説明

被観測対象物の観測方法及び装置

【課題】 航空機の機首方位を制御することにより、合成開口アンテナのヨーステアリング機能を用いずに、干渉させられる画像を得る。
【解決手段】 被観測対象物の上空を飛翔体に搭載した合成開口アンテナ4を水平方向に移動させて、当該合成開口アンテナから電波を送受信する。前記合成開口アンテナ4で受信した反射波を画像データに信号処理する。前記処理を繰返し実行して得た複数の画像データを干渉処理してSAR画像データを取得する。前記合成開口アンテナを移動させる際に、前記飛翔体が受ける横風による偏流角のずれを制御することにより、前記合成開口アンテナの前記被観測対象物に対する観測方向を一致させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成開口レーダを用いて被観測対象物を観測する被観測対象物の観測方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
国土地理院のホームページに掲載された文献によると、レーダは、アンテナから電波を観測対象物に向けて放射し、その観測対象物で反射した電波を受信して観測するものである。前記レーダを用いることにより、反射された電波から、観測対象物の大きさや表面の性質が分り、電波が戻ってくるまでの時間を測定することで、観測対象物までの概算の距離が測定可能である。
【0003】
レーダ観測を行う場合、観測対象物の分解能を向上させるには、レーダのアンテナの指向性を絞って細いビームを観測対象物に向けて照射するのであるが、指向性を高めるには、アンテナの寸法を大きくする必要がある。例えば、人工衛星搭載レーダの場合、地表で10m或いはそれより高い分解能を得るには、アンテナの大きさ「開口」が1kmを越えてしまい、人工衛星に搭載する機器として問題がある。
【0004】
そこで、人工衛星や飛行機などの飛翔体が移動しながら電波を送受信して、大きな開口を持ったアンテナの場合と等価な画像を得るように、人工的に「開口」を「合成」させる技術として、合成開口レーダが開発されている。
【0005】
この合成開口レーダを用いて、地殻の変動などを観測する技術が開発されておいる。この合成開口レーダを用いて、リピートパス干渉SAR(Synthetic Aperture Radar)画像を得ることにより、航空機や人工衛星から数センチの地殻変動や地すべり等を画像化することができる。
【0006】
図9に示すように、航空機1によるリピートパス干渉SARは異なる時期に2回ほとんど同じフライトコース2a,2bからSAR画像を取得する。このフライトコース2a,2bは、以下の式のように波長、距離、分解能、入射角で決まる干渉限界以内である必要があり、Lバンド,3m分解能,40度入射角,15.7Kmの観測距離では、約520m以下の直径Dをもつパイプ状の空域F内に設定される。式 B=λrtanθ/2・Rsとなる。ここで、B:干渉可能最大距離,λ:波長,θ:入射角,Rs:スラントレンジ分解能,r:ターゲットまでの距離である。
【0007】
前記取得したSAR画像には、観測対象物の表面の反射率の情報が信号振幅として記録されているとともに、観測対象物迄の距離情報も位相として記録されている。したがって、もしフライトコースが全く同じとすると、2つのSAR画像の同じ位置の位相の差分を求めると、それら2つのSAR画像を観測した時期の間に発生した観測対象物、例えば地殻の変化を画像化することができる。実際は、フライトコースを全く同じにすることは困難なため、ターゲットの標高による成分も画像化されてしまう。そのため、2回のフライトコースの差異による影響を補正することにより、標高の成分が除去され、ターゲットの変動成分のみ求めることができる。
【非特許文献1】国土地理院ホームページ(http://gsi.go.jp/sokuchi/sar/mechanism/)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、実際にリピートパス干渉SAR画像を得るには、2つの課題がある。その1つは、航空機は全く同じ軌道を飛行するのは非常に困難であり、横風などの影響を受けて、航空機は、GPS衛星3を利用したディファンレンシャルGPS方式に基づいて機首角(ヘディング角)と高度を補正しながら、パイプ状の空域Fの日的の軌道の近傍を飛んでいる。
【0009】
