説明

製粉方法

【課題】合成樹脂製ポットおよび合成樹脂製ボールを備えた遊星ボールミル装置を用いた製粉方法において、遊星ボールミル装置の大型化を実現する。
【解決手段】(1)容積が500〜20000ccの合成樹脂製ポット10を少なくとも1個と、ポット内に封入される複数個の合成樹脂製ボール15とを備え、ポットの内径がボールの直径の2.5〜4倍の大きさを有する遊星ボールミル装置を準備する。(2)ポットに製粉原料とボールを封入するとともに、ポットを、回転数が10〜750rpmの範囲内で、1〜720分間、公転運動、または公転および自転運動させることにより、製粉原料を粉砕する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製粉方法、特に、食品や生薬等の微粉末を製造するのに好適の、遊星ボールミル装置を用いた製粉方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂製ポットおよび合成樹脂製ボールを備えた遊星ボールミル装置を準備し、原料となる茶葉や乾燥食品等と合成樹脂製ボールとを合成樹脂製ポットに封入し、それを公転運動および自転運動させることによって、原料を粉砕し、粉末茶や乾燥食品の微粉末等を製造する方法がこれまでに提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
この方法によれば、金属製ポットと、クロム鋼やセラミックス等から形成された硬質ボールとを備えた遊星ボールミル装置を用いる従来の製粉方法と比べると、原料の均一な微粉末化が可能となり、例えば、原料茶葉から粉末茶を製造する場合には、従来の粉砕方法による粉末茶と遜色のない粉砕物が得られる。
【0004】
しかし、この方法では、遊星ボールミル装置を大型化した場合に、(1)ポットのサイズとボールの径との最適な相関関係が明確でなかったこと、(2)ポットおよびボールを高速回転させる必要があると予想され、そのとき、樹脂間の摩擦によってポット内の温度が急激に上昇し、またポットおよびボールが摩耗し易く、食品や生薬等の製造に適さないと考えられたこと、(3)かかる高速回転によって、ポット内におけるボール間およびボールとポット間の衝突による騒音が増大すると考えられたこと、(4)製粉原料の重量が増大するために製粉時間が長くなると予想されたこと等の理由から、遊星ボールミル装置の大型化が困難であり、このため、容量がせいぜい400ccまでのポットしか使用することができず、食品や生薬等の微粉末を一度に大量生産することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2006/106964号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、合成樹脂製ポットおよび合成樹脂製ボールを備えた遊星ボールミル装置を用いた製粉方法において、遊星ボールミル装置の大型化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、(1)容積が500〜20000ccの合成樹脂製ポットを少なくとも1個と、前記ポット内に封入される複数個の合成樹脂製ボールとを備え、前記ポットの内径が前記ボールの直径の2.5〜4倍の大きさを有する遊星ボールミル装置を準備し、(2)前記ポットに製粉原料と前記ボールを封入するとともに、前記ポットを、回転数が10〜750rpmの範囲内で、1〜720分間、公転運動、または公転および自転運動させることにより、前記製粉原料を粉砕することを特徴とする製粉方法を提供するものである。
【0008】
この製粉方法においては、前記ポットの前記自転運動の回転数を、前記公転運動の回転数の1〜3倍となるように設定することが好ましい。
【0009】
また、前記複数個のボールを前記ポットに封入した状態で、前記ポットの内部空間における周壁面から底壁面への移行部分および周壁面から上壁面への移行部分の一方または両方を、所定の曲率半径をもって湾曲させて形成し、前記移行部分の曲率半径を前記ボールの半径と等しくまたはそれよりも大きくすることが好ましく、また、前記複数個のボールを前記ポットに封入した状態で、前記ポットの内部空間の高さが前記ボールの直径の約1.1〜1.9倍となるように、前記ポットを形成することが好ましい。
【0010】
また必要に応じて、前記ボールを、第1の合成樹脂から形成された球形の核と、前記核の外側を取り巻く、第2の合成樹脂から形成された外皮層からなる2層構造とし、あるいは、前記ボールの内部に金属球からなる芯を組み込み、または前記ボールの内部を中空としてもよい。
