説明

被加工素材固定用治具、レーザ加工装置、及び、スリーブ印刷版の製造方法

【課題】被加工素材に対してレーザ光を照射し、肉厚方向に貫通した貫通加工を実施する場合であっても、被加工素材固定用治具の損傷を防止でき、精度の高いレーザ加工を実施することが可能な被加工素材固定用治具、この被加工素材固定用治具を備えたレーザ加工装置、及び、スリーブ印刷版の製造方法を提供する。
【解決手段】被加工素材に対してレーザ加工を行う際に、この被加工素材を支持する被加工素材固定用治具10であって、前記被加工素材は、前記レーザ加工によって肉厚方向に貫通するように加工される貫通加工予定部を備えており、前記被加工素材を支持する支持面11には、前記被加工素材の前記貫通加工予定部に対応する位置に凹部15が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工素材に対してレーザ加工を行う際に、この被加工素材を支持する被加工素材固定用治具、この被加工素材固定用治具を備えたレーザ加工装置、及び、この被加工素材固定用治具を用いたスリーブ印刷版の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被加工素材に対してレーザ加工を行うことによって製造される部材としては、例えば、特許文献1、2に記載されているように、フレキソ印刷、凸版印刷、缶等の円筒物に対するオフセット印刷の分野において使用されているスリーブ印刷版が挙げられる。
このスリーブ印刷版では、画像パターンの周方向位置がスリーブ支持体上で予め設定されているので、スリーブ支持体とシリンダとの位置合わせを行うことで画像パターンの見当合わせを行うことができ、画像パターンの交換作業に掛かる時間と労力を大幅に削減することが可能となる。
【0003】
前述のスリーブ印刷版においては、スリーブ支持体の一部に前記軸線方向端部に向けて開口した位置決め用切欠部が設けられており、この位置決め用切欠部が前記シリンダに立設されたガイドピンと係合することによって、スリーブ印刷版とシリンダとの周方向の相対位置及び軸線方向の相対位置が決定される。
【0004】
このようなスリーブ印刷版の製造方法として、例えば平板状の被加工素材を被加工素材固定用治具に固定し、この被加工素材に対してレーザ加工を実施して位置決め用切欠部と画像パターンとを形成し、その後、この被加工材を丸めて端部を溶接するものが提案されている。
また、円筒状の被加工素材を被加工素材固定用治具に固定し、この被加工素材に対してレーザ加工を実施して位置決め用切欠部と画像パターンとを形成し、スリーブ印刷版を形成する方法も提案されている。
ここで、印刷品質を向上されるために、上述の位置決め用切欠部と画像パターンとを、互いの相対位置が一致するように精度良く形成することが必要となる。そこで、特許文献3においては、同一の被加工素材固定用治具に被加工素材を装着した状態で、画像パターンの形成と位置決め用切欠部とを、レーザ加工によって形成する技術が提案されている。
また、スリーブ印刷版の生産効率の向上を図るために、長尺の円筒状の被加工素材を準備し、これをレーザ加工によって切断して複数のスリーブを製造する技術も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−326938号公報
【特許文献2】特開2006−272682号公報
【特許文献3】特開2010−214943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、レーザ加工によって被加工素材の切断や位置決め用切欠部の形成を行う場合には、被加工素材の肉厚方向に貫通するようにレーザ加工することになる。すると、被加工素材を支持する被加工素材固定用治具の支持面に対して、レーザ光が照射される。これにより、被加工素材固定用治具の支持面に疵等が発生し、被加工素材を十分に支持することができなくなり、レーザ加工の加工精度が劣化するおそれがあった。
【0007】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであって、被加工素材に対してレーザ光を照射し、肉厚方向に貫通した貫通加工を実施する場合であっても、被加工素材固定用治具の損傷を防止でき、精度の高いレーザ加工を実施することが可能な被加工素材固定用治具、この被加工素材固定用治具を備えたレーザ加工装置、及び、スリーブ印刷版の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明に係る被加工素材固定用治具は、被加工素材に対してレーザ加工を行う際に、この被加工素材を支持する被加工素材固定用治具であって、前記被加工素材は、前記レーザ加工によって肉厚方向に貫通するように加工される貫通加工予定部を備えており、前記被加工素材を支持する支持面には、前記被加工素材の前記貫通加工予定部に対応する位置に凹部が形成されていることを特徴としている。
