプチド結合により結合した分子から成る物質を意味し、構成するアミノ酸数が少ない分子(オリゴペプチド)から成る物質及び構成するアミノ酸数が多い分子から成る物質の他、全長タンパク質も包含する。また、「ペプチド性物質」には、各種修飾(糖鎖修飾、化学修飾等)を受けた物質も包含される。ペプチド性物質の具体例としては、酵素、抗体、抗原、糖タンパク質、リポタンパク質及び標識酵素等、並びにこれらの断片等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
上記核酸としては、RNAでもDNAでもよく、生化学分野及び医療学分野で通常核酸と分類されるいかなるものであってもよい。具体例としては、ssDNA、dsDNA、RNA、プラスミドDNA等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
ペプチド性物質と核酸の複合体とは、上記したペプチド性物質と核酸とが結合したものを指す。代表的なものとしては核タンパク質が挙げられ、具体例としてはウイルス、ファージ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明の分離方法により被処理液中に形成される、被分離物質が吸着された難水溶性塩([被分離物質−難水溶性塩]複合体)は、一般的な遠心分離法、濾過法等により固液分離することができる。
【0024】
固液分離した[被分離物質−難水溶性塩]複合体に溶出液を作用させて被分離物質を溶出させることにより、被分離物質を回収することができる。すなわち、本発明は、上記本発明の分離方法により得られた、被分離物質が吸着された難水溶性塩に溶出液を作用させることを含む、前記被分離物質の精製方法をも提供する。
【0025】
溶出液としては、難水溶性塩から成る吸着剤を用いた分離・精製方法において通常用いられている公知の溶出液のいずれでも好ましく用いることができる。そのような公知の溶出液の一部を例示すると、リン酸塩溶液、クエン酸塩溶液およびこれらの混合溶液等が挙げられる。特に限定されないが、溶出液の塩類濃度は通常0.005M〜3M程度(好ましくは0.1M〜2M)である(複数の塩類が含まれる場合はその合計を指す)。具体的には、下記実施例で用いられている1Mグルコース-12%クエン酸ナトリウム-6%塩化ナトリウム溶出液(pH 7.3)等を用いることができるが、これに限定されない。
【0026】
溶出液のpHは、特に限定されないが、被分離物質が生体物質である場合においてその生化学活性を保持したいときには、好ましくはpH5〜9程度、さらに好ましくはpH6〜8程度の中性付近とすることが望ましい。中性付近の溶出液を用いることにより、該被分離物質の活性を損なわずに溶出することができる。[被分離物質−難水溶性塩]複合体に溶出液を作用させる方法としては、該複合体を溶出液中に懸濁して15分間〜2時間程度放置後、遠心分離や濾過等により固液分離する方法や、濾過膜上に該複合体を保持したまま溶出液を通液する方法等の、公知の常法が挙げられ、特に限定されない。
【0027】
溶出液を作用させる際の温度は、特に限定されないが、被分離物質の生化学活性等の性質が損なわれないような温度条件で行なうことが望ましく、4℃〜室温程度が好ましい。被分離物質が特に不安定な物質ではなく、低温を維持する必要がない場合には、室温程度で反応させることが簡便で好ましい。
【0028】
被分離物質の溶出に先立ち、[被分離物質−難水溶性塩]複合体からの被分離物質の溶出効果が少ない液体を洗浄液として用いて、該複合体に該洗浄液を作用させることにより、該複合体から夾雑物を除去することができる。このような洗浄工程をさらに含ませることにより、回収される被分離物質の精製度を高めることができる。洗浄液としては、難水溶性塩から成る吸着剤を用いた分離・精製方法において通常用いられている公知の洗浄液を用いることができる。具体的には、水及び溶出液より塩類濃度の低い(特に限定されないが塩類合計で通常0M〜1M程度)水溶液等が挙げられるが、これらに限定されない。洗浄液のpH条件、洗浄液を作用させる方法及び温度条件は、上記した溶出工程と同様である。
【0029】
また、上記精製方法においては、[被分離物質−難水溶性塩]複合体に低塩類濃度の前処理液から溶出液まで塩類濃度を段階的もしくは直線勾配又は曲線勾配のいずれかにより増加させて該複合体に作用させることにより、難水溶性塩に吸着した物質のうち、吸着力の弱い物質から順次溶出することができる。これにより、目的とする被分離物質と夾雑物とを選択的に分離精製することが可能であり、目的とする被分離物質が難水溶性塩に複数種類吸着されている場合等に有利である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。
【0031】
1.ウイルスの吸着及び回収試験
下記に示す手順にてインフルエンザウイルスの難水溶性塩への吸着、ウイルス-難水溶性塩複合体の固液分離およびウイルスの回収を行った。使用した吸着担体もしくは被検液中で難水溶性塩を生じさせる陽イオン供給源をそれぞれ下記に示した。
【0032】
従来法で使用する吸着担体(比較例1〜4)
試薬A : 硫酸バリウム(BaSO4 : MW 233.39) 日本薬局方 (株)伏見製作所
(注射用水で25w/v%とし、高圧蒸気滅菌(121℃、20分間)した懸濁液を使用)
被検液中で難水溶性塩を生じさせる陽イオン供給源(実施例1及び2)
試薬B : 塩化バリウム2水和物(BaCl2・2H2O : MW 244.26) WAKO 試薬特級
試薬C : 塩化カルシウム2水和物(CaCl2・2H2O : MW 147.01) WAKO試薬特級
【0033】
(1) 培養液からのウイルスの吸着(培養液からの除去)
常法である細胞培養法により得られたH1N1 A/New Caledonia株インフルエンザウイルス培養液(炭酸イオン濃度20mmol/L)4mLに、試薬A〜Cの何れかを0.9mmol添加し、室温で穏やかに60分間攪拌した。
(2) ウイルス-難水溶性塩複合体の固液分離
懸濁液を遠心分離(2000rpm、10分間、4℃)後、上清(吸着工程上清)を傾斜法により除去し、沈渣を回収した。
(3) ウイルスの回収
固液分離工程(2)で得られたウイルス-難水溶性塩複合体に、1Mグルコース-12%クエン酸ナトリウム-6%塩化ナトリウム溶出液(pH 7.3)2mLを添加し、室温で穏やかに30分間攪拌した。
(4) 固液分離
懸濁液を遠心分離(2000rpm、10分間、4℃)後、上清(溶出工程上清)を傾斜法により回収した。
【0034】
2.ウイルス除去率及び回収率の評価
吸着工程上清、溶出工程上清及び試薬添加前の培養液について、インフルエンザウイルス核タンパク質(NP)に対する抗体(デンカ生研社製)を用いて、常法に基づきNP-ELISA法を行ない、インフルエンザウイルスNP抗原量を測定した。培養液のNP抗原量を100%とし、各上清のNP抗原量をその相対値として算出して、ウイルス残存率(担体に吸着されなかったウイルス量、%)及び回収率(溶出されたウイルス量の、培養液中のウイルス量に対する割合、%)を求めた。結果を表1に示す。
【0035】
また、試薬Aの添加量を0.08mmolとした以外は上記と同様の方法により、ウイルス残存率及び回収率を求めた(比較例2)。
【0036】
【表1】

