説明

製糸性に優れたポリエステルおよびそれよりなる繊維

【課題】高い強度を発現する繊維を製造することが出来る製糸性に優れたポリエステル及びそれよりなる繊維を提供する。
【解決手段】テレフタル酸ジエステルとエチレングリコールとを重縮合反応させて得られたポリエステルであって、下記(a)〜(e)を満足するポリエステル及びこれを溶融紡糸して得られる繊維。(a)ポリエステル中のメチルエステル末端基の量が0.5〜20ミリモル等量/kg。(b)共重合されているジエチレングリコール成分が0.3質量%以上1.5質量%以下。(c)原料であるテレフタル酸ジエステル中の4−カルボキシベンズアルデヒド誘導体の含有量が100質量ppm以下。(d)原料であるテレフタル酸ジエステルの純度が99.95%以上。(e)ポリエステル中のアンチモン元素量の範囲が100〜260質量ppm。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルおよびそれよりなる繊維に関する。さらに詳しくは、製糸性に優れ、特にワンステップの製糸工程において、高い強度を発現する繊維を製造することが出来る製糸性に優れたポリエステル及びそれよりなる繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリテトラメチレンテレフタレートは、その機械的、物理的及び化学的性能が優れているため、繊維、フィルム又はその他の成形物に広く利用されている。その中でも特にポリエチレンテレフタレートは、機械的特性、化学的特性、成形性等に優れており、古くからポリエステル繊維用に利用されている。
【0003】
このようなポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルはテレフタル酸やテレフタル酸ジメチルの如きジカルボン酸成分とエチレングリコールの如きグリコールとをエステル化反応あるいはエステル交換反応せしめた後、三酸化アンチモンの如き重合触媒の存在下、重合反応せしめる工程を用いることが一般的である。
【0004】
一方、近年ではこのポリエステル繊維製造工程において、その生産性を向上させる為に、紡糸速度や延伸、加工速度などを上げたり、紡糸−延伸工程を一段階で行うようなことが一般的に行われてきている。
【0005】
しかしながら、エステル交換反応法によって製造されたポリエステルには、一般的に上述した三酸化アンチモンの如き重合触媒以外に例えばアルカリ土類金属化合物やマンガン化合物やチタン化合物などのエステル交換反応触媒が必要である。このようにエステル交換反応法によって製造されたポリエステルは、含有されているエステル交換反応触媒が異物となって存在していることにより、特に紡糸速度を3000m/分以上の高速領域にした場合に紡糸時の単糸切れ、断糸が増加する傾向にある。
【0006】
そこでこのような問題を解決する為に、繊維の分子配向下での結晶化を抑制する方法が検討されており、例えばジフェニル化合物とアルカリ金属塩化合物を添加する方法が提案されている(例えば特許文献1及び2参照。)。
【0007】
しかしながら、この方法は確かに紡糸速度3000m/分以上での単糸切れ、断糸を抑制する効果は見られるものの、特に紡糸速度4000m/分以上での配向糸においては得られる繊維の強度が不十分となり、高速紡糸におけるワンステップでの配向糸を得る方法としては適していないものであった。
【0008】
また、アンチモン化合物を触媒として用いたポリエチレンテレフタレートのベンディング防止対策としては、スルホン酸ホスホニウム塩化合物を添加する方法が提案されているが、高速紡糸における配向糸の繊維強度改善については言及されていない(例えば特許文献3参照。)。
【0009】
【特許文献1】特公平8−11841号公報
【特許文献2】特公平8−19566号公報
【特許文献3】特許第2915208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、アンチモン触媒を用いて製造されたポリエステルを用いた繊維を製造する際に、製糸性に優れ、特にワンステップの製糸工程において、高い強度を発現する繊維を製造することが出来る製糸性に優れたポリエステル及びそれよりなる繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、テレフタル酸ジエステルとエチレングリコールとを、エステル交換反応、次いで重縮合反応させて得られた、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルであって、下記(a)〜(e)をすべて満足する、製糸性に優れたポリエステル及びこれを溶融紡糸して得られる繊維であり、これらによって上記の課題が解決できる。
(a)ポリエステル中のメチルエステル末端基の量が0.5〜20ミリモル等量/kgの範囲にあること。
(b)ポリエステル中に共重合されているジエチレングリコール成分が0.3質量%以上1.5質量%以下であること。
(c)原料であるテレフタル酸ジエステル中の4−カルボキシベンズアルデヒド誘導体の含有量が100質量ppm以下であること。
