説明

複合フィルム

【課題】ポリプロピレン系樹脂からなる容器や包装フィルムなどの被着体に対し、低温ヒートシールが可能で、優れた密封性とスムースな剥離感を有する透明性に優れた易開封性複合フィルムを提供する。
【解決手段】熱融着層(1)とプロピレン系樹脂からなる基材層(2)が積層されたフィルムであって、該熱融着層(1)が、シングルサイト触媒を用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体(A)45〜70重量%、密度が890kg/m以下でメルトフローレート(MFR)が230℃で25〜50g/10分であるエチレン系エラストマー(B)10〜25重量%、密度が890〜920kg/mの直鎖状低密度ポリエチレン(C)15〜30重量%、密度が950kg/m以上でMFRが190℃で15g/10分以上である高密度ポリエチレン(D)5〜20重量%の混合物(全体で100重量%)であることを特徴とする易開封性複合フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂からなる容器(カップ、トレー等)や包装フィルムなどの被着体に対し、優れた密封性と易開封性を有し、且つ開封時に良好な剥離面(開封面)の外観を有するとともに、手で開封する際に良好な剥離感を有する易開封性複合フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゼリー、プリン、豆腐、乳酸飲料等の加工食品包装やブリスター包装、医薬品、医療器具、化粧品、日用品等の包装容器や包装袋には、プロピレン系重合体からなるカップ、トレー、フィルムやシートが多く使用され、特に包装容器(カップ、トレー等)には樹脂フィルム状蓋材で熱封着して包装する方式が多く採用されている。このような包装では、流通、保管に耐え得るシール強度と、使用時における開封性の良さ(易開封性)が要求される。近年安全性の高まりより、医療用途向け等において開封時に密閉されていたことが解かるようにその痕跡を残し、その痕跡が良好な剥離外観(糸引きや膜引きの無い良好な剥離面)を持つものが要求されてきている。さらに、手で開封する際に引っかかり(ノッキング)が無くスムースな剥離感を有することや、ゼリーやプリン等の容器包装においては購買意欲を高めるため内容物が鮮明に見える透明性が要求されている。
【0003】
また、内容物を充填する際には、充填ラインにおいてコストダウンのため加工速度を上げる傾向にあり、短時間で蓋材をシールできるように、上記要求特性を満たす範囲内で低温でヒートシール出来ることが要求されている。
【0004】
かかる要求を満たすために、例えば、プロピレン系重合体容器の蓋材として、プロピレン系重合体5〜65重量%、密度が895kg/m未満のエチレン・α−オレフィンランダム共重合体1〜35重量%及び密度が895kg/m以上のエチレン系重合体10〜85重量%(全体で100重量%)からなる熱融着層を有する易開封性フィルム(特許文献1)が開示されている。このフィルムは密封性や易開封性、剥離外観には優れるものの、手で開封する際のスムースな剥離感は十分では無く、また、低温ヒートシール性についてはさらなる改良が求められていた。
【特許文献1】国際公開第04/067626号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリプロピレン系樹脂からなる容器(カップ、トレー等)や包装フィルムなどの被着体に対し、低温ヒートシールが可能で、優れた密封性と易開封性を有し、且つ開封時に糸引きや膜引きの無い良好な剥離面(開封面)の外観を有するとともに、手で開封する際に引っかかり(ノッキング)が無くスムースな剥離感を有する透明性に優れた易開封性複合フィルムを提供することを目的に検討した結果、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の易開封性複合フィルムは、熱融着層(1)とプロピレン系樹脂からなる基材層(2)が積層されたフィルムであって、該熱融着層(1)が、シングルサイト触媒を用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体(A)45〜70重量%、密度が890kg/m以下でメルトフローレート(MFR)が230℃で25〜50g/10分であるエチレン系エラストマー(B)10〜25重量%、密度が890〜920kg/mの直鎖状低密度ポリエチレン(C)15〜30重量%、密度が950kg/m以上でMFRが190℃で15g/10分以上である高密度ポリエチレン(D)5〜20重量%の混合物(全体で100重量%)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のフィルムはポリプロピレン系樹脂からなる容器や包装フィルムなどの被着体に対して、低温ヒートシールが可能で、優れた密封性と易開封性を有し、開封時に糸引きや膜引きの無い良好な剥離面(開封面)の外観を有するとともに、透明性に優れ、手で開封する際に引っかかり(ノッキング)が無くスムースな剥離感の易開封性を有するため、食品包装やブリスター包装、医薬品、医療器具、化粧品、日用品等を包装する包装材に好適に使用できる。
【0008】
特にゼリーやプリン等の容器包装においては内容物が鮮明に見えるので購買意欲を高める効果が期待でき、また手で開封する際に引っかかりが無くスムースに開封できるので、満杯に充填された内容物の場合でも内容物が飛び散らず、簡単に開封が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のフィルムは熱融着層(1)とプロピレン系樹脂からなる基材層(2)が積層されていて、熱融着層(1)はプロピレン系ランダム共重合体とエチレン系エラストマー、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンの混合物からなることが必要である。熱融着層(1)が単独樹脂の場合は凝集破壊による剥離が困難となる。
【0010】
熱融着層(1)の(A)プロピレン系ランダム共重合体はシングルサイト触媒の存在下で共重合することが必要である。
【0011】
シングルサイト触媒の存在下で得られた(A)プロピレン系ランダム共重合体においては、低融点でありながらブロッキングの問題が少ないため、低温ヒートシール性と耐ブロッキング性をバランスさせることができる。
【0012】
シングルサイト触媒の存在下で得られたプロピレン系ランダム共重合体は公知であり、そのための重合触媒や重合方法も知られており、それらと同様の方法によって得ることができる。
【0013】
シングルサイト触媒の存在下で得られた(A)プロピレン系ランダム共重合体としては、プロピレンとエチレンまたはプロピレンとエチレンおよび1−ブテンを共重合して得られるランダム共重合体が好ましい。
【0014】
シングルサイト触媒としては、例えばメタロセン触媒(カミンスキー触媒とも呼ばれる)やブルックハート触媒などを用いることができる。
【0015】
熱融着層(1)の(A)プロピレン系ランダム共重合体の配合比率は、45〜70重量%であることが必要であり、50〜60重量%がより好ましい。45重量%未満では良好な剥離外観が得られず、70重量%を越えると剥離強度が強く易開封性(イージーピール性)が損なわれることがある。
【0016】
また、(A)プロピレン系ランダム共重合体の示差走査熱量計(DSC)に基づく融点は120℃〜130℃が好ましい。熱融着層(1)の各成分の中で(A)プロピレン系ランダム共重合体の配合率が最も高く、この融点がヒートシール温度に大きく影響する。そこで融点が120℃〜130℃の低融点のポリマーを使用することで、熱融着層全体の融点が下がり、低温ヒートシール性が向上する。融点が120℃以上ではボイル等加熱処理ができ、また夏場の車内など高温になる状態での密封性を十分保つことができる。一方、融点が130℃以下であればより優れた低温ヒートシール性が得られる。
【0017】
また、(A)プロピレン系ランダム共重合体の230℃、荷重21.18NでのMFRは10〜30g/10分であることが好ましい。MFRが10g/10分以上では剥離外観がさらに良好になり、30g/10分以下にすることで輸送時などの振動に十分耐え得る密封性と、易開封性のバランスが特に良好になる。
【0018】
熱融着層(1)の(B)エチレン系エラストマーは、密度が890kg/m以下で配合比率は10〜25重量%であることが必要である。10重量%未満では剥離強度が高く、スムースな剥離感が得られない。25重量%を越えると剥離強度が弱くなり、輸送などの衝撃時に密封性を保てないおそれがあり、また、フィルムの粘着性が上がり、安定して製膜することが困難となる場合がある。
【0019】
上記(B)エチレン系エラストマーとしては、エチレンプロピレンランダム共重合体、エチレンブテンランダム共重合体、エチレンプロピレンブテンランダム共重合体等が挙げられ、エチレンプロピレンランダム共重合体がより好ましい。
【0020】
