説明

被覆された多孔性無機粒子及びそれを用いた成形体

【課題】優れた断熱性と強度とを両立させた成形体を提供する。
【解決手段】けい酸カルシウム水和物結晶の多孔性凝集体の表面が熱硬化性樹脂で被覆された粒子及びこれを用いて得られる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材等の原料として有用な被覆された多孔性無機粒子及びそれを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
けい酸カルシウム成形体は、耐火性、断熱性及び強度に優れていることから広く建材として使用されている。けい酸カルシウム成形体の重要な特性は優れた断熱性にあり、建材だけでなく、工業用プラントにおける各装置の機器および配管類等においても広く使用されている。
【0003】
断熱材用途において、従来はマトリックス中にかさ密度の低い多孔性無機粒子等を添加することで、材料の空隙率を上げて、比重を小さくすることで熱伝導率を下げることが一般的であった。しかし、断熱性を上げるために、空隙率を上げると、材料は脆くなり、強度が低下してしまうため、限界があった。
【0004】
断熱性を向上させるための技術として、低熱伝導率の気体で発泡させた有機系発泡ビーズをけい酸カルシウム水和物結晶体に含有させた高断熱性成形体が既に知られている(特許文献1)。しかし、この成形体は、けい酸カルシウム水和物結晶体と有機系発泡ビーズとの混合成形であるため、有機系発泡ビーズの不均一分散や脱落が発生し、部分的な性能低下及びけい酸カルシウム水和物結晶体の比率が高いために、成形体の強度的脆さにも問題がある。
【0005】
一方、構成材料の低熱伝導率化手段としては、真空マイクロカプセル及びこれを用いた断熱材(特許文献2)がある。しかしこの断熱材は、カプセル強度に限界があり、単独での使用では強度的に問題があるため、補強用のガスシール性のある壁でカプセルを保護する必要がある。
また、多孔性無機粒子であるゾノトライトで樹脂を補強したゾノトライト強化ポリプロピレン組成物(特許文献3)も報告されている。この発明においてはゾノトライトの樹脂への混合により強度の増強効果は得られるが、組成物の大半が樹脂を占めているため、低熱伝導率は得られないという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−109079号公報
【特許文献2】特開2002−128906号公報
【特許文献3】特開平10−36598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、優れた断熱性と強度とを両立させた成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、けい酸カルシウム成形体の断熱性と強度を向上させるべく種々検討したところ、成形体の密度、けい酸カルシウム水和物結晶のサイズではなく、けい酸カルシウム水和物結晶の凝集体が有する多孔性に着目した。このけい酸カルシウム水和物結晶の凝集体をそのまま使用するのではなく、粒子の状態で、その表面を熱硬化性樹脂で被覆すれば、内部に独立孔を有したままの多孔性粒子が得られ、この多孔性粒子を成形すれば優れた断熱性と強度を両立した成形体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、けい酸カルシウム水和物結晶の多孔性凝集体の表面が熱硬化性樹脂で被覆された粒子を提供するものである。
また、本発明は、上記被覆粒子を含む組成物を成形して得られる成形体を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の被覆粒子は、内部に微細な独立孔を有し、かつ強度が高いため、これを成形して得られる成形体の熱伝導率は低下する。従って、本発明の被覆粒子を用いて成形された成形体は、優れた断熱性を有し、かつ強度も高いので、建材分野、プラント分野等における断熱材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ゾノトライト粒子の断面の走査電顕写真(上段)及びその断面の炭素分析結果を示す図である。
