説明

補聴器の入力信号の周波数圧縮方法および補聴器

【課題】周波数圧縮を実行するために適する補聴器において、補聴器へ入って来る異なる入力信号が周波数圧縮後もなお良好に区別し得るようにする。
【解決手段】補聴器の入力信号から出力信号へ取り込まれない信号成分を含む源周波数帯からフォームファクタ(F1,F2)が求められ、このフォームファクタは、信号成分が補聴器の出力信号へ取り込まれる選択された周波数帯(W1,W2,W3)の増幅に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
補聴器によって伝送し得る周波数領域を複数の周波数帯へ分割するステップ、
互いに隣接する複数の周波数帯を統合して複数の周波数帯からなる少なくとも1つのグループを構成するステップ、
複数の周波数帯からなるグループから複数の周波数帯のうちの1つの周波数帯を選択するステップ、
選択された周波数帯を目標周波数帯へ移行するステップ、
によって、補聴器へ入って来る入力信号を周波数圧縮する方法に関する。
【0002】
さらに本発明は、このような方法を実施するための補聴器に関する。
【背景技術】
【0003】
使用者の個々の聴力障害を調整するために、補聴器においては補聴器へ入って来る入力信号を周波数に依存して増幅するのが通常である。通例、ダイナミックレンジ、即ち聴閾(可聴域値)と不快閾との間の範囲は、難聴者においては聴力正常者に対し著しく制限されている。それ故現代の補聴器は通例自動利得調節(AGC=automatic gain control)を用いて音声圧縮をも実行している。
【0004】
しかしながら、音響入力信号の純粋に周波数に依存する増幅によっては満足のいくような調整ができない聴力障害も存在する。例えばそれに関して、音響入力信号のスペクトル成分が高い増幅によっても聞き取れるようになり得ない不感周波数領域を持った聴力障害がある。
【0005】
補聴装置を設定する方法であって、入力信号スペクトルのある部分が第1の周波数において増幅され、第2の周波数へ時間に依存してシフトされることにより、一方では2つの適応ステップ間の補聴システムのほぼ純粋な音響パターンによる補聴システムの高い自発性受容を達成し、他方では難聴者の側からの新しい周波数モデルへの学習及び順応プロセスを支援する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
前述の問題を解決するための1つの可能性は、いわゆる周波数圧縮が提供する。その場合、源スペクトル範囲内(典型的には高周波における)のスペクトル範囲が目標周波数領域へ(典型的には低周波における)シフトされる。音響入力信号の源スペクトル範囲中にある信号成分とは異なって、目標周波数領域へシフトされた信号成分はこの周波数領域においては増幅によって聴き取ることができるようになる。
【0007】
ここで周波数圧縮のための可能な方法は以下の方法ステップを備える。
補聴器によって伝送し得る1つの周波数領域を複数の周波数帯に分割(チャネル)するステップ、
互いに隣接する複数の周波数帯を統合して複数の周波数帯からなる少なくとも1つのグループを構成するステップ、
複数の周波数帯からなるグループから複数の周波数帯のうちの1つの周波数帯を選択するステップ、
選択された周波数帯を目標周波数帯に移行するステップ、
場合によっては、複数の周波数帯からなるグループから選択されなかった複数の周波数帯を抑制するステップ。
【0008】
しかしながらこのやり方においては、とりわけ選択されなかったチャネルの内容で区別される音響信号が周波数圧縮後は区別することがただ困難となるか、又はもはや区別することができないという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許出願公開第2006019728号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それ故本発明の課題は、上述の問題点に対する解決策を見出し、とりわけ選択されなかったチャネルの内容で区別される音響信号の改善された識別可能性を達成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、冒頭に述べたような周波数圧縮のための方法において、入力信号の選択された周波数帯中に存在する信号成分またはこの信号成分に由来する信号の増幅が、複数の周波数帯からなるグループの選択されなかった周波数帯中の信号成分に依存して行われることによって解決される。
本発明によれば、
補聴器によって伝送し得る1つの周波数領域を複数の周波数帯へ分割するステップ、