(B)エチレン系エラストマーの230℃、荷重21.18NでのMFRは25〜50g/10分であることが必要である。MFRが25g/10分未満では剥離強度が高く、スムースな剥離感が得られない。一方、MFRが50g/10分を越えると剥離強度が弱くなり、輸送時などの衝撃や、落下の際、破袋するおそれがある。
【0021】
(C)直鎖状低密度ポリエチレンは、密度が890〜920kg/mで配合比率は15〜30重量%であることが必要である。15〜30重量%とすることで良好な凝集破壊状態である易開封性(イージーピール性)が得られる。15重量%未満では剥離外観が悪化するおそれがあり、30重量%を超えると熱融着層(1)に占めるエチレン系樹脂の成分割合が多くなりすぎるため、良好な剥離面(凝集剥離面)が得られないことがある。
【0022】
(C)直鎖状低密度ポリエチレンの190℃、荷重21.18NでのMFRは、1〜5g/10分が好ましく、5g/10分以下でより良好な剥離外観が得られる。また、1g/10分以上とすることで(A)プロピレン系ランダム共重合体、(B)エチレン系エラストマー、(D)高密度ポリエチレンとの相溶性が良くなる傾向にある。
【0023】
また、(C)直鎖状低密度ポリエチレンはシングルサイト触媒の存在下で重合して得られた重合体であることがより好ましい。シングルサイト触媒の存在下で重合して得られた重合体を使用するとより良好な剥離外観が得られる。
【0024】
シングルサイト触媒の存在下で得られた直鎖状低密度ポリエチレンは公知であり、そのための重合触媒や重合方法も知られており、それらと同様の方法によって得ることができる。
【0025】
(D)高密度ポリエチレンは、密度が950kg/m以上で配合比率は5〜20重量%であることが必要である。5重量%未満では剥離強度が強くなりすぎ、20重量を越えると剥離外観が悪化するおそれがある。
【0026】
(D)高密度ポリエチレンの190℃、荷重21.18NでのMFRは15g/10分以上であることが必要である。MFRが15g/10分以上で良好な易開封性が得られる。
【0027】
本発明における基材層(2)はプロピレン系樹脂からなり、一般にポリプロピレンの名称で製造・販売されている樹脂で、ホモポリマ、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレンエチレンブテン三元共重合体などが好ましく使用でき、押出加工性などを考慮すると230℃、荷重21.18NでのMFRが1〜30g/10分のものを使用するのが好ましい。
【0028】
本発明の熱融着層(1)の厚みは少なくとも2μm以上の厚みを持つことが好ましい。2μm未満の厚みでは、熱融着時の圧力で熱融着層(1)がシール部分以外に流れ出し容器と基材層(2)が接着する部分が発生し、この部分が強接着となる恐れがある。また、熱融着層(1)の本発明の易開封性複合フィルム全体の厚みに占める割合は10〜30%が好ましい。熱融着層(1)が30%以下では剥離時の膜残りや糸ひきの発生が特に少なく、より良好な剥離外観が得られる。
【0029】
熱融着層(1)と基材層(2)を併せた厚みは容器の使用用途に合わせて選択すればよいが、20μm以上100μm未満が好ましい。20μm未満では、熱融着層(1)の割合が10%の場合に熱融着層(1)の厚みが2μm未満となり、前記の問題が生じやすい。また、100μm以上では蓋材全体のコストアップになり経済性に劣る。
【0030】
本発明におけるフィルムの熱融着層(1)の凝集破壊による剥離強度(シール強度)は13N/15mm幅〜25N/15mm幅であることが好ましい。13N/15mm幅以上であれば、輸送時などの振動でシール部分に漏れが生じる可能性がほとんど無く、25N/15mm幅以下であれば、蓋材など実用時に、手で容易に開封できる。また、110℃でヒートシールした場合の剥離強度は1N/15mm幅以下であることが好ましい。ここで、110℃でヒートシールした場合の剥離強度が1N/15mm幅以下であるとは、熱融着層(1)を110℃より低い温度で溶融することが困難であることを意味するが、この場合、100℃近傍でボイルしたとき、また、夏場の車内など高温雰囲気下に放置されたとき、シール部分の密封性を保てる。
【0031】
剥離強度は出来るだけ一定であることが好ましく、生産ラインにおける機械のシール温度変動の影響を受けにくくなる。ここで、一定であるとは125℃から200℃における剥離強度の最大値と最小値の差が5N/15mm幅以内を言う。
【0032】