【0011】
また、前記合成樹脂が、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリアミドイミドおよびポリベンゾイミダゾールのいずれか1つ、またはそれらの混合物、またはポリエーテルエーテルケトンまたはポリアミドイミドまたはポリベンゾイミダゾールの構成モノマーからなるコポリマーであることが好ましい。
また、前記ポット内の温度が所定温度以下となるように回転数と回転継続時間を設定して、前記ポットを公転運動、または公転および自転運動させて前記製粉原料を粉砕することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、合成樹脂からなるボールおよびポットを備えた遊星ボールミル装置を用いた製粉方法において、従来の小型ポットの場合の製粉条件から、単なるスケール則に基づいて大型ポットの場合に予測される製粉条件とは全く異なる製粉条件に従って、大型ポットを公転運動、または公転運動および自転運動させて、製粉原料を粉砕するようにしたので、従来の小型ポットの場合よりも短時間に、低騒音で、一度に大量に微粉末を製造することができる。
本発明によれば、各種の製粉原料を微粉末化することができるが、特に、茶葉や、乾燥食品(鰹節、昆布、キノコ、乾燥アワビ等)等の種々の食品、および種々の生薬(漢方薬)だけでなく、キトサン、真珠および薬品等を粉砕し、高品質の微粉末を一度に大量に、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の1実施例による製粉方法において使用される遊星ボールミル装置の側断面図である。
【図2】遊星ボールミル装置のポットの1実施例を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。
【図3】ポット内にボールが収容された状態を示す図であり、(A)は平面図、(B)は縦断面図である。
【図4】遊星ボールミル装置のポットの別の実施例を示す図であり、(A)はポット内にボールが収容された状態の平面図、(B)はその縦断面図である。
【図5】図4の実施例による粉砕過程におけるポット内でのボールの運動状態を説明する図である。
【図6】てん茶の原料茶葉を本発明の製粉方法を用いて粉砕した場合の実験結果をまとめた表である。
【図7】図6の表に対応するグラフである。
【図8】てん茶の原料茶葉を本発明の製粉方法に従って大型ポットで粉砕した場合と、従来法に従って小型ポットで粉砕した場合とを比較した実験結果をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施例について添付図面を参照して説明する。本発明の製粉方法は、特に、食品や生薬等を粉砕してそれらの微粉末を製造するのに適している。
本発明の製粉方法によれば、まず、容積が500〜20000ccの合成樹脂製ポットを少なくとも1個と、ポット内に封入される複数個の合成樹脂製ボールとを備え、ポットの内径がボールの直径の2.5〜4倍の大きさを有する遊星ボールミル装置を準備する。
【0015】
図1は、この遊星ボールミル装置の側断面図である。なお、本発明の製粉方法で用いる遊星ボールミル装置は、ポットおよびボールを除き、公知の遊星ボールミル装置と同じ構成を有しているので、以下では、遊星ボールミル装置のポットおよびボール以外の構成要素に関しては簡単に説明するに留める。また、遊星ボールミル装置における、ポットおよびボールの回転駆動機構の構成は、以下に説明するものに限定されず、任意の適当な公知の回転駆動機構を備えた遊星ボールミル装置を使用することができる。
【0016】
図1を参照して、遊星ボールミル装置は、モータ1によって回転駆動される垂直な主軸2を備え、主軸2には円盤状の回転テーブル3が固定されている。また、回転テーブル1上には、4つのポット回転台5が主軸2に関して回転対称となるように配置され、それぞれ、自転軸4のまわりに回転テーブル1に対して回転可能になっている。そして、主軸2と各自転軸4とは遊星歯車機構6によって連結されている。
【0017】
さらに、主軸2の上部には平板状の上部支持部材7が固定されている。上部支持部材7は、主軸2から放射状にのび、各ポット回転台5の上方に達する複数の腕部分を有し、各腕部分5には、軸方向に上下運動可能とされた押圧ロッド8がその軸のまわりに回転自在に取り付けられている。