互いに隣接する複数の周波数帯を統合して複数の周波数帯からなる少なくとも1つのグループを構成するステップ、
複数の周波数帯からなるグループから1つの周波数帯を選択するステップ、
選択された周波数帯を目標周波数帯へ移行するステップ、
によって、補聴器へ入って来る入力信号を周波数圧縮する方法において、
入力信号の前記選択された周波数帯中に存在する信号成分又はこの信号成分に由来する信号の増幅が、複数の周波数帯からなるグループの少なくとも1つの選択されなかった周波数帯からの入力信号の信号成分に依存して行われる補聴器の入力信号の周波数圧縮方法が提案される(請求項1)。
補聴器の入力信号の周波数圧縮方法に関する本発明の実施態様は次の通りである。
・選択された周波数帯から目標周波数帯へ移行された信号成分の増幅度が決定される(請求項2)。
・複数の周波数帯からなるグループ内において、最高の音響エネルギーと最大の信号レベルとのうちの一方または両方を有する周波数帯が選択される(請求項3)。
・選択された周波数帯中に存在する信号成分又はこの信号成分に由来する信号が、複数の周波数帯からなるグループにおける選択されなかった周波数帯からの入力信号の信号成分に関係するフォームファクタと乗ぜられる(請求項4)。
・フォームファクタの算出に、以下の項、
FA=(1つのグループのすべての周波数帯の信号の値の和)/(選択された周波数帯の信号の値)
FB=(1つのグループのすべての周波数帯の信号の値の2乗の和)/(選択された周波数帯の信号の値の2乗)
FC=(1つのグループのすべての周波数帯の信号の値の和)/{(周波数帯の数)・(選択された周波数帯の信号の値)}
FD=(1つのグループのすべての周波数帯の信号の値の2乗の和)/{(周波数帯の数)・(選択された周波数帯の信号の値の2乗)}
の1つが用いられる(請求項5)。
・フォームファクタは、選択された周波数帯に対する、又は選択された周波数帯の目標周波数帯に対する決定的な増幅度に影響を及ぼす(請求項6)。
・複数の周波数帯からなる各グループに対し1つのフォームファクタが決定される(請求項7)。
本発明によれば、
補聴器によって伝送可能な1つの周波数領域を複数の周波数帯へ分割するフィルタバンク、
特定の複数の周波数帯を、複数の周波数帯からなる互いに異なるグループに区分する手段、
複数の周波数帯からなる各グループの個々の周波数帯における補聴器へ入って来る入力信号の信号成分に依存して、複数の周波数帯からなる各グループから1つの周波数帯を選択する手段、
それぞれの選択された各周波数帯を目標周波数帯へ移行させる手段、
入力信号の前記選択された周波数帯中に存在する信号成分又はこの信号成分に由来する信号の増幅度を、複数の周波数帯からなるグループの少なくとも1つの選択されなかった周波数帯における入力信号の信号成分に依存して、それぞれ決定する手段
を有する補聴器が提案される(請求項8)。
【0012】
選択されなかった周波数帯中の信号成分に依存して増幅度を決定することによって、複数の周波数帯からなるグループ内の抑制された周波数帯(つまり、選択されなかった周波数帯における入力信号の信号成分)もなおグループの目標周波数帯に関与する。すなわち、抑制された周波数帯のグループが高い音響エネルギーを含んでいると、そのことから、目標周波数帯におけるグループの選択された周波数帯に対して比較的高い増幅度が生じる。それとは異なり、抑制された周波数帯が僅かな音響エネルギーしか持たないような周波数帯の他のグループにおいては、選択された周波数帯から所属の目標周波数帯へ移行した信号は相応に少なく増幅されるか弱められる。したがって本発明は個々の目標周波数帯へ移行した信号成分の異なる重み付けを生じさせ、この重み付けに、抑制された周波数帯における入力信号の信号成分も共に取り込まれる。それによって、とりわけ抑制された周波数帯とは異なる音響信号が良好に区別される。
【0013】
選択された周波数帯における入力信号の信号成分の増幅は、目標周波数帯への移行前か又は移行後すなわち周波数シフト後に行うことができる。その際、本発明と関連して、特定の選択された周波数帯に対する増幅度は1より小さくてもよく、従って減衰であってもよい。
【0014】
本発明に従えば、入力信号の選択された周波数帯に存在する信号成分又はこの信号成分に由来する信号の増幅は、複数の周波数帯からなるグループにおける少なくとも1つの選択されなかった周波数帯からの入力信号の信号成分に依存して行われる。しかしながら、複数の選択されなかった周波数帯の信号成分、とりわけすべての選択されなかった周波数帯の信号成分が増幅度の計算に取り込まれるのが好ましい。
【0015】
