説明

補強用鉄筋の取付け構造

【課題】既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面部に形成された配筋用縦スリットに、補強用の鉄筋を、所定のピッチで縦方向にスムーズに配筋できる補強用鉄筋の取付け構造を提供する。
【解決手段】既設の鉄筋コンクリート構造物20の壁面部22に縦方向に延設して形成された配筋用縦スリット25に、補強用鉄筋11を上方から吊り降ろして縦方向に所定のピッチで配筋可能とする補強用鉄筋の取付け構造10であって、補強用鉄筋11は、スペーサーロッド13の両端に上部連結台14と下部受け台15とを取り付けたスペーサー治具12を、上部連結台14を介して連結した状態で吊り降ろされるようになっており、下部受け台15の凹受け部16を、先行して配筋された下段の補強用鉄筋11’の上部に載置することで補強用鉄筋11を下段の補強用鉄筋11’に支持させて、配筋用縦スリット25に補強用鉄筋11を縦方向に所定のピッチで配筋する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面部に縦方向に延設して形成された配筋用縦スリットに、補強用鉄筋を縦方向に所定のピッチで配筋可能とする補強用鉄筋の取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばボックスカルバート形状に形成された鉄筋コンクリートによる地下構造物の耐震補強を行うための工法として、既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面部に、多数の補強用の鉄筋を、縦横に所定のピッチで壁面部の厚さ方向に埋設設置する耐震補強工法が採用されることがある。既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面に補強用鉄筋を埋設設置する場合、壁面部を貫通しない深さでコアボーリング孔を形成し、形成した各コアボーリング孔に補強用の鉄筋を配設した後に、例えば無収縮モルタルを充填して埋設する方法が一般に採用される。
【0003】
また、広い範囲の壁面部に、多数のコアボーリング孔を個々に穿孔形成してゆく作業は、多くの手間を要すると共に、既設の鉄筋コンクリート構造物に配筋されている既存の鉄筋を破断させたり、損傷させたりするおそれもあることから、既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面部に、ウォータージェットを用いて、既存の鉄筋を切断することなく鉛直方向に配筋用縦スリットを切削形成し、この配筋用縦スリットを利用して、補強用の鉄筋を既存の鉄筋に支持させて配筋し、しかる後に配筋用縦スリットにモルタルやコンクリートを充填して、補強用の鉄筋を既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面部に埋設する方法も開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−67942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、既存の鉄筋コンクリート構造物は、例えば共同溝等として用いられていて、内部に電力用のケーブル配線や、各種の配管類が配設されている場合があり、これらの配線類や配管類は、維持管理を行い易いように、例えば支持架台によって支持されて、壁面部に沿わせて複数段に整列配置された状態で設置されていることが多い。このような場合に、例えば上述の壁面部に縦横に所定のピッチで多数のコアボーリング孔を形成して補強用の鉄筋を配設する方法では、壁面部に沿わせて設置された配線類や配管類が邪魔になって、施工することが困難である。
【0006】