この課題は実際の飛行軌跡が干渉限界距離で示される一定の誤差内であり、また、その誤差を波長に対して十分に高い精度で記録することができれば、補正することが可能である。実際には、キネマティックGPS方式を使って1cm程度の精度で、飛行機が空間中をどのような軌跡で飛んだかを記録し、その記録データに基づいて補正をしている。
【0010】
リピートパス干渉SAR画像を得るには、もう1つの課題がある。従来の航空機によるリピートパス干渉SAR観測では、観測幅を広く取るために比較的高高度を飛行し、航空機の最も効率の良い速度を使用して、観測を行っている。日によって風速、風向が変わる。高高度においては季節によってほぼ一定方向に風が吹いている。しかし、その風速は日によって大きく変化することがある。航空機が高高度を飛行する場合、失速速度と最高速度が近くなり、速度を大きく変えることが困難であった。そのため、毎回観測するたびに、偏流角が変わり、観測データを十分に活用できないという問題がある。
【0011】
前記課題は、従来の航空機によるリピートパス干渉SAR観測では、航空機の速度は毎回観測時、ほぼ一定であるので、2つのSAR画像を干渉させる際に、それぞれの画像のドップラー周波数帯域が一致している必要である。
【0012】
すなわち、図10に示すように、1回目の観測画像G1の信号ドップラー帯域と2回目の観測画像G2の信号ドップラー帯域との重なっている部分Oのみが干渉成分となる。干渉画像の空間分解能は、この重なっている部分Oの周波数帯域によって決定される。このため、重なっている部分Oが少ないと、空間分解能が低下した画像、または干渉画像が得られないという問題がある。
【0013】
前記問題を解決する1つの方法は、合成開口レーダにヨーステアリング機能を持たせることである。ヨーステアリング機能を有する合成開口アンテナは、航空機の機首の方向に拘らず、そのビームセンタをドップラー周波数0Hz方向に向けることができる。
【0014】
しかし、合成開口アンテナを回転させるためには、回転機構が複雑になり、重量の増加、高価格という間題がある。さらに、飛行中、航空機の機首方位は絶えず変動しているため、アンテナのビームセンタ方向がドップラー周波数0Hz方向に絶えず向いているように制御し続ける必要がある。
【0015】
本発明の目的は、航空機の機首方位を補正することにより、ヨーステアリング機能を用いずに、干渉させられる画像が得られる被観測対象物の観測方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するため、本発明に係る被観測対象物の観測方法は、被観測対象物の上空を飛翔体に搭載した合成開口アンテナを水平方向に移動させて、当該合成開口アンテナから電波を送受信するステップと、
前記合成開口アンテナで受信した反射波を画像データに信号処理するステップと、
前記ステップを繰返し実行して得た複数の画像データを干渉処理して干渉画像を得るステップを有し、
前記合成開口アンテナを移動させる際に、前記飛翔体が受ける横風による偏流角のずれを制御することにより、前記合成開口アンテナの前記被観測対象物に対する観測方向を一致一させることを特徴とするものである。ここに、前記観測方向とは、航空機などの飛翔体の速度方向に対するアンテナビームセンタ方向の角度を意味する。
【0017】
本発明によれば、合成開口アンテナを移動させる際に、飛翔体が受ける横風による偏流角を制御する。複数回のフライトを行った際にも、前記制御処理に基づいて、合成開口アンテナの被観測対象物に対する観測方向がほぼ同一の範囲に収束される。しかも、合成開口アンテナは、複数回のフライトにおいて、ほぼ同一の軌跡上を移動する。
【0018】
前記合成開口アンテナの前記被観測対象物に対する観測方向を一致させるにあたっては、フライトコースに対する相対風向をθ度、風速をVwノット、飛翔体のフライトコースに対する機首方位の偏流角をφ度とすると、
前記飛翔体の飛翔速度Vaを、Va=(Vwsinθ)/sinφとすることにより、複数回の前記合成開口アンテナの移動軌跡における前記飛翔体の偏流角をφ度に制御することができる。
【0019】
また、前記飛翔体の失速速度と最高速度が接近して速度許容範囲が狭い高高度での飛翔を避けて、前記飛翔体の飛翔高度を、失速速度と最高速度の間の速度許容範囲が広い高度に落して、前記飛翔体を飛翔させることが望ましい。この場合、前記飛翔体の飛翔高度を、3,000m〜6,200mの範囲の高度に設定することが望ましい。
【0020】
