説明

被測定物の肉厚非破壊検査方法およびその装置

【課題】特に炭素鋼のような透磁率が高い金属材であっても、交流電位差法による肉厚測定を可能とする。
【解決手段】金属材よりなる配管1(被測定物)の所定の検査領域2を跨る2点に電流注入電極11a,11bを配置し、交流定電流源41から電流注入電極11a,11bを介して配管1に測定用の交流定電流を注入した状態で、交流電圧計42により検査領域2内の電位差分布を求めて、検査領域2における配管1の肉厚を測定するにあたって、磁石50により検査領域2内を直流磁化して磁気飽和させ透磁率を下げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物(特には金属材よりなる配管)の肉厚非破壊検査方法およびその装置に関し、さらに詳しく言えば、特に炭素鋼のような透磁率が高い金属材であっても、交流電位差法による肉厚測定を可能とする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントや火力発電プラント、それに石油化学プラント等は、複数の装置同士を配管で連結して構成されるが、配管の内部を通る流体により、配管内が腐食あるいは侵食され肉厚が減少する場合がある。
【0003】
配管内の肉厚の減少は、大事故につながるおそれがあるため、早期に検知する必要がある。上記のような各種プラントは、通常、24時間連続運転されるため、配管の肉厚検査は非破壊検査によることになる。
【0004】
非破壊検法には、X線透過法,超音波探傷法等がよく知られている。X線透過法によれば、金属を被測定物とした場合、数10mmの厚板にも適用が可能であり、内部の二次元的あるいは三次元的な構造情報を得ることができる。また、超音波探傷法によれば、深い位置での欠陥が検出可能である。
【0005】
しかしながら、これらの検査方法は、測定個所に制限がある。例えば、多数の配管が入り組んでいる個所や、高所の配管個所などの作業者が容易に近づけない個所には適用が難しい。また、検査装置自体が高価である。
【0006】
これに対して、測定個所に制限がほとんどなく、比較的安価な構成で精度よく配管の肉厚を非破壊で検査し得る手法として電位差法がある(例えば、特許文献1参照)。電位差法の一例を図2により説明する。
【0007】
図2において、被測定物は例えば火力発電プラントに用いられる金属製の配管1で、この配管1の検査領域2にはあらかじめ複数本の測定端子が設けられる。この例では、16本の測定端子2a〜2pが4行×4列のマトリクス状に配置されている。
【0008】
配管1には、検査領域2の外側で検査領域2を跨るように一対の電流注入電極11a,11bが設けられる。測定電源には、直流定電流源10が用いられる。計測手段には、直流電圧計20が用いられる。
【0009】
図示が省略されているが、直流電圧計20の電圧測定電極20a,20bには、入力切替リレーを介して測定端子2a〜2pのうちの隣接する2つが選択的に接続される。このほかに、マイクロコンピュータ等からなる演算手段30と、表示部31とが用いられる。
【0010】
直流定電流源10より電流注入電極11a,11bを介して配管1に直流定電流を注入した状態で、上記入力切替リレーを介して例えば2a−2b,2b−2c,2c−2d,…のように隣接する2つの測定端子が順次直流電圧計20に接続され、これら測定端子間の電位差が測定される。
【0011】
肉厚が厚い部分では抵抗値が低く、減肉された肉厚の薄い部分の抵抗値は高くなることから、演算手段30は、直流電圧計20にて測定された電位差により検査領域2の電位差分布を求め、減肉個所と減肉量とを特定し、表示部31に表示する。
【0012】
このように、電位差法によれば、配管の検査領域にあらかじめ所定数の測定端子を設け、それら測定端子にリード配線を接続した状態で配管を敷設し、検査時には、各リード配線を入力切替リレーを介して直流電圧計20に接続すればよいため、測定個所に制限がほとんどなく、比較的安価な構成で精度よく配管の肉厚を非破壊で検査することができる。
【0013】
【特許文献1】特開2007−3235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、配管が炭素鋼等の抵抗値がきわめて低い金属材からなる場合、測定端子間の電位差もきわめて小さくなる。したがって、測定の際における熱起電力の影響が無視できない。
【0015】
この熱起電力の影響は、図2に示すように、直流定電流源10の両端に電流の向きを反転するスイッチ10a,10bを設けて、1回の測定につきスイッチ10a,10bを順方向側と逆方向側とに切り替えることによりキャンセルすることができる。
【0016】
しかしながら、これには余計なスイッチ切替回路が必要とされ、回路構成が複雑となるので好ましくない。また、スイッチを切り替える分、時間が長くかかる。
【0017】
この点に関し、測定源に交流定電流源を用いる交流電位差法にれば、熱起電力の問題は生じないが、特に炭素鋼のような透磁率が高い金属材の場合、表皮効果により電流が表面に集中し、内部には電流がほとんど流れないため、肉厚を測定することができない。
