説明

被覆方法

【課題】ボルト接合部を有する鉄骨部材において、ボルト接合部領域の劣化を防止し、耐水性、耐久性、耐熱性を高めることが可能な被覆方法を提供する。
【解決手段】被覆方法は、ボルト接合部を有する鉄骨部材において、ボルト接合部領域に対して、耐熱性、耐久性を高めるための合成樹脂と、脱水冷却効果、不燃性ガス発生効果、炭化促進効果等を発揮するリン化合物を含む樹脂組成物を塗付し被膜(X)8を形成した後、ボルト接合部への結露水等の浸入防止、およびボルト接合部の動きに伴う被覆の割れ、剥離等を抑制する弾性被覆材(Y)9を積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な被覆方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物、土木建築物の柱や梁等の構造として、ボルト接合部が採用された鉄骨部材を使用した構造物がある。ボルト接合部は、通常ボルト、ナット及び必要に応じ座金からなる。このような構造物において、ボルト接合部は、耐熱性に劣る場合があり、火災時等の高温に晒された場合、機械的強度が低下するという問題があった。
【0003】
これに対して、特許文献1には、複数のボルト接合部を含むボルト接合部領域において、各ボルト・ナット(および座金)の突出した部分を局部的に熱遮蔽体で被覆する方法が記載されている。特許文献1の手法によれば、熱遮蔽された部位を部分的に熱輻射から遮蔽することができ、ボルト接合部に起因する鉄骨構造物全体の高温強度の低下を補うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3954882号公報
【0005】
しかしながら、ボルト接合部領域は形状が複雑であるため、ボルトどうしの間に水が溜まりやすく、場合によっては結露を生じることがある。これによりボルト接合部領域は、錆が発生しやすく、劣化するおそれがあり、火災時等の高温に晒された場合、機械的強度が著しく低下するおそれがある。
特許文献1のように、ボルト接合部を熱遮蔽体により、部分的に被覆する方法では、ボルトどうしの間で劣化しやすく、耐熱性が不十分となるおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたものであり、ボルト接合部を有する鉄骨部材において、ボルト接合部領域の劣化を防止し、耐水性、耐久性、耐熱性を高めることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行なった結果、ボルト接合部領域に対する特定の被覆方法に想到し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の被覆方法は、下記の特徴を有するものである。
1.ボルト接合部を有する鉄骨部材の被覆方法であって、ボルト接合部領域に対して、合成樹脂及びリン化合物を含む樹脂組成物を塗付し、被膜(X)を形成する工程、次いで、該被膜(X)の上に弾性被覆材(Y)を積層する工程、を含むことを特徴とする被覆方法
2.上記合成樹脂及びリン化合物を含む樹脂組成物が、合成樹脂として、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び芳香族モノマーを含むモノマー群の重合体であり、重合平均分子量が50,000以上である合成樹脂を含むことを特徴とする1.に記載の被覆方法
【0009】
本発明は、ボルト接合部を有する鉄骨部材の被覆方法であり、ボルト接合部領域の劣化を防止し、優れた、耐水性、耐久性、耐熱性を発揮することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ボルト接合部を有する鉄骨部材の一例である。
【図2】本発明の被覆方法の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ボルト接合部を有する鉄骨部材の被覆方法に関するものであり、
ボルト接合部領域に対して、合成樹脂及びリン化合物を含む樹脂組成物を塗付し、被膜(X)を形成する工程、次いで、該被膜(X)の上に、弾性被覆材(Y)を積層する工程、を含むことを特徴とするものである。
なお、本発明では、ボルト、ナット及び必要に応じて座金を総じて「ボルト」と言う。ボルト接合部とは、一組のボルトで鉄骨部材が固定された部分(図1(A)−2)である。ボルト接合部領域とは、複数のボルト接合部及びその周辺を含む領域であり、接合対象物から外面側にボルトが突出した部分を含む領域(図1(A)−3)である。ボルト接合部領域には、図1に示すように、通常各種の接合部材(スプライスプレート、スプリットティ、エンドプレート、フランジプレート等)が用いられる(図1(B)−6)。本発明では、ボルト接合部領域として、少なくともこのような接合部材を含む領域を対象にすることが望ましい。
【0012】
