説明

補体因子H由来ショートコンセンサスリピート−抗体構築物

本発明は、補体因子H由来のショートコンセンサスリピート(fH由来のSCR)及び病原菌を特異的に認識する結合分子を含む、補体活性化構築物に関する。より具体的には、fH由来のSCRは、SCR7、SCR9、SCR13、SCR18〜20及び人工SCR(aSCR)からなる群より選択される。さらに、病原菌の感染又は病原菌の感染に関連する病的状態の予防、治療又は改善の処置のための補体に基づくアプローチをスクリーニングするためのインビボ法が記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補体因子H由来のショートコンセンサスリピート(fH由来SCR)及び病原菌を特異的に認識する結合分子を含む補体活性化構築物に関する。より具体的には、fH由来SCRは、SCR7、SCR9、SCR13、SCR18〜20及び人工SCR(aSCR)からなる群より選択される。さらに、病原菌の感染又は病原菌の感染に関連する病的状態の予防、治療又は改善の処置のための、補体に基づくアプローチをスクリーニングするためのインビボ法が記載される。
【背景技術】
【0002】
動物ウイルス、例えば動物RNAウイルスなどは、ヒト血清により不活化されて溶解することができる(Takeuchi (1994) J Virol. 68: 8001-7; Cooper (1976) J Exp Med. 144: 970-84; Bartholomew (1978) J Immunol. 121: 1748-51; Bartholomew (1978) J Exp Med. 147: 844-53; Sherwin (1978) Int J Cancer. 21(1): 6-11; Jensen (1979) Hamatol Bluttransfus. 23: 501-3; Kobilinsky (1980) Infect Immun. 29(1): 165-70); Dierich (1996): 「Immunology of HIV infection」, 編者: S. Gupta, New York, Plenum Press, 365-376を参照のこと)。この中和化特性は、ヒト補体に媒介される。また、ヒトレトロウイルス、例えばヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)又はヒト免疫不全ウイルス(HIV)などはこの補体系を活性化させる。これらのウイルスは、感染の急性期の間に既に古典的経路を誘発し、その結果C3フラグメントのウイルス表面への沈着をもたらす(Ebenbichler (1991) J Exp Med. 174: 1417-24; Stoiber (2001) Immunol Reviews 180:168-76; Saifuddin (1995) AIDS Res Hum Retroviruses 11: 1115-22; Stoiber (1997) Annu Rev Immunol. 15: 649-674)。
【0003】
動物血清により不活化されるとはいえ、HTLV又はHIVによる補体カスケードの活性化は、ヒト血清でインキュベートすると部分的なウイルス溶解(virolysis)しかもたらさないようである(Stoiber (1997) 前掲; Sullivan (1996) J Immunol 157: 1791-1798; Dierich (1996) Nature Med 2: 153-155)。ヒト補体に対するこの内在的な抵抗の原因は、宿主細胞由来のタンパク質であり、これは出芽過程の間にHIVにより獲得される(Frank (1996) AIDS 10: 1611-20)。これらには、補体活性化のレギュレーター(RCA)、例えば補体系をダウンレギュレートするCD46(MCP)、CD55(DAF)又はCD59がある(Montefiori (1994) Virology 205: 82-92; Saifuddin (1995) J Exp Med. 182: 501-509; Schmitz (1995) J Clin Invest. 96: 1520-6; Marschang (1995) Eur J Immunol. 25: 285-290; Takeftnan (1998) Virology 46: 370-378)。
【0004】
レトロウイルスのその自然宿主の補体に対する内在的な抵抗は、一般的な現象を表していると思われる。マウスレトロウイルスは、マウス血清に抵抗性であるが、その他の種、例えばヒト、ネコ又はヒツジの補体により効率的に破壊される(Spear (1991) Immunology 73: 377-82 及び自身の未発表の知見)。同様に、上に考察されるように、HIVはヒト補体の影響を受けないが、動物血清により数分以内に溶解される。従って、レトロウイルスは、類似するが種特異的な保護機構に適応して、それらの自然宿主における補体活性化を、ウイルス溶解を誘導するために必要な閾値より下に保ってきた。そのために、オプソニン化したビリオンはレトロウイルス感染宿主に蓄積する。
【0005】
これまでに、ウイルスが液相中で補体因子H(fH)に結合することが示されている。fHは補体活性化(RCA)の負のレギュレーターであるので、上記fH結合は、ウイルス粒子、例えばHIVの補体に誘導される溶解に対して重要な保護を促進する(Stoiber (1996) J Exp Med. 183: 307-310)。fH枯渇血清でHIVをインキュベートすると、HIV特異的抗体の存在下で最高80%の補体依存性ウイルス溶解がもたらされるため、ウイルスの保護のためのfHの重要な役割は明白である(Stoiber (1996)前掲)。
【0006】
共通するRCAモチーフは、約60アミノ酸(aa)の反復、すなわちショートコンセンサスリピート(SCR)又は補体コンセンサスリピート(CCR)である(Takeuchi (1994)前掲)。fHは、20のSCR単位に組織化される(Prodinger (2004) : Fundamental Immunology, 編者: WE. Paul, Lippincott- Raven Publishers)。fHの最初の5つのSCRは、C3b不活性化のためのコファクターとしての機能を果たす「崩壊促進活性」を有する(Prodinger (2004)前掲)。SCR7、9、18〜20及びおそらくSCR13は、fHと、負に帯電した表面成分、例えばヘパリンとの結合を媒介する(Prodinger (2004) 前掲; Cheng (2006) MoI Immunol. 43: 972-9)。fHと負に帯電した宿主細胞の結合は、宿主自体の補体によって誘導される損傷からの宿主細胞の保護に寄与する。
【0007】
EP-A1 0 854 150号には、100アミノ酸未満のペプチド鎖であり、CFH(fH)−結合領域と結合が可能な、病原菌誘導性疾患の治療のための試薬が記載されている。しかし、これらのペプチドもなお、ある種の不都合な点があり、さらに良い治療選択肢が望まれていることが示され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許EP-A1 0 854 150号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Takeuchi著、「ジャーナル・オブ・ヴァイロロジー(J Virol.)」第68巻、第8001-7頁、1994年
【非特許文献2】Cooper著、「ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン(J Exp Med.)」第144巻、第970-84頁、1976年
【非特許文献3】Bartholomew著、「ジャーナル・オブ・イムノロジー(J Immunol.)」第121巻、第1748-51頁、1978年
【非特許文献4】Bartholomew著、「ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン(J Exp Med.)」第147巻、第844-53頁、1978年
【非特許文献5】Sherwin著、「インターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサー(Int J Cancer.)」、第21巻(1)、第6-11頁、1978年
【非特許文献6】Jensen著、「Hamatol Bluttransfus. 」第23巻、第501-3頁、1979年
【非特許文献7】Kobilinsky著、「インフェクション・アンド・イムニティー(Infect Immun.)」第29巻(1)、第165-70頁、1980年
【非特許文献8】Dierich著、「HIV感染の免疫学(Immunology of HIV infection)」第365-376頁、S.Gupta編、プレナム・プレス社(Plenum Press)、ニューヨーク、1996年
【非特許文献9】Ebenbichler著、「ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン(J Exp Med.)」第174巻、第1417-24頁、1991年
【非特許文献10】Stoiber著、「Immunol Reviews」第180巻、第168-76頁、2001年
【非特許文献11】Saifuddin著、「AIDS Res Hum Retroviruses」第11巻、第1115-22頁、1995年
【非特許文献12】Stoiber著、「アニュアル・レビュー・オブ・イムノロジー(Annu Rev Immunol.)」第15巻、第649-674頁、1997年
【非特許文献13】Sullivan著、「ジャーナル・オブ・イムノロジー(J Immunol.)」第157巻、第1791-1798頁、1996年
【非特許文献14】Dierich著、「ネイチャー・メディシン(Nature Med)」第2巻、第153-155頁、1996年
【非特許文献15】Frank著、「エイズ(AIDS)」第10巻、第1611-20頁、1996年
【非特許文献16】Montefiori著、「ヴァイロロジー(Virology)」第205巻、第82-92頁、1994年
【非特許文献17】Saifuddin著、「ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン(J Exp Med.)」第182巻、第501-509頁、1995年
【非特許文献18】Schmitz著、「ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(J Clin Invest.)」第96巻、第1520-6頁、1995年
【非特許文献19】Marschang著、「ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・イムノロジー(Eur J Immunol.)」第25巻、第285-290頁、1995年
【非特許文献20】Takeftnan著、「ヴァイロロジー(Virology)」第46巻、第370-378頁、1998年
【非特許文献21】Spear著、「イムノロジー(Immunology)」第73巻、第377-82頁、1991年
【非特許文献22】Stoiber著、「ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン(J Exp Med.)」第183巻、第307-310頁、1996年
【非特許文献23】Prodinger著、「Fundamental Immunology」WE.Paul編、リッピンコット−レイブン出版(Lippincott-Raven Publishers)、2004年
【非特許文献24】Cheng著、「モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)」第43巻、972-9頁、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の根底にある技術的問題は、病原菌の感染又は病原菌の感染に関連する病的状態又は癌のような増殖性疾患に関連する状態の予防、治療又は改善のための有効な手段及び方法を提供することである。上記の技術的問題に対する解決策は、特許請求の範囲に特徴づけられる実施形態をもたらすことにより実現される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本発明は、
(a)補体因子H由来ショートコンセンサスリピート(fH由来SCR);及び
(b)病原菌を特異的に認識する結合分子
を含み、上記fH由来SCRがヘパリンと結合可能なポリペプチドを含む、ショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)に関する。
【0012】
一実施形態では、上記fH由来のSCRは、SCR7、SCR9、SCR13、SCR18〜20及び人工SCR(aSCR)、又は上記fH由来のSCR7、SCR9、SCR13、SCR18〜20及びaSCRの機能性フラグメントからなる群より選択される。
【0013】
本発明に従って用いられるSCR−Ab構築物は、本明細書において定義される補体因子H由来のショートコンセンサスリピートに加えて、病原菌を特異的に認識する結合分子をさらに含む。以下の明細書及び添付される実施例中に記述されるように、本発明に従って、意外にも本発明のSCR−Ab構築物が極めて予想しない方法でインビトロで病原菌を溶解可能であることが見出された。それとは対照的に、病原菌特異的結合分子を含まないSCR由来のポリペプチドは、同じ条件下で病原菌の溶解を誘導できなかった。従って、本発明の実施形態は、EP−A1 0 854 150号などの先行技術の欠点を克服する。また、本明細書に記載されるSCR−Ab構築物がインビボでの病原菌感染の治療に有用であることも見出された。実施例に記述されるように、病原菌特異的結合分子を欠くSCR構築物又は病原菌特異的結合分子に結合していないSCR構築物はあまり効果的でなく、且つ、部分的も機能しない。これらの本発明の構築物は、癌及び/又は増殖性障害への医学的介入においても有用であり、これらの実施形態では癌細胞、腫瘍細胞又は悪性細胞に特異的に結合するか、或いはこれら細胞を認識する結合分子が使用できる;以下の項目も参照のこと。そのために、病原菌感染宿主細胞又は癌細胞、悪性細胞若しくは腫瘍細胞のような悪性細胞を阻害及び/又は排除することが望まれる医療機関において、本明細書に記載される本発明の薬学的概念が使用されることも想定される。
【0014】
そのために、本発明は、
(a)補体因子H由来ショートコンセンサスリピート(fH由来SCR);及び
(b)癌細胞を特異的に認識する結合分子
を含み、上記fH由来SCRがヘパリンと結合可能なポリペプチドを含む、ショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)にも関する。
【0015】
一実施形態では、上記fH由来のSCRは、SCR7、SCR9、SCR13及びSCR18〜20、又は上記fH由来のSCR7、SCR13、SCR18〜20及び人工SCR(aSCR)の機能性フラグメントからなる群より選択される。
【0016】
モノクローナル抗体(mAb)は、特定の種類の腫瘍の治療に有望な展望を提供する(Reichert (2007) Nat Rev Drug Discov 6:349-356)。血管新生調節増殖因子、例えばVEGFなど又は腫瘍抗原を標的化するmAbは、従来の薬物と併用される場合により強い治療効力を可能にし、それにより古典的な化学療法スキームと新しい免疫療法の概念(すなわち化学免疫療法)とを一体化させる。乳癌においてHer2/Neuを標的化すること、リンパ腫においてCD20を標的化すること、並びに胃腸癌においてEGFR及びVEGFを標的化することは、化学療法単独と比較して生存期間を延長させることが既に証明されており、そのために、これらの癌種に関して重要なさらなる治療選択肢を示す(Reichert (2007) 前掲)。さらに、原発腫瘍の外科的切除後のHer2/Neu過剰発現乳癌での補助療法(adjuvant setting)においてHer2/Neuの細胞外エピトープに対して指向される抗体(トラスツズマブ)を試験する臨床研究から得たデータは、死亡の危険性のおよそ30%の低下を証明した。このことは補助的な化学療法単独と比較した場合非常に重要である。
【0017】
これらのデータは、腫瘍負荷が最小限の(すなわち、固形原発腫瘍の切除後に微小転移又は残留腫瘍細胞のある)患者に適用した場合、mAbが最も有望な治療法であるという考えを支持する。mAbの顕著な効力にもかかわらず、そのヒト癌における臨床上の有効性は、最適からかけ離れている(Holz (1998) Recent Results Cancer Res 146:214-218)。そのため、放射性免疫複合体又は二重特異性抗体の適用を含むいくつかの戦略が、それらの臨床上の有効性を高めるために前臨床モデル並びに臨床試験において、現在試験されている(Reichert (2007) 前掲)。
【0018】
mAbと腫瘍細胞の結合は、補体依存性細胞傷害性(CDCC)及び補体媒介性溶解による腫瘍細胞の破壊を結果としてもたらすことができる、補体活性化を誘導すると考えられる(Durrant (2001). Curr Opin Investig Drugs 2:959-966)。しかし、正常な細胞に似た腫瘍は、ある種の腫瘍に過剰発現される補体活性化のレギュレーター(RCA)により、補体誘導性損傷から保護されるので、これらの補体媒介性エフェクター機能は制限される (Durrant (2001)前掲)。これらのRCAには、膜に固定されたレギュレーター、例えばCD46(MCP)、CD55(DAF)又はCD59、さらには因子H(fH)のような液相中のRCAがある(Bjorge (2005) Br J Cancer 9:895-905; Prodinger (2004) Complement.: Fundamental Immunology. 編者: Paul WE, Lippincott-Raven Publishers)。
【0019】
fHが数種類の腫瘍の保護に果たす重大な役割は、卵巣、肺及び結腸癌細胞について示されている(Prodinger (2004) loc.cit.; Ajona (2007) J Immunol 178:5991-5997; Fedarko (2000) J Biol Chem 275(22): 16666- 16672; Kinders (1998) Clin Cancer Res 4:2511-2520)。
【0020】
説明したように、RCAの共通のモチーフは、約60のアミノ酸(aa)の反復で、ショートコンセンサスリピート(SCR)又は補体コンセンサスリピートと呼ばれる(Prodinger (2004) 前掲)。fHは、20のSCR単位に組織化される(Prodinger (2004) 前掲)。fHの最初の5つのSCRは、「崩壊促進活性」を示し、C3b不活性化を促進する(Prodinger (2004) 前掲)。SCR7、9、18〜20及びおそらくSCR13は、fHと、負に帯電した表面成分、例えばヘパリンスルフェートとの結合を媒介する(Prodinger (2004) 前掲)。fHと負に帯電した宿主細胞との結合は、宿主自体の補体によって誘導される損傷からの宿主細胞の保護に寄与する。
【0021】
RCAのみでなく、負に帯電した表面構造も、ある種の腫瘍においてアップレギュレートされるので(Fedarko (2000) 前掲)、fHは高い選択性で腫瘍表面に結合し、それにより、補体の誘導する溶解に対する保護に寄与する。本明細書において例示されるように、RCA、例えばfHのブロッキングによってmAb療法の有効性は増大する。
【0022】
本明細書において、用語「ショートコンセンサスリピート」、「SCR」「補体コンセンサスリピート」又は「CCR」は、補体活性のレギュレーター(RCA)をコードするポリヌクレオチド又はアミノ酸配列から推定することのできる、コンセンサスリピートモチーフに関する。特に、RCAと負に帯電した成分、例えばヘパリンの結合を媒介するSCRは、本発明の状況において関連があり得る。一実施形態では、本発明のSCR−Ab構築物に含まれるSCRは、SCR7、SCR9、SCR13、SCR18〜20及び人工SCR(aSCR)またはそれらの機能性フラグメントからなる群より選択されるfH由来のSCRであってもよい。しかし、SCRが、補体活性化のダウンレギュレートに関連する「崩壊促進活性」も有し得ることに注意されたい。
【0023】
本明細書において、用語「人工ショートコンセンサスリピート」、「人工SCR」又は「aSCR」は、天然に存在しない補体活性のレギュレーター(RCA)であるアミノ酸配列(又はこのようなアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列)に関する。「人工SCR」は、本明細書において、天然に存在しないRCAと負に帯電した成分、例えばヘパリンとの結合を媒介する。従って、「aSCR」は、特に、ヘパリンと結合可能である、fHの人工誘導体又は補体調節タンパク質ファミリーの関連タンパク質を表す。ヘパリン結合部位として機能し、且つ、「人工SCR」を負に帯電した表面成分に結合させるのに寄与するアミノ酸モチーフは当分野で公知である;数ある中でも、Smith(2000) J Virol 74:5659−5666及びGhebremariam(2005) Ann N Y Acad Sci 1056:113−122を参照のこと。従って、「人工SCR」/「aSCR」は、基本的なアミノ酸残基、例えばR又はKのクラスターを含む繰り返し配列を含んでもよく、その結果、「X」が任意の天然に存在するアミノ酸である、配列モチーフ「R/K−X−R/K」が得られる。さらに、ヘパリンと結合可能なfH由来のタンパク質は、9%を上回る正に帯電したアミノ酸で構成されており、全体の等電点(pI)は7.0より大きいことが当分野に記載されている(Smith (2000) J Virol 74:5659-5666)。ヘパリン結合人工SCR又はそのフラグメントが病原菌の溶解を誘導する能力は、本明細書の以下の記載のように、及び特に添付の実施例中に記載されるインビトロ溶解アッセイを用いて試験することができる。
【0024】
総合すると、本発明に従う、本発明のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)に含まれる人工SCR(又はそのフラグメント)は、(i)表面が露出した反復性K/R−X−K/Rモチーフ(ここで、「X」は任意の天然に存在するアミノ酸である)を含み;(ii)9%を上回る正に帯電したアミノ酸を含み;且つ/又は(iii)7.0より大きい全体の等電点(pI)を有し得る。本発明に従う人工SCRの一例は、本明細書の下文に配列番号32で示されるアミノ酸配列を含んでもよく、配列番号31に含まれるポリヌクレオチドによりコードされてもよい。だが、当業者は、例えば、本明細書に記載される、ヘパリン結合を試験するためのインビトロアッセイ及び/又は本明細書に記載されるインビトロ溶解アッセイを用いることにより、本明細書に提供されるようなSCR−Ab構築物中で有用なさらなる人工SCRを容易に使用し、且つ、入手する立場にある。
【0025】
本明細書において、本発明のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)に含まれる用語「結合分子」は、(a)潜在的結合パートナー(1又は複数)と特異的に相互作用することが可能であり、それにより、複数の異なる分子のプールから潜在的結合パートナー(1又は複数)のみが結合するか又はそれが有意に結合する程度まで、潜在的結合パートナー(1又は複数)と複数の異なる分子とを可能性のある結合パートナー(1又は複数)として区別できる分子に関する。結合分子と潜在的結合パートナーの結合を測定するための方法は当分野で公知であり、例えばBiacore装置を使用することにより日常的に実施することができる。
【0026】
EP−A1 0 854 150号には、fH由来の病原菌結合ペプチド鎖が、好ましくはSCR13領域由来の配列を含み、一方、fHのSCR7領域が除去されることが教示される。EP−A1 0 854 150号は、本発明に記載されるようなSCR−Ab構築物を提供しないし、示唆もしていない。驚くべきことに(且つ、この従前の教示とは対照的に)、本発明のSCR−Ab構築物も、特に、SCR7、SCR9、SCR18〜20及び人工SCR(aSCR)を含む、その他のfH由来SCR配列を含み得る。
【0027】
一実施形態では、本発明のSCR−Ab構築物に含まれるようなfH由来のSCRは、本明細書の以下に配列番号4、22、24、6、26、8、30又は32で示されるアミノ酸配列或いはそれらの機能性フラグメントを含み得る:
【化1−1】

