説明

被検体損傷分析装置

【課題】被検体としての光学部品に対するレーザ耐力を非破壊で定量的に測定することができ、損傷メカニズムについても高精度に分析する。
【解決手段】光源11により発生された光パルスをポンプ光とプローブ光に分離するビームスプリッタ13と、分離したポンプ光とプローブ光との遅延時間を調整する遅延時間調整部15と、ポンプ光に対するプローブ光の偏光方向を互いに直交する方向に制御する第1の偏光素子36と、ポンプ光及びプローブ光を被検体2に照射する照射光学系と、プローブ光が被検体2から反射したプローブ信号を検出する受光素子31と、受光素子31により検出されたプローブ信号に基づいて被検体2からの反射率を解析するPC33とを備え、反射率から電子励起とその緩和による反射率ピークの高さ及び/又は幅を同定し、予め入力されている損傷度合と反射率ピークの高さ及び/又は幅の相関情報を照合して、当該被検体の損傷度合を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンププローブ法に基づいて被検体の損傷度合を非破壊で分析する被検体損傷分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光学部品に対するレーザ耐力を測定する場合、被検体としての光学部品に対してレーザ光を照射する。次に照射したレーザ光により形成された光学部品上の破壊痕を目視により、或いは顕微鏡観察を通じて確認することにより、実際のレーザ耐力を測る。
【0003】
しかしながら、このようなレーザ耐力の測定方法では、被検体としての光学部品に対してレーザ光を照射して破壊する、いわゆる破壊計測を前提としたものである。従って、かかるレーザ耐力の測定方法では、製品としての光学部品に疵をつけてしまうことから、非破壊でそのレーザ耐力を測定する技術が従来より望まれていた。
【0004】
また、上述の如き目視等によりレーザ耐力を測定する方法では、定量的かつ客観的な測定基準を決めることができないことから、測定結果の信憑性に劣ることにもなっていた。
【0005】
更に、上述した従来方法では、レーザ破壊が基板内部で生じたものであるか、基板の表面で生じたものであるかの判別や、レーザ光の照射により実際にいかなる破壊メカニズムにより損傷したのかの判別もすることができないという問題点があった。
【0006】
なお、従来において特許文献1に示す技術も提案されているが、上述した全ての問題点をクリアすることができるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−37439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、被検体としての光学部品に対するレーザ耐力を非破壊で定量的に測定することができ、損傷メカニズムについても高精度に分析することが可能な被検体損傷分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明を適用した被検体損傷分析装置は、上述した課題を解決するために、互いに遅延時間が調整されたポンプ光及びプローブ光を被検体に照射する照射光学系と、上記プローブ光が上記被検体から反射したプローブ信号を検出する信号検出手段と、上記信号検出手段により検出された上記プローブ信号に基づいて上記被検体からの反射率を解析する反射率解析手段とを備え、上記反射率解析手段は、上記反射率から電子励起とその緩和による反射率ピークの高さ及び/又は幅を同定し、予め入力されている損傷度合と反射率ピークの高さ及び/又は幅の相関情報を照合して、当該被検体の損傷度合を判別することを特徴とする。
【0010】
上記反射率解析手段は、上記プローブ光が被検体に照射された照射面積Sに対する損傷面積Sdを、上記反射率の上記遅延時間に対する変化量ΔR(t)と、予め入力されている被検体非損傷時の屈折率nと被検体損傷時の屈折率n’と、それぞれの屈折率の遅延時間に対する変化量Δn、Δn’とに基づいて求めるようにしてもよい。
【0011】
また、上記反射率解析手段は、上記反射率から、光化学反応、電子励起、熱的反応の傾向をそれぞれ同定し、この同定した結果に基づいて損傷原因又は損傷メカニズムを分析するようにしてもよい。
【0012】