本発明の有利な実施形態においては、複数の周波数帯からなるグループ内のすべての周波数帯のスペクトル内容に関係するフォームファクタ(form factor)Fが決定される。周波数帯の特定のグループ内のスペクトル的観点で入力信号が豊富なほど、このグループのフォームファクタは大きい。フォームファクタは増幅率として用いられ、この増幅率が周波数帯のグループ内の選択された周波数帯つまり当該目標周波数帯に与えられる。選択された周波数帯における入力信号の信号成分又は当該目標周波数帯へ移行された信号にフォームファクタが乗ぜられると有利である。
【0016】
本発明による方法を実施するために適切なフォームファクタを決定するための多数の異なる可能性が存在する。
【0017】
本発明の第一の変型例によれば、フォームファクタFAは1つのグループのすべての周波数帯の信号の値の和と選択された周波数帯の信号の値との商から算出される。
FA=(1つのグループのすべての周波数帯の信号の値の和)/(選択された周波数帯の信号の値) (E1)
【0018】
本発明の第二の変型例によれば、フォームファクタFBは1つのグループのすべての周波数帯の信号の値の2乗の和と選択された周波数帯の信号の値の2乗との商から算出される。
FB=(1つのグループのすべての周波数帯の信号の値の2乗の和)/(選択された周波数帯の信号の値の2乗) (E2)
【0019】
本発明の第三の変型例によれば、フォームファクタFCはフォームファクタFAに相応して算出され、FAに対し異なるところは、FCにおいてはすべての周波数帯の信号の値の和が当該グループの周波数帯の数で正規化されることである。
FC=(1つのグループのすべての周波数帯の信号の値の和)/{(周波数帯の数)・(選択された周波数帯の信号の値)} (E3)
【0020】
本発明の第四の変型例によれば、フォームファクタFDはフォームファクタFBに相応して算出され、FBに対し異なるところは、FDにおいてはすべての周波数帯の信号の値の2乗の和が当該グループの周波数帯の数で正規化されることである。
FD=(1つのグループのすべての周波数帯の信号の値の2乗の和)/{(周波数帯の数)・(選択された周波数帯の信号の値の2乗)} (E4)
【0021】
本発明は、フォームファクタFA〜FDに対し例示的に述べられた算出方法に限定されるものではない。反対に、フォームファクタを決定するために多数の他の可能性が考えられる。特に、例示的に述べたフォームファクタにさらに定数または他の変数を乗算してもよい。さらに、上述の例とは異なるが、それぞれの分子計算にそれぞれのグループのすべての周波数帯の信号が必ずしも常に入らないことも可能である。特に、それぞれ選択された周波数帯における信号がフォームファクタの算出に取り込まれないことが可能である。
【0022】
以下に本発明の実施例を図面について詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来技術に従う補聴器を簡略化して示す構成図。
【図2】ある数の周波数帯を、複数の周波数帯からなる異なるグループに分割し、複数の周波数帯からなる各グループから1つの周波数帯を選択し、それぞれ選択された周波数帯を、それぞれ当該グループに所属する目標周波数に移行する様子を示す図。
【図3】複数の周波数帯からなる各グループから1つの周波数帯を選択し、選択された周波数帯をそれぞれ当該グループに所属する1つの標周波数帯に移行する様子を示す図。
【図4】本発明による方法を実施するための流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、従来技術に従う補聴器、特に耳の後に装着可能な補聴器の構造を例示的に、著しく簡略化した構成図で示す。補聴器は原則的に主要な構成要素として入力変換器、増幅器及び出力変換器を含む。入力変換器は通例音響受信器、例えばマイクロホンと、電磁受信器、例えば誘導コイルとのうちの一方または両方である。出力変換器はたいてい電気音響変換器、例えばミニアチュアスピーカつまり受話器として、又は電気機械変換器、例えば骨伝導受話器として実現される。増幅器は通常信号処理ユニット中に組み込まれている。図1による例においては、耳の後に装着するために設けられた補聴器ハウジング1中に、周辺からの音を受けるための1つ又は複数のマイクロホン2が取り付けられている。同様に補聴器ハウジング1中に存在する信号処理ユニット3は、マイクロホン信号を処理し、それを増幅する。信号処理ユニット3の出力信号はスピーカつまり受話器4へ伝送され、スピーカつまり受話器4は音響信号を出力する。場合によっては音は、耳形成術によって耳道内に固定されている音響チューブを介して使用者の鼓膜に伝送される。補聴器のエネルギー供給及び特に信号処理ユニット3のエネルギー供給は、同様に補聴器ハウジング1中に配置されたバッテリー5によって行われる。
