説明

補強板付きフレキシブルプリント回路基板及びその製造方法

【課題】クイック成形方式に適用可能であり、接着性に優れた補強板付きフレキシブルプリント回路基板を提供する。
【解決手段】ベースフィルム21の表面に形成されたランド部22a,22bを含む実装領域2a及び実装領域2bと、実装領域2a及び実装領域2bに挟まれるように設けられ、実装領域2aのランド部22aと実装領域2bのランド部22bを電気的に接続する配線パターン22を含む配線領域2cとを有するフレキシブルプリント回路基板2と、フレキシブルプリント回路基板2の実装領域2a,2bにおけるベースフィルム21の裏面に形成されたアクリル系接着剤層3と、フレキシブルプリント回路基板2と対向する面に酸化ジルコニウムを含有する化成皮膜4aを有し、アクリル系接着剤層3を介して、ベースフィルム21に接着されたアルミ補強板4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強板付きフレキシブルプリント回路基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(以下、単に「HDD」ともいう。)には、ヘッド素子部を保持するアクチュエータが組み込まれている。このアクチュエータが回動軸を中心として回動することにより、ヘッド素子部は磁気ディスク上の所望の記録トラックに位置決めされる。このアクチュエータには、ヘッド素子部と制御回路との間の信号伝送を行うFPCユニットが固定されている。このFPCユニットは、フレキシブルプリント回路基板(以下、単に「FPC基板」ともいう。)と、このFPC基板の所定のランド部に実装されたプリアンプICとを有する。
【0003】
FPC基板は、制御回路とプリアンプICとの間の信号伝送を行う。プリアンプICは、フレキシャとよばれる伝送配線によってヘッド素子部と接続されており、プリアンプICから出力される電流は、フレキシャによってヘッド素子部に伝送される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
近年、HDDの高速化により、データの転送速度が飛躍的に大きくなっている。これに伴い、プリアンプICの発熱量が増加している。そこで、放熱対策として、プリアンプICが実装されたFPC基板の裏面に、熱伝導率の良い金属からなる補強板を設けることが行われている(例えば、特許文献2参照)。このような補強板として、一般的には、アルミニウムからなる補強板(以下、「アルミ補強板」ともいう。)が用いられる。
【0005】
このアルミ補強板をFPC基板に積層接着して補強板付きFPC基板を製造するために、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系等の各種の接着剤を用いることができる。HDD用途などアウトガス特性等のピュアリティを要求される場合には、アクリル系接着剤が使用される。アクリル系接着剤は、HDD等の用途において標準接着剤として認定されており、周辺への非汚染性にも優れている。
【0006】
アルミ補強板をFPC基板に積層接着させるためには、接着剤を介して積層されたFPC基板とアルミ補強板に対して、加圧及び加熱するプレス処理を行う必要がある。
【0007】
アクリル系接着剤は、十分な接着力を発現させるために、材料の特性上、比較的長時間(例えば45〜120分)のプレス処理を必要とする。ここでは、このように比較的長時間のプレス処理を行う方式を「長時間成形方式」という。プレス処理を行うためのプレス装置は、比較的高価であり、導入数量が限られる。よって、プレス装置が1回のプレス処理により長時間占有されると、補強板付きFPC基板の生産効率が低下してしまうという問題がある。
【0008】
一方、上記の長時間成形方式に対して、プレス処理が比較的短時間の方式(以下、「クイック成形方式」という。)がある。このクイック成形方式では、プレス処理の時間を短時間(10分以下程度)とし、プレス処理の後にアフターキュア処理と呼ばれる熱処理を行う。クイック成形方式のプレス処理における成形圧力及び成形温度は、長時間成形方式のプレス処理の場合とほぼ同等である。プレス処理後のアフターキュア処理は、例えば、150℃以上かつ2時間以上の条件で行われる。
【0009】
