説明

裏込め材とこれを利用した地下構造物の構築方法

【課題】 経済的で、施工性に優れており、且つ、安定した品質のトンネル施工を可能とする裏込め材及びこれを使用した地下構造物の構築方法。
【解決手段】 掘削機Kにより地山Gを切削しつつ推進ジャッキSの推力により推進函体10を地中に圧入する推進函体配置工程と、前記推進函体配置工程に伴い前記推進函体の周囲に形成される空隙21にアクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液とアルミニウム水溶性塩の水溶液と、重亜硫酸塩水溶液とを混合してなる裏込め材20を充填する充填工程とを含む地下構造物の構築方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル施工で使用可能な裏込め材とこれを利用した地下構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルの覆工となる筒状の函体を地中に連続して圧入することにより地下構造物を構築する、推進工法は公知である。
【0003】
推進工法では、通常掘削機のカッターヘッドのビットが推進函体の外径よりわずかに大きく配置されているため、地山と函体との間には空隙が形成される。従来、空隙には、充填材を充填することで、地山の崩壊による地盤沈下を抑えるものとしている。そして、充填材には、推進施工時は掘進中の推力を緩和させる機能を発現し、施工後には所定の強度を発現して地山を支保する材料が必要とされている。
【0004】
このため、従来の推進工法では、推進施工時の滑材を、施工後に裏込め材に置き換える方法により、施工時の推力の緩和及び施工後の強度を付与するものとしていた。ところが、滑材と裏込め材にそれぞれ別の材料を利用する従来の施工方法は、滑材と裏込め材との置換え作業を地中で行うために、その確認ができず、置換えが不十分となる場合があるという問題点を有していた。また、滑材と裏込め材とをそれぞれ注入することが二度手間となり施工性が悪いとともに、材料費も嵩み、不経済であることなどの問題点を有していた。
【0005】
前記の問題点に対して、特許文献1には、推進函体の推進を円滑にする滑材として作用した後、硬化することで裏込め材として作用する推進工法用硬化型滑材であって、その硬化速度の調節が容易で、かつ硬化後の固結体は高強度を発現する、推進工法用硬化型滑材が開示されている。
【特許文献1】特開2004−176023号公報([0007]−[0017]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前記推進工法用硬化型滑材は、硬化開始後は早期に固結して、推進函体と一体化するという性質を有していることから、推進施工中は硬化しないように調整されている。したがって、推進施工中は液状であるため、地中に浸透して分散される場合があり、この場合は、常に推進工法用硬化型滑材を補給し続けなくてはならず、材料費が嵩むという問題点を有していた。
【0007】
また、推進完了後は、強固に固化されるため、複数の小断面トンネルを並設して大断面トンネルを構築する場合には、先行して構築されたトンネルの裏込め材(滑材)が硬化してしまうことが原因で掘削が困難になることがあり、後行して構築されるトンネルを先行トンネルに近接して施工することができない場合があるという問題点を有していた。また、何らかの原因により施工が中断した場合には、当該推進工法用硬化型滑材が硬化することで推進函体の圧入が困難になる場合があった。
【0008】
本発明は、前記の問題点を解決するためになされたものであり、経済的で、施工性に優れており、且つ、安定した品質のトンネル施工を可能とする裏込め材及びこれを使用した地下構造物の構築方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、アクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液と、アルミニウム水溶性塩の水溶液と、重亜硫酸塩水溶液と、を混合してなることを特徴としている裏込め材である。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の裏込め材であって、前記金属塩水溶液が1に対して、前記アルミニウム水溶性塩の水溶液が0.9以上1.5以下、前記重亜硫酸塩水溶液が0.9以上1.5以下の割合で混合されていることを特徴としている。
【0011】
