説明

製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法

【課題】補助加熱装置の煤塵の滞留を防止するとともに、被処理ガス用ノズルやその冷却設備を不要とすることができる製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法を提供すること。
【解決手段】被処理ガスを製鋼用電気炉1に導入し、製鋼を行う際にアーク12により形成される高温雰囲気中で被処理ガスを分解する製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法において、製鋼用電気炉1に配設した補助加熱装置2に酸素ガスと被処理ガスを選択的に導入し、電気炉内が所定温度以下の場合に酸素ガスを供給して補助加熱を行い、電気炉内が所定温度を越える場合に酸素ガスの供給を停止して被処理ガスを供給するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵庫、エアコン等の民生用機器や半導体の製造装置等の産業用機器に冷媒や洗浄剤として使用されていたフロンガス等のHFC化合物等の被処理ガス(本明細書において、単に「被処理ガス」という。)の無害化処理方法に関し、特に、製鋼用電気炉を用いて不要となった被処理ガスを安全に、かつ低コストで分解処理することができる製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、オゾン層を破壊するフロンガス、具体的には、特定フロンといわれる、フロン11(CClF)、フロン12(CCl)、フロン113(CCl)、フロン22(CHClF)等に関する問題が世界的な規模で提起され、これらのフロンガスの生産が中止となり、事実上使用することができなくなった。
【0003】
一方、既に各種機器に冷媒や洗浄剤として使用されているフロンガスについては、この規制の対象外となるため、フロンガスが充填された機器がそのまま廃棄されたり、放置されることが多かったが、最近では、この問題が指摘されるに至り、不要となったフロンガスの回収が積極的に行われるようになっている。
【0004】
回収されたフロンガスの無害化処理方法としては、フロンガスを製鋼用電気炉に導入し、製鋼を行う際にアークにより形成される高温雰囲気中でフロンガスを分解する方法が本件出願人により提案されている(特許文献1参照)。
このフロンガスの無害化処理方法は、製鋼を行う際にアークにより形成される高温雰囲気中で、フロンガスを炭酸ガス(CO)、塩化水素(HCl)及びフッ化水素(HF)に分解し、分解ガスを冷却し、苛性ソーダにより中和するとともに、消石灰(Ca(OH))を添加してフッ化カルシウム(CaF)として沈殿、分離できることから、既存の製鋼設備をそのまま利用して、不要となったフロンガスを低コストで分解処理することができる。
【0005】
ところで、このフロンガスの無害化処理方法では、電気炉内の温度が安定しない通電初期などに、酸素バーナー等の補助加熱装置により炉内を加熱するようにしているが、この補助加熱装置は炉内温度が上昇すると停止するため、煤塵が滞留しやすいという問題があった。
また、既存の製鋼用電気炉にフロンガスを導入するためには、フロンガス用ノズルを別途設置する必要があるが、このフロンガス用ノズルは、フロンガスを高温で分解するために、アークが発生する溶鋼付近に配設しなければならず、そのため、ノズルの冷却設備も必要になるなど、設備投資費用がかさむという問題もあった。
【特許文献1】特開平11−319484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の被処理ガスの無害化処理方法が有する問題点に鑑み、補助加熱装置の煤塵の滞留を防止するとともに、被処理ガス用ノズルやその冷却設備を不要とすることができる製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法は、被処理ガスを製鋼用電気炉に導入し、製鋼を行う際にアークにより形成される高温雰囲気中で被処理ガスを分解する製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法において、前記製鋼用電気炉に配設した補助加熱装置に酸素ガスと被処理ガスを選択的に導入し、電気炉内が所定温度以下の場合に酸素ガスを供給して補助加熱を行い、電気炉内が所定温度を越える場合に前記酸素ガスの供給を停止して被処理ガスを供給することを特徴とする。
【0008】
この場合、電極棒の外周面を伝わせて製鋼用電気炉内に水を供給することができる。
【発明の効果】
【0009】
この製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法は、被処理ガスを製鋼用電気炉に導入し、製鋼を行う際にアークにより形成される高温雰囲気中で被処理ガスを分解する製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法において、前記製鋼用電気炉に配設した補助加熱装置に酸素ガスと被処理ガスを選択的に導入し、電気炉内が所定温度以下の場合に酸素ガスを供給して補助加熱を行い、電気炉内が所定温度を越える場合に前記酸素ガスの供給を停止して被処理ガスを供給することから、炉内温度が上昇した段階で停止する補助加熱装置を利用して被処理ガスを炉内に供給することができ、これにより、従来の被処理ガス用ノズルやその冷却設備を不要としながら、被処理ガスを高温の溶鋼付近に導入するとともに、供給される被処理ガスによって補助加熱装置を清掃し煤塵の滞留を防止することができる。
【0010】