また、上記プローブ光が上記被検体を透過した透過光を受光する透過光受光手段を更に備え、上記反射率解析手段は、上記透過光受光手段により受光された透過光に関する情報に基づいて、更に上記被検体の深さ方向の傾向を分析するようにしてもよい。
【0013】
また、光パルスを発生させる光パルス発生手段と、上記光パルス発生手段により発生された光パルスをポンプ光とプローブ光に分離する光分離手段と、上記光分離手段により分離されたポンプ光とプローブ光との遅延時間を調整する遅延時間調整手段と、上記ポンプ光に対する上記プローブ光の偏光方向を互いに直交する方向に制御する偏光制御手段とを更に備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明を適用した被検体損傷分析装置は、測定した反射率から電子励起とその緩和による反射率ピークの高さ及び/又は幅を同定し、予め入力されている損傷度合と反射率ピークの高さ及び/又は幅の相関情報を照合して、当該被検体の損傷度合を判別する。このため、本発明によれば被検体の損傷の有無をあくまで非破壊的に分析することができ、被検体の損傷の有無を判別する上で、わざわざ被検体にレーザ光を照射して破壊する、いわゆる破壊計測を行う必要性も無くなる。このため、製品としての光学部品に疵をつけてしまうことなく、その光損傷の有無を判別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用した被検体損傷分析装置の構成を示す図である。
【図2】被検体からのプローブ信号に基づいて反射率の時間変化を計測した結果を示す図である。
【図3】(a)は、光損傷を受けた試験片における反射率ピークBを示す図であり、(b)は、光損傷を受けていない試験片における反射率ピークBを示す図である。
【図4】ポンプ光の入射時からの遅延時間t(fs)と、反射率の変化量ΔRとの関係を示す図である。
【図5】本発明を適用した被検体損傷分析装置の構成を示す他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態として被検体損傷分析装置について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明を適用した被検体損傷分析装置1の構成を示している。この被検体損傷分析装置1は、被検体2の損傷度合をポンププローブ法により分析する装置であって、光源11と、光源11から出射された光パルスが供給されるND(減光)フィルタ12と、このNDフィルタ12を通過した光を分割するビームスプリッタ13と、このビームスプリッタ13を通過したポンプ光の光路上に配される反射板14と、反射板14によって折り曲げられたポンプ光が供給される遅延時間調整部15と、この遅延時間調整部15から供給されてくるポンプ光を被検体2側へと導く反射板20と、この反射板20からのポンプ光を被検体2上に集光させる集光レンズ23とを備えている。
【0018】
また、この被検体損傷分析装置1は、ビームスプリッタ13により折り曲げられて分離されたプローブ光の光路上に配される反射板18と、反射板18からのプローブ光を更に反射してこれを被検体2側へと導く反射板19と、反射板19からのプローブ光が供給される1/2波長板35と、この1/2波長板35の出射側に設けられた第1の偏光素子36と、第1の偏光素子36を通過したプローブ光を被検体2上に集光させる集光レンズ22と、集光レンズ23により集光されるポンプ光並びに集光レンズ22により集光されるプローブ光をチョッピングするための光チョッパー24と、被検体2を装着するためのホルダー26と、プローブ光が被検体2から反射したプローブ信号を集光するレンズ28と、レンズ28により集光されたプローブ信号の偏光方向を制御する第2の偏光素子30と、この第2の偏光素子30の出射側に配設された受光素子31と、この受光素子31に接続されているロックインアンプ32と、遅延時間調整部15並びにロックインアンプ32に接続されているパーソナルコンピュータ(PC)33と、更にこのPC33に接続されている撮像部34並びにXYステージ27とを備えている。
【0019】