【0009】
この構成の被加工素材固定用治具によれば、前記被加工素材を支持する支持面に凹部が形成されているので、レーザ光が前記被加工素材を貫通して、前記被加工素材固定用治具の支持面に照射された場合であっても凹部の位置ではレーザ光の焦点が合わなくなる。よって、レーザ光による前記被加工素材固定用治具の損傷を抑制できる。なお、予め凹部を形成していることから、前記被加工素材を確実に支持可能なように凹部を配設することで、レーザ加工の加工精度の向上を図ることができる。
【0010】
ここで、前記凹部の深さが、1mm以上とされていることが好ましい。
この場合、凹部の深さ、すなわち、前記被加工素材固定用治具の支持面からの深さが1mm以上とされているので、被加工素材固定用治具に照射されるレーザ光の焦点が確実に合わなくなり、被加工素材固定用治具の損傷を確実に防止することができる。
【0011】
また、前記凹部の幅が、1mm以上とされていることが好ましい。
この場合、レーザ光のスポット径よりも大きくなり、確実にレーザ光が凹部内に向けて照射されることになり、被加工素材固定用治具の損傷を確実に防止することができる。
【0012】
さらに、前記凹部の内面は、前記支持面よりも面粗さが粗く設定されていることが好ましい。
レーザ光が前記支持面に照射された場合、レーザ光の反射光がレーザ光照射部に向けて照射され、レーザ光照射部が損傷してしまうおそれがある。そこで、凹部の内面の面粗さを支持面よりも粗く設定することで、凹部内に照射されたレーザ光が乱反射し、レーザ光の反射光によるレーザ光照射部の損傷を抑制することができる。
【0013】
前記凹部は、V字溝とされていることが好ましい。
この場合、レーザ光が凹部に向けて照射されても、V字溝の斜面でレーザ光が反射されるため、レーザ光の反射光がレーザ光照射部に向けて照射されることがなく、レーザ光照射部の損傷を抑制することができる。
【0014】
本発明のレーザ加工装置は、前述の被加工素材固定用治具と、この被加工素材固定用治具に固定された被加工素材に対してレーザ光を照射するレーザ光照射部と、を備えていることを特徴としている。
この構成のレーザ加工装置によれば、被加工素材固定用治具の損傷を防止でき、被加工素材を確実に支持して、精度の高いレーザ加工を実施することができる。
【0015】
本発明のスリーブ印刷版の製造方法は、印刷装置のシリンダに装着されて使用されるスリーブ印刷版の製造方法であって、被加工素材に対してレーザ光を照射し、前記被加工素材の肉厚方向に貫通する加工を実施する貫通加工工程を有しており、前記貫通加工工程では、前述の被加工素材固定用治具により、前記被加工素材を支持し、前記被加工素材の貫通加工予定部に対応する位置に、前記凹部を配置することを特徴としている。
本発明のスリーブ印刷版の製造方法によれば、被加工素材を支持する被加工素材固定用治具においてレーザ光による損傷が抑制されるので、被加工素材を確実に支持することができる。よって、画像パターン、位置決め用切欠部等を精度良く形成することができ、高品質なスリーブ印刷版を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被加工素材に対してレーザ光を照射し、肉厚方向に貫通した貫通加工を実施する場合であっても、被加工素材固定用治具の損傷を防止でき、精度の高いレーザ加工を実施することが可能な被加工素材固定用治具、この被加工素材固定用治具を備えたレーザ加工装置、及び、スリーブ印刷版の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態であるレーザ加工装置によって製造されるスリーブ印刷版の斜視図である。
【図2】図1のスリーブ印刷版を軸線方向から見た図である。
【図3】本実施形態であるスリーブ素体支持シリンダ(被加工素材固定用治具)に装着されるスリーブ素体(被加工素材)の概略図である。
【図4】本実施形態であるレーザ加工装置の概略図である。
【図5】本発明の第一の実施形態であるスリーブ素体支持シリンダ(被加工素材固定用治具)の概略図である。
【図6】図5に示すスリーブ素体支持シリンダ(被加工素材固定用治具)に設けられた凹部の断面図である。
【図7】本実施形態であるレーザ加工装置で加工されるスリーブ素体(被加工素材)、第1画像データ及び第2画像データを示す説明図である。
