説明

被運搬体吸着保持用当接体及び吸着保持装置

【課題】凹凸面を有したタイル等の被運搬体をしっかりと吸着保持することができる吸着保持装置とそのための当接体とを提供する。
【解決手段】タイル10の配列体の上方に吸着保持装置1を配置し、下降させて当接体3のバッグ5の底面をタイル10の上面に押し当てる。当接体3は、バッグ5内に粒子6を充填したものであり、非弾性的に変形する。吸引口2cに負圧源からの負圧を伝達させ、タイル10をバッグ5の底面に吸着保持させる。吸着保持装置1を上昇させると、タイル10はバッグ5に吸着したまま整列枠11から引き離される。当接体3の底面の変形は非弾性的なものであるから、当接体3は元形状に弾性的に復元しようとはせず、各タイル10は当接体3に密着してしっかりと保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイルなどの被運搬体を吸着して保持し、運搬(例えば移載)する用途に用いられる当接体及び吸着保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数枚のタイルを規則的に平面状に配列し、タイル相互を紙やネットなどによって連結したタイルユニットが広く用いられている。また、基材パネル上に複数枚のタイルを規則的に整列した状態にて張り付けてなるタイルパネルも広く用いられている。
【0003】
このようなタイルユニットやタイルパネルを製造する場合、複数枚のタイルを整列用の枠内に配置して規則的配列体とした後、この規則的配列体を、規則的配列状態を保ったまま次工程へ運搬(「移載」と称される。)する。このタイル移載を行うために、吸盤及び負圧源を有した移載機が用いられる(例えば特開2002−86433号)。
【0004】
このような吸盤は、タイル表面が割石調など凹凸に富むものである場合、空気が漏れ込んで吸引保持力が不足し易い。
【0005】
表面が凹凸状となっている被運搬体であっても真空吸着ハンドによって吸着保持するために、ハンドの前面にスポンジを設けることが実公平7−4140号に記載されている。
【0006】
しかしながら、このスポンジは、被運搬体の凹凸面に押し当てられたときには押圧力によって被運搬体の凹凸面に倣って変形するが、その後被運搬体を持ち上げるべくハンドを上方に移動させたとき、スポンジ自身の弾力性により元のフラットな形状に復元してしまい、スポンジと凹凸面との間に隙間が発生し、空気が漏れ込んで被運搬体が脱落してしまう。
【特許文献1】特開2002−86433号
【特許文献2】実公平7−4140号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、凹凸面を有したタイル等の被運搬体をしっかりと吸着保持することができる吸着保持装置とそのための当接体とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の被運搬体吸着保持用当接体は、被運搬体を吸着保持するために該被運搬体に当接される当接体において、該当接体は、通気性を有すると共に、被運搬体の外面に当接したときに該外面の形状に倣って非弾性的に変形して密着する通気性当接体であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の被運搬体吸着保持用当接体は、請求項1において、前記当接体は、前面部分が被運搬体に当接する外殻体と、該外殻体内に充填された粒子とを有し、該外殻体は少なくとも該前面部分がシートよりなり、該シートの少なくとも一部が通気性を有していることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の被運搬体吸着保持用当接体は、請求項2において、前記粒子は球形粒子よりなるか、又は球形粒子と円筒状粒子とからなることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の被運搬体吸着保持用当接体は、請求項2又は3において、該外殻体はバッグよりなることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5の吸着保持装置は、被運搬体に当接体を当て、負圧源からの負圧によって該当接体を介して被運搬体を吸着保持する吸着保持装置において、該当接体は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の被運搬体吸着保持用当接体であり、該吸着保持装置は、前面側が開放し、後面側に吸引口を有したケーシングと、該ケーシングの該前面側に設けられた該当接体とを備えてなることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6の吸着保持装置は、請求項5において、該当接体は請求項4に記載の当接体であり、該当接体は前記ケーシングに対し着脱可能に取り付けられていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7の吸着保持装置は、請求項5又は6において、該ケーシング内の該吸引口と該当接体との間に、該吸引口からの該当接体への負圧伝達を均等化させるための分散板又は整流板が設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の当接体及びそれを備えた吸着保持装置にあっては、当接体を被運搬体に当接させたときに該当接体が被運搬体の外面の形状に倣って非弾性的に変形し、密着する。この当接体の変形は非弾性的であるため、被運搬体を移動させるべく吸着保持装置を移動(例えば上昇)させても、当接体が元形状に復元することが防止され、当接体と被運搬体との密着状態が保たれ、被運搬体の脱落が防止される。
【0016】
この当接体が、外殻体内に粒子を充填し、該外殻体の少なくとも前面部分をシートにて構成し、該シートの少なくとも一部を通気性とした場合には、該当接体を被運搬体に当接させたときにシートが被運搬体の外面形状に倣って変形し、この際、外殻体内の粒子が外殻体内で移動し、当接体が非弾性的に変形する。
【0017】
この粒子として球形粒子を用いると、当接体が変形し易いものとなる。また、球形粒子に対し中空粒子を加えると、粒子充填体の通気性が良好となる。
【0018】
この外殻体をバッグとした場合には、該バッグを吸着保持装置のケーシングに容易に装着することが可能になると共に、着脱可能とすることもできる。
【0019】
このケーシングの吸引口と当接体との間に分散板又は整流板を設け、吸引口からの負圧が当接体の全体になるべく均等に伝達されるようにすることにより、被運搬体の吸着保持力を当接体の前面において均等化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図は実施の形態に係る吸着保持装置の断面図、第2図はその当接体の下方からの斜視図、第3図は粒子の一例を示す斜視図、第4図〜第6図はこの吸着保持装置によるタイルの吸着保持動作を示す断面図である。
【0021】
第1図の通り、この吸着保持装置1は、下方に向って開放しているケーシング2と、該ケーシング2の下面側に取り付けられた当接体3と、該当接体3とケーシング2の天井部2aとの間に配置された分散板4とを有する。
【0022】
ケーシング2は、この実施の形態では方形の該天井部2aと、該天井部2aの周縁から垂下するスカート部2bとを有した無底有蓋形状のものである。この天井部2aの中央部に吸引口2cが設けられ、真空ポンプ等の負圧源にホース等を介して接続される。
【0023】
当接体3は、平盤に近似した直方体形状の外殻体としてのバッグ5と、該バッグ5内に充填された粒子6とを有する。バッグ5は、通気性の布を主体としており、その上面が全体として通気性となっている。バッグ5の4側面5s(第2図)は合成樹脂の含浸などにより非通気性となっている。バッグ5の底面には複数個の通気部5aが設けられており、通気部5a同士の間は非通気部5bとなっている。
【0024】
この実施の形態に係る吸着保持装置1は、第9図に示すように4行4列に配列された16枚のタイル10を保持するためのものであり、通気部5aは4行4列に合計16個設けられている。ただし、タイルの枚数や配列は図示のものに限定されない。
【0025】
非通気部5bは、枡目格子状に各通気部5aの間に延設されると共に、バッグ5の底面の全周縁に沿って延設されている。各通気部5aの大きさは、タイル10よりも若干小さなものとなっている。
【0026】
バッグ5を構成する基布としては例えばポリ塩化ビニリデン等の織布が好適である。非通気部を構成するための含浸用の樹脂としてはシリコーン樹脂等が好適である。ただし、バッグ、含浸用樹脂の材料はこれに限定されない。
【0027】
バッグ5内に充填された粒子6としては、球形のものが好適であるが、球形粒子と、第3図に示すように短い中空円筒状の粒子6aとの混合物であってもよい。球形の粒子を充填したバッグ5は、その底面を凹凸面に押し付けたときに該底面が該凹凸面に倣って速やかに変形し易いものとなる。球形粒子に中空円筒状粒子を混ぜると、バッグ5内の通気抵抗が小さくなる。