本発明のフィルムのヘイズは10%以下であることが好ましい。10%を越えると透明性が十分でなく、ゼリーやプリン等の容器包装においては内容物が鮮明に見えないおそれがある。
【0033】
本発明の易開封性複合フィルムの製造方法は特に限定されないが、Tダイ法やインフレーション法による共押出しや、予め製膜した基材ポリプロピレン系フィルムに熱融着層(1)を押出ラミネートして製造してもよい。熱融着層(1)に配合する樹脂はドライブレンドでも、あらかじめ混練してペレット状にしてから使用してもよい。
【0034】
なお、熱融着層(1)及び基材層(2)には本発明の目的を損なわない範囲で公知の各種添加剤(必要に応じて、防曇剤、帯電防止剤、熱安定剤、造核剤、酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤等の成分)を添加することができる。
【0035】
そして、本発明の易開封性複合フィルムは熱融着層(1)と基材層(2)からなるが、これをシーラントフィルムとして、必要に応じて基材層(2)側に接着性樹脂や接着剤を介して他のフィルムや紙、金属箔など何層でも積層できる。
【0036】
そのため、本発明のフィルムの基材層(2)には必要に応じて、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、オゾン・紫外線処理等の表面酸化処理など、蓋材として加工しやすい(例えばラミネート適性を向上させるため)表面処理を施すことができる。
【0037】
本発明のフィルムは包装容器の蓋材用シーラントフィルム等に用いることができる。特に、容器開口部の蓋材の接着面がポリプロピレンで形成された容器の開口部にヒートシールされたカップ状の包装容器に用いられ、開封時には蓋材の熱融着層(1)が凝集破壊して開封される。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
<原料>
実施例及び比較例で用いた樹脂は下記の通りである。
プロピレン系ランダム共重合体
PP1:プロピレン・エチレンランダム共重合体(密度0.90kg/m、MFR(230℃)25g/10分)メタロセン触媒重合品、融点125℃
PP2:プロピレン・エチレンランダム共重合体(密度0.90kg/m、MFR(230℃)8g/10分)マルチサイト触媒重合品、融点142℃。
エチレンプロピレンランダム共重合体(エチレン系エラストマー)
EPR1:(密度 870kg/m、MFR(230℃) 40.0g/10分)
EPR2:(密度 870kg/m、MFR(230℃) 8.1g/10分)
EPR3:(密度 870kg/m、MFR(230℃) 1.8g/10分)。
直鎖状低密度ポリエチレン
L−LDPE1:(密度 898kg/m、MFR(190℃) 2.0g/10分)メタロセン触媒重合品
L−LDPE2:(密度 880kg/m、MFR(190℃) 8.0g/10分)メタロセン触媒重合品。
高密度ポリエチレン
HDPE1:(密度 963kg/m、MFR(190℃) 7.5g/10分)
HDPE2:(密度 958kg/m、MFR(190℃) 16.0g/10分)
HDPE3:(密度 960kg/m、MFR(190℃) 40.0g/10分)。
(5)エチレンブテンランダム共重合体(エチレン系エラストマー)
EBR1:(密度 880kg/m、MFR(190℃) 3.6g/10分)。
(6)高圧法低密度ポリエチレン
LDPE1:(密度 919kg/m、MFR(190℃) 12.0g/10分)。
<測定・評価方法>
本明細書中で採用した測定、評価方法は次の通りである。
【0040】
・メルトフローレート(MFR)
JIS K 7210 (1999)に準じて荷重21.18Nでプロピレン系樹脂は230℃で、ポリエチレン系樹脂は190℃で測定した値である。
【0041】
・融点
JIS K 7121 (1987)に準じて示差走査型熱量計(略称:DSC)を用いて、昇温速度10℃/分にて測定した値である。
【0042】
・ヘイズ
JIS K7105の6.4(1981)に準じて測定した値である。ヘイズが10%以下のものを透明性に優れていると評価した。
【0043】
・剥離強度