(d)原料であるテレフタル酸ジエステルの純度が99.95%以上であること。
(e)ポリエステル中に含有されているアンチモン元素量の範囲が100〜260質量ppmの範囲にあること。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば採用するポリエステルの製造方法に関わらず、ポリエステルを用いた繊維製造工程において、高い品質を維持しながら繊維生産工程の能力を高め、コストダウンを行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明を詳しく説明する。
本発明におけるポリエステルとは、エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであるが、これはポリエステルを構成する全繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレート単位であるポリエステルのことである。
【0014】
更に詳しくは、本発明のポリエステルはテレフタル酸ジエステルとエチレングリコールとを、エステル交換反応、次いで重縮合反応させて得られた、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルである。
【0015】
本発明におけるポリエステルの製造方法は、上述の通りエステル交換反応法による製造方法が採用されるが、テレフタル酸ジメチルの如きジカルボン酸成分の低級アルキルエステルとエチレングリコールの如きグリコール成分とをエステル交換反応せしめる場合、エステル交換反応触媒が必要である。該エステル交換反応触媒としては金属化合物、より具体的には、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、亜鉛化合物、チタン化合物、スズ化合物、ナトリウム化合物等が例示される。これらの中でもマンガン化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、亜鉛化合物のいずれか1種以上が特に好ましく例示される。具体的には酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛等の酢酸塩が特に好ましい。さらに製造された本発明のポリエステルにもこれらの化合物が含有されている。
【0016】
本発明のポリエステルは、ポリエステル中のメチルエステル末端基の量が0.5〜20ミリモル等量/kgの範囲にある必要がある。上述の通り、本発明のポリエステルはエステル交換反応法によって製造されたものである為、メチルエステル末端基の量を0.5ミリモル%未満にする為には、エステル交換反応時間を必要以上に長くする必要があり、20ミリモル%を超えると、重合反応工程が遅くなる懸念があり好ましくない。ポリエステル中のメチルエステル末端基の量は0.7〜15ミリモル等量/kgの範囲が好ましく、1.0〜10ミリモル等量/kgの範囲が更に好ましい。メチルエステル末端基の量を0.5〜20ミリモル当量/kgの範囲にするにはテレフタル酸ジエステルとエチレングリコールのエステル交換反応を十分に行う必要があり、具体的には双方のエステル交換反応の反応率を99%以上にするなどの手法が挙げられる。
【0017】
本発明のポリエステルは、ポリエステル中に共重合されているジエチレングリコール成分が0.3〜1.5質量%の範囲にある必要がある。ここで、ポリエステル中に共重合されているジエチレングリコール成分とは、共重合成分として添加するものではなく、ポリエステル製造工程において副生物として生成するジエチレングリコールがポリエステルに共重合されるものであるが、該ジエチレングリコール成分の共重合量を0.3質量%未満にする為には、生産能力を極めて小さくする必要があり、また1.5質量%を超えると、ポリエステル繊維を高速で紡糸する場合に断糸が増える懸念があり好ましくない。該ジエチレングリコール成分の共重合量は0.4〜1.3質量%の範囲が好ましく、0.5〜1.0質量%の範囲が更に好ましい。ジエチレングリコール成分の共重合量を0.3質量%〜1.5質量%にする為には反応系内の酸性度が高くならないように管理を行うことが好ましい。より具体的には、酸性を示す化合物を反応系内に添加しない、必要ならば塩基性を示す化合物を反応系内に添加するなどの手法が挙げられる。
【0018】
本発明のポリエステルは、原料として使用するテレフタル酸ジエステル中の4−カルボキシベンズアルデヒド誘導体の含有量が100質量ppm以下である必要がある。ここで、4−カルボキシベンズアルデヒド誘導体とは、パラキシレンからテレフタル酸ジエステルを製造する工程で不純物として生成するものであるが、該4−カルボキシベンズアルデヒド誘導体の含有量が100質量ppmを超えるとポリエステル繊維を高速で紡糸する場合に断糸が増える懸念があり好ましくない。4−カルボキシベンズアルデヒド誘導体の含有量は100質量ppm以下の範囲が好ましく、50質量ppm以下の範囲が更に好ましい。ここで「4−カルボキシベンズアルデヒド誘導体」とは具体的には4−カルボキシベンズアルデヒドの他に4−カルボキシベンズアルデヒドメチルエステル、4−カルボキシベンズアルデヒド−2−ヒドロキシエチルエステルを指す。