被検体2は、例えば、レンズ、ミラー、プリズム、基板、ビームスプリッタ、偏光素子として用いられる光学素子である。被検体2としての光学素子の材質は、例えば、BK7等のクラウンガラス、F2等のフリントガラスのような光学ガラスであったり、合成石英、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、フッ化バリウム、岩塩(NaCl)、ゲルマニウム(Ge)、サファイヤ、ジンクセレン(ZnSe)等のような光学結晶等によって具体化される。
【0020】
光源11は、例えばフェムト秒パルスレーザ光源である。この光源11は、具体的には、波長750nm、時間幅100fs程度からなる光パルスを80MHzの繰り返し周波数で発生させる、チタンサファイヤレーザ発振器等を用いるようにしてもよい。
【0021】
NDフィルタ12は、光源11から出射された光パルスについて光量を落とすために用いられる。このNDフィルタ12は、灰色又は黒色で構成され、その濃さの度合いに応じて、光源11から出射された光パルスの減光量が決まる。
【0022】
ビームスプリッタ13は、NDフィルタ12からの出射光路中に斜めに配設された図示しないハーフミラーを含むものである。このビームスプリッター13は、NDフィルタ12からの光パルスを分割し、一部はそのまま透過させるとともに、残りの一部はこれと略直交する方向へと反射させる。ここで、このビームスプリッタ13による透過光は、ポンプ光として、また反射光はプローブ光として使用することを前提としているが、その逆であってもよい。
【0023】
反射板14、18、19は、入射されてくる光ビームを反射させることによりその光路を変換するミラーとして構成される。この中で、反射板14は、ビームスプリッタ13を透過したポンプ光の光路を略直角方向に折り曲げて遅延時間調整部15へと導く。反射板18は、ビームスプリッタ13を反射したプローブ光を略直角方向に反射させる。また反射板19は、この反射板18により反射されてくるプローブ光を略直角方向に反射させる。
【0024】
遅延時間調整部15は、可動ミラー16による光路長の調整を利用した光学系により構成されている。可動ミラー16は、入射光軸に対して45度の角度で斜めに配置された一対の反射ミラーから構成されており、入射光軸に沿って入射した光が一方の反射ミラーで入射光軸に対して垂直に反射されて他方の反射ミラーに入射し、他方の反射ミラーで入射方向に対して平行に反射されるようになっている。
【0025】
これにより、可動ミラー16が、ポンプ光のパルスの光軸方向に移動調整されることにより、可動ミラー16が図中上方に移動したとき光路長が長く、また図中下方に移動したとき光路長が短く調整されることになる。従って、遅延時間調整部15は、可動ミラー16の移動により、ポンプ光とプローブ光との遅延時間を調整することが可能となる。ここで、ポンプ光の光路長の可変範囲は、一般的には30cm程度であり、プローブパルス光とポンプパルス光との間に、例えば−1〜1nsの遅延時間の設定範囲を与えることになる。
【0026】
なお、遅延時間調整部15は、ポンプ光の光路を調整することにより時間遅延させる場合を例にとり説明をしたがこれに限定されるものではなく、プローブ光の光路上に設けるようにしてもよい。これにより、ことによりプローブ光の光路を調整することにより時間遅延させることも可能となる。
【0027】
遅延時間調整部15から出射した光は、反射板20を反射して集光レンズ23により集光され、被検体2の表面に対してほぼ垂直に照射され、更に当該被検体2の表面に対してほぼ垂直に反射することになる。
【0028】
また、1/2波長板35は、入射されるプローブ光に対して1/2波長の位相差を生じさせる。この1/2波長板35は、プローブ光の直線偏光成分を、これに直交する成分に変換し、位相差を180°とするものである。この1/2波長板35にプローブ光を通過させることにより、そのP偏光成分とS偏光成分の割合を調整することが可能となる。
【0029】
第1の偏光素子36は、1/2波長板35を通過したプローブ光におけるS偏光成分とP偏光成分のうち、何れか一方の偏光成分を透過させてこれを出射する。以下の例において、第1の偏光素子36からP偏光成分を透過させる場合を例にとり説明をする。
【0030】