【図8】図5及び図6に示すスリーブ素体支持シリンダ(被加工素材固定用治具)に装着されたスリーブ素体をレーザ加工する状態を示す説明図である。
【図9】本発明の第二の実施形態であるスリーブ素体支持シリンダ(被加工素材固定用治具)の概略図である。
【図10】図9に示すスリーブ素体支持シリンダ(被加工素材固定用治具)に設けられた凹部の断面図である。
【図11】図9及び図10に示すスリーブ素体支持シリンダ(被加工素材固定用治具)に装着されたスリーブ素体(被加工素材)をレーザ加工する状態を示す説明図である。
【図12】本発明の第三の実施形態である被加工素材固定用治具の概略図である。
【図13】図12に示す被加工素材固定用治具を備えたレーザ加工装置の概略図である。
【図14】図13に示すレーザ加工装置を用いたスリーブ印刷版の製造方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。
まず、本発明の第一の実施形態であるスリーブ素体支持シリンダ(被加工素材固定用治具)10を備えたレーザ加工装置50によって製造されるスリーブ印刷版30について、図1、図2を用いて説明する。
このスリーブ印刷版30は、図1及び図2に示すように、軸線Oに沿って延びる円筒状をなすスリーブ体31と、スリーブ体31の外周側に配設された版材32と、を備えている。
【0019】
スリーブ体31は、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂で形成されており、外径Dが100mm≦D≦300mm、軸線O方向長さLが50mm≦L≦600mm、とされ、外径Dと軸線O方向長さLとの比L/Dが0.2≦L/D≦2に設定されている。さらに、スリーブ体31の肉厚tは、0.1mm≦t≦1.0mmとされている。なお、本実施形態においては、スリーブ体31の軸線O方向長さは、200mmとされている。
【0020】
版材32は、例えばレーザ光による彫刻が可能な感光性樹脂からなり、肉厚が0.5mm〜1.0mmの円筒状をなしている。この版材32の外周面には、画像パターンを有する凸版33が刻設されている。
そして、スリーブ印刷版の軸線O方向端部には、印刷装置のシリンダに立設されたガイドピンと係合することによって、前記シリンダとの周方向相対位置、軸線O方向相対位置を案内する位置決め用切欠部34が形成されている。
【0021】
次に、本実施形態であるスリーブ素体支持シリンダ10に装着されるスリーブ素体40について、図3を参照して説明する。
このスリーブ素体40は、円筒状をなし、その軸線O方向長さL0が50mm≦L0≦3000mmとされている。本実施形態では、L0=1000mmとされている。すなわち、一つのスリーブ素体40から、5つのスリーブ印刷版30が製造される。
そして、このスリーブ素体40には、レーザ加工によって肉厚方向に貫通するように加工される貫通加工予定部として、切断加工が実施される切断加工予定部41及び位置決め用切欠部34が形成される切欠部形成予定部42が設けられている。
なお、本実施形態においては、スリーブ素体40は、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂の外周面に、レーザ光による彫刻が可能な感光性樹脂が積層された構造とされている。
【0022】
次に、本実施形態であるスリーブ素体支持シリンダ10を備えたレーザ加工装置50について、図4を参照にして説明する。
【0023】
本実施形態であるレーザ加工装置50は、図4に示すように、本実施形態であるスリーブ素体支持シリンダ10及びこのスリーブ素体支持シリンダ10を回転可能に支持する軸支部52を有するスリーブ素体支持部53と、スリーブ素体支持シリンダ10を軸線N中心に回動させる回転駆動部55と、スリーブ素体支持シリンダ10に装着されたスリーブ素体40に対してレーザ光を照射するレーザ光照射部60と、このレーザ光照射部60をスリーブ素体支持シリンダ10の軸線Nに平行な方向に移動させる直動部65と、これらスリーブ素体支持シリンダ10、直動部65及びレーザ光照射部60の動作を制御する制御部70と、を備えている。
なお、スリーブ素体支持部53には、スリーブ素体支持シリンダ10の回転位置情報θを得るための回転方向位置センサ54が設けられている。
【0024】
直動部65は、スリーブ素体支持シリンダ10の軸線Nに平行な方向に延在するガイドバー66と、このガイドバー66に沿って移動する支持部材67と、支持部材67の位置情報(軸線N方向位置情報Z)を得る軸線方向位置センサ68と、を備えている。