【0018】
したがって、本発明の課題は、特に炭素鋼のような透磁率が高い金属材であっても、交流電位差法による肉厚測定を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため、本発明の被測定物の肉厚非破壊検査方法は、金属材よりなる被測定物の所定の検査領域を跨る2点に電流注入電極を配置し、交流定電流源から上記電流注入電極を介して上記被測定物に測定用の交流定電流を注入した状態で、交流電圧計により上記検査領域内の電位差分布を求めて、上記検査領域における被測定物の肉厚を測定するにあたって、磁石により少なくとも上記検査領域内を直流磁化して磁気飽和状態とすることを特徴としている。本発明は、上記被測定物が炭素鋼よりなる配管に特に好ましく適用される。
【0020】
また、本発明の被測定物の肉厚非破壊検査装置は、金属材よりなる被測定物の所定の検査領域を跨る2点に配置される電流注入電極と、上記電流注入電極を介して上記被測定物に測定用の交流定電流を注入する交流定電流源と、一対の電圧測定電極を有し上記検査領域内の複数個所の電位差を測定する交流電圧計と、上記交流電圧計から得られる電位差の分布状態に基づいて上記検査領域における被測定物の肉厚を測定する演算手段とを備えている被測定物の肉厚非破壊検査装置において、少なくとも上記検査領域内を直流磁化して磁気飽和状態させる磁石をさらに備えることを特徴としている。上記磁石には、永久磁石が用いられてよいが、好ましくは電磁石が用いられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、磁石により被測定物の少なくとも検査領域内を直流磁化して磁気飽和状態とすることにより透磁率が下がり、交流電流を使用する際の浸透深さが深くなることから、特に被測定物が炭素鋼よりなる高透磁率の配管であっても、交流電位差法による肉厚測定が可能となる。
【0022】
また、磁石として電磁石を採用して検査領域に与える磁場の強弱を任意に可変とすることにより、被測定物の肉厚が厚い場合でも、確実に磁気飽和状態とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明の実施形態を図1により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1は本発明の交流電位差法による非破壊検査装置の構成例を示す模式図である。なお、この実施形態において、先の図2で説明した従来例と変更を要しない構成要素にはその参照符号をそのまま用いている。
【0024】
図1に示すように、この実施形態においても、被測定物は例えば火力発電プラントに用いられる金属製(高透磁率の炭素鋼製)の配管1で、この配管1の検査領域2にはあらかじめ複数本の測定端子が設けられる。
【0025】
この例においても、16本の測定端子2a〜2pが4行×4列のマトリクス状に配置される。なお、火力発電プラント用途の場合、配管1内には例えば高温高圧水が流されるため、その検査領域2には特に減肉が発生しやすい曲管部分などが選択される。
【0026】
配管1には、検査領域2の外側で検査領域2を跨るように一対の電流注入電極11a,11bが設けられる。上記測定端子2a〜2pおよび電流注入電極11a,11bは、配管1に対して圧接,溶接,圧着,接着等の接合手段にて接合されてよい。
【0027】
本発明において、測定電源には交流定電流源41が用いられ、交流定電流源41より電流注入電極11a,11bを介して配管1に交流の定電流が注入される。
【0028】
また、計測手段には、交流電圧計42が用いられる。交流電圧計42の電圧測定電極42a,42bには、図示しない入力切替リレーを介して測定端子2a〜2pのうちの隣接する2つが選択的に接続される。
【0029】
図1に示すように、電流注入電極11a,11bが配管1の軸線方向に沿って配置されている場合、測定端子2a〜2pは、上記入力切替リレーにより、行方向(上記軸線方向)に沿って隣接する2a−2b,2b−2c,2c−2d,…の順で交流電圧計42に接続される。
【0030】
これに対して、電流注入電極11a,11bは、配管1における検査領域2の周方向の両側(図1において、検査領域2の上側と下側)に配置されてもよく、この場合には、測定端子2a〜2pは、上記入力切替リレーにより、列方向(配管1の軸線とほぼ直交する方向)に沿って隣接する2a−2e,2e−2i,2i−2m,…の順で交流電圧計42に接続されることになる。
【0031】
本発明においても、上記の構成に加えて、上記従来例と同じく、マイクロコンピュータ等からなる演算手段30と、表示部31とが用いられる。表示部31には、好ましくは液晶パネル等の平面表示パネルが用いられるが、プリンタが採用されてもよい。
【0032】
配管1が例えば高透磁率の炭素鋼からなる場合、交流定電流源41から電流注入電極11a,11bを介して配管1に交流定電流(以下、単に「交流電流」ということがある。)を注入しても、表皮効果によりもっぱら交流電流は検査領域の表面のみを流れるため、肉厚測定をすることができない。
【0033】