【図2】本発明の被覆ゾノトライト粒子の断面の走査電顕写真(上段)及びその断面の炭素分析結果を示す図である。
【図3】ゾノトライト粒子の細孔分布を示す図である。
【図4】本発明の被覆ゾノトライト粒子の細孔分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の被覆粒子は、けい酸カルシウム水和物結晶の多孔性凝集体の表面が、熱硬化性樹脂で被覆された粒子である。けい酸カルシウム水和物結晶は、常法、例えばけい酸質原料と石灰質原料とを水中に分散させたものを水熱反応させることにより製造できる。代表的なけい酸質原料はけい石粉であり、代表的な石灰質原料は消石灰又は生石灰である。代表的なカルシウム水和物結晶は、ゾノトライトとトバモライトであるが、ゾノトライトを製造する場合には、前記原料のCaO成分とSiO2成分とのモル比(C/S)を0.9〜1.3とし、水/固形分比(質量比)10〜35で混合撹拌し、オートクレーブ中170〜210℃、0.8〜2.0MPaの飽和水蒸気圧下で、4〜20時間水熱反応させることにより製造することができる。また、トバモライトを製造する場合には、C/Sを0.3〜1.2とし、水/固形分比(質量比)8〜25で混合撹拌し、オートクレーブ中140〜210℃、0.4〜2.0MPaの飽和水蒸気圧下で、1〜12時間水熱反応させることにより製造することができる。
【0013】
けい酸カルシウム水和物結晶の種類は特に限定されないが、代表的なものとしては、前記ゾノトライトとトバモライトがあり、本発明においては、耐熱性の点からゾノトライトがより好ましい。針状のゾノトライト結晶の多孔性凝集体は、前記水熱反応中において、撹拌することにより得ることができる。
【0014】
けい酸カルシウム水和物結晶の多孔性凝集体は、多孔性の点から、窒素吸着によるBET比表面積が40m2/g以上であるのが好ましい。また、けい酸カルシウム水和物結晶の多孔性凝集体は、得られる成形体の熱伝導性を低くし、良好な断熱性を確保する点から、0.01〜0.30μmの孔、特に0.01〜0.06μmの孔を有するのが好ましい。孔の有無及び孔径は窒素吸着による細孔分布および走査型電子顕微鏡により判定及び測定することができる。
【0015】
また、けい酸カルシウム水和物結晶の凝集体の粒子径は、30〜130μm、特に30〜80μmであるのが好ましい。この粒子径はレーザー回折型粒度分布測定機により測定できる。
【0016】
本発明における被覆粒子の被覆材料である熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられるが、これらの中でもエポキシ樹脂が力学的性質および耐熱性、耐湿・耐水性の点で好ましい。
【0017】
本発明被覆粒子中の熱硬化性樹脂の含有量(被覆量)は、被覆粒子中15〜50質量%、特に30〜50質量%が好ましい。熱硬化性樹脂の含有量が少ないと十分な粒子の補強効果が得られず、多すぎると固体伝熱の影響が大きくなり、熱伝導率の低減効果が十分でなくなる。
【0018】
熱硬化性樹脂の被覆手段は、特に限定されず、前記の多孔性凝集体粒子表面に均一に熱硬化性樹脂含有液を付着させた後、硬化させればよい。より具体的には、多孔性凝集体粒子表面に硬化剤を均一に付着させておき(分散液)、一方、熱硬化性樹脂の均一溶液を作成しておき、当該均一溶液中に多孔性凝集体粒子分散液を添加して、多孔性凝集体粒子表面上で硬化反応させることにより得られる。さらに詳細には、前記多孔性凝集体粒子を硬化剤を溶解した溶液に浸漬後、その溶液を粒子内部に担持した粒子又は溶媒のみを蒸発除去した粒子を作製する工程と、得られた多孔性凝集体粒子を、熱硬化性樹脂及び界面活性剤を溶解した油相中に添加・混合した後、攪拌しながら所定の温度に昇温し、所定の時間硬化反応させる工程と、前記硬化反応で得られた被覆粒子分散相である油相を溶媒で洗浄、置換し、乾燥により溶媒を除去することで被覆粒子の粉体を得る工程とにより得られる。
【0019】