かかる裏込め材は、混合後早期にゲル化して所定の強度を発現し、高い水中不分離性質を有し、鉄との付着力が弱い性質を有している。そのため、推進工法、シールド工法、TBM工法等のトンネル工事の滑材や裏込め材として使用すれば、地下水に希釈されることなく早期にゲル化するため、地中に分散されずに確実に充填されて、注入量を必要最小限に抑えることが可能となり経済的である。また、鉄との付着力が弱い性質を有しているため、掘削機や推進函体などに付着することがなく、摩擦抵抗により施工を妨げることがない。さらに、早期に所定の強度を発現するため、地山の崩落を防止して、地盤沈下などを抑止するため、安全性にも優れている。
【0012】
ここで、本発明に係るアクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液としては、アクリル酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ナトリウム塩又はマグネシウム塩等が挙げられる。また、アルミニウム水溶性塩の水溶液としては、アクリル酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、ミョウバン、ナトリウムミョウバン、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等が挙げられる。また、重亜硫酸塩水溶液としては、アルカリ金属塩、重亜硫酸ナトリウム又は重亜硫酸カリウム等が挙げられる。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、掘削機により地山を切削しつつ推進ジャッキの推力により推進函体を地中に圧入する推進函体配置工程と、前記推進函体配置工程に伴い前記推進函体の周囲に形成される空隙に請求項1又は請求項2に記載の裏込め材を充填する充填工程と、を含むことを特徴とする地下構造物の構築方法である。
【0014】
かかる地下構造物の構築方法は、推進工法において形成される空隙に、前記の裏込め材を充填することにより、裏込め材が早期に硬化して空隙の地山の崩落を抑止して安全な施工を確保するとともに、当該裏込め材が推進函体と付着しないため推力を妨げることなく、施工を行うことが可能となる。また、所定の強度を有しているため、推進施工後の裏込め材としての機能を有しており、滑材と裏込め材との置換作業を必要とせず、材料費の低減と施工期間の短縮を可能としている。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、先行トンネルを構築する先行トンネル構築工程と、前記先行トンネルに並設して後行トンネルを構築する後行トンネル構築工程とにより構築される複数本のトンネルを利用して地下構造物を構築する方法であって、前記先行トンネル構築工程及び前記後行トンネル構築工程が、それぞれ掘削機により地山を切削しつつ推進ジャッキの推力により推進函体を地中に圧入する推進函体配置工程と、前記推進函体配置工程に伴い前記推進函体の周囲に形成される空隙に請求項1又は請求項2に記載の裏込め材を充填する充填工程とを含むことを特徴としている。
【0016】
かかる地下構造物の構築方法により、先行して構築されたトンネル(以下、本明細書において単に「先行トンネル」という場合がある)の周囲に、所定の強度に調整された前記裏込め材が充填されていることにより、後行して構築されるトンネル(以下、本明細書において単に「後行トンネル」という場合がある)を掘進する際に、掘削の妨げとなることがないため、高品質に先行トンネルに並設して後行トンネルを構築することが可能となる。
【0017】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項3又は請求項4に記載の地下構造物の構築方法であって、前記充填工程が、前記アクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液と、前記アルミニウム水溶塩の水溶液と、前記重亜鉛酸水溶液とを、3本の管路によりそれぞれ個別に送液する工程と、送液された前記アクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液と、前記アルミニウム水溶塩の水溶液と、前記重亜鉛酸水溶液とを、混合して空隙に充填する工程とを含むことを特徴としている。
【0018】
かかる地下構造物の構築方法は、混合後早期に硬化する裏込め材を、空隙への充填直前に混合することにより、トンネル延長が長いトンネル施工においても、裏込め材の送液途中に硬化が進行することにより管路がふさがれて、施工に支障をきたすことがない。また、空隙において、裏込め材が確実に充填された後、硬化するため、完成した地下構造物の周囲において空隙が形成されることがない。