この点を解決するため、本発明では、磁石50を用いる。磁石50は検査領域2に沿って配置される。磁石50は永久磁石であってもよいが、磁場の強弱を可変できる電磁石が好ましい。
【0034】
磁石50により、配管1中の少なくとも検査領域2を直流磁化して磁気飽和させる。磁気飽和させることにより透磁率が下がり、交流電流が配管1の肉厚内部にまで浸透して流れる。
【0035】
どの程度の深さ(肉厚の内部深さ)まで交流電流が流れるかは、浸透深さδをとして次式(1)により計算できる。
δ=√(ρ/πμf)……(1)
(式中、δ:浸透深さ[m],ρ:導体の抵抗率[s/m],μ:導体の透磁率[H/m],f:交流電流の周波数[Hz])
【0036】
上記式(1)によれば、浸透深さδが検査領域2の肉厚に相当する値となるように交流電流の周波数fを選択すればよいことが分かる。
【0037】
一例として、配管1が炭素鋼の場合、抵抗率:ρ=1.0×10−7[s/m]で、比透磁率:μr=5000[H/m]である。検査信号としての交流電流の周波数を10[Hz]とすると、真空の透磁率:4π×10−7[H/m]なので、浸透深さδは、上記式(1)により、δ=0.7[mm]となる。
【0038】
炭素鋼を磁気飽和させると、μr=1[H/m]となるため、浸透深さδは、δ=49.5[mm]となる。したがって、配管1の肉厚が10[mm]とすれば、十分な浸透深さδが得られる。配管1の肉厚がより厚い場合には、交流電流の周波数を低くすればよい。
【0039】
したがって、本発明では、磁石50により検査領域2を磁気飽和させて透磁率を下げた状態で、交流定電流源41より上記式(1)に基づいて選択される周波数f[Hz]の交流電流を電流注入電極11a,11bを介して配管1に注入する。
【0040】
そして、上記入力切替リレーにより、検査領域2内の測定端子2a〜2pを例えば2a−2b,2b−2c,2c−2d,…の順で交流電圧計42に接続して、各測定端子の電位差を測定し、演算手段30に与える。
【0041】
演算手段30は、検査領域2内の電位差の分布を求め、その分布データから減肉個所および減肉量を特定し、表示部31に表示する。
【0042】
本発明によれば、被測定物が炭素鋼等よりなる高透磁率の配管であっても、交流電位差法による肉厚測定が可能となる。また、交流電位差法であるため、直流電位差法で問題とされていた熱起電力による誤差をキャンセルするための電流方向切替スイッチ回路は不要である。
【0043】
また、同じ周波数でも、検査領域を磁気飽和させることにより、浸透深さを深くすることができるため、より厚い配管の減肉を見つけることが可能となる。さらには、浸透深さを深くするうえで高い周波数が好ましく選択されることにより、その分、測定時間の短縮がはかれる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の交流電位差法による非破壊検査装置の構成例を示す模式図。
【図2】従来例の直流電位差法による非破壊検査装置の構成例を示す模式図。
【符号の説明】
【0045】
1 配管(被測定物)
2 検査領域
11a,11b 電流注入電極
30 演算手段
31 表示部
41 交流定電流源
42 交流電圧計
42a,42b 電圧測定電極
50 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材よりなる被測定物の所定の検査領域を跨る2点に電流注入電極を配置し、交流定電流源から上記電流注入電極を介して上記被測定物に測定用の交流定電流を注入した状態で、交流電圧計により上記検査領域内の電位差分布を求めて、上記検査領域における被測定物の肉厚を測定するにあたって、
磁石により少なくとも上記検査領域内を直流磁化して磁気飽和状態とすることを特徴とする被測定物の肉厚非破壊検査方法。
【請求項2】
上記被測定物が炭素鋼よりなる配管であることを特徴とする請求項1に記載の被測定物の肉厚非破壊検査方法。
【請求項3】
金属材よりなる被測定物の所定の検査領域を跨る2点に配置される電流注入電極と、上記電流注入電極を介して上記被測定物に測定用の交流定電流を注入する交流定電流源と、一対の電圧測定電極を有し上記検査領域内の複数個所の電位差を測定する交流電圧計と、上記交流電圧計から得られる電位差の分布状態に基づいて上記検査領域における被測定物の肉厚を測定する演算手段とを備えている被測定物の肉厚非破壊検査装置において、
少なくとも上記検査領域内を直流磁化して磁気飽和状態させる磁石をさらに備えることを特徴とする被測定物の肉厚非破壊検査装置。
【請求項4】
上記磁石として電磁石が用いられることを特徴とする請求項3に記載の被測定物の肉厚非破壊検査装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−96504(P2010−96504A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264787(P2008−264787)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】