得られた本発明の被覆粒子は、粒子内部に原料粒子とほぼ同じ孔を有するのが好ましい。すなわち、被覆粒子の内部には、0.01〜0.30μm、さらに0.01〜0.06μmの独立孔を有するのが好ましい。また窒素吸着によるBET比表面積が5〜30m2/g、特に5〜15m2/gであるのが好ましい。
【0020】
本発明の被覆粒子は、その表面が熱硬化性樹脂で被覆されているため、強度が向上しており、3〜7mN、特に5〜7mNの圧縮破壊荷重を有するのが好ましい。ここで圧縮破壊荷重は微小圧縮試験機により測定できる。
【0021】
得られる本発明被覆粒子の総発熱量は、不燃性の点から、8.0MJ/m2以下であるのが好ましい。ここで発熱量は示差走査熱量計により測定できる。
【0022】
本発明の被覆粒子は、粒子内部に微細な独立孔を有するとともに熱硬化性樹脂で被覆されていることから強度が顕著に向上している。従って、この被覆粒子を含有する組成物を成形して得られる成形体は、優れた断熱性と優れた強度を有するため断熱性成形体として有用である。
【0023】
本発明成形体の原料としては、本発明被覆粒子以外に例えば、けい酸カルシウム水和物結晶体、繊維、充填材等を用いることができる。本発明被覆粒子100質量部に対して、けい酸カルシウム水和物結晶体20〜70質量部、繊維1〜10質量部、充填材10〜50質量部を添加することができる。
【0024】
繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、ビニロン繊維、ロックウール等が挙げられ、充填材としては、炭酸カルシウム、珪砂、クレー等が挙げられる。さらに成形体の表面に、無機、有機系塗料を塗布することによって表面を改質することもできる。
【0025】
成形方法としては、例えば乾式又は湿式プレスによる圧縮成形等が挙げられる。得られる本発明成形体の熱伝導率は、例えばかさ密度0.30〜0.50g/cm3の成形体とした場合に0.03〜0.07W/m・Kである。
ここで熱伝導率は非定常熱線法、レーザーフラッシュ法等により測定できる。
【0026】
また、本発明成形体の曲げ強度は、0.1〜0.5N/mm2、特に0.3〜0.5N/mm2であるのが好ましい。
【実施例】
【0027】
次に実施例及び比較例を挙げて、本発明を詳細に説明する。
【0028】
以下の実施例及び比較例において述べる粒子の物性評価は下記の方法に従って行った。
(1)粒子断面組成分析
粒子の断面を走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置にて分析する。
(2)粒子有機質含有量の測定
示差熱熱重量同時測定装置により、粒子に含まれる有機質量を測定する。
(3)粒子発熱量の測定
示差走査熱量測定装置より、粒子の発熱量を求める。
(4)粒子圧縮破壊荷重の測定
微小圧縮試験機により、粒子の圧縮破壊荷重を測定する。
(5)粒子熱伝導率の測定
粒子を乾式プレスにより成形し、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置又は熱線法熱伝導率測定装置により熱伝導率を求める。
(6)粒子比表面積の測定
窒素吸着によるBET比表面積測定装置により、粒子の比表面積を求める。
(7)粒子細孔径分布の測定
窒素吸着によるBET比表面積測定装置により、粒子の細孔分布を求める。
【0029】
実施例1
(1)ゾノトライト粒子の作製
石灰質原料として生石灰(太平洋セメント(社)製、CaO純度96.2%)322.0g、けい酸質原料としてシリカ70(敦賀セメント(社)製、SiO純度96.3%)344.6gを60℃に加温した10kgの水中に攪拌しながら投入した。5分間攪拌後、内容積17Lの攪拌式オートクレーブに移し、攪拌機の回転数300rpmで攪拌しながら、保持温度204℃まで、2時間30分かけて一定に昇温し、その後回転数を230rpmに下げて保持温度204℃で6時間30分保持して水熱合成反応を行った。その後、12時間以上かけて自然放冷し、ゾノトライトスラリーを得た。