ボルト接合部を有する鉄骨部材としては、例えば、鉄骨構造物において柱と梁、柱と柱、梁と梁、等の鉄骨部材を、ボルト等を用いて接合(ボルト接合、高力ボルト接合等)したものが挙げられる。
【0013】
<被膜(X)>
本発明では第(I)工程として、ボルト接合部領域に対して、合成樹脂及びリン化合物を必須成分として含む樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」ともいう)を塗付し、ボルト接合部領域全体を被覆するように被膜(X)を形成する(図2)。これにより、火災時等の高温に晒された場合、耐熱性を発揮し、ボルト接合部領域の劣化防止性、耐久性、耐熱性を向上させることができる。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、(a)合成樹脂(以下、「(a)成分」ともいう)、及び(b)リン化合物(以下、「(b)成分」ともいう)を必須成分として含むものである。
【0015】
(a)合成樹脂
(a)成分としては、公知の合成樹脂を使用することができる。例えば、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、石油樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、プロピレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンゴム等の有機質結合剤が挙げられる。これらは1種又は2種以上で使用することができる。
【0016】
本発明では特に、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び芳香族モノマーを含むモノマー群の重合体であり、重量平均分子量が50,000以上である合成樹脂(a−1)(以下「(a−1)成分」という)を用いることが好ましい。本発明では、このような(a−1)成分を用いることにより、耐熱性、耐久性を高めることができる。その作用機構は明確ではないが、概ね以下の点が寄与しているものと推定される。
・上記特定組成及び特定重量平均分子量の合成樹脂を用いることにより、リン化合物等の粉体成分の分散性が高まるとともに、樹脂によって粉体成分が覆われる。粉体成分には適度な疎水性が付与され、外部からの水等に対する抵抗性が高まる。これら相乗作用によって、耐久性が向上する。
・合成樹脂が特定の重量平均分子量を有し、さらに芳香族モノマーによる共役不飽和環構造が有効に作用することで、加熱時に多孔質炭化層が形成され、耐熱性が向上する。
【0017】
(a−1)成分は、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び芳香族モノマーを含むモノマー群を重合することにより得られる。重合方法としては、公知の方法を採用することができる。
アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。この中でも特に、アルキル基の炭素数4〜8のものが好適である。なお、本発明では、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルを合わせて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと表記する。
【0018】
芳香族モノマーとしては、例えば、スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
モノマー群における上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと芳香族モノマーの重量比率は、好ましくは80:20〜20:80、より好ましくは70:30〜30:70である。両者の比率がこのような範囲内であれば、本発明の効果発現の点で好適である。
【0019】
(a−1)成分におけるモノマー群には、上記以外のモノマー成分を混合することもできる。(a−1)成分としては特に、上記モノマーに加え、カルボキシル基含有モノマーを含むモノマー群の重合体が好適である。この場合、(a−1)成分の酸価は、好ましくは0.5〜15mgKOH/g、より好ましくは1〜10mgKOH/gである。本発明では、このような(a−1)成分を用いることにより、耐熱性を保持しつつ、耐久性を高めることができる。この効果には、粉体成分の分散性向上作用が寄与しているものと推定される。
【0020】
カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸またはそのモノアルキルエステル、イタコン酸またはそのモノアルキルエステル、フマル酸またはそのモノアルキルエステル等が挙げられる。このうち、特にアクリル酸、メタクリル酸から選ばれる1種以上が好適である。
なお、合成樹脂の酸価は、固形分1gに含まれる酸基と等モルの水酸化カリウムのmg数によって表される値である。