そして、レーザ光照射部60は、直動部65の支持部材67に支持され、軸線Nに平行な方向に移動可能な構成とされている。また、このレーザ光照射部60には、レーザ光の出力を調整する出力調整器61が設けられている。なお、本実施形態においては、レーザ光照射部60は炭酸ガスレーザで構成されている。
【0025】
制御部70は、位置決め用切欠部形成位置及び形状と切断位置及び形状を示す第1画像データ46及び凸版33の画像パターンの位置及び形状を示す第2画像データ47を記憶する記憶手段71と、第1画像データ46に基づいて、切断及び位置決め用切欠部を形成する際のレーザ光のエネルギー密度と第2画像データ47に基づいて凸版33の画像パターンを形成する際のレーザ光のエネルギー密度とを、それぞれ調整するエネルギー密度調整部72と、を備えている。
そして、第1画像データ46及び第2画像データ47に基づいて、スリーブ素体支持シリンダ10、直動部65及びレーザ光照射部60の動作を制御し、スリーブ素体40の切断、位置決め用切欠部34の形成、凸版33の形成を行う。
【0026】
そして、本実施形態であるスリーブ素体支持シリンダ10は、図5に示すように、本体部12と軸部13とを有しており、本体部12の外周面が、スリーブ素体40の内周面を支持する支持面11とされている。この支持面11においては、前述したスリーブ素体40の切断加工予定部41及び切欠部形成予定部42に対応する位置に、径方向内方に向けて後退した凹部15が形成されている。
【0027】
本実施形態では、図6に示すように、凹部15は、断面V字状をなしている。
また、凹部15の深さZは、1mm以上とされている。なお、スリーブ素体支持シリンダ10の剛性を確保するために、凹部15の深さZは、スリーブ素体支持シリンダ10の外径dの1/4以下とすることが好ましい。
さらに、凹部15の幅Wは、1mm以上とされている。なお、スリーブ素体40を確実に支持するために、凹部15の幅Wは、20mm以下とすることが好ましい。
【0028】
また、このスリーブ素体支持シリンダ10は、図3に示すスリーブ素体40の内径よりも僅かに大きな外径とされており、スリーブ素体40は、その収縮力によってスリーブ素体支持シリンダ10の支持面11に強く押圧されて固定される構成とされている。さらに、このスリーブ素体支持シリンダ10には、支持面11に開口されたエア孔(図示なし)からエアを噴出するエア噴出機構(図示なし)が設けられている。
【0029】
次に、このような構成とされた本実施形態であるレーザ加工装置50を用いたスリーブ印刷版の製造方法について説明する。
まず、スリーブ素体支持シリンダ10の支持面11に、図4に示すスリーブ素体40を装着する。このとき、スリーブ素体40の一端をスリーブ素体支持シリンダ10に嵌め込み、この状態でエア噴出機構によってエア孔からエアを噴出する。すると、このエアによってスリーブ素体40が拡径され、スリーブ素体支持シリンダ10にスリーブ素体40が装着される。このとき、スリーブ素体40の軸線Oとスリーブ素体支持シリンダ10の軸線Nが一致することになる。
【0030】
次に、図7に示すように、位置決め用切欠部形成位置及び形状と切断位置及び形状を示す第1画像データ46と、凸版33の画像パターンの位置及び形状を示す第2画像データ47と、を記憶手段71に記憶させる。すなわち、第1画像データ46が、スリーブ素体40の切断加工予定部41及び切欠部形成予定部42を表すことになる。
そして、制御部70において、これら第1画像データ46及び第2画像データ47に基づいて、スリーブ素体支持シリンダ10、直動部65及びレーザ光照射部60の動作を制御する。
【0031】
レーザ光照射部60からスリーブ素体40に向けてレーザ光を照射しながら、スリーブ素体支持シリンダ10を回転駆動部55によって回転させるとともに直動部65によって軸線N方向に移動させることにより、スリーブ素体40の外周面全体をレーザ光照射部60によって走査させる。
【0032】
ここで、第1画像データ46に該当する箇所では、エネルギー密度調整部72から出力調整器61に指令信号が発信されてレーザ光の出力が高く設定され、スリーブ素体40の肉厚全体が除去されることになる。これにより、スリーブ素体40の切断及び位置決め用切欠部34の形成が行われる。
一方、第2画像データ47に該当する箇所では、エネルギー密度調整部72から出力調整器61に指令信号が発信されてレーザ光の出力が低く設定され、スリーブ素体40の肉厚の一部が除去されることになる。これにより、スリーブ素体40に凸版33の画像パターンが形成される。
【0033】