易開封性複合フィルムの基材層(2)面に補強材(50μmの無延伸ポリプロピレンフィルムと60μm無延伸ナイロンフィルムをラミネートした長さ7.5cm、幅10cmの方形積層シート)を貼り合わせ、さらに熱融着層(1)面にポリプロピレン系樹脂からなる被着体である厚み200μm、長さ7.5cm、幅10cmの方形ポリプロピレンシート材を重ね合わせ、平板ヒートシーラーのシールバーの下板(ポリプロピレンシート材側)を80℃とし、上板(補強材のナイロン側)を各温度に設定して、上板と下板で熱圧着する。ヒートシール時間は1秒間で、ヒートシール圧力を20N/cm2とし、次いでヒートシール部が15mm幅の短冊状になるよう切断したものを試験片とする。これを室温23℃で試験片のヒートシール部を中央にして180°に開き、その両端のつかみ間隔を50mmにしてつかみ、引張試験機で300mm/minの速度で補強した易開封性複合フィルムの熱融着面とポリプロピレンシート材との間で剥離したときの最大荷重を剥離強度とし、4回測定した平均値を算出した。
【0044】
・剥離外観
平板ヒートシーラーのシールバーの下板(ポリプロピレンシート材側)を80℃とし、上板(補強材のナイロン側)を180℃としてヒートシールした以外は剥離強度測定と同様の操作で試験片を作成した。
【0045】
試験片を剥離強度測定と同様に引張試験機で剥離した際に、糸ひきや膜引きが発生しなかったものを「A(良好)」、剥離した面に若干の毛羽立ちや糸引きが認められた場合を「B(やや不良)」、明確な糸ひきや膜引きが発生したものを「C(不良)」として評価した。
【0046】
・剥離感
平板ヒートシーラーのシールバーの下板(ポリプロピレンシート材側)を80℃とし、上板(補強材のナイロン側)を180℃としてヒートシールした以外は剥離強度測定と同様の操作で試験片を作成した。
【0047】
試験片を手で剥離した時、剥離開始直後に引っかかり(ノッキング)が無く一定の力でスムースに剥離でき且つしっとりした感じで明確な剥離痕跡が残るものを「A(剥離感良好)」、剥離開始直後に引っかかりを感じるが、その後引っかかり無く一定の力で剥離でき且つ明確な剥離痕跡が残るものを「B(良)」、剥離開始直後に引っかかりを感じ、剥離終了までの間にも引っかかりを感じるもの「C(不良)」とした。
【0048】
・熱融着層、基材層の厚み測定
フィルム断面を切り出し、反射光にて光学顕微鏡を用いて測定した。
【0049】
[実施例1]2台の押出し機を用いて、1台の押出機から熱融着層(1)としてPP1(50重量%)、EPR1(20重量%)、L−LDPE1(20重量%)、HDPE2(10重量%)をドライブレンドした後、温度240℃で溶融して押出し、他の1台の押出機から基材層(2)としてプロピレン・エチレンランダム共重合体(密度0.90kg/m、MFR(230℃)7.0g/10分)を温度230℃溶融して押出し、共押ダイで積層してフィルム状に押出し、速度15m/min、50℃の冷却ロールで冷却固化し、熱融着層(1)の厚みが5μm、基材層(2)の厚みが45μmの総厚み50μmの複合フィルムを得た。この複合フィルムの特性を表1に示す。このフィルムを110℃でヒートシールした場合の剥離強度は、1N/15mm幅以下であった。このフィルムは低温シール性と剥離強度のヒートシール温度依存性に優れ、かつ、透明性に優れ、糸引きや膜引きの無い良好な剥離面(開封面)の外観を有するとともに、手で開封する際に引っかかり(ノッキング)が無くスムースな剥離感を有する易開封性複合フィルムであった。
【0050】
得られた複合フィルムの剥離強度は図1に示すとおり、125℃から200℃の間でほぼ一定であった。なお一般的に易開封性フィルムはある一定範囲のヒートシール温度領域において、ほぼ一定あるいはヒートシール温度の上昇に対して剥離強度がやや上昇する傾向があるが、ある一定温度内でさらに一部の温度域だけ著しく逸脱した剥離強度は示さない。このため以下の実施例や比較例においては該温度領域を代表して125℃、180℃、200℃について剥離強度を評価した。
【0051】
[実施例2〜4]熱融着層(1)の樹脂組成を表1に記載の通りとした以外は、実施例1と同様にして複合フィルムを得た。得られた複合フィルムの特性を表1に示す。これらのフィルムを110℃でヒートシールした場合の剥離強度は、いずれも1N/15mm幅以下であった。これらのフィルムは実施例1と同様に低温シール性と剥離強度のヒートシール温度依存性に優れ、かつ、透明性に優れ、糸引きや膜引きの無い良好な剥離面(開封面)の外観を有するとともに、手で開封する際に引っかかり(ノッキング)が無くスムースな剥離感を有する易開封性複合フィルムであった。
【0052】
[比較例1〜8]熱融着層(1)の樹脂組成を表1に記載の通りとした以外は、実施例1と同様にして複合フィルムを得た。なお、得られた複合フィルムの特性を表1に示す。これらのフィルムを110℃でヒートシールした場合の剥離強度は、いずれも1N/15mm幅以下であった。