クイック成形方式の場合、プレス処理が短時間であるため、1回のプレス処理でプレス装置を長時間占有しない。また、プレス処理後プレス装置からFPC基板を取り出す際に、FPC基板の温度を下げる必要がない。即ち、長時間成型方式では必要な降温過程を省略して、次工程のアフターキュア処理を行うことができる。このため、プレス装置の占有時間はさらに短くなる。また、アフターキュア処理は、例えば複数のオーブンを用いて並行して行うことで、大量処理が可能である。したがって、クイック成形方式によれば、長時間成形方式に比べて、補強板付きFPC基板の生産効率を大幅に向上させることができるという利点がある。
【0010】
しかし、従来、クイック成形方式を適用した場合、加圧時間(プレス処理)が短いことから、アクリル系接着剤の適正な硬化条件を確保することができなかった。その結果、アフターキュア処理を行った後でも、十分な接着性が得られないという問題があった。なお、アルミ板表面の粗化によるアンカー効果により接着性を向上させる方法が従来から知られているが、この方法を用いた場合でも、常態(常温・常湿下)において十分な接着強度(以下、「引き剥がし強度」ともいう。)を得ることはできない。
【0011】
さらに、従来のクイック成形方式により製造した補強板付きのFPC基板は、FPC基板の使用環境の一つとして想定されうる湿潤環境下において、アルミ補強板とFPC基板との接着性が大幅に低下してしまう。即ち、従来技術では、耐水接着性が劣るという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−287197号公報
【特許文献2】特開2002−314207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであって、クイック成形方式に適用可能であり、接着性に優れた補強板付きフレキシブルプリント回路基板、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によれば、ベースフィルム及び前記ベースフィルムの少なくとも一方の面に形成された配線パターンを有するフレキシブルプリント回路基板と、前記フレキシブルプリント回路基板を補強する金属板であって前記フレキシブルプリント回路基板と対向する面に酸化ジルコニウムを含有する化成皮膜を有しアクリル系接着剤層を介して前記ベースフィルム又は前記配線パターンを絶縁被覆するカバーフィルムに接着された金属板と、を備える補強板付きフレキシブルプリント回路基板が提供される。
【0015】
本発明の別態様によれば、アルミ板の表面に酸化ジルコニウムを含有する化成皮膜を形成し、前記化成皮膜が形成された前記アルミ板をフレキシブルプリント回路基板のプラスチックフィルム上にアクリル系接着剤を介して前記化成皮膜が前記アクリル系接着剤層と接するように積層することにより、前記アクリル系接着剤を介して前記アルミ板と前記プラスチックフィルムとが積層された積層体を形成し、前記積層体に対して、10分以下の加熱・加圧処理後、前記積層体に対して加熱処理を行う、補強板付きフレキシブルプリント回路基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、酸化ジルコニウムを含有する化成皮膜が表面に形成された金属板をフレキシブルプリント回路基板の補強板として用いる。この化成皮膜を有する金属板は、アクリル系接着剤層を介してフレキシブルプリント回路基板に接着される。アクリル系接着剤を硬化させる加熱処理において、酸化ジルコニウムを含有する化成皮膜中の水酸基がアクリル系接着剤中のカルボキシル基や水酸基と化学反応する。これにより、強固な化学結合が高密度に形成される。この化学結合は、化成皮膜とアクリル系接着剤層の界面を跨ぐ架橋を構成する。よって、本発明によれば、クイック成形方式を採用した場合であっても、高い接着強度を得ることができる。
【0017】
さらに、前述の架橋を構成する化学結合は結合力が強く、水分子の有する水酸基の影響を受けないため、湿潤環境下でも十分な接着性を確保することができる。つまり、本発明によれば、高い耐水接着性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係る補強板付きFPC基板の断面図であり、(b)は本発明の実施形態に係る補強板付きFPC基板の下面図である。
【図2】図1(a)のA部の拡大断面図である。
【図3】(a)は本発明の実施形態に係る補強板付きFPCユニットの断面図であり、(b)は本発明の実施形態の変形例に係る補強板付きFPCユニットの断面図である。
【図4】引き剥がし試験を説明するための図である。
【図5】引き剥がし試験後のアルミ補強板の表面状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る補強板付きFPCユニットについて説明する。なお、同等の機能を有する構成要素には同一の符号を付し、詳しい説明は省略する。図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。