【化1−2】

【0028】
上記アミノ酸配列の配列番号4、22、24、6、26、8、30及び32は、それぞれ、配列番号3、21、23、5、25、7、29及び31に含まれるポリヌクレオチドによりコードされ得る:
【化2−1】

【化2−2】

【0029】
当業者には、本発明が、本明細書に提供される具体的なショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)配列に制限されないことは明白である。
【0030】
一実施形態では、本発明のSCR−Ab構築物に含まれるfH由来SCRは、上記の配列番号3、21、23、5、25、7、29及び31に含まれるポリヌクレオチドと、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドの相補的配列によりコードされるポリペプチドを含んでもよく、上記SCRはfH結合部位に結合可能である。
【0031】
別の実施形態では、本発明のSCR−Ab構築物に含まれるfH由来SCRは、配列番号4、22、24、6、26、8、30又は32に含まれるアミノ酸配列に少なくとも60%同一であるアミノ酸配列によりコードされるか、又は配列番号3、21、23、5、25、7、29又は31に含まれる核酸配列に少なくとも60%同一である核酸分子よりコードされるポリペプチドを含んでもよく、上記ポリペプチドは、上記病原菌の補体因子H結合部位に結合可能である。
【0032】
さらに別の実施形態では、本発明のSCR−Ab構築物に含まれるfH由来SCRは、配列番号4、22、24、6、26、8又は30に含まれるアミノ酸によりコードされるか、或いは、配列番号3、21、23、5、25、7又は29に含まれる核酸配列のオーソログである核酸分子によりコードされる、ポリペプチドのオーソログを含んでもよく、上記ポリペプチドは、上記病原菌の補体因子H結合部位に結合可能である。所与のポリペプチドのオーソログを同定するための方法は、本明細書に記載されるハイブリダイゼーション法をはじめ、当分野で周知である。
【0033】
さらに別の実施形態では、本発明のSCR−Ab構築物に含まれるfH由来SCRは、配列番号4又は配列番号22に含まれるアミノ酸配列によりコードされるポリペプチド或いはそれらの機能性フラグメントを含んでもよい。
【0034】
最も好ましい実施形態では、本発明のSCR−Ab構築物に含まれるfH由来SCRをコードするアミノ酸配列に含まれる塩基性アミノ酸残基は交換されない。塩基性アミノ酸残基は、リジン、アルギニン及びヒスチジンである。
【0035】
SCR又はそのフラグメントがfH結合部位に結合可能であるかどうかを試験するのに適切な方法は、当分野で公知である。fHの結合は、特に、SCRと負の表面成分、例えばヘパリンとの結合によって媒介される(Prodinger (2004、前掲;Cheng (2006) 前掲)。したがって、fH由来SCR又は本発明の状況において有用な機能性フラグメントの同定は、本明細書の以下の実施例に記載されるようなヘパリン結合実験を用いて達成されてもよい。ヘパリンに結合可能なさらなるfH由来SCRの一例は、SCR9である。ヘパリン結合性SCR又はそのフラグメントが病原菌の溶解を誘導する能力は、本明細書の以下の実施例に記載されるようなインビトロ溶解アッセイを用いて試験することができる。しかしながら、他のSCR結合アッセイまたはインビトロ溶解アッセイもまた、本明細書に記載されるような本発明のSCR−Ab構築物におけるfH由来SCRポリペプチド配列の使用のためにそれらfH由来SCRポリペプチド配列を試験するのに有用であり得ることを当業者は承知している。
【0036】
用語「ハイブリダイゼーション」又は「ハイブリダイズする」は、本明細書において、ストリンジェントな又はストリンジェントでない条件下でのハイブリダイゼーションに関連し得る。さらに指定されない場合、条件はストリンジェントでないことが好ましい。上記ハイブリダイゼーション条件は、例えば、Sambrook,Russell 「Molecular Cloning,A Laboratory Manual」,Cold Spring Harbor Laboratory N.Y.(2001);Ausubel,「Current Protocols in Molecular Biology」,Green Publishing Associates and Wiley Interscience,N.Y.(1989)、又はHiggins及びHames(編)「Nucleic acid hybridization,a practical approach」 IRL Press Oxford,Washington DC,(1985)に記載される従来のプロトコールに従って確立することができる。条件の設定は十分に当業者の技量の範囲内であり、当分野で記載されるプロトコールに従って決定することができる。従って、特異的にハイブリダイズする配列のみの検出は、通常、ストリンジェントなハイブリダイゼーション及び洗浄条件、例えば65℃にて0.1×SSC、0.1% SDSを必要とする。相同配列又は必ずしも相補的でない配列の検出のためのストリンジェントでないハイブリダイゼーション条件は、65℃にて6×SSC、1% SDSに設定されてもよい。周知の通り、プローブの長さ及び決定される核酸の組成は、ハイブリダイゼーション条件のさらなるパラメータを構成する。上の条件の変形は、ハイブリダイゼーション実験のバックグラウンドを抑制するために用いる代替のブロッキング試薬を含めること及び/又は置換することによって実現することができることに注意されたい。典型的なブロッキング試薬としては、デンハート試薬、BLOTTO、ヘパリン、変性サケ精子DNA、及び市販されている独自の配合物が挙げられる。特異的ブロッキング試薬を含めることは、適合性の問題に起因して、上記のハイブリダイゼーション条件の修正を必要とし得る。ハイブリダイズする核酸分子も上記の分子のフラグメントを含む。このようなフラグメントは、少なくとも12ヌクレオチド、好ましくは少なくとも15、より好ましくは少なくとも18、より好ましくは少なくとも21ヌクレオチドの、より好ましくは少なくとも30ヌクレオチド、さらにより好ましくは少なくとも40ヌクレオチド及び最も好ましくは少なくとも60ヌクレオチドの長さを有する、fH由来SCRまたはその機能性フラグメントをコードする核酸配列を示し得る。さらに、上述の核酸分子のいずれかとハイブリダイズする核酸分子としてはまた、これら分子の相補性フラグメント、誘導体及び対立遺伝子変異体が挙げられる。その上、ハイブリダイゼーション複合体とは、相補的なG及びC塩基間、並びに相補的なA及びT塩基間の水素結合の形成による、2つの核酸配列間の複合体を指す;これらの水素結合は、塩基スタッキング相互作用によりさらに安定化され得る。これらの2つの相補的な核酸配列は、逆平行立体配置において水素結合する。ハイブリダイゼーション複合体は、溶液中で形成されるか(例えば、Cot又はRot分析)、または溶液中に存在する1つの核酸配列と固相支持体上に固定化されているもう一つ核酸配列(例えば、細胞が固定されている膜、フィルタ、チップ、ピン又はスライドガラス)との間に形成される。用語「相補的な」又は「相補性」とは、許容できる塩条件及び温度条件下での、塩基対合することによるポリヌクレオチドの自然な結合を指す。例えば、配列「A−G−T」は、相補的配列「T−C−A」に結合する。2つの一本鎖分子間の相補性は、「部分的」(一部の核酸のみが結合する)であってもよく、一本鎖分子の間に全体的な相補性が存在する場合には完全であってもよい。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率及び強度に有意な効果を有する。これは核酸鎖間の結合に依存する増幅反応において特に重要である。
【0037】
用語「ハイブリダイズする配列」とは、好ましくは、上に記載されるような抗体分子をコードする核酸配列と、少なくとも40%の配列同一性、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、特に好ましいものは少なくとも80%、より特に好ましいものは少なくとも90%、さらにより特に好ましいものは少なくとも95%及び最も好ましくは少なくとも97%の同一性の配列を提示する配列を指す。さらに、用語「ハイブリダイズする配列」とは、好ましくは、少なくとも40%の配列同一性、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、特に好ましいものは少なくとも80%、より特に好ましいものは少なくとも90%、さらにより特に好ましいものは少なくとも95%及び最も好ましくは少なくとも97%の同一性を有する、fH由来SCRまたはその機能性フラグメントをコードする配列を指す。
【0038】
本発明によると、2又はそれ以上の核酸又はアミノ酸配列の関連における用語「同一の」又は「パーセント同一性」とは、当分野で公知の配列比較アルゴリズムを用いるか又は手動のアラインメント及び目視検査によって測定して比較ウィンドウ又は指定領域にわたって比較される場合および最大一致で整列される場合に、同一である2以上の配列もしくは部分配列、又は同一であるアミノ酸配列もしくはヌクレオチド配列の特定のパーセンテージ(例えば、60%又は65%の同一性、好ましくは、70〜95%の同一性、より好ましくは少なくとも95%の同一性)を有する配列もしくは部分配列を指す。例えば、60%〜95%又はそれ以上の配列同一性を有する配列は、実質的に同一と見なされる。そのような定義は試験配列の相補体にも適用される。好ましくは記載される同一性は、少なくとも約15〜25アミノ酸長又はヌクレオチド長の領域にわたって、より好ましくは、約50〜100アミノ酸長又はヌクレオチド長の領域にわたって存在する。当業者であれば、例えば、当分野で公知の、アルゴリズム、例えばCLUSTALWコンピュータプログラム(Thompson Nucl. Acids Res. 2 (1994), 4673-4680)又はFASTDB(Brutlag Comp. App. Biosci. 6 (1990), 237-245)に基づくものなどを用いて配列間のパーセント同一性を決定する方法が分かるであろう。
【0039】
FASTDBアルゴリズムは一般に、配列内部の適合しない欠失又は付加、すなわちギャップをその計算に考慮しないが、これは手作業で訂正して%同一性の過大評価を回避することができる。しかしながら、CLUSTALWはその同一性の計算に配列ギャップを考慮する。当業者には、BLAST及びBLAST2.0アルゴリズムも利用可能である(Altschul, Nucl. Acids Res. 25 (1997), 3389-3402; Altschul, J. MoI. Evol. 36 (1993), 290-300; Altschul, J. MoI. Biol. 215 (1990), 403-410)。核酸配列用のBLASTNプログラムはデフォルトとして、11のワード長(W)、10の期待値(E)、M=5、N=4、及び両方の鎖の比較を用いる。アミノ酸配列用のBLASTPプログラムは、デフォルトとして、3のワード長(W)、及び10の期待値(E)を用いる。BLOSUM62採点マトリックス(Henikoff Proc. Natl. Acad. ScL, USA, 89, (1989), 10915)は、50のアラインメント(B)、10の期待値(E)、M=5、N=4、及び両方の鎖の比較を用いる。
【0040】
さらに、本発明はまた、上記のハイブリダイズする分子の配列と比較してその配列が縮重している核酸分子に関する。本発明に従って用いられる場合、用語「遺伝子コードの結果として縮重している」とは、遺伝コードの冗長性に起因して、異なるヌクレオチド配列が同じアミノ酸をコードすることを意味する。
【0041】
所与のfH由来SCR配列中のアミノ酸残基又はヌクレオチド残基が、例えば、配列番号4、22、24、6、26、8、30及び32のいずれかのアミノ酸配列又はヌクレオチド配列中の特定の位置に対応するかどうかを決定するため、当業者は当分野で周知の手段及び方法、例えばアライメントを、手動で、又は、用語「ハイブリダイゼーション」の定義及び相同性の程度に関連して以下でさらに言及されるようなコンピュータプログラムを用いて、使用することができる。
【0042】
例えば、ベーシックローカルアライメントサーチツールBLAST(Altschul (1997), 前掲; Altschul (1993), 前掲; Altschul (1990), 前掲)を表わすBLAST2.0は、局所的な配列のアライメントを検索するのに使用することができる。上に考察されるように、BLASTは、配列類似性を決定するためのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の両方のアライメントを生成する。アライメントの局所的性質のため、BLASTは正確な一致を決定する際、又は類似する配列を同定する際に特に有用である。BLASTアルゴリズム出力の基本ユニットは、高スコアのセグメント対(High−scoring Segment Pair:HSP)である。HSPは、任意ではあるが等しい長さの2つのフラグメント配列から成り、そのアライメントは局所的に最大であり、そのアライメントスコアは、ユーザーが設定し閾値又はカットオフスコアに一致するか又はそれを上回る。BLASTアプローチは、クエリー配列とデータベース配列の間のHSPを探すこと、見つかった任意の一致の統計的有意性を評価すること、及びユーザーが選択した有意性の閾値を満たす一致のみを報告することである。パラメータEは、データベース配列の一致を報告するための統計的に有意な閾値を確立する。Eは全データベース検索の範囲内でHSP(又はHSPの組)の起こる可能性(chance occurrence)の期待頻度の上限境界と解釈される。その一致がEを満たす、あらゆるデータベース配列がプログラム出力に報告される。
【0043】
BLASTを用いる同様のコンピュータ技術(Altschul (1997), 前掲;Altschul (1993), 前掲;Altschul (1990), 前掲)は、ヌクレオチドデータベース、例えばGenBank又はEMBLで同一であるか又は関連する分子を検索するために用いられる。この解析は、多重膜系ハイブリダイゼーションよりもはるかに速い。加えて、コンピュータ検索の感度を変更して特定の一致が完全な一致か又は類似として分類されるかどうか決定することができる。検索の基礎は、下式:
【化3】

