説明

被加工物のバイト切削方法

【課題】被加工物毎にバイト工具が過度に切り込むことを防止して、被加工物の被切削面の品質悪化やバイト工具に生じる欠けや異常磨耗を防止する被加工物のバイト切削方法を提供する。
【解決手段】チャックテーブル32で保持された被加工物11の第1領域17aの上面高さと第2領域19aの上面高さをそれぞれ複数点において検出し、第2領域の上面高さの最高位置から第1領域の上面高さの最低位置を減じた値を余剰厚みとして算出する。そして、バイト切削工具が一回の回転で被加工物に切り込める最大切り込み量と余剰厚みとから余剰厚みを除去するのに必要な切削回数を算出し、この切削回数に基づいてバイト切削工具を動作させ余剰厚みを除去し、更にバイト切削工具を動作させて被加工物を切削し、最低位置から所定厚み減じた厚みに被加工物を切削加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に第1の厚みを有する第1領域と第2の厚みを有する第2領域とを備えた被加工物をバイト切削ユニットで切削して被加工物を所定の厚みに形成する被加工物のバイト切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2009−172723号公報に記載されたようなバイト切削装置では、所定高さに位置付けられたバイト工具を回転させつつ被加工物とバイト工具とを水平方向に相対移動させて被加工物をバイト工具で切削している。
【0003】
このようなバイト切削装置で切削加工される被加工物としては、デバイス表面に形成された複数のバンプを有する半導体ウエーハが挙げられる。このようなバンプはメッキやスタッドバンプといった方法により形成される。
【0004】
このため個々のバンプの高さは不均一であり、そのままでは複数のバンプを配線基板の電極に全て一様に接合するのは困難であるため、バイト切削装置で封止樹脂とともにバンプを切削してバンプを一様な高さに揃えている。
【0005】
バイト切削装置で切削加工するのに適した他の被加工物として、表面に第1の厚みを有する第1領域と第2の厚みを有する第2領域とを備えた被加工物が挙げられる。このような被加工物の一例として、貫通電極形成用パターンとしてレジスト膜が表面に被覆されるとともに、内部に所定深さの貫通電極が埋め込まれた被加工物があり、レジスト膜上面に比べて貫通電極の上面が低い位置に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−172723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
表面に第1の厚みを有する第1領域と該第1の厚みより厚い第2の厚みを有する第2領域とを備えた被加工物をバイト切削装置で切削して、第1の厚みから所定厚みを減じた厚さに被加工物を形成しようとすると、第2領域ではバイト工具は深く切り込み被切削面の品質が悪化する上、バイト工具の切削刃が異常に磨耗したり、欠けたりする恐れがある。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、被加工物毎にバイト工具が過度に切り込むことを防止して、被加工物の被切削面の品質悪化やバイト工具に生じる欠けや異常磨耗を防止する被加工物のバイト切削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、表面に第1の厚みを有する第1領域と該第1の厚みより厚い第2の厚みを有する第2領域とを有した被加工物の表面側をバイト切削手段で切削して、該第1の厚みから所定厚み減じた厚みに被加工物を形成する被加工物のバイト切削方法であって、被加工物を保持する保持面を有するチャックテーブルで被加工物の裏面側を保持して被加工物表面を露出させる保持ステップと、該保持ステップを実施した後、該チャックテーブルで保持された被加工物の該第1領域の上面高さ位置と該第2領域の上面高さ位置とをそれぞれ複数点において検出する高さ位置検出ステップと、該高さ位置検出ステップで検出した複数の該第2領域の上面高さ位置のうちの最高位置から該高さ位置検出ステップで検出した複数の該第1領域の上面高さ位置のうちの最低位置を減じた値を余剰厚みとして算出する厚み算出ステップと、該厚み算出ステップを実施した後、該バイト切削手段が一回の回転で被加工物に切り込める最大切り込み量と該余剰厚みとから、該余剰厚みを除去するのに必要な切削回数を算出する切削回数算出ステップと、該切削回数算出ステップを実施した後、該切削回数算出ステップで算出した該切削回数に基づいて余剰除去用切削条件で該バイト切削手段を動作させ該余剰厚みを除去する余剰厚み除去ステップと、該余剰厚み除去ステップを実施した後、被加工物切削用切削条件で該バイト切削手段を動作させて被加工物を切削し、該最低位置から該所定厚みを減じた厚みに被加工物を形成する被加工物切削ステップと、を具備したことを特徴とする被加工物のバイト切削方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の被加工物のバイト切削方法では、第2領域の最高位置と第1領域の最低位置とから余剰厚みを算出する。