集光レンズ22は、この第1の偏光素子36を通過したプローブ光を、被検体2の表面に対して斜め上方向から照射する。その結果、この斜め上方向から入射されるプローブ光は、この被検体2の表面を反射してプローブ信号としての光となってレンズ28により集光されることとなる。
【0031】
また光チョッパー24は、集光レンズ23により集光されるポンプ光並びに集光レンズ22により集光されるプローブ光を一定周期で断続することにより、当該ポンプ光、プローブ光を周期的にチョッピングする。光チョッパー24は、光反射部と光透過部とが周方向に交互に配置された回転ディスクとして構成され、モータの回転駆動によって光ビームを周期的に反射させ又は通過させるようにしてもよい。この光チョッパー24を配設する目的は、取得すべき信号のSN比を向上させるためである。ちなみに、この光チョッパー24は、ロックインアンプ32を介してPC33により制御される。光チョッパー24により変調されたポンプ光、プローブ光は、被検体2の表面に照射される。
【0032】
第2の偏光素子30は、レンズ28により集光されたプローブ信号の光におけるS偏光成分とP偏光成分のうち、何れか一方の偏光成分を透過させてこれを出射する。この第2の偏光素子30により透過させるべき偏光成分は、第1の偏光素子36により透過させる偏光成分と同一のものにすることを前提としており、第1の偏光素子36を透過する偏光成分がP偏光成分であるならば、第2の偏光素子30により透過させるべき偏光成分もP偏光成分である。
【0033】
受光素子31は、第2の偏光素子30を透過したP偏光成分の光を受光して光電変換することにより電気信号を生成し、これをロックインアンプ32へと送信する。
【0034】
ロックインアンプ32は、この電気信号を増幅してPC33へと送信する。また、このロックインアンプ32は、光チョッパー24からの参照信号も供給され、これを増幅した上でPC33へと送信する。
【0035】
撮像部34は、被検体2の背面側から撮像を行うカメラ等で構成されている。この撮像部34は、像光を結像させるためのレンズと、レンズを介して入射される被写体像に基づき電気的な撮像信号を生成するCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサとを有している。これにより、この撮像部34は、被検体2を透過した透過光を受光することが可能となる。そして、この撮像部34は、この透過光に関する情報から、被検体2の深さ方向の情報を取得することが可能となる。撮像部34は、CCDから生成した透過光に関する撮像信号をPC33へと送信する。
【0036】
XYステージ27は、ホルダー26によって固定された被検体2をX方向及びY方向へ移動させる。なお、このXYステージ27以外に被検体2を回転移動させるための図示しない回転ステージが更に設けられていてもよいし、また被検体2を高さ方向に移動させるためのZ軸ステージが更に設けられていてもよい。
【0037】
PC33は、この被検体損傷分析装置1を制御するための中央制御ユニットとしての役割を担うものである。このPC33は、ロックインアンプ62から信号が供給され、供給された信号に基づいて反射率を解析する。また、このPC33は、撮像部34から撮像信号が供給され、かかる撮像信号を解析することにより、被検体2の透過画像を得ることが可能となる。また、PC33は、ユーザから入力された命令に基づいて、遅延時間調整部15を制御することにより、ポンプ光とプローブ光との遅延時間の調整を行う。
【0038】
上述した構成からなる被検体損傷分析装置1により、実際に被検体2の損傷を分析する際には、ポンプ光の光路途中に置かれた遅延時間調整部15の可動ミラー16を物理的に移動させることにより光路長を変更して、プローブ光との間の遅延時間を調整する。ポンプ光は、光チョッパー24によりチョッピングされた後に被検体2に照射される。このポンプ光の照射により、被検体2自体が励起されることになる。またプローブ光は、被検体2に対して斜上方から入射され、また斜上方へ反射されるため、かかるプローブ信号成分のみを受光素子31により受光することが可能となる。但し、この被検体2表面で散乱されたポンプ光は、プローブ光の検出の際に雑音の原因となる。このため、プローブ光は、第1の偏光素子36により偏光方向がポンプ光と異なるように調整し、更に第2の偏光素子30によりかかる偏光成分のプローブ光のみを検出することとしている。