として定義される積スコアであり、2つの配列間の類似の程度と、一致した配列の長さとの両方を考慮する。例えば、積スコアが40での一致は、1〜2%の誤差の範囲内で完全一致となり、積スコアが70での一致は完全一致となる。類似する分子は通常15〜40の間の積スコアを示すものを選択することにより同定されるが、それより低いスコアは関連分子を同定することができる。配列アラインメントを生成できるプログラムの別の例は、当分野で公知のCLUSTALWコンピュータプログラム(Thompson, Nucl. Acids Res. 2 (1994), 4673-4680)又はFASTDB(Brutlag Comp. App. Biosci. 6 (1990), 237-245)である。
【0044】
本発明のSCR−Ab構築物に含まれる結合分子は、抗体分子、レセプター分子、アプタマー、DARPinなどからなる群より選択され得る。当業者は、本明細書に提供されるSCR−Ab構築物中で有用な特定の結合分子を容易に使用し、且つ入手する立場にある。
【0045】
本発明の状況において、用語「抗体分子(1又は複数)」又は「抗体(1又は複数)」には、完全な免疫グロブリン分子のような抗体分子(1又は複数)、例えばIgM、IgD、IgE、IgA又はIgG、同様にIgG1、IgG2、IgG2b、IgG3又はIgG4など、並びにこのような免疫グロブリン分子の一部、例えばFabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab)2フラグメント、キメラF(ab)2若しくはキメラFab’フラグメント、キメラFabフラグメント又は単離されたVH若しくはCDR領域が含まれる(上記単離されたVH若しくはCDR領域は、例えば対応する「フレームワーク(1又は複数)」に統合されるか又は操作されるべきである)。従って、用語「抗体分子」は、免疫グロブリンの既知のイソ型及び改変型、例えば一本鎖抗体又は一本鎖Fvフラグメント(scAB/scFv)又は二重特異性抗体構築物も包含し、上記イソ型及び改変型は、ウイルス粒子の表面上の1つの抗原を特異的に認識する少なくとも1つの抗原結合部位を含んでいるとして特徴付けられる。上記のイソ型又は改変型の具体例は、VH−VL又はVL−VHの形式のsc(一本鎖)抗体であり得る。同様に、二重特異性scFv、例えばVH−VL−VH−VL、VL−VH−VH−VL、VH−VL−VL−VHの形式のものも想定される。用語「抗体分子(1又は複数)」には、ダイアボディー、及び、抗体Fcドメインを少なくとも1つの抗原結合部分/ペプチドに結合した媒体として含む分子、例えばWO00/24782号に記載されるようなペプチボディ(peptibodies)も含まれる。用語「抗体フラグメント」にも、操作されて改変された抗体エフェクター機能物、例えば抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)をもたらす、このようなフラグメントが含まれる。
【0046】
一実施形態では、本発明のSCR−Abは、以下の表1に含まれる抗体分子に由来する抗原結合ドメインを含む。
【表1】