前記飛翔体の失速速度と最高速度が接近して速度許容範囲が狭い高高度と比較して、失速速度と最高速度の間の速度許容範囲が広い高度では、季節風の向きが一定であり、しかも、その風速が比較的小さい。そのため、飛翔体の偏流角を容易に制御することが可能となり、複数回のフライトにおいて、合成開口アンテナの被観測対象物に対する観測方向を一致させることが可能となる。
【0021】
また、被観測対象物の上空を飛翔体に搭載した合成開口アンテナを水平方向に移動させる際に、1回目の観測では風向に対し45度の角度をなすコースと、さらにそのコースから90度方位を回転させた、風向と−45度の角度をなすコースで前記合成開口アンテナを移動させて、画像データを取得することが望ましい。
【0022】
これにより、2回目の観測時、風向きによって、一方の移動コースに沿って合成開口アンテナを移動させることが困難である場合にも、他方の移動コースに沿って合成開口アンテナを移動させることが可能となる。
【0023】
以上の本発明に係る被観測対象物の観測方法を実施する観測装置は、被観測対象物の上空を飛翔体に搭載されて移動しながら、電波を送受信する合成開口レーダ送受信システムと合成開口アンテナと、前記合成開口アンテナで受信した反射波を画像化した複数の画像データを干渉処理して干渉画像を得る信号処理部と、前記合成開口アンテナを移動させる際に、前記飛翔体が受ける横風による偏流角のずれを制御することにより、前記合成開口アンテナの前記被観測対象物に対する観測方向を統一させる機能を備えたフライト・マネジメント・システムを有する構成として構築する。
【0024】
また、前記フライト・マネジメント・システムは、フライトコースに対する相対風向をθ度、風速をVwノット、飛翔体のフライトコースに対する偏流角をφ度とすると、偏流角φ度となる前記飛翔体の飛翔対気速度Vaを、Va=(Vwsinθ)/sinφにすることにより、複数回の前記合成開口アンテナの移動軌跡における前記飛翔体の偏流角をφ度に統一させる構成とすることが望ましい。
【0025】
前記フライト・マネジメント・システムは、前記飛翔体の失速速度と最高速度が接近して速度許容範囲が狭い高高度での飛翔を避けて、前記飛翔体の飛翔高度を、失速速度と最高速度の間の速度許容範囲が広い高度に落して、前記飛翔体を飛翔させる機能を備えることが望ましい。
【0026】
また、前記フライト・マネジメント・システムは、被観測対象物の上空を飛翔体に搭載した合成開口アンテナを水平方向に移動させる際に、方向が異なる移動コースに前記合成開口アンテナを移動させる機能を備えていることが望ましいものである。この場合、相対的に90度異なる方向の前記移動コース上に前記飛翔体を飛翔させることが望ましい。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように本発明によれば、合成開口アンテナを移動させる際に、飛翔体が受ける横風による偏流角のずれを補正するため、複数回のフライトを行った際にも、前記補正処理に基づいて、合成開口アンテナの被観測対象物に対する観測方向をほぼ同一の範囲に収束することができる。さらに、合成開口アンテナを複数回のフライトにおいて、ほぼ同一の軌跡上を移動させることができる。
【0028】
したがって、ヨーステアリング機能を用いずに、干渉させられるSAR画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0030】
図1に示すように本発明の実施形態に係る被観測対象物の観測方法に用いる観測装置は、観測用電波を送受信するためのデバイスと、飛行情報検出部と、飛翔体としての航空機1を制御するためのシステムコントロール部と、信号処理部9と、データ記録部10とから構成されている。これらは、飛翔体としての航空機1に搭載される。また、地上には、データ記録部10aと、国土地理院のGPSネットワークからデータを入力し高精度な位置を計算するキネマティックGPS9aと、信号処理部9が設置される。
【0031】
前記観測用電波を送受信するためのデバイスは、合成開口(レーダ)アンテナ4と、切替部5と、高出力増幅器7と、送受信部8とを有している。
【0032】
前記送受信部8は、送信信号を高出力増幅器7に出力する。前記高出力増幅器7は、送受信部8からの送信信号を増幅して切替部5に出力する。前記切替部5は、高出力増幅器7からの増幅された送信信号を合成開口アンテナ4に出力する。また前記切替部5は、合成開口アンテナ4で受信した受信信号を送受信部8に出力する。前記送受信部8は、切替部5から出力される受信信号を信号処理して、SARレーダ生データ信号としてのI/Qビデオ信号をデータ記録部10に出力する。