【0025】
図2から、補聴器によって伝送可能な周波数領域を多数の周波数帯へ分割することが読み取られる。この実施例においては、周波数帯の幅はすべての周波数帯において同じであり(例えば200Hz)、しかしながらそのことは必ずそうである必要はない。周波数圧縮においては、一般に源周波数領域Sが目標周波数領域Dへマッピングないし移行される。特定の限界周波数fCの下ではこの実施例では周波数圧縮は行われず、限界周波数fCの上でそれぞれ互いに隣り合う特定の数の周波数帯が統合されて複数の周波数帯からなる1つのグループを構成する。実施例ではそのことはグループG1,G2,G3について示されている。1つのグループ内の周波数帯の数はグループ間で変わり得る。周波数帯の各グループG1,G2,G3等には、まさしく目標周波数帯D1,D2,D3等が割り当てられている。周波数帯の各グループG1,G2,G3等から、例えば定められた時間間隔の間、特定の周波数帯(「当選周波数帯」)が選ばれ、例えば入力信号の信号成分がグループの他の周波数帯における信号成分に対して最高の信号レベルを有する周波数帯が選ばれ、グループに属する目標周波数帯へシフト(偏移)される。実施例においては、当選周波数帯W1,W2,W3が図に示すように選ばれ、周波数帯D1,D2,D3へシフトされた。各グループの他の、すなわち選ばれなかった周波数帯は、他の周波数領域へマッピングされず、それ故少なくとも難聴の使用者の視点からは抑制(除去)される。場合によっては、選択されなかった、したがって抑制された周波数帯は能動的に抑制することもでき、すなわち補聴器内のフィルタ手段によって入力信号に関して減衰ないしフィルタで除去することも可能である。さらに、入力信号の信号成分が当該補聴器の出力信号において、対応する信号成分に対して複数の周波数帯への分割後に爾後の信号処理が行われないことによって抑制されることが可能である。
【0026】
通例は、選択された周波数帯W1,W2,W3から目標周波数帯へシフトされた信号成分は入力信号のいずれにせよ目標周波数帯に存在する信号成分に重畳される。このことは両信号の単純な足し算によって行うことができるが、信号の特定の混合比又は異なる重み付けを設定することもできる。このことは、さらにそのうえ、例えば入力信号から直接生じる信号成分が当該周波数帯において完全に抑制され(フィルタで除去され)、そして他の周波数帯から当該周波数帯へシフトされた信号のみがさらに処理される限りは進行し得る。
【0027】
本発明によれば、1つのグループのすべての周波数帯からフォームファクタ(form factor)が算出され、このグループの選択された周波数帯が当該フォームファクタと作用せしめられると有利である。例えば入力信号の選択された周波数帯に存在する信号成分がフォームファクタと乗ぜられ、それによって信号成分の増幅又は減衰が生じさせられる。フォームファクタは特に当該グループのすべてのチャネルの信号エネルギーの尺度である。複数の周波数帯からなる個々のグループから生じるフォームファクタは通例異なるので、そのことから、複数の周波数帯からなる個々のグループからそれぞれ選択された周波数帯の異なる重み付けつまりこの周波数帯における入力信号の信号成分の異なる重み付けが生じる。
【0028】
図3は、本発明による補聴器の構成図の本発明にとって重要な部分を示す。この図3から先ず、補聴器によって伝送可能な周波数スペクトルつまり入力信号がいくつかの周波数帯、即ち目標周波数へ分割されることが明らかにわかる。その場合、互いに隣接する4つの周波数帯が統合されて第1のグループG1を構成し、第1のグループG1に続き同様に互いに隣接して存在する5つの周波数帯が統合されて第2のグループG2を構成する、等々が行われる。第1のグループG1の個々の周波数帯における入力信号の信号成分は信号解析及び制御ユニットAC1に、第2のグループG2の個々の周波数帯における入力信号の信号成分は信号解析及び制御ユニットAC2に、等々のように導かれる。それぞれの信号解析及び制御ユニットにおいては、先ず個々の周波数帯における信号レベルが決定される。最大の信号レベルを有する周波数帯は、それぞれ当該グループG1,G2,G3等の「当選周波数帯」W1,W2,W3等であり、周波数シフトを用いてそれぞれのグループに属する目標周波数帯D1,D2,D3等へ移行され、それぞれの目標周波数帯D1,D2,D3等に場合によってはいずれにせよ存在する入力信号からの信号成分に混合される。特に両信号成分は加算される。
【0029】