これに対して、上述のウォータージェットを用いて配筋用縦スリットを切削形成する方法を応用して、例えば配線類や配管類を支持する複数段の支持架台の間の隙間を介して、配線類や配管類の裏側の壁面部の所定の位置にウォータージェット噴射ノズルを挿入するためのコアボーリング孔を穿孔形成し、これらのコアボーリング孔にウォータージェット噴射ノズルを挿入して壁面部を縦方向に切削することにより配筋用縦スリットを形成し、形成した配筋用縦スリットに補強用の鉄筋を配筋した後に、モルタルやコンクリートを充填して、補強用の鉄筋を配線類や配管類の裏側の壁面部に埋設する方法が考えられる。
【0007】
しかしながら、上述のコアボーリング孔とウォータージェットによる方法では、配線類や配管類等による障害物の裏側の壁面部に、補強用の鉄筋を配筋するための配筋用縦スリットを形成することは容易であるが、配線類や配管類等による障害物の裏側の配筋用縦スリットは、これらの障害物が邪魔になって作業員の手が届き難い場所に形成されるため、配筋用縦スリットに補強用の鉄筋を所定のピッチで縦方向に配筋する作業を行なうことが困難になる。
【0008】
本発明は、既設の鉄筋コンクリート構造物の例えば配線類や配管類等による障害物の裏側の壁面部に形成された配筋用縦スリットに、補強用の鉄筋を、所定のピッチで縦方向にスムーズに配筋させることのできる補強用鉄筋の取付け構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面部に縦方向に延設して形成された配筋用縦スリットに、補強用鉄筋を上方から吊り降ろして縦方向に所定のピッチで配筋可能とする配筋用縦スリットにおける補強用鉄筋の取付け構造であって、前記配筋用縦スリットに上方から吊り降ろされる前記補強用鉄筋は、前記所定のピッチに対応する長さを有するスペーサーロッドの両端に上部連結台と下部受け台とを取り付けた少なくとも2本のスペーサー治具を、前記上部連結台を介して連結した状態で吊り降ろされるようになっており、前記下部受け台は、開放側を下方に向けた凹受け部を備えており、該凹受け部を、先行して配筋された下段の補強用鉄筋の上部に載置することで前記補強用鉄筋を前記下段の補強用鉄筋に支持させて、前記配筋用縦スリットに前記補強用鉄筋が縦方向に所定のピッチで配筋されている補強用鉄筋の取付け構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0010】
そして、本発明の補強用鉄筋の取付け構造は、前記下部受け台の前記凹受け部には、その内側面に、該凹受け部の中心が略円形断面を有する前記下段の補強用鉄筋の中心に近づくように該凹受け部を案内する、ガイド傾斜部が設けられていることが好ましい。
【0011】
また、本発明の補強用鉄筋の取付け構造は、前記スペーサー治具の前記上部連結台及び前記下部受け台には、空気抜き口が貫通形成されていることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の補強用鉄筋の取付け構造は、前記配筋用縦スリットに上方から吊り降ろされる前記補強用鉄筋は、前記鉄筋コンクリート構造物の壁面部の内側面側に配筋されている既存の鉄筋と、前記配筋用縦スリットの最深部との間の間隔部分に、斜めに吊り下げた状態で吊り降ろし可能な長さを備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の補強用鉄筋の取付け構造によれば、既設の鉄筋コンクリート構造物の例えば配線類や配管類等による障害物の裏側の壁面部に形成された配筋用縦スリットに、補強用の鉄筋を、所定のピッチで縦方向にスムーズに配筋させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の好ましい一実施形態に係る補強用鉄筋の取付け構造の構成を説明する略示断面図である。
【図2】本発明の好ましい一実施形態に係る補強用鉄筋の取付け構造によって耐震補強される既設コンクリート構造物を例示する略示断面図である。
【図3】本発明の好ましい一実施形態に係る補強用鉄筋の取付け構造に用いるスペーサー治具の構成を説明する、(a)は正面図及び(b)は側面図である。
【図4】最下部スペーサー治具の構成を説明する、(a)は正面図及び(b)は側面図である。
