説明

補体のインヒビターによる発作性夜間血色素尿症患者の処置

エクリズマブ(終末補体活性化を阻害するC5に対するヒト化モノクローナル抗体)は、発作性夜間血色素尿症(PNH)患者の小さなコホートにおいて予備的な12週間のオープンラベル試験において活性を示した。本治験は、多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照国際共同第III相試験において、長期のエクリズマブによる治療が、脈管内溶血を低減させることができるか、ヘモグロビンレベルを安定させることができるか、輸血の必要性を低下させることができるか、及びクオリティオブライフを改善することができるかを検討したものである。エクリズマブは、脈管内溶血の減少により、ヘモグロビンレベルを安定させ、輸血の必要性を低下させ、及びPNH患者のクオリティオブライフを改善したことが見出された。長期のエクリズマブの投与は、PNHに対する安全且つ有効な治療であると思われる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発作性夜間血色素尿症(PNH)は、PIG−A1,2と称されるX連鎖遺伝子内に体細胞突然変異を有する造血幹細胞のクローン増殖により生じる後天性血液疾患である。PIG−Aの突然変異は、細胞表面への多くのタンパク質の結合に必要とされるグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーの合成における早期遮断をもたらす。その結果として、PNH血液細胞には、GPIアンカー型タンパク質の部分的な(II型)欠損又は完全な(III型)欠損がある。
【0002】
脈管内溶血は、PNHの顕著な特徴であり、GPIアンカー型補体調節タンパク質CD593,4の欠如の直接的な結果である。正常な状態においては、CD59は、細胞表面上の終末補体複合体(又は細胞膜傷害複合体と称される)の形成を遮断し、それによって赤血球の溶解と血小板活性化とを阻止する5〜8。PNH患者における過度又は持続的な脈管内溶血は、貧血(ヘモグロビンの正常範囲は、男性の場合14〜18g/dL並びに女性の場合12〜16g/dLであり、低値の人が貧血と判断される)だけでなく、ヘモグロビン尿並びに血行中への赤血球含有物の放出に関連する臨床的な後遺症:疲労、血栓症、腹部疼痛、嚥下障害、勃起不全及び肺高血圧症の原因にもなる9,10,2l,22。実際、PNHにおいてクオリティオブライフが損なわれることは、貧血の程度に不相応である。多くのPNH患者は、適切な赤血球ヘモグロビンレベルを維持するために、輸血に依存している。脈管内溶血を効果的に低下させ、PNHに関連した臨床的羅病率を改善する治療は存在していない。
【0003】
エクリズマブは、終末補体タンパク質C5に対するヒト化モノクローナル抗体である11(非特許文献1)。11人のPNH患者における予備的な12週間のオープンラベルの臨床試験においては、エクリズマブが脈管内溶血と輸血の必要性とを低下させることが示された12(非特許文献2)。しかしながら、この非盲検試験には、対照群のない患者や、治験実施計画書に基づく輸血基準がない患者が含まれていた。
【非特許文献1】Thomas TCら、Mol Immunol(1996)33;1389〜401
【非特許文献2】Hillmen Pら、N Engl J Med(2004)350;552〜9
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(要旨)
本ピボタル第III相試験(発作性夜間血色素尿症においてエクリズマブを使用する、輸血の減少に対する有効性及び安全性に関する多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照臨床試験(TRIUMPH))によって、87人の輸血依存性のPNH患者のコホートにおける6ヵ月間の投与中におけるヘモグロビンレベルの安定性と輸血の必要性とに対するエクリズマブの効果が評価された。また、脈管内溶血の処置やクオリティオブライフについても評価された。これは、溶血をコントロールし、溶血による効果と貧血による効果とを区別するためのPNH患者集団の最初のプラセボ対照試験である。
【0005】
PNH患者に対するエクリズマブの投与によってクオリティオブライフの特定の態様が予想外に改善されるということがこの度見出された。更に、これらのクオリティオブライフの改善は、輸血とは無関係である。改善された態様としては、例えば、全体的な健康状態や、身体機能(physical functioning)、情緒機能(emotional functioning)、認知機能(cognitive functioning)、役割機能(role functioning)、社会的機能(social functioning)、疲労、疼痛、呼吸困難、食欲の喪失、不眠症が挙げられる。改善はまた、悪心及び嘔吐、下痢、便秘並びに経済的困難にも認められたが、統計学的有意性のレベルには達しなかった。投与された患者は投与を通して貧血のままであったため、これらの改善の全てが認められたことは予想外であった。なぜならば、その改善は、患者が貧血であることの結果であると考えられたからである。いかなる理論によっても束縛されることを望むものではないが、その症状の一部は、溶血と血流中へのヘモグロビンの放出とに、若しくは少なくとも部分的にそれらによるものと考えられ、単に患者が貧血であるということからは生じないと思われる。エクリズマブによる投与は、溶解量を減少させ、それにより血流中へのヘモグロビン放出を制限し、それによって、明らかに、投与を受けた患者のクオリティオブライフに改善が認められることになる。本明細書において示される結果によって、患者において溶血を減少させるいかなる治療も、該患者のクオリティオブライフを改善させることになるということが示される。
【0006】
特定の態様において、本出願は、発作性夜間血色素尿症を患う患者のクオリティオブライフの少なくとも一態様を改善するための方法であって、補体を阻害若しくはC5b−9の形成を阻害する化合物を、それを必要とする該患者に投与することを含む該方法を提供するものである。
【0007】
特定の態様において、本出願は、発作性夜間血色素尿症を患う患者のクオリティオブライフの少なくとも一態様を改善するための方法であって、脈管内溶血を阻害する化合物を、それを必要とする該患者に投与することを含む該方法を提供するものである。特定の実施形態においては、該方法によって該患者のLDHが30%を超えて低下する。
【0008】
特定の態様において、本出願は、貧血が少なくとも部分的に溶血に起因する貧血患者のクオリティオブライフの少なくとも一態様を改善するための方法であって、脈管内溶血を阻害する化合物を、それを必要とする該患者に投与することを含む該方法であって、該患者が貧血のままである、方法を提供するものである。特定の実施形態においては、該方法によって該患者のLDHが30%を超えて低下する。
【0009】
特定の態様において、本出願は、患者の健康調整平均余命(health−adjusted life expectancy)を延長する方法であって、C5b−9の形成を阻害する化合物を、それを必要とする該患者に投与することを含む方法を提供するものである。特定の実施形態においては、該患者は貧血である。特定の実施形態においては、該患者は、処置後に貧血のままである。特定の実施形態においては、該患者のヘモグロビンレベルは、i)男性の場合14g/dL未満、又はii)女性の場合12g/dL未満である。特定の実施形態においては、該患者のヘモグロビンレベルは、i)男性の場合13g/dL未満、又はii)女性の場合11g/dL未満である。特定の実施形態においては、該患者のヘモグロビンレベルは、i)男性の場合12g/dL未満、又はii)女性の場合10g/dL未満である。特定の実施形態においては、該患者は発作性夜間血色素尿症を患う。
【0010】
特定の態様において、本出願は、C5に結合する抗体又はその活性抗体フラグメントを含む医薬組成物を提供するものである。特定の実施形態において、C5に結合する抗体又はその活性抗体フラグメントは、エクリズマブである。特定の実施形態において、C5に結合する抗体又はその活性抗体フラグメントは、ペキセリズマブである。特定の実施形態において、本出願の医薬製剤は、被験体、特にPNHの被験体に投与することができる。
【0011】
特定の態様において、本出願は、発作性夜間血色素尿症を患う患者を、C5に結合する抗体又はその活性抗体フラグメントを含む医薬組成物を投与することによって治療する方法を提供するものである。特定の実施形態において、C5に結合する抗体又はその活性抗体フラグメントは、エクリズマブである。特定の実施形態において、C5に結合する抗体又はその活性抗体フラグメントは、ペキセリズマブである。特定の実施形態において、本出願の医薬製剤は、被験体、特にPNHの被験体に投与することができる。
【0012】
特定の態様において、本出願は、本出願の医薬組成物を含むキットを提供するものである。幾つかの実施形態において、キットは、閉鎖された無菌系の少なくとも1種の構成要素を更に含む。閉鎖された無菌系の構成要素としては、針や、注射器、カテーテル型注射器、針型注入装置、無針注入装置、フィルター、管、弁、カニューレが挙げられるが、これらに限定されるものではない。関連の実施形態において、キットは、組成物から保存剤を除去するための構成要素を含む。そのような構成要素としては、フィルターや、注射器、バイアル、容器、管等が挙げられる。
【0013】
特定の実施形態において、該クオリティオブライフは、FACIT−Fatigueスコアで測定される。特定の実施形態において、FACIT−Fatigueスコアは、少なくとも3ポイント増加する。特定の実施形態において、FACIT−Fatigueスコアは、4ポイント以上増加する。
【0014】
特定の実施形態において、該クオリティオブライフは、EORTC QLQ−C30スコアで測定される。特定の実施形態において、該EORTC QLQ−C30スコアは、処置前スコアの10%以上改善する。特定の実施形態において、EORTC QLQ−C30スコアで測定されるクオリティオブライフの該態様は、a)全体的な健康状態、b)身体機能、c)情緒機能、d)認知機能、e)役割機能、f)社会的機能、g)疲労、h)疼痛、i)呼吸困難、j)食欲の喪失、及びk)不眠症からなる群から選択される。特定の実施形態においては、クオリティオブライフの該態様は疲労である。
【0015】
特定の実施形態においては、該化合物は、CR1、LEX−CR1、MCP、DAF、CD59、H因子、コブラ毒因子、FUT−175、コンプレスタチン(complestatin)及びK76 COOHからなる群から選択される。特定の実施形態において、該化合物は、補体を抑制するステロイドである。
【0016】
特定の実施形態においては、該化合物は、抗体、活性抗体フラグメント、可溶性補体阻害化合物、タンパク質、脂質尾部(lipid tail)を有する可溶性補体インヒビター、タンパク質フラグメント、ペプチド、低分子有機化合物、RNAアプタマー、L−RNAアプタマー、スピーゲルマー(spiegelmer)、アンチセンス化合物、セリンプロテアーゼインヒビター、2本鎖RNA、低分子干渉RNA、ロックド核酸(locked nucleic acid)インヒビター及びペプチド核酸インヒビターからなる群から選択される。特定の実施形態において、該化合物は、抗体又は活性抗体フラグメントである。特定の実施形態においては、該抗体又は活性抗体フラグメントは、a)ポリクローナル抗体、b)モノクローナル抗体、c)単鎖抗体、d)キメラ抗体、e)ヒト化抗体、f)Fab、g)F(ab’)、h)F(ab’)、i)Fv、j)ダイアボディ、及びk)ヒト抗体からなる群から選択される。
【0017】
特定の実施形態において、該抗体又はその活性抗体フラグメントは、C5に結合する。特定の実施形態において、該抗体又は活性抗体フラグメントは、C5切断を遮断する。特定の実施形態において、該抗体又は活性抗体フラグメントは、C5b−9の形成を阻害する。特定の実施形態においては、該抗体はエクリズマブである。特定の実施形態において、該抗体又は活性抗体フラグメントは、少なくとも6ヵ月間投与される。特定の実施形態において、該患者は、再生不良性貧血又は骨髄異形成症候群である。
【0018】
特定の実施形態において、C5に結合する該抗体又はその活性抗体フラグメントは、単一の単位剤形で投与される。特定の実施形態においては、単一の単位剤形は、300mgの単位剤形である。特定の実施形態においては、単一の単位剤形は凍結乾燥される。特定の実施形態においては、単一の単位剤形は滅菌溶液である。特定の実施形態においては、単一の単位剤形は、保存剤を含まない製剤である。特定の実施形態においては、300mgの単回使用の剤形は、30mLの10mg/mL無菌無保存剤溶液を含む。
【0019】
特定の実施形態において、C5に結合する抗体又はその活性抗体フラグメントは、改変された定常領域を含み、ここで該抗体又は抗原結合性フラグメントは、天然の定常領域を有する抗CDCP1抗体よりも低下したエフェクター機能を示す。特定の実施形態において、低下したエフェクター機能は、以下の群:a)抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の低下、及びb)天然の定常領域を有する抗CDCPl抗体と比較した補体依存性細胞障害(CDC)の低下、の内の1つ以上の性質を含む。特定の実施形態において、改変された定常領域は、G1ドメインの代わりにG2/G4構築体を含む。
【0020】
特定の実施形態において、C5に結合する抗体又はその活性抗体フラグメントは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、ここで重鎖可変領域は、配列番号:5、配列番号:6又は配列番号:7からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する1つ以上のCDR領域を含み、並びにここで軽鎖可変領域は、配列番号:8、配列番号:9、又は配列番号:10からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するCDR領域を含む。特定の実施形態において、C5に結合する抗体又はその活性抗体フラグメントは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、ここで重鎖可変領域は配列番号:1からなり、軽鎖可変領域は配列番号:3からなる。特定の実施形態においては、医薬組成物はエクリズマブを含む。特定の実施形態においては、医薬組成物はペキセリズマブを含む。特定の実施形態において、C5に結合する抗体又はその活性抗体フラグメントは、重鎖及び軽鎖を含み、ここで重鎖は配列番号:2からなり、軽鎖は配列番号:4からなる。