【発明の効果】
【0019】
本発明の裏込め材及びこれを使用した地下構造物の構築方法により、トンネル施工中の地山の崩落を防止しつつ掘削機の摩擦抵抗を低減する裏込め材が、1回の充填作業により充填されるため、経済性及び施工性に優れたトンネル施工が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、説明において、同一要素には同一の符号を用い、重複する説明は省略する。
【0021】
<第1の実施の形態>
以下、第1の実施の形態(以下、単に「第1実施形態」という場合がある)について説明する。
図1は、本発明の裏込め材の空隙への充填状況を示す図であり、(a)は側方断面図、(b)は正断面図である。また、図2は、本発明の裏込め材の注入装置を示す概略図である。
【0022】
第1実施形態に係るトンネル(地下構造物)Tは、図1に示すように、掘削機Kにより地山Gを切削しつつ推進ジャッキS1の推力により推進函体10を地中に圧入する推進函体配置工程と、推進函体配置工程に伴い形成される空隙21に裏込め材20を充填する充填工程とにより、構築されるものである。
【0023】
ここで、空隙21に充填される裏込め材20は、アクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液と、アルミニウム水溶性塩の水溶液と、重亜硫酸塩水溶液との混合体である。
なお、第1実施形態に係る裏込め材20は、アクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液とアルミニウム水溶性塩の水溶液と重亜硫酸塩水溶液の配合が、体積比で1:0.9〜1.5:0.9〜1.5の割合で混合されている。
【0024】
ここで、アクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液としては、アクリル酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ナトリウム塩又はマグネシウム塩等を使用する。また、アルミニウム水溶性塩の水溶液としては、アクリル酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、ミョウバン、ナトリウムミョウバン、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等を使用する。さらに、重亜硫酸塩水溶液としては、アルカリ金属塩、重亜硫酸ナトリウム又は重亜硫酸カリウム等を使用する。
【0025】
図1に示すように、第1実施形態に係る掘削機Kは、主に地山Gを切削するカッターヘッドK1と掘削機本体K2とから構成されており、カッターヘッドK1のビットが掘削機本体K2の外形よりも、若干大きく地山Gを切削するように配置されている。なお、第1実施形態にかかるカッターヘッドK1は、揺動方式により、その掘削断面が矩形状になるように構成されている。また、掘削機本体K2の外殻は、鋼板を矩形状に形成して構成されている。ここで、掘削機Kの構成、形状等は上記のものに限定されるものではなく、現場の状況に応じて、適宜設定するものとする。また、第1実施形態では揺動方式のカッターヘッドK1からなる掘削機Kを使用するものとしたが、掘削機Kの機構は限定されるものではなく、地山の状況や完成断面の形状などに応じて適宜最適の掘削機を選定するものとする。
【0026】
掘削機Kの後方には、掘削機本体K2と同じ外形を有する推進函体10がトンネル軸方向に掘削機Kの推進とともに随時連設される。掘削機Kはこの推進函体10を介して伝達された推進ジャッキS1の推力により前進する。
また、掘削機Kの上部には、裏込め材20を空隙21に充填するための注入孔K3が貫通されている。なお、注入孔K3の形状、数、配置等は限定されるものではなく、空隙21への充填を確実に行うことが可能に適宜形成されている。
【0027】
第1実施形態に係る推進函体10は、角筒状に形成された外殻11と、トンネル軸方向に所定の間隔をあけて並設された複数の主桁と、隣り合う主桁間においてトンネル軸方向に沿って配置された複数の縦リブとを備えて構成されている。そして、外殻11は、溶接により接合された複数枚の鋼製のスキンプレートからなり、全体として断面矩形を呈している。なお、推進函体10の構成、推進函体10を構成する材料、推進函体10の形状等は、上記のものに限定されるものではなく、現場の状況やトンネルTの完成断面などを考慮して、適宜設定するものとする。
【0028】