【0020】
図1を用いて、本発明の実施形態に係る補強板付きFPC基板について説明する。図1(a)は、本実施形態に係る補強板付きFPC基板1の断面図を示し、図1(b)は、補強板付きFPC基板1の下面図を示している。
【0021】
補強板付きFPC基板1は、表面に配線パターンを有するFPC基板2と、FPC基板2の裏面に設けられたアクリル系接着剤層3と、このアクリル系接着剤層3を介してFPC基板2の裏面に貼り付けられたアルミ補強板4とを有する。
【0022】
図1(a)及び図1(b)からわかるように、FPC基板2は、実装領域2a,2bと配線領域2cから構成される。実装領域2a,2bは、電子部品を実装するためのランド部22a,22bを有する。配線領域2cは、実装領域2aと実装領域2bに挟まれるようにして設けられており、実装領域2aと実装領域2b間の信号伝送を行うための配線を有する。
【0023】
アクリル系接着剤層3は、FPC基板2のベースフィルム21とアルミ補強板4の間に設けられている。このアクリル系接着剤層3は加圧処理及び加熱処理によってアクリル系の接着剤を硬化させたものである。
【0024】
アルミ補強板4は、後に詳述するように、酸化ジルコニウム化成液による化成処理が施されたアルミニウム板を、所定の形状に加工したものである。このため、アルミ補強板4は少なくともFPC基板2と対向する面に、酸化ジルコニウム(ZrO)を含有する化成皮膜4aを有する。
【0025】
図1(a)及び図1(b)からわかるように、アルミ補強板4は、実装領域2a,2bにおけるFPC基板2の裏面に、アクリル系接着剤層3を介して貼り付けられている。つまり、化成皮膜4aがアクリル系接着剤層3に接するように、アルミ補強板4は貼り付けられている。このアルミ補強板4は、実装領域2a,2bにおけるFPC基板2が屈曲しないようにFPC基板2を補強する補強板として機能するとともに、ランド部22a,22bに実装された電子部品の発熱を放熱する放熱板としても機能する。なお、配線領域2cにおけるFPC基板2の裏面には、アルミ補強板4は貼り付けられていない。このようにして、配線領域2cは可撓性を有するものとして構成されている。
【0026】
次に、FPC基板2の詳細な構成について説明する。
【0027】
図1(a)からわかるように、FPC基板2は、プラスチックフィルムからなるベースフィルム21と、このベースフィルム21の片面に形成された配線パターン22と、接着剤層23を介して設けられたプラスチックフィルムからなるカバーフィルム24と、を有する。
【0028】
配線パターン22は、銅(Cu)等の導電性材料からなる。この配線パターン22は、サブトラクティブ法、セミアディティブ法、又は印刷法などを用いて、所定の回路パターン状に形成されている。図1(a)からわかるように、配線パターン22の一部は、カバーフィルム24で覆われず、電子部品を実装するためのランド部22a,22bを構成する。なお、この配線パターン22は、接着剤を介してベースフィルム21上に積層されていてもよいし、接着剤を介さずに積層されてもよい。
【0029】
カバーフィルム24は、ランド部22a,22bを除いた配線パターン22を、接着剤層23を介して絶縁被覆する。なお、この接着剤層23の材料として、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系等の各種の接着剤を用いることができる。好ましくは、前述のように、周辺への非汚染性に優れるアクリル系接着剤を用いる。
【0030】
なお、ベースフィルム21及びカバーフィルム24に用いられるプラスチックフィルムとしては、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリパラバン酸フィルム等が挙げられる。
【0031】
次に、FPC基板2とアルミ補強板4の接着状態について、図2を用いて詳細に説明する。この図2は、図1(a)のA部の拡大断面図を示している。
【0032】
図2に示すように、アルミ補強板4の表面に、酸化ジルコニウムを含有する化成皮膜4aが形成されている。そして、化成皮膜4aがアクリル系接着剤層3に接着するようにして、アルミ補強板4はアクリル系接着剤層3を介してベースフィルム21に貼り付けられている。なお、厳密に言えば、アルミ補強板4の表面にはアルミ水和酸化物層(図示せず)が自然形成されており、このアルミ水和酸化物層の上に化成皮膜4aが形成されている。
【0033】