【図5】既設の鉄筋コンクリート構造物の配線類や配管類等による障害物の裏側の壁面部に形成される配筋用縦スリットを説明する、(a)は(b)のA−Aに沿った略示正面図、(b)は(a)のB−Bに沿った略示断面図である。
【図6】(a)〜(d)は、本発明の好ましい一実施形態に係る補強用鉄筋の取付け構造の施工方法を説明する略示断面図である。
【図7】(a),(b)は、本発明の好ましい一実施形態に係る補強用鉄筋の取付け構造の他の施工方法を説明する略示断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示す本発明の好ましい一実施形態に係る補強用鉄筋の取付け構造10は、例えば図2に示すような、ボックスカルバート形状の地下構造物として構築された既設の鉄筋コンクリート構造物20に対して耐震補強を行う際に、当該鉄筋コンクリート構造物20において共同溝として用いられている上段トンネル部21の地盤に面した側の壁面部22に、補強用鉄筋11を縦方向に所定のピッチで配筋して埋設するための取付け構造として採用されたものである。本実施形態では、共同溝として用いられている上段トンネル部21には、内部に電力用のケーブル配線等の各種の配線類や配管類23が、支持架台24によって支持されて、耐震補強しようとする壁面部22に沿って設置されており、これらの配線類や配管類23が障害物となって、これらの裏側の壁面部22に形成された配筋用縦スリット25(図5(a)、(b)参照)に作業員の手作業によって補強用鉄筋11の配筋作業を行うことが困難な状況になっている。本実施形態の補強用鉄筋の取付け構造10は、このような配線類や配管類23の裏側の壁面部22に形成された配筋用縦スリット25に、所定のピッチで縦方向にスムーズに補強用鉄筋11を配筋することを可能にする機能を備えている。
【0016】
なお、本実施形態では、地下構造物として構築された既設の鉄筋コンクリート構造物20の下段トンネル部26は、例えば地下鉄用のトンネルとなっている。
【0017】
そして、本実施形態の補強用鉄筋の取付け構造10は、既設の鉄筋コンクリート構造物20の壁面部22に縦方向に延設して形成された配筋用縦スリット25(図5(a)、(b)参照)に、補強用鉄筋11を上方から吊り降ろして縦方向に所定のピッチで配筋可能とする配筋用縦スリット25における補強用鉄筋の取付け構造であって、図1に示すように、配筋用縦スリット25に上方から吊り降ろされる補強用鉄筋11は、配筋される所定のピッチに対応する長さを有するスペーサーロッド13の両端に上部連結台14と下部受け台15とを取り付けた少なくとも2本のスペーサー治具12を、上部連結台14を介して連結した状態で吊り降ろされるようになっており、下部受け台15は、図3(a),(b)に示すように、開放側を下方に向けた凹受け部16を備えており、この凹受け部16を、先行して配筋された下段の補強用鉄筋11’の上部に載置することで補強用鉄筋11を下段の補強用鉄筋11’に支持させて、配筋用縦スリット25に補強用鉄筋11が縦方向に所定のピッチで配筋されている(図6(d)参照)。
【0018】
本実施形態では、図5に示すように、既設の鉄筋コンクリート構造物20の共同溝として用いられている上段トンネル部21に設置された配線類や配管類23の裏側の壁面部22に、配筋用縦スリット25を形成して、形成した配筋用縦スリット25に補強用鉄筋11を配筋する。配筋用縦スリット25を形成するには、まず、例えば公知のコアボーリング装置(図示せず)を使用して、壁面部22にコアボーリング孔29を穿孔形成する。コアボーリング孔29を穿孔形成する作業は、例えば配線類や配管類23を支持して壁面部22に複数段に取り付けられている支持架台24の間の空間部分26a,26bや、これらの上方又は下方の空間部分27a,27bから、例えば壁面部22に対して垂直な方向に向けて、コアボーリング装置の穿孔部を回転さながら圧入することによって容易に行うことができる。またこれによって、例えば壁面部22の内側面側に配筋された既存の鉄筋28aを回避した位置において、好ましくは壁面部22の外側の地盤側に配筋された既存の鉄筋28bに致る手前までの深さで、複数のコアボーリング孔29を、縦方向に一列に並べた状態で容易に形成することができる。