【0021】
特定の実施形態においては、該患者は貧血である。特定の実施形態においては、該患者は、処置後に貧血のままである。特定の実施形態においては、該患者のヘモグロビンレベルは、i)男性の場合14g/dL未満、又はii)女性の場合12g/dL未満である。特定の実施形態においては、該患者のヘモグロビンレベルは、i)男性の場合13g/dL未満、又はii)女性の場合11g/dL未満である。特定の実施形態においては、該患者のヘモグロビンレベルは、i)男性の場合12g/dL未満、又はii)女性の場合10g/dL未満である。
【0022】
特定の実施形態においては、該健康調整平均余命は、損失生存可能年数(Years of potential life lost)、無障害平均余命(Disability−free life expectancy)、健康調整生存年数(Health−adjusted life year)、質調整生存年数(Quality adjusted life year)、健康当量年数(Healthy years equivalents)、健康日数の増加(Healthy days gained)、無エピソード日数(Episode−free day)、Q−TWiST、健康効用指標(Health Utilities Index)又は健康生存年数(Years of healthy life)からなる群から選択される単位に従って測定される。
【0023】
特定の実施形態においては、被験体の健康調整平均余命は、少なくとも1日間延長される。特定の実施形態においては、被験体の健康調整平均余命は、少なくとも1週間延長される。特定の実施形態においては、被験体の健康調整平均余命は、少なくとも一ヶ月間延長される。特定の実施形態においては、被験体の健康調整平均余命は、少なくとも1年間延長される。
【0024】
特定の実施形態においては、医薬組成物は単一の単位剤形においてである。特定の実施形態においては、単一の単位剤形は、300mgの単位剤形である。特定の実施形態においては、医薬組成物は凍結乾燥される。特定の実施形態においては、医薬組成物は滅菌溶液である。特定の実施形態においては、医薬組成物は、保存剤を含まない製剤である。特定の実施形態においては、医薬組成物は、30mLの10mg/mL無菌無保存剤溶液の300mg単回使用製剤を含む。特定の実施形態において、医薬組成物は、C5に結合する抗体又はその活性抗体フラグメントを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
I.定義
「から由来する」という用語は、「から得られる」又は「により作製される」又は「から派生する」を意味する。
【0026】
「遺伝子改変抗体」という用語は、アミノ酸配列が天然の抗体のアミノ酸配列から変化した抗体を意味する。本出願には組換えDNA技術が関連するため、自然抗体において認められるアミノ酸の配列に限定する必要はなく;抗体は、所望の特性を得るために再設計することができる。起こり得る変異は多くあり、ほんの1個又は多少のアミノ酸の変化から、例えば可変領域又は定常領域の完全な再設計にまで及ぶ。一般に、定常領域における変化は、補体結合や、膜との相互作用、他のエフェクター機能等の特性を改善又は改変するためになされるものである。可変領域における変化は、抗原結合特性を改善するためになされるものである。
【0027】
「抗体の抗原結合性フラグメント」という用語は、抗原への結合の有用性を保持する抗体のいずれの部分をも指す。抗体の例示的な抗原結合性フラグメントは、重鎖及び/又は軽鎖CDR或いは重鎖及び/又は軽鎖可変領域である。
【0028】
2つの核酸又はポリペプチドと関連して、「相同」という用語は、以下の配列対比較法を用いて及び/又は目視検査によって測定された最大の対応関係に関する比較及びアラインメントにおいて、少なくとも約85%、少なくとも90%、少なくとも95%以上のヌクレオチド又はアミノ酸残基の同一性を有する2個以上の配列又は部分配列を指す。特定の実施形態において、「ホモログ」は、長さの約50の残基の、少なくとも約100の残基の、少なくとも約150の残基の、又は比較すべき2個の配列の完全長に亘る配列の領域に亘って存在する。
【0029】
パーセント同一性を決定する方法は、当該技術分野で既知である。指定の対象配列又はその指定の部分に関する「パーセント(%)配列同一性」は、デフォルト値に設定された検索パラメーターによってWU−BLAST−2.0a19というプログラム(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403−410(1997);http://blastwustl.edu/blast/README.htm−l)によって作成される通り、必要に応じて最大のパーセント配列同一性を達成するために、配列のアラインメント及びギャップの導入を行った後、対象配列(又はその指定部分)内のヌクレオチド又はアミノ酸と同一となる候補誘導体配列内のヌクレオチド又はアミノ酸のパーセンテージであると定義することができる。HSP S及びHSP S2パラメーターは、動的な値であって、対象の配列が検索されている特定の配列の組成物と特定のデータベースの組成物とに依存するプログラムそのものによって確立される。「%同一性の値」は、パーセント同一性が報告されている配列長で分割されたマッチする同一のヌクレオチド又はアミノ酸の数によって決定される。
【0030】
II.概要
本発明の開示は、発作性夜間血色素尿症(「PNH」)を治療する方法に関し、更に具体的には、PNH患者において損なわれたクオリティオブライフの特定の態様と、哺乳類における他の溶血性疾患との改善に関する。具体的には、本明細書において記載される溶血性疾患を治療する方法は、1種以上の補体成分に結合するか、若しくは1種以上の補体成分の産生及び/又は活性を遮断する化合物を使用することを含む。本方法は、目覚ましい結果を提供することが明らかになった。例えば、1種以上の補体成分に結合するか、若しくは1種以上の補体成分の産生及び/又は活性を遮断する化合物が投与されると、溶血は、ヘモグロビン尿の著しい低下と共に速やかに止まる。また、溶血性患者は、赤血球の120日のライフサイクルを超えて良好に、長期間(12ヵ月以上)輸血にほとんど依存しないか又は輸血に全く依存しなくなり得る。更に、III型赤血球数は、赤血球溶解の他の機序(非補体媒介型及び/又は早期補体成分媒介型(例えばCb3))の中で急激に増加し得る。目覚ましい結果の別の例は、症状が消失したことであり、このことは、赤血球溶解の他の機序がある場合でも血清レベルは十分に増加しなかったことを示す。本明細書において報告されるこれらの及び他の結果は、予想外のものであり、溶血性疾患に対する以前の治療からは予測することができないものであった。
【0031】
III.補体系
補体系、有用な補体阻害剤、並びにPNH及びその他の患者を治療するためのこれらの阻害剤の使用は、2005年2月3日に出願のPCT特許出願第PCT/US2005/003225号により完全に記載され、2005年8月18日の国際公開第WO2005/074607(A2)として公開され、その開示内容全体が参考として本明細書で援用される。
【0032】
補体系は、細胞病原体及びウィルス病原体の侵入に対する防御のための身体の他の免疫系と共に作用する。少なくとも25種の補体タンパク質が存在し、これらのタンパク質は、血漿タンパク質及び膜補因子の複合体集合として見出される。血漿タンパク質は、脊椎動物の血清中のグロブリンの約10%を構成する。補体成分は、一連の複雑ではあるが正確な酵素的切断事象及び膜結合事象において相互作用することにより、それらの免疫防御機能を達成する。得られた補体カスケードは、オプソニン機能、免疫調節機能、および溶解機能を有する産物の産生を導く。
【0033】
補体カスケードは、古典経路又は副経路を介して進行する。これらの経路は、多くの成分を共有しており、それらの初期段階においては異なるものの、標的細胞の活性化及び破壊の原因となる同じ「終末補体」成分(C5〜C9)に収束し、そしてこれを共有する。
【0034】
古典補体経路は、通常は、標的細胞上の抗原部位の抗体認識及びこの部位への結合により開始される。副経路は、通常は、抗体とは独立しており、病原体表面上の特定の分子により開始され得る。両経路は、補体成分C3が、活性プロテアーゼ(これは、各経路で異なる)により切断されてC3a及びC3bを生じるという点に収束する。補体攻撃を活性化する他の経路は、補体機能の種々の態様を導く事象の順序の後半において作用することができる。
【0035】
C3aは、アナフィラトキシンである。C3bは、細菌及び他の細胞、並びに特定のウィルス及び免疫複合体に結合し、そして血行からの除去のためにこれらにタグを付ける。この役割におけるC3bはオプソニンとして知られている。C3bのオプソニン機能は、補体系の最も重要な抗感染作用であると考えられる。C3b機能を遮断する遺伝子病変の患者は、幅広い種類の病原菌に感染しやすい一方、補体カスケードの順序の後半に病変を有する患者(即ち、C5機能を遮断する病変を有する患者)は、ナイセリア感染症の傾向がより高く、更に幾分その感染の傾向が大きいことが見出されている(Fearon,1983)。
【0036】
C3bはまた、各経路に固有の他の成分を有する複合体を形成して、古典経路又は副経路のC5コンベルターゼ(これは、C5をC5aとC5bとに切断する)を形成する。従って、C3は、副経路及び古典経路の両方に必須であることから、補体の反応順序における中心的なタンパク質とみなされる(Wurznerら、1991)。C3bのこの性質は、C3bに作用してiC3bを産生する血清プロテアーゼI因子により調節される。iC3bは、更にオプソニンとして機能するが、活性C5コンベルターゼを形成できない。
【0037】
C5は、約75μg/mL(0.4μM)で正常血清において見出される190kDaのβグロブリンである。C5は、炭水化物によるその質量の約1.5〜3パーセントがグリコシル化される。成熟したC5は、656番目のアミノ酸の75kDaのβ鎖とジスルフィド結合を作る999番目のアミノ酸の115kDaのα鎖ヘテロダイマーである。C5は、単一コピー遺伝子の単鎖前駆体タンパク質産物として合成される(Havilandら、1991)。この遺伝子の転写物のcDNA配列は、18番目のアミノ酸リーダー配列と共に1659番目のアミノ酸の分泌されたpro−C5前駆体を予測する。
【0038】
pro−C5前駆体は、655番目及び659番目のアミノ酸の後で切断され、アミノ末端フラグメント(+1〜655番目のアミノ酸残基)としてのβ鎖とカルボキシ末端フラグメントとしてのα鎖(660〜1658番目のアミノ酸残基)とを、その2つの間に欠失する4個のアミノ酸と共に生じる。
【0039】
C5aは、α鎖の最初の74個のアミノ酸(即ち660〜733番目のアミノ酸残基)を含むアミノ末端フラグメントとしての、副経路か古典経路のいずれかのC5コンベルターゼによってC5のα鎖から切断される。C5aの11kDaの質量の約20パーセントは、炭水化物によるものである。コンベルターゼの作用のための切断部位は、733番目のアミノ酸残基にあるか、又はそのすぐ隣にある。この切断部位又はその隣で結合する化合物は、切断部位へのC5コンベルターゼ酵素のアクセスを遮断し、それにより補体阻害剤として作用することができる。
【0040】
C5はまた、C5コンベルターゼ活性以外の手段によって活性化され得る。限定されたトリプシン消化(Minta and Man,1977;Wetsel and Kolb,1982)及び酸処理(Yamamoto and Gewurz,1978;Vogtら、1989)もまた、C5を切断することができ、活性のC5bを産生することができる。
【0041】
C5aは、別のアナフィラトキシンである。C5bは、C6、C7およびC8と結合して、標的細胞の表面にC5b−8複合体を形成する。幾つかのC9分子の結合の際、膜攻撃複合体(MAC、C5b−9、終末補体複合体−TCC)が形成される。十分な数のMACを標的細胞膜内に挿入する場合、これらが作る開口部(MAC孔)は、標的細胞の迅速な浸透圧溶解を媒介する。MACの非溶解濃度が低くなれば、他の影響が生じ得る。特に、内皮細胞と血小板とへの少数のC5b−9複合体の膜内挿入は、有害な細胞活性化を生じ得る。幾つかの場合においては、活性化は細胞溶解に先行し得る。
【0042】
上記のように、C3a及びC5aはアナフィラトキシンである。これらの活性化補体成分は、肥胖細胞脱顆粒を誘発し得、肥胖細胞脱顆粒は、ヒスタミンと炎症の他のメディエーターとを放出し、平滑筋収縮、血管透過性の増大、白血球活性化、並びに細胞過形成を生じる細胞増殖等の他の炎症現象を生じる。C5aはまた、炎症誘発性顆粒球を補体活性化の部位へと誘引するように働く走化性ペプチドとして機能する。
【0043】
抗C5 mAbの有益効果は、心筋再潅流(Vakevaら、1998)、全身性エリテマトーデス(Wangら、1996)及び関節リウマチ(Wangら、1995)等の幾つかの実験モデル;並びに自己免疫疾患、心肺バイパス及び急性心筋梗塞症のヒト臨床試験(Kirschfink,2001)において既に報告されている。
【0044】
IV.クオリティオブライフの計測
例えば、小認知機能検査(MMSE)や、精神状態の小検査(Short Test of Mental Status)、ヨーロッパ癌研究治療機構(EORTC)のクオリティオブライフの質問表、疲労や貧血等のFACIT質問表及びサブスケール、リカート尺度、ボルグ尺度等、クオリティオブライフと、クオリティオブライフに対する医療行為の効果とを評価するための各種測定法が存在する(Tombaughら、J.Am.Geriatr.Soc.40:922,1992;Cummings,JAMA.269(18):2420,1993;Crumら、JAMA.269(18):2386,1993;Folsteinら、J.Psychiat.Res.12:189,1975;Kokmenら、Mayo Clin.Proc.62:281,1987;Tang−Waiら、Arch.Neurol.60:1777,2003;Tamburini,Ann.Oncol.12(Suppl.3):S7,2001;Websterら、Health and Quality of Life Outcomes.1:79,2003,www.hqlo.com/content/I/I/79;Grantら、Chest.116:1208,1999;及びwww.qolid.org)。これらの測定法のいずれも、補体を阻害するか若しくはC5b−9の形成を阻害する化合物の投与によるクオリティオブライフの変化を評価するために用いることができる。