アクリル系接着剤層3と化成皮膜4aの界面(Al/Ad)付近には、この界面を跨ぐように強固な化学結合(架橋)が形成されている。この理由について説明する。
【0034】
酸化ジルコニウムを含有する化成皮膜4aの表面には、水酸基(OH基)が高密度に存在している。アルミ補強板4をFPC基板2に接着するための加熱処理を行う際、化成皮膜4a表面の水酸基が、ベースフィルム21に塗布されたアクリル系接着剤に含まれるカルボキシル基(COOH基)や水酸基(OH基)と化学反応する。この化学反応(脱水結合)の結果、化成皮膜4aとアクリル系接着剤層3の界面付近に、“−C(=O)−O−”、“−O−”等で表される強固な結合からなる架橋が高密度に形成される。このため、アルミ補強板4とFPC基板2の間の接着強度が大きくなる。
【0035】
次に、補強板付きFPCユニットの構成について説明する。
【0036】
図3(a)は、補強板付きFPCユニット100の断面図を示している。この補強板付きFPCユニット100は、プリアンプIC101を、半田材料102を用いて、補強板付きFPC基板1の実装領域2aにおけるランド部22a,22aに実装したものである。この補強板付きFPCユニット100において、プリアンプIC101の発熱は、実装領域2aにおけるFPC基板2の裏面に貼り付けられたアルミ補強板4により放熱される。
【0037】
以上、本実施形態に係る補強板付きFPC基板1及び補強板付きFPCユニット100について説明した。
【0038】
なお、補強板付きFPC基板は上記の構成に限られるものではない。
【0039】
例えば、アルミ補強板4は、実装領域2a又は実装領域2bのいずれか一方におけるベースフィルム21の裏面にのみ設けられてもよい。
【0040】
また、ベースフィルム21の片面にのみ配線が形成されたFPC基板2に代えて、ベースフィルム21の表面及び裏面に配線が形成された両面FPC基板2’を用いてもよい。図3(b)は、両面FPC基板2’を用いた場合における、補強板付きFPCユニット200の断面図を示している。両面FPC基板2’は、ベースフィルム21の表面および裏面にそれぞれ形成された配線パターン22A及び22Bを有する。配線パターン22A及び22Bは、それぞれ、接着剤層23A及び23Bを介して設けられたカバーフィルム24A及び24Bにより絶縁保護されている。
【0041】
また、図3(b)に示すように、アルミ補強板4は、ベースフィルム21上ではなく、カバーフィルム24B上にアクリル系接着剤層3を介して積層接着されてもよい。
【0042】
また、カバーフィルム24の代わりに、配線パターン22の所定の部分をワニス状の樹脂からなるカバーコートで覆ってもよい。このカバーコートは、印刷手法を用いて所望のパターン状に形成してもよいし、あるいは、感光性樹脂を用いたフォトファブリケーション手法を用いて形成してもよい。フォトファブリケーション手法を用いる場合、ベースフィルム21及び配線パターン22の所定の部分に感光性の樹脂膜を塗布しておき、その後、この樹脂膜を露光・現像して所望の形状にパターニングすることによりカバーコートを形成する。カバーコートを用いる利点として、カバーフィルムに比べて高精度なパターニングが可能であることが挙げられる。従って、例えば開口部などを所望の位置に精度良く形成できる。また、必要に応じて、カバーフィルムとカバーコートを併用してもよい。例えば、高精度なパターニングが要求される部分についてはカバーコートを用い、それ以外の部分についてはカバーフィルムを用いることで生産効率を高めることができる。
【0043】
以下、本発明の実施例について述べる。本実施例に係る補強板付きFPC基板の製造方法について説明した後、引き剥がし強度試験の測定結果を説明する。
【0044】
まず、ポリイミドのベースフィルムの片面に接着剤を介して銅箔が積層された銅張板を準備した。次いで、この銅張板にドライフィルムをラミネートした後、露光・現像を行った。これにより、所定のネガパターンのレジストを銅張板の上に形成した。次いで、このレジストをマスクとして銅張板の銅箔をエッチングし、配線パターンを形成した。そして、ポリイミドフィルムの片面に接着剤が塗工されたカバーフィルムを用意し、このカバーフィルムの所定の部分に開口部を形成した。次いで、開口部の設けられたカバーフィルムを、配線パターンを被覆するように積層した。この際、カバーフィルムの開口部がランド部などの露出させる必要のある部分に対応するようにカバーフィルムを積層した。以上の工程を経て、本実施例に係るFPC基板を製造した。次に、アルミ補強板の製造方法について説明する。
【0045】