【0039】
図2は、この被検体2からのプローブ信号に基づいて反射率の時間変化を計測した結果を示している。この図2では横軸をポンプ光の被検体2への入射時からの時間遅れ(fs)を、また縦軸は、反射率ΔR/Rを示している。時間原点(0秒)は、ポンプ光の入射時点に相当する。
【0040】
この反射率の時間変化は、大きく分類して3つのパターンに分類することができる。反射率ピークAは、非線形光学応答に基づくものである。この反射率ピークAは、ポンプ光が実際に被検体2表面に照射されることによる光学応答であり、多光子吸収による光化学的反応を伴う可能性のある電子励起状態の変化を原因とする屈折率変化に対応する。ちなみに、この反射率ピークAの反射率ΔR/Rは、0.002超と高く、その幅は狭小である。これらは材料に依存する物理量である。
【0041】
また反射率ピークBは、被検体2上に照射されたポンプ光により電子励起されることにより反射率が低下する段階と、この励起された電子が緩和されることにより反射率が向上する段階からなる谷状のピークが現れる。
【0042】
また、傾向Cは、ポンプ光の照射によって生じる屈折率の変化に基づく熱的反応によるものである。
【0043】
本発明を適用した被検体損傷分析装置1では、このような反射率の時間変化に基づいて被検体2の光損傷度合を分析する。
【0044】
先ず、第1の分析方法では、被検体2の損傷度合を、上述した電子励起とその緩和による反射率ピークBに基づいて判別する。この第1の分析方法では、故意に光損傷を与えた試験片と、光損傷を何ら受けていない試験片の2種類を準備する。ちなみに、この試験片は、被検体2と同一の成分、表面状態からなる光学部品とされていることが望ましい。
【0045】
次に、この光損傷を受けた試験片と、光損傷を受けていない試験片それぞれについて、予め被検体損傷分析装置1により反射率の時間変化を計測し、その反射率ピークBを同定する。図3(a)は、光損傷を受けた試験片における反射率ピークBを、図3(b)は、光損傷を受けていない試験片における反射率ピークBを示している。光損傷を受けた試験片の反射率ピークBは、光損傷を受けていない試験片の反射率ピークBと比較して、そのピークの幅が狭小化されて、しかもピークの深さが深くなっている。即ち、光損傷を受けた試験片、光損傷を受けない試験片との間で、反射率ピークBの幅や深さ(高さ)が大きく異なっていることが示されている。換言すれば、光損傷を受けたか、或いは受けないかという点と、反射率ピークBの幅や深さ(高さ)との間で相関関係があるものといえる。
【0046】
第1の分析方法は、かかる相関関係を予め分析してこれを相関情報としてPC33内に格納しておく。そして。実際にこれから光損傷度合を測定しようとする被検体2について、反射率の時間変化を測定する。そしてその被検体2における反射率の測定結果と、上述した予め測定した相関情報とを比較する。その結果、仮に被検体2における反射率の測定結果が、図3(a)のプロファイルと類似している場合には、光損傷を受けていないものと判別することができ、図3(b)のプロファイルと類似している場合には、光損傷を受けたものと判別することができる。ちなみに、相関情報を比較する際には、反射率ピークBにおける幅、深さ(高さ)の双方、又は何れか一方を参照すればよい。
【0047】
このように、第1の分析方法によれば、被検体2について測定した反射率から電子励起とその緩和による反射率ピークの高さ及び/又は幅を同定する。そして、予め入力されている損傷の有無と反射率ピークの高さ及び/又は幅の相関情報を照合して、当該被検体の損傷有無を判別する。
【0048】
これにより、被検体2の損傷の有無をあくまで非破壊的に分析することができ、被検体2の損傷の有無を判別する上で、わざわざ被検体2にレーザ光を照射して破壊する、いわゆる破壊計測を行う必要性も無くなる。このため第1の分析方法によれば、製品としての光学部品に疵をつけてしまうことなく、その光損傷の有無を判別することが可能となる。
【0049】