【0045】
特定の実施形態において、補体を阻害する若しくはC5b−9の形成を阻害する化合物の投与によるクオリティオブライフの改善は、Functional Assessment of Chronic Illness Therapy(FACIT)Measurement Systemによって測定される。特定の実施形態において、クオリティオブライフの改善は、a)フルスケール;b)独立型サブスケール;及びc)症状指数により測定される。
【0046】
特定の実施形態において、補体を阻害する若しくはC5b−9の形成を阻害する化合物の投与によるクオリティオブライフの改善は、ヨーロッパ癌研究治療機構(EORTC)のクオリティオブライフの質問表により測定される。特定の実施形態においては、EORTCの質問表はQLQ−C30である。
【0047】
特定の実施形態において、クオリティオブライフの改善は、Wilkins,R. and Adams,OB.,Am J Public Health,73:1073−1080(1983)において記載された通りの健康調整平均余命(HALE)指数により測定される。健康調整平均余命は、特定の個体群についての質調整生存年数(QALY)の平均であって、医療行為の治療効果を評価するために用いることができる。質調整生存年数は、1から0までのスケールで各生存年数を較量した健康指標である(Weinstein MC and Stason WB,N Engl J Med,296:716−721(1977))。完全な健康は1と格付けされ、死亡は0と格付けされ、障害及び疼痛は、重症度に基づいて格付けされる。QALYは、各健康状態の年数を乗算することにより決定される。
【0048】
特定の実施形態においては、クオリティオブライフの改善は、以下のインストルメント:損失生存可能年数、無障害平均余命、健康調整生存年数、質調整生存年数、健康当量年数、健康日数の増加、無エピソード日数、Q−TWiST、健康効用指標及び健康生存年数により測定される。これらの測定法は、死亡率の変化並びに羅病率及び障害の変化の両方を説明する。これらの測定法の内のいずれも、補体を阻害するか若しくはC5b−9の形成を阻害する化合物の投与によるクオリティオブライフの変化を評価するために用いることができる。
【0049】
一実施形態において、開示された方法は、少なくとも1日間、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも一ヶ月間、少なくとも2ヵ月間、少なくとも3ヵ月間、少なくとも6ヵ月間、少なくとも1年間、少なくとも18ヵ月間、少なくとも2年間、少なくとも30ヵ月間、又は少なくとも3年間、或いは治療期間、患者のクオリティオブライフを改善する。
【0050】
特定の実施形態においては、クオリティオブライフを測定するために用いられる症状は、強度を尺度にして測定される。特定の実施形態においては、症状は、頻度を尺度にして測定される。特定の実施形態においては、症状は、強度及び頻度を尺度にして測定される。
【0051】
特定の態様においては、本出願は、被験体の健康調整平均余命を延長する方法であって、補体を阻害する若しくはC5b−9の形成を阻害する化合物を被験体に投与することを含む方法を提供する。上記の測定法は、死亡率の変化並びに羅病率及び障害の変化の両方を説明する。これらの測定法の内のいずれも、補体を阻害する若しくはC5b−9の形成を阻害する化合物の投与による質調整平均寿命の変化を評価するために用いることができる。
【0052】
一実施形態において、開示された方法は、Wilkins et al.Am J Public Health,73:1073−1080(1983)に記載された通りの健康調整平均余命(HALE)指数で測定される場合の、少なくとも1日間、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも1ヵ月間、少なくとも2ヵ月間、少なくとも3ヵ月間、少なくとも6ヵ月間、少なくとも1年間、少なくとも18ヵ月間、少なくとも2年間、少なくとも30ヵ月間、又は少なくとも3年間、被験体の健康調整平均余命を延長するものである。健康調整平均余命は、特定の個体群についての質調整生存年数(QALY)の平均であって、医療行為の治療効果を評価するために用いることができる。質調整生存年数は、1から0までのスケールで各生存年数を較量する健康指標である(Weinsteinら、N Engl J Med,296:716−721(1977))。完全な健康は1と格付けされ、死亡は0と格付けされ、障害及び疼痛は、重症度に基づいて格付けされる。QALYは、各健康状態の年数を乗算することにより決定される。
【0053】
V.補体カスケードの阻害剤
特定の実施形態においては、1種以上の補体成分に結合するか、若しくは1種以上の補体成分の産生及び/又は活性を遮断する化合物のいずれかは、本方法に使用することができる。特定の実施形態において、補体阻害剤は、低分子(最高6,000Daの分子量)核酸又は核酸アナログ、ペプチド模倣体又は核酸でない巨大分子、セリンプロテアーゼインヒビター又はタンパク質であり得る。これらの薬剤には、小有機分子、RNAアプタマー(ARC187(これは、Archemix Corp.,(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)から商業的に入手可能である)等)、L−RNAアプタマー、スピーゲルマー、アンチセンス化合物、RNA干渉(RNAi)において利用される得る分子(例えば、低分子干渉RNA(siRNA)を包含する2本鎖RNA)、ロックされた核酸(LNA)インヒビター及びペプチド核酸(PNA)インヒビターが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
特定の実施形態においては、補体阻害剤は、タンパク質又はタンパク質フラグメントであり得る。CD59や、CD55、CD46、C8及びC9の他の阻害剤等の補体カスケードを阻害するタンパク質が既知である(米国特許第6,100,443号参照)。補体レセプターとして知られ、補体に結合するタンパク質もまた、既知である(PCT特許出願公開第WO92/10205号及び米国特許第6,057,131号参照)。可溶形態の補体レセプター(例えば、可溶性CR1)の使用は、補体活性化の帰結(例えば、好中球酸化的破壊、補体媒介性神経損傷、C3a及びC5a産生)を阻害することができる。特定の実施形態においては、補体阻害剤は、天然に生じるものであるか、若しくは可溶形態の補体阻害化合物(例えば、CR1、LEX−CR1、MCP、DAF、CD59、H因子、コブラ毒因子、FUT−175、コンプレスタチン、K76 COOH)であり得る。当業者は、上記が、補体及びその活性化を阻害する既知の方法の全てではなく、一部であると認める。
【0055】
特定の実施形態においては、補体阻害剤は、補体を阻害し得る抗体(例えば、MACの形成を遮断し得る抗体)であり得る。例えば、抗体補体阻害剤は、C5に結合する抗体を含むことができる。そのような抗C5抗体は、C5bの形成及び/又は生理的機能を阻害するようにC5及び/又はC5bと直接相互作用することができる。
【0056】
適切な抗C5抗体は、当業者に既知である。抗体は、活性化された補体の個々の成分に作られ得る(例えば、C7、C9等への抗体)(例えば、米国特許第6,534,058号;米国特許出願公開第US2003/0129187号;及び米国特許第5,660,825号参照)。米国特許第6,355,245号は、C5に結合し、C5a及びC5bへの切断を阻害し、それによりC5aだけでなく下流の補体成分の形成も低減させる抗体を教示する。
【0057】
体液中のC5a及びC5bの濃度及び/又は生理学的活性は、当該技術分野でよく知られた方法で測定することができる。C5aについては、そのような方法としては、走化性アッセイ、RIA又はELISAが挙げられる(例えば、Ward and Zvaifler,J Clin Invest.1971 Mar;50(3):606−16;Wurzner,ら、Complement Inflamm.8:328−340,1991参照)。C5bについては、本明細書において考察される通りの溶血性アッセイ又は可溶性C5b−9のためのアッセイを用いることができる。当該技術分野で既知の他のアッセイもまた、使用することができる。これらの又は他の適切なタイプのアッセイを使用して、1)本出願の実施に有用な化合物を同定するために、及び2)そのような化合物の適切な投与量レベルを決定するために、現在知られている又はその後同定される、補体を阻害し得る候補抗体(例えば抗C5抗体)をスクリーニングすることができる。
【0058】
好ましくは、補体を阻害し得る抗体(例えば、C5bに影響を及ぼすC5に結合する抗体)は、患者の少なくとも1種の血液由来体液中に存在する、その体液中における補体の活性化の後のC5bレベルの実質的な低下(即ち、C5に結合する抗体の非存在下において比較した場合の少なくとも約25%の低下)をもたらす濃度で使用される。そのような濃度は、体液中に存在する補体の細胞溶解能(例えば溶血性の活性)又は体液中に存在する可溶性C5b−9のレベルを測定することによって好都合に決定することができる。従って、C5bに影響を及ぼす抗体についての特定の濃度は、患者の血液由来体液中の内の少なくとも1種に存在する補体の細胞溶解能の実質的な低下(即ち、少なくとも約25%の低下)をもたらす濃度である。患者の体液中に存在する補体の細胞溶解能の低下は、当該技術分野でよく知られている方法によって(例えば、Kabat and Mayer(eds),“Experimental Immunochemistry,2d Edition”,135−240,Springfield,IL,CC Thomas(1961),pages 135−139に記載された溶血性アッセイ等の従来の溶血性アッセイや、以下に記載するニワトリ赤血球溶血方法等、そのアッセイの従来の変種によって)で測定することができる。
【0059】
補体を阻害し得る特異的抗体(例えばC5に結合する抗体)は、相対的に特異的であり、早期の補体成分の機能を遮断しない。特に、そのような特異的な薬剤は、補体成分C3bに関連するオプソニン化機能を実質的には損なわず、その機能により、異質粒子及び物質を身体から除去するための手段が提供される。
【0060】
C3bは、C3の切断によって産生される。C3の切断は、古典経路及び/又は副経路のC3コンベルターゼによって為され、C3a及びC3b両方の産生を生じる。それ故、C3bに関連したオプソニン化機能を損なわないために、補体を阻害し得る特異的抗体(例えば、C5に結合する抗体)は、C3a及びC3bへの患者の体液(例えば血清)中の補体成分C3の切断に実質的に干渉しない。C3の切断に対するそのような干渉は、C3コンベルターゼの作用によって等モル比で産生するC3a及び/又はC3bの体液レベルを測定することによって検出することができる。そのような測定法は有益である。なぜならば、補体を阻害し得る抗体(例えば、C5に結合する抗体)により切断が干渉される場合、C3aレベル及びC3bレベルが(補体を阻害し得る抗体(例えば、C5に結合する抗体)を含まないマッチした試料と比較して)低下するからである。
【0061】
実際には、そのような切断の定量的測定は、C3bが速やかに除かれるのに対してC3aが液相のままであることから、一般に、体液C3bレベルよりはむしろ、体液C3aレベルの測定によって実施される場合により正確である。体液中のC3aレベルは、当該技術分野でよく知られた方法、例えば、Quidel Corporation(米国カリフォルニア州サンディエゴ)によって販売されるもの等の商業的に入手可能なC3a EIAキットを製造者の仕様書に従って用いることによって、測定することができる。特に、補体を阻害し得る特異的抗体(例えば、C5に結合する抗体)は、そのようなアッセイにおいてテストされる場合、補体活性化の後に体液中のC3aレベルの低下を本質的には生じない。
【0062】
開示の特定の抗体は、C5a及びC5bを形成するC5の切断を阻止し、従ってC5aと関連するアナフィラトキシン活性が生じるのを阻止し、そしてC5bと関連する細胞膜傷害複合体の構築を阻止する。上記のように、特定の実施形態においては、これらの抗C5抗体は、C3bの作用に関連するオプソニン化機能を損なわない。
【0063】
補体活性を阻害する好ましい方法は、補体C5に結合し、且つ切断を阻害するモノクローナル抗体を使用することである。これは、レシピエントに有益なC3a及びC3bの形成を可能にすると同時に、C5a及びC5bの両方の形成を低減させる。ヒト補体に特異的なそのような抗体は、知られている(米国特許第6,355,245号)。米国特許第6,355,245号において開示されるこれらの抗体は、好ましい全ての抗体(ここでは、エクリズマブを挙げる)を含む。マウスC5に対する類似の抗体は、BB5.1と称される(Freiら、Mol.Cell.Probes.1:141−149(1987)。補体活性を阻害する抗体は、モノクローナル抗体である必要はない。それらは、例えば、ポリクローナル抗体であり得る。それらは、更に抗体フラグメントでもよい。抗体フラグメントとしては、Fab、F(ab’)、F(ab’)、単鎖抗体及びFvが挙げられるが、これらに限定されるものではない。更に、抗体が、ヒト化(Jonesら、Nature 321:522−5(1986))、キメラ化又は脱免疫化され得るということは、当業者によく知られている。本発明の開示において使用される抗体は、これらのいずれかであってよい。ヒト化抗体を使用することが好ましい。
【0064】
特定の実施形態において、開示の治療剤は、抗体又は抗体フラグメントを含む。抗体及びそのフラグメントは、任意の従来方法(例えば、本明細書に記載されるそれらの方法)によって作製することができる。抗体は、複数の形態(例えば、IgA、IgG、IgM等)において見出される。更に、抗体は、数多くの方法で設計することができる。それらは、単鎖抗体(低モジュラー免疫医薬又はSMIP(登録商標)等)、Fab及びF(ab’)フラグメント等として作製することができる。抗体は、ヒト化、キメラ化、脱免疫化されるか、又は完全なヒトのものであり得る。数多くの刊行物は、抗体の多くの型及びそのような抗体を設計する方法を説明している。例えば、米国特許第6,355,245号;同第6,180,370号;同第5,693,762号;同第6,407,213号;同第6,548,640号;同第5,565,332号;同第5,225,539号;同第6,103,889号;及び同第5,260,203号を参照のこと。