まず、アルミ板を準備し、このアルミ板の表面に付着した油脂性の物質を除去した(脱脂処理)。次いで、アルミ板を水洗した後、アルカリ溶液中に浸漬し、アルミ板の表面に自然形成された酸化アルミニウム層を除去した(アルカリ脱脂処理)。次いで、アルミ板を水で洗浄した後、弱酸性(pH=5〜6程度)の酸化ジルコニウム化成液に浸漬した。酸化ジルコニウム化成液としては、リン酸無添加のジルコニウム化合物を使用することができる。このリン酸無添加のジルコニウム化合物は、例えば、フルオロジルコニウム酸(又はそのアンモニウム塩)に弗化水素酸を添加したものである。
【0046】
次いで、アルミ板を酸化ジルコニウム化成液中から引き上げ、水洗した後、オーブンで乾燥させる。ここまでの工程を経て、酸化ジルコニウムを含有する化成皮膜が表面に形成されたアルミ板が得られる。ここでは、化成皮膜に酸化シリコンを含有するものと、含有しないものとの2種類のサンプルを作製した。このようにした理由は、FPC基板の用途の中に、防錆効果を得るためにシリコンを含有することを要求するものがある一方で、シリコンを含有しないことを要求するものもあるためである。
【0047】
上記の化成処理後、アルミ板の表面に形成された化成皮膜の厚みを測定したところ、酸化シリコン含有の有無に関わらず、化成皮膜の厚みは5nmであった。
【0048】
化成処理を施したアルミ板と比較する為に、化成処理を行わないアルミ板(以下、「未処理アルミ板」という。)と、ベーマイト処理を行ったアルミ板(以下、「ベーマイト処理アルミ板」という。)とを用意した。なお、未処理アルミ板にも、前述の脱脂処理及びアルカリ脱脂処理は施した。また、ベーマイト処理は、80℃〜90℃程度の熱水によりアルミ板の表面を酸化する処理である。
【0049】
これら比較用のアルミ板の表面に形成された酸化アルミニウム層の厚みを測定したところ、未処理アルミ板では6nmであり、ベーマイト処理アルミ板では238nmであった。
【0050】
なお、上記の化成皮膜及び酸化アルミニウム層の厚みは全て、走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)により測定した値である。
【0051】
その後、上記の4種類のアルミ板(酸化シリコン含有の化成処理アルミ板、酸化シリコン非含有の化成処理アルミ板、未処理アルミ板及びベーマイト処理アルミ板)を、それぞれ所定の形状に打ち抜き、FPC基板に貼り付けるためのアルミ補強板とした。
【0052】
次に、上記のようにして作製されたFPC基板とアルミ補強板を、アクリル系接着剤を介して積層させた後、プレス処理(加圧・加熱処理)を行った。プレス処理は、クイック成形方式を採り、圧力:1MPa、温度:190℃、時間:5分の条件にて実施した。その後、アフターキュア処理(温度:180℃、時間:3時間)を行った。
【0053】
上記の工程を経て、上記の4種類のアルミ補強板をそれぞれ積層接着した、4種類の補強板付きFPC基板のサンプルが完成した。以下、便宜上、酸化ジルコニウム化成処理(酸化シリコン含有)したアルミ板を用いた補強板付きFPC基板をタイプA、酸化ジルコニウム化成処理(酸化シリコン非含有)したアルミ板を用いた補強板付きFPC基板をタイプB、未処理アルミ板を用いた補強板付きFPC基板をタイプC、ベーマイト処理アルミ板を用いた補強板付きFPC基板をタイプDという。
【0054】
次に、これらの補強板付きFPC基板に対して実施した引き剥がし強度(ピール強度)の評価試験について説明する。
【0055】
引き剥がし強度の評価試験は、IPC規格(TM650 2.4.9.)に準拠して行った。測定温度は25℃、剥離速度は50(mm/分)とし、図4に示すように、補強板付きFPC基板のアルミ補強板を台に固定した状態で、引き剥がし角度90°(図4中真上の方向)でFPC基板を引っ張った。
【0056】
引き剥がし強度の試験結果を表1に示す。
【表1】

【0057】
表1中の“実装前”、“実装後”の条件について説明する。“実装前”は、熱履歴を経ない状態の補強板付きFPC基板を評価した結果を示す。一方、“実装後”は、FPC基板への部品の実装に伴う熱履歴と同等の熱処理を施した補強板付きFPC基板を評価した結果を示している。部品実装に伴う熱履歴として、はんだリフロー工程及びアンダーフィル工程を想定した。具体的には、はんだリフロー工程を想定して220℃,5分の熱処理を行った後、アンダーフィル工程を想定して165℃,30分の熱処理を行った。
【0058】