さらに、それぞれの信号解析及び制御ユニットAC1、AC2等を用いて、好ましくは各グループG1,G2,G3等の周波数帯に存在する入力信号の信号成分のエネルギーに比例するフォームファクタF1,F2等がそれぞれ求められる。フォームファクタF1,F2等を決定するための計算方法は例示的に式E1〜E4に挙げられている。フォームファクタF1,F2等は、当該グループの選択された周波数帯つまりその中に含まれる入力信号の信号成分に対する乗数として用いられる。その場合フォームファクタFとの乗算はそれぞれ周波数シフトの前または周波数シフトの後(実施例に示されているような)に行われる。フォームファクタFとの乗算によって、当該グループの選択されなかった周波数帯も、グループの目標周波数帯において生じる信号に影響を及ぼす。それによって、グループの抑制された周波数帯の信号成分のみが実質的に異なっている音響信号が良好に互いに区別され得る。
【0030】
本発明による方法を実施するために形成された補聴器は、補聴器によって伝送可能な周波数領域を多数の周波数帯Sに分割するための少なくとも1つのフィルタバンクを含む。さらに補聴器は、特定の複数の周波数帯を、複数の周波数帯からなる互いに異なるグループG1,G2,G3等へ区分する手段を含む。周波数帯の区分は、例えば補聴器のプログラミングによって定められ、使用者の個々の聴力障害に合わせることが可能である。さらに、本発明による補聴器は、複数の周波数帯からなる各グループG1,G2,G3等から、複数の周波数帯からなるそれぞれのグループG1,G2,G3等の個々の周波数帯において補聴器へ入って来る入力信号の信号成分に依存して、周波数帯W1,W2等を選択する手段を含む。選択のために、少なくとも1つの信号解析及び評価ユニットAC1,AC2等が補聴器に存在し、このユニットは、例えば信号レベルと個々のチャネル中に存在するエネルギーとのうちの一方または両方を決定し、周波数帯をそれぞれのグループG1,G2,G3等の「当選周波数帯」W1,W2等として定め、この周波数帯は定められた時間の間最高の信号レベルと最大のエネルギーとのうちの一方または両方を有する。
【0031】
さらに本発明による補聴器は、それぞれ選択された周波数帯W1,W2等を目標周波数帯D1,D2,D3等へ移行させる手段を含む。実施例においては、そのため周波数シフトユニットFS1,FS2が存在し、それらはそれぞれ特定の周波数領域を他の周波数領域へ移行ないしシフトさせる。
【0032】
最後に、本発明による補聴器はさらに、選択された周波数帯W1,W2等に存在する入力信号の信号成分またはこの信号成分に由来する信号の増幅度を、複数の周波数帯のグループG1,G2,G3等の選択されなかった複数の周波数帯における信号成分に依存してそれぞれ決定する手段をも含む。実施例においてはそのためフォームファクタF1,F2等の決定が同様に信号解析及び評価ユニットAC1,AC2等によって行われる。
【0033】
図4は、補聴器へ入って来る入力信号の周波数圧縮の際、本発明による方法において実行される方法ステップを再度図解するものである。
【0034】
第一の方法ステップS1において、補聴器によって伝送可能な1つの周波数領域を複数の周波数帯に分割することが行われる。それによって、補聴器へ入って来る入力信号はそれぞれの周波数帯における信号成分に分割される。続いて方法ステップS2において、それぞれ互いに隣接する複数の周波数帯が統合されて複数の周波数帯からなる少なくとも1つのグループを構成する。方法ステップS3において、複数の周波数帯からなる各グループについて、それぞれのグループから1つの周波数帯の選択が行われる。方法ステップS4において、各選択された周波数帯に対しそれぞれフォームファクタが決定され、その算出においては複数の周波数帯からなる当該グループの選択されなかった周波数帯の信号成分もそれぞれ関与する。次いで方法ステップS5において、複数の周波数帯からなる各グループに対し、選択された周波数帯中の信号成分と当該グループに対して前もって求められたフォームファクタとの乗算が行われる。その乗算は、当該目標周波数領域への信号成分のシフトの前または後(方法ステップS6)で行うことができる。各グループの選択されなかった周波数帯は、その後の処理が行われず、したがって抑制される。
【符号の説明】
【0035】
1 補聴器ハウジング
2 マイクロホン
3 信号処理ユニット
4 受話器
5 バッテリー
S 源周波数領域
D 目標周波数領域
G1,G2,G3 グループ
D1,D2,D3 目標周波数帯
W1,W2,W3 選択された周波数帯(当選周波数帯)
AC1,AC2 信号解析及び制御ユニット
FS1,FS2 周波数シフトユニット
F1,F2 フォームファクタ
C 限界周波数