【0033】
前記合成開口アンテナ4は図2(a)に示すように、航空機1の胴体1aの外部下面に固定して取付けられ、その表面がレドーム11で覆われている。12は、合成開口アンテナ4と切替部5を結線しているケーブルである。本実施形態では合成開口アンテナ4として平面パッチアンテナを用いているが、これに限られるものではない。平面パッチアンテナに代えて、平面スロットアンテナなどを用いてもよく、要は、観測用のビームを被観測対象物に向けて放射し、被観測対象物で反射した反射波を受信することができる構成であれば、いずれのものでもよい。
【0034】
前記飛行情報検出部は図1に示すように、ディファレンシャルGPS13と、慣性姿勢計測装置(IMU; Inertial Measurement Unit)14と、コントローラ15とから構成されている。
【0035】
前記ディファレンシャルGPS13には、二つの方法がある。その1つは、まもなく運用が開始される運輸多目的衛星のMSUSを利用し、衛星から送信される補正信号を利用し、GPS位置データの補正を行う方法である。もう1つの方法は海上保安庁が送信するDGPS用のビーコン電波を受信し、補正信号として用いる方法である。このディファレンシャルGPS13の計測データは、データを取得するサンプリング周波数が数Hz程度の不連続なデータである。
【0036】
前記慣性姿勢計測装置14は、直交する3軸方向にそれぞれ設置された3個の加速計と3個のジャイロスコープから構成されている。前記加速計は、航空機1の3方向の加速度を検知し、前記ジャイロスコープは、3軸周りの角速度を検知する。
【0037】
前記コントローラ15は、前記ディファレンシャルGPS13及び前記慣性姿勢計測装置14の動作を制御している。また前記コントローラ15は、前記キネマティックGPS13及び前記慣性姿勢計測装置14で取得した飛行情報を前記システムコントロール部に出力する。
【0038】
前記システムコントロール部は図1に示すように、前記飛行情報検出部のコントローラ15からの移動距離情報と姿勢方位角情報を受取る航空機情報入力I/F部16と、フライト・マネジメント・システム17を備えている。
【0039】
フライト・マネジメント・システム17は、内蔵コンピュータが航空機1の飛行条件に応じて燃料効率を最適とする演算処理を行い、その演算データにより操縦装置(autopilot system)と推力調整装置(auto throttle system)をコントロールする機能に加えて、離陸から着陸までの全飛行領域にわたって飛行管理を自動的に行う機能を備えている。フライト・マネジメント・システム17の内蔵コンピュータは,航法データベースとして航法用データ(空港,滑走路,スポット,航空路,飛行ルートなどの情報)を記憶している。そして前記コンピュータは、水平面内の航法(lateral navigation:L-NAV)および高度方向の航法(vertical navigation:V-NAV)に関する情報をCRT画面上に提供する。
【0040】
さらに、前記フライト・マネジメント・システム17は、ディファレンシャルGPS13から出力される信号に基づいて、航空機1の位置を割出す。さらに前記フライト・マネジメント・システム17は、前記慣性姿勢計測装置14、特に加速計が出力する加速度情報を積分して速度データを算出し、その速度データを積分して距離データを算出する。さらに前記コントローラ15は、前記慣性姿勢計測装置14、特にジャイロスコープが出力する角速度情報を積分して、航空機1の姿勢方位角を算出する。
【0041】
さらに本発明の実施形態に係るフライト・マネジメント・システム17は、前記航空機情報入力I/F部16が受取った移動距離情報及び姿勢方位角情報などの航空機情報に基づいて、合成開口アンテナ4を被観測対象物の上空を移動させる際に、航空機1が受ける横風による偏流角のずれを補正することにより、合成開口アンテナ4の被観測対象物に対する観測方向を一致させる機能を備えている。
【0042】