【0065】
本発明は、無損傷の抗体の一部、好ましくは無損傷の抗体の抗原結合領域又は可変領域を含み得る抗C5抗体のフラグメントを提供する。抗体フラグメントの例としては、Fabフラグメント、Fab’ フラグメント、F(ab’)フラグメント及びFvフラグメント;ダイアボディ;直鎖抗体(Zapataら、Protein Eng.8:1057−1062(1995));単鎖抗体分子;抗体フラグメントから形成した多特異的抗体が挙げられる。
【0066】
抗体のパパイン消化により、「Fab」フラグメントと呼ばれる、それぞれが単一の抗原結合部位を有する2つの同一の抗原結合性フラグメント、及びその名前が容易に結晶化する能力を表している残りの「Fc」フラグメントが産生される。抗体のペプシン消化により、2つの抗原結合部位を有し、更に抗原に架橋し得るF(ab’)フラグメントが産生される。
【0067】
「Fv」は、完全な抗原認識部位と抗原結合部位とを含む最小の抗体フラグメントを指す。この領域は、1つの重鎖及び1つの軽鎖の可変ドメインが非共有結合に強く連結されたダイマーからなる。この構造において各可変ドメインの3つのCDRが相互作用し、V−Vダイマーの表面上の抗原結合部位を規定する。6つのCDRは、集合的に、抗体に抗原結合特異性を付与するものである。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は、抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)ですら、全結合部位よりは親和性が低いと考えられるものの、抗原を認識し、それに結合する能力を有する。
【0068】
また、Fabフラグメントは、軽鎖の定常ドメイン、及び、重鎖の最初の定常ドメイン(CH1)を含む。Fab’フラグメントは、Fabフラグメントとは、抗体のヒンジ領域からの1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に数個の残基を付加する点で異なる。Fab’−SHとは、本明細書においては、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を有するFab’を意味する。F(ab’)抗体フラグメントは、本来、間にヒンジ部のシステインを有するFab’のペアとして作製される。抗体フラグメントの他の化学的結合もまた、知られている。
【0069】
「単鎖Fv」抗体フラグメント又は「scFv」抗体フラグメントは、抗体のVドメイン及びVドメインを含み、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖中に存在する。好ましくは、Fvポリペプチドは更に、VドメインとVドメインとの間にポリペプチドリンカーを含み、それによりscFvは、抗原結合のために所望の構造を形成することができる。scFvの概要については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore,eds.(Springer−Verlag:New York,1994),pp.269−315を参照のこと。
【0070】
SMIPは、標的結合領域(エフェクタードメイン(CH2ドメイン及びCH3ドメイン))を含むように設計された単鎖ペプチドの種類である。米国特許出願公開第20050238646号を参照のこと。標的結合領域は、抗体(例えば、本出願のC5に結合する抗体)の可変領域又はCDRに由来し得る。或いは、標的結合領域は、C5に結合するタンパク質に由来する。
【0071】
「ダイアボディ」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体フラグメントを指し、そのフラグメントは、同一のポリペプチド鎖(V−V)中で軽鎖可変ドメイン(V)に連結した重鎖可変ドメイン(V)を含む。同一の鎖中で2つのドメイン間を結合できない程の短いリンカーを用いると、それらのドメインはもう一方の鎖の定常ドメインとペアを形成し、2つの抗原結合部位が構築される。ダイアボディは、より十分に、例えば、欧州特許第404,097号;WO93/11161号;及びHollingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444−6448(1993)に記載される。
【0072】
Fc領域を有する抗体の分子(又は病原体)に対する結合が、分子(又は病原体)のプロセッシング及び除去を促進することはよく知られている。抗体のFc部分は、免疫エフェクター細胞によって発現した特殊レセプターによって認識される。IgGl及びIgG3抗体のFc部分は、マクロファージや好中球等の食細胞の表面上に存在するFc受容体によって認識され、それにより、それらの食細胞は、これらのアイソタイプの抗体で覆われた分子又は病原体に結合し、それを飲みこむことができる(C.A.Janewayら、Immunobiology 5th edition,page 147,Garland Publishing(New York,2001))。
【0073】
本開示はまた、モノクローナル抗C5抗体を提供する。モノクローナル抗体は、実質的に均一の抗体集団、即ち、集団を構成する個々の抗体が、天然において生じ得る少量で存在する突然変異を除いては均一である抗体集団から得られる。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して作用するものである。更に、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を通常は含む慣用な(ポリクローナル)抗体調製物と比べて、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に向けられる。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンにより汚染されていないハイブリドーマ培養により合成される点で有利である。モノクローナル抗体はまた、CHO細胞やNS0細胞等のトランスフェクト細胞においても産生され得る。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体の集団より得られた抗体の特性を示すものであって、抗体が任意の特定の方法により作製されることを要求するものではない。例えば、本開示において用いられるモノクローナル抗体は、最初にKohlerら、Nature 256:495−497(1975)に記載されたハイブリドーマ法により作製することがきるか、若しくは組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号及び同第6,331,415号参照)により作製することができる。「モノクローナル抗体」はまた、例えばClacksonら、Nature 352:624−628(1991)及びMarksら、J.Mol.Biol.222:581−597(1991)に記載の技法を用いて、ファージ抗体ライブラリーから単離することができる。
【0074】
特異的結合特性を有するマウス抗ヒトC5モノクローナル抗体の調製物の記述は、米国特許出願公開第20050226870号に示される。Wurznerら、Complement Inflamm.8:328−340(1991)には、N19−8及びN20−9と呼ばれる他のマウス抗ヒトC5モノクローナル抗体の調製物が記載されている。
【0075】
具体的には検討される他の抗体は、「オリゴクローナル」抗体である。ここで使用する「オリゴクローナル抗体」という用語は、異なるモノクローナル抗体の所定の混合物を指す。PCT国際公開第WO95/20401号;米国特許第5,789,208号及び同第6,335,163号を参照のこと。一実施形態においては、1つ以上のエピトープに対する抗体の所定の混合物からなるオリゴクローナル抗体は、単細胞内で産生される。他の実施形態において、オリゴクローナル抗体は、一般的な軽鎖とペアを形成して複数の特異性を有する抗体を産生することが可能な複数の重鎖を含む(例えば、PCT国際公開第WO04/009618)。オリゴクローナル抗体は、単一の標的分子(例えばC5)上の標的の複数のエピトープに要求される場合に特に有用である。本明細書に開示されるアッセイ及びエピトープに鑑みて、当業者は、使用目的及び所望の必要性に適用可能な抗体又は抗体の混合物を作製することができるか、若しくは選択することができる。
【0076】
ヒト化抗体及び/又はキメラ抗体を含む特定の実施形態において、CDRの内の1つ以上は、抗ヒトC5抗体に由来する。特定の実施形態において、CDRの全ては、抗ヒトC5抗体に由来する。別の特定の実施形態において、2つ以上の抗ヒトC5抗体に由来するCDRは、キメラ抗体において混合し、マッチする。例えば、キメラ抗体は、第2の抗ヒトC5抗体の軽鎖に由来するCDR2及びCDR3と結合する第1の抗ヒトC5抗体の軽鎖に由来するCDR1を含むことができ、重鎖に由来するCDRは、第3の抗ヒトC5抗体に由来し得る。更に、フレームワーク領域は、同じ抗ヒトC5抗体の内の1つに由来するか、ヒト抗体等の1つ以上の異なる抗体に由来するか、若しくはヒト化抗体に由来する。ヒト抗体又はヒト化抗体は、ヒト患者への投与に特異的である。
【0077】
また、特定の実施形態において、単鎖抗体、及びキメラ抗体、ヒト化抗体又は霊長類化(CDRグラフト化)抗体、並びにキメラ単鎖抗体又はCDRグラフト化単鎖抗体は、異なる種に由来する部分を含むものであって、抗体の抗原結合性フラグメントとして本開示に包含される。これらの抗体の各種部分は、従来の技法によって化学的に結合することができるか、若しくは遺伝子工学技法を用いて連続したタンパク質として調製することができる。例えば、キメラ鎖又はヒト化鎖をコード化する核酸は、連続したタンパク質を産生するように発現され得る。例えば、米国特許第4,816,567号及び同第6,331,415号;米国特許第4,816,397号;欧州特許第0120694号;国際公開第WO86/01533号;欧州特許第0194276(B1)号;米国特許第5,225,539号;及び欧州特許第0239400(B1)号を参照のこと。また、霊長類化抗体に関しては、Newmanら、BioTechnology 10:1455−1460(1992)も参照のこと。例えば、単鎖抗体に関しては、Ladnerら、米国特許第4,946,778号;及びBirdら、Science,242:423−426(1988)を参照のこと。
【0078】
更に、キメラ抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体又は単鎖抗体のフラグメントを包含する、抗体の機能的フラグメントもまた、産生され得る。対象の抗体の機能的フラグメントは、それらが由来する完全長の抗体の少なくとも1つの結合機能及び/又は調節機能を保持している。好ましい機能的フラグメントは、対応する完全長の抗体の抗原結合性機能(例えば、C5に結合するためのC5に結合する抗体の能力)を保持する。
【0079】
動物の免疫化のための一般的方法(この場合、C5及び/又はC5b等による)、抗体産生細胞の単離のための一般的方法、そのような細胞を不死化細胞(例えば骨髄腫細胞)と融合してモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを産生する一般的方法、所望の抗原を有する分泌されたモノクローナル抗体の反応度についてハイブリドーマ上清をスクリーニングする一般的方法(この場合、イムノゲン、又はイムノゲンを含む分子)、ハイブリドーマ上清中又は腹水液中の多量のそのような抗体を調製する一般的方法、及びそのようなモノクローナル抗体の精製及び保管のための一般的方法は、数多くの刊行物において見出され得る。その刊行物としては:Coliganら、eds.Current Protocols In Immunology,John Wiley & Sons,New York,1992;Harlow and Lane,Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,1988;Liddell and Cryer,A Practical Guide To Monoclonal Antibodies,John Wiley & Sons,Chichester,West Sussex,England,1991;Montzら、Cellular Immunol.127:337−351(1990);Wurznerら、Complement Inflamm.8:328−340(1991);及びMollnesら、Scand.J.Immunol.28:307−312(1988)が挙げられる。
【0080】
VI.治療の方法
本出願の方法は、発作性夜間血色素尿症関連症状を治療するために用いることができる。本出願の方法は、貧血関連症状を治療するために用いることができる。発作性夜間血色素尿症及び/又は貧血の治療は、標準的な手段によって施すことができる。本出願の治療は、本出願の他の治療或いは発作性夜間血色素尿症及び/又は貧血のための既知の治療と併用することができる。本出願の治療は、発作性夜間血色素尿症及び/又は貧血の症状を治療する他の治療と同時に施すことができる。
【0081】
VII.医薬製剤及び使用
低分子、タンパク質及び核酸の投与方法は、当業者によく知られている。抗体の投与方法は、当業者によく知られている。所望の阻害を達成するために、抗体は、種々の単位剤形で投与することができる。投与量は、特定の抗体によって変化する。例えば、異なる抗体は、異なる質量及び/又は親和性を有することができ、従って異なる投与量レベルを必要とする。Fabフラグメントとして調製される抗体はまた、無損傷の免疫グロブリンよりも質量がかなり小さいため、同等の無損傷の免疫グロブリンとは異なる投与量を必要とし、従って、患者の血液中で同じモルレベルに到達するためにより小さい投与量が必要となる。投与量はまた、投与様式、治療を受けている患者の特定の症状、患者の全体的な健康、状態、サイズ及び年齢、及び処方を行う医師の判断に応じて変化するものである。ヒト被験体のための抗体の投与量レベルは、一般に、1人の患者、1回の投与につき1kg当たり約1mg〜約100mg、好ましくは1人の患者、1回の投与につき1kg当たり約5mg〜約50mgである。血漿中濃度に関しては、抗体濃度は、好ましくは約25μg/mL〜約500μg/mLの範囲である。しかしながら、極端な症例にはより大きな量が必要とされ得、より軽度の症例にはより小さな量で十分であり得る。