このようにして、レーザ光の出力を調整することでレーザ光のエネルギー密度が調整され、スリーブ素体40の外周面全体をレーザ光照射部60によって1回走査させることによって、スリーブ素体40の切断、位置決め用切欠部34の形成及び凸版33の画像パターンの形成が行われ、一つのスリーブ素体40から5つのスリーブ印刷版30が製出されることになる。
【0034】
ここで、スリーブ素体40の切断及び位置決め用切欠部34の形成を実施する場合、図6に示すように、スリーブ素体40の肉厚全体を除去したあと、レーザ光がスリーブ素体支持シリンダ10の支持面11へと照射されることになる。本実施形態では、この支持面11に、径方向内方に向けて後退した凹部15が形成されているため、レーザ光は、凹部15へと照射されることになる。
【0035】
以上のような構成とされた本実施形態であるスリーブ素体支持シリンダ10、このスリーブ素体支持シリンダ10を備えたレーザ加工装置50、及び、このレーザ加工装置50を用いたスリーブ印刷版の製造方法によれば、スリーブ素体支持シリンダ10の支持面11のうち、スリーブ素体40の切断加工予定部41及び切欠部形成予定部42に対応する位置に、径方向内方へと後退した凹部15が形成されているので、図6に示すように、スリーブ素体40の肉厚全体を除去したあとに、レーザ光が凹部15へと照射される。凹部15内では、レーザ光の焦点がずれることになるため、レーザ光によってスリーブ素体支持シリンダ10を損傷するおそれがない。
【0036】
また、この凹部15が断面V字状をなしているので、凹部15内に照射されたレーザ光は、V字の斜面にて反射されるため、レーザ光照射部60側に向けてレーザ光の反射光が照射されることがない。よって、このレーザ光の反射光によるレーザ光照射部60の損傷を抑制することができる。
【0037】
さらに、本実施形態では、凹部15の深さZが1mm以上とされているので、凹部15に内に照射したレーザ光の焦点が確実に合わなくなり、スリーブ素体支持シリンダ10の損傷を確実に防止することができる。
また、凹部15の幅Wが1mm以上とされているので、凹部15がレーザ光のスポット径よりも大きくなり、確実にレーザ光が凹部15の内部に向けて照射されることになり、スリーブ素体支持シリンダ10の損傷を確実に防止することができる。
【0038】
また、本実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法によれば、上述のように、スリーブ素体40を支持するスリーブ素体支持シリンダ10においてレーザ光による損傷が抑制されるので、スリーブ素体40を確実に支持することができる。よって、画像パターンを有する凸版33、位置決め用切欠部34を精度良く形成することができ、高品質なスリーブ印刷版30を提供することが可能となる。
【0039】
次に、本発明の第二の実施形態であるスリーブ素体支持シリンダ(被加工素材固定用治具)110について、図9から図11を参照して説明する。
【0040】
このスリーブ素体支持シリンダ110は、図9に示すように、本体部112と軸部113とを有しており、本体部112の外周面が、スリーブ素体40の内周面を支持する支持面111とされている。この支持面111には、前述したスリーブ素体40の切断加工予定部41及び切欠部形成予定部42に対応する位置に、径方向内方に向けて後退した凹部115が形成されている。
【0041】
本実施形態では、この凹部115は断面U字状をなしている。また、凹部115の内面は、支持面111よりも面粗さが粗く設定されている。具体的には、支持面111の面粗さがRa≦1μmの範囲内とされ、凹部115の内面の面粗さがRa≧20μmの範囲内とされている。
また、凹部115の深さZは、1mm以上、かつ、スリーブ素体支持シリンダ110の外径dの1/4以下とされている。
さらに、凹部115の幅Wは、1mm以上20mm以下とされている。
【0042】
このような構成とされた本実施形態であるスリーブ素体支持シリンダ110によれば、凹部115の内面が、支持面111よりも面粗さが粗く設定されているので、レーザ光が凹部115の内部に照射された場合であっても、レーザ光が乱反射することでレーザ光照射部60への反射が抑制されることになり、レーザ光照射部60の損傷を抑制することができる。
特に、本実施形態では、凹部115の内面の面粗さをRa≧20μmの範囲内に設定しているので、レーザ光の反射を確実に抑制することが可能となる。
【0043】
次に、本発明の第三の実施形態である被加工素材固定用治具210について、図12から図14を参照して説明する。
この被加工素材固定用治具210は、図12に示すように、平板状をなすプレート素体240を固定するものである。