注入孔K3には、ミキシング部32を介して裏込め材20を送液する注入管(管路)31が取り付けられている。
注入管31は、図2に示すように、アクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液を送液する第一注入管31aと、アルミニウム水溶性塩の水溶液を送液する第二注入管31bと、重亜硫酸塩水溶液を送液する第三注入管31cの3本から構成されている。そして、各注入管31は、注入機33を介して、それぞれアクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液が貯留された第一タンク34aと、アルミニウム水溶性塩の水溶液が貯留された第二タンク34bと、重亜硫酸塩水溶液が貯留された第三タンク34cに接続されている。
【0029】
トンネルTの構築は、図1(a)に示すように、予め所定の形状に形成された推進函体10を発進立孔Sに設置された推進ジャッキS1の推力により地山G内に圧入しつつ、掘削機Kにより地山Gを切削しながら行われる(推進函体配置工程)。
この際、掘削機KのカッターヘッドK1の掘削面は、掘削機本体K2及び推進函体10の外形よりも大きく形成されているため、カッターヘッドK1の後方には空隙21が形成される。
【0030】
このため、地山Gの崩壊の抑止を目的として、掘削機Kに形成された注入孔K3から、裏込め材20の空隙21充填を随時行う(充填工程)。
そして、掘削機Kが、図示しない到達立孔に到達したら、掘削機Kを搬出することにより、裏込め材20によりトンネル覆工(推進函体10)の背面が裏込めされたトンネルTの構築が完了する(図1(b)参照)。
【0031】
なお、裏込め材20は、地上から掘削機Kの内部にまで延設された3本の注入管31により、アクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液と、アルミニウム水溶性塩の水溶液と、重亜硫酸塩水溶液とがそれぞれ個別に送液されて、空隙21への充填直前にミキシング部32により混合されている。ここで、裏込め材20の空隙21への充填を、掘削機Kに形成された注入孔K3から行なうものとしたが、推進函体10の中から注入してもよく、裏込め材20の充填方法は限定されるものではない。
以下、「アクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液とアルミニウム水溶性塩の水溶液と重亜硫酸塩水溶液」を区別しないときは単に「水溶液」と称する場合がある。
【0032】
裏込め材20は、図2に示すように、裏込め材20を構成する各水溶液が、それぞれ地上に配設された第一タンク34aと、第二タンク34bと、第三タンク34cに個別に保管されている。そして、3種類の各水溶液は、注入機33により、所定の流量に調整されたうえで、それぞれ第一注入管31a、第二注入管31b、第三注入管31cを介して、掘削機Kの内部まで送液される。ここで、第一タンク34a、第二タンク34b、第三タンク34cからなるタンク34及び注入機33の設置箇所は、発進立孔Sの内部でも、外部でもよい。
【0033】
図1(a)に示すように、掘削機Kの内部まで送液された各水溶液は、注入孔K3に固定されたミキシング部32により混合されてから注入孔K3から空隙21へ排出される。注入孔K3は掘削機Kの上面に配置されており、裏込め材20は空隙21に上向きに注入されるため、掘削機Kの下部にその周面を通って流下して、掘削機K及び推進函体10の周囲全体に充填される(図1(b)参照)。掘削機Kには、注入孔K3とは別に、上方に図示しない確認孔が形成されており、この確認孔を利用して、裏込め材20の充填完了を確認する。なお、裏込め材20の充填状況の確認は、前記の方法に限定されるものではなく、ハンマーなどにより掘削機Kの内面を叩く打音調査により行うなど、適宜適切な方法を選定して行えばよい。
【0034】
以上、本発明の裏込め材及びこれを利用した地下構造物の構築方法によれば、次に示すような効果を得ることが可能となる。
【0035】
つまり、第1実施形態では、裏込め材20として、アクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液と、アルミニウム水溶性塩の水溶液と、重亜硫酸塩水溶液とからなるアクリル系混合体を使用しているため、鉄との付着力が弱い性質を有しており、トンネルTの掘進中の滑材としての機能を果たす。また、何らかの原因により推進作業が中断した場合でも、裏込め材20が掘削機Kや推進函体10に付着することがないため、推進作業の中断前や再開時に特殊な処置を必要とせず、施工性に優れている。