【0082】
特定の実施形態においては、医薬組成物は、単一の単位剤形である。特定の実施形態においては、単一の単位剤形は、300mgの単位剤形である。特定の実施形態においては、医薬組成物は凍結乾燥される。特定の実施形態においては、医薬組成物は滅菌溶液である。特定の実施形態においては、医薬組成物は、保存剤を含まない製剤である。特定の実施形態においては、医薬組成物は、30mLの10mg/mL無菌無保存剤溶液の300mg単回使用製剤を含む。特定の実施形態において、抗体は、以下のプロトコル(最初の4週間は7±2日毎に25〜45分間、600mgの静脈内注射を行い、その7±2日後に900mgの5回目の投与を行い、次いでその後、14±2日毎に900mgの投与を行う)に従って投与される。抗体は、25〜45分に亘って静脈内注射により投与される。
【0083】
一般に、抗C5抗体の投与は、血管内経路(例えば、注射による静脈内注入)により行われる。他の投与経路は、所望により用いることができるが、静脈内経路が最も好ましいものである。注射に適した製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Philadelphia,Pa.,17th ed.(1985)に見出される。そのような製剤は、無菌且つ非発熱原性でなければならず、一般に、医薬的に有効な担体(例えば、生理食塩水や、緩衝(例えばホスフェート緩衝)食塩水、ハンクス液、リンゲル液、デキストロース/生理食塩水、グルコース溶液等)を含む。前記製剤は、必要に応じて、医薬的に許容し得る補助剤(例えば、等張化剤や、湿潤剤、殺菌剤、保存剤、安定剤等)を含むことができる。特定の実施形態において、エクリズマブ等の補体阻害剤は、静脈内注射により投与することができ、そして投与前に5mg/mLの終濃度に希釈される。
【0084】
一般に、補体を阻害し得る抗体(例えばC5に結合する抗体)の投与は、非経口経路、通常は、関節内注射や血管内注射(例えば静脈内注射)や筋肉内注射等の注射によって実施される。経口(p.o.)等の他の投与経路は、所望により用いることができ、投与すべき補体を阻害し得る特定の抗体について実施することができる。補体を阻害し得る抗体(例えば、C5に結合する抗体)はまた、種々の単位剤形で投与することができ、そしてその投与量は、投与される補体を阻害し得る特定の抗体のサイズ、効能及びin vivoにおける半減期に応じて変化する。補体を阻害し得る抗体(例えば、C5に結合する抗体)の投与量は、投与様式、治療を受けている患者の特定の症状、患者の全体的な健康、状態、サイズ及び年齢、及び処方を行う医師の判断に応じて変化するものである。
【0085】
特定の実施形態においては、典型的な治療用投与は、所望の臨床的な転帰を達成するために必要に応じて調整される投与量レベルでクリニカルエンドポイントをモニターすると共に通常は投与される一連の投与量を含む。特定の実施形態においては、治療は、少なくとも1週間に亘る複数の投与量において施される。特定の実施形態においては、治療は、少なくとも一ヶ月間に亘る複数の投与量において施される。特定の実施形態においては、治療は、少なくとも1年間に亘る複数の投与量において施される。特定の実施形態においては、治療は、患者の残りの生存期間に亘る複数の投与量において施される。
【0086】
投与頻度はまた、各種のパラメーターにより調整できる。そのパラメーターとしては、臨床効果、本開示の治療剤の血漿内半減期、及び体液(例えば、血液や、血漿、血清、滑液)中の抗体のレベルが挙げられる。投与頻度の調整を導くために、体液中の本開示で治療剤のレベルを、治療過程中にモニターすることができる。
【0087】
特定の実施形態において、投与頻度は、患者の体液の内の1種以上の中に存在する補体の細胞溶解能を測定するアッセイによって調整することができる。細胞溶解能は、本明細書に記載されるタイプの溶血性アッセイの溶血のパーセントとして測定することができる。本出願の実施において使用される補体を阻害し得る抗体の投与後の体液中に存在する補体の細胞溶解能の10%又は25%又は50%の低下は、投与後の溶血のパーセントが、それぞれ投与前の溶血のパーセントの90、75又は50パーセントであることを意味する。
【0088】
補体を阻害し得る抗体(例えば、C5に結合する抗体)の全身投与によるPNH等の溶血性疾患の治療(局所投与と対照的)に対しては、大きな初回投与量、即ち、患者の血清の溶血活性の実質的な低下、より好ましくは少なくとも約50%の低下を生じるために十分な単回の初回投与量の投与は、特異的である。好ましくは、そのような大きな初回投与量は、血清の溶血性の滴定量の実質的な低下を維持するために必要な漸減する投与量の定期的な反復投与の前に投与される。別の実施形態においては、初回投与量は、局所的経路及び全身的経路の両方によって与えられ、その後、上記の通りに漸減する投与量の反復全身投与が行われる。
【0089】
特に抗体に基づく治療剤に有用な製剤はまた、米国特許出願第20030202972号、同第20040091490号及び同第20050158316号にも記載されている。特定の実施形態においては、本出願の液状製剤は、界面活性剤及び/又は無機塩を実質的に含まない。別の特定の実施形態において、液状製剤は、pHが約5.0〜約7.0の範囲である。更に別の特定の実施形態において、液状製剤は、約1mM〜約100mMの範囲の濃度のヒスチジンを含む。更に別の特定の実施形態において、液状製剤は、1mM〜100mMの範囲の濃度のヒスチジンを含む。液状製剤が、サッカライドや、アミノ酸(例えば、アルギニンや、リシン、メチオニン)、ポリオール等の1種以上の賦形剤を更に含むことができるということも検討されている。液状製剤の調製及び解析の更なる記述及び方法は、例えば、PCT国際公開第WO03/106644号や、同第WO04/066957号、同第WO04/091658号において見出され得る。
【0090】
湿潤剤、乳化剤及び滑沢剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウムやステアリン酸マグネシウム)並びに着色剤、剥離剤、コーティング剤、甘味剤、着香剤、芳香剤、保存剤及び抗酸化剤もまた、本出願の医薬組成物中に存在し得る。
【0091】
特定の実施形態においては、対象の抗体の製剤は、発熱性物質を含まない製剤であって、それは、エンドトキシン及び/又は関連発熱物質を実質的に含まない。エンドトキシンは、微生物の内部に閉じこめられて、微生物の分解又は死滅の際に放出される毒素を含む。発熱物質はまた、細菌及び他の微生物の外膜からの耐熱発熱物質(糖タンパク質)を含む。これらの両物質は、ヒトに投与される場合、発熱、低血圧及びショックを引き起こす可能性がある。悪影響の可能性があるため、静脈内に投与された医薬品溶液からエンドトキシンを低量でも除去することは有利である。Food & Drug Administration(“FDA”)は、静脈注射薬の用途に対して、1時間の単一期間中に体重1キログラム当たり、1回の投与につき、5エンドトキシン単位(EU)の上限を設定していた(The United States Pharmacopeial Convention,Pharmacopeial Forum 26(1):223(2000))。モノクローナル抗体の場合においてあり得るように、体重1キログラム当たり数百又は千ミリグラムの量の治療用タンパク質が投与される場合、エンドトキシンを極微量でも除去することは有利である。
【0092】
対象の抗体の製剤としては、経口投与、食事投与、局所投与、非経口投与(例えば、静脈内注射や、動脈内注射、筋肉内注射、皮下注射)、眼科的投与(例えば、局所投与や眼内投与)、吸入(例えば、気管支内吸入や、鼻腔内吸入、経口吸入、鼻腔内滴下)、直腸投与及び/又は腟内投与に適切なものが挙げられる。他の適切な投与方法はまた、再充電可能又は生分解性の装置及び徐放ポリマー装置を含むことができる。特に、ステントは、本出願の薬剤と混合した徐放ポリマーでコーティングすることができる。本開示の医薬組成物はまた、他の薬剤と併用した治療の一部として(同一の製剤又は別々の製剤のいずれかにおいて)投与することができる。
【0093】
治療的に効果的な製剤の量は、標準的な臨床的技法によって決定することができる。更に、in vitroアッセイは、最適用量範囲の同定に役立たせるために、任意に用いることができる。製剤中に使用される正確な投与量はまた、投与経路並びに疾患又は障害の重症度に依存するものであって、医師の判断及び各患者の状況によって決定されなければならない。有効量は、in vitro又は動物モデルの試験系から導かれる用量反応曲線から外挿することができる。投与すべき組成物の投与量は、標準用量反応試験と共に、過度の実験なしに当業者によって決定され得る。この決定の際に考慮される関連状況としては、治療すべき1つ以上の症状、投与すべき組成物の選択、個々の患者の年齢、体重及び応答、患者の症状の重症度が挙げられる。例えば、実際の患者の体重は、投与すべき製剤のミリリットル(mL)での投与量を算出するために用いることができる。「理想」体重への下方調整は、行うことができない。そのような状況においては、適切な投与量は、以下の式:投与量(mL)=[患者の体重(kg)×用量(mg/kg)/薬剤濃度(mg/mL)]によって算出することができる。
【0094】
所望の治療結果を達成するために、抗C5抗体は、種々の単位剤形で投与することができる。投与量は、特定の抗体により変化する。例えば、異なる抗体は、異なる質量及び/又は親和性を有することができ、従って異なる投与量レベルを必要とする。Fab’フラグメント又は単鎖抗体として調製される抗体はまた、天然の免疫グロブリンよりも質量が非常に小さいため、同等の天然の免疫グロブリンとは異なる投与量を必要とし、従って、患者の血液中で同じモルレベルに到達するためにより小さい投与量が必要となる。
【0095】
本開示の他の治療剤はまた、種々の単位剤形で投与することができ、その投与量はまた、投与すべき特定の治療剤のサイズ、効能及びin vivo半減期によって変化する。
【0096】
本開示の治療剤の投与量はまた、投与様式、治療を受けている患者の特定の症状、患者の全体的な健康、状態、サイズ及び年齢、並びに処方を行う医師の判断に応じて変化するものである。
【0097】
本出願の製剤は、投与様式に見合うように、補体を阻害し得る抗体及び薬学的に許容される担体を含む包装材料及び医薬品を含む製品として配布することができる。包装材料は、製剤がPNH等の溶血性疾患の治療用であることを示すラベルを含むことができる。抗体、特に、安全で、且つヒトにおける下流の補体成分の蓄積の減少に有効であることが既に示されている抗C5抗体が好ましいものの、他の補体阻害剤の使用もまた、本開示により検討される。本開示の医薬製剤及び使用は、当該技術分野で既知のいかなる既知の補体阻害剤又は溶血性疾患治療とも併用することができる。
【0098】
特定の態様において、本出願は、本出願の医薬組成物を含むキットを提供するものである。幾つかの実施形態において、キットは、閉鎖された無菌系の少なくとも1種の構成要素を更に含む。閉鎖された無菌系の構成要素としては、針や、注射器、カテーテル型注射器、針型注入装置、無針注入装置、フィルター、管、弁、カニューレが挙げられるが、これらに限定されるものではない。関連の実施形態において、キットは、組成物から保存剤を除去するための構成要素を含む。そのような構成要素としては、フィルターや、注射器、バイアル、容器、管等が挙げられる。
【実施例】
【0099】
方法
患者選択
TRIUMPH試験は、2週間のスクリーニング期間、最高3ヵ月の観察期間、及び26週間の投与期間からなるものであった。
【0100】
スクリーニング期間中、患者は、選択基準及び除外基準について評価された。対象は、18歳以上の、10%以上のIII型赤血球集団を有するPNHと診断された、過去12ヵ月間に少なくとも4回の輸血を受けた男性及び女性とした。エリトロポエチン、免疫抑制剤、コルチコステロイド、クマジン、低分子量ヘパリン、鉄補給剤及び葉酸の併用投与は、初回来院時以前及び試験期間中を通して投与量が一様である限り、除外の理由とはしなかった。終末補体タンパク質が遺伝的に欠損している個体のナイセリア感染症の頻度が増大するため、全ての患者は髄膜炎菌(Neisseria meningitides)のワクチン接種を受けた。患者は避妊を行った。治験実施計画書は、各治験実施施設における治験審査委員会により承認され、組み込まれた全ての患者から文書によるインフォームドコンセントを得た。
【0101】
過去12ヵ月に亘って10.5g/dL超の平均輸血前ヘモグロビンレベルで輸液された患者、並びに免疫応答の抑制、補体不全症又は活性した細菌感染症のエビデンス(髄膜炎菌性疾患のいずれの既往歴も含む)を示した患者は、本試験から除外された。患者が、以前に骨髄移植を受けた場合、若しくは別の治験に参加したか、或いは初回来院時の30日以内に別の治験薬を投与された場合についても、対象としなかった。個別の輸血アルゴリズムを、過去12ヵ月の輸血の既往歴に基づいて、各患者について算出した。文書でのアルゴリズムには、所定のヘモグロビン値について輸血された赤血球濃厚液パック(PRBC)の単位が記録され、そのアルゴリズムは、観察及び投与の期間中の輸血について予め決定されたガイドとして役立った。
【0102】
対象と判断された各患者は、PBRC輸血依存性を確認するために、最高で13週間の観測期間に参加した。各患者について示された輸血アルゴリズムに従って、症状がある場合は9g/dL以下、若しくは症状の有無にかかわらず7g/dL以下のヘモグロビン値で13週間の観察期間の間に少なくとも1回の輸血―「適格」輸血と称される―が、無作為に進むための要件であった。各個体の適格輸血が投与されたヘモグロビン値は、原始有効性変数のためのその個体についてのヘモグロビン「目標値」として定義された。100,000個/mL以上の血小板数及び正常範囲の上限の1.5倍以上のLDHレベルもまた、適格性についてのスクリーニング時又は観察期間中のいずれかで必要とされた。
【0103】
試験デザイン