【0047】
さらに、当業者は、その他の適切な抗体分子を容易に使用し、且つ入手する立場にある。例えば、病原菌の表面抗原に特異的に結合することが既知の抗体分子は、本発明のSCR−Ab構築物に含まれる結合分子として使用することができる。或いは、適切な抗体分子を、当分野で公知の標準法を用いて惹起させてもよい、特に、Harlow and Lane 「Antibodies:a laboratory manual」Cold Spring Harbor Laboratory Press(1988)を参照のこと。
【0048】
別の実施形態では、本発明のSCR−Abは、本明細書の上文に提供される表1に記載されるとおりの2F5、2G12、3D6、4E10 IgG1及び4E10 IgG3からなる群より選択される抗体分子に含まれるような抗原結合ドメインを含む。
【0049】
用語「レセプター分子」は、本明細書において、特異的リガンドに結合可能なタンパク質又はそのフラグメントに関する。リガンドとレセプター分子との結合は、その通常の細胞の状況において、リガンドに対する細胞応答を開始させる。しかし、本発明では、有用なレセプター分子はまた、細胞応答を開始させることのできないレセプターのリガンド結合部分しか含まない可能性もある。当業者は、病原菌関連リガンドに結合可能なレセプター分が、本発明の状況において特に有用であることを認識する。限定されない例では、病原菌関連リガンドに結合可能なレセプター分子は、CD4レセプター、好ましくはヒトCD4レセプターであり得る。病原菌関連リガンドに結合可能なその他のレセプター分子としては、ケモカインレセプター、例えば、(ヒト)CXCR4レセプター又は(ヒト)β−ケモカインレセプターCCR5が挙げられる。さらに、当業者は、本明細書に記載されるようなSCR−Ab構築物において有用なレセプター分子のその他の例を容易に同定することができる。用語「アプタマー」は、本明細書において、標的分子に特異的に結合可能な核酸分子に関する。アプタマーは、通例、RNA、一本鎖DNA、改変されたRNA又は改変されたDNA分子を含む。アプタマーの調製は当分野で周知であり、それには、特に、結合部位を同定するためのコンビナトリアルRNAライブラリーの使用を伴う(Gold (1995), Ann. Rev. Biochem 64, 763-797)。
【0050】
用語「DARPin」は、本明細書において、当分野で公知のようなアンキリンリピートを含む、デザインされた結合タンパク質に関する(Kohl (2003), PNAS 100, 1700-1705, Forrer (2003), FEBS letters 539, 2-6)。高度に特異的なDARPinは、WO02/20565号に記載されるように、例えばリボソームディスプレイ技術を使用することによりDARPinライブラリーをスクリーニングすることによって、作成することができる(Hanes (1997), PNAS 94, 4937-4942)。だが、当業者は、その他のデザインされたリピートタンパク質ライブラリー(DRPライブラリー)、例えばロイシンリッチリピート(LRR)ライブラリーを、本発明の状況において有用な結合分子をスクリーニングするために用いてもよいことを認識する。
【0051】
本明細書において、「特異的に認識する」又は「特異的に結合する」とは、結合分子と標的分子の結合を指し、このような分子は、所与の抗原に結合する抗体分子であってもよく、所与のリガンドなどに結合するレセプター分子であってもよい。質量作用の法則によれば、結合−平衡は、標的分子の濃度[t]、結合分子の濃度[b]及び結合分子−標的分子複合体の濃度[bt]に依存する。そのため、平衡定数Kdは、[t]×[b]/[bt]として定義される。本明細書に記載されるようなSCR−Ab構築物に含まれる結合分子のリガンド結合は、例えば約10−13〜10−6Mの親和性(Kd)で、例えば約10−13〜10−7Mの親和性で、例えば約10−13〜10−8Mの親和性で、例えば約10−13〜10−9Mの親和性で起こり得る。以前に考察したように、所与の病原菌の結合分子との関連での、用語「特異的に認識する/結合する」は、特に対応する抗体(又はそのフラグメント若しくは誘導体)を含む。
【0052】
それとは対照的に、内在性fHの細胞に対するKdは比較的高い。従って、内在性fHのうちごく少量のみが細胞表面に結合し、表面のfHからの交換は速い。fH由来SCRのKd値は、全fH分子に関する範囲と同じ範囲内であると予想される。既に記載されるSCR構築物、例えばEP−A1 0 854 150号に記載されるものは、本明細書に定義されるような病原菌特異的結合分子を含まず、そして、その結果、病原菌又は病原菌感染細胞に対して実質的に低い親和性(Kd)を示す。結果的に、細胞に結合するために内在性fHに競合するため、且つfH−病原菌相互作用を十分に阻止するために、比較的多量の個別のSCR構築物が必要である;特に、添付される図5及び7を参照のこと。
【0053】
本明細書に記載されるようなSCR−Ab構築物は、含まれる結合分子を介して、病原菌及び/又は病原菌感染細胞上に露出した病原菌関連タンパク質に高い親和性で選択的に結合する。従って、fH由来SCR構築物は、結合分子のKdによってのみ解離し、病原菌及び/又は病原菌感染細胞の表面に「拘束される」と考えられる。理論に縛られるわけではないが、本発明のSCR−Ab構築物に含まれるfH由来SCR領域は、病原菌及び/又は病原菌感染細胞の表面から宿主由来のfHを移動させると考えられる。これは、結果として補体活性化のfH媒介性阻害の終了を導き、最終的に病原菌及び/又は病原菌感染細胞の補体媒介性溶解となると考えられる。
【0054】
本発明のSCR−Ab構築物に含まれるfH由来SCRと結合分子は、共有結合されてもよい。fH由来SCRと結合分子との共有結合は、上記fH由来SCR及び上記結合分子が共有結合(1又は複数)により結合されている1分子をもたらす。共有結合は、特に、本明細書において例示される化学物質を介する交差結合(cross-binding)により得られる、電子対を原子間で共有することを特徴とする化学結合である。しかしながら、本明細書に開示されるような構築物、すなわち、補体因子由来ショートコンセンサスリピート、及び病原菌を特異的に認識する/結合する、共有結合した結合分子を含むSCR−Abの組換え生産も想定される。
【0055】
或いは、本発明のSCR−Ab構築物に含まれるfH由来SCRと結合分子とは非共有結合してもよい。非共有結合としては、当分野で公知であり、限定されるものではないが、タンパク質−タンパク質相互作用の結果としてのタンパク質分子の会合が挙げられる。本発明の状況において、fH由来SCRと結合分子とを結合するために有用であり得る非共有結合の限定されない例としては、ビオチン/ストレプトアビジン複合体、レクチン/糖タンパク質複合体及び抗体−抗原複合体が挙げられる。さらに、当業者は、本明細書に記載されるようなSCR−Ab構築物を生成するための、fH由来SCRと結合分子を非共有結合させるために有用なその他の非共有結合/複合体を容易に識別することが可能である。
【0056】
一実施形態では、fH由来SCRと結合分子とは、一本鎖多機能性ポリペプチドに含まれる。例えば一本鎖SCR−Ab構築物は、SCR由来ドメイン(1又は複数)及び結合分子ドメイン(1又は複数)を含むポリペプチド(1又は複数)で構成されてもよい。上記ドメインは、ポリペプチドリンカーによって連結され、ここで、上記リンカーは上記SCR由来ドメイン(1又は複数)と上記結合分子ドメイン(1又は複数)の間に配置される。
【0057】
本明細書に記載されるようなSCR−Ab構築物は、病原菌を特異的に認識し、ここで、上記病原菌はウイルス又は細菌であってもよい。上記ウイルスは、二本鎖DNAウイルス、一本鎖DNAウイルス、二本鎖RNAウイルス、プラスセンス一本鎖RNAウイルス、マイナスセンス一本鎖RNAウイルス、逆転写RNAウイルス及び逆転写DNAウイルスからなる群より選択されてもよい。上記二本鎖DNAウイルスとしては、限定されるものではないが、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタイン・バーウイルス、ロゼオロウイルス、ヒトヘルペスウイルス7型又はカポジ肉腫関連ウイルスを挙げることができる。上に定義されるようなプラスセンス一本鎖RNAウイルスとしては、限定されるものではないが、コロナウイルス、C型肝炎ウイルス、デング熱ウイルス、ポリオウイルス、風疹ウイルス、黄熱病ウイルス又はダニ媒介性脳炎ウイルスが挙げられる。上に定義されるようなマイナスセンス一本鎖RNAウイルスとしては、限定されるものではないが、インフルエンザウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、狂犬病ウイルス、パラインフルエンザウイルス、ラッサ熱ウイルス又はリンパ性脈絡髄膜炎ウイルスが挙げられる。上記逆転写RNAウイルスはレトロウイルスであってもよく、ここで、上記レトロウイルスは、例えば、ラウス肉腫ウイルス;(RSV)マウス乳癌ウイルス(MMTV);フレンドマウス白血病ウイルス(FV);ネコ白血病ウイルス;ネコ肉腫ウイルス;ウシ白血病ウイルス;ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV);ウシ免疫不全ウイルス;ウマ伝染性貧血ウイルス;ネコ免疫不全ウイルス;ヒト免疫不全ウイルス(HIV);サル免疫不全ウイルス(SIV)及びスプーマウイルスからなる群より選択され得る。本明細書の上記に定義されるような逆転写DNAウイルスとしては、限定されるものではないが、B型肝炎ウイルスが挙げられる。
【0058】
別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載されるようなSCR−Ab構築物をコードするポリヌクレオチドに関する。上記SCR−Abをコードするポリヌクレオチドは、例えば、限定されるものではないが、一本鎖多機能性ポリペプチドに含まれるfH由来SCR及び結合分子をコードするポリヌクレオチドである。用語「ポリヌクレオチド」は、本明細書において、核酸分子、例えばDNA分子及びRNA分子を含むことが意図される。上記核酸分子は一本鎖であっても二本鎖であってもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。好ましくは、上記ポリヌクレオチドは、ベクターに含まれてもよい。
【0059】
さらに、本明細書に記載されるようなポリヌクレオチド又はベクターで細胞をトランスフェクトすることが想定される。さらに、さらなる実施形態では、本発明は、発現の際に上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。上記ポリヌクレオチドを当分野で公知の適切な発現制御配列に融合させて、ポリペプチドの適切な転写及び翻訳を確実にしてもよい。このようなベクターは、さらなる遺伝子、例えば適切な宿主細胞において、且つ適切な条件下で上記ベクターの選択を可能にするマーカー遺伝子を含み得る。
【0060】
好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、本明細書に記載されるfH−SCR−構築物をコードするポリヌクレオチドが発現制御配列に動作可能なように連結されて原核生物又は真核細胞での発現を可能にする、組換えベクターに含まれる。上記ポリヌクレオチドの発現は、ポリヌクレオチドの翻訳可能なmRNAへの転写を含む。真核細胞、好ましくは哺乳類細胞での発現を確実にする調節エレメントは、当業者に周知である。それらは通常、転写の開始を確実にする調節配列、並びに、所望により転写の終結及び転写物の安定化を確実にするポリ−Aシグナルを含む。付加的な調節エレメントには、転写エンハンサー及び翻訳エンハンサー、並びに/或いは天然に付随する(naturally-associated)プロモーター領域又は異種プロモーター領域が含まれ得る。原核生物宿主細胞での発現を可能にする、考えられる調節エレメントには、例えば、大腸菌のPL、lac、trp又はtacプロモーターが含まれ、真核生物宿主細胞での発現を可能にする調節エレメントの例は、酵母のAOX1又はGAL1プロモーター、或いは、哺乳類及びその他の動物細胞のCMV−、SV40−、RSV−プロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、CMV−エンハンサー、SV40−エンハンサー又はグロビンイントロンである。転写の開始を担うエレメントのほかに、このような調節エレメントにはまた、転写終結シグナル、例えばポリヌクレオチドの下流のSV40−ポリ−A部位又はtk−ポリ−A部位も含まれ得る。当業者に周知の方法が組換えベクター構築するために使用され得る;例えば、Sambrook(1989),「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,Cold Spring Harbor Laboratory N.Y.及びAusubel(1989),「Current Protocols in Molecular Biology」,Green Publishing Associates and Wiley Interscience,N.Y.に記載される技法を参照のこと。このような状況において、適切な発現ベクターは当分野で公知であり、例えばOkayama−Berg cDNA発現ベクターpcDV1(Pharmacia)、pCDM8、pRc/CMV、pcDNA1、pcDNA3、pPICZαA(Invitrogen)、又はpSPORT1(GIBCO BRL)である。さらに、使用する発現系に応じて、ポリペプチドを細胞内コンパートメントに導くか、又はそれを培地中に分泌することの可能なリーダー配列を、本発明のポリヌクレオチドのコード配列に加えてもよい。
【0061】
上記を踏まえて、本発明は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、従来遺伝子工学に用いられるベクター、特にプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージに関する。好ましくは、上記ベクターは、発現ベクター及び/又は遺伝子移入ベクター若しくは遺伝子ターゲティングベクターである。ウイルス、例えばレトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、疱疹ウイルス、又はウシパピローマウイルスに由来する発現ベクターを、本発明のポリヌクレオチド又はベクターを標的化された細胞集団の中に送達するために用いてもよい。本発明のポリヌクレオチドを含むベクターは、細胞宿主の種類によって異なる、周知の方法により宿主細胞の中に移動させることができる。このような方法には、例えば、Sambrook(1989)(前掲)、及びAusubel(1989)(前掲)に記載される技法が含まれる。従って、塩化カルシウムトランスフェクションは、一般に原核細胞に利用され、一方、リン酸カルシウム処置又はエレクトロポレーションはその他の細胞宿主に使用され得る;Sambrook(上記)を参照のこと。さらなる代替法として、本発明のポリヌクレオチド及びベクターは、標的細胞への送達のためのリポソーム中に再構成することができる。宿主細胞中に存在する本発明のポリヌクレオチド又はベクターは、宿主細胞のゲノムに組み込まれるか、又は染色体外で維持されるかのいずれかであってもよい。
【0062】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載されるようなSCR−Ab構築物の調製のための方法を含む。本発明のSCR−Ab構築物は、組換えによって、例えば本発明のSCR−Ab構築物をコードする記載のポリヌクレオチド又はベクターを含む細胞を培養し、上記構築物を培養物から単離することにより、作製されてもよい。本発明のSCR−Ab構築物は、任意の適切な細胞培養系で作製されてもよく、それには、限定されるものではないが、真核細胞、例えばピキア・パストリス(Pichia pastoris)酵母株X−33又はCHO細胞が含まれる。当分野で公知のさらなる適切な細胞株は、American Type Culture Collection(ATCC)などの細胞株受託機関から入手可能である。用語「真核生物の」は、酵母、高等植物、昆虫及び哺乳類細胞を含むことを意味する。形質転換宿主は、発酵槽で増殖させ、当分野で公知の技法に従って培養して最適な細胞増殖を実現することができる。さらなる実施形態では、本発明は、このようにして本発明の細胞をポリペプチドの発現に適切な条件下で培養すること、及びポリペプチドを細胞又は培地から単離することを含む、上記ポリペプチドの調製のための方法に関する。
【0063】
従って、本発明のポリペプチドは、増殖培地、細胞溶解物又は細胞膜画分から単離することができる。発現した本発明のポリペプチド単離及び精製は、硫酸アンモニウム沈降、アフィニティーカラム、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動などを含む任意の従来手段によるものであってもよく、且つ、例えば、例えば本発明のポリペプチドのタグに対するモノクローナル又はポリクローナル抗体の使用を伴ってもよい;Scopes (1982),「Protein Purification」,Springer−Verlag,N.Y.を参照のこと。タンパク質は、例えば、添付される実施例に記載されるように、Ni−NTA−カラムを用いることにより、そのHis−tagを介して精製することができる(Mack (1995), PNAS 92, 7021-7025)。製薬用途には、少なくとも約90〜95%の均質性の実質的に純粋なポリペプチドが好ましく、98〜99%又はそれ以上の均質性が最も好ましい。組換え生産手順に用いる宿主に応じて、本発明のポリペプチドは、グリコシル化されても非グリコシル化されてもよい。
【0064】
本明細書に記載されるショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)の調製のための方法は、本明細書に記載されるfH由来SCRと結合分子とのカップリングも含み得る。例えば、fH由来SCRは、添付の実施例に記載されるように、スルホスクシンイミジル 4−[p−マレイミドフェニル]ブチラート(スルホ−SMPB)化学架橋を用いることにより、結合分子とカップリングされ得る。さらに、当業者は本明細書に記載されるようなSCR−Ab構築物を生成する際に有用なその他の化学架橋剤を容易に同定することが可能である。このような架橋試薬の限定されない例を以下の表2に記載する。
【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【0065】
従って、いずれの従来の架橋手順を本明細書に記載されるSCR−Ab構築物を調製するために適用してもよく、それには、限定されるものではないが、タンパク質−タンパク質相互作用、例えばビオチン−ストレプトアビジン複合体又は抗体−抗原複合体の形成によるものが含まれる。
【0066】
さらなる実施形態では、本発明のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)は、組成物に含まれる。上記組成物は、1又はそれ以上の本明細書に提供されるSCR−Ab構築物を含んでもよい。上記組成物は、所望により医薬品として許容される担体及び/又は希釈剤をさらに含む、医薬組成物であってもよい。本明細書に記載されるSCR−Ab構築物の、病原菌の感染又は病原菌の感染に関連する病的状態の予防、治療又は改善のための医薬組成物の調製のための使用も想定される。上記病原菌は、本明細書の上文に定義されるようなウイルス又は細菌であってもよい。
【0067】
ショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)について、それに含まれる補体因子H由来のショートコンセンサスリピート(fH由来SCR)と結合分子とが非共有結合していることは当業者には明白であり、上記fH由来SCR及び上記結合分子は同時に又は順次に投与されてもよい。本明細書以下において例示されるように、例えば、結合分子が最初に投与され、その後、fH由来SCRの投与が続く。従って、例えば、病原菌に特異的に結合する結合分子は、fH−SCRに特異的に会合し、本明細書に記載される非共有結合性ショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)を形成する。そのため、本発明の組成物は、補体因子H由来ショートコンセンサスリピート(fH由来SCR)と結合分子との両方が独立に存在する組成物も含む。
【0068】
本発明はまた、核酸分子(ポリヌクレオチド)、ベクター、並びに上記核酸分子(ポリヌクレオチド)を含むトランスフェクト細胞、医学的アプローチ(例えば細胞に基づく遺伝子治療アプローチ又は核酸に基づく遺伝子治療アプローチなど)におけるベクターの使用に関する。
【0069】
上記ウイルスベクターは、遺伝子治療に特に適している。治療用遺伝子をエキソビボ又はインビボ技法により細胞の中に導入することに基づく遺伝子治療は、遺伝子導入の最も重要な適用の一つである。インビトロ又はインビボ遺伝子治療に適切なベクター、方法又は遺伝子送達系、並びにベクター系は、文献に記載されており、当業者に公知である;例えば、Giordano,Nature Medicine 2(1996),534−539;Schaper,Circ.Res.79(1996),911−919;Anderson,Science 256(1992),808-813,Isner,Lancet 348(1996)、370−374;Muhlhauser、Circ.Res.77(1995),1077−1086;Onodua,Blood 91(1998),30−36;Verzeletti,Hum.Gene Ther.9(1998),2243−2251;Verma,Nature 389(1997),239−242;Anderson,Nature 392(Supp.1998)、25−30;Wang,Gene Therapy 4(1997),393−400;Wang,Nature Medicine 2(1996),714−716;WO94/29469号;WO97/00957号;米国特許第5,580,859号;米国特許第5,589,466号;米国特許第4,394,448号、米国特許第2007/086985号、米国特許第2007/082388号、米国特許第2007/071770号、米国特許第2007/003522号 米国特許第2007/048285号(又は対応するEP1757703号)又はWO2004/111248号、並びにその中で引用されている参照文献を参照されたい。適切な媒体/送達媒体は、特に、WO2007/022030号、WO2007/018562号に開示される。特にリンパ細胞(lymphatic cell)及び/又は組織で使用するためにさらに適切な遺伝子治療構築物は当分野で公知である;Li,Ann NY Acad Sci 1082(2006)172−9を参照されたい。
【0070】
さらに別の実施形態では、本発明は、病原菌の感染又は病原菌の感染に関連する病的状態の予防、治療又は改善のための方法に関し、さらなる実施形態では、癌のような増殖性障害の治療のための腫瘍細胞、癌細胞及び/又は悪性細胞を認識又はそれに結合する異なる結合分子の使用に関し、このような予防又は治療を必要とする哺乳類(ここで、上記哺乳類はヒトである)に、本明細書の上記又は下記項目中に記載されるようなショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)を投与することを含む。好ましい実施形態では、上記ウイルスはヒト免疫不全ウイルス(HIV)であり得る。病原菌の感染に関連する病的状態の例としては、限定されるものではないが、HIV感染に関連する後天性免疫不全症状群(AIDS)、コロナウイルス感染に関連する重度急性呼吸器症候群(SARS)、C型肝炎ウイルス感染に関連する急性/慢性C型肝炎又はインフルエンザウイルス感染に関連するインフルエンザが挙げられる。
【0071】
記載されるように、病原菌感染宿主細胞、又は癌細胞のような悪性細胞を阻害及び/又は排除することが望まれる医療機関において、本明細書に記載される本発明の薬学的概念が使用されることも想定される。上記実施形態では、本発明のSCR−Abに含まれる結合分子は、癌細胞、悪性細胞及び/又は腫瘍細胞を特異的に認識するか、又はそれに特異的に結合する。
【0072】
したがって(そして代替として)、本発明に従って用いる予定のSCR−Ab構築物は、癌細胞、悪性細胞又は腫瘍細胞を特異的に認識するか又はそれに結合する結合分子を、本明細書において定義される補体因子H由来のショートコンセンサスリピートに加えて含んでもよい。本明細書の以下及び添付の実施例に記述されるように、本発明に従って、本発明の特定のSCR−Ab構築物が、驚くことにインビトロで非常に予想せぬ方法で癌細胞を溶解可能であることが見出された。
【0073】
上記癌細胞、悪性細胞又は腫瘍細胞は、任意の癌又は腫瘍種から誘導され得る。一実施形態では、癌細胞又は悪性細胞は、限定されるものではないが、乳癌細胞、バーキットリンパ腫細胞、多発性骨髄腫細胞、結腸直腸癌細胞、転移性結腸直腸癌細胞、非ホジキンリンパ腫細胞、肺癌細胞、慢性リンパ性白血病細胞、微小転移又は残留腫瘍細胞からなる群より選択される。好ましくは、癌細胞又は悪性細胞、腫瘍細胞は、微小転移又は残留腫瘍から誘導され得る。
【0074】
本明細書に記載されるような癌細胞を特異的に認識する抗体分子を含むショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)は、被験体において癌性疾患の予防、治療又は改善に有用である。好ましくは、上記被験体はヒトである。
【0075】
本明細書において、癌性疾患は、限定されるものではないが、乳癌、バーキットリンパ腫、多発性骨髄腫、結腸直腸癌、転移性結腸直腸癌、非ホジキンリンパ腫、肺癌、慢性リンパ性白血病から選択され得る。好ましくは、癌性疾患は、微小転移又は残留腫瘍から生じる。
【0076】