【0036】
また、裏込め材20は、各水溶液の混合後、早期に所定の強度に硬化するため、地山Gの崩落を抑止する機能も有しており、そのまま裏込め材として使用することができる。そのため、従来の推進工法のように、推進施工完了後に、滑材を裏込め材に置換える作業を必要とせず、工事を早期に完了することが可能となる。
【0037】
また、裏込め材20が早期に硬化するため、砂層や礫混じり土層など、比較的間隙が大きい地盤における施工でも、充填材(裏込め材20)が地中に浸透することが少なく、確実に空隙21が充填されるため、必要最小限の充填量に抑えることが可能となり、材料費の低減が可能となる。また、裏込め材20が地中に分散されることがなく、必要とされる滑材及び裏込め材の量が最小限になるため、その保管に必要なストックヤードの面積を縮小することができ、都市部など、用地的に制限がある施工箇所においても好適に適用可能である。
【0038】
また、各水溶液の品質管理は、それぞれ個別のタンク34a,34b,34cに保管するのみなため、容易である。また、空隙21への注入後の品質はバラツキが少ないため、信頼性が高い。
また、本発明の裏込め材20は、低粘度なため、空隙21への注入後、空隙全体に流下して確実に充填されるため、高品質なトンネル施工が可能となる。
【0039】
また、本発明の裏込め材20は、各水溶液の配合により、硬化時間と硬化後の強度を調節できるため、適用可能な地質が限定されない。
【0040】
<第2の実施の形態>
次に、本発明による、第2の実施の形態(以下、単に「第2実施形態」という場合がある)について説明する。
図3は、第2実施形態に係る地下構造物1の全体を示す断面図である。
【0041】
第2実施形態に係る地下構造物1は、図3に示すように、その横断面の全てを含むように並設された複数本(本実施形態では6本)のトンネルT,T,…を利用して築造したものであり、頂版1A、底版1B及び側壁1C,1Cを備えている。また、隣り合う二つのトンネルT,Tのうち、一方のトンネルTの覆工には、他方のトンネルT側に開口するガイド溝D1がトンネル軸方向(図3において紙面垂直方向)に沿って形成されており、他方のトンネルTの覆工には、一方のトンネルTのガイド溝D1に遊嵌する突条P1が形成されている。なお、以下では、一方のトンネルTのガイド溝D1と他方のトンネルTの突条P1を合せて、単に「継手J1」と称することがある。
【0042】
各トンネルT,T,…は、それぞれ前記の第1実施形態で形成されたトンネルTと同様の方法により構築されるため、詳細な説明は省略する。
【0043】
なお、第2実施形態では、ガイド溝D1を有した推進函体10を地中に配置することによりトンネル(先行トンネル)Tを構築し(先行トンネル構築工程)、この先行トンネルTのガイド溝D1に後行して構築されるトンネル(後行トンネル)Tの推進函体10の突条P1を挿入しながら、後行トンネルTを構築することにより(後行トンネル構築工程)、複数のトンネルT,T,…を並設する。
この時、各トンネルTの周囲の空隙21に充填された裏込め材20は、適切な強度に硬化されているため、裏込め材20が固すぎることにより掘削機Kによる掘削が困難となることがなく、後行トンネルTが先行トンネルTから離れてしまうこともない。また、裏込め材20が地山Gの崩落を抑止するため、安全に推進施工を行うことを可能としている。
【0044】
そして、必要なトンネルT,T,…の構築が完了したら、地下構造物1の断面形状に合せて、不要な覆工を撤去して大きな空間を形成する。さらに、地山Gとの境界(すなわち、地下構造物1の外縁)に沿って残置されたトンネルT,T,…の覆工を利用して本設の頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを形成すると、地下構造物1となる。なお、不要な覆工を全部撤去した後に頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを形成してもよいし、トンネルT,T,…の不要な覆工の一部を撤去しつつ、地下構造物1の頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを構築してもよい。
【0045】
ここで、地下構造物1の周囲は、各トンネルT,T,…の構築の際に、充填されたアクリル系の裏込め材20により覆われているため、止水性に優れており、地盤改良等の止水用の補助工法を要することなく、地下構造物1が完了する。そのため、補助工法に要する費用や施工期間を削減することが可能となり、経済性に優れた大断面トンネルを、比較的早期に構築することが可能となる。