患者は、適格輸血の10日以内に、プラセボ又はエクリズマブ(Soliris(登録商標),Alexion Pharmaceuticals,Inc.)のいずれかの投与を受けるために、1対1で無作為割付けされた。治験薬は、以下の通りに盲検性を維持して投与された。即ち、活性薬に無作為割付けされた患者については600mgのエクリズマブを、若しくはプラセボに無作為割り付けされた患者についてはプラセボを、それぞれ静脈内注射により7±1日毎に4回投与し;7±1日後に、900mgのエクリズマブ又はプラセボを、それぞれ静脈内注射により投与し;その後、900mgのエクリズマブ又はプラセボの維持投与を、それぞれ合計26週間の投与で14±2日毎に静脈内注射により行った。
【0104】
臨床的有効性の測定
本試験には、(1)全26週間の投与期間において輸血がない場合の個々のヘモグロビン目標値を超えて維持されたヘモグロビン値と定義されたヘモグロビンレベルの安定化、及び(2)本試験の26週投与相中に輸血されたPRBCの単位の減少、という2つの共通の主要評価項目があった。治験参加前の治療と比較して、治験期間中の輸血の誘因は、各患者について変化はないままであった。患者は、貧血から生じる症状を有する場合に輸血を受け、個別の所定の「目標値」に達した。予め指示された2次的評価項目には、輸血回避、ベースライン時から26週目までのLDH血中濃度曲線下面積によって測定される溶血、及びFunctional Assessment of Chronic Illness Therapy−Fatigue(FACIT−Fatigue)インストルメント13を使用してベースライン時から26週目まで測定されるQoL変化が含まれた。予め指示された探索的解析には、EORTC QLQ−C30インストルメント14の評価、ベースライン時から26週目までのLDHの変化、及び血栓症が含まれる。他の予め指示された測定法には、エクリズマブの薬物動態、薬力学及び免疫原性が含まれた。26週の投与相中の最初の輸血までの時間、及びPNH III型血液細胞の割合もまた、評価された。
【0105】
安全性の評価
治療下で発現した有害事象、臨床検査(例えば、血清化学分析や全血球数)、心電図データ、及びバイタルサインを評価した。有害事象は、MedDRA基本語を使用して定義され、投与群当たりの発現率として表にされた。
【0106】
統計解析
共通の主要評価項目について、無作為割付けされ、且つ治験薬を投与された全ての患者からのデータの使用を処理する意図に従って解析を行った。ヘモグロビンレベルの安定化は、フィッシャーの直接確率検定を使用して解析され、輸血された全体のPRBCの単位は、ウィルコクソンの順位和検定により解析された。輸血回避に対する投与効果の比較のために、発現率についてはフィッシャーの直接確率検定を使用し、最初の輸血までの時間についてはログランク検定を使用した。LDH血中濃度曲線下面積については、ウィルコクソンの順位和検定を使用した。
【0107】
疲労のクオリティオブライフの測定については、FACIT−Fatigueインストルメント15のためのスコアリングガイドラインを使用して評価した。EORTC QLQ−C30インストルメントに基づくクオリティオブライフ測定の評価を、適切なスコアリングガイドライン16に従って実施した。ベースライン時から26週目までのFACIT−Fatigue及びEORTC QLQ−C30のスコアの変化を、共変量としてベースライン、固定効果として治療及び時間、及び変量効果として患者を用いた混合モデルを使用して解析した。ベースライン時から26週目までのLDHレベル及びPNH III型赤血球の変化を、同じ混合モデルを使用して解析した。全ての解析には両側検定を使用した。有害事象及び長期安全チェックリストについては、別途表を作成し、フィッシャーの直接確率検定を使用して投与間の比較を行った。p値≦0.05を統計学的に有意であると判断した。
【0108】
結果
患者の特性
合計115人のPNH患者のスクリーニングを行った。6人の患者がスクリーニング期間中に選択基準/除外基準を満たさなかった。21人の他の患者が適格な輸血を受けず、投与相に無作為割付けされなかった。選択基準を満たさなかった1人の患者が不注意に無作為割付けされたが、治験薬を投与されなかった。従って、87人の溶血性PNH患者(35人の男性及び52人の女性)が組み込まれ、エクリズマブ(N=43)かプラセボ(N=44)のいずれかの投与を受けるために無作為割付けされ、これは、75人の患者を無作為割付けするという当初の目標を上回った。
【0109】
患者の特性は、エクリズマブ投与コホート及びプラセボ投与コホートにおいて同様であった(年齢の中央値:41歳(範囲:20〜85歳)及び35歳(範囲:18〜78歳);PNHの期間の中央値:4.2年(範囲:0.8〜29.7年)及び9.2(範囲:0.4〜38.3年);再生不良性貧血の既往歴を有する患者:4人及び11人;骨髄異形成症候群の既往歴:1人及び0人;及び血栓症の既往歴:9人(16の事象)及び8人(11の事象))。エクリズマブ投与群及びプラセボ投与群におけるベースライン時の併用薬の安定使用には、以下の:それぞれ、エリトロポエチン(3人の患者及び0人の患者);シクロスポリン(1人及び1人);抗凝固剤(クマリン又はヘパリン)(21人及び11人);及びステロイド(糖質コルチコイド又はアンドロゲン性ステロイド)(12人及び12人)が含まれた。
【0110】
無作為割付けされた87人の患者の内、85人が治験を完了した。治験を完了しなかった2人の患者はエクリズマブ群に無作為割付けされたが、1人の患者は治験施設への移動の不都合のため中止し、もう1人の患者は妊娠した。プラセボ投与群の10人の患者は、全例で有効性の欠如が認められたため注入を中止したが、監視目的のため本試験に残った。
【0111】
薬物動態/薬力学
43人のエクリズマブ投与患者の内の42人において、維持期間中の薬物のレベル(2週間±2日間毎に900mg)は、血清溶血活性(26週目における平均トラフ値が101.8μg/mL)を完全に遮断するのに十分であった。1人の患者は、エクリズマブの治療的なトラフレベルが持続せず、各投与間隔の最後の数日間に補体遮断における変化を示した。これらの変化は、臨床的に対処可能であり、次の投与後にすぐに消失した。
【0112】
溶血有効性変数
PNH患者における慢性脈管内溶血に対するエクリズマブによる終末補体阻害の効果は、本試験において、LDHの平均レベルの即時の(1週間)持続した減少により示された(図1A)。26週間の治験期間中のLDH血中濃度曲線下面積の中央値は、プラセボが投与された患者よりもエクリズマブが投与された患者において85.8%低下した(p<0.001)。エクリズマブが治療された患者においては、平均LDHレベルが、ベースライン時の2199.7±157.7IU/Lから26週目までに327.3±67.6IU/Lに低下したが、プラセボが投与された患者のレベルは、ベースライン時は2259.0±158.5IU/Lの値であり、26週目は2418.9±140.3IU/Lの値と、一貫して上昇したままであった(エクリズマブ対プラセボについて、p<0.001)。また、溶血の第2の生化学的測定(血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST))は、プラセボ投与に対してエクリズマブ投与後に統計学的に有意な改善を示した(データは示されない)。ハプトグロビンレベルは、プラセボが治療された患者よりもエクリズマブが投与された患者において統計学的に有意に増加したが、ハプトグロビンの平均レベルは、エクリズマブが治療された患者における正常レベルを更に下回った(データは示されない)。
【0113】
図1Aは、エクリズマブ投与患者集団及びプラセボ投与患者集団の両方について、ベースライン時(投与開始週)から26週目までの平均乳酸脱水素酵素(LDH)レベル(±標準誤差)によって示されるPNH患者の脈管内溶血の程度を示す。スクリーニングは、投与開始週の最高3ヵ月前から行った。LDHについての正常範囲(103〜223IU/L)の上限は、破線によって示される。エクリズマブ投与患者については、LDHは、26週目に、正常値の上限をほんの少し上回る平均レベルに低下しており、治験を完了した41人の患者の内の15人は、正常範囲内のLDHレベルを示した。全てのプラセボ投与患者は、26週目に、正常値の上限より少なくとも5倍高いままであった。p値は、ベースライン時から26週目までの混合モデル解析に基づくものである。図IBは、プラセボ投与患者及びエクリズマブ投与患者について評価されたPNH III型赤血球の平均割合(±標準誤差)を示す。スクリーニング来院は、投与開始週の最高3ヵ月前であった。p値は、ベースライン時から26週目までの混合モデル解析に基づくものである。
【0114】
エクリズマブ投与中の脈管内溶血の低下の当然の帰結は、PNH III型赤血球集団の増加が観察されたことであった(図IB)。エクリズマブ投与患者について、III型赤血球の平均割合は、ベースライン時の28.1±2.0%から26週目までに56.9±3.6%に増加したが、一方でプラセボ群の割合は、投与前の35.7±2.8%の平均値から26週目の35.5±2.8%へと一定のままであった(エクリズマブ対プラセボについて、p<0.001)。対照的に、PNH III型顆粒球及び単球の割合は、投与期間中に投与群間で有意に変化せず、26週目においては90%超であった。
【0115】
臨床的有効性
共通の主要評価項目
TRIUMPH試験の共通の主要評価項目は、ヘモグロビンレベルの安定化及び輸血されたPRBCの単位の減少であった。投与期間の終了時、エクリズマブを投与された患者の48.8%は、輸血がない場合、予め指示された目標値(両投与群についての目標値の中央値が7.7g/dL)を超えるヘモグロビンのレベルを維持していたのに対して、ヘモグロビンの安定化は、プラセボ群の患者のいずれにおいても生じなかった(p<0.001;表1)。26週目までに、患者1人当たりの輸血されたPRBCの単位の中央値は、エクリズマブ群で0、及びプラセボコホートで10.0(p<0.001)であったが、一方で単位が輸血されたPRBCの単位の平均値は、エクリズマブコホート及びプラセボコホートで、それぞれ3.0及び11.0であった。本試験の6ヵ月前の期間において、患者1人当たりの輸血されたPRBCの単位の中央値は、エクリズマブコホートで9.0、及びプラセボ患者で8.5であったが、一方で輸血されたPRBCの単位の平均値は、それぞれ9.6±0.6及び9.7±0.7であった。ベースライン時の平均ヘモグロビンレベルは投与群間で同様であり(エクリズマブ投与患者は10.0±1.8g/dL、プラセボ投与患者は9.7±1.8g/dL)、26週目までに実質的に変化しなかった(エクリズマブコホート及びプラセボコホートにおいて、それぞれ10.1±2.5g/dL及び8.9±2.2g/dL)。
【0116】
エクリズマブを投与された患者の治験期間中(26週間を超えていた)には、最初の輸血までの時間の中央値に達しなかったが、プラセボ群は、最初の輸血までの時間の中央値にわずか4週間で到達した(p<0.001;図2)。輸血回避は、エクリズマブコホート及びプラセボコホートのそれぞれ51.2%及び0%において達成された(p<0.001)。26週間の投与期間の終了時までに、輸血された全体のPRBCの単位は、エクリズマブ投与患者においては131、プラセボ群においては482であった(表1)。対照的に、本試験の6ヵ月前の期間において、エクリズマブコホート及びプラセボ―コホートにおいて輸血された全体のPRBCの単位は、それぞれ413及び417であった。
【0117】
(表1 エクリズマブの投与中におけるヘモグロビンレベルの安定化及び輸血の必要性の低下)
【0118】
【表1】

クオリティオブライフの測定法の改善
エクリズマブの投与中のPNH患者のクオリティオブライフの評価を、2つの異なるインストルメント(FACIT−Fatigue及びEORTC QLQ−C30)を用いて行った。エクリズマブ投与患者は、ベースライン時から26週目に6.4±1.2ポイントのFACIT−Fatigueスコアの平均の増加(改善)を示したが、一方でプラセボ患者の平均スコアは、4.0±1.7ポイント減少し、投与群間の全体の差は10.4ポイントであった(図3)。混合共分散モデル解析は、投与群間で統計学的に有意な差を示した(p<0.001)。
【0119】
EORTCインストルメントについては、エクリズマブ投与による改善が各サブスケールにおいて認められた。プラセボ投与群と比較して、エクリズマブ投与群による統計学的に有意な改善が、以下のクオリティオブライフサブスケールにおいて認められた(表2):全体的な健康状態(p<0.001)、身体機能(p<0.001)、情緒機能(p=0.008)、認知機能(p=0.002)、役割機能(p<0.001)、社会的機能(p<0.003)、疲労(p<0.001)、疼痛(p<0.002)、呼吸困難(p<0.001)、食欲の喪失(p<0.001)、及び不眠症(p=0.0014)。他の尺度(悪心及び嘔吐、下痢、便秘並びに経済的困難を含む)におけるエクリズマブ投与による改善は、統計学的有意性に達しなかった。
【0120】
(表2 EORTC QLQ−C30インストルメントにより評価されたクオリティオブライフに対するエクリズマブ投与の効果)
【0121】
【表2】

FACIT−Fatigueのクオリティオブライフと脈管内溶血との間の関係
FACIT−Fatigueのクオリティオブライフインストルメントと脈管内溶血との間に投与から独立した関係があるのかどうかを決定するために、解析を行い、それにより各TRIUMPH患者について平均LDHレベル(26週間の治験期間を通して)を、ベースライン時から(26週間の治験期間を通して)患者のそれぞれのFACIT−Fatigueスコアの平均変化率の関数として解析した(表3参照)。この解析のために、LDHの平均レベルを、4群(正常レベル、正常値(ULN)の上限の1〜2倍、正常値の上限の2〜10倍、正常値の上限の10倍超)に分類した。この解析は、治験全体に亘って正常なLDHレベルを維持した患者が、治験全体に亘ってLDHのレベルがより高く増加した患者よりも疲労が有意に改善したことを示した(p=0.0048)。これらのデータによって、LDHレベルで測定される脈管内溶血の増加と、FACIT−Fatigueクオリティオブライフインストルメントで測定されたクオリティオブライフの低下との間の明確な関係が確立された。
【0122】
(表3 FACIT−Fatigueと脈管内溶血との間の関係)
【0123】
【表3】

安全性
本試験中に死亡はなかった。重篤な有害事象が13人の患者について報告され、その内の4人がエクリズマブ投与コホートであり、9人はプラセボ投与コホートであった(表4参照)。全ての患者は後遺症なく回復した。