【0019】
本発明のポリエステルは、原料であるテレフタル酸ジエステルの純度が99.95%以上である必要がある。テレフタル酸ジエステル中の不純物としては上述した4−カルボキシベンズアルデヒド誘導体の他にテレフタル酸モノエステルやイソフタル酸ジエステルなどが存在するが、該テレフタル酸ジエステルの純度が99.95%未満であると、ポリエステル繊維を高速で紡糸する場合に断糸が増える懸念があり好ましくない。テレフタル酸ジエステルの純度は99.97%以上が好ましく99.99%以上が更に好ましい。
【0020】
上述の4−カルボキシベンズアルデヒド誘導体含有量を100質量ppm以下にする、テレフタル酸ジエステルの純度を99.95%以上にするには、パラキシレンを酸化して得られた酸化生成物をメタノール等のアルコール添加によりアルキルエステル化した後、メタノール又はアセトンによる再結晶を繰り返したり、蒸留精製を行うことによって達成することができる。
【0021】
また、本発明に使用するテレフタル酸ジエステルとしては、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジプロピル等が例示されるが、これらの中でもテレフタル酸ジメチルが特に好ましく例示される。更にこれらのテレフタル酸ジエステルはパラキシレンから化学的に製造されたものであってもよいが、PETボトルなどの使用済みポリエステル製品を解重合して回収されたリサイクル原料であることが好まれる。
【0022】
本発明のポリエステルは、含有されているアンチモン元素量が100〜260質量ppmの範囲にあることが必要である。ここでポリエステル中に含有されているアンチモン元素とは、通常は重合触媒として添加されるものであるが、該アンチモン元素量が100質量ppm未満の場合、重合速度が非常に遅くなる。一方、260質量ppmを超えると紡糸工程において、口金周辺にアンチモンが堆積し、工程調子を悪化させる他、欧州における繊維製品の環境基準「EUエコラベル」の認定対象外となる為好ましくない。アンチモン元素含有量は125〜255質量ppmの範囲が好ましく、150〜250質量ppmの範囲が更に好ましい。
【0023】
さらに上述のエステル交換反応を終了した後、重縮合反応を行い本発明のポリエステルを得る。重縮合反応においては重合触媒を用い、通常のポリエステルを重縮合するのと同等の温度、圧力条件で通常の所要時間かけることにより本発明のポリエステルを得ることができる。ここで本発明のポリエステルを製造する際において用いる重合触媒は、アンチモン化合物であることが好ましいが、アンチモン化合物としては特に限定されず、ポリエステルの重合触媒として一般的なものが挙げられる。例えば三酸化二アンチモン、酢酸アンチモン、五塩化アンチモンなどが挙げられ、これらの中でも三酸化二アンチモンが特に好ましく選定される。ポリエステルの重合触媒としては上述したアンチモン化合物以外にもゲルマニウム化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物等が一般的に使用されており、本発明のポリエステルの製造に使用することも可能であるが、本発明のポリエステルの製造に使用する重合触媒としては生産性や生産コストの観点から、アンチモン化合物を単独で使用することが好ましい。
【0024】
本発明のポリエステル中には金属化合物とリン化合物が含有されており、ポリエステル中に含有されている金属化合物が、マンガン化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、亜鉛化合物のいずれか1種以上であって、該金属化合物とリン化合物の含有比率が下記数式(1)を満たしていることが好ましい。
0.9≦P/M≦2 (1)
[ここで、Pはポリエステル中の全酸成分に対するリン元素のミリモル%、Mはポリエステル中の全酸成分に対するマンガン元素、カルシウム元素、マグネシウム元素、亜鉛元素の合計のミリモル%を表す。]
【0025】
ここでマンガン化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、亜鉛化合物とは通常エステル交換反応触媒として使用するものであるが、上記数式(1)のP/Mが0.9未満の場合、得られるポリエステルの色相が不良となり、2を超えるとポリエステル中の酸性度が高くなり、副生成物が出来やすくなる為、好ましくない。P/Mは0.95〜1.8の範囲が好ましく、1〜1.5の範囲が更に好ましい。
【0026】
本発明のポリエステル製造時に使用され、ポリエステルに含有されているリン化合物は下記一般式(I)及び/又は(II)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】

[上記式中、R、R及びRは、同一又は異なった炭素数1〜4のアルキル基又は水素を示し、Xは−CH−又は−CH(Z)−を示し、Y、Zは炭素数1〜4のアルキル基またはベンゼン環を示す。]