前記フライト・マネジメント・システム17が備えている、合成開口アンテナ4の被観測対象物に対する観測方向を一致させる機能を具体的に説明すると、フライト・マネジメント・システム17は図4に示すように、フライトコースに対する相対風向をθ度、風速をVwノット、飛翔体のフライトコースに対する偏流角をφ度とすると、偏流角φ度となる前記飛翔体の飛翔対気速度Vaを、Va=(Vwsinθ)/sinφにすることにより、複数回の前記合成開口アンテナの移動軌跡における前記飛翔体の偏流角をφ度に統一させる。ここで、国際ノットの1ノット(Kt)=1.852Kmである。
【0043】
前記フライト・マネジメント・システム17は、航空機1の失速速度と最高速度が接近して速度許容範囲が狭い高高度での飛行(飛翔)を避けて、航空機1の飛行高度を、失速速度と最高速度の間の速度許容範囲が広い高度に落して、前記飛翔体を飛翔させる機能を備えている。この飛行高度の根拠について図5を用いて説明する。
【0044】
図5において、航空機によるリピートパス干渉SAR観測では、観測幅が広く取れて燃料効率のよい比較的高高度、例えば13.7kmの高度を飛行し、航空機の最も効率の良い速度を使用して観測を行っている。前記高高度は、航空機の種類によるが、失速速度M1と最高速度M2が非常に接近して速度許容範囲R1が狭い高度である。
【0045】
しかし、上述した高高度では、日によって風速、風向が変わる。しかも、季節による季節風が吹いているが、その風速は日によって大きく変化することがある。航空機が高高度を飛行する場合、失速速度と最高速度が非常に近くなり、速度を変えることが困難であった。そのため、毎回観測するたびに、偏流角が変わり、観測データを十分に活用できないという問題がある。
【0046】
そこで、本発明の実施形態に係るフライト・マネジメント・システム17は、航空機1の失速速度と最高速度が接近して速度許容範囲が狭い高高度での飛翔を避けて、航空機1の飛行高度を、失速速度M1と最高速度M2の間の速度許容範囲R2が広い高度Hに落して、前記航空機1を飛行させている。この場合、航空機1の飛行高度Hを、約3,000m〜6,200m(約1万フィート〜2万フィート)の範囲の高度に設定している。この高度Hでは、季節風の向きが一定であり、しかも、その風速が日による変化が小さい。しかも、航空機1の速度の調整可能な範囲が広いので、図4に示すように、航空機1の偏流角φを容易に制御することが可能となり、複数回のフライトにおいて、合成開口アンテナ4の被観測対象物に対する合成開口による分解能及び移動軌跡を容易に一致させることが可能となる。
【0047】
また、前記フライト・マネジメント・システム17は図8に示すように、被観測対象物の上空を航空機1に搭載した合成開口アンテナ4を水平方向に移動させる際に、1回目の観測では、風向に対し45度の角度をなすコースF1と、さらにそのコースから90度方位を回転させた、風向と−45度の角度をなすコースF2で前記合成開口アンテナ4を移動させる機能を備えている。この場合、相対的に90度異なる方向の前記移動コースF1,F2上に前記航空機1を飛翔させることが望ましい。
【0048】
前記送受信部8から出力されるSAR生データとしてのI/Qビデオ信号は、航空機1のフライト毎に高度、速度、位置、そのほかGPSキネマティックポストプロセッシングに必要なデータとともに、データ記憶部10に記録して置く。そして、地上において、前記信号処理部9は図6に示すように、干渉可能なフライトコースにて取得した2組のSAR生データをデータ記録部10aから読み出しSAR画像再生処理を行う。このときに、データ記録部10aから読み出されたキネマティックポストプロセッシング用のデータと、インターネットで得られる国土地理院のGPS基準データを使用し、フライトコースの高精度同定を行い、理想的フライトコースを飛んだ場合に得られるデータと等価になるような補正を行い、干渉可能な2つのSAR画像S1,S2が得られる。そして、SAR画像S1,S2を干渉処理して干渉SAR画像S3を得る。
【0049】
前記信号処理部9はさらに、干渉処理、すなわち位相差抽出を行い、干渉画像を取得する。干渉SAR画像は縞模様の色によって表現される。この縞模様の色は、同じ位置での2回のSAR画像の距離の差に応じて生じる位相差を表している。このように、位相差は観測対象物の変化量に対応するため、縞模様は、その場所における観測対象物の変化に対応している。
【0050】