そして、ポット回転台2には、内部に複数個のボールと製粉原料とが封入されたポット3が載置された後、押圧ロッド8が下向きに運動させしてられて押圧ロッド8の先端がポット10の上面に押しつけられることにより、ポット10がポット回転台5に固定されるようになっている。
【0018】
こうして、回転テーブル1が、モータ1によって主軸2のまわりに回転駆動されるとともに、ポット回転台5は、それぞれ、モータ1により、遊星歯車機構6を介して、自転軸4のまわりに回転テーブル1に対して回転駆動され、それによって、ポット10は、主軸2のまわりに公転運動せしめられ、また、自転軸4のまわりに自転運動せしめられる。
なお、遊星ボールミル装置の運転中の危険防止のため、遊星ボールミル装置の上部には、ポット回転台5の運動空間を被覆する開閉可能な保護カバー9が設けられている。
【0019】
図2は、ポットの1実施例を示した図であり、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。図2に示されるように、ポット10は、一端が閉じられた円筒形状のポット本体11と、ポット本体11の他端開口をリング状のパッキン14を介して密閉し得る蓋体12からなっている。また、ポット本体11の内側空洞部13の周壁面11aから底壁面11bへの移行部分11cは、所定の曲率半径rをもって湾曲している。
【0020】
ポット10およびボール15は、合成樹脂から形成されている。合成樹脂は、人体に対する毒性がなく、高耐摩耗性、高自己潤滑性および高耐衝撃性を有するものであればいずれも使用可能であるが、特に、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリアミドイミド(例えば、トーロン(登録商標))およびポリベンゾイミダゾールのいずれか1つまたはそれらの混合物が好ましく、あるいは、ポリエーテルエーテルケトンまたはポリアミドイミド(例えば、トーロン(登録商標))またはポリベンゾイミダゾールの構成モノマーからなるコポリマーであってもよい。
【0021】
なお、同一種類の合成樹脂から形成されたポット10およびボール15を常に組み合わせて使用する必要はなく、異なる種類の合成樹脂から形成されたポット10およびボール15を組み合わせて使用してもよい。
ポット10は、内壁面が合成樹脂製であればよく、変形防止等のために、内壁面を形成する合成樹脂層の外側に、ステンレスや鉄等の金属からなる外皮を有するポットとしてもよい。
【0022】
良好な粉砕を実現するために、ボール15およびポット10の寸法、並びに製粉原料の種類に応じて、ボール15の比重を適宜変化させてもよい。ボール15の比重を変化させる方法としては、互いに比重の異なる2種類の合成樹脂を用意し、ボール15を、第1の合成樹脂から形成された球形の核と、核の外側を取り巻く、第2の合成樹脂から形成された外皮層からなる2層構造として比重を変化させる方法、あるいは、ボール15の内部に金属球からなる芯を組み込んで比重を大きくする方法、あるいは、ボール15の内部を中空とすることで比重を小さくする方法がある。
【0023】
図3は、ポット内にボールが収容された状態を示す図であり、(A)は平面図、(B)は縦断面図である。図3を参照して、ポット10の内側空洞部13の周壁面11aから底壁面11bへの移行部分11cの曲率半径rは、ボール15の半径と等しいかまたはそれよりも大きくなっている。
さらに、ポット10の内側空洞部13の径sは、ボール15の直径Rの2.5〜4倍の大きさを有し、かつ、ポット1本当たりに5〜8個の同一のボール15が収容される。
【0024】
図4は、ポットの別の実施例を示した図であり、(A)はポット内にボールが収容された状態の平面図、(B)はその縦断面図である。図4の実施例は、図3の実施例と、ポットの内部構造が異なっているだけである。したがって、図4中、図3と同一の構成要素には同一番号を付し、詳細な説明を省略する。
【0025】
図4を参照して、この実施例では、ポット本体11の上端開口が蓋体12によって密封された状態で、ポット10の内部空間13における周壁面11aから底壁面11bへの移行部分11c、および周壁面11aから上壁面への移行部分11dが、いずれも所定の曲率半径rをもって湾曲して形成されている。この場合、移行部分11c、11dの曲率半径rはボール15の半径と等しく、またはそれよりも大きくなっている。
この実施例では、さらに、ポット本体11の上端開口が蓋体12によって密封された状態で、ポット10の内部空間13の高さdがボール15の直径Rの約1.1〜1.9倍となっている。したがって、この実施例では、ポット10内にボール15が2段に配置されることはない。