このプレート素体240には、図14に示すように、レーザ加工によって肉厚方向に貫通するように加工される貫通加工予定部として、切断加工が実施される切断加工予定部241及び位置決め用切欠部234が形成される切欠部形成予定部242が設けられている。
【0044】
被加工素材固定用治具210は、概略平板状をなしており、プレート素体240の裏面を支持する支持面211を備えている。この支持面211には、切断加工予定部241及び切欠部形成予定部242に対応する位置に凹溝215が形成されている。
この凹溝215の深さは1mm以上とされている。なお、被加工素材固定用治具210の剛性を確保するために、凹溝215の深さは、被加工素材固定用治具210の厚さの1/4以下とすることが好ましい。さらに、凹溝215の幅は1mm以上とされている。なお、プレート素体240を確実に支持するために、凹溝215の幅は20mm以下とすることが好ましい。
また、この凹溝215の内面は、支持面211よりも面粗さが粗く設定されている。
【0045】
次に、図13を用いて、被加工素材固定用治具210を備えたレーザ加工装置250について説明する。
このレーザ加工装置250は、本実施形態である被加工素材固定用治具210と、被加工素材固定用治具210を駆動させる駆動手段251と、駆動手段251の動作を制御す駆動制御部252と、被加工素材固定用治具210に固定されたプレート素体240に対してレーザ光を照射するレーザ光照射部260と、レーザ光発振器261及び出力制御装置262を備えたレーザ光発生装置263と、レーザ加工条件を制御するレーザ加工制御部265と、を備えている。
【0046】
次に、このレーザ加工装置250を利用したスリーブ印刷版230の製造方法について説明する。
このレーザ加工装置250においては、被加工素材固定用治具210を駆動手段251によって移動させ、レーザ光照射部260からレーザ光をプレート素体240に向けて照射し、レーザ加工を行う。ここで、レーザ加工制御部265からの指令によってレーザの出力を調整することで、レーザ彫刻と貫通加工とを選択的に実施することになる。
【0047】
まず、プレート素体240を、図12に示す被加工素材固定用治具210の支持面211に固定する。このとき、切断加工予定部241及び切欠部形成予定部242が凹溝215の上に位置されることになる。
【0048】
レーザ光照射部260によってレーザ彫刻を行って凸版233を形成するとともに、位置決め用切欠部234の形成及び切断加工を実施する。これにより、図14に示すように、平板状の版材245を製出する。
そして、この平板状の版材245を丸めて端部をレーザ溶着又は超音波溶着することにより、円筒状をなすスリーブ印刷版230が製出される。
【0049】
以上のような構成とされた本実施形態である被加工素材固定用治具210、この被加工素材固定用治具210を備えたレーザ加工装置250、及び、このレーザ加工装置250を用いたスリーブ印刷版の製造方法によれば、被加工素材固定用治具210の支持面211のうち、プレート素体240の切断加工予定部241及び切欠部形成予定部242に対応する位置に凹溝215が形成されているので、貫通加工後にレーザ光によって被加工素材固定用治具210を損傷するおそれがない。
【0050】
さらに、本実施形態では、凹溝215の深さが1mm以上とされているので、凹溝215の内部に照射したレーザ光の焦点が確実に合わなくなり、被加工素材固定用治具210の損傷を確実に防止することができる。
また、凹溝215の幅Wが1mm以上とされているので、凹溝215がレーザ光のスポット径よりも大きくなり、確実にレーザ光が凹溝215の内部に向けて照射されることになり、被加工素材固定用治具210の損傷を確実に防止することができる。
【0051】
また、本実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法によれば、被加工素材固定用治具210に固定したプレート素体240に対してレーザ加工を行って凸版233と位置決め用切欠部234を形成しているので、これらの相対位置が一致した平板状の版材245を形成することができる。そして、この平板状の版材245を丸めて端部をレーザ溶着又は超音波溶着することにより、円筒状をなすスリーブ印刷版230を形成しているので、凸版233、位置決め用切欠部234を精度良く形成することができ、高品質なスリーブ印刷版230を提供することが可能となる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、凹部の形状を断面V字状又は断面U字状としたもので説明したが、これに限定されることはなく、任意の形状の凹部を形成してもよい。
