説明

製造時に生じる高沸点成分の分解によるネオペンチルグリコールの生成方法

本発明は、製造時に生じる高沸点成分の、銅−クロマイト触媒の存在下での水素化分解による、ネオペンチルグリコールの生成方法に関する。この水素化分解は、溶媒を用いずに、温度140〜220℃かつ圧力7〜28MPaで遂行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造時に生じる高沸点成分の、銅−クロマイト触媒の存在下での水素化分解によるネオペンチルグリコールの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多価アルコールまたはポリオールは、ポリエステルまたはポリウレタン、合成樹脂塗料、潤滑剤および軟化剤を構成する縮合成分として、重要な経済的価値がある。ここでは、ホルムアルデヒドの、イソ−またはn−ブチルアルデヒドとの混合アルドール縮合により得られる多価アルコールに、ことさら関心が集められている。ホルムアルデヒドと適切なブチルアルデヒド間のアルドール縮合においては、まずアルデヒドの中間段階が形成され、これを続いて多価アルコールに還元しなければならない。この方法によって入手しやすい工業的に重要な多価アルコールは、ホルムアルデヒドとイソブチルアルデヒドとの混合アルドール化による、ネオペンチルグリコール[NPG、2,2−ジメチルプロパンジオール−(1,3)]である。
【0003】
アルドール反応は、等モル量を用いて、塩基触媒、例えば水酸化アルカリ金属または脂肪族アミンの存在下で実施され、まず単離可能な中間生成物のヒドロキシピバルアルデヒド(HPA)をもたらす。この中間性生物は続いてドイツ公開第1800506A1号(特許文献1)に従い、適切なカニッツァーロ反応の過剰のホルムアルデヒドでもって、1当量のホルマートの塩の生成の下、ネオペンチルグリコールに転化される。しかしながら、工業的には、気相および液相中での金属触媒によるヒドロキシピバルアルデヒドの触媒水素化も行われる。適した水素化触媒としては、欧州特許出願公開第0278106A1号(特許文献2)により、ニッケル触媒が示されている。欧州特許出願公開第0484800A2号(特許文献3)の方法によれば、銅、亜鉛およびジルコニウムをベースとする触媒が、水素化工程中で使用されている。欧州特許出願公開第0522368A1号(特許文献4)の教示によれば、この水素化工程は、銅−クロマイト触媒を用いて、特に温和な圧力、温度条件下で遂行できる。米国特許第4,855,515A1号(特許文献5)によれば、特にマンガンをドープした銅−クロマイト触媒が、ホルムアルデヒドとイソブチルアルデヒドとの反応由来のアドール化生成物の水素化における水素化触媒として優れている。
【0004】
上記の欧州特許出願公開第0522368A1号(特許文献4)によって知られている水素化方法は、少なくとも20重量%の低級アルコールの存在下で行われ、その際、量の指示は、アルコールとアルドール化生成物の混合物を基準としている。この従来技術は、同様に、その特許請求の範囲において、ヒドロキシピバルアルデヒドだけでなく、そのティシェンコ反応による不均化生成物である2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール−モノヒドロキシピバル酸エステル(HPN)も、前記反応条件下でネオペンチルグリコールに分解されることを記載している。
【0005】
カニッツァーロ法、あるいは水素化法のいずれかによってネオペンチルグリコールが製造されるかに関わらず、アルドール化工程において、一連のネオペンチルグリコールの誘導体と見なし得る副成分が付随的に発生する。ホルムアルデヒドおよびイソブチルアルデヒドの高い反応性、並びにヒドロキシアルデヒドおよび多価アルコールのような形成された生成物の高い官能性のために、ティシェンコ反応、アセタール化またはエステル生成のような一連の副反応が進行し、これによって高沸点成分が生成する。
【0006】
ホルムアルデヒドとイソブチルアルデヒドとの反応における高沸点成分としては、とりわけ以下の化合物が挙げられる。
【0007】
【化1】


【0008】
したがって、ネオペンチルグリコール製造由来の高沸点成分中には、高沸点エステルまたはアセタールのような酸素含有化合物が存在する。
【0009】
この高沸点成分は、製造プロセスの種々異なる箇所で、例えばアルドール化工程後に、水素化工程前に配置された蒸発塔から塔底生成物として取り出すことができ、その際、蒸発塔の塔頂から抜き出された粗アルドール化生成物は、気相中での金属接触により、水素を用いてネオペンチルグリコールに水素化される。所望のネオペンチルグリコールへの蒸留精製時でさえも、例えば最終的な精留塔の塔底生成物として高沸点成分は生じる。
【0010】
高沸点成分中の多価アルコール単位が化学的に結合して、所望のネオペンチルグリコールの収量が著しく減少するため、この高沸点成分の発生は望ましくない。同様に、この高沸点成分中には、相当量のネオペンチルグリコールが物理的にも混ざり合っている。さらに、最終生成物中の微量の高沸点成分は、使用特性にも好ましくない影響を及ぼす。
【0011】
国際公開第97/01523A1号(特許文献6)からは、ネオペンチルグリコールの製造時に、ホルムアルデヒドとの反応によって生じる環状アセタールが、金属触媒の存在下の水性の酸性溶液または懸濁液中で、高い温度および高い圧力において水素によって対応するジオールおよびホルムアルデヒドに分解されることが知られている。放出されたホルムアルデヒドは、この反応条件下ではメタノールに水素化される。
【0012】
ドイツ公開第1518784A1号(特許文献7)の教示によれば、ネオペンチルグリコールの製造に際に、最終の精留塔での水素化生成物の精製時に生じる高沸点成分は、少なくとも一部が水素化反応器中にフィードバックされ、その際、周知のプロセス工程後、水素化されるアルドール化粗生成物は過剰のイソブチルアルデヒドを含有する。アルドール化粗生成物の触媒的水素化は、銅−クロマイト触媒の存在下で遂行される。
【0013】
ネオペンチルグリコールをその製造時に生じる高沸点成分から生成する公知の方法は、この高沸点成分を、最初に得られるアルドール化粗生成物も同時に水素化される水素化工程中へフィードバックするときに、酸処理および水添加と、これに続く水素化、あるいは溶剤の存在のいずれか一方が必要となる。
【0014】
驚くべきことには、ネオペンチルグリコールをその製造時に生じる高沸点成分から、この高沸点成分を別個の水素化反応器中で溶媒を用いずに、銅−クロマイト触媒の存在下で水素で処理し、そして得られた分解生成物を蒸留的に精製すると、簡単にまた大量に回収できることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】ドイツ公開第1800506A1号
【特許文献2】欧州公開第0278106A1号
【特許文献3】欧州公開第0484800A2号
【特許文献4】欧州公開第0522368A1号
【特許文献5】米国特許第4,855,515A1号
【特許文献6】国際公開第97/01523A1号
【特許文献7】ドイツ公開第1518784A1号
【特許文献8】ドイツ公開第2611374A1号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5. Auflage, Bd. 9, VCH−Verlag
【非特許文献2】H. Adkin, Org. React. 8, 1954, 1−27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
それ故、本発明は、ネオペンチルグリコールをその製造時に生じる高沸点成分から生成する方法に関する。該方法は、高沸点成分を別個の水素化反応器中で、溶媒を用いずに銅−クロマイト触媒の存在下で、140〜220℃の温度および7〜28MPaの圧力で、水素により液相中で処理し、そして得られた分解生成物を蒸留的に精製することを特徴とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
高沸点成分を、水素化工程中へフィードバックし、そこで、ホルムアルデヒドとイソブチルアルデヒドとからのアルドール化粗生成物も同時に水素化する公知の方法とは対照的に、本発明による方法によれば、高沸点成分の水素化分解とも解することができる、水素での処理が、別個の水素化反応器中で行われる。この分離されたプロセス形態により、高沸点成分の水素化分解の反応条件を目的とし、そしてアルドール化粗生成物の水素化中で選択すべき反応条件とは無関係に調節できる。さらに、水素化分解を別個の水素化反応器中で行うことにより、カニッツァーロ法によるネオペンチルグリコールの製造および精製時に発生する高沸点成分の処理もまた可能となり、その際、アルドール化生成物が更なる等量のホルムアルデヒドと反応し、かつ水素で水素化されない。
【0019】
この高沸点成分の水素化分解は、無溶媒で行われる。本発明の趣旨において無溶媒とは、水素を用いた処理の場合に、有機溶媒も水も添加されないことを意味する。ただし、例えばイソブタノールまたはn−ブタノールあるいは水などの、溶媒の特徴を有し、そして上流のプロセス工程中で加えられるかまたは生成される低沸点化合物が少量、高沸点成分中に含まれる場合がある。
【0020】
ネオペンチルグリコール(NPG)の製造時に生じる高沸点成分は、NPG−モノホルマート、NPG−イソブチラート、HPA−ティシェンコエステル、NPG/HPA−環状アセタール、ジイソ酪酸−NPG−エステル、およびジヒドロキシピバル酸−NPG−エステル、並びにそれ以外のエステル、エーテルおよびアセタール化合物のような上述の酸素含有化合物を含む。特に、HPA−ティシェンコエステルおよびジヒドロキシピバル酸−NPG−エステルの含量が高い。さらにこの高沸点成分は、実質的な量のネオペンチルグリコールおよびヒドロキシピバルアルデヒドも含んでいる。
【0021】
水素化分解に使用される高沸点成分は、ネオペンチルグリコールを製造する方法からの様々なプロセス工程で分離できる。それから、所望される多価アルコールを得るために、それらは分離または統合されて、別個に実施される水素化分解に付される。ネオペンチルグリコールの製造に際して、高沸点成分は、例えばアルドール化粗生成物の水素化工程の上流に置かれる蒸発塔の塔底排出物として生じる。さらなる高沸点成分は、水素化後に生じた粗ネオペンチルグリコールを精製品にするための蒸留的精製時に抜き出すことができる。ネオペンチルグリコール製造から集められた高沸点成分流は、それから、本発明による方法に従って水素化される。
【0022】
本発明による方法に従う水素化分解は、市場から入手可能な銅−クロマイト触媒の存在下で遂行される。エステル化合物の水素化分解へのその適性は、一般の従来技術から知られている(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5. Auflage, Bd. 9, VCH−Verlag)(非特許文献1)。銅−クロマイト触媒は、H. Adkin, Org. React. , 1954, 1−27(非特許文献2)によれば、酸化銅と亜クロム酸銅との等モル量の組合せと記載されているが、亜クロム酸銅が必ずしも含有されていなければならないわけではない。そうした水素化触媒は、例えば、ドイツ特許出願公開第2611374A1号(特許文献8)、ドイツ特許出願公開第1518784A1号(特許文献7)、米国特許第4,855,515A1号(特許文献5)または欧州特許出願公開第0522368A1号(特許文献4)中に記載されている。銅−クロマイト触媒は、しばしば、活性化剤、例えばバリウム、カドミウム、マグネシウム、マンガンおよび/または希土類金属なども含む。本発明の方法に適した銅−クロマイト触媒は、担体材料無しか、あるいは例えば、粉末でまたは錠剤形、星型、ひも状、環状またはその他の比較的大表面積の粒子としてのケイ藻土、シリカゲル、または酸化アルミニウムなどの担体有りのいずれかで使用される。
【0023】
本発明の水素での処理に特に適しているのは、マンガンをドープした銅−クロマイト触媒である。
【0024】
高沸点成分の、水素での処理または水素化分解は、140〜220℃、好ましくは160〜200℃の温度、7〜28MPa、好ましくは7〜20MPaの圧力で、溶媒を加えることなく、かつ水も加えることなく行われる。より高い温度を使用することは、多価アルコールの非選択的分解が激しく生じるので得策ではない。より高圧の場合、所望の多価アルコールに対する高い選択率での銅−クロマイト触媒の水素化性能に対しては確かに有利に機能するが、反応物を対応する高圧まで圧縮するのに、高いエネルギー供給も要求される。
【0025】
本発明による水素を用いた処理は、固定床触媒により液相中で、例えばリーゼル(Riesel)−、またはサンプ(Sumpf)水素化で、連続的またはバッチ式に行われる。さらに、水素での処理は、懸濁化触媒を用いて行うこともできる。連続的運転法の場合、触媒体積および時間当たりの、処理(触媒を通過した)体積(Durchsatzvolumen)で表わされる触媒処理速度V/Vhが、0.2〜1.2h−1、好ましくは0.4〜1h−1であるのが適当と判明している。
【0026】
バッチ式運転法の場合、溶媒を含まない投入生成物に対して、1〜10重量%、好ましくは2〜6重量%の前述の銅−クロマイト触媒を使用する。
【0027】
水素化反応器から抜き出された分解生成物は、まず高圧分離器に送られ、そして常圧まで減圧される。続いて、その分解生成物は、周知の蒸留法、例えば欧州特許出願公開第0278106A1号(特許文献2)から知られている運転方法に従い、精製されたネオペンチルグリコールへと処理される。特別な一形態では、該分解生成物は、まず粗ネオペンチルグリコールと混合され、引き続きその混合物は蒸留によって処理される。
【0028】
投入された高沸点成分から、本発明の水素による処理によって、高沸点成分の投入量に基づいて80重量%超の収量でネオペンチルグリコールを回収できる。この新規の方法を、以下の例によって詳述するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0029】

管式反応器中に、市場から入手可能な3×3mm大の銅−クロマイト触媒の錠剤を600ml仕込んだ。窒素を用いた圧力試験後、触媒活性化のために、流れている窒素流で、温度を徐々に180℃まで上昇させた。続いて、窒素流はそのままで、水素量が60リットル/時間になるまで、流れている窒素流に、水素を徐々に混ぜた。そのようにしてこの条件下で5時間の期間で触媒を活性化した。
【0030】
触媒活性化後、管式反応器中の水素圧と反応温度とを、表1および2の条件に従って調整した。排ガス流をそれぞれ調整する際に、ネオペンチルグリコールの製造由来の適量の高沸点成分混合物を、連続的に管式反応器中に送入し、そして導出した排ガス流を高圧分離器中へ導入し、そして液位調節(Standregelung)により無圧の受け器中へ導出した。この分解生成物を、粗ネオペンチルグリコールと混合し、そしてその混合物を蒸留して精製ネオペンチルグリコールにした。
【0031】
異なる温度および圧力での例:
水素化分解試験のために、ネオペンチルグリコール製造由来の高沸点成分材料として、次の組成のものを使用した(ガスクロマトグラフ分析、百分率表示):
【0032】

【0033】
以下の表に、種々の温度および圧力での分解試験の結果をまとめた。
【0034】

【0035】
温度の変動から分かるように、分解温度が上がると、水素化生成物中のNPG含量は減少するが、それと同時に、イソブタノールと初留成分の割合は増加する。この工程の分析データは、イソブタノールと初留成分に関して、温度の上昇時における、ネオペンチルグリコールならびにヒドロキシピバルアルデヒドティシェンコエステル/ジ−イソ酪酸−NPG−エステルの、増大した、使用される非選択的分解を暗示している。
【0036】

【0037】
この工程の分析データは、水素化触媒による分解速度の圧力依存性を示している。20MPaの圧力では、ティシェンコエステルおよびジ−イソ酪酸−NPG−エステルは、ほぼ完全にネオペンチルグリコールに分解および水素化できる。
【0038】
水素化実験試験およびその後の蒸留:
上述の組成のネオペンチルグリコール製造からの高沸点成分の水素化分解を、これまでの試験と同じ装置的条件下で実施した。圧力8MPaおよび温度180℃で、高沸点成分の投入量を300g/hにより、触媒処理量V/Vhを0.5−1に合わせて、水素化分解を行った。分解生成物は、ガスクロマトグラフィーで測定された下記の組成を有していた(百分率)。
【0039】

【0040】
こうした条件下では、ネオペンチルグリコールへの選択率97.1%、すなわち、ネオペンチルグリコールの収率89.0%に相当する際に、高沸点成分の投入量に基づいて91%の転化率でもって分解が進行する。
【0041】
得られた分解生成物は、粗ネオペンチルグリコールと1:10の重量部の比率で混合され、続いてこの混合物を40段の蒸留塔で、常圧および還流比1:1で蒸留して精製ネオペンチルグリコールに処理した。塔頂温度87〜100℃の範囲内、かつ塔底温度100〜125℃の範囲内において、初留分を除去した後、塔頂温度210℃かつ塔底温度210〜260℃の範囲内で、精製されたネオペンチルグリコールが得られた。ガスクロマトグラフィーで測定した投入混合物、精製ネオペンチルグリコール、および蒸留残渣の組成(百分率)は以下の通りであった。
【0042】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造時に生じる高沸点成分からネオペンチルグリコールを生成する方法であって、前記高沸点成分を、別個の水素化反応器中で、溶媒を用いずに銅−クロマイト触媒の存在下で、温度140〜220℃および圧力7〜28MPaにおいて水素により液相中で処理し、そして得られた分解生成物を蒸留により精製することを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
前記水素による処理が、温度160〜200℃および圧力7〜20MPaで遂行されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記銅−クロマイト触媒が、活性化剤として、バリウム、マグネシウム、またはマンガン、またはそれの混合物を追加的に含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記得られた前記分解生成物が、粗ネオペンチルグリコールと混合され、そして該混合物が蒸留により精製されたネオペンチルグリコールに精製されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。

【公表番号】特表2011−527993(P2011−527993A)
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517772(P2011−517772)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004575
【国際公開番号】WO2010/006688
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(507254975)オクセア・ゲゼルシャフト・ミト・べシュレンクテル・ハフツング (10)
【Fターム(参考)】