【0026】
この実施例においても、図3の実施例の場合と同様、ポット10の内側空洞部の径sは、ボール15の直径の2.5〜4倍の大きさを有し、かつ、ポット1本当たりに同一のボール15が5〜8個封入される。
【0027】
そして、本発明の製粉方法によれば、ポット10に製粉原料とボール15を封入するとともに、ポット10を、遊星ボールミル装置のポット回転台5に固定し、回転数が10〜750rpmの範囲内で、1〜720分間、公転運動、または公転および自転運動させる。この場合、ポットの自転運動の回転数を、公転運動の回転数の1〜3倍となるように設定することが好ましい。また、公転および自転運動させる場合、公転運動と自転運動の回転の向きは、共に同じであってもよいし、互いに反対向きであってもよい。
【0028】
こうして、粉砕過程の初期段階であって、粉砕が進まないうちは、遊星運動するポット10内でボール15が運動するとき、製粉原料による粘性が大きいために、ボール15の運動は無秩序となり、ボール15間の衝突、ボール15とポット10内壁の間の衝突が頻繁に生じ(図5(A)参照)、それに起因する衝突音が発生する。そして、この衝突の際に、製粉原料がボール15間、およびボール15とポット10内壁の間に入り込み、粉砕される。
【0029】
ボール15間、およびボール15とポット10内壁の間の衝突に伴い、製粉原料が粉砕されてある程度細かくなると、製粉原料による粘性が低下して、ボール15の運動に無秩序さを与える力が弱くなり、ボール15の全体が整然とした運動を開始し、上述のような衝突は生じなくなり(図5(B)参照)、衝突音は消失する。そして、その後、製粉原料は、主として、ボール15の集合体とポット10内壁の相対運動による剪断的な力によって粉砕され、微粉化される。
【0030】
ボールミル装置の作動開始後、衝突音が消失するまでの時間は、ポット10の公転速度、自転速度、製粉原料の種類、製造される微粉末の量や平均粒径に依存する。公転速度、自転速度、製粉原料の種類、および製造される微粉末の量がすべて同じであれば、粉末の粘度が大きくなると長くなり、また、公転速度、自転速度、および製粉原料の種類が同じであれば、製造される微粉末の量が多くなると長くなる。
【0031】
結果的には、衝突音が発生している間の粉砕過程は粗粉砕過程であり、衝突音が消失した後の粉砕過程はより微細な粒径への粉砕過程である。製粉原料をより微粉化するためには、衝突音が消失した後の粉砕過程を継続するとよい。
【0032】
本発明の製粉方法によれば、ポットの公転または自転運動の速度が大きくなるにつれて、また、公転および自転運動の継続時間が長くなるにつれて、ポット内の温度が上昇する。この温度上昇は、衝突およびせん断的な力の両方に起因する。
ところで、製粉原料の粉砕時に、ポット内の温度上昇が激しいと、製造される微粉末が熱の作用によって退色し、香りや風味等の品質を低下させてしまうことがある。このような場合には、製造される微粉末に品質低下が生じる温度以下の温度で粉砕を行うことが望ましい。このため、粉砕時のポット内の温度上昇が所定の温度以下に抑えられるように、遊星ボールミル装置の回転数および回転継続時間を設定することが望ましい。
【0033】
この回転数および回転継続時間の設定は、例えば、予め試験的な粉砕を繰り返し行い、粉砕終了直後のポット内の温度を赤外線放射温度計等によって測定し、その際に取得したデータに基づいて、ポットおよびボールの寸法、製粉原料の種類および製造される微粉末の量等毎に、粉砕時の温度上昇が所定の温度以下となる回転数および回転継続時間の範囲を決定してテーブル化しておき、実際の運転時に、そのテーブルに従ってその都度行うようにすればよい。
【0034】
次に、ポットおよびボールを実際に作成し、所望の結果が得られるか実証実験を行った。実証実験の内容は次のとおりである。
遊星ボールミル装置のポットとして、図4の実施例のものを2種類作成した。
(a)ポットNo.1(容積が2000ccのポット):内径s=163mm、深さd=96.6mm、周壁面から底壁面および上壁面への移行部分の曲率半径r=29.6mmのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製ポット
(b)ポットNo.2(容積が500ccのポット):内径s=110mm、深さd=65mm、周壁面から底壁面および上壁面への移行部分の曲率半径r=20mmのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製ポット