【0124】
エクリズマブが投与された患者について最も多く報告されたAEは、頭痛、鼻咽頭炎、背部痛及び上気道感染であった。頭痛及び背部痛が、プラセボ群よりもエクリズマブ投与群に多く発現した。しかしながら、頭痛の増加は、治療の最初の2週間に限定され、軽度から中等度であった。発現率は、報告されたいずれのAEについても投与群間に統計学的な有意差はなかった。
【0125】
1回の血栓症(バッド・キアリ)のエピソードが、プラセボ投与患者に発現した。血栓症は、エクリズマブ投与患者に発現しなかった。
【0126】
エクリズマブ投与コホートにおいて、1人の患者のみが、検出可能なレベルの抗エクリズマブ抗体を示したが、この反応は弱いもので(滴定しなかった)、1時点のみに生じたものであって、補体遮断の崩壊は生じなかった。
【0127】
(表4 有害事象報告)
【0128】
【表4】

考察
急性増悪の期間を有する慢性脈管内溶血は、PNHの古典的な発現であって、貧血、ヘモグロビンレベルを維持するための輸血の必要性、及びクオリティオブライフの悪化を生じさせる。本ピボタル第III相試験(TRIUMPH)において、我々は、PNH患者におけるヘモグロビンレベル及び輸血の必要性に対するエクリズマブによる終末補体阻害の効果を検討した。6ヵ月の期間に亘ってエクリズマブが投与された患者の49パーセントが、輸血なしにヘモグロビンの安定化を示したが、本試験のプラセボ群における患者は誰も示さなかった。全治験期間中輸血に依存しなかった患者は、プラセボ群においては存在しなかったのに対し、エクリズマブ投与患者は、その50%超が全治験期間中輸血に依存せず、全体的な平均輸血率は73%低下した。そのうえ、輸血の非依存を達成しなかった患者においてさえ、エクリズマブ投与は、輸血率の44%の低下と関連していた(データはここで示される)。
【0129】
乳酸脱水素酵素(PNHにおける溶血の生化学的マーカー)は、全てのエクリズマブ投与患者において、直ちに且つ一貫して減少したが、一方でプラセボコホートの患者は、治験終了時に、全ての患者において、正常範囲の上限の5倍を超えるLDHのレベルで溶血が続いた。LDHのレベルは、エクリズマブ投与患者の約1/3において正常範囲に低下したが、一方でその残りは正常値の上限より少し上のレベルで安定し、このことは、何人かの患者において低残留溶血レベルを示唆していた。ハプトグロビン(血行中の無細胞ヘモグロビンの存在に対するのより感受性の高いマーカー)のレベルは、大部分の患者において検出されなかった。エクリズマブ投与患者のサブセットにおける低レベルの溶血は、おそらく、これらの細胞の生存の固有の減少又は細網内皮系によるPNH赤血球のC3b媒介血管外除去によるものである17
【0130】
エクリズマブの投与前に、被験患者のヘモグロビンレベルは、頻回の輸血によって人工的に維持された。それ故、同時に輸血の中止又は減少を伴うヘモグロビンレベルの安定化は、内在性ヘモグロビンレベルの純増を表す。我々のデータは、エクリズマブによる溶血の消失が、基礎疾患の骨髄機能不全の程度と、エクリズマブ治療により維持されたPNH赤血球の数と、輸血の必要性の新しいレベル(あるとしても)との間のバランスによって決定される新しい定常状態のヘモグロビンレベルを生じることを示唆するものである。
【0131】
一般に、PNH患者は、疲労、貧血、血栓症及び肺高血圧症、並びに腹部疼痛や、嚥下障害、勃起不全を包含する平滑筋ジストニーを特徴とする、顕著に損なわれたクオリティオブライフを発現する9、10、19。これらの症状は、過度の脈管内溶血と、血漿中の無細胞ヘモグロビンによる一酸化窒素の下流への除去との両方に起因するものであった。本試験のエクリズマブ投与患者における脈管内溶血の低下は、FACIT−Fatigueインストルメントにより評価された通り、プラセボ投与患者よりもクオリティオブライフの疲労の要素が有意に改善したことと関連していた。更に、エクリズマブの投与は、治療前に確立されたベースライン値を超える6.4ポイントの中央値の増加と関連していた。ベースライン時からの3ポイント以上の増加は、このクオリティオブライフインストルメントの臨床的に重要な差を表すことが既に示されている19。また、エクリズマブを投与された患者においては、プラセボ投与コホートよりも、EORTC QLQ−30の大部分のドメイン(全体的な健康状態、身体機能、情緒機能、認知機能、役割機能、社会的機能、疲労、疼痛、呼吸困難、食欲の喪失及び不眠症を含む)が有意に改善した。EORTC QLQ−30の疲労の要素の改善は、エクリズマブ治療期間中のFACIT−Fatigueインストルメントにおいて示された改善を支持するものである。重要なことに、エクリズマブ投与患者のクオリティオブライフのこれらの改善は、2つの投与群の赤血球ヘモグロビンのレベルが同様であったにもかかわらず発現したが、このことは、貧血とは対照的に、PNH患者のクオリティオブライフの低下の媒介における溶血の寄与を、それ自体で更に支持する。また、PNHの生活の質に関する更なる症状(腹部疼痛や、嚥下障害、勃起不全等)の臨床診査は、エクリズマブ治療期間中に向上したことが報告されている20
【0132】
エクリズマブは安全であり、且つ良好な忍容性を示した。治験中の死亡は存在せず、プラセボ患者において1例の血栓の事象のみが、PNHにおける血栓症に典型的な部位(肝静脈)に発現した。本治験の期間は、相対的に短いもので、エクリズマブによる終末補体阻害によって可能な血栓症の予防についての当該の問題に対処するためには十分ではなかった。
【0133】
一般に、有害事象は、エクリズマブ投与患者において高い頻度で発現する頭痛を伴う軽度なものであったが、この高い頻度は、治療の最初の2回の投与後には持続しなかった。エクリズマブ投与群には4例のSAEが発現し、プラセボ群には9例のSAEが発現した。治験期間中、エクリズマブ投与患者において、感染症のリスクが増大したというエビデンスはなかった。1人のエクリズマブ投与患者は、本試験中のある時点において低レベルの抗エクリズマブ抗体を示したが、この低いレベルは持続せず、補体遮断の崩壊は生じなかった。治験を完了しなかった2人のエクリズマブ投与患者のエクリズマブの中止に関連するAEはなかった。更なる安全性評価並びに有効性の測定は、約95人のPNH患者における進行中のエクリズマブに関する多施設共同オープンラベル第III相安全性試験(SHEPHERD)において検討されている。
【0134】
この二重盲検無作為化プラセボ対照国際共同試験の結果により、エクリズマブによる終末補体阻害が、まれな疾患であるPNHの患者のための安全且つ有効な治療であると思われることが示される。エクリズマブの投与は、脈管内溶血を低減させ、且つ、輸血を減少させたにもかかわらず、ヘモグロビンレベルを、大部分のPNH患者が輸血に依存しなくなるまで安定化させた。また、疲労及び他の主要なクオリティオブライフのパラメーターの実質的且つ臨床的に意義がある改善も示された。本試験を完了した85人の患者全員が、オープンラベル延長試験においてエクリズマブの投与を受けることを決めたが、現在、全員が薬物を継続している。TRIUMPH試験の結果により、エクリズマブによる終末補体阻害が、終末補体阻害剤の欠乏に対する治療的な代替物を提供することによって、PNH造血幹細胞における根源的な遺伝子欠損の重要な帰結に対して、安全且つ効果的に対処することが示される。
【0135】
本発明は、とりわけ、補体の阻害剤の投与を提供する。本発明の多くの変形は、本明細書を再検討することにより当業者にとって明らかであろう。本発明の全般的な範囲は、請求項を、その等価物の全般的な範囲と共に参照することにより、並びに明細書を、かかる変形と共に参照することにより、決定されなければならない。
【0136】
本明細書で述べる全ての刊行物及び特許は、下記で一覧が示されるものを含めて、あたかも個々の刊行物又は特許が参照により組み込まれているものとして具体的且つ個別に示されたのと同程度に、本明細書において完全に参照により組み込まれている。矛盾する場合、全ての定義を含む本明細書が支配する。
【0137】
【化1】

【0138】
【化2】

【0139】
【化3】

(配列)
【0140】
【化4】

【0141】
【化5】

【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1A】図1A−Bは、エクリズマブ投与が脈管内溶血を減少させ、PNH III型赤血球を増加させることを示す。図1Aは、平均乳酸脱水素酵素(LDH)レベルによって示されるPNH患者の脈管内溶血の程度を示す。
【図1B】図1A−Bは、エクリズマブ投与が脈管内溶血を減少させ、PNH III型赤血球を増加させることを示す。図1Bは、プラセボ投与患者とエクリズマブ投与患者とについて評価されたPNH III型赤血球の平均比率を示す。
【図2】PNH患者の輸血の必要性に対するエクリズマブ投与の効果を示す。これは、ベースライン時から26週目までのエクリズマブ投与患者とプラセボ投与患者とについての最初の輸血時間までのカプラン・マイヤープロットである。
【図3】FACIT−Fatigue測定器によって評価された疲労に対するエクリズマブの効果を示す。クオリティオブライフのスコアは、Functional Assessment of Chronic Illness Therapy−Fatigue(FACIT−Fatigue)インストルメントを使用して評価された。ベースライン時から26週までの変化の値は、最小二乗平均値を表す。正の変化は、クオリティオブライフのFACIT−Fatigueの尺度における改善を示し、負の変化は悪化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発作性夜間血色素尿症を患う患者のクオリティオブライフの少なくとも一態様を改善するための方法であって、補体を阻害若しくはC5b−9の形成を阻害する化合物を、それを必要とする該患者に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記クオリティオブライフがFACIT−Fatigueスコアで測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記FACIT−Fatigueスコアが少なくとも3ポイント増加する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記FACIT−Fatigueスコアが4ポイント以上増加する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記クオリティオブライフがEORTC QLQ−C30スコアで測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記EORTC QLQ−C30スコアが処置前スコアの10%以上改善する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
EORTC QLQ−C30スコアで測定されるクオリティオブライフの前記態様が、a)全体的な健康状態、b)身体機能、c)情緒機能、d)認知機能、e)役割機能、f)社会的機能、g)疲労、h)疼痛、i)呼吸困難、j)食欲の喪失、及びk)不眠症からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
クオリティオブライフの前記態様が疲労である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記化合物が、CR1、LEX−CR1、MCP、DAF、CD59、H因子、コブラ毒因子、FUT−175、コンプレスタチン及びK76 COOHからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記化合物が、補体を抑制するステロイドである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記化合物が、抗体、活性抗体フラグメント、可溶性補体阻害化合物、タンパク質、脂質尾部を有する可溶性補体インヒビター、タンパク質フラグメント、ペプチド、低分子有機化合物、RNAアプタマー、L−RNAアプタマー、スピーゲルマー、アンチセンス化合物、セリンプロテアーゼインヒビター、2本鎖RNA、低分子干渉RNA、ロックド核酸インヒビター及びペプチド核酸インヒビターからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物が抗体又は活性抗体フラグメントである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体又は活性抗体フラグメントが、a)ポリクローナル抗体、b)モノクローナル抗体、c)単鎖抗体、d)キメラ抗体、e)ヒト化抗体、f)Fab、g)F(ab’)、h)F(ab’)、i)Fv、j)ダイアボディ、及びk)ヒト抗体からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体又は活性抗体フラグメントがC5切断を遮断する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体又は活性抗体フラグメントがC5b−9の形成を阻害する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体がエクリズマブである、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体又は活性抗体フラグメントが少なくとも6ヵ月間投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記患者が再生不良性貧血又は骨髄異形成症候群を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が貧血である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記患者が、処置後に貧血のままである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記患者のヘモグロビンレベルが、i)男性の場合14g/dL未満、又はii)女性の場合12g/dL未満である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記患者のヘモグロビンレベルが、i)男性の場合13g/dL未満、又はii)女性の場合11g/dL未満である、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記患者のヘモグロビンレベルが、i)男性の場合12g/dL未満、又はii)女性の場合10g/dL未満である、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