【0053】
比較例1では、マルチサイト触媒で重合したPP2を使用したので、シングルサイト触媒の存在下で得られたPP1を使用した実施例2より、剥離外観がやや悪かった。
【0054】
比較例1では、(C)直鎖状低密度ポリエチレンのMFRが本発明の範囲より大きいL−LDPE2を使用したため、剥離強度、透明性、剥離感は満足できるものの、剥離外観が不良であった。
【0055】
比較例2では、(D)高密度ポリエチレンのMFRが本発明の範囲より小さいHDPE1を使用したため、180℃および200℃における剥離強度が高かった。
【0056】
比較例3では、本発明の範囲より(C)直鎖状低密度ポリエチレンの配合比率が少ないので剥離外観が不良となり糸引きや膜引きが見られた。
【0057】
比較例4,5では、(B)エチレン系エラストマーのMFRが本発明の範囲より小さいEPR2またはEPR3を使用したため、剥離強度が強くなり、剥離外観、剥離感もよくなかった。
【0058】
比較例6では、(D)高密度ポリエチレンを含まない3成分で熱融着層を構成したため、剥離外観、剥離感が不良であった。
【0059】
比較例7では、実施例2の(D)高密度ポリエチレンのかわりにLDPE1を使用したところ、ヘイズが高く透明性が劣った。
【0060】
比較例8では、融点の高いPP2を使用し、本発明の好ましい範囲のMFRより外れたL−LDPE2とEBR1、高密度ポリエチレンのかわりにLDPE1を使用した場合、低温ヒートシール性に劣り、125℃での剥離強度が低く、ヘイズが高く透明性が悪かった。なお、このフィルムの剥離強度のヒートシール温度依存性を実施例1と比較したものを図1に示す。
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂からなる被着体に対し、低温ヒートシールが可能で、優れた密封性と易開封性を有し、且つ開封時に糸引きや膜引きの無い良好な剥離面(開封面)の外観を有するとともに、手で開封する際に引っかかり(ノッキング)が無くスムースな剥離感を有する透明性に優れたフィルムであるので、食品包装やブリスター包装、医薬品、医療器具、化粧品、日用品等を包装するポリプロピレン系樹脂からなる容器や包装フィルムなどに対して、手で開封する際に引っかかり(ノッキング)が無くスムースに開封することが出来る。特にゼリーやプリン等の容器包装においては内容物が鮮明に見えるので購買意欲を高める効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例1と比較例8における、剥離強度とヒートシール温度の関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱融着層(1)とプロピレン系樹脂からなる基材層(2)が積層されたフィルムであって、該熱融着層(1)が、シングルサイト触媒を用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体(A)45〜70重量%、密度が890kg/m以下でメルトフローレート(MFR)が230℃で25〜50g/10分であるエチレン系エラストマー(B)10〜25重量%、密度が890〜920kg/mの直鎖状低密度ポリエチレン(C)15〜30重量%、密度が950kg/m以上でMFRが190℃で15g/10分以上である高密度ポリエチレン(D)5〜20重量%の混合物(全体で100重量%)である複合フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の複合フィルムであって、該フィルムのヘイズが10%以下であり、該フィルムの熱融着層(1)をポリプロピレン系樹脂からなる被着体に125℃〜200℃の温度領域でヒートシールした場合の該温度領域での剥離強度が13N/15mm幅〜25N/15mm幅であり、かつ、110℃でヒートシールした場合の剥離強度が1N/15mm幅以下であることを特徴とする複合フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2010−5935(P2010−5935A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168264(P2008−168264)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000222462)東レフィルム加工株式会社 (142)
【Fターム(参考)】