癌性疾患の治療に有用な、本明細書に記載されるショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)に含まれる抗体分子は、限定されるものではないが、CD9、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD40、CD46、CD55、CD56、CD138、erbB1、HER2/neu、IGFR、MUC−1、TAG−72、TAL−6、TRAILR及びVEGFRからなる群より選択されるエピトープを認識するモノクローナル抗体からなる群より選択されてもよい。上記の抗原を特異的に認識する抗体分子は当分野で周知である。本発明の組成物は固体であっても液体であってもよく、特に、粉末(1又は複数)、錠剤(1又は複数)、溶液(1又は複数)又はエアロゾル(1又は複数)の形態であってもよい。さらに、本発明の医薬組成物は、医薬組成物の意図される使用に応じて、さらなる生物活性物質を含み得ることが想定される。このような物質は、消化器系に作用する抗生物質、抗ウイルス薬又は薬物であり得る。
【0077】
適切な(医薬)組成物の投与は、様々な方法により、例えば、非経口、皮下、腹腔内、局所、気管支内、肺内及び鼻腔内の投与、及び、局所治療が望ましい場合には、病巣内の投与により達成されてもよい。非経口投与には、腹腔内、筋肉内、皮内、皮下静脈内又は動脈内の投与が含まれる。特に好ましいものは、上記投与が、例えば脳動脈内の部位までの送達又は直接脳組織内への、注射および/または送達により実施されることである。本発明の組成物はまた、例えば、病原菌に感染している具体的な器官などの外部若しくは内部の標的部位への微粒子銃送達により、直接標的部位に投与されてもよい。
【0078】
適切な医薬担体、賦形剤及び/又は希釈剤の例は当分野で周知であり、リン酸緩衝生理食塩水溶液、水、乳濁液、例えば油/水エマルジョン、様々な種類の湿潤剤、滅菌溶液などが挙げられる。このような担体を含む組成物は、周知の従来法により処方することができる。適切な担体は、本発明のSCR−Ab構築物と組み合わせる場合に、含まれるSCR−Ab構築物の生物活性を保持する、あらゆる材料を含んでもよい;Remington's Pharmaceutical Sciences(1980)第16版、Osol,A.編を参照のこと。非経口投与用の製剤には、滅菌水若しくは非水性溶液、懸濁液、及び乳濁液が含まれてもよい。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油など、及び注射用有機エステル、例えばオレイン酸エチルなどである。水性担体には、生理食塩水及び緩衝媒体を含む、水、アルコール/水溶液、乳濁液又は懸濁液が含まれる。非経口媒体には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液、又は固定油を挙げることができる。静脈用媒体としては、流体及び栄養補液、電解質補液(リンゲルのデキストロースに基づくものなど)などが挙げられる。また、防腐剤及びその他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤及び不活性ガスなどが存在してもよい。加えて、本発明の医薬組成物は、例えば、好ましくはヒト起源の血清アルブミン又は免疫グロブリンなどの、タンパク質性担体を含んでもよい。
【0079】
これらの医薬組成物は、適切な用量で被験体に投与されてもよい。投与計画は主治医と臨床学的要因により決定される。医学分野で周知のように、1名の患者に対する投薬量は多くの要因によって決まり、それには患者のサイズ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与回数及び投与経路、全体的な健康、及び同時に投与されているその他の薬物が含まれる。薬学的に活性な物質は、1用量あたり1μg〜20mg/体重kg、例えば0.1mg〜10mg/体重kg、例えば0.5mg〜5mg/体重kgの量で存在してもよい。投与計画が持続注入である場合は、それは1μg〜10mg/体重キログラム/分の範囲内であるべきである。さらに、示される模範的範囲以下又は以上の用量も、特に上述の要因を考慮して想定される。
【0080】
本明細書に記載されるような医薬組成物は、短時間作用型、急速放出型、長時間作用型、又は持続放出型となるよう処方され得る。故に、医薬組成物は、緩徐放出又は制御放出にも適し得る。持続放出製剤は、当分野で周知の方法を用いて調製されてもよい。持続放出製剤の適切な例としては、マトリックスが造形品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられる。持続放出マトリックスの例としては、ポリエステル、L−グルタミン酸とエチル−L−グルタミン酸の共重合体、非分解性エチレン−酢酸ビニル、ヒドロゲル、ポリラクチド、分解性乳酸−グリコール酸共重合体及びポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。持続放出製剤に含まれるSCR−Ab構築物の、起こり得る生物活性の損失及び起こり得る結合特性の変化は、適当な添加剤を用いることにより、含水量を制御することにより、及び、特定のポリマーマトリックス組成物を開発することにより、防ぐことができる。
【0081】
さらに、本発明の医薬組成物は、医薬組成物の意図される使用に応じて、さらなる生物活性物質を含み得ることが想定される。例えば、HIV−感染症に罹患している患者において、このような物質は、免疫系に作用する薬物、抗ウイルス薬治療、特に、HIV−治療(例えば、HAART)及びAIDS管理で用いられる薬物及び/又は抗炎症薬であり得る。HAART療法は、3種類の抗ウイルス薬のカクテルからなる。これらの種類は、ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬(NRTI)、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)及びプロテアーゼ阻害剤(PI)である。通常、ほぼ検出不能なレベルまでウイルス負荷量を減少させるために、優先的に2つ以上の種類から2〜4種の薬物が組み合わされる。感染患者をHAARTで早期治療することにより、CCR5の使用からCXCR4のようなその他のケモカインレセプターへのウイルス菌株の移行が防止される(Connor (1997) J. Exp. Med. 185, 621-628)。本発明に開示されるような構築物は、HAARTに加えて、静脈内に、皮下に、及び/又は脳脊髄液の中に投与することができる。本発明の構築物と組み合わせるための他の薬剤には、特に、インテグラーゼ阻害剤、例えばラルテグラビルが含まれる。
【0082】
さらなる実施形態では、本明細書に含まれる組成物は、所望により、適切な検出手段をさらに含む、診断用組成物であってもよい。
【0083】
さらに別の実施形態では、本発明は、定義されるような少なくとも1つのSCR−Ab構築物を含むキットを提供する。有利には、本発明のキットは、所望により、医学的、科学的又は診断のアッセイ及び目的の実施に必要なバッファー(1又は複数)、保存溶液及び/又は残りの試薬若しくは材料をさらに含む。さらに、本発明のキットの一部は、個別にバイアル又は瓶に、或いは、容器又は複数容器ユニットと組み合わせて包装することができる。一実施形態では、上記キットは、補体因子H由来ショートコンセンサスリピート(fH由来SCR)と結合分子との両方が1つの容器に独立して存在する、本発明に従うショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)を含んでもよい。別の実施形態では、上記補体因子H由来のショートコンセンサスリピート(fH由来SCR)と結合分子は、2つ以上の容器に独立に存在し、含まれるfH由来SCRと含まれる結合分子とを接触させた後に、共有結合したSCR−Ab又は非共有結合したSCR−Abが形成される。
【0084】
本発明のキットは、特に、本発明の方法を実行するために、有利に用いることができ、本明細書で言及される多様な用途に、例えば、診断キットとして、研究ツール又は医用ツールとして、用いることができる。その上、本発明のキットは、科学的、医学的及び/又は診断の目的に適切な検出手段を含んでもよい。キットの製造は、当業者に公知の標準的手順に従うことが好ましい。
【0085】
上記の記述に加えて、本発明はまた、癌性疾患、腫瘍疾患及び/又は過形成疾患の医学的介入に特に有用な以下の項目にも関する。
【0086】
項目1.(a)補体因子H由来ショートコンセンサスリピート(fH由来SCR);及び
(b)癌細胞、悪性細胞又は腫瘍細胞を特異的に認識する又はそれらに特異的に結合する結合分子、を含み、上記fH由来SCRが、ヘパリンに結合可能なポリペプチドを含む、ショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)
【0087】
項目2.上記fH由来のSCRが、SCR7、SCR9、SCR13及びSCR18〜20、又は上記fH由来のSCR7、SCR9、SCR13及びSCR18〜20の機能性フラグメントからなる群より選択されるか、或いは人工SCR(aSCR)である、項目1に従うショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【0088】
項目3.上記癌細胞、悪性細胞又は腫瘍細胞が、乳癌細胞、バーキットリンパ腫細胞、多発性骨髄腫細胞、結腸直腸癌細胞、転移性結腸直腸癌細胞、非ホジキンリンパ腫細胞、肺癌細胞、慢性リンパ性白血病細胞、微小転移又は残留腫瘍細胞からなる群より選択される、項目1又は2に従うショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【0089】
項目4.上記結合分子が、抗体分子、レセプター分子、アプタマー又はDARPin或いはそれらのリガンド結合フラグメントを含む、項目1〜3のいずれか1項目のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【0090】
項目5.上記抗体分子が、CD9、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD40、CD46、CD55、CD56、CD138、erbB1、HER2/neu、IGFR、MUC−1、TAG−72、TAL−6、TRAILR及びVEGFRからなる群より選択されるエピトープを認識するモノクローナル抗体である、項目4のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【0091】
項目6.上記補体因子H由来ショートコンセンサスリピート(fH由来SCR)及び上記結合分子が共有結合又は非共有結合している、項目1〜5のいずれか1項目のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【0092】
項目7.上記補体因子H由来ショートコンセンサスリピート(fH由来SCR)及び上記結合分子が一本鎖多機能ポリペプチドに含まれる、項目1〜5のいずれか1項目のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【0093】
項目8.上記fH由来のSCRが、
(a)配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号30又は配列番号32に含まれるアミノ酸配列によりコードされるポリペプチド或いはそれらの機能性フラグメント;
(b)配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号30又は配列番号32に含まれるアミノ酸配列と少なくとも60%同一であるアミノ酸配列によりコードされるポリペプチドであって、上記ポリペプチドが上記病原菌の補体因子H結合部位に結合する能力がある、ポリペプチド;
(c)配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号29又は配列番号31に含まれるポリヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチド或いはそれらの機能性フラグメント;
(d)配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号29又は配列番号31に含まれるポリヌクレオチドとハイブリダイズすることの可能なポリヌクレオチドの相補的配列によりコードされるポリペプチドであって、上記ポリペプチドが上記病原菌の補体因子H結合部位に結合する能力がある、ポリペプチド;並びに
(e)配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号29又は配列番号31に含まれる核酸配列と少なくとも60%同一である核酸分子によりコードされるポリペプチドであって、上記ポリペプチドが上記病原菌の補体因子H結合部位に結合する能力がある、ポリペプチド:
からなる群より選択される、項目1〜7のいずれか1項目のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【0094】
項目9.上記fH由来SCRが、配列番号4又は配列番号22に含まれるアミノ酸配列によりコードされるポリペプチド或いはそれらの機能性フラグメントを含む、項目1〜8のいずれか1項目のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【0095】
項目10.項目1〜9のいずれか1項目のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)をコードするポリヌクレオチド。
【0096】
項目11.項目10のポリヌクレオチドを含むベクター。
【0097】
項目12.項目10のポリヌクレオチド又は項目11のベクターをトランスフェクトされた細胞。
【0098】
項目13.項目11の細胞を培養すること、及び上記ポリペプチドを培養物から単離することを含む、項目1〜9のいずれか1項目のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)の調製のための方法。
【0099】
項目14.上記fH由来SCRと上記結合分子とをカップリングすることを含む、項目1〜9のいずれか1項目のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)の調製のための方法。
【0100】
項目15.上記fH由来のSCRが、スルホスクシンイミジル 4−[p−マレイミドフェニル]ブチラート(スルホ−SMPB)化学架橋を用いて上記結合分子とカップリングされている、項目14の方法。
【0101】
項目16.上記fH由来のSCRが、ビオチン−ストレプトアビジン複合体を形成することにより上記結合分子と連結されている、項目14の方法。
【0102】
項目17.項目1〜9のいずれか1項目のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)を含む組成物。
【0103】
項目18.所望により、医薬品として許容される担体をさらに含む医薬組成物である、項目17の組成物。
【0104】
項目19.所望により、適切な検出手段をさらに含む診断用組成物である、項目17の組成物。
【0105】
項目20.癌性疾患の予防、治療又は改善のための医薬組成物の調製のための、項目1〜9のいずれか1項目のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)の使用。
【0106】
項目21.癌性疾患の予防、治療又は改善のための医薬組成物として使用するための、項目1〜9のいずれか1項目のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【0107】
項目22.項目1〜9のいずれか1項目のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)或いは項目18又は19の組成物をこのような予防又は治療を必要とする哺乳類に投与することを含む、癌性疾患の予防、治療又は改善のための方法。
【0108】
項目23.上記哺乳類がヒトである、項目22に従う方法。
【0109】
項目24.上記癌性疾患が、乳癌、バーキットリンパ腫、多発性骨髄腫、結腸直腸癌、転移性結腸直腸癌、非ホジキンリンパ腫、肺癌又は慢性リンパ性白血病であるか、或いは、微小転移又は残留腫瘍から生じる、項目20の使用、項目20のショートコンセンサスリピート−抗体構築物或いは項目22又は23の方法。
【0110】
項目25.項目1〜9のいずれか1項目のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)、項目10のポリヌクレオチド、項目10のベクター又は項目17〜19のいずれか1項目の組成物を含む、キット。
【0111】
病原菌に対して産生された結合分子及び対応するショートコンセンサスリピート−抗体構築物に関して本明細書の上記に提供される実施形態は、必要な変更を加えて、癌細胞/悪性細胞/腫瘍細胞を特異的に認識する、且つ/又は、それらに特異的に結合する結合分子を含むショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)に関連する、上記に提供される項目に適用される。
【0112】
全ての実施形態において、本発明のSCR−Abは、医学的/薬学的介入に特に有用であることが想定される。従って、そのような医学的/薬学的介入を必要とする被験体は、本発明の構築物/化合物で治療してもよい。治療される予定の被験体は、哺乳類、特に、ヒトであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】単離されたfH由来のSCR2、7及び13のドットブロット解析による検出を表す図である。
【図2】SCR7でのカップリング手順の後、表1に記載されるとおりの結合分子2G12、4E10、3D6及び2F5を含むAb−SCR構築物を、還元条件下、12% SDS−pageゲルでのウエスタンブロット解析を用いて調べた図である。構築物は、SCRを認識するHRP標識抗HIS−tag−mAbにより可視化した。重鎖と軽鎖の双方が50kD又は25kDから、結合分子+カップリングしたSCRの分子量にそれぞれ相当する約60kD及び35kDにそれぞれ変化した。
【図3】塩勾配でヘパリンカラムから溶出した画分のスロットブロット分析を表す図である。
【図4】SDS−page電気泳動ゲルの銀染色による、塩勾配でヘパリンカラムから溶出した画分の分析を表す図である。
【図5】fH枯渇血清によるMMTVの溶解を示すグラフである。単離したウイルスを、正常マウス血清(NMS;深緑及びシアン色の線)とともに、入力対照として何も補充しないRPMI 1640(赤及び緑色の線)又はfH枯渇血清と呼ばれる、5%未満のfHを含有するNMS(茶及び青色の線)中でインキュベートした。全ての血清は、RPMI 1640に1:10で希釈した。残留MMTV(マウス補体に溶解されない)のRNAを単離し、逆転写酵素リアルタイム−PCRにより増幅した。Ct値の約3.3の増加は、ウイルス力価の約1 logの減少に相当する。従って、対照血清のCt値が約20.2(赤及びピンク色の線、Ct値20.0、20.4)から36.5(ピンク及び青色の線、Ct値37.3及び35.7)に増加したため、fH枯渇血清(Δ−fH血清)はMMTVの量を5 log超に減少させる。
【図6】SCR−Ab構築物によるFVの溶解を示すグラフである。単離したウイルスを、正常マウス血清(NMS;赤及び茶色の線)とともに、入力対照として何も補充しないRPMI 1640(シアン及びピンク色の線)又はAb#48とカップリングされたSCR7を含有するNMS(SCR7Ab#48;茶及び青色の線)中でインキュベートした。全ての血清は、RPMI 1640に1:10で希釈した。残留FV(これはマウス補体に溶解されなかった)のRNAを単離し、逆転写酵素リアルタイム−PCRにより増幅した。Ct値の約3.3の増加は、ウイルス力価の約1 logの減少に相当する。従って、対照血清のCt値が約17.0(赤及び茶色の線、Ct値17.0、17.0)から23.3(茶及び青色の線、Ct値23.2及び23.4)に増加したため、SCR−Ab構築物はFVの量を2 log超に減少させる。
【図7】FACS解析により決定した、FV感染マウスの脾臓における感染細胞の量を示す図である。感染動物において、細胞の約15%がFV−抗原陽性であり、一方、ウイルス特異的抗体Ab#48とカップリングしたSCR7、13及び18〜20でさらに処理した場合に感染細胞の量は大幅に減少した。対照構築物(SCR2−Ab#48)も感染細胞のわずかな減少を示した、これはおそらくAbに媒介されたものであろう。
【図8】fH由来SCR7によるHIVの溶解を示す図である。HIVを、NHS、HIV特異的mAb 3D6とカップリングしたSCR7(構築物)、カップリングせずに混合したSCR及び抗体3D6(SCR7+3D6)又は単離抗体(3D6)とともにインキュベートした。界面活性剤(Igepal)は100%の溶解を示す。
【図9】fH由来構築物の存在下での感染アッセイを示す図である。溶解の後、サンプルを末梢血単核細胞(PBMC)に適用し、5日間インキュベートした。NHSは細胞の活発な感染を誘導したが、構築物は産生したHIVの量を大幅に減少させた。カップリングしていない化合物の混合物には、効果がなかった。ウイルス複製を、感染後5日目に標準的なp24 ELISAにより定量化した。この場合もやはり、SCRと抗体とのカップリングは、ウイルス力価の効率的な減少のための前提の必要条件(pre-requisite)であった。
【図10】SCR9又はSCR7によるHIV−1の溶解を示す図である。HIV−1を、SCR7若しくはSCR9を含有するNHS(RPMI 1640に1:10で希釈)又はさらなる補充のないNHS(RPMI 1640に1:10で希釈)とともにインキュベートした。さらに対照としてIgepal(100%溶解)及び熱失活NHS中のHIV(HIV、バックグラウンド溶解)を用いた。HIV又はNHSでインキュベートしたHIVと比較して、SCR7又はSCR9を添加することにより、HIVの活発なウイルス溶解が誘導された。従って、SCR9も抗体のエフェクター機能を改善できる。
【図11】fh由来SCR13によるMHVの溶解を示す図である。コロナウイルスファミリーのメンバーであるマウス肝炎ウイルス(MHV)を、正常マウス血清(NMS;ライン4,5)とともに、或いは対照SCRを含有するNMS(ライン6,7)又はSCR13を含むNMS(ライン8,9)中でインキュベートした。45分間のインキュベーションの後、残留MHV(マウス補体に溶解されず)のRNAを単離し、RT−PCRで増幅して、MHV特異的なPCR産物を380bp前後で検出した。対照構築物又はNMSはウイルスRNAを減少させることができなかったが、SCR13はMHVの完全な破壊を誘導した。この実験は、SCR13がレトロウイルス(HIV、SIV、FV、MMTV)のみでなく、その他のファミリーのウイルスでも効果的であることを示す。
【図12】fH由来SCR 7による腫瘍細胞の溶解を示す図である。SOK3−細胞(ヒト卵巣腺癌細胞)を、fH由来SCR(SCR7)の不在下(左)又は存在下(右)で、ヒト血清とともにインキュベートした。C3沈着(FL−1)及びPI染色(FL−2)により、SCRが多くのC3沈着を誘導し、腫瘍細胞の溶解を13%から24%に増加させたことが示された。
【図13】fH由来SCRの存在による、B細胞カウント数の減少を示す図である。ヒトBリンパ球バーキットリンパ腫細胞株のRaji細胞の量は、抗CD20抗体の不在下で、fH由来SCRを予め存在させた場合に大幅に減少した。この効果は、抗CD20を抗IgG抗体で架橋するとさらに強化された。
【図14】例示的人工(artifical)SCR(aSCRi)の精製を示す図である。最適化したSCRをP.パストリス系で発現させ、標準法によってヘパリンカラム(colums)により精製した。精製した産物を、ウエスタンブロット解析により同定し、例となるaSCRのHis−tagに対するPOX−標識抗体の結合を介して可視化した。ブロットにより、濃縮した単量体及び二量体の例示的aSCRを表す、2つのブロードなバンドが示される。このバンドのスミアはタンパク質のグリコシル化によるものである。結合したタンパク質は、高塩バッファー(溶出液)で溶出後にヘパリンカラムから放出された。フロースルー(FT)中にaSCRは見出されなかった。
【図15】aSCRによるHIV−1の溶解を示す図である。HIV−1を、例示的人工SCR(aSCRi)を様々な濃度で含有するNHS(RPMI 1640に1:10で希釈)又はNHS(RPMI 1640に1:10で希釈)とともにインキュベートした。全てのサンプルは、補体活性化を促進するために1:500希釈にてHIV−1特異的mAb 2G12をさらに含んだ。さらなる対照として、Igepal(100%溶解)及び熱失活NHS中のHIV(hiNHS、バックグラウンド溶解)を使用した。HIV又はNHSでインキュベートしたHIVと比較して、aSCRiを等モル量で添加してもCoMLは促進されなかったが(aSCR−1)、120倍過剰(fHに対して)で添加すると、HIVの活発なウイルス溶解を誘導し、ウイルスをほぼ100%まで除去した(aSCR−120)。従って、抗体とカップリングした場合、人工SCRもエフェクター機能を改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0114】
本発明及びその多くの利点のさらなる理解をもたらす、以下の例示的なものとなる限定されない実施例により、本発明をさらに説明する。
【0115】
以下の例は本発明を例示する。
【実施例】
【0116】
実施例1:ショートコンセンサスリピート−抗体構築物の調製
補体因子H由来のショートコンセンサスリピート(fH−SCR)SCR2、SCR7、SCR9、SCR13及びSCR18〜20をコードする遺伝子配列を含むコドン最適化プラスミドを、GeneArtより購入した。
【0117】
SCR2、SCR7、SCR9、SCR13及びSCR18〜20をコードするSCRポリヌクレオチド配列を、次のプライマーセット(Metabion製プライマー)を用いて増幅した。
【化4−1】