【0027】
ここで上記一般式(I)で表されるリン化合物としては、カルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボプトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボプロトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸およびカルボブトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、及びこれらのジメチルエステル類、ジエチルエステル類、ジプロピルエステル類およびジブチルエステル類が好ましく選択され、上記一般式(II)で表されるリン化合物としてはフェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、トルイルホスホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸及びブチルホスホン酸、及びこれらのジメチルエステル類、ジエチルエステル類、ジプロピルエステル類およびジブチルエステル類が好ましく選択される。
【0028】
本発明のポリエステルの固有粘度(溶媒:オルトクロロフェノール、測定温度:35℃)は特に限定はないが、0.5〜1.0の範囲にあることが好ましい。該固有粘度が0.5未満の場合、得られるポリエステル繊維の機械的特性が不十分となり、1.0を超える場合、溶融成形性が低下する為好ましくない、本発明のポリエステルの固有粘度は0.6〜0.8の範囲が更に好ましい。また、該ポリエステルは固相重合によって固有粘度を高めてもよい。
【0029】
本発明のポリエステルは、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、酸化防止剤、固相重合促進剤、整色剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤又は艶消剤等を含んでいてもよい。これらの内、艶消剤としての酸化チタンなどは特に好ましく添加される。
【0030】
本発明のポリエステル繊維を溶融紡糸により製造する時の製造方法としては特に限定はなく、従来公知の溶融紡糸方法が用いられる。例えば乾燥したポリエステルを270℃〜300℃の範囲で溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸の速度は300〜9000m/分で紡糸することができ、必要によって延伸工程などを経て繊維の強度を十分なものに高めることが可能である。しかしながら、本発明の効果をより高く発現させる為には紡糸速度は5000〜9000m/分、更に好ましくは5200〜8000m/分の範囲で溶融紡糸することが好ましく選択される。
【0031】
また、本発明のポリエステル繊維は上述の方法により得られたポリエステルを紡糸速度5000〜9000m/分で溶融紡糸して得られた繊維の引張強度が3.0cN/dtex以上であることが好ましい。繊維の引張強度は3.0cN/dtex未満であると、最終的な繊維製品の十分な強度が得られない為、強度を高める為に延伸工程などの工程を通過させることが必要となる。本発明のポリエステル繊維の引張強度は3.3cN/dtex以上であることが更に好ましい。
【0032】
また紡糸時に使用する口金の形状についても特に制限は無く、円形、異形、中実又は中空などのいずれも採用することが出来る。更に本発明のポリエステル繊維は風合を高める為に、アルカリ減量処理も好ましく実施される。
【実施例】
【0033】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
【0034】
(ア)テレフタル酸ジメチル中の4−カルボキシベンズアルデヒド誘導体含有量、及びテレフタル酸ジメチルの純度:
テレフタル酸ジメチルを、アセトン溶媒を用い再結晶抽出操作を実施したのち濃縮し、ガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製(HP6850型))を用いて4−カルボキシベンズアルデヒド誘導体を始めとする各成分の分析を行った。テレフタル酸ジメチルの純度は、分析して得られた各成分の濃度を、100%から差し引くことで算出した。
【0035】
(イ)固有粘度:
ポリエステルチップを100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
【0036】
(ウ)ジエチレングリコール含有量:
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いてポリエステルを分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量をガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製(HP6850型))を用いて測定した。
【0037】
(エ)ポリエステル中のメチルエステル末端基の量:
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いてポリエステルを分解し、ガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製「HP6850」)を用い、含有メタノール量を常法に従って測定した。
【0038】
(オ)色相(L値、a値、b値):
・チップ:
ポリマーチップを285℃、真空下で10分間溶融し、これをアルミニウム板上で厚さ3.0±1.0mmのプレートに成形後ただちに氷水中で急冷し、該プレートを140℃、2時間乾燥結晶化処理を行った。
その後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、プレート表面のL、a及びbを、ミノルタ社製ハンター型色差計(CR−200型)を用いて測定した。Lは明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、aはその値が大きいほど赤着色の度合いが大きいことを示し、bはその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。また他の詳細な操作はJIS Z−8729に準じて行った。
【0039】
(カ)ポリマー中のアンチモン、マンガン、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、リン元素含有量:
触媒として用いるポリマー中のアンチモン元素量や、他の金属元素含有量、リン元素含有は粒状のポリマーサンプルをスチール板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成形体を作成した。この試験成形体を使って蛍光X線装置(理学電機工業株式会社製3270E型)を用いて求めた。
【0040】
(キ)繊維の繊度、引張強度、引張伸度:
JIS L1013−1999記載の方法に準拠して測定を行った。
【0041】
(ク)紡糸口金に発生する付着物の層:
ポリエステルチップを下記記載の方法で2日間紡糸し、口金の吐出口外縁に発生する付着物の層の高さを測定した。この付着物層の高さが大きいほど吐出されたポリエステルの溶融物のフィラメント状流にベンディングが発生しやすく、このポリエステルの成形性は低くなる。すなわち、紡糸口金に発生する付着物層の高さは、当該ポリエステルの成形性の指標である。
【0042】
[参考例1]
・テレフタル酸ジメチルの製造
パラキシレンの酸化生成物をメチルエステル化し、得られた粗テレフタル酸ジメチルに対してメタノールを用い再結晶化、母液の分離、メタノールによる洗浄精製を繰り返し、所望の不純物濃度となるように製造した。テレフタル酸ジメチル中の4−カルボキシベンズアルデヒド誘導体含有量とテレフタル酸ジメチルの純度を表1に示す。
【0043】
[参考例2]
・ポリエステル屑からのテレフタル酸ジメチルの製造
ポリエステル屑をエチレングリコールで解重合反応させ、引き続いてメタノールで置換エステル化反応させて、粗テレフタル酸ジメチルを生成させ、更に蒸留精製して製造した。テレフタル酸ジメチル中の4−カルボキシベンズアルデヒド誘導体含有量とテレフタル酸ジメチルの純度を表1に示す。
【0044】
[比較参考例1]
・テレフタル酸ジメチルの製造
パラキシレンの酸化生成物をメチルエステル化し、得られた粗テレフタル酸ジメチルに対してメタノールを用い再結晶化、母液の分離、メタノールによる洗浄精製を最低限の回数実施し、製造した。テレフタル酸ジメチル中の4−カルボキシベンズアルデヒド誘導体含有量とテレフタル酸ジメチルの純度を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
[実施例1]
・ポリエステルチップの製造
参考例1で調製したテレフタル酸ジメチル100質量部とエチレングリコール70質量部との混合物に、酢酸マンガン四水和物0.032質量部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、リン酸トリメチル0.02質量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後反応生成物に三酸化二アンチモン0.036質量部、二酸化チタンの20質量%エチレングリコールスラリー1.5質量部を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、285℃まで昇温した後、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行って、固有粘度0.63、ジエチレングリコール含有量が0.7質量%であるポリエステルを得た。さらに常法に従いチップ化した。結果を表2〜3に示す。なお、ポリエステル中に測定評価できる程度のカルシウム元素、マグネシウム元素、亜鉛元素は含まれていなかった。従ってP/M=28ミリモル%/25ミリモル%=1.12であった。
・ポリエステル繊維の製造
チップを160℃、4時間乾燥後、紡糸温度290℃、巻取速度5500m/分で78dtex/36filの繊維を得た。得られた繊維の結果を表4に示す。