S1,S2,S3,S4,S5,S6 方法ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補聴器によって伝送し得る1つの周波数領域を複数の周波数帯へ分割するステップ、
互いに隣接する複数の周波数帯を統合して複数の周波数帯からなる少なくとも1つのグループ(G1,G2,G3)を構成するステップ、
複数の周波数帯からなるグループ(G1,G2,G3)から1つの周波数帯(W1,W2,W3)を選択するステップ、
選択された周波数帯を目標周波数帯(D1,D2,D3)へ移行するステップ、
によって、補聴器へ入って来る入力信号を周波数圧縮する方法において、
入力信号の前記選択された周波数帯(W1,W2,W3)中に存在する信号成分又はこの信号成分に由来する信号の増幅が、複数の周波数帯からなるグループの少なくとも1つの選択されなかった周波数帯からの入力信号の信号成分に依存して行われる補聴器の入力信号の周波数圧縮方法。
【請求項2】
前記選択された周波数帯(W1,W2,W3)から目標周波数帯(D1,D2,D3)へ移行された信号成分の増幅度が決定される請求項1記載の方法。
【請求項3】
複数の周波数帯からなるグループ(G1,G2,G3)内において、最高の音響エネルギーと最大の信号レベルとのうちの一方または両方を有する周波数帯が選択される請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記選択された周波数帯(W1,W2,W3)中に存在する信号成分又はこの信号成分に由来する信号が、複数の周波数帯からなるグループ(G1,G2,G3)における選択されなかった周波数帯からの入力信号の信号成分に関係するフォームファクタ(F1,F2)と乗ぜられる請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
フォームファクタ(F1,F2)の算出に、以下の項、
FA=(1つのグループのすべての周波数帯の信号の値の和)/(選択された周波数帯の信号の値)
FB=(1つのグループのすべての周波数帯の信号の値の2乗の和)/(選択された周波数帯の信号の値の2乗)
FC=(1つのグループのすべての周波数帯の信号の値の和)/{(周波数帯の数)・(選択された周波数帯の信号の値)}
FD=(1つのグループのすべての周波数帯の信号の値の2乗の和)/{(周波数帯の数)・(選択された周波数帯の信号の値の2乗)}
の1つが用いられる請求項4記載の方法。
【請求項6】
フォームファクタ(F1,F2)は、前記選択された周波数帯(W1,W2,W3)に対する、又は前記選択された周波数帯の目標周波数帯(D1,D2,D3)に対する増幅度に影響を及ぼす請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
複数の周波数帯からなる各グループ(G1,G2,G3)に対し1つのフォームファクタ(F1,F2)が決定される請求項4から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
補聴器によって伝送可能な1つの周波数領域を複数の周波数帯へ分割するフィルタバンク、
特定の複数の周波数帯を、複数の周波数帯からなる互いに異なるグループ(G1,G2,G3)に区分する手段、
複数の周波数帯からなる各グループ(G1,G2,G3)の個々の周波数帯における補聴器へ入って来る入力信号の信号成分に依存して、複数の周波数帯からなる各グループ(G1,G2,G3)から1つの周波数帯(W1,W2,W3)を選択する手段、
それぞれの選択された各周波数帯(W1,W2,W3)を目標周波数帯(D1,D2,D3)へ移行させる手段、
入力信号の前記選択された周波数帯(W1,W2,W3)中に存在する信号成分又はこの信号成分に由来する信号の増幅度を、複数の周波数帯からなるグループ(G1,G2,G3)の少なくとも1つの選択されなかった周波数帯における入力信号の信号成分に依存して、それぞれ決定する手段
を有する請求項1から7のいずれか1項記載の方法を実施するための補聴器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−75106(P2012−75106A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211120(P2011−211120)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(508115093)シーメンス メディカル インストゥルメンツ ピーティーイー リミテッド (4)
【Fターム(参考)】