そして、バイト工具が一回の回転で被加工物に切り込める最大切り込み量と余剰厚みとから切削回数を算出して、余剰厚みを余剰除去用切削条件で算出した切削回数だけ切削して余剰厚みを切削除去した後、被加工物を被加工物切削用切削条件で切削するため、被加工物にバイト工具が過度に切り込むことが防止され、被加工物の被切削面の品質悪化やバイト工具に生じる欠けや異常磨耗を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のバイト切削方法を実施するのに適したバイト切削装置の全体斜視図である。
【図2】切削送りユニットの斜視図である。
【図3】被加工物の一例の縦断面図である。
【図4】保持ステップを示す一部断面側面図である。
【図5】高さ位置検出ステップを示す一部断面側面図である。
【図6】厚み算出ステップを示す一部断面側面図である。
【図7】切削回数算出ステップを示す拡大断面図である。
【図8】余剰厚み切削ステップ後の被加工物の断面図である。
【図9】被加工物切削ステップを説明する断面図である。
【図10】第2実施形態の高さ位置検出ステップを示す一部断面側面図である。
【図11】第2実施形態の所定厚み算出ステップを説明する一部断面側面図である。
【図12】被加工物の切削ステップを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1を参照すると、本発明に係る被加工物のバイト切削方法を実施するのに適したバイト切削装置2の斜視図が示されている。4はバイト切削装置2のベースであり、ベース4の後方にはコラム6が立設されている。コラム6には、上下方向に伸びる一対のガイドレール(一本のみ図示)8が固定されている。
【0013】
この一対のガイドレール8に沿ってバイト切削ユニット10が上下方向に移動可能に装着されている。バイト切削ユニット10は、そのハウジング20が一対のガイドレール8に沿って上下方向に移動する移動基台12に取り付けられている。
【0014】
バイト切削ユニット10は、ハウジング20と、ハウジング20中に回転可能に収容されたスピンドル22(図12参照)と、スピンドル22の先端に固定されたマウント24と、マウント24に着脱可能に装着されたバイトホイール25とを含んでいる。バイトホイール25にはバイト工具26が着脱可能に取り付けられている。
【0015】
バイト切削ユニット10は、バイト切削ユニット10を一対の案内レール8に沿って上下方向に移動するボールねじ14とパルスモータ16とから構成されるバイト切削ユニット送り機構(切り込み手段)18を備えている。パルスモータ16をパルス駆動すると、ボールねじ14が回転し、移動基台12が上下方向に移動される。
【0016】
ベース4の中間部分にはチャックテーブル機構28が配設されている。チャックテーブル機構28は、図2に示すように、支持基台30と、支持基台30に回転自在に配設されたチャックテーブル32を含んでいる。チャックテーブル機構28は更に、ウォーターカバー34を備えている。
【0017】
チャックテーブル32は、切削送り機構(切削送り手段)36により図1でY軸方向に往復移動される。切削送り機構36は、ボールねじ38と、ボールねじ38のねじ軸40の一端に連結されたパルスモータ42とから構成される。
【0018】
パルスモータ42をパルス駆動すると、ボールねじ38のねじ軸40が回転し、このねじ軸40に螺合した図示しないナットを有する支持基台30が、一対のガイドレール44にガイドされて切削装置2のY軸方向(前後方向)に移動する。
【0019】
よって、チャックテーブル32もパルスモータ42の回転方向に応じて、前後方向に移動する。図1に示されているように、図2に示した一対のガイドレール44及び切削送り機構36は蛇腹33により覆われている。
【0020】
図1を再び参照すると、ベース4を横断するようにベース4の上面に門型の取り付け部材46が固定されている。この取り付け部材46には、二つの高さ測定器48,50が搭載されている。