この場合、電極棒の外周面を伝わせて製鋼用電気炉内に水を供給することにより、電極棒の冷却を行うとともに、被処理ガスの分解物質となる水分を炉内に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1〜図4に、本発明の製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法の一実施例を示す。
【0013】
この製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法は、被処理ガスとしてのフロンガスを製鋼用電気炉1に導入し、製鋼を行う際にアーク12により形成される高温雰囲気中でフロンガスを分解するものであり、前記製鋼用電気炉1に配設した酸素バーナー2に酸素ガスとフロンガスを選択的に導入し、電気炉内が所定温度以下の場合に酸素ガスを供給して補助加熱を行い、電気炉内が所定温度を越える場合に前記酸素ガスの供給を停止してフロンガスを供給するようにしている。
【0014】
フロンガスの無害化処理を行う設備は、基本的には既存の製鋼設備をそのまま利用したものであり、製鋼を行う際に、電気炉1の電極棒11の先端から発生するアーク12は、通常、5000〜6000℃という高温に達しており、このアーク12により形成される溶鋼13付近の略1600℃の高温雰囲気中で、フロンガスを分解するようにしている。
【0015】
分解に供するフロンガスは、冷蔵庫、エアコン等の民生用機器や半導体の製造装置等の産業用機器に冷媒や洗浄剤として使用され、不要となって回収されたフロンガスであり、具体的には、特定フロンといわれる、フロン11(CClF)、フロン12(CCl)、フロン113(CCl)、フロン22(CHClF)等のオゾン層を破壊するフロンガスが対象となる。
【0016】
一方、酸素バーナー2は、図3に示すように、補助加熱装置として製鋼用電気炉1を等分するように3基設けられている。
各酸素バーナー2は、図2に示すように、燃料噴射ノズル21と、該燃料噴射ノズル21の液体燃料を霧状にするための圧搾空気噴射ノズル22と、火力調節用の酸素噴射ノズル23とを備え、酸素噴射ノズル23の先端部には、供給された酸素ガスに旋回流を付与して噴射する旋回流リブ24が形成されている。
また、酸素バーナー2の外周部には水冷ジャケット25が設けられており、給水口25aから供給された冷却水が内部を循環して排水口25bから排出されることにより、酸素バーナー2を冷却することができる。
【0017】
フロンガスは、図1に示すように、ガスボンベ3から導管31を介し、前記した3基のうちの1基の酸素バーナー2’の圧搾空気噴射ノズル22に導入されている。
これにより、圧搾空気噴射ノズル22には、圧搾空気とフロンガスとが、制御用電磁弁32の切替によって選択的に供給されるようになっている。
また、フロンガスは、圧搾空気噴射ノズル22の代わりに酸素噴射ノズル23に導入することも可能であり、この場合は、酸素ガスとフロンガスが、この酸素噴射ノズル23に制御用電磁弁32によって選択的に供給される。
ところで、フロンガスは、図4に示すように、炉内が分解温度以上であるときに供給することが好ましいが、逆に、酸素バーナー2は、通電初期や溶鋼材料の追装時など、炉内が分解温度に満たないときに補助加熱運転を行い、炉内が分解温度以上に上昇したときには運転を停止する。
本発明は、この酸素バーナー2の運転のタイミングを利用するもので、炉内温度が上昇したときに停止する酸素バーナー2からフロンガスを炉内に供給することにより、従来のフロンガス用ノズルやその冷却設備を不要としながら、フロンガスを高温の溶鋼13付近に導入するとともに、供給されるフロンガスによって酸素バーナー2を清掃し煤塵の滞留を防止することができる。
【0018】
一方、フロンガスの分解物質となる水分(HO)は、図3(a)に示すように、水流量計を備えた水供給装置14から、製鋼用電気炉1の電極棒11の外周面を伝わせて炉内に供給されており、これにより、電極棒11の冷却を行うとともに、フロンガスの分解物質となる水分を炉内に供給するようにしている。
製鋼用電気炉1に導入されたフロンガス及び水分(HO)等の分解物質からなる混合ガスは、溶鋼13付近の略1600℃の高温雰囲気中で、炭酸ガス(CO)、塩化水素(HCl)及びフッ化水素(HF)に分解され、製鋼用電気炉1から排出される。
【0019】
この排気ガスは、図1に示すように、必要に応じて燃焼塔4に導入され、燃焼塔4を、例えば、800〜1200℃程度の温度に保持することにより、未分解のフロンガスを確実に分解するようにする。
フロンガスの分解で生じた、炭酸ガス(CO)、塩化水素(HCl)及びフッ化水素(HF)からなる分解ガスは、分解ガスに含まれる粉塵をバグフィルタ5において分離した後、スプレータワー6を通過することにより冷却される。
このスプレータワー6においては、苛性ソーダ水溶液をスプレーすることにより、分解ガスと反応させ、有害な塩化水素(HCl)及びフッ化水素(HF)を中和して塩化ナトリウム(NaCl)及びフッ化ソーダ(NaF)にする。
【0020】
スプレータワー6からの排気は、建屋ファン7及び建屋バグフィルタ8を介して、液体及び固体成分を完全に除去した後、大気中へ放出される。
一方、スプレータワー6からの廃液は、排水口から水処理槽61に導入し、水処理槽61で消石灰(Ca(OH))を添加してフッ化カルシウム(CaF)として沈殿、分離する。
この最終生成物のフッ化カルシウム(CaF)は、製鋼の際に用いる脱硫剤として有効利用することができ、これにより、廃棄物の量を低減することができる。
【0021】
なお、本発明の製鋼用電気炉を用いたフロンガスの無害化処理方法を、フロン12(CCl)及びフロン113(CCl)を例にして示すと次のとおりとなる。
【0022】
(1)フロン12(CCl)及びフロン113(CCl)並びに分解物質としての水分(HO)及び酸素ガス(O)からなる混合ガスは、製鋼用電気炉1に導入され、製鋼を行う際にアーク12により形成される高温雰囲気中で分解されて、炭酸ガス(CO)、塩化水素(HCl)及びフッ化水素(HF)になる。
CCl+2HO→CO+2HCl+2HF
2CCl+6HO+O→4CO+6HCl+6HF
【0023】
(2)塩化水素(HCl)は、スプレータワー7において、苛性ソーダ水溶液をスプレーされることにより、中和されて塩化ナトリウム(NaCl)となる。
HCl+NaOH→NaCl+H
【0024】
(3)フッ化水素(HF)は、スプレータワー7において、苛性ソーダ水溶液をスプレーされることにより、中和されてフッ化ソーダ(NaF)となり、さらに、水処理槽で消石灰(Ca(OH))を添加されてフッ化カルシウム(CaF)として沈殿、分離される。
HF+NaOH→NaF+H
2NaF+Ca(OH)→CaF+2NaOH
(NaF+Ca(OH)+HSO→CaF+NaSO+HO)
【0025】
かくして、本実施例の製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法は、被処理ガスとしてのフロンガスを製鋼用電気炉1に導入し、製鋼を行う際にアーク12により形成される高温雰囲気中でフロンガスを分解するフロンガスの無害化処理方法において、前記製鋼用電気炉1に配設した酸素バーナー2に酸素ガスとフロンガスを選択的に導入し、電気炉内が所定温度以下の場合に酸素ガスを供給して補助加熱を行い、電気炉内が所定温度を越える場合に前記酸素ガスの供給を停止してフロンガスを供給することから、炉内温度が上昇した段階で停止する酸素バーナー2を利用してフロンガスを炉内に供給することができ、これにより、従来のフロンガス用ノズルやその冷却設備を不要としながら、フロンガスを高温の溶鋼13付近に導入するとともに、供給されるフロンガスによって酸素バーナー2を清掃し煤塵の滞留を防止することができる。
この場合、電極棒11の外周面を伝わせて製鋼用電気炉1内に水を供給することにより、電極棒11の冷却を行うとともに、フロンガスの分解物質となる水分を炉内に供給することができる。
【0026】
以上、本発明の製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法について、フロンガスを処理する場合について説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、また、被処理ガスの対象もフロンガス等のHFC化合物のほか、ハロンガス等の化合物にも適用できる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法は、炉内温度が上昇した段階で停止する補助加熱装置を利用して被処理ガスを炉内に供給することができ、従来の被処理ガス用ノズルやその冷却設備を不要としながら、被処理ガスを高温の溶鋼付近に導入するとともに、供給される被処理ガスによって補助加熱装置を清掃し煤塵の滞留を防止するという特性を有していることから、既存の製鋼用電気炉を利用して被処理ガスを低コストで安全に無害化処理する用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法を実施するために用いる設備の一例を示す説明図である。
【図2】酸素バーナーを示し、(a)はその断面図、(b)は背面図である。
【図3】製鋼用電気炉を示し、(a)はその縦断面図、(b)は横断面図である。
【図4】酸素バーナーの補助加熱運転と被処理ガスとしてのフロンガスの供給のタイミングを示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 製鋼用電気炉
11 電極棒
12 アーク
13 溶鋼
14 水供給装置
2 酸素バーナー(補助加熱装置)
21 燃料噴射ノズル
22 圧搾空気噴射ノズル
23 酸素噴射ノズル
24 旋回流リブ
25 水冷ジャケット
3 ガスボンベ
31 導管
32 制御用電磁弁
4 燃焼塔
5 バグフィルタ
6 スプレータワー
61 水処理槽
7 建屋ファン
8 建屋バグフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理ガスを製鋼用電気炉に導入し、製鋼を行う際にアークにより形成される高温雰囲気中で被処理ガスを分解する製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法において、前記製鋼用電気炉に配設した補助加熱装置に酸素ガスと被処理ガスを選択的に導入し、電気炉内が所定温度以下の場合に酸素ガスを供給して補助加熱を行い、電気炉内が所定温度を越える場合に前記酸素ガスの供給を停止して被処理ガスを供給することを特徴とする製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法。
【請求項2】
電極棒の外周面を伝わせて製鋼用電気炉内に水を供給することを特徴とする請求項1記載の製鋼用電気炉を用いた被処理ガスの無害化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−95375(P2006−95375A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281964(P2004−281964)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(391016602)共英製鋼株式会社 (7)
【Fターム(参考)】