【化4−2】

【0118】
合成SCRであるmSCR2、mSCR7、hSCR7、hSCR9、mSCR13、hSCR13、mSCR18〜20及びhSCR18〜20(全てGeneArt)を、次のプロトコール(Brillant SYBR−Green Q−PCR、BioRad)を用いてリアルタイムPCRにより増幅した(BioRad)。
【化5】

【0119】
PCR産物を、アガロースゲル電気泳動(2% TAE)により分析し、特異的なバンドを抽出し、精製した(ゲル抽出キット、Qiagen)。サンプルを特異的な酵素で消化させ(Fermentas)、それらのきまったベクターに連結した(また、適切な酵素で消化させた)。以下のリストに、クローニングの詳細の概要を示す。
mSCR2 pPICZαA中、制限部位:EcoRI(5’側)及びXbaI(3’側)
mSCR7 pPICZαA中、制限部位:EcoRI(5’側)及びXbaI(3’側)
hSCR7 pPICZαA中、制限部位:EcoRI(5’側)及びXbaI(3’側)
hSCR9 pPICZαA中、制限部位:EcoRI(5’側)及びXbaI(3’側)
mSCR13 pPICZαA中、制限部位:EcoRI(5’側)及びXbaI(3’側)
hSCR13 pPICZαA中、制限部位:KpnI (5’側)及びXbaI(3’側)
mSCR18〜20 pPICZαC中、制限部位:ClaI (5’側)及びXbaI(3’側)
hSCR18〜20 pPICZαA中、制限部位:EcoRI(5’側)及びXbaI(3’側)
【0120】
PCRの結果、以下のポリヌクレオチド配列からなり、EcoRI制限部位を5’末端に(下線)、且つ、XbaI(SCR2、7、9、13及びヒトSCR18〜20)又はClaI制限部位(マウスSCR18〜20)を3’末端に(二重下線)含む、合成DNA分子が得られた。
【化6−1】

【化6−2】

【0121】
SCR2、SCR7、SCR9、SCR13及びヒトSCR18〜20をコードする上記のポリヌクレオチドを、EcoRI(5’側)及びXbaI(3’側)クローニング部位を介してpPICZαA(Invitrogen)にクローニングした。マウスSCR18〜20は、EcoRI(5’側)及びClaI(3’側)クローニング部位を介してpPICZαC(Invitrogen)にクローニングした。配列決定により正確なリーディングフレームを確認した。ベクターを、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)酵母菌株X−33に製造業者(Invitrogen)のプロトコールに従ってトランスフェクトし、ゼオシンを用いて陽性選択した。陽性の酵母クローンを30℃にて96時間培養し、1% メタノールを繰り返し添加することにより(24時間毎)発現を誘導した。クローン発現をドットブロット法により分析した。
【0122】
得られる補体因子H由来のショートコンセンサスリピート(fH−SCR)ポリペプチドは、以下のアミノ酸配列により定義される:
【化7−1】

【化7−2】

【0123】
SCRを、製造業者(Qiagen)に推奨されるようにNiNTA−カラムを介して酵母上清から精製した。スロットブロットで陽性の画分(図1参照)を、PBSに対して透析した。
【0124】
フレンドマウス白血病ウイルス(FV)の外被タンパク質を特異的に認識するモノクローナル抗体クローン#48;(Ab#48;Chesebroら(1981) Virology 112(1):131−44)を、製造業者のプロトコールに従って、G−Sepharose(Amersham)によりハイブリドーマ細胞の上清から精製した。
【0125】
等モル量のfH−SCR及びAb#48抗体分子を、スルホ−SMPBを製造業者(Pierce)に推奨されるように用いて架橋した。得られるショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)を、スピンフィルター(Zeba)によって精製した。成功した、fH−SCRとAb#48抗体分子との架橋を、ウエスタンブロッティングにより解析した(図2参照)。
【0126】
実施例2:SCR結合実験
生成されたSCRが負に帯電した表面に結合することを示すため、トランスフェクトし、誘導した酵母菌株の上清をヘパリンカラムに適用した。このため、20ml hSCR18〜20を遠心分離し、得られる上清(SN)をdHOで1:2に希釈し、滅菌濾過した(0.2μm滅菌フィルタ)。処理したSNを、以下のプロトコールに従って1ml HiTrapヘパリンカラム(GEヘルスケア)及びPharmacia FPLC−Systemを用いてヘパリンアフィニティークロマトグラフィーに適用した。
カラム:HiTrapヘパリンHP(Amersham)
バッファーA:1/3PBS
バッファーB:1×PBS+1M NaCl
流速:1ml/分
ロード:3×40ml 調製上清(1:2 HO)
洗浄:バッファーA
勾配:線形 最大100% バッファーB →10分間保持
平衡化:バッファーA
【化8】

【0127】
フロースルーを回収し、2回リロードした。カラムを低塩バッファー(1/3 PBS)で広範囲に洗浄し、50mMから1M NaCl(高塩バッファー:1M NaClを含むPBS)までの範囲の線形の塩勾配を総容積100mlで用いて、結合したタンパク質を溶出した。2mlの個別の画分を回収し、スロットブロッティングによりhSCR18〜20の存在をアッセイした。(ポリクローナル血清ヤギ−抗ヒトFH 1:1.000(Quidel);ウサギ−抗ヤギHRP複合体 1:2.000(Dako)(図3))。回収した画分の純度を調べるため、還元条件下でSDS−PAGEゲル(15%)の銀染色を行った(図4)。スロットブロットで陽性の画分は、32kd前後の予想したバンドをSDS−PAGEゲルに示した。32前後のスミアはSCRのグリコシル化によるものである。
【0128】
実施例3:fH枯渇血清によるインビトロ溶解
単離したFVウイルスを、正常マウス血清(NMS)とともに、入力ウイルス対照として何も補充しないRPMI 1640又はfH枯渇血清と呼ばれる、5%未満のfHを含有するNMS(Δ−fH−血清)中でインキュベートした。全ての血清は、RPMI 1640に1:10で希釈した。残留MMTV(マウス補体に溶解されなかった)のRNAを単離し、逆転写酵素リアルタイム−PCRにより増幅した。ウイルスを遠心分離により単離し(Hermle Z382K、Rotor 220.87V01、1h/25.000g/4℃)、リアルタイムRT−PCRにより定量化した。このため、ウイルスRNAをウイルスRNAミニキット(Qiagen)で単離した。インビトロアッセイからの、又は血清から明らかになった、5μlの溶出RNAを以下のプロトコールに従うリアルタイムRT−PCRの鋳型として得た:PCR−MixにはRT−PCR Reaction Mix、iScript逆転写酵素、ヌクレアーゼフリー水(iScriptワンステップRT−PCRキット、BioRad)、F−MuLV env特異的蛍光性PCRプローブ(5'−FAM ACT CCC ACA TTG ATT TCC CCG、Metabion)、上流プライマー5’−AAGTCTCCCCCCGCCTCTA−3’(配列番号17)及び下流プライマー5’−AGTGCCTGGTAAGCTCCCTGT−3’(配列番号18)が含まれた。ウイルスRNAを、次のPCRサイクルプロファイルを用いてcDNAに転写した:45℃30分、95℃15秒、60℃30秒(iCycler,BioRad)。リアルタイムPCR及びRT−PCR増幅は、iCycler(BioRad)を用いて、BioRad iScriptワンステップRT−PCR反応ミックス(BioRad)により25μl反応混合物中で行った。グループ間の比較は臨界閾値(Q値)の差を用いて行った。実験は二重反復で行った。Ct値の約3.3の増加は、ウイルス力価の約1 logの減少に相当する;次の表3を参照。
【表3】

【0129】
従って、対照血清のCt値がCt24.5から33.0まで増加したため、fH枯渇血清は、FVの量を約3 log減少させる。
【0130】
同様に、マウス乳癌ウイルス(MMTV)は、別のマウスレトロウイルスであるが、補体に効率的に溶解され、ウイルス力価は約5 log減少する;図5及び下の表4を参照のこと。
【表4】