【0019】
複数のコアボーリング孔29を形成したら、各々のコアボーリング孔29を縦方向に繋げて配筋用縦スリット25を形成する。コアボーリング孔29を縦方向に繋げる作業は、例えば各々のコアボーリング孔29に、又は適宜選択したコアボーリング孔29に、複数段に取り付けられた支持架台24の間の空間部分26a,26bや、これら上方又は下方の空間部分27a,27bを介して、例えば上述の特許文献1で用いた装置と同様のウォータージェット装置(図示せず)の噴射ノズル部を挿入し、上方又は下方に向けてウォータージェットを噴射することによってコンクリートを切削する。これによって、既存の鉄筋28aを切断することなく露出させた状態で、上下のコアボーリング孔29を繋げるようにして、縦方向に連続して延設する配筋用縦スリット25を、コアボーリング孔29の深さに相当する例えば500mm程度深さで、且つ例えば70mm程度の幅となるように、容易に形成することができる。
【0020】
このような配筋用縦スリット25を、上段トンネル部21のトンネル軸方向に所定の間隔をおいて、配線類や配管類23の裏側の壁面部22に複数列に形成したら、図1に示すように、本実施形態の補強用鉄筋の取付け構造10によって、各々の配筋用縦スリット25に補強用鉄筋11を、作業員の手によって配筋用縦スリット25に直接配筋することなく、好ましくは鉄筋吊下げ配筋装置30を使用した遠隔操作によって、補強用鉄筋11を上方から吊り降ろして縦方向に所定のピッチで配筋する。
【0021】
ここで、補強用鉄筋11は、本実施形態では、例えば29mm程度の直径を有する異形鉄筋となっている。また、補強用鉄筋11は、鉄筋コンクリート構造物20の壁面部22の内側面側に配筋されている既存の鉄筋28aのうちの特に帯状鉄筋と、配筋用縦スリット25の最深部との間の間隔部分に、斜めに吊り下げた状態で吊り降ろし可能な長さとして、例えば480mm程度の長さを有している。さらに、補強用鉄筋11は、縦方向の所定のピッチとして、例えば200mm程度のピッチで各配筋用縦スリット25に配筋されると共に、隣接する配筋用縦スリット25間のピッチに相当する横方向のピッチとして、例えば500mm程度のピッチで壁面部22に配筋される。
【0022】
配筋用縦スリット25に上方から吊り降ろされる補強用鉄筋11に取り付られるスペーサー治具12は、図3(a)、(b)に示すように、配筋用縦スリット25に配筋される補強用鉄筋11の縦方向の所定のピッチに対応する、例えば159mm程度の長さを有するスペーサーロッド13と、スペーサーロッド13の上端部に一体として接合される、開放側を上方に向けた断面コの字形状の上部連結台14と、スペーサーロッド13の下端部に一体として接合される、開放側を下方に向けた断面コの字形状の下部受け台15とかなる。
【0023】
スペーサーロッド13は、太さが例えば8mm程度の丸鋼からなる。上部連結台14は、例えば30mm程度の幅を有する4.5mm程度の厚さの帯板形状の鋼板に折り曲げ加工を施して、例えば底板部14aの幅が41mm程度、両側の側板部14bの高さが34.5mm程度の大きさの、開放側を上方に向けた断面コの字形状に形成される。下部受け台15は、例えば30mm程度の幅を有する4.5mm程度の厚さの帯板形状の鋼板に折り曲げ加工を施して、例えば底板部15aの幅が51mm程度、両側の側板部15bの高さが24.5mm程度の大きさの、開放側を下方に向けた断面コの字形状に形成される。上部連結台14及び下部受け台15は、例えば溶接によってスペーサーロッド13の端部に各々一体として接合される。
【0024】
本実施形態では、上部連結台14の一対の側板部14bの上部には、例えば8mm程度のネジ径のタップ孔17が各々形成されている。このタップ孔17に固定ネジ17aをネジ込むことによって、上部連結台14を介してスペーサー治具12を、補強用鉄筋11に着脱可能に容易に固定することができる。