【0021】
高さ測定器48,50は超音波式測定器等の非接触式測定器が好ましい。本実施形態では、2個の高さ測定器48,50を使用しているが、高さ位置測定器を1つだけ設けるようにしてもよい。
【0022】
ベース4の前側部分には、第1のウエーハカセット52と、第2のウエーハカセット54と、ウエーハ搬送ロボット56と、複数の位置決めピン60を有する位置決め機構58と、ウエーハ搬入機構(ローディングアーム)62と、ウエーハ搬出機構(アンローディングアーム)64と、スピンナ洗浄ユニット66が配設されている。
【0023】
次に、図3乃至図12を参照して、本発明実施形態に係る被加工物のバイト切削方法について説明する。図3を参照すると、本発明のバイト切削方法で切削するのに適した被加工物11の断面図が示されている。
【0024】
被加工物11は半導体ウエーハ13を含んでおり、半導体ウエーハ13の表面には複数のデバイス15が形成されているとともに、貫通電極形成用パターンとしてレジスト膜19が被覆されている。レジスト膜19にはパターン露光及び現像により、各デバイス15に対応して複数の貫通孔が形成されており、各貫通孔中に貫通電極(銅ポスト)17が埋め込まれている。
【0025】
貫通電極17の上面の高さはレジスト膜19の上面の高さより低く形成されている。即ち、被加工物11はその表面に第1の厚みを有する第1領域17aと、第1の厚みより厚い第2の厚みを有する第2領域19aを有している。
【0026】
本実施形態の被加工物11のバイト切削方法では、まず図4に示すように、チャックテーブル32の保持面32aで被加工物11の裏面側を吸引保持して被加工物11の表面を露出させる保持ステップを実施する。
【0027】
保持ステップを実施した後、図5に示すように、チャックテーブル32で保持された被加工物11の第1領域17aの上面高さ位置と第2領域19aの上面高さ位置とを、高さ測定器48及び50を横方向(X軸方向)に移動することにより、それぞれ複数点において検出する高さ位置検出ステップを実施する。
【0028】
本実施形態では、高さ位置の検出の迅速化を測るため、高さ測定器48で被加工物11の中心から右側の高さ位置を測定し、高さ測定器50で中心から左側の高さ位置を測定している。
【0029】
高さ位置の検出方法はこれに限定されるものではなく、例えば高さ測定器48で第1領域17aの高さ位置を測定し、高さ測定器50で第2領域19aの高さ位置を測定するようにしてもよい。
【0030】
次いで、図6に示すように、高さ位置検出ステップで検出した複数の第2領域19aの上面高さ位置のうちの最高位置h1から高さ位置検出ステップで検出した複数の第1領域17aの上面高さ位置のうちの最低位置h2を減じた値を余剰厚みt1として算出する(厚み算出ステップ)。
【0031】
厚み算出ステップを実施した後、図7に示すように、バイト切削ユニット10が一回の回転で被加工物に切り込める最大切り込み量hと余剰厚みt1とから、余剰厚みt1を除去するのに必要な切削回数Nを算出する(切削回数算出ステップ)。即ち、余剰厚みt1を最大切り込み量hで割ることにより切削回数Nを算出する。
【0032】
切削回数算出ステップを実施した後、切削回数算出ステップで算出した切削回数Nだけ余剰除去用切削条件でバイト切削ユニット10を動作させ、余剰厚みt1を除去する余剰厚み切削ステップを実施する。
【0033】
この余剰厚み切削ステップでは、図12に示すように、スピンドル22を約2000rpmで回転させつつ、バイト切削ユニット送り機構18を駆動してバイト工具26の切削刃26aを被加工物11に最大切り込み量hで切り込ませる。
【0034】
そして、チャックテーブル32を矢印Y方向に例えば1mm/sの送り速度で移動させながら、被加工物11を切削する。この切削加工時には、チャックテーブル32は回転させずにY軸方向に加工送りする。
【0035】
一回の切削加工が完了すると、チャックテーブル32をY軸方向に移動して元の位置に戻し、最大切り込み量hの切削をN−1回繰り返し、最後の切削加工では最大切り込み量h未満の切り込み量で切削を遂行して、余剰厚みt1を除去する。余剰厚み除去ステップ完了後の被加工物11が図8に示されている。
【0036】
余剰厚み除去ステップを実施した後、図9に示すように、被加工物切削用切削条件でバイト切削ユニット10を動作させて被加工物11を切削し、被加工物11を最低位置h2から所定厚みt2減じた厚みに形成する被加工物切削ステップを実施する。
【0037】