【0053】
また、製造されるスリーブ印刷版30は、本実施形態に記載されたものに限定されることはない。例えば、スリーブ体が繊維強化プラスチック(FRP)で構成されたものであってもよいし、スリーブ体を有さないものであってもよい。
【0054】
さらに、レーザ加工装置の構成は、本実施形態に限定されることはなく、本発明の被加工素材固定用治具を備えていれば、他の構造に限定はない。
また、スリーブ素体及びプレート素体の切断を、位置決め用切欠部及び凸版の画像パターンの形成とともに行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、切断工程を別途実施してもよい。
【符号の説明】
【0055】
10、110 スリーブ素体支持シリンダ(被加工素材固定用治具)
11、111 支持面
15、115 凹部
30 スリーブ印刷版
34 位置決め用切欠部
40 スリーブ素体(被加工素材)
41 切断加工予定部(貫通加工予定部)
42 切欠部形成予定部(貫通加工予定部)
50 レーザ加工装置
60 レーザ光照射部
210 被加工素材固定用治具
211 支持面
215 凹溝
230 スリーブ印刷版
234 位置決め用切欠部
240 プレート素体
241 切断加工予定部(貫通加工予定部)
242 切欠部形成予定部(貫通加工予定部)
250 レーザ加工装置
260 レーザ光照射部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工素材に対してレーザ加工を行う際に、この被加工素材を支持する被加工素材固定用治具であって、
前記被加工素材は、前記レーザ加工によって肉厚方向に貫通するように加工される貫通加工予定部を備えており、
前記被加工素材を支持する支持面には、前記被加工素材の前記貫通加工予定部に対応する位置に凹部が形成されていることを特徴とする被加工素材固定用治具。
【請求項2】
前記凹部の深さが、1mm以上とされていることを特徴とする請求項1に記載の被加工素材固定用治具。
【請求項3】
前記凹部の幅が、1mm以上とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の被加工素材固定用治具。
【請求項4】
前記凹部の内面は、前記支持面よりも面粗さが粗く設定されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の被加工素材固定用治具。
【請求項5】
前記凹部は、V字溝とされていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の被加工素材固定用治具。
【請求項6】
前記被加工素材は、円筒状をなすスリーブ素体とされ、
前記スリーブ素体の内周面を支持する前記支持面に、前記スリーブ素体の前記貫通加工予定部に対応する位置に、径方向内方へと後退した凹部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の被加工素材固定用治具。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の被加工素材固定用治具と、この被加工素材固定用治具に固定された被加工素材に対してレーザ光を照射するレーザ光照射部と、を備えていることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項8】
印刷装置のシリンダに装着されて使用されるスリーブ印刷版の製造方法であって、
被加工素材に対してレーザ光を照射し、前記被加工素材の肉厚方向に貫通する加工を実施する貫通加工工程を有しており、
前記貫通加工工程では、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の被加工素材固定用冶具により、前記被加工素材を支持し、前記被加工素材の貫通加工予定部に対応する位置に、前記凹部を配置することを特徴とするスリーブ印刷版の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−753(P2013−753A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131562(P2011−131562)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(305060154)ユニバーサル製缶株式会社 (219)
【Fターム(参考)】