【0028】
粒子6は、バッグ5内にきつく満杯に(所謂「パンパン」に)充填するのではなく、少し余裕がある様に充填し、当接体3の底面が凹凸面に倣って自在に変形し易くなるようにするのが好ましい。
【0029】
球形粒子の粒径は0.5〜3mm程度が好適である。中空円筒状粒子は、外径が3〜7mm、筒部の肉厚が0.2〜1mm、長さが5〜10mm程度のものが好適である。球形粒子と中空円筒状粒子とを混合する場合、中空円筒状粒子の割合は粒子全体の50体積%以下(この場合、中空円筒状粒子の体積は(外径/2)×長さにて計算するものとする。)が好適であり、特に20〜50体積%程度が好適である。
【0030】
粒子の材質は、軽量で耐久性が良好である合成樹脂、例えばメラミン樹脂やアクリル樹脂などが好適であるが、樹脂材料はこれに限定されない。
【0031】
バッグ5内に粒子6を充填してなる当接体3は、適宜の取付手段によって分散板4の下側に着脱可能に保持される。例えば、当接体3をケーシング2内の分散板4の下側に嵌合させた後、通気性の布を当接体3の下側に引き回し、この通気性布の周縁部をスカート部2bに着脱可能に留め付ける等の手段を採用することができる。
【0032】
分散板4は、負圧源からの負圧をバッグ5の上面に略均等に伝達させるためのものであり、この実施の形態では連続気孔を有した多孔質の焼結板が用いられている。その材質はセラミックス又は金属が好適であるが、これに限定されない。多孔質焼結板の代りに整流板(例えばパンチングプレート等)を設けてもよい。
【0033】
このように構成された吸着保持装置1を用いてタイル10を保持する方法について第4図〜第6図を参照して説明する。
【0034】
このタイル10は、タイル整列枠11上に4行4列に配列されている。このタイル10の上面(タイル前面)は、凹凸に富んだ意匠面となっている。
【0035】
このタイル10の配列体の上方に吸着保持装置1を配置し(第4図)、下降させて当接体3のバッグ5の底面をタイル10の上面に押し当てる。これにより、第5図の通り、バッグ5の底面は、タイル10の上面の凹凸に倣って変形し、タイル10の上面に密着する。この変形は、バッグ5内の粒子6のうちバッグ底面近傍のものが、タイル上面の凸部に押されてタイル上面の凹部側に移動することによりもたらされるものであり、非弾性的変形である。
【0036】
このように、バッグ5の底面をタイル10の上面に密着させた後、吸引口2cに負圧源からの負圧を伝達させ、タイル10をバッグ5の底面に吸着保持させる。なお、負圧の伝達は、バッグ5の底面がタイル10の上面に密着するよりも前の段階で開始してもよいが、負圧の無駄な消費を省くためには上記のようにバッグ5をタイル10に密着させてから負圧を作用させるのが好ましい。
【0037】
次に、第6図のように吸着保持装置1を上昇させると、タイル10はバッグ5に吸着したまま整列枠11から引き離される。このようにタイル10を吸着保持して次工程へ送る。例えば、第6図のように保持したタイル10を、予め接着剤を付着させてあるタイルユニット製造用メッシュの上に降ろし、負圧伝達を停止し、該メッシュにタイル10の裏面(図の下面)を押し付けて接着する。
【0038】
第6図のように吸着保持装置1を上昇させた状態においては、当接体3の底面はタイル10の凹凸面に倣った凹凸に変形した状態となっているが、前述の通り当接体3の底面の変形は非弾性的なものであるから、当接体3は元の形状に弾性的に復元しようとはせず、各タイル10は当接体3に密着してしっかりと保持される。
【0039】
上記実施の形態では、当接体3はバッグ5を採用しているが、このようにするとケーシング2に装着されたバッグ5を別のバッグに容易に交換することができる。ただし、本発明では、第7図の吸着保持装置1Aのように、ケーシング2の底部を覆うように通気性シート15を設け、この通気性シート15と分散板4との間に粒子6を充填してもよい。
【0040】
上記各実施の形態では分散板4を設けているが、第8図の吸着保持装置1Bのように、下方ほど拡大するテーパ状のケーシング20を用いた場合には、分散板を設けなくても負圧を吸着保持装置1Bの底面全体に略均等に伝達することができる。なお、第8図のケーシング20は、頂部に吸引口21を有し、この吸引口21を横断するように粒子流出防止用ネット22が設けられている。ケーシング20の底面を覆うように通気性シート15が張設され、この通気性シート15とネット22との間に粒子6が充填されている。
【0041】