【0131】
Ct値はRT−PCRにより、以下のプロトコールに従って決定した:MMTVを、RNAseの存在下、何も補充しないRPMI 1640中の、NMS又はfH枯渇血清(最終希釈1:10)とともに37℃にて15分間インキュベートした。RNAseを不活性するためのウイルスRNA単離キット(Qiagen)からAVLバッファーを添加して溶解を停止させた。RNA単離は、キットの中で製造業者の記載する通りに行った。溶解後のMMTVの量を定量化するため、Stratagene製のQRT−PCRキットを用いてリアルタイムRT−PCRを45℃にて30分間行い、それに続いてSybrGreenの存在下でcDNAのPCRを行った。
【0132】
以下のプライマーを使用した。
MMTVフォワード:5’−TCTTTTGCGCACAACCCATCAA−3’(配列番号19)
MMTVリバース:5’−AAGGCCATGTTTGTTAAGGGC−3’(配列番号20)
cDNAは、次のPCRサイクルプロファイルを用いて増幅した:50サイクルで95℃15秒、60℃30秒(iCycler,BioRad)。実験は二重反復で行った。
【0133】
実施例4:SCR−Ab構築物に誘導されるインビトロ溶解
本明細書に記載されるSCR−Ab構築物が補体依存性溶解を強化する能力を、最初にインビトロ溶解アッセイを用いて証明した。そのために、フレンドウイルスの10脾臓 フォーカス形成単位(SFFU)を、SCR7、SCR13、SCR18〜20又はSCR2を含有する構築物、Ab#48抗体とSCR7の非カップリング混合物(Ab#48単独/SCR単独)、抗体単独(Ab#48単独)又はSCR単独(SCR単独)と10倍過剰で混合し、正常マウス血清(NMS)とともに1:10希釈中30分間インキュベートした。対照として、fH枯渇マウス血清(fH枯渇NMS)を使用した。ウイルスを遠心分離により単離し(Hermle Z382K,Rotor 220.87V01、1h/25.000g/4℃)、リアルタイムRT−PCRにより定量化した。このため、ウイルスRNAをウイルスRNAミニキット(Qiagen)で単離した。インビトロアッセイから、又は血清から明らかになった、いずれかの5μlの溶出RNAを、以下のプロトコールに従うリアルタイムRT−PCRの鋳型として得た:PCR−MixにはRT−PCR Reaction Mix、iScript逆転写酵素、ヌクレアーゼフリー水(iScriptワンステップRT−PCRキット、BioRad)、F−MuLV env特異的蛍光性PCRプローブ(5'−FAM ACT CCC ACA TTG ATT TCC CCG、Metabion)、上流プライマー5’−AAGTCTCCCCCCGCCTCTA−3’(配列番号17)及び下流プライマー5’−AGTGCCTGGTAAGCTCCCTGT−3’(配列番号18)が含まれた。ウイルスRNAは、次のPCRサイクルプロファイルを用いてcDNAに転写した:45℃30分、95℃15秒、60℃30秒(iCycler,BioRad)。リアルタイムPCR及びRT−PCR増幅は、iCycler(BioRad)を用いて、BioRad iScriptワンステップRT−PCR反応ミックス(BioRad)で、25μl 反応混合物中で行った。実験は二重反復で行った。
【0134】
次の表5に示される結果は、SCRがFV特異的抗体分子とカップリングしているの時のみFVが溶解されることを明らかに示している。SCR7に対して架橋したAb#48(SCR7−Ab#48)分子を一例として図6に示す。低い濃度であっても、SCR−Ab構築物はfH枯渇マウス血清と同様にウイルス力価を減少させた;下表5を参照のこと。
【表5】

【0135】
対照的に、非カップリングのSCR(SCR単独)とAb#48(Ab#48単独)との混合物は補体媒介性溶解(CoML)を誘導できなかった(表5)。SCR13又はSCR18〜20がAb#48に架橋された構築物は同様に挙動し、CoMLを誘導した(データは示さず)。
【0136】
実施例5:SCR−Ab構築物のインビボ評価
さらに、本明細書に記載されるSCR−Ab構築物を、BALB/cマウスを用いて(このマウス系統はFV感染に非常に感受性が高いため)インビボで試験した。
【0137】
そういう理由で、5μgの個別のSCR−Ab構築物を、氷上で総容積500μlのFV(500SFFU/動物)と30分間混合し、BALB/cマウス(Charles River,Germanyより購入)に尾静脈を介して適用した。対照動物に、何も補充しないPBS500μl中500SFFUのFVを与えた。
【0138】
1週間後、動物を屠殺し、次のパラメータを決定した:脾臓の感染中心(感染中心アッセイ)及び脾臓の感染細胞(FACS解析)。
【0139】
感染マウスからの脾臓細胞の系列希釈を、感受性のマウスdunni細胞の上に置き、3日間共培養し、エタノールで固定し、F−MuLVエンベロープ特異的Mab720(Dittmer (1998) J Virol 72:6554-8)により染色し、ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG及び基質で現像して、感染細胞の病巣を検出した。
【0140】
脾臓の感染中心の決定により、負に帯電した表面に結合しているSCRを含んでいた構築物が感染を減少できたことが明らかとなった。対照構築物(SCR2−Ab#48)、又はAb及びSCR(陽性対照)のいずれも不在下での感染は、FV感染に対する保護を誘導しなかったが、SCR7、13、又は18〜20或いはSCR7、13、18〜20の混合物(ミックス)を含有するSCR−Ab構築物は、感染中心を3 log以下に減少させた;本明細書の以下に記載される表6を参照のこと。
【表6】

【0141】
従って、SCR7、13又は18〜20がウイルス特異的Abとカップリングされた場合のみ、感染中心の量は、いずれの構築物も含まない対照SCRと比較して大幅に減少した(約3 log);表6を参照のこと。予想したように、非感染対照マウス(陰性対照)は、このアッセイにおいてFV特異的シグナルを示さなかった。
【0142】
二組目の実験では、未カップリングのSCRとAb#48との混合物(Ab#48単独/SCR7単独;等モル量のAb及びSCR、合計5μg)を動物に尾静脈を介して適用した。6時間後、BALB/cマウスを、尾静脈を介して再びFVで感染させた(500SFFU)。1週間後、動物を屠殺し、マウスの感染を上記のように判定した。
【0143】
レポーター細胞株での脾臓の感染中心の力価測定(titration)(IC−アッセイ)、及び未カップリングのSCRとウイルス特異的Abとの混合物で処置した感染動物のFACS解析による感染中心の検出を、以下に列挙して表7に示す。
【表7】