【0021】
(a−1)成分の重量平均分子量は、通常50,000以上であり、好ましくは50,000〜200,000、より好ましくは60,000〜100,000である。(A)成分の重量平均分子量がこのような範囲内であることにより、耐熱性、耐久性の両面において好適な効果を得ることができる。重量平均分子量が小さすぎる場合は、耐久性が不十分となりやすい。一方、重量平均分子量が大きすぎる場合は、耐熱性が不十分となりやすく、耐久性が不利となる場合もある。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定し、ポリスチレン換算で算出した値である。
【0022】
(b)リン化合物
(b)成分は、温度上昇時において脱水冷却効果、不燃性ガス発生効果、炭化促進効果等の少なくとも1つの効果を発揮するものであり、多孔質炭化層の形成、耐熱性の発揮に不可欠な成分である。(b)成分としては、例えば、トリクレジルホスフェート、ジフェニルクレジルフォスフェート、ジフェニルオクチルフォスフェート、トリ(β−クロロエチル)フォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリ(ジクロロプロピル)フォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリ(ジブロモプロピル)フォスフェート、クロロフォスフォネート、ブロモフォスフォネート、ジエチル−N, N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチルフォスフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ヒドロキシメチルフォスフォネート、三塩化リン、五塩化リン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン化合物等が挙げられる。このうち、本発明では特にポリリン酸アンモニウムが好ましい。これらリン化合物としては、未被覆品を使用することができるが、被覆処理品等を用いることもできる。
【0023】
(b)成分は、上記(a)成分100重量部に対し、通常150〜1000重量部、好ましくは200〜800重量部、より好ましくは250〜600重量部含まれる。本発明では、このように(b)成分が比較的高比率で含まれる場合であっても、十分な耐久性を確保することができる。(b)成分が少なすぎる場合は、耐熱性が不十分となる。(b)成分が多すぎる場合は、実用的な耐久性の確保が困難となる。
【0024】
本発明では、上記(b)成分に加え、多価アルコール化合物(c)(以下、「(c)成分」ともいう)、含窒素化合物(d)(以下、「(d)成分」ともいう)、充填材(e)(以下、「(e)成分」ともいう)から選ばれる1種以上の粉体成分を含むことが好ましい。このような成分を含むことにより、耐熱材として一層好適な多孔質炭化層を形成することが可能となる。本発明では特に、粉体成分として、リン化合物(b)、多価アルコール化合物(c)、含窒素化合物(d)を含むものが好ましく、これらに加えさらに充填材(e)を含むものがより好ましい。
【0025】
多価アルコール(c)としては、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ネオペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、イノシトール、マンニトール、グルコースフルクトース、デンプン、セルロース等が挙げられる。(c)成分の混合比率は、合成樹脂(a)100重量部に対し、好ましくは5〜600重量部、より好ましくは10〜400重量部である。
【0026】
含窒素化合物(d)としては、メラミン及びその誘導体、ジシアンジアミド及びその誘導体、アゾビステトラゾール及びその誘導体、アゾジカーボンアミド、尿素、チオ尿素等が挙げられる。(d)成分の混合比率は、合成樹脂(d)100重量部に対し、好ましくは5〜600重量部、より好ましくは10〜400重量部である。
【0027】
充填材(e)としては、例えば、タルク等の珪酸塩;炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩;酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物;粘土、クレー、シラス、マイカ、シリカ等の天然鉱物類等が挙げられる。この中でも特に、金属酸化物が好適である。(e)成分の混合比率は、合成樹脂(a)100重量部に対し、好ましくは5〜600重量部、より好ましくは10〜400重量部である。
【0028】