【0025】
また、本実施形態では、下部受け台15は、開放側を下方に向けた断面コの字形状に形成されていることで、その内側部分が、開放側を下方に向けた凹受け部16となっている。断面コの字形状の下部受け台15による凹受け部16には、底板部15aと両側の側板部15bとの接合角部分に、傾斜面を備える三角形状の案内リブ18が、ガイド傾斜部として一対設けられている。凹受け部16にガイド傾斜部としての案内リブ18が設けられていることにより、補強用鉄筋11を上方から吊り降ろして、下部受け台15の凹受け部16を先行して配筋された下段の補強用鉄筋11’の上部に載置する際に、凹受け部16の中心が略円形断面を有する下段の補強用鉄筋11’の中心に近づくように凹受け部16を案内することが可能になる。
【0026】
さらに、本実施形態では、上部連結台14及び下部受け台15の底板部14a,15aや側板部14b,15bには、空気抜き口19が各々貫通形成されている。上部連結台14及び下部受け台15の底板部14a,15aや側板部14b,15bに空気抜き口19が各々貫通形成されていることにより、後述するように配筋用縦スリット25に補強用鉄筋11を配筋した後に、配筋用縦スリット25の下部から例えば無収縮モルタルを注入充填して行く際に、上部連結台14や下部受け台15の周囲の空気を空気抜き口19を介して通過させることで、これらの周囲に空気を滞留させ難くして、配筋用縦スリット25の内部に空隙が生じるのを効果的に回避することが可能になる。
【0027】
なお、本実施形態では、図1に示すように、最下段の支持架台24の下方には、上段トンネル部21の底盤21aとの間に相当の高さの空間部分27bが保持されていることから、配筋用縦スリット25の最下部に配筋される補強用鉄筋11は、最下部スペーサー治具50を使用して、最下段の支持架台24の下方の空間部分27bからの作業員の手作業によって配筋できるようになっている(図6(a)参照)。
【0028】
すなわち、最下部スペーサー治具50は、図4(a)、(b)に示すように、スペーサー治具12と略同様に、スペーサー治具12のスペーサーロッド13よりも短い長さのスペーサーロッド51と、スペーサーロッド51の上端部に一体として接合される、開放側を上方に向けた断面コの字形状の上部連結台52と、スペーサーロッド51の下端部に一体として接合される、開放側を下方に向けた断面コの字形状の下部受け台53とからなる。上部連結台52の上部には、最下部スペーサー治具50を補強用鉄筋11に着脱可能に固定するための固定ネジ54aがネジ込まれるタップ孔54が形成されている。上部連結台52及び下部受け台53の底板部52a,53aや側板部52b,53bには、空気抜き口55が貫通形成されている。
【0029】
最下部に配筋される補強用鉄筋11は、一対の最下部スペーサー治具50に固定された状態で、後述する上方の補強用鉄筋11をスペーサー治具12と共に上方から吊り降ろす作業に先立って、最下段の支持架台24の下方の空間部分27bを介した作業員の手作業によって、配筋用縦スリット25の最下部に設置され、上方から吊り降ろされる補強用鉄筋11に取り付けたスペーサー治具12の凹受け部16が載置される、下段の補強用鉄筋11’として機能する。
【0030】
本実施形態では、補強用鉄筋11をスペーサー治具12と共に上方から吊り降ろす作業は、図1に示すように、鉄筋吊下げ配筋装置30を用いて行うことができる。鉄筋吊下げ配筋装置30は、例えば上端部及び下端部にジャッキベース31を備えることで、上段トンネル部21の底盤21a及び天盤21bから支持反力を得て固定される支持柱32と、支持柱32に上下にスライド移動可能に位置決め固定されるクランプ部33と、クランプ部33に支持されて横方向に延設するガイドパイプ部34と、ガイドパイプ部34に案内されて横方向に進退摺動する、外側パイプ35及び内側パイプ36からなる2重構造のスライドパイプ部37とを含んで構成される。
【0031】