【0144】
予想したように、未カップリングのSCRとAb#48との混合物は効果がなかった。脾臓における感染細胞の量も、ICアッセイにおける感染中心も、いずれの構築物もない対照の設定、Ab#48単独、Ab#48と対照SCR2、又はSCR7、13若しくは18〜20とAb#48との未カップリングの混合物と比較してもあまり減少しなかった;表7を参照。
【0145】
脾臓におけるFV感染細胞の量を判定するため、FACS解析を行った。脾臓細胞の懸濁液を、感染細胞の表面のF−MuLV glyco−Gagを認識するビオチン化モノクローナル抗体クローン#34;(Ab#34;Chesebro et al. (1981) Virology 112(1): 131-44)とともにインキュベートした。洗浄段階の後、脾臓細胞をFITC結合ストレプトアビジン(DAKO)とともにインキュベートした。蛍光シグナルを、CellQuestソフトウェアを用いるBecton Dickinson FACScanフローサイトメーターで解析した。
【0146】
脾臓におけるウイルス負荷量を、FACS解析で感染細胞のパーセントを測定すること及びレポーター細胞株を用いる脾臓細胞の力価測定により測定する。FACS解析により、構築物不在時(FV、感染細胞15%)又はAb#48とカップリングした対照SCR(感染細胞7%、図7を参照)と比較して、SCR−Ab構築物がFV感染細胞の量を減少させること(脾臓における感染細胞の0.5〜2.5)が示された。
【0147】
実施例6:SCR−Ab構築物に誘導されるインビトロ溶解
架橋SCR−3D6構築物によるCoMLの誘導を判定するため、HIV−1をRPMI−中でSCR−3D6とともに氷上で約10分間プレインキュベートした。NHSを1:10希釈で添加した。素早く1μg/μl RNAse Aを添加し、サンプルを37℃にて1時間インキュベートした。未カップリング化合物(図8中のSCR7構築物)に対するSCR−3D6の効果を比較するため、一部のサンプルに未カップリングのSCR及びAb(SCR7+3D6)、又はSCRを含まないAb単独(3D6;図8)を含めた。陽性対照としてRPMI中1% Igepalを加えて100%溶解を判定した。陰性対照として、1つのサンプルに何も補充しない入力ウイルスを含め、1つのサンプルは入力ウイルス及びNHSから構成された。インキュベーションの後、ウイルスを15000rpmにて60分間ペレット化した。ウイルスペレットのRNAを、ウイルスRNA−単離キット(Qiagen)で製造業者の推奨する通りに単離し、Biorad製のTaqman−Kitを用いてリアルタイムRT−PCRにより分析した。PCR−Mixには、iScript逆転写酵素、ヌクレアーゼフリー水、HIV特異的MGB−プローブ(5’−FAM−CTG CAG AAT GGG A−mgb−3'、Applied Biosystems)、上流プライマー5’−ATG TTA AAA GAG ACC ATC AAT GA−3’(配列番号43;Metabion)、下流プライマー5’−CTA TGT CAC TTC CCC TTG GT−3’(配列番号44;Metabion)及びウイルスRNA鋳型を含めた。増幅プロファイルは50℃で10分、及び98℃で5分から開始した。その後に続く50サイクルは95℃、15秒、54℃で30秒間であった。反応は、40μlの反応混合物中において二重反復で行った。
【0148】
実施例7:SCR9に誘導されるHIV−1のインビトロ溶解
SCR9によるCoMLの誘導を判定するため、HIV−1ウイルスをRPMI−培地中で1:10希釈の正常ヒト血清(NHS)とともに氷上で約10分間インキュベートした。素早く1μg/μl RNAse Aを添加し、サンプルを37℃にて1時間インキュベートした。その他のSCRに対するSCR9の効果(図10中のSCR9)を比較するため、未カップリングSCR7を含めた。両方のSCRを、その系のfHの含量に対して計算して300モル過剰にて適用した。陽性対照としてRPMI−培地中1% Igepalを加えて100%溶解を判定した。陰性対照として、1つのサンプルに熱不活性化血清を含む入力ウイルス(図10中の入力対照)を含め、1つのサンプルは入力ウイルス及びNHSから構成された。インキュベーションの後、ウイルスを15000rpmにて60分間ペレット化した。ウイルスペレットのRNAを、ウイルスRNA−単離キット(Qiagen)で製造業者の推奨する通りに単離し、Biorad製のTaqman−Kitを用いてリアルタイムRT−PCRにより分析した。PCR−Mixには、iScript逆転写酵素、ヌクレアーゼフリー水、HIV特異的MGB−プローブ(5’−FAM−CTG CAG AAT GGG A−mgb−3'、Applied Biosystems)、上流プライマー5’−ATG TTA AAA GAG ACC ATC AAT GA−3’(配列番号43;Metabion)、下流プライマー5’−CTA TGT CAC TTC CCC TTG GT−3’(配列番号44;Metabion)及びウイルスRNA鋳型が含まれた。増幅プロファイルは50℃で10分、及び98℃で5分から開始した。その後に続く50サイクルは95℃、15秒、54℃で30秒間であった。反応は、40μlの反応混合物中において二重反復で行った。実施例4、5及び6を考えると、SCR9と病原菌特異的結合分子のカップリングは、本発明によれば、さらに高い活性をもたらすと考えられる。
【0149】
実施例8:SCR構築物の存在下でのHIV−1感染アッセイ
上記の通りの溶解実験の後(初期ウイルス濃度は40ng HIV−1 NL4−3 p24等価物を含んだ)、ペレット化したサンプル(Hermle Z382K,Rotor 220.87V01、1h/25.000g/4℃)を再懸濁し、IL−2及び10% FCSを添加したRPMI中、100000PBMCを含有するU底96穴プレートに移した。次に、プレートを37℃にて一晩インキュベートした。翌日、細胞を洗浄し、新鮮培地に再懸濁した。10μlの各サンプルを採取し、1% Igepal中1:10に溶解し、p24 ELISA実験用に−80℃にて保存した。これらのサンプルを感染0日とした。さらなるサンプルを、感染5日目及び10日目に採取した。産生したウイルスの量を記載されるようにp24−ELISAにより測定した(Stoiber (1996) 前掲)。HIV−1感染アッセイの結果を図9に表す。
【0150】
実施例9:インビトロMHV−溶解−アッセイ
コロナウイルスファミリーのメンバーである、マウス肝炎ウイルスA59(MHV;3×10プラーク形成単位を有する20μlのストック)を、NMSを1:5希釈で添加する前にSCR13又はSCR2(SCR対照、両方ともに100倍過剰)とともにインキュベートした。サンプルは37℃にて30分間インキュベートした。溶解したウイルスのRNAをRNAseに消化させた。4℃にて13000rpmでの1時間の遠心分離の後、上清を廃棄し、残った非溶解MHVのペレットを何も補充しないRPMIに再懸濁し、その後にQIAGENキットを製造業者の推奨するとおりに用いてウイルスRNAを単離した。単離RNAを、以下のプロファイルを用いて、RT−PCRにより増幅した(上流プライマー5’−TCCTGGTTTTCTGGCATTACCCAG−3’(配列番号45)、下流プライマー5’−CTGAGGCAATACCGTGCCGGGCGC−3’(配列番号46))。
サイクル1 1× 50.0℃ 10分間
サイクル2 1× 94.0℃ 5分間
サイクル3 35× 94.0℃ 30秒間
58.0℃ 30秒間
72.0℃ 40秒間
【0151】
増幅したウイルスcDNAをアガロースゲル電気泳動に適用し、エチジウムブロマイドで可視化した。図10中、380bpの予想したバンドが矢印で強調される。対照構築物又はNMSはウイルスRNAを減少させることができなかったが、SCR13はMHVの完全な破壊を誘導した。この実験は、SCR13がレトロウイルス(HIV、SIV、FV、MMTV)によってのみでなく、その他のウイルスファミリーのウイルスでも効果的であることを示す。実施例4、5及び6を考えると、SCR13と病原菌特異的結合分子とのカップリングは、本発明によれば、さらに高い活性をもたらすと考えられる。
【0152】
実施例10:SCR7−Abの組合せによる腫瘍細胞の細胞溶解
SOK3−細胞(1×10/ml)を、HER2/neuの細胞外ドメインに特異的な抗体(腫瘍細胞に対するmAb(PBS中1:100希釈))とともにインキュベートし、洗浄後、補体の供給源として正常ヒト血清に晒した(NHS、RPM中1:10;37℃にてI30分)。サンプルには加えてSCR7(データ12)、又は対照SCR2(データ11)を含めた。サンプルには、fHの血清濃度が500μg/mlであることを考慮して60倍モル過剰量を含めた。再び洗浄した後、C3cに対するFITC−標識抗体を氷上で30分間加えた(1:500)後、さらなる洗浄ステップを続けた。サンプルをヨウ化プロピジウム(PI)とともにインキュベートし、洗浄し、3% ホルムアルデヒドを添加したPBSで固定した。C3(FL−1−H)及びPI染色(FL2H)の沈着をFACS解析により判定し、FACs Divaソフトウェア(BD Bioscience)により解析した。実施例4、5及び6を考えると、SCR7と腫瘍細胞特異的結合分子のカップリングは、本発明によれば、さらに高い活性をもたらすと考えられる。
【0153】
実施例11:SCR−Abの組合せによるヒトBリンパ球バーキットリンパ腫細胞株の破壊
Raji細胞(5×10)をSCR7又はSCR9とともに37℃にて1時間それぞれインキュベートした(fHと比較して50倍過剰(図13中で7−50及び9−50として示される))。示される場合、細胞を抗CD20抗体(抗hCD20;Dako)で先にインキュベートし、抗IgGと架橋した(mIgG;Dako;図13の2番目及び3番目のデータブロック)。両抗体をRPMI中の1:50希釈に用いた。洗浄後、NHS(RPMI中1:10)を添加し、サンプルを再び1時間インキュベートした。一部のサンプルにおいて、NHSを除くか(図13の中央のブロック)、熱失活(hi)NHSに置き換えた。サンプルを再び洗浄し、10% FCSを含有する500μl RPMIとともに細胞培養インキュベーター(37℃ 5% CO)中で一晩インキュベートした。次に、細胞を再び洗浄し、死細胞をヨウ化プロピジウム(PI)で染色して、FACS解析において生存細胞にゲートをかけた。生存細胞の量をFACS(1分)で計数し、FACS Divaソフトウェア(BD Bioscience)により解析した。実施例4、5及び6を考えると、SCR7又はSCR9と腫瘍細胞特異的結合分子のカップリングは、本発明によれば、さらに高い活性をもたらすと考えられる。
【0154】
実施例12:人工SCR(aSCR)の調製
例示的人工ショートコンセンサスリピート(aSCR/;配列番号32)をコードする遺伝子配列を含むコドン最適化プラスミドを、GeneArtより購入した。aSCRiをpPICZαC(Invitrogen)にClaI(5’側)及びNotI(3’側)クローニング部位を介してクローニングした。正確なリーディングフレームを配列決定により確認した。ベクターを、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)酵母菌株X−33に製造業者(Invitrogen)のプロトコールに従ってトランスフェクトし、ゼオシンを用いて陽性選択した。陽性の酵母クローンを30℃にて96時間培養し、0.5% メタノールを繰り返し添加することにより(12時間毎)発現を誘導した。クローン発現をドットブロット法により分析した。
【0155】
例示的人工SCR(aSCRi)とヘパリンの結合を、次の変形を用いて分析した。結合したタンパク質を高塩バッファー(500mM NaClを含有するPBS)により、勾配によるのではなくこのバッファーを直接適用することにより溶出した。画分をPBSに対して透析し、濃縮した後、ウエスタンブロットにより分析した。aSCRiはfH配列を表さなかったので、ポリクローナル血清ヤギ−抗ヒトFHを、aSCRiのC末端でhis−tagを認識する直接POX−標識した抗HIS抗体(1:2000、Sigma)に置き換えた。図14中のブロットは、濃縮した単量体(15〜18kD)及び二量体のaSCR(30〜36kD)を表す2つのブロードなバンドを示し、スミアはタンパク質のグリコシル化によるものである。結合したタンパク質を、高塩バッファー(溶出液)での溶出後にヘパリンカラムから放出した。フロースルー(FT)中にaSCRは見出されなかった。
【0156】
実施例13:人工SCR(aSCR)により誘導される補体媒介性溶解
人工SCRによる補体媒介性溶解(CoML)の誘導を判定するため、HIV−1を、RPMI−培地中、1:10希釈の正常ヒト血清(NHS)及び1:500希釈のモノクローナルHIV特異的抗体2G12(Polymun,Vienna)とともに氷上で約10分間インキュベートした。次に、サンプルを37℃にて1時間インキュベートした。配列番号31を有するaSCRを等モル量で、且つその系のfHの含量に対して計算した120モル過剰で適用した。陽性対照としてRPMI−培地中1% Igepalを加えて100%溶解を判定した。陰性対照として、1つのサンプルに熱不活性化血清を含む入力ウイルス(図15中のhiNHS)を含め、1つのサンプルは入力HIV−1及びNHS及び2G12から構成された(図15中のNHS)。インキュベーションの後、ウイルスを15000rpmにて60分間ペレット化した。CoMLに起因して、ウイルス内のp24タンパク質は上清に放出され、溶解の誘導の出力(read out)として用いることができる。fHに対して等モル量のaSCRを使用すると、CoMLの増加は観察できなかった(aSCR-1;図15)。20倍過剰では既に、実質的なCoMLが誘導された(示さず)。aSCR濃度の増加につれて、HIVのCoMLはさらに強化され、結果として120倍過剰でほぼ100%となった(aSCR-120;図15)。従って、aSCRは病原菌特異的Abとカップリング又は連結された場合にCoMLを効率的に誘導することができる。実施例4、5及び6を考えると、人工SCR9と病原菌特異的結合分子のカップリングは、本発明によれば、さらに高い活性をもたらすと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)補体因子H由来ショートコンセンサスリピート(fH由来のSCR);および
(b)病原菌を特異的に認識する結合分子
を含み、前記fH由来SCRがヘパリンに結合可能なポリペプチドを含む、ショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項2】
前記fH由来SCRが、SCR7、SCR9、SCR13及びSCR18〜20、又は前記fH由来SCR7、SCR9、SCR13及びSCR18〜20の機能性フラグメントからなる群より選択されるか、或いは人工SCR(aSCR)である、請求項1に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項3】
前記病原菌が、ウイルス又は細菌である、請求項1又は2に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項4】
前記ウイルスが、二本鎖DNAウイルス、一本鎖DNAウイルス、二本鎖RNAウイルス、プラスセンス一本鎖RNAウイルス、マイナスセンス一本鎖RNAウイルス、逆転写RNAウイルス及び逆転写DNAウイルスからなる群より選択される、請求項3に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項5】
前記二本鎖DNAウイルスが、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタイン・バーウイルス、ロゼオロウイルス、ヒトヘルペスウイルス7型及びカポジ肉腫関連ウイルスからなる群より選択される、請求項4に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項6】
前記プラスセンス一本鎖RNAウイルスが、コロナウイルス、C型肝炎ウイルス、デング熱ウイルス、ポリオウイルス、風疹ウイルス、黄熱病ウイルス及びダニ媒介性脳炎ウイルスからなる群より選択される、請求項4に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項7】
前記マイナスセンス一本鎖RNAウイルスが、インフルエンザウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、狂犬病ウイルス、パラインフルエンザウイルス、ラッサ熱ウイルス及びリンパ性脈絡髄膜炎ウイルスからなる群より選択される、請求項4に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項8】
前記逆転写RNAウイルスがレトロウイルスである、請求項4に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項9】
前記レトロウイルスが、ラウス肉腫ウイルス(RSV);マウス乳癌ウイルス(MMTV);フレンドマウス白血病ウイルス(FV);ネコ白血病ウイルス;ネコ肉腫ウイルス;ウシ白血病ウイルス;ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV);ウシ免疫不全ウイルス;ウマ伝染性貧血ウイルス;ネコ免疫不全ウイルス;ヒト免疫不全ウイルス(HIV);サル免疫不全ウイルス(SIV)及びスプーマウイルスからなる群より選択される、請求項8に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項10】
前記逆転写DNAウイルスがB型肝炎ウイルスである、請求項4に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項11】
前記結合分子が、抗体分子、レセプター分子、アプタマー又はDARPin或いはそれらのリガンド結合フラグメントを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項12】
前記抗体分子が、
(a)前記病原菌がC型肝炎ウイルスであり、表1に記載されるクローンHCV−AB 68;
(b)前記病原菌が黄熱病ウイルスであり、表1に記載されるクローン2D12;
(c)前記病原菌がヒト免疫不全ウイルス(HIV)であり、表1に記載されるクローン2F5、2G12、3D6、4E10 IgG1又は4E10 IgG3;
(d)前記病原菌がフレンドマウス白血病ウイルス(FV)あり、表1に記載されるクローン#48;
(e)前記病原菌が麻疹ウイルスであり、表1に記載されるクローンHA cl.55;
(f)前記病原菌が狂犬病ウイルスであり、表1に記載されるクローンmAb 57;
(g)前記病原菌がエプスタイン・バーウイルスであり、表1に記載されるクローン72A1;及び
(h)前記病原菌がC型肝炎ウイルスであり、表1に記載されるクローンH25B10
からなる群より選択されるモノクローナル抗体である、請求項11に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項13】
前記レセプター分子が、CD4レセプターである、請求項11に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項14】
前記補体因子H由来ショートコンセンサスリピート(fH由来SCR)と前記結合分子が共有結合又は非共有結合している、請求項1〜13のいずれか一項に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項15】
前記補体因子H由来ショートコンセンサスリピート(fH由来SCR)及び前記結合分子が一本鎖多機能ポリペプチドに含まれる、請求項1〜13のいずれか一項に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項16】
前記fH由来SCRが、
(a)配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号30又は配列番号32に含まれるアミノ酸配列によりコードされるポリペプチド或いはそれらの機能性フラグメント;
(b)配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号30又は配列番号32に含まれるアミノ酸配列と少なくとも60%同一であるアミノ酸配列によりコードされるポリペプチドであって、前記ポリペプチドが前記病原菌の補体因子H結合部位に結合する能力がある、ポリペプチド;
(c)配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号29又は配列番号31に含まれるポリヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチド或いはそれらの機能性フラグメント;
(d)配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号29又は配列番号31に含まれるポリヌクレオチドとハイブリダイズすることの可能なポリヌクレオチドの相補的配列によりコードされるポリペプチドであって、前記ポリペプチドが前記病原菌の補体因子H結合部位に結合する能力がある、ポリペプチド;並びに
(e)配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号29又は配列番号31に含まれる核酸配列に少なくとも60%同一である核酸分子によりコードされるポリペプチドであって、前記ポリペプチドが前記病原菌の補体因子H結合部位に結合する能力がある、ポリペプチド:
からなる群より選択される、請求項1〜15のいずれか一項に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項17】
前記fH由来SCRが、配列番号4又は配列番号22に含まれるアミノ酸配列によりコードされるポリペプチド或いはそれらの機能性フラグメントを含む、請求項1〜16のいずれか一項に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)をコードするポリヌクレオチド。
【請求項19】
請求項18に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項20】
請求項18に記載のポリヌクレオチド又は請求項19に記載のベクターをトランスフェクトされた細胞。
【請求項21】
請求項20に記載の細胞を培養すること、及び前記ポリペプチドを培養物から単離することを含む、請求項1〜16のいずれか一項に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)の調製のための方法。
【請求項22】
前記fH由来SCRと前記結合分子をカップリングすることを含む、請求項1〜の17いずれか一項に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)の調製のための方法。
【請求項23】
前記fH由来SCRが、スルホスクシンイミジル 4−[p−マレイミドフェニル]ブチラート(スルホ−SMPB)化学架橋を用いて前記結合分子とカップリングされている、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記fH由来のSCRが、ビオチン−ストレプトアビジン複合体を形成することにより、又は抗体−抗原複合体を形成することにより前記結合分子と結合している、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)を含む組成物。
【請求項26】
所望により、医薬品として許容される担体をさらに含む医薬組成物である、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
所望により、適切な検出手段をさらに含む診断用組成物である、請求項25に記載の組成物。
【請求項28】
病原菌の感染又は病原菌の感染に関連する病的状態の予防、治療又は改善のための医薬組成物の調製のための、請求項1〜17のいずれか一項に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)の使用。
【請求項29】
病原菌の感染又は病原菌の感染に関連する病的状態の予防、治療又は改善のための医薬組成物として使用するための、請求項1〜17のいずれか一項に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)。
【請求項30】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)又は請求項25又は26に記載の組成物をこのような予防又は治療を必要とする哺乳類に投与することを含む、病原菌の感染又は病原菌の感染に関連する病的状態の予防、治療又は改善のための方法。
【請求項31】
前記哺乳類がヒトである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記病原菌が、ウイルス又は細菌である、請求項28に記載の使用、請求項29に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物或いは請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
前記ウイルスが、二本鎖DNAウイルス;一本鎖DNAウイルス;二本鎖RNAウイルス;プラスセンス一本鎖RNAウイルス;マイナスセンス一本鎖RNAウイルス;逆転写RNAウイルス;及び逆転写DNAウイルスからなる群より選択される、請求項32に記載の使用、ショートコンセンサスリピート−抗体構築物又は方法。
【請求項34】
前記二本鎖DNAウイルスが、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタイン・バーウイルス、ロゼオロウイルス、ヒトヘルペスウイルス7型及びカポジ肉腫関連ウイルスからなる群より選択される、請求項33に記載の使用、ショートコンセンサスリピート−抗体構築物又は方法。
【請求項35】
前記プラスセンス一本鎖RNAウイルスが、コロナウイルス、C型肝炎ウイルス、デング熱ウイルス、ポリオウイルス、風疹ウイルス、黄熱病ウイルス及びダニ媒介性脳炎ウイルスからなる群より選択される、請求項33に記載の使用、ショートコンセンサスリピート−抗体構築物又は方法。
【請求項36】
前記マイナスセンス一本鎖RNAウイルスが、インフルエンザウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、狂犬病ウイルス、パラインフルエンザウイルス、ラッサ熱ウイルス及びリンパ性脈絡髄膜炎ウイルスからなる群より選択される、請求項33に記載の使用、ショートコンセンサスリピート−抗体構築物又は方法。
【請求項37】
前記逆転写RNAウイルスがレトロウイルスである、請求項33に記載の使用、ショートコンセンサスリピート−抗体構築物又は方法。
【請求項38】
前記レトロウイルスが、ラウス肉腫ウイルス(RSV);マウス乳癌ウイルス(MMTV);フレンドマウス白血病ウイルス(FV);ネコ白血病ウイルス;ネコ肉腫ウイルス;ウシ白血病ウイルス;ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV);ウシ免疫不全ウイルス;ウマ伝染性貧血ウイルス;ネコ免疫不全ウイルス;ヒト免疫不全ウイルス(HIV);サル免疫不全ウイルス(SIV);及びスプーマウイルスからなる群より選択される、請求項37に記載の使用、ショートコンセンサスリピート−抗体構築物又は方法。
【請求項39】
前記逆転写DNAウイルスが、B型肝炎ウイルスである、請求項33に記載の使用、ショートコンセンサスリピート−抗体構築物又は方法。
【請求項40】
前記ウイルスが、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)である、請求項28に記載の使用、請求項29に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物或いは請求項30又は31に記載の方法。
【請求項41】
病原菌の感染に関連する前記病的状態が、後天性免疫不全症状群(AIDS)、重度急性呼吸器症候群(SARS)、C型肝炎感染症及びインフルエンザからなる群より選択される、請求項28に記載の使用、請求項29に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物或いは請求項30又は31に記載の方法。
【請求項42】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のショートコンセンサスリピート−抗体構築物(SCR−Ab)、請求項18に記載のポリヌクレオチド、請求項19に記載のベクター又は請求項25〜27のいずれか一項に記載の組成物を含む、キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2010−526528(P2010−526528A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504581(P2010−504581)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003554
【国際公開番号】WO2008/135237
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(509303741)メディツィニーチェ ウニベルシタット インスブルック (1)
【Fターム(参考)】