表1中の“乾燥(Dry)”と“湿潤(Soak)”の条件について説明する。 “乾燥(Dry)”は常温・常湿下で試験を行った場合を示し、“湿潤(Soak)”はサンプルを温水に浸漬(50℃、1時間)した後に試験を行った場合を示す。また、表1中の“平均”及び“σ”は、測定された引き剥がし強度の平均値及び標準偏差(σ)である。サンプル数は6個である(N=6)。
【0059】
表1中の“剥離界面”について説明する。この“剥離界面”は、引き剥がし試験後の剥離界面の状態を示す。剥離界面の状態は、アルミ補強板(Al)とアクリル系接着剤層(Adhesive)の界面(Al/Ad)での剥離、FPC基板のベースフィルムとアクリル系接着剤層の界面(FPC/Ad)での剥離、及び両者の混合(Mixture)の3種類のケースがある。図5は、引き剥がし試験後のアルミ補強板表面の状態を示している。図5(a)はAl/Ad界面で剥離が起こったケースを示し、図5(b)はFPC/Ad界面で剥離が起こったケースを示し、図5(c)は両方の界面で混合して剥離が起こったケースを示している。剥離は、接着強度が相対的に弱い界面において起こる。よって、剥離界面がAl/Adであれば、アルミ補強板とアクリル系接着剤層の界面の接着力が、FPC基板とアクリル系接着剤層の界面における接着力より相対的に低いことがわかる。一方、剥離界面がFPC/Adであれば、アルミ補強板とアクリル系接着剤層の界面の接着力が、FPC基板とアクリル系接着剤層の界面における接着力より相対的に高いことがわかる。
【0060】
表1に示すように、酸化ジルコニウム化成処理を施したタイプA及びタイプBについては、“実装前”及び“実装後”共にピール強度の平均が高く、且つ、ばらつきも小さい。さらに、“実装後”においては“実装前”と比較してピール強度が向上している。これは、化成皮膜中の反応基(水酸基)とアクリル系接着剤層中の反応基(カルボキシル基,水酸基)との化学反応が部品実装を想定した熱処理によりさらに進み、架橋密度が高くなったためと考えられる。
【0061】
さらに、酸化ジルコニウム化成処理を施したタイプA及びタイプBについては、湿潤環境下においてもピール強度は低下せず、常湿環境下と同程度のピール強度が得られた。これは、架橋を構成する化学結合の結合力が強く、この結合が湿潤環境下において接着界面へ浸入する水分の影響を受けないことに起因する。即ち、架橋を構成する結合は水分子の有する水酸基との反応性よりも強い結合力を有し、このため、タイプA及びタイプBの補強板付きFPC基板は湿潤環境下でも接着強度が低下しない。
【0062】
一方、表1からわかるように、未処理アルミ板を使用したタイプCについてみると、“実装前”の状態において剥離界面はFPC/Ad界面又はmixtureである。しかし、“実装後”の状態においては、Al/Ad界面で剥離が起きており、アルミ補強板とアクリル系接着剤層との間の接着強度が低い。さらに、“実装後”状態の湿潤環境下では、平均ピール強度が352と、“実装前”の状態に比べて大幅に低下している。これは、アルミ補強板とアクリル系接着剤層との間の接着界面に水分子が浸入し、この水分子が接着強度を発揮する化学結合と反応することにより、架橋密度が減少したためと考えられる。
【0063】
また、ベーマイト処理アルミ板を使用したタイプDは、実装前の状態ではFPC/Ad界面で剥離が起きており、アルミ補強板とアクリル系接着剤層との間の接着強度は高い。しかし、表1に示すように、実装後の状態の湿潤環境下では、ピール強度の標準偏差σは123であり、バラツキが大きく不安定である。このことは、引き剥がし強度が小さいサンプルが多く、歩留まりが低下することを意味する。
【0064】
上記のピール強度の評価結果からわかるように、酸化ジルコニウム化成処理を施したアルミ補強板を用いたタイプA及びタイプBの場合、酸化シリコンの含有に関わらず、いずれの条件(“実装前”、“実装後”、“乾燥”、“湿潤”)においても十分なピール強度を安定して得ることができた。これにより、本実施例によれば、実用上想定される環境下において十分な接着強度を発揮する補強板付きFPC基板が得られることが実証された。
【0065】
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明した。上述のように、本発明の実施形態では、アルミニウムからなる金属板に化成処理を施し、その表面に酸化ジルコニウムを含有する化成皮膜を形成する。そして、アクリル系接着剤を介して、化成処理を施された金属板をFPC基板に接着する。その後、クイック成形方式による短時間のプレス処理及びアフターキュア処理を行う。これにより、酸化ジルコニウムを含有する化成皮膜表面の水酸基が、アクリル系接着剤中のカルボキシル基や水酸基と化学反応する結果、強固な結合が高密度に形成される。この結合は、化成皮膜とアクリル系接着剤層の界面を跨ぐ架橋を構成する。この結果、本発明によれば、クイック成形方式を採用した場合であっても、高い接着強度を得ることができる。