また、スライドパイプ部37の外側パイプ35や内側パイプ36の先端部には、ガイドプーリー38が各々設けられている。これらのガイドプーリー38に巻き付けられることで、ワイヤー部材39が、例えば内側パイプ36の中空内部を介して、支持柱32が固定された配線類や配管類23よりも内側の上段トンネル部21内の作業空間から、配線類や配管類23の裏側の配筋用縦スリット25の内部に亘って、作業空間での操作によって進退可能に延設することになる。ワイヤー部材39の配筋用縦スリット25側の先端部には、例えば電磁石と、該電磁石に磁着可能な金属板を先端に備える鉄筋巻込み用ベルトとからなる鉄筋把持部40が設けられており、この鉄筋把持部40によって補強用鉄筋11を把持した状態で所定の位置まで吊り降ろした後に、電磁石の電源をオフにすることで把持した状態を開放して、鉄筋把持部40と共にワイヤー部材39を引き上げることができるようになっている。
【0032】
そして、本実施形態では、補強用鉄筋11は、本実施形態の補強用鉄筋の取付け構造10により、以下のような方法によって、配線類や配管類23の裏側の配筋用縦スリット25に、縦方向に所定のピッチでスムーズに配筋することができる。
【0033】
すなわち、本実施形態では、図6(a)〜(d)に示すように、配筋用縦スリット25の最下部に配筋される補強用鉄筋11を、最下部スペーサー治具50を使用して、最下段の支持架台24の下方の空間部分27bからの作業員の手作業によって配筋した後(図6(a)参照)に、この最下部の補強用鉄筋11を先行して配筋された下段の補強用鉄筋11’として、鉄筋吊下げ配筋装置30を用いて、好ましくは支持架台24の上方の空間部分27aから、2段目の補強用鉄筋11を、2本のスペーサー治具12を連結した状態で、下部受け台15の凹受け部16が下段の補強用鉄筋11’の上部に載置されるまで吊り降ろす(図6(b)参照)。
【0034】
ここで、補強用鉄筋11を吊り下げる際に、補強用鉄筋11は、ガイドプーリー38に巻き付けられたワイヤー部材39の長さを適宜調節して、壁面部22の内側面側に配筋されている既存の鉄筋28aのうち特に帯状鉄筋に引っ掛からないように、適宜斜めにした状態で吊り降ろして行くことができる。また、上下に隣接する段の補強用鉄筋11に取り付けられる各2本のスペーサー治具12は、下段のスペーサー治具12の上部連結台14と、下段のスペーサー治具12の下部受け台15とが重なり合わないように、これらを横方向にずらした状態で各補強用鉄筋11に取り付けておく。
【0035】
下部受け台15の凹受け部16を下段の補強用鉄筋11’の上部に載置して2段目の補強用鉄筋11を配筋したら、引き続いて、当該配筋した補強用鉄筋11を先行して配筋された下段の補強用鉄筋11’として、さらに上段の補強用鉄筋11を、2本のスペーサー治具12を連結した状態で、下部受け台15の凹受け部16が下段の補強用鉄筋11’の上部に載置されるまで、順次吊り降ろしてゆく(図6(c)参照)。
【0036】
このようにして、複数段の補強用鉄筋11を、配線類や配管類23の裏側の配筋用縦スリット25の内部に、本実施形態の補強用鉄筋の取付け構造10によって、縦方向に所定のピッチでスムーズに配筋してゆくことが可能になる(図6(d)参照)。
【0037】
また、本実施形態では、スペーサー治具12が取り付けられた補強用鉄筋11の吊り降ろしは、図7(a),(b)に示すように、鉄筋吊下げ配筋装置30を用いて、壁面部22に複数段に取り付けられた支持架台24の間の空間部分26a,26bを介して行うこともできる。スペーサー治具12を立てた状態では空間部分26a,26bから配筋用縦スリット25の内部に差し込むことができない場合には、例えば補強用鉄筋11に先端側のスペーサー治具12のみを取り付けて、これを横に寝かせた状態でスペーサー治具12を空間部分26a,26bに差し込み、壁面部22と配線類や配管類23との間の隙間部分でスペーサー治具12を立てにして配筋用縦スリット25に差し込んだ後に、後方のスペーサー治具12は、壁面部22と配線類や配管類23との間の隙間部分で立てにした状態で補強用鉄筋11に取り付けて、配筋用縦スリット25に差し込む方法を採用することができる。