粉体成分としては、上記成分以外に、膨張性黒鉛、未膨張バーミキュライト等の膨張性物質、着色顔料、難燃剤等を混合することもできる。また、本発明の樹脂組成物には、上記以外の成分として、各種添加剤等を配合することもできる。このような添加剤としては、例えば増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、滑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、繊維、触媒等が挙げられる。
本発明の樹脂組成物は、以上のような成分を常法により均一に混合することで製造することができる。混合時には、必要に応じ溶剤を混合したり、加熱したりすることも可能である。
【0029】
<弾性被覆材(Y)>
本発明では第(II)工程として、第(I)工程で被覆された被膜(X)の上に、弾性被覆材(Y)を積層する。これにより、ボルト接合部領域に水が溜まったり、結露が生じた場合でも、被膜(X)への水の侵入を防ぐことができるとともに、ボルト接合部(及びボルト接合部領域)の動きに伴う被膜の割れ、剥離等を抑制することができ、本発明の効果を長期にわたり維持することができる。
【0030】
弾性被覆材(Y)としては、外部からの水の侵入を防ぎ、被膜(X)の効果を阻害しないものであればよく、特に本発明では、樹脂成分及び顔料を含む弾性被覆材を使用することが好ましい。このような弾性被覆材としては、20℃雰囲気下での伸び率が50〜800%、好ましくは120〜500%であり、透水量が0.5ml/24h以下である被膜を形成するものが好ましい。このような範囲である場合、ボルト接合部(及びボルト接合部領域)の変位に追従でき、弾性被覆材の表面へのクラック発生を十分に防止することができる。さらに、外部から水の侵入を確実に防止することができる。
なお、本発明における伸び率は、JIS A 6909 7.29「伸び試験」の「20℃時の伸び試験」、透水量は、JIS
A 6909 7.12 「透水試験B法」に準じて測定される値である。
【0031】
上記の弾性被覆材としては、JIS A6021 建築用塗膜防水材に規定されるような塗膜防水材や、JIS A6909 建築用仕上塗材のうち防水形複層塗材E、防水形複層塗材RE及び防水形複層塗材RS等に規定される塗材が挙げられる。例えば、JIS
A6021 建築用塗膜防水材としては、アクリルゴム系、クロロプレンゴム系、ウレタンゴム系の塗膜防水材が挙げられる。また、JIS A6909 建築用仕上塗材の防水形複層塗材Eとしては、アクリル系、酢酸ビニル系などの合成樹脂エマルションの単体または混合物を結合材とする合成樹脂エマルション系複層塗材の防水形のもの、防水形複層塗材RSとしは、エポキシ系、ウレタン系などの反応硬化形溶剤系樹脂の単体または混合物を結合材とする合成樹脂溶液系複層塗材の防水形のもの、防水形複層塗材REとしては、エポキシ系等の反応硬化形合成樹脂エマルションを結合材とする反応硬化形合成樹脂エマルション系複層塗材の防水形のものが挙げられる。
【0032】
また、上記弾性被覆材は、顔料容積濃度(以下、「PVC」という。)が好ましくは20〜70%、より好ましくは30〜65%、さらに好ましくは35〜60%の被膜を形成するものである。PVCが、このような範囲であることにより、追従性、耐熱性、耐久性に優れ、本発明の効果を十分に発揮することができる。
さらに、上記弾性被覆材の粘度が、好ましくは3〜120Pa・s、さらに好ましくは5〜100Pa・sであり、チクソトロピーインデックス(TI値)が好ましくは2〜7、さらに好ましくは3〜6である。このような場合、ボルト接合部領域におけるボルトのエッジ部分やボルトどうしの間等の複雑な形状において、優れた施工性を発揮し、効率的に被膜を形成することができる。
【0033】
なお、ここで言う粘度とは、測定機器としてBH型粘度計を使用し、その回転数を20rpm、測定温度を23℃とした場合の測定値(回転目の指針値)である。また、TI値とはBH型粘度計を用い、次式(式1)により求められる値である。
TI値=η1/η2
(式1)
但し、η1:2rpmにおける粘度(Pa・s:2回転目の指針値)、η2:20rpmにおける粘度(Pa・s:4回転目の指針値)
【0034】
<被覆方法>
本発明のボルト接合部を有する鉄骨構造体の被覆方法は、少なくとも以下の2工程を含むものである。この方法によれば、ボルト接合部において優れた耐水性、耐久性、耐熱性を発揮することができる。
(I)ボルト接合部領域に対して合成樹脂及びリン化合物を含む樹脂組成物を塗付し、被膜(X)を形成する工程、
(II)次いで、該被膜(X)の上に弾性被覆材(Y)を積層する工程
【0035】
本発明では、本発明の効果を阻害しない限り、上記(I)工程の前に、ボルト接合部領域に対して、防錆下塗材を塗付することもできる。防錆下塗材としては、公知のものが使用できる。
【0036】
上記(I)工程においては、ボルト接合部領域に対して、樹脂組成物を均一に塗付し被膜(X)を形成する。被膜(X)の厚みは、適用部位用等に応じて適宜設定すれば良いが、好ましくは0.2〜10mm、より好ましくは0.5〜6mm程度である。
被膜(X)を形成することにより、火災時等の高温に晒された場合に、優れた耐熱性を発揮することができる。
【0037】
上記(I)において、樹脂組成物を塗付する際には、例えば、スプレー、ローラー、こて、刷毛塗り、等の手段を用いた方法を採用することができる。また、樹脂組成物を乾燥させる際には、通常常温で行えばよい。
【0038】
上記(II)において、被膜(X)の上に、弾性被覆材(Y)を積層する方法としては、例えば、被膜(X)に対し、少なくとも弾性被覆材を塗装すればよい。弾性被覆材の厚みは、適用部位用等に応じて適宜設定すればいいが、乾燥膜厚が好ましくは0.3〜2mm、より好ましくは0.5〜1.5mm程度である。
【0039】
また、必要に応じ中塗層を設けることができる。このような中塗層を用いる場合、被膜(X)に、中塗材を積層した後、上記弾性被覆材を積層する。このような中塗材としては、被膜(X)の効果を阻害しないものであれば特に限定されず、例えば、アクリル、ウレタン、エポキシ、塩素化ポリオレフィン系等の溶剤系中塗材や、水性系中塗材等が使用できる。中塗層の厚みは、適宜設定すればよい。
【0040】
さらに、弾性被覆材(Y)として、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内であれば、表面保護性、意匠性等を高める目的で、上記弾性被覆材に仕上層を設けることが望ましい。このような仕上材としては、上記弾性被覆材に密着可能であれば特に限定されないが、例えば、JIS
K 5654「アクリル樹脂エナメル」、JIS K 5656「建築用ポリウレタン樹脂塗料」、JIS K 5658「建築用ふっ素樹脂塗料」、JIS K 5660「つや有合成樹脂エマルションペイント、JIS
K 5663「合成樹脂エマルションペイント」、JIS K 5667「多彩模様塗料」、JIS K 5668「合成樹脂エマルション模様塗料」等があげられるが、ある程度の弾性を有していることが望ましい。仕上材の厚みは、適宜設定すればよい。
【0041】
以上のように、中塗材、弾性被覆材、仕上材の各塗材を塗付する際には、上記樹脂組成物の塗付方法と同様の手段を用いた方法を採用することができる。また、各塗材を乾燥させる際には、通常常温で行えばよい。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0043】
<樹脂組成物>
原料としては以下のものを使用した。
・合成樹脂1:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=17:83、重量平均分子量68000、酸価3mgKOH/g)
・合成樹脂2:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=33:67、重量平均分子量76000、酸価3mgKOH/g)
・合成樹脂3:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=44:56、重量平均分子量74000、酸価3mgKOH/g)
・合成樹脂4:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=60:40、重量平均分子量79000、酸価3mgKOH/g)
・合成樹脂5:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=82:18、重量平均分子量66000、酸価3mgKOH/g)
・合成樹脂6:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=44:56、重量平均分子量95000、酸価3mgKOH/g)
・合成樹脂7:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=44:56、重量平均分子量72000、酸価7mgKOH/g)
・合成樹脂8:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=44:56、重量平均分子量71000、酸価1mgKOH/g)
・合成樹脂9:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=44:56、重量平均分子量69000、酸価20mgKOH/g)
・合成樹脂10:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=44:56、重量平均分子量70000、酸価0mgKOH/g)
・合成樹脂11:アクリルスチレン樹脂
(Ac:St=44:56、重量平均分子量28000、酸価3mgKOH/g)
・合成樹脂12:アクリル樹脂
(Ac:St=100:0、重量平均分子量67000、酸価3mgKOH/g)
・リン化合物:ポリリン酸アンモニウム