上記実施の形態では、第9図のように、正方格子状に配列されたタイル10を吸着保持するために、通気部5aも正方格子状に配列されているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
例えば、第10図(a)のように長方形のタイルを千鳥状に左右位置を交互にずらしながら配列した場合には、第10図(b)の当接体40のように、通気部41をタイル30と同配列に設ける。なお、第10図(a)はタイル30の配列体の平面図であり、第10図(b)は当接体40の底面図である。
【0043】
タイルの配列を第10図(a)以外とした場合でも、同様に、通気部の配置をタイルの配列と合致させることにより、タイルをしっかりと吸着保持することができる。
【0044】
上記の説明ではタイルを吸着保持しているが、タイル以外の被運搬体を吸着保持するようにしてもよい。
【0045】
また、上記説明では、被運搬体としてのタイルの上面に上方から当接体を当接させるようにしているが、被運搬体の側面に当接体を横方向から当接させてもよい。さらに、タイルを吸着保持した後、タイルの裏面を壁面に押し当てるように吸着保持装置を回動させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施の形態に係る吸着保持装置の断面図である。
【図2】当接体の下方からの斜視図である。
【図3】粒子の一例を示す斜視図である。
【図4】図1の吸着保持装置によるタイルの吸着保持動作を示す断面図である。
【図5】図1の吸着保持装置によるタイルの吸着保持動作を示す断面図である。
【図6】図1の吸着保持装置によるタイルの吸着保持動作を示す断面図である。
【図7】別の実施の形態に係る吸着保持装置の断面図である。
【図8】さらに別の実施の形態に係る吸着保持装置の断面図である。
【図9】タイルの配列状態を示す平面図である。
【図10】(a)図はタイルの別の配列状態を示す平面図であり、(b)図は当接体の底面図である。
【符号の説明】
【0047】
1,1A,1B 吸着保持装置
2,20 ケーシング
2c,21 吸引口
3,40 当接体
5 バッグ(外殻体)
5a,41 通気部
6,6a 粒子
10,30 タイル
15 通気性シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被運搬体を吸着保持するために該被運搬体に当接される当接体において、
該当接体は、通気性を有すると共に、被運搬体の外面に当接したときに該外面の形状に倣って非弾性的に変形して密着する通気性当接体であることを特徴とする被運搬体吸着保持用当接体。
【請求項2】
請求項1において、前記当接体は、前面部分が被運搬体に当接する外殻体と、該外殻体内に充填された粒子とを有し、
該外殻体は少なくとも該前面部分がシートよりなり、該シートの少なくとも一部が通気性を有していることを特徴とする被運搬体吸着保持用当接体。
【請求項3】
請求項2において、前記粒子は球形粒子よりなるか、又は球形粒子と円筒状粒子とからなることを特徴とする被運搬体吸着保持用当接体。
【請求項4】
請求項2又は3において、該外殻体はバッグよりなることを特徴とする被運搬体吸着保持用当接体。
【請求項5】
被運搬体に当接体を当て、負圧源からの負圧によって該当接体を介して被運搬体を吸着保持する吸着保持装置において、
該当接体は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の被運搬体吸着保持用当接体であり、
該吸着保持装置は、前面側が開放し、後面側に吸引口を有したケーシングと、該ケーシングの該前面側に設けられた該当接体とを備えてなることを特徴とする吸着保持装置。
【請求項6】
請求項5において、該当接体は請求項4に記載の当接体であり、該当接体は前記ケーシングに対し着脱可能に取り付けられていることを特徴とする吸着保持装置。
【請求項7】
請求項5又は6において、該ケーシング内の該吸引口と該当接体との間に、該吸引口からの該当接体への負圧伝達を均等化させるための分散板又は整流板が設けられていることを特徴とする吸着保持装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−334687(P2006−334687A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159680(P2005−159680)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】