【0037】
また、従来法について、硫酸バリウムの添加量を変更した以外は上記と同様にして、非吸着ウイルス量(ウイルス残存率)を求めたところ、添加量と非吸着ウイルス量(ウイルス残存率)には相関が見られた(表2)。
【0038】
【表2】

【0039】
吸着工程
実施例1、2及び比較例1では、吸着工程における被検液中のウイルス残存率がほとんど0に近いことから、被検液中のウイルスのほぼ全量が難水溶性塩に吸着されていることがわかる。また、目視で確認したところ、実施例1及び2で固液分離により回収される難水溶性塩残渣量は、比較例1で固液分離により回収される硫酸バリウム残渣量よりも著しく少なかった。
【0040】
実施例1及び2では、炭酸イオンが0.08 mmol含まれる被検液(炭酸イオン濃度20mmol/Lの培養液を4mL)と陽イオン供給源0.9mmolとを反応させていることから、被検液中に生じる難水溶性塩は0.08 mmolになると推定出来る。実施例1および実施例2の吸着工程における被検液中のウイルス残存率はほとんど0であった。その一方、従来法により硫酸バリウムを0.08mmol添加した場合には(比較例2)、ウイルス残存率は30%以上と非常に高かった。このことから、処理液中で難水溶性塩を生じさせる方法では、硫酸バリウムを処理液に添加する方法と比較して、より少ない量の難水溶性塩で同等のウイルス除去率を達成できることがわかった。
【0041】
溶出工程
実施例1及び2では、溶出後のウイルス回収率は、従来法である比較例1より低収率となった。しかし、吸着工程において被検液中に存在するほぼ全量のウイルスが吸着されて除去されていることから、上記条件下において、ウイルスの一部が難水溶性塩複合体に固定されたままで、溶出していないと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被分離物質を含む水系の被処理液中で、バリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンから成る群より選ばれる少なくとも1種の陽イオンと、該陽イオンとの反応により難水溶性塩を形成できる少なくとも1種の陰イオンとを反応させて、被処理液中に難水溶性塩を析出させ、該析出した難水溶性塩に前記被分離物質を吸着させることを含む、被分離物質の分離方法。
【請求項2】
前記陰イオンが、リン酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン及び水酸化物イオンから成る群より選ばれる少なくとも1種の陰イオンである請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記陰イオンが、硫酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン及び水酸化物イオンから成る群より選ばれる少なくとも1種である請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記陽イオンがバリウムイオン及び/又はカルシウムイオンであり、前記陰イオンが炭酸イオンである請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記難水溶性塩は、前記被処理液に、(1)水溶液中で前記少なくとも1種の陽イオンを生じる少なくとも1種の水溶性化合物、及び(2)水溶液中で前記少なくとも1種の陰イオンを生じる少なくとも1種の水溶性化合物、の少なくともいずれかを添加することにより前記被処理液中に析出される請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記被分離物質が、ペプチド性物質、核酸及びペプチド性物質と核酸の複合体から成る群より選ばれる少なくとも1種である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ペプチド性物質と核酸の複合体がウイルスである請求項6記載の方法。
【請求項8】
請求項1ないし7記載の方法により得られた、被分離物質が吸着された難水溶性塩に溶出液を作用させることを含む、前記被分離物質の精製方法。

【公開番号】特開2009−39038(P2009−39038A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207412(P2007−207412)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)
【Fターム(参考)】