また、ポットNo.1用のボールとして、
(c)ボールNo.1:ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製ボール(比重約1.3、直径R=59.2mm)
を作成し、ポットNo.2用のボールとして、
(d)ボールNo.2:ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製ボール(比重約1.3、直径R=36.5mm)
を作成した。
【0035】
[実験1]
(実施例1)
製粉材料として抹茶の原料であるてん茶を使用し、4個のポットNo.1のそれぞれに、等量の茶葉を5個のボールNo.1とともに封入した後、4個のポットNo.1を、図1の遊星ボールミル装置のポット回転台に固定し、それぞれ20分、40分および60分の3つの異なる時間にわたり、それぞれ140rpmおよび190rpmの2つの異なる回転数で逆向きに自転および公転運動させて、粉末茶を製造した。そして、回転停止直後のポット内の粉末茶の温度を測定し、さらに、粒度分布測定装置を使用して粉末茶の粒度分布を測定した。
(実施例2)
実施例1と同じ茶葉を使用し、4個のポットNo.1のそれぞれに、実施例1と同量の茶葉を6個のボールNo.1とともに封入した後、4個のポットNo.1を、実施例1と同じ遊星ボールミル装置のポット回転台に固定し、それぞれ20分、40分および60分の3つの異なる時間にわたり、それぞれ140rpmおよび190rpmの2つの異なる回転数で逆向きに自転および公転運動させて、粉末茶を製造した。そして、回転停止直後のポット内の粉末茶の温度を測定し、さらに、粒度分布測定装置を使用して粉末茶の粒度分布を測定した。
【0036】
測定結果を図6の表、並びに図7のグラフに示した。図6の表および図7のグラフ中、MV(μm)、MN(μm)、MA(μm)、CSおよびSD(μm)の定義は、それぞれ、下記のとおりである。
MV:体積で重み付けされた平均径
MA:面積で重み付けされた平均径
MN:仮想の個数分布から求められた平均径
SD:粒度分布幅の目安となる標準偏差
CS:粒子を球状と仮定した場合の比表面積
図6の表および図7のグラフから、本発明の製粉方法によれば、ポットの容積を、500ccから2000ccへと大型化すると、140〜190rpmという低回転数で、短時間(20〜60分)の粉砕を行うだけで、比較的小さい粒径のてん茶の粉末茶が得られることがわかる。
【0037】
[実験2]
(実施例3)
製粉原料として、実施例1、2と同じ茶葉を使用し、4個のポットNo.2のそれぞれに、実施例1、2と同量の茶葉を5個のボールNo.2とともに封入した後、実施例1、2と同じ遊星ボールミル装置のポット回転台に固定し、それぞれ90分、150分、210分および360分の異なる時間にわたり、320rpmの回転数で逆向きに自転および公転運動させて、粉末茶を製造した。そして、得られた粉末茶の粒度分布を、粒度分布測定装置を使用して測定した。
【0038】
さらに、実施例2で取得した粉末茶と、実施例3で取得した粉末茶について、分光式色差計(日本電色工業製 SE−6000)を用いて色差(a値)を測定し、さらには、官能検査を行った。なお、官能検査は、ヒトの感覚器官によって品質を評価、判定する検査方法であり、現在、お茶の品質評価に最も一般的に用いられている検査である。そして、この実験では、検査項目を色沢(粉末の色)および香味(口に含んだ際の香りと味)の2点に着目し、石臼挽き抹茶を基準(10点)とし、0.5点刻みの加減法で実施例2および実施例3で取得した各粉末茶との比較を行い評価した。
【0039】
結果を図8の表に示す。図8の表から、実施例3(500ccのポット)においては、回転数320rpmで粉砕時間90分で、平均粒径が31.7μmまで粉砕できたのに対し、実施例2(2000ccのポット)においては、これとほぼ同じ平均粒径31.25μmまで粉砕するのに、回転数190rpm、粉砕時間60分と、実施例3よりも低回転数および短時間で済むことがわかる。また、実施例2で取得した粉末茶の色沢は、実施例3の90分粉砕したものよりもよく、香味も多少劣る程度であることから、実施例2で取得した粉末茶の品質は、比較例で取得した粉末茶と同程度またはそれ以上である。
【0040】