【0066】
さらに、前述の架橋を構成する結合の結合力は強く、水分子の有する水酸基の影響を受けないため、湿潤環境下でも十分な接着性を確保することができる。つまり、本発明によれば、高い耐水接着性を得ることができる。
【0067】
また、本発明に係る化成処理は、6価クロムを用いるクロメート処理のように環境に悪影響を与える虞がなく、産業的に利用する上で問題がない。
【0068】
なお、上述の説明では、補強板付きFPC基板として、HDDに用いられるFPCユニットを例にしたが、本発明はこれに限るものではなく、任意の用途の補強板付きFPC基板に適用することができる。
【0069】
また、上記の説明では、補強板としてアルミニウム板を用いたが、本発明はこれに限らず、酸化ジルコニウム化成処理が可能な他の金属板を用いてもよい。
【0070】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 補強板付きFPC基板
2 FPC基板(片面FPC基板)
2’ 両面FPC基板
2a,2b 実装領域
2c 配線領域
21 ベースフィルム
22,22A,22B 配線パターン
22a,22b ランド部
23,23A,23B 接着剤層
24,24A,24B カバーフィルム
3 アクリル系接着剤層
4 アルミ補強板
4a 化成皮膜
100,200 補強板付きFPCユニット
101 プリアンプIC
102 半田材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルム及び前記ベースフィルムの少なくとも一方の面に形成された配線パターンを有する、フレキシブルプリント回路基板と、
前記フレキシブルプリント回路基板を補強する金属板であって、前記フレキシブルプリント回路基板と対向する面に酸化ジルコニウムを含有する化成皮膜を有し、アクリル系接着剤層を介して前記ベースフィルム、又は前記配線パターンを絶縁被覆するカバーフィルムに接着された、金属板と、
を備えることを特徴とする補強板付きフレキシブルプリント回路基板。
【請求項2】
ベースフィルムの表面に形成されたランド部を含む、第1の実装領域及び第2の実装領域と、前記第1の実装領域及び第2の実装領域に挟まれるように設けられ、前記第1の実装領域の前記ランド部と前記第2の実装領域の前記ランド部を電気的に接続する配線を含む、配線領域と、を有する、フレキシブルプリント回路基板と、
前記第1の実装領域及び/又は前記第2の実装領域における、前記ベースフィルムの裏面に形成された、アクリル系接着剤層と、
前記フレキシブルプリント回路基板と対向する面に酸化ジルコニウムを含有する化成皮膜を有し、前記アクリル系接着剤層を介して、前記ベースフィルムに接着された、アルミ補強板と、
を備えることを特徴とする補強板付きフレキシブルプリント回路基板。
【請求項3】
前記化成皮膜は酸化シリコンを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の補強板付きフレキシブルプリント回路基板。
【請求項4】
前記ランド部に実装されたプリアンプICを有することを特徴とする請求項2又は3に記載の補強板付きフレキシブルプリント回路基板。
【請求項5】
アルミ板の表面に酸化ジルコニウムを含有する化成皮膜を形成し、
前記化成皮膜が形成された前記アルミ板を、フレキシブルプリント回路基板のプラスチックフィルム上に、アクリル系接着剤を介して、前記化成皮膜が前記アクリル系接着剤層と接するように積層することにより、前記アクリル系接着剤を介して、前記アルミ板と前記プラスチックフィルムとが積層された積層体を形成し、
前記積層体に対して、10分以下の加熱・加圧処理を行い、その後、前記積層体に対して加熱処理を行う、
ことを特徴とする補強板付きフレキシブルプリント回路基板の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の補強板付きフレキシブルプリント回路基板の製造方法であって、
前記化成皮膜は、フルオロジルコニウム酸又はフルオロジルコニウム酸のアンモニウム塩に弗化水素酸を添加した、リン酸無添加の酸化ジルコニウム化成液に前記アルミ板を浸漬することにより形成する、
ことを特徴とする補強板付きフレキシブルプリント回路基板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate