説明

製鋼スラグのフリーライム低減方法

【課題】本発明は、製鋼スラグに含有されるフリーライムを比較的低コストで迅速に安定して低減する方法を提供する。
【解決手段】製鋼スラグに、アルカリ金属水酸化物の水溶液を添加する、製鋼スラグのフリーライム低減方法である。添加量は、製鋼スラグの含水分中のアルカリ金属水酸化物の濃度を0.01mol/L以上にし、製鋼スラグに対して3〜15質量%添加する、又は、アルカリ金属水酸化物の濃度が0.1mol/Lを超える水溶液を、製鋼スラグに対して3質量%未満添加した後に、更に水を添加して、製鋼スラグの含水分中のアルカリ金属水酸化物の濃度を0.01〜0.1mol/Lにすることが好ましい。更には二酸化炭素を0.5〜10体積%混合した飽和水蒸気状態の空気を通気するとより効果的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグに含有するフリーライム(遊離の酸化カルシウム)を安定して低減する方法に関する。さらに詳しくは、酸化カルシウムを二酸化炭素と迅速に反応させて炭酸カルシウムに変換することによりフリーライムをばらつき少なく低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼スラグは、主に土木工事や道路に利用されている。その中で、道路用の路盤材等、スラグを密閉した状態で使用する場合には、膨張収縮による体積変化を避けなければならない。したがって、例えば、JISA5015では、製鋼スラグの水浸膨張比が1.5%以下でなければならないとしている。ところが、製鋼スラグには、フリーライムとも言われる遊離の酸化カルシウムを含有しているものがあり、これが水と反応して水酸化カルシウムを生成する際に膨張することが知られている。そこで、エージングと言われる方法で水酸化反応処理を事前に行い、酸化カルシウムを低減したスラグにして路盤材等に利用している。エージング処理方法としては、スラグをそのままヤードで養生して、長時間かけて自然に水酸化させる自然エージング方法と、水蒸気をスラグ内に通気して比較的短時間に処理する水蒸気エージング方法が一般的である。JIS規格に適う製品とするには、自然エージング方法で約3〜6カ月を必要とするが、水蒸気エージング方法では約1週間程度に短縮されている。
【0003】
ところで、フリーライム含有量等のスラグの品質は、ばらつきが大きい。従来のエージング方法による酸化カルシウム低減にもばらつきが生じる。そこで、成分や粒度でスラグを分別してエージングする方法が提案されている。例えば、特許文献1には、製鋼スラグのCaO、MgO、Feの含有量に応じて分別してエージング処理をする方法について開示されている。また、特許文献2には、製鋼スラグの化学成分分析を各チャージ毎に行い、塩基度の低いスラグを分別してエージング処理をする方法が開示されている。
【0004】
水蒸気エージングより更に短時間で処理できる方法も提案されている。例えば、特許文献3では、圧力容器にスラグを収納し、加圧した水蒸気雰囲気でエージングすることにより、処理時間を2時間以内に短縮する方法が提案されている。また、特許文献4では、圧力1.2〜10kg/cm、温度80〜180℃の水蒸気雰囲気中で処理する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−157240号公報
【特許文献2】特開平6−206744号公報
【特許文献3】特開2009−280445号公報
【特許文献4】特開平6−206743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自然エージング法では、約3〜6カ月程度必要とし、水蒸気エージング法では約1週間程度にまで短縮するとされているが、製鋼スラグ中のフリーライム含有量はばらつきが大きく、また、その存在形態が一様でないため、一定条件でエージングを行っても効果にばらつきがあり、十分に膨張抑制するには長めにエージングを行う場合が多い。フリーライム含有量によって最適なエージング時間は異なると考えられるので、フリーライム含有量が高いロットを基準に操業され、エージング期間はフリーライム含有量の平均値から想定されるより長くなっている。また、スラグの成分や粒度で分別して実施する方法は、分別後のスラグに対しては効率が良くなったものの、分別等の煩雑な前工程が必要であり、全体の生産性としては余り向上していない。さらに、スラグを圧力容器に収納して加圧水蒸気でエージングする方法は、処理時間が短縮され、反応効率も向上しているが、設備コストが多大であり、ランニングコストの面でも必ずしも経済的ではない。また、大量のスラグの処理には不向きである。
【0007】
そこで、本発明は、製鋼スラグに含有されるフリーライムを比較的低コストで迅速に安定して低減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するための本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)製鋼スラグにアルカリ金属水酸化物の水溶液を添加することを特徴とする、製鋼スラグのフリーライム低減方法。
(2)前記アルカリ金属水酸化物の水溶液を添加した製鋼スラグの含水分中のアルカリ金属水酸化物の濃度を0.01mol/L以上にすることを特徴とする、(1)に記載の製鋼スラグのフリーライム低減方法。
(3)前記アルカリ金属水酸化物の水溶液を、製鋼スラグに対して3〜15質量%添加することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の製鋼スラグのフリーライム低減方法。
(4)製鋼スラグに、アルカリ金属水酸化物の濃度が0.1mol/Lを超え0.5mol/L以下の水溶液を、製鋼スラグに対して3質量%未満添加した後に、更に水を添加して、製鋼スラグの含水分中のアルカリ金属水酸化物の濃度を0.01〜0.1mol/Lにすることを特徴とする、製鋼スラグのフリーライム低減方法。
(5)製鋼スラグに前記アルカリ金属水酸化物の水溶液を添加し、さらに、水蒸気を含む空気を通気して処理することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の製鋼スラグのフリーライム低減方法。
(6)製鋼スラグに前記アルカリ金属水酸化物の水溶液を添加し、二酸化炭素を0.5〜10体積%混合した飽和水蒸気状態の空気を通気して処理することを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の製鋼スラグのフリーライム低減方法。
(7)前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの内の少なくとも一方を含むことを特徴とする、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の製鋼スラグのフリーライム低減方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、エージング期間が短縮され、エージングヤードの回転率が上がって生産効率が良くなる。また、フリーライム低減量のばらつきが小さくなって品質が向上する。そして、フリーライムを迅速に低減できることで、フリーライム含有量にあまり影響されずに短時間で十分な効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
従来のエージング処理は、膨張の原因であるフリーライム(遊離の酸化カルシウム)と水の反応がスラグを施工した後に起こるのを避けるために、事前に水和反応処理を行うというものである。大気エージングでは、雨水がスラグに浸透していった後に徐々に水和反応が起こるが、水蒸気エージングでは、スラグ内に水蒸気として水分を逐次供給するため、水和反応が促進すると考えられる。
【0012】
ところで、酸化カルシウムの水酸化カルシウムへの反応は、生成する水酸化カルシウムの溶解度積によって制限されている。水和反応だけを考えると、水分量が増えない限り、フリーライムが水和して減少していかない。しかしながら、エージング前後のスラグの含水率はそれほど変化していないにも関わらず、フリーライムが減少する。このことから、生成した水酸化カルシウムは、空気中の二酸化炭素と反応して、カルシウムが炭酸カルシウムとして水中から除去されるため、水分量が増えなくとも酸化カルシウムの水和反応が進行していくと考えられる。即ち、以下の反応によってフリーライムが減少していくと考えられる。
【0013】
【化1】

【0014】
発明者は、この反応過程を詳細に調査した結果、水分への二酸化炭素の溶解が律速となっていることを見出した。一方で、二酸化炭素の溶解も、溶解度積によって制限されている。水中に存在する二酸化炭素の化学種で、カルシウムと反応して炭酸カルシウムを生成するのは炭酸イオンCO2−であるが、この化学種はpHが高くなるほど存在量が急激に多くなる。炭酸イオンの存在量を多くすれば、炭酸化反応が速くなり、フリーライム低減速度も速くなると考えた。こうして、含水分のpHを上げることによる、フリーライム低減促進の方法を提案するに至った。
【0015】
本発明は、製鋼スラグにアルカリ金属水酸化物の水溶液を添加することにより、含水分のpHが上がった程度に応じて効果が有られる。しかしながら、製鋼スラグ中に存在するフリーライムでpHは既に高いため、より有効な効果を得るためには、好ましくは添加後の含水分中のアルカリ金属水酸化物の濃度を0.01mol/L以上にすることによって、フリーライムを迅速に低減する方法であることが望ましい。製鋼スラグの含水分は、酸化カルシウムの水和反応で水酸化カルシウムの飽和溶解度に達し、pHは12.5程度になる。一方で、このpHと平衡する程度にまで大気中より二酸化炭素が溶解し、見掛け上平衡状態になる。ここで、含水分のpHを12.5程度以上にするために、アルカリ金属水酸化物の水溶液を添加する。添加濃度は0.01mol/L以上であることが好ましい。0.01mol/L未満であると、pHが十分上がらず、促進効果が小さいことがある。一方で、pHを上げるための添加濃度に特に上限はないが、含水分中のアルカリ金属水酸化物濃度を0.1mol/Lより高濃度にしても、促進効果はあまり向上しないため、0.1mol/Lまでの濃度であれば十分本発明の効果は得られる。
【0016】
本発明におけるアルカリ金属水酸化物の水溶液の添加量は、製鋼スラグに対して3〜15質量%であることが好ましい。3質量%未満であると、例えば、スプレー噴霧を行ってもスラグ全体にアルカリ金属水酸化物の水溶液を十分浸透させることが困難になる。一方、15質量%より多いと、スラグ粒の表面水として残留せず、流失する可能性が増し、添加量に見合う効果は得られない。また、水分過多で大気との接触面積が低下し、二酸化炭素の溶解速度が低下する。
【0017】
本発明では、含水分のpHを上げることが重要であり、含水分のアルカリ成分濃度を制御できればよい。そこで、製鋼スラグにアルカリ金属水酸化物の濃度が0.1mol/Lを超え0.5mol/L以下の水溶液を、製鋼スラグに対して3質量%未満添加した後に、更に水を添加して、製鋼スラグの含水分中のアルカリ金属水酸化物の濃度を0.01〜0.1mol/Lにすることも可能である。アルカリ金属水酸化物の濃度は、0.5mol/Lを上限とする。これより高濃度の水溶液は、多量のスラグに対する散布や混合等において安全に取り扱うことが難しくなる。また、濃度を0.01〜0.1mol/Lに調整するための添加水が多くなると、流失によって所定の効果が得られなくなる。
【0018】
本発明では、炭酸化反応を促進するために、製鋼スラグにアルカリ金属水酸化物の水溶液を添加した後、水蒸気を含む空気を通気して処理しても良い。スラグを山積みして養生すると、内部は十分に大気と接することができず、二酸化炭素の供給が遅くなる。そこで、スラグ粒の表面に十分に二酸化炭素を供給するために空気を通気する。また、通気することでスラグ表面水を撹拌し、二酸化炭素溶解反応が効率良く進行する。一方で、酸化カルシウムの水和反応は発熱反応であるため、その熱によって表面水が徐々に蒸発する。水和反応を定常的に起こすためには、適度な水分補給が必要である。そのために、本発明では、水蒸気を含む空気を通気することが望ましい。スラグの含水率が維持されれば、常時水蒸気の供給は必要ない。通気方法は、従来の水蒸気エージング装置を用いることで可能である。処理条件も従来の水蒸気エージング方法と同等で良い。例えば、蒸気流量300kg/hrで、蒸気原単位50kg/t−スラグの水蒸気を、山積みにしたスラグの底にノズルを挿入して噴出する。
【0019】
本発明では、水酸化カルシウムの炭酸化反応をより速く進行させるために、通気する飽和水蒸気状態の空気に二酸化炭素を0.5〜10体積%混合することが好ましい。また、混合する二酸化炭素の量は、より好ましくは1〜5体積%である。二酸化炭素濃度が高いほど速くフリーライムが減少していくと予想したが、比較的低濃度の領域では濃度と共に速くなるものの、1〜5体積%程度で最大速度となり、10体積%より高濃度ではあまり促進できなかった。炭酸化反応の速度ではなく、フリーライムの減少速度が最も速くなる二酸化炭素濃度は0.5〜10体積%、より好ましくは1〜5体積%であった。また、高濃度の二酸化炭素を開放系で使用することは、作業環境上好ましくなく、酸欠対策等を行うことによって、処理コストが上昇する。
【0020】
本発明に用いるアルカリ金属水酸化物は、特に制限するものではないが、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの内の少なくとも一方を含むことが好ましい。pHを上げるためのアルカリ金属水酸化物としては、コストや取扱の容易さから、本発明では水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの一方、又はこれらの混合物を用いることが好ましい。炭酸化反応の促進効果は同程度であるが、より好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0021】
本発明におけるアルカリ金属水酸化物の水溶液の添加方法は、特に限定するものではなく、スラグ粒の表面水に含有させることができればよい。例えば、スラグを破砕して製品粒度に処理がなされた後、ベルトコンベヤー等で搬送する際に、アルカリ金属水酸化物の水溶液を散布する等、スラグ粒と十分に混合される方法であればよい。また、ドラム型ミキサーを使用して混合することも可能である。
【0022】
本発明が適用できる製鋼スラグの形状には特に制約はないが、粒度分布幅の狭い場合には、十分な混合が必要である。例えば、JIS規格による道路用鉄鋼スラグには、最大粒径20、25、30、40mm等があるが、これらは一般には0mmまでの粒度分布を持つものであり、水溶液を散布して混合すれば粗粒の表面にも均一に添加することができる。粗粒が多い場合には、アルカリ金属水酸化物の水溶液濃度を低くして、添加量を多くすることが好ましい。
【実施例】
【0023】
表1に、本発明の実施例、表2に比較例を示す。これらの試験例は、以下の方法で実施した。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
製鋼スラグは、最大粒径約30mmの粒度分布を持つ粉塊状スラグを、全量10mm以下に破砕し、縮分によって試験用スラグ1kg、試験条件の数量だけ作製した。アルカリ金属水酸化物の水溶液は、表1、2に記載のように、所定の濃度に調整し、所定の添加量をスラグに加え、混錬器で良く混合した。このスラグを、密閉槽内で2週間程度養生した。密閉槽内は、水中バブリングした空気で常時換気し、相対湿度約100%かつ二酸化炭素濃度を大気と同等に維持した。また、通気処理をする条件では、密閉円筒容器にスラグを充填し、スラグの下部からスラグ内に空気を通気し、スラグ上部から抜気するようにして養生した。養生開始から1週間後、及び2週間後に約1kgのスラグから縮分して200gを回収した。200g試料を全量微粉砕し、エチレングリコール法によって残存するフリーライムを分析した。同一処理時間において、フリーライムの減少量が多いほど、迅速にフリーライムが低減していると判断した。
【0028】
用いた製鋼スラグは、3質量%の含水分があり、5質量%のフリーライムを含有していた。同スラグを通気処理するにおいて、水中バブリングした二酸化炭素ガスを用いて1カ月処理を行ったところ、残存フリーライムとして2.5質量%程度が測定された。この処理条件で残存しているフリーライムは、スラグ粒の中心部に存在していて、ほぼ永久に水和や炭酸化が起こらないものと考え、低減効果は最大でも2.5質量%程度であると判断した。
【0029】
実施例1〜4は、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を0.1〜0.015mol/Lに調整して、製鋼スラグに対して5質量%又は10質量%添加した例である。水酸化ナトリウム濃度が高いほど、フリーライム減少は速く、0.1mol/Lでは、2週間でほぼ水和の可能性のあるフリーライムは消失した。
【0030】
実施例5は、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を0.5mol/Lと高くして、添加量を1質量%の少量とし、引き続き水分を5質量%添加した例である。含水分のアルカリ金属水酸化物の濃度及び含水分量は、ほぼ実施例1と同等になるようにしたことで、同等の効果が得られた。実施例6は、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を0.2mol/Lと若干高くして2質量%添加し、引き続き水分を8質量%添加した例である。フリーライム低減効果は、濃度と添加量が同等となる実施例2と同等であった。
【0031】
実施例7は、水酸化ナトリウム水溶液の添加条件は実施例2と同じであるが、水蒸気の飽和した空気をスラグに通気して養生した例である。その結果、実施例1より若干速くフリーライムが低減し、2週間で水和の可能性のあるフリーライムは消失した。
【0032】
実施例8は、アルカリ金属水酸化物として水酸化カリウムを用い、添加条件は実施例1と同じ例である。水酸化ナトリウムを用いた場合とほぼ同等のフリーライム低減効果が得られた。
【0033】
実施例9は、本発明においては低濃度である0.005mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を、流失しない程度の15質量%添加し、かつ水蒸気を飽和した空気を通気した例である。含水分中のアルカリ金属水酸化物の濃度が0.01mol/L未満のため、実施例1〜8ほどの効果は得られなかったが、後述の比較例に示す通常の処理に比べれば、フリーライム低減速度は速くなっていることが確認できた。
【0034】
実施例10は、高濃度1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加した例である。後からの水の添加によって含水分中の濃度を調整することで、実験上は本発明の効果が得られた。しかしながら、多量のスラグに対して安全に適用することは難しいものであった。
【0035】
実施例11〜13は、フリーライム含有量の異なる製鋼スラグへの適用例である。用いた製鋼スラグは、3質量%のフリーライムを含有していた。実施例1〜10のスラグと同様の試験によって、ほぼ永久に水和や炭酸化が起こらない残存フリーライムは約1.5質量%と推定された。したがって低減効果は最大で1.5質量%程度と判断した。
【0036】
実施例11は、水酸化ナトリウム水溶液濃度0.1mol/Lを製鋼スラグに対して5質量%添加した例である。2週間でほぼ水和の可能性のあるフリーライムは消失していた。実施例12では、0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を製鋼スラグに1質量%添加した後、引き続き水分を5質量%添加してよく混合した。含水分のアルカリ金属水酸化物の濃度は、ほぼ実施例5と同等であり、同程度の低減効果が得られた。実施例13では、0.05mol/L水酸化ナトリウム水溶液を10質量%添加した後、水蒸気の飽和した空気をスラグに通気して養生した。その結果、2週間で水和の可能性のあるフリーライムは消失した。上記実施例のように、フリーライム含有量の異なる製鋼スラグに対しても同様の効果が得られる。
【0037】
実施例14は、実施例7と同等の水酸化ナトリウム水溶液の添加条件として、二酸化炭素を0.5体積%混合した空気を水蒸気飽和として、スラグに通気して養生した。その結果、実施例7より速くフリーライムが減少した。実施例15は、二酸化炭素を10体積%混合する以外は実施例14と全く同じ処理条件とした。実施例14に比べると、フリーライム低減速度は若干遅いものの、実施例7よりはフリーライムの減少が速かった。このように、二酸化炭素濃度を0.5〜10体積%程度にした空気を通気すると、より速くフリーライムを低減できる。更に実施例16、17は、二酸化炭素を1体積%または5体積%とした例であるが、実施例14、15に比べフリーライム低減速度はより速かった。本発明では、二酸化炭素を1〜5体積%とする処理条件がより好ましい。
【0038】
実施例18は、実施例13と同等の水酸化ナトリウム水溶液の添加条件として、二酸化炭素を0.5体積%混合した空気を水蒸気飽和として、スラグに通気した。その結果、実施例13より速くフリーライムが減少した。実施例19は、実施例18と全く同じ処理条件で二酸化炭素を10体積%混合した例であり、実施例18とほぼ同等のフリーライム低減速度が得られた。更に、実施例20、21は、二酸化炭素を1体積%または5体積%とした例である。実施例18、19に比べフリーライム低減速度はより速くなり、実施例16、17の場合と同様に、本発明では、二酸化炭素を1〜5体積%とする処理条件がより好ましい。
【0039】
比較例1は、添加物は無く空気を通気しただけの例である。二酸化炭素は十分供給されたものの、2週間程度では殆どフリーライムは低減しなかった。比較例2は、水蒸気を飽和した空気を通気した例である。比較例1に比べれば若干低減したものの、本発明の実施例に比べればフリーライム低減速度は遅かった。
【0040】
比較例3は、比較例2における空気の代わりに100%二酸化炭素を水蒸気飽和として通気した例である。空気よりは速くフリーライムが低減したが、本発明の実施例に比べればフリーライム低減速度は遅かった。二酸化炭素濃度を高めると、炭酸化反応の速度は速くなると予想されるが、フリーライムの減少速度に対しては、二酸化炭素濃度以外の影響が大きいものと思われる。
【0041】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグにアルカリ金属水酸化物の水溶液を添加することを特徴とする、製鋼スラグのフリーライム低減方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属水酸化物の水溶液を添加した製鋼スラグの含水分中のアルカリ金属水酸化物の濃度を0.01mol/L以上にすることを特徴とする、請求項1に記載の製鋼スラグのフリーライム低減方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属水酸化物の水溶液を、製鋼スラグに対して3〜15質量%添加することを特徴とする、請求項1又は2に記載の製鋼スラグのフリーライム低減方法。
【請求項4】
製鋼スラグに、アルカリ金属水酸化物の濃度が0.1mol/Lを超え0.5mol/L以下の水溶液を、製鋼スラグに対して3質量%未満添加した後に、更に水を添加して、製鋼スラグの含水分中のアルカリ金属水酸化物の濃度を0.01〜0.1mol/Lにすることを特徴とする、製鋼スラグのフリーライム低減方法。
【請求項5】
製鋼スラグに前記アルカリ金属水酸化物の水溶液を添加し、さらに、水蒸気を含む空気を通気して処理することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製鋼スラグのフリーライム低減方法。
【請求項6】
製鋼スラグに前記アルカリ金属水酸化物の水溶液を添加し、二酸化炭素を0.5〜10体積%混合した飽和水蒸気状態の空気を通気して処理することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製鋼スラグのフリーライム低減方法。
【請求項7】
前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの内の少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製鋼スラグのフリーライム低減方法。


【公開番号】特開2013−6757(P2013−6757A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−37651(P2012−37651)
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】