前記干渉させたSAR生データ観測時のフライトコースにわずかでも差異がある場合(全く同じフライトコースでなかった場合)、干渉SAR画像データS3に、ターゲットエリアの山や丘などの高さに基づく干渉縞が含まれる。これらの干渉縞は、幾何学的な数値計算に基づいて補正を行い、その標高データによる干渉成分を削除し、地殻変動検出画像データS4を取得し、この地殻変動検出画像データS4に基づいて、地殻変動を検出する。この一連の画像処理は、汎用のものであり、本発明の特徴部分ではないので、その詳細について省略する。
【0051】
次に、本発明の実施形態に係る動作について説明する。
【0052】
本発明の実施形態において、図9に示すように、フライト・マネジメント・システム17は、第1回目のフライトのために設定したフライトコース2aに沿って航空機1を誘導しながら、航空機1に搭載された合成開口アンテナ4をフライトコース2aに沿って被観測対象物18の上空を移動させる。
【0053】
合成開口アンテナ4がフライトコース2aに沿って移動する際に、送受信部8は、送信信号を出力し、この送信信号を合成開口アンテナ4に送出す。合成開口アンテナ4は、受取った送信信号を被観測対象物18に向けて放射する。また、合成開口アンテナ2は、被観測対象物18で反射した反射波を受信し、その受信信号を送受信部8に出力する。
【0054】
送受信部8は、合成開口アンテナ4からの受信信号を受取ると、この受信信号をSAR生データであるI/Qビデオ信号に変換して、このビデオ信号をデータ記録部10に出力する。
【0055】
このように、第1回目の航空機1によるSAR画像の取得が終了した時点で、次のフライトまでに地殻変動が予想される設定された期間をおいて、第2回目の航空機1によるフライトを行う。
【0056】
第2回目の航空機1によるフライトは、第1回目の航空機1によるフライトを行った時期に対して時間が経過されており、航空機1が受ける横風の条件は異なっている場合がある。
【0057】
図3(a)に示すように、航空機1は、設定されたフライトコースF3に沿って飛行している場合、すなわち航空機1に搭載された合成開口アンテナ4が正規の飛翔方向(設定されたフライトコースF3)に沿って移動している場合には、合成開口アンテナ4の被観測対象物18に対する観測方向4aは実線で示すようになっている。
【0058】
しかし、航空機1が横風を受けて、そのフライトコースF4が、設定されたフライトコースF3に対して角度θ1だけずれると、合成開口アンテナ4の被観測対象物18に対する観測方向4a1は2点鎖線で示すように、実線で示す正規の分解能4aに対してずれてしまう。
【0059】
このように、合成開口アンテナ4による被観測対象物18に対する観測方向が1回目の観測とずれると、図10に示すように、SARデータの第1回目の観測画像のアジマス方向ドップラー信号成分G1と第2回目の観測画像のアジマス方向ドップラー信号成分G2の重なった部分が少なくなる。そこで、重なる部分を多くする必要がある。
【0060】
第1回目の干渉SAR画像の取得を行った航空機1のフライトコース2aに沿って第2回目の航空機1による飛行を行い、合成開口アンテナ4を被観測対象物18の上空に移動させる際に、航空機1の機首の偏流角φをコントロールする。
【0061】
図7に示すように、先ずステップS10において、フライト・マネジメント・システム17は、第2回目の航空機1による飛行情報を図1に示す飛行情報検出部から得る。フライト・マネジメント・システム17は、受取った飛行情報に基づいて、第1回目のSAR画像取得時の合成開口アンテナ4の向きと第2回目のSAR画像取得時の合成開口アンテナ4の向きが一致している場合(ステップS10のYES)、ステップS11の処理に移行して、引続いて合成開口アンテナ4の向きの一致・不一致の監視を継続して行う。
【0062】
フライト・マネジメント・システム17は、受取った飛行情報に基づいて、第1回目のSAR画像取得時の合成開口アンテナ4の向きと第2回目のSAR画像取得時の合成開口アンテナ4の向きが不一致であると判断した場合(ステップS10のNO)、図4に示すように、フライトコースに対して航空機1と横風の相対風向角度がθである場合、航空機1はフライトコースに対して偏流角φの方向に速度Vaで飛行することにより、フライトコースに沿って実質的に飛行することとなる。
【0063】
そこで、図7の演算処理のステップS12において、フライト・マネジメント・システム17は図4に示すように、フライトコースに対する相対風向をθ度、風速をVwノット、飛翔体のフライトコースに対する偏流角をφ度とすると、偏流角φ度となる前記飛翔体の飛翔対気速度Vaを、Va=(Vwsinθ)/sinφにすることにより、複数回の前記合成開口アンテナの移動軌跡における前記飛翔体の偏流角をφ度に統一させる。