【0047】
[実施例2〜3]
実施例1において、リン酸トリメチルを表1に示す化合物、及び量に変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。結果を表2〜4に示す。なお、ポリエステル中に測定評価できる程度のカルシウム元素、マグネシウム元素、亜鉛元素は含まれていなかった。
【0048】
[実施例4〜5]
実施例1において、参考例2で調製したテレフタル酸ジメチルを使用し、リン化合物として表1に示す種類、量の化合物を使用したこと以外は実施例1と同様に実施した。結果を表2〜4に示す。なお、ポリエステル中に測定評価できる程度のカルシウム元素、マグネシウム元素、亜鉛元素は含まれていなかった。
【0049】
[比較例1〜2]
実施例1において、比較参考例1で調製したテレフタル酸ジメチルを使用し、リン化合物として表1に示す種類、量の化合物を使用したこと以外は実施例1と同様に実施した。結果を表2〜4に示す。
【0050】
[比較例3]
実施例1において、三酸化アンチモンを表1に示す量に変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。結果を表2〜4に示す。
【0051】
[比較例4]
重合触媒として表1に示す量の三酸化アンチモンとチタンテトラブトキシドを併用したこと以外は実施例1と同様に実施した。結果を表2〜4に示す。
表4からも明らかなように、本発明のポリエステルは良好な性能が得られたが、本発明の範囲を外れるものは得られた原糸の特性(引張強度)が不十分であった。
【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、高品質の繊維を安定して生産することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸ジエステルとエチレングリコールとを、エステル交換反応、次いで重縮合反応させて得られた、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルであって、下記(a)〜(e)をすべて満足する、製糸性に優れたポリエステル。
(a)ポリエステル中のメチルエステル末端基の量が0.5〜20ミリモル等量/kgの範囲にあること。
(b)ポリエステル中に共重合されているジエチレングリコール成分が0.3質量%以上1.5質量%以下であること。
(c)原料であるテレフタル酸ジエステル中の4−カルボキシベンズアルデヒド誘導体の含有量が100質量ppm以下であること。
(d)原料であるテレフタル酸ジエステルの純度が99.95%以上であること。
(e)ポリエステル中に含有されているアンチモン元素量の範囲が100〜260質量ppmの範囲にあること。
【請求項2】
ポリエステル中に金属化合物とリン化合物が含有されており、ポリエステル中に含有されている金属化合物が、マンガン化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、亜鉛化合物のいずれか1種以上であって、且つ、ポリエステル中に含有されている該金属化合物とポリエステル中に含有されているリン化合物の含有比率が下記数式(1)を満たしている、請求項1に記載の製糸性に優れたポリエステル。
0.9≦P/M≦2 (1)
[ここで、Pはポリエステル中の全酸成分に対するリン元素のミリモル%、Mはポリエステル中の全酸成分に対するマンガン元素、カルシウム元素、マグネシウム元素、亜鉛元素の合計のミリモル%を表す。]
【請求項3】
リン化合物が、下記式(I)及び/又は(II)で表される化合物である、請求項2に記載の製糸性に優れたポリエステル。
【化1】

[上記式中、R、R及びRは、同一又は異なった炭素数1〜4のアルキル基又は水素を示し、Xは−CH−又は−CH(Z)−を示し、Y、Zは炭素数1〜4のアルキル基またはベンゼン環を示す。]
【請求項4】
テレフタル酸ジエステルがテレフタル酸ジメチルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製糸性に優れたポリエステル。
【請求項5】
テレフタル酸ジエステルが使用済みのポリエチレンテレフタレート系ポリエステル製品から回収されたリサイクル原料である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製糸性に優れたポリエステル。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルを、紡糸速度5000〜9000m/分の範囲で溶融紡糸した、引張強度が3.0cN/dtex以上であるポリエステル繊維。

【公開番号】特開2007−291170(P2007−291170A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117801(P2006−117801)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】