なお、第1の分析方法によれば、被検体2の損傷の有無のみならず、被検体2の損傷度合をも判別することができる。例えば光損傷度合をランク付けした複数種の試験片について、それぞれ反射率ピークBの高さ及び/又は幅を測定する。そして光損傷度合と反射率ピークBの高さ及び/又は幅の相関情報を取得し、これをPC33内に格納しておく。その後実際に損傷度合を求めるべき被検体2について同様に反射率ピークBの高さ及び/又は幅を測定し、これに最も類似する相関情報中の反射率ピークBの高さ及び/又は幅を介してその損傷度合を判別するようにしてもよい。上述した被検体2の損傷の有無が、損傷度合を2段階で評価していると考えることができるが、この2段階評価のみならず3段階以上で損傷度合を評価するようにしてもよい。
【0050】
また、第1の分析方法によれば、被検体2について1箇所のみの損傷分析を行う場合に加えて、XYステージ27によりプローブ光のスポット形成位置を移動させることで複数個所の損傷分析を行うことも可能となる。
【0051】
次に、被検体損傷分析装置1による第2の分析方法について説明をする。
【0052】
この第2の分析方法は、プローブ光が被検体2に照射された照射面積Sに対する損傷面積Sdを分析するものである。
【0053】
図4は、ポンプ光の被検体2への入射時からの遅延時間t(fs)を横軸に、また反射率の変化量ΔRを縦軸にとったものである。ΔRは、反射率ピークAに対応して当初は大きくなり、その後反射率ピークB、傾向Cへと至るにつれて徐々に小さくなる。
【0054】
このようなΔRは、遅延時間tの関数ΔR(t)として表せる。式(1)は、光損傷が全く無い場合の被検体2の反射率ΔR(t)を示している。
【0055】
ΔR(t)=2Δn(t)(n−1)/|n+1|2 ・・・・・・(1)
【0056】
式(1)において、被検体非損傷時の屈折率をnとし、Δn(t)は、屈折率nの遅延時間tに対する変化量Δnである。
【0057】
また式(2)は、光損傷がある場合の被検体2の反射率ΔR(t)を示している。
【0058】
ΔR(t)=2Δn(t)(n−1)/|n+1|2×(S−Sd)/S+2Δn’(t)(n’−1)/|n’+1|2×Sd/S ・・・・・・(2)
【0059】
式(2)において、被検体損傷時の屈折率をn’とし、Δn’(t)は、屈折率n’の遅延時間tに対する変化量Δn’である。
【0060】
光損傷がある場合に照射面積Sに対する損傷面積Sdを実際に測定する場合には、先ず被検体損傷分析装置1により、遅延時間tに対するΔRのプロファイルを測定してΔR(t)を求める。また、被検体非損傷時の屈折率n、被検体損傷時の屈折率n’、Δn(t)、Δn’(t)は、予めPC33内に情報として入力されているものとする。またプローブ光の被検体2に対する照射面積Sは、市販のビームプロファイラ等で求めることができる。
【0061】
これらの各パラメータを(2)式に代入することにより、損傷面積Sdを計算から求めることが可能となり、ひいては照射面積Sに対する損傷面積Sdの割合を求めることが可能となる。しかも本発明によれば、この損傷面積Sdを求める上で、これを非破壊で定量的に測定することができる。
【0062】
次に、第3の分析方法について説明をする。第3の分析方法によれば、被検体2について測定した反射率から、光化学反応による反射率ピークA、電子励起並びにその緩和に伴う反射率ピークB、熱的反応の傾向Cをそれぞれ同定する。次に、以前から予め損傷原因毎、或いは損傷メカニズム毎に分類した反射率ピークA、B、傾向Cを比較参照し、この同定した反射率ピークA、B、傾向Cに基づいて損傷原因或いは損傷メカニズムを分析する。
【0063】
これにより、本発明によれば、損傷原因、損傷メカニズムについても高精度に分析することが可能となる。
【0064】
更に本発明によれば、撮像部34に関する情報から、被検体2の深さ方向の情報を取得することが可能となり、これに基づいて被検体2の深さ方向の傾向を分析するようにしてもよいことは勿論である。
【0065】
なお、上述した被検体損傷分析装置1では、光源11から発せられた光パルスをビームスプリッタ13により分離してそれぞれポンプ光、プローブ光を生成する場合を例にとり説明をしたが、これに限定されるものではない。例えば、図5に示すように、ポンプ光、プローブ光を別々の光源で発生させ、ビームスプリッタ13に相当する構成を省略するようにしてもよい。この構成では、ポンプ光を生成する光源11aと、プローブ光を生成する光源11bとを互いに独立して構成したものである。光源11a、11bを別々に設ける代わりに、ビームスプリッタ13に関する構成を省略する。