・多価アルコール:ジペンタエリスリトール
・窒素化合物:メラミン
・充填材:酸化チタン
なお、合成樹脂1〜12におけるAcは(メタ)アクリル酸アルキルエステル、Stはスチレンを示す。合成樹脂1〜11では、Acとしてイソブチルメタクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートを含む。合成樹脂12では、Acとしてメチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートを含む。合成樹脂10以外の各合成樹脂には、メタクリル酸が共重合されている。
【0044】
(樹脂組成物1)
合成樹脂1を100重量部、リン化合物400重量部、多価アルコール75重量部、含窒素化合物75重量部、充填材90重量部を混合し、キシレンを加えて各成分が均一になるように十分攪拌し、樹脂組成物1を得た。
【0045】
(樹脂組成物2〜12)
合成樹脂1に代えて、合成樹脂2〜12を使用した以外は、樹脂組成物1と同様にしてそれぞれ樹脂組成物2〜12を得た。
【0046】
<弾性被覆材>
(弾性被覆材1)
JIS A 6909防水形複層塗材E 主材(PVC42%、粘度45Pa・s、TI値3.6、伸び率320%、透水度0.1ml/24h未満)
(弾性被覆材2)
JIS A 6909防水形複層塗材E 主材(PVC58%、粘度40Pa・s、TI値3.4、伸び率210%、透水度0.1ml/24h未満)
【0047】
(試験例1)
ボルト接合部を有する鉄骨構造体として、鋼板(150mm×300mm×1.6mm)にボルトを50mm間隔で取り付けた基材を用いた。なお、鋼板からボルト頭部までの高さは20mmである。
上記ボルト接合部領域に対して、樹脂組成物1を乾燥膜厚が約1mmとなるようにスプレー及び刷毛で塗布し、温度20℃・相対湿度65%下で7日間乾燥させた。
次いで、弾性被覆材1を乾燥膜厚が約0.5mmとなるように塗装を行い、温度20℃・相対湿度65%下で7日間乾燥させたものを試験体とした。試験体について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0048】
・評価1(防錆性試験)

試験体に対し、JIS K 5400:1990 9.1に記載の方法で、120時間、耐塩水噴霧試験を行った。評価は、以下に示す通りである。
A:塗膜の膨れ・はがれが見当たらず、錆の発生も見当たらなかった。
B:錆の発生がほとんど見当たらなかった。
C:錆の発生が一部見られた。
D:塗膜の膨れ・はがれが見られ、錆の発生が見られた。
【0049】
・評価2(加熱試験)
試験体1の樹脂組成物被膜面側に600℃のヒーターを設置し、15分間加熱した後の被膜の状態(膨張性、緻密性)を観察した。評価は、以下に示す通りである。
(膨張性)
A:加熱後の厚みが20倍以上
B:加熱後の厚みが10〜20倍未満
C:加熱後の厚みが10倍未満
(緻密性)
A:多孔質炭化層の内部が緻密
B:多孔質炭化層の内部一部に空洞が認められた
C:多孔質炭化層の内部に空洞が多数認められた
【0050】
(試験例2〜14)
次いで、表1に示す樹脂組成物及び弾性被覆材を使用して、試験例1と同様に試験体を作製し、得られた試験体について、試験例1と同様の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【符号の説明】
【0052】
1…ボルト接合部を有する鉄骨部材
2…ボルト接合部
3…ボルト接合部領域
4…ボルト
5…ナット
6…スプライスプレート
7…梁
8…被膜(X)
9…弾性被覆材(Y)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト接合部を有する鉄骨部材の被覆方法であって、
ボルト接合部領域に対して、合成樹脂及びリン化合物を含む樹脂組成物を塗付し、被膜(X)を形成する工程、
次いで、該被膜(X)の上に弾性被覆材(Y)を積層する工程、
を含むことを特徴とする被覆方法
【請求項2】
上記合成樹脂及びリン化合物を含む樹脂組成物が、
合成樹脂として、
アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び芳香族モノマーを含むモノマー群の重合体であり、重合平均分子量が50,000以上である合成樹脂
を含むことを特徴とする請求項1に記載の被覆方法




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−57379(P2012−57379A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202811(P2010−202811)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(510114125)株式会社エフコンサルタント (32)
【Fターム(参考)】