続いてゾノトライトスラリーを吸引脱水ろ過し、ケーキ状のろ物を105℃で24時間乾燥することで、平均粒子径70μmのゾノトライト粒子結晶体を得た。
【0030】
(2)被覆ゾノトライト粒子の作製
ゾノトライト粒子4.0gを、エポキシ樹脂の硬化剤であるイミダゾール4.0gを溶解したエタノール20gに浸漬し、エタノール溶液を粒子内部に担持した粒子の分散液として準備する。
続いて、1Lのフラスコへコーン油(和光純薬工業(社)製)520gを投入した後、エポキシ樹脂JER815(ジャパンエポキシレジン(社)製)8g及び界面活性剤Span80(和光純薬工業(社)製)6.0gを添加し、80℃に昇温して溶解させた。この溶液を攪拌した状態で、上記の分散液を滴下・混合し、6時間硬化反応を行い、被覆ゾノトライト粒子分散した油相を得た。
続いて、この油相をヘキサンで洗浄、置換した後、80℃で24時間乾燥することで、被覆ゾノトライト粒子を得た。
【0031】
実施例2〜3
被覆ゾノトライト粒子の作製において、エポキシ樹脂量を変えた以外は実施例1と同様に作製した被覆ゾノトライト粒子を作製した。粒子の物性試験結果を表1に示す。また、熱伝導率については、粒子をかさ密度0.3g/cm3にプレス成形したものを測定用試料とした。
【0032】
比較例1
実施例1(1)で得たゾノトライト粒子を比較例1とした。粒子の物性試験結果を表1に示す。また、熱伝導率については、粒子をかさ密度0.3g/cm3にプレス成形したものを測定用試料とした。
【0033】
【表1】

【0034】
以上で述べた実施例及び比較例から、本発明によって提供される被覆ゾノトライト粒子は、従来のゾノトライト粒子単体、又はポリマー単体では成しえなかった、低発熱性、強度の両立、及び低熱伝導性を得ることが可能である。
【0035】
比較例1及び実施例3の粒子の断面の走査電子顕微鏡写真を図1及び図2に示す。図1及び図2の対比から明らかなように、本発明被覆粒子はその内部に0.01〜0.30μmの独立孔を有し、かつその表面において炭素が検出され、当該炭素は樹脂に由来することから、熱硬化性樹脂で被覆されていることが分かる。
【0036】
また、比較例1及び実施例3の粒子の細孔分布を図3及び図4に示す。図3及び図4から明らかなように、本発明被覆粒子表面において、0.002〜0.030μmの細孔が大幅に減少したことから、粒子表面が熱硬化性樹脂で被覆された状態で、内部に独立孔が残っていることが推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
けい酸カルシウム水和物結晶の多孔性凝集体の表面が熱硬化性樹脂で被覆された粒子。
【請求項2】
けい酸カルシウム水和物の結晶が、針状のゾノトライト結晶体である請求項1記載の被覆粒子。
【請求項3】
熱硬化性樹脂の含有量が被覆粒子中15〜50質量%である請求項1又は2記載の被覆粒子。
【請求項4】
窒素吸着によるBET比表面積が5〜30m2/gであり、被覆粒子の内部に0.01〜0.30μmの独立孔を有する請求項1〜3のいずれか1項記載の被覆粒子。
【請求項5】
3〜7mNの圧縮破壊荷重を有する請求項1〜4のいずれか1項記載の被覆粒子。
【請求項6】
かさ密度0.30〜0.50g/cm3の成形体とした場合に0.03〜0.07W/m・Kの熱伝導率を有するものである請求項1〜5記載の被覆粒子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の被覆粒子を含む組成物を成形して得られる成形体。
【請求項8】
断熱性成形体である請求項7記載の成形体。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−235691(P2010−235691A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82905(P2009−82905)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(000126609)株式会社エーアンドエーマテリアル (99)
【Fターム(参考)】