【0066】
光源11aから発せられた光は、NDフィルタ12aを通過してそのままポンプ光となる。また、光源11bから発せられた光は、NDフィルタ12bを通過し、反射板18へと到達し、そのままプローブ光となる。その後のポンプ光、プローブ光の経路は上述と同一である。なお、この光源11aと光源11bとは互いに同期等の各種調整がなされていることが前提となる。
【0067】
また、本発明では、第1の偏光素子36、第2の偏光素子30に関する構成を省略するようにしてもよい。即ち、ポンプ光とプローブ光との間で偏光方向を互いに異ならせることにより、プローブ光を精度よく検出する場合のみならず、受光素子31によりプローブ光を検出する上でポンプ光と混合しないように照射方向等を空間的に異ならせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 被検体損傷分析装置
2 被検体
11 光源
12 NDフィルタ
13 ビームスプリッタ
14、18、19 反射板
15 遅延時間調整部
20 反射板
22、23 集光レンズ
24 光チョッパー
26 ホルダー
27 XYステージ
28 レンズ
30 第2の偏光素子
31 受光素子
32 ロックインアンプ
33 PC
34 撮像部
35 1/2波長板
36 第1の偏光素子



【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに遅延時間が調整されたポンプ光及びプローブ光を被検体に照射する照射光学系と、
上記プローブ光が上記被検体から反射したプローブ信号を検出する信号検出手段と、
上記信号検出手段により検出された上記プローブ信号に基づいて上記被検体からの反射率を解析する反射率解析手段とを備え、
上記反射率解析手段は、上記反射率から電子励起とその緩和による反射率ピークの高さ及び/又は幅を同定し、予め入力されている損傷度合と反射率ピークの高さ及び/又は幅の相関情報を照合して、当該被検体の損傷度合を判別すること
を特徴とする被検体損傷分析装置。
【請求項2】
上記反射率解析手段は、上記プローブ光が被検体に照射された照射面積Sに対する損傷面積Sdを、上記反射率の上記遅延時間に対する変化量ΔR(t)と、予め入力されている被検体非損傷時の屈折率nと被検体損傷時の屈折率n’と、それぞれの屈折率の遅延時間に対する変化量Δn、Δn’とに基づいて求めること
を特徴とする請求項1記載の被検体損傷分析装置。
【請求項3】
上記反射率解析手段は、上記反射率から、光化学反応、電子励起、熱的反応の傾向をそれぞれ同定し、この同定した結果に基づいて損傷原因又は損傷メカニズムを分析すること
を特徴とする請求項1又は2記載の被検体損傷分析装置。
【請求項4】
上記プローブ光が上記被検体を透過した透過光を受光する透過光受光手段を更に備え、
上記反射率解析手段は、上記透過光受光手段により受光された透過光に関する情報に基づいて、更に上記被検体の深さ方向の傾向を分析すること
を特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項記載の被検体損傷分析装置。
【請求項5】
光パルスを発生させる光パルス発生手段と、
上記光パルス発生手段により発生された光パルスをポンプ光とプローブ光に分離する光分離手段と、
上記光分離手段により分離されたポンプ光とプローブ光との遅延時間を調整する遅延時間調整手段と、
上記ポンプ光に対する上記プローブ光の偏光方向を互いに直交する方向に制御する偏光制御手段とを更に備えること
を特徴とする請求項1〜4のうち何れか1項記載の被検体損傷分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−180039(P2011−180039A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45894(P2010−45894)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(592253736)シグマ光機株式会社 (46)
【Fターム(参考)】