【0064】
フライト・マネジメント・システム17はステップS13において、合成開口アンテナ4の向きの監視を継続し、偏流角φを制御した後の合成開口アンテナ4の向きが補正した向きになったか、すなわち、航空機1の偏流角が補正された後の偏流角φに制御されているかを判断する。
【0065】
航空機1の偏流角φが補正されていない場合には、フライト・マネジメント・システム17は、航空機1の速度を制御し(ステップS14)、再度合成開口アンテナ4の向きの監視を継続し、偏流角φを補正した後の合成開口アンテナ4の向きが補正した向きになったか、すなわち、航空機1の偏流角が補正された後の偏流角φに補正されているかを判断する(ステップS15)。
【0066】
ステップS15において、航空機1の速度制御を行った結果、合成開口アンテナ4の向きが修正されていなければ、その向きが修正されるまで航空機1の速度制御を継続して行う(ステップS15のNO、ステップS14)。
【0067】
フライト・マネジメント・システム17は、受取った飛行情報に基づいて、第1回目のSAR画像取得時の合成開口アンテナ4の向きと第2回目のSAR画像取得時の合成開口アンテナ4の向きが一致している場合(ステップS15のYES)、ステップS16の処理に移行して、引続いて合成開口アンテナ4の向きの一致・不一致の監視を継続して行う。
【0068】
以上の説明では、合成開口アンテナ4を一方向にのみ移動させた場合について説明したが、これに限られるのものではない。
【0069】
図8に示すように、被観測対象物の上空を航空機1に搭載した合成開口アンテナ4を水平方向に移動させる際に、1回目の観測では、風向に対し45度の角度をなすコースF1と、さらにそのコースから90度方位を回転させた、風向と−45度の角度をなすコースF2で前記合成開口アンテナ4を移動させる機能を備えている。この場合、相対的に90度異なる方向の前記移動コースF1,F2上に前記航空機1を飛翔させる。
【0070】
第1回目のSAR画像データを取得した後、第2回目の合成開口アンテナ4を移動させる場合、風向きによっては、移動コースF2に沿って合成開口アンテナ4を移動させることが不可能な場合がある。
【0071】
この場合には、2つの移動コースF1,F2のうち、残りの移動コースF1に沿って合成開口アンテナ4を移動させれば、第2回目の合成開口アンテナ4によるSAR画像データの取得を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように本発明によれば、合成開口アンテナを移動させる際に、飛翔体が受ける横風による偏流角のずれを制御するため、複数回のフライトを行った際にも、前記補正処理に基づいて、合成開口アンテナの被観測対象物に対する観測方向がほぼ同一の範囲に収束することができる。さらに、合成開口アンテナを複数回のフライトにおいて、ほぼ同一の軌跡上を移動させることができ、ヨーステアリング機能を用いずに、干渉させられるSAR画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施形態に係る被観測対象物の観測装置を示す構成図である。
【図2】図2(a)は、合成開口アンテナを航空機に取付けた状態を示す正面図、図2(b)は、レドームで表面が覆われた合成開口アンテナを示す平面図、図2(c)は、レドームで表面が覆われた合成開口アンテナを断面した断面側面図である。
【図3】図3(a)は、設定されたフライトコースを飛行している状態を示す斜視図、図3(b)は、横風を受けて飛行する状態を示す斜視図である。
【図4】横風を受けて飛行する場合の航空機の偏流角を調整するための説明図である。
【図5】本発明の実施形態における飛行高度を説明する説明図である。
【図6】取得したSAR生データを干渉させて干渉SAR画像データを得るまでの流れを示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態における動作を説明するフロートチャートである。
【図8】本発明の実施形態におけるフライトコースの例を示す説明図である。
【図9】リピートパス干渉SAR画像を取得するための飛行状態を説明する説明図である。
【図10】干渉SAR画像を得るための干渉処理を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0074】