こうして、本発明の製粉方法によれば、従来の小型ポット(容量がせいぜい400cc程度)の場合の製粉条件から、単なるスケール則に基づいて容積が500cc以上の大型ポットの場合に予測される製粉条件とは全く異なる製粉条件に従って、大型ポットを公転および自転運動させて製粉原料を粉砕するようにしたので、従来の小型ポットの場合よりも低回転数でかつ短時間に、一度に大量に微粉末を製造することができ、製造時の騒音の低減も図ることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 モータ
2 主軸
3 回転テーブル
4 自転軸
5 ポット回転台
6 遊星歯車機構
7 上部支持部材
8 押圧ロッド
9 保護カバー
10 ポット
11 ポット本体
11a 周壁面
11b 底壁面
11c 移行部分
12 蓋体
13 内側空洞部
14 リング状パッキン
15 ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)容積が500〜20000ccの合成樹脂製ポットを少なくとも1個と、前記ポット内に封入される複数個の合成樹脂製ボールとを備え、前記ポットの内径が前記ボールの直径の2.5〜4倍の大きさを有する遊星ボールミル装置を準備し、
(2)前記ポットに製粉原料と前記ボールを封入するとともに、前記ポットを、回転数が10〜750rpmの範囲内で、1〜720分間、公転運動、または公転および自転運動させることにより、前記製粉原料を粉砕することを特徴とする製粉方法。
【請求項2】
前記ポットの前記自転運動の回転数を、前記公転運動の回転数の1〜3倍となるように設定することを特徴とする請求項1に記載の製粉方法。
【請求項3】
前記複数個のボールを前記ポットに封入した状態で、前記ポットの内部空間における周壁面から底壁面への移行部分および周壁面から上壁面への移行部分の一方または両方を、所定の曲率半径をもって湾曲させて形成し、前記移行部分の曲率半径を前記ボールの半径と等しくまたはそれよりも大きくしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の製粉方法。
【請求項4】
前記複数個のボールを前記ポットに封入した状態で、前記ポットの内部空間の高さが前記ボールの直径の約1.1〜1.9倍となるように、前記ポットを形成したことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の製粉方法。
【請求項5】
前記ボールを、第1の合成樹脂から形成された球形の核と、前記核の外側を取り巻く、第2の合成樹脂から形成された外皮層からなる2層構造としたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の製粉方法。
【請求項6】
前記ボールの内部に金属球からなる芯を組み込み、または前記ボールの内部を中空としたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の製粉方法。
【請求項7】
前記合成樹脂が、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリアミドイミドおよびポリベンゾイミダゾールのいずれか1つ、またはそれらの混合物、またはポリエーテルエーテルケトンまたはポリアミドイミドまたはポリベンゾイミダゾールの構成モノマーからなるコポリマーであることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の製粉方法。
【請求項8】
前記ポット内の温度が所定温度以下となるように回転数と回転継続時間を設定して、前記ポットを公転運動、または公転および自転運動させて前記製粉原料を粉砕することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の製粉方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−201290(P2010−201290A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46843(P2009−46843)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、「地域イノベーション創出研究開発事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(391053696)JOHNAN株式会社 (16)
【出願人】(592074175)株式会社福寿園 (11)
【Fターム(参考)】