この被加工物切削ステップは、図12を参照して説明した余剰厚み除去ステップと同様に実施する。被加工物切削用切削条件は余剰除去用切削条件と同一でも良いし、異なる切削条件でもよい。所定厚みt2が最大切り込み量hより厚い場合には、被加工物11を複数回数切削する。
【0038】
余剰厚み除去ステップ及び被加工物切削ステップとも、切削回数の余り分は最初、途中、最後の何れで加工してもよい。最終の切削ステップでは、チャックテーブル32の送り速度を遅くするのが好ましい。
【0039】
次に、図10及び図11を参照して、切り残し量を制御して被加工物11を仕上げ厚みに形成する本発明第2実施形態の被加工物のバイト切削方法について説明する。本実施形態の高さ位置検出ステップでは、図10に示すように、高さ測定器48でチャックテーブル32の保持面32aの高さ位置を検出する。
【0040】
そして、高さ測定器50を被加工物11に沿って移動させながら被加工物11の高さ位置を複数点において測定し、被加工物11の最高位置h1と最低位置h2を検出する。
【0041】
次いで、図11に示すように、最高位置h1から最低位置h2を減じた値を余剰厚みt1として算出し、測定した最低位置h2から仕上げ厚みt3を減じた値を所定厚みt2として算出する。
【0042】
そして、余剰厚み除去ステップで上述した第1実施形態と同様にバイト切削ユニット10を複数回動作させて余剰厚みt1を除去し、被加工物切削ステップで被加工物11を所定厚みt2だけ切削し、被加工物11を仕上げ厚みt3に仕上げる。
【0043】
上述した実施形態の被加工物のバイト切削方法では、被加工物11の第2領域19aの最高位置h1と第1領域17aの最低位置h2とから余剰厚みt1を算出する。そして、バイト工具26が一回の回転で被加工物11に切り込める最大切り込み量h1と余剰厚みt1とから切削回数Nを算出して、余剰厚みt1を余剰除去用切削条件で切削除去した後、被加工物11を被加工物切削用切削条件で切削するため、被加工物11にバイト工具26が過度に切り込むことが防止され、被加工物11の被切削面の品質悪化やバイト工具26に生じる欠けや異常磨耗を防止することができる。
【符号の説明】
【0044】
2 バイト切削装置
10 バイト切削ユニット
11 被加工物
13 半導体ウエーハ
15 デバイス
17 銅ポスト
17a 第1領域
18 バイト切削ユニット送り機構
19 レジスト
19a 第2領域
32 チャックテーブル
48,50 高さ測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に第1の厚みを有する第1領域と該第1の厚みより厚い第2の厚みを有する第2領域とを有した被加工物の表面側をバイト切削手段で切削して、該第1の厚みから所定厚み減じた厚みに被加工物を形成する被加工物のバイト切削方法であって、
被加工物を保持する保持面を有するチャックテーブルで被加工物の裏面側を保持して被加工物表面を露出させる保持ステップと、
該保持ステップを実施した後、該チャックテーブルで保持された被加工物の該第1領域の上面高さ位置と該第2領域の上面高さ位置とをそれぞれ複数点において検出する高さ位置検出ステップと、
該高さ位置検出ステップで検出した複数の該第2領域の上面高さ位置のうちの最高位置から該高さ位置検出ステップで検出した複数の該第1領域の上面高さ位置のうちの最低位置を減じた値を余剰厚みとして算出する厚み算出ステップと、
該厚み算出ステップを実施した後、該バイト切削手段が一回の回転で被加工物に切り込める最大切り込み量と該余剰厚みとから、該余剰厚みを除去するのに必要な切削回数を算出する切削回数算出ステップと、
該切削回数算出ステップを実施した後、該切削回数算出ステップで算出した該切削回数に基づいて余剰除去用切削条件で該バイト切削手段を動作させ該余剰厚みを除去する余剰厚み除去ステップと、
該余剰厚み除去ステップを実施した後、被加工物切削用切削条件で該バイト切削手段を動作させて被加工物を切削し、該最低位置から該所定厚みを減じた厚みに被加工物を形成する被加工物切削ステップと、
を具備したことを特徴とする被加工物のバイト切削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−107145(P2013−107145A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252164(P2011−252164)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】