1 航空機(飛翔体)
4 合成開口(レーダ)アンテナ
9 信号処理部
10 データ記録部(搭載側)
10a データ記録再生部(地上側)
13 ディファレンシャルGPS
14 慣性姿勢計測装置
17 フライト・マネジメント・システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被観測対象物の上空を飛翔体に搭載した合成開口アンテナを水平方向に移動させて、当該合成開口アンテナから電波を送受信するステップと、
前記合成開口アンテナで受信した反射波を画像データに信号処理するステップと、
前記ステップを繰返し実行して得た複数の画像データを干渉処理してSAR画像データを取得するステップを有し、
前記合成開口アンテナを移動させる際に、前記飛翔体が受ける横風による偏流角のずれを制御することにより、前記合成開口アンテナの前記被観測対象物に対する観測方向を統一させることを特徴とする被観測対象物の観測方法。
【請求項2】
フライトコースに対する相対風向をθ度、風速をVwノット、フライトコースに対する飛翔体の偏流角をφ度とすると、
偏流角φ度となる前記飛翔体の飛翔対気速度Vaを、
Va=(Vwsinθ)/sinφにすることにより、
複数回の前記合成開口アンテナの移動軌跡における前記飛翔体の偏流角をφ度に統一させることを特徴とする請求項1に記載の被観測対象物の観測方法。
【請求項3】
前記飛翔体の失速速度と最高速度が接近して速度許容範囲が狭い高高度での飛翔を避けて、前記飛翔体の飛翔高度を、失速速度と最高速度の間の速度許容範囲が広い高度に落して、前記飛翔体を飛翔させることを特徴とする請求項1に記載の被観測対象物の観測方法。
【請求項4】
前記飛翔体の飛翔高度を、約3,000m〜6,200mの範囲の高度に設定することを特徴とする請求項3に記載の被観測対象物の観測方法。
【請求項5】
被観測対象物の上空を飛翔体に搭載した合成開口アンテナを水平方向に移動させる際に、方向が異なる移動コースに前記合成開口アンテナを移動させて、画像データを取得することを特徴とする請求項1に記載の被観測対象物の観測方法。
【請求項6】
前記移動コースを相対的に90度異なる方向に設定することを特徴とする請求項5に記載の被観測対象物の観測方法。
【請求項7】
被観測対象物の上空を飛翔体に搭載されて移動しながら、電波を送受信する合成開口アンテナと、
前記合成開口アンテナで受信した反射波を画像化した複数の画像データを干渉処理してSAR干渉画像を得る信号処理部と、
前記合成開口アンテナを移動させる際に、前記飛翔体が受ける横風による偏流角のずれを制御することにより、前記合成開口アンテナの前記被観測対象物に対する観測方向を一致させる機能を備えたフライト・マネジメント・システムを有することを特徴とする被観測対象物の観測装置。
【請求項8】
前記フライト・マネジメント・システムは、
フライトコースに対する相対風向をθ度、風速をVwノット、フライトコースに対する飛翔体の偏流角をφ度とすると、
偏流角φ度となる前記飛翔体の飛翔対気速度Vaを、
Va=(Vwsinθ)/sinφにすることにより、
複数回の前記合成開口アンテナの移動軌跡における前記飛翔体の偏流角をφ度に統一させる機能を備えていることを特徴とする請求項7に記載の被観測対象物の観測装置。
【請求項9】
前記フライト・マネジメント・システムは、
前記飛翔体の失速速度と最高速度が接近して速度許容範囲が狭い高高度での飛翔を避けて、前記飛翔体の飛翔高度を、失速速度と最高速度の間の速度許容範囲が広い高度に落して、前記飛翔体を飛翔させる機能を備えていることを特徴とする請求項7に記載の被観測対象物の観測装置。
【請求項10】
前記フライト・マネジメント・システムは、
被観測対象物の上空を飛翔体に搭載した合成開口アンテナを水平方向に移動させる際に、方向が異なる移動コースに前記合成開口アンテナを移動させる機能を備えていることを特徴とする請求項7に記載の被観測対象物の観測装置。
【請求項11】
前記フライト・マネジメント・システムは、
相対的に90度異なる方向の前記移動コース上に前記飛翔体を飛翔させる機能を備えていることを特徴とする請求項10に記載の被観測対象物の観測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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