【0038】
そして、図6(d)に示すように、配線類や配管類23の裏側の配筋用縦スリット25の内部に、複数段の補強用鉄筋11を縦方向に所定のピッチで配筋したら、配筋用縦スリット25の壁面部22の内側面側の開口を型枠で閉塞した後に、配筋用縦スリット25の内部に、これの下方部分から例えば無収縮モルタルを注入充填して固化させることにより、既設の鉄筋コンクリート構造物20の壁面部22の耐震補強工事が終了する。
【0039】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば本発明の補強用鉄筋の取付け構造によって補強される既設の鉄筋コンクリート構造物は、ボックスカルバート形状の地下構造物の壁面部である必要は必ずしも無く、その他の種々の既設の鉄筋コンクリート構造物を補強用鉄筋によって補強するための取付け構造として、本発明を採用することができる。また、配筋作業の邪魔になる障害物は、配線類や配管類以外の障害物であっても良い。
【符号の説明】
【0040】
10 補強用鉄筋の取付け構造
11 補強用鉄筋
11’ 先行して配筋された下段の補強用鉄筋
12 スペーサー治具
13 スペーサーロッド
14 上部連結台
15 下部受け台
16 凹受け部
18 三角形状の案内リブ(ガイド傾斜部)
19 空気抜き口
20 既設の鉄筋コンクリート構造物
22 壁面部
23 配線類や配管類
24 支持架台
25 配筋用縦スリット
28a,28b 既存の鉄筋
29 コアボーリング孔
30 鉄筋吊下げ配筋装置
31 ジャッキベース
32 支持柱
33 クランプ部
34 ガイドパイプ部
35 外側パイプ
36 内側パイプ
37 スライドパイプ部
38 ガイドプーリー
39 ワイヤー部材
40 鉄筋把持部
50 最下部スペーサー治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面部に縦方向に延設して形成された配筋用縦スリットに、補強用鉄筋を上方から吊り降ろして縦方向に所定のピッチで配筋可能とする配筋用縦スリットにおける補強用鉄筋の取付け構造であって、
前記配筋用縦スリットに上方から吊り降ろされる前記補強用鉄筋は、前記所定のピッチに対応する長さを有するスペーサーロッドの両端に上部連結台と下部受け台とを取り付けた少なくとも2本のスペーサー治具を、前記上部連結台を介して連結した状態で吊り降ろされるようになっており、
前記下部受け台は、開放側を下方に向けた凹受け部を備えており、該凹受け部を、先行して配筋された下段の補強用鉄筋の上部に載置することで前記補強用鉄筋を前記下段の補強用鉄筋に支持させて、前記配筋用縦スリットに前記補強用鉄筋が縦方向に所定のピッチで配筋されている補強用鉄筋の取付け構造。
【請求項2】
前記下部受け台の前記凹受け部には、その内側面に、該凹受け部の中心が略円形断面を有する前記下段の補強用鉄筋の中心に近づくように該凹受け部を案内する、ガイド傾斜部が設けられている請求項1記載の補強用鉄筋の取付け構造。
【請求項3】
前記スペーサー治具の前記上部連結台及び前記下部受け台には、空気抜き口が貫通形成されている請求項1又は2記載の補強用鉄筋の取付け構造。
【請求項4】
前記配筋用縦スリットに上方から吊り降ろされる前記補強用鉄筋は、前記鉄筋コンクリート構造物の壁面部の内側面側に配筋されている既存の鉄筋と、前記配筋用縦スリットの最深部との間の間隔部分に、斜めに吊り下げた状態で吊り降ろし可能な長さを備えている請求項1〜3のいずれか1項に記載の補強用鉄筋の取付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−132246(P2012−132246A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286434(P2010−286434)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】