発作性夜間血色素尿症を患う患者のクオリティオブライフの少なくとも一態様を改善するための方法であって、脈管内溶血を阻害する化合物を、それを必要とする該患者に投与することを含む、方法。
【請求項25】
前記方法によって前記患者のLDHが30%を超えて低下する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記クオリティオブライフがFACIT−Fatigueスコアで測定される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記FACIT−Fatigueスコアが少なくとも3ポイント増加する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記FACIT−Fatigueスコアが4ポイント以上増加する、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記クオリティオブライフがEORTC QLQ−C30スコアで測定される、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
前記EORTC QLQ−C30スコアが処置前スコアの10%以上改善する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
クオリティオブライフの前記態様が、a)全体的な健康状態、b)身体機能、c)情緒機能、d)認知機能、e)役割機能、f)社会的機能、g)疲労、h)疼痛、i)呼吸困難、j)食欲の喪失、及びk)不眠症からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
クオリティオブライフの前記態様が疲労である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記化合物が、CR1、LEX−CR1、MCP、DAF、CD59、H因子、コブラ毒因子、FUT−175、コンプレスタチン及びK76 COOHからなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項34】
前記化合物が、補体を抑制するステロイドである、請求項24に記載の方法。
【請求項35】
前記化合物が、抗体、活性抗体フラグメント、可溶性補体阻害化合物、タンパク質、脂質尾部を有する可溶性補体インヒビター、タンパク質フラグメント、ペプチド、低分子有機化合物、RNAアプタマー、L−RNAアプタマー、スピーゲルマー、アンチセンス化合物、セリンプロテアーゼインヒビター、2本鎖RNA、低分子干渉RNA、ロックド核酸インヒビター及びペプチド核酸インヒビターからなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項36】
前記化合物が抗体又は活性抗体フラグメントである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記抗体又は活性抗体フラグメントが、a)ポリクローナル抗体、b)モノクローナル抗体、c)単鎖抗体、d)キメラ抗体、e)ヒト化抗体、f)Fab、g)F(ab’)、h)F(ab’)、i)Fv、j)ダイアボディ、及びk)ヒト抗体からなる群から選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記抗体又は活性抗体フラグメントがC5切断を遮断する、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記抗体又は活性抗体フラグメントが少なくとも6ヵ月間投与される、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記化合物が補体を阻害するか若しくはC5b−9の形成を阻害する、請求項24に記載の方法。
【請求項41】
前記化合物が抗体又は活性抗体フラグメントである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記抗体がエクリズマブである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記患者が再生不良性貧血又は骨髄異形成症候群を有する、請求項24に記載の方法。
【請求項44】
貧血が少なくとも部分的に溶血に起因する貧血患者のクオリティオブライフの少なくとも一態様を改善するための方法であって、脈管内溶血を阻害する化合物を、それを必要とする該患者に投与することを含み、該患者が貧血のままである、方法。
【請求項45】
前記方法によって前記患者のLDHが30%を超えて低下する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記患者のヘモグロビンレベルが、i)男性の場合14g/dL未満、又はii)女性の場合12g/dL未満である、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記患者のヘモグロビンレベルが、i)男性の場合13g/dL未満、又はii)女性の場合11g/dL未満である、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記患者のヘモグロビンレベルが、i)男性の場合12g/dL未満、又はii)女性の場合10g/dL未満である、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
前記患者が発作性夜間血色素尿症を患う、請求項44に記載の方法。
【請求項50】
前記クオリティオブライフがFACIT−Fatigueスコアで測定される、請求項44に記載の方法。
【請求項51】
前記FACIT−Fatigueスコアが少なくとも3ポイント増加する、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記FACIT−Fatigueスコアが4ポイント以上増加する、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記クオリティオブライフがEORTC QLQ−C30スコアで測定される、請求項44に記載の方法。
【請求項54】
前記EORTC QLQ−C30スコアが処置前スコアの10%以上改善する、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
クオリティオブライフの前記態様が、a)全体的な健康状態、b)身体機能、c)情緒機能、d)認知機能、e)役割機能、f)社会的機能、g)疲労、h)疼痛、i)呼吸困難、j)食欲の喪失、及びk)不眠症からなる群から選択される、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
クオリティオブライフの前記態様が疲労である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記化合物が、CR1、LEX−CR1、MCP、DAF、CD59、H因子、コブラ毒因子、FUT−175、コンプレスタチン及びK76 COOHからなる群から選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項58】
前記化合物が、補体を抑制するステロイドである、請求項44に記載の方法。
【請求項59】
前記化合物が、抗体、活性抗体フラグメント、可溶性補体阻害化合物、タンパク質、脂質尾部を有する可溶性補体インヒビター、タンパク質フラグメント、ペプチド、低分子有機化合物、RNAアプタマー、L−RNAアプタマー、スピーゲルマー、アンチセンス化合物、セリンプロテアーゼインヒビター、2本鎖RNA、低分子干渉RNA、ロックド核酸インヒビター及びペプチド核酸インヒビターからなる群から選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項60】
前記化合物が抗体又は活性抗体フラグメントである、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記抗体又は活性抗体フラグメントが、a)ポリクローナル抗体、b)モノクローナル抗体、c)単鎖抗体、d)キメラ抗体、e)ヒト化抗体、f)Fab、g)F(ab’)、h)F(ab’)、i)Fv、j)ダイアボディ、及びk)ヒト抗体からなる群から選択される、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記抗体又は活性抗体フラグメントがC5切断を遮断する、請求項60に記載の方法。
【請求項63】
前記抗体又は活性抗体フラグメントが少なくとも6ヵ月間投与される、請求項60に記載の方法。
【請求項64】
前記化合物が補体を阻害するか若しくはC5b−9の形成を阻害する、請求項44に記載の方法。
【請求項65】
前記化合物が抗体又は活性抗体フラグメントである、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記抗体がエクリズマブである、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記患者が再生不良性貧血又は骨髄異形成症候群を有する、請求項44に記載の方法。
【請求項68】
患者の健康調整平均余命を延長する方法であって、C5b−9の形成を阻害する化合物を、それを必要とする該患者に投与することを含む、方法。
【請求項69】
前記患者が貧血である、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記患者が、処置後に貧血のままである、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記患者のヘモグロビンレベルが、i)男性の場合14g/dL未満、又はii)女性の場合12g/dL未満である、請求項68に記載の方法。
【請求項72】
前記患者のヘモグロビンレベルが、i)男性の場合13g/dL未満、又はii)女性の場合11g/dL未満である、請求項68に記載の方法。
【請求項73】
前記患者のヘモグロビンレベルが、i)男性の場合12g/dL未満、又はii)女性の場合10g/dL未満である、請求項68に記載の方法。
【請求項74】
前記患者が発作性夜間血色素尿症を患う、請求項68に記載の方法。
【請求項75】
前記健康調整平均余命が、損失生存可能年数、無障害平均余命、健康調整生存年数、質調整生存年数、健康当量年数、健康日数の増加、無エピソード日数、Q−TWiST、健康効用指標又は健康生存年数からなる群から選択される単位に従って測定される、請求項68に記載の方法。
【請求項76】
被験体の健康調整平均余命が少なくとも1日間延長される、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
被験体の健康調整平均余命が少なくとも1週間延長される、請求項75に記載の方法。
【請求項78】
被験体の健康調整平均余命が少なくとも一ヶ月間延長される、請求項75に記載の方法。
【請求項79】
被験体の健康調整平均余命が少なくとも1年間延長される、請求項75に記載の方法。
【請求項80】
前記化合物が、CR1、LEX−CR1、MCP、DAF、CD59、H因子、コブラ毒因子、FUT−175、コンプレスタチン及びK76 COOHからなる群から選択される、請求項68に記載の方法。
【請求項81】
前記化合物が、補体を抑制するステロイドである、請求項68に記載の方法。
【請求項82】
前記化合物が、抗体、活性抗体フラグメント、可溶性補体阻害化合物、タンパク質、脂質尾部を有する可溶性補体インヒビター、タンパク質フラグメント、ペプチド、低分子有機化合物、RNAアプタマー、L−RNAアプタマー、スピーゲルマー、アンチセンス化合物、セリンプロテアーゼインヒビター、2本鎖RNA、低分子干渉RNA、ロックド核酸インヒビター及びペプチド核酸インヒビターからなる群から選択される、請求項68に記載の方法。
【請求項83】
前記化合物が抗体又は活性抗体フラグメントである、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
前記抗体又は活性抗体フラグメントが、a)ポリクローナル抗体、b)モノクローナル抗体、c)単鎖抗体、d)キメラ抗体、e)ヒト化抗体、f)Fab、g)F(ab’)、h)F(ab’)、i)Fv、j)ダイアボディ、及びk)ヒト抗体からなる群から選択される、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記抗体又は活性抗体フラグメントがC5切断を遮断する、請求項83に記載の方法。
【請求項86】
前記抗体又は活性抗体フラグメントが少なくとも6ヵ月間投与される、請求項83に記載の方法。
【請求項87】
前記化合物が補体を阻害するか、若しくはC5b−9の形成を阻害する、請求項68に記載の方法。
【請求項88】
前記化合物が抗体又は活性抗体フラグメントである、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
前記抗体がエクリズマブである、請求項88に記載の方法。
【請求項90】
前記患者が再生不良性貧血又は骨髄異形成症候群を有する、請求項68に記載の方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2009−530299(P2009−530299A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500498(P2009−500498)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際出願番号】PCT/US2007/006606
【国際公開番号】WO2007/106585
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(503102674)アレクシオン ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (51)
【Fターム(参考)】