【0046】
なお、第2実施形態に係る地下構造物の構築方法によるその他の作用効果は、第一実施形態に示したものと同様なため、詳細な説明は省略する。
【0047】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。
例えば、前記各実施形態では、矩形状のトンネルに関して説明したが、トンネルの形状が限定されるものではないことは、いうまでもない。
【0048】
また、前記各実施形態では、掘削機に形成された注入孔にミキシング部を固定して、空隙への注入直前に水溶液を混合する構成としたが、各水溶液の混合するタイミングは限定されるものではなく、例えば、トンネルの延長が短く、裏込め材が注入管内において送液途中で硬化することがなければ、予め混合されたものを送液して空隙に充填する構成としてもよい。
また、3種類の水溶液を一度に混合するのではなく、2種類の水溶液を混合した後、もう1種類の水溶液を添加して混合する構成としても良い。
【0049】
また、前記各実施形態では、推進工法に、本発明の裏込め材を採用するものとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、シールド工法のシールドマシンやTBM工法のTBMと地山との間に形成される空隙に当該裏込め材を充填すれば、地山の崩落を防止すると共に、セグメントの裏込め材量を削減することが可能となる、また、大口径パイプルーフにおいて地表面沈下抑止を目的として当該裏込め材を充填することも有効であり、好適である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の裏込め材の空隙への充填状況を示す図であり、(a)は側方断面図、(b)は正断面図である。
【図2】本発明の裏込め材の注入装置を示す概略図である。
【図3】第2の実施の形態に係る地下構造物の全体を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 地下構造物
10 推進函体
20 裏込め材
21 空隙
30 注入装置
31 注入管
32 ミキシング部
K 掘削機
S1 推進ジャッキ
T トンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液と、アルミニウム水溶性塩の水溶液と、重亜硫酸塩水溶液と、を混合してなることを特徴とする裏込め材。
【請求項2】
前記金属塩水溶液が1に対して、前記アルミニウム水溶性塩の水溶液が0.9以上1.5以下、前記重亜硫酸塩水溶液が0.9以上1.5以下の割合で混合されていることを特徴とする、請求項1に記載の裏込め材。
【請求項3】
掘削機により地山を切削しつつ推進ジャッキの推力により推進函体を地中に圧入する推進函体配置工程と、
前記推進函体配置工程に伴い前記推進函体の周囲に形成される空隙に請求項1又は請求項2に記載の裏込め材を充填する充填工程と、を含むことを特徴とする地下構造物の構築方法。
【請求項4】
先行トンネルを構築する先行トンネル構築工程と、前記先行トンネルに並設して後行トンネルを構築する後行トンネル構築工程とにより構築される複数本のトンネルを利用して地下構造物を構築する方法であって、
前記先行トンネル構築工程及び前記後行トンネル構築工程が、それぞれ掘削機により地山を切削しつつ推進ジャッキの推力により推進函体を地中に圧入する推進函体配置工程と、前記推進函体配置工程に伴い前記推進函体の周囲に形成される空隙に請求項1又は請求項2に記載の裏込め材を充填する充填工程と、を含むことを特徴とする地下構造物の構築方法。
【請求項5】
前記充填工程が、前記アクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液と、前記アルミニウム水溶塩の水溶液と、前記重亜硫酸塩水溶液とを、3本の管路によりそれぞれ個別に送液する工程と、
送液された前記アクリル酸の一価または二価の金属塩水溶液と、前記アルミニウム水溶塩の水溶液と、前記重亜硫酸塩水溶液とを、混合して空隙に充填する工程とを含むことを特徴とする、請求項3又は請求項4に記載の地下構造物の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−118213(P2006−118213A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307201(P2004−307201)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】